
青年は思議していた。
シンガーソングライターの槇原敬之さんが、覚醒剤所持により再び逮捕された事件についてである。
スポーツ・芸能・芸術を生業にすることが許されているのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2に限られるという。だが、今世の運気が“大々山”である魂の属性が3(9)―3の人物が稀にそれらの世界に入ってしまうことがあり、その場合、この世の“排除命令”が出て退場させられるとも聞いた。
では、槇原敬之さんはどちらの属性であるのか?
今後、彼は芸能界に復帰できるのか?
あるいは、“排除命令”によってこのまま芸能界から退場となってしまうのか?
答えを確認すべく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。
『先生、こんばんは。本日は芸能界とこの世のルールについて教えていただけませんか?』
「うむ、そのテーマか。して、何かきっかけとなる事件でもあったのかの?」
『先日報道されました、槇原敬之さんが覚醒剤所持によって再逮捕された事件です。ひょっとして、彼はこの世の“排除命令”の対象となる属性ではないかと思ったのです』
「その説明をする前に、そなたの理解している2-3-5-5・・・2のルールを復唱してもらえるかな?」
青年はあごに手を当ててしばらく黙考した後、口を開く。
『オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にできるのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2の人物に限られるというルールのことです。つまり、転生回数期が2期(201〜300回)で魂の種類が“3:ビジネスマン”、基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字が共に5、魂の特徴の最後の数字が2という属性のことです。例外として、“オネエ”や“ポルノ/AV女優”などの人物がこの世界に入ってきた人間は、時として2(3)-3-5-5・・・2のケースもあり得、代表的なところでは、マツコ・デラックスさん、デヴィ婦人、吉高由里子さん、橋本マナミさんなどがいらっしゃいます』
黙ってうなずく陰陽師を見、青年は続ける。
『ただし、運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2、すなわち転生回数が3期(101〜200回)で十の位が90回の人物が時としてスポーツ・芸能・芸術の世界に足を踏み入れることがあり、その場合は“排除命令”が出る、という認識をしています』
「うむ、大方のところはしっかりと理解しているようじゃな。そなたの説明にあえてつけ加えるとすれば、いずれは排除命令が出てしまうが、1(7)−3−5−5・・・2、すなわち、転生回数が1期(301〜400回)で十の位が70回代という、運気が“大山”の人物も含まれること、こちらの場合はほぼ芸術に限られるということも忘れぬようにの」
陰陽師の言葉をじゅうぶんに理解できなかったのか、青年はしばらく固まってから返答した。
『・・・今更で恐縮ですが、もう一度だけ転生回数期について確認してもよろしいでしょうか?』
「もちろん」
微笑む陰陽師を見て青年は安堵のため息をつき、続ける。
『この世は魂磨きのための修行の場であり、全ての魂は例外なく、400回輪廻転生します。転生回数期は400回の輪廻転生を100回ごとに分けたもので、人生における年齢のように、期によって特徴があると認識しています』
「そなたの言葉につけ加えると、以下のようになる」
青年の言葉を聞き、陰陽師は紙に各期と輪廻転生回数について書き記していく。
<各期と輪廻転生回数>
第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
※人生を80年と仮定した場合。
『“第一期”を頂点として数字が小さいほど転生回数が多く、“第四期”へ向けて数字が大きくなるほど転生回数が少ないことに注意が必要ですね。以前、転生回数が若い、第三期と第四期は基本的に理系で、第一期と第二期は基本的に文系とお聞きしましたが、期ごとにもう少し具体的な特徴はあるのでしょうか?』
「もちろん。まずは第四期じゃが、各魂1〜4に共通する傾向として、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。また、物事の判断が極めて即物/短絡的という特徴を持っておる」
『この世のことについてこれから学んでいくという意味では、人生でいうところの学生時代に該当するわけですね』
青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、続ける。
「次の第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、とくに前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」
『なるほど。これから活躍の幅が広がっていく、勢いがある若手社員という感じですね。後半の運命の“大々山”である190回代に勢いがピークを迎え、世の中に革命をもたらす存在になると』
「その通りじゃ。この“大々山”は、武士・武将問わず、魂3特有のものなのじゃが、平和賞・文学賞を除いた理系のノーベル賞を受賞するのは、アルベルト・アインシュタイン始め、すべて3(9)-3の時期の人間たちと決まっておる。医師も同様で、WHO、FDA、厚生省の役人や臨床分野や病院などの経営に携わっている1-1、2-3という少数の例外を除けば、医師のほとんどが3(9)-3となる」
『つまり、3(9)-3は理系の大御所というわけですね!』
「3(9)―3の活躍の場はそれだけにとどまらず、東証一部の上位400社に目を転じてみても、1(7)-1の松下幸之助を唯一の例外として、創業者はことごとく3(9)-3じゃ。さらに言えば、創業者が現役の社長であるソフトバンク、楽天、ジャパネットタカタ(現在は社長を退かれています)、ユニクロなどもその例に漏れない」
『なるほど。研究の領域だけでなく、経済分野でも大活躍しているのですね』
感嘆の声を漏らす青年を横目に、陰陽師は続ける。
「一つ飛ばして第一期じゃが、老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになるのじゃろうが、この法則を魂1~4にあてはめると、もっとも厄介なのが魂3ということになる」
『ゲゲエ! そ、そうなのですか。1-3というと、精神的に成熟し、世の中の法則を理解した老師のようなイメージですが、実際は違うのでしょうか?』
予想外のことを聞き、戸惑う青年。陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。
「その直前の第二期で芸能/芸術の世界で活躍した感受性・情念豊かな魂が、老年期を迎えて上記のような老年期特有の特徴を増幅させると、その言動と行動は往々にして一般人には理解不能なものとなる」
『なんだか、“奇人・変人”みたいですね』
冗談まじりに言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。
「そのとおりじゃ。この世には“奇人”と“変人”という二種類の人種が存在するとして、“奇人”が、この世の常識的な中心線を理解したうえで、その中心線から一定の距離を置くことで自らのアイデンティティを主張しようとするのに対して、“変人”は、世の中の常識的な中心線を認識できない人間のことを指す。極端な言い方をしてしまえば、文字通りの“気狂い“ということになるのだが、当の本人が”まともな常識人である“と思い込んでいることから、周りの人間にとっては迷惑以外の何物でもなかったりする」
『以前に鑑定を依頼しました、歩きながらぶつぶつ独り言を言っていた人物がそうでしたね』
「あのケースは他にも色々と問題のある数字が連なっておったが、1-3に限っては、たとえ他の数字がまともだとしても、切れやすい、偏屈、へそ曲がりといった特徴を大なり小なり持っているから注意が必要なのじゃ」
『なるほど。明日は我が身なのですね』
「まあ、かなり遠い未来の話じゃが、残念ながらそなたも例外ではない」
小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。
「最後に第二期じゃが、人間にたとえれば41~60歳にあたるこの時期は、現世での円熟期に相当している。魂1:“先導者”を除く各魂がこの世で各々の特徴を最も顕在化させるのがこの時期で、魂3だけがスポーツ・芸能・芸術を生業にできるといっても、それが可能なのはこの時期だけなわけじゃ」
『なるほど。そのような輪廻転生のメカニズムがあるからこそ、スポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できるのは2−3−5−5・・・2という、厳然なルールにつながるわけですね』
「基本的気質と具体的性格を表す5-5という問題を捨象すれば、一部上場企業の標準的な役員構成なぞも、役員が20人いるとすれば、会長、社長を中心に1-1が1~2人、(3(9)-3と若干名の2-4という人間が例外的に1人か2人混じっていたとしても)残りはすべて2-3の人々ということになる。私企業から出発し、上場によって社会的公共性という側面を有したとは言え、利潤という責務を負った現場では熾烈な競争が日々繰り広げられる以上、トップである1-1の周りにはそのような人材が必要というわけじゃな」
『以前、欧米の大企業や韓国の“財閥”などのトップのほとんどが2-3の人々で、“トップダウン”による意思決定が行われていると仰ってましたね』
陰陽師は紙に三角形を描き、上下の矢印を付け足して続ける。
「さよう。我が国では、元々聖職者である1-1が上場企業のトップを務めておることから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけるというよりも、多数決や満場一致を旨とすること圧倒的に多い。そのため、経営の意思決定形式としても、トップダウンより“ボトムアップ”という形になるくだりは以前に話した通りじゃ」
『そのような意味では、“神の国日本”という表現は言い得て妙ですね』
青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。
「で、話をもとに戻すと、スポーツ・芸能・芸術の世界が、転生回数期が第二期の魂3:ビジネスマンの世界となることから、3(9)ー3のように転生回数が早過ぎても1(7)ー3のように遅過ぎても排除されるという、この世の厳然なルールが適用されるわけじゃな」
『しかし、排除命令によって、実際どのようなことが起こるのでしょうか?』
「それが起こる時期は人によりまちまちのようじゃが、遅かれ早かれ、病気、精神障害、事故、事件、犯罪などに巻き込まれ、最悪の場合はこの世そのものから排除されてしまうこともままある」
陰陽師の言葉を聞き、青年は息を飲む。しばらくして、重い口を開いた。
『ということは、今回の槇原敬之さんのように、再犯を起こして芸能界から排除されたのも、天の采配なのでしょうか?』
「その前に、槇原敬之さんを鑑定してみよう。少し待ちなさい」
陰陽師は小刻みに指を動かし、鑑定を始める。そして、青年が固唾を飲んで見守る中、紙に結果を書き記していく。
『やはり、槇原敬之さんの魂の属性は、芸能界向きでしたか。おや?』
鑑定結果をしばらく眺め、首を傾げながら再び青年は口を開く。
『2―3ということは、彼は芸能界からの“排除命令”が出たわけではないのですね?』
ちょっと驚いたような青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。
「少なくとも、今回の件はこの世の“排除命令”が働いたのではないようじゃな」
『ということは、今回の件は、彼の自己責任というわけなのですね』
「端的に言うとそういうことになるが、今回の再犯の要因をあえて挙げるとすれば、天命運の“5:事故/事件(加害者)”の相と“2:諸事万般”の相あたりが考えられなくはないが」
『なるほど。話が少し脱線しますが、槇原敬之さんは同性愛者の疑惑があるそうで、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3と極端に低いことから、あながち間違いではないと思うのですが』
「たしかに、恋愛運をみる限りその可能性はあながち否定できないと思うが、以前も話したように、鑑定結果の一部の数字だけで人を判断することには大きな危険を伴う」
『そうでした! 気をつけます』
罰が悪そうに答える青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいて見せる。
『では話を元に戻しますが、槇原敬之さんの場合、芸能界に復帰できるチャンスがまだあると考えてもよろしいでしょうか? 人生のアップダウンが最大値の1でもありますから、おそらく、今のパフォーマンスのままではまた何らかの事件を起こしてしまうのかも知れませんが・・・』
「もちろん、今までの芸能界の慣習に照らしてみるかぎり、彼の場合はミュージシャンなので復帰できる可能性は高いと思うが、人生のアップダウン度から推測するに、そなたの危惧はあながち的外れとは言えないじゃろうな」
『僕は槇原敬之さんの歌で励まされたこともありますので、罪を償って、なんとか復帰してもらえたらと思います』
「そうじゃな。罪を償う体験を経て、また新たな名曲が生まれないとも限らぬからのう」
弱々しく言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら答える。
『たとえばですが、芸能人を鑑定して転生回数が分かれば、今後復帰できるか否かがある程度わかるのでしょうか?』
「いつも話しているように人間は“多面体”のようなものじゃから、全体の数字を精査しないと確定的なことは言えないが、少なくとも芸能界に話を限れば、2-3-5-5…2という数字さえ持っていれば、復帰することは構造的には不可能でもないとは思うが」
『ちなみに、素朴な質問なのですが、3以外の魂はともかくとして、どうして3(9)-3-7-7や2(4)ー3-7-7では、これらの職業につけないのでしょう?』
「7-7はこの世で仕事をするのに最も適した番号ということは説明したはずじゃが、5-5の場合も、オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にするにあたりもっとも適した番号という能力の持ち主であることを表してしているわけじゃ」
「ということは、これらの業界ではおなじ3-3や2-3でも7-7の番号を持った人間は、オリンピック選手や、プロにはなれないということなのですね」
「もちろん、3-3ー7ー7や2-3ー7ー7の中にもスポーツや音楽が得意なものは大勢いる。中学のインターハイあたりで優勝したり、幼いころから数種類の楽器を弾きこなす者もいることじゃろう。しかし、高校にあがり、2年、3年生となるにつれて5-5を持った人間に追い抜かれ、結局はプロにまで行きつかないわけじゃな」
『なるほど。ということは、スポーツ選手や芸能人を鑑定すれば、7―7か5-5かという問題は当然のこととして、今後スポーツ界や芸能界から排除される運命の人物がわかるわけですね?』
「もちろんじゃ。して、だれか気になる人物がおるのかの?」
『少しお待ちください』
青年はスマートフォンを操作して気になる有名人の名前を挙げ、陰陽師は鑑定を始める。
陰陽師が書き記した結果を見、青年は驚きの声を上げた。
『なるほど。この三人は、皆3(9)−3なのですね。そして、天命運に“5:事故/事件(加害者)”の相があると・・・』
「田代まさしさんは、ちょうど音楽家として舞台に復帰しようとした矢先にこの世の“排除命令”が再び働き妨害が入り、あの事件が起きたのじゃろうな」
『よりによってそんな時期だったとは。まさに排除された感じがします』
目を見張る青年を横目に、陰陽師は続ける。
「他のふたりも含め、彼らは芸能界からの追放だけで済むのであれば、別の場所でその才を発揮して頑張るという選択肢も残されるのじゃろうが、懲りずに復帰を試みるようなことがあると、またどんな取り返しのつかない事態になるか、ワシにも想像がつかん」
『最悪、命を落とす可能性もあるのですよね?』
「もちろんじゃ」
恐る恐る言う青年に対し、陰陽師は神妙な面持ちでうなずいて見せる。
「さらに一言つけ加えておくと、天命運やチャクラの乱れによる影響があったとは言え、槇原敬之さんは自分の意思で薬物に手を出したことになる。一方、他の三人はあくまで“排除命令”によって薬物に手を出さざるを得ない状況に追い込まれた可能性が非常に高いということになるわけじゃな」
『適切な表現かはわかりませんが、田代まさしさんと清原和博さんと沢尻エリカさんは運命の被害者とでも言うことになるわけですね』
「まあ、そういうことじゃな」
『もしそうだとするなら、同じ薬物絡みの事件とは言え、同情してしまいます』
青年は重いため息をつき、再び口を開く。
『本人の才能や意志とは無関係に、時として非情な現実をもたらすのがこの世のルールだということは、今回の件でも十分に理解しました。現世利益を追求しながら生きることを否定するつもりはさらさらありませんが、自分の魂の属性を把握し、今世の役割を果たすことの大事さをあらためて再認識させられた次第です』
「一見厳しい話になるかも知れんが、この世が“修行の場”であることをしっかりと理解していれば、いつの日か、自分なりに納得のいく結論を間違いなく見つけられるはずじゃ」
暗い表情で話す青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。
青年はスマートフォンの画面を見て時計を確認し、口を開く。
『そろそろ時間ですね。本日もありがとうございました』
「うむ。気をつけて帰るのじゃぞ」
青年は深々と頭を下げて席を立ち、陰陽師は微笑みながら小さく手を振って彼を見送る。
青年は帰路の途中、神事が済んでからのことを振り返っていた。
もともと好奇心が旺盛だったために、いろんなイベントに参加していたものの、自分の天命と関係がないイベントでは得るものがほとんどなく、時間とお金を浪費してしまった実感があった。
もちろん、イベントや参加者に非があるのではなく、今日の話を聞いて、自分が関わることもよく吟味する必要があると再確認したのだった。