青年は激怒していた。
先日ニュースで知った“桜を見る会”に対してである。首相が税金を私利私欲のために使ったように感じられたからである。これでは、消費税を増税しても意味がないではないか。何のための増税だったのか、と納得がいかなかった。
青年は居ても立っても居られなくなり、陰陽師の元を訪れるのだった。
『こんばんは。今日は政治について教えていただけませんか?』
「そなたが政治について質問してくるとは。それは、珍しいの」
『そうですね。真偽の確認が難しく、なおかつ僕が影響を与えにくい領域だと思っていたので、あまり関心はありませんでした』
「それは個人の自由だとは思うが。で、政治の何について知りたいのかな?」
『“桜を見る会”についてです。政治のトップである人間が、税金を私利私欲のために浪費しているのに腹が立ったのです』
「なるほど。で、そなたは、“桜を見る会”に対してどのような点が問題だったと考えているのかな?」
『いろいろありますが、“公的行事の私物化”と“税金の無駄遣い”が主な問題だと思っています』
陰陽師はあごに手を添えて一瞬だけ黙考し、口を開く。
「ちなみに、“桜を見る会”は1881年に国際親善を目的として皇室主催で行われた“観桜会”が始まりということは知っているかの?」
『そこまでは知りませんでした。しかし、“桜を見る会”はそんなに前から続いている行事なのですね』
「1995年は阪神・淡路大震災を理由に、2011年は東日本大地震を理由に、2012年は北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応を理由に中止したが、1952年からは吉田茂が総理大臣主催の会として“桜を見る会”に名前を変えて復活し、基本的には毎年開催されておる伝統的な行事なのじゃよ」
青年は黙ってうなずき、続きを待つ。陰陽師は青年の意思を汲み、先を続ける。
「この“桜を見る会”の会費は税金で賄われているものの、きちんと予算に計上されている、いわば公式行事だということは、理解できたかの?」
『予算に計上されていることであれば、税金が“桜を見る会”の会費として使われることには納得できます。しかし、招待客は安倍首相を支持する組織や後援会といった団体が多く、招待者を選ぶ基準も不透明だという主張もあります。会の本来の趣旨である功績者をねぎらうためというよりも、もはや安倍首相個人の“桜を見る後援会”みたいなものではないでしょうか?』
「とはいえ、安倍首相が主催している以上、彼の関係者が増えていくことは別におかしいことでもなかろう。例えば、そなたは以前に勤めていた会社の人事評価が完全で納得できるものだと思うかな?」
『いえ、まったく思いません。不透明でいい加減だと思っていました』
大きく首を左右に振りながら、青年は答える。陰陽師は小さく笑ってみせた。
「そうじゃろう。百歩譲って、仮に誰もが納得するような招待基準を作ったところで、最終的に人間の主観が入る以上は、何らかの忖度が入ってしまうのは仕方ないと思うがの」
『それは確かにそうですが・・・』
「それにじゃ、彼の後援会のメンバーだけを招待して他の人々を除外していた、ということならまだしも、秘密裏に行われたクローズドな会ではない以上、私物化という表現をするにはいささか過剰な気がするがの?」
『確かに、私物化というのは言い過ぎかもしれません。とはいえ、今回の会費は本来の予算の三倍近くになっているそうじゃないですか。しかも、自分の資金を使って開催していれば公職選挙法に違反することを、税金を使うことでうまく回避しているという批判も聞きます。見方によっては公的行事を私物化しているようなものではないかと』
「今度は税金の使われ方について、じゃな」
『はい。参加者の人数を絞ればもっと会費を少なくすることができたでしょうし。しかも、“テロ対策”という名目で会費がかさばったという話もありますが、実際は手荷物検査すら行われず、何に使われたかも不明。結局はほぼ飲食代だったという話も聞きます』
「では、そなたはどのようにすればよかったと考える? 一つの情報に対して問題提起をするのも大事なことじゃが、それに対する解決案を提示できないのでなければ、政府のやることに何でも反対しておきながら、一向に対案を出そうとしない野党の連中とあまり変わらぬ話になってしまうと思うが」
青年はうなりながら首を傾げる。
『そこなのですよ。僕は政治家になったことがありませんし、政治にはお金がかかるとよく言われているものの、実際お金がどう動くかはわかりません。ただ、前夜祭の会場がホテルニューオータニで、しかも5,000円もする高級お寿司が振る舞われたそうじゃないですか。高級なお寿司がほんとうに5,000円で食べられたのかどうかも問題ですが、それよりも年々人数が増えているのですから、もう少し安い会場で前夜祭ができたのではないかと思うんです』
「つまり、何をするにしても、もっと庶民が納得するような金額が望ましい、ということじゃな?」
『その通りです。明細が出せない理由があるのは百歩譲るとして、企業努力ではありませんがそうしたことができたのではないかと』
「そなたの言い分をじゅうぶんに理解したうえで、あえて回答するとすれば、政治に関わるお金の問題については、“政治家にとっての1万円と、世間一般の国民にとっての1万円の感覚は違う”と基本的な概念を念頭に置くといいと思うがの」
『どういうことでしょうか?』
初めて聞く考えに、青年は姿勢を正して真剣な表情になる。
「首相や大臣ともなれば、他国のトップ層と接したりすることもあるし、県知事や県議といった地方の代表とも会合するものだが、その際に、国家の明暗を左右する話し合いを、隣の部屋から大きな騒ぎ声が聞こえてきたり、仕事の愚痴を言っているような店でできると思うかの?」
『もちろん、それはおかしいと思います。“壁に耳あり障子に目あり”ではありませんが、逆にこちらの話が相手に聞こえるという問題も想定できるわけですから、そんな場所ではなく、話が外に漏れない、静かで落ち着いた場所でやっていただけたらと思います』
苦笑しながら答える青年に、陰陽師は小さく頷いて見せる。
「確かに、日々日常生活を送るにあたり、大変な思いをしながら生活している人たちからすれば、政治家のお金の使い方に対して納得がいかないと感じることがあるのかもしれん。じゃが、政治家の一回の会食が一万円かかるとした場合、世間一般の国民が通う一回3,000円程の居酒屋であれば三回ほど行けてしまうような計算になるとしても、そこでもう一度考えてみるべきは、話されている重みの違いではないのかの?」
『なるほど。たしかに、そのあたりはお金で換算できない問題なのかもしれませんね。仮にその内容が僕には見当もつかないものだったとしても、たしかに、おっしゃる通りかもしれませんね・・・』
青年は苦笑し、宙を眺める。陰陽師はテーブルに飛び乗ってきた猫を優しく撫で、口を開く。
「ともかく大事なことは、議会制民主主義政治の原則として、選挙によって衆参の国会議員を選ぶ権利は国民の側にあるとしても、一旦選んだ国会議員が犯罪などに手を染めぬ限りは、具体的な国家運営を彼らに委託するしかない、という原則をよく理解しておくことじゃ。よって、今回の日韓の問題なども、自分の選んだ政党、議員がこの問題をどう考え、どのように行動したかをきちっと理解し、それを次回の選挙に反映させるという姿勢が大切となってくるわけじゃな」
『そういえば、魂の階級の解説(第4話参照)の際に、何らかの理由で二国間に利害の反する問題が起こった場合、基本的に話し合いを繰り返して解決しようとしているのでしたね。武力、すなわち戦争は最後の交渉手段だと』
「そう。世間一般の国民の手の及ばぬ領域で厳密な話し合いが行われ、そこで大事な話が決まる。そのおかげで平和が保たれていると考えることもできる」
グラスに注がれた水を一口飲み、陰陽師は続ける。
「少し話が変わるが、官房長官が3,000円のパンケーキを食べたことに対する批判もあったようじゃが、国を動かしている人間はそれだけ多くの仕事を成し遂げており、同時に多くのお金を動かしているとも言える。分刻みのスケジュールと言っても過言ではない状況の中、息抜きは必要ではないかの?」
『そう言われるとそうですね。確か、プロボクサーの具志堅さんも、世界大会で負けた理由が、“大好物のアイスクリームを食べられなかったから”と言っていたことを思い出しました。当時はたかがアイスクリームと思いましたが、今になって考えてみると、パフォーマンスを発揮するためには息抜きやスウィーツも必要なのでしょうね』
「何を食べるかは個人の自由じゃから、気になるならそのパンケーキを食べてみるといい」
『機会があればそうしてみます』
お互い、あまりスウィーツに興味がないことを知ってか、二人で笑い声をあげる。
「ついでに言っておくが、前夜祭の食事代についてはホテルの宿泊客の中でのパーティーに参加した人に対しての5,000円であって、“桜を見る会”当日の参加者全員にかかったわけではないぞ。料亭のように一人一人が席について食べるわけではないのじゃから、人数分ぴったりの食事を用意しないというのは立食パーティーの常識でもあるので、そこらあたりのこともよく理解しておくことじゃ」
青年は神妙な表情のまま黙ってうなずく。陰陽師は青年が続きを待っているのを察して続けた。
「さらに言うと、TV局の幹部連中などは、毎年前夜祭にも当日の“桜を見る会”にも招待され、実際に出席しているわけじゃから、参加人数や予算がどれくらいかかっているのかはわかるはずなのに、そのあたりのことについて口をつぐんでいるのも解せないといえば解せない話なのじゃがな」
『マスコミ関係者や野党には大陸系の人も少なくないと聞いたことがありますが、詳細を知っていたとしても、そこまでして政権を打倒したいのでしょうか?』
「それ以前の問題として、今の自民党独り勝ちの状態に、まともな政治的議論で立ち向かえる野党が存在しないということの方が問題だと思うがな」
『いずれにしても、政治は奥深いので、よくわからないです・・・』
ばつが悪そうにする青年。陰陽師は青年を励ますような柔らかい笑みで口を開く。
「今回の話でもそうじゃが、世の中の出来事を俯瞰するにあたり、大事なことは、常に物事を大局的な視点で捉えるという姿勢じゃ」
『大局ですか。確かに、視野が狭かったと反省しています』
「それともう一つ。この世の物事には、おしなべてタイミングというものがある。今回の問題が公職選挙法に抵触する可能性のある問題だとしても、話し合うべき問題が山積している国会を空転させてまで、このタイミングで取り上げる首相批判をするべき問題なのかという疑問はついて回ると、ワシは思うがのお」
青年は眉間にしわを寄せて黙っている。政治に関しては本当に明るくないようだ。
「たとえば、昨今の国際情勢一つ見てみてもアメリカ、韓国、北朝鮮、中国、そして中国が同一の国家だと主張している香港、台湾の問題等、文字通り、世界の行く末を左右しかねない大事な時期であることは言うまでもない」
『直接間接の問題はあるとしても、そんなに複数の国と、日本は今問題を抱えているのですか』
陰陽師はアジアの地図を広げながら口を開く。
「まずは韓国について説明するが、今回の日韓関係悪化の引き金となったと韓国が主張しているのは、日本政府が韓国に対して“フッ化水素”、“フッ化ポリイミド”、”レジスト“といった半導体などの材料となる3品目の輸出制限を強化したことと、韓国を”ホワイト国“から外したことにある」
『韓国が“ホワイト国”から外されることがそんなに気に食わなかったのでしょうか? あと、それらの3品目はどういった意味で重要なのでしょうか?』
「先に3品目について説明すると、それらは半導体といった電子部品の製造に必要不可欠なものである以上、ミサイルなどの先端兵器の開発に使われる可能性もあるのじゃが、それが韓国から第3国に流出している可能性があると日本側は睨んでおるわけじゃ」
『なるほど。日本の技術が第3国に軍事利用される可能性があるということなのですね』
「使用使途に疑念のないことが信頼できる国、すなわち“ホワイト国”にはそれらの輸出の制限をしていなかったのじゃが、処々の事情から、韓国に対してそれらを無条件に輸出することは危険だという判断を日本が下した、韓国への3品目の輸出制限をせざるを得なくなったというわけじゃな」
『ところが韓国としては、信頼関係を疑われたということで、その報復として日韓GSOMIAの破棄を通告して来たという流れになるわけですね』
「そのとおりじゃ」
『ところで基本的な質問なのですが、そもそも日韓GSOMIAとは具体的にどのようなものなのでしょうか?』
「たとえば、北朝鮮がミサイルを発射した場合、日本と韓国がお互い取得した秘密軍事情報を共有することを目的として結んだ軍事協定のことじゃ」
『その協定があったおかげで、両国が自国だけでは知りえない情報を補完し合っているわけですね』
陰陽師は首肯して答える。
「もちろん、有事の際の韓国軍の統帥権を今もアメリカが保持していることも含め、GSOMIAはアメリカにとっても東アジア安全保障上、なくてはならないものなのじゃ」
『なるほど』
「そこまで話を広げなかったとしても、万が一北朝鮮から日本に向けてミサイルが発射された場合、韓国と軍事情報を共有していることで、米軍共々圧倒的に早く軍事的な対応が可能になるというメリットが存在する」
『なるほど。ミサイルの下降ポイントや着弾地点が事前にわかれば打ち落としやすくなるでしょうから、韓国からの情報を得られないと危険度が増すといった側面も間違いなくありますね』
「ただし地図を見ればわかるように、日本以上に北の脅威にさらされているのは、韓国の方じゃ。周辺を合わせれば2000万人近くの人が暮らすソウルから38度線、つまり北朝鮮の国境までわずか数十キロしか、離れておらぬ。それだけではないぞ。このソウルの真ん中を流れる漢江の河口は、北朝鮮と直接つながっておる」
『そう言われれば、そうですね』
「よって、ミサイル攻撃も、陸軍の進攻も、韓国は日本と比べ物にならぬほど、北朝鮮の脅威と直面しておるわけじゃ」
『つまり、GSOMIAは、かならずしも日本のためだけではなく、それ以上に韓国自身のためにあると』
「まあ、簡単に言うと、そういうことじゃ」
青年は神妙な表情で何度も頷く。青年の様子を見て微笑みながら、陰陽師は口を開く。
「だいぶ回り道をしたが、話を“桜を見る会”批判に戻すと、このような時期だからこそ、一国の意思決定権者である首相が、冷静な状況判断をしたり、適切な指示を出せるかどうかが非常に重要となってくる。にも関わらず、そのような問題をそっちのけにして、挙げ足取りや重箱の隅をつつくような泥仕合をしかけて内閣を倒そうとしている野党の状況について、そなたはどう思うかの?」
『今までの話を聞く限りでは、与党野党で泥仕合をしている場合ではないと思います』
そう言い、青年は大きく息を吐く。
「国民はどうしても日常の家計といった日本経済に目がいってしまうものじゃが、政治には内政と外交という二つの側面があり、安倍首相はこうした複雑な国際情勢を視野に入れつつ、韓国に対して彼が最良と思う対策を練ったり、山積された様々な国内問題にも日々取り組んでいるのじゃよ」
『そうなのですね。僕の日常生活に直接的に関係しないとの理由から、今まで外交のことなど、ほとんど関心を持ったことがありませんでしたが、これからはもう少しそのあたりの問題にも目を向けるようにしてみたいと思います』
話を整理しているのか、青年はしばらく黙ったままである。やがて顔を上げて口を開いた。
『ちなみにですが、安倍首相の魂の階級はどこなのでしょうか?』
「安倍首相は“1:先導者”階級じゃよ」
さらっと告げる陰陽師の言葉を聞き、青年は目を見張る。
『失礼ですが、別の階級だと思っていました』
「彼の祖父である岸信介、そして大叔父である佐藤栄作以外、歴代の首相がすべて2-3であることを考えると、たしかに、国のトップとしてはめずらしい属性ではあるということもできるがな」
『やはり、そうなのですね。首相である以上、2-3だとばかり思っていました』
陰陽師の意外な言葉に、驚く青年を見ながら、陰陽師が口を開いた。
「世界の非常識ではあるとしても、日本の一部上場企業の社長はそのほとんどが“1:先導者”階級だという話を覚えておるかの?」
『はい』
「そう考えれば、安倍首相が1:先導者”階級であったとしても、それほど不思議な話ではない。それどころか、岸信介や佐藤栄作が長期政権だったことから考えてみても、“1:先導者”階級が国のトップを務めることは、少なくとも我が国では、悪いことではないと思うのじゃがな」
『なるほど、そのように考えてみると、何か“腑に落ちる”ような気がしてきます』
陰陽師に言葉に、大きく頷く青年。
「ちなみに、さきほど話題に出た“桜を見る会”の費用が帳簿に記載されていなかったということで、立憲民主や共産などの野党が立ち上げた追及本部のほぼ全員が2−4、転生回数が200回台の“4:ブルーカラー”階級ということも覚えておいた方がいいじゃろうな」
『えっ、4の人も国会議員になっているのですか』
ふたたび、眼を大きくする青年。
「前にも話したように、魂4の人間は、この世では、職責として社会の下支えをしているわけじゃが、転生が200回に近づくにつれ、“学業”が突出するという特徴を帯びるようになる。よって、2-4の中でも優秀な者は、一流大学を卒業し、弁護士資格を取得することのみならず、その職歴を足がかりとして、国会議員にまで上り詰めることも可能となるわけじゃ」
『なるほど』
「さらに、大局的な見地には欠けるものの、正義感、倫理観が強い、という魂4の特徴についての話を覚えていると思うが、その結果、彼らは弁護士になると、いわゆる“社会派弁護士”になる可能性が極めて高く、国会議員としては、左派政党の主要メンバーとなる可能性が極めて高くなるというわけじゃ」
『つまり、旧社会党系政党の左派や共産党の議員になるわけですね』
あらためて目を大きくする青年を横目に見ながら、陰陽師は話を続けた。
「例外的に、自民党の議員の中にもごく少数の2-4がいる問題はさておき、大筋の話としてはそういうことになる」
『しかし、政治信条からも魂の階級がわかるなんて、とても興味深いですね』
「それだけではない。このような構図は、“選ばれる者”だけではなく、選ぶ側の一般国民の側にも成り立つわけじゃから、選挙を軽視することには大きな危険が隠されているということもつながるわけじゃ」
『とおっしゃいますと』
「選挙で風が吹く、という言葉を知っておるかな」
『はい、一応は』
「あれなども、ワシに言わせれば、ちょっと気の利いたスローガンに、参加意識が高い反面、大局的見地に欠ける魂4が踊らされた結果起こる現象ということになる」
『なるほど』
「それ故、代議員、国会議員に選出された議員が何をしようと、彼らを選んだ側にも責任が生じるという自覚を持つことはもちろん、各人がほんとうに政治を変えたいと思うのであれば、民主主義政治において政治に影響を与えられる唯一の手段である選挙に行くことは常識中の常識となる」
『政治家に文句を言いたいのであれば、政治について真剣に考えて身近な人と話し合い、投票率を100%に近づけることが大事なのですね』
「その通りじゃ」
『ただ、日本では会社内などで政治の話をするのはタブーということが暗黙の了解になっているような気もするのですが・・・』
「そのあたりは、我が国の特殊な建国事情が影響しておるのじゃろうが、グローバル化が進む現在、いつまでもそのようなことを言っている場合ではないとは思うが」
『そうはいっても、とりあえず、どうすればいいのでしょうか』
「そうじゃな。とりあえず、気心の知れた友人などと様々な政治的問題について意見交換をし合うところから始めてはどうじゃな?」
『そうですね。これからは、努めてそのような話題を友人たちと語り合ってみようと思います』
「ただし、その結果、誰を選ぶかという問題の方がもっと重要だということをくれぐれも忘れんようにな。特に選挙は、様々な耳あたりのいいスローガンに踊らされた魂4によってどんな“風が吹く”かわからぬのじゃから、我々魂1~3の一人でも多くが、大局的な見地から物事を考え、清き一票を投じることはものすごく意義のあることなのじゃ」
『わかりました。肝に銘じておきます』
青年は黙って頷く。こと政治に関しては何も言えないようである。
「有権者である国民にとってわかりやすく、国民生活の問題点にフォーカスしてマニフェストを作成することはおおいに結構。ただ、その政党なり、人物なりが当選後、本当にマニフェストを実行できるかをしっかりと見極め、もし言動に不一致があるような場合には、次回の選挙でそのような政党なり人物を当選させないことが民主主義の原則だということをよく肝に銘じておくことじゃ」
『そう言えば、先日の衆議院選で消費税0%を掲げ、障害者を議員にした立候補者がいましたね』
「ああ、あの人物じゃな。彼は“3:ビジネスマン”階級であると同時に、芸能関係(2−3−5−5・・・2)に適した人物じゃから、民衆に訴えかけるのは向いているかもしれんな。もっとも、頭は2ではあるが」
『なん・・・ですと。いずれにしても、演説でいろんな人を惹きつけていることには納得です』
「ただし、魂の属性や親近性からいうと彼はかなり急進的なタイプで、歴史上の人物に比定すると坂本龍馬の小型版ということができる。先ほども、タイミングが大事という話をしたが、坂本龍馬の場合、黒船来航から開国、明治維新という混沌とした時代に活動したからこそあのような影響力を発揮できたわけじゃが、今の時代にあのような人物の出番があるどうかは、はなはだ疑問と言わざるを得ない」
『なるほど。現代の政治ではそこまで急進的な思想は必要ないというわけですね』
「そういうことじゃな」
何度も頷く青年を見、陰陽師も微笑みながら頷く。
すっかり夜も更けてきた。まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、今日はここで切り上げよう、そう心に決めると、青年は陰陽師に丁重に謝意を伝えたうえで、帰り支度を始めた。
「さてさて、今日もすっかり遅くなってしまったな。気をつけて帰るのじゃぞ」
立ち上がり、深く頭を下げて退室する青年。
これからは政治に関する情報も取り入れていこうと反省するのだった。