投稿者: あの世とこの世合同会社

  • 新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    青年は思議していた。

    スポーツ・芸能・芸術の世界において天から排除命令が出るならば、排除命令に該当する人物に鑑定結果と排除命令について伝え、事前に別の生き方を選んでもらうことはできるのではないか。

    命を落とす可能性もなきにしもあらず、特に若手や業界歴が短い人物にこそ、早めに伝えておいた方がよいだろう。

    突然そんな話を伝えても聞く耳を持ってもらえないかもしれないが、過去の偉人の例を伝え、説得するだけの材料があれば少しは耳を傾けてもらえるかもしれない。

    そう思い、青年は再び陰陽師の元を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は今後排除されてしまいそうな人物について教えていただけませんか?』

    「その話題について話すことはやぶさかではないが、いったいなにゆえに?」

    『若手や業界歴が短い人物の中で、何らかの問題を引き起こす、あるいは巻き込まれる前に防げたらいいのではと思いまして、排除命令に該当する魂の属性の人物をご存知でしたら、教えていただきたいと思ったのです』

    「本人たちに話したところで、到底納得してもらえる内容ではないと思うが、それでも知りたいのじゃな?」

    念を押す陰陽師に対し、真剣な表情でうなずく青年。
    青年の意思を感じた陰陽師は、小さくうなずいてから口を開く。

    「本題に入る前に、スポーツ・芸能・芸術の世界の厳然なルールについて、そなたの口からもう一度説明してもらえるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『上記の世界で活躍できる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:ビジネスマンであり、基本的気質と具体的性格の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します。また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する魂の属性となります』

    「なかなかよく整理されているようじゃが、大事なことをあと一つ忘れてないかな?」

    『そうでした。一部の例外として、オネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物の場合、転生回数だけが230回代すなわち“数奇な人生を歩む”属性となります』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうにうなずく。
    陰陽師の様子を確認し、青年は続ける。

    『排除命令というのは、“2−3−5−5…2”以外の魂の属性の人物が上記の業界に入ってしまった場合、何らかの事件・事故を引き起こしたり、巻き込まれることで業界から追放されてしまう現象を示しています』

    「で、排除命令に該当する例として、どのような魂の属性がおるか、覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7・・・2や2(4)―3−5−5・・・1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます。具体例としては、前者は藤圭子さん、後者はピエール瀧さんと、以前鑑定結果を教えていただいた記憶があります』

    「うむ、2-3-5-5…2ルールをなかなかよく勉強しておるようじゃな」

    微笑みながら言う陰陽師を見、青年は安堵のため息をもらす。
    そんな青年に対して小さく笑ってから、陰陽師は口を開いた。

    「で、具体的に新たに気になる人物に心当たりがあるのかな?」

    青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『若くして白血病が発症した、競泳のオリンピック選手として注目されている、池江璃花子選手はいかがなのでしょう。ルール的には大丈夫なのでしょうか?』

    青年の問いに陰陽師は無言でうなずいて見せ、鑑定結果を書き記していく。

    池江璃花子

    『なるほど。3(9)−3−5−5…“1”ということは、池江選手も・・・』

    その先の言葉を飲みこんだ青年の思いを察し、陰陽師は口を開く。

    「いくら未来が不確定じゃとしても、このまま彼女が選手として復帰するようなことがあれば、残念ながら、ふたたび病状が悪化してみたり、別の問題を起したりする可能性は高いじゃろうな」

    『天命運に“4:病気”の相がありますし、健康運が7と少し低いことを踏まえると、納得できます。ただ、7という数字は極端に低くはないと思いますので、これからの過ごし方次第で命を落とすことは避けられるのでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「もちろん、彼女が現役を退き指導者として水泳界に関わるという前提はあるが、そうしてくれさえすれば天寿を全うすることは可能じゃろう。彼女は、そもそも3(9)―3という“大々山”であることも含め、学業も大局的見地の数値も高いわけじゃから、指導者としてメダルを望める後進を育てる能力は高いはずじゃしのう」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を吐いて胸をなでおろす。

    『僕も彼女のファンでしたので、できることであればそのような道を歩んでもらえればと思います』

    「その通りじゃな。ワシも彼女の泳ぐ姿には少なからず勇気をもらったひとりとして、彼女には何とか天寿を全うしてほしいと思っておる。そのためにも、選手としての道をあきらめて指導者としての道を選んでくれること願うばかりじゃな」

    幾分気がかりそうな顔をしながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、小耳に挟んだ話では、池江選手はヒーリングを受けているようじゃが、施術者が誰なのか調べられるのかな?」

    陰陽師に問われ、すぐに青年はスマートフォンで検索を始める。

    『施術者はタレントのなべおさみです。彼の“ハンドパワー”なるものを受けているようですね』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は鑑定を始める。

    なべおさみ

    鑑定結果を見、青年は口を開く。

    『タレントだけに、やはり2(4)―3−5−5…2なのですね。しかも、“±7”の霊能持ちとは!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「鑑定結果を見る限りは、たしかにそれなりの霊能力はあるようじゃが、“カミゴト“にたずさわるためには少なくとも”±1〜3“であることが必須となることを、よもや忘れてはおるまいな?」

    陰陽師に問われ、青年はハッと息をのんで我に返る。そして、少し罰が悪そうな様子でおずおずと口を開く。

    『以前(※第3話参照)、説明していただいたことをすっかり忘れていました』
    記憶を辿った青年は真剣な表情になり、再び口を開く。

    『ということは、池江選手の天命運の“4:病気”の相も、第7チャクラの乱れもいまだ正常にはなっていないわけですね?』

    「残念ながら、その通りじゃ」

    言葉を失い、目を見開く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「なべおさみの場合、頭が1であることからいい方なのじゃろうが、残念ながら“この世とあの世の仕組み”といった問題に理解があるわけではないから、現役選手としてスポーツ界に留まることの方が、今回の病気以上に危険であるというアドバイスをしてくれるわけでもないしのう」

    『たしかにそうですね。目先の病気の回復に手を貸すことも大事でしょうが、それ以上に、その原因の芽を摘み取ることの方がはるかに重要ですからね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「出会いが“必然”である以上、池江選手が誰と出会い、どのような治療方法を選ぶかは、結局は彼女自身の問題なのじゃろう。しかし、できることであれば、これを機に彼女が選手をあきらめ、指導者としての道を歩んでくれることを祈るばかりじゃな」

    『僕もそう願っています。ちなみに、他に日本を代表する人気スポーツであるプロ野球選手と大相撲力士の主なところをリストアップしてきましたが、この中に今後排除命令の対象となるか、鑑定していただいてもよろしいでしょうか?』

    陰陽師がうなずくのを確認し、青年はスマートフォンを操作してスポーツ選手の名前を読み上げる。
    途中、陰陽師が片手をあげるのを視認し、青年は口を閉じた。

    「そなたが挙げた中では、角界の遠藤関とヤクルトスワローズの若き大砲、村上宗隆選手が該当するな」

    そう言うと、陰陽師は鑑定結果を書き始める。

    遠藤聖太

    鑑定結果を見、青年はスマートフォンを操作して口を開く。

    『ネットで確認すると、遠藤関はお世話になっている周囲の人々に対して結婚報告をしていなかったことから、 “タニマチ”である人物の逆鱗に触れてしまったようですね。僕は相撲に詳しくありませんが、後援会の後押しがないと引退後に親方になることが難しいようです』

    「さよう。遠藤関の個人後援会である“藤の会”は、日本大学の理事長である“田中英寿”さん夫婦が中心となって発足したこともあり、上下関係に厳しく、筋を大事にする体育会系において、結婚の報告などをしなかったことは田中英寿さんの顔に泥を塗るようなものじゃろうな」

    『彼は結婚する前に、田中理事長の奥さんから紹介された女性と交際していたようですが、その女性と別れての結婚という経緯も踏まえると、裏切ったと思われてしまってもしかたないと思います』

    陰陽師は鑑定結果の一部に印をつけ、再び口を開く。

    「今回の件で遠藤関が角界から退場させられることはないが、このまま力士を続けていると今まで以上の怪我をしてみたり、重篤な病気にかかる可能性が今まで以上に高くなるじゃろうな」

    青年はスマートフォンを操作し、遠藤関の経歴を調べ、読み上げる。

    『彼は日大4年次に団体戦の主将を務め、さらには個人戦で全日本相撲選手権大会優勝(アマチュア横綱)および国体相撲成年個人の部A優勝(国体横綱)という2つのビッグタイトルを取得したことにより、市原孝行(後の幕内力士)以来史上2人目となる幕下10枚目格付出の資格を取得したようです』

    「たしかに入幕当初は、久しぶりの日本人の大関・横綱候補と言われておったわけじゃしのう」

    そう言う陰陽師に対し、青年は言葉を続ける。

    『しかしながら、新入幕の9月場所12日目の德勝龍戦で左足首を負傷してしまったようです。皆勤すれば三賞を受賞する可能性もあると言われていたようですが、13日目の栃煌山戦で患部をさらに悪化させてしまい、“左足関節捻挫で約3週間の安静加療を要する見込み”との診断を受け、14日目から途中休場したとのことです。場所後の秋巡業には参加したものの、申し合いには参加しないで軽い調整に留まり、さらに捻挫だけでなく剥離骨折、さらにはアキレス腱炎まで発覚したと』

    「健康運が7と少し低いことと、天命運の“4:病気/怪我”の相が現れておるとして、このあたりから“排除命令”が出ていたのかもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉をひそめ、暗い表情で続ける。

    『その後、2015年3月場所では初日に豊ノ島に破れた後は4連勝と好調だったようですが、5日目の松鳳山との一番に突き落としで勝利した際、左膝半月板損傷・前十字靱帯損傷の重傷を負ってしまい、休場を余儀なくされたとのことです』

    ますます表情が暗くなる青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「遠藤関も池江選手同様に排除命令に抵触していることは確かなわけじゃから、五体満足、健康体でいる内に、別の人生を模索してもらえたらとは思うがの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は神妙な表情でうなずく。

    『次は、村上宗隆選手の鑑定結果をお願いします』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずき、筆を進める。

    村上宗隆

    『彼の場合も、天命運に“4:病気/怪我”と“5:一般・事故・被害者”の相から、池江選手のように何か重病を患うか、交通事故などによって選手生命を脅かされるような怪我を負ってしまうのかもしれませんね』

    「それだけではなく、危険な箇所にデッドボールを受けたり、二塁ベースに滑り込んだ際に交錯して思わぬ大怪我を負ってしまう可能背なぞ考えればきりはないが、どのような形で排除されてしまうかは天のみぞ知る。その前に何とかなることを願うばかりじゃな」

    陰陽師は新しい紙を用意してから再び口を開く。

    「ところで、ものはついでじゃ。タレントでもモデルでも何でもかまわんが、その関連で何人か名前を挙げてもらえるかの?」

    陰陽師の依頼に青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作しながら、次々名前を列挙していくする。
    青年が挙げた人物を聞き、陰陽師は該当する人物の名前と鑑定結果を書き記していく。

    「今あげてもらった女性の中では、橋本梨菜とアンミカが3(9)-3じゃな」
    青年は口をつぐみ、結果が出るのを待った。

    橋本梨菜

    『橋本梨菜は7歳から子役でデビューしていたようですね。15歳になった2008年からアイドルユニットを結成していましたが、2014年に解散したようです。ひょっとして、この解散の出来事が排除命令と考えることができるのでしょうか?』

    「橋本梨菜は天命運に“2:諸事万般”の相があることから、アイドルユニットが解散した要因が排除命令か天命運の障害によるかは断言できぬが、3(9)―3である以上、遅かれ早かれ何らかの問題を起こして芸能界から排除されることは間違いあるまい」

    青年は黙ってうなずき、再び鑑定結果を見てから口を開く。

    アンミカ

    『アンミカは天命運に“4:病気”と“5:一般・事件・加害者”の相があり、恋愛運と健康運の数字が7と低いという鑑定結果から、異性関係のトラブルで精神的に病んでしまい、覚醒剤に手を出してしまうという予感がしています・・・』

    「もちろん、その可能性がまったくないとは言わぬが、何度も言うように、人生は様々な要因が複雑に重なり合ってできているわけじゃから、鑑定結果の一部の数字だけでの早合点は禁物じゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせ、口を開く。

    「今度は、男性陣で気になる人物を挙げてもらえるかの?」

    青年は陰陽師の言葉にうなずいて答え、名前を読み上げる。
    一通り青年が名前を読み上げたところ、陰陽師は鑑定結果を書きながら口を開く。

    『滝川英治、松重豊、“チャゲ&飛鳥”のASKAが該当者じゃな」

    滝川英治

    松重豊

    画像9

    『滝川英治は2017年ドラマ撮影中に自転車で転倒し、半身不随になってしまったようです。この出来事が排除命令だったと思いますが、最近、リハビリの成果があってパラスポーツ番組のMCとして復帰したようです』

    青年はそう言い、うかがうような視線を陰陽師に向ける。
    陰陽師は青年の思いを察し、小さくうなずいてから口を開く。

    「彼の人生には同情するが、パラスポーツ番組のMCも2-3-5-5…2ルールの範囲内であるわけじゃから、このままだと、また何かあるかも知れんな」

    『“孤独のグルメ”の主演である松重豊も、そうなのですね・・・』

    暗い表情でそう言う青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「以前(※第23話)も説明したが、槇原敬之のように芸能界に適した魂の属性の人物と、ASKAのように排除命令に該当している人物とでは、同じ覚醒剤関連の事件を起こしたとしても、その意味するところはまったく違う。後者の場合はあくまでも天からの采配であって、100%本人の意思で起こしてしまったわけではない、ということを覚えておくようにの」

    『たとえば、精神に異常をきたし、薬物に手を出さざるを得ないような状況に追い込まれていくというお話でしたね』

    そう言うと、青年はスマートフォンで現在時刻を確認する。

    『そろそろ時間ですね。本日も長い時間ありがとうございました』

    「うむ。こちらこそ、なかなか楽しい時間じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深く頭を下げて退室する。
    陰陽師は小さく手を振りながら、いつもの笑みで青年を見送った。

    道中、青年は鑑定結果を見た芸能人たちのことを思い返していた。
    彼ら・彼女らに芸能界から引退するように伝えたとして、多くの人が憧れる業界以外の道で幸せを感じられるのだろうか?

    芸能界に身を置いていた頃と比較して、生きがいややりがいを感じられなくなったり、嘆き悲しむ時もあるのではないか?

    しばらく考えた後、青年は神事を終えた今の人生がベストだと思っているため、無用の心配だと思い直した。

     

    《過去に排除命令の対象となった人物》

    音楽家のベートーベン、モーツァルト、歌手/ミュージシャンのエルビス・プレスリー、ジミ・ヘンドリックス、ジョン・レノン、ジャニス・ジョプリン、フレディ・マーキュリー(クイーンのボーカリスト)、マイケル・ジャクソン、坂本九、清水健太郎、田代まさし、尾崎豊、チャゲ&飛鳥のASKA、俳優の田宮二郎、大原麗子、松重豊、ファッションモデルのアンミカ、画家のゴッホ、エドヴァルド・ムンク、詩人のアルチュール・ランボー、小説家の芥川龍之介、太宰治、ノーベル文学賞受賞者の川端康成、ヘミングウェイ等々枚挙にいとまがない。

    一方、スポーツ界に目を転じてみても、東京オリンピック銅メダリストである円谷栄治、100メートル走金メダリストのジョイナー、昭和40年時代に“黒い霧事件”で球界を永久追放になった小川健太郎以下三人のプロ野球投手、清原和弘、力道山、サッカー界のレジェンド中田英寿、元横綱の朝青龍、現役選手としては、最近白血病を発症し話題となった水泳選手の池江瑠花子、元学生横綱で角界一のイケメンの遠藤、ヤクルトスワローズの若き大砲村上宗隆なども、皆3(9)-3-5-5・・・2である。

  • 新千夜一夜物語 第24話:前世の記憶と輪廻転生

    新千夜一夜物語 第24話:前世の記憶と輪廻転生

    青年は思議していた。

    SNSで偶然見かけた、前世の記憶を持つ少年についてである。
    彼が3歳の頃から語る前世の内容は詳細でブレがなく、それを信じた母親がSNSを使って拡散していた。
    前世の記憶は本当にあるのだろうか?
    それとも、なんらかの霊障が関係しているのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は前世の記憶について教えていただけませんか?』

    「前世の記憶とな。また壮大なテーマじゃが、今回はどんなきっかけがあったのかの?」

    青年は前世の記憶を持つ少年と、情報を発信している彼の母親について、陰陽師に説明した。
    陰陽師は、青年の話に耳を傾けながら、鑑定結果を紙に書き記し終わると、口を開いた。

    「話をする前に、以前ワシが説明したこの世とあの世の仕組みについて、もう一度復唱してもらえるかな?」

    陰陽師に問われ、青年は一点を見つめて記憶を辿るようにゆっくりと話しだす。

    『この世は魂磨きのための修行の場であり、どの魂も例外なく400回の輪廻転生を繰り返します。肉体を離れる、すなわちあの世へ無事に帰還した魂はあの世にある魂の本体である”大御霊”の元に戻り、”大御霊”と合体し、この世の時間で換算すると28年間休息します。同時に、今世の振り返りと反省を行ない、次回の魂磨きの計画を立てます』

    陰陽師が黙って首肯するのを確認し、青年は続ける。

    『そのような輪廻転生を400回繰り返したのち、魂は永遠の生命を獲得し、三次元、四次元をコントロールしているセントラルサンの元で各々の役割に応じた任務を果たすという認識をしています』

    「うむ、最近は、なかなかよく勉強しているようで、知識もしっかり体系化されてきたようじゃな」

    青年の回答に満足そうな笑みを浮かべながら、陰陽師は言葉をつづけた。

    「そなたの説明に一つだけつけ足しておくと、魂が肉体を離れる際に、この世に何らかの執着を残し、あの世に戻ることを躊躇していると、あの世に帰りそびれ地縛霊となってしまう。そして、そのような経緯であの世に戻れなくなった魂は、地縛霊となって子孫にかかったり、子孫がいない場合は土地や会社、あるいはそれらに帰属する赤の他人にかかる以外手立てがなくなってしまうことは以前説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は黙ってうなずいてみせる。

    「それを踏まえて、鑑定結果をみてもらうと、このような結果になる」

    前世の記憶を持つ少年

    スクリーンショット 2020-03-08 17.13.54

    青年はしばらく鑑定結果を眺めていたが、やがて眉をひそめて口を開いた。

    『前世の記憶を明確に持っているということでしたので、この少年は“霊能力”持ち(±*)かと思っていましたが、ただの“霊媒体質”(−1)なのですね。しかも2−4、転生回数が第二期(201〜300回)の魂4ですから、鑑定結果を見る限り、この少年の妄言という印象が強くなりました』

    結果を知ってからというもの、辛辣な物言いに変わる青年。
    そんな青年を、陰陽師は片手で制してなだめる。

    「ちなみに、そなたは“霊能力”にどんな種類があるか知っておるかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年は苦笑いをしながら首を左右に振る。

    「一般的な霊能力(神通力)の分類としては、天眼通力、天耳通力、自他通力、運命通力、宿命通力、漏尽通力という種類があるとされている」

    『一口に霊能力といっても、6種類もあるのですね』

    青年の言葉に陰陽師は首肯して答える。

    「中でも、“宿命通力”とはその人がどういう天命を持って生まれてきたのか、何故こういう運命になったのかという、前世・今世・来世のことがわかる能力のことなのじゃが、仮にこの少年が霊能力を持っているとするなら、これに該当することになる」

    『しかし、鑑定結果から判断する限り、少年は“霊能力”持ちではないと・・・』

    顔をしかめながら言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「話を進める前に、ほかの霊能力について一通り説明しておくと、“天眼通力”とは、相手が何をしているか、将来はどうなるか、それらを神様が霊眼で見せてくれることを言う。“天耳通力”とは、耳で神の意図がキャッチできたり、心霊と話ができたりする能力のこととなる」

    『人間の視覚と聴覚が進化した印象ですね』

    「ただし、超能力と霊能力の違いは、超能力が人間の五感をさらにパワーアップさせたものであるのに対し、霊能力とは、超能力と一部かぶる部分もあるにはあるが、一般の人間には見えない世界に対応する能力と理解するとわかりやすい」

    『なるほど。たとえば“遠視”が単に遠くが見えることだとすると、“天眼通力”は物質的な世界を超えたものなのですね』

    「端的に言うと、そういうことじゃな」

    青年の言葉に陰陽師は小さく頷いて見せ、続ける。

    「次の“自他通力”とは、読心術のことであり、相手の思っていることがすぐ読めるという能力のことじゃ。“黙って座れば、ピタリとあたる”という易者などが、その典型的な例じゃな。そして、“運命通力”とは、運命を予知する能力で、以前こういうことがあったとか、この先こういう時期にこういうことがあるであろうということがわかる能力のこととなる。簡単に言えば、人間の過去世や未来が見える能力のことじゃな」

    『“12:読心・暴力衝動/諸事に支障(物)”と“13:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)”、どうでもいい場面では人の心が読めたり、予知できるものの、大事な場面では外してしまうという霊障と混同されそうな能力ですね』

    青年は眉を潜め、口を挟む。

    「12・13がタヌキやキツネにとり憑かれる状態だとすれば、こちらはそれの正常版というところじゃな」

    対して、陰陽師は小さく笑いながら続ける。

    「そして最後の“漏尽通力”じゃが、これは人の悩み、苦しみ、人生上の様々な問題を(今世の宿題と抵触しない程度に)解決する能力のことで、漏尽とは漏れなく尽くすという意味となり、人間の問題点、苦しみを漏れなく尽くして解決し、幸せに導く能力と言うこともできるじゃろう」

    『なるほど、この六つが俗にいう霊能力(神通力)なのですね』

    青年は陰陽師の説明に小さく頷くと、言葉を続ける。

    『この六つの霊能力の中で、先生の“霊能力”は“漏尽通力”がもっとも近い印象です。救霊はもちろん、Yes/Noで僕たちの質問に答えてくださっていますので』

    「ただし、これらの説明は古来からの“分類”がそうなっているという話をしたまでのことで、ワシら霊能力者の間では、天眼通力、天耳通力、自他通力、漏尽通力の存在を認めるものが多い反面、運命通力、宿命通力の存在については懐疑的な意見を持つ者がかなり多いのが実情となる」

    『とおっしゃいますと?』

    「まあ、そう話の先を急ぐでない。まず、そなたなりの推論を聞かせてもらいながら、おいおいそのあたりについても説明していくとしよう」

    陰陽師はいつもの笑みをたたえながら、青年に先を促す。

    『では話を元に戻しますが、少年は転生回数の十の位が“30回代”ですから、前世の記憶を持って産まれてくるという数奇な運命を抱えて転生してきたと考えることもできると思います』

    自分に言い聞かせるように青年は言葉を止め、再び口を開く。

    『とは言え、天命運の“3:精神”の相、先祖霊の霊障と天命運の“17:憑依”の相、そして、魂の属性が3で霊媒体質が最も強い(-1)という特徴を踏まえると、この少年の場合、霊障の影響が強く出る体質と思われます。つまり、キツネやタヌキといった動物霊が憑依しているのではないのかと』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「ここまでは、そなたの推理は大筋で当たっておろうと思う。じゃが、今回の一件は母親の魂の属性にも言及する必要があると思うが、そのあたりはどのように考えるかの?」

    今世の母親

    スクリーンショット 2020-03-08 17.26.03

    青年は両者の鑑定結果を見比べながら、口を開く。

    『母親の鑑定結果をみるかぎり、先祖霊と天命運に障害はあるものの、“3:精神”も“17:天啓”といった相がないことから、現実離れした言動をする人物とは考えにくいと思います。また、頭が“1”で基本的気質や基本的性格が7−7という点も考慮しますと、至極真っ当な人物と思われます』

    青年の言葉に対し、小さくうなずいてから陰陽師は口を開く。

    「3(9)―3という魂の属性から判断するかぎり、母親は医師の可能性が高い。また、医師となる人物は、そのほとんどが魂の属性“7”なのだが、この母親の場合はめずらしく魂の属性が“3”なんじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び鑑定結果を確認してから口を開く。

    『魂の属性が3ということは、先祖霊の霊障があり、見えない物事に対する理解・関心度が(+1)と高いわけで、前世の記憶といったスピリチュアル的なことにそれ相応の理解があり、そういった領域にも柔軟に対応できるハイブリッドな医師と考えて差しつかえないと思うのですが』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は説明を再開する。

    「そこまでの断定はできないとしても見えない物事に対する理解・関心があることは間違いないじゃろうから、息子さんの言葉を鵜呑みにしたというか、一定の疑義は持ちつつも最終的には受け入れてしまった可能性は否定できんかもしれんな。さらに言えば、この母親にとって、“親子間の相性”が10点満点中の1点であることから、この少年が親泣かせの子供である可能性もかなり高いと思われる」

    『仮に親御さんが医師であるとするなら、魂の属性7が基本の医学界では、今回のような前世の記憶などの発信をすると、異端視される心配すらありますよね』

    「うむ。患者の足が遠のく以外にも、お子さんの前世の記憶に関する問い合わせが増え、本来の職責とは関係ないところで多忙となる可能性も高くなるじゃろうしな』

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲み始める。
    青年は顎に手をあてて黙考していたが、やがて顔を上げて口を開いた。

    『ふと思ったのですが』

    「うむ?」

    足元にすり寄ってきた猫をなでながら、陰陽師は青年に先を促す。

    『あの世で今世の出来事を振り返るとしても、新たに転生するにあたりそのような記憶をリセットしてくるわけですから、前世の記憶を持っていることは極めてめずらしいことになりますよね?』

    青年の言葉を聞き、陰陽師はうなずく。青年は陰陽師の意図を察し、続ける。

    『あるいは、この世の宿題、天命を魂が潜在意識で知っているとするなら、この少年が語っている前世の光景は、過去の話ではなく今世の彼の天命、つまり将来起こることを予見しているのでは、とふと思ったのですが』

    「そのあたりは先程の運命通力と宿命通力の話にも関連するのじゃが、未来というものは、地球上にいる80億人以上の人間たちの一瞬一瞬の選択の積み重ねと、地震、津波、気温の急激な変動といった天変地異なぞが複雑に絡み合うことでできていることから、大まかな道筋はついているとしても、確定した未来などというものは存在しないことから、その可能性はまずないと思う」

    『ということは、人が死を迎えるにあたり、その結末は歩んできた道のり次第ということなのですね』

    「さよう。たとえば、3.11のような大災害で亡くなった人々を例にとると、彼らの大多数は、あのような大災害に巻き込まれて命を落とすことを納得した上でこの世に転生してきておる。傍(はた)から見ると志半ばで命を奪われたようにみえたとしても、実際に、地縛霊化する人間なぞほとんどいないのはそのような理由によるのじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は目を見張ってから声色を高くして答える。

    『それはとても興味があるテーマですので、機会をあらためてゆっくりお話を伺いたいと思います』

    青年の言葉に陰陽師は首肯して答える。

    「で、話を戻すと、もう一つの可能性は、この少年が話す前世の記憶が、少年の前世ではなく他の人物の記憶という可能性じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    テーブルに飛び乗ってきた猫の頭をなで、微笑みながら陰陽師は口を開く。

    「地縛霊化した魂にかかる子孫がいない場合、土地や会社、あるいはそれらに帰属する赤の他人にかかることは先ほど説明した通りじゃが、稀に血脈(肉体の先祖)も霊統(魂の先祖)も土地や会社にもかかわりのない関係ない、文字通りの赤の他人にかかることがある」

    『つまり、救霊を願う地縛霊が、偶然縁もゆかりもない少年にかかってしまい、少年の口を介して生前の記憶を語っているというわけですね?』

    「実際、ワシのクライアントの中にも若干名、霊能力がないにもかかわらず、前世の記憶を持つ者がおるのじゃが、特に有名な事件や事故にかかわっている場合なぞ、彼らの語る前世を単なる妄言と済ますわけにはいかぬような歴史的な符号があったりする。しかもそれが当事者しか知りえぬ事象であった場合、深層心理の下にある記憶が何らかの拍子に表面化したものか、あるいは地縛霊など他人の記憶を拾ったものなのか、判別が非常に難しい。この少年の場合も、地縛霊がかかっていることからそのあたりの可能性を一概に否定することはできないと思う」

    『ということは、その地縛霊を祓ってみないかぎり、この少年の話が完全な妄言と断定することはできないと。逆説的な言い方をすれば、少年にかかっている地縛霊を救霊しさえすれば、彼の記憶が深層心理の下にあったものか、どこかの地縛霊の記憶かの判別ができると?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振って答える。

    「いや、話はそれほど単純ではないじゃろうな。というのも、少年の魂の属性や先祖霊の霊障と天命運とチャクラの問題等を総合的に勘案するかぎり、彼の話がすべて真実とは言い切れない面があまりにも多すぎる。よって、仮に神事をしたところで、新たに別の地縛霊の話を前世の記憶として話し始めてみたり、ここまで話を大きくしてしまった手前、今更前世の記憶の話が嘘だったともいえんじゃろうしのう」

    青年は再び腕を組んでうなってから、口を開く。

    『ただ、本当に前世の記憶を持っている可能性もある以上、少年の話が真実で、前世と関わりがあった人物と再会し、ハッピーエンドを迎えられれば、ベストであることは間違いありませんよね』

    「ことの真偽はともかくとして、その少年の言うことが真実であるのであれば、その通りじゃろうな」

    『そして、今後もこの少年が今世の母親を惑わせ続けるとしても、子供は親を選んで産まれてくる以上、今回の出来事が、この親子双方にとって魂磨きに必要な縁であることも間違いなのでしょうし』

    「この少年にかかっている地縛霊と我らの間になんらかの縁があるのであれば、いつの日か思いもかけぬ邂逅があるかも知れんしな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいて見せる。そして、時計に目をやり、口を開く。

    「いつの間にか夜も更けたようじゃ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。これからも勉強を続けます』

    そう言い、席を立って深く頭を下げる青年に対し、陰陽師は微笑みながら片手で別れの挨拶をする。

    帰路の途中、青年はいろんな人物のことを思い出していた。
    過去世が見える人、相手の寿命が見える人、未来が見える人、そのいずれも確たる根拠のない人々ばかりだった。結局、表立って異能をアピールする人の中に本物の霊能力者はほとんどいないのではないか?
    そんなことを思いながら、青年は一歩一歩歩を進めていった。

  • 新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    青年は思議していた。

    シンガーソングライターの槇原敬之さんが、覚醒剤所持により再び逮捕された事件についてである。

    スポーツ・芸能・芸術を生業にすることが許されているのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2に限られるという。だが、今世の運気が“大々山”である魂の属性が3(9)―3の人物が稀にそれらの世界に入ってしまうことがあり、その場合、この世の“排除命令”が出て退場させられるとも聞いた。

    では、槇原敬之さんはどちらの属性であるのか?
    今後、彼は芸能界に復帰できるのか?
    あるいは、“排除命令”によってこのまま芸能界から退場となってしまうのか?

    答えを確認すべく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は芸能界とこの世のルールについて教えていただけませんか?』

    「うむ、そのテーマか。して、何かきっかけとなる事件でもあったのかの?」

    『先日報道されました、槇原敬之さんが覚醒剤所持によって再逮捕された事件です。ひょっとして、彼はこの世の“排除命令”の対象となる属性ではないかと思ったのです』

    「その説明をする前に、そなたの理解している2-3-5-5・・・2のルールを復唱してもらえるかな?」

    青年はあごに手を当ててしばらく黙考した後、口を開く。

    『オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にできるのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2の人物に限られるというルールのことです。つまり、転生回数期が2期(201〜300回)で魂の種類が“3:ビジネスマン”、基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字が共に5、魂の特徴の最後の数字が2という属性のことです。例外として、“オネエ”や“ポルノ/AV女優”などの人物がこの世界に入ってきた人間は、時として2(3)-3-5-5・・・2のケースもあり得、代表的なところでは、マツコ・デラックスさん、デヴィ婦人、吉高由里子さん、橋本マナミさんなどがいらっしゃいます』

    黙ってうなずく陰陽師を見、青年は続ける。

    『ただし、運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2、すなわち転生回数が3期(101〜200回)で十の位が90回の人物が時としてスポーツ・芸能・芸術の世界に足を踏み入れることがあり、その場合は“排除命令”が出る、という認識をしています』

    「うむ、大方のところはしっかりと理解しているようじゃな。そなたの説明にあえてつけ加えるとすれば、いずれは排除命令が出てしまうが、1(7)−3−5−5・・・2、すなわち、転生回数が1期(301〜400回)で十の位が70回代という、運気が“大山”の人物も含まれること、こちらの場合はほぼ芸術に限られるということも忘れぬようにの」

    陰陽師の言葉をじゅうぶんに理解できなかったのか、青年はしばらく固まってから返答した。

    『・・・今更で恐縮ですが、もう一度だけ転生回数期について確認してもよろしいでしょうか?』

    「もちろん」

    微笑む陰陽師を見て青年は安堵のため息をつき、続ける。

    『この世は魂磨きのための修行の場であり、全ての魂は例外なく、400回輪廻転生します。転生回数期は400回の輪廻転生を100回ごとに分けたもので、人生における年齢のように、期によって特徴があると認識しています』

    「そなたの言葉につけ加えると、以下のようになる」

    青年の言葉を聞き、陰陽師は紙に各期と輪廻転生回数について書き記していく。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『“第一期”を頂点として数字が小さいほど転生回数が多く、“第四期”へ向けて数字が大きくなるほど転生回数が少ないことに注意が必要ですね。以前、転生回数が若い、第三期と第四期は基本的に理系で、第一期と第二期は基本的に文系とお聞きしましたが、期ごとにもう少し具体的な特徴はあるのでしょうか?』

    「もちろん。まずは第四期じゃが、各魂1〜4に共通する傾向として、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。また、物事の判断が極めて即物/短絡的という特徴を持っておる」

    『この世のことについてこれから学んでいくという意味では、人生でいうところの学生時代に該当するわけですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、続ける。

    「次の第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、とくに前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『なるほど。これから活躍の幅が広がっていく、勢いがある若手社員という感じですね。後半の運命の“大々山”である190回代に勢いがピークを迎え、世の中に革命をもたらす存在になると』

    「その通りじゃ。この“大々山”は、武士・武将問わず、魂3特有のものなのじゃが、平和賞・文学賞を除いた理系のノーベル賞を受賞するのは、アルベルト・アインシュタイン始め、すべて3(9)-3の時期の人間たちと決まっておる。医師も同様で、WHO、FDA、厚生省の役人や臨床分野や病院などの経営に携わっている1-1、2-3という少数の例外を除けば、医師のほとんどが3(9)-3となる」

    『つまり、3(9)-3は理系の大御所というわけですね!』

    「3(9)―3の活躍の場はそれだけにとどまらず、東証一部の上位400社に目を転じてみても、1(7)-1の松下幸之助を唯一の例外として、創業者はことごとく3(9)-3じゃ。さらに言えば、創業者が現役の社長であるソフトバンク、楽天、ジャパネットタカタ(現在は社長を退かれています)、ユニクロなどもその例に漏れない」

    『なるほど。研究の領域だけでなく、経済分野でも大活躍しているのですね』

    感嘆の声を漏らす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一つ飛ばして第一期じゃが、老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになるのじゃろうが、この法則を魂1~4にあてはめると、もっとも厄介なのが魂3ということになる」

    『ゲゲエ! そ、そうなのですか。1-3というと、精神的に成熟し、世の中の法則を理解した老師のようなイメージですが、実際は違うのでしょうか?』

    予想外のことを聞き、戸惑う青年。陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「その直前の第二期で芸能/芸術の世界で活躍した感受性・情念豊かな魂が、老年期を迎えて上記のような老年期特有の特徴を増幅させると、その言動と行動は往々にして一般人には理解不能なものとなる」

    『なんだか、“奇人・変人”みたいですね』

    冗談まじりに言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。

    「そのとおりじゃ。この世には“奇人”と“変人”という二種類の人種が存在するとして、“奇人”が、この世の常識的な中心線を理解したうえで、その中心線から一定の距離を置くことで自らのアイデンティティを主張しようとするのに対して、“変人”は、世の中の常識的な中心線を認識できない人間のことを指す。極端な言い方をしてしまえば、文字通りの“気狂い“ということになるのだが、当の本人が”まともな常識人である“と思い込んでいることから、周りの人間にとっては迷惑以外の何物でもなかったりする」

    『以前に鑑定を依頼しました、歩きながらぶつぶつ独り言を言っていた人物がそうでしたね』

    「あのケースは他にも色々と問題のある数字が連なっておったが、1-3に限っては、たとえ他の数字がまともだとしても、切れやすい、偏屈、へそ曲がりといった特徴を大なり小なり持っているから注意が必要なのじゃ」

    『なるほど。明日は我が身なのですね』

    「まあ、かなり遠い未来の話じゃが、残念ながらそなたも例外ではない」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「最後に第二期じゃが、人間にたとえれば41~60歳にあたるこの時期は、現世での円熟期に相当している。魂1:“先導者”を除く各魂がこの世で各々の特徴を最も顕在化させるのがこの時期で、魂3だけがスポーツ・芸能・芸術を生業にできるといっても、それが可能なのはこの時期だけなわけじゃ」

    『なるほど。そのような輪廻転生のメカニズムがあるからこそ、スポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できるのは2−3−5−5・・・2という、厳然なルールにつながるわけですね』

    「基本的気質と具体的性格を表す5-5という問題を捨象すれば、一部上場企業の標準的な役員構成なぞも、役員が20人いるとすれば、会長、社長を中心に1-1が1~2人、(3(9)-3と若干名の2-4という人間が例外的に1人か2人混じっていたとしても)残りはすべて2-3の人々ということになる。私企業から出発し、上場によって社会的公共性という側面を有したとは言え、利潤という責務を負った現場では熾烈な競争が日々繰り広げられる以上、トップである1-1の周りにはそのような人材が必要というわけじゃな」

    『以前、欧米の大企業や韓国の“財閥”などのトップのほとんどが2-3の人々で、“トップダウン”による意思決定が行われていると仰ってましたね』

    陰陽師は紙に三角形を描き、上下の矢印を付け足して続ける。

    「さよう。我が国では、元々聖職者である1-1が上場企業のトップを務めておることから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけるというよりも、多数決や満場一致を旨とすること圧倒的に多い。そのため、経営の意思決定形式としても、トップダウンより“ボトムアップ”という形になるくだりは以前に話した通りじゃ」

    『そのような意味では、“神の国日本”という表現は言い得て妙ですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「で、話をもとに戻すと、スポーツ・芸能・芸術の世界が、転生回数期が第二期の魂3:ビジネスマンの世界となることから、3(9)ー3のように転生回数が早過ぎても1(7)ー3のように遅過ぎても排除されるという、この世の厳然なルールが適用されるわけじゃな」

    『しかし、排除命令によって、実際どのようなことが起こるのでしょうか?』

    「それが起こる時期は人によりまちまちのようじゃが、遅かれ早かれ、病気、精神障害、事故、事件、犯罪などに巻き込まれ、最悪の場合はこの世そのものから排除されてしまうこともままある」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を飲む。しばらくして、重い口を開いた。

    『ということは、今回の槇原敬之さんのように、再犯を起こして芸能界から排除されたのも、天の采配なのでしょうか?』

    「その前に、槇原敬之さんを鑑定してみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師は小刻みに指を動かし、鑑定を始める。そして、青年が固唾を飲んで見守る中、紙に結果を書き記していく。

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    『やはり、槇原敬之さんの魂の属性は、芸能界向きでしたか。おや?』

    鑑定結果をしばらく眺め、首を傾げながら再び青年は口を開く。

    『2―3ということは、彼は芸能界からの“排除命令”が出たわけではないのですね?』

    ちょっと驚いたような青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「少なくとも、今回の件はこの世の“排除命令”が働いたのではないようじゃな」

    『ということは、今回の件は、彼の自己責任というわけなのですね』

    「端的に言うとそういうことになるが、今回の再犯の要因をあえて挙げるとすれば、天命運の“5:事故/事件(加害者)”の相と“2:諸事万般”の相あたりが考えられなくはないが」

    『なるほど。話が少し脱線しますが、槇原敬之さんは同性愛者の疑惑があるそうで、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3と極端に低いことから、あながち間違いではないと思うのですが』

    「たしかに、恋愛運をみる限りその可能性はあながち否定できないと思うが、以前も話したように、鑑定結果の一部の数字だけで人を判断することには大きな危険を伴う」

    『そうでした! 気をつけます』

    罰が悪そうに答える青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいて見せる。

    『では話を元に戻しますが、槇原敬之さんの場合、芸能界に復帰できるチャンスがまだあると考えてもよろしいでしょうか? 人生のアップダウンが最大値の1でもありますから、おそらく、今のパフォーマンスのままではまた何らかの事件を起こしてしまうのかも知れませんが・・・』

    「もちろん、今までの芸能界の慣習に照らしてみるかぎり、彼の場合はミュージシャンなので復帰できる可能性は高いと思うが、人生のアップダウン度から推測するに、そなたの危惧はあながち的外れとは言えないじゃろうな」

    『僕は槇原敬之さんの歌で励まされたこともありますので、罪を償って、なんとか復帰してもらえたらと思います』

    「そうじゃな。罪を償う体験を経て、また新たな名曲が生まれないとも限らぬからのう」

    弱々しく言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら答える。

    『たとえばですが、芸能人を鑑定して転生回数が分かれば、今後復帰できるか否かがある程度わかるのでしょうか?』

    「いつも話しているように人間は“多面体”のようなものじゃから、全体の数字を精査しないと確定的なことは言えないが、少なくとも芸能界に話を限れば、2-3-5-5…2という数字さえ持っていれば、復帰することは構造的には不可能でもないとは思うが」

    『ちなみに、素朴な質問なのですが、3以外の魂はともかくとして、どうして3(9)-3-7-7や2(4)ー3-7-7では、これらの職業につけないのでしょう?』

    「7-7はこの世で仕事をするのに最も適した番号ということは説明したはずじゃが、5-5の場合も、オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にするにあたりもっとも適した番号という能力の持ち主であることを表してしているわけじゃ」

    「ということは、これらの業界ではおなじ3-3や2-3でも7-7の番号を持った人間は、オリンピック選手や、プロにはなれないということなのですね」

    「もちろん、3-3ー7ー7や2-3ー7ー7の中にもスポーツや音楽が得意なものは大勢いる。中学のインターハイあたりで優勝したり、幼いころから数種類の楽器を弾きこなす者もいることじゃろう。しかし、高校にあがり、2年、3年生となるにつれて5-5を持った人間に追い抜かれ、結局はプロにまで行きつかないわけじゃな」

    『なるほど。ということは、スポーツ選手や芸能人を鑑定すれば、7―7か5-5かという問題は当然のこととして、今後スポーツ界や芸能界から排除される運命の人物がわかるわけですね?』

    「もちろんじゃ。して、だれか気になる人物がおるのかの?」

    『少しお待ちください』

    青年はスマートフォンを操作して気になる有名人の名前を挙げ、陰陽師は鑑定を始める。

    陰陽師が書き記した結果を見、青年は驚きの声を上げた。

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    『なるほど。この三人は、皆3(9)−3なのですね。そして、天命運に“5:事故/事件(加害者)”の相があると・・・』

    「田代まさしさんは、ちょうど音楽家として舞台に復帰しようとした矢先にこの世の“排除命令”が再び働き妨害が入り、あの事件が起きたのじゃろうな」

    『よりによってそんな時期だったとは。まさに排除された感じがします』

    目を見張る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他のふたりも含め、彼らは芸能界からの追放だけで済むのであれば、別の場所でその才を発揮して頑張るという選択肢も残されるのじゃろうが、懲りずに復帰を試みるようなことがあると、またどんな取り返しのつかない事態になるか、ワシにも想像がつかん」

    『最悪、命を落とす可能性もあるのですよね?』

    「もちろんじゃ」

    恐る恐る言う青年に対し、陰陽師は神妙な面持ちでうなずいて見せる。

    「さらに一言つけ加えておくと、天命運やチャクラの乱れによる影響があったとは言え、槇原敬之さんは自分の意思で薬物に手を出したことになる。一方、他の三人はあくまで“排除命令”によって薬物に手を出さざるを得ない状況に追い込まれた可能性が非常に高いということになるわけじゃな」

    『適切な表現かはわかりませんが、田代まさしさんと清原和博さんと沢尻エリカさんは運命の被害者とでも言うことになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『もしそうだとするなら、同じ薬物絡みの事件とは言え、同情してしまいます』

    青年は重いため息をつき、再び口を開く。

    『本人の才能や意志とは無関係に、時として非情な現実をもたらすのがこの世のルールだということは、今回の件でも十分に理解しました。現世利益を追求しながら生きることを否定するつもりはさらさらありませんが、自分の魂の属性を把握し、今世の役割を果たすことの大事さをあらためて再認識させられた次第です』

    「一見厳しい話になるかも知れんが、この世が“修行の場”であることをしっかりと理解していれば、いつの日か、自分なりに納得のいく結論を間違いなく見つけられるはずじゃ」

    暗い表情で話す青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。
    青年はスマートフォンの画面を見て時計を確認し、口を開く。

    『そろそろ時間ですね。本日もありがとうございました』

    「うむ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は深々と頭を下げて席を立ち、陰陽師は微笑みながら小さく手を振って彼を見送る。

    青年は帰路の途中、神事が済んでからのことを振り返っていた。
    もともと好奇心が旺盛だったために、いろんなイベントに参加していたものの、自分の天命と関係がないイベントでは得るものがほとんどなく、時間とお金を浪費してしまった実感があった。
    もちろん、イベントや参加者に非があるのではなく、今日の話を聞いて、自分が関わることもよく吟味する必要があると再確認したのだった。

  • 新千夜一夜物語 第22話:おしどり夫婦と恋愛運

    新千夜一夜物語 第22話:おしどり夫婦と恋愛運

    青年は思議していた。

    恋愛・結婚がうまくいかない人々に共通点があるならば、おしどり夫婦と呼ばれる人々にも何らかの共通点があるのではないか?
    もちろん、夫婦間で日常的に気をつけていることはあるだろうが、運気的な要素もあるのかもしれない。

    答えを確認すべく、青年は陰陽師を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はおしどり夫婦について教えていただけませんか?』

    「おしどり夫婦とは、ここ最近の暗い話題とは正反対の話題のようじゃが、今回はどうしておしどり夫婦なぞに関心を持ったのかの?」

    『先祖霊の霊障と天命運には“8:男女運”の相があり、自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなってしまう人がいることは、先日のお話でよく理解できました』

    青年は陰陽師が黙ってうなずくのを確認し、続ける。

    『また、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”ということも理解しました』

    「ふむ」

    『ということは、おしどり夫婦となる人々にも、運気的な共通点があるのではないかと思ったのです』

    「なるほど。で、おしどり夫婦に該当する具体的な夫婦がおるのかの?」
    青年は芸能人の名前を読み上げ、陰陽師は鑑定結果を書き記していく。

    ①唐沢寿明さん

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    ②山口智子さん

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    ③杉浦太陽さん

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    ④辻希美さん

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    ⑤木梨憲武さん

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    ⑥安田成美さん

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    『なんと言いますか、とてもわかりやすいですね。みなさん、先祖霊の霊障がなく、天命運に“8:男女運”の相もなく、恋愛運が最大値の9と。恋愛面に関しては正に非の打ち所がないですね』

    羨ましそうに言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「まあ、そう羨ましそうな顔をするでない。彼らの場合、芸能界にデビューし、視聴者に夢や感動を与えるにあたり、各々の伴侶が必要不可欠な“要素“だったのじゃよ」

    『そうですよね。全く縁がない人々ではありますが、円満な家庭を築いてくれることはとてもいいことだと思いますし、できることであれば僕も彼らにあやかりたいものです』

    「そういう意味では、そなたも既に先祖霊の霊障も天命運とチャクラの乱れも神事を済ませておるわけじゃから、天命を歩むにあたり、何も心配することはない状態なのじゃがのう」

    陰陽師の言葉を聞き、あらためて青年は自分の鑑定結果が記載された紙を取り出す。隅々まで眺めたところ、恋愛運の“6”という数字に気づき、驚きの声を上げる。

    『以前のお話では恋愛運が7以下の人同士で結婚すると離婚しやすいとのことでしたが、僕の結婚生活は大丈夫なのでしょうか?!』

    陰陽師は茶をゆっくり飲み、一呼吸置いてから口を開く。

    「非常に言いにくいが、そなたの場合、女性関係のトラブルが多い人生であることだけは疑いようがないのじゃ」

    『ゲゲエ! そんな馬鹿な。困ります。どうしたら恋愛運を上げられるのでしょう。どうにかしてください、お願いします!』

    珍しく、語気を強めて話す青年。陰陽師は片手で青年を制しながら口を開く。

    「そなたの気持ちはじゅうぶん理解するが、残念ながら、何人もそなたの今世の恋愛運を変えることはできぬのじゃ」

    『・・・つまり』

    「ワシの力をもってしても、今世はずっとそのままの点数ということじゃ」

    『・・・そんなあ』

    意気消沈し、顔を伏せる青年。そんな青年を眺めながら、陰陽師は諭すような口調で続ける。

    「この世には、結婚して出産し、幸せな家庭を築くことが人間の幸福、といった世間的な常識が存在するのかもしれんが、前回の渡辺和子さんやナイチンゲールさんのように(※第21話参照)、恋愛や結婚とは無縁なものの、多くの人に影響をあたえる使命を持った人物も実際に存在しておるわけじゃから、己が歩むべき道をこの世の価値観のみで判断するなぞ正に愚の骨頂じゃ。そなたの場合、400回ある人生の1回がたまたまそうなわけで、今までやこれからの人生では、そなたの希望に沿った結婚生活を送ることもあながち夢物語ではないはずじゃ」

    そんな慰めの言葉を受けて、しばらく黙考した後、青年は口を開く。

    『たしかに先生のおっしゃる通り、仮に幸せな結婚ができたとしても、大器晩成型(50歳〜)であるために子供が持てず、それでも幸せな結婚生活を送った人もいるわけですよね。それに』

    青年は少し身を乗り出し、続ける。

    『僕の場合、平穏無事な結婚生活よりも、複数の女性との様々なトラブルを繰り返すことで魂磨きと天命を全うするのであれば、それもそれで仕方ないと思います。そうしたことも含めて、全ての出来事を受け入れると決意したわけですから』

    悲壮な決意を込めた青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「今世のそなたは女性関係で苦労する運命なのだとしても、苦労する分だけ天の後押しを得られることは、たしかに事実じゃしな」

    『つまり、女性とのトラブルを通して学びを得る、それが僕の人生なのですね』

    「その通りじゃ。そなたの人生を端的に言うならば、前半の人生は女性との接点がなく、女性に恋い焦がれる人生。これからの半生は、女性と多数の接点ができるものの、その一つひとつが波乱含みということになる。とはいえ、それらの葛藤の中に学びがあるわけじゃから、来る者は拒まず、いや、積極的に女性との接点を求めることこそが、そなたの天命に沿った生き方なのじゃよ」

    『つまり、これからの僕の人生の宿題は、そんな女性問題の中にあると』

    「まあ、簡単に言ってしまうと、そういうことになる」

    『・・・わかりました』

    ちょっと恨めしそうな顔で陰陽師を見ながら、青年は気を取り直したように鑑定結果の紙を指差しながら続ける。

    『ちなみに、フジモンさんとユッキーナさんの夫婦(※第20話参照)だけ、共に魂3なのに転生回数が2期と3期で異なっていますが、240回代の“小山”と190回代の“大々山”の差が仲違いした主な要因になるのでしょうか?』

    「それも一つの可能性じゃが、そなたは木下優樹菜さんと安田成美さん(※⑥参照)の共通点を知っておるかな?」

    青年は無言で首を左右に振る。

    「この二人は揃って在日韓国人なのじゃが、木下優樹菜さんのケースは、アシアナ航空の創業者一族である“ナッツ姫”事件同様、権力を後ろ盾にした“勘違い”という韓国人の悪い側面が出てしまった典型的な事例ということができるじゃろう」

    『つまり、木下優樹菜さんが起こした例の“タピオカ恫喝事件”のことですね』

    「うむ」

    小さく一つ頷くと、陰陽師は鑑定結果が書かれた紙に、“朴”、“チョン・ソンミ”と書き足す。

    『なるほど。韓国人は怒ると手がつけられないが、それは情が深いからだという話を聞いたことがありますが、安田成美さんが木梨憲武さん(※⑤参照)とうまくいっているのは、逆にそんな情が深いという韓国人の良い面が出ているからなのですね』

    「いくら仲睦(むつ)まじい夫婦であったとしても、長い結婚生活じゃ。いろいろなことがあったとは思うが、みるかぎりそのようじゃな」

    陰陽師の言葉に大きくうなずいた後で、青年は言葉を続ける。

    『さらにこの鑑定をみると、頭が1同士であることから、人生に対する価値観みたいなものもほぼ一致しているであろうこともじゅうぶんに想定できますね』

    「そうじゃな、この二人にかぎれば、そのあたりも含めて理想的なカップルということができるのじゃろうな。それに引き換え」

    『はい』

    「もう一方のカップルの方は、結婚以前の問題を抱えておるようじゃ」

    『とおっしゃりますと?』

    「これまでにも、芸能界には2(4)-3-5-5…2という厳然としたルールが存在していることについて言及しておると思うが、ユッキーナの属性をみるかぎり、この世界にいる人間ではないことは明らかじゃ。それ故、今回の一連の事件も“排除の法則“が働いた可能性は極めて高く、本来であればこれを機に芸能界からきっぱり足を洗うことが、彼女のためになることは言うまでもない」

    『以前(※第10話参照)、3(9)―3の人物が芸能界入りすると、排除命令が出ると仰ってましたが、あれに類する話なのですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいてみせる。

    「この話を始めると話が長くなるから今回は控えるが、スポーツ・芸能・芸術界で起きる事件の多くは、当人の責任というよりも、この“排除命令”に起因している可能性が極めて高いのじゃ」

    『その話は、僕としてもとても興味のある問題なので、ぜひゆっくり聞かせてください』

    そんな青年の言葉に大きくうなずきながら、陰陽師は話を続ける。

    「ともかく、人間とは様々な要素が複雑に絡み合った複合的な存在なわけじゃから、一辺倒の鑑定を見比べただけでは相手のことを完全に判断することは難しい。よって、そなたも結婚を本気で考える相手ができたときには、ことを進める前に、まず、当該の女性との相性鑑定を依頼するとよい」

    『わかりました。よく、肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

  • 新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    青年は思議していた。

    “8:男女運”、特に“2−4色眼鏡”“逆2−4色眼鏡”によって相性が良くない異性同士が惹かれあってしまうことは納得できた。
    一方、イケメンや美女といった、ハイスペックなのに結婚していない人物や、離婚を複数回している人物や、同性愛者にも何らかの共通点があるのではないか。

    そう思い、青年は陰陽師を再び訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は前回の続きで、独身や離婚が多い人、同性愛者の共通点について教えていただけませんか?』

    「“8:男女運”の相による、異性との“縁遠さ”の話じゃな。話をするにあたり、そなたの理解度を確認するためにも、この霊障についてそなたの口から再度説明してもらうとしようかの」

    『はい。この霊障がある場合、二つの症状が考えられ、その一つは本来自分と相性の良い異性が悪く見えてしまうだけでなく、自分に相応しくない異性が良く見えてしまい、そのような異性と結婚までなだれ込んでしまうケース。もう一方のケースは、ハイスペックなのに異性との縁ができない、いわゆる、“縁遠さ”という相のことです』

    「うむ、大筋ではしっかりと理解しおるようじゃな。そして、一つだけそなたの説明にさらに言葉をつけ加えさせてもらうと、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”という。して、今回は“縁遠さ”に関しての疑問のようじゃが、誰か具体的に気になる人物はおるのかな?」

    そう訊ねる陰陽師に、青年はスマートフォンを取り出し、有名人の名前を読み上げる。
    陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、鑑定結果を書き記していく。

    ① 藤圭子さん(離婚歴7回)

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    ② 林下清志さん(ビッグダディ。離婚歴6回)

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    ③ 林下佳美さん(ビッグダディの最初の妻。6児の母)

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    ④ 美奈子さん(ビッグダディの妻。8児の母)

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    『まず、藤圭子さん(※①参照)ですが、彼女は、天命運に“8:男女運”の相があるのと、恋愛運が3で、人生のアップダウンが1と波乱万丈な人生なので、7回も離婚していることに納得です』

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせる。

    『ビッグダディさん(※②参照)は天命運に“8:男女運”の相があることと、人生のアップダウンが1と、数奇な運命を歩みやすい、転生回数が230回代ということを踏まえると、離婚の回数に納得です』

    「ちなみに、ビッグダディさんの場合、天命運“5:事故/事件”があるようじゃが、そのあたりについての情報は何かあるのかな?」

    『はい。たしか、以前に自宅を火災で全焼させていたと思います』

    陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンで事件について検索を始める。

    『やはり、そのとおりでした。その時の記事を読むと、壁の中にある電線が破損したために火災が起きたようですね。彼の過失ではないようですので、このあたりにも天命運の影響の怖さをあらためて実感します・・・』

    「たしかに、そのような理由で火災が起き、自宅を全焼させたのであれば、天命運の影響があったのは間違いないじゃろうな」

    小さく頷く陰陽師を横目で眺めながら、青年は質問を続ける。

    『ところで、ビッグダディさんと佳美さん(※③参照)は三度も離婚・再婚をしたそうですが、佳美さんも彼と同様転生回数の十の位が“30回代”ですし、人生のアップダウンが1ですから、推して知るべしといったところでしょうか』

    一度言葉を止めて首を傾げ、再び青年は口を開く。

    『また、再婚相手の美奈子さん(※④参照)は、天命運に“8:男女運”の相がありますし、恋愛運が4と低いので、結果的に離婚となったことは納得できますが、ビッグダディさんと佳美さんは共に恋愛運が8と高かったにもかかわらず、最終的には離婚しています。やはり、天命運の影響なのでしょうね』

    「そうとも考えられるが、この三人にはそれ以上に大きな共通点があるんじゃ。そなたには、それが何かわかるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年は鑑定結果を食い入るように眺める。
    自力で答えにたどり着けそうにない青年を見かねた陰陽師は、鑑定結果に印をつけ、口を開く。

    「答えは、三人とも魂の属性が4というめずらしい数字を持っておることじゃ。この4という数字を持った人物は多くの子供を育てるという使命を今世の宿題として抱えておることは“教議”にも書いてあるのじゃが」

    『・・・なるほど。そのあたりのことは、すっかり失念していました』

    ちょっとばつの悪そうな顔で頭を掻きながら、青年が言葉を続ける。

    『しかし、だからこそビッグダディさんと佳美さんは多くの子供を産み育て、美奈子さんも連れ子が多いのに彼と結婚できたのですね。魂の属性4同士でもなければ、多くの連れ子がいる相手との結婚に躊躇しそうですし、さらにまた子供を作ろうなどとは思わないですよね』

    「たしかに、そのあたりはそなたの言う通りじゃな。ビッグダディさんにしても美奈子さんにしても、子供たちを社会に出すまで面倒をみるという使命を果たすためにも、お互いの存在が必要だったのじゃろうな」

    納得の意を示すように何度も青年はうなずき、やがて口を開く。

    『ただ、佳美さんも美奈子さんも、天命運の“8:異性”の相に加えて“6:家族”の相もあることから、結果的に離婚という結果になってしまったのでしょうか?』

    「それは6をどう考えるかにもよるが、加えて、子育てや家事を通して一般女性の数倍の苦労を日々していることだけは間違いないじゃろうな」

    青年の反応に陰陽師は小さくうなずき、今度は渡辺和子とナイチンゲールの鑑定結果に印をつける。

    ⑤ 渡辺和子さん(学校法人ノートルダム清心学園理事長。故人。生涯独身)

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    ⑥ ナイチンゲールさん(故人。生涯独身)

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    「一方、渡辺和子さん(※⑤参照)とナイチンゲールさん(※⑥参照)じゃが、魂の属性が2であることから、今世の宿題として、子育て以外に果たすべき使命があったと考えるべきなのじゃろう。つまり、家庭を持ち、子供を育てるといった使命は、今世の彼女たちの宿題にはなかったわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年はあらためて二人の鑑定結果を眺める。

    『このお二人の経歴を鑑みるに、色恋沙汰にうつつを抜かす暇があるなら仕事に取り組んだ方がいいと思っていたわけですね。また、渡辺和子さんとナイチンゲールさんは、共に先祖霊の霊障と天命運の両方に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3とかなり低いところからみても、魂の属性2として生きるのに適した運気だったとも言えそうですね』

    「そうじゃな。彼女たちが何を考えて生きていたかはともかく、渡辺和子さんなぞは、坊主・シスターの大半がそうである転生回数が280回代の“3:ビジネスマン階級”であることからも、生涯未婚を貫くシスターとしての人生を自ら選んだことは想像に難くないじゃろうな」

    『そう言えば、坊主やシスターは“魂1:先導者”階級が圧倒的に多いのかと思っていましたが、かならずしもそうではないのですね。というよりも、魂1が既存/新興宗教の開祖の役割を担う一方で、二代目以降の教祖や、教団を動かす中心人物は“魂3:ビジネスマン”階級だと以前おっしゃっていた意味が、今になってようやく理解できたような気がします(※第4話参照)』

    陰陽師が首肯するのを確認し、青年は続ける。

    『また、ナイチンゲールさんは生涯3回のプロポーズを受けたもののその全て断ったらしいのですが、そのあたりの件も、自身の幸せよりも、より多くの人々に貢献する使命を彼女が優先した結果と考えても問題ないのでしょうか?』

    「彼女は転生回数の十の位が70回代の“大山”かつ“2:制服組(軍人・福祉系)”ということを考えると、結婚して家庭に入ることよりも、自ら戦場で負傷兵の看護をしたり、その経験をもとに統計学的な見地から負傷兵の死亡率を低下させるための政策提言、ひいては国民の健康増進という壮大なテーマのために一生を捧げることを望んだのじゃろうな」

    『なるほど』

    「ついでに補足しておくと、魂1が“8:男女運”、“2−4色眼鏡”の霊障を抱えた場合、魂1は2-4ではなく4−4と結ばれる可能性が極めて高くなる。さらに蛇足として付け加えるならば、4-4と結婚しない残りの魂1(先導者階級)と“魂2:制服組”階級全般は、縁遠さの影響を受け、本人の意思とは関係なく、生涯独身を通す可能性が極めて高くなるようじゃ」

    『魂の種類によって変化するのですね。とても興味深いです!』

    大きく頷きながら、青年は次の鑑定結果に目を通し始める。

    ⑦ 黒柳徹子さん(独身美女)

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    ⑧ 竹野内豊さん(独身イケメン)

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    『次は、この黒柳徹子さん(※⑦参照)です。彼女は、40年間遠距離恋愛していた外国人の男性がいたようなのですが、その男性が亡くなってしまったために独身を貫いているという説があります。このあたりの特殊な事情を考えると、彼女なんかも、天命運や何らかの霊障によって結婚を阻害されてしまったと考えるべきなのでしょうか』

    青年はスマートフォンを操作し、言葉を続ける。

    『その次の竹野内豊さん(※⑧参照)の場合も、熱愛報道のお相手が三人いましたが、すべて破局に終わっています。結婚の可能性も見えた女性もいるにはいたようですが、やはり天命運の“8:男女運”の相と恋愛運が3と極端に低いことが、今も独身でいる要因なのでしょうか?』

    「天命運の“8:男女運”の相にも、先祖霊の霊障同様、ハイスペックだが異性と縁遠いというパターンがあることから、黒柳徹子さんのケースも、竹野内豊さんのケースも、そなたの考察通り、そのあたりが影響しているのじゃろう」

    青年は納得顔で何度もうなずく。

    ⑨ マツコデラックスさん(ゲイと公表)

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    『今度は、ゲイと公表しているマツコデラックスさん(※⑨参照)ですが、LGBTの人物に何らかの共通点はあるのでしょうか? たとえば、転生回数の十の位が“30回代”の数奇な運命で、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が低い(3)などといった』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振りながら答える。

    「そなたの仮説がまったくの見当間違いとは言わんが、鑑定結果が一部の条件を満たしているからといって、それらの数字を抱えた人物がすべてLGBTとはならないことはよく理解しておくようにの」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『ただ、マツコデラックスさんの鑑定結果を鑑みるに、ゲイであることも含め、恋愛・結婚が世間一般の人々よりはハードルが高い気がしています』

    「そなたの言う通り、人類の半分を異性とすると、大多数の男女が恋愛や結婚の対象として異性に求める以上、単純な確率論で考えてみても、彼のような性向を持った人間は恋愛や結婚から縁遠くなってしまうのはしょうがないことなのかもしれんのう」

    納得顔で何度もうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで話は変わるが、2―3―5−5・・・2、つまり転生回数が第2期、“魂3:ビジネスマン階級“、OSとソフトの上段の数字が共に5、そして魂の特徴の最後の上段の数字が”2“という魂は、芸能界入りするための“入場券”であることは以前(※第5話参照)も説明したが、マツコデラックスさんのように、個性的なキャラを活かして芸能界入りする人物は、2(3)−3−5−5・・・2となることがあることも頭の片隅に入れておくようにな」

    『なるほど。大半の芸能人が2(4)つまり、転生回数の十の位が“40回代”の“小山”なのに対して、先ほどのビッグダディさんやマツコさんのように、特異な個性を持った人物の場合は例外的に2(3)となるのですね』

    「さよう。そなたは覚えておるじゃろうが、鑑定結果で2−3―5−5・・・2であることはあくまで芸能界への“入場券”であって、魂の特性に胡座をかいて努力を怠っているかぎり、芸能界に入れたとしても成功はおぼつかないことは他の職業とまったく同じじゃ」

    『天命としては芸能界入りする方向に道が開けてはいたとしても、たとえば先祖霊の霊障で“2:仕事”の相が出ていたり、育った環境によっては芸能界に進むことができない可能性もありますからね』

    黙ってうなずく陰陽師を確認し、青年は続ける。

    『結婚して子供を産み、幸せな家庭を築くことが世間では幸せとされていますが、不幸にして結婚が離婚という結果に終わったとしても本人たちがそのことを不幸と考えるとは限らないわけですし、結果的に離婚によって魂磨きの修行が進むのであれば、それはそれでいいのではないかと思います』

    「そうじゃな。結婚しさえすれば幸せになると思って結婚してみたもののうまくいかず、離婚した相手をずっと恨み続けることになったり、離婚によって子供に辛い思いをさせてしまうなどということもあるじゃろう。しかし、それもまた人生じゃ。我々の所業の可否なぞは、天寿を全うし、あの世に戻るまで誰にもわからんのじゃよ」

    陰陽師が発する言葉の重みを感じたのか、青年は一瞬たじろぎ、固唾を飲む。

    『これから鑑定を受けていただいた人々に対し、恋愛運や魂の属性を明確にすることで、世間一般の価値観に惑わされず、魂磨きの修行に励んでもらえたらと思います。結婚に拘らず、パートナーと幸せな関係を築いてもらえたらと思います。最悪、パートナーが現れなくとも、それが今世の天命だと理解し、ご自身が納得のいく人生を歩んでいただけるのであれば、それはそれでよろしいと思いますし』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。

    「うむ。魂の属性2の女性たちのように、結婚にも子供にも縁がなかった人生を辿るとしても、人の数だけ人の幸せがあるはずじゃし、仮に今世、理想の異性と巡り合えなかったしても、それ以上のやりがいを感じられる使命に人生を捧げることできるのであれば、それもまた人生じゃと、ワシも思うぞ」

    そう言うと、陰陽師は時計に目をやり、再び口を開く。

    「そろそろ時間のようじゃ。また、気になる疑問が浮かんだときには連絡を寄こしなさい。ワシで答えられることなら、何でも回答させてもらうからな。いずれにしても、気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。今日も貴重なお話をありがとうございました』

    魂の属性や恋愛運の説明をしたとことで、万人に受け入れてもらえるとは思わないが、結婚をしないという人生を含め、各人の天命に沿った様々な選択肢を一つ一つ丁寧に、粘り強く伝えていこうと思う青年だった。

  • 新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    青年は思議していた。
    先日のフジモンとユッキーナの離婚報道についてである。

    おしどり夫婦として幸せな家庭の一例となり、世間に希望を与えていただけに、衝撃的な出来事だったのではないか。離婚する夫婦には何らかの共通点があるのかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①:藤本敏史さん(フジモン)

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    ②木下優樹菜さん(ユッキーナ)

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    『先生、こんばんは。本日は恋愛や結婚について教えていただけませんか?』

    「恋愛と結婚かの。それは壮大なテーマじゃが、そのような問題を質問するにあたり、何か具体的なきっかけがあったのかの?」

    『今回は、おしどり夫婦として話題となっていた、フジモンさんとユッキーナさんの離婚報道が発端です。昨今の日本では、離婚や機能不全家族が増えているように思うのですが、この問題についてひょっとしたら何らかの共通点があるのではないか、そんな気がしてお伺いした次第です』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    「その二人(※①、②参照)は共に頭が2で“3:ビジネスマン階級”であることから、一見うまくいく要素が多いように見えるかもしれんが、逆に双方恋愛運が7であること、天命運に“8:男女運”の相があることから、結婚して関係が深まるにつれてすれ違いを自覚する機会が増えていったのじゃろう」

    青年はしばらく鑑定結果を眺めてから、口を開く。

    『僕も、先祖霊の霊障か、恋愛運の問題があるのか、はたまた天命運に8の相があると思っていましたが、他にも要因はあるのでしょうか? たとえば、その二人は共にチャクラ6のみの乱れで30%近くパフォーマンスが塞がれていますが』

    「チャクラについて少し補足すると、第6チャクラは第三の目とも言われ、“知覚する”、“知る”、“コントロールする”という意味を持つ。換言すると、“人生を正しく見ることと、思考の実現化能力”を司っており、インスピレーション・洞察力・理解力・叡智などの源泉とも言える」

    青年は真剣な表情でうなずいて見せ、陰陽師は青年の様子を横目に続ける。

    「第6チャクラが正常だと、記憶力や知的な学習能力が高まるだけでなく、論理的な思考をする左脳と、直感的な思考をする右脳のバランスがよくなり、結果脳全体を活性化することができる。逆に、異常があるとマイナス思考に陥りやすく、左脳と右脳のバランスが悪くなるため、物事全般に対する視野が狭くなりやすくなる。また、いろいろと思考を重ねているにもかかわらず、土壇場で正しい結論に達しなかったりする」

    『なるほど。離婚に至るまでにいろんな要因があったと思いますが、お子さんがお受験する際の進路を決める時に最初のすれ違いがあったようです。また、ユッキーナさんは“タピオカ恫喝事件”で炎上を招いたことから、家庭内外問わず肝心な場面で冷静さを欠いていたことが、少なからずあったのかもしれません』

    「もちろん、その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうが、二人とも“人生のアップダウン”が1と波乱万丈な人生を歩む傾向を持っていることから、離婚することも今世の宿題の範疇内と考える方が筋が通っているのかもしれんな」

    『ちなみに、恋愛運ですが、何点以下になると離婚の確率が高くなるのでしょうか?』

    「厳密に言えば、全体運との兼ね合いで総合的に勘案すべきなのじゃろうが、端的に言えば、恋愛運が7以下の者同士が結婚した場合、離婚に至る確率は極めて高くなると考えても差し支えないじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、大きく頷く青年。

    『もちろん、僕はこのふたりの直接の知り合いではありませんので、彼らがどんな人生を歩んだとしても直接何の影響もないのですが、それでも今回の離婚がお金がらみのドロドロしたものにならなかったことは、他人事ながら、よかったと思っています』

    「“他人の不幸は蜜の味”ということわざもあるが、そなたのそのような心がけは立派だと思うぞ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいて賛同の意を示す。青年は、思いがけない誉め言葉にちょっと照れながらも、質問を続けた。

    『ところで、魂1~3が魂4と結婚した場合、その結婚生活はどうなってしまうのでしょう?』

    「いつも話しておるように、人間とはいろいろの要素が集まった多面体のようなものじゃ。じゃから、魂1〜3と魂4の結婚がどうかと問われても、その一点をもって的確な返答をすることは容易なことではない。しかし、結婚が子育ても含め当事者同士の価値観のぶつかり合いという側面を有している以上、うまくいく可能性は極めて低いと言わざるを得ないじゃろうな」

    『え、そうなのですか?』

    いつもの笑みを浮かべながらそう答える陰陽師に対し、青年は顔を引きつらせながら答えた。

    「この二人のように、たとえ最終的に離婚という結論を選んだとしても、大局的見地があり論理的なベースを共有している可能性のある魂1〜3同士であれば、話し合いによって双方が納得のいく結論へ収束できる余地が残されている。しかし、夫婦のどちらかが魂4である場合、論理的な会話が成り立たない可能性が高いことから、相手に対する恨みや憎しみなどの感情に終始する結果、どれだけ慰謝料を多くふんだくるか、どうしたら相手よりも有利な条件で離婚を成立させるか、といった条件闘争になりやすい傾向は否めんじゃろうな」

    『なるほど。ただ、魂1〜3と魂4は価値観が合わないでしょうから、交際はまだしも、結婚へ進んでしまうケースはそうそうないように思いますが』

    「そう思うじゃろ?」

    眉ひとつ動かさずに笑顔で言う陰陽師に対し、青年はただならぬ気を察知してか、恐る恐る訊ねる。

    『・・・意外と多いのでしょうか?』

    陰陽師は大きく、ゆっくりとうなずいて見せる。

    「そなたも承知しているように、ワシのところには日々様々な相談が寄せられるわけじゃが、その中でも離婚相談、相性相談の比率は決して少なくない。そして、そんな何千人という男女の鑑定しているうちにわかってきたことは、先祖霊の霊障に“8:男女運”、もっと言えば霊障6~11を持つ人間は、ワシが想像していたよりもはるかに多く、が結婚してはならぬ相手と結婚しているという事実なのじゃ」

    『昨今の我が国の離婚数から考えても、今のお話はじゅうぶん納得できますが、そのようなミスマッチが増えている原因について何か心当たりはあるのでしょうか?』

    「もちろん、魂1〜3と魂4の結婚は太古には存在しなかったとまでは言わぬが、昨今のミスマッチの最大の原因は、やはり、“恋愛結婚”なのじゃろうな」

    思いがけぬ言葉に、青年はちょっと目を大きくして、問い返す。

    『結婚のあるべき姿とは、恋愛の延長にあると思っていましたが、昔はそうではなかったと?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲んでから口を開く。

    「昔をいつと規定するかにもよるが、少なくとも戦前までは、我が国では親同士が決めた結婚、あるいは近しい者からの紹介であるお見合い結婚が主流だったということができるじゃろう。また、そのような経緯で縁談が進められていたことから、結婚の前提条件も、当事者間の問題というよりも家同士の関係が重視されるという傾向が強かったことはいうまでもない」

    『魂1〜4と職業にもある程度以上の相関関係があったのでしょうから(※第4話参照)、両家の家柄や職業まで加味してしまうと、お見合い結婚では同じ属性の人物同士が結ばれやすい傾向にあったのかもしれませんね』

    「もちろん、誰をパートナーとして選び、どのような結婚をするかは当人の自由じゃし、魂1〜3が同じ人物同士で結婚するとしても、そもそも相性がよくなかったり、頭の1/2が異なっていたり、魂の属性が違っていたり、転生回数期が違う場合など、様々な要因によって問題が生じる可能性はあるわけじゃが、魂1〜3と魂4との結婚で生じる問題の大きさを考慮するかぎり、恋愛結婚による弊害は看破することのできない問題といえるじゃろうな」

    『結婚形態がお見合い結婚から恋愛結婚になったことで、結婚相手を探す入り口から誤りやすくなったのはわかりますが、霊障の影響でそんなにミスマッチが起こりやすいものなのでしょうか?』

    「“8:男女運”の霊障がどういった相か、わかっておろうな?」

    『はい。自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなる場合も該当すると記憶しています』

    青年の回答に対し、陰陽師は満足気にうなずいてから口を開く。

    「そのうちの“縁遠さ”という問題はひとまず置いておくとして、俗にいう“2−4色眼鏡”(世界に目を広げた場合は、各国の固有の属性分布によって、3-4、1-4が色眼鏡の対象になることがある)について、ちょっと説明しておくとしよう」

    陰陽師は二つの図を描きながら説明を始める。

    「“2−4色眼鏡”は、我々魂1〜3側からみると2−4の人物に惹かれるという問題となるわけじゃが、2-4側からものを考えると、魂1〜3の人物がよく見えるという“逆2−4色眼鏡”とでも呼ぶべき問題となるわけじゃな」

    『なるほど。逆もまた真なり、というわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷くと、話を続けた。

    「さらに厄介なことに、この問題は異性間のみならず、同性間にも適用されるというところにある」

    『つまり、同性間の友人関係にも影響をあたえる可能性があると』

    「それだけではなく、学生時代の同級生、職場の同僚といった社会的な人間関係にも適用されるから、なおさら厄介なんじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、思わず黙り込む青年。そんな青年を横目で見ながら、陰陽師が言葉を続けた。

    「しかし、そのあたりまで話を広げてしまうと本日の話題から離れてしまうので、話を異性間に絞るとしても、結婚が当人同士の価値観をベースとして成り立つ以上、魂のレベルの差という問題は時として結婚生活に致命的な影を落とす結果となる」

    『ということは、恋愛結婚という結婚形態は極めて危険なメカニズムということじゃないですか!』

    青年は身を乗り出し、やや興奮気味に言った。

    「さよう。いくら魂1〜3の人物が論理的なベースを共有しているといったところで、こと恋愛や結婚に関しては情に流されやすい。その結果、お互いの価値観にすれ違いがあっても、見て見ぬ振りをして結婚まで進んでしまい、さらに子供ができてしまうと、今度は子供を理由に離婚することが難しくなり、結果、機能不全家族となったりする可能性があるわけじゃから、伴侶のどちらかが異なる魂であった場合、さらに問題が大きくなることは説明するまでもない」

    『“家出少女と誘拐犯(※第14話参照)”でご説明していただいたように、両親のどちらかが魂1〜3で、どちらかが魂4の場合、親子で価値観が合わず、お子さんが辛い体験をする可能性も高くなると』

    「その通りじゃ。恋愛ではなく結婚の場合、夫婦だけでなく、生まれてくる子供の人生にまで影響をおよぼしてしまうことから、恋愛結婚が主流である昨今では、“8:男女運”の相がある場合には、その相を一日も早くに除去しておくことが望ましい」

    『霊障ですから、神事を受けるまでずっと続いてしまうのだと思いますが、その相に限って言うと、先生のクライアントの中で完全に外れるのに日数を要した最長記録はどれくらいでしょうか?』

    「・・・4年じゃな」

    『え、4年ですか?!』

    「たとえば、金運や仕事運や病気の相と違い、男女運、特に“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の問題は、いわば生活習慣病なようなものでの。霊障を祓ったからといって、その翌日から世界が変わって見えるというものではない。その依頼人の場合も、母親から“いつになったら娘の色眼鏡が外れるんですか!”と、何度も詰められたもんじゃ」

    陰陽師は遠い目をしてそう言い、青年は目を見開いて答える。

    『なるほど、この問題は審美眼を基調とした生活習慣病みたいな問題なので、時としてはかなりの期間引きずることがあるというわけですね。過去に“だめんず・うぉ~か~”という漫画がありましたが、何度もダメ男と交際してしまう人も、“8:男女運”の相の影響を受けているのでしょうか?』

    「その漫画を読んだことはないが、その可能性は高いじゃろうな。というのも、“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の霊障がある場合、結婚以前に恋愛の段階から選ぶ相手を誤っているわけじゃからな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は眉間にシワを寄せて腕を組む。

    「先ほども話したように、今世でどのような選択をするかは本人たちの自由ではあるものの、霊障による“組違い”という問題は、一つでも多く解決したいと切に願っておるものの、そもそも出会いが必然である以上、その出会い自体を得られるかどうかが、まず問題というわけじゃしな」

    『感情に関していうと、自分の感情は自分でコントロールすればいいわけですし、感情論に走りやすい魂4の言動に一喜一憂していることも生産的ではなく、同時に、天命に沿った生き方でもないと思います。そんなことをしている暇があるのであれば、もっと有益なことに時間や労力を使う方が大事だとも思いますので、幸せな家庭を築きたい人には“8:男女運”の相を早急に解消し、運命の人と出会いやすくなってもらいたいです』

    「もちろん、既に結婚、交際している人々にとっては辛い現実が立ちはだかる可能性が高いがの」

    魂4の人物と交際している魂3の友人のことが脳裏に浮かび、青年は視線を落とす。

    そんな青年の様子を見、陰陽師は励ますような口調で付け足す。

    「人物鑑定だけでは相性を判断するにあたり情報が少なすぎる。じゃから、結婚を本気で考えるような時期が来たら、そなたも早めに意中の異性との相性鑑定を依頼するようにな」

    『肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はお見合いについて考えていた。
    たとえお見合いで出会ったとしても、“8:男女運”や“10:伴侶”の相があると、結婚後に苦労し、最悪離婚するのではないか。そして、そのような問題を解決するためにも、神事を受けて霊障が解消された人同士を繋ぐ結婚相談所があると、相性が良い人々を繋ぎやすくなるかもしれない。
    そんな新たな試みを閃き、青年の表情は明るくなるのだった。

  • 新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2018年東海道新幹線殺傷事件の結末についてである。
    この事件は、無職ホームレスの男性が、無期懲役になって刑務所で一生を過ごしたいがために、計画的に新幹線の近くの座席に偶然居合わせた人物を襲ったものである。二人が重傷を負い、一人が死亡した。

    判決の結果、望んでいた通りの無期懲役となり、加害者の男性は万歳三唱をした。

    こうした無差別殺人事件はなぜ起こるのか?
    被害者となってしまう人物には、何か共通点があるのだろうか?
    青年は答えを求めるように、陰陽師の元を訪れた。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①加害者の男性
    頭2、4(7)―4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に1・2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運1、ビジネス運1、金運1、人運1、恋愛運1、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    ②死亡した被害者の男性
    頭1、3(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、1・5・6・7。
    全体運1、ビジネス運8、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ③窓際の席の隣の女性
    頭2、2(3)―2、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、6・7。
    全体運1、ビジネス運9、金運9、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ④通路を挟んで反対側に座っていた女性
    頭1、3(3)―3武将、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運3、ビジネス運9、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    『先生、こんばんは。今日はまた事件について教えていただけませんか?』

    「もちろん。で、今回はどういった事件かな?」

    青年は事件の顛末について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かしながら黙って青年の声に耳を傾ける。

    『事件が起きる背景にはいろんな事情があると思いますが、もしも事前に防ぐことができるなら、せめて関わりがある人々だけでも助けてあげられたらと思うのです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を記しながら、口を開く。

    「まず、加害者(※①参照)には先祖霊の霊障もチャクラの乱れもない。つまり、間違いなく加害者の意志で事件は起きたと思われる」

    『霊障による精神疾患がないという意味だと思いますが、だとすると、この事件は起きるべくして起こった事件なのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずき、鑑定結果を書きながら答える。

    「今度は被害者3名の共通点じゃが、みな転生回数の十の位が“30回代”であり、天命運に“5:事故/事件(人災・事故・被害者・怪我)”があった。また、全体運が1〜3とかなり低く、人運にいたっては1しかない(9点満点)」

    青年は鑑定結果を食い入るように見つめ、口を開く。

    『不運の条件が重なりに重なり、今回のような数奇な事件に引き合わされたのでしょうね・・・』

    「もちろんそうとも言えるが、話を加害者に戻すと、全体運もビジネス運も金運も1と最低値であり、しかも天命運に“1:金銭”と“2:諸事万般”の相があることから、そもそも今世の彼の人生は自力で生活することそのものが困難だったはずじゃから、被害者の3名と巡り合わなくても、遅かれ早かれ別の形で無差別殺傷事件を起こしていた可能性が高いのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に目を見張り、青年は驚きの声をあげる。

    『加害者がホームレスで無職だったことは納得ですが、生活保護を申請したとしても、運気が塞がれていた影響で通らなかったのかもしれませんね』

    「というよりも、彼の選択肢の中では、生活保護よりもこのような形で生きる糧を確保する方が合っていたのじゃろう。いくら魂が4で、転生期間も第4期だったとは言え、“70回台”と“大山”にいるわけじゃからな」

    そんな陰陽師の説明に、青年は暗い表情で顔を伏せ、ため息をつく。

    「ところで、登場人物の属性分析は分析として、今回の事件、そなた自身はどのような印象を持っておるのかの?」

    陰陽師の言葉に青年は顔を上げ、腕を組んでしばらく黙考する。
    励ますような陰陽師の笑みを確認し、やがて青年は重い口を開いた。

    『加害者が無期懲役を望んで今回の事件を起こしたとするなら、それを叶えずに死刑にすることは一理あると思います。昨今の我が国の経済事情を考えると、今回の判決によって、刑務所に入りたいがために犯行に及ぶ新たな人間が現れないとも限らない気がしますので』

    青年の言葉を聞き、続きを促すように陰陽師は黙ってうなずく。

    『もちろん、刑務所での生活が加害者にとって安楽なものでなく、反省し、改心できる環境なのであれば、話は別かもしれません。あるいは、特別に過酷な労働環境に身を置かせることなど、加害者の望みが叶わないような特別な対応ができるのであれば、被害者や遺族の方々も納得しやすいのではないかと思います』

    「たしかに、そなたが考えるように、加害者の甘い希望を打ち砕くというのも一つの解決方法ではあるかもしれんな」

    陰陽師が、小さく頷いた。

    「ところで、ネットでは、この事件にたいしてどのようなコメントが上がっているじゃろう?」

    陰陽師に訊ねかけられ、青年は早速スマートフォンを操作し始める。

    《コメント(1)》
    希望通りの生活は刑務所にはないと思う。
    事の重大さが分からないまま死刑になるよりキツい判決かもしれない。
    そんなに簡単に“ラク”にさせるのも違う気がした。
    生きるのが嫌な人を死刑にするなら、執行は20年後くらいにして欲しい。

    ※頭1、2(3)−3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14の相。チャクラ5・6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(2)》
    普通の神経の持ち主なら、懲役などの刑事罰は受けたくない。
    だが、こう願ったり叶ったりになってしまうのは別の罰を与えられないだろうか。
    無期懲役になったらその先はみんな一緒ではあまりに被害者や遺族が不憫。

    ※頭1、3(4)―3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラ6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(3)》
    犯人を責めるのは簡単だし、犯人はもちろん罪を償わなければならない。
    だが、青年が“犯人にならざるをえなかったこと”が現代の闇かもしれない。

    ※頭1、3(3)―3武士、魂の属性3(先祖霊の霊障に6〜15の相)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ2〜7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(4)》
    どうしてこんな人を税金で養わなければならないのか?
    判例が、前例が、で死刑にできないなら裁判官を辞めてほしい
    判例に基づくならAIに任せればいい

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    以下、コメント(4)に対して
    《コメント(5)》
    死刑じゃ生温い。もっと税金使って日々拷問して公開してほしい。
    今後の抑止にもなる。

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    《コメント(6)》
    判決を出すには理由づけが必要。
    その理由だって裁判官の経験則に基づいたものでなければいけないから、たとえ裁判官本人が死刑にしたかったとしても、前例がなければできないなんてこともある。
    他にもツッコミどころがありますが、司法がそんな簡単に務まる物じゃ無いことは知っておいた方がいい

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    青年がコメントを読み上げるのに合わせ、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。
    一通り書き終えると、陰陽師は口を開いた。

    「まず、コメント1〜3は魂3で、4〜6は魂4の人間のコメントじゃな」

    『なるほど。前半と後半とで印象が異なるコメントを抜粋しましたが、やはり分かれましたか』

    陰陽師が黙ってうなずくのを確認し、青年は続ける。

    『コメント1〜3は判決の結果に捉われず、この判決結果がおよぼすであろう世間への影響や遺族のことを考え、事件が起きたそもそもの背景に注目していることから、魂3ということに納得しました』

    「また、三人ともが頭が1、というのも特徴的じゃな」

    『コメント4は、問題の論点をすり替えただけで、コメント5は新たな考えを提案しているかと思いきや、結局は死刑に相当するような苦痛を与えたいという感情論に終始している感じがします。コメント6は大局的見地から発言している印象を受けましたが、知識を用いてコメント4に対して上から目線で接したいだけの印象なので、魂4だということに納得です』

    「なるほど。いつの間にか、コメントからそなたなりの見立てができるようになったようじゃな」

    微笑みながらうなずく陰陽師に対し、青年ははにかみながら小さく頭を下げる。

    『全体的に死刑に賛成する声が多かったのですが、判決結果のみに言及していたコメントは魂4だと予想し、抜粋しませんでした』

    「この世の基準、例えば望みが叶うことが幸福、望みが叶わないことが不幸という二極的な視点で考えれば、加害者の望みを叶えない死刑の方が判決として妥当、という声が多いことはある意味当然の帰結じゃろう」

    陰陽師の言葉に青年は黙ってうなずき、続きを待つ。

    「しかしながら、“この世は魂磨きのための修行の場”という前提を踏まえ、生きたまま罪を償いつつ、魂の修行を続けさせることも選択肢の一つとして考えてみてもいいのじゃろうな」

    『死んだことがないのでなんとも言えませんが、この世の時間の流れであれば、死の苦痛は一瞬なのではないかと思います。反省を促すという意味であれば、先生がおっしゃる通り、生きてもらう方が理にかなっている気がします』

    陰陽師は加害者の鑑定結果にラインを引き、口を開く。

    「人間である以上、感情的になって、罪を犯した人間に何らかの罰を与えたいと思うのはもっともなことではあるが、特定の人物に対して恨み辛みを持ち続けることは執着に繋がり、天命から外れる一因にもなりかねん」

    『なるほど。色々と思うことはありますが、加害者に対して長く憎しみの念を抱くよりは、生きられていることに感謝し、天命を全うする努力をする方が幸せなのかもしれませんね』

    力強い眼差しで青年はうなずき、陰陽師は満足そうに微笑む。

    『鑑定結果で“5:事故/事件”の相がある人が今回のような事故・事件に巻き込まれて地縛霊化しないよう、ご縁があった時はよく話してみようと思います』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしてから口を開く。

    「ちなみにじゃが、今回の事件で命を落とした被害者の男性は、無事にあの世に帰還しておるからな」

    意外な回答に、青年は目を見開きながら答える。

    『そうなのですか? 僕はてっきりこの世に未練を残し、地縛霊化しているのかと思っていました』

    青年の反応に対し、陰陽師は小さく笑って答える。

    「臨終の際に未練があるかないかは当人次第じゃ。第三者的に見て、志半ばで命を落としたり、この世をはかなみ自殺したからと言って、地縛霊化しているとは限らんのじゃよ」

    『なるほど・・・』

    「逆に、例えば聖路加国際病院の元院長、日野原重明氏のように、未来日記を何年も先まで書いてやりたいことをたくさん持っていたりすると、それが執着になって地縛霊化してしまうこともある」

    『105歳まで生きたあの医師が! 未来日記を書くとは、生前はずいぶんと前向きな人物だったと思うのですが、そうした人物であっても、死ぬ瞬間にこの世に思いを残していると地縛霊化するのですね・・・』

    「さよう。やりたいことや目標をもつことは大事じゃが、それが執着にならないようにそなたも気をつけるのじゃぞ」

    『はい。僕は神事のおかげでパフォーマンスが100%になっているので、死ぬ時は天命を全うしたのだと思って潔く受け入れます』

    「その意気じゃ。病や事件、戦争などをこの世からなくし、“地上天国”を目指すことこそがこの世の目標と考えている人物は少なくないと思うが、魂の修行という意味では、一見悪と思える所業も特定の人間にとっては必要だったりすることもあるわけじゃしな」

    『必要悪という言葉があるように、この世から病や戦争をなくすことはできないのだと薄々感じていましたが、先生の言葉を聞いてそのあたりのことは納得しました。とは言え、少なくとも僕はそれらに巻き込まれて無意味に命を落としたくないので、神事を受け、“この世とあの世の仕組み”について色々と勉強させていただくことができて、本当によかったと思っています。今であれば、不慮の死に直面したとしても、この世に無用な想いを残さず、心静かにあの世に戻ることができるような気がします。もちろん、その時になってみなければ、実際はわかりませんが』

    そんな青年らしい率直な言葉に、陰陽師はおかしそうに笑いながら、言葉をつけ加えた。

    「出会いは必然じゃとしても、当時のそなたにとっては、文字通り、“清水の舞台から飛び降りるような”英断じゃったな」

    出会った頃の青年の様子を思い出し、陰陽師は体を揺らして笑う。
    青年は過去の自分を振り返り、いろんな感情を噛み締めてゆっくりうなずいて見せる。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。運気的に事故や事件に遭う可能性は低いとは言え、みずから危険な状況に首を突っ込まないようにします』

    陰陽師は笑いながら片手を上げて挨拶をし、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    帰り道、青年は10歳の時に二度死にかけたこと、すんでのところで交通事故に遭いそうになったことを思い出した。もしも自分に“5:事故・事件”の相があったら、そう思うと青年は背筋がゾッとし、今も生きていることに対する感謝へ置換して一歩一歩確かな足取りで歩むのだった。

  • 新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    青年は思議していた。

    過去に神社の相性があると聞いたが、その相性は何によって決まるのだろうか?
    人物に頭の1/2の区別があるのと同様、神社仏閣にも1/2があるのかもしれない。だが、一人で考えてもわかるはずがなく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は神社仏閣について教えていただけませんか?』

    「一口に神社仏閣といっても、語り尽くせないほどのテーマがあるわけじゃから、とりあえずどういったことを知りたいのか手短に教えてもらえるかの?」

    『簡潔に言うと、神社仏閣と人間の相性についてです。人物の頭に1/2の別が存在する以上神社仏閣にも1/2の別があるのでしょうか?』

    「もちろん、神社仏閣にも1/2の別は存在する。また、その区別は誰が主祭神であるかによって決まるわけじゃが、人間との相性の良し悪しは、各人の1/2と一緒と考えて問題ない」

    『ということは、“農耕民族の末裔”である頭が1の人物は、豊作祈願を謳っている神社と相性が良く、“狩猟民族の末裔”である頭が2の人物は、合格祈願や必勝祈願といった獲物、現代で言う目標達成を謳っている神社と相性が良いのですね?』

    陰陽師は小さくため息をつき、口を開く。

    「なるほど。そのあたりから説明する必要があるわけじゃな」

    『いつもながら不勉強で恐縮です』

    青年は頭を下げ、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「まずは前提として、“カミ”とは感謝をする対象であり、衆生の“私利私欲”に満ちた願い事をする対象ではないということは前にも話をした通りじゃ」

    『不可思議の世界にいる神の価値観と、思議の世界に生きる我々の価値判断は、往々にして一致しないというお話しだったと思いますが』

    「うむ、その通りじゃ。我々人間の価値判断からすると不幸な出来事も、実は更なる幸福の前兆であったり、我々が考える幸福の実現が、実は大きな不幸の序章だったりという具合にの」

    『はい、そのように記憶しています』

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「また、それ以前の問題として、本物の神様は衆生の私利私欲に満ちた願い事なぞには耳を貸さず、願い事を聞くのは、神の使い走りである眷族であるという話もちゃんと覚えておろうな?(※第15話参照)」

    『はい。眷属は願いを聞いてくれる反面、必ず何らかの代償を求めるのでしたよね』

    青年の言葉に、陰陽師は首肯して答える。

    「さよう。つまり、相性の良し悪しにかかわらず、神社仏閣で願い事をするのは控えるべき、というのが神社参拝の大原則となる」

    『肝に銘じておきます』

    「さらに話を元に戻すと、“カミ”の起源はメソポタミア文明にまで遡るのじゃが、そこまで話すには時間が足りぬ。よって、今回は日本の神社仏閣に絞って説明しようと思うが、そなたは日本の神々について、どの程度の知識があるのかな?」

    首を傾げ、しばらく黙ったのちに青年は答える。

    『“古事記”や“日本書紀”で、イザナギとイザナミの夫婦神が日本を作った場面からなら、話についていけるかとは思いますが・・・』

    「つまりは“天地開闢”(てんちかいびゃく)の部分からであれば、それなりの知識があるというわけじゃな」

    青年は黙ってうなずく。開闢という言葉は聞き慣れないが、天地創造と脳内補完したのだろう。

    「であれば聞くが、そなたは“記紀”(古事記と日本書紀)の中身がすべて真実じゃと思っておるのかな?」

    『大昔の話なのでその真偽をすべて確認することはできないと思いますが、大部分が真実であると思います』

    罰が悪そうに言う青年。陰陽師は励ますような笑みを浮かべて答える。

    「そなたの言うように“記紀”の中身がすべて間違っているということは、もちろんない。しかし、記紀の神話部分に話を限って話をするとすれば、真実を伝えているとは言い難い」

    『しかし』

    眼を大きくして聞き返す青年。

    『どのあたりが、真実ではないのでしょうか』

    「決定的な問題は、そのすべてが日本国内の歴史ではなく、天皇家を中心とした祖先たちが日本にたどり着く過程を神話仕立ての“物語”にしたものというところじゃな」

    『ということは、記紀の神話部分とは、国内の出来事ではなく、我々の先祖たちがメソポタミアから日本に辿り着くまでの壮大な歴史の集大成であって、決して日本固有の歴史を描いたものではないとおっしゃるのですね』

    意外な展開にちょっと目を大きくする青年に、陰陽師は首肯して答える。

    「その通りじゃ。日本人が世界に散らばって血が薄まったという話を耳にするが、むしろ実相はその逆で、メソポタミアやエジプト、古代インドにおった人間たちが陸路海路を使い、日本列島に到着した壮大な物語が記紀の神話部分というわけじゃな。そして様々な地域を経由する途中で様々な血が混じり、今の日本人ができたというわけじゃ」

    『つまり、日本人こそ、究極の混血民族だと」

    納得顔で何度もうなずく青年。陰陽師は湯呑みに注がれたお茶を一口のみ、口を開く。

    「さて、天地創造、国生みの話に補足をすると、伊邪那岐尊(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の前に国之常立神(クニノトコタチノカミ)と呼ばれる神々がおることは理解しておるかな?」

    『いえ、それらの神々については知りませんでした』

    青年は目を見張って答える。陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「“天地開闢”、つまり天地創造の最初に現れたとされているのが天之御中主神(アメノミナカヌシ)と高御産巣日神(タカミムスビ)と神産巣日神(カミムスビ)の造化三神じゃ」

    青年はカタカナで名前を速記していく。神様の名前の漢字って難しいよね!

    「ちなみに頭の1/2を説明しておくと、天之御中主神は1、高御産巣日神と神産巣日神は2となる」

    『全員が1ではなく、逆に2の方が多いのですね。地球の魂の比率で頭2の方が多いことと何か関連があるのでしょうか?』

    「彼らも我々の祖先であるわけじゃから、そう考えることもできるじゃろうな」

    陰陽師は首肯して、先を続ける。

    「今までに登場した神々の1/2の別をみていくと、国常立神が1、その後に登場する伊邪那岐尊は1、伊邪那美命は2。そして、伊邪那岐尊の右目から誕生した天照大神(アマテルオオミカミ)が1、左目から誕生した月読命(ツクヨミノミコト)が2、そして鼻から誕生した須佐之男命(スサノオノミコト)が2となる」
    黙ってうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「日本の神話の大元に近い神々の1/2がわかったことから、今度は日本中にある神社仏閣に話を移すが、まず大前提として理解しておくべきポイントは、同一の神社であったとしても、1/2が分かれることがあるという問題じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「日本の神社は、大きく分けると二つの系統となるが、それについては知っておろうな?」

    青年は黙って一点を見つめ、おもむろに口を開く。

    『伊勢神宮系と出雲大社系ということでしょうか?』

    「さよう。天孫系の伊勢神宮の内宮は天照大神(外宮は豊受大神1)を主神としているから1、国を譲った国津神系の須佐之男命、その子孫で出雲大社の祭神である大国主大神、そして大国主の次男で諏訪大社の祭神である建御名方富命(たけみなかたとみのみこと)が2であることから、それらの神々を祭神としている神社もすべてが2、というのが基本的な分類となる。各々の分社/末社も基本的に主神が同じであることから、以下同文と考えてよい」

    『基本的ということは、例外もあるわけなのですね?』

    「その通りじゃ」

    青年の質問に、陰陽師が首肯する。

    「稲荷神社と八幡宮を例に取ってそのあたりのことを説明すると、次の様になる」

    『稲荷神社は、赤い鳥居とおキツネ様がいるあの神社のことですね』

    青年の回答に小さく頷くと、陰陽師が言葉を続けた。

    「たしかにその通りじゃが、おぬしはあそこの神様が誰か知っておるか?」

    『稲荷神社を分霊した祠によく祀られている、陶器のおキツネ様ではないのでしょうか』

    「なるほど。おぬしでもそのくらいの認識なのじゃな」

    陰陽師が、小さく首を左右に振りながら、ため息をつく。

    『え、違うのですか? 稲荷神社の神様は、おキツネ様ではないと?」

    「稲荷神社の主祭神は、宇迦之御魂神(ウカノミタマ) という女の神様じゃ」

    『え、そうなのですか。初めて聞きました。で、その神様はどのような由来の神様なのでしょう?』

    「由来については諸説ある。たとえば、古事記によると、須佐之男命(スサノオノミコト)と神大市比売命(カムオオイチヒメ)の御子として、兄の大年神(オオトシノカミ)とともに生まれたと記されておる。一方、日本書紀では倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)と表記され、国生みに際して伊邪那美神(イザナミノミコト)から生まれた粟島と同神じゃと考えられておる」

    『なるほど』

    「ただし、稲荷神社の主祭神としてウカノミタマが文献に登場するのは室町時代以降のことで、伊勢神宮ではそれより早くから、御倉神(ミクラノカミ)として祀られておったことから、伊勢神宮外宮の祭神である豊受大神と同神とする説も根強い。さらには、日本書紀において、神武天皇が戦場で祭祀をした際に、供物の干飯に厳稲魂女(イツノウカノメ)という神名をつけたとあって、本居宣長などは“古事記伝”で、この神こそがウカノミタマだと言っておる」

    「ウカノミタマは宇迦之御魂神と倉稲魂命と二つの漢字名があるのですね。ややこしい・・・。それで、先生は、どの説が正しいとお考えですか?」

    「今の登場した神々を列挙すると、須佐之男命(スサノオノミコト)、神大市比売命(カムオオイチヒメ)、大年神(おおとしのかみ)、伊邪那美神(イザナミノミコト)は2となり、倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)、豊受大神、厳稲魂女(イツノウカノメ)がそれぞれ1となる。それ故、ワシがみる限り、稲荷神社の主神はあくまでも、女神で1なので、宇迦之御魂神は後者の神々の集合体ということになるな」

    『なるほど。そして、稲荷神社は1の神社だと』

    「ところが、話はそう単純ではなく、少なくとも現在の伏見稲荷を中心とした稲荷神社はすべて2となる」

    『え、そうなのですか?』

    納得がいかないという顔をしている青年に、陰陽師は話を続けた。

    「おぬしも神様だと思っておったおキツネ様じゃが、あのような存在のことを眷族と呼ぶことは以前に説明した通りじゃが、眷属とは、本来、神の使者を意味し、その多くは神と関連する想像上の動物を含めた動物の姿を持っておるのじゃが、神道では、蛇や狐、龍などがそれにあたる。また、彼らには神の意志を伝えることがあるため、神使と呼ばれたりもしておるが、いずれにしても、人間を越える力を持つため、“眷属神”と呼ばれ、眷属神そのものを祀る神社まで存在しておる」

    『なるほど』

    「さらに、大乗仏典では、仏に対する様々な菩薩などを指すこともあり、薬師仏における十二神将や不動明王の八大童子、千手観音の二十八部衆なども、眷族ということができるわけじゃな。日本では本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)の発生とともに日本古来の神祇が仏や菩薩として再編され、本地仏を持つ親神と大きな神格に付属する小さな神格である眷属神に分類したわけじゃな。代表的なものとしては、王子神社などが有名じゃ」

    陰陽師の解説に、大きく頷く青年。

    『話を聞く限り、眷属を祀っている神社は多そうですね』

    「うむ。その中でもキツネを眷族とする稲荷神社と、龍を眷族とする諏訪大社がその双璧じゃろうな」

    「了解しました」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続けた。

    「さて、今度は八幡宮に話は移るが、八幡宮は全国に4400社もあり、総本社は宇佐神宮1となっておる」

    『4400も! どおりで、いろんな土地で八幡宮の名前を見かけるわけですね』

    「また、宇佐神宮は石清水八幡宮・筥崎宮(または鶴岡八幡宮)とともに日本三大八幡宮の一つとされており、神仏分離以前は神宮寺の弥勒寺と一体のものとして、正式には宇佐八幡宮弥勒寺と称していた。現在でも通称として宇佐八幡とも呼ばれる」

    『話の流れから察するに、同じ八幡宮というくくりであっても、主祭神によって1/2が異なるのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、紙に主祭神の名前と1/2を記していく。

    宇佐神宮1
    一之御殿:八幡大神 2(はちまんおおかみ) – 誉田別尊2(応神天皇)とする
    二之御殿:比売大神 1(ひめのおおかみ) – 宗像三女神1(多岐津姫命・市杵島姫命・多紀理姫命)とする
    三之御殿:神功皇后 2(じんぐうこうごう) – 別名として息長足姫命2ともいう

    しばらく紙を黙読したのち、青年は口を開く。

    『二之御殿だけ1ですが、これは主祭神が比売大神1だからでしょうか?』

    「さよう。よって、全国的に比売大神1のいない八幡神社の末社の中には2の神社が存在するわけじゃな」

    『なるほど。ですが、メインと思われる一之御殿の主祭神は2なのに、どうして宇佐神宮全体は1なのでしょうか?』

    「そのあたりの話を始めると長くなるので今回は割愛させてもらうが、このあたりに記紀がかならずしも史実を伝えているわけではないことが垣間見えるわけじゃな」

    青年は腕を組み、唸り声をあげた。

    「ちなみに、応神天皇は神功皇后の息子と言われておるが、両者は共に実在しないとも言われており、詳細は以下のようになっておる」

    神宮皇后2(成務天皇40年 – 神功皇后69年4月17日)は、日本の第14代天皇である仲哀天皇の、皇后。

    初めての摂政(在位:神功皇后元年10月2日 – 神功皇后69年4月17日)とされる。
    さらに明治時代までは一部史書で第15代天皇、初の女帝(女性天皇)とされたが、大正15年の皇統譜より正式に歴代天皇から外された。

    『日本書紀』では仲哀天皇崩御から応神天皇即位まで約70年間ヤマト王権に君臨したとするが、その約70年間は天皇不在ということになるが、実際には実在しない。また、父は開化天皇玄孫・息長宿禰王で、母は渡来人の新羅王子天日矛(あめのひぼこ)裔・葛城高顙媛。

    仲哀天皇2年、1月に立后。天皇の熊襲征伐に随伴する。仲哀天皇9年2月の天皇崩御に際して遺志を継ぎ、3月に熊襲征伐を達成する。同年10月、海を越えて新羅へ攻め込み百済、高麗をも服属させる(三韓征伐)。12月、天皇の遺児である誉田別尊を出産。翌年、誉田別尊の異母兄である香坂皇子、忍熊皇子を退けて凱旋帰国。この2皇子の母は仲哀天皇の正妻であり、神功はクーデターを起こしたことになる。

    クーデターの成功により神功は皇太后摂政となり、誉田別尊を太子とした。誉田別尊が即位するまで政事を執り行い聖母(しょうも)とも呼ばれる。一部の史書では第15代天皇で初の女帝とされている。摂政69年目に崩御。要は、スサノオノミコト同様、(存在したとしても)朝鮮人(を何等か脚色した人物)と思われる。
    なお、朝鮮側の史書には、このような記述は一切存在しない。

    その息子の誉田別尊2は、応神天皇と同一とされる。また早くから神仏習合がなり、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)と称され、神社内に神宮寺が作られた。

    『神功皇后も須佐之男命も、過去に実在した朝鮮からの渡来人の誰か、という一面を持っているのですか? 神様として別次元の存在かと思っていましたが、地球人の祖先として捉えると、なんだか親近感が湧いてきます』

    目を見張る青年を見、陰陽師は笑いながら口を開く。

    「先ほども言ったように、大昔のメソポタミアから始まる話なわけじゃから、ベースは我々と同じ人間なのじゃよ」

    『と言うことは、神話の中には奇跡を起こすような話がありますが、あれも実際に人間がやっていたのでしょうか?』

    「ああいった話はワシから言わせれば漫画の話であって、過去の人物を権威づけるために後世の人間が捏造/誇張したと考えた方が実相に沿っておるじゃろうな」

    小さく笑いながら言う陰陽師に対し、青年は納得顔で何度もうなずく。

    『いろんな国の神話において、神様も人間臭い一面があるなあと思っていましたが、結局はいわゆる神様ではなく、我々と同じ人間だったのですね』

    崇めていた存在が自分たちと同じ人間だと知った途端、神様への扱いが少し雑になる青年だった。
    陰陽師は湯呑みに注がれていたお茶を一口飲んでから、再び口を開く。

    「同じ理由で、八坂神社にも注意が必要じゃ。八坂神社はもともと “牛頭天神社”や“祇園天神社”と呼ばれており、主祭神を中の座が牛頭天王1、東の座が八王子1、西の座が頗梨采女(はりさいにょ・ばりうねめ)1としていたのじゃが、明治元年の神仏分離令によって須佐之男命2とその妻、櫛名田比売(クシナダヒメ)2とその子供たちである“八柱御子神”2に変わってしまったわけなのじゃよ」

    『その場合、主祭神が2に変わったわけですから、八坂神社も2になるのでしょうか?』

    青年は首をかしげながら言い、陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「このあたりは神々の力関係の問題となるのじゃろうが、少なくとも八坂神社の場合は、主祭神が変わっても、変わらず1のままとなる。末社である疫神社の祭神は蘇民将来となっているものの、大きな意味では、昔と変わらず牛頭天王が祀られておるわけじゃな」

    『人間の事情で主祭神を変えたとしても、末社とはいえ、元々の主祭神がいるかぎり1/2が変わらない場合も存在すると』

    青年は何度もうなずいて納得の意を示し、続ける。

    『それにしても、牛頭天王から須佐之男命というように、なぜ1/2が異なる神が主祭神になってしまったのでしょうか?』

    「一見、その二神は関係がないように思えるが、実はそうではない。この神社の伝説として、高句麗から伊利之(いりし)という人物が使節として来日するにあたり、新羅の牛頭山から須佐之男命を勧請したという逸話が残されている」

    『そうした逸話も根拠の一つとして、先ほどの須佐之男命が朝鮮人としての一面を持っていると言えるのですね!』

    興奮気味に言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他にも、この疫神社の主祭神は蘇民将来となっておるが、そなたは“蘇民将来”の伝説を知っておるかな?」

    軽く引きつった笑みを浮かべながら、青年は首を横に振る。青年の様子を見、陰陽師は小さくため息をついてから説明する。

    「蘇民将来の一般的な伝説によると、北の海にいる武塔天神という神様が、南の海にいる女性と結婚するために旅をする途中で、将来の兄である巨旦将来に宿を乞うたところ、彼は裕福であったにもかかわらず、宿を貸すことを拒んだ。一方、弟の将来の方は、貧しかったにも関わらず、武塔天神を歓待すると、できるかぎりの饗応をした。それをよろこんだ武塔天神は、数年後、八人の子供を連れてふたたび蘇民将来の家を訪ね、“恩返し”として、蘇民の家族の腰に茅の輪をつけさせたのだが、その晩激しい疫病があたりを襲い、蘇民将来の家族以外の者はみんな死んでしまう。その翌日、武塔天神は“我はスサノオなり”と名乗るとともに、“これからも疫病が発生した際には、我らは蘇民将来の子孫である、と名乗ったうえで、腰に茅の輪をつければ決して病気になることはない”、と言い残したそうじゃ」

    『さすがにそれは創作のような印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょうか?』

    「今の話は、“備後国風土記・逸文”という書物に載っており、面白いことに、“この話は祇園社の本縁である”、つまり、いくつかある同じような縁起の中で一番真実を伝えているものだ、という説明までされているのじゃよ」

    『となると、だいぶ信憑性がありそうですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、説明を続ける。

    「また、東北大学に“祇園牛頭天王御縁起”という文書が所蔵されており、そこではスサノオではなく牛頭天王が主人公となっているだけで、先ほどの内容とほぼ同じじゃ」

    『それで、須佐之男命と牛頭天王はほぼ同じ存在とみなされ、八坂神社で新旧主祭神として扱われている理由はわかりましたが、他にも1/2が異なる神が混ざってしまったケースはあるのでしょうか?』

    眉間にシワを寄せて答える青年。陰陽師はかすかに目を伏せ、口を開く。

    「そのあたりの問題は、“竹内文書”等の偽書含め、記紀の記実に改竄があったり、社歴に捏造があったことから、大いに考えられる。さらに言うと、“記紀”が真っ赤な偽物であること、たとえば猿田彦(これは個人の名前ではなく世襲名)が長い時間をかけて北九州(博多)から、出雲、そして伊勢・熊野(一部千葉・茨木)へと転々と場所を変える過程で、そもそもの(現在の神社の主神の説明とはまったく関係ない)地元の神を蹴散らしたり、習合したり、後から追いかけてきた他の勢力の神々と習合したこと、あるいは末社を全国に広げていく過程で先住民(もちろんシルクロードを渡ってきた渡来人の)神々・先祖と習合したことも考えると、なかなか深刻と言えよう」

    『なるほど。勝者が歴史を作ると言われるように、やはり、時々の為政者の都合で歴史が改竄されたなどということもあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。平安時代から江戸・明治に至る神仏習合・廃仏毀釈のどさくさ等で、当時の権力者たちによって、幾多の改竄がなされたという可能性は大いに考えられるじゃろうな」

    『そうした改竄が起こると、どのような問題が起きるのでしょうか?』

    「それに関して説明するにあたり、少し話が変わるが、そなたは人間が善悪を判断する時、何を基準にしているか知っておるかな?」

    青年は腕を組んでしばらく考えたのち、口を開く。

    『法律でしょうか?』

    「もちろん法律もそうじゃろう。加えて、道徳も善悪の重要な基準となることじゃろう。が、そのどちらもが過去の“先例”を基に決定される以上、“歴史”こそが決定的な価値判断の基準となるのじゃ。別の言い方をすると、政治家たちが歴史に“原因と結果の法則”を求めたり、宗教家が“神の教訓と導き”を求めるといったように、歴史とは過去の教訓によって現在と未来を導くものなのじゃ。それ故、“歴史を失う”、“歴史を捏造する”ということは、価値の体系を偽造することになり、神の意志、さらには特定の神の素性をも変えてしまうことにもなりかねないわけじゃな」

    『ご利益があるなら神様が混在したくらいで大した事はない、とも考えることもできますが、改竄が及ぼす影響を考えると、そのあたりは決して蔑(ないがし)ろにすることのできない重大な問題なわけですね。先生とお会いしていなければ、正しい歴史を知ることはできなかったと思います』

    そう言い、青年は深く頭を下げた。陰陽師は微笑みながらうなずいて答える。

    「そなたのように、正しい歴史を知る人が増えることはワシにとってもうれしいことじゃ」

    青年は再び小さく頭を下げ、口を開く。

    『話が戻ってしまいますが、友人や家族と初詣に行くなど、自分と相性がよくない場所へ参拝せざるを得ない場合はどうしたらいいのでしょうか?』

    「そのようなケースは、感謝や拝むといったことは一切せず、あくまで神社仏閣を歴史的な建造物として楽しむことじゃ」

    『なるほど。建物の歴史や自然の美しさに注目すればいいと』

    「パワースポットと話題になっているから、インスタ映えするから、良縁が欲しいからといった理由で参拝するのは個人の自由じゃが、頭の数字が違う神社仏閣を選んでしまうと、むしろ運気が下がってしまう可能性が高いから、そのあたりにはじゅうぶん気をつけてな。というのも、シュメールの時代から、頭1の農耕民族の土地を頭2の狩猟民族が襲撃する、という歴史が繰り返されてきたわけじゃから、頭1の人物が2の神社仏閣に参拝するということは、農耕民族が狩猟民族の拠点をわざわざ襲撃されに行くようなものと考えた方がいいじゃろうな」

    青年は両手を上げ、苦笑する。そんな青年の様子を見、陰陽師も小さく笑う。

    『ところで、お札やお守りはグッズの霊障(※第15話参照)が憑きやすいとのことでしたから、その手のものはできることであれば買わない方がいいのでしょうか?』

    「そうは言っても親御さんや友人がプレゼントすることもあるじゃろうから、そのあたりは難しい問題じゃな」

    『キーホルダーやアクセサリーの一つみたいな軽い感覚で扱っても駄目なのでしょうか?』

    「そのあたりがギリギリの線なのじゃろうな。ただし、それらをコレクションにしたりしておると、それらがさらなる霊障を集め、結果、部屋にある一般の品々にも霊障が憑く可能性が極めて高くなるので、できることであれば、それらを身の回りに置かぬ方がいいのではあるが」

    淡々と話す陰陽師に対し、青年は表情をひきつらせながら口を開く。

    『おっしゃるとおり、どんどん運気が落ちていきそうですね。だから、お札やお守りは毎年新年に旧年のものを納める風習があるのでしょうか?』

    「たしかに、そういった面もあるじゃろうが、所有者が自分の念に気をつけていたとしても、他者から様々な念を拾ったりしていると一年経たずにそれらが霊障の巣となることもあるから、注意が必要じゃし、いつも話しておるように、霊障に距離は関係がないので、祓いもせずに霊障を持ったグッズを捨てたりすると、それが思わぬ形で帰ってくることがあるから、合わせて注意が必要じゃろうな」

    『なるほど。これからは、お札やお守りを納める前に、霊障が憑いていないか鑑定を依頼するようにします。霊障が憑いていたのに処分してしまって、さらに増幅して戻ってこられてはたまったものではありませんで・・・』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうにうなずいてから、口を開く。

    「あとは、霊媒体質のスコアが高い人物は、参拝客の人混みに紛れるだけで心身が不調になりやすいことから、特に初詣などは参拝客が少なくなってからするようにの」

    『そうですね。初詣は年が明けてから最初の参拝のことを言うようですし、半月ほど経って参拝客が減ってからでもいいわけですからね』

    「それがよかろう。さて」

    陰陽師は時計を見、青年もスマートフォンで時刻を確認する。

    『あっという間に終電に近い時間になってしまいました。本日も貴重なお話をありがとうございました。神社を参拝する機会はほとんどなくなるでしょうが、もしも参拝する時は事前に主祭神を調べて自分との相性を確認するようにします』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。陰陽師はいつもの笑みで青年を見送る。

    帰路の途中、神様と友達になるだの除霊の修行だのと、目についた神社仏閣を積極的に訪れていた過去の自分に対し、青年は苦笑しながら反省するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性

    青年は激怒していた。

    神戸市の小学校にて、男性教員(20代)が先輩の教員たち(30〜40代)に羽交い締めにされて激辛カレーを目にこすりつけられたという、教師間にて行われたいじめ事件についてである。

    加害者グループは被害者にとっての先輩教師4人(首謀者の女性1人、男性3人)であり、他にも別の女性教員らにLINEでわいせつなメッセージを無理やり送らせたり、被害者の男性教員の車の上に乗ったり、その車内に飲み物をわざとこぼしたりしたという。

    被害者の男性は兵庫県警に被害届を出しており、今も登校できない状況が続いているとのこと。
    一方、加害者4人は休職処分となった。また、いじめの様子は動画で撮影されており、動画を見た児童の一部が精神的ショックを受けたようで、その児童たちへの心的配慮として給食でのカレーを中止した。

    教員の間でいじめがあるようでは、学校でのいじめ問題が改善するはずがない。
    今回の事件も、何らかの霊障による原因があるのではないかと感じた。そして、陰陽師に今回の事件の要因を確認すべく、出かけるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①いじめの中心となった女性教員
    頭2、2(4)−4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ②いじめの被害者となった男性教員
    頭1、2(3)−4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・5・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運7、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、
    大日不可思議8

    ③激辛カレーを食べさせる時に被害者を羽交い締めにした教員
    頭2、2(3)―4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ④女性教員を他校から呼び寄せた校長
    頭2、2(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・14の相。第7チャクラの乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    ⑤いじめの対策を取れなかった現校長
    頭2、2(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ1〜7の乱れ
    全体運8、ビジネス運7、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議8

    『先生、こんばんは。また2−4でしょうか!』

    部屋に入るなり、開口一番青年は吠えた。

    「いきなりすごい鼻息じゃが、今度は何があったのかの?」

    『失礼しました。今回はいじめ事件について話を聞きにまいりました』

    青年は、深々と謝罪の礼をしたあとで、事件の概要を陰陽師に説明し始めた。

    *教員の名前が未公開のため、人物についてはインターネットから確認できた範囲となります。

    いくつかの質疑応答の後、事件の概要と主要な人間関係を理解した陰陽師は小刻みに指を動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    鑑定結果を見た青年は、驚きの声を上げる。

    『いじめの中心となった女性教員(※①参照)は転生回数の十の位が40回代ですから、運気が“小山”に当たるとはいえ、やはり、2−4ですか』

    鑑定結果のメモ書きを凝視し、青年は続ける。

    『先祖霊の霊障にも天命運にも、5:事故/事件がないのに、今回の加害者となった理由としてどういったことが考えられるでしょう?』

    「まず気性がかなり荒い。また、この女性教員の場合、天命運に2:仕事と14:偶発的人的トラブルの相があることも、事件の引き金の一端になったと思われる」

    『この女教師は、前校長から気に入られてこの小学校に引き抜かれたようですし、生徒からは頼り甲斐のある先生という声もあったことから、性格に二面性があったのかもしれませんね』

    「さらに言うと、この女性教員の場合、チャクラ1〜7全てが乱れておるところからみて(−40%)、他の人間に比べてストレスが溜まりやすく、その結果、ストレスのはけ口として今回のような事件を引き起こした可能性もかなり高いじゃろうな」

    青年はうつむき、少し長めの息を吐く。過去にいじめられていた体験を思い出したのだろうか。

    『ちなみに、被害者の男性教員(※②参照)も同じ2−4の人物ですが、頭が1なので、穏便に事を済ませようとしてあまり抵抗しなかったことも、加害者の教員たちのいじめがエスカレートしていった一因かもしれませんね』

    「もちろん、その可能性もあるじゃろうし、被害者の教員の天命運に“5:事故/事件”があることから、それが原因でターゲットになってしまった可能性も捨てきれんじゃろうな」

    『なるほど。それにしても、他の教員たちが止めようとしなかったことが不思議です。女性教員の取り巻き(※③参照)が頭2で2−4なのでいじめに加担するのはわかりますが、いじめを容認していた、二人の校長(※④、⑤参照)が“3:ビジネスマン”階級なのはどう理解したらよろしいでしょうか』

    「学校を一つの組織と考えれば、校長は企業でいうところのトップじゃ。もちろん2-4が校長になることも皆無とはいえないじゃろうが、腐っても鯛ではないが、魂3の二人が校長の座に上り詰めたことは、それほど驚くことではあるまいて」

    青年は納得顔でうなずき、口を開く。

    『聞くところによると、前校長(※④参照)はあまり仕事をしない人で、職員室で何があっても関係ないという事なかれ主義の人物だったようですから、女性教員が自分の代わりに教員たちを仕切ることをある部分容認していたと考えることもできますよね』

    「前校長のチャクラの乱れは7のみ(−20%)であるところから、一見障害が少ないと考えがちじゃが、実相はその逆で、7ひとつで-20%ということは、乱れのある個所が7であることも含め、1〜7の全てのチャクラが均等に乱れていることよりも問題が大きいということになる」

    『とおっしゃいますと?』

    「−40%の障害を1〜7で単純に割り算すると、一つのチャクラの乱れの平均値は約6%となるが、前校長の場合は7の乱れが単独で20%もあるんじゃ。チャクラ全体の説明は別の機会にするとして、第7チャクラの機能を端的に説明すると、動物的な生き方、つまり生存本能をベースとした生き方から、より本質的な生き方、つまり物欲主導の生き方から高次の使命感(滅私奉公・霊主体従)といった生き方へと向かうという機能を担っておることから、第7チャクラが正常だと、目に見えない世界に関する“真実”をおのずから理解できるようになり、物事を言葉によって理解するというより、直感/感覚・概念として理解する感覚が身についてくるようになる。逆に、このチャクラに異常があると、肝心な時に気力が充実しないことがあり、大局を見誤ることになるわけじゃな」

    『と言うことは、前校長の場合は、大局的な判断を下しにくいことから、結果的に採用してはいけない女性教員を誤って推薦してしまった可能性が高いと・・・』

    「まあ、そういうことじゃ」

    陰陽師は首肯して答える。

    「話を聞く限り、後任の現校長(※⑤参照)も女性教員の暴走を止めることよりも、下手な仲裁をすることによって、その矛先が自分に向けられることを避けたい、そんな思いが心の片隅にはあったのかもしれんな」

    青年は腕を組み、唸り声をあげる。

    「さらに言えば、いじめの首謀者である女性教員を除き、他の四人の教員の転生回数が30回台というのも決して偶然ではあるまい」

    青年はメモ書きを再び覗き込み、口を開く。

    『そう言えばそうですね! 転生回数の期に関わらず、30回代は心身が不安定になりやすく、数奇な運命を歩みやすいというお話でしたよね?』

    「その通りじゃ。今回のような事件に関わることも、数奇な運命の範疇なのじゃろう」

    『いじめという言葉はだいぶ前から出回っていましたが、ここまで目立つ事件は少ない気がします。それと、今回の顛末が、給食のカレーを中止するという見当違いとも思える措置がとられたのも数奇といえるのではないかと』

    青年は苦笑しながら言った。陰陽師も微かに笑みを浮かべてうなずく。

    「ところで、この事件に関し、インターネットではどのようなコメントが出ておるのじゃ?」

    『確認しますね』

    青年はスマートフォンを操作し、コメントを読み上げる。

    《コメント1》
    何を批判されてて
    何が問題になってるのか

    まったく理解できてないんだな・・・

    ※頭1、4(4)―4、魂の属性7
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ5・6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依−、大日不可思議7

    《コメント2》
    そもそも普通ではない激辛カレーを給食なんかに出さないでよ
    子供だって食べられない子いるでしょうに

    ※頭1、2(3)―4、魂の属性3(2・6〜14・17の相)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ2〜6の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議9

    《コメント3》
    期待している対応「教師全員を解雇、刑事事件として告発します」
    実際の対応「カレーやめます」

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2・8・12〜15の相)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラ5の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運8、天啓−、
    憑依−、大日不可思議9

    《コメント4》
    問題の根本を改善するのではなく
    とりあえず臭いものに蓋をする風土なのですね

    ※頭2、2(3)―3武士、魂の属性3(2〜5、12・17の相。5は一般事故・被害者・怪我)。天命運に2〜5・17の相。チャクラ4〜6の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓8、
    憑依−、大日不可思議8

    《コメント5》
    教師になるくらい頭がいい筈なのに何でこんなにバカなの
    もう教師というシステムやめてAIの授業とかでいいのではないか?

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性3(8・12・17の相)
    天命運に2・8・17の相。チャクラ5の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    以下、コメント5に対し
    《コメント6》
    小学校の教員になるようなやつが頭いいわけないだろ

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2〜4・6〜14・17の相)
    天命運に2・3・6・8・14・17の相。チャクラ1〜6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依7、大日不可思議8

    《コメント7》
    大学出て教員採用試験受かるくらいの頭持ってる奴が
    高卒程度の地頭しか持ってない奴にどうやって教える事が出来るんですかね
    天才の思考論理は分からないのが当たりまえだが、アホの思考論理も分からないでしょ?
    そもそも大卒しか教員になれないって制度が間違っている

    ※頭2、3(3)−3武士、魂の属性3(2〜4・6〜12・14・17の相)
    天命運に2〜4・8・17の相。チャクラ3〜6の乱れ。
    全体運7、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議9

    《コメント8》
    今の教師なんて高卒に毛が生えたレベルの知能しかない

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性3(2・4・8・12〜15の相)
    天命運に4・8・14の相。チャクラの乱れ無し。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、
    憑依−、大日不可思議7

    《コメント9》
    教師はバカしかいない

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性3(2・3・6〜14・17の相)
    天命運に2・3・6・8の相。チャクラ4・5の乱れ
    全体運5、ビジネス運5、金運5、人運5、恋愛運5、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    《コメント10》
    まあペーパーさえ出来れば大学には入れるし。
    単位さえとって試験に受かれば免許は取れる。
    そんなもんです。

    ※頭2、3(3)―4、魂の属性3(2〜4・6・9・12・17の相)
    天命運に2〜4・6・9・17の相。チャクラ1・5〜7の乱れ。
    全体運3、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運8、天啓−、
    憑依9、大日不可思議7

    《コメント11》
    教師なんてアホ大学の教育学部卒ですよ

    ※頭2、3(3)―3武士、魂3(先祖霊の霊障に4・6・8・9・13・17の相)
    天命運に4・6・8・9・17の相。チャクラ7の乱れ。
    全体運5、ビジネス運8、金運8、人運3、恋愛運7、健康運9、天啓9、
    憑依−、大日不可思議7

    陰陽師は指を小刻みに動かしながらコメントを聞いていたが、やがて指を止めて口を開く。

    「この中で、魂3によるコメントは、4、7、11の三つとなる。それ以外は全て魂4じゃな」

    青年は再びスマートフォンで該当するコメントを見、答える。

    『ということは、半分以上が魂4ですね。ここらあたりにも魂4の参加意識の高さがしっかりでていますね』

    「そうじゃの」

    『しかし、コメント1と2も魂4だったとは。コメントを読む限り、一歩引いた視点な感じがしたのですが』

    陰陽師は再び指を小刻みに動かし、数字を書き足していく。

    「その二人は頭が1なので、他のコメントとは違った印象を受けたのじゃろう」

    青年は納得顔で何度もうなずく。

    『4と7と11は教員の人格や行動というよりも、事件の根本的な問題や原因について触れている印象があります』

    陰陽師はうなずいて賛同の意思を示す。

    『コメント5はもっとも反応が多かったので読み上げましたが、やはり魂4でしたか。内容としては教師というシステムに言及していますが、AIにすればいいという結論が短絡的なのでしょうか? AIに変えたら変えたで起こりうるであろう、新たな問題をまったく想定していないような感じがするのですが』

    「それもそうじゃが、それ以前の問題として、義務教育の中でも、特に小学生は勉学以上に人間教育という側面が重要となる」

    『そのような意味で、AIが授業を行った場合、対AIのスキルは上達するかもしれませんが、対人間とのつき合い方に大きな支障が出るような気が僕もしています。もちろんこれからAIが活躍する領域はますます広くなっていくのでしょうが、そうであっても対人間とのつき合いが基本になることに変わりはないと思います』

    青年は背もたりに寄りかかり、後頭部を両手で支える。

    「そなたの言うように、百歩譲って魂4の児童が2−4の教員から指導を受けるのを是とするとしても、魂1〜3の児童までもが、大局的見地に欠けたものの見方や意見を一方的に押し付けられることは大いに問題じゃろうな」

    『僕が小学生の頃、きちっとした理由づけもなしに“こうと言ったらこうなんだ!”式の意見を押しつけてきたり、すぐ感情的になる教員がいましたが、今考えてみると皆2-4だったのでしょうね』

    「もちろんそれらの教師も皆2-4じゃが、問題は、そのようなやり方が今も教育現場でまかり通っているという現実じゃ。前にも話したように、ワシは月の半分近くを京都で過ごしておるのじゃが、居酒屋などで小学校の教師連中に遭遇することがままある。もちろん京都という特殊な場所柄、そのほとんどが2-4なのはいうまでもないのじゃが、彼らの話に聞くとはなしに耳を傾けていると、果たしてこんな連中に教育の現場を任せておいていいんじゃろうか、そう思わずにはおれない話が聞こえてきたことも一度や二度ではない」

    陰陽師が小さく首を振りながら、小さくため息をついた。

    『ところで原初的な質問なのですが、たとえば戦前も、小学校の教師には2-4が多かったのでしょうか』

    「とんでもない」

    青年の質問に、陰陽師は首を横に振る。

    「戦前の小学校(尋常小学校・高等小学校)の教員は、ほぼ2(4)−3が半分近く、1(7)−1が約4割、残りの1割が2−4か2−2という比率じゃった」

    『え、そうなのですか?!』

    陰陽師の意外な回答に、青年は目を大きく見開く。

    『ということは、現代と構成比率が全く異なっているのですね』

    「その通りじゃ」

    『しかし、敗戦によって、小学校の教育の場に何が起こったのでしょう?』

    「原因は、大きく三つにわけられる。その一つは、敗戦より、焦土と化した我が国の復興のため、魂1~3の優秀な人材の多くが“教育よりも経済復興を選んだこと”じゃ。その結果が昭和40年代以降の奇跡の経済復興へとつながってはいくものの、戦後の多くの優秀な人材が、たとえ経済行為に直接従事しないとしても、大学や各種の研究機関などへ流れてしまい、初等教育に関心を持つ者が、極端に減ってしまったという問題じゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、青年は大きく頷く。

    「そして、二つ目には、“教育の変質”という問題じゃ」

    『教育の変質ですか?』

    「たとえば、日教組が“教師は労働者”という考え方を打ち出したことで、教育に対する教師の情熱が大きくそがれてしまった。また、国旗・国歌の問題に代表されるように、教育に政治を持ち込み教育の質も低下してしまったという問題も存在する」

    『しかし、今でも情熱をもって生徒を指導している教師は相当数いると思いますが・・・』

    「もちろん、それはそうなのじゃが、戦前の教育現場では、“教師は労働者“なぞという考え方をする教師は、まずいなかった。逆に、戦前の教師とは、教育を”聖職“と考える人格的に優れた人たちによって構成されていた」

    『そのあたりが、2(4)−3が半分近く、1(7)−1が約4割という比率に現れているわけですね』

    「そのとおりじゃ」

    青年の言葉に小さく頷くと、陰陽師は話を続ける。

    「そもそも戦前の小学校教師は、“師範学校”という今でいう教育大学出身者が基本となっていた。教師を養成するために作られた官立の学校であった師範学校は、東京に設置された日本初の教員養成機関(後の東京高等師範学校、学芸大学、東京教育大学を経て現在の筑波大学)の固有名称であったし、かつての京都師範学校は戦後、京都学芸大学を経て、今の京都教育大学になっておるといった具合にな」

    『なるほど』

    「ともかく、戦前の師範学校は学ぶことすべてが教職課程だったわけじゃから、教師になっても、そもそもの心構えが今とまったく違う。また、戦前は、士官学校同様、学費が一切かからず、さらには些少ながら給料も出たので、教師になるということは、優秀であるが貧しくて上の学校に行けない人間たちにとって、人生の大きな選択肢の一つだったわけじゃ。さらに言えば、師範学校そのものへの入学もなかなか難しく、入学選考では人柄や学力のみならず、変な顔をしていたり体臭が強いというだけで、教師には不向きと判断され、不合格になったなどという笑い話のような話さえ残っているくらいなんじゃ」

    『なるほど、そこまでしないと師範学校に入れないということでしたら、自然と自覚がつきそうですね』

    青年の言葉に、小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「教育という職責の意味を嫌というほど叩き込まれたそんな師範学校出身の教師たちは、高級官僚や大企業の幹部などになった帝大出身者の超エリートを尻目に、明日の日本を背負って立つ人材を育てることに強烈なプライドを持っていたわけじゃ」

    『つまり、戦前の先生というのは、現在僕たちが教師に持っているイメージと全然違う存在だったのですね』

    陰陽師の説明に、青年は納得顔で大きく頷く。

    「その通りじゃ。今説明してきたような経緯から、戦前の教師は教育に対するスタンスが今の教師とは決定的に違っていた。勢い、教育を受ける生徒自身や保護者との間でも、全面的な信頼関係が成立していたわけじゃな」

    『できることであれば、僕も戦前の教育を受けてみたかったです』

    青年は感嘆の息を漏らし、答えた。

    「それは、かく言うワシも同感じゃな」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく頷いた。

    「ただしじゃ、戦前の教育にも問題がなかったわけでもない」

    「といいますと?」

    「教員の絶対数不足という問題じゃ」

    『え。そうなのですか?』

    「これまで説明してきたように、師範学校を卒業し、“訓導“(今でいう教諭)の資格を得た人間が教員になっていたわけじゃ、特に小学校(尋常小学校・国民学校)では人材不足が深刻じゃった。そのため、それを補うために、”代用教員“という制度を作り、師範学校にも行けず、普通教員資格もない人間たちが、旧制中学・旧制高等女学校卒業程度の学歴で小学校教師として任用されていたこともめずらしいことではなかったのじゃ」

    『では、戦前の教師の中には、厳密に言うと、無免許の教師が存在していたと』

    「平たく言うと、まあ、そうなるわけじゃな」

    『しかし』

    青年は、腕組みをしながら、言葉を続けた。

    『そんな教師が一定数いたのに、何故、戦前の教師のレベルは高かったといえるのでしょう』

    「そこが、先ほどから話している属性の妙なのじゃよ」

    『つまり、戦前の小学校教師は、2(4)−3と1(7)−1で占められていたというあれですね』

    「そのとおりじゃ。実際、代用教員経験者の中には後の著名人も非常に多く含まれていて、一例を挙げるとすれば、詩人の石川啄木、作家の坂口安吾、田山花袋、三浦綾子、化学者の野口英世や漫画家の馬場のぼるなど、枚挙にいとまがない。ちなみに、2006年(平成18年)度上半期のNHK朝の連続ドラマ“純情きらり”ヒロインの宮崎あおい演じた桜子も代用教員じゃったわけじゃ」

    陰陽師の説明に、目を見張りながら耳を傾けていた青年。その顔を横目で見ながら、陰陽師は話を続けた。

    「そして最後の問題が、今までの話を受けた“小学校教師に要求される能力とそのステータスの問題”となる。まず、戦後の小学校教師は、個々のレベルはそれほど高くないとしても、全教科を教えられるオールマイティーさを要求される。そこには、学科だけではなく、体育や音楽まで入っているわけじゃから、ほんと大変じゃ。さらに教育学部に通うことが基本的に要求される。今でこそ、私立の教育学部や通信教育といった選択肢も広がってきたものの、誰でもが簡単にクリアーできるハードルではない」

    『そのあたりは、学業に秀でた2-4の真骨頂ということになりますね』

    「さらにステータスという面からみても、身分、処遇面からみても、突出こそしていないが2-4のプライドを大いに満足させる職業であることは間違いない」

    『さらに、中高生よりコントロールしやすい小学生に、上から目線で過ごせてプライドも満たされ、給料も社会的地位も安定しているわけですからね』

    青年は納得顔でうなずいた後、顔を上げて続ける。

    『今までの話をお聞きしていて、ふと気になったのですが、ヤンキー上がりの教師というのは魂1〜4でいうとどこに該当するのでしょうか?』

    「というと、一般論ではなく、誰か特定の教師に心当たりはあるのかの?」

    青年は腕を組んで沈黙する。陰陽師は小さく笑いながら、青年に先を促す。

    「もちろん、実在の人物でなく、たとえば、小説や漫画のキャラクターでも構わんぞ」

    『実は』

    陰陽師に励まされ、やがて青年は口を開いた。

    『GTOというヤンキー上がりの教師が主人公の漫画があるのですが、彼を取り巻く人物が、どんな属性の人間たちなのか少々気にかかっていたのです』

    「あいわかった。それで、主な登場人物の名前と特徴は?」

    そう陰陽師に促され、青年はキャラクター名と各々の特徴を伝える。陰陽師はしばらく指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「鬼塚英吉(主人公)は
    頭が1で、2(4)−3武士、魂の属性3(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障に2・6〜15の相があり、天命運に2・8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-

    冬月あずさ(ヒロイン)は
    頭が1で、2(4)−3武士、魂の属性3(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障に12〜14・17の相があり、天命運に8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運9、金運9、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓9、
    憑依-、

    内山田ひろし(教頭)は
    頭が2で、2(3)−4、魂の属性7(1)―7(3)、
    先祖霊の霊障がなく、天命運に8・14の相がある。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-

    桜井良子(理事長)は
    頭が1で、2(7)−3(1)武将、魂の属性7(1)―7(1)、
    先祖霊の霊障がなく、天命運に8・14の相がある。
    全体運9、ビジネス運9、金運9、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓-、憑依-」

    青年は鑑定結果をまじまじと眺めてから口を開く。

    『やはり、主人公とヒロインは、“3:ビジネスマン”階級でしたか。しかも、転生回数が240回の“小山”ですから、戦前の各小学校の教師の5割に属しているわけですね』

    「主人公の鬼塚英吉に関して言うと、ヤンキー上がりといっても前の作品では暴走族のトップをしておったとの話から、世間一般のヤンキー上がりの教員として一括りにするのは少々問題があるじゃろうな」

    『とおっしゃいますと?』

    「ヤンキーの下っ端としてパシリにされていた2−4の人物が、喧嘩では芽が出ずに勉学に励んだ結果、私立大学の教育学部あたりに合格して教員免許を取得し、箔をつけたいがためにヤンキー上がりの教師と自称する人物も中にはおるじゃろうからな」

    『その場合、生徒たちに、この先生を怒らせたら怖いという印象を与え、2−4お得意の感情任せ、上から目線の教育が行われるのですね。そして』

    青年はため息混じりにつぶやく。

    『教頭の内山田ひろしはやはり、2−4でしたか。彼はよく感情に振り回されていますし、愛車が何度も大破するのは転生回数の十の位が30回台の数奇な運命が反映されているのかもしれませんね』

    「それなりに勉強の成果が出ているようじゃの」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は話を続けた。

    「それ故、人情味や理屈、道理でもって生徒を更生させられる主人公の鬼塚英吉のような教師は、まず2(4)−3武士や1(7)―1と考えても差し支えないじゃろうな」

    『確かに、鬼塚は解決策の一つとして暴力を使うことはあっても、生徒に暴力を振るったり、権力にものを言わせて生徒を従わせるようなことはしていませんでした。漫画のキャラクターにもその辺りが反映されているのですね』

    青年は何度もうなずきながら続ける。

    『鬼塚に先祖霊の霊障と天命運の両方で“2:仕事”の相があるのも興味深いです。本来であれば、もっと大きな舞台で活躍するチャンスがあるのに、物語を面白くするために場違いな分野の職に就いているというのですから』

    青年は笑いながら言い、陰陽師も微笑みながらうなずく。

    『ヒロインの冬月あずさは、根は真面目ですので教師は適職だとして、たまに暴走することがあるのは先祖霊の霊障“17:天啓”によるものではないかと。同様に、先祖霊と天命運の両方に“8:異性”の相があることから、恋人がいない設定なのもうなずけます』

    「また、理事長の細かいキャラクターは存ぜぬが、主人公の才能を見抜くという意味では武将としての才をいかんなく発揮しておるようじゃの」

    『理事長は1−1かと思いましたが、武将タイプだったのですね。しかも、転生回数が270回で“大山”の』

    「ちなみに、舞台はどんな学校なのじゃ、公立の学校なのか、それとも私立なのかな?」

    陰陽師の言葉に、青年はハッと息を飲み、答える。

    『そう言えば、舞台は学校法人ということで私立ですから、経営的な手腕も必要なことから、理事長が武将タイプという設定だと考えて差し支えないのですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    『先祖霊の霊障もなく親近性も7(1)ということから、主義主張や経営にも適しているということで、理事長の座にまで上り詰めたという設定になっておるのじゃろう」

    『なるほど。それにしても』

    青年は腕を組んでから続ける。

    『小学校の教員が2−4ばかりになってしまうと、日本の将来が心配になってしまいますが、どうにかできないものなのでしょうか?』

    「とにもかくにも、魂1~3の教員を増やすことじゃ。根本的な解決策は、その一点にかかっているといっても過言ではあるまい」

    『これから日本を背負って立つ若い魂3世代にとって、今をときめくIT系企業の社員や公務員になる方が魅力的なのでしょうが、国の将来を考えるかぎり、小学校の教員を目指すことも重要だというわけですね』

    「そのとおりじゃ」

    大きく頷く陰陽師を見ながら、僕が2(4)で小学校の教員に適正があったら、と青年は小さくつぶやく。そんな青年の気持ちを察し、陰陽師が機先を制した。

    「気持ちはわかるが、そなたはそなたのやるべき道があることを忘れてはならんぞ」

    『そうでした。僕の使命は天命を歩む人物を増やし、その結果小学校の教員に適した人物を側面的に応援することでした』

    我に帰り、そう答える青年の言葉に、陰陽師は満足そうにうなずく。青年はスマホの画面を確認して口を開く。

    『ちょうどいい時間のようですね。本日も貴重なお話をありがとうございました』

    「どういたしまして。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで応えるのだった。

    帰路の途中、青年は学生時代のことを思い返していた。教員たちの顔と言動を思い返し、どの教員がどの魂なのかの仮説を立てる。
    そして、これからは教員の採用に携わる人々との縁を増やしていこうと思うのだった。

  • 新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    青年はぼんやりと考え事をしていた。

    どうしてお正月に門松を玄関に立てるのだろうか?
    何か霊的な意味があるのだろうか。仮に霊的な意味があったとしても、霊能力がない人間にとっては特に効果はないのだろう。あるいは、ただ単に風習として残っているのだろうか?

    門松に“グッズの霊障”(第15話参照)がつきやすいかはわからない。けれど、毎年飾っている物であるから、どのような意味を持っているのかを確認しておく必要はあるのかもしれない。

    そう思い、青年は厚着をして陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします』

    青年は深く頭を下げ、新年の挨拶を述べた。

    「あけましておめでとう。今年もよろしくの」

    陰陽師はいつもの柔らかい笑みを浮かべて小さくうなずいて答える。

    『新年早々で恐縮ですが、今日は門松について教えていただけないでしょうか。毎年お正月には玄関に門松を飾っていますが、あれにはどのような意味があるのでしょうか?』

    「なるほど、門松について聞きたいのじゃな。ちなみに、そなたは門松についてどのような認識を持っておるのかな?」

    青年は腕を組み、しばらく黙考してから口を開く。

    『お正月の数日間に、切った竹を数本と松の葉が一緒になった物を、自宅の玄関前に左右に立てる飾りだと思っています。それ以上のことは特に・・・』

    青年は頭をかきながら答え、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「民俗学者の柳田国男監修“民俗学辞典”(東京堂刊)に“門松”について次のように記載がある」

    今は正月の飾り物のように考えられているが、本来は歳神(年末・年始に各家を訪れると信じられていたご先祖様)の依り代の一種だったらしく、そして必ずしも松と限らない場合が多い。(中略)
    鳥海山・月山の周囲の村々でもカドバヤシ・カドマツタテといって、楢、椿、朴、みずきなどを山から伐ってきて立てる。山口県北部や宮崎県の山間でも松以外の木を立てる。これら多くの木を立てておく期間は一定しないが、一月七日まで、もしくは旧正月の終わるまでというのが多い。

    「この本にも書かれているように、門松という名前から松を立てると思っておるじゃろうが、竹も含め、松以外の樹木でも問題ないことはわかるじゃろう?」

    『たしかに、言われてみればそうですね。ごく一般的な門松であっても、門松なのに竹を使っている。門松竹といったところですね!』

    青年は笑いながら言う。

    「それが正しいかはともかくとして、日本では古来より“天なる神は柱のような木に降り立つ”という観念が存在しておっての」

    『神様を数える場合、単位が“柱”だと聞いたことがありますが、神様は見えない存在であるとしても、木が依代だと考えれば、神様の数を数えるにあたり、神様が宿っている柱の数を数えればいいということなのですね』

    「また、土木工事や建築などで工事を始める前に地鎮祭を行う際に、葉のついた竹を四本、四隅に立てるが、あの“境立て”からも木々には邪霊を寄せつけない呪力があるとも信じられていたことがわかるじゃろう」

    青年は手を打って答える。

    『更地でよく見かけるやつですね。あれも竹を使っているわけですから、神様の依り代として松にこだわる必要はないということがわかるわけなのですね』

    青年は納得顔で呟き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「これらの例を見てもわかるように、門松の“マツ”と松は必ずしもイコールではないということじゃ」

    『なるほど! でも、そうなると、なぜ門松という言葉なのでしょうか?』

    「松という漢字は実は当て字で、エジプトの物神柱“マシャ”がなまって日本語でいう“マツ”になったのじゃよ」

    青年は目を見張り、前のめりになって答える。

    『“マツ”が“マシャ”? しかも、エジプトが起源ですか? 僕はてっきり日本固有の風習だとばかり思い込んでいました』

    陰陽師は、青年の言葉に、ゆっくりうなずく。

    「エジプトの文化が東方へと移動していった経緯については別の機会にゆっくり話すとして、エジプトには物神柱と呼ばれる神が四つおり、その一つである梟神マシャがインドを経由した際にインドの神様として日本に伝わったものなのじゃ。さらに言えば、東北地方で“梵天”と呼ばれている神も、元を正せば、この梟神マシャのこととなる」

    『なん・・・ですと。日本は世界の文化のルーツだと思っていましたが、文化の終着地点だったのですね・・・』

    驚きに目を見張る青年。陰陽師は紙に文字を書きながら口を開く。

    「それだけではないぞ。たとえば、纏(まとい)じゃが、 これなぞも“マシャ”の屈折語である“ヴァッタ”(〔m〕vatta)が日本流になまって“マトイ”になったものなんじゃ」

    青年はヴァッタ、マッタ、マット、マットイとよくわからないことを呟き、答えた。

    『あの時代劇などで見かける“纏”のことでしょうか?』

    いつものことながら、言葉だけは知っている青年であった。

    「もちろん、江戸時代の火消しの男衆が持ち歩いていた、先端の方に飾りがついた長い棒のことじゃ」

    『やっぱりそうですか! 先の方がタコのような形になった布がついている棒ですよね!』

    青年は興奮気味に両手で棒を上げ下げする動きを見せる。陰陽師はそんな青年の様子を見て、小さく笑う。

    『しかし、あんな長い棒を各家庭で立てるわけにもいかなかったので、短く切ってあのような形になっていったのでしょうね』

    青年の言葉に一つ頷いたあとで、陰陽師は言葉を続ける。

    「このマシャという言葉が地鎮祭の“境立て”の四本柱となった経緯は先ほど話した通りじゃが、他にも大相撲の土俵の四隅に立っている四本柱も同様の起源を持つ」

    『えっ、あの大相撲の柱もですか』

    驚く青年をしり目に、陰陽師はふたたび先程の本を取り上げた。

    「今までに説明したことを踏まえた上で、“民俗学辞典”の次の解説に耳を傾けるとよい」

    神の依り代である“柱”を立てる場所は、家の前の庭もあるし、屋内もあり、家の門の前とは限られていない。

    「つまり、門松の“カド”は、必ずしも“門”とイコールではないことがわかるかの?」

    『なんとなくわかります。そうなると、なんだか鯉のぼりや七夕の笹も似たような物なのではないかと思えてきます』

    「それらについてはまた別の機会に話すとして、話を先に進めると」

    陰陽師は再び紙に文字を書いていく。青年は食い入るようにその文字を見つめる。

    「梟神柱は古代インドへ渡り、古語(梵字)で“ガダー”(gadā)と呼ばれるようになるのじゃが、これも処々の状況より“カド”となまったとも考えることができる」

    青年はまた、ガダー、ガダ、ガド、カドなどと呟いた。

    『口に出してみるとなんとなくわかります』

    「それ故、門松の“カド”や“マツ”は、文字通りの門や松ではなく、梟神のことを示したということになるわけじゃ」

    『なるほど。門松という漢字は当て字でしかなく、本当は松でなくても、門のように二本でなくても、玄関前になくても、問題はないわけなのですね!』

    青年は納得した顔で何度もうなずいて見せる。陰陽師は満足そうに微笑んで首肯する。

    「さらに興味深い事実として、“民俗学辞典”に以下ように記載されておるように、我が国には松を能動的に使わない地方というものが存在しておるのじゃ」

    祖先が戦に敗れて落ち延びたのが正月だからといった種類の伝承をもって門松を飾らない家例の旧家もある。京都でも宮中を始め貴族の家々には門松飾りがなかった。

    『ここで言う“戦で敗れた祖先”とは日本人のことだと思いますが、いかがでしょうか?』

    陰陽師は首を左右に振って答える。

    「いや、ここでいう“戦で敗れた祖先”とは朝鮮半島の人々のことなのじゃよ。“マシャ”という言葉が遠いエジプトから島国である日本に伝わってくるためには必ず海を渡らねばならぬ。宗教や文化というのは、必ず人と共に移動しておるわけじゃからの」

    『なるほど。弥生時代に朝鮮半島から大勢の人が日本に渡海してきたことは勉強しましたが、彼らはもともと日本で生活していた縄文人とは別種の人間だったのですね・・・』

    「うむ。縄文人は、今でいうアイヌや琉球民族といった、迫害されてきた人々がそのルーツで、いわゆる弥生人とは別種の民族ということができるじゃろうな」

    青年は黙ったまま、納得顔で何度も頷く。

    「それを裏づけるように、朝鮮半島や済州島では、松は霊城に植える霊樹であるし、朝鮮半島の西側では、捨て墓に一時的に埋葬するにあたり、死体を松の枝で覆うという習慣が存在している」

    『なるほど。そのような歴史的背景を持った人々であれば、不吉なことが連想される松を避けたがったとしても別に不思議じゃありませんね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    青年の言葉に、陰陽師がひとつ頷いた。

    『いずれにしても、他の木々が代用されるという背景には、そんな遠い昔からの由来があったのですね。日本の文化こそが世界の文化の起源だとばかり思っていました・・・』

    「じゃが、カドマツがエジプトから伝播した風習であり、今も習俗として残っていることひとつをみても、ほとんどの文化が日本で生まれ海外に伝播したと考えるよりも、その逆と考える方が、筋が通っておるじゃろうな」

    青年は納得顔で何度もうなずく。陰陽師はタンブラーに注がれたお茶を飲み、続ける。

    「エジプトからの道のりを説明するとあまりにも長くなってしまうから、とりあえず、身近な朝鮮半島に話を限って、説明するとじゃな」

    陰陽師は日本列島と中国大陸の地図を描き始める。

    「弥生文化を形成した渡来人の中心人物は、百済の王、あるいは辰王朝の宗室(王家)だったのじゃが、百済の王とは、馬韓、弁辰のかなりの部分を支配する辰王でもあった。そんな彼らの一部が、勢力争いに敗れる度に、様々な文化を携え日本に移動してきたわけじゃな」

    陰陽師は説明しながら地図に国名を記していく。青年は地図を眺めながら口を開く。

    『日本の文化が朝鮮半島から伝わってきたのはわかりました。それでは、朝鮮半島の文化はどこを起源としているのでしょうか?』

    「直近では、北方騎馬民族である扶余(ふよ)族が朝鮮半島に南下してきたと言われておるが、ではその扶余族はどこから来たという話になると、シルクロードを中心とした陸路を遡る必要が出てくるじゃろうし、海路という話になると台湾、フィリピン諸島、マレー半島、そしてインド洋を越えて中東と、話は限りなく広がっていくわけじゃが、細かい話はともかく、すべての文化的ルーツが今のイラクあたり、すなわち、かつてのシュメールで誕生し、それらの文化が多数の人間を介して、今説明した経路を逆流するような形で日本に波状的に流入してきたと考えるのが妥当じゃろうな」

    青年は地図を見ながらうなり声をあげ、何度もうなずく。

    『とても興味深いです。ということは、日本文化のルーツを知るには古代エジプト、そしてシュメールにまで遡るのが大事なのですね』

    「その通りじゃ。歴史で学習するすべてのキーワードとしては、メソポタミア文明といっても過言ではない」

    『なるほど、四大文明の最初の一つであるメソポタミア文明は、エジプト文明、インダス文明、黄河文明とすべて繋がっているわけなのですね!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「もちろんじゃとも。メソポタミア文明の中でも、特にシュメール人が築き上げた文化を探ることで人類の起源に近づくことができるというわけじゃな」

    『単純暗記していた歴史の用語でしたが、こうして現代の日本にも深い関わりがあると思うと、なんだかとても感慨深いです』

    自分の世界に入る青年を見、陰陽師は微笑みながら頷く。

    『となると、よく韓国人が“日本の物は韓国が起源ニダ!”と言うのは、あながち間違いではないといえるわけですね』

    「たしかに、歴史の連続性という視点でみる限り、彼らの主張もまったくはずれているということはないだろうな」

    『でも』

    青年が、首を傾げつつ、言った。

    『日本の文化が朝鮮半島を経由してきたことを認めたとしても、現代の日本人と韓国人とでは国民性が違う気がするのですが』

    青年の言葉に、陰陽師は真顔で頷く。

    「以前(第9話参照)説明したと思うが、頭の1/2の比率は、世界では2:8に対して日本人は3:7と、世界の平均値と比較すると頭が1が一割ほど多い」

    『だから、日本は優等生と言うこともできる、とおっしゃいましたね』

    「そのとおりじゃ」

    陰陽師は、小さく頷く。

    「一方、朝鮮や中国では、1/2の割合がほぼ1:9となる」

    そう話す陰陽師の言葉に耳を傾けながら、青年は記憶をたどるように一点を見つめて黙考し、口を開く。

    『たしか以前のお話では、頭2は狩猟民族の末裔で、物事を損得で考える傾向が強いため、結果、自己中心的な傾向が強いということだったと記憶していますが、だから韓国人は自国が優位になるような主張をする傾向が強いのでしょうか』

    「半島に住む人々というのは、朝鮮半島に限らず、地続きの大国の影響を受けやすいという特徴を持っておるわけじゃから、もちろん、そう考えることも可能じゃろう。しかし、決して忘れてはならぬのは、魂は、各々属性にとって最も修行に適した国を選んで転生してくるという原則じゃ」

    『つまり、日本を選んで生まれてくる人間は、修行をするにあたり日本が最適の修業の場であり、韓国や中国に生まれる人間は、それらの国が修行の場として最適であるというのですね』

    「その通りじゃ。さらに言えば、同じ1/2であったとしても、程度という問題も存在する」

    『つまり、1/2に枝番があり、それによって度合いが存在するわけですね』

    「さらに言えば、16通りある、輪廻転生と魂の組み合わせにも、それなり以上の相違もある」

    『なるほど』

    「じゃから、たとえ姿形がいかに似通っていようと、同じ人間だから話せばわかる式のコミュニケーションではなく、各々別種の人間として話をする必要があるわけじゃな」

    『そのあたりの話は、じゅうぶん理解しました』

    陰陽師にそう答えた後で、青年は言葉を続けた。

    『ところで年も明けたので、明日にでも初もうでに出かけようと思っているのですが、今お話にあった1/2という問題は、神様や寺社といったものにも当てはまるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。今まで説明してきたように、文明に連続性というものが存在する以上、たとえば、古事記・日本書紀に出てくるような神様も、日本古来の神様と考えるよりも、様々なルートで日本に辿り着いた民族が祭っていた神々や祖王たちと捉える方が論理的じゃと思う。よって、それらの神々も祖王たちも、また彼らが鎮座されておる神社にも、当然1と2の別が存在することとなる」

    『やはり、そうなのですね。今までのお話を伺いながら、漠然とそうじゃないのと思っていましたが、ということは・・・』

    小さく首を振りながら、口を開きかけた青年を、陰陽師が制した。

    「そのあたりの話を説明するには、それなりの時間が必要じゃ。それには今日はちと時間が足らんようじゃな」

    青年はスマートフォンに触れて時間を確認する。

    『いつものことながら、もうこんな時間ですか。では、また別の機会にその話をじっくりご教授ください』

    「あいわかった。寒いから風邪を引かぬようにな」

    青年は席を立って深く頭を下げる。顔を上げると陰陽師が手を差し出しているのが見え、青年はその手を固く握るのだった。