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  • 新千夜一夜物語 第43話:秋篠宮眞子内親王とご結婚

    新千夜一夜物語 第43話:秋篠宮眞子内親王とご結婚

    青年は思議していた。

    秋篠宮眞子内親王の結婚が物議を醸している件についてである。皇族の結婚は慶事であるはずが、国民から批判の声が多く上がっているように、青年には感じられた。
    その理由は、婚約者である小室圭さんの母親である、小室佳代さんが元婚約者との金銭トラブルを起こしていることと、そもそもそのような問題を起こす性格の人物の息子であることが原因のようだ。
    天皇家と縁を持つ親族に、金銭トラブルを抱える/そもそも起こす人物がいることに対し、国民は不安に感じることだろう。

    皇族に関して一個人として意見を述べるつもりは一切ないが、なぜここまで問題になっているのだろうか。
    小室佳代さんにかかっている、何らかの霊障が関係しているのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は小室佳代さんのことで教えていただきたいことがあり、お邪魔しました』

    「以前から色々と話題にあがっている件じゃな。して、具体的にどのようなことを知りたいのかな?」

    青年は、小室佳代さんの金銭スキャンダルや、彼女の夫と、その家族たちの身に起きたことを、簡潔に説明した。

    『今回の騒動は、婚約している当事者ではなく、小室圭さんの母親である、小室佳代さんと彼女の元婚約者である竹田さん(仮名)との、過去の金銭のやり取りが問題となっているようです。この400万円以上もの大金について、小室家サイドでは贈与で、彼は貸与だったと主張しており、双方の認識がずれています』

    「我々庶民の結婚においても、婚約者の親族に金銭的なトラブルを抱えている人物がいるとわかったら、トラブルを解決してもらうか、それが難しいとしても、せめて納得のいく説明や対応を求めるのは、当然のことじゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は一つ頷いてから口を開く。

    『しかし、この件に関し、小室家からの明確な回答がないことから、この結婚に不安を感じている人々が多いのではないかと思います』

    「なるほど。ちなみに、今回の結婚のトラブルの発端となったお金は、どういった経緯で生じたのかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は再びスマートフォンを操作し、該当するサイトを読み上げる。

    『元婚約者は、婚約していた当時、小室圭さんが通っていた大学の学費として400万円を渡したようですが、その後も佳代さんからの金銭の要求が激しかったため、婚約を破棄したようです。その後、今回の結婚の話が出たことから、返金してもらおうと思い返金交渉に着手したようですが、誓約書がなかったために返金は不可能だと知り、新聞記者に情報をリークしたようです』

    「なるほど」

    そう言い、陰陽師は鑑定を始め、紙に鑑定結果を書き足していく。

    小室佳代SS

    竹田(仮)SS

    2人の属性表を眺めた青年は、小さく唸り声を挙げてから言葉を発する。

    『小室佳代さんは全体運9点で金運が9点満点中8点、元婚約者は総合運8点で金運が8点ですが、2人の今世の課題に、今回の騒動のようなお金の問題を抱えることは、本来は含まれていないのでしょうか』

    「いや、今世の課題にお金の問題が含まれないのは、総合点が9点かつ金運が9点の場合のみじゃ。8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、総合点が1点下がる毎に、それ以下の項目は、総合点9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる」

    陰陽師の説明に青年は何度も頷いた後、口を開く。

    『なるほど。2人とも、お金の問題を抱えることは今世の課題に含まれているものの、今回の騒動にいたるまでの大きな問題に発展してしまったのは、“1:財運”の相による影響が大きいと』

    「その可能性が高いじゃろうな。また、金運について付言しておくと、ワシが言う金運とは、世間一般で定義されているような、収入や貯金と言った問題もなくはないが、そうではなく、入ってくるお金を自らの“宿題”に沿った使い方ができる運を持っているか否かということを意味している」

    『なるほど。小室佳代さんは、庶民からみれば贅沢な暮らしをしているように感じられますが、彼女のお金の使い方そのものが、1の相の影響によって、今世の課題に沿っていない可能性があると』

    「いつも諭しておるように、そのような一面的な考え方をしていかん。1の相はそんな単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと』

    「たとえば、じゃ。融資を受けようとした際に、通常なら融資を受ける条件が整っているのに融資を受けられず、自分が望む・理想とする“お金の入り方”がその希望通りにならないといったように、具体例を得げればキリはないが、いずれにしても、本来であれば起こりえないことが起こるのが、霊障の特徴なわけじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に戸惑いながらも、青年は言葉を続ける。

    『いずれにしても、霊障である限り、お金の入り口と出口の両方で、通常では考えられない邪魔が入るということなのですね』

    「さらに注意が必要なのは、たとえば、魂4と魂1〜3とでは、同じ修行をするにしても、そもそも修行のレベルが異なっている。それ故、収入や支出のスケールも当然異なってくるわけで、仮に、贅沢な暮らしをしているからとって、必ずしも今世の課題に沿った使い方をしていないとは限らないという問題もある」

    『なるほど』

    未だ納得のいかない表情を浮かべている青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、そなたの家庭では、お金はどのように使われていたか、覚えておるか?」

    陰陽師の問いに対し、青年は顎に手を当てて黙考した後、口を開く。

    『僕の両親は共に“魂3:武士”でしたが、食費などを倹約して、四人いる子供の学費のために貯金を優先してくれました』

    青年の答えに対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「たとえば、魂4、特に4−4の家庭では、教育や教養に類する支出が少なく、食費にかけるエンゲル係数の比率が一般的に高い傾向がある。つまり、同じ収入であっても、それを何に使うのかによって、金運の“質”が変わってくるわけじゃ」

    『なるほど』

    真剣な表情で頷く青年を見やり、陰陽師は次の質問を投げかけた。

    「さて、今度は、彼女の亡くなった夫の家族に起きた出来事について教えてもらおうかの」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『彼女の夫は焼身自殺し、その一週間後に義父が首吊り自殺をし、それからおよそ一年後、義母も自殺しているようです』

    「なるほど」

    あいづちを打つ陰陽師に対し、青年は言葉を続ける。

    『夫が亡くなった後、佳代さんは、70代の彫金師の男性と5年ほど交際していたようですが、彼も不審死したようです。このように、彼女と深く関わる人物が命を落としていることから、何らかの霊障が関係しているのではないかと思ったわけです』

    「合計4名もの人物が亡くなっているとすれば、何らかの霊障が関係している可能性は高いかもしれんな。どれ、さっそく鑑定してみよう」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    小室敏勝SS

    小室善吉SS

    小室敏勝の母SS

    彫刻家ASS

    他界した人物たちの属性表を眺めた青年は、深いため息を吐いてから、口を開く。

    『亡くなった方々全員に、先祖霊の霊障に“5:事故/事件・被害者・死亡”の相がかかっているので、亡くなってしまったことに納得ですが、地縛霊化している方はいるのでしょうか?』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    固唾を飲んで結果を待つ青年。
    少しした後、陰陽師は口を開く。

    「いや。全員、無事にあの世に戻っているようじゃな」

    安堵の息を漏らす青年を横目に、陰陽師は言葉を続ける。

    「元婚約者も含め、佳代さんと関わった人物全員が、人運と恋愛運が共に“7以下”であることから推察するに、上記の人々は彼女と関わって苦労することも同時に今世の宿題としていたようじゃな」

    『なるほど』

    苦々しい表情でそう言う青年に対し、陰陽師は微笑みながら続ける。

    「亡くなった人物たちを中心に考えると、“女性問題、特に夫婦関係、親族関係”で苦労するという宿題を抱えて転生してきたとすれば、それらの問題で苦労するのは決して悪いことではなく、むしろ自らの宿題を果たすにあたり、相応しい人間関係と環境を選んだと考えられるわけじゃ」

    『ただ、“薬も過ぎれば毒となる”ではありませんが、“5:事故/事件・被害者・死亡”の相があったために、彼女と関わった人物が命を落とし、“1:財運”の相があったために、元婚約者は400万円以上もの大金を失うほどの問題に発展してしまったと』

    「うむ。宿題による重石と霊障による“余分な重石”とは、分けて考える必要はあるものの、大筋としてはそうなる。自殺というと世間の人間はネガティヴに捉えるじゃろうし、実際、胸の痛む出来事ではあるが、“あの世”の視点でみれば、佳代さんと関わって命を落とした人物は、立派に今世の宿題を果たして帰還してきた魂ということになる』

    陰陽師はそう言い、何度も頷いている青年を横目に、湯呑みに注がれた茶をゆっくり飲み始める。
    しばらく無言で腕を組んでいた青年が、次の疑問を口にする。

    『それにしても、佳代さんと深く関わる人物は、なぜあんなに高額なお金を彼女に渡してしまったのでしょうか』

    青年の問いを聞いた陰陽師は、鑑定を行い、口を開く。

    「今も話したように、基本的には今世の宿題が大きな要因ではあるが、“余分な重石”の部分である霊障の影響としては、“14:人的トラブル”と“17:憑依”の相じゃな」

    『彼女は“魂3:武士”であるのに、めずらしく17の相が“天啓”ではなく“憑依”なのですね』

    やや目を見開きながら言う青年に対し、一つ頷いてから、陰陽師は言葉を続ける。

    「“17:憑依”の相には、本人に眷属(※第35話参照)や動物霊が憑依した結果、遠慮や躊躇がなくなったり、妙なパワーを得て人に対する圧力や過激な言動が増し、本来の実力以上の“感化”を他人に与える力がある」

    『なるほど』

    「そして、人運と(特に男性の)恋愛運の低さに加え、佳代さんとのパワーバランスとでもいうような、個別の相性を考慮する限り、彼女の提案を断れない関係だったと言うことができるじゃろうし、今世の宿題を含め、様々な霊障との合わせ技によってお金を渡してしまったと考えるべきなのじゃろうな」

    陰陽師の説明に青年は首肯した後、しばらくしてから口を開く。

    『現状、秋篠宮眞子内親王と小室圭さんの結婚がどのような結末になるかはわかりませんが、仮に成婚した場合、秋篠宮眞子内親王だけでなく、秋篠宮家にも何らかの問題を持ち込むことが懸念されますが、どうなのでしょうか』

    「どれ、鑑定してみよう」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き足していく。

    秋篠宮眞子内親王SS

    小室圭SS

    『秋篠宮眞子内親王は、人運と恋愛運が7以下と低いことから、今世は人間関係や異性問題で苦労することが今世の宿題のようですが、小室家の問題で苦労することも、その中に含まれているのでしょうね』

    青年の問いに対し、陰陽師は無言で鑑定を始め、やがて口を開く。

    「いや。あらためて、そのあたりをみるに、どうもそうではないようじゃな」

    『とおっしゃいますと』

    「つまり、宿題という観点からみる限り、今世の秋篠宮眞子内親王の宿題に、小室家と婚姻関係を結び、それによって苦労するという宿題は存在しない。ゆえに、今回の結婚が成立してしまい、その後トラブルに巻き込まれるとすれば、それは霊障のなせる技ということになる」

    『なるほど。霊障によって、ここまでの騒動になるとは。ほんと、霊障の影響は恐ろしいですね』

    そう言い、青年は腕を組んで黙考した後、やがて陰陽師に問うた。

    『ちなみに、お二人の恋愛と結婚の相性はいかがでしょうか?』

    青年の問いに、陰陽師は無言で鑑定を始め、紙に結果を書き足していく。

    秋篠宮眞子内親王からみて/小室圭からみて
    恋愛  D/F
    結婚  F/F

    アルファベットを見、青年は小さくため息を吐いてから言葉を発する。

    『S+が最高点であるのに対し、Fは0点、Dは1〜10点ですので、恋人関係であろうと婚姻関係であろうと、相性から判断しただけでも、お互いにとって魂磨きの修行にはならないわけですね』

    「もちろん、それはそうじゃが、ワシが言う恋愛や結婚の相性とは、単に社会的地位の向上や収入の安定、夫婦円満といった現世利益だけではなく、お互いにとっての魂磨きの修行が進むかどうかといった、霊的な問題も含んでいることをよく心に留めておくようにの」

    『なるほど。我々は魂磨きをするために、修行の場である“この世”に転生してきているわけですから、趣味や感性や考え方が合うからといった、思議の基準ではなく、今世の課題を達成するのに適しているかどうかという基準でパートナーを選ぶべきなのですね』

    「その通りじゃ。話を戻すが、秋篠宮眞子内親王には今世“結婚で苦労する”という相がないので、できることであれば、霊障によって引き起こされている、この結婚が破談になることを祈念するばかりじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は小室佳代さんにまつわる出来事を読み返していた。
    結婚によって、本人の意図とは無関係に、本人の親族はもちろん、パートナーやその親族にも影響を与えてしまうことがあるし、一度婚姻関係を結んだ場合、離婚したとしても、霊的な繋がりは切れないことが多いことも理解できた。
    恋愛で盛り上がっているカップルや既婚者たちには辛い話だろうが、結婚後のことも踏まえた大局的見地から、相性鑑定の重要さを説明していこう。
    そう青年は決意したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性

    新千夜一夜物語 第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性

    青年は思議していた。

    2020年9月、飛行機内で客室乗務員からマスクを着用するように指示を受けていたにも関わらず、頑なに拒否して航空機を臨時着陸させた男性についてである。

    ネットの情報から判断するに、彼は健康上など、なんらかの理由でマスクを着用できないようではなかった。彼のように、周囲の状況を顧みずに迷惑行動を取る人物は、いったいどのような魂の属性で、先祖霊の霊障にどのような相がかかっているのだろうか。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はマスクの着用を巡って事件を起こした人物について教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ、いつもと毛色が異なる事件のようじゃが、具体的にどういったことを知りたいのかの?」

    青年は、マスクを拒否した男性が起こした事件の経緯と概要を、順を追って陰陽師に説明した。

    『順序としては、マスクを着用しなかった彼に対し、隣席の客が“気持ち悪い”と苦言を訴えたのが事の発端だったようです。コロナ禍である現状、飛行機内での密な空間の中、少し動けば袖が触れる距離にいる人物がマスクをしていなければ、なんらかの拒否反応を示すのは止むを得ないと思うのですが』

    「たしかに」

    小さく頷く陰陽師を横目で見ながら、青年は言葉を続ける。

    『その後、彼は客室乗務員に他の乗客が不適切な発言をしたとして謝罪させるように言い、その際に大声で詰め寄ったようです。眠っていた他の男性が目を覚ますほどの声量だったようですが、加害者は声量の感じ方は人それぞれであり、自分は紳士的な対応をしていたと主張しています』

    「ふむ、一般常識で考えると、必ずしも紳士的な対応とは言い難いがの」

    微笑みながらそう答える陰陽師に、ひとつ首肯してから青年は説明を続ける。

    『さらに、加害者は客室乗務員からのマスク着用のお願いを再三断り、今度は書面を出せと言っておきながら、機長指示で提出された書類を丸めて投げ捨て、それを客室乗務員が加害者の胸ポケットに入れようとしたところ、客室乗務員の腕をねじり上げて全治2週間の怪我を負わせました

    「なるほど。話を聞く限り、かなり気性が荒そうな人物のようじゃな」

    『彼の蛮行はそれだけにとどまらず、2020年11月にも、彼は某ホテルの食事会場で、ホテル側からのマスクと手袋の着用などの呼びかけを無視して入場し、その後、ホテルの支配人から端の席に移動するようにとの要請なども無視しました。さらに、板前も加わっての押し問答にまで発展し、現場が混乱して収拾がつかなくなったため、最終的にホテル側が110番通報しました』

    「なるほど」

    『さらに、翌朝も同ホテルの食事会場に現れ、ホテルの従業員の制止を無視してマスク未着用のまま強引に入場しようとし、再び警察沙汰になりました』

    「そのような人物であれば、他にも問題を起こしてそうじゃが、どうかな?」

    『2020年夏頃、皇居の東御苑を訪れた際も、マスク着用を拒否して入場したようです。ただ、皇居の警備員が同行するという条件付きで、マスク未着用のまま入館許可を得ていますが、これも問題行動ではないかと』

    「たしかに」

    青年の言葉に一つうなずいた後で、陰陽師が青年に問いかける。

    「しかし、そこまでして、なぜ、その人物はマスクの着用を拒否したのか、何か情報はないのかの?」

    『本人としては、小さい頃から喘息を患っていたと述べていますが、ネットで調べる限り、喘息患者はマスクをしない方がいいというわけでもないようですので、健康上の理由は建前のように感じます』

    「ふむ。健康上の理由ではないとすると、彼なりに何らかの意図や主張があったのかな?」

    『彼自身の主張としては、コロナ禍でマスクの着用の義務化が進む中、マスクをしない少数者が不利益を受けていると考えていたようで、マスクをしない自己決定を認めよう、とのことのようです』

    そう言い、青年は加害者の一つの主張を読み上げる。

    社会の中でも“妥協しない自由”も認めることが、同調圧力の少ない“楽しい”社会を作ります

    『感染すると死の恐れがあるコロナウイルスに対し、科学的にマスクの有効性が証明されていることを考慮すると、マスクをする方が良いと思いますが』

    「たしかにの。して、最終的に彼はどのような罪状で逮捕されたのかな?」

    『この騒動により、関西国際空港に向かう便が新潟空港に臨時着陸し、2時間ほど遅延しました。罪状としては、威力業務妨害、傷害、航空法違反などとなります。ちなみにですが、逮捕されて捜査車両に乗せられる時は、“不当な警察権力の介入が行われたことは遺憾に思っています”と叫んでいたようです。勾留中もマスクをすることはなく、捜査員も着用させることを諦めたそうです』

    「で、マスク着用の拒否に始まり、犯罪に発展するまでの行動を取った、彼の経歴は?」

    陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンの画面を見ながら口を開く。

    『名前は奥野淳也、34歳。彼は大阪のかなり裕福な地主の息子のようで、東京大学法学部出身で比較政治学を専攻。大学院に進むも博士課程では論文審査に合格できずに満期退学したようです。そして卒業後、明治学院大学非常勤職員(特別ティーチングアシスト)として論文の書き方の指導していたようですが、このアルバイトは時給2,000円で月収11万円程度だったようで、その収入を元に茨城県の家賃4万円代の団地に住んでいたようです』

    「我が国の最高峰とも言える東京大学を卒業し、博士過程にまで進むほどの学歴の持ち主のようじゃが、それだけの学歴を持ちながら、もっと経済的に豊かな職に就けなかったのかが気になるところじゃな」

    『おっしゃる通りです。高学歴であれば、就活でそれなりのアドバンテージがあったと思いますが』

    「そうじゃな。して、そなたの見立てでは、彼はどのような魂の属性だと考える?」

    『彼の言動は自己中心的に取れるため、頭が2の人物だと思います。そして、博士課程まで進んでいることから、“魂3:武士”で、仕事や経済面から判断するに、霊障に“2:仕事”の相がかかっているのではないかと』

    「なるほど。では、さっそく鑑定してみるとするかの」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    奥野淳也SS

    鑑定結果を眺めた青年は、小さく驚きの声を挙げる。

    『なんと、2−4ですらなく、4−4(転生回数期が第四期の魂4)でしたか。確認ですが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂4は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強く、それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなるということでしたよね』

    「基本的にそなたが指摘した通りじゃ。歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが典型的な4―4の行動となるが、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケ(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々の大多数が、あるいはまた、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員もそれに該当することは、先日説明した通りじゃ」

    陰陽師の説明を聞き、青年は一つ頷いた後、顎に手を当てながら口を開く。

    『なるほど。仮に4−4であっても、学業が90点(S)であれば東京大学に合格し、大学院にまで進めるのですね。まさに、転生回数が大山である70回代が為せる業なのですね』

    「以前に説明したように(※第39話参照)、魂4の中でも学業が突出するのは、転生回数期が第三期後半からとなるが、彼のように例外的に学業が異常に高い人物も、中にはいるというわけじゃな」

    『なるほど。ところで、彼にかかっている“5:一般・事件・加害者・怪我”の相と、航空機内の騒動で客室乗務員に軽傷を負わせたことになんらかの相関関係があるのでしょうか』

    「そなたの話を聞く限り、彼は航空機だけでなく、他の場所でも警察沙汰を起こしていることから、その可能性は高いと思う。さらに言えば、人運が3という低い値であること、霊脈と血脈と天命運の全てに“14:人的トラブル”の相が出ていること、そしてこの霊障5が合わさることによって、今回のような逮捕に至るまでの事件を引き起こした可能性は、たしかに、高いと思われる」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ頷いた後で、青年が口を開く。

    『つまり、そのあたりをもう一度整理すると、総合運が満点である9点で、霊障がない(神事をし、パフォーマンスが100%の状態)場合、各項目が8点以上であれば、今世、重大な苦労をする心配はない反面、7点以下の項目がある場合、それなりの苦労を覚悟する必要があるわけですね。さらに言えば、7点以下の項目で苦労することが今世の課題だと』

    「端的に言うと、そういうことじゃ」

    『彼の大学の同級生によると、“とにかく理屈っぽくて浮いた存在でした。“変人”って感じで。友達はほとんどいなかったのではないでしょうか“といった印象だったそうですが、この点も踏まえると、彼が人間関係でトラブルを起こしやすいことも納得です』

    そう言いながら小さく頷く青年に、陰陽師が問いかけた。

    「ちなみに、彼の家族はこの事件に関して、何かコメントをしておるのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、父親に関する情報を伝えた。

    『彼の父親は、彼が逮捕されたことに対し、“裏で大きな力が働いているのでは”とコメントしたり、ネット番組で息子と共演していることから、同じ魂4ではないかと思います』

    「なるほど。せっかくだから、彼の両親も鑑定してみるとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に両親の鑑定結果を書き足していく。

    奥野淳也の父SS

    奥野淳也の母SS

    二人の属性表を見た青年は、頷いてから口を開く。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字の多くが“3”で“性善説”論的な気質を持つことから、根は悪い人ではないようですが、一部に5があるあたりが、今回のような騒動を起こした息子を擁護する要因なのでしょうね』

    「それと、各所に14があること、また、総合運の中の人運が7であることも、そのあたりの言動に影響しておるのかもしれんな」

    『たしかに。本来であれば、偏狭ではあるものの正義感が強く、大衆の意見に感化されやすい魂4である人物がこのような言動をするというのは、正に、“人間は多面体”を地で行っていると言えるのでしょうね』

    「さらに言えば、 “魂4(逆)色眼鏡”によって結ばれた、魂の組み違い夫婦であることを考えると、父子の間では話が通じていたのかもしれぬが、頭が1で、しかも“魂3:武士”である母親からすると、二人と価値観が合わず、色々と苦労している可能性も否定できぬの」

    『僕もそう思います。参加意識の高い魂4の父親がメディアの前でコメントしたことはある意味当然として、母親からコメントが一切ないのは、あるいは、そのような事情があるのかもしれませんね』

    そのような青年の言葉に大きく頷いた後で、陰陽師が口を開く。

    「ところで、彼がマスクをしない理由として、小さい頃から喘息を患っていたからとあったようじゃが、そのことに関するコメントはあるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、該当する項目を読み上げる。

    『父親曰く、過去に一緒に生活していた時は、マスクをつけられないような症状はなかったとのことです。それだけではなく、彼は事件の後にマスクをして街中を歩いている姿を目撃されているようです』

    「つまり、彼がマスクをしないのは健康上の理由ではなく、個人的なこだわりである可能性が高いというわけじゃな」

    『どうやらそのようですね。彼は“法律上の規制がない以上、マスクを強制することはできない”という持論を展開していますが、マスクを巡る騒動の結果、今回のような事件を引き起こしたことには、首を傾げざるを得ません』

    「広義の意味で、マスクを着用しないことは法律上の規制にはならないという理屈を盾に持論を主張した結果、航空法や宿泊約款といった、民法に違反して逮捕されてしまったことは、たしかに、4−4らしい反応と言えるかもしれんのお」

    陰陽師の説明に対し、青年は頷いてから話題を変えた。

    『ところで、話が変わりますが、もう一人、マスクを巡る騒動で逮捕された男性がいます。49歳という年齢で今年(2021年)の大学共通テストを受けた人物なのですが、彼は、監督者に何度も注意されたにも関わらず、マスクで鼻を隠すことを最後まで拒否しました。その結果、監督者に試験会場から退場するように言われたものの、それすらも無視したため、他の受験生の方が別室に移動することになりました。試験が終わった後も、彼は試験会場のトイレに立てこもるといった問題行動を取り、最終的には、不退去容疑で現行犯逮捕されました』

    「つまり、マスクから鼻を出していたことが原因で、テストで失格になったわけじゃな?」

    『どうやら、そのようです。監督者は彼に6回も注意をし、しかも次に注意をしたら失格になることを明確に伝えたにもかかわらず、彼は注意を無視し続け、マスクの着用を改めなかったようです』

    「なるほど」

    『いずれにしましても、マスクの着用はきっかけに過ぎず、ルール違反が主な要因であることから、僕としても失格はやむを得ない措置だったと思います』

    「ちなみに、彼には健康上の理由などはなかったのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを再び操作し、しばらくしてから口を開く。

    『その点に関しては明確な情報は出ていないのですが、マスクを鼻まで着用できないまでの理由があるのなら、監督者に注意された際にその旨を伝えることができたはずだと思います』

    「たしかに」

    『それだけではありません。事前に配布されていた“受験上の注意”にも、次のように書かれていました』

    マスク(予備マスク含む。)を持参し、試験場内では常にマスクを正しく着用してください。(中略)。感覚過敏等によりマスクの着用が困難な場合は、”医師の診断書“を提出して受験上の配慮申請を行い、別室での受験を申請する必要があります。

    「と言うことは、この男性も、個人的な事情でマスクを拒否していた可能性が高いわけじゃな」

    『はい。自分の主張が認められず、いらいらしていたと容疑を認めていたことから、おそらく個人的な事情だと思います』

    陰陽師は青年の言葉に頷いてみせ、失格となった男性の鑑定結果を紙に書き記していく。

    共通テスト失格男SS

    属性表を見た青年は、少し驚いた表情を見せ、口を開く。

    『彼は“魂3:武士”だったのですね。ただ、頭が2で、欄外の枝番の数字は“7”であること、そして、先祖霊の霊障に“5:一般・事件・加害者”の相があることを鑑みるに、今回のような自己中心的な騒動を起こしたことも納得です』

    人運が“3”とかなり低いことも騒動を起こした要因の一つじゃろうし、転生回数の十の位が30回代の人物の場合、メディアで取り上げられるような事件を起こす可能性がどうしても高くなるようじゃな」

    陰陽師の言葉に首肯した後、青年はしばらく黙考してから口を開く。

    『また確認になりますが、この世で犯罪を犯したり迷惑行動を取る人物も、結局は、“永遠の世”の要請で生まれた魂であることには変わりがないわけですから、400回に及ぶ魂磨きの修行を終えれば、この世で真っ当な人生を歩んでいる人々の魂と同様に、“永遠の世”で何らかの職責を担うわけですよね』

    「その通りじゃ」

    青年の質問に大きく頷く陰陽師の様子を確認し、青年は言葉を続ける。

    『と言うことは、たとえこのような事件を起こしたとしても、彼らは彼らで今世の課題をこなしていることになるわけですから、それを以て彼らを安易に批判することは、あまり意味がないということになりますね』

    「その通りじゃ。いつも言うように、“罪を憎んで人を憎まず”ではないが、騒動を起こす人物を目の敵にしたり、悪意を向けるのではなく、それらの事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要であると同時に、“この世は修行の場”という言葉の意味を常に噛み締めることが重要じゃとワシは思う」

    『つまり、この世が“地上天国”ではない以上、たとえ自分の身に不幸な出来事が起きたとしても、それは今世の宿題であったと考えるべきなのですね』

    「もちろん、誰もが戦争や凶悪犯罪に巻き込まれたくないと願うわけじゃが、霊障がない状態でそのような厄災に巻き込まれた場合には、それも今世の宿題と思うくらいの覚悟が必要だとワシは思う」

    『そして、それこそが“不動心”だと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    SNSやウェブ上だけでなく、現実でも偏狭な正義感を振りかざして迷惑行動を起こす人物がいる。特にコロナ発生以来“**警察”と呼ばれる、過度な自警団的行為が多数報告されている。しかし、そんな彼らの行動にも、彼らなりの宿題が大きく絡んでいるのだ。
    とは言え、そこに霊障が絡むと、事態が思わぬ方向に進んでしまう可能性が出てくる。そのような意味で、これからも、霊障によって魂磨きの修行が阻害される人物が一人でも少なくなるよう、ご神事の提案だけは続ける必要があるはずだ。
    そう青年は思議したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    青年は思議していた。

    韓国史上最悪の大規模ネット性犯罪事件である、“n番部屋事件”についてである。
    この事件は、2018年後半から2020年3月までTelegram、Discordなどのメッセンジャーアプリ内で行われていた、大規模なデジタル性犯罪・性搾取事件である。

    この事件が発生した経緯として、加害者たちはモデルの仕事と称して高額アルバイトで女性をスカウトしておきながら、その実、女性に加害者が卑猥な画像を送らせては徐々にエスカレートした画像を要請していき、途中で断った女性に対しては、これまでの画像と彼女たりの個人情報を公開すると脅していた。
    それらの撮影物は8つのチャットルームで掲載されており、中には自傷行為、レイプ、グロテスクな物もあったようだ。

    この事件の被害者の数は70名で、その内16名が未成年で女子中学生が多かった模様。
    今回逮捕された20代の男性には懲役45年の刑が言い渡されるのみならず、警察は、26万人にも及ぶn番部屋の利用者に対しても、彼らを特定すべく動いているようだ。

    韓国は性犯罪が多い国として世界第4位に位置しているが、何らかの理由があるのだろうか?
    あるいは、魂の属性からみて、性犯罪者にはなんらかの傾向があるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は韓国の性犯罪事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「韓国の性犯罪事件についてとな。して、何を聞きたいのかな?」

    青年は陰陽師に“n番部屋事件”の概要と疑問に感じたことを、順を追って、陰陽師に話した。

    『いつも先生がおっしゃっているように、杓子定規に事件と魂の属性を結びつけようとは思っていませんが、性犯罪や韓国人と魂の属性について、何らかの因果関係があるのではないかと思いました』

    「そなたが聞きたいことはわかった。その質問に対する回答のベースに、韓国における魂の属性の人口分布について理解しておく必要がある」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『以前、韓国人は頭1と2の比率が1:9で、日本人の3:7に比べて頭2の人口比率が圧倒的に多いとお聞きしましたが、他に、魂の観点で韓国人の特徴はあるのでしょうか?』

    「強いて挙げるとすれば、“魂3:武士・武将”は2−3(転生回数期が第二期の魂3)と4−3(転生回数期が第4期の魂3)が多く、“魂4:一般庶民”は3−4(転生回数期が第三期の魂4)が多い」

    『なるほど。我が国における魂の属性の人口分布とは異なるようですね』

    「そうじゃ。ちょうど転生回数期の話が出たところで、魂の種類と転生回数期の特徴について、そなたが理解していることを、確認も兼ねて説明してもらおうかの」

    『承知しました。まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『次に、転生回数期の説明になりますが、今回は韓国人に多い、第三期と第四期について説明いたします。この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純で、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強いです。そのため、どうしても、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなるとお聞きしました』

    黙って青年の説明を聞いて頷く陰陽師の様子を確認し、青年は説明を続ける。

    『次は第三期ですが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる傾向があります。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つとお聞きしました』

    「魂1〜4の人口分布については、どのように理解しておるかな?」

    『世界的には魂1:5%、魂2:15%、魂3:25%、魂4:60%という人口分布となりますが、この人口分布は国々によって微妙に異なり、我が国の魂の種類の人口分布は、魂1:7%、魂3:33%、魂4:45%となります』

    「韓国の場合は、概ね、魂1:3%、魂2:12%、魂3:23%、魂4:62%という人口分布となる。また、韓国における魂4は、62%中、1-4が約14%、2-4が約5%、3-4が約25%、4-4が約18%という比率となる、もちろん、日本などと同じように、転生回数によって四つの期に分けることができ、それぞれに特徴がある」

    そう言った後、陰陽師は人工分布図の表を紙に書き足していく。

    人工分布図SS

    『なるほど。魂4の中では、3−4が最も多いのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、再び口を開く。

    「韓国における魂の種類の人工分布図がわかったところで、今度は具体的に加害者たちの鑑定結果をみていくとしよう」

    陰陽師の問いに青年は一つ頷き、n番部屋の創始者、運営、引き継いだ人物、そして模倣犯に該当する人物の名前を挙げていく。
    名前を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    1:n番部屋の創始者。24歳。男子大学生。

    ムン・ヒョンウクSS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見て、陰陽師は口を開く。

    「サイトの創始者の魂の属性は3−4(転生回数期が第三期の魂4)じゃが、3−4といえども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4(転生回数期が第四期の魂4)とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えるとわかりやすい」

    参加意識が高く、大局的見地に欠けていることが魂4の特徴だとお聞きしましたが(※第39話参照)、彼による被害者は50人を超え、3件ほど性的暴行を指示したと自供しています。魂の属性から鑑みるに、彼はn番部屋を作って注目を集めることで自尊心を満たしたかったのではないかと推測します』

    「属性表を見る限り、その可能性は高いのかもしれんな」

    『性的暴力の被害に遭っている様子を、被害者の個人情報付きで公開したら、その女性の将来にどのような影響を及ぼすかを配慮できないあたりが、仁が30点(D)というところに表れているのでしょうね』

    「端的に言うと、日本以上にネット環境が整備されている韓国ならではの事情と魂4の持つ諸々の特徴の合わせ技によって、今回の事件が起きてしまったようじゃな」

    『なるほど。この事件は、引継ぎ者や模倣者が現れている点が、3−4が多いことに関係しているのではないかと思いました。仮に我が国で類似する事件が起きていたとすると、ほぼ2−4と4−4だけなわけですから、サイトの創始者や運営する人物は2−4、閲覧するだけの人物は4−4という構造になっていたのではないかと』

    「我が国で類似した事件が起きたわけではないから、そのあたりについては断定的なことは言えぬが、構造上は、そのように捉えることもできるかもしれんの」

    『やや強引な説を展開して失礼しました』

    ばつが悪そうに青年は言った後、次の人物について言及した。

    2:16歳。男子高校生。n番部屋の運営陣だったが、別の共有室を設置した。

    太平洋SS

    3:30代男性。創始者からn番部屋を引き継いだ。警察に拘束された後、捜査に協力して減刑された。

    シンSS

    『この二人はn番部屋の元運営陣と引き継いだ人物ですが、共に3―2(転生回数期が第三期の魂2)ですね。第三期の魂2は、魂3・4などと違い、社会的な上昇志向よりも魂2が持つ優しさ、奥ゆかしさ、慈愛といった側面が最大限に発揮されるという特徴を持つ、とお聞きしましたので、意外です』

    「3−2の特徴は、基本的にそなたの言う通りじゃが、頭の1/2や枝番などの数字の組み合わせの結果、このような犯罪を犯すようになったのじゃろう」

    陰陽師の説明に対し、青年は無言で頷いて見せる。

    「さらに言うと、数奇な運命を歩む傾向にある、十の位が30回代の場合、魂2が本来持つ“観音”ではなく、“不動明王”の側面が出やすい傾向にある

    『つまり、先ほど僕が説明した特徴は、あくまでも、おおまかな傾向であって、個々人の属性によっては該当しないケースもあるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。何事にも例外規定があることを、よく覚えておくことじゃ」

    『承知いたしました』

    そう言い、再び属性表を眺めた後に、青年は言葉を続ける。

    『n番部屋を引き継いだ人物の方は、“児青法違反”で懲役刑の執行猶予を言い渡された前歴があったため、今回の1審では、当初、重い罪質を言い渡されましたが、逮捕された後は、警察の捜査がはかどるように、情報提供を積極的に行なっていたようです。ひょっとして、仁(他者への優しさ・思いやり)が70点(BB)と比較的高いことから、逮捕されたことを機に、慈悲の心を取り戻したと考えることはできるのでしょうか」

    「そなたの考えも一理あると思うが、頭が2、つまり自己中心的な考えを持つ属性であることを考慮すると、自分の立場を“損得”で判断し、減刑のために自供した可能性の方が高いじゃろうな』

    『言われてみれば、彼は再犯ですし、頭が2であることを考えると、保身に走る可能性はじゅうぶんに考えられますね』

    そう言い、青年は腕を組んでから苦々しくつぶやく。

    『我が身可愛さにかつての仲間を裏切るような行動をする点は、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つという、転生回数期が第三期の人物らしい立ち回りと言えそうです』

    「とは言え、大局的見地からみれば、彼のおかげで他の加害者の逮捕が早まり、被害の拡大を抑制できたと考えることができたわけじゃが」

    『そうですね。他の加害者の逮捕が早まることで新たな被害者が減り、既に被害に遭ってしまった女性たちの不安が解消される日が、1日でも早く訪れることを願います」

    青年はそう言った後、次の人物の紹介を進める。

    4:2019年にn番部屋が消えた後、“博士部屋”を作った人物。仮想通貨決済でのみチャットルームに入ることができる専門的なモデルであった。懲役45年。会員費は、日本円で約25000〜15万円相当。

    チョ・ジュビンSS

    『この男性が今回ニュースで取り上げられていた加害者となりますが、“博士部屋”という名称で、仮想通貨決済を行なった人物だけが参加できる、独自のモデルを作ったようです』

    「なるほど。第四期とはいえ、商根たくましい“魂3:武士”らしい性格を持った人物のようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は苦虫を嚙みつぶしたような表情で口を開く。

    『他の人物と異なる点は、欄外の枝番だけでなく、下段の数字も“7”や“9”が多いことだと思います』

    「いずれにしても、そのあたりが、今回の事件を引き起こす基本的な性格となっているのは間違いないじゃろう」

    5:10代。n番部屋を模倣して新たなチャットルームを運営した。女子中学生三人が被害に遭った。

    ぺSS

    『この人物も、4−3で欄外の枝番が“9”が多く、仁も低いことから、先ほどの被告と魂の属性が近いですね』

    「この人物の属性表で特筆すべき点は、多くの人物の精神疾患の項目に“13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”と“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”があるのに対し、“13”の相しかないことと、“10:攻撃性”じゃろうな」

    属性表に再び目を通した青年は、驚きの声を挙げてから、言葉を発する。

    『多くの人物が、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾った際に“13”と“14”の症状に分散して顕在化するのに対し、“13”のみの人物は、“13”の相に集中して顕在化する傾向にあるため、特に暴力的な振る舞いを取りやすいというお話でしたね。それに、僕がこれまでに鑑定を依頼した人物の中では、たしか“10”の相を持っていた人物はほとんどいなかったと記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「他にも、この二人が陰陽五行に“火”を持っていることも、今回のような事件を引き起こした要因じゃろうな」

    『今まで鑑定していただいた日本人の属性表を見る限りでは、土、木、金、水のいずれかの組み合わせを持った人間は多かったものの、火の人物はほとんどいなかったと思います』

    「ワシが今までに鑑定した限りの印象では、陰陽五行に“火”を持っている人物は日本にはそう多くないものの、韓国には相当数存在していると思われる」

    『え、そうなのですか』

    「うむ。そのあたりが日本人と韓国人の基本的気質の相違点ともなっているようじゃが、いずれにしても、火を持った人物はかなり気性が荒いゆえ、関わる際はそのあたりをよく理解しておくことじゃ」

    『承知いたしました。それでこの二人が、運営するだけでなく、自ら女性に被害を加えていたことに納得がいきました』

    再び全員の属性表を見た青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    全員の共通点として、全員が頭2、欄外の枝番の数字が“7”か“9”で“性悪説”的な気質を持っていること、そして恋愛運の数字が“7”以下だということは予想通りでしたが、魂の種類が2〜4と分散していることは驚きです』

    「他にも、数奇な運命を歩む傾向にある、転生回数の十の位が30回代であることと、学業が80点(A)以上であること、そして“霊障”か“天命運”に17の相がかかっていることも全員に共通した特徴のようじゃな」

    陰陽師の補足を聞いた青年は、属性表を再び眺めた後、口を開く。

    『それと、先生がおっしゃった通り、今回挙げた加害者たちの転生回数期は第三期と第四期に固まっていますが、これには何か特別な理由があるのでしょうか』

    「もちろん、先程話した韓国のネット環境と、日本と較べ15%以上多い魂の4が今回の一件の遠因となってはいるのじゃろうが、魂1や3じゃからといってこのような犯罪を起こさないという話では決してない」

    『たしかに。日本のやくざや、欧米のマフィアの大半が魂3であったりするわけですからね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、言葉を続ける。

    「以上、韓国における性犯罪が多い理由について、魂の属性の人口分布の観点から解説したわけじゃが、どうかな?」

    『おかげさまで、よく理解できました。ちなみに、日本人と韓国人とで魂1〜4の人口分布が異なることは理解できましたが、こうした魂の違いは、どのように決まるのでしょうか?』

    「一言で言うと、“国境”じゃな」

    『え、国境ですか?』

    陰陽師の答えを聞いた青年は、驚きの表情を見せながら、再び口を開く。

    『国境は、遥か昔から、各国が戦争や外交の後に決めてきた、“この世”の世界の話だと思っていましたが、魂の人口分布にまで、国境が影響をあたえるのでしょうか?』

    「国境とは、その時々の国々の勢力分布なわけじゃが、結婚届や登記簿謄本が霊障と不思議な相関関係を持っているのと同様、その時々の国境は、転生してくる魂にとっては大きな意味を持っておる

    『とおっしゃいますと?』

    「人間が任意に引いたその時々の国境をめがけて、魂が転生してくるという意味じゃ。事実、日本軍が敗戦した後に朝鮮半島が日本の占領下から解放された日の前後で、産まれた赤ん坊の魂の属性が変わってくるわけじゃ」

    『つまり、産まれた土地がどの国の領土になるかで、新生児の魂の属性が決まるということでしょうか?』

    そう言い、思わず前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は答える。

    「数千年前のことまでまだ具体的に検証していないものの、たとえば日本を例にとっても、黒船来航を受け鎖国化を解いた明治時代、日本の領土が一番広がった第一次世界大戦から、第二次世界大戦終了時まで、そして戦後と変化する各々の領土に生まれた人間は、(現在の国籍はともかくとして)霊的には日本人と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。文化人類学は文化、つまり人類が後天的に学習した行動パターンや言語といったものを中心に据えて、人類を研究しているようですが、先生の場合は、日本人と韓国人の違いを、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった、文化人類学とは別の切り口で説明しているわけですね』

    青年の問いに対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「さよう。文化人類学のような学問を全面的に否定するつもりはないのじゃが、文化人類学では、民族・社会間の文化や社会構造の比較研究によって文明の差異というものを解明しようとしているものの、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった理論を持たずに、人間を“等質”という前提で研究している限り、それらの理論にどうしても矛盾が生じてしまうことは致し方あるまい」

    『なるほど。そのあたりのことは、よく理解できました』

    そう言い、青年は小さく頭を下げた後、言葉を続ける。

    『ということは、怒りの激情を起因とした韓国人特有の精神疾患である“火病”についても、魂の属性の観点から解説できるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。“火病”については、韓国人が辛い物を好んで食べているから、という説があるが、辛い料理を食べている他の国々で“火病”が起きているかと言うと、決してそうではない」

    『つまり、韓国人の“火病”はキムチなどの辛い物を好む食習慣が原因なのではなく、頭に2を持つ人間が多いこと、転生回数期が第三期と第四期の人物が多い、すなわち感情的になりやすい人物が多いこと、そして、陰陽五行に“火”を持つ人間が多いから、と考えることができるわけですね」

    青年の答えに対し、陰陽師は満足そうに微笑み、質問を続ける。

    「いつも話して居るように人間は“多面体”なわけじゃから、それだけの情報で断定はできぬが、当たらずと言えども遠からずという意味では、その通りじゃろうな」

    『なるほど』

    感嘆の声を漏らす青年を見て、陰陽師は小さく笑ってから、口を開く。

    「最後に、そなたの冒頭の疑問、すなわち韓国で性犯罪が多い理由として、韓国人の魂の属性がその一因となっていることは間違いないが、そうは言っても、韓国人だから性犯罪を犯す、などと安直に結びつけてはならぬぞ。統計学的にそのような一面を韓国人が持っているとしても、一人一人は別の人間だということだけは、しっかりと心に留めておくようにの」

    『承知いたしました。“罪を憎んで人を憎まず”ではありませんが、今回の事件に関しても、この世の基準で善悪を判断するのではなく、加害者と被害者の双方が今世の宿題を果たすための出来事だったと考えるべきなのですね』

    「現世的には、痛ましいとしか言いようのない事件であるが、今世の宿題という観点からみると、そのように言えるようじゃな。そして、国によって魂の人口分布図が異なる問題についてもう一度話をしておくと、この世とあの世は、たとえば、婚姻届、登記簿謄本という紙一枚と霊障が不思議な対応関係を見せているのと同様、我々人類がその時々引き直す国境線を目指して転生してくるという理屈は、自分の宿題や魂の修行に最適な母親を選んで転生してくるのとまったく同じメカニズムなんじゃ。だから、その国で産まれたからできる魂磨きの修行があるということで、韓国人として生まれてくる魂は、自らの意志で韓国を選んで転生してきているということも覚えておくようにの」

    『つまり、今の日韓関係の悪化も、どうしてと考えるよりも、各々が自らの宿題に邁進する限り、当然起こりえる事象というわけですね』

    「じゃからと言って、仲が悪くてもよいということにはならないのだが、それでも、日本の植民地時代に起因する様々な問題が、解決したかと思うとまたぶり返される問題や、右派を母体とする大統領であっても左派を母体とする大統領であっても、5年の政権期間末期にレイムダックを始めると、各々の政治的信条の別を問わず、決まって日本バッシングに走ることで支持率を回復させようするあたりなぞは、やはり、今まで説明してきたような韓国人だけが持つ属性のなせる業と言うしかないのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「本日も長時間ご苦労じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師とのやりとりを振り返っていた。
    今回の事件に限らず、日頃目に付く韓国関連のニュースを読む限り、韓国人に対する印象は悪い。だが、自分がメディアを通して得ている情報は、韓国の一部に過ぎず、韓国が持つまったく別の良さ/素晴らしさもあるはずだ。
    ご縁がある人物やあらゆる情報に対し、色眼鏡を介さないように心がけ、今回の事件だけを見て“韓国人は”と一括りに評価を下さないように気をつけよう。
    そう、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    青年は思議していた。

    コロナ禍の影響により、生活用品の買い占めに走っていた人々についてである。
    買い占めはトイレットペーパーだけに留まらず、マスクの材料になるという理由で西松屋の新生児の沐浴用ガーゼが品切れとなり、その後、大阪府知事の発表(新型コロナウイルスに対して効果があるかどうかは医学的には不明)を機に“イソジン”も買い占められた。

    それにしても、なぜ日本人は裏付けが取れない情報に踊らされてしまうのか?
    日本人は流されやすい国民性とも言われているが、ひょっとして魂の属性と何か関係があるのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を教えていただこうと思い、お邪魔しました』

    「買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を、とな。それは、了解したが、もう少し具体的に話してもらえるかの?」

    青年は買い占めに関するニュースと日本人の行動について、疑問に感じたことを説明した。

    『海外でも買い占めは起きていたものの、対象は主に食料でした。アメリカでは銃器と弾薬の売り上げも上がったようですが、こちらも、最悪の事態を想定し、自己防衛のためという意味では理にかなっていると感じました。一方で、なぜ日本人はトイレットペーパーなどの日用品を買い占めするのでしょうか?』

     

    日本人が買い占めに走ってしまう理由

    「以前も説明したと思うが(※第13話参照)、今回の買い占め騒動の根本的な問題は、フットワークの軽い魂4の特徴とインターネットの性質との合わせ技、さらに言うと、日本における魂4の分布の特異性が、ひとつの回答になると言えよう」

    『魂4の分布の特異性でしょうか』

    「そう、前にも話した通り、全世界的に6割を占める魂4が、日本の場合は、そもそも魂15%少ない。さらに、その魂4がほぼ4-4と2-4に集中しているということが、オイルショック時のトイレットペーパー騒動と、今回の騒動のマスク騒動の根本的な問題だ、とワシは思う」

    今一つ納得できないでいる青年の顔を見やりながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「つまり、ワシがいつも指摘する、デマを扇動する2-4とそれに無条件で追従する4-4という構図が、今回は偽の情報の拡散とマスクやトイレットペーパー、果てには、食料品を筆頭とした日常品の買い占めという騒動に発展したということになるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ大きく頷いた後で、青年は質問を続ける。

    「日本の買い占めに、そういう構造が隠されていたことはよく理解できましたが、ついでに、1−4や3−4の特徴も含め、魂4と輪廻転生の回数の関係について、もう一度、総括的にご教授いただけませんでしょうか?』

    青年の問いに一つ頷いてから、陰陽師は口を開く。

    「その質問に対する回答をする前に、これからする説明とも密接に関係している、魂と輪廻転生のメカニズムについて、そなたの口から説明してもらえるかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから口を開いた。

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    魂4の特徴について

    「では、次に、魂4の特徴について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『はい。現世的にみる限り、魂4は一般庶民、つまり、社会の下支えが主な役割となります。具体的な職業としては、建設、運送業、清掃といった、いわゆるブルーカラーの職業をはじめ、警察/自衛隊、地方公務員、医療/福祉関係と多岐に渡る分野で活動しています。もちろん、一次産業従事者も、魂4が多くいることは言うまでもありません』

    「そなたの説明に付言するとすれば、魂4は魂の容量が極めて小さいことから、魂1〜3の人々が論理ベースでものを考えたり、行動したりするのに対し、感情ベースの言動が多いこと、また、同様の理由から、“定見に乏しく、大局的見地に立っての判断ができない”という特徴がある。そのため、他人に洗脳/扇動されやすく、その偏狭な正義感にいったん火がつくと、徒党を組んで暴徒と化す傾向をあわせ持っていることも、しっかり記憶に留めておくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明に大きく頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「では、ここからは各転生回数期における魂4の特徴についての説明となる。まずは4-4じゃが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

    『以前、デモに参加している人々のほとんどが4−4(転生回数期が第四期の魂4)だということをお聞きしましたが、再度ご説明いただき、あらためて納得いたしました』

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが、そして、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケット(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々のほとんどが、典型的な4−4の行動ということになる。もちろん、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員のほとんども、4-4であることは言うまでもない」

    青年は納得顔で何度もうなずき、口を開く。

    『ストライキを起こすのも、ストライキ破りを防ぐのも4−4という、同じ魂同士で対峙している構図は、なかなか興味深いですね』

    「次に第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『以前、3−4(転生回数期が第三期の魂4)は日本ではほとんどいないとお聞きしましたが、ちなみに、3-4はどのあたりに多く分布しているのでしょう?』

    ヨーロッパ、つまり、ほとんどのEU諸国、そして、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、中国、韓国あたりが、その代表的な地域となる。そして、3-4と言えども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えると理解しやすいかの?」

    『そうですねえ』

    曖昧な表情でひとつ頷いた後で、青年が口を開く。

    『何となくわかったような気がしないでもないのですが、そのあたりを、別な角度から、できれば具体例をあげて、ご説明いただけませんでしょうか?』

    「そうじゃの。では、日本のプロ野球と大リーグの観客の違いを例にあげて説明しよう。そなたは野球の観客席を見て、何か印象に残っていることはないかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は首を傾げてしばらく黙考した後、口を開いた。

    『そうですね、学生の頃に、父と一緒にTV中継を見ていた記憶ですが、外野席の人々が打席に立つ選手に向かって一丸となって声援を送ったり、楽器を鳴らしたりと、とても賑やかだった印象が記憶に残っています』

    「以前、野球は魂4が好むスポーツという話をしたと思うが、球場においてもその傾向は変わらず、特に、一番入場料の安い外野席は、文字通り、魂4の指定席ということになる。その中でも、お手製のプラカードを掲げて大声で声援を送っている人物は、まず、4−4の人々と思って差し支えあるまい」

    『なるほど。以前、プロスポーツ選手は皆2-3-5-5…2という厳然たるルールがあることをお聞きしましたが(※第23話参照)、観客側の相はスポーツによって異なるのですね』

    「その通りじゃ。スポーツの観客側の相と魂の種類については、また別の機会に話すとして」

    そこで区切り、陰陽師は湯呑みの茶を飲んでから続ける。

    「一方、大リーグの観客には、鳴り物や楽器を持ち込む人間は、基本的にいない。球場で流れる電子音楽に合わせて拍手をするようなことはあるものの、基本的に三々五々、各個人のスタイルで観戦したり、応援したりしている人物がほとんどじゃ。もちろん、中には歌ったり、踊ったりしている人物はいるものの、それもあくまで個人レベルの話で、集団で同一行動をとっているわけではないことは、BS放送のMLB中継などを見れば、すぐに納得できるはずじゃ」

    黙って頷いている青年を見やり、陰陽師は続ける。

    「そして、野球場の興味深い現象の一つに、バックネット裏から内野Aあたりに陣取る魂1〜3と、ヒットやホームランのたびに狂喜乱舞する魂4との温度差という問題がある」

    『なるほど。僕は野球にほとんど興味ないので、そこまで注意をして野球を見たことがありませんが、野球好きが魂のメカニズムを知れば、そのように見えるわけですね。だとすれば、なんだか、野球場はこの世の縮図みたいですね』

    「まあ、そういうことじゃな。さて、今度は第二期じゃが、“魂1:僧侶/王侯”を除く各魂が、この世で各々の特徴を最も顕在化させる時期がこの第二期となる。また、この時期は、本来は魂1〜3と交わることがない魂4が、学業で突出した能力を発揮するという時期であることも相まって、魂1〜3の活動領域に侵入してきて、様々な軋轢を生み出すという時期でもある」

    『なるほど』

    「繰り返しになるが、高学歴を背景に、2−4がビジネスの世界で一定以上の地位を確保したとしても、魂がガラ携並みである故、大局的見地によるものの判断ができないことには変わりがない。さらに2−4の特徴である、権謀術数、感情の起伏の激しさ、裏表のある二面性、えこひいきといった性格により、彼らが部長や課長にいる部署は、“部下の手柄は俺のもの、俺の失敗は部下のもの”といった風潮が蔓延しやすい

    『彼らの下についた1~3の人々は、不幸以外の何物でもないと言えそうですね。とは言え、そんな2−4の人物であっても、優秀な人物に対し、それなりに評価せざるを得ないのではありませんか?』

    「残念ながら、大方の場合、そうはならんのじゃ。2−4の人物は、自らの地位を脅かす優秀な部下を本能的に恐れるという潜在的な気質から、優秀な部下を潰しにかかる一方で、仕事の出来/不出来に関わらず、ご機嫌取りに終始する部下をかわいがり、時には無能な部下を高く評価するといった傾向が顕著となる

    青年は大きなため息を吐き、顔を伏せながらつぶやく。

    『そんな上司と同じ2−4は、同じ特徴を持つことから、ご機嫌取りが上手だと』

    「その通りじゃ。当然の帰結として、そのような2―4の部長や課長の人事考課を鵜呑みにした会社のトップおよび組織体は、有能な部下を失う可能性が飛躍的に高まることは言うまでもない」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで小さくうなってから口を開く。

    『会社のトップや人事担当の方に、ぜひ社員の鑑定を依頼していただき、魂の属性に適した人員配置をしてもらいたいものですね』

    「まあ、実際に、急成長を遂げている企業のトップが、その手の話で、ワシの所を訪ねてくるケースは、けっこう多いのじゃがな」

    『それを聞いて、少し安心しました』

    青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら頷き、続ける。

    「さらに言うと、小学校、中学校の教員や社会派弁護士と呼ばれる人物にも、2−4が多いのも、以前に説明した通りじゃ」

    『その時のお話(※第17話参照)では、学業が突出している点で、2−4の人々は他の学部に比べて倍率が高い、大学の教育学部や、弁護士などの上級公務員試験に合格しやすいということでしたね』

    「そう。小学校の教員は、学童に対して上から目線で接することができることもあり、彼らのプライドを満足させると同時に、給与や社会的地位が安定しているという点からも、2−4の人口が多くなりがちというメカニズムも、以前にも説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、黙って首肯する青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一方、弁護士の場合も、先生と呼ばれることで、顧客に対して上から目線で接することができると共に、自身のプライドを満たせるわけじゃし、社会的地位も安定している点は小学校の教員と同様じゃが、社会で幅広く活躍できることから、人脈も広がりやすく、政界進出への足がかりになるケースさえあるわけじゃな」

    『社会派弁護士として、私的な領分で偏狭な正義感をかざすのは百歩譲って我慢するとしても、政治家になってまで、感情論をベースに活動してほしくないですよね』

    「たしかに。2−4の人物が政権を握った国が、結果的にどうなっているかについては、別の機会にゆっくり話すとして」

    青年が黙って頷くのを横目に、陰陽師は説明を続ける。

    「最後は、第一期の魂4の説明になるが、現世でも老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。そして、2−4の時期に突出していた学力が再び下降線を描き始める(“特に最後の50回”)1-4とは、魂2~3同様、老人にも似たプライドの高さ、気難しさ、保守的、許容範囲の狭さと、ガラ携並みのOSという特徴が混然一体化しておる時期と規定することができるのじゃろうな」

    『なるほど。ところで、1-4の人物は、日本にはほとんどいないとお聞きした記憶がありますが、彼らの多くは、どのあたりに分布しているのでしょうか』

    1−4の多くは、中東、エジプト、アフリカ大陸、そして、インド、パキスタンなどを含めた、東南アジア、イランなどが、主な転生先となっている」

    『僕はそれらの地域に住む人々とも特に交流がありませんが、現代でも狩猟民族だったり一夫多妻制を採用している国が多いことから、男性は非常にプライドが高く、女性は妻同士の絆を大事にしているような印象があります』

    「そのあたりは、そなたの言う通りかもしれぬの」

    『狩猟民族ですと、獲物の質や量で序列の区分が明確にできてしまうのでしょうし、一夫多妻制ですと、男性の方が優位なわけですから、そのあたりの分布状況は、なんとなく納得という感じです。逆に、女性の方も、一人しかいない旦那を奪い合うよりも、横のつながりを大事にするという魂4の特性が現れているような印象が強いですね』

    「たしか、それらの国々には、女性が男性の下支えをするのは当然、という文化が、現在も根底にあるのかもしれぬ。じゃが、そうした話はあくまでそれらの国々の文化全般の話であって、かならずしも1−4の特徴にはならぬから、早合点せぬようにの」

    『そのあたりのご指摘、しかと、了解いたしました』

    青年の言葉に小さく頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「以上、ざっと四期にわたる魂4の特徴について説明してきたが、理解できたかの?」

    『はい。後は実際に1−4や3−4の人物とやりとりをすれば、腑に落ちると思います』

     

    買い占めに走った人物の魂の属性について

    そう言い、力強く頷く青年に笑みを向け、陰陽師は問う。

    「では、話を戻して、今回、買い占めに走った人々の属性をみていこうと思うが、事の発端となったのは、どのような情報だったのじゃろうか?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、該当する文章を読み上げる。

    新型コロナで品薄になる品の予想を、根拠付きでお伝えします。次はトイレットペーパーとティッシュが品薄になります。生産元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーを、そもそも生産をしていないのが根拠です。品薄になる前に事前に購入しておいた方がいいですね

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    富田優史SS

    属性表に目を通した青年は、小さく息を漏らしてから口を開く。

    『予想はしていましたが、やはり“魂4:一般庶民“でしたか。大局的見地の数値が30とかなり低いことから、きっと、本人は思いつきで、深く考えずに発信したのでしょうねえ。それと、下段の枝番と欄外の枝番がほぼ“7”ですから、大事になっても、知ったことではないと思っていた節もありそうですね』

    「そうじゃな。しかも、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、天から“何か”が降ってきて、本人だけでなく、他者も誤った方向へ扇動するという霊障が、大山である転生回数70回代によって、いっそう発揮されてしまったとも考えられる」

    『実際のところ、日本家庭工業会によれば、日本のトイレットペーパーの約98%が国内で生産されているとのことでしたので、先程の情報は完全なデマだったようです』

    「なるほど」

    『また、オイルショックの時と違う点は、今回は呼吸器系の疫病ということで、不織布のマスクが品切れになっていたことから、布マスクを自作するにあたり、マスクの材料となりえる西松屋の沐浴用ガーゼが買い占められて、妊婦や新生児のいる家族が困っていたことです。他にも、消毒用アルコールが売り切れ、一部の医療機関で不足しているという記事も見かけました』

    「それらの品物が、本当に必要としている人々に届かないことは、たしかに、由々しき事態よのう」

    『おっしゃる通りです。今度は、買い占めに走った人々の鑑定をお願いいたします』

    青年が投稿を読み上げる内容に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    トイレットペーパー5個とティッシュペーパー5箱入り4つをやっと購入。全て手に持って歩いて帰宅。腕が千切れそうだったけど、買えたことに満足。

    う〜さSS

    ティッシュとトイレットペーパーを慌てて購入。買いすぎたかも。どこにしまおう・・・

    タモターモンSS

    二人の属性表に目を通した青年は、口を開く。

    『この二人は典型的な、情報に踊らされたタイプのようですね。2−4の人物も買い占めしていることから、たとえ学業が突出していても、ガラ携並のOSという特徴は変わらないようですね』

    「たしかに、その傾向はあるのじゃろうが、人間は多面性を持つということから、買い占めに走った事実だけを捉えて、全員が全員、魂4だと決めつけぬようにの。買い占めした中にも、魂1〜3の人物がいることは、間違いのない事実なのじゃろうから」

    『そうでした。僕だって、状況によっては、買い占めに走っていたかもしれませんからね。そのあたりは、じゅうぶんに気をつけます』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    ホームセンターに行ったらみんなトイレットペーパー爆買い。デマだったと思いますが、万が一のために、2個購入しました

    かにかにSS

    青年は次の属性表の紙を眺め、少し驚いた様子で口を開く。

    『この人物は、“魂2:貴族(軍人/福祉)”ですね。多少は情報に流された節はありますが、デマということには薄々感づいていたようですし、他人に配慮して、手当たり次第ではなく、必要最低限の2個を購入したところが、いかにも魂2らしいと思います』

    「たしかに、魂2らしい、自制の利いた行動ということはできるかもしれんな」

    青年の言葉を聞いてうなずく陰陽師を横目に、青年は次の人物に話を進める。

    『この人物は、マスクが品薄で購入できる数が制限されていた頃に、同じ顔ぶれの高齢者たちが早朝からドラッグストアの前で並び、毎日マスクを買い占めしていたことがあり、他の利用者にマスクが行き届かないことを苦慮したお店が、マスクを陳列する時間を非公開にしたところ、空のマスクの陳列棚にマスクが並ぶまで、棚の前で座って待っていた高齢者です』

    マスクを待つ高齢者SS

    陰陽師が書いた属性表を読んだ後、青年は口を開いた。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字が“7”と“9”であることから、この人物は“性悪説”的な気質かつ、転生回数が30回代の“数奇な運命”を持っていることもわかりますね。彼のように、マスクの買い占めが日課になっている高齢者のせいで、他にマスクを必要としている方が購入できなくなることは、迷惑以外の何物でもないと思うのですが』

    「まあ、頭2の4-4であることから、このあたりの行動をすること自体、想定内であるとは言え、彼の年齢を鑑みるに、オイルショックの経験から何も学んでいないようじゃのう」

    『おっしゃる通りですね。次は、今回の騒動を活かしてビジネスの機会にしていた人物となります』

    トイレットペーパー1ロール1,000円購入券プレゼント。応募方法は**

    田村誠二SS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「この人物は、“魂3:武士”らしく、商魂逞しい人物のようじゃのう」

    『たしかに。お金のためならなりふり構わないところは、頭が2で転生回数が第三期(101〜200回)ということと、枝番の数字に“7”が多いことに起因しているのではないかと思います』

    陰陽師が小さく頷くのを横目に、青年は続ける。

    『次は、買い占めには加わらず、家族用の自作マスクをネットで上げ、注目を集めていた元“モーニング娘。”の初期メンバーである辻希美です。彼女のように、品不足に対して不満を口にするのではなく、代替品を探すか、自作するという発想を忘れないようにしたいです』

    辻希美SS

    「彼女の行動は、大局的見地に基づいた、魂3ならではと言えよう。そして、彼女のブログは多くの人々に読まれているようじゃから、彼女の発信を機に、マスクを自作しようと考えた人が増えたのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は一つ頷き、口を開く。

    『次の中学生ですが、自腹でマスクを自作するだけでなく、それらを全て山梨市に寄付したそうです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。

    滝本妃さんSS

    属性表を眺めた青年は、感嘆の息を漏らしてから、口を開く。

    『彼女は、欄外の枝番の数字が“1”で“性善説”的な気質を持っていることと、転生回数が大山である270回代であることを踏まえると、“魂2:貴族(軍人/福祉)”の“観音”としての側面(※第27話参照)が発揮された、ということがよくわかりますね』

    「それだけではなく、陰陽五行に“水”を持っていることも、重要なポイントとなる。陰陽五行に“水”を持っている人物は、優しく穏やかな性格である人物が多いのじゃが、彼女が取った行動なぞは、正に、頭1の2-2という属性と、陰陽五行における“水”がもたらした行動といって差しつかえないじゃろうな」

    『中学生だった頃の僕でしたら、自腹を切ってマスクを作成し、しかもそれらを寄付するなんて考えもつかないと思います。人によって取る行動が、どうしてここまで異なるのか、今までは不可思議でならなかったのですが、魂の属性によってある程度の傾向があることがあらためて理解できてくると、世の中の多くの不可思議な事象も腑に落ちる気がします』

     

    買い占めのような騒動を起こさないために

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながら、口を開く。

    「今まで考察してきた話を総合的に吟味すると、昭和の第1次、第2次オイルショックにおいて“口コミ”で引き起こされた騒動が、今回は、ネットという情報伝達手段の出現により、より短期間に、集中的に拡散したため、あのような事態が起きたということになるようじゃの」

    『なるほど。そして、偏狭な正義感で世論を扇動する2-4に、無条件で追従する4−4の人口比率が他国に比べて圧倒的に多い我が国の現状から、彼らの言動が日本国民の総意などという誤解を外国から受けるようなことがあるとすれば、日本人は物事に流されやすい国民、などという風評が立ちかねませんものね』

    「その通りじゃ。そもそも魂4は、全世界的には6割(日本では例外的に45%)を占めており、参加意識も高いことから、今の時代、インターネット上の多くの意見が、そんな彼らの偏狭な正義感を反映させたものであることは散々説明してきたので、ここではあらためて繰り返さないが、魂1〜3の我々が、大局的見地に基づいた発信を積極的に行い、世論を先導していく必要性が、“令和”の時代ではさらに重要になってくることは確かなはずじゃ」

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら続ける。

    『ちなみに、魂1〜3の人物が発信や行動を起こさないと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「もし、偏狭な正義感で物事が判断される状況が、これ以上助長されるようなことがあったり、その延長線上にある“自粛警察”のような行動が、これ以上まかり通るようになると、中世の魔女裁判にも匹敵する狂気が正当化される危険性は、更に高まるじゃろうのう」

    『なるほど。昭和の時代が理想の時代だったとは言えないとしても、あの時代に存在していたおおらかさや、寛容さみたいなものを取り戻すためには、我々魂1~3の大局的見地に基づく判断や意見が、必要不可欠だとおっしゃるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はマスク姿で初詣に参拝する、大勢の人物の画像を眺めていた。
    自粛を要請されている中でも、自ら密になる状況に出向く人々は、ほとんどが魂4の人物なのだろうか。

    魂の属性によって取りがちな行動パターンがあるなら、それは魂のクセのようなもので、仮にそれが迷惑行動だとしても、当事者にとっては今世の課題として必要な体験なのかもしれない。

    とは言え、ネット上で大局的見地に基づいた情報が主流になり、魂磨きの修行に励む人が増えるよう、本当に必要不可欠な情報は、陰陽師と協議を重ねながら、これからも発信し続けなければと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2017年に起きた、座間9遺体事件の犯人に対し、第一審で死刑判決が下されたことについてである。
    この事件は、犯人がTwitterを用いて自殺願望がある女性にメッセージを送り、性的暴行と金品の強奪を目的に自宅に誘い、犯行に及んだものである。だが、実際のところ、加害者も被害者も自殺するつもりはなく、被害者の意思を無視した一方的な殺人だったようである。
    また、わずか二ヶ月という短期間で起きた事件という点からも、日本中を震撼させた事件と言えよう。

    加害者の魂の属性や、彼にかかっている霊障については想像に難くないが、9人の被害者には何らかの共通点があったのだろうか?

    一人で考えても埒があかないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は座間9遺体事件について教えていただけませんか?』

    「ふむ。事件名から推測するに、大量殺人事件のようじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから、事件の概要を説明した。

    「なるほど。それはまた、物議を醸す事件のようじゃの。して、加害者の鑑定をするにあたり、まずそなたなりの見立てを聞かせてもらえるかな?」

    陰陽師の問いに青年はあごに手を当ててしばし黙考し、やがて口を開く。

    『魂の種類が4−2であることと、霊障に“5:事件”の相があること、この二つが原因ではないかと』

    青年の見解に黙って耳を傾けていた陰陽師は、やがて指を小刻みに動かし、鑑定を行う。

    「そなたの言う通りのようじゃな」

    真剣な表情で結果を待つ青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「ところで、ちょうど魂の種類の話が出てきたことじゃし、確認も兼ねて、魂の種類と転生回数期について、もう一度そなたなりに理解していることを説明してもらおうとするかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、説明を始める。

     

    魂が生まれた理由

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    青年の回答に一つ頷いた後で、陰陽師が口を開いた。

    「ところで転生回数と魂の別によって、この世での役割もある程度決まっていることについては、どう理解しておる?」

    『この世での魂の種類ごとの役割についてですが、たとえば、今回の事件の加害者は魂の種類が4−2、すなわち、転生回数期が第四期の魂2になり、大量殺人といった凶悪犯罪者を起こす人物の多くが、この属性に該当するとお聞きしました(※第4話参照)』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    《魂の種類》
    魂1:僧侶/王侯
    魂2:貴族(軍人・福祉系)
    魂3:武士・武将
    魂4:一般庶民

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    青年が紙に書いた内容を読んだ陰陽師は、いつもの笑みをたたえてうなずいた後、口を開く。

    「そなたの説明につけ加えるとすれば、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、どうしても物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなる」

    『魂2は観音と不動明王という、一見相反するように思える真逆の二つの側面を持っているとのお話でしたが、今回のケースも、第四期の不動明王的な側面のなせる業だと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙ってうなずくのを視認し、青年は続ける。

     

    加害者の動機と魂の属性

    『加害者は、死にたいとツイートした女性にDMを送り、お金を長期的に引っ張れ、ヒモのような生活が送れること、彼に好意を持ってくれること、という二点を満たす女性を探していたようです』

    「なるほどのう」

    『一人目の被害者は、犯行に使われていた犯人の自宅の初期費用を負担するという、金銭面の条件を満たしていましたが、彼女には交際相手がいると察したことから、もう一つの条件を満たしていなかったため、性欲を抑えきれずに性的暴行を加えてしまった結果、殺害にまで至ったようです』

    「性的暴行を加えたことは理解できるが、その後に殺害までする理由がいまいちわからぬが、そのあたりは?」

    『実は、加害者は2017年2月に“職業安定法違反の疑い”で逮捕されていまして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決が出ていたようです。それで、性的暴行を加えたことが発覚したら実刑になってしまうことを恐れ、証拠隠滅という意味合いも含めて、殺害に及んだと思われます』

    「つまり、加害者は、殺人よりも実刑の方を恐れていたわけじゃな」

    『そのようです。しかも、ヒモ願望があった彼は、働く意欲にも欠けていたようで、一回目の犯行後も、家賃を支払ってくれる次の女性を探していました。また、最初の一人がうまくいったから、次もうまくいくと自信を持ったようで、二人目以降は殺害を円滑に行うため、様々な道具まで準備していたとのことです』

    「加害者が求める、二つの条件を満たす女性はなかなか見つからないと思うが、見つかるまでTwitterを用いては女性を誘い込み、条件を満たさないとみれば、性的暴行を加えて殺害し、再び次の女性を探す、ということを繰り返しておったのじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は眉間にしわをよせてスマートフォンを眺めながら、口を開く。

    『ところがですね、8人目の被害者は金払いがよかったらしいのですが、結局、性欲を抑えきれずに強姦し、殺害したとのことから、犯行に及んでいる最中は、それらの条件を無視してしまっているように見受けられます』

    「結局のところ、性欲を満たすことが目的になってしまったわけじゃな」

    『どうもそのようです。しかも、二人目までは殺害に対して罪悪感を覚えていたようですが、それ以降は罪の意識が軽くなってしまったようで、昏睡状態の女性との性行為による快感を覚えたこともあり、犯行をやめるつもりはなかったとも陳述しています』

    「して、それ以外に、加害者について気になるところはあるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『遺体の切断方法をインターネットで検索したり、発覚を恐れて遺体や解体道具を捨てられずに室内に残していたようですが、犯行を繰り返せば置き場がなくなったり、犯行を重ねるにつれて増えていく遺体から生じる腐乱臭が原因で近隣住民に通報される恐れがあることなどに思いが及ばなかったのかなど、思慮が足りないと思うことがあります』

    「なるほど。たしかに、当該の人物は短絡的な思考の持ち主だったようじゃな」

    陰陽師のあいづちに応えるように、青年は再び口を開く。

    『情報によれば、逮捕される当日まで交際していた女性がまた別にいたことから考えても、彼は逮捕されるまで延々と同じ手口で犯行を繰り返していたのだと思います』

    そう言い、ため息を吐く青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を聞くかぎり、頭2の4−2らしい振る舞いと言えば言えるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は紙にペンを走らせ、鑑定結果を書き記していく。

    白石隆浩SS

    鑑定結果に目を通した青年は、表情を曇らせ、口を開く。

    『やはり、加害者の魂の種類は4−2でしたか。そして、霊障と天命運に“5:事件・加害者・死”の相がありましたか…』

    「加害者が今回の事件を起こした理由として、頭が“2”であることと、枝番の数字が“9”であることが挙げられるが、そのあたり、そなたはどう考える?」

    『頭が2ということは、狩猟民族の末裔、すなわち“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向を持っていると認識していますが、同じ大量殺人犯であっても、頭が“1”である植松聖死刑囚(※第26、27話参照)のように、それが正しいか否かはともかくとして、障碍者や介護の現状を世の中に訴えるような信念みたいなものはなく、己の都合のためだけに事件を起こしたと判断できます』

    「その通りじゃな」

    『ところで、一つ質問があるのですが、加害者が持つ“9”と枝番の数字には、どのような意味を持っているのでしょうか?』

    自力で答えにたどり着けなかったからか、青年は申し訳なさそうに問う。陰陽師は、青年を励ますような笑みと声音で答える。

    「枝番には二つの種類があり、下段の数字と欄外の数字に分けられる。欄外の数字、加害者の結果では“9”に該当する箇所じゃが、この枝番は魂の性質の1・2・3と4・7・9との組み合わせによって意味合いが変わってくるものの、おおむね1から9に向かうにつれて、各々の特徴に“粗さ/雑味”が出てくる」

    『とおっしゃいますと?』

    「この世の印象でいえば、枝番の数字が1〜3の人物は“性善説”、4〜6は“性善説と性悪説”、7〜9は“性悪説”論的な性格を有している」

    『つまり、加害者は枝番が“9”で完全な“性悪説”論的な性格を持っていることから、この世の善悪の基準では悪事と見なされる行動が、彼にとってはそれほど罪悪感を喚起するものではなかったということでしょうか?』

    「人間は、頭の1/2を初めとする、魂の種類、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、そして枝番といった様々な数字の組み合わせでできた多面体のようなものであることから、一概にこうとは言えぬとしても、今回の事件に関しては、そうと言うことになるじゃろうな」

    『なるほど…』

    陰陽師の説明を聞いた後、再び鑑定結果に目を通した青年は、再び口を開く。

    『加害者の魂の特徴は、3番目と4番目の上段の数字が“2”ですから、彼は“攻撃性”と“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という特徴を持っていることになり、さらに欄外の枝番の数字が“9”ですから、霊障の“5:事件”の相との相乗効果によって、この事件を起こしたことは容易に想像できると思います』

    「その通りじゃな。それと、もう一つ言及すべき点は、彼の魂の特徴の5番目の上段の数字が“1”であることじゃ」

    青年は再び加害者の鑑定結果を覗き込み、口を開く。

    『そこは“自己顕示欲”の項だったと思いますが、そこの上段の数字が“1”であるということは、自己顕示欲があまりない、あまり目立った行動を取らない性格のため、学校や介護施設といった公共の場を襲うといったタイプの大量殺人事件ではなく、他人の目が届かない自室で犯行を繰り返したというわけですね』

    「もちろん、杓子定規に考えれば、そのような理解もできなくはないが、魂の特徴の上段の5つの数字の中で、“2”が二つ以上あり、5番目の上段の数字が“1”である以上、そのような人物は、いわゆる“外面がいい”というタイプ、つまり、腹で思っていることとその言動には、それなり以上の乖離がある人物と考えるべきじゃろうな」

    『なるほど。上段の5つの数字は“1”が多ければいいというわけではなく、今回のような数字の組み合わせを持つ人物は、言動に大きな乖離があると理解すべきなのですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が続ける。

    「して、周囲から見た加害者の人物像は、実際どのような印象だったのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて、画面を見ながら口を開く。

    『同級生や以前の職場といった人物からは、素直、真面目、普通、広く浅く仲良くするタイプ、どちらかというと礼儀正しい、好青年など、鑑定結果の通り、外面はよかったようです』

    「なるほど。であるとするならば、今度は、被害者たちを鑑定していくとするかの」

     

    被害者たちの魂の属性

    『彼が今回の事件を起こした背景に納得できましたが、9人の被害者の方々にはどんな共通点があったのか、とても気になります。ぜひ、よろしくお願いします』

    そう言い、青年はスマートフォンの画面を見ながら、被害者たちの名前を挙げていく。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、手元の紙に鑑定結果を書き出していく。

    1人目

    三浦瑞季SS

    2人目

    石原紅葉SS

    3人目

    西中匠悟SS

    4人目

    更科日菜子SS

    5人目

    藤間仁美SS

    6人目

    久保夏海SS

    7人目

    須田あかりSS

    8人目

    丸山一美SS

    9人目

    田村愛子SS

    被害者9人の鑑定結果を食い入るように見た後、青年は口を開く。

    『やはり、全員に“5:事件・被害者・死”の相がありましたか…』

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「霊障以外にも、人運、欄外の枝番、頭の1/2、精神疾患にも共通点があるが、そなたはどう考える?」

    陰陽師に問われた青年は、再び鑑定結果を眺め、しばらくしてから答える。

    『全員の人運が3以下と極端に低いですね。3人目の被害者の男性は人運が7と高くはないものの、彼は1人目の被害者の交際相手で、加害者が彼に対面した際に、彼を通じて殺人事件が発覚するのを恐れ、口封じ目的で殺害したとのことですが、結局は1人目の交際相手との縁と“5:事故/事件”の相によって巻き込まれてしまったのだと考えられます』

    「たしかに、そのようじゃのう」

    『あと、欄外の枝番ですが、ほぼ全員が“1〜3”すなわち、“性善説”論的な性格を持っていることと、頭が“1”という点から、被害者たちは犯人の外面の良さに惑わされ、自分が殺害されるとは露ほども思わなかったのかもしれませんね』

    「そなたの説明に一言つけ加えるとすれば、2人目の被害者の枝番の数字は“5”、すなわち“性善説と性悪説”論的な性格を有していることから、彼の怪しい点に気づけた可能性もあったのじゃろう。しかし、そこを見て見ぬふりをしたのか、見抜けずに殺害されたかはともかくとして、2人目の被害者も、結局は、霊障に引っ張られてしまったと考えるべきじゃろうな」

    『今の問題に関連してお聞きしたいのですが、今世の使命とその右側の二つの枝番の数字が乱れている人物が多いようですが、こうした数字の乱れを持つ人物は、数字が乱れていない人物に比べて数奇な人生に向かう傾向があると考えて差しつかえないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。加えて、全員の乱れている数字が、他の数字に比べて1から9の方へと増えている、つまり、“性悪説”論的な性格に近づいていることも、“5:事件”の相へ引っ張られてしまった一因なのじゃろう」

    青年は、なるほど、と小さくつぶやいた後、続ける。

    『他者の“念”、雑霊/魑魅魍魎を拾った際に顕在化する精神疾患の共通点としては、多くの人は“13:邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”、“14:邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”、の二つがあるのに対し、被害者たちは全員13のみですが、こちらなども、加害者の“念”を拾ってしまい、自殺という暴力的な方向に引き寄せられてしまったと考えるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を左右に降ってから、口を開く。

    「こちらは、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点のみが重篤であるのと同様、14番がなく13番だけということは、それだけ13番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    『なるほど。そのあたりも、被害者たちが犯人に引き寄せられた要因ともなっているわけですね』

    「そういうことじゃ」

    『さらに、今回の事件は、魂の属性が3:“霊媒体質”の人物が、雑霊/魑魅魍魎の周波数が似ているインターネット上のTwitterを介したことで、被害がより拡大したと』

    「その点も、そなたの言う通りじゃろうな」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてから、続ける。

    「我々のような“霊媒体質”の人間からすれば、今回の一件に“霊障”が一定以上の影響をあたえておることを理解できるじゃろうが、魂の属性7:唯物論者にすれば、インターネットを通じた縁でこんなに多くの人物が殺人事件の被害に遭うこと自体が、理解の埒外なのだと思う」

    『精神鑑定の結果、加害者には刑事責任能力が認められると判断されましたが、加害者は、“警察に、性犯罪は麻薬をしているような状態と言われ、まさしくそうでした”と供述していたようで、なぜあのような凄惨な事件を起こしてしまったのか、本人もよくわかっていないようですね』

    青年が苦々しくそう言うのに対し、陰陽師は口を開く。

    「そのような顔をするでない。“あの世”や“永遠の世”は言うに及ばず、“この世”でさえ、唯我々が考えているほど、単純なものではない。どう単純ではないかと問われ、一言でその答えを提示することは難しいが、少なくとも、このような事件の加害者/被害者の今世の宿題、そして各々にかかる様々な霊障をじっくり吟味することによって、初めてその解を導くことができるのじゃ」

    『なるほど。現行の法律で杓子定規に裁けるほど、物事は単純ではないと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    『それに関連して一つ質問があるのですが、もしも今回の事件の加害者と被害者が全員、ご神事を受けて霊的な重荷を取り除いていたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?』

    「仮定の話であるゆえ断言することはできぬが、被害者の立場で今回の一件を考えるかぎり、この事件の主な原因が“5:事件・死亡”の霊障であることから、事件を回避できた可能性もなくはないじゃろう」

    『それならなおさら、一人でも多くの方にご神事を受けていただき、今回のような事件で命を落とす人物が少なくなってくれたら、と願うばかりです』

    そう言い、視線を落とす青年を横目に陰陽師は続ける。

    「ところが、問題は単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと?』

    「今も話した、今世の宿題の問題じゃ。いつも話しておるようにワシが執り行う神事とは、霊的な重荷を外して、素の状態に戻すためのものでしかない。つまり、神事によって善人にすることが目的ではないわけじゃから、仮にこの事件の関係者全員が神事を受けて霊障が解消され、パフォーマンスが100%になっていたとしても、加害者は同様の犯罪を犯していたじゃろうことは属性表を見るかぎり、明らかじゃ」

    『そうなのですか? ご神事を受けたクライアントの中には、別人のように性格や立ち居振る舞いが変わった人物もいたとお聞きしましたが』

    「もう一度、加害者の数字をよく見てみるとよい。そもそも、加害者の魂の種類が4−2で枝番の数字が“9”であることをはじめとし、属性表を総合的にみると、素の状態の彼がこの世の基準でいう悪事を働くことが当然と考える人物であることがよくわかるはずじゃ」

    そう言われ、青年はあらためて属性表に視線を落としながら、口を開く。

    『たしかに。この属性表をよく見るかぎり、犯人は、“7人目以降はお金よりも性的暴行目的になった”と言っていたことも合わせて考えると、今回のような大量殺人事件でなかったとしても、性欲を抑えられずに婦女暴行を行なっていた可能性は極めて高そうですね』

    「そのとおりじゃ」

    『そう言えば、加害者が逮捕される日まで交際していた女性がいたようですが、その人物の鑑定もお願いできますか?』

    そう言い、青年は10人目の被害者になる可能性があった女性の情報を告げる。

    陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    加害者の交際相手

    10人目SS

    しばらく鑑定結果を眺めていた青年が、ふたたび口を開く。

    『助かった人物と被害者たちとの相違点は、霊障と天命運の“5:事件”の相の一部が“死亡”ではなく“怪我”であることと、そして、枝番の乱れがないことですね。ただ、精神疾患が13のみであることと、人運の数字が“7”、枝番の数字が“3”であることから、やはりこの女性も霊障によって加害者と引き寄せられていたのでしょうか』

    「おそらく」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「そうした微妙な属性の違いのせいで、この女性は、紙一重の所で、事件の被害者にならずに済んだようじゃな」

    『加害者が逮捕されたために、今回は事件では決定的な被害に遭わなかったものの、霊障と天命運に“5:事件”の相があることに変わりはありませんから、今後が心配ではあります…』

    「たしかに。この女性の場合、今回の一件含め、命を落とすまでの被害には遭わないとは思うが、それでも行く末はちと心配じゃの」

    陰陽師の言葉に大きく頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    加害者の家族構成と魂の属性

    「ところで、話は変わるが、加害者の家族構成はわかるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを見ながら口を開く。

    『両親と妹がいる、四人家族です。ただ、現在、両親は離婚し、妹さんは母親について行ったようですが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    白石隆浩SS

    白石隆浩・父SS

    白石隆浩・母SS

    白石隆浩・妹SS

    白石一家の鑑定結果に目を通した青年が、大きな声を出す。

    『なんと。犯人の父親も、魂の種類が4−2なのですね! そして、両親共に恋愛運が“7”で、霊障と天命運に“8:異性”の相があることから、組み違いの家庭を築き、離婚に至ったと』

    「どうやら、そのようじゃな。じゃが、霊障や諸々の数字が犯人と異なるし、枝番も“3”と“性善説”論的な性格であることなども踏まえると、凶悪犯罪者ではないと思われるが、具体的にどのような人物なのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、答える。

    『加害者の父親は、大手自動車メーカーに勤務しており、近所の方による彼の人物像は、“すれ違えば、車の窓まで開けて丁寧に挨拶する人物”とあり、社会に適応して暮らしている印象を受けます』

    「やはりのう。いつもワシが、人間は多面体であり、頭の1/2、基本的気質、具体的性格、今世の使命、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、枝番や育った環境などで人格は異なるという話をするのは、この親子のように、頭が2であり、魂の種類が4−2だからといっても、みんなが皆、凶悪犯罪者になるとは限らぬということも、その理由の一つとなっているわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいてから、口を開く。

    『たしかに、魂の属性が親から子、あるいは祖父母から孫へ受け継がれるケースがあることを鑑みるに、仮に“魂4−2は全員、凶悪犯罪者”という図式が成り立つならば、加害者の父親の一族の多くが凶悪犯罪者になってしまいますからね』

    「そなたの言う通りじゃ。いずれにしても、人間には多面性があること、そして、ひとつの数字だけを取り上げて人物を評価してはならぬという大原則を、よく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずいてから、口を開く。

    『はい。魂の種類だけによる人物評価は、下手をすると魔女裁判になりかねませんので、鑑定結果の一部だけをみて早合点しないよう、肝に銘じておきます』

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、再び口を開く。

     

    事件に対してどう向き合うべきか

    「地球上の人類全員が善人になれば、不幸な事故や事件で命を落とすことはなくなると、凶悪犯罪がなくなることを願ってみたり、既存/新興の宗教が提唱するような地上天国を目指したくなる気持ちはわからんでもない。じゃが、常々説明しているように、この世は魂磨きの修行の場であるから、仮に地球人全員が神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、どこかしらの国や地域で凶悪犯罪や諍いがなくなるわけではないことをよく肝に銘じておくようにな」

    『今のお話、あらためて、了解いたしました。そして、たとえ素の状態であっても、凶悪犯罪を起こすことが今世の課題である加害者もいれば、その事件で命を落とすことを決めて産まれてきた被害者もいることもしっかりと頭に叩き込んでおきます』

    「うむ。その心意気じゃ。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、悪に反応して人を叩くのではなく、この事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要じゃとワシは思う」

    青年は、陰陽師の言葉をかみしめるように何度もうなずいた後、スマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『そうですね。この事件の影響で、Twitterは“自殺、自傷行為をほのめかす投稿を発見した場合は、助長や扇動を禁じます”との文言を追加し、違反者にはツイートの削除やアカウント凍結の措置をとるようになりました。また、日本政府も、“インターネットがきっかけになったとした”上で、ICT(情報通信技術)を活用し自殺予防策を強化する考えを示した、とあります』

    「そうした社会の動きによって、今後、同じ手口による被害者を減少してくれるとよいのじゃが」

    『おっしゃる通りだと思います。被害者の中には10代の若さで亡くなった人物がいることを思うと残念でなりませんが、この事件をきっかけに、同じような事件の被害者が少なくなることを願わずにはいられません』

    「ワシもそう思うが、人生の長短よりも、当人が今回の転生で自らの宿題を果たせたかどうかということ、そして当人の魂が肉体を離れる際に、この世に未練なくあの世に戻れることの方がはるかに重要じゃと、ワシは思う。400回の輪廻転生は、たとえるなら、制限時間つきの長距離走のようなもので、道草を食ったりコースとは関係ない道を迂回していたら、結局は終了時間が近づくにつれて速く走らねばならなくなる」

    陰陽師の説明を反芻しているのか、青年は真剣な表情でしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

    『つまり、パフォーマンスが低いまま長生きして今世を終えたとしても、じゅうぶんな魂磨きの修行ができたとは限らず、今世でこなせなかった課題が持ち越され、来世以降の人生がより過酷になる可能性がある、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。さらに言うと、今世が過酷で生きづらいと感じている人物は、前世でこなせなかった課題が今世に持ち越されているという可能性がゼロではないと、ワシは思う」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に一つ大きく頷いた後で、青年が口を開く。

    『ちなみに、今回の事件の被害者の中で、この世に未練やなんらかの執着があって地縛霊化している魂はいるのでしょうか?』

    恐る恐る問いかける青年に対し、陰陽師は指を小刻みに動かした後に口を開く。

    「いや。ワシがみるかぎり、今回の事件の被害者全員が地縛霊化していないことから、全員に“5:事件・被害者・死”の相があったものの、“殺されるというのも宿題の内”であったようじゃな」

    『そうだったのですね。胸が痛む事件であることには変わりませんが、被害者みなさんの魂が無事にあの世に戻っていると知り、少し安心しました』

    そう言って深い息を吐いた後、青年は続ける。

    『とは言うものの、先生に先祖供養の救霊神事祀りを依頼する人物が増え、今回のような事件で命を落とす人物が減り、同時に魂磨きの修行に励む人が増えたらと、あらためて思います』

    青年の言葉に、陰陽師はいつもの笑みでうなずき、壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はあの世とこの世の仕組みについて再考していた。
    あの世の理屈では、早く死ぬことが必ずしも悪となるとは限らないが、そうは言っても魂磨きの修行のためにこの世に来ていることを考えると、400回のうちの貴重な1回であることに変わりはない。
    この事件の被害者の命を無駄にしないためにも、そして、未来の自分、さらには来世の自分のためにも、この事件から気づき、学んだことを己の天命の糧にしよう。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    青年は思議していた。

    以前から話題に挙がっている、神の眷属についてである。
    現実でもSNSでも、龍神やお狐様といった、眷属を前面に押し出して情報発信をしている人物が少なくない。
    いろんな神社で神の眷属の名前を目にするが、そもそも、どのような存在なのか?
    また、陰陽師が日頃言及している、“本物の神=カミ”とはどう違うのか?
    青年は、独りで考えても埒があかないと思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は本当の神と神の眷属の違いについて、教えていただけませんか?』

    「今回もまた壮大なテーマじゃな。もちろん、眷属について説明することはやぶさかではないが、その前に、眷属は“霊障”と密接な関係があるため、まずはそこから話を始めるとするとして、その前に“霊障”に関する復習も兼ねて、まずはそなたなりに理解していることを話してもらおうかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『“霊障”には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が日々の“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    青年は陰陽師の様子を見、ここまでの説明で問題がないことを確認し、続ける。

    『また、“霊統”と“血統”は、先祖が子孫にかかっていてもいなくても地縛霊化している先祖霊のことを意味し、“霊統”は本人と同じ種類の魂、“血統”は本人と異なる魂の種類であることを意味しています』

    「では、地縛霊化した先祖霊にとって、かかるべき子孫が途絶えてしまった場合、どうなるか覚えておるかな?」

    青年はしばし黙考して記憶を探った後、口を開く。

    『その場合、その魂にとって縁がある土地や建物、その土地に関わりがある法人にかかります。つまり、先祖霊ではなく“地縛霊”となります』

    青年の説明に対し、陰陽師は満足そうにうなずいた後、口を開く。

    「基本はしっかり押さえておるようじゃが、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    陰陽師はそう言い、紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/建物/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念(呪い、生き霊、邪神など)

    ※以下、眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、今回のテーマである眷属は、土地と法人にかかるパターンと、眷属にすがった人物に対してかかるパターンとが想定できる」

    『眷属も、土地/建物/法人にかかるのですね。それにしても』

    そう言った後、青年はメモ書きを一瞥してから、続ける。

    『龍神と龍霊は龍、稲荷と狐霊は狐と、種類が同じでも呼び名が異なっているようですが、各々、どのように違うのでしょうか?』

    「その質問に答える前によく理解してもらいたいのは、便宜上、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸と呼んでいるだけであり、巷で取り挙げられている存在とは必ずしも同一ではない、ということじゃ」

    『つまり、先生が今から説明してくださる、龍神や稲荷は、世間一般と共通する部分もあるものの、基本的には、別物として話を聞くべき、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。それと、三つの眷属の呼び名は日本特有のものであり、海外では馴染みがないことから、外国のクライアントに対しては、ワシは数字と記号で説明しているわけじゃが、そのことも踏まえ、今から龍神を1、龍霊を1‘、稲荷を2、狐霊を2’、熊手/狸を3として説明していく」

    そう言い、陰陽師は紙で眷属の数字を丸で囲って強調する。

    1:龍神、1‘:龍霊
    2:稲荷、2‘:狐霊
    3:熊手/狸

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずいてから、説明を始める。

    「龍神(以下、1)は、川べりとか、かつて沼・池・湿地帯であったところに家を建てることによって、その住民が霊障を受けるケースで、肺や喉の健康被害をもたらすケースが多い。龍霊(以下1’)は、諏訪大社のような龍神を眷属としている神社に“私利私欲に満ちた”願い事をし、願いを聞き受けてもらったにもかかわらず、その子孫が1’をないがしろにした結果、かかる霊障じゃ」

    『“私は生まれながらに龍神に守られている”などといった発言をしている人がいますが、ああいった人たちの中には、霊障の“17:憑依”の相があるために、新生児の頃から1’がかかっていると考えることもできるのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高い。たとえ生まれつき1’がかかっていたとしても、それをないがしろにした後にしっぺ返しがくる点では、後天的に1に願い事をした人物と同じ末路になる。そうした意味では、その人物と1’の関係は、まさに一蓮托生といった表現が当たっているかもしれんな」

    『生まれつきにせよ、意図的にせよ、ひとたび眷属に願い事をしてしまった場合、しっぺ返しを受けないように死ぬまですがり続けるか、あるいはどこかで覚悟を決めて、僕のように代償を払うか、になってしまうのでしょうか?』

    青年はそう言うと、唸りながら首を傾げる。

    「いや、そうともかぎらんぞ。ワシの話を信じるのであれば、先祖供養を始めとする、神事やお祓いを受ければ、しっぺ返しをうけずに済むと言う解決策も残っておる」

    『たしかに。“17:天啓/憑依”の相は、神事で解消するのでしたね』

    そう言い、青年は再び陰陽師のメモを眺めてから続ける。

    『今度は稲荷(以下、2)と狐霊(以下、2’)の違いについて教えていただきたいのですが、これらも龍神と龍霊の関係と同じようなものでしょうか?』

    「共通する点もあるにはあるが、厳密に言うと、ちと違う。2は、その土地に神社もしくは“祠”のようなものが建っていたが、放置/消滅したケースで、2’は、かつてそこに住んでいた家族/一族が、祀っていた“稲荷/お狐様”への崇拝をやめ、そのまま放置したケースとなる」

    青年は陰陽師の説明を反芻した後、口を開く。

    『お稲荷さんを自宅の庭に建てて祀っている家をたまに見かけますが、あれなんかもその家族/一族が崇拝をやめて放置したら、2‘の霊障が発生するということもあるのでしょうか?』

    「その可能性は、極めて高いじゃろうな。2‘の厄介なところは、崇拝をやめた家族/一族だけではなく、その地に移り住んだ人間にも霊障を及ぼす可能性があるという特徴を持つことから、赤の他人が事情を知らずにその土地を購入/賃貸しただけで、とばっちりを受けてしまうことがある点じゃ」

    『人間の私利私欲でお稲荷さんが建てられ、眷属が生み出されてしまうとは、困ったものです。以前の僕は、稲荷神社を見かけたら必ずお参りをするほどに“お狐様”にはまっていまして、農家と思われるお宅の庭にあるお稲荷さんにも祈りを捧げていましたが、そのような行動も2’の影響を受けるきっかけとなっていたのでしょうか?』

    「以前も説明したが、霊障は距離と関係がないことから、お稲荷さんに対して何らかの思いを向けただけでも、2’の影響を受ける可能性が極めて高いからの」

    『ゲゲエ! ということは、過去に交流していた霊媒師たちが、口を揃えるように、僕が九本の尾を持つ狐に守られていると言っていたのですが、同じ2’でも、いっそう強い霊障を受けていたということになるのでしょうか?』

    身をすくませ、おそるおそる言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いて見せてから、続ける。

    「九本の尾を持つ狐が実在するかどうかはともかくとして、ありがたがっている間に限っては、2’はそなたの現世利益を叶えていたと思うが、お稲荷さんを参拝するのをやめ、ないがしろにしてからは、そなたにしっぺ返しがきた実感はあったのではないかな?」

    思い当たる節があるのか、青年は苦笑して口を開く。

    『たしかに願いは叶っていましたが、お稲荷さんだけでなく、そもそも神社仏閣への参拝をやめてから、それまでのツケが回って大変な状況になりました』

    「おそらく、そうじゃろう」

    そう言い、陰陽師はうなずきながら青年に微笑みかける。
    青年は用意されていた湯呑みの茶を飲んでから、再び口を開く。

    『今度は3:熊手/狸ですが、これだけは先の二つと異なり、3と3’の区別がないようですが、どのような眷属なのでしょうか?』

    「熊手は、戦国時代までは、馬上の武将を引きずり落とすための武器として活躍した鉄製の熊手だったが、戦乱が始まった江戸時代になると、武具から落葉を集める竹製の道具へと変化を遂げる。さらに江戸時代中期になり、金属の貨幣の代わりに藩札などの紙幣が普及し始めると、“落ち葉=お金”という連想から、熊手は“縁起物”として商人を中心とした庶民の人気を集め始める」

    『なるほど。熊手には、そんな由来があったのですね』

    「百科事典にも“熊手”は縁起物として記載されておるはずじゃが、神棚の一隅に飾られ、“商売繁盛”を祈願する以上、その行き先は他の眷属と同じ結果となる」

    『神社ではお守りやお札と色んな品物が販売されていますが、結局は現世利益を叶えたい人々に向けの品物ですし、そうした神具は霊障を集める性質もありますから(※第33話参照)、総じて、それらの品は買わない方がいいのですね』

    真剣な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は満足げに微笑みながら口を開く。

    「ここで先程少し説明した土地の霊障の話に戻るが、1と2と3は、土地/建物/法人にかかっている人霊(魂の種類1〜4)の地縛霊と一緒にかかっていることが多く、土地に対する神事で対応しておる。それ故、クライアントに対し、個人の場合は住んでいる土地の住所と建物を、法人の場合はそれらに加えて法人名も教えてくれるように依頼しておる」

    『大企業の土地/建物/法人に霊障があると、抱えている社員が多いわけですから、多くの人が霊障の影響を受けしまうのでしょうか?』

    「いや。霊媒体質は磁石のような性質であることから、土地/建物/法人の霊障は全員に均等にかかるのではなく、優秀な霊媒体質である社員たちに霊障が集まりやすい。したがって、会社が合併するなどして新たに土地を取得した場合、土地の所有権移転登記をした時点から、当該にかかっている地縛霊の霊障が、特に優秀な霊媒体質の社員に対して突然影響を及ぼすケースもある」

    『つまり、書面上のやりとりだけでも、霊障との関係が変化するということでしょうか?』

    「登記簿謄本、婚姻届け等の公的な紙類と霊的世界の影響をあなどってはならぬ。たとえば、優秀な霊媒体質である人物が、相性が悪い企業に勤めていた結果、心身を病んでしまい、休職したとしよう。休職後に入院し、治療に専念していても、会社に籍を置いてある以上、会社から受ける霊障に限らず、良からぬ影響も休職しても受けてしまうことから、病状が長引いてしまうことさえある」

    『勤めている会社が所有している土地が増えたところで、別部署で勤務している当人には直接関係ないわけですし、ましてや休職後も影響を受けるとなると、気の毒以外の何物でもないですからね』

    「土地から少し話が脱線してしまうが、ワシが日頃、恋愛・結婚の相性を鑑定していることはそなたも知っているじゃろうが、書面を介さない、口頭での交際関係であってもお互いの運気に影響しあうことはわかるかの?」

    『はい。魂1〜3の人物と、魂4の人物による組み違いのカップルの話を聞くかぎり、結婚せずに交際している時点から、既に大変な苦労をしているようです』

    「霊障の“8:異性”による、2−4色眼鏡と2−4逆色眼鏡の組み合わせ(※第20話参照)はわかりやすい例じゃが、たとえば2-3-5-5…2の芸能人同士をみてもわかる通り、魂が同じだとしても相性がいいとはかぎらない。さらに結婚した場合には、お互いの影響力はさらに増すようになる。つまり、ワシの鑑定結果を信じて実際に結婚する場合、入籍届に記載して提出することにより、お互いから見て相性が良ければ(AA以上)、よりいっそう魂磨きの修行が進むというわけじゃな」

    『結婚を結“魂”と、ダジャレのように言い換えている人がいましたが、そのような意味では、あながち間違っているわけでもないのですね』

    「その人物が、この世とあの世の理屈をどこまで理解して結“魂”と言っているのかはわからぬが、夫婦円満な結婚生活という意味ではなく、あくまでお互いの魂磨きの修行が進む相性、と規定するのであれば、その通りじゃろうな」

    陰陽師はそう言い、真剣な表情で黙ってうなずく青年を横目に、続ける。

    「話を土地に戻すが、霊能力を持たぬ一般人が、これから購入/賃貸する土地に霊障があるか否かを判断することは難しいことから、立地の良さや家賃などを重視して物件を選ぶのはしょうがないとしても、引っ越してから不幸な出来事が立て続けに起こった場合、まず霊障を疑う必要はあるのじゃろうな」

    『引っ越しで運気が変わるとよく聞きますが、霊障の有無も密接な関係があるわけですね』

    「その通りじゃ。コンクリートに囲まれた物件であっても、1000年前、2000年前、その土地がどのような場所であったかといった判別がほとんど不可能な現在、当該地が古戦場だったケースや、故郷へと急ぐ旅人が山賊に殺された場所である可能性を常に念頭に置いておく必要があるわけじゃ」

    『1や2の眷属による霊障がかかっているのは、川や沼などが埋め立てられてみたり、祠が区画整理によって潰された可能性もあるからでしたね』

    「その通りじゃ。故に、クライアントには、引っ越す前や新たに土地を購入する前に、事前に候補物件の住所をリストアップしてもらうよう提言しておるわけじゃ」

    『僕も運気がいい物件を鑑定していただきましたので、その節は大変お世話になりました』

    そう言い、頭を下げる青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「以上で、眷属に関する説明と、それらに対して祈ることで被るリスクについて説明したつもりじゃが、どうじゃ、理解してもらえたかな」

    『はい。眷属とは、願いを叶えてくれる反面、代償が必ず生じてしまうことと、祀った後にないがしろにした一族だけでなく、その土地に引っ越してくる赤の他人にも霊障がおよんでしまう、ということでしたね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「眷属に祈ってはならないと常々忠告してはいるものの、そうは言っても、己の力だけで生きていけるほど自信に満ちた人物は多くないじゃろうし、時と場合によっては、現世利益を叶えてくれる眷属のような存在に、すがりたくもなることもあるのじゃろう。しかし」

    一度陰陽師は言葉を区切り、念を押す様に青年と視線を合わせた後、続ける。

    「幸せな未来を願って現世利益を叶えた結果、その次に起こる出来事が本人にとって望ましい結果になるわけではないというのが、この世の常であることはくれぐれも忘れぬことじゃ」

    黙って続きを待っている青年の様子を横目に、陰陽師は続ける。

    「たとえば、怠け者でろくに勉強をしない学生が、学業に霊験あらたかと評判の神社に“絵馬”を奉納し、“神”に志望校合格を祈り続けたとする。その結果、ろくに勉強もせずに志望校に合格したことを、“神の恩恵”と呼ぶべきかの?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『合格した本人にとって、合格は“神の恩恵”かもしれませんが、合格者数が決まっているとすれば、その学生が合格したことで不合格になる学生が現れることにもなるのでしょうし、弾き出された受験生が真面目に勉強していたのだとすれば、そのような構図は、“魔術/呪術”でしかないと思います。それに』

    そこで区切り、青年は学生時代のクラスメイトを思い出してか、納得顔で再び口を開く。

    『勉強もせずに志望校に合格したところで、勉学についていけずに留年したり、最悪の場合は退学することもありますから、当人にとってもそのようなことは、望ましい結果にならないのではと思います』

    「そなたの言う通りじゃろうな。万人の“欲に起因した身勝手な願い”に“本物の神=カミ”が対応するとしたら、それこそ世界は制御不能に陥ってしまい、逆に、“神も仏もない”世界になることじゃろう」

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲む。
    陰陽師が茶を飲み終えるのを待ってから、青年は口を開く。

    『そもそも我々は、魂を磨くためにこの世に転生を繰り返しているわけですから、現世利益を獲得するために生きているわけではなく、神は願いを叶えてくれる存在ではないことはわかります。そうは言っても、もう少し具体的に、僕にもわかるような役割を、“本物の神=カミ”はお持ちなのでしょうか?』

    困惑顔で問う青年を横目に、陰陽師は湯呑みの茶を再び飲んだ後に口を開く。

    「“本物の神=カミ”は、あくまで我々が魂磨きに専念できるよう、この世のみならず、あの世、永遠の世をコントロールしている存在体であり、感謝すべき対象だとワシは思う。さらにそのような存在体の恩恵をあえて挙げるとすれば、我々がこの世で艱難辛苦に遭遇した際に、大難を小難にしてくれる、ということに尽きるのではないかの」

    『大難を小難に、ですか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「たとえば、事故で脚を一本骨折したとする。その事実をもって“なんて不幸なのだろう。神も仏もあるものか”と嘆くのが、一般人の反応じゃと思う」

    『そうですね。ほとんどの人間がそう反応すると思います』

    「しかしそこには、“本来であれば死んでいてもおかしくない事故だったのに、脚一本の怪我で済むとは、なんと幸運なのだろう”という真逆な考え方も存在する」

    陰陽師の説明に対し、青年は手を打ってから口を開く。

    『“脚を一本折った”という事実に対して、本人がどう捉えるか、それが問題ということですね』

    「その通りじゃ。たとえ、事実が一つであったとしても、その事実をどのように捉えるかによってワシらの目の前に広がる景色はまったく変わって見えてくる。そのような意味で、この“大難を小難に”という考え方こそが、“本物の神=カミ”と対峙する基本的な姿勢だとワシは思う。さらに言えば、“本物の神=カミ”が作ったこの世が“修行の場”であるということは、スポーツジム同様、鍛錬をする人間が体を壊してしまっては元も子もないわけで、この世のどのような艱難辛苦も、基本的には、九割九分のところで救われる、という原則が働いていることもよく理解しておくといい」

    何かを思い出したのか、青年はハッと顔を上げて口を挟む。

    『神社には昨年の出来事に対する感謝をするという話を聞いて実践していたことがありますが、その行為は、ある意味正しかったわけですね』

    青年の発言に対し、陰陽師は困った表情で微笑みながら口を開く。

    「以前(※第18話参照)、我々人間の魂に頭の1/2があるのと同様に、神社仏閣にも1/2があり、自分の頭の数字と異なる神社仏閣には参拝しない方がいいと伝えたことも、合わせて、頭の片隅に留めておくようにの」

    『そうでした。僕のような頭1:農耕民族の末裔が、頭2:狩猟民族の祖先となる神を祀った神社仏閣を参拝することは、敵地に自ら乗り込みにいくようなことでしたね』

    そう言い、苦笑する青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を戻すが、これだけの事故で済んでありがたい、と“大難を小難”で済ませていただいた恩恵/加護に対し、“お陰様で”と手を合わせて感謝の意を表すことが、本物の神と向かい合う正しい姿だとワシは思う」

    『そういえば、富士山の山頂でご来光を見た時、思わず手を合わせたことがあります。特に何かを願ったわけではありませんが、今思うと不可思議な体験でしたが』

    「太古より我々人類は、巨岩や樹齢数百年を超える大木や、ご来光に手を合わせ続けてきた。とはいえ、その行為はそれらに対してではなく、それらを含め、地球と宇宙を創造した“人知を超えた存在体”に対する“畏敬の念”から行う、無意識の所作だったはずじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は力強くうなずく。
    陰陽師はそんな青年を横目に続ける。

    「公平無私である“本物の神=カミ”は、“切磋琢磨”などという競争原理を人間社会に持ち込み、我々を権力/経済闘争へと駆り立てることもせぬし、人類間の争いにおいて、どちらか一方だけに加担するなどというようなこともせぬ」

    『そうですよね。“本物の神=カミ”は全宇宙の創造物/生命体に対し、平等な愛を注ぎ、見守る存在なのでしょうから』

    「その通りじゃな。多くの宗教の“えこひいきし、妬む神”が、四次元を含めた宇宙の秩序をコントロールしていると言われても、その言葉を信じるには、いささか以上の躊躇を感じるからの」

    『神の意思という名目で、かつて、殺人を犯したり、戦争を始める人々に対して違和感を覚えていた理由がよく理解できたような気がします。それに、そうした神々は、どちらかというと、神というよりも人間に近い存在のように思われます』

    「まあ、人知で捉えることができること自体、そもそも“本物の神=カミ”ではないのじゃろうからのう」

    『なるほど』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「多くの人々が、望ましい未来を夢見たり、過去を悔やんでやり直したいと渇望することに一定の理解を示したとしても、我々人間には、過去の出来事を変えたり、未来を思い通りにすることもできない」

    黙して耳を傾けている青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「それ故、覚えておくべきことは、未来と過去は“本物の神=カミ/不可思議”の領域であり、我々に与えられているのは、“今/この時”だけという真理じゃ。今世の宿題を果たすために日々精一杯に生きること、それこそが我々に課せられた使命であり、その果報である“社会的/金銭的な成功”は、あくまで副次的な問題なのじゃ」

    『ふと思いましたが、ご神事を受ける前の僕は、自分の天命を生きたいと考えているつもりで、実は自分の天職を求めていたのだと思います』

    「職業にフォーカスする、すなわち収入や社会的地位を意識することは、心のどこかで現世利益を求めている証拠じゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はばつが悪そうな表情で続ける。

    『耳が痛いです。当時の僕は、自分の天命を生きたいと願いながら、天命の意味を理解しておらず、魂磨きの修行ではなく、天職さえやっていればうまくいくと思い込んでいました。さらに言うと、魂の修行よりも“楽”を求めていたと思います』

    「そう思っている人物は少なくないじゃろう。ワシにしても、現世利益を求めることがいけないと言っているのではなく、人生における優先順位を間違えてはならぬ、と言っておるわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、続ける。

    『ご神事を全て受けてパフォーマンスが100%になってから、うれしいことも辛いこともありましたが、僕は目の前の出来事を受け入れる覚悟ができましたし、点と点が線で繋がっていることに気づき、一挙手一投足全てが天命であると、今では感じています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足げに頷いてから口を開く。

    「400回ある輪廻転生のうち、今世はお金で苦しむことを修行で選んできた人物もいるじゃろうし、恋愛や結婚で悩むことを今世の宿題として抱えて来た人物もおる。“自分にとっての今世の宿題とは何だったのだろうか”と意識下の記憶に問いかけたところで、明確な答えが返ってくることはないのじゃから、必然を信じ、日々目の前に現出する出来事/試練と真摯に向き合い、自らのベストを尽くす。それこそが“この世”でのあるべき生き方だとワシは思う」

    『よく、声が聞こえたと公言し、これが私の使命・天命だとしている人がいますが、あれは“17:天啓/憑依”の相によって天から何かが降りてくるのか、そうでなければ13・14の眷属の力を借りているようなものでしょうから、ゆくゆくは眷属によって強烈なしっぺ返しを受けると思いますので、そうした人物には気をつけないといけませんね』

    「その通りじゃな。公平無私である“本物の神=カミ”が特定の人物に言葉を送ることはないことから、そうした人物の大半は眷属に唆されている可能性が高いのじゃろう」

    過去に関わった一部の人物たちを思い出してか、青年は深いため息をついて視線を落とす。
    陰陽師はそんな青年を横目に、続ける。

    「繰り返しになるが、眷属は現世利益を叶えて代償を求めることから、そうした甘言を信じて努力の結果としての“果実”を希求するのではなく、今/現在に全力を傾倒すること、それこそが努力の本来の意味なのだと、ワシは思う」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    私利私欲を願うのではなく、日々ベストを尽くした後に訪れた出来事に対する感謝の意を、“本物の神=カミ”に表する。そして、見えない存在を頼るのではなく、目の前の出来事を真摯に受け止め、悔いのないように取り組んでいくことを、青年は再び決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第34話:令和とパラダイムシフト

    新千夜一夜物語 第34話:令和とパラダイムシフト

    青年は思議していた。

    第99代目の内閣総理大臣に任命された、菅義偉についてである。
    某新聞社のアンケートにて、彼の他に岸田文雄と石破茂の2名が有力候補となっていたが、魂の属性の観点から判断して、今回の人選は望ましい結果なのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は菅義偉について教えていただけませんか?』

    「今回の自民党総裁選のことじゃな」

    そう言いながら、青年の質問に、陰陽師が応じる。

    「はい、4選の目もあると言われていた安倍首相の辞任に基づく、自民党の総裁選のことです」

    「そういえば、令和の“ねじれ”によって、残念ながら安倍晋三が辞任する流れになってしまったのう」

    『え、令和ですか。安倍元首相の辞任と令和が何か関係あるのでしょうか』

    そう言い、大きく眼を見開く青年を片手で制し、陰陽師は続ける。

    「話がそれてしまったの。今回のそなたの質問は総裁選の話なわけじゃから、令和の“ねじれ”については後で話すとして、総裁選の話をするとしよう。じゃが、そなたの質問に答える前に、以前政治家に適した魂の属性について説明したと思うが、そなたは覚えておるかな?」

    陰陽師に問われ、青年はしばし黙考した後に、口を開く。

    『転生回数期が2期で十の位が4、すなわち240回代の魂3:武士・武将、あるいは転生回数期が1期で十の位が4か7、すなわち340回代か370回代の魂1:王侯・僧侶の人物と記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「そうじゃな。与党、さらに言うと首相になれる資質を持つ人物の魂の属性はあらかじめほぼ決まっているのと同じ様に、野党に所属している国会議員の魂の属性もほぼ決まっておると話したのじゃが、それについて覚えておるかな?」

    『転生回数期が2期で十の位が3、すなわち230回代の魂3:武士・武将と、転生回数期が2期で十の位が“大山”の7、すなわち270回代の魂4:一般庶民です。もちろん、自民党を離党し、前民主党政権で首相となった鳩山由紀夫などは2(4)-3、すなわち240回代の魂3:武将ではありますが』

    青年の説明に陰陽師は満足そうにうなずいてから、紙に書きまとめていく。

    ・与党側の多く、首相の魂の属性:1(4)−1、1(7)−1、2(4)−3
    ・野党側の多くの議員の魂の属性:2(3)―3、2(7)−4

    『ところで、菅義偉と岸田文雄と石破茂は、それぞれどのような魂の属性でしょうか?』

    青年に問われた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。
    陰陽師が手を止めると、結果を眺めた青年が口を開く。

    菅義偉SS

    『菅義偉はアンケートで最有力候補でしたが、転生回数が240回代の魂3:武将と首相になれる条件を満たしてしますね。それに、大局的見地が95(SS)で仁が90(S)とかなり高く、総合運もほぼ全ての数値が9で、加えて頭が1と、文句なしの結果と思われます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「血脈の先祖霊の霊障の“17:天啓”の相とチャクラの6と7の乱れの影響によって、時折自分勝手な判断をし、周囲を振り回してしまう可能性が考えられることと、チャクラ4が乱れていることで、安倍晋三のように体調を崩さぬか、ちと気になるところではあるが」

    『そういえば、菅義偉は70歳を超えていて高齢ですので、健康面では気をつけていただきたいですね』

    「そなたの言う通りじゃが、それを言ってしまうと二階俊博は80歳を超えているわけじゃから、まだまだ老骨に鞭を打って頑張ってもらわねば、という考え方もあるにはあるがの」

    『なるほど、政治の世界には、定年などという概念はないのですね…』

    真剣な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は小さく笑って見せてから続ける。

    「本来であれば安倍総理の任期は2021年9月末までなわけじゃから、暫定的に彼の後を継ぐ期間は約一年となる。ゆえに、菅首相がさらに3年続投できるかどうかは、彼がこの一年でどこまでの実績を残せるかにかかっておるわけじゃな」

    陰陽師の言葉に青年は小さくうなずいて見せ、再びスマートフォンを操作した後、口を開く。

    『菅義偉は、“令和おじさん”の愛称や、おやつに3,000円のパンケーキを食べるなど、政治以外の面でもメディアに注目されていましたが、高校を卒業した後に上京し、都内の段ボール工場に住み込みで働くものの、一念発起してアルバイトをしながら受験勉強をし、同級生に比べて二年遅れで大学に入学するなど、苦労人という印象です』

    「そして、27歳に衆議院議員の小此木彦三郎の秘書となり、39歳から横浜市会議員を2期務めた後、45歳で衆議院議員に当選と、政治の世界ではその才覚を遺憾なく発揮してきたようじゃな」

    陰陽師の言葉に青年は感心した様子でうなずいた後、再びスマートフォンを操作して口を開く。

    『“菅総理には菅官房長官がいないという問題がありますが”と言われるくらい、安倍前首相からは評価されていたようですね』

    「魂の属性だけでなく、実務的な面から判断しても、今の自民党の中では、首相に相応しい人物と言うことができるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に納得の意を示すように大きくうなずいた後、青年は問う。

    『ところで、他の2人の魂の属性はいかがでしょうか?』

    岸田文雄SS

    そう言い、青年は再び鑑定結果が記された紙を眺めた後に続ける。

    『岸田文雄は、転生回数が340回の魂1:王侯・僧侶ですから、魂の種類だけで見れば首相に適しているとは思います。しかしながら、大局的見地と仁が80(A)と菅首相に比べて低いですし、人運が7ですから、この数値はトップに立って政党をまとめる人物にとっては致命的でないかと思われます』

    そう言い、青年は再びスマートフォンを操作してから、重々しい口調で続ける。

    『それに、暴力団元幹部の人物との握手写真が流出するというスキャンダルがあり、世間の目からすると良くない印象をあたえているのもちょっと気になります』

    「たしかに、頭が2であることも含め、首相の器というにはちと厳しいようじゃな」

    画像3

    『次は石破茂ですが、彼は転生回数が240回代の魂3:武将で、首相に適している魂の属性ではありますが、岸田文雄と同様に頭が2で人運が7であり、大局的見地と仁の数値を鑑みるに、菅首相には素質では及ばないと思われます』

    「また、親中・親韓派であることから、米中を主軸として昨今の国際情勢を鑑みるに、彼が首相になった場合、安倍元首相が築いてきたアメリカとの友好関係にヒビが入りかねないという危惧もある」

    陰陽師の言葉に青年は真剣な表情でうなずいた後、口を開く。

    『彼の人気の理由は、人柄や志や思想が評価されているというよりも、“党内野党”と言われる政権批判というか反骨精神みたいなものが、反安倍政権の意見を持つ人々から支持されていただけではないかと思うのですが』

    「昨今のメディアが親中・親韓に傾きつつあることを考えると、幾ら3位だったとはいえ、一定数の党員票はメディアの影響という見方もできるじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組み、苦い表情で口を開く。

    『つまり、メディアが魂4を煽るような報道を意識的に行い、党員票が石破茂に集中するように仕向けたというわけですね』

    「仮に党員票が完全な形で総裁選に反映されていたとしたら、トップにはなれなかったとしても、岸田氏には勝っていた可能性が高かったことから考えると、そういう結論になるじゃろうな」

    『たしかに』

    一つ頷いた後で、青年は続ける。

    『ところで、この3名以外で、魂の属性から注目している人物はいらっしゃいますか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んでから、重い口を開く。

    「強いて挙げるなら、我が国初の女性首相という意味合いも含め、稲田朋美じゃな」

    初耳だったのか、青年は手早くスマートフォンを操作し、リサーチを始める。
    その間、陰陽師は彼女の鑑定結果を紙に書き足していく。

    稲田朋美SS

    『稲田朋美は弁護士出身ですし、顔つきから魂2−4という印象を持っていましたが、転生回数が大山の370回代の魂1:王侯・僧侶なのですね。総合運は菅首相と同じですし、大局的見地が90(S)と高いことからみても、たしかにバランスはよさそうですね』

    「とは言え、令和のような激動の時代には、やはり魂1が望ましく、彼女は頭が2であることから、今の時代に即したトップではないのかもしれないがの」

    陰陽師がそう言った後、青年はスマートフォンの画面を見ながら口を開く。

    『ネットで見るかぎり、彼女はさまざまな問題発言や問題ある行動を起こしていたようで、自衛隊の南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の日報問題をきっかけに防衛大臣を辞任しています』

    「彼女にはそうした面があることから、現時点では力量不足であると言っておるわけじゃが、将来的には、首相となるポテンシャルを秘めているも間違いない。仮に菅首相がもう一期総理大臣を続けるようなことがあれば、その間に実力をつけて、4年後、101代総理大臣に就任する可能性も皆無ではないじゃろう」

    『なるほど。僕なんかには想像もつかない話で、正に目から鱗です』

    そう言い、頭を下げる青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「仮に彼女が首相に就任したら、米中戦争が勃発した際に自衛隊を派兵してしまう可能性は飛躍的に高まるはずじゃ。さらに言えば、戦争でアメリカが勝利した暁には、その功績をもとに自衛隊が正式に軍隊とする可能性もじゅうぶんあり得るじゃろう」

    陰陽師の言葉に青年は目を見開き、おそるおそる尋ねる。

    『そうなると、いよいよ憲法9条の改憲となるわけですね。自衛隊が軍隊になると、また日本が戦争に巻き込まれる可能性が高まり、物騒な世の中になりそうです…』

    「ということは、そなたは憲法9条の改憲に対して反対なのかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年はしばらく黙考してから口を開く。

    『不勉強で恐縮ですが、憲法9条を改生してしまうと、日本は戦争に巻き込まれやすくなってしまうのではないかと危惧しています。この世が地上天国ではないことから、戦争そのものがなくなることはないと理解していますが、昔のような大規模戦争が少なくなっているとは言え、日本が戦争に加わることに対して賛成することは難しいです』

    「なるほど」

    そう言い、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後に続ける。

    「実は、安保法制には、たしかに“専守防衛”、“不戦の誓いを基調とした平和憲法”という側面も存在するのじゃが、別な角度で見ると、現行の憲法には、第二次世界大戦で軍部の暴走を許した日本国に対し、その軍事力に恐れをなした戦勝国側が、二度と同じ事態を引き起こさせないようにと、軍隊の保持を禁じたという側面が存在する。それが、憲法9条の基本的な“趣旨“でもあるわけじゃが」

    真剣な表情で黙ってうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「戦後70年という時間が経過した結果、憲法9条をめぐる状況は、大きな曲がり角に差しかかろうとしている。アメリカ・イギリスを中心とした戦勝国側が、軍隊の保持を認めただけでなく、国連決議による国連軍派遣といった事態に際し、日本に対して金銭のみならず汗を、汗のみならず血を流すことを求め始めたという世界情勢に基づく構造変化が起きているのじゃ」

    『つまり、今まで日本は経済支援で主に対応していましたが、今後は軍事面でも加勢するよう、まさかの国連から求められているということでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずいて見せてから口を開く。

    「“イデオロギー”から“経済”へと世界が大きなパラダイムシフトを始めたとはいえ、問題解決の手段として戦争がこの世から簡単に一掃されない以上、我が国も自衛隊といった目的のはっきりとしない機関(それさえも憲法による規定がないのだが)ではなく、たとえ“防衛軍”といった名称であっても、正式に軍隊を呼称すべき時期に差しかかっていることだけは間違いあるまい」

    陰陽師の説明に対し、青年はうなずいてから意見を述べる。

    『正当防衛のための軍事力の延長という意味でしたら、自衛隊が防衛軍となることに納得できます』

    「この世に“職業の選択の自由”が存在する以上、警察官/消防士といった職業が、他の職業に比べ、生命の危険にさらされる可能性が高くなることは言うまでもない以上、自衛隊に明確な称号と権利を付与することこそが、“命を賭して”職務を遂行している自衛隊員に対する最大のオマージュと考えることもできるわけじゃしな」

    『たしかに。大規模な災害時に人命救助にあたるのは自衛隊ですし、警察官や消防士と同等かそれ以上の社会的評価と待遇を得てもおかしくは、ないと思います』

    青年の意見に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「繰り返しになるが、安保法制とは新たな侵略戦争に道を開く法案ではなく、国連安保理事会の決議が戦争という手段以外の解決策を見出せなかった場合において、世界第三位の経済大国としての義務を果たすための法案なのだ、という認識を国民一人一人がもう一度考え直す時期に来ているのではないかと、ワシは思う」

    『おっしゃる通りですね。軍隊を持つイコール、戦争をしかけて軍事的に侵略する、ということになるとは限りませんからね』

    「それにじゃ、昔のような武力による争いだけが戦争ではなく、スパイやハッキングによる情報戦争や、経済政策によって相手国に損失を与える経済戦争のように、戦争の手段が変わってきておる」

    『そう言えば、先日、米国が“違反商品保留命令”を発令し、中国製の衣服やコンピューター部品などの品目の輸入を禁止しましたが、大きな貿易相手国である米国にそうした対応を取られると、中国は経済的に大打撃を受けますね』

    「もちろん、最終的に雌雄を決するのは武力による戦争となるのじゃろうが、既に米中戦争の前哨戦は始まっていると言えなくもないわけじゃし、今回のコロナ禍においても、金を使ってWTOを丸め込もうとせず、問題が明らかになった時点で、あらゆるデータを開示していればまた違った展開になっているかもしれぬわけじゃからの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は暗い表情で顔を伏せながら口を開く。

    『なるほど。以前説明していただきましたが、そもそも戦争とは、二国間の利害の不一致・衝突が話し合いのレベルを超えた段階で想定される最終行動/意思表示(※第4話参照)ですから、一般庶民が知らない水面化で戦争の準備が着々と進んでいるわけですね』

    「もちろん、米中双方の持つ核兵器で、地球全体が何度も吹っ飛ぶ時代じゃ。そう簡単に戦火を交えることもないじゃろうが、現在の経済/IT分野における小競り合いは、新しい形の戦争と呼ぶこともあながち間違いではないのじゃろうな」

    『令和の問題をひとまずこちらに置いておくとして、そしてこの世が地上天国ではなく“修行の場”という問題もこちらに置いておくとして、この世から“争い”がなくなることはないのでしょうか?』

    「仮にこの世から軍事的な意味での戦争がなくなったとしても、夫婦間の対立やイジメもといった、人間同士の争いがなくなることはないじゃろうし、そのような争いを通じて魂が磨かれるという側面がある限り、この世から人間同士の争い、戦争がなくなることはあるまい」

    『戦争が必要な理由など僕には皆目検討がつきませんし、それを世直しと言っていいのかどうかさえ、僕にはよくわかりませんが、いずれにしても、令和の“ねじれ”によって米中戦争が起き、結果として自衛隊が軍隊になる流れに向かってしまっているとおっしゃるわけですね』

    「目先の事象だけで見るとそなたの言う通りなのじゃが、ワシがみるかぎり、令和の“ねじれ“には、もっと大きな意味があるようじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「冒頭に安倍元首相の辞任について触れたが、年号が令和になったことで“ねじれ”が起こり、世の中で様々な方向修正が起きておる」

    『新元号が令和でなければ、安倍元首相は体調不良にならずに総理大臣を続けていたということですね』

    「そなたはたかが年号と思うかも知れんが、令和という年号がついたことで、日本のみならず、その影響が世界中に伝播し始めてしまった。新型コロナウイルスによる経済崩壊、生活スタイルの変更などといったパラダイムの変換によって、世の中が大きく動き出したことは間違いないじゃろう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は腕を組み、眉間にシワを寄せて口を開く。

    『元号が令和になったことでコロナ禍が起きたのが事実だとするなら、別の元号にする方がいいのではないかと思うのですが…』

    「そう言いたくなる気持ちもわからんではないが、表面的に見れば、今のところ悪い現象ばかりのように見えるかもしれん。しかし、実際には、本来のあるべき世界に戻るために、令和という年号が選ばれ、その結果、今のような“ねじれ”が生じたと考えた方が実態に即しておるじゃろうな」

    『それは、どういう意味でしょう。令和の“ねじれ“は、改悪というより、むしろ改善に向かっているとおっしゃっているのでしょうか』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷き、続ける。

    「令和単体でみると、地震、火山の大爆発といった地球の内部からの問題よりも、今回のコロナのような疫病、天変地異、それに伴う凶作、戦争、果ては宇宙からの隕石落下といった災厄が目白押しということになるのじゃが、そもそもの原因とそれらの厄災の役割という、もう少し巨視的な物差しで令和の問題をみてみると、その原因を産業革命にまで遡らせるべきであるようなのじゃ」

    『産業革命。そんなに昔にねじれが起こったと…』

    「その通りじゃ」

    小さく唸ったまま固まる青年を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「端的に言うと、現代のあらゆる文明は、18世期半ばから19世期前半に始まった産業革命に端を発しているということができる」

    『はい』

    「もちろんそのすべてを否定するわけではないが、たとえば、クローンの問題や、IP細胞などの出現によって、がんにかかったとしても、他人の臓器などを移植せずに、自らの細胞を使って病気を根治させることが、もはや夢物語でないところまできておる」

    『そうですね。このままいけば、不死とまではいわないとしても、寿命が今までの倍になることぐらいはじゅうぶん予想できますよね』

    「仮にこの世の目指すべき方向性が、“地上天国の実現”であるのであればそれでもいいかもしれんが」

    『この世が“修行の場”である以上、そして400回の輪廻転生という宿題がある以上、そのような方向性は、断固として、阻止すべきだと・・・』

    「端的に言うとそういうことになるわけじゃ」

    陰陽師は、一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「つまり、令和の“ねじれ”とは、産業革命によってもたらされた物質文明、“体主霊従”の世界を、令和の“ねじれ”により、“霊主体従”というあるべき姿に戻すことを意味しており、実際、人知を超えた力がそのような方向性ですでに動き出しておるようなのじゃ」

    『にわかには信じられない話ですが、いずれにしても、捉え方によっては、令和で起きている世間一般では不幸と思われる出来事は、地球にとっての好転反応だとおっしゃるわけですね』

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら、そう言葉を絞り出す。

    「端的に言うと、そなたの言う通りじゃ。そしてさらに言ってしまえば、コロナ禍によって引き起こされるであろう出来事を鑑みるに、“体主霊従”から“霊主体従”の世の中に戻るには、それくらいの方向修正が必要なのじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、小さく頷くと、青年は言葉を続ける。

    『ところで、“体主霊従”と“霊主体従”、よく耳にする言葉ではありますが、具体的にはどのように違うのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は紙に文字を書きながら口を開く。

    「“体主霊従”は科学を中心とする、唯物論者の考えや意見が主流な現在の物質主義の世の中のこととなる。一方、“霊主体従”とは“霊”、すなわち魂や見えない存在の影響を大きく受ける、あの世の理屈が主流となる世の中のこととなる。もちろん、魂磨きの修行の場として、後者の方がふさわしいのはわかるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてから口を開く。

    『つまり、魂7(唯物論者)の人間が主導権を握っている世界から魂3(霊媒体質)の人に主導権が移っていくイメージですね。以前、血脈の先祖霊の霊障が顕在化し始めたのも、日本の元号が令和になったからだとお聞きしましたが、“霊主体従”の世の中に向かうにつれ、先祖霊の影響力が強くなったということでしょうか?』

    「塞がれているパフォーマンスの数字と霊障によって引き起こされる、特に心身の不調の顕在化を鑑みるに、そなたの言う通りであろう」

    『と言うことは、令和のねじれによって、コロナ禍は言うに及ばず、これからも様々な厄災が想定されるだけではなく、最悪、戦争も起こりえるというのですね…』

    「そうなってほしくはないが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「そして、そのような激変の時代じゃからこそ、冒頭に述べたように、頭1の人間が世をまとめるべきで、そのような意味では、菅首相には後任となる人物が育つまで頑張ってもらいたいと個人的には思っておるわけなのじゃ」

    『産業革命以前の“ねじれの解消”、それによる“霊主体従”の世の中へ回帰した後、頭1が世をまとめることで、どのような世界になるのでしょうか?』

    「それについて話し始めると長くなるから今夜はパスするが、いずれあらためて、そなたの意見も拝聴しながら、ゆっくりと議論をすることとしよう」

    『起承転結、お話を伺うかぎり、産業革命以降のおよそ250年分のねじれをまずは戻し、さらに本来の流れで進むはずだった250年、合計500年分の遅れを取り戻すために、かなり手荒い“軌道修正”が必要だというお話はじゅうぶん納得できます』

    そんな青年の言葉に頷きながら、陰陽師は口を開く。

    「それ故、出口なおの“お筆先”や日月神示で言うところの、“大掃除”が今度こそ、本当に起こるかも知れんわけじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    世の中が大きく動いている中、自分はどう動くべきだろうか。
    このままの方向性で科学が進み、この世から病気が一掃され、永遠の命を手に入れるのも悪い未来ではなさそうだが、この世を“地上天国”ではなく、“魂磨きの場”、“修行の場”とする限り、たしかに今の方向性は間違っているのかもしれない、そんな考えが青年の頭をちらっとよぎった。しかし…。
    今の自分の使命は、そんな荒唐無稽な未来に想いを馳せて一喜一憂するのではなく、目の前の出来事を一つ一つ丁寧にこなし、魂磨きの修行に励もうと青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    青年は思議していた。

    彼が知る限りにおける、セラピストたちが心身の不調を訴えている件についてである。
    ※この話では、セラピストとは主にマッサージ師、気功師、話を聞くことで心を癒すヒーラーを意味します。

    他者の心・体をケアできる術に精通しているのであれば、自身のケアもできるはずなのに、なぜ、当の本人たちまでもが心身を病ませてしまうのだろう。
    ひょっとしたら、彼らの不調の原因に、霊障が関係しているのかもしれない。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はセラピストの不調について教えていただけませんか?』

    「ほう、セラピストの不調とな。それはまた、意味深なテーマじゃの。して、具体的にはどのようなことを聞きたいのかな?」

    そこで、青年はセラピストたちに多くみられる心身の不調について、陰陽師にざっと説明した。
    陰陽師はいつもの笑みで青年の話を聞いた後で口を開いた。

    「結論から言うと、セラピストが不調を感じる主な要因は、“霊障”ということになるのじゃろうが、そのあたりを詳しく説明するためにも、“霊障”についてのそなたなりの説明を、まず聞かせてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎。雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    「今の説明で基本的に問題ないが、 “霊統”、 “血統”という言葉もあり、それらは地縛霊化している先祖が本人にかかろうがかかるまいが、そう呼ぶことも忘れんようにの」

    『そうでした。そのことをすっかり忘れていました』

    ばつが悪そうに言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みを向けながら続ける。

    「いずれにしても、基本はしっかり押さえておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言いながら、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、基本となる四つの神事を済ませたという前提で、一番問題となってくるのは、人が発する“念”じゃ。実際、日々ワシのところに“お祓い”を依頼してくるクライアントの心身の不調の原因の大半はこの “念”じゃ」

    『なるほど、そうなのですね。僕の同僚たちへのヒアリングでは、腰痛など体の痛みが患者の症状の大部分を占めているわけですが、見えない“念”が、物理的な身体に影響を及ぼしていたわけですね?』

    「そなたの同僚ということであれば、勢い、魂の属性3の人間がほとんどのはずじゃから、 体の不調が“先祖霊の霊障(霊脈と血脈)”、“天命運の乱れ”、“チャクラの乱れ”に起因していることが基本とはいえ、“念”を中心とした霊障による体の不調は、決して見過ごすことのできない大きな問題といえるじゃろうの」

    『特に魂の属性3の場合、先天性疾患や重篤な病を患っているとしたら、そのあたりの影響をまず疑うべきなのですね』

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、そう言った。
    そんな青年の様子に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「ところで、そなたは“念”について、どのように理解しておるのかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『“念”は、人間の感情を起因として生じます。たとえば、“呪い”のように誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じます。つまり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“生き霊”となって相手に届いてしまう現象と認識しています』

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、言葉を添える。

    「基本的にはその通りじゃが、もう一言だけ付言すると、“呪い”と“生き霊”の区別だけはしっかりとつけておくようにな」

    『とおっしゃいますと?』

    「人が発する“念”をさらに大別すると、“邪神”、“呪い”、“生き霊”の三つとなるわけじゃが」

    そう言いながら、いぶかしげな顔をしている青年のために、陰陽師はそれらの言葉を紙に書き足していく。

    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した「神(もどき)」
    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念

    書き終えた後、陰陽師は再び口を開く。

    「“邪神”は今回の件とは関係が薄いことから別の機会に話すとして、“呪い”と“生き霊”は誰に対して“念”を発しているかで異なるとは言え、これらの“霊障”の問題点は、“霊媒体質”の強弱によって被害者が変わってしまうところにある」

    『とおっしゃいますと?』

    「つまりじゃ、“霊能力”持ちの人物が“呪い”を生み出した場合、対象の人物に直接影響を及ぼすのに対し、“霊能力”を持たない人物が“念”を飛ばした場合、往々にして、“霊媒体質”を持つ赤の他人に、無差別に影響を及ぼすことが起こりえる」

    『え、まったく無関係な赤の他人がとばっちりを受けると。それはたしかに迷惑な話ですね』

    「たとえば、誰かがSNSで特定の人物に対する恨み言を投稿した、つまり、“念”を飛ばしたとして、その投稿を偶然見かけた赤の他人がその“念”を拾い、心身に変調をきたすことは、以前(※第29話参照)にも説明したと思うが、記憶に残っておるかな?」

    陰陽師の言葉に対して青年は真剣な表情でうなずいて見せ、口を開く。

    『そのあたりの話は、よく覚えています。かく言う僕も、木村花さんに向けて発信された投稿内容を読んでいて、赤の他人であるにもかかわらず、気分が悪くなりました』

    「そなたが体験した通り、実際に目の前にいない人間が何らかの“念”を飛ばしたとしても、“霊媒体質”というだけで、その“念”を無関係な人間が拾ってしまい、その結果、心身に何らかの良からぬ影響を被るという構図が成立するわけじゃ」

    『なるほど。近くで赤の他人が口喧嘩していると、関係ない僕まで気分が悪くなってしまうのは、その当事者たちの“念”を拾ってしまったからなのですね』

    「さよう、そなたの言う通りじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「さらに厄介なのは、“念”というものは元来霧のように人間にまとわりついており、その人物の心身の中でもっとも弱っている部位に集まるという性質があることなんじゃ」

    『ほう、心身の中でもっとも弱っている部位に集まると。そのあたりのことを、もう少し具体的に教えていただけますでしょうか?』

    そう問いかける青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて見せ、紙に人型を描き、さらにその周囲を覆うような輪郭線を描く。

    「つまり、“念”を拾った人物にとって弱い部位が肌であると仮定した場合、肌の症状が悪化し、腰が弱い人物には腰痛が増幅する形で現れることになる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は納得顔でうなずきながら口を開く。

    『今は完治していますが、僕は昔アトピー性皮膚炎に悩まされていて、むしゃくしゃした時に、いけないと思いつつも八つ当たりのように肌を掻き毟ってしまった原因に、“念”の可能性があるわけですね?』

    「基本的にはその通りじゃが、もっと詳しく説明するにあたり、そなたの鑑定結果を確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を保存しているファイルをめくり、青年のページを開く。

    note用霊障による精神疾患

    青年は鑑定結果に目を通してから口を開く。

    『アトピーに関しては、15の項目で納得しました。そして、SNSでネガティヴな内容の投稿を見かけた際に、自分には関係ない内容であるのに怒りが湧いたのは、13あるいは14の相が関係しているわけですね?』

    「うむ、その理解で問題ないじゃろう。つまり、霊的に、見るべきではない記事に目を通したことによって、拾わなくてもよい“念”を拾ってしまったわけじゃな」

    『なるほど。そういうことだったのですね』

    「それと、この件でよく覚えておくべきは、たとえば温厚な性格の人物が、突然、別人のように言動が悪変した場合なども、それはその人物の内側から湧いてきた激情というより、他者の“念”を拾ったために生じた悪変である可能性が極めて高いという事実じゃ」

    『そのお話は、とてもよく理解できます。若かりし頃、物に八つ当たりしたり、暴言を吐いたりした後に激しく後悔したものでしたが、当時もなんらかの“念”の影響を受けていたのでしょうね』

    「そなたの属性を見るかぎり、その可能性は高いじゃろう。そして、そなたに限らず、そのような言動は本人の責任というよりも、霊障が原因と考えるべきなのじゃろう」

    『そう言っていただけると、少しは気持ちが安らかになります』

    そう言って微笑む青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「ここで冒頭のそなたの質問に戻るわけじゃが、マッサージ業界の場合、セラピストの“霊媒体質”度が80点、患者の“霊媒体質”度が90点だった場合、セラピストにかかっていた“念”が、施術を通じて患者の方に移ってしまう」

    陰陽師は紙に二つの人型を描き、一方の頭上に90を、もう一方の頭上に80と書き足した。そして、後者から前者に矢印を描き、説明を再開する。

    「すると、本来であれば施術を受けた患者の体の不調が解消されるはずが、セラピストにかかっていた“念”が患者に移動することで、セラピストの方が元気になり、むしろ患者の不調が増幅するという逆転現象が起こることになる」

    『逆に言えば、“霊媒体質”の患者にとっては、より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合えることができれば、単に施術の効果だけではなく、セラピストに“念”を引き受けてもらうことも不調の改善に一役買っているというわけですね?』

    「その通りじゃ。より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合うことができれば、そのセラピストが持つスキル以上の恩恵を患者は享受することができるわけじゃな」

    『ちなみに、セラピストと患者が互角の“霊媒体質”同士だった場合はどうなるのでしょう』

    「もちろん、その場合は、魂の属性7同士がセラピストと患者である場と同様、セラピストの腕がそのまま治療結果となるじゃろうな」

    『なるほど。リラクゼーションの仕事をしていた時に、少しでも施術が向上するようにと試行錯誤を繰り返していましたが、その努力は無駄ではなかったのですね』

    安堵の息を漏らす青年に対し、陰陽師は青年を安心させるように微笑みかけ、再び口を開く。

    「いずれにしても、今まで長々と説明してきた理由によって、“霊媒体質”であるセラピストが日頃、仕事後に感じる心身の不調の原因の大半が、患者が拾ってきた“念”であるという結論に至るわけじゃ」

    陰陽師の話に身に覚えがある青年は、表情を引きつらせながら小さくうなずいて見せる。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲み、説明を再開する。

    「さらにもう一言だけ補足しておくと、“霊媒体質”には二つのタイプが存在する。つまり、“念”を引き受けた後に体に入れてしまうタイプと弾くという二種類のタイプのことじゃな」

    『今の説明をお聞きするかぎり、僕の場合は霊障を体内に入れてしまうタイプだと思いますが、弾くタイプの人間の場合、具体的には、どのような現象が起こりえるのでしょうか?』

    「“念”が人体に影響をあたえるのと同様、その場合、弾いた念を近くの物に転写させることになるわけじゃが、電子機器や蛍光灯の調子が悪くなるのが最も一般的なのじゃが、めずらしい例としては、車の調子がおかしくなってみたり、警報機やスプリンクラーが誤作動して、大騒ぎになってみたりする」

    『え、そんな事例まで存在するのですか?』

    「真夜中に、自室の電子ピアノが鳴り出したなどという、オカルト映画にも出てきそうな事件まであるにはあるが、それとて原因が理解できていれば、恐れることは何もないわけじゃ」

    そう言って笑う陰陽師を横目で見ながら、青年が口を開く。

    『そうはおっしゃっても、私物であるならばともかく、施設にまで影響がでてしまうのは困りますね。このような問題は万人のコンセンサスを得ることは難しいわけですから、その結果、変な噂が立って、客足が遠のく可能性だって考えられるわけですし』

    「霊障を体内に取り込んでしまう人物に比べて、弾くタイプの人物の比率はそう多くないとしても、たしかにお主の言う通りでそのような事態が頻発するようでは、たしかに商売にも悪影響を及ぼすじゃろうな」

    『おっしゃる通りです』

    青年は一つ頷いた後で、陰陽師に問いかける。

    「この件について、緊急時における“特効薬”のようなものは存在しないのでしょうか?」

    「少なくとも、マッサージなどの治療院に話をかぎるとすれば、問題となる特定の患者が来た時に、霊能力者に結界を張るように依頼することも検討してみるのは一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、疑問を口にする。

    『ちなみに、“唯物論者”である魂の属性が7の人物の場合はどうなのでしょう?』

    「もちろん、魂の属性7の人物の場合は、先程も説明したように、純粋に施術の効果で症状が改善する可能性がはるかに高い。また、引き寄せの法則によって、魂の属性3のセラピストには魂の属性3の患者が、魂の属性7のセラピストには魂の属性7の患者が集まりやすいことから鑑みても、“霊媒体質”の人間の方がこの手の治療において“効きがいい”といわれる由縁も、実は、魂の属性3のセラピストと患者の場合、通常の施術に加え、霊障のやり取りがあることがその要因ともなっておるわけじゃな」

    陰陽師の説明を聞き、青年は手を打ってから口を開く。

    『なるほど。患者とセラピストの相性には、“霊媒体質”か“唯物論者”かも関係があるのですね』

    「もちろんじゃとも」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずくと、言葉を続ける。

    「その結果、“霊媒体質”の点数が高いセラピストは患者にかかっていた“念”を次々と拾ってしまうため、心身の不調が出やすいということになるわけじゃ」

    陰陽師の説明に納得顔で青年はうなずき、しばらく黙考した後に口を開いた。

    『ちなみに、体による接触がない、電話での霊視カウンセリングなどにも“念”の影響はあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。そなたがSNSで体験したように、“念”に物理的な距離は関係ない。客が電話越しに誰かに対する恨み辛みを話していたとしても、電話をしている時に最も関わっている人物、ここで言う聞き手に“念”が影響を及ぼすことは間違いない」

    『ということは、霊視カウンセリングといったスピリチュアルな手法を売りにするセラピストは、当然優秀な“霊媒体質”なのでしょうから、客の“念”をダイレクトに拾ってしまう可能性が極めて高いわけですね』

    「もちろんじゃとも。優秀な“霊媒体質”の人間が、そうした職業で生計を立てている場合、心身を蝕まれる可能性は魂の属性7の人間とは比べ物にならず、一定期間“念”を大量に引き受けていたりすると、人によっては、白髪になりやすかったりする」

    『え、髪の毛が白くなってしまうのですか』

    「昔から、(古来の教えを正しく受け継ぐ)神道でも、霊力は髪の毛を媒介してやり取りされる、と言われておるくらいじゃから、霊的な疲弊は髪の毛に一番出やすいということは当然の帰結なんじゃ」

    『なるほど、それで納得しました。実は、僕の知人も、年齢の割に白髪が明らかに多かったので、かなり“念”を拾いながら仕事をしていたわけなのですね』

    「もしそのような人物がおるのであれば、おそらく、間違いあるまい」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「さらに言うと、リラクゼーションの場合と同様に、“念”が“霊媒体質”の度合いが高い方に移動することから、電話カウンセリングだけでなく、遠隔ヒーリングといった施術にもじゅうぶんな注意が必要であることは言うまでもない」

    『最近では、水泳の池江璃花子選手が“手かざし療法”を受けているようですが、あれも“念”の移動という理解でよろしいでしょうか?』

    「“手かざし療法”は、現代では、世界救世教の開祖、岡田茂吉のエネルギーワーク、そして岡田茂吉の後継者を名乗っている三派の“真光”教団が有名じゃが、あれは岡田茂吉が“霊能力”持ちだったから一定以上の効果があったわけであって、多くの人間にとっては“手かざし療法”は、“念”の移動に過ぎないといっても間違いではないじゃろうな」

    『なるほど。参考までに、岡田茂吉氏の鑑定結果を教えていただけますでしょうか?』

    「あいわかった」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    岡田茂吉SS

    『やはり“霊能力”持ちなのですね。しかも、(±5)とかなり強力ですから、多くの命を救ったことでしょう。ただ、(±1〜3)ではないため、先祖供養や天命運とチャクラの正常化はできなかったようですね』

    「以前(※第24話参照)も説明したが、“霊能力”と一口に言ってもいろんな種類があり、彼の“霊能力”は病気治しに特化していたと言うことができよう。1961年(昭和33年)に国民健康保険法が改正され,国民皆保険体制が確立されるまでは、短期間で死に至る病ならまだしも、糖尿病や心臓病を患ったにもかかわらず、一命をとりとめ、その結果、ずるずると生き永らえてしまった場合、高額な医療費のために一族郎党が経済的に壊滅状態に追い込まれてしまうことも決してめずらしくはなかったのじゃ」

    『今では大多数の人々が健康保険制度を当たり前と思っていますが、当時の医療は現代の常識からは想像ができないくらい高額だったのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「実際に彼が救った命は相当な数に上るのじゃろうし、当時の彼がいくらくらいの謝礼を受け取っていたか定かではないものの、病院から請求される高額な治療費を支払えない貧しい信者からしてみれば、まさに命の恩人、崇めるべき教祖だったわけなのじゃよ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『なるほど。彼自身は“17:天啓”の相を解消できずに大変な思いをしたかもしれませんが、それだけの偉業を成し遂げたのであれば、この世に未練はなさそうです。ちなみに、彼の魂は無事にあの世に戻っているのでしょうか?』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    青年の問いに陰陽師は短く答え、鑑定を始める。

    「うむ。たしかに、無事にあの世に戻っておるようじゃな」

    『それはよかったです』

    安堵の息をもらす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで、彼の鑑定結果を見て、他に気づいたことはないかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は食い入るように鑑定結果を眺める。
    しばらくして、青年は首を傾げながら自信なさげに口を開く。

    『精神疾患の項目に“13:読心・暴力衝動/諸事に支障(物)”しかないことが気になります。多くの人は“14:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)”とセットだったような気がしますので』

    「いいところに気がついたの。この項目の数が極端に少ない場合、特に13しかない人物は、その項目の現れ方が激しくなる。たとえば、とある人物が“霊障”を100拾ったとして、13と14の項目が共にある人物の場合、わかりやすく説明すると、各々50ずつに相当する症状が顕在化する」

    そう言い、陰陽師は青年が話についてきているのを横目で確認し、続ける。

    「一方、霊障13しかない人物が“霊障”を100拾ったとすると、その全てが13に集中し、100に相当する症状が顕在化するため、非常に激しい荒れ方をするわけじゃ」

    『つまり、日頃とのギャップに周囲がドン引きするような変貌ぶりをする人などは、13だけを持っている可能性が高いわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、再び口を開く。

    「加えて、岡田茂吉氏の場合、先祖霊の霊障と天命運の両方に“17:天啓”の相があり、チャクラの6番目と7番目が乱れておることからも、精神的にかなり不安定だったことが想定されよう。また、晩年の彼は信者から得た莫大な資金で、世界中の様々な美術品を買い集めることに執心しておったのも、そのあたりが作用しておったのじゃろうな」

    『ちなみに、それらの美術品は、実際に素晴らしいものだったのでしょうか?』

    おそるおそる問う青年に対し、陰陽師は小さく笑いながら首を左右に振る。

    「ワシは美術の専門家ではないから断定的なことは言えんが、熱海のモア美術館にある品々を見る限り、玉石混交の観は免れんと思うがな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は腕を組み、眉根をひそめて言う。

    『“17:天啓”の相とチャクラの乱れ(6・7)によって誤った方向に導かれ、その結果が精神疾患の13の“諸事に支障(物)”として顕在化したのでしょうね』

    「その可能性は決して低くはないようじゃな。それにじゃ。そもそも、何らかの“霊能力”を持っていたとしても、結局はそれを使う人間の心次第ということになる。霊能力者が自らの力を行使するにあたり、自分なりのしっかりとした世界観とか価値観を持っておらんと、“正義の剣”で悪を切ったつもりが、実はその正反対であったなどということも、じゅうぶん起こりうるわけじゃ」

    『なるほど。霊能力を持っていても、結局は、それを扱う人物次第ということなのですね』

    青年の言葉に小さくうなずいてみせ、陰陽師は続ける。

    「さよう。新興宗教のほとんどが、怪我や病気や犯罪がない、“地上天国”を理想として掲げておるが、この世が“地上天国”を希求するものではなく、“魂磨きの修行の場”であるとするならば、400回の人生において、今世の宿題としてあえて病気で苦しむことを選ぶ可能性だって、当然あるわけじゃから、そもそも、その能力があるからと言って、目の前の人物の病気や怪我を安易に治していいものかどうかという形而上的な問題も存在しているわけじゃ」

    『以前(※第25話参照)もご説明いただきましたが、池江選手が白血病になった原因がプロのスポーツ界における“排除命令”の一環だったとすると、彼女の病気を治し、水泳の選手として復帰させることは、この世の厳然たる“2−3−5−5…2”のルールの中に再び彼女を返してしまうという結果となるわけで、考え方によっては病気を治すことそのものが好ましくないことという考え方もできるわけですね』

    「そなたの言う通りじゃ。病にかかることや死を不幸だと思う人は多いと思うが、病気になることで体験できることもあるし、身近な人物の死から気づかされることもある。つまるところ、当人の魂磨きの修行にとって必要だから起きている場合だってあるわけじゃからの」

    『つまり、霊能力者たるもの、そこまで考えて己の能力を使うべきだとおっしゃるわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「仮にワシがあの時彼女と知り合っていたとすれば、治療を始める前に彼女にこの世のルールについてよく説明し、たとえ白血病が治ったとしても、選手として復帰しないこと、とは言え、あれだけの才能の持ち主であるわけじゃから、指導者として後進を育てることが今世の宿題であることを事前に了解してもらった上で、治療に関わらせてもらっておったじゃろうな」

    『たしかに。いかに才能に恵まれていたとしても、2(4)-3-5-5・・・2でない以上、選手に復帰したらまた病が再発する可能性がありますし、仮に病が完治していたとしても、今度は麻薬に関する事件を起こし、別の形で排除命令が発動するかもしれませんからね』

    自分に言い聞かせるようにそう言い、青年は居住まいを正してから続ける。

    『また、現世利益的に何不自由なかった人物でも地縛霊化することがありえるということは、池江選手にとって、選手として復帰することばかりを目標にするのではなく、いかに最期に悔いなくあの世に還ることが重要だというわけですね』

    「簡単に言うと、そういうことになるの」

    青年の言葉に同意を示すように陰陽師はうなずき、口を開く。

    「池江選手を治療しておるという件(くだん)の霊能力者も、本来であれば、そこまでの大局的な視点を持って自らの能力を使ってもらいたいところじゃが、“霊能力”(±7)の件の“手かざし療法”にそこまでの要求をするのは酷と言うもんなのじゃろうし、そもそも、彼に“血脈先祖”の霊障を祓えと言うのも、無理な相談なのじゃろうしな」

    想定外のことを聞いた青年は、目を見張りながら陰陽師に問う。

    『池江選手自身は“唯物論者”である魂の属性が7の人物だったと記憶していますが、そのような人物にも“血脈”の先祖霊の霊障がかかるのでしょうか?』

    思いがけない言葉にちょっと目を大きくしている青年の問いに対して、陰陽師は小さく首肯し、続ける。

    「魂の属性7の人物の場合、魂が同一である“霊脈”の先祖霊はかからないものの、“血脈”の先祖霊がかかる可能性は当然のこととして想定できたのじゃが、困ったことに、令和になって以来、それ以前と比較して、“血脈”の先祖霊の霊障が顕在化し始めたようなのじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    「それだけにとどまらず、最近の事例を見ている限り、魂の属性3の人間よりも魂7の人物の方が、霊脈の霊障がない分、より強く霊障を顕在化させるようになっているようなんじゃ」

    『なんと…。令和の時代に入って何らかの“パラダイムシフト”が起きたとお聞きしましたが、今まではさほど問題視されていなかった血脈の先祖霊(※第6話参照)が、魂の属性7の人間にまで影響を及ぼし始めたとは、想定外としか言いようがありません…』

    「“令和”についての問題は、話し出すと長くなってしまうので、また別の機会に話をするとしよう」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、再び口を開く。

    『ちなみに、気功師である僕も含め、霊能力が満たない人物が重病や精神疾患を持っている患者に施術を続けると、どうなってしまうのでしょうか?』

    恐る恐るそう問う青年に対し、陰陽師は笑みを消して口を開く。

    「“霊媒体質”のタイプによるが、体に入れてしまうタイプの人物の場合は、当然のこととして心身不調がひどくなり、長年そのような患者と関わり続けていると、最悪の場合、セラピスト自身が癌などの重篤な病気や精神障害にかかる可能性が考えられる」

    『そうなると、あるところからは信頼できる霊能力者に引き継ぐ必要があるのでしょうか』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振って口を開く。

    「もちろん特に重篤な患者の場合は相談してもらうことも必要じゃろうが、必ずしも患者と距離を置く必要はない。そもそも、“霊障”は当人の弱っている部位の症状を増幅させるわけじゃから、そなたのような人間たちが、患者の弱っている部位を改善するという現代医学の最も不得意な分野を補完することは、とても有益なことじゃとワシは思う」

    『それを聞いて安心しました。誰が担当しようが、結果的に患者が元気になって天命を邁進してくれるのが僕の一番の願いなので、僕の気功が一人でも多くの方々のお役に立てるのであれば本望です。実際、先生のお力添えもあり、神事を受けてくださった僕の患者の回復は早いと感じています』

    青年の言葉に対し、微笑みながら相槌を打つ陰陽師を見、青年は続ける。

    『そして生きている人間以外にも、何年もあの世に戻れなくて苦しんでいる、地縛霊化している魂を一名でも多くお救いしたいと思いますし、それらの活動の結果、一人でも多くの方が霊障から解放されて本来歩むべき人生を歩んでもらえたらと思っています』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑みながらうなずき、口を開く。

    「ちなみに、魂の属性3の人物に比べたら、魂の属性7の人物が受ける“霊障”の影響は少ないが、今日話した内容は、令和になって以来、魂の属性7の人物にもより頻繁に起こりうる問題だということをぜひ頭の片隅に留めておいてもらいたい」

    『ということは、魂の属性7の人物には“精神疾患”の項目が存在しないとしても、魂の属性3の人間と同じような症状が現れる可能性はあるというわけですね?』

    「いつも、人間とは“多面体”のようなものじゃと話していることからも明らかなように、たしかに、魂の属性7の人物の場合、魂の属性3の人間に比べて“霊障”による心身の不調が生じにくいとしても、その影響がまったくないということはない。ワシのクライアントを見ていても、特に令和に入ってから、その傾向が顕著なようじゃ」

    『なるほど。ということは、たとえ魂の属性7の人物であっても、霊障とは無縁ではないと』

    「もちろんじゃとも。先程の、“精神疾患”の項目が存在しないという話も、霊障を“主因”とした“精神疾患”がないというだけの話であって、魂の属性7の精神疾患患者が世にあふれていることはあらためて説明する必要もあるまい。そして、そのような意味で、霊障が仕事運などの本人を取り巻く環境に悪影響を及ぼしていることは、程度の差こそあれ、魂の属性3のケースと何ら変わりはない」

    『とは言え、彼らが見えない世界のことを迷信だと言って信じない分、その原因に気づきにくいわけですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずき、口を開く。

    「そなたの言う通りじゃろうな。“霊障”を非科学的だと断言するのは一向にかまわんが、であるのであれば、心霊スポットなぞに近寄らねばいいようなものじゃが、魂の属性7の人間の場合、魂の属性3の人間と違って“実感”という意味で霊障を感じることがまずないことから、興味本位で心霊スポットなぞに出かけ、知らぬ間にとんでもない霊障を拾うなどということも現実に起きておる」

    『魂3であっても魂7であっても、“霊障”を拾う時には拾ってしまうのだとすれば、日頃“免疫”がない分、そのあたりのことにはじゅうぶん気をつけないといけないのでしょうね』

    青年はそう言い、真剣な表情で何度もうなずいてから続ける。

    『とは言うものの、四つの“神事”はまだしも、日常的に拾ってしまう“念”に関しては、いつまでも先生の“お祓い”のお世話になるのは気が引けますが、どうしたらいいのでしょう。“霊障”の列ができてしまい、何度も繰り返し依頼している人もいるわけですし』

    「ワシもクライアントがいつまでも“霊障”で辛い思いをしていることに苦慮していたが、色々と検討を加えてみると、実はそうでもないようなんじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    身を乗り出して問う青年を片手で制し、陰陽師は続ける。

    「もちろん個人差はあるものの、人間が生涯で拾える“霊障”の限界値は、大方、決まっているようなんじゃ。今は四六時中“お祓い”を依頼しているクライアントがいるとしても、“お祓い”を受け続けてその限界値を迎えれば、その人物が“霊障”によって被る被害が激減するのは間違いないことのようじゃ。もちろん、まったくなくなるということはないとしてもな」

    『なるほど。霊的な世界には、そんな決まりがあるのですね。たしかに、“霊媒体質”である我々は生きている限り“霊障”を拾うわけですが、長い目で見れば、今のうちにどんどん“霊障”を拾っては祓うを繰り返すほうがよいというわけですね』

    「端的に言うと、そういうことになるのじゃろうな。それ故、積極的にお祓いを受けることによって、“霊障”によって生じる辛い時間が減ってくれることを、ワシも切に願っておるわけじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    同時に、無闇にセラピーやセッションを行なったり、受けたりすることの危険性を痛感していた。
    今までの青年は、どうにもならない時に“お祓い”の依頼をしていたが、今後は自らが生涯で拾える“霊障”の量を早くクリアするため、何らかの不調を感じたら、我慢せずにその時に“お祓い”を依頼することを決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第31話:東京都知事選2020と魂の属性②

    新千夜一夜物語 第31話:東京都知事選2020と魂の属性②

    青年は思議していた。

    国会のテレビ中継における、与党と野党のやり取りについてである。
    いずれの党も国民による選挙にて同じ条件で選ばれているはずだ。しかし、重箱の隅を突くような、さして重要とも思えない問題を責めてみたり、回答する与党側の言葉尻を捕らえてみたり、挙げ句の果てにはヤジや怒号が飛び交う時もある。

    ひょっとしたら、同じ国会議員であっても、与党と野党とで、魂の属性に違いがあるのだろうか。
    独りで考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、こんばんは。今日も政治家の魂の属性について教えていただけますでしょうか?』

    「前回に引き続き、政治の話じゃな。して、具体的にはどういったことを聞きたいのかな?」

    『大きく分けると、与党側の人物と野党側の人物の魂の属性の違いを教えていただきたいです』

    そう言い、青年は、野党側の人物が話の大筋に関する議論ではなく、言葉尻を捉えた批判ばかりしていることや、国会のテレビ中継で繰り広げられるやり取りについて自分なりの私見を述べた。
    青年の話に耳を傾けながら、東京都知事選2020の立候補者の鑑定結果の紙を並べていく。
    青年が並べられた鑑定結果をざっと眺めるのを横目に、陰陽師は紙に何かを書き記していく。

    「実は、与党、さらに言うと首相になれる人物の魂の属性はあらかじめほぼ決まっているのと同じ様に、野党に所属している衆議院議員の魂の属性もほぼ決まっておるのじゃよ」

    そう言い、陰陽師はメモに両者の特徴を書き上げた。

    ・与党側の多く、首相の魂の属性:1(4)ー1、2(4)ー3
    ・野党側の多くの議員の魂の属性:2(3)―3、2(7)ー4

    『なんと! プロのスポーツ・芸能・芸術の世界が“2−3−5−5…2”の魂の属性を持つ人物の独壇場であるのと同様、政治の世界でも魂の属性による法則性があったのですね!』

    前のめりになりながら、興奮気味にそう言う青年。そんな彼を陰陽師は片手で制しながら、口を開く。

    「“2−3−5−5…2”の厳然たるルールと違い、排除命令が出るわけではないのじゃが、多くの政治家を鑑定してみると、野党の政治家の大多数は、たとえ2-3であっても、転生回数が“数奇な運命”である230回代の魂3:武士階級あるいは、転生回数が第二期(240/270回代)の魂4:一般庶民階級と決まっているのじゃが、これらの人物は、国会議員にはなれるものの、覇権を取ることはほぼないに等しい、と言うことができる。実際、戦後、社会党から片山哲、村山富市という総理大臣が2人だけ誕生しているが、そのいずれも2(7)-4じゃ」

    陰陽師の説明を聞き、青年は納得顔で何度もうなずいてから口を開く。

    『魂1−1すなわち転生回数が第一期(300回代)の魂1:聖職者・王侯階級は階級の名の通り、国のトップに立つのにふさわしいと納得することができます。確か、安倍晋三も魂1−1だったと記憶しています』

    「政治家には様々な資質が求められるが、その中でも最も重要なのは、自分の意見を明確に相手に伝えるディベート能力じゃ。そのような意味では、芸能人のように転生回数が小山である240回代の魂3:武士・武将階級が適任なのじゃろうが、その中にはオールラウンダーである魂1−1の人物も入るのかもしれんな」

    『230回代の魂3:武士・武将階級の場合、国会議員になれる原動力は、政治という特殊な方面に向かう“数奇な運命”のなせる業ではあるものの、力量・才能という意味では、残念ながらトップまで上り詰めることはできないのですね』

    「国会議員の場合、世襲議員を除き、かつては本業があったわけで、その分野で突出した業績はあったのじゃろうが、首相になるという意味では、総合力に欠けているのかもしれんな」

    『なるほど』

    青年は、一つ頷いた後で、質問を続ける。

    『では、魂2-4の場合は、どうなのでしょう』

    「もちろん、選挙は選ぶ人がいて当選できるわけじゃから、魂2−4の場合は、現政権の大衆受けしやすい問題点/失政を代案なしに批判してみたり、多くの魂4が共感しやすい政策をベースにした公約を掲げることによって、それを頼りに一点突破を図る傾向が強いようじゃな」

    『たとえば、財源なき減税問題や、具体的な解決策のない環境問題とかですね』

    「後者の問題は少々高尚すぎるとしても、ともかく庶民である魂4の生活に直結したこまごまとした問題を、その時々のトレンドに合わせて持ち出してくることだけには、長けておるようじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いて青年は腕を組んで小さく唸り、やがて口を開く。

    『批判は誰でもできますし、大局的見地に欠けた魂2−4が掲げる公約は、今回の都知事選をみていても、東京都が抱える問題のほんの一部分に対応しているとしても、全体からみたら些末な問題に終始しているような気がします』

    「その通りじゃな。仮に魂2−4の人物が東京都知事選に当選してしまい、彼なりの公約を実現したとしても、他に取り組むべきだった大きな問題は後回しになって取り返しがつかない状況に陥らないとはかぎらぬわけじゃからのう」

    『今回の立候補者でいうと、その典型は宇都宮健児と平塚正幸と押越清悦ということが言えそうですね』

    そう言い、青年は鑑定結果を手元に寄せて続ける。

    宇都宮健児SS

    『宇都宮健児の場合は、同じ2-4ではあっても、転生回数が“大山”の270回代で全体運も9であることから、日本弁護士連合会会長に就任できたのも納得することができます。ただ、そもそも頭が2ですし、大局的見地と仁が70点と、他の立候補者達に比べてかなり低いという理由からも、適任ではないと判断しました』

    「彼については、ワシも同感じゃな。魂2−4は学力が突出する特徴があることから高学歴、さらには難易度の極めて高い弁護士試験に合格することも可能なわけじゃが、持ち前の偏狭な正義感が相まって、弁護士資格取得後、社会派弁護士の道を歩む人物は少なくない。さらに、社会でそれなりの影響力を得た後、共産党や社会民主党、現在の両民主党の後押しを受け、政界に進出してくるパターンはめずらしいことではない」

    『なるほど。ということは、感情的な言動をしたり、しょうもないヤジを飛ばしたりする人物が野党に多い理由は、魂2−4の比率が多いからなのでしょうか』

    「もちろん、与党の議員の中にも15%くらいは魂2−4がいるわけじゃから、すべての事柄を“魂2−4”のせいにしてしまうのはどうかと思うが、大筋では、そなたの言う通りかもしれんな」

    『なるほど。少人数とは言え、与党の議員の中にも、魂2−4の人物はいるのですね。気をつけます』

    「で、彼の公約はどういったものなのかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年は手早くスマートフォンを操作し、公約を読み上げた。

    『弱者の救済を中心とした、魂2−4らしい内容ですが、彼の公約の一部である、韓国関連の内容は、東京都知事の役割を越えている気がします。もしも、本当に慰安婦像を国会議事堂の前に設置するなら、それこそ税金の私的流用になるんじゃないかと思います』

    「それ以前の問題として、そもそも、外交は国政の役割じゃからのう」

    『つまり、都知事を目指す人物が公約で掲げる内容ではないのですね』

    そう言い、青年は唇をとがらせながら黙考する。しばらくした後、再び口を開く。

    『ちなみに、歴代の東京都知事で魂2−4の人物はいるのでしょうか?』

    「戦前まで遡って詳しく調べたわけではないが、戦後では、何をおいても美濃部吉じゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンを操作して美濃部亮吉について調べ出す。
    青年が美濃部亮吉の政策について理解するのに時間がかかると判断したのか、陰陽師はいつもの笑みで語りかける。

    「1967年、社会党、共産党の公認を受け、東京都知事選挙に社会党・共産党推薦で立候補、自民党・民社党推薦の松下正寿立教大学総長、公明党推薦の阿部憲一渋沢海運社長を破り当選すると、3期12年も東京都のトップとして君臨、四選不出馬を表明した後は、その余勢を駆い、1980年(昭和55年)参議院議員選挙に出馬し、当選するわけじゃが、彼は基本的にマルクス経済学者であり、正に時代が生んだ政治家ということができるのじゃろう」

    『なるほど』

    「彼の父親である達吉は、天皇機関説で知られる憲法学者じゃし、彼自身も1938年(昭和13年)人民戦線事件で検挙され法大教授を辞任していることだけをみても、筋金入りの革新派ということができるわけじゃが、そんな彼の行なった老人医療費無料化、高齢住民の都営交通無料化などの無料化政策は一定の成果を上げたものの、無料化の弊害として能率の極端な低下を招いたり、東京都主催の公営競技廃止によって都の財源をなくしてみたり、“バラマキ福祉による都財政破綻”といった批判を受けたという側面も併せ持つ」

    「なるほど、老人医療費無料化、高齢住民の都営交通無料化などの無料化政策あたりは、いかにも魂2−4ぽい政策ですね」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は宇都宮健児の公約を確認し直した後で、口を開く。

    『宇都宮健児の公約の中にも医療機関などへの補償や主に学校に関する無償化はありますし、“カジノ誘致計画は中止する”と掲げていることから、彼が当選したら、今後の東京都も美濃部亮吉が都知事だった時代と同じような状況になる可能性がありそうですね』

    「実際のところはその時になってみなければわからぬが、その可能性は低くないじゃろうな」

    『以前(※第13話参照)話題となりました、衆愚政治の扇動家である、転生回数が“大山”の270回代で魂4だったクレオンのようにならないことを願います』

    そう言い、青年は眉間に皺を寄せながら、別の鑑定結果を陰陽師の前に差し出す。

    平塚正幸SS

    『平塚正幸は“コロナはただの風邪”を選挙ポスターのキャッチフレーズに使い、ひんしゅくをかっているようです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は微笑んだままだが、心なしか困った様子がにじみ出ている。

    『大局的見地が65点とかなり低いですし、天命運に“2:諸事万般”と“14:偶発的人的トラブル”の相があることと、第5チャクラが乱れていることから、そのような表現を用いてしまったのも納得できてしまいます』

    「彼にしてみれば、公約にもっと深い意図を込めていたのかもしれぬが、いかんせん言葉のチョイスが悪すぎるようじゃの」

    押越清悦SS

    『押越清悦の公約は、オリンピックと新型コロナと集団ストーカーの三つがメインで、短期間では重要かもしれませんが、長期的な内容ではないと言えます』

    「そうじゃな。次は、野党側に多くいる、魂2(3)―3の立候補者についてみていこうかの」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、鑑定結果を並べていく。

    市川浩司SS

    石井均SS

    『市川浩司と石井均は全体運が9で大局的見地と仁が共に80点で頭が1ですが、転生回数が“数奇な運命”の230回代のため、僕なりの推奨者リストからは除外しました』

    「政治という総合力が必要とされる仕事ではなく、本人が得意とする分野でなら大いに活躍できるのじゃろうから、今後の彼らなりの人生に期待というところじゃな」

    竹本秀介SS

    関口安弘SS

    後藤輝樹SS

    桜井誠SS

    牛尾和恵SS

    『次の竹本秀介と関口安弘は、全体運が9ですが、転生回数が“数奇な運命”である230回代であることと、大局的見地と仁の数字を踏まえ、除外しました。後藤輝樹と桜井誠は頭が1でしたが、全体運が8でしたし、牛尾和恵も全体運が8という理由で除外しました』

    そう言い、青年はスマートフォンと鑑定結果を再度見比べ、とある二人の鑑定結果を陰陽師の前に差し出す。

    沢しおんSS

    西本誠SS

    『この二人は今回の都知事選とは別で気になりました』

    「というと?」

    『沢しおんは職業が作家、西本誠はラッパー(歌手)でして、“2−3−5−5…2”のルールに抵触しているのではないかと』

    「“2−3−5−5…2”のルールだけでいえばそなたの言う通りじゃが、当人にとって何がメインの生業かということが問題となってくるわけじゃから、それだけでは確定的なことは言えんな」

    『そうでしたね。ちなみに、沢しおんは2018年から作品を二つ出版していますが、プランナーやディレクターをしているため、排除命令によって命を落とすことはなさそうです。また、西本誠も銀座のクラブでボーイをしているみたいなので、同様に大丈夫そうです。とは言え、天命運に“5:事故/事件”の相があるので、気をつけてもらいたいとは思いますが』

    「そなたの言う通りじゃな。して、他の魂の種類の候補者はいるかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は鑑定結果を一枚選別して卓上に出す。

    長沢育弘SS

    『長沢育弘は立候補者の中では唯一、転生回数が“大山”の170回代ですが、職業が薬剤師であることに納得できます。ただ、彼は出馬会見をしていない上に公式ウェブサイトもないことから、具体的には何の活動もしていないようです』

    「出馬した理由がいまいちわからぬし、そこまで真剣でないのであれば、引き続き薬剤師として活躍してもらえたら、とは思うがの」

    『そうですね。最後は魂の属性が“2−3−5−5…2”、スポーツ・芸術・芸能を生業にできる二人です』

    そう言い、青年は二枚の鑑定結果の紙を並べる。

    『服部修はJ-ROCKバンド“ZEPHYR”の元ドラム奏者で現在は音楽塾の代表で、山本太郎は元俳優と、魂の属性に適した職業に就いていました。また、全体運が9で転生回数が“小山”の240回代ですから、力量としては東京都知事に就任できる器だとは思います。ただ、大局的見地と仁の点数が高くないことと、頭が2なので、除外しました。政治家ではなく、むしろ本業で返り咲いていただけたらと思います』

    「そなたの言う通りじゃな。して、その二人の公約はどのような内容かの?」

    『服部修も立花孝志と同様、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”に沿っています。山本太郎は主に、オリンピック中止、都民に一律10万円給付など新型コロナウイルスで疲弊した都民生活の底上げ、都職員を三千人増員という内容です』

    「なるほど。前回も話したと思うが、魂の属性に限らず、立候補者が公約を実現できるかどうかを見極めることは重要じゃ。山本太郎のようにパフォーマンスが上手だったり、耳障りが良くて都民にとってメリットが大きいような公約を掲げて票を集めるのはかまわんが、それをどこまで実行できる力があるかが問題なわけじゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は無言で首肯する。そんな青年の様子を確認し、陰陽師は続ける。

    「さらに言うと、たとえ公約を実現できたとしても、それが偏狭な正義感から掲げられた内容で、東京都が抱えている大きな問題を改善するものでなければ、問題がさらに大きくなってしまう危険性があるのは、先程も話した通りじゃ」

    『そういう意味では、特に魂1〜3の人物には、面倒くさがらずに、公約や候補者が発する言葉の意図までよく吟味した上で、投票していただきたいと思います』

    「その通りじゃな」

    そう相槌を打ちながら、陰陽師はスマートフォンを見て時刻を確認する。

    「いつの間にか時間じゃ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『いつも遅い時間までありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑顔で手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年は自身ができることについて考えていた。
    主に、多くの立候補者が掲げている、弱者への補償についてである。
    同じ人間である以上、見捨てるようなことはしたくない。だが、政治が一部の人々の為だけに動いてしまったら、結局その他の人々を蔑ろにすることに繋がってしまうのではないか。
    転生回数が“数奇な運命”の230回代である自分が政治に携わるのは、望ましくないだろう。
    けれど、せめて自分の家族や手の届く範囲の人々が困っている時は、負担にならない範囲で可能な限り助けていこうと決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第30話:東京都知事選2020と魂の属性①

    新千夜一夜物語 第30話:東京都知事選2020と魂の属性①

    青年は思議していた。

    2020年7月5日に控えた東京都知事選についてである。
    プロのスポーツ・芸能・芸術の世界を生業にできる魂の属性があるならば、政治家にも適した魂の属性があるのかもしれない。
    今回の東京都知事選の立候補者の魂の属性を鑑定することで、何かヒントを得られるかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は政治家の魂の属性について教えていただいてもよろしいでしょうか?』

    「ほう、そなたが政治家とはめずらしい。して、誰か気になる人物がおるのかな?」

    『はい。東京都知事選の選挙が迫っています。そこで、立候補者の鑑定をお願いいたします』

    「そういえば、そろそろ選挙じゃったな。で、誰のことを知りたい。順に、名前を挙げていってくれるかの」

    陰陽師の言葉に青年は頷いて見せ、スマートフォンを見ながら立候補者の名前を挙げていく。
    陰陽師は青年が読み上げる名前に耳を傾けながら鑑定し、結果を紙に書き記していく。
    青年が真剣な表情で21枚に及ぶ鑑定結果をじっくり眺めているのを見守った後、陰陽師は再び口を開いた。

    「ところで、そなたの見立てでは、どの立候補者が適任と思うかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年は居住まいを正した後、口を開く。

    『実際に当選するかどうかはともかくとして、僕なりの基準で上位5名を挙げるとするならば、

    1:小野泰輔(おの たいすけ)
    2:込山洋(こみやま ひろし)
    3:立花孝志(たちばな たかし)
    4:内藤久遠(ないとう ひさお)
    5:齊藤健一郎(さいとう けんいちろう)

    と、なるのではと考えています』

    「なるほど」

    青年の答えに陰陽師は微笑みながら小さく頷き、口を開く。

    「ちなみに、どういった判断基準でそう考えたのかの?」

    『実績や公約というよりも、あくまで鑑定結果をベースとしてですが、

    ・魂の種類が1〜3のいずれか
    ・全体運が9であること
    ・大局的見地と仁のスコアが高いこと
    ・頭が1であること

    という基準で選んでみました』

    「なるほど。では、その上位5名の解説に入る前に、大本命である前東京都知事の小池百合子の鑑定結果を見るとしよう」

    青年は小さくうなずき、小池百合子の鑑定結果の紙を陰陽師の前に差し出す。
    青年は、鑑定結果を再度眺めた後、口を開く。

    小池百合子SS

    『小池百合子は転生回数が“小山”である240回代の魂3:武士階級ですね。全体運が9で、先祖霊の霊障がなく、パフォーマンスが60%と低くないですし、防衛大臣を務めていたこともあり、東京都知事をやり遂げる素養はじゅうぶんにあったと思います』

    青年は一息つき、続ける。

    『ただし、頭が2で大局的見地と仁が共に70点とやや低いことから、僕の見立てによる上位5名からは除外しました』

    「なるほど」

    一つ頷いた後で、陰陽師がおもむろに口を開いた。

    「ところで、彼女について、他に気づいたことはあるかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年はスマートフォンで小池百合子の過去を調べた後、口を開く。

    『政治とは関係ありませんが、彼女はエジプトに留学していた21歳の頃に、日本人留学生の男性と結婚し、離婚したとのことです。これは、恋愛運が7とやや低いことと、天命運に“8:異性”の相が出ていることが関係していると思われます』

    「それ以外にも、彼女の場合、2016年の都知事選に立候補する際、自民党を離党した後に自民党東京都連に推薦を依頼しておきながら、自ら取り下げてみたり、2000年には自由党分裂に際して小沢一派と決別してみたり、という過去がある。他にも日本新党、新進党、自由党、保守党、自由民主党と5つの政党に所属し、それ故、“政界渡り鳥”とも呼ばれておる側面もあるしの」

    『それは、人運が7とやや低いことと、天命運に“14:偶発的人的トラブル”の相があることから、人間関係が切れやすいと考えることもできるのでしょうか。2016年に都民ファーストの会の代表に就任し、せっかく“風”が吹いたにも関わらず、入党希望者の“選別”で味噌をつけた挙句、2017年東京都議会議員選挙が終わった直後に党の代表を辞任したという過去もあります』

    「いつも言うように、鑑定結果の数値だけでその人物の行動を一概にこうだとは言い切れぬが、彼女の場合、たしかにそのような側面があるのは否定できんじゃろうな。しかし、それとて、今世はそうやって人間関係を整理していくことで先に進むという課題が彼女に課せられていると考えるべきなのじゃろう」

    『なるほど』

    「彼女が大本命であるのはその通りじゃが、選挙は水物じゃ。よって、今回の都知事選も箱を開けてみるまではわからぬ。カイロ大学卒業に関する経歴詐称疑惑によって都民の印象は少なからず悪くなっておるじゃろうし、緊急事態宣言解除後の東京における新型コロナの感染者数がそれなり以上の勢いで再浮上してもおる。今後、感染者数三桁が選挙当日まで続くようなら、選挙戦に一定以上の影響をあたえるかもしれんな」

    『新型コロナによって番狂わせが起き、別の人物が当選しやすい状況にもなっているわけですね』

    「まあ、大勢は動かぬとは思うが、それでも影響がまったくないわけでもないじゃろうな」

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいて見せ、続ける。

    「また、彼女は東京オリンピックが開催される時の東京都知事になりたがっていた説もあることから、来年の東京オリンピックの開催が確定されていない以上、東京都知事に固執する動機がなくなったという考え方もできなくはあるまい。今までの彼女の行動を見ていると、仮に今回の都知事選で彼女が当選したとしても、今年の秋に衆議院が解散することとなった場合、また自分に有利な風でも吹けば、衆議院議員選挙に出馬するために自ら都知事の椅子を投げ出す可能性すらなくはないじゃろう」

    『なんか、目的のためには手段を選ばない感じですね。そういった、自分優先のところが頭2らしいと言えるのかもしれませんが…』

    陰陽師は湯呑みの茶を飲んだ後、口を開く。

    「魂の属性からみた小池百合子に関しては、そんなところじゃな」

    『ありがとうございます。次は、小野泰輔(おの たいすけ)をお願いします』

    鑑定結果を眺め、青年は何度もうなずいた後に口を開く。

    小野泰輔SS

    『転生回数が“小山”である240回代で魂3:武士階級、全体運が9であることは小池百合子と同じですが、彼の場合、頭が1ですし、大局的見地が90で仁が80とかなり高いことから、一番適していると判断しました』

    「国会議員も含め、元々政治家は、2-4を唯一の例外として、240回代で魂3という属性を持っていることが基本なのじゃが、彼の場合、2008年に母校である東京大学のゼミの蒲島教授が熊本県知事へ出馬した際に選挙を手伝い、その時の優秀さを評価され、教授の推薦によって熊本県の政策調整参与に就任する。そして、2012年6月には当時全国最年少かつ熊本県政史上最年少の38歳で、熊本県副知事に起用されたという経緯がある」

    『そんなに若くから頭角を現していたわけですね。公務の経験もある若手(どちらかと言えば)ですし、将来性も考えれば今回の立候補者の中で最も適任と考えられます。ちなみに、熊本県副知事に就任した後、彼は“くまモン”の著作権を県が買い取り、利用許諾を受けた場合は無償で使用できるようにしたとのことです!』

    やや興奮気味に語る青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「政見放送などを見る限り、スピーチにはまだまだ頼りなさを感じるものの、彼は東京維新の会の支部だけでなく、日本維新の会の本部推薦も得ておるし、ワシの見立てでも将来的に国政でもそれなりのポジションに就けるポテンシャルがある男じゃ。できることであれば、このような男が東京都知事として腕を振るってくれれば、面白いのじゃが」

    『やはり、そうですか。ちなみに、彼の主要政策ですが、

    1:コロナ禍の困難を乗り切る
    2:コロナに負けず持続的に成長する“新しい東京”を創造する
    3:財政危機を乗り越えるための徹底した行財政改革
    4:誰もが安心・安全で心やすらかに暮らせる東京へ
    5:“身を切る改革”として自身の知事報酬・期末手当・退職金を一律50%カット

    となっており、政策も現実的だと思いました』

    「その通りじゃな。先ほども言った通り、コロナの問題がどう推移するか、そして、同じく今回のコロナ騒動で女性層を中心に一気に名を挙げた吉村洋文大阪府知事の応援演説によって、ひょっとしたら大番狂わせが起きるかもしれんからな」

    『次の込山洋(こみやま ひろし)ですが、魂2の人物ですね』

    そう言い、青年は鑑定結果を陰陽師の前に差し出し、続ける。

    込山洋SS

    『彼は全体運が9で、大局的見地と仁が共に80点と高い数字です。また、頭が1であることも踏まえ、二番目に適任と考えました』

    「彼は転生回数が230回代で“数奇な運命”に該当するが、どんな経歴を持っているのかな?」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作して該当するウェブサイトを見つけると、口を開く。

    『2006年〜2014年にコンサルティング会社を経営し、主に営業や接客接遇、心理、うつ病対策などの顧客カウンセラー業務に従事。2015年4月から、渋谷ハチ公喫煙所の清掃活動を1年間継続、2019年5月からは新橋SL広場喫煙所でも清掃活動をしていたようで、立候補前は介護士でした』

    「なるほど、いかにも魂2:貴族階級(軍人・福祉)らしい経歴じゃな」

    『東京都知事選2016と2019年港区議会議員候補の際に、マック赤坂の付き人をしていましたが、今回はマック赤坂の後継者としてスマイル党の推薦を得て自ら出馬したとのことです』

    「で、公約はどういったものかの?」

    『22個ありますが、そのうちのメインの5個を抜粋しますと、

    1:ゴミ、たばこのポイ捨て、路上喫煙は罰金10万円、完全密室型喫煙所の設置
    2:介護離職率の減少、介護福祉士年収480万円、介護施設の増設
    3:動物殺処分の実質ゼロ、アニマルポリスの設置
    4:高齢者、障碍者支援拡充、都内全域のバリアフリー
    5:都知事・議員報酬半額、都職員の報酬見直し

    などがあり、いかにも魂2らしい、福祉向けの公約が多い印象です』

    「うむ。実務的な提案はしておるものの、選挙の公約としては今一つインパクトに欠けるきらいはあるが、たしかに、そのようじゃな」

    『次は、賛否両論ありそうな、立花孝志(たちばな たかし)ですね』

    青年は鑑定結果を陰陽師の前に差し出しつつ、続ける。

    立花孝志SS

    『NHKから国民を守る党の党首の頃から物議を醸し出していた彼ですが、メディアで取り上げられる一面とは裏腹に、鑑定結果では良い人の印象があります。転生回数が“小山”である240回代の魂3:武士階級ですし、全体運は9、大局的見地は80点、仁は75点と高い方で、意外や意外、頭が1なので3位としました』

    「前回(※第29話)も説明したように、人間は多面体であってメディアに映し出される彼の言動は意図的に切り取られた一部に過ぎん。ワシがみる限り、立花孝志は人格的にとてもしっかりした人物であり、人間としての力量もパワーも小池百合子より上といっても過言ではないくらいじゃ」

    鑑定結果を再度眺めた青年は、小さくつぶやく。

    『NHKの政見放送で“NHKをぶっ壊す!”と言ってしまったり、常人には理解できないような言動をとるのは、天命運に“17:天啓”の相によって天から降りてきた何かを、持ち前のパワーで実行してしまうところにあるのかもしれませんね』

    「その可能性もないことはないのじゃろうが、彼の場合、彼を応援してくれる人物が多くなかったことから、過去に楠木正成が山賊を集めてゲリラ戦を繰り広げたように、政治で言うところの浮動票、魂4の票をうまく集めたといえよう。反面、魂1〜3の人物からすると、寄せ集めの集団という印象があるのは否めないのは、そなたの言う通りじゃが」

    『なるほど。余談ですが、彼は8年間もパチプロで生計を立てていた時期があるようで、そういった意味では、金運が9というのも納得ですね』

    「せっかく、それなり以上の器をもって生まれてきておるんじゃ。そんなことで、運を使い切ってほしくないがな」

    『それもそうですね』

    そう言って小さく笑う陰陽師の言葉に小さく頷く青年を横目で見ながら、陰陽師が口を開く。

    「して、彼の公約はどういったものなんじゃ?」

    『今回の彼の公約ですが、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”をベースに、

    1:NHKをぶっ壊す!
    2:既得権益をぶっ壊す!
    3:コロナ自粛をぶっ壊す!
    4:森友事件で悪者にさせられている籠池夫妻を救います!
    5:検察権力の不正を許しません!

    となっています。NHKに対する方針は終始一貫しているようですね。検察権力の不正に関しては、闇が深そうですが』

    「その件については、話題が逸れてしまうから、また別の機会に話すとして、次の人物に話題を移すとしよう。ところで、次の人物は頭が2のようじゃが、そのような人物が何故四番手なのかな?」

    陰陽師の問いに青年は小さくうなずき、鑑定結果を差し出しながら口を開く。

    内藤久遠SS

    『たしかに、内藤久遠(ないとう ひさお)は頭が2ですが、日本の人口の中で7%しかいない魂1:聖職者・王侯階級であり、霊能力持ちではない(―9)であることから、公務員・政治家に適性があるだろうと判断しました。全体運は9ですし、大局的見地が75点、仁が80点と低くない数字であることも判断材料としました』

    「なるほど。ちなみに、330回代である“数奇な運命”に該当するような経歴はあるのかの?」

    陰陽師に問われ、青年はスマートフォンを手早く操作し、画面を見ながら口を開く。

    『彼は元陸上自衛官で、基本的に魂2が多くを占める自衛隊を経た後に政治家を志すのは、“数奇な運命”になるのではないかと』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずき、口を開く。

    「で、彼の公約はどういった内容かな?」

    『“コロナは検査を増やす。オリンピックはIOC・JOCに従う”とし、

    1:命を大切にする都市
    2:環境先進都市
    3:防災都市
    4:食料自給率向上
    5:東京一極集中による都市の過密と地方の過疎の緩和

    の5本柱を掲げており、各々に具体的な案も提示しています』

    そう言い、青年はスマートフォンを陰陽師に渡す。陰陽師は微笑みながら画面を見つめ、やがて口を開く。

    「彼の任期中にその全てを実現できるとはとても思えぬが、長期的なビジョンをしっかりと掲げておるようという意味では、前の人物より、公約としてはインパクトは確かにあるようじゃな。しかし、ツールド関東甲信越の開催については、ちとわからぬが」

    『それは彼の趣味の延長なのかもしれませんね。魂3、パーソナルコンピューターの僕には魂1、スーパーコンピューターである彼の真意はわかりかねます』

    「いや。同類のワシでも、よくわからんぞ」

    「仮に、趣味の延長だとしても、たしかに、都知事選の公約にすべきことなのかという点では、たしかに問題ですよね」

    苦笑しながら両手を上げる青年を横目に、陰陽師は鑑定結果の紙を取り寄せる。

    覗き込むように鑑定結果を眺めた後、青年は口を開く。

    齊藤健一郎SS

    『齊藤健一郎(さいとう けんいちろう)は、大局的見地と仁が共に75点で、どちらも小池百合子より5点高いということを除き、ほとんど彼女の魂の属性が同じです。よって、5位は上記の二人と判断します』

    「彼が小池百合子と違う点は、“魂の性質・親近性”の下段の数字が3であることと、公務の経験がないことじゃな」

    陰陽師の解説に対し、青年はあごに手を当て、しばし黙考した後に口を開く。

    『たしか、下段の数字が1に近いほど裏表がない性格となり、9に近づけば近づくほど、腹に一物があったり、二枚舌であったり、性格が荒くなる傾向があるということだったと思います。つまり、小池百合子は下段の数字が1ですから、公約を有言実行する性質があり、齊藤健一郎は言動不一致が起きる可能性があるということでしょうか?』

    「“魂の性質・親近性”の下段の数字については、そなたの解釈もまったく見当外れではないが、ふたりの7(1)と7(3)の違いは後ろの5つの数字をみるかぎり、気性の粗さの違いと理解した方がいいじゃろうな。よって、小池百合子は4年前に掲げた公約をほぼ達成できなかったのに対して、齊藤健一郎の場合、時流や世論を考慮して柔軟に動きを変えられる可能性を秘めている、と考えることも可能なのじゃろう」

    『なるほど。魂の属性がどうであれ、実際の言動としてどのように現れるかは実に複雑なのですね。人間は多面体、ということをあらためて感じました』

    「ちなみに、彼の公約も立花孝志と同様、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”に沿ったものなのかの?」

    陰陽師の問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、口を開く。

    『そうですね。彼はホリエモンの提言をそのまま掲げています』

    そう言い、青年は他に見落としたことがないか、再度鑑定結果に目を通す。
    そんな青年の様子を微笑ましく眺めながら、陰陽師は口を開く。

    「そう言えば、今回の立候補者21名の中に、魂3:武将階級が一人もいなかったな」

    『そう言えば、そうですね。東京都知事としては、武将タイプの人物の方が向いているのでしょうか?』

    「東京がいくら首都と言えども、所詮は地方行政の選挙なわけじゃから、どうしても武将でなくてはならんというわけでもないのじゃが、“令和”という年号と、その帰結の一つである新型コロナウイルスによってパラダイムシフトが起きている昨今、世の中を変えようと立ち上がる武将が一人くらいはいるのではないかと思い、意外に感じただけじゃよ」

    そう言い、陰陽師は書類を一枚一枚手にとって見比べ、再び口を開く。

    「いずれにしても民主主義政治では、選ばれた立候補者は掲げた公約を実現できるかどうかが、評価の分かれ目となる。いくら耳障りが良く、都民にとってメリットが大きい公約を掲げたところで、それを実行できるかどうかじゃからな」

    『たしかに。今回の任期だけで判断するかぎり、小池百合子が公約を実現したとはなかなか言えないですからね…』

    「さらに言うと、仮に掲げた公約のいくつかを実現できたとしても、それらが偏狭な正義感から掲げられた公約で、東京都が抱える根本的な問題を改善するものでなければ、ほとんど意味はないしの」

    『たしかに、耳障りだけよくて、実は内容のないテーマを公約で掲げて票を集めるのは自由ですが、それが大多数の東京都民のためになるかどうかは別ですからね』

    青年は手元にあった鑑定結果を一まとめにし、陰陽師に手渡してから続ける。

    『僕も含め、多くの人にとって政治はわかりにくく、興味を持ちにくい分野ではあると思いますから、街頭パフォーマンスや身近な問題を公約に掲げる候補者に票が入るのは仕方がないとは思います。だからこそ、特に魂1〜3の人物には、面倒くさがらずに、公約や候補者が発する言葉の意図までよく吟味した上で、投票していただきたいと思います』

    「たしかに、そなたの言う通りじゃ。現在の選挙システムがベストかどうかはともかく、多数決が民主主義の基本である以上、一人でも多くの魂1~3が、たかが一票なぞと考えず、大局的見地に立った自分の一票を投じてくれることを願うだけじゃな」

    青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。そして、時計に目をやり、再び口を開いた。

    「もうこんな時間か。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日も遅い時間までありがとうございました』

    そう言い終えると、青年は立ち上がり、深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は現行の選挙システムについて思案していた。
    投票率の低さと、候補者を選ぶための啓蒙や教育を、なんとかできないものだろうか。
    しばらく小さく唸りながら歩いていたものの、都民の義務としての責任ある一票は投じるとしても、自分の天命は法律に関わるものではないことに気づき、自分がなすべきことに集中しようと気持ちを改めたのだった。