タグ: 魂の種類

  • 新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    青年は思議していた。

    今回は、SNSを介した誹謗中傷を苦に、自ら命を断ってしまった木村花についてである。
    もともとプロレスラーとして活躍していた彼女が、番組を盛り上げるためにそのキャラクターを買われ、テラスハウスという番組に出演していた。ところが、番組中のとある場面をきっかけとして、ツイッター上で誹謗中傷コメントの集中砲火を浴び、それを苦に自殺した。

    今回のように、加害者と被害者の間に面識がない関係、つまり赤の他人からの行為によって、彼女のような有名人が亡くなることは、かつての日本では稀な出来事であった。
    しかし、SNSというツールがこの世に存在する限り、こうした誹謗中傷による事件は今後も起こりえるに違いない。
    あるいはまた、彼女が命を断った背景には、霊障が絡んでいたのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、こんばんは。本日は木村花とインターネットのコメントについて教えていただけませんか?』

    「ほう、それは少々変わったテーマじゃな。して、具体的にはどういった出来事があったのかの?」

    青年は木村花の人となりと、事件の経緯について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かした後、青年に問いかけた。

    「ちなみに、そなたなりには木村花の鑑定結果に対し、どのような見立てを立てておるのかな?」

    突然の問いに、青年はかすかに黙考した後、答えた。

    『おそらく、彼女には先祖霊の霊障か天命運に“5:事故/事件”の相がある、あるいは魂の属性が3(9)−3で、スポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触したのではないかと』

    青年の答えに対し、陰陽師は小さくうなずいてから紙に鑑定結果を書き記していく。鑑定結果を見た青年は、表情を曇らせながら口を開いた。

    木村花

    『やはり、木村花はスポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触する属性でしたか…』

    「どうやら、そのようじゃな」

    小さく頷きながら、居住まいを正す青年に、陰陽師が問いかける。

    「質疑応答を始める前に、そなたの理解度の確認も兼ねて、魂の属性2−3−5−5…2に関するこの世のルールについて、今一度、そなたの口から説明してもらおうかの?」

    『はい』

    青年は、考えをまとめるように、一瞬黙り込んだ後で、口を開いた。

    『プロのスポーツ・芸能・芸術世界を生業にできる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:武士・武将階級であり、基本的気質と具体的性格の上段の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します』

    そう言うと、青年は一息つき、陰陽師の補足がないことを確認した上で、ふたたび口を開く。

    『また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する人物となります。なお、一部の例外としてオネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物、あるいは、功成り名遂げた後でヌードをさらす女優などは、2(3)−3−5−5…2という属性となりますが、こちらもルール上はセーフとなります。結論として、この世には、2(3)、2(4)、2(7)という差はあるものの、大きくいって2−3−5−5…2という魂の属性を持った人物だけがこれらの世界で働くことができるという、この世の厳然たるルールが存在しています』

    青年のここまでの説明に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「今回の木村花を含め、この世のルールに抵触してしまい、排除命令の対象となる人物の魂の属性については覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5…2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7…2や2(4)―3−5−5…1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます』

    「うむ。しかと勉強しているようじゃな」

    青年の回答に、にこやかに頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「木村花の鑑定結果を鑑みるに、仮に彼女がプロレスに専念していたとしても、いつの日か排除命令によって何らかの事故に遭うか再起不能の大怪我を負って引退していた可能性が高かったわけじゃが、加えて、先祖霊と天命運に“5:一般・事件・自殺”の相があったことを伏線として、テラスハウスに出演したことが決定的な要因となり、排除命令が早まってしまったのじゃろう」

    『つまり、テレビ番組に出演することも2−3−5−5…2の領域ですから、ルール違反が二つになってしまったと?』

    「さよう。わかりやすく言うと、合わせ技一本というわけじゃな」

    陰陽師の回答を聞き、表情を曇らせて顔を伏せる青年。ふと、顔を上げて再び口を開いた。

    『確か、木村花の母親もプロレスラーでしたが、彼女は属性的に問題はなかったのでしょうか?』

    「鑑定しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かして鑑定を始める。
    青年は食い入るように結果を見つめ、やがて口を開いた。

    木村響子

    『なるほど。木村花の母である木村響子は、プロレスラーに適した属性だったのですね』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいて見せ、再び鑑定結果を書き記していく。

    「気になったからついでに鑑定してみたが、木村花は父親とソウルメイトだったようじゃな」

    木村花の実父

    『たしかに数字が似ていますが、魂の属性は血液型のように、両親の属性を受け継ぐものなのでしょうか?』

    「受け継ぐという言い方が適切であるかどうかはともかく、基本的にはそなたの言う通りじゃ。ただし、ソウルメイトの範囲は両親だけに限らず、祖父母、あるいは曽祖父母の14名となる」

    陰陽師の補足に対し、青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『実父はインドネシア人で既に離婚しているとネットに書かれてありましたが、先祖霊の霊障と天命運に“8:異性”の相があるだけではなく、両親共々とも恋愛運が7と低いことから、そのあたりの事情は納得といったところですね』

    陰陽師が、黙って首を縦に振るのを確認した後で、青年は続ける。

    『木村花が母方の魂の属性を受け継いでいたら…とは思いますが、木村花も今世の役割を果たすのに適した属性と環境を選んで転生して来ているのでしょうから、そのような意味では、今回の件はしかたないと考えるしかないのですね』

    「彼女が地縛霊化していたことから、それは何とも言えんな」

    『えっ、そうなのですか。今世の彼女に、他の選択肢が残されていたのかもしれないとおっしゃるのですか』

    そう言い、腕を組んで眉間にシワをよせる青年に、陰陽師は問いかける。

    「今回の事件の発端としては、ネットによる誹謗中傷の影響も大きいということは理解しておるな?」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシの元に日々数え切れないほどの雑霊のお祓いの依頼が来ていることは、そなたも知ってのとおりじゃが、この雑霊、そして生きている人間の“念”というものは、実は、インターネットの周波数と非常に似通っておるんじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は目を見開き、身を乗り出しながら問いかける。

    『ということは、木村花への誹謗中傷コメントを書き込んだ人間の念が、我々が想像している以上に、インターネット上のコメントを介して木村花を自殺に追い込む影響力を持っていたと?』

    怪訝な表情で問う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「ワシのクライアントの中でも霊媒体質のスコアが高い人物に対しては、インターネット、特にSNSの使用をなるべく控えるように言っておる。というのも、投稿者が負の感情をぶつけるような投稿をした場合、それを偶然読んでしまうことで、その投稿が当人に向けられたものでなくても負の感情を拾ってしまい、心身に不調が出ることがあるからじゃ」

    『僕も攻撃的な投稿をする人物の文章を読んだ際に、なんだか胸のあたりがモヤモヤすることがあるのですが、それもそうとは知らずにその人間の念を拾っていたのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高いじゃろうな。以前(※第15話)も話したが、人間の念にはポジティヴ・ネガティヴの両面が存在することから、たとえ発信者が良かれと思って投稿している内容にも注意が必要なんじゃ」

    『あなたに幸せエネルギーを送ります、などといった投稿をよく見かけますが、実は、あれも念の一種なのですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて答え、口を開く。

    「そうした一見ポジティヴな念を拾い、一時的に気分がよくなった気になるかも知れんが、実は、それらは非常に危険な行為なんじゃ」

    『え、そうなのですか。しかし、なぜ?』

    「そのような行為は、ワシに言わせると、ある意味、覚せい剤を使用し、一時的に気分を高揚させているのと何ら変わりはない。さらに危険なのは、それらの行為に、麻薬同様、習慣性があることじゃ」

    『つまり、気分が落ち込んでいる時に、そうしたサイトにアクセスを繰り返すことで、本人にも気づかぬうちに習慣化してしまうと』

    「まあ、簡単に言うと、そういうことになるかの」

    青年の言葉に、小さく頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「そのような行為を繰り返しいるうちに、ネットの世界が精神の安定に必要不可欠だと勘違いし、暇さえあればネットを使用するようになってしまう。そして、その結果、アクセスするたびに他人の念を拾うという悪循環に陥るわけじゃな」

    『なるほど。そのような過程を経て、本人も気づかぬうちに、ネット依存症になっていくわけですね』

    「もっと正確に言うと、万人にネットに依存するなと言っているわけではなく、そもそも、“幸せエネルギー”なぞという怪しげなものに反応してしまう魂の属性3の人間は、そのようなサイトに近づくべきでないと言っているわけじゃ」

    腕を組んで陰陽師の説明に思考を巡らせていた青年だったが、ふと顔を上げ、慌てた様子で口を開いた。

    『しかし、“アクセスするたびに”ということは、例えば、SNSのように双方向のやりとりを必要としない、ウェブサイトを訪問するだけでも、訪問者は影響を受けてしまうのでしょうか?』

    「そなたは、生き霊が相手のことを思い浮かべただけでその人物に飛んでいくことがあるのは理解しておろうな?」

    『はい。怒りや憎しみといった負の感情だけでなく、例えばアイドルに向けられる好きという気持ちといった、一見正(のようにみえる)の感情のようなものも、念/生き霊になり得ると理解しています』

    「うむ。そなたの言う通り正の感情は一見、無害のように思われるが、親から子への過干渉などの例をみればわかるように、受け取る側からすれば、よいものばかりとは限らないものなのじゃ」

    『モテすぎて困っている友人がいましたが、ストーカーも、行き過ぎた正の感情による念と考えると納得がいきます』

    そう言い、腕を組み直す青年を横目に、陰陽師は再び口を開く。

    「さらに、もう一つ危険なことは、ウェブサイトを訪問した時点で、相手の念が自由に行き来できる霊的な道(霊道)を自ら作ってしまうことなんじゃ」

    『なるほど。自分が認識するしないにかかわらず、そのような影響を受けてしまうとは…。いずれにしても、好奇心で怪しいウェブサイトにアクセスしない方がよさそうですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は大きくうなずいて続ける。

    「生きている人間の念/生き霊も含めてワシは雑霊の霊障と呼んでおるのじゃが、そなたのような霊媒体質である魂3の人物は、自身が想像している以上に心身が悪影響を受けていることをしかと頭に叩き込んでおくことじゃ」

    『かしこまりました。霊障の影響を受けない魂7の人々の方が圧倒的に多いため、世間では霊障に関する話題も“気のせい”と一蹴されてしまう風潮がありますが、魂の属性3の僕は魂の属性3の基準で生きようと思います』

    真剣な表情でそう言った後、青年は鑑定結果が書かれた紙を再び覗き込む。

    『木村花も魂の属性3ですから、やはり誹謗中傷コメントから影響を受けていたのですね…』

    そう言い、顔を伏せる青年をいつもの笑みで見守る陰陽師。少しして、陰陽師はふとした疑問をつぶやいた。

    「ちなみに、木村花への誹謗中傷はどういった内容かわかるかの?」

    『アカウントが削除されて今は確認できませんが、調べてみます』

    陰陽師の言葉に顔を上げた青年は、スマートフォンを手早く操作し始める。該当の内容を見つけると、青年はツイートを読み上げる。
    青年が読み上げたツイートを聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    “お前がいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早く消えてくれよ。”

    けんけん

    鑑定結果を見た青年は、小さくため息を漏らしながら口を開く。

    『頭が2で、魂の属性が2−4の人物でしたか。何となく予想はしていましたが…』

    「いつも言っているように、人間は複雑な要素が重なって構成された複合体なわけじゃから、頭が2で魂2−4の人物だからと一括りにしてはいかんぞ」

    陰陽師の言葉に対して青年は小さくうなずいて見せ、再び口を開く。

    『はい。この人物の場合、魂7ですから、自分が発した念がコメントを介してダイレクトに木村花に影響をあたえ、今回のような事件を起こす引き金になるとは思いもよらなかったでしょうね』

    「その通りじゃな。さらに、この人物の場合、“大局的見地”と“仁”のスコアが“30”と極端に低いことから、そもそも自分が発する言葉にしてもコメントにしても、相手がどのように受け取るかということを想像することも難しいのじゃろう」

    『なるほど』

    「で、他に気になるコメントはあるかの?」

    陰陽師の問いに青年は小さくうなずき、再びスマートフォンを操作する。
    青年が読み上げたコメントに対し、陰陽師は一つずつ鑑定結果を書き記していく。

    “「今後は」とか言わずに、今回の件で追跡できるなら徹底してリストアップした上で、なんらかの処罰やペナルティを課すことができないか検討してほしい。人が死んでいることを忘れずに対応してほしい。”

    画像5

    “誹謗中傷の画像を保存している人はたくさんいるはず。人が死んでいるんです。追い詰めた側には厳しくしてほしい。もちろん、このきっかけとなった番組側への徹底調査もお願いします。”

    画像6

    『この二つは特に反応が多かったコメントだったのですが、魂4と魂3であることが興味深いです』

    「たしかに、魂3の方のコメントは特定の立場の人物を責め立てるのではなく、公正な視点で原因を追求しようとしているのに対して、前者のコメントの場合は、二度と同じような事件が起きないためにどうすべきかというよりは、犯人を探し出し、罰するべきという偏狭な倫理観が先に来ているところが、魂4らしいと言えばそうかもしれんな」

    『先日お聞きしましたが(※第28話参照)、犯人を見つけて罰をあたえたらそれで終わりではなく、“罪を憎んで人を憎まず”ということわざにもあるように、今回の出来事から自分は何を感じたのか、何を学ぶのか、それらを糧としてどう生きていくのかといったことを考えることが重要なのですよね』

    「さよう。ワシが伝えたことをだいぶ理解してきているようじゃな」

    照れ隠しで無言のまま小さく頭を下げた後、青年は次のコメントを読み上げた。

    “たぶんプロレスラーとしての行動に対する誹謗中傷には普通に耐えられたのでしょうが、自身の内面やプライベートな部分に触れる非難はきつく刺さったのかもしれません。そういった意味で、テレビで自分を晒すという事の覚悟が少し足りなかったのかもしれませんね。”

    画像7

    『テラスハウスのようなリアルを謳った番組であっても、実際は台本が存在していると聞いています。木村花は悪役のプロレスラーというキャラクターを買われてあの番組に出たのでしょうから、素の自分を100%晒していたとは思えないのですが』

    「番組というのは視聴率が全てといっても過言ではないわけじゃから、出演者のバランスとして、あえてクセのある人物を選び、それらの人物に視聴者がよろこびそうな過激な出来事を意図的に起こさせることなぞは、じゅうぶんあり得るのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は大きくうなずいてから口を開く。

    『Twitterを見るかぎり、普段の木村花の性格は、プロレスや番組上とは違っている印象でした。やはり、自分が番組に選ばれた意図を理解し、ああいったキャラクターを演じていたのではないかと思います』

    「さらにじゃ。ああいった番組は、複数のカメラを設置し、回していることから、出演者個々人の24時間全ての言動を放映するわけではなく、そうやって映した膨大な映像の一部を、番組側の意図に沿った形で切り取り編集することで、視聴者の印象操作も行われていたわけじゃしな」

    『木村花としても、番組や視聴者のことを考えての振る舞いが、あそこまで叩かれるとは思いもしなかったでしょうし。制作者側の演出意図を理解してもらえなかったこと、素の自分が歪んだ形で解釈されてしまったことを考え合わせると、胸が痛むとしか言いようがありません』

    そう言ってうつむく青年を励ますように、陰陽師は優しい声色で語りかける。

    「芸能人といっても、しょせんは我々と同じ、血の通った人間じゃ。芸能や芸術が批判されることはあっても、人格まで誹謗中傷される必要はない」

    『そうですよね。テレビで放映された内容だけが木村花の人格ではありませんし、画面越しに彼女を見ている人物に彼女の素顔など絶対にわかるはずはありませんから』

    そう言い、青年は次のコメントを読み上げた。

    “インターネットで匿名で他人をコキ落とせる形ももちろん問題でしょうが、木村さんにも全く問題がなかったわけではないはず。インターネットでの批判は国民の総意ではなく、ごく一部の暇な自制心がない方の意見にすぎないことを自覚して、動揺しないことです。”

    画像8

    『このコメントを書き込んだ人物は、実際に自分が今回のような誹謗中傷のターゲットになったとしたら、こんな悠長なことを言っていられないと思います』

    「その通りじゃな」

    『自ら体験もしていないことを、上から目線、しかもしたり顔で語ってしまうところが頭が2の2−4らしいと思いますし、ダルビッシュ投手が有名人の誹謗中傷の比喩として用いた、“イナゴの大群が自分の周りを通過している写真”を見ながら、僕が有名人であったとしてもSNSを辞めたくなるだろうな、と思いました』

    「たしかに、そなたの言う通りじゃな」

    そう言って苦笑いする青年を横目に、陰陽師は笑みを浮かべながら小さくうなずく。やがて、青年は次のコメントを読み上げる。

    “中傷されていたことがわかっていたのに、番組も周囲も木村さんを助けようとしなかったのだろうか?悪いのは中傷していた人たちだが、誰も彼女が生きている時に救えなかったのだろうか。”

    画像9

    『有名人に対する誹謗中傷は日常茶飯事といっても過言ではありませんから、木村花は周囲にヘルプを求めにくかったかもしれませんし、仮に助けを求めても、“気にするな”の一言で片づけられてしまっていた可能性も高いように思います』

    「しかも、この投稿者の場合、魂7であることから、霊障の影響も含め、霊的な問題が介在していたとは夢にも思わんじゃろうからわからないのも無理はない」

    “こういう時信じるべき人はファンです!どんなに素晴らしい人でもアンチは必ずいます。顔の見えないネットからの誹謗中傷を鵜呑みにしないでください!“

    画像10

    「この人物のように、励ましの言葉をストレートに表現できる点は、魂4の強みでもあるのじゃろう」

    『頭が1で魂の性質が4、魂の特徴がオール1という少ない属性の人物ですね。しかもパフォーマンスが90%と高い! ある意味純真な4−4だからこそ、他者の視線に晒される有名人のアカウントにおいても、このような応援コメントを書けたのでしょうね』

    「さよう。いくら魂1〜3が論理ベースであるとは言え、感情がないわけでもないし、感情の一側面である情念なぞは魂3の専売特許であるわけじゃが、気分が落ち込んでしまった時には、こうした頭1の4-4の直球とも言える応援が落ち込んでいる当人にとって、一番の薬なのじゃろうな」

    『生前、木村花がこのようなメールに目を通していてくれれば、あるいは最悪の決断を思いとどまったのかもしれませんね』

    「その通りかもしれんな」

    小さく頷く陰陽師を見ながら、青年は言葉を続ける。

    『ところで、このコメントは、誹謗中傷コメントの次に投稿されていたのですが、人の感情は正よりも負の方が強いのか、木村花には誹謗中傷の念の方が強く残ってしまったのだと思います。SNS、特にTwitterは負の感情が込められた投稿の比率が他のSNSに比べて多い気がします』

    「ワシの場合、おぬしと違いそれほど多くのTwitterに目を通しているわけではないが、おぬしの言うように、負の投稿の方が圧倒的に多いことはたしかなようじゃし、誰が投稿したにせよ、Twitterという発信方法が、感情の捌け口として使用されている側面は否定できぬのかもしれんな」

    “コスチューム事件はどっちもどっちですが、自分は間違ってないと考えていた花さんにも問題はあると思うし、そこに対しての批判は別に良いと思う。ただ、人格否定や消えろといった誹謗中傷はよくないと思います。”

    画像11

    『この人物は頭が2の魂3ですか』

    属性表を覗き込みながら、青年が言葉を続ける。

    『たしかに、世の中には批判と誹謗中傷を混同している人は多いと思いますし、特定の事象を悪として規制や禁止の対象とすれば問題が解決するわけでもないと思うのですが』

    「たしかにそなたの言う通り、臭いものに蓋をすればいいという単純な問題ではないのじゃろう。世の中の大多数の人間が我々のようなものの見方をできない以上、決定的な解決策を探し出すのは、かなり難しいのじゃろうな」

    「たしかに」

    陰陽師の言葉に小さく頷く青年を眺めながら、陰陽師が訊ねた。

    「ところで、ここにあるコスチューム事件とはどういった内容なのかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は該当する記事をスマートフォンで見つけ、陰陽師に見せる。
    一通り記事に目を通した後、陰陽師は口を開いた。

    「なるほど。木村花にとっては、コスチュームは職業道具であり、かなりの金額を費やして作成したものなわけじゃな。そして、そんな大事なものを一般の洗濯物と一緒に出した木村花も不注意じゃったかもしれぬが、当該の男性の方も職業道具へのリスペクトが足りなかったわけじゃな」

    『それに対し、彼女は男性に対し暴言を吐いていましたが、ああいった言動も番組を盛り上げるための演技だったのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はかすかに黙考し、口を開く。

    「半分本音で半分演技だったのじゃろうな。つまり、怒ったのは本当だったとしても、怒りの表現方法については、彼女がキャラクターを演じて過剰に行なったと思われる。そして、そこに魂4の偏狭な正義感が反応し、誹謗中傷をしたのじゃろう」

    『自分を中心にものを考えると、その時の映像を見ている時に感情が動くこともあるとしても、時間がたつにつれ、あれは番組の演出なんだと気づき、誹謗中傷コメントを残すまでにはならないと思うのですが』

    「それは頭が1で魂が3のおぬしだから言えることであって、参加意識が高い魂4の場合は、少々事情が違う。彼らの偏狭な正義感に火がつき、感情の赴くままにコメントを書くわけじゃから、誹謗中傷の方が多くなってしまうのは当然の帰結なのじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は苦渋の表情を浮かべて腕を組み、黙り込む。
    陰陽師はそんな青年を横目に、湯呑みの茶を飲む。
    やがて、青年は顔を挙げて陰陽師に声をかけた。

    『ふと思ったのですが』

    「うむ?」

    『インターネットがなかった時代は、政治家や芸能人の悪口や誹謗中傷は自宅や、居酒屋で酒を飲みながらするか、テレビ局などに直接電話するくらいがせいぜいだったものが、ネットを使い、掲示板やSNSにコメントができ、それが公開されるようになった結果、本人にまで直接届いてしまうようになったのですよね』

    「うむ。インターネットの存在によって庶民に発言権があたえられ、しかも参加意識が高い魂4がこぞって発言した結果、彼らの意見があたかも大多数の意見として捉えられるようになってしまい、彼らの偏狭な正義感に触れると事実がどうであれ、たちまち炎上し、拡散する困った風潮が定着してしまったことだけは間違いあるまい」

    『そして、炎上した出来事に関して、僕たちのような属性分析ができないマスコミもテレビ局も、紙媒体の新聞社も、ネットのコメントに気を遣わざるを得ない現状になりつつあると』

    「その通りじゃ」

    『さらに言うと、政治家もその例外ではなく、政治家の小粒化が起きている原因の一因も、参加意識が高く、偏狭な正義感を持った魂4のインターネットへの参加が原因なのだと(※第13話参照)』

    青年の補足に陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「庶民が自由に発信できるようになったといった問題だけでなく、庶民には関係ない情報まで自由に受信できるようになってしまった、という問題もあることを忘れてはならぬぞ」

    『そうでした。知識や知恵を共有するという意味では、インターネットには大きなメリットがあり、科学と技術の進歩に必要不可欠な反面、堅強な正義感が、時として暴走をする怖さというものをしっかり認識する必要があるわけですね』

    「それだけではなく、魂の属性3(霊媒体質)の人間にとって、そもそもSNS自体が危険であるという認識も忘れてはならぬ」

    『そうでした。人間の念、特に負の感情が蔓延するという意味でデメリットがあるとのお話でしたよね』

    「その通りじゃ。インターネットの周波数と雑霊のそれとが類似しているために、なおさら個人に対して念が届きやすくなるという危険性については、今回の木村花の事件でそなたもよくわかったことじゃろう」

    『はい。大量の誹謗中傷をネット上でのいじめと考えるなら、ネットを介して見知らぬ人物からのいじめによって、有名人が命を絶ってしまったことは大きな問題だと思います』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、再び口を開く。

    「とは言え、今回の事件が大きな問題を孕んでいるとしても、インターネット自体の恩恵をいまさら無視することもできんわけじゃし、インターネットなしの世界に戻ることなぞ、なおさら現実的な話ではない。故に、せめて魂4の“大局的見地を欠いた、偏狭な正義感”により先鋭化する意見に“染まる/同調する”ことなく、そなたも含めた魂1〜3の人物が、もっとネットに積極的に参加し、“公正な”意見・主張を繰り広げてほしいと願うばかりじゃ」

    『そうですね。インターネットのメリットとデメリットをよく理解したうえで活用していこうと思います。また、情報を集める時は信憑性や本質をよく吟味し、自分なりの意見をしっかり主張していこうと思います』

    「その意気じゃ。参加意識が高い魂4のコメントだけを拾われて、それが国民の総意にされてしまわないように、ぜひ頑張ってほしい。それともう一つ」

    黙って続きを待つ青年と視線を合わせ、陰陽師は続ける。

    「インターネットを使用していて心身の不調を感じたら、他者の念/雑霊のお祓いを依頼することも忘れぬようにの」

    『はい。何か不調を感じたら、我慢せずに依頼します』

    青年は力強い眼差しで大きく頷く。そんな青年の様子に満足したのか、陰陽師はいつもの笑みをたたえてうなずく。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、時計を見て口を開いた。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はアトピー性皮膚疾患に悩んでいた過去を思い出していた。
    現在はほぼ完治しているが、当時はムシャクシャした時に、いけないとわかっていながらも肌を掻きむしってしまい、症状を悪化させていた。あの行動は、他者の念/雑霊の影響によって“15”の症状が顕在化していたのだろう。

    雑霊による精神疾患

    ほとんどの現代人にとって、SNSを使わない日はないと言っても過言ではない。だからこそ、心身の不調を感じた時は“気のせい”、“すぐに治まる”と思わず、陰陽師に雑霊のお祓いを依頼しようと、青年は決意を新たにするのだった。

     

     

     

     

    帰宅後、どうしても確認したいことがあり、青年は陰陽師に電話をかけた。

    「どうした、こんな時間に。何かあったかの?」

    『いえ、そうではないのですが、地縛霊化している木村花の魂は、母親である木村響子や他の誰かが救霊の神事をしない限り、ずっとこの世に留まることになるのですよね?』

    「正確には、彼女に子孫がいないことから、しばらく時が経った後に親族の中で魂の属性3の人物にかかることになる。もっとも、彼女にかかられた親族が、彼女の魂を救霊できる霊能力者(±1〜3)と出会えなければずっと地縛霊化したままじゃが」

    両者の間に沈黙が流れる。
    やがて、意を決した青年は真剣な表情で口を開く。

    『木村花は僕にとっては赤の他人ですが、そんな僕が彼女の救霊神事の依頼することは可能なのでしょうか?』

    青年が取る選択を予想していたのか、いつもと変わらぬ陰陽師の声が返ってきた。

    「もちろんじゃとも。というより、そなたならそう言うと思い、今し方神事をしておいたところじゃ」

    呆気にとられ、しばらく言葉を失う青年。そんな青年の様子がおかしかったのか、受話器越しに陰陽師が小さく笑っているのが聞こえる。

    『先生には敵いませんね』

    小さくため息をつきながら、青年はそうつぶやく。

    「まあ、ワシの人生にもいろいろあったからのお」

    そう言い、さわやかな笑い声を上げる陰陽師に対し、青年は無言で頭を下げて答える。

    「あとはどうじゃ。まだ他に聞きたいことはあるかの?」

    『いえ、大丈夫です。遅い時間にありがとうございました』

    「どういたしまして。おやすみ」

    その言葉を最後に、電話は切れた。

  • 新千夜一夜物語 第27話:大量殺人事件と不動明王(前編)

    新千夜一夜物語 第27話:大量殺人事件と不動明王(前編)

    青年は思議していた。

    相模原施設殺傷事件の加害者である、植松聖に死刑判決が下された報道についてである。
    この事件は、第二次世界大戦後、最大の大量殺人事件(19名が死亡、26名が重軽症)と言われている。
    植松被告は殺害する相手を選んでいたことから、2018年東海道新幹線殺傷事件(※第19話参照)のような無差別殺傷とは異なり、何らかの意図があって犯行に及んだように青年には感じられた。
    両者の違いは何なのか。何にせよ、彼にも霊障があるに違いない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れた。

    『先生、こんばんは。本日は大量殺人事件について教えていただけませんか?』

    「大量殺人事件とは、また物議を醸すようなテーマじゃな。して、どんな事件かの?」

    青年は、相模原施設殺傷事件の内容を陰陽師に伝える。

    『この事件のことをいろいろと調べていてふと気になったのですが、大量殺人事件を起こす人物には、魂の種類や霊的特性に何らかの共通点みたいなものがあるのでしょうか?』

    「いつも言っているように、人間は複雑な要素が重なって構成された複合体なわけじゃから、大量殺人者はこうといった公式みたいなものは存在しない。じゃが、ワシがみる限り、本来我が国にほとんどいないはずの4-2という属性を持った人物に凶悪犯罪者が多いということは言えるかも知れん」

    『え、4−2? 転生回数期が第四期の魂2:制服組(軍人・福祉関係)の一部が連続殺人者ですと?』

    そう言い、唸り声を上げる青年を横目に、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んでから声を掛ける。

    「どうも合点のいかぬ顔をしているようじゃから、今日は魂2の特徴についてゆっくり説明するにあたり、そなたの知識を再確認するためにも、覚えている範囲でかまわんから、魂2の特徴について、説明してもらえるかの」

    青年は湯呑みに注がれた茶を一口飲んで喉を潤わせた後で、口を開く。

    『魂2はかつては諸侯・貴族階級を形成していましたが、それらの階級が消滅した現代では制服組(軍人・福祉関係)の多くに分布している属性で病院の看護師、福祉関係、そして防衛装備庁・自衛隊などで活躍しているとお聞きしました』

    「うむ、基本的な話は、しっかり理解できているようじゃの」

    にっこりと微笑みながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「して、そなたのその説明にひとつだけ付言すると、魂2の大半は、まだ貴族という階級があった時代においても、たとえば**伯爵のように、世に出て活躍するというよりも、王や皇帝をサポートする役割の人物が多かったという歴史的な事実もあわせて頭の片隅に留めておくとよいじゃろう」

    陰陽師の助言に青年は手を打ち、口を開く。

    『なるほど。貴族という階級が存在しない現代では、上記以外にも福祉・医療関係の幹部職員、NPO・NGO、WHO等の世界的福祉機関の職員として従事している方が多いという話もそのような歴史的背景からきているのですね?」

    「その通りじゃ」

    陰陽師は、ふたたび一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「さらに、職業と呼べるかどうかはともかく、町内会長、お祭りの実行委員長といった世話役なども、彼らの現代の主要な活動分野となっている。また、魂2の人間は総じて“質実剛健”であるとともに、かつては貴族であったにもかかわらず、ブランド品などの装飾品などにもあまり興味がなく、贅沢をしない人間がほとんどという特徴も合わせ持っておる」

    『お話を伺うかぎり、貴族という言葉から想起されるイメージとは裏腹ですね』

    ちょっと意外そうな顔をしている青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「もちろん、現代に生きる魂2の人々が一様に金持ちというわけではないが、仮に富裕層であったとしても、見栄を張るようなこともない。たとえ、高価な服を身に着けたり厳選された食材を買い求めることがあったとしても、日常の生活は極めて質素なことが多い。一方、性格的に穏やかな人物が多い反面、程度の問題はさておき、魂の属性3を中心として精神疾患を抱える人間が多いのも魂2の特徴の一つとなる」

    『つまり、自らの富や名声をこれ見よがしに誇示するのは、魂4の人物が多いわけですね?』

    「4-4にはそもそも該当する人物はほぼ存在しないので、そなたが言いたいのは2-4のことなのじゃろうが、自己顕示欲が強いという点では、むしろそなたたちのような魂3が一番じゃろうな」

    『げげ、そうなのですか?!』

    思わぬ展開に、驚きの声を上げる青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「たとえば、芸能人や、いわゆるセレブと言われる人々がほとんど魂3であることを考えれば、そう驚くことはあるまい」

    「たしかに。僕みたいな少数の例外を除けば、世間を牛耳り、ブイブイ言わせている人々はほぼ魂3でした」

    頭を掻きながらそう答える青年をおかしそうに眺めながら、陰陽師は紙に輪廻転生回数と各期について書きあげ、脇に“観音”と不動明王“と付け加えた。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    陰陽師が筆を止めたのを確認し、青年は問いかけた。

    『この、“観音”と“不動明王”とはどういう意味でしょう?』

    「この二つは魂2の性格を理解するキーワードとなる言葉なのじゃが、全ての説明を聞けば、おのずと理解できるものじゃから、後にしよう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は黙ってうなずいてみせる。そんな青年に、陰陽師が説明を続ける。

    「この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

    『つまり、植松被告もこの期に該当していると?』

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    植松聖

    青年は陰陽師が書き記した植松被告の鑑定結果に目を通し、口を開く。

    『彼の場合、天命運に“5:一般・事件・加害者・死亡”の相がありますし、全体運が3と極端に低いという特徴もあるにはありますが、自らの思想を主張するにあたり、今回のような事件を引き起こしてしまうところが、第四期らしいとも言えそうです』

    「そなたの言う通りじゃな」

    青年はしばらくスマートフォンを操作し、再び陰陽師に問う。

    『ちなみに、他の大量殺人事件、2011年ノルウェー連続テロ事件の犯人であるアンネシュ・ブレイビクと、1938年の“津山三十人殺し”の犯人である都井睦雄と、浅間山荘事件の犯人である坂口弘の魂の属性はいかがでしょうか?』

    陰陽師は無言で鑑定結果を書き記し、青年に差し出した。

    アンネシュ・ブレイビク

    画像3

    坂口弘

    三人の鑑定結果を見比べ、青年は首を傾げながら口を開く。

    『アンネシュ・ブレイビクと都井睦雄は植松被告と同じく第四期の魂2ですが、坂口弘は転生回数が第二期の魂3の武士なのですね。天命運に“5:事件・加害者・死亡”がありますが』

    「第四期の魂2の二人は鉄砲玉のように単独で犯行に及んでいるが、坂口弘は徒党を組んで中長期的にテロ活動を行なっていたことから、第二期の魂3という成熟した魂ゆえに成しえた事件という言い方もできなくはないが、この事件は時代が引き起こした事件と考えた方がいいじゃろうな」

    『とおっしゃいますと?』

    「以前、デモは4-4の専売特許という話をしたと思うが、現在の安倍首相の祖父である岸信介元首相が成立させた日米安全保障条約(安保条約)に反対して国会議員、労働者や学生、市民および批准そのものに反対する左翼や新左翼の運動家が参加した反政府、反米運動とそれに伴う大規模デモ運動である1959年(昭和34年)から1960年(昭和35年)安保闘争、そして1970年(昭和45年)の第2次安保闘争、それに派生する安田講堂事件や日大闘争、左翼団体などは成田闘争、さらには連合赤軍のあさま山荘事件なぞは、4-4ではなく、魂3が中心になって起こした特異な事件ということができるからじゃ」

    『なるほど』

    小さく頷く青年を見ながら、陰陽師が説明を続ける。

    「次に、第三期の魂2(3-2)じゃが、この時期の魂2は、魂3・4などと違い、社会的な上昇志向よりも魂2が持つ優しさ、奥ゆかしさ、慈愛といった側面が最大限に発揮されるという特徴を持つ。ワシが独り身のクライアントに、3−2の女性を見つけたら土下座してでも結婚してもらうようにと勧めるのもそのあたりの理由による」

    『先生がそこまでおっしゃるとは! 3-2の女性はまるで観音のような存在というわけですね』

    陰陽師の言葉に驚き、青年は思わず声をうわずらせる。

    「当然のこととして、これらの法則は人間のみならず動物にもあてはまることから、たとえば、ペットとして猫を飼うような場合にも、3−2の猫を飼うようクライアントに勧めておる。実際ワシのところの猫の一匹も3-2なのじゃが、見ての通りとても大人しく、猫の可愛い部分だけを集めた様な猫であるわけじゃから、間違いなくベストの選択となることじゃろう」

    『猫にも輪廻転生と魂の種類があるということは、猫には猫の修行があるのですね! 僕も猫を飼う機会があれば、絶対3−2にします』

    「ああ、それがいい」

    ちょうど、立ち耳のスコティッシュフォールドがテーブルに飛び乗り、陰陽師の手に体をすり寄せてきた。そんな猫の様子を見、二人は微笑み合う。
    件(くだん)の猫を優しくなでながら、ふたたび陰陽師は口を開く。

    「他にも、3−2の人物に関する逸話として、平成27年栃木県の鬼怒川が氾濫した際の被災者が挙げられる」

    『那須の温泉街をふくめた鬼怒川流域で、多くの方々が被災した災害のことですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に、陰陽師は小さくうなずいて続ける。

    「被災の報を受け、各局のテレビレポーターが被災地の避難所に急行し、被災者へインタビューを行なっていたのは報道の常であるが、この地域の被災者の方々の沈着冷静、かつ、自らのことを二の次として他者を思いやる応答/態度に、“感銘”を通り越し、“違和感”に近い感覚があった」

    『避難所に避難した被災者と言えば、特に家族の安否がわからないような場合、泣き崩れたり、当局の対応の遅さや甘さを非難したりする人が多いと思いますが、そうした人々とはまったく異なる印象があったわけですね』

    そう問いかける青年に、陰陽師はうなずいて同意の意思を示してから続ける。

    「三日間に渡る一連の報道でインタビューに応じた被災者のほとんどが、非常時にこのような対応ができるものであろうか、と思うほどの模範的な応答を繰り返していたのじゃから、この対応の理由を探るべく、途中からその方々の属性を調べてみた」

    『まさか・・・』

    「そのまさかじゃ。鑑定の結果、老若男女の別なく、そのほとんどが3-2であることがわかったわけじゃが、その中でも、感情を抑えて話すひとりの老婦人の横顔を見ながら、これこそが3-2のなせる発言、と感銘を受けたことを昨日のことのように覚えておる」

    陰陽師の言葉に、青年は納得顔で何度もうなずいて見せる。
    そんな青年を横目に、陰陽師は説明を続ける。

    「次に第二期じゃが、魂2の特徴の一方がはっきりと顕現するという意味では、この時期が最もわかりやすい。人間にたとえれば41~60歳にあたるこの時期は、現世での円熟期に相当しているわけじゃが、魂1:“先導者”を除く各魂がこの世で各々の魂の特徴を最も明確に体現するのがこの時期となる。魂2を例にとるとすれば、軍隊の制服組幹部に参画するのもこの時期じゃし、我が国の防衛大学をみても、毎年の卒業生の少なくとも5割が魂2というわけじゃ」

    うなずいて納得の意を示す青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「また、第二期(2-2)の彼らは、福祉と軍隊という一見矛盾した職業分布を持っておるが、戦争というものを交戦現場の最前線という狭義の捉え方からもう少し広義の意味で考えてみると、納得のいく構図が見えてくるというくだりは、以前説明した通りじゃ」

    『以前(※第4話参照)説明していただいた、戦争のメカニズムの件ですね。話し合いによる二国間の問題の解決が困難になった場合に、最終手段として戦争が行われるという』

    「さよう。戦争が不可避となった場合でも、開戦に至るまでの諸手続き、具体的交戦方法とそれに対応する作戦立案、戦闘範囲の策定、そして、どのような状況をもって雌雄を決したかを判断する終結時期の確定と具体的な停戦/終戦方法の確定といった、実に広範囲の職務領域を軍隊の制服組幹部は持っておるわけじゃな」

    『実際の戦場で、命のやり取りの末、血に飢えた殺戮マシーンと化した魂3・4の軍人たちに、モチベーションを保たてつつ、婦女子を中心とした民間人に危害を加えさせないよう最大限の努力をする任務を負っているのも、現場の魂2の将校ということをお聞きしました』

    青年の説明に対し、陰陽師は小さくうなずき、付言する。

    「そのような状況の中、兵士の士気を鼓舞しつつ、戦況を有利に進めると同時に暴走は許さないという、まさに二律背反の難業に取り組むことこそが魂2の真骨頂というわけじゃな」

    『そして、福祉関係の有名人では、たしかナイチンゲールが魂2でしたね』

    ナイチンゲール

    「さよう。彼女の経歴なぞも、第二期の70回代の“大山”(2(7)-2)だからこそ可能な偉業というわけじゃな」

    『なるほど。とてもわかりやすいです』

    「最後は第一期の説明になるが、現世でも、老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。これらの特徴は、残り100回を切った貴族の流れをくむ1-2にもしっかり当てはまり、4-2に犯罪者が多いのと同様、性格的にエキセントリックというか、屈折した人間が多く輩出されている」

    『なるほど』

    「魂2の人々が正反対の顔を有する理由を考えるにあたり、彼らが貴族をルーツに持つということも大きな問題なのじゃろう。何しろ貴族とは、世襲を基本としたステータスである以上、そのすべてが人格者であるとは限らない。それどころか、数々の特権を盾にした彼らの傍若無人な振る舞いの実例は、中世・近代の歴史を振り返るかぎり、枚挙にいとまがない」

    『つまり、特権を人のために活かす貴族もいれば、自分の欲望のために活かして悪事を働く貴族もいたというわけですね。説明を聞くかぎり、魂2の輪廻転生は、現世的に考えても波瀾万丈という言葉が、正にぴったりですね。まるで、別の魂の属性の人物のような印象を受けます』

    「いつも説明しておるように、この世が“修行の場”である以上、そのような魂2の波乱万丈の輪廻転生の一つ一つを捉えて批判的なコメントを加えることは厳に慎むべきじゃが、頭が2の1-2なぞは、一見頭が2の2-4とクロスオーバーする部分が強く、3-2の時代のやさしさ、奥ゆかしさ、慈愛に満ちた雰囲気はどこに行ってしまったのかと思うほどの変貌を遂げしてしまうのも、また事実ではあるんじゃが」

    そんな陰陽師の言葉に対し、青年が一言一言言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。

    『つまり、そのあたりが、第一期と第四期の魂2の人物が“不動明王”としての側面を、第二期と第三期の魂2の人物が“観音”としての側面を顕現していることになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    そう陰陽師は言い、壁時計に目をやる。
    青年も、スマートフォンで現在時刻を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年は複雑な心境だった。仮に自分が植松被告と同じ魂の属性だったとして、運良く先生に会えたところで、天命が大量殺人事件を起こすこと、と言われて受け入れられるのだろうか?
    おそらく、自分の天命を果たすためとは言え、他人を手にかけることはできないと思う。今生の自分の天命の内容に感謝し、魂磨きの修行に励もうといっそう強く決意するのであった。

     

     

     

     

    帰宅後、どうしても確認したいことがあり、青年は陰陽師に電話をかけた。

    「どうした、こんな時間に。何かあったかの?」

    『いえ、そうではないのですが、先程鑑定していただいたノルウェー連続テロ事件の犯人、アンネシュ・ブレイビクについて、どうしても気になることが出てきてしまいまして。夜分遅くにすみませんが、ちょっと質問させていただいてもかまいませんでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。して、具体的にはどういったことを聞きたいのかの?」

    『彼は、単独犯としては現在世界最大の大量殺人事件を犯していますが、先祖霊の霊障にも天命運にも“5:事故/事件”の相がなかったのに、なぜあのような事件を起こしたのでしょうか?』

    「彼の場合、先祖霊の霊障と天命運に“17:天啓”があること、先祖霊の霊障に“3:精神”の相があること、そしてチャクラの6・7の乱れが要因と考えられる」

    『とおっしゃいますと?』

    「“17:天啓”の相は、天命とは異なる方向に人生を向かわせるよう“天”から何かが頭・心に降りてくるということは覚えておるな?」

    『はい。覚えています。17の相は魂1〜3の人物には“天啓”、魂4の人物には“憑依”となって現れます(例外的に魂1~3にも“憑依”の相が現れることがあります)。霊障のため、人生における判断を誤る結果となってしまう相だったかと。その相が大量殺人事件とどういった関係があるのでしょうか?』

    「そなたは、アンネシュ・ブレイビクが強烈なキリスト教原理主義者じゃったのを知っておるのか?」

    『いいえ、そこまでは』

    「原理主義者がどのようなものかは、ゆっくりと調べてもらうとして、彼が2009年から移民の受け入れを推進していた労働党へテロ事件を起こした根底には、反移民、反イスラーム主義思想があったと思われる」

    『移民の受け入れに反対していたことが動機ということは理解できなくもないですが、テロ活動を実行するまでのことなのでしょうか?』

    苦々しく問う青年に対し、陰陽師のいつもの穏やかな声が電話越しに返ってきた。

    「たしかに、キリスト教とイスラム教は、現在も聖地で争いを続けている。また、彼らが信仰する神が“聖戦”を望んでいると思うかな?」

    『いえ、そうは思いません。地上天国をこの世に実現させることには賛成しかねますが、どちらの宗教も、人民救済が目的であって、他者の命を奪うことは目的ではないはずです』

    「そなたの言う通りじゃ。つまり、彼の場合も、”天啓”の影響で何かが頭・心に降りたことで、彼の意志とは関係なく、本来のキリスト教の教義とも彼の天命ともかけ離れた方向に動いてしまったと考えるべき、とワシは思う」

    『ということは、“3:精神”の相と、第6・7チャクラの乱れが原因で、判断ミスがいっそう大きくなったとは考えられないでしょうか?』

    「彼が4(3)-2(転生回数が30回代)という数奇な人生を歩みやすい時期の魂であることも、あそこまで過激な事件になった原因なのじゃろうな」

    『”タリバン”や”ISS”といったイスラムの過激派じゃありませんが、いずれにしても、宗教の闇の一面を見た気がします』

    そう言い、小さく唸る青年に対し、いつもよりトーンが下がった陰陽師の声が、電話越しに返ってきた。

    「たしかに、宗教にはそういった一面があるのもたしかじゃが、ところが、この問題はイスラム教やキリスト教に限らず、我が国でも見られた現象で、天皇陛下を“現人神(あらひとがみ)”に祭り上げ、“八紘一宇(はっこういちう)”を旗印に先の大戦にのめり込んでいった歴史があることを忘れぬようにの」

    『なるほど。宗教に限らず、何事においても、一つのことに盲信することには様々な危険が隠されているということでしょうか?』

    「うむ。妄信の恐ろしさについて付言しておくと、韓国における新型コロナウイルスの集団感染の原因が、二箇所の(キリスト教系)新興宗教教団であったことも忘れてはならない。また、感染拡大を防ぐためにモスクの閉鎖を敢行したイスラム諸国においては、”このような時こそ神とともに”、”礼拝できないのであれば、コロナによる死を選ぶ”といった過激なスローガンが並んでいたそうじゃが、これなぞも宗教の“偏狭性”を示す典型的な事例なのじゃろう」

    『なるほど。彼らはウイルスが蔓延していても、神が助けてくれると思い込んでみたり、自分の命よりも礼拝する方が大事なのですね。宗教色の強い国ならではの事情のように感じます』

    「そのあたりの話は確かに程度の差はあるのじゃろうが、日本でも五十歩百歩じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「一例を挙げれば、先日もニュースで神社仏閣の狭い室内で”疫病退散”の神事を行なっている映像を見かけたが、ああいった催し事も、“ご利益”というよりは、集団感染の原因になりかねん危険な行為ということになる」

    『僕もその映像を見ました。あのような形だけの儀式では、コロナウイルスを退散させるどころか、自ら感染しに行っているようなものではないかと』

    「もちろん、こんな時期じゃ。何かにすがりたい気持ちもわからぬではないが、もしこれが“天”の意志であるとすれば、何をしたところで効果は期待できないわけじゃからのう」

    『そうですね。平安時代の末法思想に乗じて浄土教が広まったように、新型コロナウイルスをネタにする新興宗教教団に、人々がお金を収集されないことを願わずにはいられません』

    「そうじゃな。この時期、その手の話をしている人物や宗教団体には特に注意じゃぞ」

    『はい。僕も含め、“天啓”の相によって魂1〜3の人物が暴走しないことと、“憑依”の相がかかっている自称預言者や占い師によって惑わされる人物が一人でも少ないことを願うばかりです』

    「その通りじゃな」

    静かな陰陽師の声が、電話口から流れ込んだ。

    「あとはどうじゃ。まだ他に聞きたいことはあるかの?」

    『いえ、大丈夫です。おかげさまで今回の疑問はすべて解決しました。遅い時間にありがとうございました』

    「どういたしまして。おやすみ」

    その言葉を最後に、電話は切れた。

  • 新千夜一夜物語 第26話:芸能界から排除されそうなプロデューサー

    新千夜一夜物語 第26話:芸能界から排除されそうなプロデューサー

    青年は思議していた。

    スポーツ・芸能・芸術の世界において天から排除命令が出るとして、スカウトマンやプロデューサーと出会わなければ、排除命令によって過去にこの世を去った偉人たちは、別の職業で長生きできたかもしれない。

    彼ら/彼女らの人生を大きく狂わせたと言っても過言ではない、スカウトマンやプロデューサーたちにも、排除命令の余波のような影響が当然あってもおかしくないのではないか。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は芸能界の排除命令について、もう一度教えていただけませんか?』

    「そなたはそのテーマに関して、随分と熱心じゃな。して、今日は具体的にどのようなことを知りたいのかな?」

    『排除命令に該当する人物の運命を、別の人物が代わりに引き受けるなんてことはあるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲んでから口を開いた。

    「ワシは芸能界にほとんど興味がないので、実例を何件も探し当てたわけではないが、答えとしてはYESじゃ」

    『まさか、本当にそんな人物がいるとは! いったいどなたなのでしょうか?』

    身を乗り出す青年を片手で制し、陰陽師は答えた。

    「知っておるのは一人だけじゃが、元シャ乱Qのつんくじゃ」

    そう言い、陰陽師は席を立って鍵のかかった引き出しから書類の束を持ってきた。
    陰陽師が書類をめくる様子を眺めながら、青年は問いかける。

    『つんくということは・・・彼が咽頭癌で声帯を失ったのは、モーニング娘。のメンバーの誰かが排除されるのを阻止した結果ということなのですね?』

    「というよりも、モーニング娘。は、彼がプロデューサーをしていたわけだから、彼がいなければ世に出なかったグループということになる。もちろん、彼自身は芸能界に適した魂の属性なのじゃが、オーディションであまりに多くの3(9)-3を選びすぎた。おそらくこれほどの3(9)-3芸能界に送り込んだプロデューサは彼をおいて他におらんじゃろう」

    そう言い、陰陽師は一枚の紙を青年の前に差し出す。

    つんく

    鑑定結果を一通り眺めた後、青年は口を開く。

    『ということは、他のアイドルグループに比べ、モーニング娘。のメンバーには3(9)−3の人物が多いのでしょうか?』

    青年の問いに陰陽師は首肯してみせ、続ける。

    「さらに、つんくには作詩・作曲家・歌手という側面もあるが、モーニング娘。のみならず、グループを卒業した個人にまで延々と作詞・作曲を提供し続けていたことも考え合わせると、あの悲劇も致し方ないといえば致し方ないじゃろうな」

    『つまり、本来であればアイドルとして芸能界で活躍すべきでなかった3(9)−3の彼女らを芸能界へ送り込んでしまった責任がそれだけ重かったと。それに、彼には天命運に“4:病気/怪我”の相がありますし』

    テーブルの上に広げられた何枚かの紙を見つめながら、青年が悲痛な声を絞り出し、その言葉に陰陽師はうなずいて見せた。

    後藤真希

    市井紗耶香

    安田圭

    安倍なつみ

    全員の鑑定結果にもう一度目を落とした後で、青年は再び口を開いた。

    『この結果を見て思い出しましたが、“プッチモニ“は第一期のメンバーが後藤真希と市井紗耶香と安田圭で、第二期のメンバーは市井紗耶香が脱退した後に吉澤ひとみが加入したので、3(9)−3のためのグループだったといっても問題ないですね』

    「もちろん、つんくに霊能力がないわけじゃから、これらの事態は不可抗力だとしても、人数が多すぎる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてみせ、口を開く。

    吉澤ひとみ

    『吉澤ひとみは2018年に信号無視・飲酒ひき逃げ事件を起こしてましたが、天命運の“5:一般・事故・加害者・怪我”に納得です。ちなみに、当時は“ハロー!プロジェクト”のまとめ役という重要なポジションだったようですが、この事件が排除命令なのでしょうね』

    「彼女がこの事件を契機として芸能界を引退するといっておるようじゃから、あるいはそうかもしれんな」

    『あと、タンポポには石川梨華と加護亜依がいましたね。加護亜依と辻希美は似ている部分があったのでその当時から比較されていましたが、モーニング娘。を卒業した後の明暗は本当に大きく分かれてしまった感があります』

    「辻希美は恋愛運が高く、異性絡みの相がなかったために幸せな結婚生活を送っているようじゃが(※第22話参照)、加護亜依はその後どうなっておるのかな?」

    陰陽師に問われ、青年はスマートフォンを操作しつつ答える。

    『加護亜依はママタレとして復帰したものの、2019年に薬物疑惑による影響があってか、所属事務所との契約が解除されたようです」

    「なるほど。おそらくそれも排除命令の一つじゃろうな」

    加護亜依

    石川梨華

    青年はなおも子細に鑑定結果を見比べた後、ふたたび口を開いた。

    『ちなみに、モーニング娘。の現役のメンバーで排除命令に該当している人物はいるのでしょうか?』

    「では、さっそく鑑定してみるとするかの」

    青年が読み上げる現役メンバーの名前に耳を傾けながら、陰陽師はその内のひとりの人物の名前と鑑定結果を書き記していく。

    石田亜佑美

    その人物の経歴をスマートフォンで検索した後、青年は口を開く。

    『石田亜佑美は小学3年生から東北ゴールデンエンジェルスJr.チアリーダーズとして活動し、モーニング娘。に加入する前からバックダンサーとしていろんなイベントに出演していたようですし、2018年12月31日からモーニング娘。のサブリーダーに就任するなど、これまでの経歴は順風満帆なようですね』

    「ということは、まだ排除命令が出ていないことになるが、このままいくといつ何時、何が起こっても不思議ではないかもしれん」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は鑑定結果に目を通してから口を開く。

    『天命運の“4:病気”の相と健康運が7という鑑定結果から、病気にかかってしまうのではないでしょうか?』

    苦虫を噛みつぶしたような顔で言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。

    「石田亜佑美が排除されるか、このまま彼女の起用を続けるプロデューサーが身代わりで何らかのペナルティを受けるか、いずれにしてもただではすまん感じじゃな」

    『ところで、AKBを始めとする多くのアイドルをプロデュースしている秋元康はどうでしょう。彼は大丈夫なのでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲み、秋元康の鑑定結果を書き記していく。
    青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師はようやく口を開いた。

    「未来のことは何とも言えんが、秋元康も危ういかもしれんな」

    秋元康

    青年は鑑定結果を見、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『秋元康自身は芸能人ではないわけですから、属性はこれでいいのでしょうが、問題は彼がプロデュースしているAKBを中心としたグループにあると』

    そう言い、青年はお手上げをしてそのまま後頭部に両手をそえる。

    「もちろん、彼がプロデュースするグループのすべてをみたわけではないが、AKBをはじめとして、代表的なグループ、その主要メンバーはみな2−3−5−5…2じゃったことから、こちらは問題ないと思う。問題は、最近プロデュースしたグループのメンバーの中に」

    『3(9)-3がいると?』

    「さよう」

    『で、なんというグループですか?』

    「詳細はわからんから、彼がプロデュースしているグループ名を挙げてくれんか?」

    青年は早速スマートフォンで当該のグループの検索を始め、検索結果を読み上げ始める。

    「それじゃ。そのラストアイドルという名前じゃったな」

    『“兼任OK”、“14〜26歳”、“どこの事務所でもOK”という、多くの人物に門戸が開かれたアイドルグループ、“ラストアイドル”、これですね。この中のメンバーは・・・』

    青年は再びスマートフォンを操作し、メンバーの名前を読み上げる。

    「テレビか雑誌で見かけた程度じゃから、名前だけでなく顔写真も見せてもらえるかの?」

    青年は黙ってうなずき、スマートフォンを陰陽師に渡す。
    陰陽師は慣れない手つきでスマートフォンの画面をスワイプし、該当の画面を眺めては鑑定結果を書き記していく。

    阿部菜々実

    西村歩乃果

    青年が鑑定結果を見終わった頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「今後考えられることとして、この二人が問題を起こして排除されるか、あるいは秋元康が二人を庇護することで、代わりになんらかの問題を起こす可能性のどちらかじゃろうな」

    『鑑定結果を見る限り、特に天命運に“5:一般・事件・加害者”の相がある西村歩乃果が何らかの事件を起こす可能性が高そうですね』

    陰陽師は小さくうなずくのを確認し、青年は続ける。

    『彼女の場合、元々は美容師として裏方で働いていたところ、カワイイから表に出た方がいいと何度か言われ、いざオーディションに応募したら合格してしまったという経緯があるようです』

    「今後どうなるとしても、天命に沿った生き方という意味では、彼女はアイドルよりも、美容師として才能を発揮するべきなのじゃがのう」

    真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は微笑みながら言う。

    『天命運に“2:諸事万般”の相があることから、今の状況になっているのかもしれませんね』

    納得顔で頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「それと、忘れぬうちにもう一つ。秋元康本人なんじゃが、ワシが調べたかぎり、おびただしい数の作詞を、AKBを筆頭としたグループに提供しておるようじゃが、そちらの方がもっと気にかかるな」

    『つまり、歌の歌詞であったとしても、詩である以上、2-3-5-5…2ルールに抵触するわけですね?』

    「その通りじゃ」

    『ということは、先程の“ラストアイドル”の問題よりも、こちらの方がある意味、根深い問題だと?』

    「さよう」

    しばらく思案にふけてから、青年は再び口を開く。

    『天命運に“4:病気/怪我”もあることですし、秋元康がつんくのように大病を患わないことをただただ願うばかりです』

    無言でうなずく陰陽師に対し、ふたたび青年は問いかけた。

    『ちなみに、先生が今までに鑑定した中で、一番印象に残っている芸能人はどなたでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「強いて言うなら、辛坊治郎かな」

    『辛坊治郎といえば、今はあちこちでTVに出ているようですが、たしか元々はアナウンサーだったかと』

    「テレビであれラジオであれ、アナウンサーも立派に2−3−5−5・・・2のルールに含まれる職業ゆえ、3(9)-3である彼がいるべき場所ではないのじゃが、経歴が極めて特殊なことから、踏鞴(たたら)を踏みかねない状態ながら今日まで決定的な排除命令を受けていないということもできるのじゃが」

    陰陽師の答えに対し、青年は少し驚いた表情で言った。

    辛坊治郎

    「ざっと彼の経歴について調べてみたのじゃが、彼は大学4年次の就職活動で埼玉県庁の上級職試験に合格し、住友商事から内定を受けた。しかし、大学就職部の掲示板でフジテレビのリポーター・司会者(アナウンサー)募集に受験し、受験者1,300人から3名に絞られた7次選考の最終面接で落ちたが、12月に大阪の読売テレビから突然電話があり“フジテレビの最終で落ちたそうだが良かったら弊社を受けてみないか”と誘われて受験して合格した」

    『ある意味、すごい強運ですね』

    「読売テレビに入社後は地方リポーターを8年間担当し、1997年、アナウンサーから報道局に異動した。その後は報道部チーフプロデューサーへ就任し、同職と並行する形で“報道特捜プロジェクト“のキャスターや、関西ローカルの”元気モンTV””あさイチ!”でコメンテーターなどを担当しておる。2003年7月からそれまで特番だった『たかじんのそこまで言って委員会』がレギュラー昇格となり、やしきたかじんとともに司会を担当。2010年8月に、翌月末で読売テレビを退職して10月からシンクタンクの研究員になる旨が報道され、自身がキャスターを務める『朝生ワイドす・またん!』で記事を取り上げ本人も公表。退職後は自身が設立したシンクタンクである大阪綜合研究所へ移籍し、退職後も番組出演を続ける」

    『3(9)―3の“大々山”にふさわしい、多才な経歴ですね』

    「その後も、2016年4月から放送を開始した「直撃!コロシアム!!ズバッと!TV」で司会進行に大抜擢され、読売テレビ以外の番組で初めてレギュラーに選ばれた辛坊治郎の場合はさらに事態が重く、もはやグレーゾーンというよりはブラックゾーン真っ只中という感があった」

    『そんなに活躍しても決定的な排除命令が出されなかったことが、意外といえば意外です』

    感嘆の声を上げる青年に対し、陰陽師は小さく首を振ってから答える。

    「ところが事態はそれほど楽観的ではないんじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「まず手始めに、彼は2012年12月19日、大阪市内の病院で、十二指腸の腫瘍(後に初期の十二指腸癌と判明)を摘出している」

    『それはさすがに排除命令に抵触した感じがします・・・』

    「そして極めつけは、2013年6月に、全盲のヨットマン岩本光弘を補助し、福島県いわき市の小名浜港から2カ月の予定でアメリカ合衆国のカリフォルニア州サンディエゴを目指すも、6月21日に(国籍不明の潜水艦だという説が根強くあるが)クジラと思われる生物と衝突してヨットが浸水し、漂流。7時45分に118番通報したものの、10時間近く救難艇で漂流し、18時14分にようやく海上自衛隊の救難飛行艇に救助されておる」

    度重なる辛坊治郎の事故話を聞き、青年は言葉を失う。
    そんな青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「彼がいまだこの世の最終的な“排除命令”を受けていない理由として考えられるのは、大阪府を中心とした近畿地方の政治・経済・文化、およびアジア・太平洋地域における環境・観光・民族文化・経済開発についての研究・調査・およびそれを基とした講演活動などを行なっていたり、メディア研究の経験をもとに、様々な大学で客員教授を務めているからじゃと思われるのだが、いずれにしても細い塀の上を歩いているようなものじゃから、いつどうなるかは何とも言えん」

    『つまり、政治関係のキャスターだけでなく、それ以外の分野にも携わっているから、ということでしょうか?』

    「さよう。一般番組のMCなどに手を出すことなく、現在キャスターを務めている日本テレビ系“ウェークアップ!ぷらす”のような、自分の専門分野ともいえる番組に限定して活躍をすれば、排除されずに済むかもしれんがの」

    『そう願うばかりです』

    陰陽師の言葉に、深くうなずく青年。しばらく沈黙を守ったのち、ふたたび口を開く。

    『ちなみに、辛坊治郎以外に排除命令に該当するアナウンサーはいらっしゃるのでしょうか?』

    「いや、ワシが鑑定した古今東西の数百人におよぶアナウンサーの中では、2-3-5-5・・・2以外のアナウンサーは辛坊治郎以外、いまだ存在しておらぬ」

    『なるほど。それだけの数の方々をみられているとすれば、問題のある人間はほとんどいないのでしょうね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて続ける。

    「実際、入社試験と霊能力を持たない面接官の数回にわたるスクリーニングだけで、古今東西のアナウンサーのほぼすべてが2-3-5-5・・・2であるという事実は、この世が偶然の結びつきだけでできてはいない、顕著な証左の一つなのじゃろうな」

    『辛坊治郎の経歴を鑑みるに、彼を採用しなかったフジテレビは“カミゴト”として“見る目があり”、彼にわざわざ声をかけ最終的に採用した読売テレビは“見る目がなかった”と言えそうですね』

    「そうじゃな。万が一、辛坊治郎にこれ以上の厄災が降りかかる事態が起こるとすれば、そもそも彼をこの世界に引き摺りこんだ読売テレビこそ、最大の責任者と言えなくもないからのお」

    青年は腕を組みながら苦笑し、口を開く。

    『読売テレビの今後が気になるところです・・・』

    「ところで、そなたは西川史子なる人物を知っておるかの?」

    『はい、整形外科医でありながら、ちょこちょこTVに出ている方ですよね?』

    「さよう」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「実は、彼女も辛坊治郎同様、かなり危険な道を歩んでおるひとりなんじゃ」

    『ということは西川史子も、2-3-5-5…2ではないと?』

    「もちろん彼女は医者なわけじゃから、3(9)-3の可能性が高いことはおぬしもわかるじゃろうが、詳しい話をする前に彼女の鑑定結果を出そう」

    西川史子

    鑑定結果を見た後、青年は口を開く。

    『西川史子は晩婚かつ結婚後しばらくして別居し、結局は離婚になったと記憶していますが、天命運に“8:異性”の相があることと恋愛運が3と低すぎる結果から納得できます』

    「話を聞く限り、そなたの言う通りじゃな」

    『彼女は元々が医者ですので、つい最近までレギュラーであったサンデージャポンで医学の話題がある時に限り、呼ばれていたようです。その後、飯島愛の芸能界引退に伴い、レギュラーとして出演し、結婚前は高飛車なキャラクターを活かしていじりキャラとして出演していましたが、いざ自身が結婚した後の結婚生活は散々だったため、いじられキャラに転落していました』

    「つまり、排除の圧力がとみに高まっていたというわけじゃな」

    青年はスマートフォンを操作していた手を止め、口を開く。

    『調べたところ、西川史子は2020年3月22日にサンデージャポンを卒業したようですね』

    「卒業も排除命令の一つと思われるが、ワシが知る限りでは病気を患っていたと思うが、そのあたりの情報はあるかの?」

    陰陽師の問いに青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作して口を開く。

    『2016年、2017年と胃腸炎で入院していたそうですが、こうした出来事も排除命令の一つかもしれませんね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「今回は胃腸炎で済んだが、今後はどうなるかわからん。ちなみに、西川史子がサンデージャポンを卒業した経緯についてはわかるかの?」

    しばらくスマートフォンを操作したのち、青年は口を開く。

    『今後も芸能活動を続けたい、テレビが大好きでたまにはゲストとして呼んでもらいたいと言っていたことから、本人の意思ではなさそうですね』

    「であれば、排除命令に抵触した可能性が高いじゃろうな。彼女の場合、あくまでも医師に基軸を置きながら芸能活動をしていたために命までは取られずに済んだと思われるわけじゃから、今後その比重をさらに医学側にかけて、細々と芸能活動を続けるのであれば、これ以上の問題を避けることができるかもしれんがのう」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は納得顔で何度もうなずきながら答える。

    『先生のおっしゃる通り、どうしても芸能界に未練があるというのであれば、無事でいられる形で活動を続けていただきたいものです』

    「話題に挙がったからついでに話をしておくと、サンデージャポンでの西川史子の前任であった飯島愛も3(9)―3じゃったんじゃ」

    青年は目を見開き、手早くスマートフォンを操作した後、口を開く。

    『飯島愛は2007年3月に“夢や目標が見出せず、芸能界で生き残っていくことは不可能”として引退表明をしていますが、腎臓病(腎盂炎)が原因とも言われています』

    「彼女は3(9)−3ゆえ、本来は理科系で医者にもなれたはずじゃが、彼女が医師を目指そうと思った時には、年齢的に遅すぎたのかもしれん。他にも、精神的にいろいろあったようじゃしな」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、口を開く。

    『飯島愛は2008年12月17日前後に自宅で肺炎によって亡くなり、24日に親戚の女性によって発見されたとのですが、室内の暖房が点いたままだったため、遺体は腐乱していたようです』

    「“日本のモンロー”とも言わしめた彼女としては、筆舌に尽くしがたい最期というわけじゃな。西川史子も、あのまま番組の出演を続けていたら、ひょっとしたら同じ様な結末を迎えていた可能性もなきしもあらずなわけじゃから、不思議な縁といえば不思議な縁ということができるじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は視線を落とし、重々しく口を開く。

    『飯島愛、西川史子と続いたことから、サンデージャポンには3(9)―3枠があるような気がしてきましたが、今後のレギュラー出演者の魂の属性はどうなることやら・・・。今後は排除命令に抵触する人物が採用されないことを願うばかりです』

    「ワシも同感じゃ。あるいは、西川史子の後釜となる人物が3(9)−3になったとして、今度は番組のプロデューサーが身代わりとなって何らかのペナルティを負ってしまう可能性も考えられるしな」

    そう言うと、陰陽師は壁時計に目をやる。
    それに気づいた青年は、スマートフォンで現在時刻を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、スポーツ・芸能・芸術の世界に縁がある人との関わりを、少しずつでも増やしていこうと思う青年だった。

  • 新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    青年は思議していた。

    スポーツ・芸能・芸術の世界において天から排除命令が出るならば、排除命令に該当する人物に鑑定結果と排除命令について伝え、事前に別の生き方を選んでもらうことはできるのではないか。

    命を落とす可能性もなきにしもあらず、特に若手や業界歴が短い人物にこそ、早めに伝えておいた方がよいだろう。

    突然そんな話を伝えても聞く耳を持ってもらえないかもしれないが、過去の偉人の例を伝え、説得するだけの材料があれば少しは耳を傾けてもらえるかもしれない。

    そう思い、青年は再び陰陽師の元を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は今後排除されてしまいそうな人物について教えていただけませんか?』

    「その話題について話すことはやぶさかではないが、いったいなにゆえに?」

    『若手や業界歴が短い人物の中で、何らかの問題を引き起こす、あるいは巻き込まれる前に防げたらいいのではと思いまして、排除命令に該当する魂の属性の人物をご存知でしたら、教えていただきたいと思ったのです』

    「本人たちに話したところで、到底納得してもらえる内容ではないと思うが、それでも知りたいのじゃな?」

    念を押す陰陽師に対し、真剣な表情でうなずく青年。
    青年の意思を感じた陰陽師は、小さくうなずいてから口を開く。

    「本題に入る前に、スポーツ・芸能・芸術の世界の厳然なルールについて、そなたの口からもう一度説明してもらえるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『上記の世界で活躍できる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:ビジネスマンであり、基本的気質と具体的性格の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します。また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する魂の属性となります』

    「なかなかよく整理されているようじゃが、大事なことをあと一つ忘れてないかな?」

    『そうでした。一部の例外として、オネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物の場合、転生回数だけが230回代すなわち“数奇な人生を歩む”属性となります』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうにうなずく。
    陰陽師の様子を確認し、青年は続ける。

    『排除命令というのは、“2−3−5−5…2”以外の魂の属性の人物が上記の業界に入ってしまった場合、何らかの事件・事故を引き起こしたり、巻き込まれることで業界から追放されてしまう現象を示しています』

    「で、排除命令に該当する例として、どのような魂の属性がおるか、覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7・・・2や2(4)―3−5−5・・・1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます。具体例としては、前者は藤圭子さん、後者はピエール瀧さんと、以前鑑定結果を教えていただいた記憶があります』

    「うむ、2-3-5-5…2ルールをなかなかよく勉強しておるようじゃな」

    微笑みながら言う陰陽師を見、青年は安堵のため息をもらす。
    そんな青年に対して小さく笑ってから、陰陽師は口を開いた。

    「で、具体的に新たに気になる人物に心当たりがあるのかな?」

    青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『若くして白血病が発症した、競泳のオリンピック選手として注目されている、池江璃花子選手はいかがなのでしょう。ルール的には大丈夫なのでしょうか?』

    青年の問いに陰陽師は無言でうなずいて見せ、鑑定結果を書き記していく。

    池江璃花子

    『なるほど。3(9)−3−5−5…“1”ということは、池江選手も・・・』

    その先の言葉を飲みこんだ青年の思いを察し、陰陽師は口を開く。

    「いくら未来が不確定じゃとしても、このまま彼女が選手として復帰するようなことがあれば、残念ながら、ふたたび病状が悪化してみたり、別の問題を起したりする可能性は高いじゃろうな」

    『天命運に“4:病気”の相がありますし、健康運が7と少し低いことを踏まえると、納得できます。ただ、7という数字は極端に低くはないと思いますので、これからの過ごし方次第で命を落とすことは避けられるのでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「もちろん、彼女が現役を退き指導者として水泳界に関わるという前提はあるが、そうしてくれさえすれば天寿を全うすることは可能じゃろう。彼女は、そもそも3(9)―3という“大々山”であることも含め、学業も大局的見地の数値も高いわけじゃから、指導者としてメダルを望める後進を育てる能力は高いはずじゃしのう」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を吐いて胸をなでおろす。

    『僕も彼女のファンでしたので、できることであればそのような道を歩んでもらえればと思います』

    「その通りじゃな。ワシも彼女の泳ぐ姿には少なからず勇気をもらったひとりとして、彼女には何とか天寿を全うしてほしいと思っておる。そのためにも、選手としての道をあきらめて指導者としての道を選んでくれること願うばかりじゃな」

    幾分気がかりそうな顔をしながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、小耳に挟んだ話では、池江選手はヒーリングを受けているようじゃが、施術者が誰なのか調べられるのかな?」

    陰陽師に問われ、すぐに青年はスマートフォンで検索を始める。

    『施術者はタレントのなべおさみです。彼の“ハンドパワー”なるものを受けているようですね』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は鑑定を始める。

    なべおさみ

    鑑定結果を見、青年は口を開く。

    『タレントだけに、やはり2(4)―3−5−5…2なのですね。しかも、“±7”の霊能持ちとは!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「鑑定結果を見る限りは、たしかにそれなりの霊能力はあるようじゃが、“カミゴト“にたずさわるためには少なくとも”±1〜3“であることが必須となることを、よもや忘れてはおるまいな?」

    陰陽師に問われ、青年はハッと息をのんで我に返る。そして、少し罰が悪そうな様子でおずおずと口を開く。

    『以前(※第3話参照)、説明していただいたことをすっかり忘れていました』
    記憶を辿った青年は真剣な表情になり、再び口を開く。

    『ということは、池江選手の天命運の“4:病気”の相も、第7チャクラの乱れもいまだ正常にはなっていないわけですね?』

    「残念ながら、その通りじゃ」

    言葉を失い、目を見開く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「なべおさみの場合、頭が1であることからいい方なのじゃろうが、残念ながら“この世とあの世の仕組み”といった問題に理解があるわけではないから、現役選手としてスポーツ界に留まることの方が、今回の病気以上に危険であるというアドバイスをしてくれるわけでもないしのう」

    『たしかにそうですね。目先の病気の回復に手を貸すことも大事でしょうが、それ以上に、その原因の芽を摘み取ることの方がはるかに重要ですからね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「出会いが“必然”である以上、池江選手が誰と出会い、どのような治療方法を選ぶかは、結局は彼女自身の問題なのじゃろう。しかし、できることであれば、これを機に彼女が選手をあきらめ、指導者としての道を歩んでくれることを祈るばかりじゃな」

    『僕もそう願っています。ちなみに、他に日本を代表する人気スポーツであるプロ野球選手と大相撲力士の主なところをリストアップしてきましたが、この中に今後排除命令の対象となるか、鑑定していただいてもよろしいでしょうか?』

    陰陽師がうなずくのを確認し、青年はスマートフォンを操作してスポーツ選手の名前を読み上げる。
    途中、陰陽師が片手をあげるのを視認し、青年は口を閉じた。

    「そなたが挙げた中では、角界の遠藤関とヤクルトスワローズの若き大砲、村上宗隆選手が該当するな」

    そう言うと、陰陽師は鑑定結果を書き始める。

    遠藤聖太

    鑑定結果を見、青年はスマートフォンを操作して口を開く。

    『ネットで確認すると、遠藤関はお世話になっている周囲の人々に対して結婚報告をしていなかったことから、 “タニマチ”である人物の逆鱗に触れてしまったようですね。僕は相撲に詳しくありませんが、後援会の後押しがないと引退後に親方になることが難しいようです』

    「さよう。遠藤関の個人後援会である“藤の会”は、日本大学の理事長である“田中英寿”さん夫婦が中心となって発足したこともあり、上下関係に厳しく、筋を大事にする体育会系において、結婚の報告などをしなかったことは田中英寿さんの顔に泥を塗るようなものじゃろうな」

    『彼は結婚する前に、田中理事長の奥さんから紹介された女性と交際していたようですが、その女性と別れての結婚という経緯も踏まえると、裏切ったと思われてしまってもしかたないと思います』

    陰陽師は鑑定結果の一部に印をつけ、再び口を開く。

    「今回の件で遠藤関が角界から退場させられることはないが、このまま力士を続けていると今まで以上の怪我をしてみたり、重篤な病気にかかる可能性が今まで以上に高くなるじゃろうな」

    青年はスマートフォンを操作し、遠藤関の経歴を調べ、読み上げる。

    『彼は日大4年次に団体戦の主将を務め、さらには個人戦で全日本相撲選手権大会優勝(アマチュア横綱)および国体相撲成年個人の部A優勝(国体横綱)という2つのビッグタイトルを取得したことにより、市原孝行(後の幕内力士)以来史上2人目となる幕下10枚目格付出の資格を取得したようです』

    「たしかに入幕当初は、久しぶりの日本人の大関・横綱候補と言われておったわけじゃしのう」

    そう言う陰陽師に対し、青年は言葉を続ける。

    『しかしながら、新入幕の9月場所12日目の德勝龍戦で左足首を負傷してしまったようです。皆勤すれば三賞を受賞する可能性もあると言われていたようですが、13日目の栃煌山戦で患部をさらに悪化させてしまい、“左足関節捻挫で約3週間の安静加療を要する見込み”との診断を受け、14日目から途中休場したとのことです。場所後の秋巡業には参加したものの、申し合いには参加しないで軽い調整に留まり、さらに捻挫だけでなく剥離骨折、さらにはアキレス腱炎まで発覚したと』

    「健康運が7と少し低いことと、天命運の“4:病気/怪我”の相が現れておるとして、このあたりから“排除命令”が出ていたのかもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉をひそめ、暗い表情で続ける。

    『その後、2015年3月場所では初日に豊ノ島に破れた後は4連勝と好調だったようですが、5日目の松鳳山との一番に突き落としで勝利した際、左膝半月板損傷・前十字靱帯損傷の重傷を負ってしまい、休場を余儀なくされたとのことです』

    ますます表情が暗くなる青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「遠藤関も池江選手同様に排除命令に抵触していることは確かなわけじゃから、五体満足、健康体でいる内に、別の人生を模索してもらえたらとは思うがの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は神妙な表情でうなずく。

    『次は、村上宗隆選手の鑑定結果をお願いします』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずき、筆を進める。

    村上宗隆

    『彼の場合も、天命運に“4:病気/怪我”と“5:一般・事故・被害者”の相から、池江選手のように何か重病を患うか、交通事故などによって選手生命を脅かされるような怪我を負ってしまうのかもしれませんね』

    「それだけではなく、危険な箇所にデッドボールを受けたり、二塁ベースに滑り込んだ際に交錯して思わぬ大怪我を負ってしまう可能背なぞ考えればきりはないが、どのような形で排除されてしまうかは天のみぞ知る。その前に何とかなることを願うばかりじゃな」

    陰陽師は新しい紙を用意してから再び口を開く。

    「ところで、ものはついでじゃ。タレントでもモデルでも何でもかまわんが、その関連で何人か名前を挙げてもらえるかの?」

    陰陽師の依頼に青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作しながら、次々名前を列挙していくする。
    青年が挙げた人物を聞き、陰陽師は該当する人物の名前と鑑定結果を書き記していく。

    「今あげてもらった女性の中では、橋本梨菜とアンミカが3(9)-3じゃな」
    青年は口をつぐみ、結果が出るのを待った。

    橋本梨菜

    『橋本梨菜は7歳から子役でデビューしていたようですね。15歳になった2008年からアイドルユニットを結成していましたが、2014年に解散したようです。ひょっとして、この解散の出来事が排除命令と考えることができるのでしょうか?』

    「橋本梨菜は天命運に“2:諸事万般”の相があることから、アイドルユニットが解散した要因が排除命令か天命運の障害によるかは断言できぬが、3(9)―3である以上、遅かれ早かれ何らかの問題を起こして芸能界から排除されることは間違いあるまい」

    青年は黙ってうなずき、再び鑑定結果を見てから口を開く。

    アンミカ

    『アンミカは天命運に“4:病気”と“5:一般・事件・加害者”の相があり、恋愛運と健康運の数字が7と低いという鑑定結果から、異性関係のトラブルで精神的に病んでしまい、覚醒剤に手を出してしまうという予感がしています・・・』

    「もちろん、その可能性がまったくないとは言わぬが、何度も言うように、人生は様々な要因が複雑に重なり合ってできているわけじゃから、鑑定結果の一部の数字だけでの早合点は禁物じゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせ、口を開く。

    「今度は、男性陣で気になる人物を挙げてもらえるかの?」

    青年は陰陽師の言葉にうなずいて答え、名前を読み上げる。
    一通り青年が名前を読み上げたところ、陰陽師は鑑定結果を書きながら口を開く。

    『滝川英治、松重豊、“チャゲ&飛鳥”のASKAが該当者じゃな」

    滝川英治

    松重豊

    画像9

    『滝川英治は2017年ドラマ撮影中に自転車で転倒し、半身不随になってしまったようです。この出来事が排除命令だったと思いますが、最近、リハビリの成果があってパラスポーツ番組のMCとして復帰したようです』

    青年はそう言い、うかがうような視線を陰陽師に向ける。
    陰陽師は青年の思いを察し、小さくうなずいてから口を開く。

    「彼の人生には同情するが、パラスポーツ番組のMCも2-3-5-5…2ルールの範囲内であるわけじゃから、このままだと、また何かあるかも知れんな」

    『“孤独のグルメ”の主演である松重豊も、そうなのですね・・・』

    暗い表情でそう言う青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「以前(※第23話)も説明したが、槇原敬之のように芸能界に適した魂の属性の人物と、ASKAのように排除命令に該当している人物とでは、同じ覚醒剤関連の事件を起こしたとしても、その意味するところはまったく違う。後者の場合はあくまでも天からの采配であって、100%本人の意思で起こしてしまったわけではない、ということを覚えておくようにの」

    『たとえば、精神に異常をきたし、薬物に手を出さざるを得ないような状況に追い込まれていくというお話でしたね』

    そう言うと、青年はスマートフォンで現在時刻を確認する。

    『そろそろ時間ですね。本日も長い時間ありがとうございました』

    「うむ。こちらこそ、なかなか楽しい時間じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深く頭を下げて退室する。
    陰陽師は小さく手を振りながら、いつもの笑みで青年を見送った。

    道中、青年は鑑定結果を見た芸能人たちのことを思い返していた。
    彼ら・彼女らに芸能界から引退するように伝えたとして、多くの人が憧れる業界以外の道で幸せを感じられるのだろうか?

    芸能界に身を置いていた頃と比較して、生きがいややりがいを感じられなくなったり、嘆き悲しむ時もあるのではないか?

    しばらく考えた後、青年は神事を終えた今の人生がベストだと思っているため、無用の心配だと思い直した。

     

    《過去に排除命令の対象となった人物》

    音楽家のベートーベン、モーツァルト、歌手/ミュージシャンのエルビス・プレスリー、ジミ・ヘンドリックス、ジョン・レノン、ジャニス・ジョプリン、フレディ・マーキュリー(クイーンのボーカリスト)、マイケル・ジャクソン、坂本九、清水健太郎、田代まさし、尾崎豊、チャゲ&飛鳥のASKA、俳優の田宮二郎、大原麗子、松重豊、ファッションモデルのアンミカ、画家のゴッホ、エドヴァルド・ムンク、詩人のアルチュール・ランボー、小説家の芥川龍之介、太宰治、ノーベル文学賞受賞者の川端康成、ヘミングウェイ等々枚挙にいとまがない。

    一方、スポーツ界に目を転じてみても、東京オリンピック銅メダリストである円谷栄治、100メートル走金メダリストのジョイナー、昭和40年時代に“黒い霧事件”で球界を永久追放になった小川健太郎以下三人のプロ野球投手、清原和弘、力道山、サッカー界のレジェンド中田英寿、元横綱の朝青龍、現役選手としては、最近白血病を発症し話題となった水泳選手の池江瑠花子、元学生横綱で角界一のイケメンの遠藤、ヤクルトスワローズの若き大砲村上宗隆なども、皆3(9)-3-5-5・・・2である。

  • 新千夜一夜物語 第24話:前世の記憶と輪廻転生

    新千夜一夜物語 第24話:前世の記憶と輪廻転生

    青年は思議していた。

    SNSで偶然見かけた、前世の記憶を持つ少年についてである。
    彼が3歳の頃から語る前世の内容は詳細でブレがなく、それを信じた母親がSNSを使って拡散していた。
    前世の記憶は本当にあるのだろうか?
    それとも、なんらかの霊障が関係しているのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は前世の記憶について教えていただけませんか?』

    「前世の記憶とな。また壮大なテーマじゃが、今回はどんなきっかけがあったのかの?」

    青年は前世の記憶を持つ少年と、情報を発信している彼の母親について、陰陽師に説明した。
    陰陽師は、青年の話に耳を傾けながら、鑑定結果を紙に書き記し終わると、口を開いた。

    「話をする前に、以前ワシが説明したこの世とあの世の仕組みについて、もう一度復唱してもらえるかな?」

    陰陽師に問われ、青年は一点を見つめて記憶を辿るようにゆっくりと話しだす。

    『この世は魂磨きのための修行の場であり、どの魂も例外なく400回の輪廻転生を繰り返します。肉体を離れる、すなわちあの世へ無事に帰還した魂はあの世にある魂の本体である”大御霊”の元に戻り、”大御霊”と合体し、この世の時間で換算すると28年間休息します。同時に、今世の振り返りと反省を行ない、次回の魂磨きの計画を立てます』

    陰陽師が黙って首肯するのを確認し、青年は続ける。

    『そのような輪廻転生を400回繰り返したのち、魂は永遠の生命を獲得し、三次元、四次元をコントロールしているセントラルサンの元で各々の役割に応じた任務を果たすという認識をしています』

    「うむ、最近は、なかなかよく勉強しているようで、知識もしっかり体系化されてきたようじゃな」

    青年の回答に満足そうな笑みを浮かべながら、陰陽師は言葉をつづけた。

    「そなたの説明に一つだけつけ足しておくと、魂が肉体を離れる際に、この世に何らかの執着を残し、あの世に戻ることを躊躇していると、あの世に帰りそびれ地縛霊となってしまう。そして、そのような経緯であの世に戻れなくなった魂は、地縛霊となって子孫にかかったり、子孫がいない場合は土地や会社、あるいはそれらに帰属する赤の他人にかかる以外手立てがなくなってしまうことは以前説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は黙ってうなずいてみせる。

    「それを踏まえて、鑑定結果をみてもらうと、このような結果になる」

    前世の記憶を持つ少年

    スクリーンショット 2020-03-08 17.13.54

    青年はしばらく鑑定結果を眺めていたが、やがて眉をひそめて口を開いた。

    『前世の記憶を明確に持っているということでしたので、この少年は“霊能力”持ち(±*)かと思っていましたが、ただの“霊媒体質”(−1)なのですね。しかも2−4、転生回数が第二期(201〜300回)の魂4ですから、鑑定結果を見る限り、この少年の妄言という印象が強くなりました』

    結果を知ってからというもの、辛辣な物言いに変わる青年。
    そんな青年を、陰陽師は片手で制してなだめる。

    「ちなみに、そなたは“霊能力”にどんな種類があるか知っておるかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年は苦笑いをしながら首を左右に振る。

    「一般的な霊能力(神通力)の分類としては、天眼通力、天耳通力、自他通力、運命通力、宿命通力、漏尽通力という種類があるとされている」

    『一口に霊能力といっても、6種類もあるのですね』

    青年の言葉に陰陽師は首肯して答える。

    「中でも、“宿命通力”とはその人がどういう天命を持って生まれてきたのか、何故こういう運命になったのかという、前世・今世・来世のことがわかる能力のことなのじゃが、仮にこの少年が霊能力を持っているとするなら、これに該当することになる」

    『しかし、鑑定結果から判断する限り、少年は“霊能力”持ちではないと・・・』

    顔をしかめながら言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「話を進める前に、ほかの霊能力について一通り説明しておくと、“天眼通力”とは、相手が何をしているか、将来はどうなるか、それらを神様が霊眼で見せてくれることを言う。“天耳通力”とは、耳で神の意図がキャッチできたり、心霊と話ができたりする能力のこととなる」

    『人間の視覚と聴覚が進化した印象ですね』

    「ただし、超能力と霊能力の違いは、超能力が人間の五感をさらにパワーアップさせたものであるのに対し、霊能力とは、超能力と一部かぶる部分もあるにはあるが、一般の人間には見えない世界に対応する能力と理解するとわかりやすい」

    『なるほど。たとえば“遠視”が単に遠くが見えることだとすると、“天眼通力”は物質的な世界を超えたものなのですね』

    「端的に言うと、そういうことじゃな」

    青年の言葉に陰陽師は小さく頷いて見せ、続ける。

    「次の“自他通力”とは、読心術のことであり、相手の思っていることがすぐ読めるという能力のことじゃ。“黙って座れば、ピタリとあたる”という易者などが、その典型的な例じゃな。そして、“運命通力”とは、運命を予知する能力で、以前こういうことがあったとか、この先こういう時期にこういうことがあるであろうということがわかる能力のこととなる。簡単に言えば、人間の過去世や未来が見える能力のことじゃな」

    『“12:読心・暴力衝動/諸事に支障(物)”と“13:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)”、どうでもいい場面では人の心が読めたり、予知できるものの、大事な場面では外してしまうという霊障と混同されそうな能力ですね』

    青年は眉を潜め、口を挟む。

    「12・13がタヌキやキツネにとり憑かれる状態だとすれば、こちらはそれの正常版というところじゃな」

    対して、陰陽師は小さく笑いながら続ける。

    「そして最後の“漏尽通力”じゃが、これは人の悩み、苦しみ、人生上の様々な問題を(今世の宿題と抵触しない程度に)解決する能力のことで、漏尽とは漏れなく尽くすという意味となり、人間の問題点、苦しみを漏れなく尽くして解決し、幸せに導く能力と言うこともできるじゃろう」

    『なるほど、この六つが俗にいう霊能力(神通力)なのですね』

    青年は陰陽師の説明に小さく頷くと、言葉を続ける。

    『この六つの霊能力の中で、先生の“霊能力”は“漏尽通力”がもっとも近い印象です。救霊はもちろん、Yes/Noで僕たちの質問に答えてくださっていますので』

    「ただし、これらの説明は古来からの“分類”がそうなっているという話をしたまでのことで、ワシら霊能力者の間では、天眼通力、天耳通力、自他通力、漏尽通力の存在を認めるものが多い反面、運命通力、宿命通力の存在については懐疑的な意見を持つ者がかなり多いのが実情となる」

    『とおっしゃいますと?』

    「まあ、そう話の先を急ぐでない。まず、そなたなりの推論を聞かせてもらいながら、おいおいそのあたりについても説明していくとしよう」

    陰陽師はいつもの笑みをたたえながら、青年に先を促す。

    『では話を元に戻しますが、少年は転生回数の十の位が“30回代”ですから、前世の記憶を持って産まれてくるという数奇な運命を抱えて転生してきたと考えることもできると思います』

    自分に言い聞かせるように青年は言葉を止め、再び口を開く。

    『とは言え、天命運の“3:精神”の相、先祖霊の霊障と天命運の“17:憑依”の相、そして、魂の属性が3で霊媒体質が最も強い(-1)という特徴を踏まえると、この少年の場合、霊障の影響が強く出る体質と思われます。つまり、キツネやタヌキといった動物霊が憑依しているのではないのかと』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「ここまでは、そなたの推理は大筋で当たっておろうと思う。じゃが、今回の一件は母親の魂の属性にも言及する必要があると思うが、そのあたりはどのように考えるかの?」

    今世の母親

    スクリーンショット 2020-03-08 17.26.03

    青年は両者の鑑定結果を見比べながら、口を開く。

    『母親の鑑定結果をみるかぎり、先祖霊と天命運に障害はあるものの、“3:精神”も“17:天啓”といった相がないことから、現実離れした言動をする人物とは考えにくいと思います。また、頭が“1”で基本的気質や基本的性格が7−7という点も考慮しますと、至極真っ当な人物と思われます』

    青年の言葉に対し、小さくうなずいてから陰陽師は口を開く。

    「3(9)―3という魂の属性から判断するかぎり、母親は医師の可能性が高い。また、医師となる人物は、そのほとんどが魂の属性“7”なのだが、この母親の場合はめずらしく魂の属性が“3”なんじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び鑑定結果を確認してから口を開く。

    『魂の属性が3ということは、先祖霊の霊障があり、見えない物事に対する理解・関心度が(+1)と高いわけで、前世の記憶といったスピリチュアル的なことにそれ相応の理解があり、そういった領域にも柔軟に対応できるハイブリッドな医師と考えて差しつかえないと思うのですが』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は説明を再開する。

    「そこまでの断定はできないとしても見えない物事に対する理解・関心があることは間違いないじゃろうから、息子さんの言葉を鵜呑みにしたというか、一定の疑義は持ちつつも最終的には受け入れてしまった可能性は否定できんかもしれんな。さらに言えば、この母親にとって、“親子間の相性”が10点満点中の1点であることから、この少年が親泣かせの子供である可能性もかなり高いと思われる」

    『仮に親御さんが医師であるとするなら、魂の属性7が基本の医学界では、今回のような前世の記憶などの発信をすると、異端視される心配すらありますよね』

    「うむ。患者の足が遠のく以外にも、お子さんの前世の記憶に関する問い合わせが増え、本来の職責とは関係ないところで多忙となる可能性も高くなるじゃろうしな』

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲み始める。
    青年は顎に手をあてて黙考していたが、やがて顔を上げて口を開いた。

    『ふと思ったのですが』

    「うむ?」

    足元にすり寄ってきた猫をなでながら、陰陽師は青年に先を促す。

    『あの世で今世の出来事を振り返るとしても、新たに転生するにあたりそのような記憶をリセットしてくるわけですから、前世の記憶を持っていることは極めてめずらしいことになりますよね?』

    青年の言葉を聞き、陰陽師はうなずく。青年は陰陽師の意図を察し、続ける。

    『あるいは、この世の宿題、天命を魂が潜在意識で知っているとするなら、この少年が語っている前世の光景は、過去の話ではなく今世の彼の天命、つまり将来起こることを予見しているのでは、とふと思ったのですが』

    「そのあたりは先程の運命通力と宿命通力の話にも関連するのじゃが、未来というものは、地球上にいる80億人以上の人間たちの一瞬一瞬の選択の積み重ねと、地震、津波、気温の急激な変動といった天変地異なぞが複雑に絡み合うことでできていることから、大まかな道筋はついているとしても、確定した未来などというものは存在しないことから、その可能性はまずないと思う」

    『ということは、人が死を迎えるにあたり、その結末は歩んできた道のり次第ということなのですね』

    「さよう。たとえば、3.11のような大災害で亡くなった人々を例にとると、彼らの大多数は、あのような大災害に巻き込まれて命を落とすことを納得した上でこの世に転生してきておる。傍(はた)から見ると志半ばで命を奪われたようにみえたとしても、実際に、地縛霊化する人間なぞほとんどいないのはそのような理由によるのじゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は目を見張ってから声色を高くして答える。

    『それはとても興味があるテーマですので、機会をあらためてゆっくりお話を伺いたいと思います』

    青年の言葉に陰陽師は首肯して答える。

    「で、話を戻すと、もう一つの可能性は、この少年が話す前世の記憶が、少年の前世ではなく他の人物の記憶という可能性じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    テーブルに飛び乗ってきた猫の頭をなで、微笑みながら陰陽師は口を開く。

    「地縛霊化した魂にかかる子孫がいない場合、土地や会社、あるいはそれらに帰属する赤の他人にかかることは先ほど説明した通りじゃが、稀に血脈(肉体の先祖)も霊統(魂の先祖)も土地や会社にもかかわりのない関係ない、文字通りの赤の他人にかかることがある」

    『つまり、救霊を願う地縛霊が、偶然縁もゆかりもない少年にかかってしまい、少年の口を介して生前の記憶を語っているというわけですね?』

    「実際、ワシのクライアントの中にも若干名、霊能力がないにもかかわらず、前世の記憶を持つ者がおるのじゃが、特に有名な事件や事故にかかわっている場合なぞ、彼らの語る前世を単なる妄言と済ますわけにはいかぬような歴史的な符号があったりする。しかもそれが当事者しか知りえぬ事象であった場合、深層心理の下にある記憶が何らかの拍子に表面化したものか、あるいは地縛霊など他人の記憶を拾ったものなのか、判別が非常に難しい。この少年の場合も、地縛霊がかかっていることからそのあたりの可能性を一概に否定することはできないと思う」

    『ということは、その地縛霊を祓ってみないかぎり、この少年の話が完全な妄言と断定することはできないと。逆説的な言い方をすれば、少年にかかっている地縛霊を救霊しさえすれば、彼の記憶が深層心理の下にあったものか、どこかの地縛霊の記憶かの判別ができると?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振って答える。

    「いや、話はそれほど単純ではないじゃろうな。というのも、少年の魂の属性や先祖霊の霊障と天命運とチャクラの問題等を総合的に勘案するかぎり、彼の話がすべて真実とは言い切れない面があまりにも多すぎる。よって、仮に神事をしたところで、新たに別の地縛霊の話を前世の記憶として話し始めてみたり、ここまで話を大きくしてしまった手前、今更前世の記憶の話が嘘だったともいえんじゃろうしのう」

    青年は再び腕を組んでうなってから、口を開く。

    『ただ、本当に前世の記憶を持っている可能性もある以上、少年の話が真実で、前世と関わりがあった人物と再会し、ハッピーエンドを迎えられれば、ベストであることは間違いありませんよね』

    「ことの真偽はともかくとして、その少年の言うことが真実であるのであれば、その通りじゃろうな」

    『そして、今後もこの少年が今世の母親を惑わせ続けるとしても、子供は親を選んで産まれてくる以上、今回の出来事が、この親子双方にとって魂磨きに必要な縁であることも間違いなのでしょうし』

    「この少年にかかっている地縛霊と我らの間になんらかの縁があるのであれば、いつの日か思いもかけぬ邂逅があるかも知れんしな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいて見せる。そして、時計に目をやり、口を開く。

    「いつの間にか夜も更けたようじゃ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。これからも勉強を続けます』

    そう言い、席を立って深く頭を下げる青年に対し、陰陽師は微笑みながら片手で別れの挨拶をする。

    帰路の途中、青年はいろんな人物のことを思い出していた。
    過去世が見える人、相手の寿命が見える人、未来が見える人、そのいずれも確たる根拠のない人々ばかりだった。結局、表立って異能をアピールする人の中に本物の霊能力者はほとんどいないのではないか?
    そんなことを思いながら、青年は一歩一歩歩を進めていった。

  • 新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    青年は思議していた。

    シンガーソングライターの槇原敬之さんが、覚醒剤所持により再び逮捕された事件についてである。

    スポーツ・芸能・芸術を生業にすることが許されているのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2に限られるという。だが、今世の運気が“大々山”である魂の属性が3(9)―3の人物が稀にそれらの世界に入ってしまうことがあり、その場合、この世の“排除命令”が出て退場させられるとも聞いた。

    では、槇原敬之さんはどちらの属性であるのか?
    今後、彼は芸能界に復帰できるのか?
    あるいは、“排除命令”によってこのまま芸能界から退場となってしまうのか?

    答えを確認すべく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は芸能界とこの世のルールについて教えていただけませんか?』

    「うむ、そのテーマか。して、何かきっかけとなる事件でもあったのかの?」

    『先日報道されました、槇原敬之さんが覚醒剤所持によって再逮捕された事件です。ひょっとして、彼はこの世の“排除命令”の対象となる属性ではないかと思ったのです』

    「その説明をする前に、そなたの理解している2-3-5-5・・・2のルールを復唱してもらえるかな?」

    青年はあごに手を当ててしばらく黙考した後、口を開く。

    『オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にできるのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2の人物に限られるというルールのことです。つまり、転生回数期が2期(201〜300回)で魂の種類が“3:ビジネスマン”、基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字が共に5、魂の特徴の最後の数字が2という属性のことです。例外として、“オネエ”や“ポルノ/AV女優”などの人物がこの世界に入ってきた人間は、時として2(3)-3-5-5・・・2のケースもあり得、代表的なところでは、マツコ・デラックスさん、デヴィ婦人、吉高由里子さん、橋本マナミさんなどがいらっしゃいます』

    黙ってうなずく陰陽師を見、青年は続ける。

    『ただし、運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2、すなわち転生回数が3期(101〜200回)で十の位が90回の人物が時としてスポーツ・芸能・芸術の世界に足を踏み入れることがあり、その場合は“排除命令”が出る、という認識をしています』

    「うむ、大方のところはしっかりと理解しているようじゃな。そなたの説明にあえてつけ加えるとすれば、いずれは排除命令が出てしまうが、1(7)−3−5−5・・・2、すなわち、転生回数が1期(301〜400回)で十の位が70回代という、運気が“大山”の人物も含まれること、こちらの場合はほぼ芸術に限られるということも忘れぬようにの」

    陰陽師の言葉をじゅうぶんに理解できなかったのか、青年はしばらく固まってから返答した。

    『・・・今更で恐縮ですが、もう一度だけ転生回数期について確認してもよろしいでしょうか?』

    「もちろん」

    微笑む陰陽師を見て青年は安堵のため息をつき、続ける。

    『この世は魂磨きのための修行の場であり、全ての魂は例外なく、400回輪廻転生します。転生回数期は400回の輪廻転生を100回ごとに分けたもので、人生における年齢のように、期によって特徴があると認識しています』

    「そなたの言葉につけ加えると、以下のようになる」

    青年の言葉を聞き、陰陽師は紙に各期と輪廻転生回数について書き記していく。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『“第一期”を頂点として数字が小さいほど転生回数が多く、“第四期”へ向けて数字が大きくなるほど転生回数が少ないことに注意が必要ですね。以前、転生回数が若い、第三期と第四期は基本的に理系で、第一期と第二期は基本的に文系とお聞きしましたが、期ごとにもう少し具体的な特徴はあるのでしょうか?』

    「もちろん。まずは第四期じゃが、各魂1〜4に共通する傾向として、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。また、物事の判断が極めて即物/短絡的という特徴を持っておる」

    『この世のことについてこれから学んでいくという意味では、人生でいうところの学生時代に該当するわけですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、続ける。

    「次の第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、とくに前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『なるほど。これから活躍の幅が広がっていく、勢いがある若手社員という感じですね。後半の運命の“大々山”である190回代に勢いがピークを迎え、世の中に革命をもたらす存在になると』

    「その通りじゃ。この“大々山”は、武士・武将問わず、魂3特有のものなのじゃが、平和賞・文学賞を除いた理系のノーベル賞を受賞するのは、アルベルト・アインシュタイン始め、すべて3(9)-3の時期の人間たちと決まっておる。医師も同様で、WHO、FDA、厚生省の役人や臨床分野や病院などの経営に携わっている1-1、2-3という少数の例外を除けば、医師のほとんどが3(9)-3となる」

    『つまり、3(9)-3は理系の大御所というわけですね!』

    「3(9)―3の活躍の場はそれだけにとどまらず、東証一部の上位400社に目を転じてみても、1(7)-1の松下幸之助を唯一の例外として、創業者はことごとく3(9)-3じゃ。さらに言えば、創業者が現役の社長であるソフトバンク、楽天、ジャパネットタカタ(現在は社長を退かれています)、ユニクロなどもその例に漏れない」

    『なるほど。研究の領域だけでなく、経済分野でも大活躍しているのですね』

    感嘆の声を漏らす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一つ飛ばして第一期じゃが、老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになるのじゃろうが、この法則を魂1~4にあてはめると、もっとも厄介なのが魂3ということになる」

    『ゲゲエ! そ、そうなのですか。1-3というと、精神的に成熟し、世の中の法則を理解した老師のようなイメージですが、実際は違うのでしょうか?』

    予想外のことを聞き、戸惑う青年。陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「その直前の第二期で芸能/芸術の世界で活躍した感受性・情念豊かな魂が、老年期を迎えて上記のような老年期特有の特徴を増幅させると、その言動と行動は往々にして一般人には理解不能なものとなる」

    『なんだか、“奇人・変人”みたいですね』

    冗談まじりに言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。

    「そのとおりじゃ。この世には“奇人”と“変人”という二種類の人種が存在するとして、“奇人”が、この世の常識的な中心線を理解したうえで、その中心線から一定の距離を置くことで自らのアイデンティティを主張しようとするのに対して、“変人”は、世の中の常識的な中心線を認識できない人間のことを指す。極端な言い方をしてしまえば、文字通りの“気狂い“ということになるのだが、当の本人が”まともな常識人である“と思い込んでいることから、周りの人間にとっては迷惑以外の何物でもなかったりする」

    『以前に鑑定を依頼しました、歩きながらぶつぶつ独り言を言っていた人物がそうでしたね』

    「あのケースは他にも色々と問題のある数字が連なっておったが、1-3に限っては、たとえ他の数字がまともだとしても、切れやすい、偏屈、へそ曲がりといった特徴を大なり小なり持っているから注意が必要なのじゃ」

    『なるほど。明日は我が身なのですね』

    「まあ、かなり遠い未来の話じゃが、残念ながらそなたも例外ではない」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「最後に第二期じゃが、人間にたとえれば41~60歳にあたるこの時期は、現世での円熟期に相当している。魂1:“先導者”を除く各魂がこの世で各々の特徴を最も顕在化させるのがこの時期で、魂3だけがスポーツ・芸能・芸術を生業にできるといっても、それが可能なのはこの時期だけなわけじゃ」

    『なるほど。そのような輪廻転生のメカニズムがあるからこそ、スポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できるのは2−3−5−5・・・2という、厳然なルールにつながるわけですね』

    「基本的気質と具体的性格を表す5-5という問題を捨象すれば、一部上場企業の標準的な役員構成なぞも、役員が20人いるとすれば、会長、社長を中心に1-1が1~2人、(3(9)-3と若干名の2-4という人間が例外的に1人か2人混じっていたとしても)残りはすべて2-3の人々ということになる。私企業から出発し、上場によって社会的公共性という側面を有したとは言え、利潤という責務を負った現場では熾烈な競争が日々繰り広げられる以上、トップである1-1の周りにはそのような人材が必要というわけじゃな」

    『以前、欧米の大企業や韓国の“財閥”などのトップのほとんどが2-3の人々で、“トップダウン”による意思決定が行われていると仰ってましたね』

    陰陽師は紙に三角形を描き、上下の矢印を付け足して続ける。

    「さよう。我が国では、元々聖職者である1-1が上場企業のトップを務めておることから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけるというよりも、多数決や満場一致を旨とすること圧倒的に多い。そのため、経営の意思決定形式としても、トップダウンより“ボトムアップ”という形になるくだりは以前に話した通りじゃ」

    『そのような意味では、“神の国日本”という表現は言い得て妙ですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「で、話をもとに戻すと、スポーツ・芸能・芸術の世界が、転生回数期が第二期の魂3:ビジネスマンの世界となることから、3(9)ー3のように転生回数が早過ぎても1(7)ー3のように遅過ぎても排除されるという、この世の厳然なルールが適用されるわけじゃな」

    『しかし、排除命令によって、実際どのようなことが起こるのでしょうか?』

    「それが起こる時期は人によりまちまちのようじゃが、遅かれ早かれ、病気、精神障害、事故、事件、犯罪などに巻き込まれ、最悪の場合はこの世そのものから排除されてしまうこともままある」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を飲む。しばらくして、重い口を開いた。

    『ということは、今回の槇原敬之さんのように、再犯を起こして芸能界から排除されたのも、天の采配なのでしょうか?』

    「その前に、槇原敬之さんを鑑定してみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師は小刻みに指を動かし、鑑定を始める。そして、青年が固唾を飲んで見守る中、紙に結果を書き記していく。

    スクリーンショット 2020-03-02 12.12.44

    『やはり、槇原敬之さんの魂の属性は、芸能界向きでしたか。おや?』

    鑑定結果をしばらく眺め、首を傾げながら再び青年は口を開く。

    『2―3ということは、彼は芸能界からの“排除命令”が出たわけではないのですね?』

    ちょっと驚いたような青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「少なくとも、今回の件はこの世の“排除命令”が働いたのではないようじゃな」

    『ということは、今回の件は、彼の自己責任というわけなのですね』

    「端的に言うとそういうことになるが、今回の再犯の要因をあえて挙げるとすれば、天命運の“5:事故/事件(加害者)”の相と“2:諸事万般”の相あたりが考えられなくはないが」

    『なるほど。話が少し脱線しますが、槇原敬之さんは同性愛者の疑惑があるそうで、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3と極端に低いことから、あながち間違いではないと思うのですが』

    「たしかに、恋愛運をみる限りその可能性はあながち否定できないと思うが、以前も話したように、鑑定結果の一部の数字だけで人を判断することには大きな危険を伴う」

    『そうでした! 気をつけます』

    罰が悪そうに答える青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいて見せる。

    『では話を元に戻しますが、槇原敬之さんの場合、芸能界に復帰できるチャンスがまだあると考えてもよろしいでしょうか? 人生のアップダウンが最大値の1でもありますから、おそらく、今のパフォーマンスのままではまた何らかの事件を起こしてしまうのかも知れませんが・・・』

    「もちろん、今までの芸能界の慣習に照らしてみるかぎり、彼の場合はミュージシャンなので復帰できる可能性は高いと思うが、人生のアップダウン度から推測するに、そなたの危惧はあながち的外れとは言えないじゃろうな」

    『僕は槇原敬之さんの歌で励まされたこともありますので、罪を償って、なんとか復帰してもらえたらと思います』

    「そうじゃな。罪を償う体験を経て、また新たな名曲が生まれないとも限らぬからのう」

    弱々しく言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら答える。

    『たとえばですが、芸能人を鑑定して転生回数が分かれば、今後復帰できるか否かがある程度わかるのでしょうか?』

    「いつも話しているように人間は“多面体”のようなものじゃから、全体の数字を精査しないと確定的なことは言えないが、少なくとも芸能界に話を限れば、2-3-5-5…2という数字さえ持っていれば、復帰することは構造的には不可能でもないとは思うが」

    『ちなみに、素朴な質問なのですが、3以外の魂はともかくとして、どうして3(9)-3-7-7や2(4)ー3-7-7では、これらの職業につけないのでしょう?』

    「7-7はこの世で仕事をするのに最も適した番号ということは説明したはずじゃが、5-5の場合も、オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にするにあたりもっとも適した番号という能力の持ち主であることを表してしているわけじゃ」

    「ということは、これらの業界ではおなじ3-3や2-3でも7-7の番号を持った人間は、オリンピック選手や、プロにはなれないということなのですね」

    「もちろん、3-3ー7ー7や2-3ー7ー7の中にもスポーツや音楽が得意なものは大勢いる。中学のインターハイあたりで優勝したり、幼いころから数種類の楽器を弾きこなす者もいることじゃろう。しかし、高校にあがり、2年、3年生となるにつれて5-5を持った人間に追い抜かれ、結局はプロにまで行きつかないわけじゃな」

    『なるほど。ということは、スポーツ選手や芸能人を鑑定すれば、7―7か5-5かという問題は当然のこととして、今後スポーツ界や芸能界から排除される運命の人物がわかるわけですね?』

    「もちろんじゃ。して、だれか気になる人物がおるのかの?」

    『少しお待ちください』

    青年はスマートフォンを操作して気になる有名人の名前を挙げ、陰陽師は鑑定を始める。

    陰陽師が書き記した結果を見、青年は驚きの声を上げた。

    スクリーンショット 2020-03-02 16.23.37

    スクリーンショット 2020-03-02 12.13.47

    スクリーンショット 2020-03-02 12.14.06

    『なるほど。この三人は、皆3(9)−3なのですね。そして、天命運に“5:事故/事件(加害者)”の相があると・・・』

    「田代まさしさんは、ちょうど音楽家として舞台に復帰しようとした矢先にこの世の“排除命令”が再び働き妨害が入り、あの事件が起きたのじゃろうな」

    『よりによってそんな時期だったとは。まさに排除された感じがします』

    目を見張る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他のふたりも含め、彼らは芸能界からの追放だけで済むのであれば、別の場所でその才を発揮して頑張るという選択肢も残されるのじゃろうが、懲りずに復帰を試みるようなことがあると、またどんな取り返しのつかない事態になるか、ワシにも想像がつかん」

    『最悪、命を落とす可能性もあるのですよね?』

    「もちろんじゃ」

    恐る恐る言う青年に対し、陰陽師は神妙な面持ちでうなずいて見せる。

    「さらに一言つけ加えておくと、天命運やチャクラの乱れによる影響があったとは言え、槇原敬之さんは自分の意思で薬物に手を出したことになる。一方、他の三人はあくまで“排除命令”によって薬物に手を出さざるを得ない状況に追い込まれた可能性が非常に高いということになるわけじゃな」

    『適切な表現かはわかりませんが、田代まさしさんと清原和博さんと沢尻エリカさんは運命の被害者とでも言うことになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『もしそうだとするなら、同じ薬物絡みの事件とは言え、同情してしまいます』

    青年は重いため息をつき、再び口を開く。

    『本人の才能や意志とは無関係に、時として非情な現実をもたらすのがこの世のルールだということは、今回の件でも十分に理解しました。現世利益を追求しながら生きることを否定するつもりはさらさらありませんが、自分の魂の属性を把握し、今世の役割を果たすことの大事さをあらためて再認識させられた次第です』

    「一見厳しい話になるかも知れんが、この世が“修行の場”であることをしっかりと理解していれば、いつの日か、自分なりに納得のいく結論を間違いなく見つけられるはずじゃ」

    暗い表情で話す青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。
    青年はスマートフォンの画面を見て時計を確認し、口を開く。

    『そろそろ時間ですね。本日もありがとうございました』

    「うむ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は深々と頭を下げて席を立ち、陰陽師は微笑みながら小さく手を振って彼を見送る。

    青年は帰路の途中、神事が済んでからのことを振り返っていた。
    もともと好奇心が旺盛だったために、いろんなイベントに参加していたものの、自分の天命と関係がないイベントでは得るものがほとんどなく、時間とお金を浪費してしまった実感があった。
    もちろん、イベントや参加者に非があるのではなく、今日の話を聞いて、自分が関わることもよく吟味する必要があると再確認したのだった。

  • 新千夜一夜物語 第22話:おしどり夫婦と恋愛運

    新千夜一夜物語 第22話:おしどり夫婦と恋愛運

    青年は思議していた。

    恋愛・結婚がうまくいかない人々に共通点があるならば、おしどり夫婦と呼ばれる人々にも何らかの共通点があるのではないか?
    もちろん、夫婦間で日常的に気をつけていることはあるだろうが、運気的な要素もあるのかもしれない。

    答えを確認すべく、青年は陰陽師を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はおしどり夫婦について教えていただけませんか?』

    「おしどり夫婦とは、ここ最近の暗い話題とは正反対の話題のようじゃが、今回はどうしておしどり夫婦なぞに関心を持ったのかの?」

    『先祖霊の霊障と天命運には“8:男女運”の相があり、自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなってしまう人がいることは、先日のお話でよく理解できました』

    青年は陰陽師が黙ってうなずくのを確認し、続ける。

    『また、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”ということも理解しました』

    「ふむ」

    『ということは、おしどり夫婦となる人々にも、運気的な共通点があるのではないかと思ったのです』

    「なるほど。で、おしどり夫婦に該当する具体的な夫婦がおるのかの?」
    青年は芸能人の名前を読み上げ、陰陽師は鑑定結果を書き記していく。

    ①唐沢寿明さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.35.30

    ②山口智子さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.36.11

    ③杉浦太陽さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.36.30

    ④辻希美さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.36.49

    ⑤木梨憲武さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.37.07

    ⑥安田成美さん

    スクリーンショット 2020-02-29 23.37.24

    『なんと言いますか、とてもわかりやすいですね。みなさん、先祖霊の霊障がなく、天命運に“8:男女運”の相もなく、恋愛運が最大値の9と。恋愛面に関しては正に非の打ち所がないですね』

    羨ましそうに言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「まあ、そう羨ましそうな顔をするでない。彼らの場合、芸能界にデビューし、視聴者に夢や感動を与えるにあたり、各々の伴侶が必要不可欠な“要素“だったのじゃよ」

    『そうですよね。全く縁がない人々ではありますが、円満な家庭を築いてくれることはとてもいいことだと思いますし、できることであれば僕も彼らにあやかりたいものです』

    「そういう意味では、そなたも既に先祖霊の霊障も天命運とチャクラの乱れも神事を済ませておるわけじゃから、天命を歩むにあたり、何も心配することはない状態なのじゃがのう」

    陰陽師の言葉を聞き、あらためて青年は自分の鑑定結果が記載された紙を取り出す。隅々まで眺めたところ、恋愛運の“6”という数字に気づき、驚きの声を上げる。

    『以前のお話では恋愛運が7以下の人同士で結婚すると離婚しやすいとのことでしたが、僕の結婚生活は大丈夫なのでしょうか?!』

    陰陽師は茶をゆっくり飲み、一呼吸置いてから口を開く。

    「非常に言いにくいが、そなたの場合、女性関係のトラブルが多い人生であることだけは疑いようがないのじゃ」

    『ゲゲエ! そんな馬鹿な。困ります。どうしたら恋愛運を上げられるのでしょう。どうにかしてください、お願いします!』

    珍しく、語気を強めて話す青年。陰陽師は片手で青年を制しながら口を開く。

    「そなたの気持ちはじゅうぶん理解するが、残念ながら、何人もそなたの今世の恋愛運を変えることはできぬのじゃ」

    『・・・つまり』

    「ワシの力をもってしても、今世はずっとそのままの点数ということじゃ」

    『・・・そんなあ』

    意気消沈し、顔を伏せる青年。そんな青年を眺めながら、陰陽師は諭すような口調で続ける。

    「この世には、結婚して出産し、幸せな家庭を築くことが人間の幸福、といった世間的な常識が存在するのかもしれんが、前回の渡辺和子さんやナイチンゲールさんのように(※第21話参照)、恋愛や結婚とは無縁なものの、多くの人に影響をあたえる使命を持った人物も実際に存在しておるわけじゃから、己が歩むべき道をこの世の価値観のみで判断するなぞ正に愚の骨頂じゃ。そなたの場合、400回ある人生の1回がたまたまそうなわけで、今までやこれからの人生では、そなたの希望に沿った結婚生活を送ることもあながち夢物語ではないはずじゃ」

    そんな慰めの言葉を受けて、しばらく黙考した後、青年は口を開く。

    『たしかに先生のおっしゃる通り、仮に幸せな結婚ができたとしても、大器晩成型(50歳〜)であるために子供が持てず、それでも幸せな結婚生活を送った人もいるわけですよね。それに』

    青年は少し身を乗り出し、続ける。

    『僕の場合、平穏無事な結婚生活よりも、複数の女性との様々なトラブルを繰り返すことで魂磨きと天命を全うするのであれば、それもそれで仕方ないと思います。そうしたことも含めて、全ての出来事を受け入れると決意したわけですから』

    悲壮な決意を込めた青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「今世のそなたは女性関係で苦労する運命なのだとしても、苦労する分だけ天の後押しを得られることは、たしかに事実じゃしな」

    『つまり、女性とのトラブルを通して学びを得る、それが僕の人生なのですね』

    「その通りじゃ。そなたの人生を端的に言うならば、前半の人生は女性との接点がなく、女性に恋い焦がれる人生。これからの半生は、女性と多数の接点ができるものの、その一つひとつが波乱含みということになる。とはいえ、それらの葛藤の中に学びがあるわけじゃから、来る者は拒まず、いや、積極的に女性との接点を求めることこそが、そなたの天命に沿った生き方なのじゃよ」

    『つまり、これからの僕の人生の宿題は、そんな女性問題の中にあると』

    「まあ、簡単に言ってしまうと、そういうことになる」

    『・・・わかりました』

    ちょっと恨めしそうな顔で陰陽師を見ながら、青年は気を取り直したように鑑定結果の紙を指差しながら続ける。

    『ちなみに、フジモンさんとユッキーナさんの夫婦(※第20話参照)だけ、共に魂3なのに転生回数が2期と3期で異なっていますが、240回代の“小山”と190回代の“大々山”の差が仲違いした主な要因になるのでしょうか?』

    「それも一つの可能性じゃが、そなたは木下優樹菜さんと安田成美さん(※⑥参照)の共通点を知っておるかな?」

    青年は無言で首を左右に振る。

    「この二人は揃って在日韓国人なのじゃが、木下優樹菜さんのケースは、アシアナ航空の創業者一族である“ナッツ姫”事件同様、権力を後ろ盾にした“勘違い”という韓国人の悪い側面が出てしまった典型的な事例ということができるじゃろう」

    『つまり、木下優樹菜さんが起こした例の“タピオカ恫喝事件”のことですね』

    「うむ」

    小さく一つ頷くと、陰陽師は鑑定結果が書かれた紙に、“朴”、“チョン・ソンミ”と書き足す。

    『なるほど。韓国人は怒ると手がつけられないが、それは情が深いからだという話を聞いたことがありますが、安田成美さんが木梨憲武さん(※⑤参照)とうまくいっているのは、逆にそんな情が深いという韓国人の良い面が出ているからなのですね』

    「いくら仲睦(むつ)まじい夫婦であったとしても、長い結婚生活じゃ。いろいろなことがあったとは思うが、みるかぎりそのようじゃな」

    陰陽師の言葉に大きくうなずいた後で、青年は言葉を続ける。

    『さらにこの鑑定をみると、頭が1同士であることから、人生に対する価値観みたいなものもほぼ一致しているであろうこともじゅうぶんに想定できますね』

    「そうじゃな、この二人にかぎれば、そのあたりも含めて理想的なカップルということができるのじゃろうな。それに引き換え」

    『はい』

    「もう一方のカップルの方は、結婚以前の問題を抱えておるようじゃ」

    『とおっしゃりますと?』

    「これまでにも、芸能界には2(4)-3-5-5…2という厳然としたルールが存在していることについて言及しておると思うが、ユッキーナの属性をみるかぎり、この世界にいる人間ではないことは明らかじゃ。それ故、今回の一連の事件も“排除の法則“が働いた可能性は極めて高く、本来であればこれを機に芸能界からきっぱり足を洗うことが、彼女のためになることは言うまでもない」

    『以前(※第10話参照)、3(9)―3の人物が芸能界入りすると、排除命令が出ると仰ってましたが、あれに類する話なのですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいてみせる。

    「この話を始めると話が長くなるから今回は控えるが、スポーツ・芸能・芸術界で起きる事件の多くは、当人の責任というよりも、この“排除命令”に起因している可能性が極めて高いのじゃ」

    『その話は、僕としてもとても興味のある問題なので、ぜひゆっくり聞かせてください』

    そんな青年の言葉に大きくうなずきながら、陰陽師は話を続ける。

    「ともかく、人間とは様々な要素が複雑に絡み合った複合的な存在なわけじゃから、一辺倒の鑑定を見比べただけでは相手のことを完全に判断することは難しい。よって、そなたも結婚を本気で考える相手ができたときには、ことを進める前に、まず、当該の女性との相性鑑定を依頼するとよい」

    『わかりました。よく、肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

  • 新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    新千夜一夜物語 第21話:離婚と縁遠さと男女運

    青年は思議していた。

    “8:男女運”、特に“2−4色眼鏡”“逆2−4色眼鏡”によって相性が良くない異性同士が惹かれあってしまうことは納得できた。
    一方、イケメンや美女といった、ハイスペックなのに結婚していない人物や、離婚を複数回している人物や、同性愛者にも何らかの共通点があるのではないか。

    そう思い、青年は陰陽師を再び訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は前回の続きで、独身や離婚が多い人、同性愛者の共通点について教えていただけませんか?』

    「“8:男女運”の相による、異性との“縁遠さ”の話じゃな。話をするにあたり、そなたの理解度を確認するためにも、この霊障についてそなたの口から再度説明してもらうとしようかの」

    『はい。この霊障がある場合、二つの症状が考えられ、その一つは本来自分と相性の良い異性が悪く見えてしまうだけでなく、自分に相応しくない異性が良く見えてしまい、そのような異性と結婚までなだれ込んでしまうケース。もう一方のケースは、ハイスペックなのに異性との縁ができない、いわゆる、“縁遠さ”という相のことです』

    「うむ、大筋ではしっかりと理解しおるようじゃな。そして、一つだけそなたの説明にさらに言葉をつけ加えさせてもらうと、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”という。して、今回は“縁遠さ”に関しての疑問のようじゃが、誰か具体的に気になる人物はおるのかな?」

    そう訊ねる陰陽師に、青年はスマートフォンを取り出し、有名人の名前を読み上げる。
    陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、鑑定結果を書き記していく。

    ① 藤圭子さん(離婚歴7回)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.39.54

    ② 林下清志さん(ビッグダディ。離婚歴6回)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.40.20

    ③ 林下佳美さん(ビッグダディの最初の妻。6児の母)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.40.58

    ④ 美奈子さん(ビッグダディの妻。8児の母)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.41.17

    『まず、藤圭子さん(※①参照)ですが、彼女は、天命運に“8:男女運”の相があるのと、恋愛運が3で、人生のアップダウンが1と波乱万丈な人生なので、7回も離婚していることに納得です』

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせる。

    『ビッグダディさん(※②参照)は天命運に“8:男女運”の相があることと、人生のアップダウンが1と、数奇な運命を歩みやすい、転生回数が230回代ということを踏まえると、離婚の回数に納得です』

    「ちなみに、ビッグダディさんの場合、天命運“5:事故/事件”があるようじゃが、そのあたりについての情報は何かあるのかな?」

    『はい。たしか、以前に自宅を火災で全焼させていたと思います』

    陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンで事件について検索を始める。

    『やはり、そのとおりでした。その時の記事を読むと、壁の中にある電線が破損したために火災が起きたようですね。彼の過失ではないようですので、このあたりにも天命運の影響の怖さをあらためて実感します・・・』

    「たしかに、そのような理由で火災が起き、自宅を全焼させたのであれば、天命運の影響があったのは間違いないじゃろうな」

    小さく頷く陰陽師を横目で眺めながら、青年は質問を続ける。

    『ところで、ビッグダディさんと佳美さん(※③参照)は三度も離婚・再婚をしたそうですが、佳美さんも彼と同様転生回数の十の位が“30回代”ですし、人生のアップダウンが1ですから、推して知るべしといったところでしょうか』

    一度言葉を止めて首を傾げ、再び青年は口を開く。

    『また、再婚相手の美奈子さん(※④参照)は、天命運に“8:男女運”の相がありますし、恋愛運が4と低いので、結果的に離婚となったことは納得できますが、ビッグダディさんと佳美さんは共に恋愛運が8と高かったにもかかわらず、最終的には離婚しています。やはり、天命運の影響なのでしょうね』

    「そうとも考えられるが、この三人にはそれ以上に大きな共通点があるんじゃ。そなたには、それが何かわかるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年は鑑定結果を食い入るように眺める。
    自力で答えにたどり着けそうにない青年を見かねた陰陽師は、鑑定結果に印をつけ、口を開く。

    「答えは、三人とも魂の属性が4というめずらしい数字を持っておることじゃ。この4という数字を持った人物は多くの子供を育てるという使命を今世の宿題として抱えておることは“教議”にも書いてあるのじゃが」

    『・・・なるほど。そのあたりのことは、すっかり失念していました』

    ちょっとばつの悪そうな顔で頭を掻きながら、青年が言葉を続ける。

    『しかし、だからこそビッグダディさんと佳美さんは多くの子供を産み育て、美奈子さんも連れ子が多いのに彼と結婚できたのですね。魂の属性4同士でもなければ、多くの連れ子がいる相手との結婚に躊躇しそうですし、さらにまた子供を作ろうなどとは思わないですよね』

    「たしかに、そのあたりはそなたの言う通りじゃな。ビッグダディさんにしても美奈子さんにしても、子供たちを社会に出すまで面倒をみるという使命を果たすためにも、お互いの存在が必要だったのじゃろうな」

    納得の意を示すように何度も青年はうなずき、やがて口を開く。

    『ただ、佳美さんも美奈子さんも、天命運の“8:異性”の相に加えて“6:家族”の相もあることから、結果的に離婚という結果になってしまったのでしょうか?』

    「それは6をどう考えるかにもよるが、加えて、子育てや家事を通して一般女性の数倍の苦労を日々していることだけは間違いないじゃろうな」

    青年の反応に陰陽師は小さくうなずき、今度は渡辺和子とナイチンゲールの鑑定結果に印をつける。

    ⑤ 渡辺和子さん(学校法人ノートルダム清心学園理事長。故人。生涯独身)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.50.36

    ⑥ ナイチンゲールさん(故人。生涯独身)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.42.00

    「一方、渡辺和子さん(※⑤参照)とナイチンゲールさん(※⑥参照)じゃが、魂の属性が2であることから、今世の宿題として、子育て以外に果たすべき使命があったと考えるべきなのじゃろう。つまり、家庭を持ち、子供を育てるといった使命は、今世の彼女たちの宿題にはなかったわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年はあらためて二人の鑑定結果を眺める。

    『このお二人の経歴を鑑みるに、色恋沙汰にうつつを抜かす暇があるなら仕事に取り組んだ方がいいと思っていたわけですね。また、渡辺和子さんとナイチンゲールさんは、共に先祖霊の霊障と天命運の両方に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3とかなり低いところからみても、魂の属性2として生きるのに適した運気だったとも言えそうですね』

    「そうじゃな。彼女たちが何を考えて生きていたかはともかく、渡辺和子さんなぞは、坊主・シスターの大半がそうである転生回数が280回代の“3:ビジネスマン階級”であることからも、生涯未婚を貫くシスターとしての人生を自ら選んだことは想像に難くないじゃろうな」

    『そう言えば、坊主やシスターは“魂1:先導者”階級が圧倒的に多いのかと思っていましたが、かならずしもそうではないのですね。というよりも、魂1が既存/新興宗教の開祖の役割を担う一方で、二代目以降の教祖や、教団を動かす中心人物は“魂3:ビジネスマン”階級だと以前おっしゃっていた意味が、今になってようやく理解できたような気がします(※第4話参照)』

    陰陽師が首肯するのを確認し、青年は続ける。

    『また、ナイチンゲールさんは生涯3回のプロポーズを受けたもののその全て断ったらしいのですが、そのあたりの件も、自身の幸せよりも、より多くの人々に貢献する使命を彼女が優先した結果と考えても問題ないのでしょうか?』

    「彼女は転生回数の十の位が70回代の“大山”かつ“2:制服組(軍人・福祉系)”ということを考えると、結婚して家庭に入ることよりも、自ら戦場で負傷兵の看護をしたり、その経験をもとに統計学的な見地から負傷兵の死亡率を低下させるための政策提言、ひいては国民の健康増進という壮大なテーマのために一生を捧げることを望んだのじゃろうな」

    『なるほど』

    「ついでに補足しておくと、魂1が“8:男女運”、“2−4色眼鏡”の霊障を抱えた場合、魂1は2-4ではなく4−4と結ばれる可能性が極めて高くなる。さらに蛇足として付け加えるならば、4-4と結婚しない残りの魂1(先導者階級)と“魂2:制服組”階級全般は、縁遠さの影響を受け、本人の意思とは関係なく、生涯独身を通す可能性が極めて高くなるようじゃ」

    『魂の種類によって変化するのですね。とても興味深いです!』

    大きく頷きながら、青年は次の鑑定結果に目を通し始める。

    ⑦ 黒柳徹子さん(独身美女)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.42.21

    ⑧ 竹野内豊さん(独身イケメン)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.42.40

    『次は、この黒柳徹子さん(※⑦参照)です。彼女は、40年間遠距離恋愛していた外国人の男性がいたようなのですが、その男性が亡くなってしまったために独身を貫いているという説があります。このあたりの特殊な事情を考えると、彼女なんかも、天命運や何らかの霊障によって結婚を阻害されてしまったと考えるべきなのでしょうか』

    青年はスマートフォンを操作し、言葉を続ける。

    『その次の竹野内豊さん(※⑧参照)の場合も、熱愛報道のお相手が三人いましたが、すべて破局に終わっています。結婚の可能性も見えた女性もいるにはいたようですが、やはり天命運の“8:男女運”の相と恋愛運が3と極端に低いことが、今も独身でいる要因なのでしょうか?』

    「天命運の“8:男女運”の相にも、先祖霊の霊障同様、ハイスペックだが異性と縁遠いというパターンがあることから、黒柳徹子さんのケースも、竹野内豊さんのケースも、そなたの考察通り、そのあたりが影響しているのじゃろう」

    青年は納得顔で何度もうなずく。

    ⑨ マツコデラックスさん(ゲイと公表)

    スクリーンショット 2020-02-27 13.42.56

    『今度は、ゲイと公表しているマツコデラックスさん(※⑨参照)ですが、LGBTの人物に何らかの共通点はあるのでしょうか? たとえば、転生回数の十の位が“30回代”の数奇な運命で、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が低い(3)などといった』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振りながら答える。

    「そなたの仮説がまったくの見当間違いとは言わんが、鑑定結果が一部の条件を満たしているからといって、それらの数字を抱えた人物がすべてLGBTとはならないことはよく理解しておくようにの」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『ただ、マツコデラックスさんの鑑定結果を鑑みるに、ゲイであることも含め、恋愛・結婚が世間一般の人々よりはハードルが高い気がしています』

    「そなたの言う通り、人類の半分を異性とすると、大多数の男女が恋愛や結婚の対象として異性に求める以上、単純な確率論で考えてみても、彼のような性向を持った人間は恋愛や結婚から縁遠くなってしまうのはしょうがないことなのかもしれんのう」

    納得顔で何度もうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで話は変わるが、2―3―5−5・・・2、つまり転生回数が第2期、“魂3:ビジネスマン階級“、OSとソフトの上段の数字が共に5、そして魂の特徴の最後の上段の数字が”2“という魂は、芸能界入りするための“入場券”であることは以前(※第5話参照)も説明したが、マツコデラックスさんのように、個性的なキャラを活かして芸能界入りする人物は、2(3)−3−5−5・・・2となることがあることも頭の片隅に入れておくようにな」

    『なるほど。大半の芸能人が2(4)つまり、転生回数の十の位が“40回代”の“小山”なのに対して、先ほどのビッグダディさんやマツコさんのように、特異な個性を持った人物の場合は例外的に2(3)となるのですね』

    「さよう。そなたは覚えておるじゃろうが、鑑定結果で2−3―5−5・・・2であることはあくまで芸能界への“入場券”であって、魂の特性に胡座をかいて努力を怠っているかぎり、芸能界に入れたとしても成功はおぼつかないことは他の職業とまったく同じじゃ」

    『天命としては芸能界入りする方向に道が開けてはいたとしても、たとえば先祖霊の霊障で“2:仕事”の相が出ていたり、育った環境によっては芸能界に進むことができない可能性もありますからね』

    黙ってうなずく陰陽師を確認し、青年は続ける。

    『結婚して子供を産み、幸せな家庭を築くことが世間では幸せとされていますが、不幸にして結婚が離婚という結果に終わったとしても本人たちがそのことを不幸と考えるとは限らないわけですし、結果的に離婚によって魂磨きの修行が進むのであれば、それはそれでいいのではないかと思います』

    「そうじゃな。結婚しさえすれば幸せになると思って結婚してみたもののうまくいかず、離婚した相手をずっと恨み続けることになったり、離婚によって子供に辛い思いをさせてしまうなどということもあるじゃろう。しかし、それもまた人生じゃ。我々の所業の可否なぞは、天寿を全うし、あの世に戻るまで誰にもわからんのじゃよ」

    陰陽師が発する言葉の重みを感じたのか、青年は一瞬たじろぎ、固唾を飲む。

    『これから鑑定を受けていただいた人々に対し、恋愛運や魂の属性を明確にすることで、世間一般の価値観に惑わされず、魂磨きの修行に励んでもらえたらと思います。結婚に拘らず、パートナーと幸せな関係を築いてもらえたらと思います。最悪、パートナーが現れなくとも、それが今世の天命だと理解し、ご自身が納得のいく人生を歩んでいただけるのであれば、それはそれでよろしいと思いますし』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。

    「うむ。魂の属性2の女性たちのように、結婚にも子供にも縁がなかった人生を辿るとしても、人の数だけ人の幸せがあるはずじゃし、仮に今世、理想の異性と巡り合えなかったしても、それ以上のやりがいを感じられる使命に人生を捧げることできるのであれば、それもまた人生じゃと、ワシも思うぞ」

    そう言うと、陰陽師は時計に目をやり、再び口を開く。

    「そろそろ時間のようじゃ。また、気になる疑問が浮かんだときには連絡を寄こしなさい。ワシで答えられることなら、何でも回答させてもらうからな。いずれにしても、気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。今日も貴重なお話をありがとうございました』

    魂の属性や恋愛運の説明をしたとことで、万人に受け入れてもらえるとは思わないが、結婚をしないという人生を含め、各人の天命に沿った様々な選択肢を一つ一つ丁寧に、粘り強く伝えていこうと思う青年だった。

  • 新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    青年は思議していた。
    先日のフジモンとユッキーナの離婚報道についてである。

    おしどり夫婦として幸せな家庭の一例となり、世間に希望を与えていただけに、衝撃的な出来事だったのではないか。離婚する夫婦には何らかの共通点があるのかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①:藤本敏史さん(フジモン)

    スクリーンショット 2020-02-15 15.21.17

    ②木下優樹菜さん(ユッキーナ)

    スクリーンショット 2020-02-15 15.17.17

    『先生、こんばんは。本日は恋愛や結婚について教えていただけませんか?』

    「恋愛と結婚かの。それは壮大なテーマじゃが、そのような問題を質問するにあたり、何か具体的なきっかけがあったのかの?」

    『今回は、おしどり夫婦として話題となっていた、フジモンさんとユッキーナさんの離婚報道が発端です。昨今の日本では、離婚や機能不全家族が増えているように思うのですが、この問題についてひょっとしたら何らかの共通点があるのではないか、そんな気がしてお伺いした次第です』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    「その二人(※①、②参照)は共に頭が2で“3:ビジネスマン階級”であることから、一見うまくいく要素が多いように見えるかもしれんが、逆に双方恋愛運が7であること、天命運に“8:男女運”の相があることから、結婚して関係が深まるにつれてすれ違いを自覚する機会が増えていったのじゃろう」

    青年はしばらく鑑定結果を眺めてから、口を開く。

    『僕も、先祖霊の霊障か、恋愛運の問題があるのか、はたまた天命運に8の相があると思っていましたが、他にも要因はあるのでしょうか? たとえば、その二人は共にチャクラ6のみの乱れで30%近くパフォーマンスが塞がれていますが』

    「チャクラについて少し補足すると、第6チャクラは第三の目とも言われ、“知覚する”、“知る”、“コントロールする”という意味を持つ。換言すると、“人生を正しく見ることと、思考の実現化能力”を司っており、インスピレーション・洞察力・理解力・叡智などの源泉とも言える」

    青年は真剣な表情でうなずいて見せ、陰陽師は青年の様子を横目に続ける。

    「第6チャクラが正常だと、記憶力や知的な学習能力が高まるだけでなく、論理的な思考をする左脳と、直感的な思考をする右脳のバランスがよくなり、結果脳全体を活性化することができる。逆に、異常があるとマイナス思考に陥りやすく、左脳と右脳のバランスが悪くなるため、物事全般に対する視野が狭くなりやすくなる。また、いろいろと思考を重ねているにもかかわらず、土壇場で正しい結論に達しなかったりする」

    『なるほど。離婚に至るまでにいろんな要因があったと思いますが、お子さんがお受験する際の進路を決める時に最初のすれ違いがあったようです。また、ユッキーナさんは“タピオカ恫喝事件”で炎上を招いたことから、家庭内外問わず肝心な場面で冷静さを欠いていたことが、少なからずあったのかもしれません』

    「もちろん、その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうが、二人とも“人生のアップダウン”が1と波乱万丈な人生を歩む傾向を持っていることから、離婚することも今世の宿題の範疇内と考える方が筋が通っているのかもしれんな」

    『ちなみに、恋愛運ですが、何点以下になると離婚の確率が高くなるのでしょうか?』

    「厳密に言えば、全体運との兼ね合いで総合的に勘案すべきなのじゃろうが、端的に言えば、恋愛運が7以下の者同士が結婚した場合、離婚に至る確率は極めて高くなると考えても差し支えないじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、大きく頷く青年。

    『もちろん、僕はこのふたりの直接の知り合いではありませんので、彼らがどんな人生を歩んだとしても直接何の影響もないのですが、それでも今回の離婚がお金がらみのドロドロしたものにならなかったことは、他人事ながら、よかったと思っています』

    「“他人の不幸は蜜の味”ということわざもあるが、そなたのそのような心がけは立派だと思うぞ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいて賛同の意を示す。青年は、思いがけない誉め言葉にちょっと照れながらも、質問を続けた。

    『ところで、魂1~3が魂4と結婚した場合、その結婚生活はどうなってしまうのでしょう?』

    「いつも話しておるように、人間とはいろいろの要素が集まった多面体のようなものじゃ。じゃから、魂1〜3と魂4の結婚がどうかと問われても、その一点をもって的確な返答をすることは容易なことではない。しかし、結婚が子育ても含め当事者同士の価値観のぶつかり合いという側面を有している以上、うまくいく可能性は極めて低いと言わざるを得ないじゃろうな」

    『え、そうなのですか?』

    いつもの笑みを浮かべながらそう答える陰陽師に対し、青年は顔を引きつらせながら答えた。

    「この二人のように、たとえ最終的に離婚という結論を選んだとしても、大局的見地があり論理的なベースを共有している可能性のある魂1〜3同士であれば、話し合いによって双方が納得のいく結論へ収束できる余地が残されている。しかし、夫婦のどちらかが魂4である場合、論理的な会話が成り立たない可能性が高いことから、相手に対する恨みや憎しみなどの感情に終始する結果、どれだけ慰謝料を多くふんだくるか、どうしたら相手よりも有利な条件で離婚を成立させるか、といった条件闘争になりやすい傾向は否めんじゃろうな」

    『なるほど。ただ、魂1〜3と魂4は価値観が合わないでしょうから、交際はまだしも、結婚へ進んでしまうケースはそうそうないように思いますが』

    「そう思うじゃろ?」

    眉ひとつ動かさずに笑顔で言う陰陽師に対し、青年はただならぬ気を察知してか、恐る恐る訊ねる。

    『・・・意外と多いのでしょうか?』

    陰陽師は大きく、ゆっくりとうなずいて見せる。

    「そなたも承知しているように、ワシのところには日々様々な相談が寄せられるわけじゃが、その中でも離婚相談、相性相談の比率は決して少なくない。そして、そんな何千人という男女の鑑定しているうちにわかってきたことは、先祖霊の霊障に“8:男女運”、もっと言えば霊障6~11を持つ人間は、ワシが想像していたよりもはるかに多く、が結婚してはならぬ相手と結婚しているという事実なのじゃ」

    『昨今の我が国の離婚数から考えても、今のお話はじゅうぶん納得できますが、そのようなミスマッチが増えている原因について何か心当たりはあるのでしょうか?』

    「もちろん、魂1〜3と魂4の結婚は太古には存在しなかったとまでは言わぬが、昨今のミスマッチの最大の原因は、やはり、“恋愛結婚”なのじゃろうな」

    思いがけぬ言葉に、青年はちょっと目を大きくして、問い返す。

    『結婚のあるべき姿とは、恋愛の延長にあると思っていましたが、昔はそうではなかったと?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲んでから口を開く。

    「昔をいつと規定するかにもよるが、少なくとも戦前までは、我が国では親同士が決めた結婚、あるいは近しい者からの紹介であるお見合い結婚が主流だったということができるじゃろう。また、そのような経緯で縁談が進められていたことから、結婚の前提条件も、当事者間の問題というよりも家同士の関係が重視されるという傾向が強かったことはいうまでもない」

    『魂1〜4と職業にもある程度以上の相関関係があったのでしょうから(※第4話参照)、両家の家柄や職業まで加味してしまうと、お見合い結婚では同じ属性の人物同士が結ばれやすい傾向にあったのかもしれませんね』

    「もちろん、誰をパートナーとして選び、どのような結婚をするかは当人の自由じゃし、魂1〜3が同じ人物同士で結婚するとしても、そもそも相性がよくなかったり、頭の1/2が異なっていたり、魂の属性が違っていたり、転生回数期が違う場合など、様々な要因によって問題が生じる可能性はあるわけじゃが、魂1〜3と魂4との結婚で生じる問題の大きさを考慮するかぎり、恋愛結婚による弊害は看破することのできない問題といえるじゃろうな」

    『結婚形態がお見合い結婚から恋愛結婚になったことで、結婚相手を探す入り口から誤りやすくなったのはわかりますが、霊障の影響でそんなにミスマッチが起こりやすいものなのでしょうか?』

    「“8:男女運”の霊障がどういった相か、わかっておろうな?」

    『はい。自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなる場合も該当すると記憶しています』

    青年の回答に対し、陰陽師は満足気にうなずいてから口を開く。

    「そのうちの“縁遠さ”という問題はひとまず置いておくとして、俗にいう“2−4色眼鏡”(世界に目を広げた場合は、各国の固有の属性分布によって、3-4、1-4が色眼鏡の対象になることがある)について、ちょっと説明しておくとしよう」

    陰陽師は二つの図を描きながら説明を始める。

    「“2−4色眼鏡”は、我々魂1〜3側からみると2−4の人物に惹かれるという問題となるわけじゃが、2-4側からものを考えると、魂1〜3の人物がよく見えるという“逆2−4色眼鏡”とでも呼ぶべき問題となるわけじゃな」

    『なるほど。逆もまた真なり、というわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷くと、話を続けた。

    「さらに厄介なことに、この問題は異性間のみならず、同性間にも適用されるというところにある」

    『つまり、同性間の友人関係にも影響をあたえる可能性があると』

    「それだけではなく、学生時代の同級生、職場の同僚といった社会的な人間関係にも適用されるから、なおさら厄介なんじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、思わず黙り込む青年。そんな青年を横目で見ながら、陰陽師が言葉を続けた。

    「しかし、そのあたりまで話を広げてしまうと本日の話題から離れてしまうので、話を異性間に絞るとしても、結婚が当人同士の価値観をベースとして成り立つ以上、魂のレベルの差という問題は時として結婚生活に致命的な影を落とす結果となる」

    『ということは、恋愛結婚という結婚形態は極めて危険なメカニズムということじゃないですか!』

    青年は身を乗り出し、やや興奮気味に言った。

    「さよう。いくら魂1〜3の人物が論理的なベースを共有しているといったところで、こと恋愛や結婚に関しては情に流されやすい。その結果、お互いの価値観にすれ違いがあっても、見て見ぬ振りをして結婚まで進んでしまい、さらに子供ができてしまうと、今度は子供を理由に離婚することが難しくなり、結果、機能不全家族となったりする可能性があるわけじゃから、伴侶のどちらかが異なる魂であった場合、さらに問題が大きくなることは説明するまでもない」

    『“家出少女と誘拐犯(※第14話参照)”でご説明していただいたように、両親のどちらかが魂1〜3で、どちらかが魂4の場合、親子で価値観が合わず、お子さんが辛い体験をする可能性も高くなると』

    「その通りじゃ。恋愛ではなく結婚の場合、夫婦だけでなく、生まれてくる子供の人生にまで影響をおよぼしてしまうことから、恋愛結婚が主流である昨今では、“8:男女運”の相がある場合には、その相を一日も早くに除去しておくことが望ましい」

    『霊障ですから、神事を受けるまでずっと続いてしまうのだと思いますが、その相に限って言うと、先生のクライアントの中で完全に外れるのに日数を要した最長記録はどれくらいでしょうか?』

    「・・・4年じゃな」

    『え、4年ですか?!』

    「たとえば、金運や仕事運や病気の相と違い、男女運、特に“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の問題は、いわば生活習慣病なようなものでの。霊障を祓ったからといって、その翌日から世界が変わって見えるというものではない。その依頼人の場合も、母親から“いつになったら娘の色眼鏡が外れるんですか!”と、何度も詰められたもんじゃ」

    陰陽師は遠い目をしてそう言い、青年は目を見開いて答える。

    『なるほど、この問題は審美眼を基調とした生活習慣病みたいな問題なので、時としてはかなりの期間引きずることがあるというわけですね。過去に“だめんず・うぉ~か~”という漫画がありましたが、何度もダメ男と交際してしまう人も、“8:男女運”の相の影響を受けているのでしょうか?』

    「その漫画を読んだことはないが、その可能性は高いじゃろうな。というのも、“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の霊障がある場合、結婚以前に恋愛の段階から選ぶ相手を誤っているわけじゃからな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は眉間にシワを寄せて腕を組む。

    「先ほども話したように、今世でどのような選択をするかは本人たちの自由ではあるものの、霊障による“組違い”という問題は、一つでも多く解決したいと切に願っておるものの、そもそも出会いが必然である以上、その出会い自体を得られるかどうかが、まず問題というわけじゃしな」

    『感情に関していうと、自分の感情は自分でコントロールすればいいわけですし、感情論に走りやすい魂4の言動に一喜一憂していることも生産的ではなく、同時に、天命に沿った生き方でもないと思います。そんなことをしている暇があるのであれば、もっと有益なことに時間や労力を使う方が大事だとも思いますので、幸せな家庭を築きたい人には“8:男女運”の相を早急に解消し、運命の人と出会いやすくなってもらいたいです』

    「もちろん、既に結婚、交際している人々にとっては辛い現実が立ちはだかる可能性が高いがの」

    魂4の人物と交際している魂3の友人のことが脳裏に浮かび、青年は視線を落とす。

    そんな青年の様子を見、陰陽師は励ますような口調で付け足す。

    「人物鑑定だけでは相性を判断するにあたり情報が少なすぎる。じゃから、結婚を本気で考えるような時期が来たら、そなたも早めに意中の異性との相性鑑定を依頼するようにな」

    『肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はお見合いについて考えていた。
    たとえお見合いで出会ったとしても、“8:男女運”や“10:伴侶”の相があると、結婚後に苦労し、最悪離婚するのではないか。そして、そのような問題を解決するためにも、神事を受けて霊障が解消された人同士を繋ぐ結婚相談所があると、相性が良い人々を繋ぎやすくなるかもしれない。
    そんな新たな試みを閃き、青年の表情は明るくなるのだった。

  • 新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2018年東海道新幹線殺傷事件の結末についてである。
    この事件は、無職ホームレスの男性が、無期懲役になって刑務所で一生を過ごしたいがために、計画的に新幹線の近くの座席に偶然居合わせた人物を襲ったものである。二人が重傷を負い、一人が死亡した。

    判決の結果、望んでいた通りの無期懲役となり、加害者の男性は万歳三唱をした。

    こうした無差別殺人事件はなぜ起こるのか?
    被害者となってしまう人物には、何か共通点があるのだろうか?
    青年は答えを求めるように、陰陽師の元を訪れた。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①加害者の男性
    頭2、4(7)―4、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に1・2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運1、ビジネス運1、金運1、人運1、恋愛運1、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    ②死亡した被害者の男性
    頭1、3(3)―3武士、魂7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、1・5・6・7。
    全体運1、ビジネス運8、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ③窓際の席の隣の女性
    頭2、2(3)―2、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)
    天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れ、6・7。
    全体運1、ビジネス運9、金運9、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    ④通路を挟んで反対側に座っていた女性
    頭1、3(3)―3武将、魂3(先祖霊の霊障に5・12・13・14・15の相)天命運に5・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運3、ビジネス運9、金運8、人運1、恋愛運9、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議9

    『先生、こんばんは。今日はまた事件について教えていただけませんか?』

    「もちろん。で、今回はどういった事件かな?」

    青年は事件の顛末について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かしながら黙って青年の声に耳を傾ける。

    『事件が起きる背景にはいろんな事情があると思いますが、もしも事前に防ぐことができるなら、せめて関わりがある人々だけでも助けてあげられたらと思うのです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を記しながら、口を開く。

    「まず、加害者(※①参照)には先祖霊の霊障もチャクラの乱れもない。つまり、間違いなく加害者の意志で事件は起きたと思われる」

    『霊障による精神疾患がないという意味だと思いますが、だとすると、この事件は起きるべくして起こった事件なのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずき、鑑定結果を書きながら答える。

    「今度は被害者3名の共通点じゃが、みな転生回数の十の位が“30回代”であり、天命運に“5:事故/事件(人災・事故・被害者・怪我)”があった。また、全体運が1〜3とかなり低く、人運にいたっては1しかない(9点満点)」

    青年は鑑定結果を食い入るように見つめ、口を開く。

    『不運の条件が重なりに重なり、今回のような数奇な事件に引き合わされたのでしょうね・・・』

    「もちろんそうとも言えるが、話を加害者に戻すと、全体運もビジネス運も金運も1と最低値であり、しかも天命運に“1:金銭”と“2:諸事万般”の相があることから、そもそも今世の彼の人生は自力で生活することそのものが困難だったはずじゃから、被害者の3名と巡り合わなくても、遅かれ早かれ別の形で無差別殺傷事件を起こしていた可能性が高いのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に目を見張り、青年は驚きの声をあげる。

    『加害者がホームレスで無職だったことは納得ですが、生活保護を申請したとしても、運気が塞がれていた影響で通らなかったのかもしれませんね』

    「というよりも、彼の選択肢の中では、生活保護よりもこのような形で生きる糧を確保する方が合っていたのじゃろう。いくら魂が4で、転生期間も第4期だったとは言え、“70回台”と“大山”にいるわけじゃからな」

    そんな陰陽師の説明に、青年は暗い表情で顔を伏せ、ため息をつく。

    「ところで、登場人物の属性分析は分析として、今回の事件、そなた自身はどのような印象を持っておるのかの?」

    陰陽師の言葉に青年は顔を上げ、腕を組んでしばらく黙考する。
    励ますような陰陽師の笑みを確認し、やがて青年は重い口を開いた。

    『加害者が無期懲役を望んで今回の事件を起こしたとするなら、それを叶えずに死刑にすることは一理あると思います。昨今の我が国の経済事情を考えると、今回の判決によって、刑務所に入りたいがために犯行に及ぶ新たな人間が現れないとも限らない気がしますので』

    青年の言葉を聞き、続きを促すように陰陽師は黙ってうなずく。

    『もちろん、刑務所での生活が加害者にとって安楽なものでなく、反省し、改心できる環境なのであれば、話は別かもしれません。あるいは、特別に過酷な労働環境に身を置かせることなど、加害者の望みが叶わないような特別な対応ができるのであれば、被害者や遺族の方々も納得しやすいのではないかと思います』

    「たしかに、そなたが考えるように、加害者の甘い希望を打ち砕くというのも一つの解決方法ではあるかもしれんな」

    陰陽師が、小さく頷いた。

    「ところで、ネットでは、この事件にたいしてどのようなコメントが上がっているじゃろう?」

    陰陽師に訊ねかけられ、青年は早速スマートフォンを操作し始める。

    《コメント(1)》
    希望通りの生活は刑務所にはないと思う。
    事の重大さが分からないまま死刑になるよりキツい判決かもしれない。
    そんなに簡単に“ラク”にさせるのも違う気がした。
    生きるのが嫌な人を死刑にするなら、執行は20年後くらいにして欲しい。

    ※頭1、2(3)−3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14の相。チャクラ5・6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(2)》
    普通の神経の持ち主なら、懲役などの刑事罰は受けたくない。
    だが、こう願ったり叶ったりになってしまうのは別の罰を与えられないだろうか。
    無期懲役になったらその先はみんな一緒ではあまりに被害者や遺族が不憫。

    ※頭1、3(4)―3武士、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラ6・7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(3)》
    犯人を責めるのは簡単だし、犯人はもちろん罪を償わなければならない。
    だが、青年が“犯人にならざるをえなかったこと”が現代の闇かもしれない。

    ※頭1、3(3)―3武士、魂の属性3(先祖霊の霊障に6〜15の相)
    天命運に2・8・14の相。チャクラ2〜7の乱れ。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    《コメント(4)》
    どうしてこんな人を税金で養わなければならないのか?
    判例が、前例が、で死刑にできないなら裁判官を辞めてほしい
    判例に基づくならAIに任せればいい

    ※頭2、4(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に2・8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運7、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    以下、コメント(4)に対して
    《コメント(5)》
    死刑じゃ生温い。もっと税金使って日々拷問して公開してほしい。
    今後の抑止にもなる。

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に8・14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運7、ビジネス運7、金運7、人運7、恋愛運7、健康運9、天啓−、憑依−、大日不可思議7

    《コメント(6)》
    判決を出すには理由づけが必要。
    その理由だって裁判官の経験則に基づいたものでなければいけないから、たとえ裁判官本人が死刑にしたかったとしても、前例がなければできないなんてこともある。
    他にもツッコミどころがありますが、司法がそんな簡単に務まる物じゃ無いことは知っておいた方がいい

    ※頭2、2(3)―4、魂の属性7(先祖霊の霊障なし)
    天命運に14・17の相。チャクラの乱れなし。
    全体運8、ビジネス運8、金運8、人運8、恋愛運8、健康運8、天啓−、憑依−、大日不可思議8

    青年がコメントを読み上げるのに合わせ、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。
    一通り書き終えると、陰陽師は口を開いた。

    「まず、コメント1〜3は魂3で、4〜6は魂4の人間のコメントじゃな」

    『なるほど。前半と後半とで印象が異なるコメントを抜粋しましたが、やはり分かれましたか』

    陰陽師が黙ってうなずくのを確認し、青年は続ける。

    『コメント1〜3は判決の結果に捉われず、この判決結果がおよぼすであろう世間への影響や遺族のことを考え、事件が起きたそもそもの背景に注目していることから、魂3ということに納得しました』

    「また、三人ともが頭が1、というのも特徴的じゃな」

    『コメント4は、問題の論点をすり替えただけで、コメント5は新たな考えを提案しているかと思いきや、結局は死刑に相当するような苦痛を与えたいという感情論に終始している感じがします。コメント6は大局的見地から発言している印象を受けましたが、知識を用いてコメント4に対して上から目線で接したいだけの印象なので、魂4だということに納得です』

    「なるほど。いつの間にか、コメントからそなたなりの見立てができるようになったようじゃな」

    微笑みながらうなずく陰陽師に対し、青年ははにかみながら小さく頭を下げる。

    『全体的に死刑に賛成する声が多かったのですが、判決結果のみに言及していたコメントは魂4だと予想し、抜粋しませんでした』

    「この世の基準、例えば望みが叶うことが幸福、望みが叶わないことが不幸という二極的な視点で考えれば、加害者の望みを叶えない死刑の方が判決として妥当、という声が多いことはある意味当然の帰結じゃろう」

    陰陽師の言葉に青年は黙ってうなずき、続きを待つ。

    「しかしながら、“この世は魂磨きのための修行の場”という前提を踏まえ、生きたまま罪を償いつつ、魂の修行を続けさせることも選択肢の一つとして考えてみてもいいのじゃろうな」

    『死んだことがないのでなんとも言えませんが、この世の時間の流れであれば、死の苦痛は一瞬なのではないかと思います。反省を促すという意味であれば、先生がおっしゃる通り、生きてもらう方が理にかなっている気がします』

    陰陽師は加害者の鑑定結果にラインを引き、口を開く。

    「人間である以上、感情的になって、罪を犯した人間に何らかの罰を与えたいと思うのはもっともなことではあるが、特定の人物に対して恨み辛みを持ち続けることは執着に繋がり、天命から外れる一因にもなりかねん」

    『なるほど。色々と思うことはありますが、加害者に対して長く憎しみの念を抱くよりは、生きられていることに感謝し、天命を全うする努力をする方が幸せなのかもしれませんね』

    力強い眼差しで青年はうなずき、陰陽師は満足そうに微笑む。

    『鑑定結果で“5:事故/事件”の相がある人が今回のような事故・事件に巻き込まれて地縛霊化しないよう、ご縁があった時はよく話してみようと思います』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしてから口を開く。

    「ちなみにじゃが、今回の事件で命を落とした被害者の男性は、無事にあの世に帰還しておるからな」

    意外な回答に、青年は目を見開きながら答える。

    『そうなのですか? 僕はてっきりこの世に未練を残し、地縛霊化しているのかと思っていました』

    青年の反応に対し、陰陽師は小さく笑って答える。

    「臨終の際に未練があるかないかは当人次第じゃ。第三者的に見て、志半ばで命を落としたり、この世をはかなみ自殺したからと言って、地縛霊化しているとは限らんのじゃよ」

    『なるほど・・・』

    「逆に、例えば聖路加国際病院の元院長、日野原重明氏のように、未来日記を何年も先まで書いてやりたいことをたくさん持っていたりすると、それが執着になって地縛霊化してしまうこともある」

    『105歳まで生きたあの医師が! 未来日記を書くとは、生前はずいぶんと前向きな人物だったと思うのですが、そうした人物であっても、死ぬ瞬間にこの世に思いを残していると地縛霊化するのですね・・・』

    「さよう。やりたいことや目標をもつことは大事じゃが、それが執着にならないようにそなたも気をつけるのじゃぞ」

    『はい。僕は神事のおかげでパフォーマンスが100%になっているので、死ぬ時は天命を全うしたのだと思って潔く受け入れます』

    「その意気じゃ。病や事件、戦争などをこの世からなくし、“地上天国”を目指すことこそがこの世の目標と考えている人物は少なくないと思うが、魂の修行という意味では、一見悪と思える所業も特定の人間にとっては必要だったりすることもあるわけじゃしな」

    『必要悪という言葉があるように、この世から病や戦争をなくすことはできないのだと薄々感じていましたが、先生の言葉を聞いてそのあたりのことは納得しました。とは言え、少なくとも僕はそれらに巻き込まれて無意味に命を落としたくないので、神事を受け、“この世とあの世の仕組み”について色々と勉強させていただくことができて、本当によかったと思っています。今であれば、不慮の死に直面したとしても、この世に無用な想いを残さず、心静かにあの世に戻ることができるような気がします。もちろん、その時になってみなければ、実際はわかりませんが』

    そんな青年らしい率直な言葉に、陰陽師はおかしそうに笑いながら、言葉をつけ加えた。

    「出会いは必然じゃとしても、当時のそなたにとっては、文字通り、“清水の舞台から飛び降りるような”英断じゃったな」

    出会った頃の青年の様子を思い出し、陰陽師は体を揺らして笑う。
    青年は過去の自分を振り返り、いろんな感情を噛み締めてゆっくりうなずいて見せる。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『はい。運気的に事故や事件に遭う可能性は低いとは言え、みずから危険な状況に首を突っ込まないようにします』

    陰陽師は笑いながら片手を上げて挨拶をし、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    帰り道、青年は10歳の時に二度死にかけたこと、すんでのところで交通事故に遭いそうになったことを思い出した。もしも自分に“5:事故・事件”の相があったら、そう思うと青年は背筋がゾッとし、今も生きていることに対する感謝へ置換して一歩一歩確かな足取りで歩むのだった。