カテゴリー: 霊障

  • ご先祖様の成仏、本当に大丈夫ですか?

    ご先祖様の成仏、本当に大丈夫ですか?

    こんにちは! あの世とこの世合同会社の代表社員、中山彰仁です!

    突然ですが、あなたのご先祖様は、無事に成仏されていますか?
    「たぶん大丈夫」「お寺で供養してもらっているから安心」と思っている方も多いでしょう。

    しかし、ご先祖様の多くが まだこの世に留まっている可能性 があるとしたら、どうでしょうか?
    供養をしていても、「なぜか家族にトラブルが続く」「仕事や人間関係がうまくいかない」「原因不明の体調不良がある」… そんな経験はありませんか?

    それ、ご先祖様が 成仏できずに、あなたに助けを求めているサイン かもしれません。

    なぜ、ご先祖様は成仏できないのか?

    人は亡くなると、魂が肉体を離れ、あの世へと旅立ちます。
    しかし、 未練や執着を抱えたまま時間内に旅立てなかった魂 は、成仏できずに 地縛霊 となってしまいます。

    そして 頼れる子孫のもとへ導かれる のです。

    つまり… 今、この文章を読んでいるあなたのもとへ です。

    もし地縛霊化したご先祖様がいると、その影響として 以下のような霊障 があなたの人生に現れます。

    地縛霊による17の霊障
    1. 財運の低迷
    2. 仕事運の不調
    3. 精神的な不安定
    4. 原因不明の病気や体調不良
    5. 事故やトラブルの頻発
    6. 家庭内の不和
    7. 親子関係のトラブル
    8. 恋愛運・結婚運の低迷(悪縁・縁遠さ)
    9. 子宝に恵まれない、もしくは子供に関する悩み
    10. 配偶者との関係悪化
    11. 親族(特に配偶者側)との軋轢
    12. 霊的影響による精神混乱
    13. 誤った選択を繰り返し、人生が迷走する
    14. 人間関係のトラブルが絶えない
    15. 謎の痛みや発作
    16. 憑依現象・不可解な夢や幻聴
    17. その他の霊的問題

    いかがでしょうか?
    「なんとなく心当たりがある…」という方も多いのではないでしょうか。

    お寺の供養だけでは成仏しない理由

    「うちはお寺でちゃんと供養してるから大丈夫」と思っている方もいるでしょう。
    ですが、現代の僧侶のほとんどは 霊的な力を持っていません
    形式的なお葬式や法要では、ご先祖様を あの世に送り届ける力はない のです。

    もし お寺での供養が完璧なら、墓地で幽霊が出るはずがない と思いませんか?
    実際には、お墓やお寺の近くで怪奇現象が多発しているのが現状です。

    お寺の供養は 儀式としての意味 はありますが、
    本当にご先祖様を成仏させるためのものではない ということを知っておいてください。

    では、ご先祖様を成仏させるには?

    ご先祖様を 確実にあの世へお送りする には、 真の霊的な力を持つ者 の力が必要です。

    しかし、世の中には「霊能力者」と名乗る人が多すぎて、 本物を見極めるのは非常に難しい のが現実です。

    そこで、当方では 本当に霊的な力を持つ者を見極める鑑定 を行い、
    さらに 先祖霊を確実に成仏させるための神事 を執り行っています。

    • 宗教的な儀式や物の準備は不要
    • 遠方からでも依頼可能
    • 先祖供養と同時に、17の霊障が軽減

    「除霊」とは異なり、 地縛霊をご先祖様が本来いるべき場所へと導く“救霊” です。
    一時的に霊を別の場所へ追いやるだけの除霊 とは違い、 根本的な解決が可能 です。

    もし、少しでも気になることがあれば、まずは 無料相談 をご利用ください。
    あなたの ご先祖様の状態を確認 し、必要な対処をお伝えいたします。

    また、あなたの 大切な人やペットの魂 についても対応可能です。

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    今、ご先祖様が あなたに助けを求めているかもしれません
    「自分には関係ない」と思わずに、一度 チェックしてみませんか?

  • あなたの不調、どこから?「私は念から!」

    あなたの不調、どこから?「私は念から!」

    こんにちは! あの世とこの世合同会社の代表社員、中山彰仁です!

    不調の原因、思い当たるものはありますか?

    ✅ 腰痛
    ✅ 頭痛
    ✅ イライラ
    ✅ ネガティブな思考

    日々頑張るあなたの心や体に、不調を感じることはありませんか?
    慢性的なものもあれば、突然起こるものもあるでしょう。

    実は、その「突発的な不調」の原因のひとつに “念” があるのをご存じでしょうか?

    “念”とは何か?

    “念”とは、人が発する強い感情のエネルギーです。
    誰かの 怒りや恨み、嫉妬 などが無意識に飛んできて、私たちの心身に影響を与えることがあります。

    そして、それが強くなると “生き霊” になります。

    「生き霊が飛んできている」と言われると、身の回りの不調や不運が納得できることもあるかもしれません。
    でも、生き霊ほど強くなくても、日常的に他人の感情(=念)の影響を受けることは珍しくないのです。

    私自身も体験しています

    私は 霊媒体質 なので、よくこんな症状が出ます。

    🔹 こめかみの痛み
    🔹 突然のイライラ
    🔹 暴言や破壊衝動

    例えば、私は京都駅を通ると こめかみがズキズキ痛くなったり、イライラしたりすることがあります。
    原因に心当たりがないのに、です。

    でも、お世話になっている陰陽師の先生に お祓い(=除念) をしてもらうと、スッと楽になります。

    「さっきまでのイライラは何だったんだろう?」と、自分でも驚くくらいです。

    念は、不調を“増幅”させる

    「じゃあ、お祓いさえすれば、すべて解決するの?」
    そう思われるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。

    念の厄介なところは、もともとの不調を“増幅”させることにあります。

    例えば、もともと腰痛がある人が、
    「特に何もしていないのに腰が痛くなった」という場合、
    周囲の人が発する 怒りの念 を知らずに受け取ってしまい、痛みが増している可能性があります。

    つまり、お祓いで取り除けるのは「念」によって悪化した部分だけ
    根本的に不調を改善するには、生活習慣の見直し姿勢の改善 も欠かせません。

    本当に根本から改善したいなら…

    実は、念が引き起こす 霊障 の原因の一つに 地縛霊 があります。

    例えば、
    🟠 あなたの先祖の霊が成仏できずにいる
    🟠 土地に縛られた霊が、誰かに助けを求めている

    こうした霊たちが、「気づいてほしい」「救ってほしい」と願い、霊障を引き起こすことがあります。

    これは、病院に行っても 「原因不明」とされる不調 の背景にあることも。
    そういった場合、救霊(=霊を浄化し、成仏させること) が必要になるのです。

    あなたの不調、見直してみませんか?

    ✅ 生活習慣の乱れや姿勢の悪さ
    ✅ 霊的な影響(念・霊障)

    どちらの要因も、不調を引き起こす大きな原因です。

    ✔︎ 日頃から健康管理に気をつけているのに、不調が続く…
    ✔︎ 病院では「異常なし」と言われるけど、なんとなく体調が悪い…

    そんな方は、一度 霊的な要因 も視野に入れてみませんか?

    ご相談は、下記のフォームからどうぞ📩
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  • 新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    青年は思議していた。

    とある一般人男性が新型コロナウイルス(以下、コロナ)に感染した後、一度は集中治療室に入るほどに重症化したものの、容態が安定するまでに回復した件についてである。
    コロナによる死亡者数の情報が毎日更新される中、重症化した状態から回復した人物の情報は、人々にとっての希望になるだろう。
    ひょっとして、コロナで亡くなる人物と助かる人物とでは、霊障や魂の属性において、何らかの違いがあるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はコロナの感染者について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「コロナの感染者についてとな。して、どういったことを聞きたいのかな?」

    『コロナに感染して亡くなった人物と、感染して重症化した後に回復した人物とでは、魂の属性や霊障からみれば、何らかの違いがあるのかが、気になりまして』

    「なるほど。ちなみに、そなたは、どのような要因があると考えておるのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考し、やがて答える。

    霊障に“4:病気”の相がかかっているか否かと、健康運の数値が主な要因ではないかと思います』

    青年の答えに、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「ではそのあたりの話をするにあたり、そなたが要因として挙げた、霊障と総合運について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『承知いたしました』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となります』

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、今の回答に基づいて、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、どのように理解しておる?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    そう答えると、青年は、かすかに逡巡した後、言葉を続ける。

    『他にも“霊統”、“血統”という言葉もあり、その意味するところは、地縛霊化している先祖のうち、本人にはかかっていないものの、魂の種類が同じ先祖を“霊統”先祖、魂の種類が異なる先祖を“血統”先祖と呼んで区別しています』

    「うむ」

    青年の回答に、いつもの笑みで頷いた後、陰陽師が言葉を続ける。

    「どうやら、基本的な事項についてはじゅうぶん理解しておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    陰陽師が書いた内容を見た青年は、一つ頷いてから、口を開く。

    『今回のテーマである、コロナの死因としては、個々人にかかっている霊障、つまり、霊脈と血脈の先祖霊の霊障が大きいようですね』

    「そのようじゃな」

    青年の指摘に、肯首しながら、陰陽師が質問を続ける。

    「さて、今度は、総合運について、説明してくれるかの?」

    『はい。総合運は基本的に9点が満点となり、その人に霊的な重荷がない(パフォーマンスが100%)かぎりにおいて、8点以上であれば、基本的に、今世で重大な苦労をする心配はありません。言い換えれば、7点以下の場合は、今世、それなりの苦労をする覚悟が必要な項目となります』

    「たとえば、恋愛運を例にとるとすれば、恋愛運が7以下である今世のそなたの場合、女性関係で苦労する覚悟が必要ということになるわけじゃな」

    『なるほど。だとした場合、ひとつお聞きしたいことがあるのですが』

    そう前置きした後で、青年が言葉を続ける。

    『仮に総合運が9点だったとした場合、今世の宿題という意味合いから、7点以下となっていると考えて、問題ないのでしょうか』

    「基本的には、そう考えても差し支えないじゃろう」

    『しかし、基本的には、とは?』

    「いつも話しているように、霊的な問題というものは、三次元世界のように、右か左とか、正誤といった“二元論”では、割り切れない余地が常に存在している。そのような意味で、三次元世界において“法則には、往々にして例外が存在する”という言葉があるのと同様、霊的世界でも、霊障を含め、その魂のそもそもの誕生理由などにより、総合運が低いからといって、かならずしもその項目が今世の宿題と連動しているとはかぎらないという現象が起きることから、おおむね、そのような理解で問題あるまい、と答えたわけじゃ」

    『なるほど。特に、霊的世界には、三次元の常識、つまり、思議では割り切れない余地が常に存在している、ということをよく頭に叩き込んでおきます』

    陰陽師の説明にそう答えた後で、青年は言葉を続ける。

    『いずれにしましても、僕の恋愛運が6点であることを踏まえ、女性とのトラブルを通して学びを得る、それが今世の僕の人生だということは、じゅうぶんに肝に銘じております』

    それなりに己の運命を受け入れたのか、軽く苦笑しながら青年は言った。
    そんな青年の様子を察した陰陽師も、一緒に笑ってから口を開く。

    「では、本題に入るとして、コロナに感染した人物たちを鑑定するにあたり、該当者たちの目星は、既についておるのかの?」

    青年は一つ頷いて見せ、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『まずは亡くなった人物からお願いします。一人目、志村けんは享年70歳で、若い頃からヘビースモーカーだった影響か、肺に基礎疾患があったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かした後、鑑定結果を紙に書き記していく。

    志村けんSS

    属性表を見終えた青年は、視線を落とし、ため息を吐いてから口を開く。

    『彼は、健康運が3とかなり低く、しかも天命運と血脈に“4:病気”の相が、そして、血脈の霊障に“5:事故・被害・死亡”の相がありますから、属性表の各数字から考えてみても、コロナに感染して亡くなったことに納得せざるを得ません』

    「その通りじゃな」

    『そして、二人目の男性ですが、彼は享年50代で、肝臓がんを患っており、感染後に肺炎で亡くなりました』

    陰陽師は黙って指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    伴充雅SS

    青年は暗い表情のまま、何度も頷いてから、口を開く。

    『この男性も、健康運が3とかなり低く、血脈の霊障に“4:病気”の相“5:事故・被害・死亡”の相があるので、亡くなった理由については、納得ですね』

    「かわいそうではあるが、そなたの言う通りじゃな」

    青年はしばらく無言で腕を組み、やがて苦々しく言った。

    『ただ、彼はコロナに感染していると知りながら飲食店に行き、しかも、意図的に、店員が感染するような行動を取るなどし、ウイルスをばら撒きました。その結果、そのお店は営業停止になってしまったようです。彼が頭2の魂2−4であることと、大局的見地の数字が30であることを踏まえると、このような行為も、納得ではあるのですが』

    「彼の場合、下段の枝番も、欄外の枝番もほとんどが“9”であり、“性悪説”的な気質が強いことから、今回のようなウイルスを撒き散らして他人に被害を与えるような行動を、平気でとってしまう可能性が高い人物のようじゃの」

    『なるほど。彼によって感染させられてしまったお店と店員には大いに同情しますが、“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるように、屍に鞭打つのではなく、彼の行動によって、コロナの感染度の高さと脅威が世間に知れ渡ったのだと、前向きに捉えようと思います』

    青年の言葉に陰陽師は一つ頷き、口を開く。

    「して、次の人物は、どのような人物なのかな?」

    『三人目、羽田雄一郎議員は、享年53歳で、基礎疾患に糖尿病や高血圧などがあったようです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を書き記し、青年はその様子を黙って見守る。

    羽田雄一郎さんSS

    属性表を見た青年は、眉間に皺を寄せながら口を開く。

    『羽田さんは、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”の相があったものの、“4:病気”の相はありませんでしたし、健康運が7であることから、先ほどの二人の健康運“3”に比べたら数値はましだと思うのですが、やはり、総合運の各項目の数字が“7”以下の場合には、注意が必要ということなのでしょうか?』

    「以前も説明したが、令和に入ってから、魂の属性7の唯物論者の場合、霊脈先祖(魂の種類が同じ先祖)の霊障がない分、魂の属性3の霊媒体質の人物よりも、血脈の霊障がより強く顕在化する傾向が強くなっておるようじゃな」

    『なるほど。そのあたりも体主霊従の世界から、霊主体従の世界への回帰の一端なわけですね』

    陰陽師の話に大きく頷いた後で、青年は先を続ける。

    「次は、四人目の岡江久美子ですが、彼女は享年63歳で、基礎疾患はなかったものの、2019年末に乳がんの手術を受け、その後半月ほど放射線治療を受けていたため、免疫力が低下していたと思われます』

    岡江久美子さんSS

    先ほどの三名の結果と見比べながら、青年はしばらく黙考した後で、口を開いた。

    『岡江さんは、健康運は8と高かったものの、天命運と血脈に“4:病気の相”血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますね。それに、彼女も“唯物論者”的な気質の持ち主だったことから、たとえ、健康運の数値が高くても、血脈の霊障の影響を大きく受けていたという理解で問題ないですね』

    「基本的にはその通りなのじゃが」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、そう前置きしてから、陰陽師が言葉を続ける。

    「彼女の場合、二人目の男性同様、第4チャクラが乱れていることが、死因の大きな要因となったようなのじゃ」

    『第4チャクラが、死亡の一因ですと?』

    「一般的には、ハートチャクラなどと呼ばれておるようじゃが、第4チャクラが乱れている場合、往々にして、病気にかかりやすいという特徴があるとともに、最悪の場合、死に至る病を患う可能性が高くなったりするわけじゃな」

    青年は陰陽師の説明に息を呑み、しばらくしてから口を開いた。

    『と言うことは、岡江さんの場合、“4:病気”の相によって乳がんを患い、免疫力が低下していたところに、第4チャクラ“5:事故・被害者・死亡”の相が重なることによって、コロナに感染してしまい、その挙句に亡くなったという、合わせ技なわけなのですね…』

    「残念ながら、その可能性が高いようじゃな」

    『…そうでしたか、何とも、痛ましいかぎりです』

    小さく首を振りながらそう答えた後、青年は気を取り直して、次の人物を紹介する。

    『次は、コロナに感染した後に回復した人物なのですが、一人目の石田純一は、66歳で脳と肺に基礎疾患があったものの、コロナが流行り出した頃に感染し、一時は危ぶまれたようですが、生還しています』

    青年の言葉を聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    画像5

    それを見た青年は、驚きに目を見開いてから、声を上ずらせて言う。

    健康運が3とかなり低い上に、基礎疾患があり、さらに血脈の霊障に“5:事故・被害”の相があるので、これまでの方々の結果を鑑みるかぎり、亡くなっていてもおかしくないと思いますが、霊障の“5”の相が、“死亡”ではなく“怪我”だったことから生還できたというわけなのでしょうか?』

    「ワシが知るかぎり、彼は還暦を過ぎてからも運動するなど、健康的な生活習慣を続けていたようじゃから、もともとの健康運の低さを、運動でカバーしていたことも、助かった要因の一つかもしれぬが、おぬしの言うように、決定的に明暗を分けたのは、“5”の相が“死亡”ではなく、“怪我”だったことなのじゃろうな」

    『なるほど』

    説明を聞いて大きく頷く青年に、陰陽師が先を促す。

    「して、次はどんな人物かの?」

    『二人目の一般人男性は、53歳で、基礎疾患はなく、感染した後に集中治療室に入るほどに重症化しましたが、現在は、容態が安定しているようです』

    青年が無言で見守る中、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    遠藤雅行さんSS

    属性表を眺めた青年は、何度も頷いてから、口を開いた。

    『この男性は、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますが、健康運が9で基礎疾患がなかったことが助かった要因なのでしょうか?』

    「この男性の場合、“5:事故・被害・死亡”の相が、今回のコロナには該当しなかったと考えられるのも一つの考え方じゃろうし、健康運が“9”じゃったことも、命を取り留めた要因のひとつなのじゃろうな」

    陰陽師の言葉をしばらく吟味してから、青年は口を開く。

    『つまり、“5:事故・被害・死亡”の相があるからと言って、事故が起きたら必ず死ぬとは限らないわけなのですね』

    「さよう。そのあたりが、不可思議な世界の不可思議たる由縁で、いつも話しているように、この世の神羅万象のすべてを、思議で推し量ることは不可能とワシが話す典型的な例なのかもしれんな」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシのクライアントの中にも、“5:事故/事件”の相があり、何度も事故に遭っているものの、今もぴんぴんしておる人物はおるのじゃが、このような人物も含め、まだ今世の宿題が残っていたために、たとえ霊障に“死亡”の相があったとしても、必ずしも死ぬわけではないということが、往々にして起こり得るわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の説明に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ただし、そうはおっしゃっても、“5:事故/事件”の相を解消しない限りは、今後もまた事故に遭う可能性は高く、“死亡”の相がある場合は、その人はいつの日か、事故/事件で命を落とす可能性が残っているわけですね』

    「まあ、基本的にはその通りなのじゃが、先ほども話した通り、そのように、右左、正誤などと決めつけられないのが、“不可思議”の世界の“不可思議”たる由縁なわけではあるのじゃが」

    そう言い、暗い表情をする青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。

    「いずれにしても、この6名の鑑定結果を見てわかるように、人間は多面体であることから、特定の部分のみを抽出して、結論に結びつけぬよう、気をつけることが肝心となるわけじゃ」

    『はい。今のお言葉、よく肝に命じておきます』

    そう言い、青年はしばらく口をつぐんでから、再び言った。

    『ところで、ふと気になったのですが、コロナに感染した人物の共通点として、“5:事故・被害”の相があったと思います。なぜ“4:病気”の相ではなく、“5”の相なのでしょうか?』

    「というと?」

    『トランプ大統領は、コロナは“武漢のウイルス研究所由来の証拠がある”と訴えていたようですし、このウイルスは自然界のウイルスではなく人工ウイルス、つまり、細菌兵器による人災の被害者だから、“5:事故・被害”の相が出ているという可能性は、ないのでしょうか?』

    「そのあたりの問題については、世界の権威ある科学者がコロナを人工だと公表していない以上、現時点では何とも言えないじゃろうな。特に、今回挙げた人物に全員“5:事故・被害”の相があることを根拠として、コロナが細菌兵器だと考えるのは、早計だとワシは思う」

    『それは、失礼いたしました』

    そう言い、罰が悪そうな表情をする青年に対し、陰陽師は微笑みながら一つ頷き、説明を続ける。

    「いやいや、そう恐縮することはない。ワシがそう思う根拠としていくつかの理由があるのじゃが、そのひとつとして、以前、中世に幾度となく流行した黒死病、つまりペストについて色々とみてみた時の経験がある。何を言いたいのかと言うと、当然ペストは疫病なわけじゃから、ワシがみた犠牲者の多くが“4:病気”の相を持っていてよさそうなものなのじゃが、実際は、犠牲者のほとんどが“4:病気”の相ではなく、“5”の相を持っていた」

    陰陽師の説明を聞き、真剣な表情で何度も頷く青年。
    陰陽師は、青年が話についてきていることを確認し、説明を続ける。

    「よってこの一例だけ見ても、そのあたりの推測は正しいと、ワシなりには思っておる。さらに言えば、令和との関係じゃ。以前から何度も話しているように、令和の世界的な“変革”のひとつに“疫病”があることもそうなのじゃが、カミゴトとしてみても、今回の一件は人為的なものではない」

    『そうだったのですか』

    目を大きく見開き、そう答える青年を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「まあ、このあたりのことはカミゴトゆえ、声を大にして主張するつもりはないのじゃが、去年の冒頭より、今回のウイルスは相当厄介じゃ、と繰り返し述べてきたのも、根拠は、そういうところにあるわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の言葉に小さく頷くと、青年はしばらく逡巡した後、言葉を続ける。

    『ちなみに、今回挙げた中で亡くなった方々は、無事にあの世に帰還できているのでしょうか?』

    「どれ、確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かした後、続ける。

    「うむ。幸い、全員、無事にあの世に戻っておるようじゃ

    微笑みながらそう言う陰陽師の言葉を聞き、青年は安堵の息をもらす。

    『それならよかったです。志村けんさんは、既に様々な業績を残されているだけではなく、コロナ禍で売り上げが落ちた友人の飲食店にわざわざ通って支援するような優しい方でしたから、あの時期にコロナで命を落としても、悔いがなかったのでしょうね』

    「それにじゃ。彼を始めとする大物有名人が亡くなったことで、コロナの危険性が世間の人々により深く伝わったことは、まぎれもない事実なわけじゃから、非常に痛ましいことではあったが、コロナによる被害者を減らすことに一役を買ったことも、ひょっとすると、彼らの宿題の一部であったのかもしれんな」

    『なるほど。彼らの死を無駄にしないためにも、残された僕らは、いっそう魂磨きの修行に励まねばならないということですね』

    「そうじゃな。どのタイミングで肉体を離れることになろうとも、幸/不幸や、生きた時間の長短といった、この世の基準や現世利益に囚われず、今世の課題を果たせるように日々を過ごすことこそが、今世の宿題を果たす唯一の道であることだけは、絶対に、忘れぬようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はコロナで亡くなった人物たちのことを考えていた。
    彼らの死に霊障も関わっているなら、ご神事を受けてもらうことで、コロナによる死者を減少させられるかもしれない。
    また、令和の“変革”によって、見えない世界とは縁遠い、魂7の唯物論者の人物といえども血脈の霊障の影響を受けているという事実を理屈として理解し、体感してもらえるよう、より真摯に説明していこう。
    青年はそう決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2017年に起きた、座間9遺体事件の犯人に対し、第一審で死刑判決が下されたことについてである。
    この事件は、犯人がTwitterを用いて自殺願望がある女性にメッセージを送り、性的暴行と金品の強奪を目的に自宅に誘い、犯行に及んだものである。だが、実際のところ、加害者も被害者も自殺するつもりはなく、被害者の意思を無視した一方的な殺人だったようである。
    また、わずか二ヶ月という短期間で起きた事件という点からも、日本中を震撼させた事件と言えよう。

    加害者の魂の属性や、彼にかかっている霊障については想像に難くないが、9人の被害者には何らかの共通点があったのだろうか?

    一人で考えても埒があかないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は座間9遺体事件について教えていただけませんか?』

    「ふむ。事件名から推測するに、大量殺人事件のようじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから、事件の概要を説明した。

    「なるほど。それはまた、物議を醸す事件のようじゃの。して、加害者の鑑定をするにあたり、まずそなたなりの見立てを聞かせてもらえるかな?」

    陰陽師の問いに青年はあごに手を当ててしばし黙考し、やがて口を開く。

    『魂の種類が4−2であることと、霊障に“5:事件”の相があること、この二つが原因ではないかと』

    青年の見解に黙って耳を傾けていた陰陽師は、やがて指を小刻みに動かし、鑑定を行う。

    「そなたの言う通りのようじゃな」

    真剣な表情で結果を待つ青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「ところで、ちょうど魂の種類の話が出てきたことじゃし、確認も兼ねて、魂の種類と転生回数期について、もう一度そなたなりに理解していることを説明してもらおうとするかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、説明を始める。

     

    魂が生まれた理由

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    青年の回答に一つ頷いた後で、陰陽師が口を開いた。

    「ところで転生回数と魂の別によって、この世での役割もある程度決まっていることについては、どう理解しておる?」

    『この世での魂の種類ごとの役割についてですが、たとえば、今回の事件の加害者は魂の種類が4−2、すなわち、転生回数期が第四期の魂2になり、大量殺人といった凶悪犯罪者を起こす人物の多くが、この属性に該当するとお聞きしました(※第4話参照)』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    《魂の種類》
    魂1:僧侶/王侯
    魂2:貴族(軍人・福祉系)
    魂3:武士・武将
    魂4:一般庶民

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    青年が紙に書いた内容を読んだ陰陽師は、いつもの笑みをたたえてうなずいた後、口を開く。

    「そなたの説明につけ加えるとすれば、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、どうしても物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなる」

    『魂2は観音と不動明王という、一見相反するように思える真逆の二つの側面を持っているとのお話でしたが、今回のケースも、第四期の不動明王的な側面のなせる業だと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙ってうなずくのを視認し、青年は続ける。

     

    加害者の動機と魂の属性

    『加害者は、死にたいとツイートした女性にDMを送り、お金を長期的に引っ張れ、ヒモのような生活が送れること、彼に好意を持ってくれること、という二点を満たす女性を探していたようです』

    「なるほどのう」

    『一人目の被害者は、犯行に使われていた犯人の自宅の初期費用を負担するという、金銭面の条件を満たしていましたが、彼女には交際相手がいると察したことから、もう一つの条件を満たしていなかったため、性欲を抑えきれずに性的暴行を加えてしまった結果、殺害にまで至ったようです』

    「性的暴行を加えたことは理解できるが、その後に殺害までする理由がいまいちわからぬが、そのあたりは?」

    『実は、加害者は2017年2月に“職業安定法違反の疑い”で逮捕されていまして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決が出ていたようです。それで、性的暴行を加えたことが発覚したら実刑になってしまうことを恐れ、証拠隠滅という意味合いも含めて、殺害に及んだと思われます』

    「つまり、加害者は、殺人よりも実刑の方を恐れていたわけじゃな」

    『そのようです。しかも、ヒモ願望があった彼は、働く意欲にも欠けていたようで、一回目の犯行後も、家賃を支払ってくれる次の女性を探していました。また、最初の一人がうまくいったから、次もうまくいくと自信を持ったようで、二人目以降は殺害を円滑に行うため、様々な道具まで準備していたとのことです』

    「加害者が求める、二つの条件を満たす女性はなかなか見つからないと思うが、見つかるまでTwitterを用いては女性を誘い込み、条件を満たさないとみれば、性的暴行を加えて殺害し、再び次の女性を探す、ということを繰り返しておったのじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は眉間にしわをよせてスマートフォンを眺めながら、口を開く。

    『ところがですね、8人目の被害者は金払いがよかったらしいのですが、結局、性欲を抑えきれずに強姦し、殺害したとのことから、犯行に及んでいる最中は、それらの条件を無視してしまっているように見受けられます』

    「結局のところ、性欲を満たすことが目的になってしまったわけじゃな」

    『どうもそのようです。しかも、二人目までは殺害に対して罪悪感を覚えていたようですが、それ以降は罪の意識が軽くなってしまったようで、昏睡状態の女性との性行為による快感を覚えたこともあり、犯行をやめるつもりはなかったとも陳述しています』

    「して、それ以外に、加害者について気になるところはあるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『遺体の切断方法をインターネットで検索したり、発覚を恐れて遺体や解体道具を捨てられずに室内に残していたようですが、犯行を繰り返せば置き場がなくなったり、犯行を重ねるにつれて増えていく遺体から生じる腐乱臭が原因で近隣住民に通報される恐れがあることなどに思いが及ばなかったのかなど、思慮が足りないと思うことがあります』

    「なるほど。たしかに、当該の人物は短絡的な思考の持ち主だったようじゃな」

    陰陽師のあいづちに応えるように、青年は再び口を開く。

    『情報によれば、逮捕される当日まで交際していた女性がまた別にいたことから考えても、彼は逮捕されるまで延々と同じ手口で犯行を繰り返していたのだと思います』

    そう言い、ため息を吐く青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を聞くかぎり、頭2の4−2らしい振る舞いと言えば言えるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は紙にペンを走らせ、鑑定結果を書き記していく。

    白石隆浩SS

    鑑定結果に目を通した青年は、表情を曇らせ、口を開く。

    『やはり、加害者の魂の種類は4−2でしたか。そして、霊障と天命運に“5:事件・加害者・死”の相がありましたか…』

    「加害者が今回の事件を起こした理由として、頭が“2”であることと、枝番の数字が“9”であることが挙げられるが、そのあたり、そなたはどう考える?」

    『頭が2ということは、狩猟民族の末裔、すなわち“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向を持っていると認識していますが、同じ大量殺人犯であっても、頭が“1”である植松聖死刑囚(※第26、27話参照)のように、それが正しいか否かはともかくとして、障碍者や介護の現状を世の中に訴えるような信念みたいなものはなく、己の都合のためだけに事件を起こしたと判断できます』

    「その通りじゃな」

    『ところで、一つ質問があるのですが、加害者が持つ“9”と枝番の数字には、どのような意味を持っているのでしょうか?』

    自力で答えにたどり着けなかったからか、青年は申し訳なさそうに問う。陰陽師は、青年を励ますような笑みと声音で答える。

    「枝番には二つの種類があり、下段の数字と欄外の数字に分けられる。欄外の数字、加害者の結果では“9”に該当する箇所じゃが、この枝番は魂の性質の1・2・3と4・7・9との組み合わせによって意味合いが変わってくるものの、おおむね1から9に向かうにつれて、各々の特徴に“粗さ/雑味”が出てくる」

    『とおっしゃいますと?』

    「この世の印象でいえば、枝番の数字が1〜3の人物は“性善説”、4〜6は“性善説と性悪説”、7〜9は“性悪説”論的な性格を有している」

    『つまり、加害者は枝番が“9”で完全な“性悪説”論的な性格を持っていることから、この世の善悪の基準では悪事と見なされる行動が、彼にとってはそれほど罪悪感を喚起するものではなかったということでしょうか?』

    「人間は、頭の1/2を初めとする、魂の種類、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、そして枝番といった様々な数字の組み合わせでできた多面体のようなものであることから、一概にこうとは言えぬとしても、今回の事件に関しては、そうと言うことになるじゃろうな」

    『なるほど…』

    陰陽師の説明を聞いた後、再び鑑定結果に目を通した青年は、再び口を開く。

    『加害者の魂の特徴は、3番目と4番目の上段の数字が“2”ですから、彼は“攻撃性”と“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という特徴を持っていることになり、さらに欄外の枝番の数字が“9”ですから、霊障の“5:事件”の相との相乗効果によって、この事件を起こしたことは容易に想像できると思います』

    「その通りじゃな。それと、もう一つ言及すべき点は、彼の魂の特徴の5番目の上段の数字が“1”であることじゃ」

    青年は再び加害者の鑑定結果を覗き込み、口を開く。

    『そこは“自己顕示欲”の項だったと思いますが、そこの上段の数字が“1”であるということは、自己顕示欲があまりない、あまり目立った行動を取らない性格のため、学校や介護施設といった公共の場を襲うといったタイプの大量殺人事件ではなく、他人の目が届かない自室で犯行を繰り返したというわけですね』

    「もちろん、杓子定規に考えれば、そのような理解もできなくはないが、魂の特徴の上段の5つの数字の中で、“2”が二つ以上あり、5番目の上段の数字が“1”である以上、そのような人物は、いわゆる“外面がいい”というタイプ、つまり、腹で思っていることとその言動には、それなり以上の乖離がある人物と考えるべきじゃろうな」

    『なるほど。上段の5つの数字は“1”が多ければいいというわけではなく、今回のような数字の組み合わせを持つ人物は、言動に大きな乖離があると理解すべきなのですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が続ける。

    「して、周囲から見た加害者の人物像は、実際どのような印象だったのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて、画面を見ながら口を開く。

    『同級生や以前の職場といった人物からは、素直、真面目、普通、広く浅く仲良くするタイプ、どちらかというと礼儀正しい、好青年など、鑑定結果の通り、外面はよかったようです』

    「なるほど。であるとするならば、今度は、被害者たちを鑑定していくとするかの」

     

    被害者たちの魂の属性

    『彼が今回の事件を起こした背景に納得できましたが、9人の被害者の方々にはどんな共通点があったのか、とても気になります。ぜひ、よろしくお願いします』

    そう言い、青年はスマートフォンの画面を見ながら、被害者たちの名前を挙げていく。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、手元の紙に鑑定結果を書き出していく。

    1人目

    三浦瑞季SS

    2人目

    石原紅葉SS

    3人目

    西中匠悟SS

    4人目

    更科日菜子SS

    5人目

    藤間仁美SS

    6人目

    久保夏海SS

    7人目

    須田あかりSS

    8人目

    丸山一美SS

    9人目

    田村愛子SS

    被害者9人の鑑定結果を食い入るように見た後、青年は口を開く。

    『やはり、全員に“5:事件・被害者・死”の相がありましたか…』

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「霊障以外にも、人運、欄外の枝番、頭の1/2、精神疾患にも共通点があるが、そなたはどう考える?」

    陰陽師に問われた青年は、再び鑑定結果を眺め、しばらくしてから答える。

    『全員の人運が3以下と極端に低いですね。3人目の被害者の男性は人運が7と高くはないものの、彼は1人目の被害者の交際相手で、加害者が彼に対面した際に、彼を通じて殺人事件が発覚するのを恐れ、口封じ目的で殺害したとのことですが、結局は1人目の交際相手との縁と“5:事故/事件”の相によって巻き込まれてしまったのだと考えられます』

    「たしかに、そのようじゃのう」

    『あと、欄外の枝番ですが、ほぼ全員が“1〜3”すなわち、“性善説”論的な性格を持っていることと、頭が“1”という点から、被害者たちは犯人の外面の良さに惑わされ、自分が殺害されるとは露ほども思わなかったのかもしれませんね』

    「そなたの説明に一言つけ加えるとすれば、2人目の被害者の枝番の数字は“5”、すなわち“性善説と性悪説”論的な性格を有していることから、彼の怪しい点に気づけた可能性もあったのじゃろう。しかし、そこを見て見ぬふりをしたのか、見抜けずに殺害されたかはともかくとして、2人目の被害者も、結局は、霊障に引っ張られてしまったと考えるべきじゃろうな」

    『今の問題に関連してお聞きしたいのですが、今世の使命とその右側の二つの枝番の数字が乱れている人物が多いようですが、こうした数字の乱れを持つ人物は、数字が乱れていない人物に比べて数奇な人生に向かう傾向があると考えて差しつかえないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。加えて、全員の乱れている数字が、他の数字に比べて1から9の方へと増えている、つまり、“性悪説”論的な性格に近づいていることも、“5:事件”の相へ引っ張られてしまった一因なのじゃろう」

    青年は、なるほど、と小さくつぶやいた後、続ける。

    『他者の“念”、雑霊/魑魅魍魎を拾った際に顕在化する精神疾患の共通点としては、多くの人は“13:邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”、“14:邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”、の二つがあるのに対し、被害者たちは全員13のみですが、こちらなども、加害者の“念”を拾ってしまい、自殺という暴力的な方向に引き寄せられてしまったと考えるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を左右に降ってから、口を開く。

    「こちらは、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点のみが重篤であるのと同様、14番がなく13番だけということは、それだけ13番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    『なるほど。そのあたりも、被害者たちが犯人に引き寄せられた要因ともなっているわけですね』

    「そういうことじゃ」

    『さらに、今回の事件は、魂の属性が3:“霊媒体質”の人物が、雑霊/魑魅魍魎の周波数が似ているインターネット上のTwitterを介したことで、被害がより拡大したと』

    「その点も、そなたの言う通りじゃろうな」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてから、続ける。

    「我々のような“霊媒体質”の人間からすれば、今回の一件に“霊障”が一定以上の影響をあたえておることを理解できるじゃろうが、魂の属性7:唯物論者にすれば、インターネットを通じた縁でこんなに多くの人物が殺人事件の被害に遭うこと自体が、理解の埒外なのだと思う」

    『精神鑑定の結果、加害者には刑事責任能力が認められると判断されましたが、加害者は、“警察に、性犯罪は麻薬をしているような状態と言われ、まさしくそうでした”と供述していたようで、なぜあのような凄惨な事件を起こしてしまったのか、本人もよくわかっていないようですね』

    青年が苦々しくそう言うのに対し、陰陽師は口を開く。

    「そのような顔をするでない。“あの世”や“永遠の世”は言うに及ばず、“この世”でさえ、唯我々が考えているほど、単純なものではない。どう単純ではないかと問われ、一言でその答えを提示することは難しいが、少なくとも、このような事件の加害者/被害者の今世の宿題、そして各々にかかる様々な霊障をじっくり吟味することによって、初めてその解を導くことができるのじゃ」

    『なるほど。現行の法律で杓子定規に裁けるほど、物事は単純ではないと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    『それに関連して一つ質問があるのですが、もしも今回の事件の加害者と被害者が全員、ご神事を受けて霊的な重荷を取り除いていたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?』

    「仮定の話であるゆえ断言することはできぬが、被害者の立場で今回の一件を考えるかぎり、この事件の主な原因が“5:事件・死亡”の霊障であることから、事件を回避できた可能性もなくはないじゃろう」

    『それならなおさら、一人でも多くの方にご神事を受けていただき、今回のような事件で命を落とす人物が少なくなってくれたら、と願うばかりです』

    そう言い、視線を落とす青年を横目に陰陽師は続ける。

    「ところが、問題は単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと?』

    「今も話した、今世の宿題の問題じゃ。いつも話しておるようにワシが執り行う神事とは、霊的な重荷を外して、素の状態に戻すためのものでしかない。つまり、神事によって善人にすることが目的ではないわけじゃから、仮にこの事件の関係者全員が神事を受けて霊障が解消され、パフォーマンスが100%になっていたとしても、加害者は同様の犯罪を犯していたじゃろうことは属性表を見るかぎり、明らかじゃ」

    『そうなのですか? ご神事を受けたクライアントの中には、別人のように性格や立ち居振る舞いが変わった人物もいたとお聞きしましたが』

    「もう一度、加害者の数字をよく見てみるとよい。そもそも、加害者の魂の種類が4−2で枝番の数字が“9”であることをはじめとし、属性表を総合的にみると、素の状態の彼がこの世の基準でいう悪事を働くことが当然と考える人物であることがよくわかるはずじゃ」

    そう言われ、青年はあらためて属性表に視線を落としながら、口を開く。

    『たしかに。この属性表をよく見るかぎり、犯人は、“7人目以降はお金よりも性的暴行目的になった”と言っていたことも合わせて考えると、今回のような大量殺人事件でなかったとしても、性欲を抑えられずに婦女暴行を行なっていた可能性は極めて高そうですね』

    「そのとおりじゃ」

    『そう言えば、加害者が逮捕される日まで交際していた女性がいたようですが、その人物の鑑定もお願いできますか?』

    そう言い、青年は10人目の被害者になる可能性があった女性の情報を告げる。

    陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    加害者の交際相手

    10人目SS

    しばらく鑑定結果を眺めていた青年が、ふたたび口を開く。

    『助かった人物と被害者たちとの相違点は、霊障と天命運の“5:事件”の相の一部が“死亡”ではなく“怪我”であることと、そして、枝番の乱れがないことですね。ただ、精神疾患が13のみであることと、人運の数字が“7”、枝番の数字が“3”であることから、やはりこの女性も霊障によって加害者と引き寄せられていたのでしょうか』

    「おそらく」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「そうした微妙な属性の違いのせいで、この女性は、紙一重の所で、事件の被害者にならずに済んだようじゃな」

    『加害者が逮捕されたために、今回は事件では決定的な被害に遭わなかったものの、霊障と天命運に“5:事件”の相があることに変わりはありませんから、今後が心配ではあります…』

    「たしかに。この女性の場合、今回の一件含め、命を落とすまでの被害には遭わないとは思うが、それでも行く末はちと心配じゃの」

    陰陽師の言葉に大きく頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    加害者の家族構成と魂の属性

    「ところで、話は変わるが、加害者の家族構成はわかるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを見ながら口を開く。

    『両親と妹がいる、四人家族です。ただ、現在、両親は離婚し、妹さんは母親について行ったようですが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    白石隆浩SS

    白石隆浩・父SS

    白石隆浩・母SS

    白石隆浩・妹SS

    白石一家の鑑定結果に目を通した青年が、大きな声を出す。

    『なんと。犯人の父親も、魂の種類が4−2なのですね! そして、両親共に恋愛運が“7”で、霊障と天命運に“8:異性”の相があることから、組み違いの家庭を築き、離婚に至ったと』

    「どうやら、そのようじゃな。じゃが、霊障や諸々の数字が犯人と異なるし、枝番も“3”と“性善説”論的な性格であることなども踏まえると、凶悪犯罪者ではないと思われるが、具体的にどのような人物なのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、答える。

    『加害者の父親は、大手自動車メーカーに勤務しており、近所の方による彼の人物像は、“すれ違えば、車の窓まで開けて丁寧に挨拶する人物”とあり、社会に適応して暮らしている印象を受けます』

    「やはりのう。いつもワシが、人間は多面体であり、頭の1/2、基本的気質、具体的性格、今世の使命、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、枝番や育った環境などで人格は異なるという話をするのは、この親子のように、頭が2であり、魂の種類が4−2だからといっても、みんなが皆、凶悪犯罪者になるとは限らぬということも、その理由の一つとなっているわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいてから、口を開く。

    『たしかに、魂の属性が親から子、あるいは祖父母から孫へ受け継がれるケースがあることを鑑みるに、仮に“魂4−2は全員、凶悪犯罪者”という図式が成り立つならば、加害者の父親の一族の多くが凶悪犯罪者になってしまいますからね』

    「そなたの言う通りじゃ。いずれにしても、人間には多面性があること、そして、ひとつの数字だけを取り上げて人物を評価してはならぬという大原則を、よく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずいてから、口を開く。

    『はい。魂の種類だけによる人物評価は、下手をすると魔女裁判になりかねませんので、鑑定結果の一部だけをみて早合点しないよう、肝に銘じておきます』

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、再び口を開く。

     

    事件に対してどう向き合うべきか

    「地球上の人類全員が善人になれば、不幸な事故や事件で命を落とすことはなくなると、凶悪犯罪がなくなることを願ってみたり、既存/新興の宗教が提唱するような地上天国を目指したくなる気持ちはわからんでもない。じゃが、常々説明しているように、この世は魂磨きの修行の場であるから、仮に地球人全員が神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、どこかしらの国や地域で凶悪犯罪や諍いがなくなるわけではないことをよく肝に銘じておくようにな」

    『今のお話、あらためて、了解いたしました。そして、たとえ素の状態であっても、凶悪犯罪を起こすことが今世の課題である加害者もいれば、その事件で命を落とすことを決めて産まれてきた被害者もいることもしっかりと頭に叩き込んでおきます』

    「うむ。その心意気じゃ。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、悪に反応して人を叩くのではなく、この事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要じゃとワシは思う」

    青年は、陰陽師の言葉をかみしめるように何度もうなずいた後、スマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『そうですね。この事件の影響で、Twitterは“自殺、自傷行為をほのめかす投稿を発見した場合は、助長や扇動を禁じます”との文言を追加し、違反者にはツイートの削除やアカウント凍結の措置をとるようになりました。また、日本政府も、“インターネットがきっかけになったとした”上で、ICT(情報通信技術)を活用し自殺予防策を強化する考えを示した、とあります』

    「そうした社会の動きによって、今後、同じ手口による被害者を減少してくれるとよいのじゃが」

    『おっしゃる通りだと思います。被害者の中には10代の若さで亡くなった人物がいることを思うと残念でなりませんが、この事件をきっかけに、同じような事件の被害者が少なくなることを願わずにはいられません』

    「ワシもそう思うが、人生の長短よりも、当人が今回の転生で自らの宿題を果たせたかどうかということ、そして当人の魂が肉体を離れる際に、この世に未練なくあの世に戻れることの方がはるかに重要じゃと、ワシは思う。400回の輪廻転生は、たとえるなら、制限時間つきの長距離走のようなもので、道草を食ったりコースとは関係ない道を迂回していたら、結局は終了時間が近づくにつれて速く走らねばならなくなる」

    陰陽師の説明を反芻しているのか、青年は真剣な表情でしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

    『つまり、パフォーマンスが低いまま長生きして今世を終えたとしても、じゅうぶんな魂磨きの修行ができたとは限らず、今世でこなせなかった課題が持ち越され、来世以降の人生がより過酷になる可能性がある、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。さらに言うと、今世が過酷で生きづらいと感じている人物は、前世でこなせなかった課題が今世に持ち越されているという可能性がゼロではないと、ワシは思う」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に一つ大きく頷いた後で、青年が口を開く。

    『ちなみに、今回の事件の被害者の中で、この世に未練やなんらかの執着があって地縛霊化している魂はいるのでしょうか?』

    恐る恐る問いかける青年に対し、陰陽師は指を小刻みに動かした後に口を開く。

    「いや。ワシがみるかぎり、今回の事件の被害者全員が地縛霊化していないことから、全員に“5:事件・被害者・死”の相があったものの、“殺されるというのも宿題の内”であったようじゃな」

    『そうだったのですね。胸が痛む事件であることには変わりませんが、被害者みなさんの魂が無事にあの世に戻っていると知り、少し安心しました』

    そう言って深い息を吐いた後、青年は続ける。

    『とは言うものの、先生に先祖供養の救霊神事祀りを依頼する人物が増え、今回のような事件で命を落とす人物が減り、同時に魂磨きの修行に励む人が増えたらと、あらためて思います』

    青年の言葉に、陰陽師はいつもの笑みでうなずき、壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はあの世とこの世の仕組みについて再考していた。
    あの世の理屈では、早く死ぬことが必ずしも悪となるとは限らないが、そうは言っても魂磨きの修行のためにこの世に来ていることを考えると、400回のうちの貴重な1回であることに変わりはない。
    この事件の被害者の命を無駄にしないためにも、そして、未来の自分、さらには来世の自分のためにも、この事件から気づき、学んだことを己の天命の糧にしよう。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    青年は思議していた。

    陰陽師が対応している、日々のお祓いと結界についてである。
    霊媒体質を持つ人物が他者の念や雑霊を拾った場合、主に心身の不調による様々な症状が顕在化することはわかった。
    ただ、中には、仕事が忙し過ぎてお祓いの依頼ができない人や、短時間に何度もお祓いを依頼しても追いつかない人もいる。
    そうした人物には結界を張っていればいいのではないかと思うが、陰陽師はよほどのことがない限り、結界を張らないという。
    いったいなぜだろうか?

    一人で考えても埒があかないと青年は思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はお祓いと結界について教えていただけませんか?』

    「それは構わぬが、その質問に答える前に、それらと深い関係がある、人の念と雑霊/魑魅魍魎について、まずは話をしておこうかの?」

    陰陽師はそう言うと、青年と視線を合わせる。
    青年はしばらくきょとんとしていたが、陰陽師の意図を察し、やがて口を開く。

     

    念とは

    『“念”は、人間の感情を起因として生じ、呪いと生き霊と邪神の三つに大別することができます。“呪い”は、誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じ、“生き霊”は、たとえば社会全体といった、不特定多数の対象に向けて発せられた念のことであり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“念”となって他者に届いてしまう現象と認識しています』

    「最後の邪神については、どう記憶しておる?」

    『既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”、と記憶しています』

    「ふむ。人の念については、概ね理解できておるようじゃな」

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、紙にペンを走らせる。

    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念
    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”

    「“念”を発する人物が、霊媒体質か霊能力持ち(±*)かで、他者への影響の表れ方が異なるが、それについては、どう考えておる?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考し、しばらくして口を開く。

    『霊能力持ち(±*)の人物から生じた念は、対象の人物に直接届きますが、霊能力持ちでない人物から生じた念は、その人物にとって身近な魂3:霊媒体質の人物が、磁石が砂鉄を自然に集めてしまうように拾ってしまいます』

    「さらにつけ加えるとすれば、念は物理的な距離と関係なく届いてしまうため、近くで赤の他人が口喧嘩していても、それらを拾ってしまうのはもちろんのこととして、SNSで見知らぬ人物の投稿を見たりするだけでも、それらに込められている念を拾ってしまうことも、合わせて忘れぬようにの」

    『はい。“念”と雑霊/魑魅魍魎と電磁波の周波数が似ていることから、霊媒体質のクライアントには、SNSを使用する頻度に気をつけるよう、常日頃、皆様にお伝えしています』

    陰陽師は青年の言葉を聞き、満足そうに頷いてから口を開く。

    「人の“念”に関しては、概ね、その通りなので、次に雑霊/魑魅魍魎について、詳しく説明していくとしよう」

    『よろしくお願いします』

    頭を下げてそう言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    雑霊とは

    「雑霊は、あの世に行きそびれた動植物のことなのじゃが、厳密に言うと、動植物に限らず、アメーバのような単細胞生物からウイルス、果ては、岩石のような無機物までもがその対象となる」

    『無機物も地縛霊化するということは、八百万の神という概念もあながち間違いではないと言えそうですね』

    青年はそう言い、顎に手を当ててから、再び口を開く。

    『動植物の地縛霊が子孫にかかることは理解できますが、アメーバやウイルスは細胞分裂によって増殖することから、先祖と子孫の差があるのか不明ですし、岩石のような無機物の場合は、どのようなメカニズムで地縛霊化するのでしょうか?』

    「現代の科学を基準に物を考えるかぎり、たしかに変な話に聞こえるじゃろう。ワシとて、現代の科学知識しか持ち合わせておらぬ故、論理的な説明はできぬとしても、たとえば、炭素という原素一つをとってみても、人間の炭素、動植物の炭素、岩石の炭素という別がないあたりに、解答が隠されているはずじゃ」

    「なるほど。そのように考えれば、岩や石も無機物ではなく、生きているということになりますからね」

    「その通りじゃ。いずれにしても、このあたりの科学的な究明は、あと何百年か待たねばならぬのじゃろうが、今断言できることは、生物学的に子孫が存在する動植物も含め、“雑霊”は同種の子孫にはかからず、我々人間にかかるという事実じゃ」

    『なるほど。現代の科学でその理由は解明できないものの、現実としてはそうだと。まさに、不可思議な理屈なのですね』

    青年の言葉に対して陰陽師は小さく笑ってから、続ける。

     

    魑魅魍魎とは

    「さて、その次は魑魅魍魎じゃが、彼らは“山や川の精霊・化物の類の総称”、具体的には天狗・座敷童・麒麟(似非神様)といった、目に見えない存在が地縛霊化した存在となる。もちろん、海外では全く別の名称でよばれていることはいうまでもない」

    『え、魑魅魍魎は、先生が日頃口にしている、“マンガの世界”の話だと思っていましたが、実在するということでしょうか?』

    青年は冗談めいた口調で語りかけるが、陰陽師は真剣な表情で口を開く。

    「今日のように宅地化が進み、かつての森や林などをほとんど見かけなくなった都会には、魑魅魍魎が存在する余地など残っていないと、世間で認識されておるのじゃろうし、さらに言うと、科学万能の現代では大多数の人間が、“想像上の生き物”と思っているのであろう」

    陰陽師の説明に耳を傾けて黙って頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところが、ワシのクライアントの中に相当数おる“見えないはずのものが見える”人物たちに、彼らに魑魅魍魎がどのように映るか質問すると、“龍のようなもの”、“座敷童のようなもの”、“サルの化物のようなもの”と答えが返ってきたりする」

    『なるほど。人によって、魑魅魍魎の姿形が異なって見えるのであれば、信憑性が薄くなりますが、ある程度同じように見えているなら、確かに存在していると言えなくもなさそうですね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    陰陽師の返答に対し、青年はしばらく黙考した後、再び口を開く。

    『魑魅魍魎は見えない存在であるにもかかわらず地縛霊化するということは、肉体がないのに寿命があるということでしょうか。エネルギー体、そこまで言わないとしても、狭義の意味で、三次元の生物ではない彼らは、不死だと思っていました』

    「もちろん、我々人間と比較すればかなり長い寿命を持っておるのじゃろうが、そんな彼らもいつかは死を迎える運命にあり、死際にこの世に念を残すと、人間と同様、地縛霊化することには変わりはない」

    『なるほど。魑魅魍魎には先祖や子孫といった概念がなさそうですので、消去法的に人間にかかることになると』

    「その通りじゃ。そして、雑霊/魑魅魍魎は、人の“念”と同様に霊媒体質の人物にかかりやすく、精神疾患や体調不良の原因ともなっているので、ワシが日々行なっている“お祓い”の対象になるわけじゃな」

    『日々の“お祓い”で対応していただけることに安心しましたが、人の“念”だけでなく雑霊/魑魅魍魎も拾っているとは、霊媒体質の人物はほんと大変ですね』

    眉根を寄せてそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「ところで、それら三つを拾うことによって、どのような問題が生じるか、覚えておるかな?」

    『それらを拾ってしまった、特に霊媒体質の人物には、その人によってそれぞれ顕在化しやすい精神疾患や、身体の不調が増幅されることによって、心身に様々な不調が生じることになります』

     

    霊障について

    青年はそう言い、紙に“霊障による精神疾患”の項目を書き足していく。

    1.躁鬱、2.気分のむら、3.情緒不安定、4.摂食障害、5.中性、6.コミュニケーション障害、7.ひきこもり、8.接触障害、9.偏執、10.攻撃性、11.不眠、12.発達障害、13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる) or 暴力、諸事に支障をきたす、14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく) or 口撃、人的な問題で諸事が前に進まず、15.精神性疾患(たとえば、不整脈・喘息・癲癇・アトピーから偏頭痛に至るまで霊障を拾い精神疾患が顕在化した結果起こる病気全般)、16.統合失調症、17 . その他

    「大事なことじゃからあらためて説明するが、霊媒体質の人物が拾ったそれら三つは、その人間がかかった霊障を跳ね飛ばした場合、周りの人間の所持品に転写され、グッズの霊障(※第33話参照)になってしまうことがある、ということも覚えておくようにの」

    『そうでした。グッズの霊障はあらゆる物質にかかりますが、特に気をつけるべきグッズがあったと思いますので、確認も兼ねて書かせてください』

    青年はそう言い、紙にペンを走らせる。

    《霊障が憑きやすい、気をつけるべきグッズ》
    偶像:宗教的意味合いを持つ像物(仏像やイエス・キリスト像など)
    お札:神社などで販売されている木や紙、またはお守り類
    神具:お寺の木魚・鉦(かね)や、宗教行事全般で使用されている様々な神具
    電子機器:パソコン、スマートフォンやそれらに付属するコード類など

    ※以下、転写によって念が憑きやすいグッズ
    数珠や宝石系のブレスレットなど、腕に巻く物
    寝具:枕、布団、パジャマ、など長時間肌に触れる物
    下着

    「それと、グッズそのものが妖気を発しているケース(2+)として、霊障の原因が自然由来である場合と、グッズの制作者や所有者の念が原因である場合があることも、合わせてよく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいて見せてから、続ける。

    『わかりやすい例として、以前に先生から某新興宗教団体の御本尊についてご教授いただいた際に、どこかで大量に印刷され、信者に配布される前に特定の場所で保管されていた御本尊が、その流通過程で、たとえば、“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考える霊能力持ちが介入するだけでも、念が入ってしまうことがあり得るとのお話を伺いました。そのような場合、“2+”、すなわち、グッズ自身が“妖気”を発するようになってしまうことさえ起こりうるとのことでしたよね』

    「その通りじゃ。ここまで説明してきたように、念や雑霊/魑魅魍魎は、霊媒体質である人物に対し、様々な悪影響を及ぼすことから、それらを拾ったと感じた時は、速やかに“お祓い”を依頼する必要があるわけじゃ」

    『承知しました。そう言っていただけるのはありがたいのですが、時と場合によっては深夜遅くに依頼することもあり、申し訳なく思っています』

    そう言い、苦笑する青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「そなたのように、霊媒体質のスコアがそれほど高くない人物は霊障の影響を受けにくいから悠長なことを言っていられるが、優秀な霊媒体質である人物にとって、“念”や雑霊/魑魅魍魎が多い環境に身を置くことは、日常生活に支障をきたす危険性と背中合わせであることを、じゅうぶん理解しておく必要がある」

    『そうでした。1日に何度もお祓いを依頼せざるを得ない人物もいらっしゃいますものね。ところで、そのような人の場合、お祓いの依頼をしてばかりで仕事が手につかないことがあるかと思うのですが、何かいい手立てはないのでしょうか?』

    そう言い、青年は表情を曇らせて視線を落とす。
    陰陽師は湯呑みの茶を飲んだ後、口を開く。

     

    結界のメリットとデメリット

    「そのような人物に対しての切り札は、基本的には、結界となる」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は勢いよく顔を上げて口を開く。

    『なるほど! 一日に何度もクライアントがお祓いを依頼するよりも、先生が一度結界を張れば済むわけですね』

    「効果と手間という意味では、たしかに、そなたの言う通りじゃ。しかし、結界とて万能薬ではなく、メリットとデメリットがあることから、結界を張ったから解決、とはいかないのが実情なのじゃよ」

    『なんと。結界にもデメリットがあるとは、意外です!』

    青年は両手を上げ、目を見開いて陰陽師に問うた。
    そんな青年の様子がおかしかったのか、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「結界は、例えるなら、両面鏡のようなものでな、外から飛んでくる他者の念、雑霊/魑魅魍魎を跳ね返すことができる反面、同時に、結界の中にいる当人が、誰かに良からぬ感情を抱いて念を飛ばした場合、本人にダイレクトに跳ね返って心身の不調をきたす恐れがあるわけじゃ」

    『なるほど。結界を依頼した本人の精神状態によっては、外から受ける霊障よりも、本人が他人に飛ばす念の方が強く、場合によってはダメージの方が多くなる可能性もあるのですね』

    「その通りじゃ。それゆえ、ワシは日頃からクライアントに対し、魂磨きの修行の一つとして、不動心を養うことを提言しておる」

    『なるほど。むやみやたらに結界を張ってはならない理由について、よく理解できました』

    「また、本人が念を飛ばさないように不動心を保っていたとしても、身につけているグッズに霊障が憑いていたり、家族や縁が深い人物からの霊脈・血脈の先祖霊の霊障が本人にかかってきている場合、それらの霊障も一緒に閉じ込めてしまうわけじゃから、結界を張ったとしても、改善がみられない場合があることも、合わせて頭の片隅に留めておいてほしい」

    『そういう意味で、結界は使い所に注意を要する切り札となっているわけですね』

    真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「以前(※第32話参照)も説明したが、霊媒体質の人物が生涯に拾える“霊障”の限界値がほぼ決まっておることから、なるべく早く限界値を迎えられるよう、我慢せずに“お祓い”の依頼をするのも一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて腕を組み、しばらく経ってから口を開く。

    『そうは言ってもですね。非常に忙しい先生に、一日に何度もお祓いを依頼するくらいなら、デメリットを理解したうえで結界を張っていただき、手間を省いていただきたいのですが…』

    納得がいかない青年は、それでも陰陽師に食い下がる。
    陰陽師はやや困ったような笑みを浮かべ、青年を諭すように言った。

    「雑霊や魑魅魍魎も、人間とは異なる生命体というだけで、地縛霊化していることに変わりはない。それ故、お祓いをしないで地縛霊化している間は、彼らの魂磨きの修行も中断されてしまうことになる。よって、彼らを結界で跳ね返すよりも、日々のお祓いによって輪廻転生の輪に戻すことの方が、不可思議の世界からみれば有意義な結果となるわけじゃ」

    『なるほど。自分とは無関係なのに、勝手にすがってくる存在の“お祓い”を、なぜ自分がしないといけないのか、と嘆く霊媒体質の人物も中にはいますが、少しかわいそうに思うことがあります』

    「いやいや、そうではない。400回の輪廻転生の中で、半数は今の自分と違う性であることから、“ソウルメイト”とは、決して男女の魂のみを指しているわけではないのじゃ。そして、そのようなソウルメイトが、今世は敵同士であったり、旅先でたまたま知り合い、世間話を交わし他だけの人間であったりする可能性がある以上、今世の親族の先祖霊はもちろんのこと、何かの縁で知り合ったばかりの人間の一族にかかる地縛霊が、かつて、自分と密接な関係を持っていた人間である可能性すらあるのじゃ」

    青年にとって、陰陽師の説明は眼から鱗だったのか、しばらく唖然としてから青年は口を開く。

    『なるほど。姿形は違えど、魂という観点から考えれば、雑霊も魑魅魍魎も人間同様、この世に魂磨きの修行をしにきていて、地縛霊化して苦しんでいて、我々に輪廻転生の輪に再び戻してもらえるようにすがってきているわけですね。雑霊/魑魅魍魎とのご縁も必然だと言うことであれば、彼らのためにも、どんどんお祓いを依頼して、霊障に悩まされずに魂磨きの修行に励みたいものです』

    真剣な表情で言う青年に満足げな笑みを向け、陰陽師は続ける。

    「その通りじゃ。ハリウッド映画の“ゴーストバスターズ”ではないが、そなたのような霊媒体質の人物は“念”や雑霊/魑魅魍魎の収集係のようなものだと考えればよい。一方、“大日不可思議”の霊能力者集団をその処理係だと考えれば、結果として、一致団結してこの世の“大掃除”をしていることになるわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、何度も大きく頷いた後、口を開く。

    『たしかに、僕のような霊媒体質の人間は、直接地縛霊たちの願いを叶えることはできませんが、地縛霊たちは霊媒体質の人間を介して先生とご縁を持つことができ、結果としてあの世に戻れるわけですから、とても重要なことをしていると思います』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑み、うなずいて見せる。
    そして、しばらく思索に耽っていた青年は再び口を開く。

    『話が変わりますが、座敷童がいる家は莫大な富を得る代わりに、座敷童が去った後、かならず廃れると聞いたことがありますが、まるで眷属みたいな存在ですね』

    陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲み、口を開く。

    「家主が座敷童に福の神と同等の価値を見出し、座敷童に少しでも長く自分の家に居てくれるようにと、座敷童がよろこびそうな人形などを部屋にお供えする風習もかつてはあったようじゃから、眷属に祈りを捧げ、願いを叶えてもらう代わりにすがり続けるという関係性は、眷属のそれとは似ていなくもないじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて口を開く。

     

    邪神とは

    『邪神(似非神様)も魑魅魍魎や眷属と似たような存在であると思いますが、それらはどう違うのでしょうか?』

    「邪神(1‘=龍霊、2’=狐霊、3=熊手/狸)が人間によって生み出された“念”の産物であるのに対し、魑魅魍魎の類は、実在の生き物と考えればよい。また、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸が、霊力という点で魑魅魍魎よりも力が強いと同時に、土地にかかるという傾向を持っておる反面、魑魅魍魎の類は、基本的には人間にかかるという傾向を持っていると理解しておくことじゃ」

    『なるほど。邪神が人間の念によって生み出されたものであるのに対して、魑魅魍魎と眷属は、人間とは関係なく、自然を拠り所に存在していたのですね』

    「その通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばし黙考した後、口を開く。

    『おかしな話ですが、以前、飛行機雲に対して“お煙様”という名前を勝手につけてありがたがっている人物がいましたが、そういった“**様”と個人的に祀ることで“邪神”が誕生することもあるのでしょうか?』

    “お煙様”という珍ワードを真剣に言う青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから答える。

    「その“お煙様”がどういった存在なのかはわからぬが、代償を求められるために祀ってはいけないという意味では、邪神の一種と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。僕が過去に世話になった霊媒師は、幼少期に光?観音?を見たり、それに見守られていたと言っていました。ただ、言語化した容姿としては善の存在のように思われますが、その光は結局のところその霊媒師だけに関わっていたことから、本物のカミではなく、雑霊/魑魅魍魎か、眷属だったのでしょうね』

    「その可能性は高いじゃろうな。霊媒体質の強さによって、見えない存在を知覚できる程度は異なるので、見えない物事に対してあれこれ考えることを否定はせぬが、そういった見えない存在に対し、確定的な言い方をしている人物は、そなたの目にはどのように映っておるかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく俯いたのち、ゆっくりと顔を上げて重い口を開く。

    『こう言っては元も子もないですが、そのような人物の多くは、日常生活でなんらかのトラブルを起こしているか、精神疾患の診断が出るのではと思ってしまう人が少なくない気がします』

    青年は、過去に世話になった人物たちを思い出し、軽くため息をついた。
    陰陽師は、そんな青年を横目に続ける。

    「本物のカミは“思議”の範疇で捉えることのできない存在であることから、その人物だけに見聞きできた存在からの情報だけに頼り、物事を進めようする人物には、注意が必要なことだけはたしかじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    霊は地縛霊化している間、ずっと苦しい思いをしている。別に、自分が救霊やお祓いの依頼をせずに、見て見ぬふりをすることもできる。
    しかし、せっかくご神事を行える陰陽師とのご縁を得た自分が依頼しなければ、地縛霊化している魂は、これからもずっと苦しむことになり、次に輪廻転生の輪に戻れるチャンスがいつになるかわからない。
    この世の理屈で物事を考えることも大事だが、見えない世界のことを語る人物が、どこから情報を得ているのか?
    そのあたりのことも踏まえて、あの世とこの世の仕組みをよく理解し、今後も魂磨きの修行に励もうと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    青年は思議していた。

    以前から話題に挙がっている、神の眷属についてである。
    現実でもSNSでも、龍神やお狐様といった、眷属を前面に押し出して情報発信をしている人物が少なくない。
    いろんな神社で神の眷属の名前を目にするが、そもそも、どのような存在なのか?
    また、陰陽師が日頃言及している、“本物の神=カミ”とはどう違うのか?
    青年は、独りで考えても埒があかないと思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は本当の神と神の眷属の違いについて、教えていただけませんか?』

    「今回もまた壮大なテーマじゃな。もちろん、眷属について説明することはやぶさかではないが、その前に、眷属は“霊障”と密接な関係があるため、まずはそこから話を始めるとするとして、その前に“霊障”に関する復習も兼ねて、まずはそなたなりに理解していることを話してもらおうかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『“霊障”には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が日々の“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    青年は陰陽師の様子を見、ここまでの説明で問題がないことを確認し、続ける。

    『また、“霊統”と“血統”は、先祖が子孫にかかっていてもいなくても地縛霊化している先祖霊のことを意味し、“霊統”は本人と同じ種類の魂、“血統”は本人と異なる魂の種類であることを意味しています』

    「では、地縛霊化した先祖霊にとって、かかるべき子孫が途絶えてしまった場合、どうなるか覚えておるかな?」

    青年はしばし黙考して記憶を探った後、口を開く。

    『その場合、その魂にとって縁がある土地や建物、その土地に関わりがある法人にかかります。つまり、先祖霊ではなく“地縛霊”となります』

    青年の説明に対し、陰陽師は満足そうにうなずいた後、口を開く。

    「基本はしっかり押さえておるようじゃが、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    陰陽師はそう言い、紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/建物/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念(呪い、生き霊、邪神など)

    ※以下、眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、今回のテーマである眷属は、土地と法人にかかるパターンと、眷属にすがった人物に対してかかるパターンとが想定できる」

    『眷属も、土地/建物/法人にかかるのですね。それにしても』

    そう言った後、青年はメモ書きを一瞥してから、続ける。

    『龍神と龍霊は龍、稲荷と狐霊は狐と、種類が同じでも呼び名が異なっているようですが、各々、どのように違うのでしょうか?』

    「その質問に答える前によく理解してもらいたいのは、便宜上、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸と呼んでいるだけであり、巷で取り挙げられている存在とは必ずしも同一ではない、ということじゃ」

    『つまり、先生が今から説明してくださる、龍神や稲荷は、世間一般と共通する部分もあるものの、基本的には、別物として話を聞くべき、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。それと、三つの眷属の呼び名は日本特有のものであり、海外では馴染みがないことから、外国のクライアントに対しては、ワシは数字と記号で説明しているわけじゃが、そのことも踏まえ、今から龍神を1、龍霊を1‘、稲荷を2、狐霊を2’、熊手/狸を3として説明していく」

    そう言い、陰陽師は紙で眷属の数字を丸で囲って強調する。

    1:龍神、1‘:龍霊
    2:稲荷、2‘:狐霊
    3:熊手/狸

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずいてから、説明を始める。

    「龍神(以下、1)は、川べりとか、かつて沼・池・湿地帯であったところに家を建てることによって、その住民が霊障を受けるケースで、肺や喉の健康被害をもたらすケースが多い。龍霊(以下1’)は、諏訪大社のような龍神を眷属としている神社に“私利私欲に満ちた”願い事をし、願いを聞き受けてもらったにもかかわらず、その子孫が1’をないがしろにした結果、かかる霊障じゃ」

    『“私は生まれながらに龍神に守られている”などといった発言をしている人がいますが、ああいった人たちの中には、霊障の“17:憑依”の相があるために、新生児の頃から1’がかかっていると考えることもできるのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高い。たとえ生まれつき1’がかかっていたとしても、それをないがしろにした後にしっぺ返しがくる点では、後天的に1に願い事をした人物と同じ末路になる。そうした意味では、その人物と1’の関係は、まさに一蓮托生といった表現が当たっているかもしれんな」

    『生まれつきにせよ、意図的にせよ、ひとたび眷属に願い事をしてしまった場合、しっぺ返しを受けないように死ぬまですがり続けるか、あるいはどこかで覚悟を決めて、僕のように代償を払うか、になってしまうのでしょうか?』

    青年はそう言うと、唸りながら首を傾げる。

    「いや、そうともかぎらんぞ。ワシの話を信じるのであれば、先祖供養を始めとする、神事やお祓いを受ければ、しっぺ返しをうけずに済むと言う解決策も残っておる」

    『たしかに。“17:天啓/憑依”の相は、神事で解消するのでしたね』

    そう言い、青年は再び陰陽師のメモを眺めてから続ける。

    『今度は稲荷(以下、2)と狐霊(以下、2’)の違いについて教えていただきたいのですが、これらも龍神と龍霊の関係と同じようなものでしょうか?』

    「共通する点もあるにはあるが、厳密に言うと、ちと違う。2は、その土地に神社もしくは“祠”のようなものが建っていたが、放置/消滅したケースで、2’は、かつてそこに住んでいた家族/一族が、祀っていた“稲荷/お狐様”への崇拝をやめ、そのまま放置したケースとなる」

    青年は陰陽師の説明を反芻した後、口を開く。

    『お稲荷さんを自宅の庭に建てて祀っている家をたまに見かけますが、あれなんかもその家族/一族が崇拝をやめて放置したら、2‘の霊障が発生するということもあるのでしょうか?』

    「その可能性は、極めて高いじゃろうな。2‘の厄介なところは、崇拝をやめた家族/一族だけではなく、その地に移り住んだ人間にも霊障を及ぼす可能性があるという特徴を持つことから、赤の他人が事情を知らずにその土地を購入/賃貸しただけで、とばっちりを受けてしまうことがある点じゃ」

    『人間の私利私欲でお稲荷さんが建てられ、眷属が生み出されてしまうとは、困ったものです。以前の僕は、稲荷神社を見かけたら必ずお参りをするほどに“お狐様”にはまっていまして、農家と思われるお宅の庭にあるお稲荷さんにも祈りを捧げていましたが、そのような行動も2’の影響を受けるきっかけとなっていたのでしょうか?』

    「以前も説明したが、霊障は距離と関係がないことから、お稲荷さんに対して何らかの思いを向けただけでも、2’の影響を受ける可能性が極めて高いからの」

    『ゲゲエ! ということは、過去に交流していた霊媒師たちが、口を揃えるように、僕が九本の尾を持つ狐に守られていると言っていたのですが、同じ2’でも、いっそう強い霊障を受けていたということになるのでしょうか?』

    身をすくませ、おそるおそる言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いて見せてから、続ける。

    「九本の尾を持つ狐が実在するかどうかはともかくとして、ありがたがっている間に限っては、2’はそなたの現世利益を叶えていたと思うが、お稲荷さんを参拝するのをやめ、ないがしろにしてからは、そなたにしっぺ返しがきた実感はあったのではないかな?」

    思い当たる節があるのか、青年は苦笑して口を開く。

    『たしかに願いは叶っていましたが、お稲荷さんだけでなく、そもそも神社仏閣への参拝をやめてから、それまでのツケが回って大変な状況になりました』

    「おそらく、そうじゃろう」

    そう言い、陰陽師はうなずきながら青年に微笑みかける。
    青年は用意されていた湯呑みの茶を飲んでから、再び口を開く。

    『今度は3:熊手/狸ですが、これだけは先の二つと異なり、3と3’の区別がないようですが、どのような眷属なのでしょうか?』

    「熊手は、戦国時代までは、馬上の武将を引きずり落とすための武器として活躍した鉄製の熊手だったが、戦乱が始まった江戸時代になると、武具から落葉を集める竹製の道具へと変化を遂げる。さらに江戸時代中期になり、金属の貨幣の代わりに藩札などの紙幣が普及し始めると、“落ち葉=お金”という連想から、熊手は“縁起物”として商人を中心とした庶民の人気を集め始める」

    『なるほど。熊手には、そんな由来があったのですね』

    「百科事典にも“熊手”は縁起物として記載されておるはずじゃが、神棚の一隅に飾られ、“商売繁盛”を祈願する以上、その行き先は他の眷属と同じ結果となる」

    『神社ではお守りやお札と色んな品物が販売されていますが、結局は現世利益を叶えたい人々に向けの品物ですし、そうした神具は霊障を集める性質もありますから(※第33話参照)、総じて、それらの品は買わない方がいいのですね』

    真剣な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は満足げに微笑みながら口を開く。

    「ここで先程少し説明した土地の霊障の話に戻るが、1と2と3は、土地/建物/法人にかかっている人霊(魂の種類1〜4)の地縛霊と一緒にかかっていることが多く、土地に対する神事で対応しておる。それ故、クライアントに対し、個人の場合は住んでいる土地の住所と建物を、法人の場合はそれらに加えて法人名も教えてくれるように依頼しておる」

    『大企業の土地/建物/法人に霊障があると、抱えている社員が多いわけですから、多くの人が霊障の影響を受けしまうのでしょうか?』

    「いや。霊媒体質は磁石のような性質であることから、土地/建物/法人の霊障は全員に均等にかかるのではなく、優秀な霊媒体質である社員たちに霊障が集まりやすい。したがって、会社が合併するなどして新たに土地を取得した場合、土地の所有権移転登記をした時点から、当該にかかっている地縛霊の霊障が、特に優秀な霊媒体質の社員に対して突然影響を及ぼすケースもある」

    『つまり、書面上のやりとりだけでも、霊障との関係が変化するということでしょうか?』

    「登記簿謄本、婚姻届け等の公的な紙類と霊的世界の影響をあなどってはならぬ。たとえば、優秀な霊媒体質である人物が、相性が悪い企業に勤めていた結果、心身を病んでしまい、休職したとしよう。休職後に入院し、治療に専念していても、会社に籍を置いてある以上、会社から受ける霊障に限らず、良からぬ影響も休職しても受けてしまうことから、病状が長引いてしまうことさえある」

    『勤めている会社が所有している土地が増えたところで、別部署で勤務している当人には直接関係ないわけですし、ましてや休職後も影響を受けるとなると、気の毒以外の何物でもないですからね』

    「土地から少し話が脱線してしまうが、ワシが日頃、恋愛・結婚の相性を鑑定していることはそなたも知っているじゃろうが、書面を介さない、口頭での交際関係であってもお互いの運気に影響しあうことはわかるかの?」

    『はい。魂1〜3の人物と、魂4の人物による組み違いのカップルの話を聞くかぎり、結婚せずに交際している時点から、既に大変な苦労をしているようです』

    「霊障の“8:異性”による、2−4色眼鏡と2−4逆色眼鏡の組み合わせ(※第20話参照)はわかりやすい例じゃが、たとえば2-3-5-5…2の芸能人同士をみてもわかる通り、魂が同じだとしても相性がいいとはかぎらない。さらに結婚した場合には、お互いの影響力はさらに増すようになる。つまり、ワシの鑑定結果を信じて実際に結婚する場合、入籍届に記載して提出することにより、お互いから見て相性が良ければ(AA以上)、よりいっそう魂磨きの修行が進むというわけじゃな」

    『結婚を結“魂”と、ダジャレのように言い換えている人がいましたが、そのような意味では、あながち間違っているわけでもないのですね』

    「その人物が、この世とあの世の理屈をどこまで理解して結“魂”と言っているのかはわからぬが、夫婦円満な結婚生活という意味ではなく、あくまでお互いの魂磨きの修行が進む相性、と規定するのであれば、その通りじゃろうな」

    陰陽師はそう言い、真剣な表情で黙ってうなずく青年を横目に、続ける。

    「話を土地に戻すが、霊能力を持たぬ一般人が、これから購入/賃貸する土地に霊障があるか否かを判断することは難しいことから、立地の良さや家賃などを重視して物件を選ぶのはしょうがないとしても、引っ越してから不幸な出来事が立て続けに起こった場合、まず霊障を疑う必要はあるのじゃろうな」

    『引っ越しで運気が変わるとよく聞きますが、霊障の有無も密接な関係があるわけですね』

    「その通りじゃ。コンクリートに囲まれた物件であっても、1000年前、2000年前、その土地がどのような場所であったかといった判別がほとんど不可能な現在、当該地が古戦場だったケースや、故郷へと急ぐ旅人が山賊に殺された場所である可能性を常に念頭に置いておく必要があるわけじゃ」

    『1や2の眷属による霊障がかかっているのは、川や沼などが埋め立てられてみたり、祠が区画整理によって潰された可能性もあるからでしたね』

    「その通りじゃ。故に、クライアントには、引っ越す前や新たに土地を購入する前に、事前に候補物件の住所をリストアップしてもらうよう提言しておるわけじゃ」

    『僕も運気がいい物件を鑑定していただきましたので、その節は大変お世話になりました』

    そう言い、頭を下げる青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「以上で、眷属に関する説明と、それらに対して祈ることで被るリスクについて説明したつもりじゃが、どうじゃ、理解してもらえたかな」

    『はい。眷属とは、願いを叶えてくれる反面、代償が必ず生じてしまうことと、祀った後にないがしろにした一族だけでなく、その土地に引っ越してくる赤の他人にも霊障がおよんでしまう、ということでしたね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「眷属に祈ってはならないと常々忠告してはいるものの、そうは言っても、己の力だけで生きていけるほど自信に満ちた人物は多くないじゃろうし、時と場合によっては、現世利益を叶えてくれる眷属のような存在に、すがりたくもなることもあるのじゃろう。しかし」

    一度陰陽師は言葉を区切り、念を押す様に青年と視線を合わせた後、続ける。

    「幸せな未来を願って現世利益を叶えた結果、その次に起こる出来事が本人にとって望ましい結果になるわけではないというのが、この世の常であることはくれぐれも忘れぬことじゃ」

    黙って続きを待っている青年の様子を横目に、陰陽師は続ける。

    「たとえば、怠け者でろくに勉強をしない学生が、学業に霊験あらたかと評判の神社に“絵馬”を奉納し、“神”に志望校合格を祈り続けたとする。その結果、ろくに勉強もせずに志望校に合格したことを、“神の恩恵”と呼ぶべきかの?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『合格した本人にとって、合格は“神の恩恵”かもしれませんが、合格者数が決まっているとすれば、その学生が合格したことで不合格になる学生が現れることにもなるのでしょうし、弾き出された受験生が真面目に勉強していたのだとすれば、そのような構図は、“魔術/呪術”でしかないと思います。それに』

    そこで区切り、青年は学生時代のクラスメイトを思い出してか、納得顔で再び口を開く。

    『勉強もせずに志望校に合格したところで、勉学についていけずに留年したり、最悪の場合は退学することもありますから、当人にとってもそのようなことは、望ましい結果にならないのではと思います』

    「そなたの言う通りじゃろうな。万人の“欲に起因した身勝手な願い”に“本物の神=カミ”が対応するとしたら、それこそ世界は制御不能に陥ってしまい、逆に、“神も仏もない”世界になることじゃろう」

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲む。
    陰陽師が茶を飲み終えるのを待ってから、青年は口を開く。

    『そもそも我々は、魂を磨くためにこの世に転生を繰り返しているわけですから、現世利益を獲得するために生きているわけではなく、神は願いを叶えてくれる存在ではないことはわかります。そうは言っても、もう少し具体的に、僕にもわかるような役割を、“本物の神=カミ”はお持ちなのでしょうか?』

    困惑顔で問う青年を横目に、陰陽師は湯呑みの茶を再び飲んだ後に口を開く。

    「“本物の神=カミ”は、あくまで我々が魂磨きに専念できるよう、この世のみならず、あの世、永遠の世をコントロールしている存在体であり、感謝すべき対象だとワシは思う。さらにそのような存在体の恩恵をあえて挙げるとすれば、我々がこの世で艱難辛苦に遭遇した際に、大難を小難にしてくれる、ということに尽きるのではないかの」

    『大難を小難に、ですか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「たとえば、事故で脚を一本骨折したとする。その事実をもって“なんて不幸なのだろう。神も仏もあるものか”と嘆くのが、一般人の反応じゃと思う」

    『そうですね。ほとんどの人間がそう反応すると思います』

    「しかしそこには、“本来であれば死んでいてもおかしくない事故だったのに、脚一本の怪我で済むとは、なんと幸運なのだろう”という真逆な考え方も存在する」

    陰陽師の説明に対し、青年は手を打ってから口を開く。

    『“脚を一本折った”という事実に対して、本人がどう捉えるか、それが問題ということですね』

    「その通りじゃ。たとえ、事実が一つであったとしても、その事実をどのように捉えるかによってワシらの目の前に広がる景色はまったく変わって見えてくる。そのような意味で、この“大難を小難に”という考え方こそが、“本物の神=カミ”と対峙する基本的な姿勢だとワシは思う。さらに言えば、“本物の神=カミ”が作ったこの世が“修行の場”であるということは、スポーツジム同様、鍛錬をする人間が体を壊してしまっては元も子もないわけで、この世のどのような艱難辛苦も、基本的には、九割九分のところで救われる、という原則が働いていることもよく理解しておくといい」

    何かを思い出したのか、青年はハッと顔を上げて口を挟む。

    『神社には昨年の出来事に対する感謝をするという話を聞いて実践していたことがありますが、その行為は、ある意味正しかったわけですね』

    青年の発言に対し、陰陽師は困った表情で微笑みながら口を開く。

    「以前(※第18話参照)、我々人間の魂に頭の1/2があるのと同様に、神社仏閣にも1/2があり、自分の頭の数字と異なる神社仏閣には参拝しない方がいいと伝えたことも、合わせて、頭の片隅に留めておくようにの」

    『そうでした。僕のような頭1:農耕民族の末裔が、頭2:狩猟民族の祖先となる神を祀った神社仏閣を参拝することは、敵地に自ら乗り込みにいくようなことでしたね』

    そう言い、苦笑する青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を戻すが、これだけの事故で済んでありがたい、と“大難を小難”で済ませていただいた恩恵/加護に対し、“お陰様で”と手を合わせて感謝の意を表すことが、本物の神と向かい合う正しい姿だとワシは思う」

    『そういえば、富士山の山頂でご来光を見た時、思わず手を合わせたことがあります。特に何かを願ったわけではありませんが、今思うと不可思議な体験でしたが』

    「太古より我々人類は、巨岩や樹齢数百年を超える大木や、ご来光に手を合わせ続けてきた。とはいえ、その行為はそれらに対してではなく、それらを含め、地球と宇宙を創造した“人知を超えた存在体”に対する“畏敬の念”から行う、無意識の所作だったはずじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は力強くうなずく。
    陰陽師はそんな青年を横目に続ける。

    「公平無私である“本物の神=カミ”は、“切磋琢磨”などという競争原理を人間社会に持ち込み、我々を権力/経済闘争へと駆り立てることもせぬし、人類間の争いにおいて、どちらか一方だけに加担するなどというようなこともせぬ」

    『そうですよね。“本物の神=カミ”は全宇宙の創造物/生命体に対し、平等な愛を注ぎ、見守る存在なのでしょうから』

    「その通りじゃな。多くの宗教の“えこひいきし、妬む神”が、四次元を含めた宇宙の秩序をコントロールしていると言われても、その言葉を信じるには、いささか以上の躊躇を感じるからの」

    『神の意思という名目で、かつて、殺人を犯したり、戦争を始める人々に対して違和感を覚えていた理由がよく理解できたような気がします。それに、そうした神々は、どちらかというと、神というよりも人間に近い存在のように思われます』

    「まあ、人知で捉えることができること自体、そもそも“本物の神=カミ”ではないのじゃろうからのう」

    『なるほど』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「多くの人々が、望ましい未来を夢見たり、過去を悔やんでやり直したいと渇望することに一定の理解を示したとしても、我々人間には、過去の出来事を変えたり、未来を思い通りにすることもできない」

    黙して耳を傾けている青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「それ故、覚えておくべきことは、未来と過去は“本物の神=カミ/不可思議”の領域であり、我々に与えられているのは、“今/この時”だけという真理じゃ。今世の宿題を果たすために日々精一杯に生きること、それこそが我々に課せられた使命であり、その果報である“社会的/金銭的な成功”は、あくまで副次的な問題なのじゃ」

    『ふと思いましたが、ご神事を受ける前の僕は、自分の天命を生きたいと考えているつもりで、実は自分の天職を求めていたのだと思います』

    「職業にフォーカスする、すなわち収入や社会的地位を意識することは、心のどこかで現世利益を求めている証拠じゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はばつが悪そうな表情で続ける。

    『耳が痛いです。当時の僕は、自分の天命を生きたいと願いながら、天命の意味を理解しておらず、魂磨きの修行ではなく、天職さえやっていればうまくいくと思い込んでいました。さらに言うと、魂の修行よりも“楽”を求めていたと思います』

    「そう思っている人物は少なくないじゃろう。ワシにしても、現世利益を求めることがいけないと言っているのではなく、人生における優先順位を間違えてはならぬ、と言っておるわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、続ける。

    『ご神事を全て受けてパフォーマンスが100%になってから、うれしいことも辛いこともありましたが、僕は目の前の出来事を受け入れる覚悟ができましたし、点と点が線で繋がっていることに気づき、一挙手一投足全てが天命であると、今では感じています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足げに頷いてから口を開く。

    「400回ある輪廻転生のうち、今世はお金で苦しむことを修行で選んできた人物もいるじゃろうし、恋愛や結婚で悩むことを今世の宿題として抱えて来た人物もおる。“自分にとっての今世の宿題とは何だったのだろうか”と意識下の記憶に問いかけたところで、明確な答えが返ってくることはないのじゃから、必然を信じ、日々目の前に現出する出来事/試練と真摯に向き合い、自らのベストを尽くす。それこそが“この世”でのあるべき生き方だとワシは思う」

    『よく、声が聞こえたと公言し、これが私の使命・天命だとしている人がいますが、あれは“17:天啓/憑依”の相によって天から何かが降りてくるのか、そうでなければ13・14の眷属の力を借りているようなものでしょうから、ゆくゆくは眷属によって強烈なしっぺ返しを受けると思いますので、そうした人物には気をつけないといけませんね』

    「その通りじゃな。公平無私である“本物の神=カミ”が特定の人物に言葉を送ることはないことから、そうした人物の大半は眷属に唆されている可能性が高いのじゃろう」

    過去に関わった一部の人物たちを思い出してか、青年は深いため息をついて視線を落とす。
    陰陽師はそんな青年を横目に、続ける。

    「繰り返しになるが、眷属は現世利益を叶えて代償を求めることから、そうした甘言を信じて努力の結果としての“果実”を希求するのではなく、今/現在に全力を傾倒すること、それこそが努力の本来の意味なのだと、ワシは思う」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    私利私欲を願うのではなく、日々ベストを尽くした後に訪れた出来事に対する感謝の意を、“本物の神=カミ”に表する。そして、見えない存在を頼るのではなく、目の前の出来事を真摯に受け止め、悔いのないように取り組んでいくことを、青年は再び決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第33話:断捨離とグッズの霊障

    新千夜一夜物語 第33話:断捨離とグッズの霊障

    青年は思議していた。

    先日の話の中で、“霊媒体質”の人物が拾った“念”が、身近な物に“転写”されたことについてである。(※第32話参照)
    日々“念”を拾っている“霊媒体質”の人物の多くが“お祓い”を受けていないとすると、“念”が転写されたグッズの存在に気づかず、そのまま断捨離する人がほとんどだと思われるが、問題ないのだろうか?
    三次元的な儀式や行為は霊的に意味がない以上、どんな捨て方をしても変わりはないと思うが、何も考えずに断捨離をすることによって、ひょっとしたら取り返しのつかないことをしているのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は断捨離とグッズの“霊障”について教えていただけませんでしょうか?』

    「ふむ。前回の続きじゃな。して、具体的にどういったことを聞きたいのかの?」

    『以前(※第15話参照)、グッズの“霊障”を無害化する必要があると仰っていたと思いますが、グッズの“霊障”を無害化せずにその物を捨てた場合、どうなるのでしょうか?』

    「基本的な話として、物を捨てたり、燃やしたところで、それによって対象物に憑いていた“霊障”が霧消することはない。それどころか、行き場の失った“霊障”が本人に戻ってくることがほとんどなので、よけい問題が大きくなってしまうと考えるべきかの」

    『なんと! 断捨離して、不要な物と一緒に“霊障”も手放せると思ったら、逆に状況が悪化してしまうのですね!』

    そう言い、前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は口を開く。

    「前回も説明したが、SNSの投稿や“呪い”のように、“念”にとって距離は関係ない。そのあたりを詳しく説明するために、“霊障”についてそなたなりにどこまで理解しているか、前回の復習をかねて聞かせてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉に対して青年はうなずいてみせ、口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈という先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSなどを通じて他者から受ける“念”や、心霊スポットなどで拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎と念、つまり、雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が“お祓い”の対象となります』

    「そなたなりに、ちゃんと整理がついておるようじゃの」

    青年の回答に満足げに頷きながら、陰陽師が口を開く。

    「ところで、先祖霊の霊障にはいくつか種類があるが、そのあたりのことをもう少し詳しく説明してもらおうかな?」

    『承知いたしました』

    青年は、一瞬、自分の考えをまとめるために口を噤んだが、すぐに口を開いた。

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります。また、地縛霊化している先祖が本人にかかっていようといまいと、魂の種類が同じ先祖を“霊統”、魂の種類が異なる先祖のことを“血統”と呼びます』

    「うむ、基本はしっかり押さえておるようじゃな」

    青年の回答に満足げな表情を浮かべながら、陰陽師が先を続ける。

    「そなたの回答を踏まえて、もう一度だけ、霊障について整理しておくとこのようになる」

    そう言いながら、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言っても、このように様々な種類に分類できるわけじゃが、今回はグッズの“霊障”なので、その対象は魑魅魍魎や雑霊と人の“念”ということになる」

    陰陽師の説明を聞き、青年はしばらく黙考した後、口を開いた。

    『今まで(※第15話、32話参照)教えていただいた内容から判断すると、人の“念”の場合、所有者がグッズに対して直接“念”を送るパターンと、所有者が拾ってきた“念”が、所有者の意思に関係なくグッズに転写されてしまうパターンの二つ、という認識で合ってますでしょうか?』

    陰陽師の説明に対し、青年は納得顔で頷きながら口を開く。

    「概ね、そなたの言う通りじゃ。特に、一つ目のパターンとしては、某新興宗教団体の御本尊がわかりやすい。おそらくどこかで大量に印刷された御本尊は、信者に配る前に特定の場所で保管されているのじゃろうが、仮に御本尊の流通に携わる人の中に霊能力持ちがいて、ご本尊を運ぶ際に“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考えただけでも、念が入ってしまうことがある。そのような場合、“2+”、すなわち、グッズ自身が“妖気”を発するようになってしまうことさえ起こりうるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、青年は真剣な表情でうなずくと、あらためて口を開く。

    『と言うことは、たとえ霊能力持ちではなかったとしても、一般の人間が特定の物に対して過度な執着心や愛着心を持った場合であっても、グッズに“2”、すなわち、“念”が宿ってしまうことがあるわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「同様の構図は、件のご本尊に限らず、巷で売られているあらゆる日用品にも適用されるわけじゃが、中でも特に偶像、お札/お守り、神具の類には特に注意が必要じゃ」

    そう言うと、陰陽師は紙にペンを走らせる。

    偶像:仏像、イエス・キリストなどの像
    お札:神社などで販売されている木や紙
    神具:お寺の木魚・鉦(かね)や、キリスト教で使用する様々な神具

    『いかにも多くの人々が私利私欲の祈りをしそうな品々ですが、最初はただの“工芸品”やただの“板切れ/紙切れ”に過ぎない物が、人々のそうした祈りによって“念”を集めてしまうわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。それに、これらの品々には、人の“念”のみならず、眷属や魑魅魍魎がかかることもあるから、細心の注意が必要となる」

    『なるほど。人の“念”のみならず、眷属や魑魅魍魎までもがかかるのですね』

    感心したようにうなずく青年を見ながら、陰陽師はさらに言葉を続ける。

    「次は、持ち主が拾った“念”が転写されるグッズのケースじゃが、その中でも特に、直接肌に身に着ける物には、格別の注意が必要じゃ」

    そう言い、陰陽師は再び紙にペンを走らせる。

    《“転写”によって“念”が憑きやすいグッズ》
    数珠や宝石系のブレスレットなど、腕に巻く物
    寝具
    下着

    陰陽師が書いた文字を読み、青年はあごに手を当てながら口を開く。

    『数珠や宝石系といった腕に巻くグッズの中には、所有者を災いから守ってくれ、身につけているとなんらかの恩恵があると聞きますが、やはりよくないのでしょうか?』

    「そなたが言う通り、水晶をはじめとした宝石には眷属や魑魅魍魎の霊障、さらには、人の“念”といった邪気を吸い取る性質があり、身に着けることで一定のメリットはあるわけじゃが、それはたとえるなら紙パック式の掃除機のようなもので、紙パックの容量限界までゴミを吸い取ったら交換しなければいけないのと同様、定期的に無害化する必要がある」

    『なるほど』

    青年は一つ頷くと、言葉を続ける。

    『ちなみに、邪気がいっぱいになったままにしておくと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「今話した紙パック式の掃除機同様、それ以上邪気を吸い取ることはできなくなるだけではなく、新たに吸い寄せる邪気が所有者に跳ね返ることになる」

    『ということは、宝石の効果を知らずに、ファッション感覚で身につける人物や、数珠やパワーストーンのブレスレットを何本か腕に巻いて愛用している人は、巻いている数だけ、そうとは知らずに邪気を集め続けていることになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな。よけいな物を身につけた挙句、無用な邪気を拾い集め、それを自身にかからせているわけじゃな」

    『つまり、せっかく神事を受けてパフォーマンスを100%にしても、妖気を発する“2+”のグッズが家にあれば、また仕事や異性などの障害が生じてしまうこともあるのですね?』

    「そのとおりじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「ちなみに、数珠や宝石に限らず、日用品であっても扱い方次第で“2+”になることも、よく頭に叩き込んでおくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明を聞いた青年は、しばらく腕を組んで黙考した後、口を開いた。

    『ところで、飲食店の入り口などでたまに盛り塩を見かけますが、あれも効果がないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。魔除として盛り塩や塩風呂などに塩を使う人がいるが、幽霊は壁を通り抜けるし、触れることができないことから考えてもわかると思うが、三次元の物質である塩の効果はまったくない」

    陰陽師の説明を聞き、青年は苦笑しながら口を開く。

    『なるほど。ということは、盛り塩など、初めから置かない方がよさそうですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『ちなみに、寝具や下着の“霊障”からは、どのような影響が想定できるのでしょうか?』

    「まずは寝具の霊障についてじゃが、枕および枕カバー、ブランケット、シーツ等、直接肌に触れるものは、どうしても、霊障がかかる可能性が高くなりやすい。また、寝具には所有者が寝ている間に所有者が拾った“念”を吸い取る効果がある反面、やがて寝具が“念”を吸い取れる容量の限度に達した後は、所有者に不眠や悪夢や寝つきの悪さといった睡眠障害を起こすようになるのは、水晶のブレスレットと同じメカニズムと考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。睡眠の質は健康度や日中のパフォーマンスに大きく影響を与えるので、寝具はとても重要な役割を果たしているわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「特に、何らかの病気を患っているクライアントには、最低週に一度、重篤な患者には週に二度は寝具の無害化の神事をすることを推奨しておる」

    『学生時代の僕は寝つきが悪かったのですが、霊障による精神疾患の項目に“7:不眠”は該当していませんでしたので、間違いなく、寝具の“霊障”の影響で不眠になっていたのでしょうね』

    「寝つきの良し悪しは就寝前の行動で左右されることもあるが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    陰陽師の言葉に感嘆の息を漏らしている青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「今度は下着の話に移るが、たとえば女性の場合、通常よりも生理痛がきつかったり、特に思い当たることがないのに下痢や腹痛が頻発する場合、下着類の“霊障”の可能性を考えた方がいい。また、肺や心臓の疾患や乳癌を患っている人物は上着も気をつけた方がいい」

    『病気を患っている人は、病気の部位に近い衣類に気をつけないといけませんね』

    「そなたの言う通り、数珠にせよ、寝具にせよ、下着にせよ、特定のグッズを身につけた日に心身の不調が現れないか、よく心身の様子を観察することが大事じゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、真剣な表情でうなずいた後、青年は口を開く。

    『そういえば、電子機器との相性が悪い人物を相当数見かけますが、そういった人物も、本人が拾っていた“念”が電子機器に転写しているのでしょうか?』

    「電子機器の場合は少々特殊で、霊障と電磁波の波動が近いことから、そもそも“霊障”が憑きやすいわけじゃが、電子機器自体の“霊障”が所有者に行く一方で、所有者が日々拾った“念”が電子機器に転写されることもある」

    『それに加えて、PC、タブレット、スマホなどは単体で存在しているわけではなく、インターネットを通して全世界とつながっており、さらにSNSなどを経由して“霊障”が伝播されやすいことから、特に、魂の属性3の人間が電子機器を使用するのはかなりのリスクが伴っているのですね』

    青年の説明に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「電子機器が“念”を拾うと、それ自体のパフォーマンスが著しく低下したり、機器がネットワークに繋がらない・繋がりにくくなるといった症状が出たり、最悪、機器自体が故障することすらあり得る。かく言うワシも、何台PCやタブレットをダメにしたか、わからぬくらいじゃ」

    そう言って笑う陰陽師を見ながら、青年が言葉を続ける。

    『なるほど。僕も電子機器を毎日使っていますが、動作や反応が遅いと困りますので、仕事でパソコンやスマートフォンをよく使う人物にとっては、悩ましい問題ですね』

    「ワシのクライアントの話になるが、最近のデジタル時計は現在時刻を確認する以外にも電子機器に準ずる機能を備えていることから、時計だけの機能を持つデジタル時計よりも霊障”が宿りやすい。ゆえに、時計が1、2分ずれだしたら無害化をするようにと申し伝えてある」

    青年が陰陽師の説明を黙って聞き、続きを待っていることを確認し、陰陽師は続ける。

    「ちなみに、定期的に無害化を行なった結果、今までは数ヶ月で使い物にならなくなっていたデジタル時計が、一年以上もつようになったという声もある」

    『なるほど。ちなみに、いわゆる、ポルターガイスト現象も“念”と関係があるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。ポルターガイスト現象の場合、土地にかかっている“地縛霊”や眷属の“霊障”によって異変が生じる場合もあるが、大方のケースは、所有者が跳ね返した“念”が部屋にあるグッズに転写されて生じる」

    『ほう。ポルターガイスト現象と言うと、一般的には目に見える形で現れる印象が強いですが、グッズの“霊障”の場合、所有者が知らない間に運気が下がったり、心身が不調になっていたりと、気づきにくいのが問題ですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「ここまで話した総括として、ワシはクライアントに対し、生活必需品ではない神具と風水グッズをできるだけ片づけるように伝えておる」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は首を傾げて少しうなってから口を開く。

    『捨てるのがダメならプレゼントを、と思いましたが、プレゼントした物が“霊障”を発していたとしたら、むしろ贈った相手の迷惑になりますよね』

    「おぬしの言う通りじゃな。よく聞く話なのじゃが、大事な人を想ってお守りをプレゼントする場合、贈り主の“念”がお守りに憑く可能性がある。その前段階として、件の御本尊と同じように、お守りを作る人物が何らかの“念”を発しながら作っていた場合、“念”が憑いてしまっていることもじゅうぶんあり得る話じゃ」

    『なるほど。よかれと思ってプレゼントした物が、むしろ逆効果になることがあるのですね』

    そう言い、青年は湯呑みの茶を一口飲んでから続ける。

    『とは言え、パワーストーンや“お守り”には“念”を吸い取る効果があるわけですから、容量がいっぱいになるまでは持っていてもいいのではありませんか? 初詣で古い物を納めて新しい物に買い換える習慣もあるわけですし』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頭を振ってから口を開く。

    「優秀な“霊媒体質”の人物の場合、本人が日々拾う大量の雑霊や“念”がグッズに“転写”され、一年と経たずにそれらが“霊障”を発するようになるじゃろうな」

    『なるほど。それに、よく考えたら、お焚き上げをするお坊さんに“霊能力”がなければ神社仏閣に収めても意味がありませんから、結局、“霊障”は強くなって戻ってきてしまうわけですね』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「そう言えば、以前、ワシのクライアントに強度の顔面神経痛にかかって言葉が喋れなくなった仏教の僧侶がおってな。病院の検査では原因不明。精神安定剤の類を処方されたものの一向に改善せず、幾人かの霊媒師や新興宗教の教祖のところを回った末に、ワシの元を訪れたわけじゃ」

    『話せないということは、筆談でやりとりしたのですか?』

    「いや、同席した奥様から話を聞いておったのじゃが、当の僧侶は高級スーツに高級腕時計を身につけており、乗ってきた車を霊的に見たら、ベンツのAMGじゃった」

    『坊主に似つかわしくない姿形ですね。まさに、生臭坊主(※第8話参照)といった印象です』

    青年のやや辛辣な言葉を意に介さず、陰陽師は続ける。

    「ブッダは生産と生殖を禁じ、私有財産の所有を認めなかったわけじゃから、そなたの印象はあながち間違いではない。とは言え、ブッダと仏教の話は長くなるから別の機会にするとして」

    陰陽師の言葉に同意するようにうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「彼の病気の原因は“霊障”だったのじゃが、病気に至った経緯を丁寧に説明したうえで、出家もせず家族を持ったことはともかく、外車を乗り回したり、クラブで酒を飲むといった行為を厳に慎み、それによって捻出されたお金を“地域社会貢献の一助に使っていただくこと”を約束していただいたうえで、霊障を取り、体を元に戻してさしあげたわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、神妙な表情でうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「帰り際、今のような生活をしていると将来かならず病気が再発することと、その際には“カミ”は助けるなと言っているので、くれぐれも約束は守ってほしいと“釘を刺させていただいた”」

    『なるほど。やはり、行動を改めないと、次は助けてもらえないのですね』

    「そこは件の坊主に心根を入れ替えてもらうための方便じゃから、厳密な話をすると、かならずしもそうとは限らぬのじゃが」

    暗い表情で言った青年に対し、陰陽師は小さく笑いながらそう言った。
    陰陽師の様子を見て安心したのか、青年もかすかな笑みを浮かべて口を開く。

    『それならよかったです。とはいえ、そのお坊さんのように“霊能力”がなく、自分が“霊障”で苦しんでいる人物がお焚き上げをしたところで“霊障”は解消されませんし、以前(※第7話参照)も説明していただいたように、修行や読経自身には霊的に効果がないということが、あらためてよくわかりました』

    「物が増えればそれだけ執着の原因も増える。それ故、できることであれば、神具やパワーストーンといった類の物は、買わない、もらわない、譲らないのが一番じゃ」

    『ちなみに、すでに家にあるグッズに対しては、どうしたらいいのでしょうか?』

    「既に所有している神具等については、“念”を無害化して捨てればいい。ただ、仏壇や会社に設置されている神棚などは簡単には捨てられぬじゃろうから、少なくとも半年に一度は定期的に“霊障”が憑いていないか鑑定し、“念”が憑いていたら無害化の依頼をしてもらうことは大事じゃろう」

    陰陽師の説明を聞き、青年は小さくうなずいた後、控えめに口を開く。

    『とは言うものの、この世は魂磨きの修行の場であり、地上天国や現世利益を軸にした社会的な観点からの幸福を得るために我々は生きているわけではないことは理解していますが、人間は己の欲には抗い難い生き物ですし、精神を安定させるために何かにすがりたくなるのはしかたない気がします』

    青年がそう言った後、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んでから口を開く。

    「そなたは、“小欲知足”という言葉を知っておるかな?」

    『欲望を小さくし、今持っているものでじゅうぶんに足りていると気づくといったような意味だったと記憶しています』

    「この言葉を言葉通りに受け取るとその通りなのじゃが、この言葉には過去と未来という概念が含まれているのがわかるかな」

    『とおっしゃいますと?』

    「まず、そなたは過去のすべての事象に対して満足しておるかな?」

    『そうですね…』

    陰陽師の問いに対し、青年は腕を組んでしばらく黙考してから、口を開く。

    『神事を受ける前は理不尽な体験がいくつもあったので、さすがに、過去のすべての事象に満足しているということは難しい気がします』

    「神事を終えてパフォーマンスが100%となった今でも、そう考えておるのかな?」

    『もちろん、辛い体験をいろいろとしたからこそ先生と出会えたわけですし、人事を尽くしていたからこそ、塞がれていた相から解放され、起きる出来事が大きく変わり、神事の効果を実感できたのだとは思っています』

    「そうじゃろう。すべての過去の事象は決して無駄な体験ではなく、現在の自分を自分たらしめるにあたり必要不可欠な学びだったと捉え、すべての過去の事象に満足し、感謝する心の在り様が“知足”と、ワシは思う」

    真剣な表情でうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「そして“小欲”じゃが、そなたはどんな未来をも受け入れる腹積もりができておるかの?」

    そう問われ、再び青年は腕を組んで首を傾げた後、口を開く。

    『なるべくそうしようと日々考えては思いますが、実際には、その場になってみませんと…』

    ばつが悪そうに言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「たしかに、今すぐそこまでの境地に達するのは難しいだろうが、今まで通り精進を続けていけば、いつの日にかはそなたもそのような境地に到達するはずじゃ。ともかく、今現在を精一杯生き、努力した事象への結果は、感謝を持ってすべて受け入れることじゃ」

    『今のお話は、未来に過度の期待してみたり、希望を抱いてはいけないという意味でしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから、口を開く。

    「そうではない。人間のすべての希望/欲望は、すべて現在を起点としておるのは確かじゃが、たとえどのような結果になろうと気にならないくらい、今この瞬間に全力を尽くし、出てきた結果を“天の思し召し”として受け入れること、そんな姿勢こそが、“小欲”の意味だということを理解してほしい、と言っておるだけじゃ」

    『なるほど。この世は、人間の“思議”でははかることのできない“不可思議”な力が働いている以上、日々の努力は努力として“その結果は天に委ねる”という心づもりが必要というわけですね』

    「さよう。この世の事象は我々の思い通りには動かないし、一見成功に見える事象が失敗/破滅の萌芽を含んでいたり、逆に、一見失敗に見える結果の中に、成功の萌芽が隠れていることもあるわけじゃから、あらゆる結果に対し、我々の“思議”に基づき一喜一憂することにはあまり意味がないというわけじゃな」

    『今思い出しても辛いと感じる出来事に対しても、感謝できることはないか探し、目先の出来事に一喜一憂することなく、これから起こるすべての出来事を受け入れることが天命だと肝に銘じ、歩み続けていくつもりです』

    「うむ、その意気じゃ」

    満足げに小さく頷く陰陽師に、青年は言葉を続ける。

    『また、神具やパワーストーン系が持つ効果にあやかるのも、見えない存在にすがるという行為も、元を正せば、自分に自信を持てないからであって、パフォーマンスが100%の状態であればそれらに頼る必要もないのだと、何となく納得できました』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうに微笑みながら壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は無闇に人から物をもらうことと、自分の物を他人に譲ることの危険性を痛感していた。
    不要な物は“霊障”の無害化を依頼してから手放すことにし、必要な物、特に寝具と電子機器は定期的に無害化を依頼することを決意するのだった。
    そして、今やるべきことに全力で取り組み、過去や未来に対する執着も手放していくのだった。

  • 新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    青年は思議していた。

    彼が知る限りにおける、セラピストたちが心身の不調を訴えている件についてである。
    ※この話では、セラピストとは主にマッサージ師、気功師、話を聞くことで心を癒すヒーラーを意味します。

    他者の心・体をケアできる術に精通しているのであれば、自身のケアもできるはずなのに、なぜ、当の本人たちまでもが心身を病ませてしまうのだろう。
    ひょっとしたら、彼らの不調の原因に、霊障が関係しているのかもしれない。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はセラピストの不調について教えていただけませんか?』

    「ほう、セラピストの不調とな。それはまた、意味深なテーマじゃの。して、具体的にはどのようなことを聞きたいのかな?」

    そこで、青年はセラピストたちに多くみられる心身の不調について、陰陽師にざっと説明した。
    陰陽師はいつもの笑みで青年の話を聞いた後で口を開いた。

    「結論から言うと、セラピストが不調を感じる主な要因は、“霊障”ということになるのじゃろうが、そのあたりを詳しく説明するためにも、“霊障”についてのそなたなりの説明を、まず聞かせてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎。雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    「今の説明で基本的に問題ないが、 “霊統”、 “血統”という言葉もあり、それらは地縛霊化している先祖が本人にかかろうがかかるまいが、そう呼ぶことも忘れんようにの」

    『そうでした。そのことをすっかり忘れていました』

    ばつが悪そうに言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みを向けながら続ける。

    「いずれにしても、基本はしっかり押さえておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言いながら、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、基本となる四つの神事を済ませたという前提で、一番問題となってくるのは、人が発する“念”じゃ。実際、日々ワシのところに“お祓い”を依頼してくるクライアントの心身の不調の原因の大半はこの “念”じゃ」

    『なるほど、そうなのですね。僕の同僚たちへのヒアリングでは、腰痛など体の痛みが患者の症状の大部分を占めているわけですが、見えない“念”が、物理的な身体に影響を及ぼしていたわけですね?』

    「そなたの同僚ということであれば、勢い、魂の属性3の人間がほとんどのはずじゃから、 体の不調が“先祖霊の霊障(霊脈と血脈)”、“天命運の乱れ”、“チャクラの乱れ”に起因していることが基本とはいえ、“念”を中心とした霊障による体の不調は、決して見過ごすことのできない大きな問題といえるじゃろうの」

    『特に魂の属性3の場合、先天性疾患や重篤な病を患っているとしたら、そのあたりの影響をまず疑うべきなのですね』

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、そう言った。
    そんな青年の様子に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「ところで、そなたは“念”について、どのように理解しておるのかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『“念”は、人間の感情を起因として生じます。たとえば、“呪い”のように誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じます。つまり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“生き霊”となって相手に届いてしまう現象と認識しています』

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、言葉を添える。

    「基本的にはその通りじゃが、もう一言だけ付言すると、“呪い”と“生き霊”の区別だけはしっかりとつけておくようにな」

    『とおっしゃいますと?』

    「人が発する“念”をさらに大別すると、“邪神”、“呪い”、“生き霊”の三つとなるわけじゃが」

    そう言いながら、いぶかしげな顔をしている青年のために、陰陽師はそれらの言葉を紙に書き足していく。

    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した「神(もどき)」
    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念

    書き終えた後、陰陽師は再び口を開く。

    「“邪神”は今回の件とは関係が薄いことから別の機会に話すとして、“呪い”と“生き霊”は誰に対して“念”を発しているかで異なるとは言え、これらの“霊障”の問題点は、“霊媒体質”の強弱によって被害者が変わってしまうところにある」

    『とおっしゃいますと?』

    「つまりじゃ、“霊能力”持ちの人物が“呪い”を生み出した場合、対象の人物に直接影響を及ぼすのに対し、“霊能力”を持たない人物が“念”を飛ばした場合、往々にして、“霊媒体質”を持つ赤の他人に、無差別に影響を及ぼすことが起こりえる」

    『え、まったく無関係な赤の他人がとばっちりを受けると。それはたしかに迷惑な話ですね』

    「たとえば、誰かがSNSで特定の人物に対する恨み言を投稿した、つまり、“念”を飛ばしたとして、その投稿を偶然見かけた赤の他人がその“念”を拾い、心身に変調をきたすことは、以前(※第29話参照)にも説明したと思うが、記憶に残っておるかな?」

    陰陽師の言葉に対して青年は真剣な表情でうなずいて見せ、口を開く。

    『そのあたりの話は、よく覚えています。かく言う僕も、木村花さんに向けて発信された投稿内容を読んでいて、赤の他人であるにもかかわらず、気分が悪くなりました』

    「そなたが体験した通り、実際に目の前にいない人間が何らかの“念”を飛ばしたとしても、“霊媒体質”というだけで、その“念”を無関係な人間が拾ってしまい、その結果、心身に何らかの良からぬ影響を被るという構図が成立するわけじゃ」

    『なるほど。近くで赤の他人が口喧嘩していると、関係ない僕まで気分が悪くなってしまうのは、その当事者たちの“念”を拾ってしまったからなのですね』

    「さよう、そなたの言う通りじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「さらに厄介なのは、“念”というものは元来霧のように人間にまとわりついており、その人物の心身の中でもっとも弱っている部位に集まるという性質があることなんじゃ」

    『ほう、心身の中でもっとも弱っている部位に集まると。そのあたりのことを、もう少し具体的に教えていただけますでしょうか?』

    そう問いかける青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて見せ、紙に人型を描き、さらにその周囲を覆うような輪郭線を描く。

    「つまり、“念”を拾った人物にとって弱い部位が肌であると仮定した場合、肌の症状が悪化し、腰が弱い人物には腰痛が増幅する形で現れることになる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は納得顔でうなずきながら口を開く。

    『今は完治していますが、僕は昔アトピー性皮膚炎に悩まされていて、むしゃくしゃした時に、いけないと思いつつも八つ当たりのように肌を掻き毟ってしまった原因に、“念”の可能性があるわけですね?』

    「基本的にはその通りじゃが、もっと詳しく説明するにあたり、そなたの鑑定結果を確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を保存しているファイルをめくり、青年のページを開く。

    note用霊障による精神疾患

    青年は鑑定結果に目を通してから口を開く。

    『アトピーに関しては、15の項目で納得しました。そして、SNSでネガティヴな内容の投稿を見かけた際に、自分には関係ない内容であるのに怒りが湧いたのは、13あるいは14の相が関係しているわけですね?』

    「うむ、その理解で問題ないじゃろう。つまり、霊的に、見るべきではない記事に目を通したことによって、拾わなくてもよい“念”を拾ってしまったわけじゃな」

    『なるほど。そういうことだったのですね』

    「それと、この件でよく覚えておくべきは、たとえば温厚な性格の人物が、突然、別人のように言動が悪変した場合なども、それはその人物の内側から湧いてきた激情というより、他者の“念”を拾ったために生じた悪変である可能性が極めて高いという事実じゃ」

    『そのお話は、とてもよく理解できます。若かりし頃、物に八つ当たりしたり、暴言を吐いたりした後に激しく後悔したものでしたが、当時もなんらかの“念”の影響を受けていたのでしょうね』

    「そなたの属性を見るかぎり、その可能性は高いじゃろう。そして、そなたに限らず、そのような言動は本人の責任というよりも、霊障が原因と考えるべきなのじゃろう」

    『そう言っていただけると、少しは気持ちが安らかになります』

    そう言って微笑む青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「ここで冒頭のそなたの質問に戻るわけじゃが、マッサージ業界の場合、セラピストの“霊媒体質”度が80点、患者の“霊媒体質”度が90点だった場合、セラピストにかかっていた“念”が、施術を通じて患者の方に移ってしまう」

    陰陽師は紙に二つの人型を描き、一方の頭上に90を、もう一方の頭上に80と書き足した。そして、後者から前者に矢印を描き、説明を再開する。

    「すると、本来であれば施術を受けた患者の体の不調が解消されるはずが、セラピストにかかっていた“念”が患者に移動することで、セラピストの方が元気になり、むしろ患者の不調が増幅するという逆転現象が起こることになる」

    『逆に言えば、“霊媒体質”の患者にとっては、より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合えることができれば、単に施術の効果だけではなく、セラピストに“念”を引き受けてもらうことも不調の改善に一役買っているというわけですね?』

    「その通りじゃ。より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合うことができれば、そのセラピストが持つスキル以上の恩恵を患者は享受することができるわけじゃな」

    『ちなみに、セラピストと患者が互角の“霊媒体質”同士だった場合はどうなるのでしょう』

    「もちろん、その場合は、魂の属性7同士がセラピストと患者である場と同様、セラピストの腕がそのまま治療結果となるじゃろうな」

    『なるほど。リラクゼーションの仕事をしていた時に、少しでも施術が向上するようにと試行錯誤を繰り返していましたが、その努力は無駄ではなかったのですね』

    安堵の息を漏らす青年に対し、陰陽師は青年を安心させるように微笑みかけ、再び口を開く。

    「いずれにしても、今まで長々と説明してきた理由によって、“霊媒体質”であるセラピストが日頃、仕事後に感じる心身の不調の原因の大半が、患者が拾ってきた“念”であるという結論に至るわけじゃ」

    陰陽師の話に身に覚えがある青年は、表情を引きつらせながら小さくうなずいて見せる。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲み、説明を再開する。

    「さらにもう一言だけ補足しておくと、“霊媒体質”には二つのタイプが存在する。つまり、“念”を引き受けた後に体に入れてしまうタイプと弾くという二種類のタイプのことじゃな」

    『今の説明をお聞きするかぎり、僕の場合は霊障を体内に入れてしまうタイプだと思いますが、弾くタイプの人間の場合、具体的には、どのような現象が起こりえるのでしょうか?』

    「“念”が人体に影響をあたえるのと同様、その場合、弾いた念を近くの物に転写させることになるわけじゃが、電子機器や蛍光灯の調子が悪くなるのが最も一般的なのじゃが、めずらしい例としては、車の調子がおかしくなってみたり、警報機やスプリンクラーが誤作動して、大騒ぎになってみたりする」

    『え、そんな事例まで存在するのですか?』

    「真夜中に、自室の電子ピアノが鳴り出したなどという、オカルト映画にも出てきそうな事件まであるにはあるが、それとて原因が理解できていれば、恐れることは何もないわけじゃ」

    そう言って笑う陰陽師を横目で見ながら、青年が口を開く。

    『そうはおっしゃっても、私物であるならばともかく、施設にまで影響がでてしまうのは困りますね。このような問題は万人のコンセンサスを得ることは難しいわけですから、その結果、変な噂が立って、客足が遠のく可能性だって考えられるわけですし』

    「霊障を体内に取り込んでしまう人物に比べて、弾くタイプの人物の比率はそう多くないとしても、たしかにお主の言う通りでそのような事態が頻発するようでは、たしかに商売にも悪影響を及ぼすじゃろうな」

    『おっしゃる通りです』

    青年は一つ頷いた後で、陰陽師に問いかける。

    「この件について、緊急時における“特効薬”のようなものは存在しないのでしょうか?」

    「少なくとも、マッサージなどの治療院に話をかぎるとすれば、問題となる特定の患者が来た時に、霊能力者に結界を張るように依頼することも検討してみるのは一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、疑問を口にする。

    『ちなみに、“唯物論者”である魂の属性が7の人物の場合はどうなのでしょう?』

    「もちろん、魂の属性7の人物の場合は、先程も説明したように、純粋に施術の効果で症状が改善する可能性がはるかに高い。また、引き寄せの法則によって、魂の属性3のセラピストには魂の属性3の患者が、魂の属性7のセラピストには魂の属性7の患者が集まりやすいことから鑑みても、“霊媒体質”の人間の方がこの手の治療において“効きがいい”といわれる由縁も、実は、魂の属性3のセラピストと患者の場合、通常の施術に加え、霊障のやり取りがあることがその要因ともなっておるわけじゃな」

    陰陽師の説明を聞き、青年は手を打ってから口を開く。

    『なるほど。患者とセラピストの相性には、“霊媒体質”か“唯物論者”かも関係があるのですね』

    「もちろんじゃとも」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずくと、言葉を続ける。

    「その結果、“霊媒体質”の点数が高いセラピストは患者にかかっていた“念”を次々と拾ってしまうため、心身の不調が出やすいということになるわけじゃ」

    陰陽師の説明に納得顔で青年はうなずき、しばらく黙考した後に口を開いた。

    『ちなみに、体による接触がない、電話での霊視カウンセリングなどにも“念”の影響はあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。そなたがSNSで体験したように、“念”に物理的な距離は関係ない。客が電話越しに誰かに対する恨み辛みを話していたとしても、電話をしている時に最も関わっている人物、ここで言う聞き手に“念”が影響を及ぼすことは間違いない」

    『ということは、霊視カウンセリングといったスピリチュアルな手法を売りにするセラピストは、当然優秀な“霊媒体質”なのでしょうから、客の“念”をダイレクトに拾ってしまう可能性が極めて高いわけですね』

    「もちろんじゃとも。優秀な“霊媒体質”の人間が、そうした職業で生計を立てている場合、心身を蝕まれる可能性は魂の属性7の人間とは比べ物にならず、一定期間“念”を大量に引き受けていたりすると、人によっては、白髪になりやすかったりする」

    『え、髪の毛が白くなってしまうのですか』

    「昔から、(古来の教えを正しく受け継ぐ)神道でも、霊力は髪の毛を媒介してやり取りされる、と言われておるくらいじゃから、霊的な疲弊は髪の毛に一番出やすいということは当然の帰結なんじゃ」

    『なるほど、それで納得しました。実は、僕の知人も、年齢の割に白髪が明らかに多かったので、かなり“念”を拾いながら仕事をしていたわけなのですね』

    「もしそのような人物がおるのであれば、おそらく、間違いあるまい」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「さらに言うと、リラクゼーションの場合と同様に、“念”が“霊媒体質”の度合いが高い方に移動することから、電話カウンセリングだけでなく、遠隔ヒーリングといった施術にもじゅうぶんな注意が必要であることは言うまでもない」

    『最近では、水泳の池江璃花子選手が“手かざし療法”を受けているようですが、あれも“念”の移動という理解でよろしいでしょうか?』

    「“手かざし療法”は、現代では、世界救世教の開祖、岡田茂吉のエネルギーワーク、そして岡田茂吉の後継者を名乗っている三派の“真光”教団が有名じゃが、あれは岡田茂吉が“霊能力”持ちだったから一定以上の効果があったわけであって、多くの人間にとっては“手かざし療法”は、“念”の移動に過ぎないといっても間違いではないじゃろうな」

    『なるほど。参考までに、岡田茂吉氏の鑑定結果を教えていただけますでしょうか?』

    「あいわかった」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    岡田茂吉SS

    『やはり“霊能力”持ちなのですね。しかも、(±5)とかなり強力ですから、多くの命を救ったことでしょう。ただ、(±1〜3)ではないため、先祖供養や天命運とチャクラの正常化はできなかったようですね』

    「以前(※第24話参照)も説明したが、“霊能力”と一口に言ってもいろんな種類があり、彼の“霊能力”は病気治しに特化していたと言うことができよう。1961年(昭和33年)に国民健康保険法が改正され,国民皆保険体制が確立されるまでは、短期間で死に至る病ならまだしも、糖尿病や心臓病を患ったにもかかわらず、一命をとりとめ、その結果、ずるずると生き永らえてしまった場合、高額な医療費のために一族郎党が経済的に壊滅状態に追い込まれてしまうことも決してめずらしくはなかったのじゃ」

    『今では大多数の人々が健康保険制度を当たり前と思っていますが、当時の医療は現代の常識からは想像ができないくらい高額だったのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「実際に彼が救った命は相当な数に上るのじゃろうし、当時の彼がいくらくらいの謝礼を受け取っていたか定かではないものの、病院から請求される高額な治療費を支払えない貧しい信者からしてみれば、まさに命の恩人、崇めるべき教祖だったわけなのじゃよ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『なるほど。彼自身は“17:天啓”の相を解消できずに大変な思いをしたかもしれませんが、それだけの偉業を成し遂げたのであれば、この世に未練はなさそうです。ちなみに、彼の魂は無事にあの世に戻っているのでしょうか?』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    青年の問いに陰陽師は短く答え、鑑定を始める。

    「うむ。たしかに、無事にあの世に戻っておるようじゃな」

    『それはよかったです』

    安堵の息をもらす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで、彼の鑑定結果を見て、他に気づいたことはないかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は食い入るように鑑定結果を眺める。
    しばらくして、青年は首を傾げながら自信なさげに口を開く。

    『精神疾患の項目に“13:読心・暴力衝動/諸事に支障(物)”しかないことが気になります。多くの人は“14:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)”とセットだったような気がしますので』

    「いいところに気がついたの。この項目の数が極端に少ない場合、特に13しかない人物は、その項目の現れ方が激しくなる。たとえば、とある人物が“霊障”を100拾ったとして、13と14の項目が共にある人物の場合、わかりやすく説明すると、各々50ずつに相当する症状が顕在化する」

    そう言い、陰陽師は青年が話についてきているのを横目で確認し、続ける。

    「一方、霊障13しかない人物が“霊障”を100拾ったとすると、その全てが13に集中し、100に相当する症状が顕在化するため、非常に激しい荒れ方をするわけじゃ」

    『つまり、日頃とのギャップに周囲がドン引きするような変貌ぶりをする人などは、13だけを持っている可能性が高いわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、再び口を開く。

    「加えて、岡田茂吉氏の場合、先祖霊の霊障と天命運の両方に“17:天啓”の相があり、チャクラの6番目と7番目が乱れておることからも、精神的にかなり不安定だったことが想定されよう。また、晩年の彼は信者から得た莫大な資金で、世界中の様々な美術品を買い集めることに執心しておったのも、そのあたりが作用しておったのじゃろうな」

    『ちなみに、それらの美術品は、実際に素晴らしいものだったのでしょうか?』

    おそるおそる問う青年に対し、陰陽師は小さく笑いながら首を左右に振る。

    「ワシは美術の専門家ではないから断定的なことは言えんが、熱海のモア美術館にある品々を見る限り、玉石混交の観は免れんと思うがな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は腕を組み、眉根をひそめて言う。

    『“17:天啓”の相とチャクラの乱れ(6・7)によって誤った方向に導かれ、その結果が精神疾患の13の“諸事に支障(物)”として顕在化したのでしょうね』

    「その可能性は決して低くはないようじゃな。それにじゃ。そもそも、何らかの“霊能力”を持っていたとしても、結局はそれを使う人間の心次第ということになる。霊能力者が自らの力を行使するにあたり、自分なりのしっかりとした世界観とか価値観を持っておらんと、“正義の剣”で悪を切ったつもりが、実はその正反対であったなどということも、じゅうぶん起こりうるわけじゃ」

    『なるほど。霊能力を持っていても、結局は、それを扱う人物次第ということなのですね』

    青年の言葉に小さくうなずいてみせ、陰陽師は続ける。

    「さよう。新興宗教のほとんどが、怪我や病気や犯罪がない、“地上天国”を理想として掲げておるが、この世が“地上天国”を希求するものではなく、“魂磨きの修行の場”であるとするならば、400回の人生において、今世の宿題としてあえて病気で苦しむことを選ぶ可能性だって、当然あるわけじゃから、そもそも、その能力があるからと言って、目の前の人物の病気や怪我を安易に治していいものかどうかという形而上的な問題も存在しているわけじゃ」

    『以前(※第25話参照)もご説明いただきましたが、池江選手が白血病になった原因がプロのスポーツ界における“排除命令”の一環だったとすると、彼女の病気を治し、水泳の選手として復帰させることは、この世の厳然たる“2−3−5−5…2”のルールの中に再び彼女を返してしまうという結果となるわけで、考え方によっては病気を治すことそのものが好ましくないことという考え方もできるわけですね』

    「そなたの言う通りじゃ。病にかかることや死を不幸だと思う人は多いと思うが、病気になることで体験できることもあるし、身近な人物の死から気づかされることもある。つまるところ、当人の魂磨きの修行にとって必要だから起きている場合だってあるわけじゃからの」

    『つまり、霊能力者たるもの、そこまで考えて己の能力を使うべきだとおっしゃるわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「仮にワシがあの時彼女と知り合っていたとすれば、治療を始める前に彼女にこの世のルールについてよく説明し、たとえ白血病が治ったとしても、選手として復帰しないこと、とは言え、あれだけの才能の持ち主であるわけじゃから、指導者として後進を育てることが今世の宿題であることを事前に了解してもらった上で、治療に関わらせてもらっておったじゃろうな」

    『たしかに。いかに才能に恵まれていたとしても、2(4)-3-5-5・・・2でない以上、選手に復帰したらまた病が再発する可能性がありますし、仮に病が完治していたとしても、今度は麻薬に関する事件を起こし、別の形で排除命令が発動するかもしれませんからね』

    自分に言い聞かせるようにそう言い、青年は居住まいを正してから続ける。

    『また、現世利益的に何不自由なかった人物でも地縛霊化することがありえるということは、池江選手にとって、選手として復帰することばかりを目標にするのではなく、いかに最期に悔いなくあの世に還ることが重要だというわけですね』

    「簡単に言うと、そういうことになるの」

    青年の言葉に同意を示すように陰陽師はうなずき、口を開く。

    「池江選手を治療しておるという件(くだん)の霊能力者も、本来であれば、そこまでの大局的な視点を持って自らの能力を使ってもらいたいところじゃが、“霊能力”(±7)の件の“手かざし療法”にそこまでの要求をするのは酷と言うもんなのじゃろうし、そもそも、彼に“血脈先祖”の霊障を祓えと言うのも、無理な相談なのじゃろうしな」

    想定外のことを聞いた青年は、目を見張りながら陰陽師に問う。

    『池江選手自身は“唯物論者”である魂の属性が7の人物だったと記憶していますが、そのような人物にも“血脈”の先祖霊の霊障がかかるのでしょうか?』

    思いがけない言葉にちょっと目を大きくしている青年の問いに対して、陰陽師は小さく首肯し、続ける。

    「魂の属性7の人物の場合、魂が同一である“霊脈”の先祖霊はかからないものの、“血脈”の先祖霊がかかる可能性は当然のこととして想定できたのじゃが、困ったことに、令和になって以来、それ以前と比較して、“血脈”の先祖霊の霊障が顕在化し始めたようなのじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    「それだけにとどまらず、最近の事例を見ている限り、魂の属性3の人間よりも魂7の人物の方が、霊脈の霊障がない分、より強く霊障を顕在化させるようになっているようなんじゃ」

    『なんと…。令和の時代に入って何らかの“パラダイムシフト”が起きたとお聞きしましたが、今まではさほど問題視されていなかった血脈の先祖霊(※第6話参照)が、魂の属性7の人間にまで影響を及ぼし始めたとは、想定外としか言いようがありません…』

    「“令和”についての問題は、話し出すと長くなってしまうので、また別の機会に話をするとしよう」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、再び口を開く。

    『ちなみに、気功師である僕も含め、霊能力が満たない人物が重病や精神疾患を持っている患者に施術を続けると、どうなってしまうのでしょうか?』

    恐る恐るそう問う青年に対し、陰陽師は笑みを消して口を開く。

    「“霊媒体質”のタイプによるが、体に入れてしまうタイプの人物の場合は、当然のこととして心身不調がひどくなり、長年そのような患者と関わり続けていると、最悪の場合、セラピスト自身が癌などの重篤な病気や精神障害にかかる可能性が考えられる」

    『そうなると、あるところからは信頼できる霊能力者に引き継ぐ必要があるのでしょうか』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振って口を開く。

    「もちろん特に重篤な患者の場合は相談してもらうことも必要じゃろうが、必ずしも患者と距離を置く必要はない。そもそも、“霊障”は当人の弱っている部位の症状を増幅させるわけじゃから、そなたのような人間たちが、患者の弱っている部位を改善するという現代医学の最も不得意な分野を補完することは、とても有益なことじゃとワシは思う」

    『それを聞いて安心しました。誰が担当しようが、結果的に患者が元気になって天命を邁進してくれるのが僕の一番の願いなので、僕の気功が一人でも多くの方々のお役に立てるのであれば本望です。実際、先生のお力添えもあり、神事を受けてくださった僕の患者の回復は早いと感じています』

    青年の言葉に対し、微笑みながら相槌を打つ陰陽師を見、青年は続ける。

    『そして生きている人間以外にも、何年もあの世に戻れなくて苦しんでいる、地縛霊化している魂を一名でも多くお救いしたいと思いますし、それらの活動の結果、一人でも多くの方が霊障から解放されて本来歩むべき人生を歩んでもらえたらと思っています』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑みながらうなずき、口を開く。

    「ちなみに、魂の属性3の人物に比べたら、魂の属性7の人物が受ける“霊障”の影響は少ないが、今日話した内容は、令和になって以来、魂の属性7の人物にもより頻繁に起こりうる問題だということをぜひ頭の片隅に留めておいてもらいたい」

    『ということは、魂の属性7の人物には“精神疾患”の項目が存在しないとしても、魂の属性3の人間と同じような症状が現れる可能性はあるというわけですね?』

    「いつも、人間とは“多面体”のようなものじゃと話していることからも明らかなように、たしかに、魂の属性7の人物の場合、魂の属性3の人間に比べて“霊障”による心身の不調が生じにくいとしても、その影響がまったくないということはない。ワシのクライアントを見ていても、特に令和に入ってから、その傾向が顕著なようじゃ」

    『なるほど。ということは、たとえ魂の属性7の人物であっても、霊障とは無縁ではないと』

    「もちろんじゃとも。先程の、“精神疾患”の項目が存在しないという話も、霊障を“主因”とした“精神疾患”がないというだけの話であって、魂の属性7の精神疾患患者が世にあふれていることはあらためて説明する必要もあるまい。そして、そのような意味で、霊障が仕事運などの本人を取り巻く環境に悪影響を及ぼしていることは、程度の差こそあれ、魂の属性3のケースと何ら変わりはない」

    『とは言え、彼らが見えない世界のことを迷信だと言って信じない分、その原因に気づきにくいわけですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずき、口を開く。

    「そなたの言う通りじゃろうな。“霊障”を非科学的だと断言するのは一向にかまわんが、であるのであれば、心霊スポットなぞに近寄らねばいいようなものじゃが、魂の属性7の人間の場合、魂の属性3の人間と違って“実感”という意味で霊障を感じることがまずないことから、興味本位で心霊スポットなぞに出かけ、知らぬ間にとんでもない霊障を拾うなどということも現実に起きておる」

    『魂3であっても魂7であっても、“霊障”を拾う時には拾ってしまうのだとすれば、日頃“免疫”がない分、そのあたりのことにはじゅうぶん気をつけないといけないのでしょうね』

    青年はそう言い、真剣な表情で何度もうなずいてから続ける。

    『とは言うものの、四つの“神事”はまだしも、日常的に拾ってしまう“念”に関しては、いつまでも先生の“お祓い”のお世話になるのは気が引けますが、どうしたらいいのでしょう。“霊障”の列ができてしまい、何度も繰り返し依頼している人もいるわけですし』

    「ワシもクライアントがいつまでも“霊障”で辛い思いをしていることに苦慮していたが、色々と検討を加えてみると、実はそうでもないようなんじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    身を乗り出して問う青年を片手で制し、陰陽師は続ける。

    「もちろん個人差はあるものの、人間が生涯で拾える“霊障”の限界値は、大方、決まっているようなんじゃ。今は四六時中“お祓い”を依頼しているクライアントがいるとしても、“お祓い”を受け続けてその限界値を迎えれば、その人物が“霊障”によって被る被害が激減するのは間違いないことのようじゃ。もちろん、まったくなくなるということはないとしてもな」

    『なるほど。霊的な世界には、そんな決まりがあるのですね。たしかに、“霊媒体質”である我々は生きている限り“霊障”を拾うわけですが、長い目で見れば、今のうちにどんどん“霊障”を拾っては祓うを繰り返すほうがよいというわけですね』

    「端的に言うと、そういうことになるのじゃろうな。それ故、積極的にお祓いを受けることによって、“霊障”によって生じる辛い時間が減ってくれることを、ワシも切に願っておるわけじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    同時に、無闇にセラピーやセッションを行なったり、受けたりすることの危険性を痛感していた。
    今までの青年は、どうにもならない時に“お祓い”の依頼をしていたが、今後は自らが生涯で拾える“霊障”の量を早くクリアするため、何らかの不調を感じたら、我慢せずにその時に“お祓い”を依頼することを決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    青年は思議していた。

    今回は、SNSを介した誹謗中傷を苦に、自ら命を断ってしまった木村花についてである。
    もともとプロレスラーとして活躍していた彼女が、番組を盛り上げるためにそのキャラクターを買われ、テラスハウスという番組に出演していた。ところが、番組中のとある場面をきっかけとして、ツイッター上で誹謗中傷コメントの集中砲火を浴び、それを苦に自殺した。

    今回のように、加害者と被害者の間に面識がない関係、つまり赤の他人からの行為によって、彼女のような有名人が亡くなることは、かつての日本では稀な出来事であった。
    しかし、SNSというツールがこの世に存在する限り、こうした誹謗中傷による事件は今後も起こりえるに違いない。
    あるいはまた、彼女が命を断った背景には、霊障が絡んでいたのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、こんばんは。本日は木村花とインターネットのコメントについて教えていただけませんか?』

    「ほう、それは少々変わったテーマじゃな。して、具体的にはどういった出来事があったのかの?」

    青年は木村花の人となりと、事件の経緯について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かした後、青年に問いかけた。

    「ちなみに、そなたなりには木村花の鑑定結果に対し、どのような見立てを立てておるのかな?」

    突然の問いに、青年はかすかに黙考した後、答えた。

    『おそらく、彼女には先祖霊の霊障か天命運に“5:事故/事件”の相がある、あるいは魂の属性が3(9)−3で、スポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触したのではないかと』

    青年の答えに対し、陰陽師は小さくうなずいてから紙に鑑定結果を書き記していく。鑑定結果を見た青年は、表情を曇らせながら口を開いた。

    木村花

    『やはり、木村花はスポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触する属性でしたか…』

    「どうやら、そのようじゃな」

    小さく頷きながら、居住まいを正す青年に、陰陽師が問いかける。

    「質疑応答を始める前に、そなたの理解度の確認も兼ねて、魂の属性2−3−5−5…2に関するこの世のルールについて、今一度、そなたの口から説明してもらおうかの?」

    『はい』

    青年は、考えをまとめるように、一瞬黙り込んだ後で、口を開いた。

    『プロのスポーツ・芸能・芸術世界を生業にできる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:武士・武将階級であり、基本的気質と具体的性格の上段の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します』

    そう言うと、青年は一息つき、陰陽師の補足がないことを確認した上で、ふたたび口を開く。

    『また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する人物となります。なお、一部の例外としてオネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物、あるいは、功成り名遂げた後でヌードをさらす女優などは、2(3)−3−5−5…2という属性となりますが、こちらもルール上はセーフとなります。結論として、この世には、2(3)、2(4)、2(7)という差はあるものの、大きくいって2−3−5−5…2という魂の属性を持った人物だけがこれらの世界で働くことができるという、この世の厳然たるルールが存在しています』

    青年のここまでの説明に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「今回の木村花を含め、この世のルールに抵触してしまい、排除命令の対象となる人物の魂の属性については覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5…2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7…2や2(4)―3−5−5…1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます』

    「うむ。しかと勉強しているようじゃな」

    青年の回答に、にこやかに頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「木村花の鑑定結果を鑑みるに、仮に彼女がプロレスに専念していたとしても、いつの日か排除命令によって何らかの事故に遭うか再起不能の大怪我を負って引退していた可能性が高かったわけじゃが、加えて、先祖霊と天命運に“5:一般・事件・自殺”の相があったことを伏線として、テラスハウスに出演したことが決定的な要因となり、排除命令が早まってしまったのじゃろう」

    『つまり、テレビ番組に出演することも2−3−5−5…2の領域ですから、ルール違反が二つになってしまったと?』

    「さよう。わかりやすく言うと、合わせ技一本というわけじゃな」

    陰陽師の回答を聞き、表情を曇らせて顔を伏せる青年。ふと、顔を上げて再び口を開いた。

    『確か、木村花の母親もプロレスラーでしたが、彼女は属性的に問題はなかったのでしょうか?』

    「鑑定しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かして鑑定を始める。
    青年は食い入るように結果を見つめ、やがて口を開いた。

    木村響子

    『なるほど。木村花の母である木村響子は、プロレスラーに適した属性だったのですね』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいて見せ、再び鑑定結果を書き記していく。

    「気になったからついでに鑑定してみたが、木村花は父親とソウルメイトだったようじゃな」

    木村花の実父

    『たしかに数字が似ていますが、魂の属性は血液型のように、両親の属性を受け継ぐものなのでしょうか?』

    「受け継ぐという言い方が適切であるかどうかはともかく、基本的にはそなたの言う通りじゃ。ただし、ソウルメイトの範囲は両親だけに限らず、祖父母、あるいは曽祖父母の14名となる」

    陰陽師の補足に対し、青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『実父はインドネシア人で既に離婚しているとネットに書かれてありましたが、先祖霊の霊障と天命運に“8:異性”の相があるだけではなく、両親共々とも恋愛運が7と低いことから、そのあたりの事情は納得といったところですね』

    陰陽師が、黙って首を縦に振るのを確認した後で、青年は続ける。

    『木村花が母方の魂の属性を受け継いでいたら…とは思いますが、木村花も今世の役割を果たすのに適した属性と環境を選んで転生して来ているのでしょうから、そのような意味では、今回の件はしかたないと考えるしかないのですね』

    「彼女が地縛霊化していたことから、それは何とも言えんな」

    『えっ、そうなのですか。今世の彼女に、他の選択肢が残されていたのかもしれないとおっしゃるのですか』

    そう言い、腕を組んで眉間にシワをよせる青年に、陰陽師は問いかける。

    「今回の事件の発端としては、ネットによる誹謗中傷の影響も大きいということは理解しておるな?」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシの元に日々数え切れないほどの雑霊のお祓いの依頼が来ていることは、そなたも知ってのとおりじゃが、この雑霊、そして生きている人間の“念”というものは、実は、インターネットの周波数と非常に似通っておるんじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は目を見開き、身を乗り出しながら問いかける。

    『ということは、木村花への誹謗中傷コメントを書き込んだ人間の念が、我々が想像している以上に、インターネット上のコメントを介して木村花を自殺に追い込む影響力を持っていたと?』

    怪訝な表情で問う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「ワシのクライアントの中でも霊媒体質のスコアが高い人物に対しては、インターネット、特にSNSの使用をなるべく控えるように言っておる。というのも、投稿者が負の感情をぶつけるような投稿をした場合、それを偶然読んでしまうことで、その投稿が当人に向けられたものでなくても負の感情を拾ってしまい、心身に不調が出ることがあるからじゃ」

    『僕も攻撃的な投稿をする人物の文章を読んだ際に、なんだか胸のあたりがモヤモヤすることがあるのですが、それもそうとは知らずにその人間の念を拾っていたのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高いじゃろうな。以前(※第15話)も話したが、人間の念にはポジティヴ・ネガティヴの両面が存在することから、たとえ発信者が良かれと思って投稿している内容にも注意が必要なんじゃ」

    『あなたに幸せエネルギーを送ります、などといった投稿をよく見かけますが、実は、あれも念の一種なのですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて答え、口を開く。

    「そうした一見ポジティヴな念を拾い、一時的に気分がよくなった気になるかも知れんが、実は、それらは非常に危険な行為なんじゃ」

    『え、そうなのですか。しかし、なぜ?』

    「そのような行為は、ワシに言わせると、ある意味、覚せい剤を使用し、一時的に気分を高揚させているのと何ら変わりはない。さらに危険なのは、それらの行為に、麻薬同様、習慣性があることじゃ」

    『つまり、気分が落ち込んでいる時に、そうしたサイトにアクセスを繰り返すことで、本人にも気づかぬうちに習慣化してしまうと』

    「まあ、簡単に言うと、そういうことになるかの」

    青年の言葉に、小さく頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「そのような行為を繰り返しいるうちに、ネットの世界が精神の安定に必要不可欠だと勘違いし、暇さえあればネットを使用するようになってしまう。そして、その結果、アクセスするたびに他人の念を拾うという悪循環に陥るわけじゃな」

    『なるほど。そのような過程を経て、本人も気づかぬうちに、ネット依存症になっていくわけですね』

    「もっと正確に言うと、万人にネットに依存するなと言っているわけではなく、そもそも、“幸せエネルギー”なぞという怪しげなものに反応してしまう魂の属性3の人間は、そのようなサイトに近づくべきでないと言っているわけじゃ」

    腕を組んで陰陽師の説明に思考を巡らせていた青年だったが、ふと顔を上げ、慌てた様子で口を開いた。

    『しかし、“アクセスするたびに”ということは、例えば、SNSのように双方向のやりとりを必要としない、ウェブサイトを訪問するだけでも、訪問者は影響を受けてしまうのでしょうか?』

    「そなたは、生き霊が相手のことを思い浮かべただけでその人物に飛んでいくことがあるのは理解しておろうな?」

    『はい。怒りや憎しみといった負の感情だけでなく、例えばアイドルに向けられる好きという気持ちといった、一見正(のようにみえる)の感情のようなものも、念/生き霊になり得ると理解しています』

    「うむ。そなたの言う通り正の感情は一見、無害のように思われるが、親から子への過干渉などの例をみればわかるように、受け取る側からすれば、よいものばかりとは限らないものなのじゃ」

    『モテすぎて困っている友人がいましたが、ストーカーも、行き過ぎた正の感情による念と考えると納得がいきます』

    そう言い、腕を組み直す青年を横目に、陰陽師は再び口を開く。

    「さらに、もう一つ危険なことは、ウェブサイトを訪問した時点で、相手の念が自由に行き来できる霊的な道(霊道)を自ら作ってしまうことなんじゃ」

    『なるほど。自分が認識するしないにかかわらず、そのような影響を受けてしまうとは…。いずれにしても、好奇心で怪しいウェブサイトにアクセスしない方がよさそうですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は大きくうなずいて続ける。

    「生きている人間の念/生き霊も含めてワシは雑霊の霊障と呼んでおるのじゃが、そなたのような霊媒体質である魂3の人物は、自身が想像している以上に心身が悪影響を受けていることをしかと頭に叩き込んでおくことじゃ」

    『かしこまりました。霊障の影響を受けない魂7の人々の方が圧倒的に多いため、世間では霊障に関する話題も“気のせい”と一蹴されてしまう風潮がありますが、魂の属性3の僕は魂の属性3の基準で生きようと思います』

    真剣な表情でそう言った後、青年は鑑定結果が書かれた紙を再び覗き込む。

    『木村花も魂の属性3ですから、やはり誹謗中傷コメントから影響を受けていたのですね…』

    そう言い、顔を伏せる青年をいつもの笑みで見守る陰陽師。少しして、陰陽師はふとした疑問をつぶやいた。

    「ちなみに、木村花への誹謗中傷はどういった内容かわかるかの?」

    『アカウントが削除されて今は確認できませんが、調べてみます』

    陰陽師の言葉に顔を上げた青年は、スマートフォンを手早く操作し始める。該当の内容を見つけると、青年はツイートを読み上げる。
    青年が読み上げたツイートを聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    “お前がいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早く消えてくれよ。”

    けんけん

    鑑定結果を見た青年は、小さくため息を漏らしながら口を開く。

    『頭が2で、魂の属性が2−4の人物でしたか。何となく予想はしていましたが…』

    「いつも言っているように、人間は複雑な要素が重なって構成された複合体なわけじゃから、頭が2で魂2−4の人物だからと一括りにしてはいかんぞ」

    陰陽師の言葉に対して青年は小さくうなずいて見せ、再び口を開く。

    『はい。この人物の場合、魂7ですから、自分が発した念がコメントを介してダイレクトに木村花に影響をあたえ、今回のような事件を起こす引き金になるとは思いもよらなかったでしょうね』

    「その通りじゃな。さらに、この人物の場合、“大局的見地”と“仁”のスコアが“30”と極端に低いことから、そもそも自分が発する言葉にしてもコメントにしても、相手がどのように受け取るかということを想像することも難しいのじゃろう」

    『なるほど』

    「で、他に気になるコメントはあるかの?」

    陰陽師の問いに青年は小さくうなずき、再びスマートフォンを操作する。
    青年が読み上げたコメントに対し、陰陽師は一つずつ鑑定結果を書き記していく。

    “「今後は」とか言わずに、今回の件で追跡できるなら徹底してリストアップした上で、なんらかの処罰やペナルティを課すことができないか検討してほしい。人が死んでいることを忘れずに対応してほしい。”

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    “誹謗中傷の画像を保存している人はたくさんいるはず。人が死んでいるんです。追い詰めた側には厳しくしてほしい。もちろん、このきっかけとなった番組側への徹底調査もお願いします。”

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    『この二つは特に反応が多かったコメントだったのですが、魂4と魂3であることが興味深いです』

    「たしかに、魂3の方のコメントは特定の立場の人物を責め立てるのではなく、公正な視点で原因を追求しようとしているのに対して、前者のコメントの場合は、二度と同じような事件が起きないためにどうすべきかというよりは、犯人を探し出し、罰するべきという偏狭な倫理観が先に来ているところが、魂4らしいと言えばそうかもしれんな」

    『先日お聞きしましたが(※第28話参照)、犯人を見つけて罰をあたえたらそれで終わりではなく、“罪を憎んで人を憎まず”ということわざにもあるように、今回の出来事から自分は何を感じたのか、何を学ぶのか、それらを糧としてどう生きていくのかといったことを考えることが重要なのですよね』

    「さよう。ワシが伝えたことをだいぶ理解してきているようじゃな」

    照れ隠しで無言のまま小さく頭を下げた後、青年は次のコメントを読み上げた。

    “たぶんプロレスラーとしての行動に対する誹謗中傷には普通に耐えられたのでしょうが、自身の内面やプライベートな部分に触れる非難はきつく刺さったのかもしれません。そういった意味で、テレビで自分を晒すという事の覚悟が少し足りなかったのかもしれませんね。”

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    『テラスハウスのようなリアルを謳った番組であっても、実際は台本が存在していると聞いています。木村花は悪役のプロレスラーというキャラクターを買われてあの番組に出たのでしょうから、素の自分を100%晒していたとは思えないのですが』

    「番組というのは視聴率が全てといっても過言ではないわけじゃから、出演者のバランスとして、あえてクセのある人物を選び、それらの人物に視聴者がよろこびそうな過激な出来事を意図的に起こさせることなぞは、じゅうぶんあり得るのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は大きくうなずいてから口を開く。

    『Twitterを見るかぎり、普段の木村花の性格は、プロレスや番組上とは違っている印象でした。やはり、自分が番組に選ばれた意図を理解し、ああいったキャラクターを演じていたのではないかと思います』

    「さらにじゃ。ああいった番組は、複数のカメラを設置し、回していることから、出演者個々人の24時間全ての言動を放映するわけではなく、そうやって映した膨大な映像の一部を、番組側の意図に沿った形で切り取り編集することで、視聴者の印象操作も行われていたわけじゃしな」

    『木村花としても、番組や視聴者のことを考えての振る舞いが、あそこまで叩かれるとは思いもしなかったでしょうし。制作者側の演出意図を理解してもらえなかったこと、素の自分が歪んだ形で解釈されてしまったことを考え合わせると、胸が痛むとしか言いようがありません』

    そう言ってうつむく青年を励ますように、陰陽師は優しい声色で語りかける。

    「芸能人といっても、しょせんは我々と同じ、血の通った人間じゃ。芸能や芸術が批判されることはあっても、人格まで誹謗中傷される必要はない」

    『そうですよね。テレビで放映された内容だけが木村花の人格ではありませんし、画面越しに彼女を見ている人物に彼女の素顔など絶対にわかるはずはありませんから』

    そう言い、青年は次のコメントを読み上げた。

    “インターネットで匿名で他人をコキ落とせる形ももちろん問題でしょうが、木村さんにも全く問題がなかったわけではないはず。インターネットでの批判は国民の総意ではなく、ごく一部の暇な自制心がない方の意見にすぎないことを自覚して、動揺しないことです。”

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    『このコメントを書き込んだ人物は、実際に自分が今回のような誹謗中傷のターゲットになったとしたら、こんな悠長なことを言っていられないと思います』

    「その通りじゃな」

    『自ら体験もしていないことを、上から目線、しかもしたり顔で語ってしまうところが頭が2の2−4らしいと思いますし、ダルビッシュ投手が有名人の誹謗中傷の比喩として用いた、“イナゴの大群が自分の周りを通過している写真”を見ながら、僕が有名人であったとしてもSNSを辞めたくなるだろうな、と思いました』

    「たしかに、そなたの言う通りじゃな」

    そう言って苦笑いする青年を横目に、陰陽師は笑みを浮かべながら小さくうなずく。やがて、青年は次のコメントを読み上げる。

    “中傷されていたことがわかっていたのに、番組も周囲も木村さんを助けようとしなかったのだろうか?悪いのは中傷していた人たちだが、誰も彼女が生きている時に救えなかったのだろうか。”

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    『有名人に対する誹謗中傷は日常茶飯事といっても過言ではありませんから、木村花は周囲にヘルプを求めにくかったかもしれませんし、仮に助けを求めても、“気にするな”の一言で片づけられてしまっていた可能性も高いように思います』

    「しかも、この投稿者の場合、魂7であることから、霊障の影響も含め、霊的な問題が介在していたとは夢にも思わんじゃろうからわからないのも無理はない」

    “こういう時信じるべき人はファンです!どんなに素晴らしい人でもアンチは必ずいます。顔の見えないネットからの誹謗中傷を鵜呑みにしないでください!“

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    「この人物のように、励ましの言葉をストレートに表現できる点は、魂4の強みでもあるのじゃろう」

    『頭が1で魂の性質が4、魂の特徴がオール1という少ない属性の人物ですね。しかもパフォーマンスが90%と高い! ある意味純真な4−4だからこそ、他者の視線に晒される有名人のアカウントにおいても、このような応援コメントを書けたのでしょうね』

    「さよう。いくら魂1〜3が論理ベースであるとは言え、感情がないわけでもないし、感情の一側面である情念なぞは魂3の専売特許であるわけじゃが、気分が落ち込んでしまった時には、こうした頭1の4-4の直球とも言える応援が落ち込んでいる当人にとって、一番の薬なのじゃろうな」

    『生前、木村花がこのようなメールに目を通していてくれれば、あるいは最悪の決断を思いとどまったのかもしれませんね』

    「その通りかもしれんな」

    小さく頷く陰陽師を見ながら、青年は言葉を続ける。

    『ところで、このコメントは、誹謗中傷コメントの次に投稿されていたのですが、人の感情は正よりも負の方が強いのか、木村花には誹謗中傷の念の方が強く残ってしまったのだと思います。SNS、特にTwitterは負の感情が込められた投稿の比率が他のSNSに比べて多い気がします』

    「ワシの場合、おぬしと違いそれほど多くのTwitterに目を通しているわけではないが、おぬしの言うように、負の投稿の方が圧倒的に多いことはたしかなようじゃし、誰が投稿したにせよ、Twitterという発信方法が、感情の捌け口として使用されている側面は否定できぬのかもしれんな」

    “コスチューム事件はどっちもどっちですが、自分は間違ってないと考えていた花さんにも問題はあると思うし、そこに対しての批判は別に良いと思う。ただ、人格否定や消えろといった誹謗中傷はよくないと思います。”

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    『この人物は頭が2の魂3ですか』

    属性表を覗き込みながら、青年が言葉を続ける。

    『たしかに、世の中には批判と誹謗中傷を混同している人は多いと思いますし、特定の事象を悪として規制や禁止の対象とすれば問題が解決するわけでもないと思うのですが』

    「たしかにそなたの言う通り、臭いものに蓋をすればいいという単純な問題ではないのじゃろう。世の中の大多数の人間が我々のようなものの見方をできない以上、決定的な解決策を探し出すのは、かなり難しいのじゃろうな」

    「たしかに」

    陰陽師の言葉に小さく頷く青年を眺めながら、陰陽師が訊ねた。

    「ところで、ここにあるコスチューム事件とはどういった内容なのかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は該当する記事をスマートフォンで見つけ、陰陽師に見せる。
    一通り記事に目を通した後、陰陽師は口を開いた。

    「なるほど。木村花にとっては、コスチュームは職業道具であり、かなりの金額を費やして作成したものなわけじゃな。そして、そんな大事なものを一般の洗濯物と一緒に出した木村花も不注意じゃったかもしれぬが、当該の男性の方も職業道具へのリスペクトが足りなかったわけじゃな」

    『それに対し、彼女は男性に対し暴言を吐いていましたが、ああいった言動も番組を盛り上げるための演技だったのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はかすかに黙考し、口を開く。

    「半分本音で半分演技だったのじゃろうな。つまり、怒ったのは本当だったとしても、怒りの表現方法については、彼女がキャラクターを演じて過剰に行なったと思われる。そして、そこに魂4の偏狭な正義感が反応し、誹謗中傷をしたのじゃろう」

    『自分を中心にものを考えると、その時の映像を見ている時に感情が動くこともあるとしても、時間がたつにつれ、あれは番組の演出なんだと気づき、誹謗中傷コメントを残すまでにはならないと思うのですが』

    「それは頭が1で魂が3のおぬしだから言えることであって、参加意識が高い魂4の場合は、少々事情が違う。彼らの偏狭な正義感に火がつき、感情の赴くままにコメントを書くわけじゃから、誹謗中傷の方が多くなってしまうのは当然の帰結なのじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は苦渋の表情を浮かべて腕を組み、黙り込む。
    陰陽師はそんな青年を横目に、湯呑みの茶を飲む。
    やがて、青年は顔を挙げて陰陽師に声をかけた。

    『ふと思ったのですが』

    「うむ?」

    『インターネットがなかった時代は、政治家や芸能人の悪口や誹謗中傷は自宅や、居酒屋で酒を飲みながらするか、テレビ局などに直接電話するくらいがせいぜいだったものが、ネットを使い、掲示板やSNSにコメントができ、それが公開されるようになった結果、本人にまで直接届いてしまうようになったのですよね』

    「うむ。インターネットの存在によって庶民に発言権があたえられ、しかも参加意識が高い魂4がこぞって発言した結果、彼らの意見があたかも大多数の意見として捉えられるようになってしまい、彼らの偏狭な正義感に触れると事実がどうであれ、たちまち炎上し、拡散する困った風潮が定着してしまったことだけは間違いあるまい」

    『そして、炎上した出来事に関して、僕たちのような属性分析ができないマスコミもテレビ局も、紙媒体の新聞社も、ネットのコメントに気を遣わざるを得ない現状になりつつあると』

    「その通りじゃ」

    『さらに言うと、政治家もその例外ではなく、政治家の小粒化が起きている原因の一因も、参加意識が高く、偏狭な正義感を持った魂4のインターネットへの参加が原因なのだと(※第13話参照)』

    青年の補足に陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「庶民が自由に発信できるようになったといった問題だけでなく、庶民には関係ない情報まで自由に受信できるようになってしまった、という問題もあることを忘れてはならぬぞ」

    『そうでした。知識や知恵を共有するという意味では、インターネットには大きなメリットがあり、科学と技術の進歩に必要不可欠な反面、堅強な正義感が、時として暴走をする怖さというものをしっかり認識する必要があるわけですね』

    「それだけではなく、魂の属性3(霊媒体質)の人間にとって、そもそもSNS自体が危険であるという認識も忘れてはならぬ」

    『そうでした。人間の念、特に負の感情が蔓延するという意味でデメリットがあるとのお話でしたよね』

    「その通りじゃ。インターネットの周波数と雑霊のそれとが類似しているために、なおさら個人に対して念が届きやすくなるという危険性については、今回の木村花の事件でそなたもよくわかったことじゃろう」

    『はい。大量の誹謗中傷をネット上でのいじめと考えるなら、ネットを介して見知らぬ人物からのいじめによって、有名人が命を絶ってしまったことは大きな問題だと思います』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、再び口を開く。

    「とは言え、今回の事件が大きな問題を孕んでいるとしても、インターネット自体の恩恵をいまさら無視することもできんわけじゃし、インターネットなしの世界に戻ることなぞ、なおさら現実的な話ではない。故に、せめて魂4の“大局的見地を欠いた、偏狭な正義感”により先鋭化する意見に“染まる/同調する”ことなく、そなたも含めた魂1〜3の人物が、もっとネットに積極的に参加し、“公正な”意見・主張を繰り広げてほしいと願うばかりじゃ」

    『そうですね。インターネットのメリットとデメリットをよく理解したうえで活用していこうと思います。また、情報を集める時は信憑性や本質をよく吟味し、自分なりの意見をしっかり主張していこうと思います』

    「その意気じゃ。参加意識が高い魂4のコメントだけを拾われて、それが国民の総意にされてしまわないように、ぜひ頑張ってほしい。それともう一つ」

    黙って続きを待つ青年と視線を合わせ、陰陽師は続ける。

    「インターネットを使用していて心身の不調を感じたら、他者の念/雑霊のお祓いを依頼することも忘れぬようにの」

    『はい。何か不調を感じたら、我慢せずに依頼します』

    青年は力強い眼差しで大きく頷く。そんな青年の様子に満足したのか、陰陽師はいつもの笑みをたたえてうなずく。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、時計を見て口を開いた。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はアトピー性皮膚疾患に悩んでいた過去を思い出していた。
    現在はほぼ完治しているが、当時はムシャクシャした時に、いけないとわかっていながらも肌を掻きむしってしまい、症状を悪化させていた。あの行動は、他者の念/雑霊の影響によって“15”の症状が顕在化していたのだろう。

    雑霊による精神疾患

    ほとんどの現代人にとって、SNSを使わない日はないと言っても過言ではない。だからこそ、心身の不調を感じた時は“気のせい”、“すぐに治まる”と思わず、陰陽師に雑霊のお祓いを依頼しようと、青年は決意を新たにするのだった。

     

     

     

     

    帰宅後、どうしても確認したいことがあり、青年は陰陽師に電話をかけた。

    「どうした、こんな時間に。何かあったかの?」

    『いえ、そうではないのですが、地縛霊化している木村花の魂は、母親である木村響子や他の誰かが救霊の神事をしない限り、ずっとこの世に留まることになるのですよね?』

    「正確には、彼女に子孫がいないことから、しばらく時が経った後に親族の中で魂の属性3の人物にかかることになる。もっとも、彼女にかかられた親族が、彼女の魂を救霊できる霊能力者(±1〜3)と出会えなければずっと地縛霊化したままじゃが」

    両者の間に沈黙が流れる。
    やがて、意を決した青年は真剣な表情で口を開く。

    『木村花は僕にとっては赤の他人ですが、そんな僕が彼女の救霊神事の依頼することは可能なのでしょうか?』

    青年が取る選択を予想していたのか、いつもと変わらぬ陰陽師の声が返ってきた。

    「もちろんじゃとも。というより、そなたならそう言うと思い、今し方神事をしておいたところじゃ」

    呆気にとられ、しばらく言葉を失う青年。そんな青年の様子がおかしかったのか、受話器越しに陰陽師が小さく笑っているのが聞こえる。

    『先生には敵いませんね』

    小さくため息をつきながら、青年はそうつぶやく。

    「まあ、ワシの人生にもいろいろあったからのお」

    そう言い、さわやかな笑い声を上げる陰陽師に対し、青年は無言で頭を下げて答える。

    「あとはどうじゃ。まだ他に聞きたいことはあるかの?」

    『いえ、大丈夫です。遅い時間にありがとうございました』

    「どういたしまして。おやすみ」

    その言葉を最後に、電話は切れた。

  • 新千夜一夜物語 第28話:大量殺人事件と不動明王(後編)

    新千夜一夜物語 第28話:大量殺人事件と不動明王(後編)

    青年は思議していた。

    相模原施設殺傷事件の加害者である植松聖の、“意思疎通が十分にできない障碍者には人権がない”という主張についてである。
    事故などで後天的に障碍者となってしまう人物もいるが、生まれながらの障碍者がいる。
    障碍者と健常者とで、命の重さや今生の課題は異なるのだろうか?
    なぜ大量殺人事件が、起きるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、再び青年は陰陽師の元を訪れた。

    『先生、こんばんは。本日も大量殺人事件について教えていただけませんか?』

    「もちろんかまわんが、今日は具体的にはどういった話かな?」

    青年は、相模原施設殺傷事件の内容と植松被告の主張を陰陽師に伝える。

    「なるほど。で、そなたは植松被告の“意思疎通が十分にできない障碍者には人権がない”という主張に対して、どう思う?」

    陰陽師にそう問われ、青年は腕を組んで黙考する。
    湯呑みに注がれた茶を飲む陰陽師に見守られ、やがて青年は口を開いた。

    『難しいテーマですが、もちろん、彼の主張に全面的に賛成することはできません。我々は魂磨きのために400回の輪廻転生を繰り返しているわけですから、障碍者であっても1回の人生には変わりはないと考えますので』

    「うむ。今生の魂磨きのために彼らが障碍のある体を選んであえて転生してきている以上、障碍者の命の重みと健常者のそれが等しいことは自明の理なわけじゃから、そなたの見解は基本的に間違っておらぬと思うぞ」

    『とすれば、まだまだ天命が残っていたのでしょうから、植松被告の手にかけられた方々には同情してしまいます』

    そう言って顔を伏せる青年に対し、陰陽師は諭すように言う。

    「そなたの気持ちはわからんでもないが、その点に関しては、かならずしもそなたに同意できん。と言うのも、以前も話したように、3.11の被災者の大多数があのような大災害で命を落としたにもかかわらず、あらかじめそれを納得した上でこの世に転生してきておることは、地縛霊化した人物がまったくと言っていいほどいないことからも明らかなんじゃが、今回の事件でも地縛霊化した人物は誰一人おらんところをみると、事情は同じなのじゃろう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『つまり、あの大量殺人事件が起こるべくして起きたと?』

    「うむ、様々な状況証拠からみて、そういうことになるじゃろうな」

    『ということは、植松被告のように、加害者役を担うことが今世の役目となる人物もいるということなのですね?』

    「その通りじゃ」

    『 “この世”は魂磨きのための修行の場ですから、“地上天国”が実現しない、実現することに意味はないとわかっていても、凶悪犯罪が減ってくれたらと願わずにはいられません』

    苦渋の表情で言う青年に対し、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「以前(※第10話参照)、400回の輪廻転生が終わった後の世界について説明したが、この世での魂磨きの修行を終えた魂には、観音のように他者を助け、導く役割を持つ存在がいる一方、不動明王のように他者を懲らしめる役割を持つ存在もいる。それ故、たとえこの世の物差しでは悪と判断される事件を起こしたとしても、永遠の世では必要な役割というのが、我々人間の“思議”で考えうる最良の答えかもしれん」

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲むと、言葉を続けた。

    「“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、あれなどはこのあたりの事情を実にうまく表現していると思う。もし我々が彼と同じ魂を持ってこの世に転生したとして、他人には理解できない“使命感”みたいなものが我々を包み込み、あのような犯罪に走らせる可能性は決して否定できぬからな」

    『ということは、彼が受けた教育や、これまでの体験からの学びだけであのような行動を取ったわけではないと』

    「それだけではない。もし我々の意思や行動が自分自身の意志だけではなく、この世の目に見えぬ力に触発される性質のものであるとすれば、あのような行動をとった本人自身も、なぜあのような行動に及んだのか、本当の理由は理解していないのかしれんからな」

    『なるほど』

    禅問答の様な陰陽師の言葉をしばし自分の中で咀嚼するように口をつぐんでいた青年。やがて、顔を上げると、口を開いた。

    『仮に、今回の事件が、植松被告本人の側から考えてそうだとして、このような悲惨な事件が、周りの人々に何らかの学びを与えるきっかけにもなる可能性もあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも」

    青年の質問に、一つ頷いた後で、陰陽師が言葉を続けた。

    「まず、彼の家族じゃが、彼がこのような事件を犯したことで、大きな変化を余儀なくされる。そのあたりが彼を中心とした一連の人々が共通の舞台俳優であるという根拠ともなっているわけじゃが」

    『なるほど』

    「逆に被害にあった人々を中心に考えると、輪廻転生が“双六(すごろく)”のようなものであることと、また被害者の方々が地縛霊化していないことも考え合わせると、今世での宿題を終えた人間はいち早くあの世に戻り、次の一コマに進むための準備を始めるという“あの世とこの世の仕組み”に類する問題が介在していたことも疑う余地はないと思う」

    『つまり、殺された方々は、すでに今世の宿題を終え、適正な期間にあの世に帰るために、あの事件に遭遇したと』

    「そこまではっきりと断定できないとしても、処々の状況を考え合わせるかぎり、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    『なるほど。捉え方によっては、植松被告のおかげで次のステップに進めた、と言うこともできるのですね。そのあたりの話になると、正に“不可思議”の世界の話です』

    青年の言葉に大きく頷きながら、陰陽師が続けた。

    「さらに言えば、犠牲者になった家族も今回の“悲劇”に登場する舞台俳優たちで、彼らは彼らで、この悲惨な事件を通して間違いなく何かを学んでいるはずじゃ」

    『そう言われてみれば、たしかに』

    青年は小さく唸りながら、首を縦に振った。そして、物思いにふけるように、青年はしばらく黙ったままでいた。
    やがて、青年は感慨深げに言った。

    『いずれにしても、あの悲惨な事件には、これほど多くの人たちが関わっているわけですね』

    「さよう。さらに、この事件に遭遇した我々のような傍観者の存在まで当事者に含めるのであれば、加害者の行動に感情的な判断を下すだけではなく、今回の事件から自分は何を感じたのか、何を学ぶのか、それらを糧としてどう生きていくのかといったことを考えてみることが肝要だとワシは思う」

    『おっしゃる通りだと思います。僕などはまだまだ世間の倫理規範に基づいて物事を判断し、物事を善悪で判断してしまいがちですが、そうではなく、もう少し大きな視野で物事の本質を見極め、それを自分の人生に活かすことが大事なのですね』

    「我々は、聖人君主ではない。じゃから、時には過ちを犯すこともあるじゃろう。そんなとき、一つの指針となると思われるのが“脱社会”的な生き方なのじゃ」

    『“脱社会”的な生き方、それはどのような生き方なのでしょう?』

    そう訊ねる青年に、陰陽師は説明を続ける。

    「前にも説明したと思うが、社会的責任、愛する家族までを捨てて世捨人となることを勧めたブッダの教えは、決して“社会の規範”に則ったものではなかった。しかし、彼は決して、“反社会”的になることを説いたのではなく、“社会の規範”を超越した“脱社会”的存在になることを目指せと説いたわけじゃが、この“脱社会”的な生き方こそが、時には偏狭となる“社会の規範”を超越し、常に第三者的なものの見方、大局的なものの見方を持って生きる指針、つまり“如実知見”になるわけじゃ。そして、そのような生き方こそが、結果として、“修行の場”であるこの世での正しい生き方となることじゃろう」

    『自らの宿題を果たすためにも、“反社会”的になるのではなく“脱社会”的になることを目指せ、ということですね、よくわかりました』

    そう言う青年に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながらうなずく。
    ふと、青年はスマートフォンで現在時刻を確認する。

    『今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年は過去の人生を振り返っていた。ふと蘇る思い出に対し、善悪の判断や感情的な反応をするのではなく、なぜあの出来事が起きたのか、あの出来事が自分の人生にどのような影響を及ぼしたのかといった、大局的見地でもって振り返ることができた。
    そして、これから起こる日々の出来事に対し、冷静に観察して不動心で対応しようと決意を新たにするのだった。

     

     

     

     

     

     

     

    帰宅後、青年の電話に陰陽師からの着信があった。

    「まだ起きておったか?」

    『はい。何かありましたか?』

    「こんな時間に電話をかけて悪いとは思ったが、植松被告の主張に対して、どうしても補足をしておきたいことがあって連絡をさせてもらった」

    そこでいったん言葉を切った陰陽師が、青年におもむろに訊ねかけた。

    「ところで、そなたは“楢山節考”という小説・映画について、何か知っておるかな?」

    思いがけぬ質問に戸惑いながら、青年はとっさに断片的な記憶を拾い集め、口を開く。

    『実際の映画はまだ観たことはありませんが、たしか、食料が不足していた昔の日本において、口減らしのために高齢者を真冬の山に捨てに行く話だったかと』

    「そなたの記憶に若干の補足をしておくと、舞台となる東北地方の山村では70歳になった老人を鳥葬する山へ息子が背負って捨てに行くという因習があった。で、主人公は母親のことを想い、少しでも母親を捨てに行く日を遅らせようとするのじゃが、曾孫が産まれることを契機として、母親は家計のことを考え、丈夫だった歯を自ら折って食べ物を食べられない状態にしてしまう。つまり、そうすることによって抵抗する息子に決断を迫ったわけじゃ」

    『なるほど。なんだか、胸が痛む話です』

    「主人公の母子に関してはこのような感動的な筋立て話が進む一方で、主人公は母親を置いて下山する途中、一組の親子を見かけることになる」

    『下山する途中ということは、母親を山の中に置き去りにして戻る途中ということですよね?』

    「さよう。主人公が帰り道に遭遇したもう一組の親子は、村一番のケチという設定で、父親は70歳を過ぎても“楢山まいり”を拒否しており、最期は実の息子に無理やり連れられ、谷へ突き落とされてしまう」

    『なるほど。究極の親子関係が如実に現れるストーリーなのですね・・・』

    「“楢山節考”は棄老伝説をベースにしていることから、そのどこまでが真実だったかは定かではないものの、そのような民話が残されている以上、似た様な慣習が長期間に渡り存在していたことだけは間違いない事実であるし、これらの伝承の本質は、全体が生き残るために、時には脆弱な一部を切り捨ててきたという厳然としたルールが存在していたというところにある」

    『たしかに、動物の世界でも、たとえ、かたわでなかったとしても、脆弱な生まれの個体は、格好の標的とされてしまうのでしょうし』

    「この全体と個という問題は、今回の新型コロナ騒ぎであらためてクローズアップされた人類普遍の問題なのじゃが、より多くの者が生き延びるために、個人の生命や権利をどう考えるべきなのかという、まさに哲学的な命題を含んだ大問題なのじゃよ」

    『つまり、健常者でもまともに生きられない場合に、非健常者をどう扱うべきかという話ですね』

    「さよう。それがいいことか悪いことかはともかく、戦前までは、奇形児は生まれた瞬間に殺されていたわけじゃし、攻撃性のある精神障碍者は、座敷の奥に閉じ込めたりしていたという事実もある。さらに言えば、貧しい家では、生まれたばかりの赤子を密かに間引いていたという話も残っているくらいじゃからの」

    『なるほど、ほんの少し前までは、そんなことが横行していたのですね』

    「それだけではない。1961(昭和33年)年に国民健康保険法が改正され,国民皆保険体制が確立されるまでは、短期間で死に至る病ならまだしも、糖尿病や心臓病などで一命をとりとめ、ずるずると生き永らえてしまった場合、高額な医療費のために一族が潰れてしまうことも決してめずらしいことではなかったんじゃ」

    『今では健康保険制度を当たり前と思っていますが、当時の医療は現代の常識からは想像ができないくらい高額だったわけですね』

    青年は、電話越しに一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    『どこで読んだ記事かは忘れてしまいましたが、植松被告は“保護者の疲れ切った表情、施設で働いている職員の生気の抜けた瞳。障碍者は車椅子に一生縛られている気の毒な利用者も多く存在し、保護者が絶縁状態にあることも珍しくない”と言っていたようなのですが、“介護施設は姥捨山”と言われる所以も、今のお話を聞いているとよくわかる気がします。たとえ偏狭な常識だったとしても、彼からすれば、車椅子に一生縛られている障碍者の“存在理由”がおそらく理解できなかったというか、看破できなかったのだと思います』

    「たしかに処々の事情も踏まえるかぎり、植松被告の主張は、正しいとまでは言わんが間違っているとも言い切れない側面があることも、また事実じゃろう」

    『ということは、時代が違えば彼の主張は正論にもなり得たのでしょうか?』

    「たとえば、今回の新型コロナウィルスで全人類の半数近くが死に絶えるようなことでも起これば、あるいはそうなるかも知れんな」

    『つまり、そのような非常事態の中では、人類が築き上げてきた“倫理規範”よりも、自然界における“弱肉強食”のような理論が先に立ってしまうと』

    「まあ、そういうことじゃな」

    一瞬の沈黙ののち、ふたたび、電話口から陰陽師の声が響いた。

    「ところで、そなたは植松被告が法廷で“最後にひとつだけ”と言ったことを知っておるかな?」

    『はい。ただ、裁判長に認められず、発言できなかったと理解していますが』

    「ネットの記事によると、あの時発言したかった最後の一言は、“大麻の合法化“だった、と裁判後、留置場を訪れた新聞記者に彼が語ったそうじゃ」

    『そう言えば、彼は検査で大麻の陽性反応が出ていたものの、そのために刑事責任を問えない心理状態ではなかった、という報道をどこかで読んだ記憶があります』

    そこでいったん言葉を切った青年は、あらためて陰陽師に問いかけた。

    『ところで先生は、大麻に対してどういう意見をお持ちですか?』

    「と言うと?」

    『僕としては、ネガティヴなイメージが多い大麻ですが、用途を見る限りメリットも多い気がしているのですが』

    「もちろん、危険性が高いLSDのような人工ドラッグとは区別することが前提となるが、大麻に関しては、すでに多くの国で医療用の使用が認められておるし、オランダのように嗜好用として認められている国さえあることを考え合わせると、彼の主張は単に時代がちと早すぎただけと言えなくもないじゃろうな」

    しばらく逡巡した後、青年は口を開いた。

    『そう言えば、彼は頭が1で“枝番”も1で、さらに大局的見地が90と高いことから、単純に悪や誤りとは言い切れない主張ではないかと思います。大麻は、神道における神事の重要なアイテムであったと同時に、昔の日本人の生活と関わりがあった植物と聞いたこともあります。そのような経緯からも、彼の主張はあながち間違っていないのではないかと』

    「現在、アメリカでも、アラスカ州、ワシントン州、オレゴン州、コロラド州、メイン州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ネバダ州、バーモント州、ミシガン州、イリノイ州の11州が嗜好品として、40州以上がマリファナを医療で使用することを認めておるわけじゃから、ひょっとしたら、今回あらためてその有害性がクローズアップされたタバコの代わりに、想像より早く、日本で合法化されるかもしれんな。また、日々現出する、無差別殺人、大量殺戮など一見凄惨な犯罪も、そのような犯罪が存在することで我々が様々な学びが可能となる理由から、そのような犯罪者の身に罪を負わせて一件落着という“現行の法律”が再考される時期が、いつかは来るはずじゃ」

    『なるほど。彼は死刑になっても悔いはないと言っていますから、長期的に見て後の時代のスタンダードになることを見越して、自らの命をかけて社会に問いかけたという見方もできるわけですね』

    「さよう。その時々の価値観を無視するわけにはいかぬとしても、そうした価値観に捉われることなく、日常の出来事とそれらが人類全体に及ぼす影響について、観察できるようにそなたも修行することじゃ」

    『かしこまりました。日々、精進します』

    「その意気じゃ。夜分遅くにすまなかったの」

    その言葉を最後に、電話は切れた。