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  • 新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    新千夜一夜物語 第20話:男女運と2−4色眼鏡

    青年は思議していた。
    先日のフジモンとユッキーナの離婚報道についてである。

    おしどり夫婦として幸せな家庭の一例となり、世間に希望を与えていただけに、衝撃的な出来事だったのではないか。離婚する夫婦には何らかの共通点があるのかもしれない。

    そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    ※今回の主な登場人物の鑑定結果
    ①:藤本敏史さん(フジモン)

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    ②木下優樹菜さん(ユッキーナ)

    スクリーンショット 2020-02-15 15.17.17

    『先生、こんばんは。本日は恋愛や結婚について教えていただけませんか?』

    「恋愛と結婚かの。それは壮大なテーマじゃが、そのような問題を質問するにあたり、何か具体的なきっかけがあったのかの?」

    『今回は、おしどり夫婦として話題となっていた、フジモンさんとユッキーナさんの離婚報道が発端です。昨今の日本では、離婚や機能不全家族が増えているように思うのですが、この問題についてひょっとしたら何らかの共通点があるのではないか、そんな気がしてお伺いした次第です』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は指を小刻みに動かしながら、鑑定結果を書き記していく。

    「その二人(※①、②参照)は共に頭が2で“3:ビジネスマン階級”であることから、一見うまくいく要素が多いように見えるかもしれんが、逆に双方恋愛運が7であること、天命運に“8:男女運”の相があることから、結婚して関係が深まるにつれてすれ違いを自覚する機会が増えていったのじゃろう」

    青年はしばらく鑑定結果を眺めてから、口を開く。

    『僕も、先祖霊の霊障か、恋愛運の問題があるのか、はたまた天命運に8の相があると思っていましたが、他にも要因はあるのでしょうか? たとえば、その二人は共にチャクラ6のみの乱れで30%近くパフォーマンスが塞がれていますが』

    「チャクラについて少し補足すると、第6チャクラは第三の目とも言われ、“知覚する”、“知る”、“コントロールする”という意味を持つ。換言すると、“人生を正しく見ることと、思考の実現化能力”を司っており、インスピレーション・洞察力・理解力・叡智などの源泉とも言える」

    青年は真剣な表情でうなずいて見せ、陰陽師は青年の様子を横目に続ける。

    「第6チャクラが正常だと、記憶力や知的な学習能力が高まるだけでなく、論理的な思考をする左脳と、直感的な思考をする右脳のバランスがよくなり、結果脳全体を活性化することができる。逆に、異常があるとマイナス思考に陥りやすく、左脳と右脳のバランスが悪くなるため、物事全般に対する視野が狭くなりやすくなる。また、いろいろと思考を重ねているにもかかわらず、土壇場で正しい結論に達しなかったりする」

    『なるほど。離婚に至るまでにいろんな要因があったと思いますが、お子さんがお受験する際の進路を決める時に最初のすれ違いがあったようです。また、ユッキーナさんは“タピオカ恫喝事件”で炎上を招いたことから、家庭内外問わず肝心な場面で冷静さを欠いていたことが、少なからずあったのかもしれません』

    「もちろん、その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうが、二人とも“人生のアップダウン”が1と波乱万丈な人生を歩む傾向を持っていることから、離婚することも今世の宿題の範疇内と考える方が筋が通っているのかもしれんな」

    『ちなみに、恋愛運ですが、何点以下になると離婚の確率が高くなるのでしょうか?』

    「厳密に言えば、全体運との兼ね合いで総合的に勘案すべきなのじゃろうが、端的に言えば、恋愛運が7以下の者同士が結婚した場合、離婚に至る確率は極めて高くなると考えても差し支えないじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、大きく頷く青年。

    『もちろん、僕はこのふたりの直接の知り合いではありませんので、彼らがどんな人生を歩んだとしても直接何の影響もないのですが、それでも今回の離婚がお金がらみのドロドロしたものにならなかったことは、他人事ながら、よかったと思っています』

    「“他人の不幸は蜜の味”ということわざもあるが、そなたのそのような心がけは立派だと思うぞ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいて賛同の意を示す。青年は、思いがけない誉め言葉にちょっと照れながらも、質問を続けた。

    『ところで、魂1~3が魂4と結婚した場合、その結婚生活はどうなってしまうのでしょう?』

    「いつも話しておるように、人間とはいろいろの要素が集まった多面体のようなものじゃ。じゃから、魂1〜3と魂4の結婚がどうかと問われても、その一点をもって的確な返答をすることは容易なことではない。しかし、結婚が子育ても含め当事者同士の価値観のぶつかり合いという側面を有している以上、うまくいく可能性は極めて低いと言わざるを得ないじゃろうな」

    『え、そうなのですか?』

    いつもの笑みを浮かべながらそう答える陰陽師に対し、青年は顔を引きつらせながら答えた。

    「この二人のように、たとえ最終的に離婚という結論を選んだとしても、大局的見地があり論理的なベースを共有している可能性のある魂1〜3同士であれば、話し合いによって双方が納得のいく結論へ収束できる余地が残されている。しかし、夫婦のどちらかが魂4である場合、論理的な会話が成り立たない可能性が高いことから、相手に対する恨みや憎しみなどの感情に終始する結果、どれだけ慰謝料を多くふんだくるか、どうしたら相手よりも有利な条件で離婚を成立させるか、といった条件闘争になりやすい傾向は否めんじゃろうな」

    『なるほど。ただ、魂1〜3と魂4は価値観が合わないでしょうから、交際はまだしも、結婚へ進んでしまうケースはそうそうないように思いますが』

    「そう思うじゃろ?」

    眉ひとつ動かさずに笑顔で言う陰陽師に対し、青年はただならぬ気を察知してか、恐る恐る訊ねる。

    『・・・意外と多いのでしょうか?』

    陰陽師は大きく、ゆっくりとうなずいて見せる。

    「そなたも承知しているように、ワシのところには日々様々な相談が寄せられるわけじゃが、その中でも離婚相談、相性相談の比率は決して少なくない。そして、そんな何千人という男女の鑑定しているうちにわかってきたことは、先祖霊の霊障に“8:男女運”、もっと言えば霊障6~11を持つ人間は、ワシが想像していたよりもはるかに多く、が結婚してはならぬ相手と結婚しているという事実なのじゃ」

    『昨今の我が国の離婚数から考えても、今のお話はじゅうぶん納得できますが、そのようなミスマッチが増えている原因について何か心当たりはあるのでしょうか?』

    「もちろん、魂1〜3と魂4の結婚は太古には存在しなかったとまでは言わぬが、昨今のミスマッチの最大の原因は、やはり、“恋愛結婚”なのじゃろうな」

    思いがけぬ言葉に、青年はちょっと目を大きくして、問い返す。

    『結婚のあるべき姿とは、恋愛の延長にあると思っていましたが、昔はそうではなかったと?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲んでから口を開く。

    「昔をいつと規定するかにもよるが、少なくとも戦前までは、我が国では親同士が決めた結婚、あるいは近しい者からの紹介であるお見合い結婚が主流だったということができるじゃろう。また、そのような経緯で縁談が進められていたことから、結婚の前提条件も、当事者間の問題というよりも家同士の関係が重視されるという傾向が強かったことはいうまでもない」

    『魂1〜4と職業にもある程度以上の相関関係があったのでしょうから(※第4話参照)、両家の家柄や職業まで加味してしまうと、お見合い結婚では同じ属性の人物同士が結ばれやすい傾向にあったのかもしれませんね』

    「もちろん、誰をパートナーとして選び、どのような結婚をするかは当人の自由じゃし、魂1〜3が同じ人物同士で結婚するとしても、そもそも相性がよくなかったり、頭の1/2が異なっていたり、魂の属性が違っていたり、転生回数期が違う場合など、様々な要因によって問題が生じる可能性はあるわけじゃが、魂1〜3と魂4との結婚で生じる問題の大きさを考慮するかぎり、恋愛結婚による弊害は看破することのできない問題といえるじゃろうな」

    『結婚形態がお見合い結婚から恋愛結婚になったことで、結婚相手を探す入り口から誤りやすくなったのはわかりますが、霊障の影響でそんなにミスマッチが起こりやすいものなのでしょうか?』

    「“8:男女運”の霊障がどういった相か、わかっておろうな?」

    『はい。自分と相性が良い異性が悪く見え、逆に、自分に相応しくない異性が良く見えてしまう。あるいは、ハイスペックなのに異性と縁遠くなる場合も該当すると記憶しています』

    青年の回答に対し、陰陽師は満足気にうなずいてから口を開く。

    「そのうちの“縁遠さ”という問題はひとまず置いておくとして、俗にいう“2−4色眼鏡”(世界に目を広げた場合は、各国の固有の属性分布によって、3-4、1-4が色眼鏡の対象になることがある)について、ちょっと説明しておくとしよう」

    陰陽師は二つの図を描きながら説明を始める。

    「“2−4色眼鏡”は、我々魂1〜3側からみると2−4の人物に惹かれるという問題となるわけじゃが、2-4側からものを考えると、魂1〜3の人物がよく見えるという“逆2−4色眼鏡”とでも呼ぶべき問題となるわけじゃな」

    『なるほど。逆もまた真なり、というわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷くと、話を続けた。

    「さらに厄介なことに、この問題は異性間のみならず、同性間にも適用されるというところにある」

    『つまり、同性間の友人関係にも影響をあたえる可能性があると』

    「それだけではなく、学生時代の同級生、職場の同僚といった社会的な人間関係にも適用されるから、なおさら厄介なんじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、思わず黙り込む青年。そんな青年を横目で見ながら、陰陽師が言葉を続けた。

    「しかし、そのあたりまで話を広げてしまうと本日の話題から離れてしまうので、話を異性間に絞るとしても、結婚が当人同士の価値観をベースとして成り立つ以上、魂のレベルの差という問題は時として結婚生活に致命的な影を落とす結果となる」

    『ということは、恋愛結婚という結婚形態は極めて危険なメカニズムということじゃないですか!』

    青年は身を乗り出し、やや興奮気味に言った。

    「さよう。いくら魂1〜3の人物が論理的なベースを共有しているといったところで、こと恋愛や結婚に関しては情に流されやすい。その結果、お互いの価値観にすれ違いがあっても、見て見ぬ振りをして結婚まで進んでしまい、さらに子供ができてしまうと、今度は子供を理由に離婚することが難しくなり、結果、機能不全家族となったりする可能性があるわけじゃから、伴侶のどちらかが異なる魂であった場合、さらに問題が大きくなることは説明するまでもない」

    『“家出少女と誘拐犯(※第14話参照)”でご説明していただいたように、両親のどちらかが魂1〜3で、どちらかが魂4の場合、親子で価値観が合わず、お子さんが辛い体験をする可能性も高くなると』

    「その通りじゃ。恋愛ではなく結婚の場合、夫婦だけでなく、生まれてくる子供の人生にまで影響をおよぼしてしまうことから、恋愛結婚が主流である昨今では、“8:男女運”の相がある場合には、その相を一日も早くに除去しておくことが望ましい」

    『霊障ですから、神事を受けるまでずっと続いてしまうのだと思いますが、その相に限って言うと、先生のクライアントの中で完全に外れるのに日数を要した最長記録はどれくらいでしょうか?』

    「・・・4年じゃな」

    『え、4年ですか?!』

    「たとえば、金運や仕事運や病気の相と違い、男女運、特に“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の問題は、いわば生活習慣病なようなものでの。霊障を祓ったからといって、その翌日から世界が変わって見えるというものではない。その依頼人の場合も、母親から“いつになったら娘の色眼鏡が外れるんですか!”と、何度も詰められたもんじゃ」

    陰陽師は遠い目をしてそう言い、青年は目を見開いて答える。

    『なるほど、この問題は審美眼を基調とした生活習慣病みたいな問題なので、時としてはかなりの期間引きずることがあるというわけですね。過去に“だめんず・うぉ~か~”という漫画がありましたが、何度もダメ男と交際してしまう人も、“8:男女運”の相の影響を受けているのでしょうか?』

    「その漫画を読んだことはないが、その可能性は高いじゃろうな。というのも、“2-4色眼鏡”“逆2-4色眼鏡”の霊障がある場合、結婚以前に恋愛の段階から選ぶ相手を誤っているわけじゃからな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は眉間にシワを寄せて腕を組む。

    「先ほども話したように、今世でどのような選択をするかは本人たちの自由ではあるものの、霊障による“組違い”という問題は、一つでも多く解決したいと切に願っておるものの、そもそも出会いが必然である以上、その出会い自体を得られるかどうかが、まず問題というわけじゃしな」

    『感情に関していうと、自分の感情は自分でコントロールすればいいわけですし、感情論に走りやすい魂4の言動に一喜一憂していることも生産的ではなく、同時に、天命に沿った生き方でもないと思います。そんなことをしている暇があるのであれば、もっと有益なことに時間や労力を使う方が大事だとも思いますので、幸せな家庭を築きたい人には“8:男女運”の相を早急に解消し、運命の人と出会いやすくなってもらいたいです』

    「もちろん、既に結婚、交際している人々にとっては辛い現実が立ちはだかる可能性が高いがの」

    魂4の人物と交際している魂3の友人のことが脳裏に浮かび、青年は視線を落とす。

    そんな青年の様子を見、陰陽師は励ますような口調で付け足す。

    「人物鑑定だけでは相性を判断するにあたり情報が少なすぎる。じゃから、結婚を本気で考えるような時期が来たら、そなたも早めに意中の異性との相性鑑定を依頼するようにな」

    『肝に命じておきます。お互いの、さらに言うと子供たちのためにも』

    青年の言葉に陰陽師は微笑みながらうなずき、時計に視線を向ける。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はお見合いについて考えていた。
    たとえお見合いで出会ったとしても、“8:男女運”や“10:伴侶”の相があると、結婚後に苦労し、最悪離婚するのではないか。そして、そのような問題を解決するためにも、神事を受けて霊障が解消された人同士を繋ぐ結婚相談所があると、相性が良い人々を繋ぎやすくなるかもしれない。
    そんな新たな試みを閃き、青年の表情は明るくなるのだった。

  • 新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    新千夜一夜物語 第18話:神社仏閣との相性

    青年は思議していた。

    過去に神社の相性があると聞いたが、その相性は何によって決まるのだろうか?
    人物に頭の1/2の区別があるのと同様、神社仏閣にも1/2があるのかもしれない。だが、一人で考えてもわかるはずがなく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は神社仏閣について教えていただけませんか?』

    「一口に神社仏閣といっても、語り尽くせないほどのテーマがあるわけじゃから、とりあえずどういったことを知りたいのか手短に教えてもらえるかの?」

    『簡潔に言うと、神社仏閣と人間の相性についてです。人物の頭に1/2の別が存在する以上神社仏閣にも1/2の別があるのでしょうか?』

    「もちろん、神社仏閣にも1/2の別は存在する。また、その区別は誰が主祭神であるかによって決まるわけじゃが、人間との相性の良し悪しは、各人の1/2と一緒と考えて問題ない」

    『ということは、“農耕民族の末裔”である頭が1の人物は、豊作祈願を謳っている神社と相性が良く、“狩猟民族の末裔”である頭が2の人物は、合格祈願や必勝祈願といった獲物、現代で言う目標達成を謳っている神社と相性が良いのですね?』

    陰陽師は小さくため息をつき、口を開く。

    「なるほど。そのあたりから説明する必要があるわけじゃな」

    『いつもながら不勉強で恐縮です』

    青年は頭を下げ、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「まずは前提として、“カミ”とは感謝をする対象であり、衆生の“私利私欲”に満ちた願い事をする対象ではないということは前にも話をした通りじゃ」

    『不可思議の世界にいる神の価値観と、思議の世界に生きる我々の価値判断は、往々にして一致しないというお話しだったと思いますが』

    「うむ、その通りじゃ。我々人間の価値判断からすると不幸な出来事も、実は更なる幸福の前兆であったり、我々が考える幸福の実現が、実は大きな不幸の序章だったりという具合にの」

    『はい、そのように記憶しています』

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「また、それ以前の問題として、本物の神様は衆生の私利私欲に満ちた願い事なぞには耳を貸さず、願い事を聞くのは、神の使い走りである眷族であるという話もちゃんと覚えておろうな?(※第15話参照)」

    『はい。眷属は願いを聞いてくれる反面、必ず何らかの代償を求めるのでしたよね』

    青年の言葉に、陰陽師は首肯して答える。

    「さよう。つまり、相性の良し悪しにかかわらず、神社仏閣で願い事をするのは控えるべき、というのが神社参拝の大原則となる」

    『肝に銘じておきます』

    「さらに話を元に戻すと、“カミ”の起源はメソポタミア文明にまで遡るのじゃが、そこまで話すには時間が足りぬ。よって、今回は日本の神社仏閣に絞って説明しようと思うが、そなたは日本の神々について、どの程度の知識があるのかな?」

    首を傾げ、しばらく黙ったのちに青年は答える。

    『“古事記”や“日本書紀”で、イザナギとイザナミの夫婦神が日本を作った場面からなら、話についていけるかとは思いますが・・・』

    「つまりは“天地開闢”(てんちかいびゃく)の部分からであれば、それなりの知識があるというわけじゃな」

    青年は黙ってうなずく。開闢という言葉は聞き慣れないが、天地創造と脳内補完したのだろう。

    「であれば聞くが、そなたは“記紀”(古事記と日本書紀)の中身がすべて真実じゃと思っておるのかな?」

    『大昔の話なのでその真偽をすべて確認することはできないと思いますが、大部分が真実であると思います』

    罰が悪そうに言う青年。陰陽師は励ますような笑みを浮かべて答える。

    「そなたの言うように“記紀”の中身がすべて間違っているということは、もちろんない。しかし、記紀の神話部分に話を限って話をするとすれば、真実を伝えているとは言い難い」

    『しかし』

    眼を大きくして聞き返す青年。

    『どのあたりが、真実ではないのでしょうか』

    「決定的な問題は、そのすべてが日本国内の歴史ではなく、天皇家を中心とした祖先たちが日本にたどり着く過程を神話仕立ての“物語”にしたものというところじゃな」

    『ということは、記紀の神話部分とは、国内の出来事ではなく、我々の先祖たちがメソポタミアから日本に辿り着くまでの壮大な歴史の集大成であって、決して日本固有の歴史を描いたものではないとおっしゃるのですね』

    意外な展開にちょっと目を大きくする青年に、陰陽師は首肯して答える。

    「その通りじゃ。日本人が世界に散らばって血が薄まったという話を耳にするが、むしろ実相はその逆で、メソポタミアやエジプト、古代インドにおった人間たちが陸路海路を使い、日本列島に到着した壮大な物語が記紀の神話部分というわけじゃな。そして様々な地域を経由する途中で様々な血が混じり、今の日本人ができたというわけじゃ」

    『つまり、日本人こそ、究極の混血民族だと」

    納得顔で何度もうなずく青年。陰陽師は湯呑みに注がれたお茶を一口のみ、口を開く。

    「さて、天地創造、国生みの話に補足をすると、伊邪那岐尊(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の前に国之常立神(クニノトコタチノカミ)と呼ばれる神々がおることは理解しておるかな?」

    『いえ、それらの神々については知りませんでした』

    青年は目を見張って答える。陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「“天地開闢”、つまり天地創造の最初に現れたとされているのが天之御中主神(アメノミナカヌシ)と高御産巣日神(タカミムスビ)と神産巣日神(カミムスビ)の造化三神じゃ」

    青年はカタカナで名前を速記していく。神様の名前の漢字って難しいよね!

    「ちなみに頭の1/2を説明しておくと、天之御中主神は1、高御産巣日神と神産巣日神は2となる」

    『全員が1ではなく、逆に2の方が多いのですね。地球の魂の比率で頭2の方が多いことと何か関連があるのでしょうか?』

    「彼らも我々の祖先であるわけじゃから、そう考えることもできるじゃろうな」

    陰陽師は首肯して、先を続ける。

    「今までに登場した神々の1/2の別をみていくと、国常立神が1、その後に登場する伊邪那岐尊は1、伊邪那美命は2。そして、伊邪那岐尊の右目から誕生した天照大神(アマテルオオミカミ)が1、左目から誕生した月読命(ツクヨミノミコト)が2、そして鼻から誕生した須佐之男命(スサノオノミコト)が2となる」
    黙ってうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「日本の神話の大元に近い神々の1/2がわかったことから、今度は日本中にある神社仏閣に話を移すが、まず大前提として理解しておくべきポイントは、同一の神社であったとしても、1/2が分かれることがあるという問題じゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「日本の神社は、大きく分けると二つの系統となるが、それについては知っておろうな?」

    青年は黙って一点を見つめ、おもむろに口を開く。

    『伊勢神宮系と出雲大社系ということでしょうか?』

    「さよう。天孫系の伊勢神宮の内宮は天照大神(外宮は豊受大神1)を主神としているから1、国を譲った国津神系の須佐之男命、その子孫で出雲大社の祭神である大国主大神、そして大国主の次男で諏訪大社の祭神である建御名方富命(たけみなかたとみのみこと)が2であることから、それらの神々を祭神としている神社もすべてが2、というのが基本的な分類となる。各々の分社/末社も基本的に主神が同じであることから、以下同文と考えてよい」

    『基本的ということは、例外もあるわけなのですね?』

    「その通りじゃ」

    青年の質問に、陰陽師が首肯する。

    「稲荷神社と八幡宮を例に取ってそのあたりのことを説明すると、次の様になる」

    『稲荷神社は、赤い鳥居とおキツネ様がいるあの神社のことですね』

    青年の回答に小さく頷くと、陰陽師が言葉を続けた。

    「たしかにその通りじゃが、おぬしはあそこの神様が誰か知っておるか?」

    『稲荷神社を分霊した祠によく祀られている、陶器のおキツネ様ではないのでしょうか』

    「なるほど。おぬしでもそのくらいの認識なのじゃな」

    陰陽師が、小さく首を左右に振りながら、ため息をつく。

    『え、違うのですか? 稲荷神社の神様は、おキツネ様ではないと?」

    「稲荷神社の主祭神は、宇迦之御魂神(ウカノミタマ) という女の神様じゃ」

    『え、そうなのですか。初めて聞きました。で、その神様はどのような由来の神様なのでしょう?』

    「由来については諸説ある。たとえば、古事記によると、須佐之男命(スサノオノミコト)と神大市比売命(カムオオイチヒメ)の御子として、兄の大年神(オオトシノカミ)とともに生まれたと記されておる。一方、日本書紀では倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)と表記され、国生みに際して伊邪那美神(イザナミノミコト)から生まれた粟島と同神じゃと考えられておる」

    『なるほど』

    「ただし、稲荷神社の主祭神としてウカノミタマが文献に登場するのは室町時代以降のことで、伊勢神宮ではそれより早くから、御倉神(ミクラノカミ)として祀られておったことから、伊勢神宮外宮の祭神である豊受大神と同神とする説も根強い。さらには、日本書紀において、神武天皇が戦場で祭祀をした際に、供物の干飯に厳稲魂女(イツノウカノメ)という神名をつけたとあって、本居宣長などは“古事記伝”で、この神こそがウカノミタマだと言っておる」

    「ウカノミタマは宇迦之御魂神と倉稲魂命と二つの漢字名があるのですね。ややこしい・・・。それで、先生は、どの説が正しいとお考えですか?」

    「今の登場した神々を列挙すると、須佐之男命(スサノオノミコト)、神大市比売命(カムオオイチヒメ)、大年神(おおとしのかみ)、伊邪那美神(イザナミノミコト)は2となり、倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)、豊受大神、厳稲魂女(イツノウカノメ)がそれぞれ1となる。それ故、ワシがみる限り、稲荷神社の主神はあくまでも、女神で1なので、宇迦之御魂神は後者の神々の集合体ということになるな」

    『なるほど。そして、稲荷神社は1の神社だと』

    「ところが、話はそう単純ではなく、少なくとも現在の伏見稲荷を中心とした稲荷神社はすべて2となる」

    『え、そうなのですか?』

    納得がいかないという顔をしている青年に、陰陽師は話を続けた。

    「おぬしも神様だと思っておったおキツネ様じゃが、あのような存在のことを眷族と呼ぶことは以前に説明した通りじゃが、眷属とは、本来、神の使者を意味し、その多くは神と関連する想像上の動物を含めた動物の姿を持っておるのじゃが、神道では、蛇や狐、龍などがそれにあたる。また、彼らには神の意志を伝えることがあるため、神使と呼ばれたりもしておるが、いずれにしても、人間を越える力を持つため、“眷属神”と呼ばれ、眷属神そのものを祀る神社まで存在しておる」

    『なるほど』

    「さらに、大乗仏典では、仏に対する様々な菩薩などを指すこともあり、薬師仏における十二神将や不動明王の八大童子、千手観音の二十八部衆なども、眷族ということができるわけじゃな。日本では本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)の発生とともに日本古来の神祇が仏や菩薩として再編され、本地仏を持つ親神と大きな神格に付属する小さな神格である眷属神に分類したわけじゃな。代表的なものとしては、王子神社などが有名じゃ」

    陰陽師の解説に、大きく頷く青年。

    『話を聞く限り、眷属を祀っている神社は多そうですね』

    「うむ。その中でもキツネを眷族とする稲荷神社と、龍を眷族とする諏訪大社がその双璧じゃろうな」

    「了解しました」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続けた。

    「さて、今度は八幡宮に話は移るが、八幡宮は全国に4400社もあり、総本社は宇佐神宮1となっておる」

    『4400も! どおりで、いろんな土地で八幡宮の名前を見かけるわけですね』

    「また、宇佐神宮は石清水八幡宮・筥崎宮(または鶴岡八幡宮)とともに日本三大八幡宮の一つとされており、神仏分離以前は神宮寺の弥勒寺と一体のものとして、正式には宇佐八幡宮弥勒寺と称していた。現在でも通称として宇佐八幡とも呼ばれる」

    『話の流れから察するに、同じ八幡宮というくくりであっても、主祭神によって1/2が異なるのでしょうか?』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、紙に主祭神の名前と1/2を記していく。

    宇佐神宮1
    一之御殿:八幡大神 2(はちまんおおかみ) – 誉田別尊2(応神天皇)とする
    二之御殿:比売大神 1(ひめのおおかみ) – 宗像三女神1(多岐津姫命・市杵島姫命・多紀理姫命)とする
    三之御殿:神功皇后 2(じんぐうこうごう) – 別名として息長足姫命2ともいう

    しばらく紙を黙読したのち、青年は口を開く。

    『二之御殿だけ1ですが、これは主祭神が比売大神1だからでしょうか?』

    「さよう。よって、全国的に比売大神1のいない八幡神社の末社の中には2の神社が存在するわけじゃな」

    『なるほど。ですが、メインと思われる一之御殿の主祭神は2なのに、どうして宇佐神宮全体は1なのでしょうか?』

    「そのあたりの話を始めると長くなるので今回は割愛させてもらうが、このあたりに記紀がかならずしも史実を伝えているわけではないことが垣間見えるわけじゃな」

    青年は腕を組み、唸り声をあげた。

    「ちなみに、応神天皇は神功皇后の息子と言われておるが、両者は共に実在しないとも言われており、詳細は以下のようになっておる」

    神宮皇后2(成務天皇40年 – 神功皇后69年4月17日)は、日本の第14代天皇である仲哀天皇の、皇后。

    初めての摂政(在位:神功皇后元年10月2日 – 神功皇后69年4月17日)とされる。
    さらに明治時代までは一部史書で第15代天皇、初の女帝(女性天皇)とされたが、大正15年の皇統譜より正式に歴代天皇から外された。

    『日本書紀』では仲哀天皇崩御から応神天皇即位まで約70年間ヤマト王権に君臨したとするが、その約70年間は天皇不在ということになるが、実際には実在しない。また、父は開化天皇玄孫・息長宿禰王で、母は渡来人の新羅王子天日矛(あめのひぼこ)裔・葛城高顙媛。

    仲哀天皇2年、1月に立后。天皇の熊襲征伐に随伴する。仲哀天皇9年2月の天皇崩御に際して遺志を継ぎ、3月に熊襲征伐を達成する。同年10月、海を越えて新羅へ攻め込み百済、高麗をも服属させる(三韓征伐)。12月、天皇の遺児である誉田別尊を出産。翌年、誉田別尊の異母兄である香坂皇子、忍熊皇子を退けて凱旋帰国。この2皇子の母は仲哀天皇の正妻であり、神功はクーデターを起こしたことになる。

    クーデターの成功により神功は皇太后摂政となり、誉田別尊を太子とした。誉田別尊が即位するまで政事を執り行い聖母(しょうも)とも呼ばれる。一部の史書では第15代天皇で初の女帝とされている。摂政69年目に崩御。要は、スサノオノミコト同様、(存在したとしても)朝鮮人(を何等か脚色した人物)と思われる。
    なお、朝鮮側の史書には、このような記述は一切存在しない。

    その息子の誉田別尊2は、応神天皇と同一とされる。また早くから神仏習合がなり、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)と称され、神社内に神宮寺が作られた。

    『神功皇后も須佐之男命も、過去に実在した朝鮮からの渡来人の誰か、という一面を持っているのですか? 神様として別次元の存在かと思っていましたが、地球人の祖先として捉えると、なんだか親近感が湧いてきます』

    目を見張る青年を見、陰陽師は笑いながら口を開く。

    「先ほども言ったように、大昔のメソポタミアから始まる話なわけじゃから、ベースは我々と同じ人間なのじゃよ」

    『と言うことは、神話の中には奇跡を起こすような話がありますが、あれも実際に人間がやっていたのでしょうか?』

    「ああいった話はワシから言わせれば漫画の話であって、過去の人物を権威づけるために後世の人間が捏造/誇張したと考えた方が実相に沿っておるじゃろうな」

    小さく笑いながら言う陰陽師に対し、青年は納得顔で何度もうなずく。

    『いろんな国の神話において、神様も人間臭い一面があるなあと思っていましたが、結局はいわゆる神様ではなく、我々と同じ人間だったのですね』

    崇めていた存在が自分たちと同じ人間だと知った途端、神様への扱いが少し雑になる青年だった。
    陰陽師は湯呑みに注がれていたお茶を一口飲んでから、再び口を開く。

    「同じ理由で、八坂神社にも注意が必要じゃ。八坂神社はもともと “牛頭天神社”や“祇園天神社”と呼ばれており、主祭神を中の座が牛頭天王1、東の座が八王子1、西の座が頗梨采女(はりさいにょ・ばりうねめ)1としていたのじゃが、明治元年の神仏分離令によって須佐之男命2とその妻、櫛名田比売(クシナダヒメ)2とその子供たちである“八柱御子神”2に変わってしまったわけなのじゃよ」

    『その場合、主祭神が2に変わったわけですから、八坂神社も2になるのでしょうか?』

    青年は首をかしげながら言い、陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「このあたりは神々の力関係の問題となるのじゃろうが、少なくとも八坂神社の場合は、主祭神が変わっても、変わらず1のままとなる。末社である疫神社の祭神は蘇民将来となっているものの、大きな意味では、昔と変わらず牛頭天王が祀られておるわけじゃな」

    『人間の事情で主祭神を変えたとしても、末社とはいえ、元々の主祭神がいるかぎり1/2が変わらない場合も存在すると』

    青年は何度もうなずいて納得の意を示し、続ける。

    『それにしても、牛頭天王から須佐之男命というように、なぜ1/2が異なる神が主祭神になってしまったのでしょうか?』

    「一見、その二神は関係がないように思えるが、実はそうではない。この神社の伝説として、高句麗から伊利之(いりし)という人物が使節として来日するにあたり、新羅の牛頭山から須佐之男命を勧請したという逸話が残されている」

    『そうした逸話も根拠の一つとして、先ほどの須佐之男命が朝鮮人としての一面を持っていると言えるのですね!』

    興奮気味に言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他にも、この疫神社の主祭神は蘇民将来となっておるが、そなたは“蘇民将来”の伝説を知っておるかな?」

    軽く引きつった笑みを浮かべながら、青年は首を横に振る。青年の様子を見、陰陽師は小さくため息をついてから説明する。

    「蘇民将来の一般的な伝説によると、北の海にいる武塔天神という神様が、南の海にいる女性と結婚するために旅をする途中で、将来の兄である巨旦将来に宿を乞うたところ、彼は裕福であったにもかかわらず、宿を貸すことを拒んだ。一方、弟の将来の方は、貧しかったにも関わらず、武塔天神を歓待すると、できるかぎりの饗応をした。それをよろこんだ武塔天神は、数年後、八人の子供を連れてふたたび蘇民将来の家を訪ね、“恩返し”として、蘇民の家族の腰に茅の輪をつけさせたのだが、その晩激しい疫病があたりを襲い、蘇民将来の家族以外の者はみんな死んでしまう。その翌日、武塔天神は“我はスサノオなり”と名乗るとともに、“これからも疫病が発生した際には、我らは蘇民将来の子孫である、と名乗ったうえで、腰に茅の輪をつければ決して病気になることはない”、と言い残したそうじゃ」

    『さすがにそれは創作のような印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょうか?』

    「今の話は、“備後国風土記・逸文”という書物に載っており、面白いことに、“この話は祇園社の本縁である”、つまり、いくつかある同じような縁起の中で一番真実を伝えているものだ、という説明までされているのじゃよ」

    『となると、だいぶ信憑性がありそうですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、説明を続ける。

    「また、東北大学に“祇園牛頭天王御縁起”という文書が所蔵されており、そこではスサノオではなく牛頭天王が主人公となっているだけで、先ほどの内容とほぼ同じじゃ」

    『それで、須佐之男命と牛頭天王はほぼ同じ存在とみなされ、八坂神社で新旧主祭神として扱われている理由はわかりましたが、他にも1/2が異なる神が混ざってしまったケースはあるのでしょうか?』

    眉間にシワを寄せて答える青年。陰陽師はかすかに目を伏せ、口を開く。

    「そのあたりの問題は、“竹内文書”等の偽書含め、記紀の記実に改竄があったり、社歴に捏造があったことから、大いに考えられる。さらに言うと、“記紀”が真っ赤な偽物であること、たとえば猿田彦(これは個人の名前ではなく世襲名)が長い時間をかけて北九州(博多)から、出雲、そして伊勢・熊野(一部千葉・茨木)へと転々と場所を変える過程で、そもそもの(現在の神社の主神の説明とはまったく関係ない)地元の神を蹴散らしたり、習合したり、後から追いかけてきた他の勢力の神々と習合したこと、あるいは末社を全国に広げていく過程で先住民(もちろんシルクロードを渡ってきた渡来人の)神々・先祖と習合したことも考えると、なかなか深刻と言えよう」

    『なるほど。勝者が歴史を作ると言われるように、やはり、時々の為政者の都合で歴史が改竄されたなどということもあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。平安時代から江戸・明治に至る神仏習合・廃仏毀釈のどさくさ等で、当時の権力者たちによって、幾多の改竄がなされたという可能性は大いに考えられるじゃろうな」

    『そうした改竄が起こると、どのような問題が起きるのでしょうか?』

    「それに関して説明するにあたり、少し話が変わるが、そなたは人間が善悪を判断する時、何を基準にしているか知っておるかな?」

    青年は腕を組んでしばらく考えたのち、口を開く。

    『法律でしょうか?』

    「もちろん法律もそうじゃろう。加えて、道徳も善悪の重要な基準となることじゃろう。が、そのどちらもが過去の“先例”を基に決定される以上、“歴史”こそが決定的な価値判断の基準となるのじゃ。別の言い方をすると、政治家たちが歴史に“原因と結果の法則”を求めたり、宗教家が“神の教訓と導き”を求めるといったように、歴史とは過去の教訓によって現在と未来を導くものなのじゃ。それ故、“歴史を失う”、“歴史を捏造する”ということは、価値の体系を偽造することになり、神の意志、さらには特定の神の素性をも変えてしまうことにもなりかねないわけじゃな」

    『ご利益があるなら神様が混在したくらいで大した事はない、とも考えることもできますが、改竄が及ぼす影響を考えると、そのあたりは決して蔑(ないがし)ろにすることのできない重大な問題なわけですね。先生とお会いしていなければ、正しい歴史を知ることはできなかったと思います』

    そう言い、青年は深く頭を下げた。陰陽師は微笑みながらうなずいて答える。

    「そなたのように、正しい歴史を知る人が増えることはワシにとってもうれしいことじゃ」

    青年は再び小さく頭を下げ、口を開く。

    『話が戻ってしまいますが、友人や家族と初詣に行くなど、自分と相性がよくない場所へ参拝せざるを得ない場合はどうしたらいいのでしょうか?』

    「そのようなケースは、感謝や拝むといったことは一切せず、あくまで神社仏閣を歴史的な建造物として楽しむことじゃ」

    『なるほど。建物の歴史や自然の美しさに注目すればいいと』

    「パワースポットと話題になっているから、インスタ映えするから、良縁が欲しいからといった理由で参拝するのは個人の自由じゃが、頭の数字が違う神社仏閣を選んでしまうと、むしろ運気が下がってしまう可能性が高いから、そのあたりにはじゅうぶん気をつけてな。というのも、シュメールの時代から、頭1の農耕民族の土地を頭2の狩猟民族が襲撃する、という歴史が繰り返されてきたわけじゃから、頭1の人物が2の神社仏閣に参拝するということは、農耕民族が狩猟民族の拠点をわざわざ襲撃されに行くようなものと考えた方がいいじゃろうな」

    青年は両手を上げ、苦笑する。そんな青年の様子を見、陰陽師も小さく笑う。

    『ところで、お札やお守りはグッズの霊障(※第15話参照)が憑きやすいとのことでしたから、その手のものはできることであれば買わない方がいいのでしょうか?』

    「そうは言っても親御さんや友人がプレゼントすることもあるじゃろうから、そのあたりは難しい問題じゃな」

    『キーホルダーやアクセサリーの一つみたいな軽い感覚で扱っても駄目なのでしょうか?』

    「そのあたりがギリギリの線なのじゃろうな。ただし、それらをコレクションにしたりしておると、それらがさらなる霊障を集め、結果、部屋にある一般の品々にも霊障が憑く可能性が極めて高くなるので、できることであれば、それらを身の回りに置かぬ方がいいのではあるが」

    淡々と話す陰陽師に対し、青年は表情をひきつらせながら口を開く。

    『おっしゃるとおり、どんどん運気が落ちていきそうですね。だから、お札やお守りは毎年新年に旧年のものを納める風習があるのでしょうか?』

    「たしかに、そういった面もあるじゃろうが、所有者が自分の念に気をつけていたとしても、他者から様々な念を拾ったりしていると一年経たずにそれらが霊障の巣となることもあるから、注意が必要じゃし、いつも話しておるように、霊障に距離は関係がないので、祓いもせずに霊障を持ったグッズを捨てたりすると、それが思わぬ形で帰ってくることがあるから、合わせて注意が必要じゃろうな」

    『なるほど。これからは、お札やお守りを納める前に、霊障が憑いていないか鑑定を依頼するようにします。霊障が憑いていたのに処分してしまって、さらに増幅して戻ってこられてはたまったものではありませんで・・・』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうにうなずいてから、口を開く。

    「あとは、霊媒体質のスコアが高い人物は、参拝客の人混みに紛れるだけで心身が不調になりやすいことから、特に初詣などは参拝客が少なくなってからするようにの」

    『そうですね。初詣は年が明けてから最初の参拝のことを言うようですし、半月ほど経って参拝客が減ってからでもいいわけですからね』

    「それがよかろう。さて」

    陰陽師は時計を見、青年もスマートフォンで時刻を確認する。

    『あっという間に終電に近い時間になってしまいました。本日も貴重なお話をありがとうございました。神社を参拝する機会はほとんどなくなるでしょうが、もしも参拝する時は事前に主祭神を調べて自分との相性を確認するようにします』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。陰陽師はいつもの笑みで青年を見送る。

    帰路の途中、神様と友達になるだの除霊の修行だのと、目についた神社仏閣を積極的に訪れていた過去の自分に対し、青年は苦笑しながら反省するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    新千夜一夜物語 第16話:門松と文化の起源

    青年はぼんやりと考え事をしていた。

    どうしてお正月に門松を玄関に立てるのだろうか?
    何か霊的な意味があるのだろうか。仮に霊的な意味があったとしても、霊能力がない人間にとっては特に効果はないのだろう。あるいは、ただ単に風習として残っているのだろうか?

    門松に“グッズの霊障”(第15話参照)がつきやすいかはわからない。けれど、毎年飾っている物であるから、どのような意味を持っているのかを確認しておく必要はあるのかもしれない。

    そう思い、青年は厚着をして陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします』

    青年は深く頭を下げ、新年の挨拶を述べた。

    「あけましておめでとう。今年もよろしくの」

    陰陽師はいつもの柔らかい笑みを浮かべて小さくうなずいて答える。

    『新年早々で恐縮ですが、今日は門松について教えていただけないでしょうか。毎年お正月には玄関に門松を飾っていますが、あれにはどのような意味があるのでしょうか?』

    「なるほど、門松について聞きたいのじゃな。ちなみに、そなたは門松についてどのような認識を持っておるのかな?」

    青年は腕を組み、しばらく黙考してから口を開く。

    『お正月の数日間に、切った竹を数本と松の葉が一緒になった物を、自宅の玄関前に左右に立てる飾りだと思っています。それ以上のことは特に・・・』

    青年は頭をかきながら答え、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「民俗学者の柳田国男監修“民俗学辞典”(東京堂刊)に“門松”について次のように記載がある」

    今は正月の飾り物のように考えられているが、本来は歳神(年末・年始に各家を訪れると信じられていたご先祖様)の依り代の一種だったらしく、そして必ずしも松と限らない場合が多い。(中略)
    鳥海山・月山の周囲の村々でもカドバヤシ・カドマツタテといって、楢、椿、朴、みずきなどを山から伐ってきて立てる。山口県北部や宮崎県の山間でも松以外の木を立てる。これら多くの木を立てておく期間は一定しないが、一月七日まで、もしくは旧正月の終わるまでというのが多い。

    「この本にも書かれているように、門松という名前から松を立てると思っておるじゃろうが、竹も含め、松以外の樹木でも問題ないことはわかるじゃろう?」

    『たしかに、言われてみればそうですね。ごく一般的な門松であっても、門松なのに竹を使っている。門松竹といったところですね!』

    青年は笑いながら言う。

    「それが正しいかはともかくとして、日本では古来より“天なる神は柱のような木に降り立つ”という観念が存在しておっての」

    『神様を数える場合、単位が“柱”だと聞いたことがありますが、神様は見えない存在であるとしても、木が依代だと考えれば、神様の数を数えるにあたり、神様が宿っている柱の数を数えればいいということなのですね』

    「また、土木工事や建築などで工事を始める前に地鎮祭を行う際に、葉のついた竹を四本、四隅に立てるが、あの“境立て”からも木々には邪霊を寄せつけない呪力があるとも信じられていたことがわかるじゃろう」

    青年は手を打って答える。

    『更地でよく見かけるやつですね。あれも竹を使っているわけですから、神様の依り代として松にこだわる必要はないということがわかるわけなのですね』

    青年は納得顔で呟き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「これらの例を見てもわかるように、門松の“マツ”と松は必ずしもイコールではないということじゃ」

    『なるほど! でも、そうなると、なぜ門松という言葉なのでしょうか?』

    「松という漢字は実は当て字で、エジプトの物神柱“マシャ”がなまって日本語でいう“マツ”になったのじゃよ」

    青年は目を見張り、前のめりになって答える。

    『“マツ”が“マシャ”? しかも、エジプトが起源ですか? 僕はてっきり日本固有の風習だとばかり思い込んでいました』

    陰陽師は、青年の言葉に、ゆっくりうなずく。

    「エジプトの文化が東方へと移動していった経緯については別の機会にゆっくり話すとして、エジプトには物神柱と呼ばれる神が四つおり、その一つである梟神マシャがインドを経由した際にインドの神様として日本に伝わったものなのじゃ。さらに言えば、東北地方で“梵天”と呼ばれている神も、元を正せば、この梟神マシャのこととなる」

    『なん・・・ですと。日本は世界の文化のルーツだと思っていましたが、文化の終着地点だったのですね・・・』

    驚きに目を見張る青年。陰陽師は紙に文字を書きながら口を開く。

    「それだけではないぞ。たとえば、纏(まとい)じゃが、 これなぞも“マシャ”の屈折語である“ヴァッタ”(〔m〕vatta)が日本流になまって“マトイ”になったものなんじゃ」

    青年はヴァッタ、マッタ、マット、マットイとよくわからないことを呟き、答えた。

    『あの時代劇などで見かける“纏”のことでしょうか?』

    いつものことながら、言葉だけは知っている青年であった。

    「もちろん、江戸時代の火消しの男衆が持ち歩いていた、先端の方に飾りがついた長い棒のことじゃ」

    『やっぱりそうですか! 先の方がタコのような形になった布がついている棒ですよね!』

    青年は興奮気味に両手で棒を上げ下げする動きを見せる。陰陽師はそんな青年の様子を見て、小さく笑う。

    『しかし、あんな長い棒を各家庭で立てるわけにもいかなかったので、短く切ってあのような形になっていったのでしょうね』

    青年の言葉に一つ頷いたあとで、陰陽師は言葉を続ける。

    「このマシャという言葉が地鎮祭の“境立て”の四本柱となった経緯は先ほど話した通りじゃが、他にも大相撲の土俵の四隅に立っている四本柱も同様の起源を持つ」

    『えっ、あの大相撲の柱もですか』

    驚く青年をしり目に、陰陽師はふたたび先程の本を取り上げた。

    「今までに説明したことを踏まえた上で、“民俗学辞典”の次の解説に耳を傾けるとよい」

    神の依り代である“柱”を立てる場所は、家の前の庭もあるし、屋内もあり、家の門の前とは限られていない。

    「つまり、門松の“カド”は、必ずしも“門”とイコールではないことがわかるかの?」

    『なんとなくわかります。そうなると、なんだか鯉のぼりや七夕の笹も似たような物なのではないかと思えてきます』

    「それらについてはまた別の機会に話すとして、話を先に進めると」

    陰陽師は再び紙に文字を書いていく。青年は食い入るようにその文字を見つめる。

    「梟神柱は古代インドへ渡り、古語(梵字)で“ガダー”(gadā)と呼ばれるようになるのじゃが、これも処々の状況より“カド”となまったとも考えることができる」

    青年はまた、ガダー、ガダ、ガド、カドなどと呟いた。

    『口に出してみるとなんとなくわかります』

    「それ故、門松の“カド”や“マツ”は、文字通りの門や松ではなく、梟神のことを示したということになるわけじゃ」

    『なるほど。門松という漢字は当て字でしかなく、本当は松でなくても、門のように二本でなくても、玄関前になくても、問題はないわけなのですね!』

    青年は納得した顔で何度もうなずいて見せる。陰陽師は満足そうに微笑んで首肯する。

    「さらに興味深い事実として、“民俗学辞典”に以下ように記載されておるように、我が国には松を能動的に使わない地方というものが存在しておるのじゃ」

    祖先が戦に敗れて落ち延びたのが正月だからといった種類の伝承をもって門松を飾らない家例の旧家もある。京都でも宮中を始め貴族の家々には門松飾りがなかった。

    『ここで言う“戦で敗れた祖先”とは日本人のことだと思いますが、いかがでしょうか?』

    陰陽師は首を左右に振って答える。

    「いや、ここでいう“戦で敗れた祖先”とは朝鮮半島の人々のことなのじゃよ。“マシャ”という言葉が遠いエジプトから島国である日本に伝わってくるためには必ず海を渡らねばならぬ。宗教や文化というのは、必ず人と共に移動しておるわけじゃからの」

    『なるほど。弥生時代に朝鮮半島から大勢の人が日本に渡海してきたことは勉強しましたが、彼らはもともと日本で生活していた縄文人とは別種の人間だったのですね・・・』

    「うむ。縄文人は、今でいうアイヌや琉球民族といった、迫害されてきた人々がそのルーツで、いわゆる弥生人とは別種の民族ということができるじゃろうな」

    青年は黙ったまま、納得顔で何度も頷く。

    「それを裏づけるように、朝鮮半島や済州島では、松は霊城に植える霊樹であるし、朝鮮半島の西側では、捨て墓に一時的に埋葬するにあたり、死体を松の枝で覆うという習慣が存在している」

    『なるほど。そのような歴史的背景を持った人々であれば、不吉なことが連想される松を避けたがったとしても別に不思議じゃありませんね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    青年の言葉に、陰陽師がひとつ頷いた。

    『いずれにしても、他の木々が代用されるという背景には、そんな遠い昔からの由来があったのですね。日本の文化こそが世界の文化の起源だとばかり思っていました・・・』

    「じゃが、カドマツがエジプトから伝播した風習であり、今も習俗として残っていることひとつをみても、ほとんどの文化が日本で生まれ海外に伝播したと考えるよりも、その逆と考える方が、筋が通っておるじゃろうな」

    青年は納得顔で何度もうなずく。陰陽師はタンブラーに注がれたお茶を飲み、続ける。

    「エジプトからの道のりを説明するとあまりにも長くなってしまうから、とりあえず、身近な朝鮮半島に話を限って、説明するとじゃな」

    陰陽師は日本列島と中国大陸の地図を描き始める。

    「弥生文化を形成した渡来人の中心人物は、百済の王、あるいは辰王朝の宗室(王家)だったのじゃが、百済の王とは、馬韓、弁辰のかなりの部分を支配する辰王でもあった。そんな彼らの一部が、勢力争いに敗れる度に、様々な文化を携え日本に移動してきたわけじゃな」

    陰陽師は説明しながら地図に国名を記していく。青年は地図を眺めながら口を開く。

    『日本の文化が朝鮮半島から伝わってきたのはわかりました。それでは、朝鮮半島の文化はどこを起源としているのでしょうか?』

    「直近では、北方騎馬民族である扶余(ふよ)族が朝鮮半島に南下してきたと言われておるが、ではその扶余族はどこから来たという話になると、シルクロードを中心とした陸路を遡る必要が出てくるじゃろうし、海路という話になると台湾、フィリピン諸島、マレー半島、そしてインド洋を越えて中東と、話は限りなく広がっていくわけじゃが、細かい話はともかく、すべての文化的ルーツが今のイラクあたり、すなわち、かつてのシュメールで誕生し、それらの文化が多数の人間を介して、今説明した経路を逆流するような形で日本に波状的に流入してきたと考えるのが妥当じゃろうな」

    青年は地図を見ながらうなり声をあげ、何度もうなずく。

    『とても興味深いです。ということは、日本文化のルーツを知るには古代エジプト、そしてシュメールにまで遡るのが大事なのですね』

    「その通りじゃ。歴史で学習するすべてのキーワードとしては、メソポタミア文明といっても過言ではない」

    『なるほど、四大文明の最初の一つであるメソポタミア文明は、エジプト文明、インダス文明、黄河文明とすべて繋がっているわけなのですね!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「もちろんじゃとも。メソポタミア文明の中でも、特にシュメール人が築き上げた文化を探ることで人類の起源に近づくことができるというわけじゃな」

    『単純暗記していた歴史の用語でしたが、こうして現代の日本にも深い関わりがあると思うと、なんだかとても感慨深いです』

    自分の世界に入る青年を見、陰陽師は微笑みながら頷く。

    『となると、よく韓国人が“日本の物は韓国が起源ニダ!”と言うのは、あながち間違いではないといえるわけですね』

    「たしかに、歴史の連続性という視点でみる限り、彼らの主張もまったくはずれているということはないだろうな」

    『でも』

    青年が、首を傾げつつ、言った。

    『日本の文化が朝鮮半島を経由してきたことを認めたとしても、現代の日本人と韓国人とでは国民性が違う気がするのですが』

    青年の言葉に、陰陽師は真顔で頷く。

    「以前(第9話参照)説明したと思うが、頭の1/2の比率は、世界では2:8に対して日本人は3:7と、世界の平均値と比較すると頭が1が一割ほど多い」

    『だから、日本は優等生と言うこともできる、とおっしゃいましたね』

    「そのとおりじゃ」

    陰陽師は、小さく頷く。

    「一方、朝鮮や中国では、1/2の割合がほぼ1:9となる」

    そう話す陰陽師の言葉に耳を傾けながら、青年は記憶をたどるように一点を見つめて黙考し、口を開く。

    『たしか以前のお話では、頭2は狩猟民族の末裔で、物事を損得で考える傾向が強いため、結果、自己中心的な傾向が強いということだったと記憶していますが、だから韓国人は自国が優位になるような主張をする傾向が強いのでしょうか』

    「半島に住む人々というのは、朝鮮半島に限らず、地続きの大国の影響を受けやすいという特徴を持っておるわけじゃから、もちろん、そう考えることも可能じゃろう。しかし、決して忘れてはならぬのは、魂は、各々属性にとって最も修行に適した国を選んで転生してくるという原則じゃ」

    『つまり、日本を選んで生まれてくる人間は、修行をするにあたり日本が最適の修業の場であり、韓国や中国に生まれる人間は、それらの国が修行の場として最適であるというのですね』

    「その通りじゃ。さらに言えば、同じ1/2であったとしても、程度という問題も存在する」

    『つまり、1/2に枝番があり、それによって度合いが存在するわけですね』

    「さらに言えば、16通りある、輪廻転生と魂の組み合わせにも、それなり以上の相違もある」

    『なるほど』

    「じゃから、たとえ姿形がいかに似通っていようと、同じ人間だから話せばわかる式のコミュニケーションではなく、各々別種の人間として話をする必要があるわけじゃな」

    『そのあたりの話は、じゅうぶん理解しました』

    陰陽師にそう答えた後で、青年は言葉を続けた。

    『ところで年も明けたので、明日にでも初もうでに出かけようと思っているのですが、今お話にあった1/2という問題は、神様や寺社といったものにも当てはまるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。今まで説明してきたように、文明に連続性というものが存在する以上、たとえば、古事記・日本書紀に出てくるような神様も、日本古来の神様と考えるよりも、様々なルートで日本に辿り着いた民族が祭っていた神々や祖王たちと捉える方が論理的じゃと思う。よって、それらの神々も祖王たちも、また彼らが鎮座されておる神社にも、当然1と2の別が存在することとなる」

    『やはり、そうなのですね。今までのお話を伺いながら、漠然とそうじゃないのと思っていましたが、ということは・・・』

    小さく首を振りながら、口を開きかけた青年を、陰陽師が制した。

    「そのあたりの話を説明するには、それなりの時間が必要じゃ。それには今日はちと時間が足らんようじゃな」

    青年はスマートフォンに触れて時間を確認する。

    『いつものことながら、もうこんな時間ですか。では、また別の機会にその話をじっくりご教授ください』

    「あいわかった。寒いから風邪を引かぬようにな」

    青年は席を立って深く頭を下げる。顔を上げると陰陽師が手を差し出しているのが見え、青年はその手を固く握るのだった。

  • 天命と転生回数②

    新千夜一夜物語第10話:天命と転生回数

    『今の時代、科学やITといった理系の分野の方が重要視されている気がしますが、200回以上の文系の人が世の中の影響に与えている分野というものは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?』

    「もちろん、200回以上の人物にも一割くらいは数学者や医者といった理学系もおるわけじゃが、スポーツ選手・芸能人・芸術家などは当然のこととして、面白いのは板前やコックといった、いわゆる料理人じゃ。彼らは先程話した2(3)-3という例外を除き、皆2(7)-3という大山に位置しておる。三ツ星レストランのシェフは言うに及ばず、そこら辺にある大衆食堂のコックも皆この属性を持っているわけじゃな」

    『なるほど』

    「料理などは女の仕事ぐらいに思っておるかもしれんが、こと職業となると、動植物の尊い生命をいただくことになる食を司るということは、実は、非常に大事な、そしてとてもレベルが高い職業というわけじゃな」

    『確かに、料理人は文系の領域という感じがしますし、食物連鎖の頂点に立つ我々人間は、他の生き物の命をいただくことで命を長らえていますものね』

    意気込んでそう話す青年の言葉に小さく頷くと、陰陽師は言葉を続けた。

    「ところで、おぬしは日本の食文化の水準が高いということを聞いたことがあるかの?」

    『あります』

    「実は、食の有名人というのは今説明したように大山の270回台となるわけじゃが、日本人の“3:ビジネスマン階級”の割合が世界に比べて13%ほど高い」

    『ということは、20%に13%をたして、魂3の人が日本には33%もいるわけですか』

    「しかも、それだけではない。同じ魂3の中でも我が国の魂3は2期と3期が圧倒的なことから、日本の食文化のレベルが高いのもある意味当然といえば当然ということになる」

    『なるほど』

    「それだけではないぞ。この特徴は昭和40~50年代の、いわゆる、QC活動などにもいかんなく発揮された。全世界的にみて工場労働者は圧倒的に魂4が多いのじゃが、日本ではそうではなかった。流れ作業で働く彼らの中から様々な提案が生まれ、それが世界に名だたる生産技術の礎になっていったわけじゃ。産業革命を成し遂げたにもかかわらず、工場で働く労働者を監視するためにスーパーバイザーをつけ、そのスーパーバイザー達を見張るためにスーパー・スーパーバイザーをつけなければならなかったイギリスやアメリカと違い、日本の場合は、脳を持った働きアリが多数工場労働者の中に混在していたというわけじゃな」

    青年を横目で見ながら、陰陽師が話を続けた。

    「以前我が国の魂1にはほぼ1-1しかいないと言ったが、これなども上場企業のトップが2-3の武将という世界の常識からすれば非常識ということになり、これが欧米のトップダウンに対し、ボトムアップという日本独特の企業風土を生み出す源泉ともなっておるんじゃ」

    『つまり、魂の属性や転生回数の割合というものは国によって異なるものなのですね! 興味深いです!』

    「割合の違いは国にとどまらず、たとえば各県によっても異なったりする。一例を挙げるとすれば、京都などは人口の9割近くが2期(200回台)の“4:ブルーカラー階級”によって占められておる」

    『9割って、ほとんどじゃないですか!』

    「京都と魂の階級4の話は長くなるので、また別の機会に話すとして、もう少し転生回数と職業の関係について説明をしておくとしよう」

    陰陽師はグラスに注がれた水を飲み、口を開く。

    「たとえば、各省庁のキャリアの国家公務員の99.9%は2(7)−3じゃし、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教のいわゆるキリスト教三兄弟を等含め、伝統・新興の別なく宗教の開祖以外の坊主はそのほぼすべてが2(8)-3となる」

    『宗教の開祖のほとんどは1(7)−1すなわち、転生回数が300回台の“1:先導者”階級なのでしたね。僕は2(3)なのでスピリチュアルには縁があるものの、坊主になる天命ではないのですね』

    「端的に言うと、そういうことになるな。じゃから、くれぐれも何かに感化されて出家したり、仏道の修行を始めようなどと考えたりせんようにな」

    思い当たる節があったのか、青年は一瞬体を硬直させる。そんな青年の様子を見、微笑みながら陰陽師は口を開く。

    「もう一つ例を挙げると、1-1以外の第1期(301〜400回)の魂を持つ人間には、変人が多いという特色もある」

    『変人ですか・・・。大学4年生になると、進路も決まって卒業に向けて人それぞれ自由な行動を取っていくと思うので、なんとなくわかるような気がします』

    過去の自分の体験を思い出してか、青年は苦笑して頭をかきながら言った。

    「しかし、これらも魂の修行の追い込みの時期に指しかかっている第一期の人間の特徴を現世的に見るとそう見えるという意味に過ぎないことは先ほど説明した通りじゃ」

    『はい、きちっと了解しています』

    青年は、一つ頷いてみせた。

    『ところで、3期の人たちは大学生でいうと2年生ですよね。サークルにも単位の取り方にも慣れて、ある意味もっとも大学生活を満喫している時期とったところでしょうか?』

    「3期の人物は世の中に革新を起こす人が多いことも含め、現世的にみてもとても勢いがある。その結果、現世利益に走る傾向の人間が多い。その反面、少し失礼な言い方をすれば少し品がなかったり、世間から白い目で見られがちだったりもする」

    『猪突猛進みたいな印象ですね。欠点があるかもしれませんが、それを補って余りある世の中への影響力があるような』

    「もちろん、その前提として人間は多面体のようなものじゃから、転生回数という側面から見るとそのような理屈が当てはまるものの、たとえば頭の1/2から見ると一概に当てはまらなかったりする。それにじゃ、何度も言うが、これらの特徴を良し悪しで考えることは禁物じゃ。現世的にどのような特色を有していようと、それらはみな各々の転生回数で最適な魂の修行をするために必要な体験なのじゃからな」

    『そうですね。全く記憶にございませんが、僕にも3期だった人生があったんですもんね』

    突然、青年は難しい顔をして黙り込む。陰陽師は微笑みながら青年が口を開くのを待つ。

    『ところで、400回の輪廻転生を終え、魂の修行が完了した後、我々の魂はどうなるのでしょうか?』

    恐る恐る口を開く青年。

    「最後にその話をして今日は終わるとしようかの」

    陰陽師の視線を追って青年が時計を見ると、23時を過ぎていた。

    「魂の誕生から400回の輪廻転生を経ると、その魂は永遠の生命を取得して“セントラルサン”の元でそれぞれの職責を担う。この職責というのは鑑定結果のように四つの階級に分かれておる」

    『“セントラルサン”と永遠の命についてはよくわかりませんが、あの世でもこの世と同じく魂1~4という階級がついて回るのですね。ただし、それらは上下関係ではなく、あくまで役割の違いと』

    「というよりも、我々の魂は、それぞれ魂1~4に見合った職責を果たすために、“カミ“によって作り出されたと考えた方がわかりやすい。そもそも3次元でないわけじゃから、永遠の生命においてどのような職務があるのかはともかく、明確な目的をもって各々の魂が生み出され、400回という輪廻転生を経て独り立ちした魂が、“セントラルサン”の元でそれぞれの職責を担うという仕組みなわけじゃな」

    小さく頷く青年を横目に、陰陽師は話を続けた。

    「さらにじゃ、正しく理解しないとならないのは、あの世と“セントラルサン”がまったく別の世界/領域だという点じゃ」

    『永遠の世とあの世が違うということはなんとなくわかりましたが、それじゃあの世で我々は何をしているのでしょう?』

    首を傾げながら青年は言った。

    「まず基本的な問題として、あくまでもあの世で魂は誕生する。さらに大事なことは、400回の修業が終了するまで、魂の本体は常にあの世にいて、その“分け御霊”みたいなものがこの世とあの世を行き来するという点じゃ。また、あの世とこの世を機能面で分類すると、この世が魂の修行の場という、スポーツジムのような世界だとすると、あの世は修行を終えた魂の休息場所であるとともに次の転生に向けた計画を練る場所といった側面を持っていることになる」

    『なるほど。だから、あの世で28年間休んでから、ふたたびこの世に転生するのですね。トレーニングも休まずに続けていたら逆効果でしょうし』

    「もちろんあの世は3次元のこの世のように過去から未来に向けて時間が一直線に流れているわけではないから、一概に時間的な表現は難しいとしても、この世を基準とした計算ではそのようになる」

    さらに陰陽師は、言葉を続けた。

    「それともう一つ。伝統・信仰宗教が想定する“天国”とか“極楽浄土”という言葉には、“善“以外のものは存在しないイメージがあるが、実際の”セントラルサン“の存在する世界/領域はそうではない。同一の魂同士が集まっているあの世と違い、”セントラルサン“の存在する世界/領域では、たとえば、1-1-1-1-1という数字を持った魂1~4が同一チームを構成して、共通の職責をこなしている。同様に、1-1-1-1-2という数字をもった魂1~4は別チームとして他の職責を果たし、1-1-1-2-2という数字を持った魂1~4は魂1~4で、また別の職責を果たしているといったイメージとなる。このような検証に基づけば、血脈ではなく”霊統のご先祖“や”ソウルメイト“といった問題も、この分類に従うということになる」

    『ということは、魂の特徴を表す五つの数字は魂の誕生以来ずっと不変ということなのでしょうか?』

    「そのとおりじゃ。“イワナ”と“ウナギやナマズ”が一緒に生活するのが無理なように、五つの数字や鑑定結果が異なる人物同士が一緒にいると何らかの不調を感じるのは、魂のチームが異なることで生じているともいえよう」

    『ビジネスや恋愛・結婚の相性が魂の階級や属性で異なることも納得しました。鑑定結果の魂の諸々が近い人物の方が、相性が良いと認識しています』

    「他にも相性の良し悪しの条件はあるが、その傾向が強いことは間違いのない事実じゃ」

    陰陽師は時計を再び見、書類を片付け始めた。

    「それと、先述してきた五つの数字における1/2の“別”は、ともすれば“光が光たるためには影が必要”と捉えがちであるが、そのような“善と悪”の分類そのものが、“思議”(人間の考えが及ぶ世界)の世界の概念なのじゃ。そもそも、そのような“分類”そのものが、400回の輪廻転生を終えたあとの世界では、何の意味もないわけじゃからな」

    『未知なる世界の話ですね・・・“セントラルサン”や永遠の生命についてはまた今度聞かせてください』

    青年は深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの微笑みで彼を見送るのだった。

     

  • 天職と魂の善悪②

    新千夜一夜物語第5話:天職と魂の善悪

     

    「まず一番目の1/2じゃが、文字通りの“善悪”、善悪という言葉が強すぎるとすれば“執着”を意味しており、先頭に2がついた場合は2-2-2-2-2という組み合わせしか存在しない」

    『先頭が2だと全てが2ということは、完全な悪みたいな印象です』

    青年は目を見張った。陰陽師は微笑みで応え、続ける。

    「二番目の1/2には世の中に対して“厭世的”というか、「どうせ、わたしなんか・・・」と“世の中に対し斜に構えている”性格であることを表している。よって、2が二番目だけであるのであれば、逆に、身の回りで起こったすべての不幸・問題を自分の責任として処理してしまうといったポジティブな側面を持っていると考えることも可能じゃ」

    『ここだけ2の人を見ると、悪というよりは変わった人という感じがしますね』

    「三番目の1/2は、他人に対しての“攻撃性”を意味している。“攻撃性”といっても文字通りの“暴力”だけでなく、“言葉や態度”による圧力もその中にふくまれている。また、“愚痴や文句が多い”などという特徴もこの数字の意味する範囲じゃ」

    『“攻撃性”は持って生まれた性格かと思っていましたが、魂の鑑定でもわかってしまうのですね・・・』

    「四番目の1/2は、“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という性格を表している」

    『ここに2がある人に対しては、禍根を残すようなことはしないように気をつけます…』

    陰陽師は深く頷いて応えた。

    「五番目の1/2は、“自己顕示欲”じゃ。スポーツ・芸能・芸術を生業にできるのは2-3-5-5・・・2という属性だけであると先述したが、最後の2に該当するのがこの五番目の2じゃ」

    『なるほど。ここが2であることも芸能界に入るには必要なのですね!』

    首肯する陰陽師。

    「たしかに、過酷なトレーニングを繰り返すことによって超人的なパフォーマンスを披露するアスリート、幾人もの人間を迫真の演技で演じ分ける役者、筆やペンを手に自らの内面から湧き出す情念を表現する画家・作家、自らの情念を五線譜上で表現する作曲家、例を挙げればきりはないが、そのいずれをとっても、一般人の想像を絶する“自己顕示欲”こそがその“原動力”になっているはずじゃ」

    『昔の作曲家の伝記を読んだことがありますが、そんな気がします』

    「同様に、公官庁のおける高級官僚、一部上場企業の社員、一定規模以上の中小企業の社長・役員クラスなども、武将・武士ともに、五番目の1/2はやはり2となる」

    『業界を問わず、上の立場になるには必要な素質なのですね。僕はそこまで昇り詰めようという気概が湧かないかもしれません』

    青年は両手を挙げて降参のポーズを取る。

    「逆に、一番目から二番目にひとつ、あるいは二つ以上の2がありながら、最後に1がある人間は要注意人物ということでもある。いわゆる“外面がいい”タイプで、腹で思っていることとその言動には大きな乖離があるという前提で、相手とつきあう必要があるからじゃ」

    『“自己顕示欲”がないことがよいことかと思いきや、そうした問題もあるのですね』

    「また、どうしても我々は今世を中心としてものごとを考えてしまうので問題があるのじゃが、400回に及ぶ輪廻転生の1回である今世という視点で考えてみると、欲求があるから善いとか悪いということではなく、今回の宿題を果たすにあたり最適な属性を持って生まれてきているということでもある」

    『わかりました。他人を責めずに、これからは自分の人生に集中して生くことにしきます』

    青年の答えに満足したのか、陰陽師は微笑みながら傍にあったファイルを開き、青年に見せた。ファイルの中には、様々なジャンルに分けられた職種が羅列されている。

    「とはいえ、天職ベスト3として具体的な職業も鑑定して伝えるから、人によって何を扱うのかが向いているかはまた別の話じゃ」

    半ば夢中になってファイルをめくっている青年。

    『こんなにたくさんの職業の中から選ばれるのですね。ちなみに、僕のベスト3も教えていただけるのでしょうか?』

    「もちろん。じゃが、天職というのは今世の魂の修行をこなすのに適した職業であって、現世利益つまり高収入になるとは限らないことは忘れないように」

    『わかりました。ベスト3まで教えていただけるということは、ベスト1位の職業で生計が立てられそうにない場合に2位か3位の職業で収入を得やすい方を本業にし、ベスト1位は副業にしたり、あるいはそれだけで生計を立てられるようになったら本業にして専念すればいいのでしょうか?』

    「うむ。ただし、天職診断の結果でベスト3に挙げられたからといって、その仕事をしなければならないというわけではないから、最終的にどんな職業を選ぶかはそなたの自由ということになる。ただし、1位は天命と深く関わりがあるから、その仕事の情報に触れておくは大事じゃ」

    陰陽師の言葉をかみしめるように何度も頷く青年。

    『参考にさせていただきますので、教えてください』

    「あいわかった。そなたの天職ベスト1位は“伝道者”、2位は“気功師”、3位は“ギャンブラー”となる。簡単に言ってしまうと、一見あやしい分野が向いているわけじゃな」

    『確かに、どれも世間はあやしい職業ですね・・・』

    「補足をしておくと、そなたの場合、“伝道者”としての具体的な伝達手段はnoteやYoutubeといったITを駆使して有益な情報を広く拡散していくのが向いているようじゃな。“気功師”は言葉の通りじゃ。“ギャンブラー”は麻雀やポーカーが向いているぞ」

    『言われてみれば、麻雀もポーカーも昔からゲームで触れていました。ただ、職業にするという話になると勇気が要ります』

    「麻雀とポーカーに関しては“勝ち運”があるということではあるものの、すぐに生計が立てられるというわけではないぞ。また、魂の修業という話をこっちに置いておいたとしても、時給換算の仕事に就いて日々の時間を費やすより、それらに取り組む方が長い目で見ると向いているという意味じゃ」

    『なるほど。いくら運がよくても掴み取れなければ意味がないと思います。すぐに稼げるほど甘い世界ではないでしょうし』

    「まあ、そういうことじゃな」

    微笑みながら陰陽師が小さく頷いた。

    『・・・では、せっかく天職のヒントを教えていただけたので、帰ってベスト3の職業について調べようと思います』

    「選択肢がいろいろ出揃って一つに決めきれない場合、運気的にもっともそなたに合っている選択肢をあらためて鑑定することも可能じゃから、そのようなときにはあらためてここへ来るとよい」

    『たとえば、noteの販売価格はいくらがいいのかといった具体的な質問でもいいということでしょうか?』

    「もちろんじゃ。ただし、こうみえてもワシも暇ではない。よって、みる手間を省くためにも、ワシに一から数字を求めるのではなく、そなたなりに金額の候補をいくつか挙げてもらい、その中からワシが最適な数字を選ぶか、yesかnoという二者択一方式で回答できるようにしてもらった方が助かるな」

    『かしこまりました。選択で迷ったらお願いします』

    青年は思案にふけながら帰路についた。天職ベスト3がなぜあれらだったのかはわからないが、いつの日か点と点が結びつく時がやってくるということは、なぜか信じられたのだった。

     

     

  • 天職と執着①

    新千夜一夜物語 第5話:天職と執着

    青年は不思議な心境だった。

    魂の階級という聞いたことがない情報を知り、しかも自分の天職までも知ることができるという人生の転換期にもかかわらず、心中は穏やかだった。もともと死んでもいいと思えていたため、なにを言われても受け入れる覚悟ができているのかもしれない。

    陰陽師が口を開いた。

    「そなたの天職診断の結果は出ておるぞ」

    固唾を飲み、頷いて応える青年。

    「いくつか項目があるから、先に伝えておこう。まずは大枠として、対人向き・不向きに分かれる」

    *対人不向き
    ・事務
    ・職人
    ・対動植物

    *対人向き
    ・対個人:新規(ネットワーク、口コミなど、新規の人間関係が得意)
    ・対個人:人脈(人間関係だけでいく、新規の人間関係が苦手、既存のフォローが得意)
    ・対組織:新規(法人の新規が苦でない)
    ・対組織:人脈(法人の新規は苦手、既存のフォローが得意)

    『こうして見ると、どんな職種で働けばいいかの傾向がわかりやすいですね』

    「そうじゃろう。そして、何を扱うのに向いているのかも分けられる」

    ・物販(“モノ”を扱う)
    ・飲食(“消えモノ”を扱う)
    ・サービス(“コンテンツ”を扱う)
    ・芸能(“自分自身”を扱う)
    ・芸能(2−3−5−5・・・2以外の領域)

    『なるほど。これでさらに業界も絞りやすくなりますね』

    「そなたの場合、それらの項目が“対個人:新規”で、扱うのは“飲食”と“サービス”となる」

    『確かに、誰かに紹介してもらうよりも自分で新しい人を探すほうが得意な気がします。それと、“飲食”は月に1度、1日店長をやっているのが該当しそうですね。また、“サービス”に関しては気功が該当すると思います』

    「一言で“飲食”といっても具体的な仕事は多岐にわたる。お店を構えて料理を提供するということに限らず、食材を販売するというのもこの項目に当てはまるぞ」

    『ということは、八百屋や魚屋も該当するのでしょうか?』

    「いや、それらはあくまで食材の販売だけであるから“物販”の範疇に入る。そして、“サービス”は見えないモノと言い換えることもできるから、情報商材や文章、動画なども含まれる。保険などの金融商品も問題ない」

    『なるほど。サービスと聞いて接客業だけをイメージしていました』

    眉間にシワを寄せ、小難しそうな顔をする青年。

    『“芸能”というのは芸能人やアイドルに向いているかどうか、ということでしょうか?』

    「大きく捉えるとそういうことになるな。そなた、先日話した、現世属性のことを覚えておるか?」

    『・・・数字だけなら覚えています』

    「実は、ここを見ればアイドルを目指してもいいかどうかがわかる」

    『えっ、そんなことまでわかるんですか! 先生がアイドル候補生たちの顔や名前をみれば、どの人が売れるかがわかってしまうということですよね?』

    よほど驚いたのか、興奮気味に話す青年。陰陽師は片手を上げ、青年を制する。

    「まあ、落ち着きなさい。芸能・スポーツ関係の適合者はこれらの数字が“5(*)―5(*)”つまり、基本的気質と具体的性格の上の数字が共に5となっておる。この人々は顔がとても整っていたり、個性的な顔をしていたり、芸能人でよく言われるオーラを纏っている人が多い」

    『このような見立てのできないスカウトの人たちはそうしたオーラを感じ取っているのですかね?』

    「おそらくそうじゃろうな。要は、芸能関係に進みたいと夢見る若者にとって2-3-5-5・・・2という数字を持っているか否かは、正に運命の分かれ道ということになる。詳細鑑定にある”長所”の項目に”芸能”があるが、そこのスコアも考慮すると、さらにこの業界で成功しやすいかどうかがわかるわけじゃ」

    『せっかくデビューしてもなかなか芽が出ない人というのは、ここの数字が違うということですか?』

    「いや、芸能界にデビューできたということは間違いなく2-3-5(*)–5(*)・・・2という数字を持っているんじゃが、その数字を持っていたからと言ってみんながみんな成功するわけではない」

    『つまり成功するかどうかは別として、2-3-5(*)−5(*)・・・2という数字は芸能界への“入場券”の様なものなのですね』

    「まあ、簡単にいうとそうなるかの。ただしいくら入場券を持っていたところで、そこから先は“3:ビジネスマン階級”の世界、実力のある者が頭角を現していくという訳じゃ」

    『僕は7(5)―7(5)なので、芸能界には入れないということですね。ちなみに、7(5)―7(5)というのはどのような意味なのでしょうか?』

    紙に数字を書きながら、陰陽師が説明を始める。

    「ここの数字には、社会生活/仕事をするにあたっての適性が表れている。7(*)―7(*)のように7と7が一致している人は、例えるならOSもソフトも最適じゃ。一方、7(*)―3(*)と数字が一致していない人はOSとしては社会生活/仕事をするにあたり適した番号を持っているものの、ソフトの部分で霊的/精神的に問題を抱えているというになる」『僕は社会生活/仕事をするにあたっては適しているわけですね。ちなみに、7(*)―3(*)の人たちは社会に適応するのが難しいのでしょうか?』

    「7(*)―3(*)の人たちは一般常識や空気を読むことが苦手なので、結果、自分のペースで生きる方が合っているということになる。また、最初からそうした生き方が合っているとわかっていれば、苦手な人付き合いを頑張らなくて済むし、いっそう自分の価値観を大事にしていけばいいだけのことじゃからの」

    『なるほど。ちなみに、(*)の中の数字はなんですか?』

    「それらは適した立場を表している。(*)は1、3、5、7、9とあり、1は社長、3は常務、5は部長、7は課長、9は平社員と考えるとわかりやすい」

    『僕は7(5)―7(5)なので、社会適合者で部長の立場が適しているということですか?』

    「そうじゃな。上の立場の人間と下の立場の人間とも接することができる。まさに管理職じゃ。そなたは部長だから、1:社長の人間の視野で物事を考えたり立ち振る舞ったりするのは難しい。逆に、1:社長の人間がそなたの立場で動こうとしても、うまく指揮をとれないじゃろう。何度もいうが、この数字は人間の上下関係や偉い・偉くないといった意味ではなく、力を発揮しやすいポジションを表しているに過ぎないということじゃ」

    『なんとなく理解できました。話が戻ってしまいますが、2−3―5(*)―5(*)・・・2というのはどのような意味でしょうか? 5(*)―5(*)は現世属性だと理解していますが』

    「最初の2は転生回数が200回代、次の3は魂の階級つまり“3:ビジネスマン階級”ということじゃ」

    『3だけということは、武士・武将を問わずということですね?』

    「そうじゃ。そして、次の・・・2というのは、そなたの鑑定結果を見ながら説明しよう」

    『魂の善悪と書かれていますが・・・』

    眉間にシワを寄せる青年。ふたたび数字が出てきたことで頭を悩ませているようだ。

    『急に項目が増えましたね』

     

     

  • 先祖霊と守護霊

    新千夜一夜物語第2話:先祖霊と守護霊

    青年は再び陰陽師の自宅を訪ねていた。

    怪しいと思いながらも、陰陽師の言葉には重みがあり、嘘や狂言だとはどうしても思えなかった。きっと、今の自分に必要な話だと心のどこかで理解していたのかもしれない。

    「よく来たのお。今日は地縛霊が親族の子孫に取り憑いた場合にどうなるか? について話そう」

    『よろしくお願いします』

    小さく頭を下げる青年に、陰陽師は話し始めた。

    「取り憑かれた親族は、先祖霊の霊障として次の17個の障害がもたらされると考えるといい」

    『え、霊障って17個もあるんですか? それって、どんな障害なんですか?』

    「1.金銭の問題
    2.仕事運の問題
    3.精神の問題
    4.病気の問題
    5.事故・事件
    6.家庭の問題
    7.親子の問題
    8.異性の問題
    9.子宝の問題
    10.伴侶との軋轢
    11.親族との軋轢
    12.読心・暴力衝動。諸事に支障(物)
    13.予知・口撃衝動。諸事に支障(人)
    14.偶発的人的トラブル
    15.慢性的な痛みもしくは原因不明の危険な発作
    16. 輪廻転生のメカニズムへの帰還失敗(対象は故人のみ)
    17.天啓/憑依じゃ」

    『一口に霊障と言いますが、こんなにもたくさんの種類があるんですね…。ちなみに、取り憑かれた子孫は全部の霊障を受けているんですか?』

    「平たくいうとそういうことになる。ただし、人によって強い影響を受けている霊障が異なるのじゃ。もちろん、16は故人を対象としているから除外されるがな」

    『16は亡くなった人が地縛霊化しているかどうかを判断する要素ということなのですね』

    「その通りじゃ」

    『ひょっとして、僕の人生がうまくいっていない原因に、ご先祖様の誰かが子孫である僕に取り憑いているというのが理由だったりしますか?』

    「それは鑑定すれば、すぐにわかるぞ」

    『・・・それでは、鑑定をお願いしてもいいですか?』

    青年は紙に名前と生年月日と出生地を書き、陰陽師に渡した。

    『わざわざ生年月日と出生地まで書いてくれてありがとう。じゃがな、ワシは名前、特にふりがながわかればその人物の素性を鑑定できるのじゃよ』

    「え、名前の音だけでいいんですか?」

    「そうじゃ。”音”には音霊という大きなエネルギーが込められておると同時に、名前というのはその人物を最も表していることから、鑑定には名前の音だけで十分なのじゃよ」

    『なるほど、それはすごいです! 名前そのものに意味があるのではなく、ふりがなを頼りにその人物の情報にアクセスするような感じでしょうか?』

    「まあ、そういうことじゃ」

    『ちなみに、同姓同名の人の場合はどうするんですか?』

    「同姓同名の人物から鑑定の依頼があった時は、職業であったり、依頼者との関係を聞いておる。もっともそれは当人をより正確に特定するためのサポートみたいな役割としてじゃがな」

    『名前が読めない外国人の場合はどうするんですか? 音を読み間違えて伝えてしまいそうです』

    「厳密に言うと、たとえば友人の友人の奥さん御母親といった具合に、名前がわからなくとも依頼者から連なる一連の人間関係がわかればそれでも問題はないということになる」

    目を見開き、黙ったまま固まる青年。どうやら彼の理解の範疇を超えた話だったようである。

    「難しい話はさておき、結論としては名前がわからなくても問題ないということじゃな」

    『・・・理由はよくわかりませんが、ともかくすごいですね・・・』

    「今は話を先に進めるために詳しくは後日伝えるが、残念ながらそなたにも先祖霊の霊障が憑いておるな」

    『やっぱり、そうですか。・・・といいますか、どうせ取り憑くなら守護霊のように僕のことを守ってくれたり幸運をもたらしてくれたらいいのですが。迷惑な先祖ですね!』

    先祖のことよりも、自分の不利益に敏感な青年。死人に鞭打つとはこのことであろう。

    「そうはいっても、原因が家系の因縁じゃからのお。言い方を変えれば、そなたの
    人生がうまくいってなかったのは、そなただけのせいではないということじゃ」

    『どうして僕だけの原因ではないのでしょう?』

    「それはね、この霊障というのは、家系の因縁とも言われておるからじゃ」

    『家系ですか…』

    「その通り。人間がこの世に生を受ける際、当然父方母方の先祖の肉体的なバトンタッチが必要なわけじゃが、彼ら・彼女らの中には無事にあの世に帰還した者もいれば、この世への強い執着や未練を残して成仏できず、地縛霊化している者もおる」

    『それって大丈夫なんですか?』

    「もちろん、地縛霊化している先祖霊は苦しい思いをしている。それで子孫に救ってもらいたくてメッセージを送ってくることもあるんじゃ」

    『危ない場面で助けてくれたりとか?』

    「いや、残念ながらその逆で、それによって危ない場面が引き起こされることがあると思ってもいい」

    『ええ?! 先祖霊って我々を守護している存在なんじゃないんですか?』

    「いや、違う。そもそも守護しているのなら、そんな状況には陥らないはずじゃろう。危険な目にあうどころか、万事が順調に進むじゃろうて」

    『言われてみれば確かに…』

    「霊障を受けている人間は、見えない世界に興味を持つ者がほとんどじゃ」

    『でもそれって、世間ではそういうブームだからなのでは?』

    「もちろんそれもあるが、それでもスピリチュアルや見えない世界にまったくといっていいほど興味を持たない人間も世間には大勢おる。人数としてはそちらの人間の方がはるかに多い。逆に、それらの事象に興味を持つということは、ご先祖が子孫に霊障に気づき、解消してもらいたくて影響を与えているということもできるじゃろう」

    『ということは、唯物論者というか、現実主義というか、この手の話に全く興味がない人には霊障がないのですね?』

    「簡単に言うと、そういうことになる。霊障がある人間とない人間の比率は、おおよそ三七で、霊障のある人間の方が絶対的に少数派ということになるわけじゃ」

    『ということは、霊障がない人は人生で成功しやすかったりしますか?』

    「少なくとも、17種類の霊障による被害はないからの。そうと言えばそうとも言える」

    『なるほど、そうなんですか…。だとすれば、霊障がない人が羨ましいです』

    「まあまあ、そう言うでない。見えない世界を理解できないということは、見えない世界を楽しめないということでもあるんじゃよ」

    『なるほど。ちなみに、霊障はどうして起きるんですか?』

    「例えば、稲荷神社を熱心に拝んでいると、死後に”17憑依”(特に狐)の影響を受ける可能性が極めて高い。本物の神は人間一人一人の私利私欲に満ちた願い事などいちいち聞きはせん。そのような願い事を聞くのは、神ではなくその使い走りの眷属たちと決まっておる。奴らのやっかいなところは願いを叶える代わりに必ず代償を要求することじゃ。奴らがその代償として何を要求してくるとしても結果的に良いことと悪いことが同じくらいの程度で起こると考えておいた方がよい」

    『御利益の代わりにそのしっぺ返しで苦しみたくないので、もうお参りもお願い事もしないようにします』

    「それはそなたの自由じゃが、いずれにしてもそれは賢明な判断だと思うぞ」

    『ちなみにですが、どうしたら地縛霊化しているご先祖様を救うことができるんですか? 僕にも霊障があるということは、亡くなってから今もずっと苦しんでいる人? 魂? がいるんですよね?』

    「今もなお苦しんでいる先祖霊は、神事の一つである“先祖霊の奉納救霊祀り“によって救霊することができる」

    『あ、そうですか! やっぱりそういうことになりますよね! ちょっと用事を思い出したので今日はこれで失礼します!』

    慌てて逃げるように退室する青年。本当に用事があるのかはあやしい様子であった。