カテゴリー: 小説

魂には4つの種類があり、永遠の世での職責を果たすため、魂磨きの修行の場であるこの世に400回に渡る輪廻転生を繰り返している、という前提の基、この世の出来事や人物が取った行動を対話形式で解説しています。

  • 新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    青年は思議していた。

    “8:男女運”、特に“2−4色眼鏡”“逆2−4色眼鏡”によって相性が良くない異性同士が惹かれあってしまうことは納得できた。
    一方、イケメンや美女といった、ハイスペックなのに結婚していない人物や、離婚を複数回している人物や、同性愛者にも何らかの共通点があるのではないか。

    そう思い、青年は陰陽師を再び訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は前回の続きで、独身や離婚が多い人、同性愛者の共通点について教えていただけませんか?』

    「“8:男女運”の相による、異性との“縁遠さ”の話じゃな。話をするにあたり、そなたの理解度を確認するためにも、この霊障についてそなたの口から再度説明してもらうとしようかの」

    『はい。この霊障がある場合、二つの症状が考えられ、その一つは本来自分と相性の良い異性が悪く見えてしまうだけでなく、自分に相応しくない異性が良く見えてしまい、そのような異性と結婚までなだれ込んでしまうケース。もう一方のケースは、ハイスペックなのに異性との縁ができない、いわゆる、“縁遠さ”という相のことです』

    「うむ、大筋ではしっかりと理解しおるようじゃな。そして、一つだけそなたの説明にさらに言葉をつけ加えさせてもらうと、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”という。して、今回は“縁遠さ”に関しての疑問のようじゃが、誰か具体的に気になる人物はおるのかな?」

    そう訊ねる陰陽師に、青年はスマートフォンを取り出し、有名人の名前を読み上げる。
    陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、鑑定結果を書き記していく。

    ① 藤圭子さん(離婚歴7回)

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    ② 林下清志さん(ビッグダディ。離婚歴6回)

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    ③ 林下佳美さん(ビッグダディの最初の妻。6児の母)

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    ④ 美奈子さん(ビッグダディの妻。8児の母)

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    『まず、藤圭子さん(※①参照)ですが、彼女は、天命運に“8:男女運”の相があるのと、恋愛運が3で、人生のアップダウンが1と波乱万丈な人生なので、7回も離婚していることに納得です』

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせる。

    『ビッグダディさん(※②参照)は天命運に“8:男女運”の相があることと、人生のアップダウンが1と、数奇な運命を歩みやすい、転生回数が230回代ということを踏まえると、離婚の回数に納得です』

    「ちなみに、ビッグダディさんの場合、天命運“5:事故/事件”があるようじゃが、そのあたりについての情報は何かあるのかな?」

    『はい。たしか、以前に自宅を火災で全焼させていたと思います』

    陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンで事件について検索を始める。

    『やはり、そのとおりでした。その時の記事を読むと、壁の中にある電線が破損したために火災が起きたようですね。彼の過失ではないようですので、このあたりにも天命運の影響の怖さをあらためて実感します・・・』

    「たしかに、そのような理由で火災が起き、自宅を全焼させたのであれば、天命運の影響があったのは間違いないじゃろうな」

    小さく頷く陰陽師を横目で眺めながら、青年は質問を続ける。

    『ところで、ビッグダディさんと佳美さん(※③参照)は三度も離婚・再婚をしたそうですが、佳美さんも彼と同様転生回数の十の位が“30回代”ですし、人生のアップダウンが1ですから、推して知るべしといったところでしょうか』

    一度言葉を止めて首を傾げ、再び青年は口を開く。

    『また、再婚相手の美奈子さん(※④参照)は、天命運に“8:男女運”の相がありますし、恋愛運が4と低いので、結果的に離婚となったことは納得できますが、ビッグダディさんと佳美さんは共に恋愛運が8と高かったにもかかわらず、最終的には離婚しています。やはり、天命運の影響なのでしょうね』

    「そうとも考えられるが、この三人にはそれ以上に大きな共通点があるんじゃ。そなたには、それが何かわかるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年は鑑定結果を食い入るように眺める。
    自力で答えにたどり着けそうにない青年を見かねた陰陽師は、鑑定結果に印をつけ、口を開く。

    「答えは、三人とも魂の属性が4というめずらしい数字を持っておることじゃ。この4という数字を持った人物は多くの子供を育てるという使命を今世の宿題として抱えておることは“教議”にも書いてあるのじゃが」

    『・・・なるほど。そのあたりのことは、すっかり失念していました』

    ちょっとばつの悪そうな顔で頭を掻きながら、青年が言葉を続ける。

    『しかし、だからこそビッグダディさんと佳美さんは多くの子供を産み育て、美奈子さんも連れ子が多いのに彼と結婚できたのですね。魂の属性4同士でもなければ、多くの連れ子がいる相手との結婚に躊躇しそうですし、さらにまた子供を作ろうなどとは思わないですよね』

    「たしかに、そのあたりはそなたの言う通りじゃな。ビッグダディさんにしても美奈子さんにしても、子供たちを社会に出すまで面倒をみるという使命を果たすためにも、お互いの存在が必要だったのじゃろうな」

    納得の意を示すように何度も青年はうなずき、やがて口を開く。

    『ただ、佳美さんも美奈子さんも、天命運の“8:異性”の相に加えて“6:家族”の相もあることから、結果的に離婚という結果になってしまったのでしょうか?』

    「それは6をどう考えるかにもよるが、加えて、子育てや家事を通して一般女性の数倍の苦労を日々していることだけは間違いないじゃろうな」

    青年の反応に陰陽師は小さくうなずき、今度は渡辺和子とナイチンゲールの鑑定結果に印をつける。

    ⑤ 渡辺和子さん(学校法人ノートルダム清心学園理事長。故人。生涯独身)

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    ⑥ ナイチンゲールさん(故人。生涯独身)

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    「一方、渡辺和子さん(※⑤参照)とナイチンゲールさん(※⑥参照)じゃが、魂の属性が2であることから、今世の宿題として、子育て以外に果たすべき使命があったと考えるべきなのじゃろう。つまり、家庭を持ち、子供を育てるといった使命は、今世の彼女たちの宿題にはなかったわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年はあらためて二人の鑑定結果を眺める。

    『このお二人の経歴を鑑みるに、色恋沙汰にうつつを抜かす暇があるなら仕事に取り組んだ方がいいと思っていたわけですね。また、渡辺和子さんとナイチンゲールさんは、共に先祖霊の霊障と天命運の両方に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3とかなり低いところからみても、魂の属性2として生きるのに適した運気だったとも言えそうですね』

    「そうじゃな。彼女たちが何を考えて生きていたかはともかく、渡辺和子さんなぞは、坊主・シスターの大半がそうである転生回数が280回代の“3:ビジネスマン階級”であることからも、生涯未婚を貫くシスターとしての人生を自ら選んだことは想像に難くないじゃろうな」

    『そう言えば、坊主やシスターは“魂1:先導者”階級が圧倒的に多いのかと思っていましたが、かならずしもそうではないのですね。というよりも、魂1が既存/新興宗教の開祖の役割を担う一方で、二代目以降の教祖や、教団を動かす中心人物は“魂3:ビジネスマン”階級だと以前おっしゃっていた意味が、今になってようやく理解できたような気がします(※第4話参照)』

    陰陽師が首肯するのを確認し、青年は続ける。

    『また、ナイチンゲールさんは生涯3回のプロポーズを受けたもののその全て断ったらしいのですが、そのあたりの件も、自身の幸せよりも、より多くの人々に貢献する使命を彼女が優先した結果と考えても問題ないのでしょうか?』

    「彼女は転生回数の十の位が70回代の“大山”かつ“2:制服組(軍人・福祉系)”ということを考えると、結婚して家庭に入ることよりも、自ら戦場で負傷兵の看護をしたり、その経験をもとに統計学的な見地から負傷兵の死亡率を低下させるための政策提言、ひいては国民の健康増進という壮大なテーマのために一生を捧げることを望んだのじゃろうな」

    『なるほど』

    「ついでに補足しておくと、魂1が“8:男女運”、“2−4色眼鏡”の霊障を抱えた場合、魂1は2-4ではなく4−4と結ばれる可能性が極めて高くなる。さらに蛇足として付け加えるならば、4-4と結婚しない残りの魂1(先導者階級)と“魂2:制服組”階級全般は、縁遠さの影響を受け、本人の意思とは関係なく、生涯独身を通す可能性が極めて高くなるようじゃ」

    『魂の種類によって変化するのですね。とても興味深いです!』

    大きく頷きながら、青年は次の鑑定結果に目を通し始める。

    ⑦ 黒柳徹子さん(独身美女)

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    ⑧ 竹野内豊さん(独身イケメン)

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    『次は、この黒柳徹子さん(※⑦参照)です。彼女は、40年間遠距離恋愛していた外国人の男性がいたようなのですが、その男性が亡くなってしまったために独身を貫いているという説があります。このあたりの特殊な事情を考えると、彼女なんかも、天命運や何らかの霊障によって結婚を阻害されてしまったと考えるべきなのでしょうか』

    青年はスマートフォンを操作し、言葉を続ける。

    『その次の竹野内豊さん(※⑧参照)の場合も、熱愛報道のお相手が三人いましたが、すべて破局に終わっています。結婚の可能性も見えた女性もいるにはいたようですが、やはり天命運の“8:男女運”の相と恋愛運が3と極端に低いことが、今も独身でいる要因なのでしょうか?』

    「天命運の“8:男女運”の相にも、先祖霊の霊障同様、ハイスペックだが異性と縁遠いというパターンがあることから、黒柳徹子さんのケースも、竹野内豊さんのケースも、そなたの考察通り、そのあたりが影響しているのじゃろう」

    青年は納得顔で何度もうなずく。

    ⑨ マツコデラックスさん(ゲイと公表)

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    『今度は、ゲイと公表しているマツコデラックスさん(※⑨参照)ですが、LGBTの人物に何らかの共通点はあるのでしょうか? たとえば、転生回数の十の位が“30回代”の数奇な運命で、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が低い(3)などといった』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振りながら答える。

    「そなたの仮説がまったくの見当間違いとは言わんが、鑑定結果が一部の条件を満たしているからといって、それらの数字を抱えた人物がすべてLGBTとはならないことはよく理解しておくようにの」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『ただ、マツコデラックスさんの鑑定結果を鑑みるに、ゲイであることも含め、恋愛・結婚が世間一般の人々よりはハードルが高い気がしています』

    「そなたの言う通り、人類の半分を異性とすると、大多数の男女が恋愛や結婚の対象として異性に求める以上、単純な確率論で考えてみても、彼のような性向を持った人間は恋愛や結婚から縁遠くなってしまうのはしょうがないことなのかもしれんのう」

    納得顔で何度もうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで話は変わるが、2―3―5−5・・・2、つまり転生回数が第2期、“魂3:ビジネスマン階級“、OSとソフトの上段の数字が共に5、そして魂の特徴の最後の上段の数字が”2“という魂は、芸能界入りするための“入場券”であることは以前(※第5話参照)も説明したが、マツコデラックスさんのように、個性的なキャラを活かして芸能界入りする人物は、2(3)−3−5−5・・・2となることがあることも頭の片隅に入れておくようにな」

    『なるほど。大半の芸能人が2(4)つまり、転生回数の十の位が“40回代”の“小山”なのに対して、先ほどのビッグダディさんやマツコさんのように、特異な個性を持った人物の場合は例外的に2(3)となるのですね』

    「さよう。そなたは覚えておるじゃろうが、鑑定結果で2−3―5−5・・・2であることはあくまで芸能界への“入場券”であって、魂の特性に胡座をかいて努力を怠っているかぎり、芸能界に入れたとしても成功はおぼつかないことは他の職業とまったく同じじゃ」

    『天命としては芸能界入りする方向に道が開けてはいたとしても、たとえば先祖霊の霊障で“2:仕事”の相が出ていたり、育った環境によっては芸能界に進むことができない可能性もありますからね』

    黙ってうなずく陰陽師を確認し、青年は続ける。

    『結婚して子供を産み、幸せな家庭を築くことが世間では幸せとされていますが、不幸にして結婚が離婚という結果に終わったとしても本人たちがそのことを不幸と考えるとは限らないわけですし、結果的に離婚によって魂磨きの修行が進むのであれば、それはそれでいいのではないかと思います』

    「そうじゃな。結婚しさえすれば幸せになると思って結婚してみたもののうまくいかず、離婚した相手をずっと恨み続けることになったり、離婚によって子供に辛い思いをさせてしまうなどということもあるじゃろう。しかし、それもまた人生じゃ。我々の所業の可否なぞは、天寿を全うし、あの世に戻るまで誰にもわからんのじゃよ」

    陰陽師が発する言葉の重みを感じたのか、青年は一瞬たじろぎ、固唾を飲む。

    『これから鑑定を受けていただいた人々に対し、恋愛運や魂の属性を明確にすることで、世間一般の価値観に惑わされず、魂磨きの修行に励んでもらえたらと思います。結婚に拘らず、パートナーと幸せな関係を築いてもらえたらと思います。最悪、パートナーが現れなくとも、それが今世の天命だと理解し、ご自身が納得のいく人生を歩んでいただけるのであれば、それはそれでよろしいと思いますし』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。

    「うむ。魂の属性2の女性たちのように、結婚にも子供にも縁がなかった人生を辿るとしても、人の数だけ人の幸せがあるはずじゃし、仮に今世、理想の異性と巡り合えなかったしても、それ以上のやりがいを感じられる使命に人生を捧げることできるのであれば、それもまた人生じゃと、ワシも思うぞ」

    そう言うと、陰陽師は時計に目をやり、再び口を開く。

    「そろそろ時間のようじゃ。また、気になる疑問が浮かんだときには連絡を寄こしなさい。ワシで答えられることなら、何でも回答させてもらうからな。いずれにしても、気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。今日も貴重なお話をありがとうございました』

    魂の属性や恋愛運の説明をしたとことで、万人に受け入れてもらえるとは思わないが、結婚をしないという人生を含め、各人の天命に沿った様々な選択肢を一つ一つ丁寧に、粘り強く伝えていこうと思う青年だった。

  • 新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    青年は思議していた。
    先日のフジモンとユッキーナの離婚報道についてである。

    おしどり夫婦として幸せな家庭の一例となり、世間に希望を与えていただけに、衝撃的な出来事だったのではないか。離婚する夫婦には何らかの共通点があるのかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①:藤本敏史さん(フジモン)

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    ②木下優樹菜さん(ユッキーナ)

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    『先生、こんばんは。本日は恋愛や結婚について教えていただけませんか?』

    「恋愛と結婚かの。それは壮大なテーマじゃが、そのような問題を質問するにあたり、何か具体的なきっかけがあったのかの?」

    『今回は、おしどり夫婦として話題となっていた、フジモンさんとユッキーナさんの離婚報道が発端です。昨今の日本では、離婚や機能不全家族が増えているように思うのですが、この問題についてひょっとしたら何らかの共通点があるのではないか、そんな気がしてお伺いした次第です』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    「その二人(※①、②参照)は共に頭が2で“3:ビジネスマン階級”であることから、一見うまくいく要素が多いように見えるかもしれんが、逆に双方恋愛運が7であること、天命運に“8:男女運”の相があることから、結婚して関係が深まるにつれてすれ違いを自覚する機会が増えていったのじゃろう」

    青年はしばらく鑑定結果を眺めてから、口を開く。

    『僕も、先祖霊の霊障か、恋愛運の問題があるのか、はたまた天命運に8の相があると思っていましたが、他にも要因はあるのでしょうか? たとえば、その二人は共にチャクラ6のみの乱れで30%近くパフォーマンスが塞がれていますが』

    「チャクラについて少し補足すると、第6チャクラは第三の目とも言われ、“知覚する”、“知る”、“コントロールする”という意味を持つ。換言すると、“人生を正しく見ることと、思考の実現化能力”を司っており、インスピレーション・洞察力・理解力・叡智などの源泉とも言える」

    青年は真剣な表情でうなずいて見せ、陰陽師は青年の様子を横目に続ける。

    「第6チャクラが正常だと、記憶力や知的な学習能力が高まるだけでなく、論理的な思考をする左脳と、直感的な思考をする右脳のバランスがよくなり、結果脳全体を活性化することができる。逆に、異常があるとマイナス思考に陥りやすく、左脳と右脳のバランスが悪くなるため、物事全般に対する視野が狭くなりやすくなる。また、いろいろと思考を重ねているにもかかわらず、土壇場で正しい結論に達しなかったりする」

    『なるほど。離婚に至るまでにいろんな要因があったと思いますが、お子さんがお受験する際の進路を決める時に最初のすれ違いがあったようです。また、ユッキーナさんは“タピオカ恫喝事件”で炎上を招いたことから、家庭内外問わず肝心な場面で冷静さを欠いていたことが、少なからずあったのかもしれません』

    「もちろん、その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうが、二人とも“人生のアップダウン”が1と波乱万丈な人生を歩む傾向を持っていることから、離婚することも今世の宿題の範疇内と考える方が筋が通っているのかもしれんな」

    『ちなみに、恋愛運ですが、何点以下になると離婚の確率が高くなるのでしょうか?』

    「厳密に言えば、全体運との兼ね合いで総合的に勘案すべきなのじゃろうが、端的に言えば、恋愛運が7以下の者同士が結婚した場合、離婚に至る確率は極めて高くなると考えても差し支えないじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、大きく頷く青年。

    『もちろん、僕はこのふたりの直接の知り合いではありませんので、彼らがどんな人生を歩んだとしても直接何の影響もないのですが、それでも今回の離婚がお金がらみのドロドロしたものにならなかったことは、他人事ながら、よかったと思っています』

    「“他人の不幸は蜜の味”ということわざもあるが、そなたのそのような心がけは立派だと思うぞ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいて賛同の意を示す。青年は、思いがけない誉め言葉にちょっと照れながらも、質問を続けた。

    『ところで、魂1~3が魂4と結婚した場合、その結婚生活はどうなってしまうのでしょう?』

    「いつも話しておるように、人間とはいろいろの要素が集まった多面体のようなものじゃ。じゃから、魂1〜3と魂4の結婚がどうかと問われても、その一点をもって的確な返答をすることは容易なことではない。しかし、結婚が子育ても含め当事者同士の価値観のぶつかり合いという側面を有している以上、うまくいく可能性は極めて低いと言わざるを得ないじゃろうな」

    『え、そうなのですか?』

    いつもの笑みを浮かべながらそう答える陰陽師に対し、青年は顔を引きつらせながら答えた。

    「この二人のように、たとえ最終的に離婚という結論を選んだとしても、大局的見地があり論理的なベースを共有している可能性のある魂1〜3同士であれば、話し合いによって双方が納得のいく結論へ収束できる余地が残されている。しかし、夫婦のどちらかが魂4である場合、論理的な会話が成り立たない可能性が高いことから、相手に対する恨みや憎しみなどの感情に終始する結果、どれだけ慰謝料を多くふんだくるか、どうしたら相手よりも有利な条件で離婚を成立させるか、といった条件闘争になりやすい傾向は否めんじゃろうな」

    『なるほど。ただ、魂1〜3と魂4は価値観が合わないでしょうから、交際はまだしも、結婚へ進んでしまうケースはそうそうないように思いますが』

    「そう思うじゃろ?」

    眉ひとつ動かさずに笑顔で言う陰陽師に対し、青年はただならぬ気を察知してか、恐る恐る訊ねる。

    『・・・意外と多いのでしょうか?』

    陰陽師は大きく、ゆっくりとうなずいて見せる。

    「そなたも承知しているように、ワシのところには日々様々な相談が寄せられるわけじゃが、その中でも離婚相談、相性相談の比率は決して少なくない。そして、そんな何千人という男女の鑑定しているうちにわかってきたことは、先祖霊の霊障に“8:男女運”、もっと言えば霊障6~11を持つ人間は、ワシが想像していたよりもはるかに多く、が結婚してはならぬ相手と結婚しているという事実なのじゃ」

    『昨今の我が国の離婚数から考えても、今のお話はじゅうぶん納得できますが、そのようなミスマッチが増えている原因について何か心当たりはあるのでしょうか?』

    「もちろん、魂1〜3と魂4の結婚は太古には存在しなかったとまでは言わぬが、昨今のミスマッチの最大の原因は、やはり、“恋愛結婚”なのじゃろうな」

    思いがけぬ言葉に、青年はちょっと目を大きくして、問い返す。

    『結婚のあるべき姿とは、恋愛の延長にあると思っていましたが、昔はそうではなかったと?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲んでから口を開く。

    「昔をいつと規定するかにもよるが、少なくとも戦前までは、我が国では親同士が決めた結婚、あるいは近しい者からの紹介であるお見合い結婚が主流だったということができるじゃろう。また、そのような経緯で縁談が進められていたことから、結婚の前提条件も、当事者間の問題というよりも家同士の関係が重視されるという傾向が強かったことはいうまでもない」

    『魂1〜4と職業にもある程度以上の相関関係があったのでしょうから(※第4話参照)、両家の家柄や職業まで加味してしまうと、お見合い結婚では同じ属性の人物同士が結ばれやすい傾向にあったのかもしれませんね』

    「もちろん、誰をパートナーとして選び、どのような結婚をするかは当人の自由じゃし、魂1〜3が同じ人物同士で結婚するとしても、そもそも相性がよくなかったり、頭の1/2が異なっていたり、魂の属性が違っていたり、転生回数期が違う場合など、様々な要因によって問題が生じる可能性はあるわけじゃが、魂1〜3と魂4との結婚で生じる問題の大きさを考慮するかぎり、恋愛結婚による弊害は看破することのできない問題といえるじゃろうな」

    『結婚形態がお見合い結婚から恋愛結婚になったことで、結婚相手を探す入り口から誤りやすくなったのはわかりますが、霊障の影響でそんなにミスマッチが起こりやすいものなのでしょうか?』

    「“8:男女運”の霊障がどういった相か、わかっておろうな?」

    『はい。自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなる場合も該当すると記憶しています』

    青年の回答に対し、陰陽師は満足気にうなずいてから口を開く。

    「そのうちの“縁遠さ”という問題はひとまず置いておくとして、俗にいう“2−4色眼鏡”(世界に目を広げた場合は、各国の固有の属性分布によって、3-4、1-4が色眼鏡の対象になることがある)について、ちょっと説明しておくとしよう」

    陰陽師は二つの図を描きながら説明を始める。

    「“2−4色眼鏡”は、我々魂1〜3側からみると2−4の人物に惹かれるという問題となるわけじゃが、2-4側からものを考えると、魂1〜3の人物がよく見えるという“逆2−4色眼鏡”とでも呼ぶべき問題となるわけじゃな」

    『なるほど。逆もまた真なり、というわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷くと、話を続けた。

    「さらに厄介なことに、この問題は異性間のみならず、同性間にも適用されるというところにある」

    『つまり、同性間の友人関係にも影響をあたえる可能性があると』

    「それだけではなく、学生時代の同級生、職場の同僚といった社会的な人間関係にも適用されるから、なおさら厄介なんじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、思わず黙り込む青年。そんな青年を横目で見ながら、陰陽師が言葉を続けた。

    「しかし、そのあたりまで話を広げてしまうと本日の話題から離れてしまうので、話を異性間に絞るとしても、結婚が当人同士の価値観をベースとして成り立つ以上、魂のレベルの差という問題は時として結婚生活に致命的な影を落とす結果となる」

    『ということは、恋愛結婚という結婚形態は極めて危険なメカニズムということじゃないですか!』

    青年は身を乗り出し、やや興奮気味に言った。

    「さよう。いくら魂1〜3の人物が論理的なベースを共有しているといったところで、こと恋愛や結婚に関しては情に流されやすい。その結果、お互いの価値観にすれ違いがあっても、見て見ぬ振りをして結婚まで進んでしまい、さらに子供ができてしまうと、今度は子供を理由に離婚することが難しくなり、結果、機能不全家族となったりする可能性があるわけじゃから、伴侶のどちらかが異なる魂であった場合、さらに問題が大きくなることは説明するまでもない」

    『“家出少女と誘拐犯(※第14話参照)”でご説明していただいたように、両親のどちらかが魂1〜3で、どちらかが魂4の場合、親子で価値観が合わず、お子さんが辛い体験をする可能性も高くなると』

    「その通りじゃ。恋愛ではなく結婚の場合、夫婦だけでなく、生まれてくる子供の人生にまで影響をおよぼしてしまうことから、恋愛結婚が主流である昨今では、“8:男女運”の相がある場合には、その相を一日も早くに除去しておくことが望ましい」

    『霊障ですから、神事を受けるまでずっと続いてしまうのだと思いますが、その相に限って言うと、先生のクライアントの中で完全に外れるのに日数を要した最長記録はどれくらいでしょうか?』

    「・・・4年じゃな」

    『え、4年ですか?!』

    「たとえば、金運や仕事運や病気の相と違い、男女運、特に“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の問題は、いわば生活習慣病なようなものでの。霊障を祓ったからといって、その翌日から世界が変わって見えるというものではない。その依頼人の場合も、母親から“いつになったら娘の色眼鏡が外れるんですか!”と、何度も詰められたもんじゃ」

    陰陽師は遠い目をしてそう言い、青年は目を見開いて答える。

    『なるほど、この問題は審美眼を基調とした生活習慣病みたいな問題なので、時としてはかなりの期間引きずることがあるというわけですね。過去に“だめんず・うぉ~か~”という漫画がありましたが、何度もダメ男と交際してしまう人も、“8:男女運”の相の影響を受けているのでしょうか?』

    「その漫画を読んだことはないが、その可能性は高いじゃろうな。というのも、“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の霊障がある場合、結婚以前に恋愛の段階から選ぶ相手を誤っているわけじゃからな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は眉間にシワを寄せて腕を組む。

    「先ほども話したように、今世でどのような選択をするかは本人たちの自由ではあるものの、霊障による“組違い”という問題は、一つでも多く解決したいと切に願っておるものの、そもそも出会いが必然である以上、その出会い自体を得られるかどうかが、まず問題というわけじゃしな」

    『感情に関していうと、自分の感情は自分でコントロールすればいいわけですし、感情論に走りやすい魂4の言動に一喜一憂していることも生産的ではなく、同時に、天命に沿った生き方でもないと思います。そんなことをしている暇があるのであれば、もっと有益なことに時間や労力を使う方が大事だとも思いますので、幸せな家庭を築きたい人には“8:男女運”の相を早急に解消し、運命の人と出会いやすくなってもらいたいです』

    「もちろん、既に結婚、交際している人々にとっては辛い現実が立ちはだかる可能性が高いがの」

    魂4の人物と交際している魂3の友人のことが脳裏に浮かび、青年は視線を落とす。

    そんな青年の様子を見、陰陽師は励ますような口調で付け足す。

    「人物鑑定だけでは相性を判断するにあたり情報が少なすぎる。じゃから、結婚を本気で考えるような時期が来たら、そなたも早めに意中の異性との相性鑑定を依頼するようにな」

    『肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はお見合いについて考えていた。
    たとえお見合いで出会ったとしても、“8:男女運”や“10:伴侶”の相があると、結婚後に苦労し、最悪離婚するのではないか。そして、そのような問題を解決するためにも、神事を受けて霊障が解消された人同士を繋ぐ結婚相談所があると、相性が良い人々を繋ぎやすくなるかもしれない。
    そんな新たな試みを閃き、青年の表情は明るくなるのだった。

  • 新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2018年東海道新幹線殺傷事件の結末についてである。
    この事件は、無職ホームレスの男性が、無期懲役になって刑務所で一生を過ごしたいがために、計画的に新幹線の近くの座席に偶然居合わせた人物を襲ったものである。二人が重傷を負い、一人が死亡した。

    判決の結果、望んでいた通りの無期懲役となり、加害者の男性は万歳三唱をした。

    こうした無差別殺人事件はなぜ起こるのか?
    被害者となってしまう人物には、何か共通点があるのだろうか?
    青年は答えを求めるように、陰陽師の元を訪れた。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①加害者の男性
    頭2、4(7)―4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に1・2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運1、ビジネス運1、金運1、人運1、恋愛運1、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    ②死亡した被害者の男性
    頭1、3(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、1・5・6・7。
    全体運1、ビジネス運8、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ③窓際の席の隣の女性
    頭2、2(3)―2、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、6・7。
    全体運1、ビジネス運9、金運9、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ④通路を挟んで反対側に座っていた女性
    頭1、3(3)―3武将、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運3、ビジネス運9、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    『先生、こんばんは。今日はまた事件について教えていただけませんか?』

    「もちろん。で、今回はどういった事件かな?」

    青年は事件の顛末について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かしながら黙って青年の声に耳を傾ける。

    『事件が起きる背景にはいろんな事情があると思いますが、もしも事前に防ぐことができるなら、せめて関わりがある人々だけでも助けてあげられたらと思うのです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を記しながら、口を開く。

    「まず、加害者(※①参照)には先祖霊の霊障もチャクラの乱れもない。つまり、間違いなく加害者の意志で事件は起きたと思われる」

    『霊障による精神疾患がないという意味だと思いますが、だとすると、この事件は起きるべくして起こった事件なのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずき、鑑定結果を書きながら答える。

    「今度は被害者3名の共通点じゃが、みな転生回数の十の位が“30回代”であり、天命運に“5:事故/事件(人災・事故・被害者・怪我)”があった。また、全体運が1〜3とかなり低く、人運にいたっては1しかない(9点満点)」

    青年は鑑定結果を食い入るように見つめ、口を開く。

    『不運の条件が重なりに重なり、今回のような数奇な事件に引き合わされたのでしょうね・・・』

    「もちろんそうとも言えるが、話を加害者に戻すと、全体運もビジネス運も金運も1と最低値であり、しかも天命運に“1:金銭”と“2:諸事万般”の相があることから、そもそも今世の彼の人生は自力で生活することそのものが困難だったはずじゃから、被害者の3名と巡り合わなくても、遅かれ早かれ別の形で無差別殺傷事件を起こしていた可能性が高いのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に目を見張り、青年は驚きの声をあげる。

    『加害者がホームレスで無職だったことは納得ですが、生活保護を申請したとしても、運気が塞がれていた影響で通らなかったのかもしれませんね』

    「というよりも、彼の選択肢の中では、生活保護よりもこのような形で生きる糧を確保する方が合っていたのじゃろう。いくら魂が4で、転生期間も第4期だったとは言え、“70回台”と“大山”にいるわけじゃからな」

    そんな陰陽師の説明に、青年は暗い表情で顔を伏せ、ため息をつく。

    「ところで、登場人物の属性分析は分析として、今回の事件、そなた自身はどのような印象を持っておるのかの?」

    陰陽師の言葉に青年は顔を上げ、腕を組んでしばらく黙考する。
    励ますような陰陽師の笑みを確認し、やがて青年は重い口を開いた。

    『加害者が無期懲役を望んで今回の事件を起こしたとするなら、それを叶えずに死刑にすることは一理あると思います。昨今の我が国の経済事情を考えると、今回の判決によって、刑務所に入りたいがために犯行に及ぶ新たな人間が現れないとも限らない気がしますので』

    青年の言葉を聞き、続きを促すように陰陽師は黙ってうなずく。

    『もちろん、刑務所での生活が加害者にとって安楽なものでなく、反省し、改心できる環境なのであれば、話は別かもしれません。あるいは、特別に過酷な労働環境に身を置かせることなど、加害者の望みが叶わないような特別な対応ができるのであれば、被害者や遺族の方々も納得しやすいのではないかと思います』

    「たしかに、そなたが考えるように、加害者の甘い希望を打ち砕くというのも一つの解決方法ではあるかもしれんな」

    陰陽師が、小さく頷いた。

    「ところで、ネットでは、この事件にたいしてどのようなコメントが上がっているじゃろう?」

    陰陽師に訊ねかけられ、青年は早速スマートフォンを操作し始める。

    《コメント(1)》
    希望通りの生活は刑務所にはないと思う。
    事の重大さが分からないまま死刑になるよりキツい判決かもしれない。
    そんなに簡単に“ラク”にさせるのも違う気がした。
    生きるのが嫌な人を死刑にするなら、執行は20年後くらいにして欲しい。

    ※頭1、2(3)−3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14の相。チャクラ5・6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(2)》
    普通の神経の持ち主なら、懲役などの刑事罰は受けたくない。
    だが、こう願ったり叶ったりになってしまうのは別の罰を与えられないだろうか。
    無期懲役になったらその先はみんな一緒ではあまりに被害者や遺族が不憫。

    ※頭1、3(4)―3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラ6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(3)》
    犯人を責めるのは簡単だし、犯人はもちろん罪を償わなければならない。
    だが、青年が“犯人にならざるをえなかったこと”が現代の闇かもしれない。

    ※頭1、3(3)―3武士、魂の属性3(先祖霊の霊障に6〜15の相)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ2〜7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(4)》
    どうしてこんな人を税金で養わなければならないのか?
    判例が、前例が、で死刑にできないなら裁判官を辞めてほしい
    判例に基づくならAIに任せればいい

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    以下、コメント(4)に対して
    《コメント(5)》
    死刑じゃ生温い。もっと税金使って日々拷問して公開してほしい。
    今後の抑止にもなる。

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    《コメント(6)》
    判決を出すには理由づけが必要。
    その理由だって裁判官の経験則に基づいたものでなければいけないから、たとえ裁判官本人が死刑にしたかったとしても、前例がなければできないなんてこともある。
    他にもツッコミどころがありますが、司法がそんな簡単に務まる物じゃ無いことは知っておいた方がいい

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    青年がコメントを読み上げるのに合わせ、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。
    一通り書き終えると、陰陽師は口を開いた。

    「まず、コメント1〜3は魂3で、4〜6は魂4の人間のコメントじゃな」

    『なるほど。前半と後半とで印象が異なるコメントを抜粋しましたが、やはり分かれましたか』

    陰陽師が黙ってうなずくのを確認し、青年は続ける。

    『コメント1〜3は判決の結果に捉われず、この判決結果がおよぼすであろう世間への影響や遺族のことを考え、事件が起きたそもそもの背景に注目していることから、魂3ということに納得しました』

    「また、三人ともが頭が1、というのも特徴的じゃな」

    『コメント4は、問題の論点をすり替えただけで、コメント5は新たな考えを提案しているかと思いきや、結局は死刑に相当するような苦痛を与えたいという感情論に終始している感じがします。コメント6は大局的見地から発言している印象を受けましたが、知識を用いてコメント4に対して上から目線で接したいだけの印象なので、魂4だということに納得です』

    「なるほど。いつの間にか、コメントからそなたなりの見立てができるようになったようじゃな」

    微笑みながらうなずく陰陽師に対し、青年ははにかみながら小さく頭を下げる。

    『全体的に死刑に賛成する声が多かったのですが、判決結果のみに言及していたコメントは魂4だと予想し、抜粋しませんでした』

    「この世の基準、例えば望みが叶うことが幸福、望みが叶わないことが不幸という二極的な視点で考えれば、加害者の望みを叶えない死刑の方が判決として妥当、という声が多いことはある意味当然の帰結じゃろう」

    陰陽師の言葉に青年は黙ってうなずき、続きを待つ。

    「しかしながら、“この世は魂磨きのための修行の場”という前提を踏まえ、生きたまま罪を償いつつ、魂の修行を続けさせることも選択肢の一つとして考えてみてもいいのじゃろうな」

    『死んだことがないのでなんとも言えませんが、この世の時間の流れであれば、死の苦痛は一瞬なのではないかと思います。反省を促すという意味であれば、先生がおっしゃる通り、生きてもらう方が理にかなっている気がします』

    陰陽師は加害者の鑑定結果にラインを引き、口を開く。

    「人間である以上、感情的になって、罪を犯した人間に何らかの罰を与えたいと思うのはもっともなことではあるが、特定の人物に対して恨み辛みを持ち続けることは執着に繋がり、天命から外れる一因にもなりかねん」

    『なるほど。色々と思うことはありますが、加害者に対して長く憎しみの念を抱くよりは、生きられていることに感謝し、天命を全うする努力をする方が幸せなのかもしれませんね』

    力強い眼差しで青年はうなずき、陰陽師は満足そうに微笑む。

    『鑑定結果で“5:事故/事件”の相がある人が今回のような事故・事件に巻き込まれて地縛霊化しないよう、ご縁があった時はよく話してみようと思います』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしてから口を開く。

    「ちなみにじゃが、今回の事件で命を落とした被害者の男性は、無事にあの世に帰還しておるからな」

    意外な回答に、青年は目を見開きながら答える。

    『そうなのですか? 僕はてっきりこの世に未練を残し、地縛霊化しているのかと思っていました』

    青年の反応に対し、陰陽師は小さく笑って答える。

    「臨終の際に未練があるかないかは当人次第じゃ。第三者的に見て、志半ばで命を落としたり、この世をはかなみ自殺したからと言って、地縛霊化しているとは限らんのじゃよ」

    『なるほど・・・』

    「逆に、例えば聖路加国際病院の元院長、日野原重明氏のように、未来日記を何年も先まで書いてやりたいことをたくさん持っていたりすると、それが執着になって地縛霊化してしまうこともある」

    『105歳まで生きたあの医師が! 未来日記を書くとは、生前はずいぶんと前向きな人物だったと思うのですが、そうした人物であっても、死ぬ瞬間にこの世に思いを残していると地縛霊化するのですね・・・』

    「さよう。やりたいことや目標をもつことは大事じゃが、それが執着にならないようにそなたも気をつけるのじゃぞ」

    『はい。僕は神事のおかげでパフォーマンスが100%になっているので、死ぬ時は天命を全うしたのだと思って潔く受け入れます』

    「その意気じゃ。病や事件、戦争などをこの世からなくし、“地上天国”を目指すことこそがこの世の目標と考えている人物は少なくないと思うが、魂の修行という意味では、一見悪と思える所業も特定の人間にとっては必要だったりすることもあるわけじゃしな」

    『必要悪という言葉があるように、この世から病や戦争をなくすことはできないのだと薄々感じていましたが、先生の言葉を聞いてそのあたりのことは納得しました。とは言え、少なくとも僕はそれらに巻き込まれて無意味に命を落としたくないので、神事を受け、“この世とあの世の仕組み”について色々と勉強させていただくことができて、本当によかったと思っています。今であれば、不慮の死に直面したとしても、この世に無用な想いを残さず、心静かにあの世に戻ることができるような気がします。もちろん、その時になってみなければ、実際はわかりませんが』

    そんな青年らしい率直な言葉に、陰陽師はおかしそうに笑いながら、言葉をつけ加えた。

    「出会いは必然じゃとしても、当時のそなたにとっては、文字通り、“清水の舞台から飛び降りるような”英断じゃったな」

    出会った頃の青年の様子を思い出し、陰陽師は体を揺らして笑う。
    青年は過去の自分を振り返り、いろんな感情を噛み締めてゆっくりうなずいて見せる。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。運気的に事故や事件に遭う可能性は低いとは言え、みずから危険な状況に首を突っ込まないようにします』

    陰陽師は笑いながら片手を上げて挨拶をし、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    帰り道、青年は10歳の時に二度死にかけたこと、すんでのところで交通事故に遭いそうになったことを思い出した。もしも自分に“5:事故・事件”の相があったら、そう思うと青年は背筋がゾッとし、今も生きていることに対する感謝へ置換して一歩一歩確かな足取りで歩むのだった。

  • 新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    青年は思議していた。

    過去に神社の相性があると聞いたが、その相性は何によって決まるのだろうか?
    人物に頭の1/2の区別があるのと同様、神社仏閣にも1/2があるのかもしれない。だが、一人で考えてもわかるはずがなく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は神社仏閣について教えていただけませんか?』

    「一口に神社仏閣といっても、語り尽くせないほどのテーマがあるわけじゃから、とりあえずどういったことを知りたいのか手短に教えてもらえるかの?」

    『簡潔に言うと、神社仏閣と人間の相性についてです。人物の頭に1/2の別が存在する以上神社仏閣にも1/2の別があるのでしょうか?』

    「もちろん、神社仏閣にも1/2の別は存在する。また、その区別は誰が主祭神であるかによって決まるわけじゃが、人間との相性の良し悪しは、各人の1/2と一緒と考えて問題ない」

    『ということは、“農耕民族の末裔”である頭が1の人物は、豊作祈願を謳っている神社と相性が良く、“狩猟民族の末裔”である頭が2の人物は、合格祈願や必勝祈願といった獲物、現代で言う目標達成を謳っている神社と相性が良いのですね?』

    陰陽師は小さくため息をつき、口を開く。

    「なるほど。そのあたりから説明する必要があるわけじゃな」

    『いつもながら不勉強で恐縮です』

    青年は頭を下げ、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「まずは前提として、“カミ”とは感謝をする対象であり、衆生の“私利私欲”に満ちた願い事をする対象ではないということは前にも話をした通りじゃ」

    『不可思議の世界にいる神の価値観と、思議の世界に生きる我々の価値判断は、往々にして一致しないというお話しだったと思いますが』

    「うむ、その通りじゃ。我々人間の価値判断からすると不幸な出来事も、実は更なる幸福の前兆であったり、我々が考える幸福の実現が、実は大きな不幸の序章だったりという具合にの」

    『はい、そのように記憶しています』

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「また、それ以前の問題として、本物の神様は衆生の私利私欲に満ちた願い事なぞには耳を貸さず、願い事を聞くのは、神の使い走りである眷族であるという話もちゃんと覚えておろうな?(※第15話参照)」

    『はい。眷属は願いを聞いてくれる反面、必ず何らかの代償を求めるのでしたよね』

    青年の言葉に、陰陽師は首肯して答える。

    「さよう。つまり、相性の良し悪しにかかわらず、神社仏閣で願い事をするのは控えるべき、というのが神社参拝の大原則となる」

    『肝に銘じておきます』

    「さらに話を元に戻すと、“カミ”の起源はメソポタミア文明にまで遡るのじゃが、そこまで話すには時間が足りぬ。よって、今回は日本の神社仏閣に絞って説明しようと思うが、そなたは日本の神々について、どの程度の知識があるのかな?」

    首を傾げ、しばらく黙ったのちに青年は答える。

    『“古事記”や“日本書紀”で、イザナギとイザナミの夫婦神が日本を作った場面からなら、話についていけるかとは思いますが・・・』

    「つまりは“天地開闢”(てんちかいびゃく)の部分からであれば、それなりの知識があるというわけじゃな」

    青年は黙ってうなずく。開闢という言葉は聞き慣れないが、天地創造と脳内補完したのだろう。

    「であれば聞くが、そなたは“記紀”(古事記と日本書紀)の中身がすべて真実じゃと思っておるのかな?」

    『大昔の話なのでその真偽をすべて確認することはできないと思いますが、大部分が真実であると思います』

    罰が悪そうに言う青年。陰陽師は励ますような笑みを浮かべて答える。

    「そなたの言うように“記紀”の中身がすべて間違っているということは、もちろんない。しかし、記紀の神話部分に話を限って話をするとすれば、真実を伝えているとは言い難い」

    『しかし』

    眼を大きくして聞き返す青年。

    『どのあたりが、真実ではないのでしょうか』

    「決定的な問題は、そのすべてが日本国内の歴史ではなく、天皇家を中心とした祖先たちが日本にたどり着く過程を神話仕立ての“物語”にしたものというところじゃな」

    『ということは、記紀の神話部分とは、国内の出来事ではなく、我々の先祖たちがメソポタミアから日本に辿り着くまでの壮大な歴史の集大成であって、決して日本固有の歴史を描いたものではないとおっしゃるのですね』

    意外な展開にちょっと目を大きくする青年に、陰陽師は首肯して答える。

    「その通りじゃ。日本人が世界に散らばって血が薄まったという話を耳にするが、むしろ実相はその逆で、メソポタミアやエジプト、古代インドにおった人間たちが陸路海路を使い、日本列島に到着した壮大な物語が記紀の神話部分というわけじゃな。そして様々な地域を経由する途中で様々な血が混じり、今の日本人ができたというわけじゃ」

    『つまり、日本人こそ、究極の混血民族だと」

    納得顔で何度もうなずく青年。陰陽師は湯呑みに注がれたお茶を一口のみ、口を開く。

    「さて、天地創造、国生みの話に補足をすると、伊邪那岐尊(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の前に国之常立神(クニノトコタチノカミ)と呼ばれる神々がおることは理解しておるかな?」

    『いえ、それらの神々については知りませんでした』

    青年は目を見張って答える。陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「“天地開闢”、つまり天地創造の最初に現れたとされているのが天之御中主神(アメノミナカヌシ)と高御産巣日神(タカミムスビ)と神産巣日神(カミムスビ)の造化三神じゃ」

    青年はカタカナで名前を速記していく。神様の名前の漢字って難しいよね!

    「ちなみに頭の1/2を説明しておくと、天之御中主神は1、高御産巣日神と神産巣日神は2となる」

    『全員が1ではなく、逆に2の方が多いのですね。地球の魂の比率で頭2の方が多いことと何か関連があるのでしょうか?』

    「彼らも我々の祖先であるわけじゃから、そう考えることもできるじゃろうな」

    陰陽師は首肯して、先を続ける。

    「今までに登場した神々の1/2の別をみていくと、国常立神が1、その後に登場する伊邪那岐尊は1、伊邪那美命は2。そして、伊邪那岐尊の右目から誕生した天照大神(アマテルオオミカミ)が1、左目から誕生した月読命(ツクヨミノミコト)が2、そして鼻から誕生した須佐之男命(スサノオノミコト)が2となる」
    黙ってうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「日本の神話の大元に近い神々の1/2がわかったことから、今度は日本中にある神社仏閣に話を移すが、まず大前提として理解しておくべきポイントは、同一の神社であったとしても、1/2が分かれることがあるという問題じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「日本の神社は、大きく分けると二つの系統となるが、それについては知っておろうな?」

    青年は黙って一点を見つめ、おもむろに口を開く。

    『伊勢神宮系と出雲大社系ということでしょうか?』

    「さよう。天孫系の伊勢神宮の内宮は天照大神(外宮は豊受大神1)を主神としているから1、国を譲った国津神系の須佐之男命、その子孫で出雲大社の祭神である大国主大神、そして大国主の次男で諏訪大社の祭神である建御名方富命(たけみなかたとみのみこと)が2であることから、それらの神々を祭神としている神社もすべてが2、というのが基本的な分類となる。各々の分社/末社も基本的に主神が同じであることから、以下同文と考えてよい」

    『基本的ということは、例外もあるわけなのですね?』

    「その通りじゃ」

    青年の質問に、陰陽師が首肯する。

    「稲荷神社と八幡宮を例に取ってそのあたりのことを説明すると、次の様になる」

    『稲荷神社は、赤い鳥居とおキツネ様がいるあの神社のことですね』

    青年の回答に小さく頷くと、陰陽師が言葉を続けた。

    「たしかにその通りじゃが、おぬしはあそこの神様が誰か知っておるか?」

    『稲荷神社を分霊した祠によく祀られている、陶器のおキツネ様ではないのでしょうか』

    「なるほど。おぬしでもそのくらいの認識なのじゃな」

    陰陽師が、小さく首を左右に振りながら、ため息をつく。

    『え、違うのですか? 稲荷神社の神様は、おキツネ様ではないと?」

    「稲荷神社の主祭神は、宇迦之御魂神(ウカノミタマ) という女の神様じゃ」

    『え、そうなのですか。初めて聞きました。で、その神様はどのような由来の神様なのでしょう?』

    「由来については諸説ある。たとえば、古事記によると、須佐之男命(スサノオノミコト)と神大市比売命(カムオオイチヒメ)の御子として、兄の大年神(オオトシノカミ)とともに生まれたと記されておる。一方、日本書紀では倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)と表記され、国生みに際して伊邪那美神(イザナミノミコト)から生まれた粟島と同神じゃと考えられておる」

    『なるほど』

    「ただし、稲荷神社の主祭神としてウカノミタマが文献に登場するのは室町時代以降のことで、伊勢神宮ではそれより早くから、御倉神(ミクラノカミ)として祀られておったことから、伊勢神宮外宮の祭神である豊受大神と同神とする説も根強い。さらには、日本書紀において、神武天皇が戦場で祭祀をした際に、供物の干飯に厳稲魂女(イツノウカノメ)という神名をつけたとあって、本居宣長などは“古事記伝”で、この神こそがウカノミタマだと言っておる」

    「ウカノミタマは宇迦之御魂神と倉稲魂命と二つの漢字名があるのですね。ややこしい・・・。それで、先生は、どの説が正しいとお考えですか?」

    「今の登場した神々を列挙すると、須佐之男命(スサノオノミコト)、神大市比売命(カムオオイチヒメ)、大年神(おおとしのかみ)、伊邪那美神(イザナミノミコト)は2となり、倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)、豊受大神、厳稲魂女(イツノウカノメ)がそれぞれ1となる。それ故、ワシがみる限り、稲荷神社の主神はあくまでも、女神で1なので、宇迦之御魂神は後者の神々の集合体ということになるな」

    『なるほど。そして、稲荷神社は1の神社だと』

    「ところが、話はそう単純ではなく、少なくとも現在の伏見稲荷を中心とした稲荷神社はすべて2となる」

    『え、そうなのですか?』

    納得がいかないという顔をしている青年に、陰陽師は話を続けた。

    「おぬしも神様だと思っておったおキツネ様じゃが、あのような存在のことを眷族と呼ぶことは以前に説明した通りじゃが、眷属とは、本来、神の使者を意味し、その多くは神と関連する想像上の動物を含めた動物の姿を持っておるのじゃが、神道では、蛇や狐、龍などがそれにあたる。また、彼らには神の意志を伝えることがあるため、神使と呼ばれたりもしておるが、いずれにしても、人間を越える力を持つため、“眷属神”と呼ばれ、眷属神そのものを祀る神社まで存在しておる」

    『なるほど』

    「さらに、大乗仏典では、仏に対する様々な菩薩などを指すこともあり、薬師仏における十二神将や不動明王の八大童子、千手観音の二十八部衆なども、眷族ということができるわけじゃな。日本では本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)の発生とともに日本古来の神祇が仏や菩薩として再編され、本地仏を持つ親神と大きな神格に付属する小さな神格である眷属神に分類したわけじゃな。代表的なものとしては、王子神社などが有名じゃ」

    陰陽師の解説に、大きく頷く青年。

    『話を聞く限り、眷属を祀っている神社は多そうですね』

    「うむ。その中でもキツネを眷族とする稲荷神社と、龍を眷族とする諏訪大社がその双璧じゃろうな」

    「了解しました」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続けた。

    「さて、今度は八幡宮に話は移るが、八幡宮は全国に4400社もあり、総本社は宇佐神宮1となっておる」

    『4400も! どおりで、いろんな土地で八幡宮の名前を見かけるわけですね』

    「また、宇佐神宮は石清水八幡宮・筥崎宮(または鶴岡八幡宮)とともに日本三大八幡宮の一つとされており、神仏分離以前は神宮寺の弥勒寺と一体のものとして、正式には宇佐八幡宮弥勒寺と称していた。現在でも通称として宇佐八幡とも呼ばれる」

    『話の流れから察するに、同じ八幡宮というくくりであっても、主祭神によって1/2が異なるのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、紙に主祭神の名前と1/2を記していく。

    宇佐神宮1
    一之御殿:八幡大神 2(はちまんおおかみ) – 誉田別尊2(応神天皇)とする
    二之御殿:比売大神 1(ひめのおおかみ) – 宗像三女神1(多岐津姫命・市杵島姫命・多紀理姫命)とする
    三之御殿:神功皇后 2(じんぐうこうごう) – 別名として息長足姫命2ともいう

    しばらく紙を黙読したのち、青年は口を開く。

    『二之御殿だけ1ですが、これは主祭神が比売大神1だからでしょうか?』

    「さよう。よって、全国的に比売大神1のいない八幡神社の末社の中には2の神社が存在するわけじゃな」

    『なるほど。ですが、メインと思われる一之御殿の主祭神は2なのに、どうして宇佐神宮全体は1なのでしょうか?』

    「そのあたりの話を始めると長くなるので今回は割愛させてもらうが、このあたりに記紀がかならずしも史実を伝えているわけではないことが垣間見えるわけじゃな」

    青年は腕を組み、唸り声をあげた。

    「ちなみに、応神天皇は神功皇后の息子と言われておるが、両者は共に実在しないとも言われており、詳細は以下のようになっておる」

    神宮皇后2(成務天皇40年 – 神功皇后69年4月17日)は、日本の第14代天皇である仲哀天皇の、皇后。

    初めての摂政(在位:神功皇后元年10月2日 – 神功皇后69年4月17日)とされる。
    さらに明治時代までは一部史書で第15代天皇、初の女帝(女性天皇)とされたが、大正15年の皇統譜より正式に歴代天皇から外された。

    『日本書紀』では仲哀天皇崩御から応神天皇即位まで約70年間ヤマト王権に君臨したとするが、その約70年間は天皇不在ということになるが、実際には実在しない。また、父は開化天皇玄孫・息長宿禰王で、母は渡来人の新羅王子天日矛(あめのひぼこ)裔・葛城高顙媛。

    仲哀天皇2年、1月に立后。天皇の熊襲征伐に随伴する。仲哀天皇9年2月の天皇崩御に際して遺志を継ぎ、3月に熊襲征伐を達成する。同年10月、海を越えて新羅へ攻め込み百済、高麗をも服属させる(三韓征伐)。12月、天皇の遺児である誉田別尊を出産。翌年、誉田別尊の異母兄である香坂皇子、忍熊皇子を退けて凱旋帰国。この2皇子の母は仲哀天皇の正妻であり、神功はクーデターを起こしたことになる。

    クーデターの成功により神功は皇太后摂政となり、誉田別尊を太子とした。誉田別尊が即位するまで政事を執り行い聖母(しょうも)とも呼ばれる。一部の史書では第15代天皇で初の女帝とされている。摂政69年目に崩御。要は、スサノオノミコト同様、(存在したとしても)朝鮮人(を何等か脚色した人物)と思われる。
    なお、朝鮮側の史書には、このような記述は一切存在しない。

    その息子の誉田別尊2は、応神天皇と同一とされる。また早くから神仏習合がなり、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)と称され、神社内に神宮寺が作られた。

    『神功皇后も須佐之男命も、過去に実在した朝鮮からの渡来人の誰か、という一面を持っているのですか? 神様として別次元の存在かと思っていましたが、地球人の祖先として捉えると、なんだか親近感が湧いてきます』

    目を見張る青年を見、陰陽師は笑いながら口を開く。

    「先ほども言ったように、大昔のメソポタミアから始まる話なわけじゃから、ベースは我々と同じ人間なのじゃよ」

    『と言うことは、神話の中には奇跡を起こすような話がありますが、あれも実際に人間がやっていたのでしょうか?』

    「ああいった話はワシから言わせれば漫画の話であって、過去の人物を権威づけるために後世の人間が捏造/誇張したと考えた方が実相に沿っておるじゃろうな」

    小さく笑いながら言う陰陽師に対し、青年は納得顔で何度もうなずく。

    『いろんな国の神話において、神様も人間臭い一面があるなあと思っていましたが、結局はいわゆる神様ではなく、我々と同じ人間だったのですね』

    崇めていた存在が自分たちと同じ人間だと知った途端、神様への扱いが少し雑になる青年だった。
    陰陽師は湯呑みに注がれていたお茶を一口飲んでから、再び口を開く。

    「同じ理由で、八坂神社にも注意が必要じゃ。八坂神社はもともと “牛頭天神社”や“祇園天神社”と呼ばれており、主祭神を中の座が牛頭天王1、東の座が八王子1、西の座が頗梨采女(はりさいにょ・ばりうねめ)1としていたのじゃが、明治元年の神仏分離令によって須佐之男命2とその妻、櫛名田比売(クシナダヒメ)2とその子供たちである“八柱御子神”2に変わってしまったわけなのじゃよ」

    『その場合、主祭神が2に変わったわけですから、八坂神社も2になるのでしょうか?』

    青年は首をかしげながら言い、陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「このあたりは神々の力関係の問題となるのじゃろうが、少なくとも八坂神社の場合は、主祭神が変わっても、変わらず1のままとなる。末社である疫神社の祭神は蘇民将来となっているものの、大きな意味では、昔と変わらず牛頭天王が祀られておるわけじゃな」

    『人間の事情で主祭神を変えたとしても、末社とはいえ、元々の主祭神がいるかぎり1/2が変わらない場合も存在すると』

    青年は何度もうなずいて納得の意を示し、続ける。

    『それにしても、牛頭天王から須佐之男命というように、なぜ1/2が異なる神が主祭神になってしまったのでしょうか?』

    「一見、その二神は関係がないように思えるが、実はそうではない。この神社の伝説として、高句麗から伊利之(いりし)という人物が使節として来日するにあたり、新羅の牛頭山から須佐之男命を勧請したという逸話が残されている」

    『そうした逸話も根拠の一つとして、先ほどの須佐之男命が朝鮮人としての一面を持っていると言えるのですね!』

    興奮気味に言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他にも、この疫神社の主祭神は蘇民将来となっておるが、そなたは“蘇民将来”の伝説を知っておるかな?」

    軽く引きつった笑みを浮かべながら、青年は首を横に振る。青年の様子を見、陰陽師は小さくため息をついてから説明する。

    「蘇民将来の一般的な伝説によると、北の海にいる武塔天神という神様が、南の海にいる女性と結婚するために旅をする途中で、将来の兄である巨旦将来に宿を乞うたところ、彼は裕福であったにもかかわらず、宿を貸すことを拒んだ。一方、弟の将来の方は、貧しかったにも関わらず、武塔天神を歓待すると、できるかぎりの饗応をした。それをよろこんだ武塔天神は、数年後、八人の子供を連れてふたたび蘇民将来の家を訪ね、“恩返し”として、蘇民の家族の腰に茅の輪をつけさせたのだが、その晩激しい疫病があたりを襲い、蘇民将来の家族以外の者はみんな死んでしまう。その翌日、武塔天神は“我はスサノオなり”と名乗るとともに、“これからも疫病が発生した際には、我らは蘇民将来の子孫である、と名乗ったうえで、腰に茅の輪をつければ決して病気になることはない”、と言い残したそうじゃ」

    『さすがにそれは創作のような印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょうか?』

    「今の話は、“備後国風土記・逸文”という書物に載っており、面白いことに、“この話は祇園社の本縁である”、つまり、いくつかある同じような縁起の中で一番真実を伝えているものだ、という説明までされているのじゃよ」

    『となると、だいぶ信憑性がありそうですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、説明を続ける。

    「また、東北大学に“祇園牛頭天王御縁起”という文書が所蔵されており、そこではスサノオではなく牛頭天王が主人公となっているだけで、先ほどの内容とほぼ同じじゃ」

    『それで、須佐之男命と牛頭天王はほぼ同じ存在とみなされ、八坂神社で新旧主祭神として扱われている理由はわかりましたが、他にも1/2が異なる神が混ざってしまったケースはあるのでしょうか?』

    眉間にシワを寄せて答える青年。陰陽師はかすかに目を伏せ、口を開く。

    「そのあたりの問題は、“竹内文書”等の偽書含め、記紀の記実に改竄があったり、社歴に捏造があったことから、大いに考えられる。さらに言うと、“記紀”が真っ赤な偽物であること、たとえば猿田彦(これは個人の名前ではなく世襲名)が長い時間をかけて北九州(博多)から、出雲、そして伊勢・熊野(一部千葉・茨木)へと転々と場所を変える過程で、そもそもの(現在の神社の主神の説明とはまったく関係ない)地元の神を蹴散らしたり、習合したり、後から追いかけてきた他の勢力の神々と習合したこと、あるいは末社を全国に広げていく過程で先住民(もちろんシルクロードを渡ってきた渡来人の)神々・先祖と習合したことも考えると、なかなか深刻と言えよう」

    『なるほど。勝者が歴史を作ると言われるように、やはり、時々の為政者の都合で歴史が改竄されたなどということもあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。平安時代から江戸・明治に至る神仏習合・廃仏毀釈のどさくさ等で、当時の権力者たちによって、幾多の改竄がなされたという可能性は大いに考えられるじゃろうな」

    『そうした改竄が起こると、どのような問題が起きるのでしょうか?』

    「それに関して説明するにあたり、少し話が変わるが、そなたは人間が善悪を判断する時、何を基準にしているか知っておるかな?」

    青年は腕を組んでしばらく考えたのち、口を開く。

    『法律でしょうか?』

    「もちろん法律もそうじゃろう。加えて、道徳も善悪の重要な基準となることじゃろう。が、そのどちらもが過去の“先例”を基に決定される以上、“歴史”こそが決定的な価値判断の基準となるのじゃ。別の言い方をすると、政治家たちが歴史に“原因と結果の法則”を求めたり、宗教家が“神の教訓と導き”を求めるといったように、歴史とは過去の教訓によって現在と未来を導くものなのじゃ。それ故、“歴史を失う”、“歴史を捏造する”ということは、価値の体系を偽造することになり、神の意志、さらには特定の神の素性をも変えてしまうことにもなりかねないわけじゃな」

    『ご利益があるなら神様が混在したくらいで大した事はない、とも考えることもできますが、改竄が及ぼす影響を考えると、そのあたりは決して蔑(ないがし)ろにすることのできない重大な問題なわけですね。先生とお会いしていなければ、正しい歴史を知ることはできなかったと思います』

    そう言い、青年は深く頭を下げた。陰陽師は微笑みながらうなずいて答える。

    「そなたのように、正しい歴史を知る人が増えることはワシにとってもうれしいことじゃ」

    青年は再び小さく頭を下げ、口を開く。

    『話が戻ってしまいますが、友人や家族と初詣に行くなど、自分と相性がよくない場所へ参拝せざるを得ない場合はどうしたらいいのでしょうか?』

    「そのようなケースは、感謝や拝むといったことは一切せず、あくまで神社仏閣を歴史的な建造物として楽しむことじゃ」

    『なるほど。建物の歴史や自然の美しさに注目すればいいと』

    「パワースポットと話題になっているから、インスタ映えするから、良縁が欲しいからといった理由で参拝するのは個人の自由じゃが、頭の数字が違う神社仏閣を選んでしまうと、むしろ運気が下がってしまう可能性が高いから、そのあたりにはじゅうぶん気をつけてな。というのも、シュメールの時代から、頭1の農耕民族の土地を頭2の狩猟民族が襲撃する、という歴史が繰り返されてきたわけじゃから、頭1の人物が2の神社仏閣に参拝するということは、農耕民族が狩猟民族の拠点をわざわざ襲撃されに行くようなものと考えた方がいいじゃろうな」

    青年は両手を上げ、苦笑する。そんな青年の様子を見、陰陽師も小さく笑う。

    『ところで、お札やお守りはグッズの霊障(※第15話参照)が憑きやすいとのことでしたから、その手のものはできることであれば買わない方がいいのでしょうか?』

    「そうは言っても親御さんや友人がプレゼントすることもあるじゃろうから、そのあたりは難しい問題じゃな」

    『キーホルダーやアクセサリーの一つみたいな軽い感覚で扱っても駄目なのでしょうか?』

    「そのあたりがギリギリの線なのじゃろうな。ただし、それらをコレクションにしたりしておると、それらがさらなる霊障を集め、結果、部屋にある一般の品々にも霊障が憑く可能性が極めて高くなるので、できることであれば、それらを身の回りに置かぬ方がいいのではあるが」

    淡々と話す陰陽師に対し、青年は表情をひきつらせながら口を開く。

    『おっしゃるとおり、どんどん運気が落ちていきそうですね。だから、お札やお守りは毎年新年に旧年のものを納める風習があるのでしょうか?』

    「たしかに、そういった面もあるじゃろうが、所有者が自分の念に気をつけていたとしても、他者から様々な念を拾ったりしていると一年経たずにそれらが霊障の巣となることもあるから、注意が必要じゃし、いつも話しておるように、霊障に距離は関係がないので、祓いもせずに霊障を持ったグッズを捨てたりすると、それが思わぬ形で帰ってくることがあるから、合わせて注意が必要じゃろうな」

    『なるほど。これからは、お札やお守りを納める前に、霊障が憑いていないか鑑定を依頼するようにします。霊障が憑いていたのに処分してしまって、さらに増幅して戻ってこられてはたまったものではありませんで・・・』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうにうなずいてから、口を開く。

    「あとは、霊媒体質のスコアが高い人物は、参拝客の人混みに紛れるだけで心身が不調になりやすいことから、特に初詣などは参拝客が少なくなってからするようにの」

    『そうですね。初詣は年が明けてから最初の参拝のことを言うようですし、半月ほど経って参拝客が減ってからでもいいわけですからね』

    「それがよかろう。さて」

    陰陽師は時計を見、青年もスマートフォンで時刻を確認する。

    『あっという間に終電に近い時間になってしまいました。本日も貴重なお話をありがとうございました。神社を参拝する機会はほとんどなくなるでしょうが、もしも参拝する時は事前に主祭神を調べて自分との相性を確認するようにします』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。陰陽師はいつもの笑みで青年を見送る。

    帰路の途中、神様と友達になるだの除霊の修行だのと、目についた神社仏閣を積極的に訪れていた過去の自分に対し、青年は苦笑しながら反省するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性

    青年は激怒していた。

    神戸市の小学校にて、男性教員(20代)が先輩の教員たち(30〜40代)に羽交い締めにされて激辛カレーを目にこすりつけられたという、教師間にて行われたいじめ事件についてである。

    加害者グループは被害者にとっての先輩教師4人(首謀者の女性1人、男性3人)であり、他にも別の女性教員らにLINEでわいせつなメッセージを無理やり送らせたり、被害者の男性教員の車の上に乗ったり、その車内に飲み物をわざとこぼしたりしたという。

    被害者の男性は兵庫県警に被害届を出しており、今も登校できない状況が続いているとのこと。
    一方、加害者4人は休職処分となった。また、いじめの様子は動画で撮影されており、動画を見た児童の一部が精神的ショックを受けたようで、その児童たちへの心的配慮として給食でのカレーを中止した。

    教員の間でいじめがあるようでは、学校でのいじめ問題が改善するはずがない。
    今回の事件も、何らかの霊障による原因があるのではないかと感じた。そして、陰陽師に今回の事件の要因を確認すべく、出かけるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①いじめの中心となった女性教員
    頭2、2(4)−4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ②いじめの被害者となった男性教員
    頭1、2(3)−4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・5・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運7、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、
    大日不可思議8

    ③激辛カレーを食べさせる時に被害者を羽交い締めにした教員
    頭2、2(3)―4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ④女性教員を他校から呼び寄せた校長
    頭2、2(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・14の相。第7チャクラの乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ⑤いじめの対策を取れなかった現校長
    頭2、2(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運7、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    『先生、こんばんは。また2−4でしょうか!』

    部屋に入るなり、開口一番青年は吠えた。

    「いきなりすごい鼻息じゃが、今度は何があったのかの?」

    『失礼しました。今回はいじめ事件について話を聞きにまいりました』

    青年は、深々と謝罪の礼をしたあとで、事件の概要を陰陽師に説明し始めた。

    *教員の名前が未公開のため、人物についてはインターネットから確認できた範囲となります。

    いくつかの質疑応答の後、事件の概要と主要な人間関係を理解した陰陽師は小刻みに指を動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    鑑定結果を見た青年は、驚きの声を上げる。

    『いじめの中心となった女性教員(※①参照)は転生回数の十の位が40回代ですから、運気が“小山”に当たるとはいえ、やはり、2−4ですか』

    鑑定結果のメモ書きを凝視し、青年は続ける。

    『先祖霊の霊障にも天命運にも、5:事故/事件がないのに、今回の加害者となった理由としてどういったことが考えられるでしょう?』

    「まず気性がかなり荒い。また、この女性教員の場合、天命運に2:仕事と14:偶発的人的トラブルの相があることも、事件の引き金の一端になったと思われる」

    『この女教師は、前校長から気に入られてこの小学校に引き抜かれたようですし、生徒からは頼り甲斐のある先生という声もあったことから、性格に二面性があったのかもしれませんね』

    「さらに言うと、この女性教員の場合、チャクラ1〜7全てが乱れておるところからみて(−40%)、他の人間に比べてストレスが溜まりやすく、その結果、ストレスのはけ口として今回のような事件を引き起こした可能性もかなり高いじゃろうな」

    青年はうつむき、少し長めの息を吐く。過去にいじめられていた体験を思い出したのだろうか。

    『ちなみに、被害者の男性教員(※②参照)も同じ2−4の人物ですが、頭が1なので、穏便に事を済ませようとしてあまり抵抗しなかったことも、加害者の教員たちのいじめがエスカレートしていった一因かもしれませんね』

    「もちろん、その可能性もあるじゃろうし、被害者の教員の天命運に“5:事故/事件”があることから、それが原因でターゲットになってしまった可能性も捨てきれんじゃろうな」

    『なるほど。それにしても、他の教員たちが止めようとしなかったことが不思議です。女性教員の取り巻き(※③参照)が頭2で2−4なのでいじめに加担するのはわかりますが、いじめを容認していた、二人の校長(※④、⑤参照)が“3:ビジネスマン”階級なのはどう理解したらよろしいでしょうか』

    「学校を一つの組織と考えれば、校長は企業でいうところのトップじゃ。もちろん2-4が校長になることも皆無とはいえないじゃろうが、腐っても鯛ではないが、魂3の二人が校長の座に上り詰めたことは、それほど驚くことではあるまいて」

    青年は納得顔でうなずき、口を開く。

    『聞くところによると、前校長(※④参照)はあまり仕事をしない人で、職員室で何があっても関係ないという事なかれ主義の人物だったようですから、女性教員が自分の代わりに教員たちを仕切ることをある部分容認していたと考えることもできますよね』

    「前校長のチャクラの乱れは7のみ(−20%)であるところから、一見障害が少ないと考えがちじゃが、実相はその逆で、7ひとつで-20%ということは、乱れのある個所が7であることも含め、1〜7の全てのチャクラが均等に乱れていることよりも問題が大きいということになる」

    『とおっしゃいますと?』

    「−40%の障害を1〜7で単純に割り算すると、一つのチャクラの乱れの平均値は約6%となるが、前校長の場合は7の乱れが単独で20%もあるんじゃ。チャクラ全体の説明は別の機会にするとして、第7チャクラの機能を端的に説明すると、動物的な生き方、つまり生存本能をベースとした生き方から、より本質的な生き方、つまり物欲主導の生き方から高次の使命感(滅私奉公・霊主体従)といった生き方へと向かうという機能を担っておることから、第7チャクラが正常だと、目に見えない世界に関する“真実”をおのずから理解できるようになり、物事を言葉によって理解するというより、直感/感覚・概念として理解する感覚が身についてくるようになる。逆に、このチャクラに異常があると、肝心な時に気力が充実しないことがあり、大局を見誤ることになるわけじゃな」

    『と言うことは、前校長の場合は、大局的な判断を下しにくいことから、結果的に採用してはいけない女性教員を誤って推薦してしまった可能性が高いと・・・』

    「まあ、そういうことじゃ」

    陰陽師は首肯して答える。

    「話を聞く限り、後任の現校長(※⑤参照)も女性教員の暴走を止めることよりも、下手な仲裁をすることによって、その矛先が自分に向けられることを避けたい、そんな思いが心の片隅にはあったのかもしれんな」

    青年は腕を組み、唸り声をあげる。

    「さらに言えば、いじめの首謀者である女性教員を除き、他の四人の教員の転生回数が30回台というのも決して偶然ではあるまい」

    青年はメモ書きを再び覗き込み、口を開く。

    『そう言えばそうですね! 転生回数の期に関わらず、30回代は心身が不安定になりやすく、数奇な運命を歩みやすいというお話でしたよね?』

    「その通りじゃ。今回のような事件に関わることも、数奇な運命の範疇なのじゃろう」

    『いじめという言葉はだいぶ前から出回っていましたが、ここまで目立つ事件は少ない気がします。それと、今回の顛末が、給食のカレーを中止するという見当違いとも思える措置がとられたのも数奇といえるのではないかと』

    青年は苦笑しながら言った。陰陽師も微かに笑みを浮かべてうなずく。

    「ところで、この事件に関し、インターネットではどのようなコメントが出ておるのじゃ?」

    『確認しますね』

    青年はスマートフォンを操作し、コメントを読み上げる。

    《コメント1》
    何を批判されてて
    何が問題になってるのか

    まったく理解できてないんだな・・・

    ※頭1、4(4)―4、魂の属性7
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ5・6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依−、大日不可思議7

    《コメント2》
    そもそも普通ではない激辛カレーを給食なんかに出さないでよ
    子供だって食べられない子いるでしょうに

    ※頭1、2(3)―4、魂の属性3(2・6〜14・17の相)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ2〜6の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議9

    《コメント3》
    期待している対応「教師全員を解雇、刑事事件として告発します」
    実際の対応「カレーやめます」

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2・8・12〜15の相)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ5の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議9

    《コメント4》
    問題の根本を改善するのではなく
    とりあえず臭いものに蓋をする風土なのですね

    ※頭2、2(3)―3武士、魂の属性3(2〜5、12・17の相。5は一般事故・被害者・怪我)。天命運に2〜5・17の相。チャクラ4〜6の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓8、
    憑依−、大日不可思議8

    《コメント5》
    教師になるくらい頭がいい筈なのに何でこんなにバカなの
    もう教師というシステムやめてAIの授業とかでいいのではないか?

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性3(8・12・17の相)
    天命運に2・8・17の相。チャクラ5の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    以下、コメント5に対し
    《コメント6》
    小学校の教員になるようなやつが頭いいわけないだろ

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2〜4・6〜14・17の相)
    天命運に2・3・6・8・14・17の相。チャクラ1〜6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依7、大日不可思議8

    《コメント7》
    大学出て教員採用試験受かるくらいの頭持ってる奴が
    高卒程度の地頭しか持ってない奴にどうやって教える事が出来るんですかね
    天才の思考論理は分からないのが当たりまえだが、アホの思考論理も分からないでしょ?
    そもそも大卒しか教員になれないって制度が間違っている

    ※頭2、3(3)−3武士、魂の属性3(2〜4・6〜12・14・17の相)
    天命運に2〜4・8・17の相。チャクラ3〜6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議9

    《コメント8》
    今の教師なんて高卒に毛が生えたレベルの知能しかない

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2・4・8・12〜15の相)
    天命運に4・8・14の相。チャクラの乱れ無し。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依−、大日不可思議7

    《コメント9》
    教師はバカしかいない

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性3(2・3・6〜14・17の相)
    天命運に2・3・6・8の相。チャクラ4・5の乱れ
    全体運5、ビジネス運5、金運5、人運5、恋愛運5、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    《コメント10》
    まあペーパーさえ出来れば大学には入れるし。
    単位さえとって試験に受かれば免許は取れる。
    そんなもんです。

    ※頭2、3(3)―4、魂の属性3(2〜4・6・9・12・17の相)
    天命運に2〜4・6・9・17の相。チャクラ1・5〜7の乱れ。
    全体運3、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    《コメント11》
    教師なんてアホ大学の教育学部卒ですよ

    ※頭2、3(3)―3武士、魂3(先祖霊の霊障に4・6・8・9・13・17の相)
    天命運に4・6・8・9・17の相。チャクラ7の乱れ。
    全体運5、ビジネス運8、金運8、人運3、恋愛運7、健康運9、天啓9、
    憑依−、大日不可思議7

    陰陽師は指を小刻みに動かしながらコメントを聞いていたが、やがて指を止めて口を開く。

    「この中で、魂3によるコメントは、4、7、11の三つとなる。それ以外は全て魂4じゃな」

    青年は再びスマートフォンで該当するコメントを見、答える。

    『ということは、半分以上が魂4ですね。ここらあたりにも魂4の参加意識の高さがしっかりでていますね』

    「そうじゃの」

    『しかし、コメント1と2も魂4だったとは。コメントを読む限り、一歩引いた視点な感じがしたのですが』

    陰陽師は再び指を小刻みに動かし、数字を書き足していく。

    「その二人は頭が1なので、他のコメントとは違った印象を受けたのじゃろう」

    青年は納得顔で何度もうなずく。

    『4と7と11は教員の人格や行動というよりも、事件の根本的な問題や原因について触れている印象があります』

    陰陽師はうなずいて賛同の意思を示す。

    『コメント5はもっとも反応が多かったので読み上げましたが、やはり魂4でしたか。内容としては教師というシステムに言及していますが、AIにすればいいという結論が短絡的なのでしょうか? AIに変えたら変えたで起こりうるであろう、新たな問題をまったく想定していないような感じがするのですが』

    「それもそうじゃが、それ以前の問題として、義務教育の中でも、特に小学生は勉学以上に人間教育という側面が重要となる」

    『そのような意味で、AIが授業を行った場合、対AIのスキルは上達するかもしれませんが、対人間とのつき合い方に大きな支障が出るような気が僕もしています。もちろんこれからAIが活躍する領域はますます広くなっていくのでしょうが、そうであっても対人間とのつき合いが基本になることに変わりはないと思います』

    青年は背もたりに寄りかかり、後頭部を両手で支える。

    「そなたの言うように、百歩譲って魂4の児童が2−4の教員から指導を受けるのを是とするとしても、魂1〜3の児童までもが、大局的見地に欠けたものの見方や意見を一方的に押し付けられることは大いに問題じゃろうな」

    『僕が小学生の頃、きちっとした理由づけもなしに“こうと言ったらこうなんだ!”式の意見を押しつけてきたり、すぐ感情的になる教員がいましたが、今考えてみると皆2-4だったのでしょうね』

    「もちろんそれらの教師も皆2-4じゃが、問題は、そのようなやり方が今も教育現場でまかり通っているという現実じゃ。前にも話したように、ワシは月の半分近くを京都で過ごしておるのじゃが、居酒屋などで小学校の教師連中に遭遇することがままある。もちろん京都という特殊な場所柄、そのほとんどが2-4なのはいうまでもないのじゃが、彼らの話に聞くとはなしに耳を傾けていると、果たしてこんな連中に教育の現場を任せておいていいんじゃろうか、そう思わずにはおれない話が聞こえてきたことも一度や二度ではない」

    陰陽師が小さく首を振りながら、小さくため息をついた。

    『ところで原初的な質問なのですが、たとえば戦前も、小学校の教師には2-4が多かったのでしょうか』

    「とんでもない」

    青年の質問に、陰陽師は首を横に振る。

    「戦前の小学校(尋常小学校・高等小学校)の教員は、ほぼ2(4)−3が半分近く、1(7)−1が約4割、残りの1割が2−4か2−2という比率じゃった」

    『え、そうなのですか?!』

    陰陽師の意外な回答に、青年は目を大きく見開く。

    『ということは、現代と構成比率が全く異なっているのですね』

    「その通りじゃ」

    『しかし、敗戦によって、小学校の教育の場に何が起こったのでしょう?』

    「原因は、大きく三つにわけられる。その一つは、敗戦より、焦土と化した我が国の復興のため、魂1~3の優秀な人材の多くが“教育よりも経済復興を選んだこと”じゃ。その結果が昭和40年代以降の奇跡の経済復興へとつながってはいくものの、戦後の多くの優秀な人材が、たとえ経済行為に直接従事しないとしても、大学や各種の研究機関などへ流れてしまい、初等教育に関心を持つ者が、極端に減ってしまったという問題じゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、青年は大きく頷く。

    「そして、二つ目には、“教育の変質”という問題じゃ」

    『教育の変質ですか?』

    「たとえば、日教組が“教師は労働者”という考え方を打ち出したことで、教育に対する教師の情熱が大きくそがれてしまった。また、国旗・国歌の問題に代表されるように、教育に政治を持ち込み教育の質も低下してしまったという問題も存在する」

    『しかし、今でも情熱をもって生徒を指導している教師は相当数いると思いますが・・・』

    「もちろん、それはそうなのじゃが、戦前の教育現場では、“教師は労働者“なぞという考え方をする教師は、まずいなかった。逆に、戦前の教師とは、教育を”聖職“と考える人格的に優れた人たちによって構成されていた」

    『そのあたりが、2(4)−3が半分近く、1(7)−1が約4割という比率に現れているわけですね』

    「そのとおりじゃ」

    青年の言葉に小さく頷くと、陰陽師は話を続ける。

    「そもそも戦前の小学校教師は、“師範学校”という今でいう教育大学出身者が基本となっていた。教師を養成するために作られた官立の学校であった師範学校は、東京に設置された日本初の教員養成機関(後の東京高等師範学校、学芸大学、東京教育大学を経て現在の筑波大学)の固有名称であったし、かつての京都師範学校は戦後、京都学芸大学を経て、今の京都教育大学になっておるといった具合にな」

    『なるほど』

    「ともかく、戦前の師範学校は学ぶことすべてが教職課程だったわけじゃから、教師になっても、そもそもの心構えが今とまったく違う。また、戦前は、士官学校同様、学費が一切かからず、さらには些少ながら給料も出たので、教師になるということは、優秀であるが貧しくて上の学校に行けない人間たちにとって、人生の大きな選択肢の一つだったわけじゃ。さらに言えば、師範学校そのものへの入学もなかなか難しく、入学選考では人柄や学力のみならず、変な顔をしていたり体臭が強いというだけで、教師には不向きと判断され、不合格になったなどという笑い話のような話さえ残っているくらいなんじゃ」

    『なるほど、そこまでしないと師範学校に入れないということでしたら、自然と自覚がつきそうですね』

    青年の言葉に、小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「教育という職責の意味を嫌というほど叩き込まれたそんな師範学校出身の教師たちは、高級官僚や大企業の幹部などになった帝大出身者の超エリートを尻目に、明日の日本を背負って立つ人材を育てることに強烈なプライドを持っていたわけじゃ」

    『つまり、戦前の先生というのは、現在僕たちが教師に持っているイメージと全然違う存在だったのですね』

    陰陽師の説明に、青年は納得顔で大きく頷く。

    「その通りじゃ。今説明してきたような経緯から、戦前の教師は教育に対するスタンスが今の教師とは決定的に違っていた。勢い、教育を受ける生徒自身や保護者との間でも、全面的な信頼関係が成立していたわけじゃな」

    『できることであれば、僕も戦前の教育を受けてみたかったです』

    青年は感嘆の息を漏らし、答えた。

    「それは、かく言うワシも同感じゃな」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく頷いた。

    「ただしじゃ、戦前の教育にも問題がなかったわけでもない」

    「といいますと?」

    「教員の絶対数不足という問題じゃ」

    『え。そうなのですか?』

    「これまで説明してきたように、師範学校を卒業し、“訓導“(今でいう教諭)の資格を得た人間が教員になっていたわけじゃ、特に小学校(尋常小学校・国民学校)では人材不足が深刻じゃった。そのため、それを補うために、”代用教員“という制度を作り、師範学校にも行けず、普通教員資格もない人間たちが、旧制中学・旧制高等女学校卒業程度の学歴で小学校教師として任用されていたこともめずらしいことではなかったのじゃ」

    『では、戦前の教師の中には、厳密に言うと、無免許の教師が存在していたと』

    「平たく言うと、まあ、そうなるわけじゃな」

    『しかし』

    青年は、腕組みをしながら、言葉を続けた。

    『そんな教師が一定数いたのに、何故、戦前の教師のレベルは高かったといえるのでしょう』

    「そこが、先ほどから話している属性の妙なのじゃよ」

    『つまり、戦前の小学校教師は、2(4)−3と1(7)−1で占められていたというあれですね』

    「そのとおりじゃ。実際、代用教員経験者の中には後の著名人も非常に多く含まれていて、一例を挙げるとすれば、詩人の石川啄木、作家の坂口安吾、田山花袋、三浦綾子、化学者の野口英世や漫画家の馬場のぼるなど、枚挙にいとまがない。ちなみに、2006年(平成18年)度上半期のNHK朝の連続ドラマ“純情きらり”ヒロインの宮崎あおい演じた桜子も代用教員じゃったわけじゃ」

    陰陽師の説明に、目を見張りながら耳を傾けていた青年。その顔を横目で見ながら、陰陽師は話を続けた。

    「そして最後の問題が、今までの話を受けた“小学校教師に要求される能力とそのステータスの問題”となる。まず、戦後の小学校教師は、個々のレベルはそれほど高くないとしても、全教科を教えられるオールマイティーさを要求される。そこには、学科だけではなく、体育や音楽まで入っているわけじゃから、ほんと大変じゃ。さらに教育学部に通うことが基本的に要求される。今でこそ、私立の教育学部や通信教育といった選択肢も広がってきたものの、誰でもが簡単にクリアーできるハードルではない」

    『そのあたりは、学業に秀でた2-4の真骨頂ということになりますね』

    「さらにステータスという面からみても、身分、処遇面からみても、突出こそしていないが2-4のプライドを大いに満足させる職業であることは間違いない」

    『さらに、中高生よりコントロールしやすい小学生に、上から目線で過ごせてプライドも満たされ、給料も社会的地位も安定しているわけですからね』

    青年は納得顔でうなずいた後、顔を上げて続ける。

    『今までの話をお聞きしていて、ふと気になったのですが、ヤンキー上がりの教師というのは魂1〜4でいうとどこに該当するのでしょうか?』

    「というと、一般論ではなく、誰か特定の教師に心当たりはあるのかの?」

    青年は腕を組んで沈黙する。陰陽師は小さく笑いながら、青年に先を促す。

    「もちろん、実在の人物でなく、たとえば、小説や漫画のキャラクターでも構わんぞ」

    『実は』

    陰陽師に励まされ、やがて青年は口を開いた。

    『GTOというヤンキー上がりの教師が主人公の漫画があるのですが、彼を取り巻く人物が、どんな属性の人間たちなのか少々気にかかっていたのです』

    「あいわかった。それで、主な登場人物の名前と特徴は?」

    そう陰陽師に促され、青年はキャラクター名と各々の特徴を伝える。陰陽師はしばらく指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「鬼塚英吉(主人公)は
    頭が1で、2(4)−3武士、魂の属性3(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障に2・6〜15の相があり、天命運に2・8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-

    冬月あずさ(ヒロイン)は
    頭が1で、2(4)−3武士、魂の属性3(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障に12〜14・17の相があり、天命運に8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運9、金運9、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓9、
    憑依-、

    内山田ひろし(教頭)は
    頭が2で、2(3)−4、魂の属性7(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障がなく、天命運に8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-

    桜井良子(理事長)は
    頭が1で、2(7)−3(1)武将、魂の属性7(1)―7(1)、
    先祖霊の霊障がなく、天命運に8・14の相がある。
    全体運9、ビジネス運9、金運9、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-」

    青年は鑑定結果をまじまじと眺めてから口を開く。

    『やはり、主人公とヒロインは、“3:ビジネスマン”階級でしたか。しかも、転生回数が240回の“小山”ですから、戦前の各小学校の教師の5割に属しているわけですね』

    「主人公の鬼塚英吉に関して言うと、ヤンキー上がりといっても前の作品では暴走族のトップをしておったとの話から、世間一般のヤンキー上がりの教員として一括りにするのは少々問題があるじゃろうな」

    『とおっしゃいますと?』

    「ヤンキーの下っ端としてパシリにされていた2−4の人物が、喧嘩では芽が出ずに勉学に励んだ結果、私立大学の教育学部あたりに合格して教員免許を取得し、箔をつけたいがためにヤンキー上がりの教師と自称する人物も中にはおるじゃろうからな」

    『その場合、生徒たちに、この先生を怒らせたら怖いという印象を与え、2−4お得意の感情任せ、上から目線の教育が行われるのですね。そして』

    青年はため息混じりにつぶやく。

    『教頭の内山田ひろしはやはり、2−4でしたか。彼はよく感情に振り回されていますし、愛車が何度も大破するのは転生回数の十の位が30回台の数奇な運命が反映されているのかもしれませんね』

    「それなりに勉強の成果が出ているようじゃの」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は話を続けた。

    「それ故、人情味や理屈、道理でもって生徒を更生させられる主人公の鬼塚英吉のような教師は、まず2(4)−3武士や1(7)―1と考えても差し支えないじゃろうな」

    『確かに、鬼塚は解決策の一つとして暴力を使うことはあっても、生徒に暴力を振るったり、権力にものを言わせて生徒を従わせるようなことはしていませんでした。漫画のキャラクターにもその辺りが反映されているのですね』

    青年は何度もうなずきながら続ける。

    『鬼塚に先祖霊の霊障と天命運の両方で“2:仕事”の相があるのも興味深いです。本来であれば、もっと大きな舞台で活躍するチャンスがあるのに、物語を面白くするために場違いな分野の職に就いているというのですから』

    青年は笑いながら言い、陰陽師も微笑みながらうなずく。

    『ヒロインの冬月あずさは、根は真面目ですので教師は適職だとして、たまに暴走することがあるのは先祖霊の霊障“17:天啓”によるものではないかと。同様に、先祖霊と天命運の両方に“8:異性”の相があることから、恋人がいない設定なのもうなずけます』

    「また、理事長の細かいキャラクターは存ぜぬが、主人公の才能を見抜くという意味では武将としての才をいかんなく発揮しておるようじゃの」

    『理事長は1−1かと思いましたが、武将タイプだったのですね。しかも、転生回数が270回で“大山”の』

    「ちなみに、舞台はどんな学校なのじゃ、公立の学校なのか、それとも私立なのかな?」

    陰陽師の言葉に、青年はハッと息を飲み、答える。

    『そう言えば、舞台は学校法人ということで私立ですから、経営的な手腕も必要なことから、理事長が武将タイプという設定だと考えて差し支えないのですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    『先祖霊の霊障もなく親近性も7(1)ということから、主義主張や経営にも適しているということで、理事長の座にまで上り詰めたという設定になっておるのじゃろう」

    『なるほど。それにしても』

    青年は腕を組んでから続ける。

    『小学校の教員が2−4ばかりになってしまうと、日本の将来が心配になってしまいますが、どうにかできないものなのでしょうか?』

    「とにもかくにも、魂1~3の教員を増やすことじゃ。根本的な解決策は、その一点にかかっているといっても過言ではあるまい」

    『これから日本を背負って立つ若い魂3世代にとって、今をときめくIT系企業の社員や公務員になる方が魅力的なのでしょうが、国の将来を考えるかぎり、小学校の教員を目指すことも重要だというわけですね』

    「そのとおりじゃ」

    大きく頷く陰陽師を見ながら、僕が2(4)で小学校の教員に適正があったら、と青年は小さくつぶやく。そんな青年の気持ちを察し、陰陽師が機先を制した。

    「気持ちはわかるが、そなたはそなたのやるべき道があることを忘れてはならんぞ」

    『そうでした。僕の使命は天命を歩む人物を増やし、その結果小学校の教員に適した人物を側面的に応援することでした』

    我に帰り、そう答える青年の言葉に、陰陽師は満足そうにうなずく。青年はスマホの画面を確認して口を開く。

    『ちょうどいい時間のようですね。本日も貴重なお話をありがとうございました』

    「どういたしまして。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで応えるのだった。

    帰路の途中、青年は学生時代のことを思い返していた。教員たちの顔と言動を思い返し、どの教員がどの魂なのかの仮説を立てる。
    そして、これからは教員の採用に携わる人々との縁を増やしていこうと思うのだった。

  • 新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    青年はぼんやりと考え事をしていた。

    どうしてお正月に門松を玄関に立てるのだろうか?
    何か霊的な意味があるのだろうか。仮に霊的な意味があったとしても、霊能力がない人間にとっては特に効果はないのだろう。あるいは、ただ単に風習として残っているのだろうか?

    門松に“グッズの霊障”(第15話参照)がつきやすいかはわからない。けれど、毎年飾っている物であるから、どのような意味を持っているのかを確認しておく必要はあるのかもしれない。

    そう思い、青年は厚着をして陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします』

    青年は深く頭を下げ、新年の挨拶を述べた。

    「あけましておめでとう。今年もよろしくの」

    陰陽師はいつもの柔らかい笑みを浮かべて小さくうなずいて答える。

    『新年早々で恐縮ですが、今日は門松について教えていただけないでしょうか。毎年お正月には玄関に門松を飾っていますが、あれにはどのような意味があるのでしょうか?』

    「なるほど、門松について聞きたいのじゃな。ちなみに、そなたは門松についてどのような認識を持っておるのかな?」

    青年は腕を組み、しばらく黙考してから口を開く。

    『お正月の数日間に、切った竹を数本と松の葉が一緒になった物を、自宅の玄関前に左右に立てる飾りだと思っています。それ以上のことは特に・・・』

    青年は頭をかきながら答え、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「民俗学者の柳田国男監修“民俗学辞典”(東京堂刊)に“門松”について次のように記載がある」

    今は正月の飾り物のように考えられているが、本来は歳神(年末・年始に各家を訪れると信じられていたご先祖様)の依り代の一種だったらしく、そして必ずしも松と限らない場合が多い。(中略)
    鳥海山・月山の周囲の村々でもカドバヤシ・カドマツタテといって、楢、椿、朴、みずきなどを山から伐ってきて立てる。山口県北部や宮崎県の山間でも松以外の木を立てる。これら多くの木を立てておく期間は一定しないが、一月七日まで、もしくは旧正月の終わるまでというのが多い。

    「この本にも書かれているように、門松という名前から松を立てると思っておるじゃろうが、竹も含め、松以外の樹木でも問題ないことはわかるじゃろう?」

    『たしかに、言われてみればそうですね。ごく一般的な門松であっても、門松なのに竹を使っている。門松竹といったところですね!』

    青年は笑いながら言う。

    「それが正しいかはともかくとして、日本では古来より“天なる神は柱のような木に降り立つ”という観念が存在しておっての」

    『神様を数える場合、単位が“柱”だと聞いたことがありますが、神様は見えない存在であるとしても、木が依代だと考えれば、神様の数を数えるにあたり、神様が宿っている柱の数を数えればいいということなのですね』

    「また、土木工事や建築などで工事を始める前に地鎮祭を行う際に、葉のついた竹を四本、四隅に立てるが、あの“境立て”からも木々には邪霊を寄せつけない呪力があるとも信じられていたことがわかるじゃろう」

    青年は手を打って答える。

    『更地でよく見かけるやつですね。あれも竹を使っているわけですから、神様の依り代として松にこだわる必要はないということがわかるわけなのですね』

    青年は納得顔で呟き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「これらの例を見てもわかるように、門松の“マツ”と松は必ずしもイコールではないということじゃ」

    『なるほど! でも、そうなると、なぜ門松という言葉なのでしょうか?』

    「松という漢字は実は当て字で、エジプトの物神柱“マシャ”がなまって日本語でいう“マツ”になったのじゃよ」

    青年は目を見張り、前のめりになって答える。

    『“マツ”が“マシャ”? しかも、エジプトが起源ですか? 僕はてっきり日本固有の風習だとばかり思い込んでいました』

    陰陽師は、青年の言葉に、ゆっくりうなずく。

    「エジプトの文化が東方へと移動していった経緯については別の機会にゆっくり話すとして、エジプトには物神柱と呼ばれる神が四つおり、その一つである梟神マシャがインドを経由した際にインドの神様として日本に伝わったものなのじゃ。さらに言えば、東北地方で“梵天”と呼ばれている神も、元を正せば、この梟神マシャのこととなる」

    『なん・・・ですと。日本は世界の文化のルーツだと思っていましたが、文化の終着地点だったのですね・・・』

    驚きに目を見張る青年。陰陽師は紙に文字を書きながら口を開く。

    「それだけではないぞ。たとえば、纏(まとい)じゃが、 これなぞも“マシャ”の屈折語である“ヴァッタ”(〔m〕vatta)が日本流になまって“マトイ”になったものなんじゃ」

    青年はヴァッタ、マッタ、マット、マットイとよくわからないことを呟き、答えた。

    『あの時代劇などで見かける“纏”のことでしょうか?』

    いつものことながら、言葉だけは知っている青年であった。

    「もちろん、江戸時代の火消しの男衆が持ち歩いていた、先端の方に飾りがついた長い棒のことじゃ」

    『やっぱりそうですか! 先の方がタコのような形になった布がついている棒ですよね!』

    青年は興奮気味に両手で棒を上げ下げする動きを見せる。陰陽師はそんな青年の様子を見て、小さく笑う。

    『しかし、あんな長い棒を各家庭で立てるわけにもいかなかったので、短く切ってあのような形になっていったのでしょうね』

    青年の言葉に一つ頷いたあとで、陰陽師は言葉を続ける。

    「このマシャという言葉が地鎮祭の“境立て”の四本柱となった経緯は先ほど話した通りじゃが、他にも大相撲の土俵の四隅に立っている四本柱も同様の起源を持つ」

    『えっ、あの大相撲の柱もですか』

    驚く青年をしり目に、陰陽師はふたたび先程の本を取り上げた。

    「今までに説明したことを踏まえた上で、“民俗学辞典”の次の解説に耳を傾けるとよい」

    神の依り代である“柱”を立てる場所は、家の前の庭もあるし、屋内もあり、家の門の前とは限られていない。

    「つまり、門松の“カド”は、必ずしも“門”とイコールではないことがわかるかの?」

    『なんとなくわかります。そうなると、なんだか鯉のぼりや七夕の笹も似たような物なのではないかと思えてきます』

    「それらについてはまた別の機会に話すとして、話を先に進めると」

    陰陽師は再び紙に文字を書いていく。青年は食い入るようにその文字を見つめる。

    「梟神柱は古代インドへ渡り、古語(梵字)で“ガダー”(gadā)と呼ばれるようになるのじゃが、これも処々の状況より“カド”となまったとも考えることができる」

    青年はまた、ガダー、ガダ、ガド、カドなどと呟いた。

    『口に出してみるとなんとなくわかります』

    「それ故、門松の“カド”や“マツ”は、文字通りの門や松ではなく、梟神のことを示したということになるわけじゃ」

    『なるほど。門松という漢字は当て字でしかなく、本当は松でなくても、門のように二本でなくても、玄関前になくても、問題はないわけなのですね!』

    青年は納得した顔で何度もうなずいて見せる。陰陽師は満足そうに微笑んで首肯する。

    「さらに興味深い事実として、“民俗学辞典”に以下ように記載されておるように、我が国には松を能動的に使わない地方というものが存在しておるのじゃ」

    祖先が戦に敗れて落ち延びたのが正月だからといった種類の伝承をもって門松を飾らない家例の旧家もある。京都でも宮中を始め貴族の家々には門松飾りがなかった。

    『ここで言う“戦で敗れた祖先”とは日本人のことだと思いますが、いかがでしょうか?』

    陰陽師は首を左右に振って答える。

    「いや、ここでいう“戦で敗れた祖先”とは朝鮮半島の人々のことなのじゃよ。“マシャ”という言葉が遠いエジプトから島国である日本に伝わってくるためには必ず海を渡らねばならぬ。宗教や文化というのは、必ず人と共に移動しておるわけじゃからの」

    『なるほど。弥生時代に朝鮮半島から大勢の人が日本に渡海してきたことは勉強しましたが、彼らはもともと日本で生活していた縄文人とは別種の人間だったのですね・・・』

    「うむ。縄文人は、今でいうアイヌや琉球民族といった、迫害されてきた人々がそのルーツで、いわゆる弥生人とは別種の民族ということができるじゃろうな」

    青年は黙ったまま、納得顔で何度も頷く。

    「それを裏づけるように、朝鮮半島や済州島では、松は霊城に植える霊樹であるし、朝鮮半島の西側では、捨て墓に一時的に埋葬するにあたり、死体を松の枝で覆うという習慣が存在している」

    『なるほど。そのような歴史的背景を持った人々であれば、不吉なことが連想される松を避けたがったとしても別に不思議じゃありませんね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    青年の言葉に、陰陽師がひとつ頷いた。

    『いずれにしても、他の木々が代用されるという背景には、そんな遠い昔からの由来があったのですね。日本の文化こそが世界の文化の起源だとばかり思っていました・・・』

    「じゃが、カドマツがエジプトから伝播した風習であり、今も習俗として残っていることひとつをみても、ほとんどの文化が日本で生まれ海外に伝播したと考えるよりも、その逆と考える方が、筋が通っておるじゃろうな」

    青年は納得顔で何度もうなずく。陰陽師はタンブラーに注がれたお茶を飲み、続ける。

    「エジプトからの道のりを説明するとあまりにも長くなってしまうから、とりあえず、身近な朝鮮半島に話を限って、説明するとじゃな」

    陰陽師は日本列島と中国大陸の地図を描き始める。

    「弥生文化を形成した渡来人の中心人物は、百済の王、あるいは辰王朝の宗室(王家)だったのじゃが、百済の王とは、馬韓、弁辰のかなりの部分を支配する辰王でもあった。そんな彼らの一部が、勢力争いに敗れる度に、様々な文化を携え日本に移動してきたわけじゃな」

    陰陽師は説明しながら地図に国名を記していく。青年は地図を眺めながら口を開く。

    『日本の文化が朝鮮半島から伝わってきたのはわかりました。それでは、朝鮮半島の文化はどこを起源としているのでしょうか?』

    「直近では、北方騎馬民族である扶余(ふよ)族が朝鮮半島に南下してきたと言われておるが、ではその扶余族はどこから来たという話になると、シルクロードを中心とした陸路を遡る必要が出てくるじゃろうし、海路という話になると台湾、フィリピン諸島、マレー半島、そしてインド洋を越えて中東と、話は限りなく広がっていくわけじゃが、細かい話はともかく、すべての文化的ルーツが今のイラクあたり、すなわち、かつてのシュメールで誕生し、それらの文化が多数の人間を介して、今説明した経路を逆流するような形で日本に波状的に流入してきたと考えるのが妥当じゃろうな」

    青年は地図を見ながらうなり声をあげ、何度もうなずく。

    『とても興味深いです。ということは、日本文化のルーツを知るには古代エジプト、そしてシュメールにまで遡るのが大事なのですね』

    「その通りじゃ。歴史で学習するすべてのキーワードとしては、メソポタミア文明といっても過言ではない」

    『なるほど、四大文明の最初の一つであるメソポタミア文明は、エジプト文明、インダス文明、黄河文明とすべて繋がっているわけなのですね!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「もちろんじゃとも。メソポタミア文明の中でも、特にシュメール人が築き上げた文化を探ることで人類の起源に近づくことができるというわけじゃな」

    『単純暗記していた歴史の用語でしたが、こうして現代の日本にも深い関わりがあると思うと、なんだかとても感慨深いです』

    自分の世界に入る青年を見、陰陽師は微笑みながら頷く。

    『となると、よく韓国人が“日本の物は韓国が起源ニダ!”と言うのは、あながち間違いではないといえるわけですね』

    「たしかに、歴史の連続性という視点でみる限り、彼らの主張もまったくはずれているということはないだろうな」

    『でも』

    青年が、首を傾げつつ、言った。

    『日本の文化が朝鮮半島を経由してきたことを認めたとしても、現代の日本人と韓国人とでは国民性が違う気がするのですが』

    青年の言葉に、陰陽師は真顔で頷く。

    「以前(第9話参照)説明したと思うが、頭の1/2の比率は、世界では2:8に対して日本人は3:7と、世界の平均値と比較すると頭が1が一割ほど多い」

    『だから、日本は優等生と言うこともできる、とおっしゃいましたね』

    「そのとおりじゃ」

    陰陽師は、小さく頷く。

    「一方、朝鮮や中国では、1/2の割合がほぼ1:9となる」

    そう話す陰陽師の言葉に耳を傾けながら、青年は記憶をたどるように一点を見つめて黙考し、口を開く。

    『たしか以前のお話では、頭2は狩猟民族の末裔で、物事を損得で考える傾向が強いため、結果、自己中心的な傾向が強いということだったと記憶していますが、だから韓国人は自国が優位になるような主張をする傾向が強いのでしょうか』

    「半島に住む人々というのは、朝鮮半島に限らず、地続きの大国の影響を受けやすいという特徴を持っておるわけじゃから、もちろん、そう考えることも可能じゃろう。しかし、決して忘れてはならぬのは、魂は、各々属性にとって最も修行に適した国を選んで転生してくるという原則じゃ」

    『つまり、日本を選んで生まれてくる人間は、修行をするにあたり日本が最適の修業の場であり、韓国や中国に生まれる人間は、それらの国が修行の場として最適であるというのですね』

    「その通りじゃ。さらに言えば、同じ1/2であったとしても、程度という問題も存在する」

    『つまり、1/2に枝番があり、それによって度合いが存在するわけですね』

    「さらに言えば、16通りある、輪廻転生と魂の組み合わせにも、それなり以上の相違もある」

    『なるほど』

    「じゃから、たとえ姿形がいかに似通っていようと、同じ人間だから話せばわかる式のコミュニケーションではなく、各々別種の人間として話をする必要があるわけじゃな」

    『そのあたりの話は、じゅうぶん理解しました』

    陰陽師にそう答えた後で、青年は言葉を続けた。

    『ところで年も明けたので、明日にでも初もうでに出かけようと思っているのですが、今お話にあった1/2という問題は、神様や寺社といったものにも当てはまるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。今まで説明してきたように、文明に連続性というものが存在する以上、たとえば、古事記・日本書紀に出てくるような神様も、日本古来の神様と考えるよりも、様々なルートで日本に辿り着いた民族が祭っていた神々や祖王たちと捉える方が論理的じゃと思う。よって、それらの神々も祖王たちも、また彼らが鎮座されておる神社にも、当然1と2の別が存在することとなる」

    『やはり、そうなのですね。今までのお話を伺いながら、漠然とそうじゃないのと思っていましたが、ということは・・・』

    小さく首を振りながら、口を開きかけた青年を、陰陽師が制した。

    「そのあたりの話を説明するには、それなりの時間が必要じゃ。それには今日はちと時間が足らんようじゃな」

    青年はスマートフォンに触れて時間を確認する。

    『いつものことながら、もうこんな時間ですか。では、また別の機会にその話をじっくりご教授ください』

    「あいわかった。寒いから風邪を引かぬようにな」

    青年は席を立って深く頭を下げる。顔を上げると陰陽師が手を差し出しているのが見え、青年はその手を固く握るのだった。

  • 新千夜一夜物語 第15話:願いと代償

    新千夜一夜物語 第15話:願いと代償

    青年は思い悩んでいた。

    先日、某宗教団体の会合に出席した件についてである。“南無妙法蓮華経”という言葉は宇宙の理を表しており、しかもその言葉が書かれている紙は生きていて、ぞんざいな扱いをすると良くないことが起こると信者の人々は信じているようだった。

    見えない力が現世的に働いている以上、何らかの霊障が関わっているのかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元へ向かうのだった。

    『先生、こんばんは。今日は呪いについて教えてください』

    「呪いじゃと、それは物騒な話じゃな。いずれにしても、もう少し具体的に説明してくれんかの?」

    『先日、新興宗教の会合に参加してきました。信者の方のご自宅には “南無妙法蓮華経”という言葉が書かれた、“御本尊”と呼ばれる紙が祀ってあり、それに向かってお経を読み上げていました』

    「ああ、例の新興宗教じゃな」

    『もうおわかりですか!』

    微笑みながらうなずく陰陽師を見て、青年は目を見開く。

    「あそこは有名じゃし、信者数も多いからな。しかし、それと呪いがどのように関係するのかな」

    『信者の方々の話によると、御本尊は生きているから雑な扱いをするとよくないことが起こると言っていましたが、それが僕には呪いか祟りみたいな感じがしたんです』

    黙ってうなずく陰陽師。青年は続けることにした。

    『信心が薄く、意図的に乱暴な扱いをする人物が罰を受けるならまだしも、毎日必死にお経をあげているような信心深い信者に対し、罰を与えるような存在が仏教にはあるのでしょうか?』

    「百歩譲ってその新興宗教を大乗仏教の一部と位置付けたとしても、仏教にそのような意味で人を罰するような存在はおらんと思うがの」

    『そうですよね。少なくとも、僕には罰を与えるような存在を信仰の対象にすることはできそうもないです。御本尊に“何か”が宿っているとしても、別次元の存在でしょうから、仮に僕たちが現世的な粗相をしたところで、その“何か”が罰を与えるなんてどう考えても筋が通りません』

    「たしかに、そなたの言う通りじゃな」

    青年は腕を組み、うなりながら言う。

    『それにしても、極端な言い方をするとたかが紙なのに、どうして罰が下るような力を持っているのでしょうか? 信者の人々が言うように、本当に御本尊に何かが宿っているのでしょうか?』

    「先に結論を言ってしまうと、“南無妙法蓮華経”と印刷しただけの紙には何の効力も存在しない」

    予想外の回答に、青年は脱力した。陰陽師は青年の様子がおかしかったのか笑みを浮かべる。

    「ただし、そのようなグッズに何らかの念を入れることによって、そなたが聞いたような現象が起きることは、ないとはいえんじゃろう」

    『それは、いわゆるグッズの霊障といったようなものなのでしょうか?』

    陰陽師は紙に人型と長方形を描き、答える。

    「そなたは“生き霊”については、すでに理解しておろうな?」

    『例えば、僕が先生のことを憎く思って長時間恨んでいると、先生のところに僕の魂の一部が飛んでいくという現象です』

    「うむ、その解答に点数をつけるとすると、30点くらいかのう」

    青年は自信満々で答えたが、赤点ギリギリである。

    「世間一般でいう“生き霊”は、恨みといったネガティヴな感情をベースとして語られることが多いが、実体はそうでもない。誰かに恋い焦がれたり、病気になった人間を元気づけようとしたり、家内安全を願うといった一見ポジティブな感情でも“霊障”の原因となることがある。それ故、ワシの場合、それらを他者の“念”と呼んでおるわけじゃが」

    『え、相手の幸せを願ったりすることも、“霊障”の原因になる可能性があるのでしょうか?』

    眼を大きくする青年に向かい、陰陽師はうなずいて答える。

    「この世の出来事で例えるなら、子供に無事でいて欲しいと願うあまり24時間監視をしたり、子供の幸せを望むあまりに、子供の好みを確認せずにオモチャの類を勝手にプレゼントしたりといった、親バカが過ぎた干渉は、子供からすれば、迷惑以外の何ものでもないじゃろう?」

    『子供の立場からしたら、重いと言いますか、場合によってはたしかに迷惑に感じるでしょうね・・・』

    「相手への愛情といってしまえばたしかにそのとおりなのじゃろうが、ものには限度というものがある。強すぎる想いはともすれば相手に負担をあたえる原因になりかねないじゃろうし、それを念と呼ぶとすれば、やはり相手が望まない影響を与えてしまう結果を引き起こしかねない」

    『受け手、送り手、双方にその気がなくても、結果として霊障となりうると』

    「それだけではない。仮に、直接相手に念を飛ばさなかったとしても、御本尊に向かい家族が健康になりますようにとか、会社のピンチから脱出できますようにと必死に願っていると、御本尊自体に同様の“念”が宿ってしまうことさえある」

    『家族を想っていても、願っている時は御本尊に対してですもんね。その結果、グッズの霊障が生じてしまうと』

    「そのとおりじゃ。さらに言えば、お経を読んでいる当人になまじ霊能力(±*)があったりすると、その念は一層強力なものとなる」

    『霊能力持ちにそのような自覚がないと、事態がさらに悪化するわけですね』

    「そういうことじゃな」

    陰陽師は、青年の言葉に一つ頷くと、言葉を続けた。

    「他にも、本来はただの紙である御本尊に念のようなものが宿るケースが考えられる」

    『たとえば、どのようなケースでしょう?』

    「おそらく、その御本尊はどこかで大量に印刷され、信者に配る前に特定の場所で保管されているのだと思うが、仮に御本尊の流通に携わる人の中に霊能力持ちがいて、ご本尊を運ぶ際に“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考えただけでも、念が入ってしまうことがある。そしてこのような構図は、ご本尊に限らず、神社などのお札やお守りの類にも適用されるので注意が必要じゃ」

    『おそるべし、霊能力持ち・・・』

    「もっともこのあたりの話は、霊能力持ちでなくとも、一般の人間、特に魂の属性3の人間が、ものに対して過度な執着心や愛着心を持った場合も同様の現象がおこる可能性があるので、合わせて注意が必要となる」

    青年は、陰陽師の言葉に大きく頷くと、質問を続ける。

    『ところで、特に念が宿りやすいグッズとかはあるのでしょうか?』

    「それを持つ人間の属性にもよるが、先程も話したように、神棚やお札やお守りといった神道系の神具、仏像やお札といった仏教系の神具、パワーストーンなどの宝石類には特に注意が必要となる。毎日祈ったり、身に着けたりしているものじゃから、それだけ霊障がつきやすいからの」

    『我が家は仏壇に手を合わせる習慣があるので、仏壇系はあやしいですね。毎日お線香をあげて読経していた時期もありますし・・・』

    青年は額に手を当て、首を振る。

    「どれ、そなたの持ち物の中で気になるものがあれば、鑑定してみよう。霊障がついていそうな気のするグッズを書き出してみるとよい」

    青年は記憶を辿り、思い出した物から紙に書き出していく。

    陰陽師はリストアップされたグッズの横に文字を書いていく。

    神棚2+、徳利2、皿2、榊立て2、仏壇、
    熊の剥製2、鳥の剥製2、懐中時計、軍刀の鍔2+、将棋盤2

    『2と2+がありますが、これはどう違うのでしょうか?』

    「2は霊障がついているもの。2+はさらに強力な霊障がついておるというか、妖気が漂っているものと考えるがよい」

    青年はもう一度鑑定結果を見、驚嘆の声をあげた。

    『ゲゲエ!? 神棚と軍刀の鍔に2+があります!』

    陰陽師は小さく笑い、口を開く。

    「神棚はともかくとして、軍刀の鍔はいったいどのような由来の品なのかの?」

    青年は眉間にシワを寄せ、重そうに口を開く。

    『軍刀の鍔は父方の祖父の形見の品でして、祖父が亡くなってからずっとお守りのように携帯していました。祖父が生前に行けなかった土地に連れて行ってあげられるようにという思いです』

    陰陽師は大きく、ゆっくりとうなずく。

    「祖父を大事に想う気持ちはよくわかるが、四六時中想い続けることで逆にそなたの念を軍刀の鍔に宿らせてしまったのかもしれんな』

    『軍刀は祖父ではありませんので、ある意味大きな勘違いや思い込みをしていたのだと思います。祖父の死を受け入れられず、執着していたと言えるかもしれません』

    青年は頭をかき、苦虫を噛み潰したような表情で続ける。

    『祖父は無事にあの世に帰還しているわけですから、この世に未練もないわけでしょうし』

    陰陽師は柔らかい笑みをたたえて答えた。

    「必要な時があれば祖父はそなたのことを手伝ってくれ、何らかのメッセージを送ってくれる。それに、そなたの想いはしかと伝わっておるようじゃから何も心配することはない」

    青年は真剣な表情に切り替わり、深く頷く。陰陽師は言葉を続ける。

    「キリスト教の“マタイによる福音書”(第8章)に次のような一説がある」

    弟子の一人がイエスに、「主よ、まず、父を葬りに行かせてください」と言った。 イエスは言われた。「私に従いなさい。死んでいるものたちに、自分達の死者を葬らせなさい。

    青年は腕を組み、首を傾げながら黙考し、しばらくして口を開いた。

    『これは、例えば、亡くなった祖父のことを曽祖父や他にご縁があった魂が迎えに来て面倒をみてくださる、ということでしょうか?』

    「もちろんそういった解釈も可能じゃろうが、キリストは、“死んでいる者たち”に世間の常識や習俗に囚われてばかりいて、しっかり生きようとしない人たちといった意味合いをその言葉に付加しておるようじゃ」

    『そこには、今この瞬間だったり、自分の天命や人生を真摯に生きていない人のことも含まれているのでしょうか?』

    陰陽師は首肯して答える。

    「もちろんじゃとも。どれだけ思い悲しんだところで死者が生き返ることはないし、葬式は死者に対する儀式であるから、つまりは過去のこと。それよりも今を大事にしなさい、世間のしがらみや束縛を脱して天命を生きなさい、という意味がキリストの“死んでいるものたちに、自分達の死者を葬らせ、私に従いなさい”という言葉に含まれておったのじゃろうな」

    『葬式やお金儲けに走っている現代の大乗仏教の坊主にとっては耳が痛い話ですね・・・』

    青年は苦笑し、陰陽師は小さく笑って答える。

    「そうは言っても遺族が故人を偲ぶのは当然のことじゃし、葬式には遺族側の気持ちを整理する機会といった側面もあるわけじゃから、葬式をするなということではない。そうではなく、“習俗”としてやるべきことをきちんと行った後は、いつまでも過去に捉われることなく、未来に向かって歩みだす覚悟が必要ということじゃ」

    『葬式の最中は葬式でやるべきことをやり切り、亡き人とのお別れをしっかり済ませ、葬式が終わった後は再び天命や今世の課題に真摯に取り組むということですね』

    陰陽師はうなずいて答える。

    「前にも話したと思うが、“死後のことは考えるな”、“今・ここで・私”が生きていることを仏教では“即今・当処・自己”と呼ぶ(第7話参照)」

    『そうでした。先生からその話を聞いてから、自分の人生・天命を軸に生きようという意思が強まったのを覚えています』

    青年は真剣な眼差しで言い、陰陽師は満足げな表情でうなずく。

    『ところで、“御本尊”の話に戻りますが、実際に体に悪影響が出るような体験談もあったようですが、いったい何が起こっているのでしょうか?』

    「それは、眷族によるものと考えるとわかりやすい。眷属とは、本来、神の使者を意味し、その多くは神と関連する想像上の動物を含めた動物の姿を持つのじゃが、神道では、蛇や狐、龍などがそれにあたる。また、彼らは神使と呼ばれたりもしておるが、いずれにしても、人間を越える力を持つため、“眷属神”とも呼ばれ、眷属神そのものを祀る神社まで存在しておる」

    『神社では同じように扱われていますが、神と眷属はまったく立場が異なるわけですね』

    陰陽師は神と眷属と人間を図で描きながら続ける。

    「いずれにしても、そのような眷属には願いを叶える力がある反面、その代償を求められるという負の側面がついて回ることを忘れてはならん」

    『それについては、どこかで同じような話を聞いたことがあります』

    「そもそも、宇宙の秩序を司る本物の神様は、我々下々の私利私欲に満ちた願い事などに耳を傾けるはずはない。そのような願い事を聞いてくれるのは、神様ではなく眷族と考えた方がよい。そして、眷族に限らず、我々の私利私欲に満ちた願いに耳を傾ける存在には、その対価として不利益をもたらす力も同時に持っていることもよく肝に銘じておくことじゃ」

    青年は目を見張り、表情がこわばる。陰陽師は青年を横目に続ける。

    「何の霊障がグッズ類についているかは鑑定してみて初めてわかるわけじゃが、ほとんどの場合、グッズ類についている霊障というのは自らの念が自分に跳ね返ってきたものか、それらの眷属にものごとを頼んだ代償と考えてよい。そのような意味で、くだんの御本尊なぞも丁重に扱っていれば利益をもたらすのじゃろうが、ぞんざいな扱いをした途端に機嫌を悪くして良くない事態を引き起こしたとしても何ら不思議はないわけじゃな」

    『そう言えば、自宅の敷地内にお稲荷さんを祀っていて、次の代の子孫に信仰心がなくて放置していてよからぬことが起きた、という話はよく聞きます』

    「たとえば、家業は三代で潰れる、という諺などは、そのあたりの経緯をよく伝えておるわけじゃ」

    『つまり、初代が自力で乗り超えることが不可能な大きな壁にぶち当たり、もはや自分の力ではどうしようもない時に、本物の神様ではないおキツネ様に救済を頼み、一度は窮地を回避できたとしても、二代目はともかく、孫である三代目がそのような先代の恩をないがしろにしたりすると、おキツネ様から強烈なしっぺ返しを受けるということなのですね』

    「まさに、その通りじゃ」

    陰陽師は首肯して、言葉を続ける。

    「話を先ほどの御本尊に戻すとすれば、仮に新品の御本尊に霊障がなかったとしても、先代が読経しながら私利私欲に満ちた願い事をし続けたりしていると、信心のない子孫が御本尊を雑に扱うことによって霊障を受けるということは十分に想定できるわけじゃな」

    『願いを叶えたいとか、ピンチな状況から助かりたいというのは欲と言えなくもないのですね』

    「その通りじゃ。大乗仏教はいざ知らず、生身のブッダは、夫が妻のことを思う、両親が子供のことを思うことすらも“愛欲”だと断じておるわけじゃから」

    『たしかに、人間は、弱い生き物なわけですから、ともすれば大局な見地を忘れ、私利私欲に走る傾向は強いと。宗教を信じていると言っている人間にしても、自分のことを丁重に扱ってくれる他人に対しては優しく接するものの、自分に害を与える他人には攻撃することが多いですし、我々の私利私欲に満ちた願いを叶えてくれる存在というのも、あまり人間と変わらない気がします』

    「すがる対象が、生身の人間か見えない存在かの違いであって、結局は他力本願であることには変わりはないからのう」

    『これからも、御本尊を大切にしている方々の信仰心は尊重しようと思いますが、信仰心によって生じる代償みたいなものについては気をつけたいと思います』

    「そうじゃな。ただ、中には精神統一を目的としたり、内なる自分に向けて読経している人々もおるじゃろうから、読経を一概に否定するような態度をとらないようにの」

    青年は納得するように何度もうなずく。

    『そういった目的や効果もあるのですね。瞑想のような使い方でしたら御本尊に念がやどりにくい気がします。それと、天命を生きるようにシフトしてから、必要なことは自然に目の前の現象として現れるような気がしていますので、今手に入っていないことを願い求めてしまうのは、現世利益を求める欲に引っ張られている状態なのだということがようやくわかってきたような気がします』

    「先ほども話したように、かのブッダも、欲と執着から解放されることの重要さを説いておるものの、ワシら凡人にとっては、言うは易し行うは難しで、欲や執着から離れることは、いわば一生をかけて成し遂げる究極の目標のようなものなのじゃ」

    『はい。これからも欲や執着と向き合うことが多いと思いますが、人にもグッズにも生き霊や念を飛ばして霊障を与えぬよう、目の前のことを淡々と真摯に取り組んでいきたいと思います』

    真剣な表情で青年は頭を下げ、陰陽師は笑みをたたえて小さく頷いた。

    「ともかく大事なことは、カミとは願いを聞いてもらう存在ではなく、感謝をする存在だということをよく肝に銘じることじゃ。前にも話したように、我々人間が考えられる世界を“思議”と呼ぶ。そして、神が考える領域を“不可思議”と呼ぶ。その意味するところは、我々人間からしてみると大きな失敗や不幸というものも、実は大きな成功や幸福の序曲だったりすることがままある」

    『つまり、大きな山が来るためには、まず谷が必要なのですね』

    「まあ、簡単に言うと、そういうことじゃな」

    青年のおかしな比喩に笑いながら、陰陽師はつけ加えた。

    「いずれにしても、グッズの無害化は今夜中にしておくから、気をつけて帰るのじゃぞ」

    『よろしくお願いいたします。いつもありがとうございます』

    青年は席を立ち、深く頭を下げた。陰陽師は微笑んで応え、青年を見送るのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第14話:家出少女と誘拐犯

    青年は思い悩んでいた。

    先日ニュースで報道されていた、“埼玉女子中学生誘拐事件”についてである。

    誘拐事件の容疑者である男性は不動産業に従事しており、“家出したい”とツイッターで発信していた女子中学生二人を呼び、彼が管理していた埼玉県にある借家に住まわせていたという。

    二人はそれぞれ個室を与えられ、外出は自由。食事は一日三回、入浴や携帯電話の使用も制限されていなかった。また、兵庫県の中学生は親に安否を知らせる手紙を出していたという。

    養ってもらうための唯一と思われる条件が“勉強すること”で、容疑者は女子中学生二人に学校の科目のほかに不動産業の勉強をさせており、保護された時は勉強中だったとのこと。

    青年にはどうしても容疑者の男性が悪人とは思えなかったため、今回の事件の要因を知るべく、陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、こんばんは。今日は魂の属性の観点から事件について教えていただきたいです』

    「今度は事件についてとな。そなたもいろんなことに関心を持つようになったようじゃの」

    『霊障の影響や魂について学んだことで、いろんなことに興味を持つようになりました』

    青年は大きく頷いて答えた。

    「ちなみに、どんな事件かの?」

    青年はウェブで確認した事件の概要を話した。陰陽師は時折、指を小刻みに震わせて話を聞いていた。

    『家出したいと発信することはあっても、実際に家出するのはなかなか勇気がいることだと思います。女子中学生の一人は兵庫県から埼玉県へと、かなり遠方から来ていたようですし。これは誘拐というより、女子中学生たちが自分の意思で容疑者の元へ行ったわけであって、それくらい嫌なことが家庭で起きていたのではないかと思います』

    珍しく饒舌な青年。長所である“一見不可思議な正義感”が表れているのだろうか。

    「話を聞きながら鑑定をしておったのじゃが、
    容疑者の男性は頭が1、2(3)―2、魂の属性7(1―1)―7(1)、
    先祖霊の霊障はなく、魂の属性や親近性からも、世間で言う犯罪者タイプではないようじゃな」

    青年は目を見張って口を開く。

    *2(3)−2・・・転生回数が230台の魂2。
    *魂の属性3は霊媒体質、7は唯物論者。
    *7(1)の人物は主義・主張をするが、裏表がない。

    『鑑定してくださってありがとうございます。容疑者の男性は、頭が1で、“2:制服組(軍人・福祉)”階級ですか。魂2ということは、身寄りがなく自活能力に乏しい女子中学生を支援したという意味で、福祉方面での役割(第4話参照)が発揮されたのでしょうか?』

    「そういった捉え方も一理あるの」

    『先祖霊の霊障がないとしても今回のような事件になる以上、何か他の要因が考えられないでしょうか?』

    陰陽師は紙に新たな数字を書きながら、説明を再開する。

    「まず、この男性は輪廻転生が230回台であることから、そもそも数奇な運命をたどる可能性は極めて高いということがいえるじゃろうな」

    『なるほど』

    「あと考えられるのは、この容疑者の場合、天命運に2、5、17の相が色濃く出ておるな」

    『なるほど、天命運の方でしたか。ちなみに、天命運の数字は先祖霊の霊障の種類(第2話参照)と同じなのでしょうか?』

    陰陽師は首肯して答える。青年は慌てて霊障の種類が書かれた紙を取り出した。

    『2は仕事で、5が事故/事件、17は天啓/憑依ですね。容疑者の男性は魂2なので、17は天啓ということで合っていますか?』

    「その通りじゃ。勉強の成果が出ておるな」

    青年は調子に乗ったのか、表情を輝かせながら解説を始める。

    『これらの相から察するに、容疑者の奉仕精神が17の天啓によって現在の日本の法律では違法行為となる形で表れてしまい、事件となってしまった。しかも、仕事運が塞がれていることから、女子中学生二人を養えるほどの経済的余裕があるくらいに仕事が順調だったものの、今回の事件で仕事も失われてしまったのではないかと』

    「5:事故/事件の相の影響で、今回の事件を引き起こす方向へ人生がズレてしまったとは言えるかもしれんが、そのほかはこじつけと言わないまでも、かなり我田引水というか、牽強付会な解釈のようじゃな」

    大きく肩を落とす青年。その様子を見て、陰陽師は体を揺らして笑う。

    『まだまだです・・・。とは言え、僕個人の見解として、容疑者は純粋な悪人とは思えないのです。“将来、仕事を手伝わせるためだった”という個人的な願望によって養うことを条件に勉強させていたようですが、見方によっては学業だけでなく将来のことも視野に入れて女子中学生の面倒を見ていたと言えなくもないかと』

    「容疑者本人に実際に悪意があったかどうかは断言できぬが、この事件を容疑者を中心にみるかぎり、天命運の障害によって引き起こされた可能性は高いじゃろうな」

    青年は真剣な表情でうなずく。陰陽師は再び指を小刻みに動かし、紙に数字を書いていく。

    「ちなみに、兵庫県の女子中学生は、
    頭1、3(9)―3(武士)、魂の属性7(1−1)−7(1)で、
    先祖霊の霊障はなく、天命運に2、6、14、17の相が出ておる。

    一方、さいたま市の女子中学生は、
    頭1、2(4)ー3(武士)、魂の属性7(1−1)―7(1)で、
    先祖霊の霊障はなく、天命運に6、14、17の相が出ておる」

    『6は家庭の相でしたね。たしか、複雑な家庭環境で育つ、親と折り合いが悪い、あるいは自分が親となって家庭を持った時に複雑な家庭環境となってしまったり、子供との折り合いが悪くなる、そうでしたね』

    「そのとおりじゃ」

    『二人とも5の事故/事件の相がないのに今回の事件が起きてしまったということは、6の家庭の方に家出の原因があったのでしょうか?』

    「その前に二人の両親も鑑定しておくとしよう」

    『よろしくお願いします』

    事件の加害者と被害者の話かと思いきや、家族関係の話へ展開していく。
    霊障や天命運による因果関係というのは、当事者たちだけではなく、その家族まで関係してくるから、実に複雑怪奇な様相を呈する場合が多いようだった。

    「まずは兵庫県の女子中学生の両親じゃが、
    父親は、頭1、3(9)―3(武士)、魂の属性7(1−1)−7(1)で、
    先祖霊の霊障はないが、天命運に6、8、14、17の相が出ておる。

    母親は、頭2、2(3)−4、魂の属性3(1−3)―7(3)で、
    先祖霊の霊障に6〜15が、天命運に2、6、8、14、17が出ておる」

    青年は陰陽師のメモ書きを食い入るように見つめる。

    「今度はさいたま市の女子中学生の両親じゃが、
    父親は、頭1、2(4)−3(武士)、魂の属性7(1−1)―7(1)で、
    先祖霊の霊障はなく、天命運の障害は8、14、17の相が出ておる。

    母親は、頭1、2(3)−4、魂の属性7(1−7)―7(1)で、
    先祖霊の霊障はないが、天命運の障害に2、6、8、14、17の相が出ておる」

    『魂の階級や属性を見るに、どちらも父親の霊統を受け継いでいますね。そして、母親がともに2−4だと・・・』

    「そのとおりじゃな」

    『二人の中学生の母親がともに2−4ということは、娘さんに対して日ごろから上から目線で接していたり、理不尽な理由で感情をぶつけることが少なくなかったのではないかと思います。世間でよく言う、教育ママ系なのかもしれませんし』

    一呼吸置いてから、青年は続ける。

    『また、娘さんたちは“3:ビジネスマン”階級であるから、母親の感情的な対応に納得がいかないことがあったでしょうし、とは言え親子ですから従わなければならず、不満はたまっていく一方だったのではないかと』

    陰陽師は魂の属性の数字に丸を描き、強調する。

    「もちろん、2-3と2-4なわけじゃから本質的なところでお互いを理解し合うのは難しいという問題を捨象したとしても、双方の母親の天命運に家庭不和の相が色濃く出ているわけじゃし、兵庫県の家族にいたっては母親が先祖霊の霊障でヒステリックになりやすい傾向があるのに加え、天から何かが降りてきて、狐憑きのような状態に陥ることもあったようじゃから、唯物論者である娘さんとしては、そんな母親を理解できず、衝突を繰り返していたことは想像に難くない」

    青年は軽くのけぞり、顔を引きつらせる。

    『魂の属性3と7の価値観の合わないところが家族間で生じると大変そうですね・・・』

    「霊統が同じである父親は娘さんたちに対し、ある程度の理解を示していたのかもしれんが、家庭というのはどうしても母親の影響力が強くなりがちという事情もあわせて考えると、母娘間のミゾが問題を大きくしたのじゃろうな」

    『さいたま市のご家庭の方は、両親と共に頭が1で転生回数も2期と共通する部分がいくらかあると思いますが、兵庫県のご家庭の方は、母親の頭の1/2が異なりますし、娘さんの転生回数が3期で、“3:ビジネスマン”階級の大山(第10話参照)である3(9)なわけですから、勢いがある分、ガラ携並みの魂しか持たない母親から見たら理解不能なことが多いのかも知れませんね・・・』

    陰陽師はゆっくり首を縦に振り、青年は神妙な表情で何度もうなずく。

    『こうした両家の複雑な家庭の事情があったために二人の女子中学生たちは家出へと気持ちが大きく傾いていたところへ、天命運の障害に5:事故/事件の相がある容疑者と知り合ったために、家出を決意してしまい、今回の事件が起きたのでしょうか?』

    「その可能性は大いにあるじゃろうな。ところで」

    陰陽師はグラスに注がれた水を飲み、続ける。

    「先日、インターネットのコメントは“4:ブルーカラー”階級が多勢を占めていると伝えたが、この事件に関するコメントはわかるかの?」

    『掲示板を見ればわかります!』

    青年はスマートフォンを操作し始め、しばらくして口を開いた。

    『代表的なコメントを読み上げますね』

    《コメント1》
    自分の管理物件の空部屋に住まわせていたのか
    衣食住与えて勉強までできる環境で手も出してないんだろ?
    だとしたら人格者じゃねえか

    《コメント2》
    児童相談所よりよほどいい仕事してるじゃん

    《コメント3》
    この犯人を擁護してる人等の頭は大丈夫かね

    《コメント4》
    (コメント3に対し)
    そこらへん毒にも薬にもならない凡人よりはるかに徳が高いだろ

    《コメント5》
    足長おじさんも許されない世の中

    《コメント6》
    NPO設立して児相と一緒にやれば合法
    個人でやれば対象が未成年なら当然違法

    《コメント7》
    >2人は保護された際、勉強中だった。
    www

    青年がそれぞれのコメントを読み上げる中、陰陽師は指を小刻みに動かして鑑定している。

    「コメントの1から4は“魂4:ブルーカラー”階級で、5から7は“魂3:ビジネスマン”階級じゃな」

    『適当に抜粋しましたが、やはり魂4の方が多いのですね』

    「1から4は事件や人物といった小さい枠にフォーカスしておる。しかも上から目線で感覚的な評価に終始している感じがするじゃろう」

    青年はコメントを見返し、無言で頷く。

    「一方、5と6は事件や人物を踏まえた上で合法や違法など社会の仕組みについて触れており、何が原因でどうすればよいのかといった点まで考えたうえでコメントしておる」

    『気に入る、気に食わないといった感情論でものを言うのは自由ですが、それだけでは物事の改善に繋がりにくいでしょうし、建設的とは言い難いと思います』

    青年は背もたてに寄りかかり、腕を組む。

    『コメント7は魂4かと思ったのですが、そうでもないのですね』

    「このコメントを一読する限り、一見魂4のコメントと思うじゃろうが、よく読んでみると、本当に従来の誘拐事件なのかという問題提起をしつつ、そのズレを面白おかしく捉えている。これなどはどちらかいうと魂3の発想なのじゃな」

    『なるほど。コメントだけ見ると短絡的な印象ですが、引用元とセットで考えるとわかります。ただ』

    青年は眉間にシワを寄せながら言う。

    『コメントの数を見ると半分より少し魂4が多い程度ですので、意外と魂3も発信していませんか?』

    「それは抜粋したそなたが魂3じゃから、魂3のコメントに反応しやすかったのじゃろう」

    『なるほど。適当になんとなく気になったコメントを読み上げただけなので、そうかもしれません』

    「仮に初期段階で魂3と魂4のコメント数がきっこうしていたとしても、賛同されるコメントの数と引用コメントがつきやすいのは、そのコメントを読む人数から考えてもみても魂4が発信したものなのじゃから、結果、魂4の声がネットで目立ち、世論の主流となりやすいという結果になるのじゃよ」

    『魂3は魂3が発信したコメントに同意したとしても、あえてコメント欄で賛同の意を示さない印象です。僕だけかもしれませんが・・・』

    「今回のコメントの抜粋はひとつの例に過ぎんが、発信されるコメント数とどんな内容がコメントの中で語られているかを観察する重要さを少しは認識できたじゃろう?」

    陰陽師は微笑みながら言い、青年は背筋を伸ばして答える。

    『はい。これからは世間で起きる様々な事象について、登場人物やことの善悪といった表層的な問題だけでなく、その背景となる人間模様や、当人たちの属性や霊障の有無なども視野にいれて考察していこうと思います』

    陰陽師は時刻を確認し、口を開く。

    「ちょうどいい時間じゃな。今日はここまでにしようかの」

    『今日もありがとうございます。また気になる事件や出来事があったらご教授ください』

    「あいわかった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深く頭を下げる。陰陽師は優しい笑みをたたえながら青年を見送った。

  • 新千夜一夜物語 第13話:衆愚政治とインターネット

    青年は思い悩んでいた。

    ネットが参加意識の高い“4:ブルーカラー”階級に占領されており、政治だけでなく文化までもが影響を受けていることに対してである。
    今の青年には魂4に動かされる世の中がどのような方向に向かうのか、見当もつかなかった。

    そこで、いつものように、青年は陰陽師の元を訪ねることにした。

    『先生、こんばんは。今日も政治について教えてください』

    「今日は政治の何について知りたいのかの?」

    『まず最初の質問として、万が一魂4が政治を主導した場合、世の中はいったいどうなるのでしょうか?』

    「そなたは“衆愚政治”という概念を知っておるかの?」

    『はい。細かいことはともかくとして、そのような政治形態が結果的に失敗だったということは知っています。毎度のことながら、詳しくは覚えていませんが・・・』

    頭をかきながら青年は言い、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「まず衆愚政治の基本的概念について説明しておくと、衆愚政治とは紀元前5世紀末、古代ギリシア時代のアテネにおいて、デマゴゴス(民衆/扇動指導者)が国政の最高決定機関である民会を牛耳った民主政治のことをさしている。ここまではいいかの?」

    青年は真剣な表情で首肯する。

    「それに少し話を加えると、衆愚政治になる前はペリクレス(頭1、2(3)―3武士)という人物が市民の参政権を拡大し、議員をくじで選ぶようにするなど“民主政”を完成させた。そして、彼が民衆の指導者となったことでアテネは全盛期を迎えたのじゃ」

    『ペリクレスは頭が1の、転生回数が230回で“3:ビジネスマン”階級の武士だったのですね。全盛期にするほどの人物なので“1:先導者”階級か武将タイプだと思っていました』

    「ペリクレスの場合、様々な改革をしていたわけじゃから、人々の意見を吸い上げるというより、どちらかと言うとワンマンで切り開いていく武士の素質を存分に発揮したのであろうな」

    『なるほど。ちなみに、ペリクレスが民主政の土台を作り上げたように思いますが、どうして後の世代で衰退していったのでしょうか?』

    「端的に言うと、後任の指導者に問題があった。疫病で彼が命を落とすと、戦争の継続を望む下層民を主体とした主戦派と、富裕市民を中心とした和平派に分かれて対立することになってしまう。結果的に主戦派の扇動政治家が一時的な覇権を握ったものの、失策を重ねた挙句に、戦争に敗北してしまったわけじゃ」

    青年は腕を組み、うなりながら口を開く。

    『主戦派が魂4で、和平派が魂1〜3という感じですね。それにしても、どうして下層民は戦争をしたがったのでしょうか? 日本では戦さが始まると被害を受けるのは農村なので、下層民は反対しそうなものですが』

    「当時のアテネは海軍が主力で、船の漕ぎ手が主に下層民であったことから、アテネが戦争に勝利をした場合、その功績に報じて彼らにも戦利品の分け前があったわけじゃな」

    『文字通り、生死をかけた船の漕ぎ手たち、彼らの協力抜きにアテネは勝利できなかったわけですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    「一方、富裕市民が戦争に反対する理由は、戦争の費用は彼らが担っていたことによる」

    『つまり、戦争をすれば下層民は富を得られ、反対に、富裕市民たちの財産はなくなっていくと。実にわかりやすい構図ですね』

    「その結果どうなったかと言えば、主戦派であったクレオン(頭2、2(7)−4)が中心になって一時は政権を握ったものの、失策を重ね、最終的に戦争で敗北を喫し、その後アテネが衰退していった経緯は歴史書にある通りじゃ」

    『輪廻転生の期を問わず70回台は“大山”だったと記憶していますが、よりによってあの時期にクレオンが台頭したのは、アテネにとってタイミングが悪かったとしか・・・』

    青年は小さく首を振る。

    「まさにそのとおりじゃ。そして、浮動的な民衆には理性的な判断を行うのが難しいという歴史の悪例として、この一件は現代にまで語り継がれてしまうこととなるわけじゃ」

    『優れた人物が指導していた民主政は栄えたものの、適任となる指導者がいないと衆愚政治は、結果として、衰退に向かってしまったわけですね・・・』

    青年の言葉に、陰陽師は賛同の表情でうなずく。

    「衆愚政治は、愚劣で堕落した政治といった表現をされることもあるが、実際、プラトン(頭1、2(7)−3武士)やアリストテレス(頭1、1(3)−1)といった当時の代表的な思想家たちによっても批判の対象となっておったわけじゃしな」

    『大昔においても、思想家やエリートである魂1〜3の意見と、衆愚政治の中心となった魂4の意見は相入れなかったのですね』

    青年は腕を組み直して言い、陰陽師は首肯する。

    『鑑定結果を見る限り、プラトンかアリストテレスのどちらかが政治家になっていれば、事態はもっといい方向に推移したのでしょうね? どちらも頭が1ですし、プラトンは転生回数が大山の70回台ですし、アリストテレスに至っては“1:先導者”階級ではありませんか』

    「たしかに、属性からみるとそなたの意見も一理あるとは思うが、そうはいっても各人の人生じゃ、歴史書を紐解く限り、プラトンはプラトンで当時の政治情勢に失望し哲学の道に進んだようであるし、アリストテレスはアリストテレスで政治家よりも教師の方に天命を感じていたらしいからな」

    『なるほど、プラトンにしろアリストテレスにしろ、それぞれ政治家以外のところに天命を見出していたのですね。そうして、彼らの意見が大衆に届きにくくなると同時に、魂4の人々の意見が国論の中心になってしまったと・・・』

    青年はため息をついて顔を伏せる。陰陽師は少し間を置いてから口を開く。

    「衆愚政治とは、極端な言い方をすると、民衆が参政権を獲得したことにそもそもの端を発しているともいえるわけじゃが、実は、現代の社会状況もあの時代に酷似しているという見方もできるんじゃ」

    『え、現代が衆愚政治の時代と似ているとおっしゃるのですか?』

    「うむ」

    『しかし、それはどのような意味なのでしょう?』

    「端的に言うと、インターネットの出現がその引き金となったわけじゃな」

    『ギリシア時代、初めて民衆が参政権を得た結果、魂4の人々が政治に直接の影響を持つようになったという経緯はよくわかりますが、インターネットが世論や政治に直接的な影響を与えているというお話は、どうもピンと来ないのですが、先生は何を根拠にそのようにおっしゃるのでしょうか?』

    「インターネットが民衆に与えたのが“発言権”だった、と言えばわかりやすいかの?」

    『発言権ですか』

    青年は首を傾げながら唸る。陰陽師は二つの図を描きながら説明を始める。

    「インターネットが存在しなかった20世紀終盤まで、情報を発信するのはマスメディアの専売特許じゃった。政治やスポーツや芸能関係の情報を、民衆は一方的に受け取るだけで、逆発信するツールを持っていなかったわけじゃな。もちろん、報道内容に関する電話でのクレームや投書という手段はあったものの、それらが世論に大きな影響を及ぼすことはほとんどなかった」

    何度も頷いてみせる青年。陰陽師は青年の聞く姿勢を確認し、先を続ける。

    「ところが最近では特にSNSが出現したことにより、ウェブ上とはいえ、魂4の人間たちが自由に様々な意見を発信できるようになった。つまり、今までは相手にされなかった彼らの声が自由に世の中に出回るようになってきたわけじゃな」

    『そう言えば、一部の人が政治や芸能人の言動を批判したり、彼ら自身がSNSやTwitterで発言やリツイートをしてみたり、企業にクレームを入れることによって様々な意見が拡散され、結果炎上しているのをよく見かけます』

    青年が大きく頷く。

    「そればかりではない。最近の野球放映では、リアルタイムで観戦者のコメントが画面上に表示されるのじゃが、野球が魂4の好むスポーツだということを割り引いても、それらのコメントのほぼすべては魂4のものなのじゃ」

    『なるほど。そんなところにも魂4の参加意識の強さが如実に表れているのですね』

    ふたたび大きく頷く青年の顔を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「ちなみに、その際の役割分担を説明しておくと、事件や有名人のスキャンダルに直接噛みつくのは基本的に2−4、煽って拡散するのが4−4という基本構造になっておる」

    『たしかに理解できない部分で怒りを露わにしているコメントをよく見かけますが、今のお話からすると、それらのコメントは2-4、4-4の別はともかくとして、ほぼ魂4の人々が発信しているわけですね』

    青年は深くうなずいて見せ、陰陽師も首肯する。

    『以前、魂4の人々は参加意識が強いだけでなく正義感も強いとお聞きしましたから、スキャンダルや諸問題について意見を言うのはもっともだと思います。ですが、正義感が強いのですから、それはそれで悪いことではない気もするのですが』

    「基本的にはそなたの言う通りなのじゃ。だが、以前にも話したように、問題は彼らのものの見方が往々にして大局観に欠けていることから、その正義感が偏狭なものとなってしまうという側面がある」

    『先日、京都の話題(第12話参照)で魂1〜3と魂4とで味覚や価値観が異なるという話をお聞きしましたが、同じ様に、魂4の人々の正義感や倫理観は、時として、魂1〜3の人々に受け入れられないことがあるわけですね』

    「間違いなく、その傾向はあるじゃろうな。それに加え、問題なのは、彼らの参加意識の高さじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえば、芸能人の不倫という事件が起こったとする。我々魂1~3の場合、それらの話題を飲み会の席などで酒のつまみとして取り上げることがあったとしても、そもそも客観的な事情もよくわからない他人のプライベートな問題について、ネットで我がことのように評論する可能性は極めて低い」

    『おっしゃる通りです。日常で自分と関わることがない人物の話をするくらいなら、仕事のことや、将来に関する話をする方が有意義な時間の使い方だと僕も思います』

    陰陽師は首肯して答える。

    「しかし、彼らは違う。偏狭な正義感を振りかざし、挙句の果てには、人間じゃない、死んでお詫びをしろ、といった過激なコメントがネット上に溢れることが多々あるのは、そなたが一番よく知っておるであろう」

    青年は苦笑しながら言う。

    『たしかに、そのあたりはおっしゃる通りかもしれませんね。さすがの僕からみても、どうしてこんなプライベートな問題を、我がことのように、しかも上から目線でコメントできるんだろう、と時々考えさせられることはたしかにありますものね』

    「参加意識の差に加え、そもそも6割を占める魂4(日本では例外的に45%)が相手じゃ。何事も多勢に無勢となり、我々魂1〜3の意見が片隅に追いやられてしまう危険性はこれからも大きくなりこそすれ、小さくなることはないじゃろう」

    『せっかく魂1〜3の人が大局的なコメントを挙げたとしても、魂4の人々の反対意見に、ともすれば潰されてしまう可能性はたしかに高いと思います・・・』

    青年は表情を曇らせて顔を伏せる。陰陽師は紙にペンを走らせながら口を開く。

    「ネットの出現以前、発言のツールを一切持たなかった彼らがネットの出現によって発言権を持った結果、最近ではマスコミもテレビ局もネットのコメントに気を遣わざるを得ない現状になりつつあるようじゃ」

    『そのあたりを、もう少し詳しく教えてください』

    陰陽師は、眉間に微かに皺を寄せながら、先を続ける。

    「たとえばNHKならともかく、民放ではニュース番組でも、放映するにしてもスポンサーが必要となることは、わかるな?」

    『もちろんです』

    「と言うことは、民放側としても、スポンサーの意向には逆らえないという側面がある。一方スポンサー側はスポンサー側で、自社の商品を買ってもらうために、ネット上の意見、同行に極めて神経質にならざるを得なくなるという構図が存在する」

    『つまり、ネットの意見に敏感になりつつスポンサーの意向を、民放の報道番組は忖度せざるをえないと』

    「まあ、端的に言うとそうなるわけじゃ。そして、この問題は民放の報道番組にとどまらず、たとえば紙媒体の新聞社などにも当てはまることとなる」

    『たしかに、ただでさえ発行部数が落ちている新聞社としても、魂4が形成する世論に真っ向から反対しづらいでしょうからね』

    「そのとおりじゃな」

    陰陽師は、青年の言葉に小さく頷いた後で、言葉を続けた。

    「マスコミが今話したような状態に陥ってしまった現在、その余波を受けるように、一般大衆を引っ張るべき政治家までもが魂4の顔色をうかがう、というような嘆かわしい事態も恒常化するようになるわけじゃなる」

    『つまり、最近話題になっている“政治家の小型化”などといった問題も、根本はそのあたりにあるわけですね』

    「もちろんじゃ」

    しばらく思案顔でだまりこんでいた青年が、おもむろに口を開いた。

    『たぶん、今の話に関連するのだと思うのですが、最近はテレビ番組がつまらなくなったという声を聞きます。たしかに、刺激的で、過激な内容の番組が影を潜め、代わりにグルメ番組や旅番組といったあたりさわりのない番組が増えてきたような気がします。それと、“番組中に不適切な表現がありました”というコメントをたまに見かけますが、ああいった対応もネットのコメントを気にした結果なのですね。個人的には、あのくらいの内容であの手のコメントを出す必要はまったく感じないのですが』

    陰陽師はグラスに注がれた水を一口飲み、答える。

    「昨今の政治家は、ネットをベースとした世論の上げ足取りや見当違いな政治批判を気にするあまり、思い切った発言や討論が難しい状態に置かれているわけじゃが、それもこれも魂4の人間たちがネットで多勢となっていることが、そもそもの原因といえるじゃろうな」

    『古代ギリシアでいうところの、2−4が4-4を扇動し、それに感化された4−4が暴動を起こすといった構造とまったく同じなのですね』

    青年は手を打ち、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「今の政治の在り方を短絡的に判断するつもりはないが、歴史が繰り返されていることは間違いない事実なのじゃろうな」

    『大昔のギリシアの轍を繰り返さないことを切に願うばかりです。そしてあのような歴史を反面教師として、ふたたび政治が “衆愚政治”の方向性に向かわぬよう、微力ながら僕も様々な行動を起こしていきたいと思います』

    姿勢を正し、真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は深く頷いて答える。

    「そなたが言うように、現代社会がギリシア時代の過ちを繰り返すとはかならずしも限らんが、魂1〜3の人々が世の中のあらゆる事象に対し、大局的な見地を持って積極的に意見を表明することが切に求められている時期であることは紛れもない事実じゃろう。ネットに大局的見地に基づいた意見を表明するにしろ、清き一票を投じるにしろな」

    『わかりました。これからは、ネットの情報をよく吟味して、僕なりの意見をしっかり発信していきたいと思います』

    「ああ、その意気じゃ」

    大きく頷いたあとで、何か言いたげな青年に陰陽師が訊ねかけた。

    「どうした、何か言いたいことがありそうじゃが」

    『実は』

    「うむ」

    『今日先生と話し合った内容を、ネットにアップすることは問題ないでしょうか?』

    「もちろんじゃとも」

    青年の意図を理解すると、陰陽師は青年の背中を叩いた。

    「今回ワシらが話し合った内容をインターネットにアップし、魂1~3の人間たちに考えるきっかけを持ってもらうことは、とても意味のあることだとワシも思う。そなたが早速そのような行動に出てくれることは、ワシとしても望外のよろこびじゃ」

    青年は真剣な表情で自らの使命に思いを巡らし始めていた。そんな青年の表情を眺めながら、陰陽師は微笑をたたえて小さくうなずいた。

    青年は帰路の途中、電車の中でインターネット上のコメントに新たな気持ちで目を通していた。表面上の言葉に捉われずに様々なコメントを観察するように読んでみると、今まで見逃してきた様々な事象が見えてきたのだった。

  • 新千夜一夜物語 第12話:京都人と魂の属性

    青年はイライラしていた。

    先日、京都に出張した際の出来事に対してである。

    道の真ん中を歩いていたわけではないのに、少しよそ見をしていたらクラクションを鳴らされたり、歩行者が赤信号を強引に渡ってきて、自分が乗っていた自動車が轢きそうになることもあった。

    他にも気分を害する出来事がいくつかあり、京都にフォーカスした漫画をたまたま読んだことをきっかけに、色々と思い出したのだった。

    京都の人の9割近くが2−4(転生回数が200回台で魂の属性“4:ブルーカラー”階級)という陰陽師の言葉を思い出し、再び青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、どうして京都の人はあんな性格の人が多いのでしょうか?』

    「一言であんな性格と言われても返答に困るが、そなたが言いたいことは察しがつく」

    陰陽師は苦笑しながらうなずいてみせる。

    『先日のお話の中、京都の人の9割近くが2−4だとおっしゃいましたが、それと関係があるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも」

    『やはりそうですか。それにしても、京都は歴史のある都市であるから、むしろ“1:先導者”階級や“3:ビジネスマン(武士・武将)”階級が多く住む土地だと思っていました。歴史的建造物だって、魂3の人々の技術がなければできなかったでしょうし』

    「魂の階級と役割について、だいぶ真剣に勉強しておるようじゃな」

    そう言いながら陰陽師は微笑み、照れた青年は笑顔を作りながら顔をふせる。

    「そなたが言った通り、確かに室町時代まで京都は日本の中心じゃったが、まず、徳川家康が江戸幕府を開いたことで、文字通り、日本が二分されてしまった」

    『たしかに、江戸幕府は15代まで続きましたし、今も皇居が東京にあるわけですから、それ以来江戸が京都とならび日本を二分したのだと思います』

    「そして決定だったのが、明治維新じゃ。大政奉還が二条城で行われたことからもわかるように、江戸時代も江戸幕府があるにもかかわらず、京都・大阪はまだまだ大きな役割を果たしていた。特に京都には天皇と公家たちが揃って残っていたわけじゃから、文化という点では依然として日本の中心だったわけじゃ」

    『しかし、明治維新によって天皇を中心としたそれらの人々まで、こぞって東京に移住してしまったわけですね』

    「その通りじゃ。そしてその結果、商人や町民だけが残ったのが今の京都というわけじゃよ」

    『なるほど。魂1〜3の人々がごそっといなくなってしまったために4の人の比率が圧倒的に多くなってしまったわけですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    『それにしたって、京都の人は遠回しに嫌味を言ってきたり、旅行者に対して上から目線で接してくる印象があります。ということは、そもそも“4:ブルーカラー”階級の人々は性格が悪いのでしょうか?』

    それを言ってしまうと、地球の6割の人間の性格が悪くなってしまう。とんでもない言い草である。

    陰陽師は声を出して笑う。青年は何がおかしいのかわからないのか、きょとんとしている。

    「一括りにそう決めてはいくらなんでも無理がある。京都で“イケズ”や遠回しに言う文化が根付いている一端は、住民のほとんどが2-4だということは大きいじゃろうな」

    『ところで、僕が読んだ漫画では京都の人はイケズや遠回しな言い方をするけど、面と向かってもめたくないからガチンコの喧嘩に弱い、というようなことが描かれていました』

    「その手のものをほとんど読まんので全体的な話はともかく、そなたのいう漫画の登場人物を鑑定すれば、2−4であるかどうかはすぐにわかることじゃがな」

    『えっ、漫画のキャラも鑑定できるのですか!』

    青年は感嘆の声をあげ、陰陽師は微笑みで応える。

    『その漫画の中で特に気になったのが、京都の中心部にある老舗の扇屋の女子大生のキャラクターがいまして、遠回しに嫌味を言ったり、お客さんが帰った後に陰口を叩いたりしています。さらに、住んでいる場所が京都内のカーストで上位らしく、そのことを鼻にかけてカースト下位の土地に住むキャラクターを見下しているのですが、2−4でしょうか?』

    「鑑定してみよう。少し待ちたまえ」

    陰陽師は半眼になって小刻みに指を動かす。

    「うむ、典型的な2−4じゃな」

    『やはりですか』

    的中したのが嬉しかったのか、青年は笑みを浮かべて言った。

    『ちなみに、メインの登場人物がタバコ屋の若い女性なのですが、このキャラクターはクールで顔や言葉は怖く描かれていますが、観光客にお得な情報を伝えていたり、人情味のある行動をしていて判別が難しいです』

    「どれどれ」

    再び陰陽師が鑑定を始める。青年は落ち着かない様子で答えを待つ。

    「そのキャラは“3:ビジネスマン”階級、しかも(1)-2(4)-3じゃな」

    『なるほど。数少ない1割の方なのですね。ただ、女主人公の幼なじみは対照的で、感情的といいますか行動がムチャクチャなシングルマザーなのですが、女主人公と仲がいいことから、魂3のキャラクターでしょうか?』

    「ふむ」

    再々度、陰陽師は鑑定を始める。青年は腕を組んで結果を待つ。

    「そのキャラクターは一見典型的な2−4に見えるかもしれないが、間違いなく、“3:ビジネスマン”階級じゃな」

    『てっきり2-4かと思っていましたが、僕の勘違いなのですね』

    「人間というものは、かなり複雑な要素を内包しておる生き物じゃ。だから、表面的な言動だけでなく、もっと深い人間観察が重要となるが、いずれにしても、その漫画に出てくる登場人物同様、京都人のほとんどが2-4であることは間違いない」

    『つまり、2−4がどんな人物なのかを知りたい場合、京都の人たちを観察したり、京都に行けない場合はその漫画を読めばいいということですね』

    「今度ワシもその漫画に目を通してみるが、今ざっとみても、京都およびそこに住む人々の特徴をなかなかよくとらえた漫画のようじゃな」

    陰陽師は首肯して答える。

    「ところで、そなたは京都へはよく行くのか」

    『よくと言うわけではないにしても、あちらに友人知人もそれなりにいますから、年に数回は行っている計算になりますね』

    「そなたがそれほど京都に精通しているのであれば、ワシが実際に体験した京都での2−4絡みの出来事を話そう」

    『それは興味深い話ですね。ぜひ、よろしくお願いします』

    「仕事柄、ワシは京都にも拠点を持っておるのじゃが、ある日、郵便受けに一通の手紙が入っていたんじゃ。内容は、“下の階の者ですが、音がうるさいので静かにしてください”というものじゃった」

    『先生が遅い時間に騒音を出すとは思えませんが、意外です』

    「ワシは常日頃BOSEのスピーカーを愛用しておるのじゃが、住んでいるのがマンションということで、防音は大丈夫だと油断してしまったわしも悪いのじゃが、いずれにしても、次の日に菓子折をもって下の階の住民に謝罪しにいったわけじゃよ」

    青年は体をのけぞらせて目を見張る。

    『菓子折まで用意するのですか。京都ではそれくらい当たり前かもしれませんが』

    「そのあたりの話はともかく、問題は、真下の部屋の住民に心当たりがないと言われたことじゃった」

    『え、そうなのですか?』

    「それで、今度はその両隣の部屋のインターフォンを鳴らして事情を説明したのじゃが、これまた全員心当たりがないと言うんじゃ」

    青年は首をかしげ、唸り声をあげる。当時のことを思い出してか、陰陽師の表情に笑みが浮かぶ。

    「下の階に手紙の主がいないことがわかったのでいったん部屋に戻り、こんどは霊能力でその手紙の主を探してみたところ、なんと隣の部屋の住民だったんじゃ」

    『まさかのお隣さんですか! 手紙には“下の階の者”って書いてあったのに』

    青年のリアクションがおかしかったのか、陰陽師は体を揺らして笑う。

    「この件があって気になったから全員を鑑定したところ、ワシが住んでいたマンションは特殊な属性の人間が多く住んでいることがわかった。9割近くが2−4である京都において、魂1〜3の住民の方が圧倒的に多かったのじゃよ」

    『なんと、それは珍しいですね』

    「そして、手紙を寄こした住民は、案の定、そのマンションでは少数派である2−4だったというわけじゃな」

    『なるほど。そういうオチですか!』

    二人は見合って笑い出す。

    「他にも京都で体験した属性の問題では、修学旅行生と、彼らを案内するタクシードライバーの関係が興味深い」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシらが学生の頃は修学旅行というと大型バスに乗って集団で移動したものじゃが、今は時代が変わり、修学旅行生のほとんどは5~6人でワンボックスタクシーに分乗し、神社仏閣の見学をしておるのじゃが、当然のこととして、ガイドはタクシーの運転手の役目となっておる」

    『修学旅行生は京都外から来ているのでいろんな階級がいそうですが、タクシードライバーは全員4という話でしょうか?』

    青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「京都中のタクシー運転手という意味では、たしかにそのとおりじゃろう。しかしワシが言いたいのはそういうことではなく、“引き寄せの法則”とても呼ぶべき現象のことなのじゃ」

    『“引き寄せの法則”とは、どのような意味なのでしょう』

    「まず5~6人でグループとなった生徒じゃが、その理由はともかく、皆2-3とか2-4とか4-4という輪廻転生も含めた同じ属性同士でグループを形成しておる。そこまではいいとしても、面白いのは、それらの学生グループと彼らを引率しているタクシー運転手の属性が、ほぼ例外なく、学生たちと一致しておることなのじゃ」

    『たしかに、それは興味深いですね。学生同士は属性による知的レベルや性格の違いから同一グループを形成することがあるにしても、初対面のタクシードライバーまでが同じ属性だとは驚きです』

    陰陽師は首肯して答える。

    「ある日、ワシが三十三間堂に立ち寄った時のことじゃ。たまたまワシのそばに二つのグループがおって、つかず離れず内部を見学しておったのじゃが、その間のやりとりがまた面白くてな」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえば、魂3同士の組み合わせの方は、歴史的建造物の歴史や建てられた歴史的背景といった学術的な説明をタクシー運転手がしたとしても、修学旅行に合わせ下準備をしてきたのか、元々それなりの知識を持っておるのか、真剣な表情でタクシー運転手の説明に耳を傾けていたリ、かなり突っ込んだ質疑応答をしておったんじゃ」

    青年は続きを促すようにうなずいて見せる。

    「一方、4-4の組み合わせの方はどうかというと、タクシー運転手は運転手で、君たちまだ若いんだからこんなもの興味ないよね、もうこんなものは、おじいちゃんおばあちゃんになって棺桶に片足を突っ込んだ頃に来ればいいんだよ、といった調子じゃし、聞いている学生たちは学生たちで、そうっすねーといった軽い感じで笑い合うという感じなのじゃ」

    『なるほど、それはとてもわかりやすい対比ですね!』

    笑顔を見せる青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。

    「話が変わるが、初めての土地で食事をする際に、そなたは食べログを使うかの?」

    『はい。知らない土地で食事をする時は必ず参考にしています』

    「ワシも食事にはちとうるさい方じゃから、当然食べログを参考にしていろんなお店に行くのじゃが」

    『えっ、そうなんですか。先生はまったく食べないか、食べても精進料理あたりかな、なんて勝手にイメージしていました』

    仙人でもあるまいし。失礼な言い草である。

    「鶏肉こそあまり食さんが、和・洋・中なんでも食べるぞ。特に寿司や焼き肉なぞは、大好物じゃ」

    青年のイメージがおかしかったのか、陰陽師は笑いながら先を続けた。

    「ある日のこと、静岡から来た客を連れて、京都で400年続く歴史もあり、格式も高いと言われている蕎麦屋に行った時のことじゃ。もちろん、食べログのコメントにも目を通したうえで店に行ったわけじゃが、これがまずくてとても食べられたしろものではなかったんじゃ」

    『つまり、食べログの評価と店の味に齟齬があったのですね』

    「そのとおりじゃ。そして、あのような目に遭ったのはあれが初めてではなかったから、あの日以来、食べログには参考意見として目を通すとしても、決して鵜呑みにはしないようにするようになった」

    『しかし、どうしてそのようなことが起こるのでしょう? 食べログがコメントを盛ったりしているのでしょうか』

    「いや、そうではなく、食べログにコメントをアップする人間の属性の問題なのじゃと思うな」

    「とおっしゃいますと」

    「以前、ネットが参加意識の高い魂4に占領されているという趣旨の話をしたと思うが、食べログに乗せられたコメントを一つ一つ見ていくと、4-4、2-4に限らず、魂4のコメントが多いんじゃ」

    『なるほど』

    「そなたのようにブログをやっていたり、芸能人のように食べたものも商売になるような一部の例外を除き、食後の感想を食べログに乗せようと思う魂1~3の確率は、魂4に比べて圧倒的に少ない」

    『僕などはまめにコメントをアップしますが、多くの魂1~3はそのようなことはしないと』

    「もちろん魂1~3といっても、現世的にみると様々な階層の人間がいるのは確かじゃ。しかし、ネットへのアップという意味では、魂4の比でないことは間違いない」

    『では、魂1~3と魂4とでは、味覚そのものにも違いがあるというわけですね』
    「もちろん、B級グルメと懐石料理をいっしょくたに語るのはどうかと思うが、繊細な料理になればなるほど、その差は歴然となるのは間違いないじゃろう」

    『なるほど』

    「さらに言えば、“コスパ”という問題もそうじゃ。かつてテレビで人気を博していたイタリアンのシェフが、自分の店で出す800円のミネラルウォーターについてのネット上のコメントを巡り、貧乏人はうちの店に来てくれなくていい、といった趣旨の発言をして干された事件があったが、あれなどは魂1~3と魂4の価値観の相違が如実に出ている例といえるじゃろうな」

    いったん言葉を切ると、陰陽師は先を続けた。

    「よって、京都での食べログの評価、特に現地の人間が発信した情報は魂の階級が4の人には参考になるじゃろうが、ワシら魂1〜3の人間は鵜呑みにしない方がいいというわけじゃな」

    『それは残念です。食べログ以前の問題として、京都でおいしいものを食べるには地元の人に聞けばいいかと思っていましたが、9割近くの人が2−4では・・・』

    青年は苦笑しながら言った。

    「さらに問題なのは、京都の大半の人間が4-4ではなく、2-4だということじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「京都の町を走っていても、地方都市の中では突出して外車の割合が高いこともその一例じゃが、2-4だから、基本的に金を持っている。じゃから、食事をするにしても、客単価1万円くらいの店だと2−4の人々で溢れているじゃろうから、本当に美味しくて食事を落ち着いた雰囲気で楽しみたいのであれば、2〜3万円だす覚悟が必要じゃろうな」

    『そこまで高級なお店に行くなら、チェーン店で安定した味か、むしろ食べログが低いお店に挑戦するかもしれません』

    それでは京都の食事を楽しめず、もったいないという意見も来そうである。

    「そうじゃな、百聞は一見に如かず。ともかく、実際に食べて体験してみるといい」

    そう言い、陰陽師は小さく笑う。青年もつられて声を出して笑う。

    『ところで話は変わりますが、京都の市・府の議員や国会議員は、どのような属性の人間が占めているのでしょうか? 京都府民の9割近くが2−4なわけですから、当然のこととして、2-4で占められているのでしょうか?』

    「京都選出の衆議院議員の中には魂3もおるが、ふたりの参議院議員そして府知事は2-4じゃな」

    『やはり、そうでしたか。選挙民が圧倒的に2-4なわけですから、価値観が似ていて賛同も得やすいのでしょうから、当選する確率だって、当然高くなりますよね』

    納得顔の青年が、質問を重ねた。

    『ところで、そのような属性の人がトップに立つと、政治や行政はどうなってしまうのでしょうか』

    「それがな、おもしろいことに悪いことばかりでもないのじゃ。以前にも説明したように、4の人々は大局的な見地には欠けるものの、正義感、倫理観が強い。また、共感能力が高いことから自分とは関係ない出来事であってもまるで自分のことのように怒り、感情的な言動をするといった特徴を持つ彼らが、府・市議、そして国会議員になるメリットのひとつとして、“福祉の充実”が挙げられる。実際、京都府では世間一般に言われる弱者に対する待遇が手厚く、たとえば障害者手帳なぞを持っていれば、東京などよりはるかに利用価値が高い」

    『たとえ大局的見地の問題はあったとしても、正義感、倫理観の強さが反映されているのですね』

    青年は何度もうなずいて見せる。

    『議員は“1:先導者”階級か魂3の武士階級が適任だと記憶していますが、京都の場合は住民の特性から2−4の人物が担う方がいいという考え方もあるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『でもそのような属性の人間が国家のトップに立った場合は、どうなってしまうのでしょう』

    「それについては、過去の歴史上の指導者を例に挙げて解説することはやぶさがではないが、短時間で説明できる問題でもないから、明日以降の話題とするとしよう」

    陰陽師の視線につられ、青年は時計に目をやった。いつもながら、気がつけば深夜になっている。

    『いつも遅い時間までありがとうございます。またよろしくお願いいたします』

    「気をつけてな」

    陰陽師は笑顔を浮かべ、うなずきながら言った。

    青年は席を立ち、深く頭を下げて部屋を出た。玄関で靴を履いていると、立ち耳のスコティッシュフォールドが青年におでこをすり寄せてきたり、横になってお腹を見せていた。猫たちにも受け入れられているように感じ、青年は笑顔で帰路につくのだった。