新千夜一夜物語 第5話:天職と執着
青年は不思議な心境だった。
魂の階級という聞いたことがない情報を知り、しかも自分の天職までも知ることができるという人生の転換期にもかかわらず、心中は穏やかだった。もともと死んでもいいと思えていたため、なにを言われても受け入れる覚悟ができているのかもしれない。
陰陽師が口を開いた。
「そなたの天職診断の結果は出ておるぞ」
固唾を飲み、頷いて応える青年。
「いくつか項目があるから、先に伝えておこう。まずは大枠として、対人向き・不向きに分かれる」
*対人不向き
・事務
・職人
・対動植物
*対人向き
・対個人:新規(ネットワーク、口コミなど、新規の人間関係が得意)
・対個人:人脈(人間関係だけでいく、新規の人間関係が苦手、既存のフォローが得意)
・対組織:新規(法人の新規が苦でない)
・対組織:人脈(法人の新規は苦手、既存のフォローが得意)
『こうして見ると、どんな職種で働けばいいかの傾向がわかりやすいですね』
「そうじゃろう。そして、何を扱うのに向いているのかも分けられる」
・物販(“モノ”を扱う)
・飲食(“消えモノ”を扱う)
・サービス(“コンテンツ”を扱う)
・芸能(“自分自身”を扱う)
・芸能(2−3−5−5・・・2以外の領域)
『なるほど。これでさらに業界も絞りやすくなりますね』
「そなたの場合、それらの項目が“対個人:新規”で、扱うのは“飲食”と“サービス”となる」
『確かに、誰かに紹介してもらうよりも自分で新しい人を探すほうが得意な気がします。それと、“飲食”は月に1度、1日店長をやっているのが該当しそうですね。また、“サービス”に関しては気功が該当すると思います』
「一言で“飲食”といっても具体的な仕事は多岐にわたる。お店を構えて料理を提供するということに限らず、食材を販売するというのもこの項目に当てはまるぞ」
『ということは、八百屋や魚屋も該当するのでしょうか?』
「いや、それらはあくまで食材の販売だけであるから“物販”の範疇に入る。そして、“サービス”は見えないモノと言い換えることもできるから、情報商材や文章、動画なども含まれる。保険などの金融商品も問題ない」
『なるほど。サービスと聞いて接客業だけをイメージしていました』
眉間にシワを寄せ、小難しそうな顔をする青年。
『“芸能”というのは芸能人やアイドルに向いているかどうか、ということでしょうか?』
「大きく捉えるとそういうことになるな。そなた、先日話した、現世属性のことを覚えておるか?」
『・・・数字だけなら覚えています』
「実は、ここを見ればアイドルを目指してもいいかどうかがわかる」
『えっ、そんなことまでわかるんですか! 先生がアイドル候補生たちの顔や名前をみれば、どの人が売れるかがわかってしまうということですよね?』
よほど驚いたのか、興奮気味に話す青年。陰陽師は片手を上げ、青年を制する。
「まあ、落ち着きなさい。芸能・スポーツ関係の適合者はこれらの数字が“5(*)―5(*)”つまり、基本的気質と具体的性格の上の数字が共に5となっておる。この人々は顔がとても整っていたり、個性的な顔をしていたり、芸能人でよく言われるオーラを纏っている人が多い」
『このような見立てのできないスカウトの人たちはそうしたオーラを感じ取っているのですかね?』
「おそらくそうじゃろうな。要は、芸能関係に進みたいと夢見る若者にとって2-3-5-5・・・2という数字を持っているか否かは、正に運命の分かれ道ということになる。詳細鑑定にある”長所”の項目に”芸能”があるが、そこのスコアも考慮すると、さらにこの業界で成功しやすいかどうかがわかるわけじゃ」
『せっかくデビューしてもなかなか芽が出ない人というのは、ここの数字が違うということですか?』
「いや、芸能界にデビューできたということは間違いなく2-3-5(*)–5(*)・・・2という数字を持っているんじゃが、その数字を持っていたからと言ってみんながみんな成功するわけではない」
『つまり成功するかどうかは別として、2-3-5(*)−5(*)・・・2という数字は芸能界への“入場券”の様なものなのですね』
「まあ、簡単にいうとそうなるかの。ただしいくら入場券を持っていたところで、そこから先は“3:ビジネスマン階級”の世界、実力のある者が頭角を現していくという訳じゃ」
『僕は7(5)―7(5)なので、芸能界には入れないということですね。ちなみに、7(5)―7(5)というのはどのような意味なのでしょうか?』
紙に数字を書きながら、陰陽師が説明を始める。
「ここの数字には、社会生活/仕事をするにあたっての適性が表れている。7(*)―7(*)のように7と7が一致している人は、例えるならOSもソフトも最適じゃ。一方、7(*)―3(*)と数字が一致していない人はOSとしては社会生活/仕事をするにあたり適した番号を持っているものの、ソフトの部分で霊的/精神的に問題を抱えているというになる」『僕は社会生活/仕事をするにあたっては適しているわけですね。ちなみに、7(*)―3(*)の人たちは社会に適応するのが難しいのでしょうか?』
「7(*)―3(*)の人たちは一般常識や空気を読むことが苦手なので、結果、自分のペースで生きる方が合っているということになる。また、最初からそうした生き方が合っているとわかっていれば、苦手な人付き合いを頑張らなくて済むし、いっそう自分の価値観を大事にしていけばいいだけのことじゃからの」
『なるほど。ちなみに、(*)の中の数字はなんですか?』
「それらは適した立場を表している。(*)は1、3、5、7、9とあり、1は社長、3は常務、5は部長、7は課長、9は平社員と考えるとわかりやすい」
『僕は7(5)―7(5)なので、社会適合者で部長の立場が適しているということですか?』
「そうじゃな。上の立場の人間と下の立場の人間とも接することができる。まさに管理職じゃ。そなたは部長だから、1:社長の人間の視野で物事を考えたり立ち振る舞ったりするのは難しい。逆に、1:社長の人間がそなたの立場で動こうとしても、うまく指揮をとれないじゃろう。何度もいうが、この数字は人間の上下関係や偉い・偉くないといった意味ではなく、力を発揮しやすいポジションを表しているに過ぎないということじゃ」
『なんとなく理解できました。話が戻ってしまいますが、2−3―5(*)―5(*)・・・2というのはどのような意味でしょうか? 5(*)―5(*)は現世属性だと理解していますが』
「最初の2は転生回数が200回代、次の3は魂の階級つまり“3:ビジネスマン階級”ということじゃ」
『3だけということは、武士・武将を問わずということですね?』
「そうじゃ。そして、次の・・・2というのは、そなたの鑑定結果を見ながら説明しよう」
『魂の善悪と書かれていますが・・・』
眉間にシワを寄せる青年。ふたたび数字が出てきたことで頭を悩ませているようだ。
『急に項目が増えましたね』