青年はイライラしていた。

先日、京都に出張した際の出来事に対してである。

道の真ん中を歩いていたわけではないのに、少しよそ見をしていたらクラクションを鳴らされたり、歩行者が赤信号を強引に渡ってきて、自分が乗っていた自動車が轢きそうになることもあった。

他にも気分を害する出来事がいくつかあり、京都にフォーカスした漫画をたまたま読んだことをきっかけに、色々と思い出したのだった。

京都の人の9割近くが2−4(転生回数が200回台で魂の属性“4:ブルーカラー”階級)という陰陽師の言葉を思い出し、再び青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

『先生、どうして京都の人はあんな性格の人が多いのでしょうか?』

「一言であんな性格と言われても返答に困るが、そなたが言いたいことは察しがつく」

陰陽師は苦笑しながらうなずいてみせる。

『先日のお話の中、京都の人の9割近くが2−4だとおっしゃいましたが、それと関係があるのでしょうか?』

「もちろんじゃとも」

『やはりそうですか。それにしても、京都は歴史のある都市であるから、むしろ“1:先導者”階級や“3:ビジネスマン(武士・武将)”階級が多く住む土地だと思っていました。歴史的建造物だって、魂3の人々の技術がなければできなかったでしょうし』

「魂の階級と役割について、だいぶ真剣に勉強しておるようじゃな」

そう言いながら陰陽師は微笑み、照れた青年は笑顔を作りながら顔をふせる。

「そなたが言った通り、確かに室町時代まで京都は日本の中心じゃったが、まず、徳川家康が江戸幕府を開いたことで、文字通り、日本が二分されてしまった」

『たしかに、江戸幕府は15代まで続きましたし、今も皇居が東京にあるわけですから、それ以来江戸が京都とならび日本を二分したのだと思います』

「そして決定だったのが、明治維新じゃ。大政奉還が二条城で行われたことからもわかるように、江戸時代も江戸幕府があるにもかかわらず、京都・大阪はまだまだ大きな役割を果たしていた。特に京都には天皇と公家たちが揃って残っていたわけじゃから、文化という点では依然として日本の中心だったわけじゃ」

『しかし、明治維新によって天皇を中心としたそれらの人々まで、こぞって東京に移住してしまったわけですね』

「その通りじゃ。そしてその結果、商人や町民だけが残ったのが今の京都というわけじゃよ」

『なるほど。魂1〜3の人々がごそっといなくなってしまったために4の人の比率が圧倒的に多くなってしまったわけですね』

陰陽師は首肯して答える。

『それにしたって、京都の人は遠回しに嫌味を言ってきたり、旅行者に対して上から目線で接してくる印象があります。ということは、そもそも“4:ブルーカラー”階級の人々は性格が悪いのでしょうか?』

それを言ってしまうと、地球の6割の人間の性格が悪くなってしまう。とんでもない言い草である。

陰陽師は声を出して笑う。青年は何がおかしいのかわからないのか、きょとんとしている。

「一括りにそう決めてはいくらなんでも無理がある。京都で“イケズ”や遠回しに言う文化が根付いている一端は、住民のほとんどが2-4だということは大きいじゃろうな」

『ところで、僕が読んだ漫画では京都の人はイケズや遠回しな言い方をするけど、面と向かってもめたくないからガチンコの喧嘩に弱い、というようなことが描かれていました』

「その手のものをほとんど読まんので全体的な話はともかく、そなたのいう漫画の登場人物を鑑定すれば、2−4であるかどうかはすぐにわかることじゃがな」

『えっ、漫画のキャラも鑑定できるのですか!』

青年は感嘆の声をあげ、陰陽師は微笑みで応える。

『その漫画の中で特に気になったのが、京都の中心部にある老舗の扇屋の女子大生のキャラクターがいまして、遠回しに嫌味を言ったり、お客さんが帰った後に陰口を叩いたりしています。さらに、住んでいる場所が京都内のカーストで上位らしく、そのことを鼻にかけてカースト下位の土地に住むキャラクターを見下しているのですが、2−4でしょうか?』

「鑑定してみよう。少し待ちたまえ」

陰陽師は半眼になって小刻みに指を動かす。

「うむ、典型的な2−4じゃな」

『やはりですか』

的中したのが嬉しかったのか、青年は笑みを浮かべて言った。

『ちなみに、メインの登場人物がタバコ屋の若い女性なのですが、このキャラクターはクールで顔や言葉は怖く描かれていますが、観光客にお得な情報を伝えていたり、人情味のある行動をしていて判別が難しいです』

「どれどれ」

再び陰陽師が鑑定を始める。青年は落ち着かない様子で答えを待つ。

「そのキャラは“3:ビジネスマン”階級、しかも(1)-2(4)-3じゃな」

『なるほど。数少ない1割の方なのですね。ただ、女主人公の幼なじみは対照的で、感情的といいますか行動がムチャクチャなシングルマザーなのですが、女主人公と仲がいいことから、魂3のキャラクターでしょうか?』

「ふむ」

再々度、陰陽師は鑑定を始める。青年は腕を組んで結果を待つ。

「そのキャラクターは一見典型的な2−4に見えるかもしれないが、間違いなく、“3:ビジネスマン”階級じゃな」

『てっきり2-4かと思っていましたが、僕の勘違いなのですね』

「人間というものは、かなり複雑な要素を内包しておる生き物じゃ。だから、表面的な言動だけでなく、もっと深い人間観察が重要となるが、いずれにしても、その漫画に出てくる登場人物同様、京都人のほとんどが2-4であることは間違いない」

『つまり、2−4がどんな人物なのかを知りたい場合、京都の人たちを観察したり、京都に行けない場合はその漫画を読めばいいということですね』

「今度ワシもその漫画に目を通してみるが、今ざっとみても、京都およびそこに住む人々の特徴をなかなかよくとらえた漫画のようじゃな」

陰陽師は首肯して答える。

「ところで、そなたは京都へはよく行くのか」

『よくと言うわけではないにしても、あちらに友人知人もそれなりにいますから、年に数回は行っている計算になりますね』

「そなたがそれほど京都に精通しているのであれば、ワシが実際に体験した京都での2−4絡みの出来事を話そう」

『それは興味深い話ですね。ぜひ、よろしくお願いします』

「仕事柄、ワシは京都にも拠点を持っておるのじゃが、ある日、郵便受けに一通の手紙が入っていたんじゃ。内容は、“下の階の者ですが、音がうるさいので静かにしてください”というものじゃった」

『先生が遅い時間に騒音を出すとは思えませんが、意外です』

「ワシは常日頃BOSEのスピーカーを愛用しておるのじゃが、住んでいるのがマンションということで、防音は大丈夫だと油断してしまったわしも悪いのじゃが、いずれにしても、次の日に菓子折をもって下の階の住民に謝罪しにいったわけじゃよ」

青年は体をのけぞらせて目を見張る。

『菓子折まで用意するのですか。京都ではそれくらい当たり前かもしれませんが』

「そのあたりの話はともかく、問題は、真下の部屋の住民に心当たりがないと言われたことじゃった」

『え、そうなのですか?』

「それで、今度はその両隣の部屋のインターフォンを鳴らして事情を説明したのじゃが、これまた全員心当たりがないと言うんじゃ」

青年は首をかしげ、唸り声をあげる。当時のことを思い出してか、陰陽師の表情に笑みが浮かぶ。

「下の階に手紙の主がいないことがわかったのでいったん部屋に戻り、こんどは霊能力でその手紙の主を探してみたところ、なんと隣の部屋の住民だったんじゃ」

『まさかのお隣さんですか! 手紙には“下の階の者”って書いてあったのに』

青年のリアクションがおかしかったのか、陰陽師は体を揺らして笑う。

「この件があって気になったから全員を鑑定したところ、ワシが住んでいたマンションは特殊な属性の人間が多く住んでいることがわかった。9割近くが2−4である京都において、魂1〜3の住民の方が圧倒的に多かったのじゃよ」

『なんと、それは珍しいですね』

「そして、手紙を寄こした住民は、案の定、そのマンションでは少数派である2−4だったというわけじゃな」

『なるほど。そういうオチですか!』

二人は見合って笑い出す。

「他にも京都で体験した属性の問題では、修学旅行生と、彼らを案内するタクシードライバーの関係が興味深い」

『とおっしゃいますと?』

「ワシらが学生の頃は修学旅行というと大型バスに乗って集団で移動したものじゃが、今は時代が変わり、修学旅行生のほとんどは5~6人でワンボックスタクシーに分乗し、神社仏閣の見学をしておるのじゃが、当然のこととして、ガイドはタクシーの運転手の役目となっておる」

『修学旅行生は京都外から来ているのでいろんな階級がいそうですが、タクシードライバーは全員4という話でしょうか?』

青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら口を開く。

「京都中のタクシー運転手という意味では、たしかにそのとおりじゃろう。しかしワシが言いたいのはそういうことではなく、“引き寄せの法則”とても呼ぶべき現象のことなのじゃ」

『“引き寄せの法則”とは、どのような意味なのでしょう』

「まず5~6人でグループとなった生徒じゃが、その理由はともかく、皆2-3とか2-4とか4-4という輪廻転生も含めた同じ属性同士でグループを形成しておる。そこまではいいとしても、面白いのは、それらの学生グループと彼らを引率しているタクシー運転手の属性が、ほぼ例外なく、学生たちと一致しておることなのじゃ」

『たしかに、それは興味深いですね。学生同士は属性による知的レベルや性格の違いから同一グループを形成することがあるにしても、初対面のタクシードライバーまでが同じ属性だとは驚きです』

陰陽師は首肯して答える。

「ある日、ワシが三十三間堂に立ち寄った時のことじゃ。たまたまワシのそばに二つのグループがおって、つかず離れず内部を見学しておったのじゃが、その間のやりとりがまた面白くてな」

『とおっしゃいますと?』

「たとえば、魂3同士の組み合わせの方は、歴史的建造物の歴史や建てられた歴史的背景といった学術的な説明をタクシー運転手がしたとしても、修学旅行に合わせ下準備をしてきたのか、元々それなりの知識を持っておるのか、真剣な表情でタクシー運転手の説明に耳を傾けていたリ、かなり突っ込んだ質疑応答をしておったんじゃ」

青年は続きを促すようにうなずいて見せる。

「一方、4-4の組み合わせの方はどうかというと、タクシー運転手は運転手で、君たちまだ若いんだからこんなもの興味ないよね、もうこんなものは、おじいちゃんおばあちゃんになって棺桶に片足を突っ込んだ頃に来ればいいんだよ、といった調子じゃし、聞いている学生たちは学生たちで、そうっすねーといった軽い感じで笑い合うという感じなのじゃ」

『なるほど、それはとてもわかりやすい対比ですね!』

笑顔を見せる青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。

「話が変わるが、初めての土地で食事をする際に、そなたは食べログを使うかの?」

『はい。知らない土地で食事をする時は必ず参考にしています』

「ワシも食事にはちとうるさい方じゃから、当然食べログを参考にしていろんなお店に行くのじゃが」

『えっ、そうなんですか。先生はまったく食べないか、食べても精進料理あたりかな、なんて勝手にイメージしていました』

仙人でもあるまいし。失礼な言い草である。

「鶏肉こそあまり食さんが、和・洋・中なんでも食べるぞ。特に寿司や焼き肉なぞは、大好物じゃ」

青年のイメージがおかしかったのか、陰陽師は笑いながら先を続けた。

「ある日のこと、静岡から来た客を連れて、京都で400年続く歴史もあり、格式も高いと言われている蕎麦屋に行った時のことじゃ。もちろん、食べログのコメントにも目を通したうえで店に行ったわけじゃが、これがまずくてとても食べられたしろものではなかったんじゃ」

『つまり、食べログの評価と店の味に齟齬があったのですね』

「そのとおりじゃ。そして、あのような目に遭ったのはあれが初めてではなかったから、あの日以来、食べログには参考意見として目を通すとしても、決して鵜呑みにはしないようにするようになった」

『しかし、どうしてそのようなことが起こるのでしょう? 食べログがコメントを盛ったりしているのでしょうか』

「いや、そうではなく、食べログにコメントをアップする人間の属性の問題なのじゃと思うな」

「とおっしゃいますと」

「以前、ネットが参加意識の高い魂4に占領されているという趣旨の話をしたと思うが、食べログに乗せられたコメントを一つ一つ見ていくと、4-4、2-4に限らず、魂4のコメントが多いんじゃ」

『なるほど』

「そなたのようにブログをやっていたり、芸能人のように食べたものも商売になるような一部の例外を除き、食後の感想を食べログに乗せようと思う魂1~3の確率は、魂4に比べて圧倒的に少ない」

『僕などはまめにコメントをアップしますが、多くの魂1~3はそのようなことはしないと』

「もちろん魂1~3といっても、現世的にみると様々な階層の人間がいるのは確かじゃ。しかし、ネットへのアップという意味では、魂4の比でないことは間違いない」

『では、魂1~3と魂4とでは、味覚そのものにも違いがあるというわけですね』
「もちろん、B級グルメと懐石料理をいっしょくたに語るのはどうかと思うが、繊細な料理になればなるほど、その差は歴然となるのは間違いないじゃろう」

『なるほど』

「さらに言えば、“コスパ”という問題もそうじゃ。かつてテレビで人気を博していたイタリアンのシェフが、自分の店で出す800円のミネラルウォーターについてのネット上のコメントを巡り、貧乏人はうちの店に来てくれなくていい、といった趣旨の発言をして干された事件があったが、あれなどは魂1~3と魂4の価値観の相違が如実に出ている例といえるじゃろうな」

いったん言葉を切ると、陰陽師は先を続けた。

「よって、京都での食べログの評価、特に現地の人間が発信した情報は魂の階級が4の人には参考になるじゃろうが、ワシら魂1〜3の人間は鵜呑みにしない方がいいというわけじゃな」

『それは残念です。食べログ以前の問題として、京都でおいしいものを食べるには地元の人に聞けばいいかと思っていましたが、9割近くの人が2−4では・・・』

青年は苦笑しながら言った。

「さらに問題なのは、京都の大半の人間が4-4ではなく、2-4だということじゃ」

『とおっしゃいますと?』

「京都の町を走っていても、地方都市の中では突出して外車の割合が高いこともその一例じゃが、2-4だから、基本的に金を持っている。じゃから、食事をするにしても、客単価1万円くらいの店だと2−4の人々で溢れているじゃろうから、本当に美味しくて食事を落ち着いた雰囲気で楽しみたいのであれば、2〜3万円だす覚悟が必要じゃろうな」

『そこまで高級なお店に行くなら、チェーン店で安定した味か、むしろ食べログが低いお店に挑戦するかもしれません』

それでは京都の食事を楽しめず、もったいないという意見も来そうである。

「そうじゃな、百聞は一見に如かず。ともかく、実際に食べて体験してみるといい」

そう言い、陰陽師は小さく笑う。青年もつられて声を出して笑う。

『ところで話は変わりますが、京都の市・府の議員や国会議員は、どのような属性の人間が占めているのでしょうか? 京都府民の9割近くが2−4なわけですから、当然のこととして、2-4で占められているのでしょうか?』

「京都選出の衆議院議員の中には魂3もおるが、ふたりの参議院議員そして府知事は2-4じゃな」

『やはり、そうでしたか。選挙民が圧倒的に2-4なわけですから、価値観が似ていて賛同も得やすいのでしょうから、当選する確率だって、当然高くなりますよね』

納得顔の青年が、質問を重ねた。

『ところで、そのような属性の人がトップに立つと、政治や行政はどうなってしまうのでしょうか』

「それがな、おもしろいことに悪いことばかりでもないのじゃ。以前にも説明したように、4の人々は大局的な見地には欠けるものの、正義感、倫理観が強い。また、共感能力が高いことから自分とは関係ない出来事であってもまるで自分のことのように怒り、感情的な言動をするといった特徴を持つ彼らが、府・市議、そして国会議員になるメリットのひとつとして、“福祉の充実”が挙げられる。実際、京都府では世間一般に言われる弱者に対する待遇が手厚く、たとえば障害者手帳なぞを持っていれば、東京などよりはるかに利用価値が高い」

『たとえ大局的見地の問題はあったとしても、正義感、倫理観の強さが反映されているのですね』

青年は何度もうなずいて見せる。

『議員は“1:先導者”階級か魂3の武士階級が適任だと記憶していますが、京都の場合は住民の特性から2−4の人物が担う方がいいという考え方もあるわけですね』

「まあ、そういうことじゃな」

『でもそのような属性の人間が国家のトップに立った場合は、どうなってしまうのでしょう』

「それについては、過去の歴史上の指導者を例に挙げて解説することはやぶさがではないが、短時間で説明できる問題でもないから、明日以降の話題とするとしよう」

陰陽師の視線につられ、青年は時計に目をやった。いつもながら、気がつけば深夜になっている。

『いつも遅い時間までありがとうございます。またよろしくお願いいたします』

「気をつけてな」

陰陽師は笑顔を浮かべ、うなずきながら言った。

青年は席を立ち、深く頭を下げて部屋を出た。玄関で靴を履いていると、立ち耳のスコティッシュフォールドが青年におでこをすり寄せてきたり、横になってお腹を見せていた。猫たちにも受け入れられているように感じ、青年は笑顔で帰路につくのだった。