
青年は思議していた。
国会のテレビ中継における、与党と野党のやり取りについてである。
いずれの党も国民による選挙にて同じ条件で選ばれているはずだ。しかし、重箱の隅を突くような、さして重要とも思えない問題を責めてみたり、回答する与党側の言葉尻を捕らえてみたり、挙げ句の果てにはヤジや怒号が飛び交う時もある。
ひょっとしたら、同じ国会議員であっても、与党と野党とで、魂の属性に違いがあるのだろうか。
独りで考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。
『先生、こんばんは。今日も政治家の魂の属性について教えていただけますでしょうか?』
「前回に引き続き、政治の話じゃな。して、具体的にはどういったことを聞きたいのかな?」
『大きく分けると、与党側の人物と野党側の人物の魂の属性の違いを教えていただきたいです』
そう言い、青年は、野党側の人物が話の大筋に関する議論ではなく、言葉尻を捉えた批判ばかりしていることや、国会のテレビ中継で繰り広げられるやり取りについて自分なりの私見を述べた。
青年の話に耳を傾けながら、東京都知事選2020の立候補者の鑑定結果の紙を並べていく。
青年が並べられた鑑定結果をざっと眺めるのを横目に、陰陽師は紙に何かを書き記していく。
「実は、与党、さらに言うと首相になれる人物の魂の属性はあらかじめほぼ決まっているのと同じ様に、野党に所属している衆議院議員の魂の属性もほぼ決まっておるのじゃよ」
そう言い、陰陽師はメモに両者の特徴を書き上げた。
・与党側の多く、首相の魂の属性:1(4)ー1、2(4)ー3
・野党側の多くの議員の魂の属性:2(3)―3、2(7)ー4
『なんと! プロのスポーツ・芸能・芸術の世界が“2−3−5−5…2”の魂の属性を持つ人物の独壇場であるのと同様、政治の世界でも魂の属性による法則性があったのですね!』
前のめりになりながら、興奮気味にそう言う青年。そんな彼を陰陽師は片手で制しながら、口を開く。
「“2−3−5−5…2”の厳然たるルールと違い、排除命令が出るわけではないのじゃが、多くの政治家を鑑定してみると、野党の政治家の大多数は、たとえ2-3であっても、転生回数が“数奇な運命”である230回代の魂3:武士階級あるいは、転生回数が第二期(240/270回代)の魂4:一般庶民階級と決まっているのじゃが、これらの人物は、国会議員にはなれるものの、覇権を取ることはほぼないに等しい、と言うことができる。実際、戦後、社会党から片山哲、村山富市という総理大臣が2人だけ誕生しているが、そのいずれも2(7)-4じゃ」
陰陽師の説明を聞き、青年は納得顔で何度もうなずいてから口を開く。
『魂1−1すなわち転生回数が第一期(300回代)の魂1:聖職者・王侯階級は階級の名の通り、国のトップに立つのにふさわしいと納得することができます。確か、安倍晋三も魂1−1だったと記憶しています』
「政治家には様々な資質が求められるが、その中でも最も重要なのは、自分の意見を明確に相手に伝えるディベート能力じゃ。そのような意味では、芸能人のように転生回数が小山である240回代の魂3:武士・武将階級が適任なのじゃろうが、その中にはオールラウンダーである魂1−1の人物も入るのかもしれんな」
『230回代の魂3:武士・武将階級の場合、国会議員になれる原動力は、政治という特殊な方面に向かう“数奇な運命”のなせる業ではあるものの、力量・才能という意味では、残念ながらトップまで上り詰めることはできないのですね』
「国会議員の場合、世襲議員を除き、かつては本業があったわけで、その分野で突出した業績はあったのじゃろうが、首相になるという意味では、総合力に欠けているのかもしれんな」
『なるほど』
青年は、一つ頷いた後で、質問を続ける。
『では、魂2-4の場合は、どうなのでしょう』
「もちろん、選挙は選ぶ人がいて当選できるわけじゃから、魂2−4の場合は、現政権の大衆受けしやすい問題点/失政を代案なしに批判してみたり、多くの魂4が共感しやすい政策をベースにした公約を掲げることによって、それを頼りに一点突破を図る傾向が強いようじゃな」
『たとえば、財源なき減税問題や、具体的な解決策のない環境問題とかですね』
「後者の問題は少々高尚すぎるとしても、ともかく庶民である魂4の生活に直結したこまごまとした問題を、その時々のトレンドに合わせて持ち出してくることだけには、長けておるようじゃな」
陰陽師の言葉を聞いて青年は腕を組んで小さく唸り、やがて口を開く。
『批判は誰でもできますし、大局的見地に欠けた魂2−4が掲げる公約は、今回の都知事選をみていても、東京都が抱える問題のほんの一部分に対応しているとしても、全体からみたら些末な問題に終始しているような気がします』
「その通りじゃな。仮に魂2−4の人物が東京都知事選に当選してしまい、彼なりの公約を実現したとしても、他に取り組むべきだった大きな問題は後回しになって取り返しがつかない状況に陥らないとはかぎらぬわけじゃからのう」
『今回の立候補者でいうと、その典型は宇都宮健児と平塚正幸と押越清悦ということが言えそうですね』
そう言い、青年は鑑定結果を手元に寄せて続ける。
『宇都宮健児の場合は、同じ2-4ではあっても、転生回数が“大山”の270回代で全体運も9であることから、日本弁護士連合会会長に就任できたのも納得することができます。ただ、そもそも頭が2ですし、大局的見地と仁が70点と、他の立候補者達に比べてかなり低いという理由からも、適任ではないと判断しました』
「彼については、ワシも同感じゃな。魂2−4は学力が突出する特徴があることから高学歴、さらには難易度の極めて高い弁護士試験に合格することも可能なわけじゃが、持ち前の偏狭な正義感が相まって、弁護士資格取得後、社会派弁護士の道を歩む人物は少なくない。さらに、社会でそれなりの影響力を得た後、共産党や社会民主党、現在の両民主党の後押しを受け、政界に進出してくるパターンはめずらしいことではない」
『なるほど。ということは、感情的な言動をしたり、しょうもないヤジを飛ばしたりする人物が野党に多い理由は、魂2−4の比率が多いからなのでしょうか』
「もちろん、与党の議員の中にも15%くらいは魂2−4がいるわけじゃから、すべての事柄を“魂2−4”のせいにしてしまうのはどうかと思うが、大筋では、そなたの言う通りかもしれんな」
『なるほど。少人数とは言え、与党の議員の中にも、魂2−4の人物はいるのですね。気をつけます』
「で、彼の公約はどういったものなのかな?」
陰陽師にそう問われ、青年は手早くスマートフォンを操作し、公約を読み上げた。
『弱者の救済を中心とした、魂2−4らしい内容ですが、彼の公約の一部である、韓国関連の内容は、東京都知事の役割を越えている気がします。もしも、本当に慰安婦像を国会議事堂の前に設置するなら、それこそ税金の私的流用になるんじゃないかと思います』
「それ以前の問題として、そもそも、外交は国政の役割じゃからのう」
『つまり、都知事を目指す人物が公約で掲げる内容ではないのですね』
そう言い、青年は唇をとがらせながら黙考する。しばらくした後、再び口を開く。
『ちなみに、歴代の東京都知事で魂2−4の人物はいるのでしょうか?』
「戦前まで遡って詳しく調べたわけではないが、戦後では、何をおいても美濃部吉じゃろうな」
陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンを操作して美濃部亮吉について調べ出す。
青年が美濃部亮吉の政策について理解するのに時間がかかると判断したのか、陰陽師はいつもの笑みで語りかける。
「1967年、社会党、共産党の公認を受け、東京都知事選挙に社会党・共産党推薦で立候補、自民党・民社党推薦の松下正寿立教大学総長、公明党推薦の阿部憲一渋沢海運社長を破り当選すると、3期12年も東京都のトップとして君臨、四選不出馬を表明した後は、その余勢を駆い、1980年(昭和55年)参議院議員選挙に出馬し、当選するわけじゃが、彼は基本的にマルクス経済学者であり、正に時代が生んだ政治家ということができるのじゃろう」
『なるほど』
「彼の父親である達吉は、天皇機関説で知られる憲法学者じゃし、彼自身も1938年(昭和13年)人民戦線事件で検挙され法大教授を辞任していることだけをみても、筋金入りの革新派ということができるわけじゃが、そんな彼の行なった老人医療費無料化、高齢住民の都営交通無料化などの無料化政策は一定の成果を上げたものの、無料化の弊害として能率の極端な低下を招いたり、東京都主催の公営競技廃止によって都の財源をなくしてみたり、“バラマキ福祉による都財政破綻”といった批判を受けたという側面も併せ持つ」
「なるほど、老人医療費無料化、高齢住民の都営交通無料化などの無料化政策あたりは、いかにも魂2−4ぽい政策ですね」
陰陽師の言葉を聞き、青年は宇都宮健児の公約を確認し直した後で、口を開く。
『宇都宮健児の公約の中にも医療機関などへの補償や主に学校に関する無償化はありますし、“カジノ誘致計画は中止する”と掲げていることから、彼が当選したら、今後の東京都も美濃部亮吉が都知事だった時代と同じような状況になる可能性がありそうですね』
「実際のところはその時になってみなければわからぬが、その可能性は低くないじゃろうな」
『以前(※第13話参照)話題となりました、衆愚政治の扇動家である、転生回数が“大山”の270回代で魂4だったクレオンのようにならないことを願います』
そう言い、青年は眉間に皺を寄せながら、別の鑑定結果を陰陽師の前に差し出す。
『平塚正幸は“コロナはただの風邪”を選挙ポスターのキャッチフレーズに使い、ひんしゅくをかっているようです』
青年の言葉を聞いた陰陽師は微笑んだままだが、心なしか困った様子がにじみ出ている。
『大局的見地が65点とかなり低いですし、天命運に“2:諸事万般”と“14:偶発的人的トラブル”の相があることと、第5チャクラが乱れていることから、そのような表現を用いてしまったのも納得できてしまいます』
「彼にしてみれば、公約にもっと深い意図を込めていたのかもしれぬが、いかんせん言葉のチョイスが悪すぎるようじゃの」
『押越清悦の公約は、オリンピックと新型コロナと集団ストーカーの三つがメインで、短期間では重要かもしれませんが、長期的な内容ではないと言えます』
「そうじゃな。次は、野党側に多くいる、魂2(3)―3の立候補者についてみていこうかの」
陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、鑑定結果を並べていく。
『市川浩司と石井均は全体運が9で大局的見地と仁が共に80点で頭が1ですが、転生回数が“数奇な運命”の230回代のため、僕なりの推奨者リストからは除外しました』
「政治という総合力が必要とされる仕事ではなく、本人が得意とする分野でなら大いに活躍できるのじゃろうから、今後の彼らなりの人生に期待というところじゃな」
『次の竹本秀介と関口安弘は、全体運が9ですが、転生回数が“数奇な運命”である230回代であることと、大局的見地と仁の数字を踏まえ、除外しました。後藤輝樹と桜井誠は頭が1でしたが、全体運が8でしたし、牛尾和恵も全体運が8という理由で除外しました』
そう言い、青年はスマートフォンと鑑定結果を再度見比べ、とある二人の鑑定結果を陰陽師の前に差し出す。
『この二人は今回の都知事選とは別で気になりました』
「というと?」
『沢しおんは職業が作家、西本誠はラッパー(歌手)でして、“2−3−5−5…2”のルールに抵触しているのではないかと』
「“2−3−5−5…2”のルールだけでいえばそなたの言う通りじゃが、当人にとって何がメインの生業かということが問題となってくるわけじゃから、それだけでは確定的なことは言えんな」
『そうでしたね。ちなみに、沢しおんは2018年から作品を二つ出版していますが、プランナーやディレクターをしているため、排除命令によって命を落とすことはなさそうです。また、西本誠も銀座のクラブでボーイをしているみたいなので、同様に大丈夫そうです。とは言え、天命運に“5:事故/事件”の相があるので、気をつけてもらいたいとは思いますが』
「そなたの言う通りじゃな。して、他の魂の種類の候補者はいるかの?」
陰陽師の問いに対し、青年は鑑定結果を一枚選別して卓上に出す。
『長沢育弘は立候補者の中では唯一、転生回数が“大山”の170回代ですが、職業が薬剤師であることに納得できます。ただ、彼は出馬会見をしていない上に公式ウェブサイトもないことから、具体的には何の活動もしていないようです』
「出馬した理由がいまいちわからぬし、そこまで真剣でないのであれば、引き続き薬剤師として活躍してもらえたら、とは思うがの」
『そうですね。最後は魂の属性が“2−3−5−5…2”、スポーツ・芸術・芸能を生業にできる二人です』
そう言い、青年は二枚の鑑定結果の紙を並べる。
『服部修はJ-ROCKバンド“ZEPHYR”の元ドラム奏者で現在は音楽塾の代表で、山本太郎は元俳優と、魂の属性に適した職業に就いていました。また、全体運が9で転生回数が“小山”の240回代ですから、力量としては東京都知事に就任できる器だとは思います。ただ、大局的見地と仁の点数が高くないことと、頭が2なので、除外しました。政治家ではなく、むしろ本業で返り咲いていただけたらと思います』
「そなたの言う通りじゃな。して、その二人の公約はどのような内容かの?」
『服部修も立花孝志と同様、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”に沿っています。山本太郎は主に、オリンピック中止、都民に一律10万円給付など新型コロナウイルスで疲弊した都民生活の底上げ、都職員を三千人増員という内容です』
「なるほど。前回も話したと思うが、魂の属性に限らず、立候補者が公約を実現できるかどうかを見極めることは重要じゃ。山本太郎のようにパフォーマンスが上手だったり、耳障りが良くて都民にとってメリットが大きいような公約を掲げて票を集めるのはかまわんが、それをどこまで実行できる力があるかが問題なわけじゃからな」
陰陽師の言葉に対し、青年は無言で首肯する。そんな青年の様子を確認し、陰陽師は続ける。
「さらに言うと、たとえ公約を実現できたとしても、それが偏狭な正義感から掲げられた内容で、東京都が抱えている大きな問題を改善するものでなければ、問題がさらに大きくなってしまう危険性があるのは、先程も話した通りじゃ」
『そういう意味では、特に魂1〜3の人物には、面倒くさがらずに、公約や候補者が発する言葉の意図までよく吟味した上で、投票していただきたいと思います』
「その通りじゃな」
そう相槌を打ちながら、陰陽師はスマートフォンを見て時刻を確認する。
「いつの間にか時間じゃ。気をつけて帰るのじゃぞ」
『いつも遅い時間までありがとうございます』
そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げる。
陰陽師はいつもの笑顔で手を振り、青年を見送る。
帰路の途中、青年は自身ができることについて考えていた。
主に、多くの立候補者が掲げている、弱者への補償についてである。
同じ人間である以上、見捨てるようなことはしたくない。だが、政治が一部の人々の為だけに動いてしまったら、結局その他の人々を蔑ろにすることに繋がってしまうのではないか。
転生回数が“数奇な運命”の230回代である自分が政治に携わるのは、望ましくないだろう。
けれど、せめて自分の家族や手の届く範囲の人々が困っている時は、負担にならない範囲で可能な限り助けていこうと決意するのだった。