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  • 新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    新千夜一夜物語 第29話:インターネットと雑霊の脅威

    青年は思議していた。

    今回は、SNSを介した誹謗中傷を苦に、自ら命を断ってしまった木村花についてである。
    もともとプロレスラーとして活躍していた彼女が、番組を盛り上げるためにそのキャラクターを買われ、テラスハウスという番組に出演していた。ところが、番組中のとある場面をきっかけとして、ツイッター上で誹謗中傷コメントの集中砲火を浴び、それを苦に自殺した。

    今回のように、加害者と被害者の間に面識がない関係、つまり赤の他人からの行為によって、彼女のような有名人が亡くなることは、かつての日本では稀な出来事であった。
    しかし、SNSというツールがこの世に存在する限り、こうした誹謗中傷による事件は今後も起こりえるに違いない。
    あるいはまた、彼女が命を断った背景には、霊障が絡んでいたのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのであった。

    『先生、こんばんは。本日は木村花とインターネットのコメントについて教えていただけませんか?』

    「ほう、それは少々変わったテーマじゃな。して、具体的にはどういった出来事があったのかの?」

    青年は木村花の人となりと、事件の経緯について説明した。陰陽師は指を小刻みに動かした後、青年に問いかけた。

    「ちなみに、そなたなりには木村花の鑑定結果に対し、どのような見立てを立てておるのかな?」

    突然の問いに、青年はかすかに黙考した後、答えた。

    『おそらく、彼女には先祖霊の霊障か天命運に“5:事故/事件”の相がある、あるいは魂の属性が3(9)−3で、スポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触したのではないかと』

    青年の答えに対し、陰陽師は小さくうなずいてから紙に鑑定結果を書き記していく。鑑定結果を見た青年は、表情を曇らせながら口を開いた。

    木村花

    『やはり、木村花はスポーツ・芸能・芸術世界の厳然たるルールに抵触する属性でしたか…』

    「どうやら、そのようじゃな」

    小さく頷きながら、居住まいを正す青年に、陰陽師が問いかける。

    「質疑応答を始める前に、そなたの理解度の確認も兼ねて、魂の属性2−3−5−5…2に関するこの世のルールについて、今一度、そなたの口から説明してもらおうかの?」

    『はい』

    青年は、考えをまとめるように、一瞬黙り込んだ後で、口を開いた。

    『プロのスポーツ・芸能・芸術世界を生業にできる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:武士・武将階級であり、基本的気質と具体的性格の上段の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します』

    そう言うと、青年は一息つき、陰陽師の補足がないことを確認した上で、ふたたび口を開く。

    『また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する人物となります。なお、一部の例外としてオネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物、あるいは、功成り名遂げた後でヌードをさらす女優などは、2(3)−3−5−5…2という属性となりますが、こちらもルール上はセーフとなります。結論として、この世には、2(3)、2(4)、2(7)という差はあるものの、大きくいって2−3−5−5…2という魂の属性を持った人物だけがこれらの世界で働くことができるという、この世の厳然たるルールが存在しています』

    青年のここまでの説明に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「今回の木村花を含め、この世のルールに抵触してしまい、排除命令の対象となる人物の魂の属性については覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5…2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7…2や2(4)―3−5−5…1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます』

    「うむ。しかと勉強しているようじゃな」

    青年の回答に、にこやかに頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「木村花の鑑定結果を鑑みるに、仮に彼女がプロレスに専念していたとしても、いつの日か排除命令によって何らかの事故に遭うか再起不能の大怪我を負って引退していた可能性が高かったわけじゃが、加えて、先祖霊と天命運に“5:一般・事件・自殺”の相があったことを伏線として、テラスハウスに出演したことが決定的な要因となり、排除命令が早まってしまったのじゃろう」

    『つまり、テレビ番組に出演することも2−3−5−5…2の領域ですから、ルール違反が二つになってしまったと?』

    「さよう。わかりやすく言うと、合わせ技一本というわけじゃな」

    陰陽師の回答を聞き、表情を曇らせて顔を伏せる青年。ふと、顔を上げて再び口を開いた。

    『確か、木村花の母親もプロレスラーでしたが、彼女は属性的に問題はなかったのでしょうか?』

    「鑑定しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かして鑑定を始める。
    青年は食い入るように結果を見つめ、やがて口を開いた。

    木村響子

    『なるほど。木村花の母である木村響子は、プロレスラーに適した属性だったのですね』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいて見せ、再び鑑定結果を書き記していく。

    「気になったからついでに鑑定してみたが、木村花は父親とソウルメイトだったようじゃな」

    木村花の実父

    『たしかに数字が似ていますが、魂の属性は血液型のように、両親の属性を受け継ぐものなのでしょうか?』

    「受け継ぐという言い方が適切であるかどうかはともかく、基本的にはそなたの言う通りじゃ。ただし、ソウルメイトの範囲は両親だけに限らず、祖父母、あるいは曽祖父母の14名となる」

    陰陽師の補足に対し、青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。

    『実父はインドネシア人で既に離婚しているとネットに書かれてありましたが、先祖霊の霊障と天命運に“8:異性”の相があるだけではなく、両親共々とも恋愛運が7と低いことから、そのあたりの事情は納得といったところですね』

    陰陽師が、黙って首を縦に振るのを確認した後で、青年は続ける。

    『木村花が母方の魂の属性を受け継いでいたら…とは思いますが、木村花も今世の役割を果たすのに適した属性と環境を選んで転生して来ているのでしょうから、そのような意味では、今回の件はしかたないと考えるしかないのですね』

    「彼女が地縛霊化していたことから、それは何とも言えんな」

    『えっ、そうなのですか。今世の彼女に、他の選択肢が残されていたのかもしれないとおっしゃるのですか』

    そう言い、腕を組んで眉間にシワをよせる青年に、陰陽師は問いかける。

    「今回の事件の発端としては、ネットによる誹謗中傷の影響も大きいということは理解しておるな?」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシの元に日々数え切れないほどの雑霊のお祓いの依頼が来ていることは、そなたも知ってのとおりじゃが、この雑霊、そして生きている人間の“念”というものは、実は、インターネットの周波数と非常に似通っておるんじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は目を見開き、身を乗り出しながら問いかける。

    『ということは、木村花への誹謗中傷コメントを書き込んだ人間の念が、我々が想像している以上に、インターネット上のコメントを介して木村花を自殺に追い込む影響力を持っていたと?』

    怪訝な表情で問う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「ワシのクライアントの中でも霊媒体質のスコアが高い人物に対しては、インターネット、特にSNSの使用をなるべく控えるように言っておる。というのも、投稿者が負の感情をぶつけるような投稿をした場合、それを偶然読んでしまうことで、その投稿が当人に向けられたものでなくても負の感情を拾ってしまい、心身に不調が出ることがあるからじゃ」

    『僕も攻撃的な投稿をする人物の文章を読んだ際に、なんだか胸のあたりがモヤモヤすることがあるのですが、それもそうとは知らずにその人間の念を拾っていたのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高いじゃろうな。以前(※第15話)も話したが、人間の念にはポジティヴ・ネガティヴの両面が存在することから、たとえ発信者が良かれと思って投稿している内容にも注意が必要なんじゃ」

    『あなたに幸せエネルギーを送ります、などといった投稿をよく見かけますが、実は、あれも念の一種なのですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて答え、口を開く。

    「そうした一見ポジティヴな念を拾い、一時的に気分がよくなった気になるかも知れんが、実は、それらは非常に危険な行為なんじゃ」

    『え、そうなのですか。しかし、なぜ?』

    「そのような行為は、ワシに言わせると、ある意味、覚せい剤を使用し、一時的に気分を高揚させているのと何ら変わりはない。さらに危険なのは、それらの行為に、麻薬同様、習慣性があることじゃ」

    『つまり、気分が落ち込んでいる時に、そうしたサイトにアクセスを繰り返すことで、本人にも気づかぬうちに習慣化してしまうと』

    「まあ、簡単に言うと、そういうことになるかの」

    青年の言葉に、小さく頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「そのような行為を繰り返しいるうちに、ネットの世界が精神の安定に必要不可欠だと勘違いし、暇さえあればネットを使用するようになってしまう。そして、その結果、アクセスするたびに他人の念を拾うという悪循環に陥るわけじゃな」

    『なるほど。そのような過程を経て、本人も気づかぬうちに、ネット依存症になっていくわけですね』

    「もっと正確に言うと、万人にネットに依存するなと言っているわけではなく、そもそも、“幸せエネルギー”なぞという怪しげなものに反応してしまう魂の属性3の人間は、そのようなサイトに近づくべきでないと言っているわけじゃ」

    腕を組んで陰陽師の説明に思考を巡らせていた青年だったが、ふと顔を上げ、慌てた様子で口を開いた。

    『しかし、“アクセスするたびに”ということは、例えば、SNSのように双方向のやりとりを必要としない、ウェブサイトを訪問するだけでも、訪問者は影響を受けてしまうのでしょうか?』

    「そなたは、生き霊が相手のことを思い浮かべただけでその人物に飛んでいくことがあるのは理解しておろうな?」

    『はい。怒りや憎しみといった負の感情だけでなく、例えばアイドルに向けられる好きという気持ちといった、一見正(のようにみえる)の感情のようなものも、念/生き霊になり得ると理解しています』

    「うむ。そなたの言う通り正の感情は一見、無害のように思われるが、親から子への過干渉などの例をみればわかるように、受け取る側からすれば、よいものばかりとは限らないものなのじゃ」

    『モテすぎて困っている友人がいましたが、ストーカーも、行き過ぎた正の感情による念と考えると納得がいきます』

    そう言い、腕を組み直す青年を横目に、陰陽師は再び口を開く。

    「さらに、もう一つ危険なことは、ウェブサイトを訪問した時点で、相手の念が自由に行き来できる霊的な道(霊道)を自ら作ってしまうことなんじゃ」

    『なるほど。自分が認識するしないにかかわらず、そのような影響を受けてしまうとは…。いずれにしても、好奇心で怪しいウェブサイトにアクセスしない方がよさそうですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は大きくうなずいて続ける。

    「生きている人間の念/生き霊も含めてワシは雑霊の霊障と呼んでおるのじゃが、そなたのような霊媒体質である魂3の人物は、自身が想像している以上に心身が悪影響を受けていることをしかと頭に叩き込んでおくことじゃ」

    『かしこまりました。霊障の影響を受けない魂7の人々の方が圧倒的に多いため、世間では霊障に関する話題も“気のせい”と一蹴されてしまう風潮がありますが、魂の属性3の僕は魂の属性3の基準で生きようと思います』

    真剣な表情でそう言った後、青年は鑑定結果が書かれた紙を再び覗き込む。

    『木村花も魂の属性3ですから、やはり誹謗中傷コメントから影響を受けていたのですね…』

    そう言い、顔を伏せる青年をいつもの笑みで見守る陰陽師。少しして、陰陽師はふとした疑問をつぶやいた。

    「ちなみに、木村花への誹謗中傷はどういった内容かわかるかの?」

    『アカウントが削除されて今は確認できませんが、調べてみます』

    陰陽師の言葉に顔を上げた青年は、スマートフォンを手早く操作し始める。該当の内容を見つけると、青年はツイートを読み上げる。
    青年が読み上げたツイートを聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    “お前がいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早く消えてくれよ。”

    けんけん

    鑑定結果を見た青年は、小さくため息を漏らしながら口を開く。

    『頭が2で、魂の属性が2−4の人物でしたか。何となく予想はしていましたが…』

    「いつも言っているように、人間は複雑な要素が重なって構成された複合体なわけじゃから、頭が2で魂2−4の人物だからと一括りにしてはいかんぞ」

    陰陽師の言葉に対して青年は小さくうなずいて見せ、再び口を開く。

    『はい。この人物の場合、魂7ですから、自分が発した念がコメントを介してダイレクトに木村花に影響をあたえ、今回のような事件を起こす引き金になるとは思いもよらなかったでしょうね』

    「その通りじゃな。さらに、この人物の場合、“大局的見地”と“仁”のスコアが“30”と極端に低いことから、そもそも自分が発する言葉にしてもコメントにしても、相手がどのように受け取るかということを想像することも難しいのじゃろう」

    『なるほど』

    「で、他に気になるコメントはあるかの?」

    陰陽師の問いに青年は小さくうなずき、再びスマートフォンを操作する。
    青年が読み上げたコメントに対し、陰陽師は一つずつ鑑定結果を書き記していく。

    “「今後は」とか言わずに、今回の件で追跡できるなら徹底してリストアップした上で、なんらかの処罰やペナルティを課すことができないか検討してほしい。人が死んでいることを忘れずに対応してほしい。”

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    “誹謗中傷の画像を保存している人はたくさんいるはず。人が死んでいるんです。追い詰めた側には厳しくしてほしい。もちろん、このきっかけとなった番組側への徹底調査もお願いします。”

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    『この二つは特に反応が多かったコメントだったのですが、魂4と魂3であることが興味深いです』

    「たしかに、魂3の方のコメントは特定の立場の人物を責め立てるのではなく、公正な視点で原因を追求しようとしているのに対して、前者のコメントの場合は、二度と同じような事件が起きないためにどうすべきかというよりは、犯人を探し出し、罰するべきという偏狭な倫理観が先に来ているところが、魂4らしいと言えばそうかもしれんな」

    『先日お聞きしましたが(※第28話参照)、犯人を見つけて罰をあたえたらそれで終わりではなく、“罪を憎んで人を憎まず”ということわざにもあるように、今回の出来事から自分は何を感じたのか、何を学ぶのか、それらを糧としてどう生きていくのかといったことを考えることが重要なのですよね』

    「さよう。ワシが伝えたことをだいぶ理解してきているようじゃな」

    照れ隠しで無言のまま小さく頭を下げた後、青年は次のコメントを読み上げた。

    “たぶんプロレスラーとしての行動に対する誹謗中傷には普通に耐えられたのでしょうが、自身の内面やプライベートな部分に触れる非難はきつく刺さったのかもしれません。そういった意味で、テレビで自分を晒すという事の覚悟が少し足りなかったのかもしれませんね。”

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    『テラスハウスのようなリアルを謳った番組であっても、実際は台本が存在していると聞いています。木村花は悪役のプロレスラーというキャラクターを買われてあの番組に出たのでしょうから、素の自分を100%晒していたとは思えないのですが』

    「番組というのは視聴率が全てといっても過言ではないわけじゃから、出演者のバランスとして、あえてクセのある人物を選び、それらの人物に視聴者がよろこびそうな過激な出来事を意図的に起こさせることなぞは、じゅうぶんあり得るのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は大きくうなずいてから口を開く。

    『Twitterを見るかぎり、普段の木村花の性格は、プロレスや番組上とは違っている印象でした。やはり、自分が番組に選ばれた意図を理解し、ああいったキャラクターを演じていたのではないかと思います』

    「さらにじゃ。ああいった番組は、複数のカメラを設置し、回していることから、出演者個々人の24時間全ての言動を放映するわけではなく、そうやって映した膨大な映像の一部を、番組側の意図に沿った形で切り取り編集することで、視聴者の印象操作も行われていたわけじゃしな」

    『木村花としても、番組や視聴者のことを考えての振る舞いが、あそこまで叩かれるとは思いもしなかったでしょうし。制作者側の演出意図を理解してもらえなかったこと、素の自分が歪んだ形で解釈されてしまったことを考え合わせると、胸が痛むとしか言いようがありません』

    そう言ってうつむく青年を励ますように、陰陽師は優しい声色で語りかける。

    「芸能人といっても、しょせんは我々と同じ、血の通った人間じゃ。芸能や芸術が批判されることはあっても、人格まで誹謗中傷される必要はない」

    『そうですよね。テレビで放映された内容だけが木村花の人格ではありませんし、画面越しに彼女を見ている人物に彼女の素顔など絶対にわかるはずはありませんから』

    そう言い、青年は次のコメントを読み上げた。

    “インターネットで匿名で他人をコキ落とせる形ももちろん問題でしょうが、木村さんにも全く問題がなかったわけではないはず。インターネットでの批判は国民の総意ではなく、ごく一部の暇な自制心がない方の意見にすぎないことを自覚して、動揺しないことです。”

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    『このコメントを書き込んだ人物は、実際に自分が今回のような誹謗中傷のターゲットになったとしたら、こんな悠長なことを言っていられないと思います』

    「その通りじゃな」

    『自ら体験もしていないことを、上から目線、しかもしたり顔で語ってしまうところが頭が2の2−4らしいと思いますし、ダルビッシュ投手が有名人の誹謗中傷の比喩として用いた、“イナゴの大群が自分の周りを通過している写真”を見ながら、僕が有名人であったとしてもSNSを辞めたくなるだろうな、と思いました』

    「たしかに、そなたの言う通りじゃな」

    そう言って苦笑いする青年を横目に、陰陽師は笑みを浮かべながら小さくうなずく。やがて、青年は次のコメントを読み上げる。

    “中傷されていたことがわかっていたのに、番組も周囲も木村さんを助けようとしなかったのだろうか?悪いのは中傷していた人たちだが、誰も彼女が生きている時に救えなかったのだろうか。”

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    『有名人に対する誹謗中傷は日常茶飯事といっても過言ではありませんから、木村花は周囲にヘルプを求めにくかったかもしれませんし、仮に助けを求めても、“気にするな”の一言で片づけられてしまっていた可能性も高いように思います』

    「しかも、この投稿者の場合、魂7であることから、霊障の影響も含め、霊的な問題が介在していたとは夢にも思わんじゃろうからわからないのも無理はない」

    “こういう時信じるべき人はファンです!どんなに素晴らしい人でもアンチは必ずいます。顔の見えないネットからの誹謗中傷を鵜呑みにしないでください!“

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    「この人物のように、励ましの言葉をストレートに表現できる点は、魂4の強みでもあるのじゃろう」

    『頭が1で魂の性質が4、魂の特徴がオール1という少ない属性の人物ですね。しかもパフォーマンスが90%と高い! ある意味純真な4−4だからこそ、他者の視線に晒される有名人のアカウントにおいても、このような応援コメントを書けたのでしょうね』

    「さよう。いくら魂1〜3が論理ベースであるとは言え、感情がないわけでもないし、感情の一側面である情念なぞは魂3の専売特許であるわけじゃが、気分が落ち込んでしまった時には、こうした頭1の4-4の直球とも言える応援が落ち込んでいる当人にとって、一番の薬なのじゃろうな」

    『生前、木村花がこのようなメールに目を通していてくれれば、あるいは最悪の決断を思いとどまったのかもしれませんね』

    「その通りかもしれんな」

    小さく頷く陰陽師を見ながら、青年は言葉を続ける。

    『ところで、このコメントは、誹謗中傷コメントの次に投稿されていたのですが、人の感情は正よりも負の方が強いのか、木村花には誹謗中傷の念の方が強く残ってしまったのだと思います。SNS、特にTwitterは負の感情が込められた投稿の比率が他のSNSに比べて多い気がします』

    「ワシの場合、おぬしと違いそれほど多くのTwitterに目を通しているわけではないが、おぬしの言うように、負の投稿の方が圧倒的に多いことはたしかなようじゃし、誰が投稿したにせよ、Twitterという発信方法が、感情の捌け口として使用されている側面は否定できぬのかもしれんな」

    “コスチューム事件はどっちもどっちですが、自分は間違ってないと考えていた花さんにも問題はあると思うし、そこに対しての批判は別に良いと思う。ただ、人格否定や消えろといった誹謗中傷はよくないと思います。”

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    『この人物は頭が2の魂3ですか』

    属性表を覗き込みながら、青年が言葉を続ける。

    『たしかに、世の中には批判と誹謗中傷を混同している人は多いと思いますし、特定の事象を悪として規制や禁止の対象とすれば問題が解決するわけでもないと思うのですが』

    「たしかにそなたの言う通り、臭いものに蓋をすればいいという単純な問題ではないのじゃろう。世の中の大多数の人間が我々のようなものの見方をできない以上、決定的な解決策を探し出すのは、かなり難しいのじゃろうな」

    「たしかに」

    陰陽師の言葉に小さく頷く青年を眺めながら、陰陽師が訊ねた。

    「ところで、ここにあるコスチューム事件とはどういった内容なのかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は該当する記事をスマートフォンで見つけ、陰陽師に見せる。
    一通り記事に目を通した後、陰陽師は口を開いた。

    「なるほど。木村花にとっては、コスチュームは職業道具であり、かなりの金額を費やして作成したものなわけじゃな。そして、そんな大事なものを一般の洗濯物と一緒に出した木村花も不注意じゃったかもしれぬが、当該の男性の方も職業道具へのリスペクトが足りなかったわけじゃな」

    『それに対し、彼女は男性に対し暴言を吐いていましたが、ああいった言動も番組を盛り上げるための演技だったのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はかすかに黙考し、口を開く。

    「半分本音で半分演技だったのじゃろうな。つまり、怒ったのは本当だったとしても、怒りの表現方法については、彼女がキャラクターを演じて過剰に行なったと思われる。そして、そこに魂4の偏狭な正義感が反応し、誹謗中傷をしたのじゃろう」

    『自分を中心にものを考えると、その時の映像を見ている時に感情が動くこともあるとしても、時間がたつにつれ、あれは番組の演出なんだと気づき、誹謗中傷コメントを残すまでにはならないと思うのですが』

    「それは頭が1で魂が3のおぬしだから言えることであって、参加意識が高い魂4の場合は、少々事情が違う。彼らの偏狭な正義感に火がつき、感情の赴くままにコメントを書くわけじゃから、誹謗中傷の方が多くなってしまうのは当然の帰結なのじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は苦渋の表情を浮かべて腕を組み、黙り込む。
    陰陽師はそんな青年を横目に、湯呑みの茶を飲む。
    やがて、青年は顔を挙げて陰陽師に声をかけた。

    『ふと思ったのですが』

    「うむ?」

    『インターネットがなかった時代は、政治家や芸能人の悪口や誹謗中傷は自宅や、居酒屋で酒を飲みながらするか、テレビ局などに直接電話するくらいがせいぜいだったものが、ネットを使い、掲示板やSNSにコメントができ、それが公開されるようになった結果、本人にまで直接届いてしまうようになったのですよね』

    「うむ。インターネットの存在によって庶民に発言権があたえられ、しかも参加意識が高い魂4がこぞって発言した結果、彼らの意見があたかも大多数の意見として捉えられるようになってしまい、彼らの偏狭な正義感に触れると事実がどうであれ、たちまち炎上し、拡散する困った風潮が定着してしまったことだけは間違いあるまい」

    『そして、炎上した出来事に関して、僕たちのような属性分析ができないマスコミもテレビ局も、紙媒体の新聞社も、ネットのコメントに気を遣わざるを得ない現状になりつつあると』

    「その通りじゃ」

    『さらに言うと、政治家もその例外ではなく、政治家の小粒化が起きている原因の一因も、参加意識が高く、偏狭な正義感を持った魂4のインターネットへの参加が原因なのだと(※第13話参照)』

    青年の補足に陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「庶民が自由に発信できるようになったといった問題だけでなく、庶民には関係ない情報まで自由に受信できるようになってしまった、という問題もあることを忘れてはならぬぞ」

    『そうでした。知識や知恵を共有するという意味では、インターネットには大きなメリットがあり、科学と技術の進歩に必要不可欠な反面、堅強な正義感が、時として暴走をする怖さというものをしっかり認識する必要があるわけですね』

    「それだけではなく、魂の属性3(霊媒体質)の人間にとって、そもそもSNS自体が危険であるという認識も忘れてはならぬ」

    『そうでした。人間の念、特に負の感情が蔓延するという意味でデメリットがあるとのお話でしたよね』

    「その通りじゃ。インターネットの周波数と雑霊のそれとが類似しているために、なおさら個人に対して念が届きやすくなるという危険性については、今回の木村花の事件でそなたもよくわかったことじゃろう」

    『はい。大量の誹謗中傷をネット上でのいじめと考えるなら、ネットを介して見知らぬ人物からのいじめによって、有名人が命を絶ってしまったことは大きな問題だと思います』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、再び口を開く。

    「とは言え、今回の事件が大きな問題を孕んでいるとしても、インターネット自体の恩恵をいまさら無視することもできんわけじゃし、インターネットなしの世界に戻ることなぞ、なおさら現実的な話ではない。故に、せめて魂4の“大局的見地を欠いた、偏狭な正義感”により先鋭化する意見に“染まる/同調する”ことなく、そなたも含めた魂1〜3の人物が、もっとネットに積極的に参加し、“公正な”意見・主張を繰り広げてほしいと願うばかりじゃ」

    『そうですね。インターネットのメリットとデメリットをよく理解したうえで活用していこうと思います。また、情報を集める時は信憑性や本質をよく吟味し、自分なりの意見をしっかり主張していこうと思います』

    「その意気じゃ。参加意識が高い魂4のコメントだけを拾われて、それが国民の総意にされてしまわないように、ぜひ頑張ってほしい。それともう一つ」

    黙って続きを待つ青年と視線を合わせ、陰陽師は続ける。

    「インターネットを使用していて心身の不調を感じたら、他者の念/雑霊のお祓いを依頼することも忘れぬようにの」

    『はい。何か不調を感じたら、我慢せずに依頼します』

    青年は力強い眼差しで大きく頷く。そんな青年の様子に満足したのか、陰陽師はいつもの笑みをたたえてうなずく。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、時計を見て口を開いた。

    「そろそろ時間のようじゃな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    『今日もありがとうございました。また、よろしくお願いします』

    そう言い、青年は立ち上がって深々と頭を下げる。
    陰陽師はいつもの笑みで小さく手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、青年はアトピー性皮膚疾患に悩んでいた過去を思い出していた。
    現在はほぼ完治しているが、当時はムシャクシャした時に、いけないとわかっていながらも肌を掻きむしってしまい、症状を悪化させていた。あの行動は、他者の念/雑霊の影響によって“15”の症状が顕在化していたのだろう。

    雑霊による精神疾患

    ほとんどの現代人にとって、SNSを使わない日はないと言っても過言ではない。だからこそ、心身の不調を感じた時は“気のせい”、“すぐに治まる”と思わず、陰陽師に雑霊のお祓いを依頼しようと、青年は決意を新たにするのだった。

     

     

     

     

    帰宅後、どうしても確認したいことがあり、青年は陰陽師に電話をかけた。

    「どうした、こんな時間に。何かあったかの?」

    『いえ、そうではないのですが、地縛霊化している木村花の魂は、母親である木村響子や他の誰かが救霊の神事をしない限り、ずっとこの世に留まることになるのですよね?』

    「正確には、彼女に子孫がいないことから、しばらく時が経った後に親族の中で魂の属性3の人物にかかることになる。もっとも、彼女にかかられた親族が、彼女の魂を救霊できる霊能力者(±1〜3)と出会えなければずっと地縛霊化したままじゃが」

    両者の間に沈黙が流れる。
    やがて、意を決した青年は真剣な表情で口を開く。

    『木村花は僕にとっては赤の他人ですが、そんな僕が彼女の救霊神事の依頼することは可能なのでしょうか?』

    青年が取る選択を予想していたのか、いつもと変わらぬ陰陽師の声が返ってきた。

    「もちろんじゃとも。というより、そなたならそう言うと思い、今し方神事をしておいたところじゃ」

    呆気にとられ、しばらく言葉を失う青年。そんな青年の様子がおかしかったのか、受話器越しに陰陽師が小さく笑っているのが聞こえる。

    『先生には敵いませんね』

    小さくため息をつきながら、青年はそうつぶやく。

    「まあ、ワシの人生にもいろいろあったからのお」

    そう言い、さわやかな笑い声を上げる陰陽師に対し、青年は無言で頭を下げて答える。

    「あとはどうじゃ。まだ他に聞きたいことはあるかの?」

    『いえ、大丈夫です。遅い時間にありがとうございました』

    「どういたしまして。おやすみ」

    その言葉を最後に、電話は切れた。

  • 新千夜一夜物語 第26話:芸能界から排除されそうなプロデューサー

    新千夜一夜物語 第26話:芸能界から排除されそうなプロデューサー

    青年は思議していた。

    スポーツ・芸能・芸術の世界において天から排除命令が出るとして、スカウトマンやプロデューサーと出会わなければ、排除命令によって過去にこの世を去った偉人たちは、別の職業で長生きできたかもしれない。

    彼ら/彼女らの人生を大きく狂わせたと言っても過言ではない、スカウトマンやプロデューサーたちにも、排除命令の余波のような影響が当然あってもおかしくないのではないか。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は芸能界の排除命令について、もう一度教えていただけませんか?』

    「そなたはそのテーマに関して、随分と熱心じゃな。して、今日は具体的にどのようなことを知りたいのかな?」

    『排除命令に該当する人物の運命を、別の人物が代わりに引き受けるなんてことはあるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲んでから口を開いた。

    「ワシは芸能界にほとんど興味がないので、実例を何件も探し当てたわけではないが、答えとしてはYESじゃ」

    『まさか、本当にそんな人物がいるとは! いったいどなたなのでしょうか?』

    身を乗り出す青年を片手で制し、陰陽師は答えた。

    「知っておるのは一人だけじゃが、元シャ乱Qのつんくじゃ」

    そう言い、陰陽師は席を立って鍵のかかった引き出しから書類の束を持ってきた。
    陰陽師が書類をめくる様子を眺めながら、青年は問いかける。

    『つんくということは・・・彼が咽頭癌で声帯を失ったのは、モーニング娘。のメンバーの誰かが排除されるのを阻止した結果ということなのですね?』

    「というよりも、モーニング娘。は、彼がプロデューサーをしていたわけだから、彼がいなければ世に出なかったグループということになる。もちろん、彼自身は芸能界に適した魂の属性なのじゃが、オーディションであまりに多くの3(9)-3を選びすぎた。おそらくこれほどの3(9)-3芸能界に送り込んだプロデューサは彼をおいて他におらんじゃろう」

    そう言い、陰陽師は一枚の紙を青年の前に差し出す。

    つんく

    鑑定結果を一通り眺めた後、青年は口を開く。

    『ということは、他のアイドルグループに比べ、モーニング娘。のメンバーには3(9)−3の人物が多いのでしょうか?』

    青年の問いに陰陽師は首肯してみせ、続ける。

    「さらに、つんくには作詩・作曲家・歌手という側面もあるが、モーニング娘。のみならず、グループを卒業した個人にまで延々と作詞・作曲を提供し続けていたことも考え合わせると、あの悲劇も致し方ないといえば致し方ないじゃろうな」

    『つまり、本来であればアイドルとして芸能界で活躍すべきでなかった3(9)−3の彼女らを芸能界へ送り込んでしまった責任がそれだけ重かったと。それに、彼には天命運に“4:病気/怪我”の相がありますし』

    テーブルの上に広げられた何枚かの紙を見つめながら、青年が悲痛な声を絞り出し、その言葉に陰陽師はうなずいて見せた。

    後藤真希

    市井紗耶香

    安田圭

    安倍なつみ

    全員の鑑定結果にもう一度目を落とした後で、青年は再び口を開いた。

    『この結果を見て思い出しましたが、“プッチモニ“は第一期のメンバーが後藤真希と市井紗耶香と安田圭で、第二期のメンバーは市井紗耶香が脱退した後に吉澤ひとみが加入したので、3(9)−3のためのグループだったといっても問題ないですね』

    「もちろん、つんくに霊能力がないわけじゃから、これらの事態は不可抗力だとしても、人数が多すぎる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてみせ、口を開く。

    吉澤ひとみ

    『吉澤ひとみは2018年に信号無視・飲酒ひき逃げ事件を起こしてましたが、天命運の“5:一般・事故・加害者・怪我”に納得です。ちなみに、当時は“ハロー!プロジェクト”のまとめ役という重要なポジションだったようですが、この事件が排除命令なのでしょうね』

    「彼女がこの事件を契機として芸能界を引退するといっておるようじゃから、あるいはそうかもしれんな」

    『あと、タンポポには石川梨華と加護亜依がいましたね。加護亜依と辻希美は似ている部分があったのでその当時から比較されていましたが、モーニング娘。を卒業した後の明暗は本当に大きく分かれてしまった感があります』

    「辻希美は恋愛運が高く、異性絡みの相がなかったために幸せな結婚生活を送っているようじゃが(※第22話参照)、加護亜依はその後どうなっておるのかな?」

    陰陽師に問われ、青年はスマートフォンを操作しつつ答える。

    『加護亜依はママタレとして復帰したものの、2019年に薬物疑惑による影響があってか、所属事務所との契約が解除されたようです」

    「なるほど。おそらくそれも排除命令の一つじゃろうな」

    加護亜依

    石川梨華

    青年はなおも子細に鑑定結果を見比べた後、ふたたび口を開いた。

    『ちなみに、モーニング娘。の現役のメンバーで排除命令に該当している人物はいるのでしょうか?』

    「では、さっそく鑑定してみるとするかの」

    青年が読み上げる現役メンバーの名前に耳を傾けながら、陰陽師はその内のひとりの人物の名前と鑑定結果を書き記していく。

    石田亜佑美

    その人物の経歴をスマートフォンで検索した後、青年は口を開く。

    『石田亜佑美は小学3年生から東北ゴールデンエンジェルスJr.チアリーダーズとして活動し、モーニング娘。に加入する前からバックダンサーとしていろんなイベントに出演していたようですし、2018年12月31日からモーニング娘。のサブリーダーに就任するなど、これまでの経歴は順風満帆なようですね』

    「ということは、まだ排除命令が出ていないことになるが、このままいくといつ何時、何が起こっても不思議ではないかもしれん」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は鑑定結果に目を通してから口を開く。

    『天命運の“4:病気”の相と健康運が7という鑑定結果から、病気にかかってしまうのではないでしょうか?』

    苦虫を噛みつぶしたような顔で言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。

    「石田亜佑美が排除されるか、このまま彼女の起用を続けるプロデューサーが身代わりで何らかのペナルティを受けるか、いずれにしてもただではすまん感じじゃな」

    『ところで、AKBを始めとする多くのアイドルをプロデュースしている秋元康はどうでしょう。彼は大丈夫なのでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲み、秋元康の鑑定結果を書き記していく。
    青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師はようやく口を開いた。

    「未来のことは何とも言えんが、秋元康も危ういかもしれんな」

    秋元康

    青年は鑑定結果を見、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『秋元康自身は芸能人ではないわけですから、属性はこれでいいのでしょうが、問題は彼がプロデュースしているAKBを中心としたグループにあると』

    そう言い、青年はお手上げをしてそのまま後頭部に両手をそえる。

    「もちろん、彼がプロデュースするグループのすべてをみたわけではないが、AKBをはじめとして、代表的なグループ、その主要メンバーはみな2−3−5−5…2じゃったことから、こちらは問題ないと思う。問題は、最近プロデュースしたグループのメンバーの中に」

    『3(9)-3がいると?』

    「さよう」

    『で、なんというグループですか?』

    「詳細はわからんから、彼がプロデュースしているグループ名を挙げてくれんか?」

    青年は早速スマートフォンで当該のグループの検索を始め、検索結果を読み上げ始める。

    「それじゃ。そのラストアイドルという名前じゃったな」

    『“兼任OK”、“14〜26歳”、“どこの事務所でもOK”という、多くの人物に門戸が開かれたアイドルグループ、“ラストアイドル”、これですね。この中のメンバーは・・・』

    青年は再びスマートフォンを操作し、メンバーの名前を読み上げる。

    「テレビか雑誌で見かけた程度じゃから、名前だけでなく顔写真も見せてもらえるかの?」

    青年は黙ってうなずき、スマートフォンを陰陽師に渡す。
    陰陽師は慣れない手つきでスマートフォンの画面をスワイプし、該当の画面を眺めては鑑定結果を書き記していく。

    阿部菜々実

    西村歩乃果

    青年が鑑定結果を見終わった頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「今後考えられることとして、この二人が問題を起こして排除されるか、あるいは秋元康が二人を庇護することで、代わりになんらかの問題を起こす可能性のどちらかじゃろうな」

    『鑑定結果を見る限り、特に天命運に“5:一般・事件・加害者”の相がある西村歩乃果が何らかの事件を起こす可能性が高そうですね』

    陰陽師は小さくうなずくのを確認し、青年は続ける。

    『彼女の場合、元々は美容師として裏方で働いていたところ、カワイイから表に出た方がいいと何度か言われ、いざオーディションに応募したら合格してしまったという経緯があるようです』

    「今後どうなるとしても、天命に沿った生き方という意味では、彼女はアイドルよりも、美容師として才能を発揮するべきなのじゃがのう」

    真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は微笑みながら言う。

    『天命運に“2:諸事万般”の相があることから、今の状況になっているのかもしれませんね』

    納得顔で頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「それと、忘れぬうちにもう一つ。秋元康本人なんじゃが、ワシが調べたかぎり、おびただしい数の作詞を、AKBを筆頭としたグループに提供しておるようじゃが、そちらの方がもっと気にかかるな」

    『つまり、歌の歌詞であったとしても、詩である以上、2-3-5-5…2ルールに抵触するわけですね?』

    「その通りじゃ」

    『ということは、先程の“ラストアイドル”の問題よりも、こちらの方がある意味、根深い問題だと?』

    「さよう」

    しばらく思案にふけてから、青年は再び口を開く。

    『天命運に“4:病気/怪我”もあることですし、秋元康がつんくのように大病を患わないことをただただ願うばかりです』

    無言でうなずく陰陽師に対し、ふたたび青年は問いかけた。

    『ちなみに、先生が今までに鑑定した中で、一番印象に残っている芸能人はどなたでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「強いて言うなら、辛坊治郎かな」

    『辛坊治郎といえば、今はあちこちでTVに出ているようですが、たしか元々はアナウンサーだったかと』

    「テレビであれラジオであれ、アナウンサーも立派に2−3−5−5・・・2のルールに含まれる職業ゆえ、3(9)-3である彼がいるべき場所ではないのじゃが、経歴が極めて特殊なことから、踏鞴(たたら)を踏みかねない状態ながら今日まで決定的な排除命令を受けていないということもできるのじゃが」

    陰陽師の答えに対し、青年は少し驚いた表情で言った。

    辛坊治郎

    「ざっと彼の経歴について調べてみたのじゃが、彼は大学4年次の就職活動で埼玉県庁の上級職試験に合格し、住友商事から内定を受けた。しかし、大学就職部の掲示板でフジテレビのリポーター・司会者(アナウンサー)募集に受験し、受験者1,300人から3名に絞られた7次選考の最終面接で落ちたが、12月に大阪の読売テレビから突然電話があり“フジテレビの最終で落ちたそうだが良かったら弊社を受けてみないか”と誘われて受験して合格した」

    『ある意味、すごい強運ですね』

    「読売テレビに入社後は地方リポーターを8年間担当し、1997年、アナウンサーから報道局に異動した。その後は報道部チーフプロデューサーへ就任し、同職と並行する形で“報道特捜プロジェクト“のキャスターや、関西ローカルの”元気モンTV””あさイチ!”でコメンテーターなどを担当しておる。2003年7月からそれまで特番だった『たかじんのそこまで言って委員会』がレギュラー昇格となり、やしきたかじんとともに司会を担当。2010年8月に、翌月末で読売テレビを退職して10月からシンクタンクの研究員になる旨が報道され、自身がキャスターを務める『朝生ワイドす・またん!』で記事を取り上げ本人も公表。退職後は自身が設立したシンクタンクである大阪綜合研究所へ移籍し、退職後も番組出演を続ける」

    『3(9)―3の“大々山”にふさわしい、多才な経歴ですね』

    「その後も、2016年4月から放送を開始した「直撃!コロシアム!!ズバッと!TV」で司会進行に大抜擢され、読売テレビ以外の番組で初めてレギュラーに選ばれた辛坊治郎の場合はさらに事態が重く、もはやグレーゾーンというよりはブラックゾーン真っ只中という感があった」

    『そんなに活躍しても決定的な排除命令が出されなかったことが、意外といえば意外です』

    感嘆の声を上げる青年に対し、陰陽師は小さく首を振ってから答える。

    「ところが事態はそれほど楽観的ではないんじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「まず手始めに、彼は2012年12月19日、大阪市内の病院で、十二指腸の腫瘍(後に初期の十二指腸癌と判明)を摘出している」

    『それはさすがに排除命令に抵触した感じがします・・・』

    「そして極めつけは、2013年6月に、全盲のヨットマン岩本光弘を補助し、福島県いわき市の小名浜港から2カ月の予定でアメリカ合衆国のカリフォルニア州サンディエゴを目指すも、6月21日に(国籍不明の潜水艦だという説が根強くあるが)クジラと思われる生物と衝突してヨットが浸水し、漂流。7時45分に118番通報したものの、10時間近く救難艇で漂流し、18時14分にようやく海上自衛隊の救難飛行艇に救助されておる」

    度重なる辛坊治郎の事故話を聞き、青年は言葉を失う。
    そんな青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「彼がいまだこの世の最終的な“排除命令”を受けていない理由として考えられるのは、大阪府を中心とした近畿地方の政治・経済・文化、およびアジア・太平洋地域における環境・観光・民族文化・経済開発についての研究・調査・およびそれを基とした講演活動などを行なっていたり、メディア研究の経験をもとに、様々な大学で客員教授を務めているからじゃと思われるのだが、いずれにしても細い塀の上を歩いているようなものじゃから、いつどうなるかは何とも言えん」

    『つまり、政治関係のキャスターだけでなく、それ以外の分野にも携わっているから、ということでしょうか?』

    「さよう。一般番組のMCなどに手を出すことなく、現在キャスターを務めている日本テレビ系“ウェークアップ!ぷらす”のような、自分の専門分野ともいえる番組に限定して活躍をすれば、排除されずに済むかもしれんがの」

    『そう願うばかりです』

    陰陽師の言葉に、深くうなずく青年。しばらく沈黙を守ったのち、ふたたび口を開く。

    『ちなみに、辛坊治郎以外に排除命令に該当するアナウンサーはいらっしゃるのでしょうか?』

    「いや、ワシが鑑定した古今東西の数百人におよぶアナウンサーの中では、2-3-5-5・・・2以外のアナウンサーは辛坊治郎以外、いまだ存在しておらぬ」

    『なるほど。それだけの数の方々をみられているとすれば、問題のある人間はほとんどいないのでしょうね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて続ける。

    「実際、入社試験と霊能力を持たない面接官の数回にわたるスクリーニングだけで、古今東西のアナウンサーのほぼすべてが2-3-5-5・・・2であるという事実は、この世が偶然の結びつきだけでできてはいない、顕著な証左の一つなのじゃろうな」

    『辛坊治郎の経歴を鑑みるに、彼を採用しなかったフジテレビは“カミゴト”として“見る目があり”、彼にわざわざ声をかけ最終的に採用した読売テレビは“見る目がなかった”と言えそうですね』

    「そうじゃな。万が一、辛坊治郎にこれ以上の厄災が降りかかる事態が起こるとすれば、そもそも彼をこの世界に引き摺りこんだ読売テレビこそ、最大の責任者と言えなくもないからのお」

    青年は腕を組みながら苦笑し、口を開く。

    『読売テレビの今後が気になるところです・・・』

    「ところで、そなたは西川史子なる人物を知っておるかの?」

    『はい、整形外科医でありながら、ちょこちょこTVに出ている方ですよね?』

    「さよう」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「実は、彼女も辛坊治郎同様、かなり危険な道を歩んでおるひとりなんじゃ」

    『ということは西川史子も、2-3-5-5…2ではないと?』

    「もちろん彼女は医者なわけじゃから、3(9)-3の可能性が高いことはおぬしもわかるじゃろうが、詳しい話をする前に彼女の鑑定結果を出そう」

    西川史子

    鑑定結果を見た後、青年は口を開く。

    『西川史子は晩婚かつ結婚後しばらくして別居し、結局は離婚になったと記憶していますが、天命運に“8:異性”の相があることと恋愛運が3と低すぎる結果から納得できます』

    「話を聞く限り、そなたの言う通りじゃな」

    『彼女は元々が医者ですので、つい最近までレギュラーであったサンデージャポンで医学の話題がある時に限り、呼ばれていたようです。その後、飯島愛の芸能界引退に伴い、レギュラーとして出演し、結婚前は高飛車なキャラクターを活かしていじりキャラとして出演していましたが、いざ自身が結婚した後の結婚生活は散々だったため、いじられキャラに転落していました』

    「つまり、排除の圧力がとみに高まっていたというわけじゃな」

    青年はスマートフォンを操作していた手を止め、口を開く。

    『調べたところ、西川史子は2020年3月22日にサンデージャポンを卒業したようですね』

    「卒業も排除命令の一つと思われるが、ワシが知る限りでは病気を患っていたと思うが、そのあたりの情報はあるかの?」

    陰陽師の問いに青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作して口を開く。

    『2016年、2017年と胃腸炎で入院していたそうですが、こうした出来事も排除命令の一つかもしれませんね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「今回は胃腸炎で済んだが、今後はどうなるかわからん。ちなみに、西川史子がサンデージャポンを卒業した経緯についてはわかるかの?」

    しばらくスマートフォンを操作したのち、青年は口を開く。

    『今後も芸能活動を続けたい、テレビが大好きでたまにはゲストとして呼んでもらいたいと言っていたことから、本人の意思ではなさそうですね』

    「であれば、排除命令に抵触した可能性が高いじゃろうな。彼女の場合、あくまでも医師に基軸を置きながら芸能活動をしていたために命までは取られずに済んだと思われるわけじゃから、今後その比重をさらに医学側にかけて、細々と芸能活動を続けるのであれば、これ以上の問題を避けることができるかもしれんがのう」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は納得顔で何度もうなずきながら答える。

    『先生のおっしゃる通り、どうしても芸能界に未練があるというのであれば、無事でいられる形で活動を続けていただきたいものです』

    「話題に挙がったからついでに話をしておくと、サンデージャポンでの西川史子の前任であった飯島愛も3(9)―3じゃったんじゃ」

    青年は目を見開き、手早くスマートフォンを操作した後、口を開く。

    『飯島愛は2007年3月に“夢や目標が見出せず、芸能界で生き残っていくことは不可能”として引退表明をしていますが、腎臓病(腎盂炎)が原因とも言われています』

    「彼女は3(9)−3ゆえ、本来は理科系で医者にもなれたはずじゃが、彼女が医師を目指そうと思った時には、年齢的に遅すぎたのかもしれん。他にも、精神的にいろいろあったようじゃしな」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、口を開く。

    『飯島愛は2008年12月17日前後に自宅で肺炎によって亡くなり、24日に親戚の女性によって発見されたとのですが、室内の暖房が点いたままだったため、遺体は腐乱していたようです』

    「“日本のモンロー”とも言わしめた彼女としては、筆舌に尽くしがたい最期というわけじゃな。西川史子も、あのまま番組の出演を続けていたら、ひょっとしたら同じ様な結末を迎えていた可能性もなきしもあらずなわけじゃから、不思議な縁といえば不思議な縁ということができるじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は視線を落とし、重々しく口を開く。

    『飯島愛、西川史子と続いたことから、サンデージャポンには3(9)―3枠があるような気がしてきましたが、今後のレギュラー出演者の魂の属性はどうなることやら・・・。今後は排除命令に抵触する人物が採用されないことを願うばかりです』

    「ワシも同感じゃ。あるいは、西川史子の後釜となる人物が3(9)−3になったとして、今度は番組のプロデューサーが身代わりとなって何らかのペナルティを負ってしまう可能性も考えられるしな」

    そう言うと、陰陽師は壁時計に目をやる。
    それに気づいた青年は、スマートフォンで現在時刻を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送る。

    帰路の途中、スポーツ・芸能・芸術の世界に縁がある人との関わりを、少しずつでも増やしていこうと思う青年だった。

  • 新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    新千夜一夜物語 第25話:芸能界から排除されそうな人物

    青年は思議していた。

    スポーツ・芸能・芸術の世界において天から排除命令が出るならば、排除命令に該当する人物に鑑定結果と排除命令について伝え、事前に別の生き方を選んでもらうことはできるのではないか。

    命を落とす可能性もなきにしもあらず、特に若手や業界歴が短い人物にこそ、早めに伝えておいた方がよいだろう。

    突然そんな話を伝えても聞く耳を持ってもらえないかもしれないが、過去の偉人の例を伝え、説得するだけの材料があれば少しは耳を傾けてもらえるかもしれない。

    そう思い、青年は再び陰陽師の元を訪ねた。

    『先生、こんばんは。今日は今後排除されてしまいそうな人物について教えていただけませんか?』

    「その話題について話すことはやぶさかではないが、いったいなにゆえに?」

    『若手や業界歴が短い人物の中で、何らかの問題を引き起こす、あるいは巻き込まれる前に防げたらいいのではと思いまして、排除命令に該当する魂の属性の人物をご存知でしたら、教えていただきたいと思ったのです』

    「本人たちに話したところで、到底納得してもらえる内容ではないと思うが、それでも知りたいのじゃな?」

    念を押す陰陽師に対し、真剣な表情でうなずく青年。
    青年の意思を感じた陰陽師は、小さくうなずいてから口を開く。

    「本題に入る前に、スポーツ・芸能・芸術の世界の厳然なルールについて、そなたの口からもう一度説明してもらえるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『上記の世界で活躍できる人物は、魂の属性が2(4)-3−5−5…2か2(7)−3−5−5…2、つまり輪廻転生の回数が240回代の“小山”か270回代の“大山”の魂3:ビジネスマンであり、基本的気質と具体的性格の数字が共に“5”で、魂の特徴の最後の数字の上段の数字が“2”に該当します。また2(4)はスポーツと芸能、2(7)は芸術全般に従事する魂の属性となります』

    「なかなかよく整理されているようじゃが、大事なことをあと一つ忘れてないかな?」

    『そうでした。一部の例外として、オネエやセクシー女優といった、個性を売りにしてデビューした人物の場合、転生回数だけが230回代すなわち“数奇な人生を歩む”属性となります』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうにうなずく。
    陰陽師の様子を確認し、青年は続ける。

    『排除命令というのは、“2−3−5−5…2”以外の魂の属性の人物が上記の業界に入ってしまった場合、何らかの事件・事故を引き起こしたり、巻き込まれることで業界から追放されてしまう現象を示しています』

    「で、排除命令に該当する例として、どのような魂の属性がおるか、覚えておるかな?」

    『転生回数が190回代で運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2や、芸術関係に限定されますが転生回数の十の位が70回代で運気が“大山”である370回、1(7)−3−5−5…2があり、転生回数期が早すぎても遅すぎても排除されてしまいます』

    「あとひとつ、それ以外の条件も覚えておるかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はあごに手を当てて黙考した後、口を開く。

    『あとは、転生回数が第二期であっても、2(4)―3−7−7・・・2や2(4)―3−5−5・・・1といった、一部の数字が異なるだけでも排除の対象になってしまいます。具体例としては、前者は藤圭子さん、後者はピエール瀧さんと、以前鑑定結果を教えていただいた記憶があります』

    「うむ、2-3-5-5…2ルールをなかなかよく勉強しておるようじゃな」

    微笑みながら言う陰陽師を見、青年は安堵のため息をもらす。
    そんな青年に対して小さく笑ってから、陰陽師は口を開いた。

    「で、具体的に新たに気になる人物に心当たりがあるのかな?」

    青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『若くして白血病が発症した、競泳のオリンピック選手として注目されている、池江璃花子選手はいかがなのでしょう。ルール的には大丈夫なのでしょうか?』

    青年の問いに陰陽師は無言でうなずいて見せ、鑑定結果を書き記していく。

    池江璃花子

    『なるほど。3(9)−3−5−5…“1”ということは、池江選手も・・・』

    その先の言葉を飲みこんだ青年の思いを察し、陰陽師は口を開く。

    「いくら未来が不確定じゃとしても、このまま彼女が選手として復帰するようなことがあれば、残念ながら、ふたたび病状が悪化してみたり、別の問題を起したりする可能性は高いじゃろうな」

    『天命運に“4:病気”の相がありますし、健康運が7と少し低いことを踏まえると、納得できます。ただ、7という数字は極端に低くはないと思いますので、これからの過ごし方次第で命を落とすことは避けられるのでしょうか?』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「もちろん、彼女が現役を退き指導者として水泳界に関わるという前提はあるが、そうしてくれさえすれば天寿を全うすることは可能じゃろう。彼女は、そもそも3(9)―3という“大々山”であることも含め、学業も大局的見地の数値も高いわけじゃから、指導者としてメダルを望める後進を育てる能力は高いはずじゃしのう」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を吐いて胸をなでおろす。

    『僕も彼女のファンでしたので、できることであればそのような道を歩んでもらえればと思います』

    「その通りじゃな。ワシも彼女の泳ぐ姿には少なからず勇気をもらったひとりとして、彼女には何とか天寿を全うしてほしいと思っておる。そのためにも、選手としての道をあきらめて指導者としての道を選んでくれること願うばかりじゃな」

    幾分気がかりそうな顔をしながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、小耳に挟んだ話では、池江選手はヒーリングを受けているようじゃが、施術者が誰なのか調べられるのかな?」

    陰陽師に問われ、すぐに青年はスマートフォンで検索を始める。

    『施術者はタレントのなべおさみです。彼の“ハンドパワー”なるものを受けているようですね』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は鑑定を始める。

    なべおさみ

    鑑定結果を見、青年は口を開く。

    『タレントだけに、やはり2(4)―3−5−5…2なのですね。しかも、“±7”の霊能持ちとは!』

    やや興奮気味に話す青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

    「鑑定結果を見る限りは、たしかにそれなりの霊能力はあるようじゃが、“カミゴト“にたずさわるためには少なくとも”±1〜3“であることが必須となることを、よもや忘れてはおるまいな?」

    陰陽師に問われ、青年はハッと息をのんで我に返る。そして、少し罰が悪そうな様子でおずおずと口を開く。

    『以前(※第3話参照)、説明していただいたことをすっかり忘れていました』
    記憶を辿った青年は真剣な表情になり、再び口を開く。

    『ということは、池江選手の天命運の“4:病気”の相も、第7チャクラの乱れもいまだ正常にはなっていないわけですね?』

    「残念ながら、その通りじゃ」

    言葉を失い、目を見開く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「なべおさみの場合、頭が1であることからいい方なのじゃろうが、残念ながら“この世とあの世の仕組み”といった問題に理解があるわけではないから、現役選手としてスポーツ界に留まることの方が、今回の病気以上に危険であるというアドバイスをしてくれるわけでもないしのう」

    『たしかにそうですね。目先の病気の回復に手を貸すことも大事でしょうが、それ以上に、その原因の芽を摘み取ることの方がはるかに重要ですからね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「出会いが“必然”である以上、池江選手が誰と出会い、どのような治療方法を選ぶかは、結局は彼女自身の問題なのじゃろう。しかし、できることであれば、これを機に彼女が選手をあきらめ、指導者としての道を歩んでくれることを祈るばかりじゃな」

    『僕もそう願っています。ちなみに、他に日本を代表する人気スポーツであるプロ野球選手と大相撲力士の主なところをリストアップしてきましたが、この中に今後排除命令の対象となるか、鑑定していただいてもよろしいでしょうか?』

    陰陽師がうなずくのを確認し、青年はスマートフォンを操作してスポーツ選手の名前を読み上げる。
    途中、陰陽師が片手をあげるのを視認し、青年は口を閉じた。

    「そなたが挙げた中では、角界の遠藤関とヤクルトスワローズの若き大砲、村上宗隆選手が該当するな」

    そう言うと、陰陽師は鑑定結果を書き始める。

    遠藤聖太

    鑑定結果を見、青年はスマートフォンを操作して口を開く。

    『ネットで確認すると、遠藤関はお世話になっている周囲の人々に対して結婚報告をしていなかったことから、 “タニマチ”である人物の逆鱗に触れてしまったようですね。僕は相撲に詳しくありませんが、後援会の後押しがないと引退後に親方になることが難しいようです』

    「さよう。遠藤関の個人後援会である“藤の会”は、日本大学の理事長である“田中英寿”さん夫婦が中心となって発足したこともあり、上下関係に厳しく、筋を大事にする体育会系において、結婚の報告などをしなかったことは田中英寿さんの顔に泥を塗るようなものじゃろうな」

    『彼は結婚する前に、田中理事長の奥さんから紹介された女性と交際していたようですが、その女性と別れての結婚という経緯も踏まえると、裏切ったと思われてしまってもしかたないと思います』

    陰陽師は鑑定結果の一部に印をつけ、再び口を開く。

    「今回の件で遠藤関が角界から退場させられることはないが、このまま力士を続けていると今まで以上の怪我をしてみたり、重篤な病気にかかる可能性が今まで以上に高くなるじゃろうな」

    青年はスマートフォンを操作し、遠藤関の経歴を調べ、読み上げる。

    『彼は日大4年次に団体戦の主将を務め、さらには個人戦で全日本相撲選手権大会優勝(アマチュア横綱)および国体相撲成年個人の部A優勝(国体横綱)という2つのビッグタイトルを取得したことにより、市原孝行(後の幕内力士)以来史上2人目となる幕下10枚目格付出の資格を取得したようです』

    「たしかに入幕当初は、久しぶりの日本人の大関・横綱候補と言われておったわけじゃしのう」

    そう言う陰陽師に対し、青年は言葉を続ける。

    『しかしながら、新入幕の9月場所12日目の德勝龍戦で左足首を負傷してしまったようです。皆勤すれば三賞を受賞する可能性もあると言われていたようですが、13日目の栃煌山戦で患部をさらに悪化させてしまい、“左足関節捻挫で約3週間の安静加療を要する見込み”との診断を受け、14日目から途中休場したとのことです。場所後の秋巡業には参加したものの、申し合いには参加しないで軽い調整に留まり、さらに捻挫だけでなく剥離骨折、さらにはアキレス腱炎まで発覚したと』

    「健康運が7と少し低いことと、天命運の“4:病気/怪我”の相が現れておるとして、このあたりから“排除命令”が出ていたのかもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉をひそめ、暗い表情で続ける。

    『その後、2015年3月場所では初日に豊ノ島に破れた後は4連勝と好調だったようですが、5日目の松鳳山との一番に突き落としで勝利した際、左膝半月板損傷・前十字靱帯損傷の重傷を負ってしまい、休場を余儀なくされたとのことです』

    ますます表情が暗くなる青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「遠藤関も池江選手同様に排除命令に抵触していることは確かなわけじゃから、五体満足、健康体でいる内に、別の人生を模索してもらえたらとは思うがの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は神妙な表情でうなずく。

    『次は、村上宗隆選手の鑑定結果をお願いします』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずき、筆を進める。

    村上宗隆

    『彼の場合も、天命運に“4:病気/怪我”と“5:一般・事故・被害者”の相から、池江選手のように何か重病を患うか、交通事故などによって選手生命を脅かされるような怪我を負ってしまうのかもしれませんね』

    「それだけではなく、危険な箇所にデッドボールを受けたり、二塁ベースに滑り込んだ際に交錯して思わぬ大怪我を負ってしまう可能背なぞ考えればきりはないが、どのような形で排除されてしまうかは天のみぞ知る。その前に何とかなることを願うばかりじゃな」

    陰陽師は新しい紙を用意してから再び口を開く。

    「ところで、ものはついでじゃ。タレントでもモデルでも何でもかまわんが、その関連で何人か名前を挙げてもらえるかの?」

    陰陽師の依頼に青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作しながら、次々名前を列挙していくする。
    青年が挙げた人物を聞き、陰陽師は該当する人物の名前と鑑定結果を書き記していく。

    「今あげてもらった女性の中では、橋本梨菜とアンミカが3(9)-3じゃな」
    青年は口をつぐみ、結果が出るのを待った。

    橋本梨菜

    『橋本梨菜は7歳から子役でデビューしていたようですね。15歳になった2008年からアイドルユニットを結成していましたが、2014年に解散したようです。ひょっとして、この解散の出来事が排除命令と考えることができるのでしょうか?』

    「橋本梨菜は天命運に“2:諸事万般”の相があることから、アイドルユニットが解散した要因が排除命令か天命運の障害によるかは断言できぬが、3(9)―3である以上、遅かれ早かれ何らかの問題を起こして芸能界から排除されることは間違いあるまい」

    青年は黙ってうなずき、再び鑑定結果を見てから口を開く。

    アンミカ

    『アンミカは天命運に“4:病気”と“5:一般・事件・加害者”の相があり、恋愛運と健康運の数字が7と低いという鑑定結果から、異性関係のトラブルで精神的に病んでしまい、覚醒剤に手を出してしまうという予感がしています・・・』

    「もちろん、その可能性がまったくないとは言わぬが、何度も言うように、人生は様々な要因が複雑に重なり合ってできているわけじゃから、鑑定結果の一部の数字だけでの早合点は禁物じゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせ、口を開く。

    「今度は、男性陣で気になる人物を挙げてもらえるかの?」

    青年は陰陽師の言葉にうなずいて答え、名前を読み上げる。
    一通り青年が名前を読み上げたところ、陰陽師は鑑定結果を書きながら口を開く。

    『滝川英治、松重豊、“チャゲ&飛鳥”のASKAが該当者じゃな」

    滝川英治

    松重豊

    画像9

    『滝川英治は2017年ドラマ撮影中に自転車で転倒し、半身不随になってしまったようです。この出来事が排除命令だったと思いますが、最近、リハビリの成果があってパラスポーツ番組のMCとして復帰したようです』

    青年はそう言い、うかがうような視線を陰陽師に向ける。
    陰陽師は青年の思いを察し、小さくうなずいてから口を開く。

    「彼の人生には同情するが、パラスポーツ番組のMCも2-3-5-5…2ルールの範囲内であるわけじゃから、このままだと、また何かあるかも知れんな」

    『“孤独のグルメ”の主演である松重豊も、そうなのですね・・・』

    暗い表情でそう言う青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「以前(※第23話)も説明したが、槇原敬之のように芸能界に適した魂の属性の人物と、ASKAのように排除命令に該当している人物とでは、同じ覚醒剤関連の事件を起こしたとしても、その意味するところはまったく違う。後者の場合はあくまでも天からの采配であって、100%本人の意思で起こしてしまったわけではない、ということを覚えておくようにの」

    『たとえば、精神に異常をきたし、薬物に手を出さざるを得ないような状況に追い込まれていくというお話でしたね』

    そう言うと、青年はスマートフォンで現在時刻を確認する。

    『そろそろ時間ですね。本日も長い時間ありがとうございました』

    「うむ。こちらこそ、なかなか楽しい時間じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は席を立ち、深く頭を下げて退室する。
    陰陽師は小さく手を振りながら、いつもの笑みで青年を見送った。

    道中、青年は鑑定結果を見た芸能人たちのことを思い返していた。
    彼ら・彼女らに芸能界から引退するように伝えたとして、多くの人が憧れる業界以外の道で幸せを感じられるのだろうか?

    芸能界に身を置いていた頃と比較して、生きがいややりがいを感じられなくなったり、嘆き悲しむ時もあるのではないか?

    しばらく考えた後、青年は神事を終えた今の人生がベストだと思っているため、無用の心配だと思い直した。

     

    《過去に排除命令の対象となった人物》

    音楽家のベートーベン、モーツァルト、歌手/ミュージシャンのエルビス・プレスリー、ジミ・ヘンドリックス、ジョン・レノン、ジャニス・ジョプリン、フレディ・マーキュリー(クイーンのボーカリスト)、マイケル・ジャクソン、坂本九、清水健太郎、田代まさし、尾崎豊、チャゲ&飛鳥のASKA、俳優の田宮二郎、大原麗子、松重豊、ファッションモデルのアンミカ、画家のゴッホ、エドヴァルド・ムンク、詩人のアルチュール・ランボー、小説家の芥川龍之介、太宰治、ノーベル文学賞受賞者の川端康成、ヘミングウェイ等々枚挙にいとまがない。

    一方、スポーツ界に目を転じてみても、東京オリンピック銅メダリストである円谷栄治、100メートル走金メダリストのジョイナー、昭和40年時代に“黒い霧事件”で球界を永久追放になった小川健太郎以下三人のプロ野球投手、清原和弘、力道山、サッカー界のレジェンド中田英寿、元横綱の朝青龍、現役選手としては、最近白血病を発症し話題となった水泳選手の池江瑠花子、元学生横綱で角界一のイケメンの遠藤、ヤクルトスワローズの若き大砲村上宗隆なども、皆3(9)-3-5-5・・・2である。

  • 新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

    青年は思議していた。

    シンガーソングライターの槇原敬之さんが、覚醒剤所持により再び逮捕された事件についてである。

    スポーツ・芸能・芸術を生業にすることが許されているのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2に限られるという。だが、今世の運気が“大々山”である魂の属性が3(9)―3の人物が稀にそれらの世界に入ってしまうことがあり、その場合、この世の“排除命令”が出て退場させられるとも聞いた。

    では、槇原敬之さんはどちらの属性であるのか?
    今後、彼は芸能界に復帰できるのか?
    あるいは、“排除命令”によってこのまま芸能界から退場となってしまうのか?

    答えを確認すべく、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は芸能界とこの世のルールについて教えていただけませんか?』

    「うむ、そのテーマか。して、何かきっかけとなる事件でもあったのかの?」

    『先日報道されました、槇原敬之さんが覚醒剤所持によって再逮捕された事件です。ひょっとして、彼はこの世の“排除命令”の対象となる属性ではないかと思ったのです』

    「その説明をする前に、そなたの理解している2-3-5-5・・・2のルールを復唱してもらえるかな?」

    青年はあごに手を当ててしばらく黙考した後、口を開く。

    『オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にできるのは、魂の属性が2−3−5−5・・・2の人物に限られるというルールのことです。つまり、転生回数期が2期(201〜300回)で魂の種類が“3:ビジネスマン”、基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字が共に5、魂の特徴の最後の数字が2という属性のことです。例外として、“オネエ”や“ポルノ/AV女優”などの人物がこの世界に入ってきた人間は、時として2(3)-3-5-5・・・2のケースもあり得、代表的なところでは、マツコ・デラックスさん、デヴィ婦人、吉高由里子さん、橋本マナミさんなどがいらっしゃいます』

    黙ってうなずく陰陽師を見、青年は続ける。

    『ただし、運気が“大々山”である3(9)−3−5−5・・・2、すなわち転生回数が3期(101〜200回)で十の位が90回の人物が時としてスポーツ・芸能・芸術の世界に足を踏み入れることがあり、その場合は“排除命令”が出る、という認識をしています』

    「うむ、大方のところはしっかりと理解しているようじゃな。そなたの説明にあえてつけ加えるとすれば、いずれは排除命令が出てしまうが、1(7)−3−5−5・・・2、すなわち、転生回数が1期(301〜400回)で十の位が70回代という、運気が“大山”の人物も含まれること、こちらの場合はほぼ芸術に限られるということも忘れぬようにの」

    陰陽師の言葉をじゅうぶんに理解できなかったのか、青年はしばらく固まってから返答した。

    『・・・今更で恐縮ですが、もう一度だけ転生回数期について確認してもよろしいでしょうか?』

    「もちろん」

    微笑む陰陽師を見て青年は安堵のため息をつき、続ける。

    『この世は魂磨きのための修行の場であり、全ての魂は例外なく、400回輪廻転生します。転生回数期は400回の輪廻転生を100回ごとに分けたもので、人生における年齢のように、期によって特徴があると認識しています』

    「そなたの言葉につけ加えると、以下のようになる」

    青年の言葉を聞き、陰陽師は紙に各期と輪廻転生回数について書き記していく。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『“第一期”を頂点として数字が小さいほど転生回数が多く、“第四期”へ向けて数字が大きくなるほど転生回数が少ないことに注意が必要ですね。以前、転生回数が若い、第三期と第四期は基本的に理系で、第一期と第二期は基本的に文系とお聞きしましたが、期ごとにもう少し具体的な特徴はあるのでしょうか?』

    「もちろん。まずは第四期じゃが、各魂1〜4に共通する傾向として、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。また、物事の判断が極めて即物/短絡的という特徴を持っておる」

    『この世のことについてこれから学んでいくという意味では、人生でいうところの学生時代に該当するわけですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、続ける。

    「次の第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、とくに前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『なるほど。これから活躍の幅が広がっていく、勢いがある若手社員という感じですね。後半の運命の“大々山”である190回代に勢いがピークを迎え、世の中に革命をもたらす存在になると』

    「その通りじゃ。この“大々山”は、武士・武将問わず、魂3特有のものなのじゃが、平和賞・文学賞を除いた理系のノーベル賞を受賞するのは、アルベルト・アインシュタイン始め、すべて3(9)-3の時期の人間たちと決まっておる。医師も同様で、WHO、FDA、厚生省の役人や臨床分野や病院などの経営に携わっている1-1、2-3という少数の例外を除けば、医師のほとんどが3(9)-3となる」

    『つまり、3(9)-3は理系の大御所というわけですね!』

    「3(9)―3の活躍の場はそれだけにとどまらず、東証一部の上位400社に目を転じてみても、1(7)-1の松下幸之助を唯一の例外として、創業者はことごとく3(9)-3じゃ。さらに言えば、創業者が現役の社長であるソフトバンク、楽天、ジャパネットタカタ(現在は社長を退かれています)、ユニクロなどもその例に漏れない」

    『なるほど。研究の領域だけでなく、経済分野でも大活躍しているのですね』

    感嘆の声を漏らす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一つ飛ばして第一期じゃが、老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになるのじゃろうが、この法則を魂1~4にあてはめると、もっとも厄介なのが魂3ということになる」

    『ゲゲエ! そ、そうなのですか。1-3というと、精神的に成熟し、世の中の法則を理解した老師のようなイメージですが、実際は違うのでしょうか?』

    予想外のことを聞き、戸惑う青年。陰陽師は小さく首を振ってから口を開く。

    「その直前の第二期で芸能/芸術の世界で活躍した感受性・情念豊かな魂が、老年期を迎えて上記のような老年期特有の特徴を増幅させると、その言動と行動は往々にして一般人には理解不能なものとなる」

    『なんだか、“奇人・変人”みたいですね』

    冗談まじりに言う青年に対し、陰陽師は真剣な表情でうなずき、口を開く。

    「そのとおりじゃ。この世には“奇人”と“変人”という二種類の人種が存在するとして、“奇人”が、この世の常識的な中心線を理解したうえで、その中心線から一定の距離を置くことで自らのアイデンティティを主張しようとするのに対して、“変人”は、世の中の常識的な中心線を認識できない人間のことを指す。極端な言い方をしてしまえば、文字通りの“気狂い“ということになるのだが、当の本人が”まともな常識人である“と思い込んでいることから、周りの人間にとっては迷惑以外の何物でもなかったりする」

    『以前に鑑定を依頼しました、歩きながらぶつぶつ独り言を言っていた人物がそうでしたね』

    「あのケースは他にも色々と問題のある数字が連なっておったが、1-3に限っては、たとえ他の数字がまともだとしても、切れやすい、偏屈、へそ曲がりといった特徴を大なり小なり持っているから注意が必要なのじゃ」

    『なるほど。明日は我が身なのですね』

    「まあ、かなり遠い未来の話じゃが、残念ながらそなたも例外ではない」

    小さく頷く青年に、陰陽師は言葉を続ける。

    「最後に第二期じゃが、人間にたとえれば41~60歳にあたるこの時期は、現世での円熟期に相当している。魂1:“先導者”を除く各魂がこの世で各々の特徴を最も顕在化させるのがこの時期で、魂3だけがスポーツ・芸能・芸術を生業にできるといっても、それが可能なのはこの時期だけなわけじゃ」

    『なるほど。そのような輪廻転生のメカニズムがあるからこそ、スポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できるのは2−3−5−5・・・2という、厳然なルールにつながるわけですね』

    「基本的気質と具体的性格を表す5-5という問題を捨象すれば、一部上場企業の標準的な役員構成なぞも、役員が20人いるとすれば、会長、社長を中心に1-1が1~2人、(3(9)-3と若干名の2-4という人間が例外的に1人か2人混じっていたとしても)残りはすべて2-3の人々ということになる。私企業から出発し、上場によって社会的公共性という側面を有したとは言え、利潤という責務を負った現場では熾烈な競争が日々繰り広げられる以上、トップである1-1の周りにはそのような人材が必要というわけじゃな」

    『以前、欧米の大企業や韓国の“財閥”などのトップのほとんどが2-3の人々で、“トップダウン”による意思決定が行われていると仰ってましたね』

    陰陽師は紙に三角形を描き、上下の矢印を付け足して続ける。

    「さよう。我が国では、元々聖職者である1-1が上場企業のトップを務めておることから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけるというよりも、多数決や満場一致を旨とすること圧倒的に多い。そのため、経営の意思決定形式としても、トップダウンより“ボトムアップ”という形になるくだりは以前に話した通りじゃ」

    『そのような意味では、“神の国日本”という表現は言い得て妙ですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    「で、話をもとに戻すと、スポーツ・芸能・芸術の世界が、転生回数期が第二期の魂3:ビジネスマンの世界となることから、3(9)ー3のように転生回数が早過ぎても1(7)ー3のように遅過ぎても排除されるという、この世の厳然なルールが適用されるわけじゃな」

    『しかし、排除命令によって、実際どのようなことが起こるのでしょうか?』

    「それが起こる時期は人によりまちまちのようじゃが、遅かれ早かれ、病気、精神障害、事故、事件、犯罪などに巻き込まれ、最悪の場合はこの世そのものから排除されてしまうこともままある」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は息を飲む。しばらくして、重い口を開いた。

    『ということは、今回の槇原敬之さんのように、再犯を起こして芸能界から排除されたのも、天の采配なのでしょうか?』

    「その前に、槇原敬之さんを鑑定してみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師は小刻みに指を動かし、鑑定を始める。そして、青年が固唾を飲んで見守る中、紙に結果を書き記していく。

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    『やはり、槇原敬之さんの魂の属性は、芸能界向きでしたか。おや?』

    鑑定結果をしばらく眺め、首を傾げながら再び青年は口を開く。

    『2―3ということは、彼は芸能界からの“排除命令”が出たわけではないのですね?』

    ちょっと驚いたような青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「少なくとも、今回の件はこの世の“排除命令”が働いたのではないようじゃな」

    『ということは、今回の件は、彼の自己責任というわけなのですね』

    「端的に言うとそういうことになるが、今回の再犯の要因をあえて挙げるとすれば、天命運の“5:事故/事件(加害者)”の相と“2:諸事万般”の相あたりが考えられなくはないが」

    『なるほど。話が少し脱線しますが、槇原敬之さんは同性愛者の疑惑があるそうで、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3と極端に低いことから、あながち間違いではないと思うのですが』

    「たしかに、恋愛運をみる限りその可能性はあながち否定できないと思うが、以前も話したように、鑑定結果の一部の数字だけで人を判断することには大きな危険を伴う」

    『そうでした! 気をつけます』

    罰が悪そうに答える青年に対し、陰陽師は微笑みながらうなずいて見せる。

    『では話を元に戻しますが、槇原敬之さんの場合、芸能界に復帰できるチャンスがまだあると考えてもよろしいでしょうか? 人生のアップダウンが最大値の1でもありますから、おそらく、今のパフォーマンスのままではまた何らかの事件を起こしてしまうのかも知れませんが・・・』

    「もちろん、今までの芸能界の慣習に照らしてみるかぎり、彼の場合はミュージシャンなので復帰できる可能性は高いと思うが、人生のアップダウン度から推測するに、そなたの危惧はあながち的外れとは言えないじゃろうな」

    『僕は槇原敬之さんの歌で励まされたこともありますので、罪を償って、なんとか復帰してもらえたらと思います』

    「そうじゃな。罪を償う体験を経て、また新たな名曲が生まれないとも限らぬからのう」

    弱々しく言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら答える。

    『たとえばですが、芸能人を鑑定して転生回数が分かれば、今後復帰できるか否かがある程度わかるのでしょうか?』

    「いつも話しているように人間は“多面体”のようなものじゃから、全体の数字を精査しないと確定的なことは言えないが、少なくとも芸能界に話を限れば、2-3-5-5…2という数字さえ持っていれば、復帰することは構造的には不可能でもないとは思うが」

    『ちなみに、素朴な質問なのですが、3以外の魂はともかくとして、どうして3(9)-3-7-7や2(4)ー3-7-7では、これらの職業につけないのでしょう?』

    「7-7はこの世で仕事をするのに最も適した番号ということは説明したはずじゃが、5-5の場合も、オリンピックレベル以上のスポーツ選手、伝統芸能を含めた芸能全般、芸術全般を生業にするにあたりもっとも適した番号という能力の持ち主であることを表してしているわけじゃ」

    「ということは、これらの業界ではおなじ3-3や2-3でも7-7の番号を持った人間は、オリンピック選手や、プロにはなれないということなのですね」

    「もちろん、3-3ー7ー7や2-3ー7ー7の中にもスポーツや音楽が得意なものは大勢いる。中学のインターハイあたりで優勝したり、幼いころから数種類の楽器を弾きこなす者もいることじゃろう。しかし、高校にあがり、2年、3年生となるにつれて5-5を持った人間に追い抜かれ、結局はプロにまで行きつかないわけじゃな」

    『なるほど。ということは、スポーツ選手や芸能人を鑑定すれば、7―7か5-5かという問題は当然のこととして、今後スポーツ界や芸能界から排除される運命の人物がわかるわけですね?』

    「もちろんじゃ。して、だれか気になる人物がおるのかの?」

    『少しお待ちください』

    青年はスマートフォンを操作して気になる有名人の名前を挙げ、陰陽師は鑑定を始める。

    陰陽師が書き記した結果を見、青年は驚きの声を上げた。

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    『なるほど。この三人は、皆3(9)−3なのですね。そして、天命運に“5:事故/事件(加害者)”の相があると・・・』

    「田代まさしさんは、ちょうど音楽家として舞台に復帰しようとした矢先にこの世の“排除命令”が再び働き妨害が入り、あの事件が起きたのじゃろうな」

    『よりによってそんな時期だったとは。まさに排除された感じがします』

    目を見張る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「他のふたりも含め、彼らは芸能界からの追放だけで済むのであれば、別の場所でその才を発揮して頑張るという選択肢も残されるのじゃろうが、懲りずに復帰を試みるようなことがあると、またどんな取り返しのつかない事態になるか、ワシにも想像がつかん」

    『最悪、命を落とす可能性もあるのですよね?』

    「もちろんじゃ」

    恐る恐る言う青年に対し、陰陽師は神妙な面持ちでうなずいて見せる。

    「さらに一言つけ加えておくと、天命運やチャクラの乱れによる影響があったとは言え、槇原敬之さんは自分の意思で薬物に手を出したことになる。一方、他の三人はあくまで“排除命令”によって薬物に手を出さざるを得ない状況に追い込まれた可能性が非常に高いということになるわけじゃな」

    『適切な表現かはわかりませんが、田代まさしさんと清原和博さんと沢尻エリカさんは運命の被害者とでも言うことになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『もしそうだとするなら、同じ薬物絡みの事件とは言え、同情してしまいます』

    青年は重いため息をつき、再び口を開く。

    『本人の才能や意志とは無関係に、時として非情な現実をもたらすのがこの世のルールだということは、今回の件でも十分に理解しました。現世利益を追求しながら生きることを否定するつもりはさらさらありませんが、自分の魂の属性を把握し、今世の役割を果たすことの大事さをあらためて再認識させられた次第です』

    「一見厳しい話になるかも知れんが、この世が“修行の場”であることをしっかりと理解していれば、いつの日か、自分なりに納得のいく結論を間違いなく見つけられるはずじゃ」

    暗い表情で話す青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。
    青年はスマートフォンの画面を見て時計を確認し、口を開く。

    『そろそろ時間ですね。本日もありがとうございました』

    「うむ。気をつけて帰るのじゃぞ」

    青年は深々と頭を下げて席を立ち、陰陽師は微笑みながら小さく手を振って彼を見送る。

    青年は帰路の途中、神事が済んでからのことを振り返っていた。
    もともと好奇心が旺盛だったために、いろんなイベントに参加していたものの、自分の天命と関係がないイベントでは得るものがほとんどなく、時間とお金を浪費してしまった実感があった。
    もちろん、イベントや参加者に非があるのではなく、今日の話を聞いて、自分が関わることもよく吟味する必要があると再確認したのだった。

  • 天命と転生回数①

    新千夜一夜物語第10話:天命と転生回数

    青年は鑑定結果と天職診断の紙を並べ、思索にふけていた。
    自分の天職がわかったものの、なぜあの三つだったのか。天職はどのように決まるのか? 魂の属性や輪廻転生の回数によって今世の役割や性質は変わるのだろうか? 

    次々と疑問が浮かんでくるものの、一向に納得できそうにない。
    居ても立っても居られなくなり、青年は再び陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、先日の続きをお願いいたします』

    「今日は輪廻転生の回数と今世の役割について、じゃったな」

    陰陽師は紙とペンをテーブルに広げ、続けた。

    「まず、転生回数と今世の役割というものは、そなたが思っているよりも厳格なものだということはよく覚えておいて欲しい」

    背筋を伸ばし、真剣な表情で青年は頷く。

    「転生回数の四つの数字の持つ意味じゃが、それらをそれぞれ大学生活に置き換えるとわかりやすいかもしれん」

    『大学生活ですか?』

    「うむ。転生回数が4期すなわち1回〜100回は大学一年生、3期すなわち101回〜200回は二年生、2期すなわち201〜300回は三年生、1期すなわち301〜400回は四年生といった具合にな」

    鑑定結果を取り出し、青年は口を開く。

    『と言うことは、僕は200回台なので、大学三年生に当たるというわけですね』

    「その通りじゃ。三年生といえば、ゼミに所属したり就職活動にむけていろいろ考える学年じゃから、物質的な話よりも精神世界や魂の年齢を見据えたことを考える時期とも言えよう」

    『そうですね。物質的なことよりは自然や宇宙といった精神世界の方に興味があります』

    「魂の年齢的にも半分を過ぎ、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解しやすい時期に差し掛かっていたからこそ、今世は魂の修行の場という話も腑に落ちやすかったじゃろうな」

    首肯する青年。

    『とてもわかりやすかったです。ちなみに、僕は230回台ですが、10回台の数字にも違いはあるのでしょうか?』

    「もちろん。輪廻転生回数の100の位や魂の階級の1〜4に限らず、30回台は総じて魂の属性が3の人間にとっては心身ともに不安定となりやすいという特徴がある。そうした不安定な心身と向き合うことで、結果的に選ぶ職業がスピリチュアル系となる可能性が極めて高くなるわけじゃな」

    『確かに。僕も天職ベスト2位に気功師があったのもその一貫なのですね』

    「さらに言うと、鑑定結果の中には陰陽五行に基づいた長所と短所という項目があるのじゃが、その中の長所19.という項目である“不思議な経験”のスコアが高得点である可能性が極めて高い」

    『そうなのですね。ちなみに、僕の“19.不思議な経験”のスコアはどれくらいなのでしょうか?』

    「ちょっと待ちなさい。今、鑑定してみよう」

    陰陽師は半眼になって集中し、指を小刻みに動かし始める。青年は固唾を飲んで見守っている。

    「そなたのスコアは73点。どちらかというと高い方じゃな」

    『何点以上ですと高いということになるのでしょうか?』

    「明確な基準で言う“高い“は80点以上となる。ただ、100点満点であるため、100点に近くなるにつれて霊障による心身へのダメージは二次関数の曲線のように大きくなっていくことになる」

    『僕のこれまでの人生はそこまでぐちゃぐちゃではありませんでしたし、霊的な経験があると言ってもそこまでひどい霊障はありませんので、そのあたりの話はじゅうぶんに納得できます』

    頷きながら青年は言う。

    「この傾向は、意味するところはちょっと異なるが、実は魂の属性7(唯物論者)の人にもあてはまる」

    『とおっしゃいますと?』

    「端的に言うと、魂の属性3の人間のように霊的な問題はまず生じないものの、人生が一般の人間とはかなりずれているという意味では、“19.不思議な経験”の範疇に入るというわけじゃな」

    『なるほど』

    「具体的な例を挙げると、テレビの番組で、“客の来ない店”といった趣旨の番組があるじゃろう。職種は様々だとしても、彼らのほとんどは転生回数が230回台となる。本来調理人は武士・武将問わず2(7)(=270回台)の職業なのじゃが、一日に一人ぐらいしか来ない食堂を十年以上も経営している店主などは、例外的に2(3)(=230回台)なことが多い」

    『精神世界に興味を持たない属性の人たちでも、同様に30回台という輪廻転生の影響を受けているのですね。意外です』

    「魂の属性7の人たちの多くにとっては、このようなメカニズムを受け入れることは難しいかもしれんが、魂の修行という意味ではおしなべてそういうことになる」

    『ちなみに、他にも特徴はあるのでしょうか?』

    「芸能関係の仕事に就けるのは2−3−5−5・・・2で、さらに転生回数が240回台、数字で言うと2(4)−3の人間に限られるという話を前回したと思うが、それ以外にも魂には“山場”というものが存在している。“3:ビジネスマン階級”だけは、第3期の190回台、数字で言うと3(9)−3の時期に例外的な“大々山”があるのじゃが、それ以外の魂は、100回ずつに区切った各40回台が小山、そして70回台、数字で言うと、1~4(7)−3が大山という仕組みになっておるわけじゃ」

    『転生回数でそこまで決まっているのですね』

    興奮気味に青年は言う。

    「芸術家・芸能人やプロのスポーツ選手とお笑いタレントたちが畑違いの歌・楽器演奏や絵画・小説、伝統芸能といった芸能分野でも才能を発揮することができるのは、彼らが共通して2-3-5-5・・・2という数字をもっているからなのじゃな」

    『確かにそうですね。僕でも、お笑い芸人が本を出版したり、画家として有名になるケースをいくつか知っています』

    「転生回数についてもう少し補足をしておくと、世に言う文系と理系のうち、転生回数が少ない3期と4期は理系、後半になる1期と2期は文系という傾向が顕著となる」

    『大まかに文系と理系までわかるのですか! では、3(9)−3はどんな業界になるのでしょうか?』

    「3(9)−3はどちらかというと理系になるわけじゃから、ソフトバンクの創業者の孫正義や楽天の三木谷浩史のようなIT業界で革新的なことを行う人物はもちろんこれに該当するし、1(4)-1であるパナソニックの松下幸之助を唯一の例外として、現在の一部上場企業上位400社の創業者たちも、皆3(9)-3となる」

    「え、そうなのですか」

    「それだけではない。たとえば、医者もほぼすべてがそうじゃし、理系分野のノーベル賞を受賞する人物も皆この時期となる」

    『科学は人類の発展に大きく貢献しているので、転生回数が多い人たちなのかと思っていました』

    「200回以上が文系ということをふまえると、極端な言い方をしてしまえば、アインシュタインよりもお笑い芸人の方が魂としては上位ということもいえるわけじゃな」

    体を揺すりながら陰陽師が笑うと、青年もあまりに突拍子のない話につられて笑う。

    『輪廻転生100回台において3(9)−3が大々山ということは、彼らが芸能界で活躍することもあるのでしょうか?』

    「実は、先ほど厳格だと言った理由がそこにあるわけじゃが、一見無秩序に見えるこの世は、その実、各人が様々な宿題を抱えて転生してくる“魂磨きの場“としての機能として、見えない厳しいルールが多数存在しておるんじゃ。たとえば、3(9)−3、しかもその後5-5…2という番号を持った人物が何かの間違いで芸能界に迷い込んだとしても、この世からその時期はともかくとしても“排除命令”が出る仕組みとなっておる。しかもその“排除命令”はかなり強烈なもので、たとえば若くして不治の病にかかってみたり、精神に異常をきたしてみたり、事故に遭ってみたり、犯罪に手を染めてみたりと、かなり徹底している」

    『ということは、テレビやネットでよく見かけていた芸能人が、突然姿を消してしまうのはそうした理由なのでしょうか?』

    「業界が業界だけに複雑な事情があって一概には言えんが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    神妙な表情で青年は何度もうなずき、やがて口を開く。

    (続く)