カテゴリー: 小説

魂には4つの種類があり、永遠の世での職責を果たすため、魂磨きの修行の場であるこの世に400回に渡る輪廻転生を繰り返している、という前提の基、この世の出来事や人物が取った行動を対話形式で解説しています。

  • 新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    青年は思議していた。

    韓国史上最悪の大規模ネット性犯罪事件である、“n番部屋事件”についてである。
    この事件は、2018年後半から2020年3月までTelegram、Discordなどのメッセンジャーアプリ内で行われていた、大規模なデジタル性犯罪・性搾取事件である。

    この事件が発生した経緯として、加害者たちはモデルの仕事と称して高額アルバイトで女性をスカウトしておきながら、その実、女性に加害者が卑猥な画像を送らせては徐々にエスカレートした画像を要請していき、途中で断った女性に対しては、これまでの画像と彼女たりの個人情報を公開すると脅していた。
    それらの撮影物は8つのチャットルームで掲載されており、中には自傷行為、レイプ、グロテスクな物もあったようだ。

    この事件の被害者の数は70名で、その内16名が未成年で女子中学生が多かった模様。
    今回逮捕された20代の男性には懲役45年の刑が言い渡されるのみならず、警察は、26万人にも及ぶn番部屋の利用者に対しても、彼らを特定すべく動いているようだ。

    韓国は性犯罪が多い国として世界第4位に位置しているが、何らかの理由があるのだろうか?
    あるいは、魂の属性からみて、性犯罪者にはなんらかの傾向があるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は韓国の性犯罪事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「韓国の性犯罪事件についてとな。して、何を聞きたいのかな?」

    青年は陰陽師に“n番部屋事件”の概要と疑問に感じたことを、順を追って、陰陽師に話した。

    『いつも先生がおっしゃっているように、杓子定規に事件と魂の属性を結びつけようとは思っていませんが、性犯罪や韓国人と魂の属性について、何らかの因果関係があるのではないかと思いました』

    「そなたが聞きたいことはわかった。その質問に対する回答のベースに、韓国における魂の属性の人口分布について理解しておく必要がある」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『以前、韓国人は頭1と2の比率が1:9で、日本人の3:7に比べて頭2の人口比率が圧倒的に多いとお聞きしましたが、他に、魂の観点で韓国人の特徴はあるのでしょうか?』

    「強いて挙げるとすれば、“魂3:武士・武将”は2−3(転生回数期が第二期の魂3)と4−3(転生回数期が第4期の魂3)が多く、“魂4:一般庶民”は3−4(転生回数期が第三期の魂4)が多い」

    『なるほど。我が国における魂の属性の人口分布とは異なるようですね』

    「そうじゃ。ちょうど転生回数期の話が出たところで、魂の種類と転生回数期の特徴について、そなたが理解していることを、確認も兼ねて説明してもらおうかの」

    『承知しました。まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『次に、転生回数期の説明になりますが、今回は韓国人に多い、第三期と第四期について説明いたします。この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純で、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強いです。そのため、どうしても、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなるとお聞きしました』

    黙って青年の説明を聞いて頷く陰陽師の様子を確認し、青年は説明を続ける。

    『次は第三期ですが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる傾向があります。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つとお聞きしました』

    「魂1〜4の人口分布については、どのように理解しておるかな?」

    『世界的には魂1:5%、魂2:15%、魂3:25%、魂4:60%という人口分布となりますが、この人口分布は国々によって微妙に異なり、我が国の魂の種類の人口分布は、魂1:7%、魂3:33%、魂4:45%となります』

    「韓国の場合は、概ね、魂1:3%、魂2:12%、魂3:23%、魂4:62%という人口分布となる。また、韓国における魂4は、62%中、1-4が約14%、2-4が約5%、3-4が約25%、4-4が約18%という比率となる、もちろん、日本などと同じように、転生回数によって四つの期に分けることができ、それぞれに特徴がある」

    そう言った後、陰陽師は人工分布図の表を紙に書き足していく。

    人工分布図SS

    『なるほど。魂4の中では、3−4が最も多いのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、再び口を開く。

    「韓国における魂の種類の人工分布図がわかったところで、今度は具体的に加害者たちの鑑定結果をみていくとしよう」

    陰陽師の問いに青年は一つ頷き、n番部屋の創始者、運営、引き継いだ人物、そして模倣犯に該当する人物の名前を挙げていく。
    名前を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    1:n番部屋の創始者。24歳。男子大学生。

    ムン・ヒョンウクSS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見て、陰陽師は口を開く。

    「サイトの創始者の魂の属性は3−4(転生回数期が第三期の魂4)じゃが、3−4といえども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4(転生回数期が第四期の魂4)とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えるとわかりやすい」

    参加意識が高く、大局的見地に欠けていることが魂4の特徴だとお聞きしましたが(※第39話参照)、彼による被害者は50人を超え、3件ほど性的暴行を指示したと自供しています。魂の属性から鑑みるに、彼はn番部屋を作って注目を集めることで自尊心を満たしたかったのではないかと推測します』

    「属性表を見る限り、その可能性は高いのかもしれんな」

    『性的暴力の被害に遭っている様子を、被害者の個人情報付きで公開したら、その女性の将来にどのような影響を及ぼすかを配慮できないあたりが、仁が30点(D)というところに表れているのでしょうね』

    「端的に言うと、日本以上にネット環境が整備されている韓国ならではの事情と魂4の持つ諸々の特徴の合わせ技によって、今回の事件が起きてしまったようじゃな」

    『なるほど。この事件は、引継ぎ者や模倣者が現れている点が、3−4が多いことに関係しているのではないかと思いました。仮に我が国で類似する事件が起きていたとすると、ほぼ2−4と4−4だけなわけですから、サイトの創始者や運営する人物は2−4、閲覧するだけの人物は4−4という構造になっていたのではないかと』

    「我が国で類似した事件が起きたわけではないから、そのあたりについては断定的なことは言えぬが、構造上は、そのように捉えることもできるかもしれんの」

    『やや強引な説を展開して失礼しました』

    ばつが悪そうに青年は言った後、次の人物について言及した。

    2:16歳。男子高校生。n番部屋の運営陣だったが、別の共有室を設置した。

    太平洋SS

    3:30代男性。創始者からn番部屋を引き継いだ。警察に拘束された後、捜査に協力して減刑された。

    シンSS

    『この二人はn番部屋の元運営陣と引き継いだ人物ですが、共に3―2(転生回数期が第三期の魂2)ですね。第三期の魂2は、魂3・4などと違い、社会的な上昇志向よりも魂2が持つ優しさ、奥ゆかしさ、慈愛といった側面が最大限に発揮されるという特徴を持つ、とお聞きしましたので、意外です』

    「3−2の特徴は、基本的にそなたの言う通りじゃが、頭の1/2や枝番などの数字の組み合わせの結果、このような犯罪を犯すようになったのじゃろう」

    陰陽師の説明に対し、青年は無言で頷いて見せる。

    「さらに言うと、数奇な運命を歩む傾向にある、十の位が30回代の場合、魂2が本来持つ“観音”ではなく、“不動明王”の側面が出やすい傾向にある

    『つまり、先ほど僕が説明した特徴は、あくまでも、おおまかな傾向であって、個々人の属性によっては該当しないケースもあるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。何事にも例外規定があることを、よく覚えておくことじゃ」

    『承知いたしました』

    そう言い、再び属性表を眺めた後に、青年は言葉を続ける。

    『n番部屋を引き継いだ人物の方は、“児青法違反”で懲役刑の執行猶予を言い渡された前歴があったため、今回の1審では、当初、重い罪質を言い渡されましたが、逮捕された後は、警察の捜査がはかどるように、情報提供を積極的に行なっていたようです。ひょっとして、仁(他者への優しさ・思いやり)が70点(BB)と比較的高いことから、逮捕されたことを機に、慈悲の心を取り戻したと考えることはできるのでしょうか」

    「そなたの考えも一理あると思うが、頭が2、つまり自己中心的な考えを持つ属性であることを考慮すると、自分の立場を“損得”で判断し、減刑のために自供した可能性の方が高いじゃろうな』

    『言われてみれば、彼は再犯ですし、頭が2であることを考えると、保身に走る可能性はじゅうぶんに考えられますね』

    そう言い、青年は腕を組んでから苦々しくつぶやく。

    『我が身可愛さにかつての仲間を裏切るような行動をする点は、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つという、転生回数期が第三期の人物らしい立ち回りと言えそうです』

    「とは言え、大局的見地からみれば、彼のおかげで他の加害者の逮捕が早まり、被害の拡大を抑制できたと考えることができたわけじゃが」

    『そうですね。他の加害者の逮捕が早まることで新たな被害者が減り、既に被害に遭ってしまった女性たちの不安が解消される日が、1日でも早く訪れることを願います」

    青年はそう言った後、次の人物の紹介を進める。

    4:2019年にn番部屋が消えた後、“博士部屋”を作った人物。仮想通貨決済でのみチャットルームに入ることができる専門的なモデルであった。懲役45年。会員費は、日本円で約25000〜15万円相当。

    チョ・ジュビンSS

    『この男性が今回ニュースで取り上げられていた加害者となりますが、“博士部屋”という名称で、仮想通貨決済を行なった人物だけが参加できる、独自のモデルを作ったようです』

    「なるほど。第四期とはいえ、商根たくましい“魂3:武士”らしい性格を持った人物のようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は苦虫を嚙みつぶしたような表情で口を開く。

    『他の人物と異なる点は、欄外の枝番だけでなく、下段の数字も“7”や“9”が多いことだと思います』

    「いずれにしても、そのあたりが、今回の事件を引き起こす基本的な性格となっているのは間違いないじゃろう」

    5:10代。n番部屋を模倣して新たなチャットルームを運営した。女子中学生三人が被害に遭った。

    ぺSS

    『この人物も、4−3で欄外の枝番が“9”が多く、仁も低いことから、先ほどの被告と魂の属性が近いですね』

    「この人物の属性表で特筆すべき点は、多くの人物の精神疾患の項目に“13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”と“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”があるのに対し、“13”の相しかないことと、“10:攻撃性”じゃろうな」

    属性表に再び目を通した青年は、驚きの声を挙げてから、言葉を発する。

    『多くの人物が、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾った際に“13”と“14”の症状に分散して顕在化するのに対し、“13”のみの人物は、“13”の相に集中して顕在化する傾向にあるため、特に暴力的な振る舞いを取りやすいというお話でしたね。それに、僕がこれまでに鑑定を依頼した人物の中では、たしか“10”の相を持っていた人物はほとんどいなかったと記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「他にも、この二人が陰陽五行に“火”を持っていることも、今回のような事件を引き起こした要因じゃろうな」

    『今まで鑑定していただいた日本人の属性表を見る限りでは、土、木、金、水のいずれかの組み合わせを持った人間は多かったものの、火の人物はほとんどいなかったと思います』

    「ワシが今までに鑑定した限りの印象では、陰陽五行に“火”を持っている人物は日本にはそう多くないものの、韓国には相当数存在していると思われる」

    『え、そうなのですか』

    「うむ。そのあたりが日本人と韓国人の基本的気質の相違点ともなっているようじゃが、いずれにしても、火を持った人物はかなり気性が荒いゆえ、関わる際はそのあたりをよく理解しておくことじゃ」

    『承知いたしました。それでこの二人が、運営するだけでなく、自ら女性に被害を加えていたことに納得がいきました』

    再び全員の属性表を見た青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    全員の共通点として、全員が頭2、欄外の枝番の数字が“7”か“9”で“性悪説”的な気質を持っていること、そして恋愛運の数字が“7”以下だということは予想通りでしたが、魂の種類が2〜4と分散していることは驚きです』

    「他にも、数奇な運命を歩む傾向にある、転生回数の十の位が30回代であることと、学業が80点(A)以上であること、そして“霊障”か“天命運”に17の相がかかっていることも全員に共通した特徴のようじゃな」

    陰陽師の補足を聞いた青年は、属性表を再び眺めた後、口を開く。

    『それと、先生がおっしゃった通り、今回挙げた加害者たちの転生回数期は第三期と第四期に固まっていますが、これには何か特別な理由があるのでしょうか』

    「もちろん、先程話した韓国のネット環境と、日本と較べ15%以上多い魂の4が今回の一件の遠因となってはいるのじゃろうが、魂1や3じゃからといってこのような犯罪を起こさないという話では決してない」

    『たしかに。日本のやくざや、欧米のマフィアの大半が魂3であったりするわけですからね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、言葉を続ける。

    「以上、韓国における性犯罪が多い理由について、魂の属性の人口分布の観点から解説したわけじゃが、どうかな?」

    『おかげさまで、よく理解できました。ちなみに、日本人と韓国人とで魂1〜4の人口分布が異なることは理解できましたが、こうした魂の違いは、どのように決まるのでしょうか?』

    「一言で言うと、“国境”じゃな」

    『え、国境ですか?』

    陰陽師の答えを聞いた青年は、驚きの表情を見せながら、再び口を開く。

    『国境は、遥か昔から、各国が戦争や外交の後に決めてきた、“この世”の世界の話だと思っていましたが、魂の人口分布にまで、国境が影響をあたえるのでしょうか?』

    「国境とは、その時々の国々の勢力分布なわけじゃが、結婚届や登記簿謄本が霊障と不思議な相関関係を持っているのと同様、その時々の国境は、転生してくる魂にとっては大きな意味を持っておる

    『とおっしゃいますと?』

    「人間が任意に引いたその時々の国境をめがけて、魂が転生してくるという意味じゃ。事実、日本軍が敗戦した後に朝鮮半島が日本の占領下から解放された日の前後で、産まれた赤ん坊の魂の属性が変わってくるわけじゃ」

    『つまり、産まれた土地がどの国の領土になるかで、新生児の魂の属性が決まるということでしょうか?』

    そう言い、思わず前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は答える。

    「数千年前のことまでまだ具体的に検証していないものの、たとえば日本を例にとっても、黒船来航を受け鎖国化を解いた明治時代、日本の領土が一番広がった第一次世界大戦から、第二次世界大戦終了時まで、そして戦後と変化する各々の領土に生まれた人間は、(現在の国籍はともかくとして)霊的には日本人と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。文化人類学は文化、つまり人類が後天的に学習した行動パターンや言語といったものを中心に据えて、人類を研究しているようですが、先生の場合は、日本人と韓国人の違いを、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった、文化人類学とは別の切り口で説明しているわけですね』

    青年の問いに対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「さよう。文化人類学のような学問を全面的に否定するつもりはないのじゃが、文化人類学では、民族・社会間の文化や社会構造の比較研究によって文明の差異というものを解明しようとしているものの、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった理論を持たずに、人間を“等質”という前提で研究している限り、それらの理論にどうしても矛盾が生じてしまうことは致し方あるまい」

    『なるほど。そのあたりのことは、よく理解できました』

    そう言い、青年は小さく頭を下げた後、言葉を続ける。

    『ということは、怒りの激情を起因とした韓国人特有の精神疾患である“火病”についても、魂の属性の観点から解説できるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。“火病”については、韓国人が辛い物を好んで食べているから、という説があるが、辛い料理を食べている他の国々で“火病”が起きているかと言うと、決してそうではない」

    『つまり、韓国人の“火病”はキムチなどの辛い物を好む食習慣が原因なのではなく、頭に2を持つ人間が多いこと、転生回数期が第三期と第四期の人物が多い、すなわち感情的になりやすい人物が多いこと、そして、陰陽五行に“火”を持つ人間が多いから、と考えることができるわけですね」

    青年の答えに対し、陰陽師は満足そうに微笑み、質問を続ける。

    「いつも話して居るように人間は“多面体”なわけじゃから、それだけの情報で断定はできぬが、当たらずと言えども遠からずという意味では、その通りじゃろうな」

    『なるほど』

    感嘆の声を漏らす青年を見て、陰陽師は小さく笑ってから、口を開く。

    「最後に、そなたの冒頭の疑問、すなわち韓国で性犯罪が多い理由として、韓国人の魂の属性がその一因となっていることは間違いないが、そうは言っても、韓国人だから性犯罪を犯す、などと安直に結びつけてはならぬぞ。統計学的にそのような一面を韓国人が持っているとしても、一人一人は別の人間だということだけは、しっかりと心に留めておくようにの」

    『承知いたしました。“罪を憎んで人を憎まず”ではありませんが、今回の事件に関しても、この世の基準で善悪を判断するのではなく、加害者と被害者の双方が今世の宿題を果たすための出来事だったと考えるべきなのですね』

    「現世的には、痛ましいとしか言いようのない事件であるが、今世の宿題という観点からみると、そのように言えるようじゃな。そして、国によって魂の人口分布図が異なる問題についてもう一度話をしておくと、この世とあの世は、たとえば、婚姻届、登記簿謄本という紙一枚と霊障が不思議な対応関係を見せているのと同様、我々人類がその時々引き直す国境線を目指して転生してくるという理屈は、自分の宿題や魂の修行に最適な母親を選んで転生してくるのとまったく同じメカニズムなんじゃ。だから、その国で産まれたからできる魂磨きの修行があるということで、韓国人として生まれてくる魂は、自らの意志で韓国を選んで転生してきているということも覚えておくようにの」

    『つまり、今の日韓関係の悪化も、どうしてと考えるよりも、各々が自らの宿題に邁進する限り、当然起こりえる事象というわけですね』

    「じゃからと言って、仲が悪くてもよいということにはならないのだが、それでも、日本の植民地時代に起因する様々な問題が、解決したかと思うとまたぶり返される問題や、右派を母体とする大統領であっても左派を母体とする大統領であっても、5年の政権期間末期にレイムダックを始めると、各々の政治的信条の別を問わず、決まって日本バッシングに走ることで支持率を回復させようするあたりなぞは、やはり、今まで説明してきたような韓国人だけが持つ属性のなせる業と言うしかないのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「本日も長時間ご苦労じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師とのやりとりを振り返っていた。
    今回の事件に限らず、日頃目に付く韓国関連のニュースを読む限り、韓国人に対する印象は悪い。だが、自分がメディアを通して得ている情報は、韓国の一部に過ぎず、韓国が持つまったく別の良さ/素晴らしさもあるはずだ。
    ご縁がある人物やあらゆる情報に対し、色眼鏡を介さないように心がけ、今回の事件だけを見て“韓国人は”と一括りに評価を下さないように気をつけよう。
    そう、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    青年は思議していた。

    とある一般人男性が新型コロナウイルス(以下、コロナ)に感染した後、一度は集中治療室に入るほどに重症化したものの、容態が安定するまでに回復した件についてである。
    コロナによる死亡者数の情報が毎日更新される中、重症化した状態から回復した人物の情報は、人々にとっての希望になるだろう。
    ひょっとして、コロナで亡くなる人物と助かる人物とでは、霊障や魂の属性において、何らかの違いがあるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はコロナの感染者について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「コロナの感染者についてとな。して、どういったことを聞きたいのかな?」

    『コロナに感染して亡くなった人物と、感染して重症化した後に回復した人物とでは、魂の属性や霊障からみれば、何らかの違いがあるのかが、気になりまして』

    「なるほど。ちなみに、そなたは、どのような要因があると考えておるのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考し、やがて答える。

    霊障に“4:病気”の相がかかっているか否かと、健康運の数値が主な要因ではないかと思います』

    青年の答えに、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「ではそのあたりの話をするにあたり、そなたが要因として挙げた、霊障と総合運について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『承知いたしました』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となります』

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、今の回答に基づいて、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、どのように理解しておる?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    そう答えると、青年は、かすかに逡巡した後、言葉を続ける。

    『他にも“霊統”、“血統”という言葉もあり、その意味するところは、地縛霊化している先祖のうち、本人にはかかっていないものの、魂の種類が同じ先祖を“霊統”先祖、魂の種類が異なる先祖を“血統”先祖と呼んで区別しています』

    「うむ」

    青年の回答に、いつもの笑みで頷いた後、陰陽師が言葉を続ける。

    「どうやら、基本的な事項についてはじゅうぶん理解しておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    陰陽師が書いた内容を見た青年は、一つ頷いてから、口を開く。

    『今回のテーマである、コロナの死因としては、個々人にかかっている霊障、つまり、霊脈と血脈の先祖霊の霊障が大きいようですね』

    「そのようじゃな」

    青年の指摘に、肯首しながら、陰陽師が質問を続ける。

    「さて、今度は、総合運について、説明してくれるかの?」

    『はい。総合運は基本的に9点が満点となり、その人に霊的な重荷がない(パフォーマンスが100%)かぎりにおいて、8点以上であれば、基本的に、今世で重大な苦労をする心配はありません。言い換えれば、7点以下の場合は、今世、それなりの苦労をする覚悟が必要な項目となります』

    「たとえば、恋愛運を例にとるとすれば、恋愛運が7以下である今世のそなたの場合、女性関係で苦労する覚悟が必要ということになるわけじゃな」

    『なるほど。だとした場合、ひとつお聞きしたいことがあるのですが』

    そう前置きした後で、青年が言葉を続ける。

    『仮に総合運が9点だったとした場合、今世の宿題という意味合いから、7点以下となっていると考えて、問題ないのでしょうか』

    「基本的には、そう考えても差し支えないじゃろう」

    『しかし、基本的には、とは?』

    「いつも話しているように、霊的な問題というものは、三次元世界のように、右か左とか、正誤といった“二元論”では、割り切れない余地が常に存在している。そのような意味で、三次元世界において“法則には、往々にして例外が存在する”という言葉があるのと同様、霊的世界でも、霊障を含め、その魂のそもそもの誕生理由などにより、総合運が低いからといって、かならずしもその項目が今世の宿題と連動しているとはかぎらないという現象が起きることから、おおむね、そのような理解で問題あるまい、と答えたわけじゃ」

    『なるほど。特に、霊的世界には、三次元の常識、つまり、思議では割り切れない余地が常に存在している、ということをよく頭に叩き込んでおきます』

    陰陽師の説明にそう答えた後で、青年は言葉を続ける。

    『いずれにしましても、僕の恋愛運が6点であることを踏まえ、女性とのトラブルを通して学びを得る、それが今世の僕の人生だということは、じゅうぶんに肝に銘じております』

    それなりに己の運命を受け入れたのか、軽く苦笑しながら青年は言った。
    そんな青年の様子を察した陰陽師も、一緒に笑ってから口を開く。

    「では、本題に入るとして、コロナに感染した人物たちを鑑定するにあたり、該当者たちの目星は、既についておるのかの?」

    青年は一つ頷いて見せ、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『まずは亡くなった人物からお願いします。一人目、志村けんは享年70歳で、若い頃からヘビースモーカーだった影響か、肺に基礎疾患があったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かした後、鑑定結果を紙に書き記していく。

    志村けんSS

    属性表を見終えた青年は、視線を落とし、ため息を吐いてから口を開く。

    『彼は、健康運が3とかなり低く、しかも天命運と血脈に“4:病気”の相が、そして、血脈の霊障に“5:事故・被害・死亡”の相がありますから、属性表の各数字から考えてみても、コロナに感染して亡くなったことに納得せざるを得ません』

    「その通りじゃな」

    『そして、二人目の男性ですが、彼は享年50代で、肝臓がんを患っており、感染後に肺炎で亡くなりました』

    陰陽師は黙って指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    伴充雅SS

    青年は暗い表情のまま、何度も頷いてから、口を開く。

    『この男性も、健康運が3とかなり低く、血脈の霊障に“4:病気”の相“5:事故・被害・死亡”の相があるので、亡くなった理由については、納得ですね』

    「かわいそうではあるが、そなたの言う通りじゃな」

    青年はしばらく無言で腕を組み、やがて苦々しく言った。

    『ただ、彼はコロナに感染していると知りながら飲食店に行き、しかも、意図的に、店員が感染するような行動を取るなどし、ウイルスをばら撒きました。その結果、そのお店は営業停止になってしまったようです。彼が頭2の魂2−4であることと、大局的見地の数字が30であることを踏まえると、このような行為も、納得ではあるのですが』

    「彼の場合、下段の枝番も、欄外の枝番もほとんどが“9”であり、“性悪説”的な気質が強いことから、今回のようなウイルスを撒き散らして他人に被害を与えるような行動を、平気でとってしまう可能性が高い人物のようじゃの」

    『なるほど。彼によって感染させられてしまったお店と店員には大いに同情しますが、“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるように、屍に鞭打つのではなく、彼の行動によって、コロナの感染度の高さと脅威が世間に知れ渡ったのだと、前向きに捉えようと思います』

    青年の言葉に陰陽師は一つ頷き、口を開く。

    「して、次の人物は、どのような人物なのかな?」

    『三人目、羽田雄一郎議員は、享年53歳で、基礎疾患に糖尿病や高血圧などがあったようです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を書き記し、青年はその様子を黙って見守る。

    羽田雄一郎さんSS

    属性表を見た青年は、眉間に皺を寄せながら口を開く。

    『羽田さんは、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”の相があったものの、“4:病気”の相はありませんでしたし、健康運が7であることから、先ほどの二人の健康運“3”に比べたら数値はましだと思うのですが、やはり、総合運の各項目の数字が“7”以下の場合には、注意が必要ということなのでしょうか?』

    「以前も説明したが、令和に入ってから、魂の属性7の唯物論者の場合、霊脈先祖(魂の種類が同じ先祖)の霊障がない分、魂の属性3の霊媒体質の人物よりも、血脈の霊障がより強く顕在化する傾向が強くなっておるようじゃな」

    『なるほど。そのあたりも体主霊従の世界から、霊主体従の世界への回帰の一端なわけですね』

    陰陽師の話に大きく頷いた後で、青年は先を続ける。

    「次は、四人目の岡江久美子ですが、彼女は享年63歳で、基礎疾患はなかったものの、2019年末に乳がんの手術を受け、その後半月ほど放射線治療を受けていたため、免疫力が低下していたと思われます』

    岡江久美子さんSS

    先ほどの三名の結果と見比べながら、青年はしばらく黙考した後で、口を開いた。

    『岡江さんは、健康運は8と高かったものの、天命運と血脈に“4:病気の相”血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますね。それに、彼女も“唯物論者”的な気質の持ち主だったことから、たとえ、健康運の数値が高くても、血脈の霊障の影響を大きく受けていたという理解で問題ないですね』

    「基本的にはその通りなのじゃが」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、そう前置きしてから、陰陽師が言葉を続ける。

    「彼女の場合、二人目の男性同様、第4チャクラが乱れていることが、死因の大きな要因となったようなのじゃ」

    『第4チャクラが、死亡の一因ですと?』

    「一般的には、ハートチャクラなどと呼ばれておるようじゃが、第4チャクラが乱れている場合、往々にして、病気にかかりやすいという特徴があるとともに、最悪の場合、死に至る病を患う可能性が高くなったりするわけじゃな」

    青年は陰陽師の説明に息を呑み、しばらくしてから口を開いた。

    『と言うことは、岡江さんの場合、“4:病気”の相によって乳がんを患い、免疫力が低下していたところに、第4チャクラ“5:事故・被害者・死亡”の相が重なることによって、コロナに感染してしまい、その挙句に亡くなったという、合わせ技なわけなのですね…』

    「残念ながら、その可能性が高いようじゃな」

    『…そうでしたか、何とも、痛ましいかぎりです』

    小さく首を振りながらそう答えた後、青年は気を取り直して、次の人物を紹介する。

    『次は、コロナに感染した後に回復した人物なのですが、一人目の石田純一は、66歳で脳と肺に基礎疾患があったものの、コロナが流行り出した頃に感染し、一時は危ぶまれたようですが、生還しています』

    青年の言葉を聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    画像5

    それを見た青年は、驚きに目を見開いてから、声を上ずらせて言う。

    健康運が3とかなり低い上に、基礎疾患があり、さらに血脈の霊障に“5:事故・被害”の相があるので、これまでの方々の結果を鑑みるかぎり、亡くなっていてもおかしくないと思いますが、霊障の“5”の相が、“死亡”ではなく“怪我”だったことから生還できたというわけなのでしょうか?』

    「ワシが知るかぎり、彼は還暦を過ぎてからも運動するなど、健康的な生活習慣を続けていたようじゃから、もともとの健康運の低さを、運動でカバーしていたことも、助かった要因の一つかもしれぬが、おぬしの言うように、決定的に明暗を分けたのは、“5”の相が“死亡”ではなく、“怪我”だったことなのじゃろうな」

    『なるほど』

    説明を聞いて大きく頷く青年に、陰陽師が先を促す。

    「して、次はどんな人物かの?」

    『二人目の一般人男性は、53歳で、基礎疾患はなく、感染した後に集中治療室に入るほどに重症化しましたが、現在は、容態が安定しているようです』

    青年が無言で見守る中、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    遠藤雅行さんSS

    属性表を眺めた青年は、何度も頷いてから、口を開いた。

    『この男性は、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますが、健康運が9で基礎疾患がなかったことが助かった要因なのでしょうか?』

    「この男性の場合、“5:事故・被害・死亡”の相が、今回のコロナには該当しなかったと考えられるのも一つの考え方じゃろうし、健康運が“9”じゃったことも、命を取り留めた要因のひとつなのじゃろうな」

    陰陽師の言葉をしばらく吟味してから、青年は口を開く。

    『つまり、“5:事故・被害・死亡”の相があるからと言って、事故が起きたら必ず死ぬとは限らないわけなのですね』

    「さよう。そのあたりが、不可思議な世界の不可思議たる由縁で、いつも話しているように、この世の神羅万象のすべてを、思議で推し量ることは不可能とワシが話す典型的な例なのかもしれんな」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシのクライアントの中にも、“5:事故/事件”の相があり、何度も事故に遭っているものの、今もぴんぴんしておる人物はおるのじゃが、このような人物も含め、まだ今世の宿題が残っていたために、たとえ霊障に“死亡”の相があったとしても、必ずしも死ぬわけではないということが、往々にして起こり得るわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の説明に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ただし、そうはおっしゃっても、“5:事故/事件”の相を解消しない限りは、今後もまた事故に遭う可能性は高く、“死亡”の相がある場合は、その人はいつの日か、事故/事件で命を落とす可能性が残っているわけですね』

    「まあ、基本的にはその通りなのじゃが、先ほども話した通り、そのように、右左、正誤などと決めつけられないのが、“不可思議”の世界の“不可思議”たる由縁なわけではあるのじゃが」

    そう言い、暗い表情をする青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。

    「いずれにしても、この6名の鑑定結果を見てわかるように、人間は多面体であることから、特定の部分のみを抽出して、結論に結びつけぬよう、気をつけることが肝心となるわけじゃ」

    『はい。今のお言葉、よく肝に命じておきます』

    そう言い、青年はしばらく口をつぐんでから、再び言った。

    『ところで、ふと気になったのですが、コロナに感染した人物の共通点として、“5:事故・被害”の相があったと思います。なぜ“4:病気”の相ではなく、“5”の相なのでしょうか?』

    「というと?」

    『トランプ大統領は、コロナは“武漢のウイルス研究所由来の証拠がある”と訴えていたようですし、このウイルスは自然界のウイルスではなく人工ウイルス、つまり、細菌兵器による人災の被害者だから、“5:事故・被害”の相が出ているという可能性は、ないのでしょうか?』

    「そのあたりの問題については、世界の権威ある科学者がコロナを人工だと公表していない以上、現時点では何とも言えないじゃろうな。特に、今回挙げた人物に全員“5:事故・被害”の相があることを根拠として、コロナが細菌兵器だと考えるのは、早計だとワシは思う」

    『それは、失礼いたしました』

    そう言い、罰が悪そうな表情をする青年に対し、陰陽師は微笑みながら一つ頷き、説明を続ける。

    「いやいや、そう恐縮することはない。ワシがそう思う根拠としていくつかの理由があるのじゃが、そのひとつとして、以前、中世に幾度となく流行した黒死病、つまりペストについて色々とみてみた時の経験がある。何を言いたいのかと言うと、当然ペストは疫病なわけじゃから、ワシがみた犠牲者の多くが“4:病気”の相を持っていてよさそうなものなのじゃが、実際は、犠牲者のほとんどが“4:病気”の相ではなく、“5”の相を持っていた」

    陰陽師の説明を聞き、真剣な表情で何度も頷く青年。
    陰陽師は、青年が話についてきていることを確認し、説明を続ける。

    「よってこの一例だけ見ても、そのあたりの推測は正しいと、ワシなりには思っておる。さらに言えば、令和との関係じゃ。以前から何度も話しているように、令和の世界的な“変革”のひとつに“疫病”があることもそうなのじゃが、カミゴトとしてみても、今回の一件は人為的なものではない」

    『そうだったのですか』

    目を大きく見開き、そう答える青年を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「まあ、このあたりのことはカミゴトゆえ、声を大にして主張するつもりはないのじゃが、去年の冒頭より、今回のウイルスは相当厄介じゃ、と繰り返し述べてきたのも、根拠は、そういうところにあるわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の言葉に小さく頷くと、青年はしばらく逡巡した後、言葉を続ける。

    『ちなみに、今回挙げた中で亡くなった方々は、無事にあの世に帰還できているのでしょうか?』

    「どれ、確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かした後、続ける。

    「うむ。幸い、全員、無事にあの世に戻っておるようじゃ

    微笑みながらそう言う陰陽師の言葉を聞き、青年は安堵の息をもらす。

    『それならよかったです。志村けんさんは、既に様々な業績を残されているだけではなく、コロナ禍で売り上げが落ちた友人の飲食店にわざわざ通って支援するような優しい方でしたから、あの時期にコロナで命を落としても、悔いがなかったのでしょうね』

    「それにじゃ。彼を始めとする大物有名人が亡くなったことで、コロナの危険性が世間の人々により深く伝わったことは、まぎれもない事実なわけじゃから、非常に痛ましいことではあったが、コロナによる被害者を減らすことに一役を買ったことも、ひょっとすると、彼らの宿題の一部であったのかもしれんな」

    『なるほど。彼らの死を無駄にしないためにも、残された僕らは、いっそう魂磨きの修行に励まねばならないということですね』

    「そうじゃな。どのタイミングで肉体を離れることになろうとも、幸/不幸や、生きた時間の長短といった、この世の基準や現世利益に囚われず、今世の課題を果たせるように日々を過ごすことこそが、今世の宿題を果たす唯一の道であることだけは、絶対に、忘れぬようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はコロナで亡くなった人物たちのことを考えていた。
    彼らの死に霊障も関わっているなら、ご神事を受けてもらうことで、コロナによる死者を減少させられるかもしれない。
    また、令和の“変革”によって、見えない世界とは縁遠い、魂7の唯物論者の人物といえども血脈の霊障の影響を受けているという事実を理屈として理解し、体感してもらえるよう、より真摯に説明していこう。
    青年はそう決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    青年は思議していた。

    コロナ禍の影響により、生活用品の買い占めに走っていた人々についてである。
    買い占めはトイレットペーパーだけに留まらず、マスクの材料になるという理由で西松屋の新生児の沐浴用ガーゼが品切れとなり、その後、大阪府知事の発表(新型コロナウイルスに対して効果があるかどうかは医学的には不明)を機に“イソジン”も買い占められた。

    それにしても、なぜ日本人は裏付けが取れない情報に踊らされてしまうのか?
    日本人は流されやすい国民性とも言われているが、ひょっとして魂の属性と何か関係があるのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を教えていただこうと思い、お邪魔しました』

    「買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を、とな。それは、了解したが、もう少し具体的に話してもらえるかの?」

    青年は買い占めに関するニュースと日本人の行動について、疑問に感じたことを説明した。

    『海外でも買い占めは起きていたものの、対象は主に食料でした。アメリカでは銃器と弾薬の売り上げも上がったようですが、こちらも、最悪の事態を想定し、自己防衛のためという意味では理にかなっていると感じました。一方で、なぜ日本人はトイレットペーパーなどの日用品を買い占めするのでしょうか?』

     

    日本人が買い占めに走ってしまう理由

    「以前も説明したと思うが(※第13話参照)、今回の買い占め騒動の根本的な問題は、フットワークの軽い魂4の特徴とインターネットの性質との合わせ技、さらに言うと、日本における魂4の分布の特異性が、ひとつの回答になると言えよう」

    『魂4の分布の特異性でしょうか』

    「そう、前にも話した通り、全世界的に6割を占める魂4が、日本の場合は、そもそも魂15%少ない。さらに、その魂4がほぼ4-4と2-4に集中しているということが、オイルショック時のトイレットペーパー騒動と、今回の騒動のマスク騒動の根本的な問題だ、とワシは思う」

    今一つ納得できないでいる青年の顔を見やりながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「つまり、ワシがいつも指摘する、デマを扇動する2-4とそれに無条件で追従する4-4という構図が、今回は偽の情報の拡散とマスクやトイレットペーパー、果てには、食料品を筆頭とした日常品の買い占めという騒動に発展したということになるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ大きく頷いた後で、青年は質問を続ける。

    「日本の買い占めに、そういう構造が隠されていたことはよく理解できましたが、ついでに、1−4や3−4の特徴も含め、魂4と輪廻転生の回数の関係について、もう一度、総括的にご教授いただけませんでしょうか?』

    青年の問いに一つ頷いてから、陰陽師は口を開く。

    「その質問に対する回答をする前に、これからする説明とも密接に関係している、魂と輪廻転生のメカニズムについて、そなたの口から説明してもらえるかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから口を開いた。

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    魂4の特徴について

    「では、次に、魂4の特徴について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『はい。現世的にみる限り、魂4は一般庶民、つまり、社会の下支えが主な役割となります。具体的な職業としては、建設、運送業、清掃といった、いわゆるブルーカラーの職業をはじめ、警察/自衛隊、地方公務員、医療/福祉関係と多岐に渡る分野で活動しています。もちろん、一次産業従事者も、魂4が多くいることは言うまでもありません』

    「そなたの説明に付言するとすれば、魂4は魂の容量が極めて小さいことから、魂1〜3の人々が論理ベースでものを考えたり、行動したりするのに対し、感情ベースの言動が多いこと、また、同様の理由から、“定見に乏しく、大局的見地に立っての判断ができない”という特徴がある。そのため、他人に洗脳/扇動されやすく、その偏狭な正義感にいったん火がつくと、徒党を組んで暴徒と化す傾向をあわせ持っていることも、しっかり記憶に留めておくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明に大きく頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「では、ここからは各転生回数期における魂4の特徴についての説明となる。まずは4-4じゃが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

    『以前、デモに参加している人々のほとんどが4−4(転生回数期が第四期の魂4)だということをお聞きしましたが、再度ご説明いただき、あらためて納得いたしました』

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが、そして、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケット(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々のほとんどが、典型的な4−4の行動ということになる。もちろん、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員のほとんども、4-4であることは言うまでもない」

    青年は納得顔で何度もうなずき、口を開く。

    『ストライキを起こすのも、ストライキ破りを防ぐのも4−4という、同じ魂同士で対峙している構図は、なかなか興味深いですね』

    「次に第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『以前、3−4(転生回数期が第三期の魂4)は日本ではほとんどいないとお聞きしましたが、ちなみに、3-4はどのあたりに多く分布しているのでしょう?』

    ヨーロッパ、つまり、ほとんどのEU諸国、そして、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、中国、韓国あたりが、その代表的な地域となる。そして、3-4と言えども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えると理解しやすいかの?」

    『そうですねえ』

    曖昧な表情でひとつ頷いた後で、青年が口を開く。

    『何となくわかったような気がしないでもないのですが、そのあたりを、別な角度から、できれば具体例をあげて、ご説明いただけませんでしょうか?』

    「そうじゃの。では、日本のプロ野球と大リーグの観客の違いを例にあげて説明しよう。そなたは野球の観客席を見て、何か印象に残っていることはないかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は首を傾げてしばらく黙考した後、口を開いた。

    『そうですね、学生の頃に、父と一緒にTV中継を見ていた記憶ですが、外野席の人々が打席に立つ選手に向かって一丸となって声援を送ったり、楽器を鳴らしたりと、とても賑やかだった印象が記憶に残っています』

    「以前、野球は魂4が好むスポーツという話をしたと思うが、球場においてもその傾向は変わらず、特に、一番入場料の安い外野席は、文字通り、魂4の指定席ということになる。その中でも、お手製のプラカードを掲げて大声で声援を送っている人物は、まず、4−4の人々と思って差し支えあるまい」

    『なるほど。以前、プロスポーツ選手は皆2-3-5-5…2という厳然たるルールがあることをお聞きしましたが(※第23話参照)、観客側の相はスポーツによって異なるのですね』

    「その通りじゃ。スポーツの観客側の相と魂の種類については、また別の機会に話すとして」

    そこで区切り、陰陽師は湯呑みの茶を飲んでから続ける。

    「一方、大リーグの観客には、鳴り物や楽器を持ち込む人間は、基本的にいない。球場で流れる電子音楽に合わせて拍手をするようなことはあるものの、基本的に三々五々、各個人のスタイルで観戦したり、応援したりしている人物がほとんどじゃ。もちろん、中には歌ったり、踊ったりしている人物はいるものの、それもあくまで個人レベルの話で、集団で同一行動をとっているわけではないことは、BS放送のMLB中継などを見れば、すぐに納得できるはずじゃ」

    黙って頷いている青年を見やり、陰陽師は続ける。

    「そして、野球場の興味深い現象の一つに、バックネット裏から内野Aあたりに陣取る魂1〜3と、ヒットやホームランのたびに狂喜乱舞する魂4との温度差という問題がある」

    『なるほど。僕は野球にほとんど興味ないので、そこまで注意をして野球を見たことがありませんが、野球好きが魂のメカニズムを知れば、そのように見えるわけですね。だとすれば、なんだか、野球場はこの世の縮図みたいですね』

    「まあ、そういうことじゃな。さて、今度は第二期じゃが、“魂1:僧侶/王侯”を除く各魂が、この世で各々の特徴を最も顕在化させる時期がこの第二期となる。また、この時期は、本来は魂1〜3と交わることがない魂4が、学業で突出した能力を発揮するという時期であることも相まって、魂1〜3の活動領域に侵入してきて、様々な軋轢を生み出すという時期でもある」

    『なるほど』

    「繰り返しになるが、高学歴を背景に、2−4がビジネスの世界で一定以上の地位を確保したとしても、魂がガラ携並みである故、大局的見地によるものの判断ができないことには変わりがない。さらに2−4の特徴である、権謀術数、感情の起伏の激しさ、裏表のある二面性、えこひいきといった性格により、彼らが部長や課長にいる部署は、“部下の手柄は俺のもの、俺の失敗は部下のもの”といった風潮が蔓延しやすい

    『彼らの下についた1~3の人々は、不幸以外の何物でもないと言えそうですね。とは言え、そんな2−4の人物であっても、優秀な人物に対し、それなりに評価せざるを得ないのではありませんか?』

    「残念ながら、大方の場合、そうはならんのじゃ。2−4の人物は、自らの地位を脅かす優秀な部下を本能的に恐れるという潜在的な気質から、優秀な部下を潰しにかかる一方で、仕事の出来/不出来に関わらず、ご機嫌取りに終始する部下をかわいがり、時には無能な部下を高く評価するといった傾向が顕著となる

    青年は大きなため息を吐き、顔を伏せながらつぶやく。

    『そんな上司と同じ2−4は、同じ特徴を持つことから、ご機嫌取りが上手だと』

    「その通りじゃ。当然の帰結として、そのような2―4の部長や課長の人事考課を鵜呑みにした会社のトップおよび組織体は、有能な部下を失う可能性が飛躍的に高まることは言うまでもない」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで小さくうなってから口を開く。

    『会社のトップや人事担当の方に、ぜひ社員の鑑定を依頼していただき、魂の属性に適した人員配置をしてもらいたいものですね』

    「まあ、実際に、急成長を遂げている企業のトップが、その手の話で、ワシの所を訪ねてくるケースは、けっこう多いのじゃがな」

    『それを聞いて、少し安心しました』

    青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら頷き、続ける。

    「さらに言うと、小学校、中学校の教員や社会派弁護士と呼ばれる人物にも、2−4が多いのも、以前に説明した通りじゃ」

    『その時のお話(※第17話参照)では、学業が突出している点で、2−4の人々は他の学部に比べて倍率が高い、大学の教育学部や、弁護士などの上級公務員試験に合格しやすいということでしたね』

    「そう。小学校の教員は、学童に対して上から目線で接することができることもあり、彼らのプライドを満足させると同時に、給与や社会的地位が安定しているという点からも、2−4の人口が多くなりがちというメカニズムも、以前にも説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、黙って首肯する青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一方、弁護士の場合も、先生と呼ばれることで、顧客に対して上から目線で接することができると共に、自身のプライドを満たせるわけじゃし、社会的地位も安定している点は小学校の教員と同様じゃが、社会で幅広く活躍できることから、人脈も広がりやすく、政界進出への足がかりになるケースさえあるわけじゃな」

    『社会派弁護士として、私的な領分で偏狭な正義感をかざすのは百歩譲って我慢するとしても、政治家になってまで、感情論をベースに活動してほしくないですよね』

    「たしかに。2−4の人物が政権を握った国が、結果的にどうなっているかについては、別の機会にゆっくり話すとして」

    青年が黙って頷くのを横目に、陰陽師は説明を続ける。

    「最後は、第一期の魂4の説明になるが、現世でも老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。そして、2−4の時期に突出していた学力が再び下降線を描き始める(“特に最後の50回”)1-4とは、魂2~3同様、老人にも似たプライドの高さ、気難しさ、保守的、許容範囲の狭さと、ガラ携並みのOSという特徴が混然一体化しておる時期と規定することができるのじゃろうな」

    『なるほど。ところで、1-4の人物は、日本にはほとんどいないとお聞きした記憶がありますが、彼らの多くは、どのあたりに分布しているのでしょうか』

    1−4の多くは、中東、エジプト、アフリカ大陸、そして、インド、パキスタンなどを含めた、東南アジア、イランなどが、主な転生先となっている」

    『僕はそれらの地域に住む人々とも特に交流がありませんが、現代でも狩猟民族だったり一夫多妻制を採用している国が多いことから、男性は非常にプライドが高く、女性は妻同士の絆を大事にしているような印象があります』

    「そのあたりは、そなたの言う通りかもしれぬの」

    『狩猟民族ですと、獲物の質や量で序列の区分が明確にできてしまうのでしょうし、一夫多妻制ですと、男性の方が優位なわけですから、そのあたりの分布状況は、なんとなく納得という感じです。逆に、女性の方も、一人しかいない旦那を奪い合うよりも、横のつながりを大事にするという魂4の特性が現れているような印象が強いですね』

    「たしか、それらの国々には、女性が男性の下支えをするのは当然、という文化が、現在も根底にあるのかもしれぬ。じゃが、そうした話はあくまでそれらの国々の文化全般の話であって、かならずしも1−4の特徴にはならぬから、早合点せぬようにの」

    『そのあたりのご指摘、しかと、了解いたしました』

    青年の言葉に小さく頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「以上、ざっと四期にわたる魂4の特徴について説明してきたが、理解できたかの?」

    『はい。後は実際に1−4や3−4の人物とやりとりをすれば、腑に落ちると思います』

     

    買い占めに走った人物の魂の属性について

    そう言い、力強く頷く青年に笑みを向け、陰陽師は問う。

    「では、話を戻して、今回、買い占めに走った人々の属性をみていこうと思うが、事の発端となったのは、どのような情報だったのじゃろうか?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、該当する文章を読み上げる。

    新型コロナで品薄になる品の予想を、根拠付きでお伝えします。次はトイレットペーパーとティッシュが品薄になります。生産元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーを、そもそも生産をしていないのが根拠です。品薄になる前に事前に購入しておいた方がいいですね

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    富田優史SS

    属性表に目を通した青年は、小さく息を漏らしてから口を開く。

    『予想はしていましたが、やはり“魂4:一般庶民“でしたか。大局的見地の数値が30とかなり低いことから、きっと、本人は思いつきで、深く考えずに発信したのでしょうねえ。それと、下段の枝番と欄外の枝番がほぼ“7”ですから、大事になっても、知ったことではないと思っていた節もありそうですね』

    「そうじゃな。しかも、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、天から“何か”が降ってきて、本人だけでなく、他者も誤った方向へ扇動するという霊障が、大山である転生回数70回代によって、いっそう発揮されてしまったとも考えられる」

    『実際のところ、日本家庭工業会によれば、日本のトイレットペーパーの約98%が国内で生産されているとのことでしたので、先程の情報は完全なデマだったようです』

    「なるほど」

    『また、オイルショックの時と違う点は、今回は呼吸器系の疫病ということで、不織布のマスクが品切れになっていたことから、布マスクを自作するにあたり、マスクの材料となりえる西松屋の沐浴用ガーゼが買い占められて、妊婦や新生児のいる家族が困っていたことです。他にも、消毒用アルコールが売り切れ、一部の医療機関で不足しているという記事も見かけました』

    「それらの品物が、本当に必要としている人々に届かないことは、たしかに、由々しき事態よのう」

    『おっしゃる通りです。今度は、買い占めに走った人々の鑑定をお願いいたします』

    青年が投稿を読み上げる内容に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    トイレットペーパー5個とティッシュペーパー5箱入り4つをやっと購入。全て手に持って歩いて帰宅。腕が千切れそうだったけど、買えたことに満足。

    う〜さSS

    ティッシュとトイレットペーパーを慌てて購入。買いすぎたかも。どこにしまおう・・・

    タモターモンSS

    二人の属性表に目を通した青年は、口を開く。

    『この二人は典型的な、情報に踊らされたタイプのようですね。2−4の人物も買い占めしていることから、たとえ学業が突出していても、ガラ携並のOSという特徴は変わらないようですね』

    「たしかに、その傾向はあるのじゃろうが、人間は多面性を持つということから、買い占めに走った事実だけを捉えて、全員が全員、魂4だと決めつけぬようにの。買い占めした中にも、魂1〜3の人物がいることは、間違いのない事実なのじゃろうから」

    『そうでした。僕だって、状況によっては、買い占めに走っていたかもしれませんからね。そのあたりは、じゅうぶんに気をつけます』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    ホームセンターに行ったらみんなトイレットペーパー爆買い。デマだったと思いますが、万が一のために、2個購入しました

    かにかにSS

    青年は次の属性表の紙を眺め、少し驚いた様子で口を開く。

    『この人物は、“魂2:貴族(軍人/福祉)”ですね。多少は情報に流された節はありますが、デマということには薄々感づいていたようですし、他人に配慮して、手当たり次第ではなく、必要最低限の2個を購入したところが、いかにも魂2らしいと思います』

    「たしかに、魂2らしい、自制の利いた行動ということはできるかもしれんな」

    青年の言葉を聞いてうなずく陰陽師を横目に、青年は次の人物に話を進める。

    『この人物は、マスクが品薄で購入できる数が制限されていた頃に、同じ顔ぶれの高齢者たちが早朝からドラッグストアの前で並び、毎日マスクを買い占めしていたことがあり、他の利用者にマスクが行き届かないことを苦慮したお店が、マスクを陳列する時間を非公開にしたところ、空のマスクの陳列棚にマスクが並ぶまで、棚の前で座って待っていた高齢者です』

    マスクを待つ高齢者SS

    陰陽師が書いた属性表を読んだ後、青年は口を開いた。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字が“7”と“9”であることから、この人物は“性悪説”的な気質かつ、転生回数が30回代の“数奇な運命”を持っていることもわかりますね。彼のように、マスクの買い占めが日課になっている高齢者のせいで、他にマスクを必要としている方が購入できなくなることは、迷惑以外の何物でもないと思うのですが』

    「まあ、頭2の4-4であることから、このあたりの行動をすること自体、想定内であるとは言え、彼の年齢を鑑みるに、オイルショックの経験から何も学んでいないようじゃのう」

    『おっしゃる通りですね。次は、今回の騒動を活かしてビジネスの機会にしていた人物となります』

    トイレットペーパー1ロール1,000円購入券プレゼント。応募方法は**

    田村誠二SS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「この人物は、“魂3:武士”らしく、商魂逞しい人物のようじゃのう」

    『たしかに。お金のためならなりふり構わないところは、頭が2で転生回数が第三期(101〜200回)ということと、枝番の数字に“7”が多いことに起因しているのではないかと思います』

    陰陽師が小さく頷くのを横目に、青年は続ける。

    『次は、買い占めには加わらず、家族用の自作マスクをネットで上げ、注目を集めていた元“モーニング娘。”の初期メンバーである辻希美です。彼女のように、品不足に対して不満を口にするのではなく、代替品を探すか、自作するという発想を忘れないようにしたいです』

    辻希美SS

    「彼女の行動は、大局的見地に基づいた、魂3ならではと言えよう。そして、彼女のブログは多くの人々に読まれているようじゃから、彼女の発信を機に、マスクを自作しようと考えた人が増えたのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は一つ頷き、口を開く。

    『次の中学生ですが、自腹でマスクを自作するだけでなく、それらを全て山梨市に寄付したそうです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。

    滝本妃さんSS

    属性表を眺めた青年は、感嘆の息を漏らしてから、口を開く。

    『彼女は、欄外の枝番の数字が“1”で“性善説”的な気質を持っていることと、転生回数が大山である270回代であることを踏まえると、“魂2:貴族(軍人/福祉)”の“観音”としての側面(※第27話参照)が発揮された、ということがよくわかりますね』

    「それだけではなく、陰陽五行に“水”を持っていることも、重要なポイントとなる。陰陽五行に“水”を持っている人物は、優しく穏やかな性格である人物が多いのじゃが、彼女が取った行動なぞは、正に、頭1の2-2という属性と、陰陽五行における“水”がもたらした行動といって差しつかえないじゃろうな」

    『中学生だった頃の僕でしたら、自腹を切ってマスクを作成し、しかもそれらを寄付するなんて考えもつかないと思います。人によって取る行動が、どうしてここまで異なるのか、今までは不可思議でならなかったのですが、魂の属性によってある程度の傾向があることがあらためて理解できてくると、世の中の多くの不可思議な事象も腑に落ちる気がします』

     

    買い占めのような騒動を起こさないために

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながら、口を開く。

    「今まで考察してきた話を総合的に吟味すると、昭和の第1次、第2次オイルショックにおいて“口コミ”で引き起こされた騒動が、今回は、ネットという情報伝達手段の出現により、より短期間に、集中的に拡散したため、あのような事態が起きたということになるようじゃの」

    『なるほど。そして、偏狭な正義感で世論を扇動する2-4に、無条件で追従する4−4の人口比率が他国に比べて圧倒的に多い我が国の現状から、彼らの言動が日本国民の総意などという誤解を外国から受けるようなことがあるとすれば、日本人は物事に流されやすい国民、などという風評が立ちかねませんものね』

    「その通りじゃ。そもそも魂4は、全世界的には6割(日本では例外的に45%)を占めており、参加意識も高いことから、今の時代、インターネット上の多くの意見が、そんな彼らの偏狭な正義感を反映させたものであることは散々説明してきたので、ここではあらためて繰り返さないが、魂1〜3の我々が、大局的見地に基づいた発信を積極的に行い、世論を先導していく必要性が、“令和”の時代ではさらに重要になってくることは確かなはずじゃ」

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら続ける。

    『ちなみに、魂1〜3の人物が発信や行動を起こさないと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「もし、偏狭な正義感で物事が判断される状況が、これ以上助長されるようなことがあったり、その延長線上にある“自粛警察”のような行動が、これ以上まかり通るようになると、中世の魔女裁判にも匹敵する狂気が正当化される危険性は、更に高まるじゃろうのう」

    『なるほど。昭和の時代が理想の時代だったとは言えないとしても、あの時代に存在していたおおらかさや、寛容さみたいなものを取り戻すためには、我々魂1~3の大局的見地に基づく判断や意見が、必要不可欠だとおっしゃるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はマスク姿で初詣に参拝する、大勢の人物の画像を眺めていた。
    自粛を要請されている中でも、自ら密になる状況に出向く人々は、ほとんどが魂4の人物なのだろうか。

    魂の属性によって取りがちな行動パターンがあるなら、それは魂のクセのようなもので、仮にそれが迷惑行動だとしても、当事者にとっては今世の課題として必要な体験なのかもしれない。

    とは言え、ネット上で大局的見地に基づいた情報が主流になり、魂磨きの修行に励む人が増えるよう、本当に必要不可欠な情報は、陰陽師と協議を重ねながら、これからも発信し続けなければと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    青年は思議していた。

    見えない存在とのやりとりを断言的に話す人物は、眷属や魑魅魍魎の影響を受けている可能性が高いことから、そうした人物が発信する情報には注意すべき、ということについてである。
    では、陰陽師/霊能力者の条件とは、どのような内容なのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、今日は陰陽師/霊能力者の条件について教えていただけませんか?』

    「今日もまた、壮大なテーマじゃな。して、その質問をするにあたり、どのような経緯があったのかな?」

    『陰陽師や霊能力者という言葉は巷に溢れかえっていますが、実際のところ、先生のような陰陽師/霊能力者との違いが、いまいち理解できないのです』

    「なるほど。その質問に答える前に、確認ではあるが、そなたは霊能力についてどのような理解をしておるのかな?」

    『まず、霊能力者は、鑑定結果の属性表の現世における具体的な性格/ソフトに続く因子が(±1〜9)となります。そして、霊能力は古来の分類では6つ、天眼通力、天耳通力、自他通力、運命通力、宿命通力、漏尽通力があり、先生たち陰陽師/霊能力者の間では、天眼通力、天耳通力、自他通力、漏尽通力の存在を認める人物が多い反面、運命通力、宿命通力の存在については懐疑的な意見を持つ人物がかなり多い、と以前にお聞きしました」

    青年の説明を聞いた陰陽師は、小さく頷いた後に口を開く。

    「“運命通力”と“宿命通力”に対し、懐疑的な意見を持つ人物が多い理由については、理解しておるかな?」

    『未来は地球上にいる80億人の人間たちの一瞬一瞬の選択の積み重ねと、地震、津波、気温の急激な変動といった天変地異などが複雑に絡み合っているからで、大まかな道筋はついているとしても、確定した未来は存在しないから、と認識しています』

    「その通りじゃ」

    小さく頷きながら、陰陽師は霊能力の詳細を紙に書き記していく。

    ・宿命通力:その人がどういう天命を持って生まれてきたのか、何故こういう運命になったのかという、前世・今世・来世のことがわかる能力。

    ・運命通力:運命を予知する能力で、以前こういうことがあったとか、この先こういう時期にこういうことがあるであろうということがわかる能力、簡単に言えば、人間の過去世や未来が見える能力。

    ・天眼通力:相手が何をしているか、将来はどうなるか、それらを神様が霊眼で見せてくれる能力。

    ・天耳通力:耳で神の意図がキャッチできたり、心霊と話ができたりする能力。

    ・自他通力:読心術のことであり、相手の思っていることがすぐ読めるという能力。“黙って座れば、ピタリとあたる”という易者などが、その典型的な例。

    ・漏尽通力:人の悩み、苦しみ、人生上の様々な問題を(今世の宿題と抵触しない程度に)解決する能力のことで、漏尽とは漏れなく尽くすという意味となり、人間の問題点、苦しみを漏れなく尽くして解決し、幸せに導く能力。

    青年が書いた内容を読み終えた頃合いに、陰陽師は口を開く。

    「一つ加えておくと、この世が修行の場であるという前提からすると、最後の“漏尽通力”も“幸せに導く能力”という点に問題があることを覚えておくようにの」

    『たしかに。人間の問題や苦しみを解決することは、多くの新興宗教が目指している“地上天国”を目指すことに繋がりかねませんからね』

    納得顔で頷く青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

     

    陰陽師について

    「さて、話を戻すが、平安時代あたりにおける陰陽師の定義とは、天文学、暦のエキスパートのこととなり、現代で言うところの、科学者や文部大臣のような存在じゃったと考えてもらうといいじゃろう」

    『なるほど。陰陽師と言うと、どうしても霊能力/超能力者というイメージがつきまとうのですが、天文学や暦といった理科系のエキスパートだったのですね。たしかに、三国志で有名な諸葛亮孔明も軍師とか祈祷師というイメージが強いですが、赤壁の戦いにおいて、地形図と天候を把握して東南の風が吹くことを知っていたという説を聞いたことがあります』

    「諸葛亮孔明の話はさておき、960年40歳で天文得業生(陰陽寮に所属し天文博士から天文道を学ぶ学生の職)であった安倍晴明は、村上天皇に占いを命ぜられておることをみてもわかるように、占いの効能は、当時の貴族社会で広く認められていたようじゃ。また、993年2月に一条天皇が急な病に伏せった折、安倍晴明が禊を奉仕したところ、たちまち病が回復したことや、1004年7月には深刻な干魃が続いたために清明が命を受けて雨乞いの五龍祭を行なったところ、雨が降ったという逸話も残っておるところからも、そのような効能の一端を窺い知ることができる」

    陰陽師の説明を聞いた青年は、スマートフォンで自分なりに調べてから口を開く。

    『雨乞いは天文学の知識でもできそうですが、病気平癒に関しては、まさに“霊能力”のなせる業だと思います。それに、979年当時59歳だった安倍晴明は、那智山の天狗を封じる儀式を行なったようですが、天狗が魑魅魍魎(※第36話参照)に含まれることを考えると、先生が日々行なってくださっている“お祓い”に近いことはできたのではないかと』

    陰陽師は手元にあった属性表の束をめくり、その中の一枚を青年の前に差し出す。

    安倍晴明SS

    安倍晴明の属性表を見た青年は、驚きの声を上げる。

    『安倍晴明はやはり“霊能力者”で、しかも(±1)と最上位なのですね! ただ、先祖霊の霊障に“17:天啓”があることと、精神疾患に“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”のみがあることを踏まえると、これらの合わせ技によって、人生の大事な分岐点で、眷属や邪神に唆されたり、占術の結果を誤解した可能性があるのですね』

    「以前にも説明したとおり、精神疾患の項目に関しては、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点が重篤であるのと同様、13番がなく14番だけということは、それだけ14番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    腕を組んで小さく唸る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「とは言え、彼は晩年、左京権大夫、穀倉院別当、播磨守などの官職を歴任し、位階は従四位下にまで昇ったようじゃが、発揮されていたパフォーマンスが40%の状態でも彼がそこまでの地位にたどり着けたのは、まさに属性表の数値のなせる業というわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表に目を通す。

    『おっしゃる通りだと思います。では、属性表や当時の実績から、安倍晴明は先生のような陰陽師/霊能力者の条件を満たしていたと考えても問題ないのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから口を開く。

    「いや、それはまた別の話になる。仮に彼が霊的なものごとに対するソリューションを持つ人物であっても、ワシの考えに賛同するとは限らぬし、現世利益や私利私欲のために能力を行使せず、本物の“カミ”の意向を把握していたかどうかには大いに疑問が残るからの」

    『なるほど。真の“霊能力者”であるかどうかは、霊能力の強さなどの属性表の結果だけでは決まらないということですね』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ところで、最近、メディアで話題になっている陰陽師がいるのですが、彼なんかはいかがでしょうか?』

    「ふむ。鑑定するまでもなく怪しげな人物のようじゃが、その前に、そなたなりの見解はどうなのじゃ?」

    いつもの笑みでそう問いかける陰陽師に対し、青年は苦笑を浮かべながら口を開く。

    『頭2の魂2−4で霊媒体質(−1)、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、第6・7チャクラが乱れているのではないかと』

    そう答えた後、青年はその陰陽師の名前を陰陽師に告げる。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    橋本京明SS

    属性表を見た青年は目を見開き、口を開く。

    『やはり、チャクラの乱れは6のみでしたか。SNSを通じていろんな人物の属性表を見て思うのは、肩書きや経歴を誇張気味で発信している陰陽師や霊能力者は、基本的に、頭が2で魂2−4の人物が多いように感じます』

    「全員が全員、頭が2の魂2−4とは限らぬものの、そなたの見立て通り、確率的に頭2の2―4が多いと思って差し支えはないじゃろうな」

    『僕としては、一人でも多くの方に、魂磨きの修行の重要性に早めに気づいていただきたいと思っているのですが、彼のような人物の言葉を信じ、今日もモチベーションを保って仕事に励んでいる人たちがいることは、悩ましい限りです』

    「そなたの言うこともわからぬではないが、結局は、本人たちが信じるに値すると判断した力や見えない存在を信じるのはしょうがないことじゃし、信じた結果から学ぶこともまた、修行の一つなのじゃろうて」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で首肯し、口を開いた。

    『ちなみに、この人物ですが、彼の祖父が陰陽師で、霊に対する魔の祓い方を教わったことをきっかけに、学童の頃から占いの学問を始めたようです。魂2−4が学業に突出するという特徴と、転生回数が数奇な運命を歩みやすい230回代であることを鑑みると、まさに学問としての占いは、彼にとって得意分野だったのかもしれません』

    「たしかに、2―4の占い師が多いのも、そのほとんどが2(3)-4であるのも、統計学的な事実じゃからな」

    陰陽師はいつもの笑みを浮かべて小さく頷いた後、口を開く。

    「ちなみに、霊能力に関して、忘れてはならぬ原則がある」

    『とおっしゃいますと?』

    そう言い、青年は背筋を伸ばす。

    「それは、“霊能力”は基本的に一代限りという大原則じゃ。仮に、その子孫たちが初代の“霊能力者”の人物の儀式の型や智恵を代々伝承したところで、それらの形式的な儀式が、様々な霊的な問題にたいして全く用をなさないことは、伝統的な宗教を見れば一目瞭然じゃ」

    『つまり、陰陽師/霊能力者の何代目の子孫と謳っているからと言って、本人に霊能力があるとは限らないということですね。ちなみに、この陰陽師は様々な占術を用いて占いをしているようです』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作して占術を告げていく。

    「まあ、その人物が、何を種本にして占いをしようと、自由じゃが」

    そう前置きをしたうえで、陰陽師が口を開く。

    「一口に暦と言ったところで、その暦自体も、世界規模でこれまでに何度も変わっておるし、大きな視点で見れば、地球もその他の星々も、宇宙の同じ場所に存在しているわけではない。また、先ほども言ったように、未来は我々人間一人一人の行動と地球の活動によって変化することから、未来予知に関する鑑定自体、ワシに言わせるとあまり意味がないということになる」

    『そうでしたね。仮に占いで望ましい未来が出、それが的中してその時は幸せだったとしても、その幸せが、実は、さらなる不幸の始まりとなる可能性もありますし、その逆もまた然りなわけですから、未来のことを考える暇があるなら、瞬間瞬間の選択で悔いが残らないように行動する方が大事なのですよね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に陰陽師はいつもの笑みをたたえて頷いた後、口を開く。

    「他に、誰か気になる人物はおらんのかな?」

    『テレビ番組に出演していた霊能力者として、この人物はいかがでしょうか?』

    「どんな人物かの?」

    青年はスマートフォンを操作し、その霊能力者の経歴を挙げていく。

    『彼は18歳頃から心霊現象に悩まされてから、1年間寺で修行した後、2年間の滝行を経て憑依体質を克服したと書かれています。その後、霊視アドバイスを続ける中で、別荘の心霊現象に悩んでいた小説家の相談に乗ったことで、その小説家の縁でメディアに出演することになったと。その後は、テレビ番組にレギュラー出演するだけでなく、霊視によってゲストの部屋の中を言い当てるなどして番組を盛り上げていたようです』

    黙って耳を傾ける陰陽師の様子を察し、青年は続ける。

    『ただ、彼の番組をきっかけに中学生が飛び降り自殺をしてしまったり、とある女優の死んだ父親を霊視して語ったところ、実はその父親は存命だったり、合成された偽物の心霊写真を本物だと断言してしまうなど、彼の霊能力に対する疑惑や批判の声もそれなりにあったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かし、紙に鑑定結果を書き記していく。

    江原啓之SS

    内容を一通り眺めた青年は、小さく息を漏らしてから、再び口を開く。

    『残念ながら、この人物はいわゆる“霊能力者”ではありませんでしたか。彼は、イギリスに渡ってアカデミックなスピリチュアリズムを学び、短大でスピリチュアリズム授業を行うなど、現実面での活動もしっかりしていたようですが、少し残念です』

    「修験道での修行や滝行によって憑依体質を克服したと言っておったが、霊障と天命運に“17:天啓”の相が残ったままじゃし、言うまでもないことじゃが、修行によって霊能力が身につくことも、霊媒体質が変わることもない」

    陰陽師の言葉に対し、青年は頷いてから、口を開く。

    『血脈の霊障に“3:精神”と“4:病気”の相もありますから、以前にお話を聞かせていただいた、前世の記憶を語る少年(※第24話参照)に近いケースなのかもしれませんね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「ワシが知る限りでは、彼はオペラ歌手もやっているようじゃが、自身の公演の中で歌を披露してみたり、他のプロの歌手と共演という形を取っていることから、 “排除命令”に抵触しないグレーゾーンでも活動しているようじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表を眺めから、口を開く。

    『オペラ歌手以外にも、一般社団法人の理事長や、作家やタレント、スピリチュアルカウンセラーと活動が多岐にわたっているので、魂の属性が、プロのスポーツ・芸能・芸術を生業にできる2−3−5−5…2(※第23話参照)ではありませんが、ギリギリセーフなのでしょうね』

    「かなりきわどいところを歩いているが、今までのところ、ぎりぎりセーフと言えなくもないのじゃろうな」

    『よくわかりました。それにしても』

    二つの属性表を手に取り、青年は眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『先ほどの陰陽師もそうですが、メディアで話題になる人物は、先生のような陰陽師/霊能力者の条件にあてはまる人物は、ほぼいなそうですね』

    そう言い、暗い表情で視線を落とす青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら声をかける。

    「そう落ち込むでない。そもそも、見えない世界の話じゃから、陰陽師/霊能力者が行使している能力が本物か偽物かを判定することは難しい。また、どの人物が仮に本物だとしても、多くの新興宗教のように地上天国を目指すという方向性が正しいのか、現代医学の西洋医のように、病気だから治すのが善(最終的に不老不死を目指す)という考え方が正しいのか、という問題もある」

    『なるほど。安倍晴明は病気平癒や雨乞いをしていましたが、それらが“本物のカミ”の意向に沿っていたとは限らないのですね』

    「その通りじゃ。仮に陰陽師や、既存の新興宗教の開祖が、たとえそれなりの霊能力を持っていたとしても、彼らがどのような“理念/哲学”をもって、教義や宗教を確立させたのかということの方がはるかに重要なのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、記憶を辿るように視線を巡らせ、黙考する。
    そんな青年に対し、陰陽師は励ますような笑みを向けて言葉を発した。

    「何か気になることでもあるのかの? どんなことでもかまわぬから、とりあえず話してみるがよい」

    そんな陰陽師の様子を見て安心したのか、青年は小さく頷いてから、口を開く。

    『以前、“邪神”は既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”とお聞きしましたが、新興宗教の信者たちが教祖を神格化することによって、死後、教祖が邪神となってしまうこともあるのでしょうか?』

    「その場合の“邪神”は信者側の問題であるわけじゃから、本人とは直接関係はないが、教祖本人が死後も崇めてもらおうとこの世に執着し、地縛霊化しているケースは十分に想定できるじゃろうな」

    『なるほど。邪神と霊障の関連で思ったのですが、新興宗教の信者をご先祖に持つ霊媒体質の子孫の場合、霊障の12と13、すなわち、邪神1と2の相がかかりやすいのでしょうか?』

    「その可能性は高いじゃろうな。困った時の神頼みという話も、今よりも霊主体従であった時代には、極めて自然な行為だったはずじゃろうから、そのような新興宗教の信者たちが、教祖の死後、教祖を神格化し、魂磨きの修行という本来の道筋から離れてしまった結果、死際に、この世になんらかの執着を残して地縛霊化してしまうことも大いにありえたはずじゃ」

    『なるほど。何だか恐ろしい話です』

    そう言い、身をすくめる青年にいつもの笑みを浮かべ、陰陽師は続ける。

     

    令和の生き方とは

    「“本物のカミ”よりも“似非神様”ばかりが注目され、求められるのは、“カミ”がすがるものではなく、感謝するものという基本をわきまえないことに起因しておるとワシは思う。ゆえに、この世は魂磨きの修行の場であり、地球人全員が幸せになることも地上天国を目指すことも違うということを、一人でも多くの人に伝える必要があるわけじゃな」

    『たしかに』

    陰陽師の言葉に対し、真剣な表情でうなずいた後で、青年は口を開く。

    『ただ、物事に行き詰まった時に、自分の力で乗り越えるのではなく、他力本願になってしまうのは、人間誰しもが持つ弱さである以上、そのような姿勢はある程度はしかたないものと考えるべきでしょうか』

    「もちろん、特に霊媒体質の人物の多くは、霊障によって余計な重荷を背負っていることから、本来なら乗り越えられる試練をパスできないことも大いにあり得る。そのような人物に対し、根本的な解決策を提示することなく、現世利益を叶えた後の代償を無視したまま目の前の人物の“弱さ”を食い物にする宗教が幅を利かせていること自体は、大いに問題じゃと思う」

    『令和のねじれによって、“体主霊従”から“霊主体従”に方向修正した要因の一つとして“コロナ禍”が生じたと僕は認識していますが、世の中が混沌として不安になりやすい時代だからこそ、なおさら氣をつけなければいけないわけですね』

    「その通りじゃ。ワシのみるところ、2021年は、地球規模でますます“ねじれ解消の動き/霊主体従化”、すなわち、世界レベルの混乱が深まっていく可能性が極めて高い」

    青年は驚きに目を見開き、しばらくうろたえてから、ようやく口を開く。

    『新型コロナウイルスの中には、変異して感染力が高まり、猛毒化しているとも聞きますから、コロナ禍が落ち着くどころか、さらに激化する可能性もあるということでしょうか』

    「そのあたりは、ワクチンの効能と接種のスピードとの兼ね合いが肝となっていくのじゃろうが、このコロナ禍自体は、まだまだ続くとみた方がいいじゃろうな。それと、幸か不幸か、たまたまこの時期に転生している人々の“現世的に見た”勝ち負けがはっきりしてくる可能性も極めて高く、2020年以降の勝ち負けが、今世の宿題の達成度とほぼイコールと言う側面も決して無視することはできないと思う」

    青年は思案顔で腕を組んだ後、口を開く。

    『そうなると、現世利益を叶えてくれる眷属や邪神を崇めてたり、現世利益を叶えることにフォーカスした占い師や霊能力者に助言を仰ぐほど、むしろ現世利益の獲得が遠のくという、矛盾が生じるわけですね』

    「何を信じるかは各人の自由じゃが、ワシが他の新興宗教団体の教祖や霊能力者と異なる点は、大まかに言って二つある。一つ目は、この世は修行の場という前提のもと、現世利益にコミットしないこと。そして、二つ目は、ワシを教祖として神格化しないことじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は首肯して続きを待つ。
    青年の意図を察した陰陽師は、一呼吸置いてから再び口を開く。

    「一つ目に関して言うと、たとえば、神事によって“8:異性”の相を解消したからといって、その意味するところは、自分好みの異性と恋愛をし、その結果、結婚できるようになる、ということを保証しているのではなく、あくまで霊的な重荷を取り除き、素の状態になった人物が魂磨きの修行に励めるようにお膳立てすることに他ならない」

    『そうでしたね。僕のように恋愛運の数字が低い人物は、霊障が解消しても異性絡みのトラブルがなくなるわけではなく、女性と様々な問題を起こすこと自体が魂磨きの一環ということだったと記憶しています』

    苦笑しながらそう言う青年に対し、陰陽師は笑みを向け、続ける。

    「二つ目に関して言うと、ワシは、自ら交信する“カミ/セントラルサン”からの回答を受信したり、そのパワーをクライアントに“転送”する能力はあるものの、自らが完全な存在では決してない。つまり、一人の人間として、必ずしも褒められる人間とは限らないというのも重要なポイントとなる」

    陰陽師の言葉に対し、驚きの表情を見せながら青年は口を開く。

    『先生のお考えやお人柄を見知っている僕としては、尊敬できる人物だと思いますが、属性表の内容が我々と大きく異なる人物からしたら、また違った評価をされることもあるのでしょうね』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖よろしく、自らを“生き神様”などと規定すること自体、“カミ”を恐れぬおこがましい行為じゃし、陰陽師/霊能力者がその能力を行使するにあたり、“何が善であり何が悪なのか”という自分なりの判断基準を持つことが必要不可欠じゃ、とワシは思う」

    『地上天国を目指している新興宗教とは異なり、完全な存在である必要も、目指す必要もなく、各人が魂磨きの修行に生まれてきているわけですからね』

    青年の言葉に、陰陽師は軽く頷いていから、再び口を開く。

    「それに、本物の陰陽師/霊能力者は、その職責として、“カミ”とは“公平無私”なる存在であり、利害の異なる個々人のいずれにも加担することのない存在であることを、あらゆる機会をとらえ、一人でも多くの人々に伝える義務を負っているわけじゃ」

    『なるほど。そして、先生のような陰陽師/霊能力者は、あくまで霊媒、“カミ”の言葉の通訳者に過ぎず、しかも“本物のカミ”の言葉であるから、特定の人物のみに利益をもたらしたり、特別扱いするような内容にはならないと』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖は、自分のみが通信可能な“神”を共有したり、その“神”を偶像化し、信者/クライアントたちにそれを祈るよう強要しているが、それこそが“邪道”なわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は少し唸ってから口を開く。

    『眷属や邪神にすがることは“邪道”、せっかく現世利益が叶えられたとしても、崇めるのを止めた瞬間にしっぺ返しをくらい、得た物を失ってしまうとするなら、眷属や邪神は最初から存在しなければいいのに、と思います』

    「そなたの言いたいこともわかるが、そのあたりが“この世は修行の場”たる由縁で、魂2:貴族(軍人・福祉)に観音と不動明王の役割があるように、眷属や邪神にも、この世の善悪を超えた役割があるのじゃよ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえ全ての神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、眷属や邪神を頼ることをやめられない人はいるわけじゃし、日々の過ごし方によっては、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾ってしまい、魂磨きの修行から遠のいてしまう人も少なからずおるのが、この世の常なのじゃよ」

    青年は腕を組み、しばらく黙考した後、口を開く。

    『つまり、魂磨きの修行も一本道ではなく、常に修行の道から外れないように“不動心”を養わなければいけないという、いつものお話に帰結するわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「そなたも、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解してきたようじゃな」

    そう言い、頭を下げる青年を横目に、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師の言葉を反芻していた。
    人生の目的が魂磨きの修行であるということは、現世利益を求めることとは似て非なるものである。
    だが、平成までの“体主霊従”の時代とは異なり、“霊主体従”の時代へと変化を遂げる令和の中で、今世の宿題を達成することが副次的に“現世的な成功”に結びつくとするならば、現世利益的なことに一喜一憂する必要もなく、今まで以上に真摯に生きていけばいい。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2017年に起きた、座間9遺体事件の犯人に対し、第一審で死刑判決が下されたことについてである。
    この事件は、犯人がTwitterを用いて自殺願望がある女性にメッセージを送り、性的暴行と金品の強奪を目的に自宅に誘い、犯行に及んだものである。だが、実際のところ、加害者も被害者も自殺するつもりはなく、被害者の意思を無視した一方的な殺人だったようである。
    また、わずか二ヶ月という短期間で起きた事件という点からも、日本中を震撼させた事件と言えよう。

    加害者の魂の属性や、彼にかかっている霊障については想像に難くないが、9人の被害者には何らかの共通点があったのだろうか?

    一人で考えても埒があかないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は座間9遺体事件について教えていただけませんか?』

    「ふむ。事件名から推測するに、大量殺人事件のようじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから、事件の概要を説明した。

    「なるほど。それはまた、物議を醸す事件のようじゃの。して、加害者の鑑定をするにあたり、まずそなたなりの見立てを聞かせてもらえるかな?」

    陰陽師の問いに青年はあごに手を当ててしばし黙考し、やがて口を開く。

    『魂の種類が4−2であることと、霊障に“5:事件”の相があること、この二つが原因ではないかと』

    青年の見解に黙って耳を傾けていた陰陽師は、やがて指を小刻みに動かし、鑑定を行う。

    「そなたの言う通りのようじゃな」

    真剣な表情で結果を待つ青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「ところで、ちょうど魂の種類の話が出てきたことじゃし、確認も兼ねて、魂の種類と転生回数期について、もう一度そなたなりに理解していることを説明してもらおうとするかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、説明を始める。

     

    魂が生まれた理由

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    青年の回答に一つ頷いた後で、陰陽師が口を開いた。

    「ところで転生回数と魂の別によって、この世での役割もある程度決まっていることについては、どう理解しておる?」

    『この世での魂の種類ごとの役割についてですが、たとえば、今回の事件の加害者は魂の種類が4−2、すなわち、転生回数期が第四期の魂2になり、大量殺人といった凶悪犯罪者を起こす人物の多くが、この属性に該当するとお聞きしました(※第4話参照)』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    《魂の種類》
    魂1:僧侶/王侯
    魂2:貴族(軍人・福祉系)
    魂3:武士・武将
    魂4:一般庶民

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    青年が紙に書いた内容を読んだ陰陽師は、いつもの笑みをたたえてうなずいた後、口を開く。

    「そなたの説明につけ加えるとすれば、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、どうしても物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなる」

    『魂2は観音と不動明王という、一見相反するように思える真逆の二つの側面を持っているとのお話でしたが、今回のケースも、第四期の不動明王的な側面のなせる業だと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙ってうなずくのを視認し、青年は続ける。

     

    加害者の動機と魂の属性

    『加害者は、死にたいとツイートした女性にDMを送り、お金を長期的に引っ張れ、ヒモのような生活が送れること、彼に好意を持ってくれること、という二点を満たす女性を探していたようです』

    「なるほどのう」

    『一人目の被害者は、犯行に使われていた犯人の自宅の初期費用を負担するという、金銭面の条件を満たしていましたが、彼女には交際相手がいると察したことから、もう一つの条件を満たしていなかったため、性欲を抑えきれずに性的暴行を加えてしまった結果、殺害にまで至ったようです』

    「性的暴行を加えたことは理解できるが、その後に殺害までする理由がいまいちわからぬが、そのあたりは?」

    『実は、加害者は2017年2月に“職業安定法違反の疑い”で逮捕されていまして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決が出ていたようです。それで、性的暴行を加えたことが発覚したら実刑になってしまうことを恐れ、証拠隠滅という意味合いも含めて、殺害に及んだと思われます』

    「つまり、加害者は、殺人よりも実刑の方を恐れていたわけじゃな」

    『そのようです。しかも、ヒモ願望があった彼は、働く意欲にも欠けていたようで、一回目の犯行後も、家賃を支払ってくれる次の女性を探していました。また、最初の一人がうまくいったから、次もうまくいくと自信を持ったようで、二人目以降は殺害を円滑に行うため、様々な道具まで準備していたとのことです』

    「加害者が求める、二つの条件を満たす女性はなかなか見つからないと思うが、見つかるまでTwitterを用いては女性を誘い込み、条件を満たさないとみれば、性的暴行を加えて殺害し、再び次の女性を探す、ということを繰り返しておったのじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は眉間にしわをよせてスマートフォンを眺めながら、口を開く。

    『ところがですね、8人目の被害者は金払いがよかったらしいのですが、結局、性欲を抑えきれずに強姦し、殺害したとのことから、犯行に及んでいる最中は、それらの条件を無視してしまっているように見受けられます』

    「結局のところ、性欲を満たすことが目的になってしまったわけじゃな」

    『どうもそのようです。しかも、二人目までは殺害に対して罪悪感を覚えていたようですが、それ以降は罪の意識が軽くなってしまったようで、昏睡状態の女性との性行為による快感を覚えたこともあり、犯行をやめるつもりはなかったとも陳述しています』

    「して、それ以外に、加害者について気になるところはあるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『遺体の切断方法をインターネットで検索したり、発覚を恐れて遺体や解体道具を捨てられずに室内に残していたようですが、犯行を繰り返せば置き場がなくなったり、犯行を重ねるにつれて増えていく遺体から生じる腐乱臭が原因で近隣住民に通報される恐れがあることなどに思いが及ばなかったのかなど、思慮が足りないと思うことがあります』

    「なるほど。たしかに、当該の人物は短絡的な思考の持ち主だったようじゃな」

    陰陽師のあいづちに応えるように、青年は再び口を開く。

    『情報によれば、逮捕される当日まで交際していた女性がまた別にいたことから考えても、彼は逮捕されるまで延々と同じ手口で犯行を繰り返していたのだと思います』

    そう言い、ため息を吐く青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を聞くかぎり、頭2の4−2らしい振る舞いと言えば言えるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は紙にペンを走らせ、鑑定結果を書き記していく。

    白石隆浩SS

    鑑定結果に目を通した青年は、表情を曇らせ、口を開く。

    『やはり、加害者の魂の種類は4−2でしたか。そして、霊障と天命運に“5:事件・加害者・死”の相がありましたか…』

    「加害者が今回の事件を起こした理由として、頭が“2”であることと、枝番の数字が“9”であることが挙げられるが、そのあたり、そなたはどう考える?」

    『頭が2ということは、狩猟民族の末裔、すなわち“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向を持っていると認識していますが、同じ大量殺人犯であっても、頭が“1”である植松聖死刑囚(※第26、27話参照)のように、それが正しいか否かはともかくとして、障碍者や介護の現状を世の中に訴えるような信念みたいなものはなく、己の都合のためだけに事件を起こしたと判断できます』

    「その通りじゃな」

    『ところで、一つ質問があるのですが、加害者が持つ“9”と枝番の数字には、どのような意味を持っているのでしょうか?』

    自力で答えにたどり着けなかったからか、青年は申し訳なさそうに問う。陰陽師は、青年を励ますような笑みと声音で答える。

    「枝番には二つの種類があり、下段の数字と欄外の数字に分けられる。欄外の数字、加害者の結果では“9”に該当する箇所じゃが、この枝番は魂の性質の1・2・3と4・7・9との組み合わせによって意味合いが変わってくるものの、おおむね1から9に向かうにつれて、各々の特徴に“粗さ/雑味”が出てくる」

    『とおっしゃいますと?』

    「この世の印象でいえば、枝番の数字が1〜3の人物は“性善説”、4〜6は“性善説と性悪説”、7〜9は“性悪説”論的な性格を有している」

    『つまり、加害者は枝番が“9”で完全な“性悪説”論的な性格を持っていることから、この世の善悪の基準では悪事と見なされる行動が、彼にとってはそれほど罪悪感を喚起するものではなかったということでしょうか?』

    「人間は、頭の1/2を初めとする、魂の種類、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、そして枝番といった様々な数字の組み合わせでできた多面体のようなものであることから、一概にこうとは言えぬとしても、今回の事件に関しては、そうと言うことになるじゃろうな」

    『なるほど…』

    陰陽師の説明を聞いた後、再び鑑定結果に目を通した青年は、再び口を開く。

    『加害者の魂の特徴は、3番目と4番目の上段の数字が“2”ですから、彼は“攻撃性”と“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という特徴を持っていることになり、さらに欄外の枝番の数字が“9”ですから、霊障の“5:事件”の相との相乗効果によって、この事件を起こしたことは容易に想像できると思います』

    「その通りじゃな。それと、もう一つ言及すべき点は、彼の魂の特徴の5番目の上段の数字が“1”であることじゃ」

    青年は再び加害者の鑑定結果を覗き込み、口を開く。

    『そこは“自己顕示欲”の項だったと思いますが、そこの上段の数字が“1”であるということは、自己顕示欲があまりない、あまり目立った行動を取らない性格のため、学校や介護施設といった公共の場を襲うといったタイプの大量殺人事件ではなく、他人の目が届かない自室で犯行を繰り返したというわけですね』

    「もちろん、杓子定規に考えれば、そのような理解もできなくはないが、魂の特徴の上段の5つの数字の中で、“2”が二つ以上あり、5番目の上段の数字が“1”である以上、そのような人物は、いわゆる“外面がいい”というタイプ、つまり、腹で思っていることとその言動には、それなり以上の乖離がある人物と考えるべきじゃろうな」

    『なるほど。上段の5つの数字は“1”が多ければいいというわけではなく、今回のような数字の組み合わせを持つ人物は、言動に大きな乖離があると理解すべきなのですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が続ける。

    「して、周囲から見た加害者の人物像は、実際どのような印象だったのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて、画面を見ながら口を開く。

    『同級生や以前の職場といった人物からは、素直、真面目、普通、広く浅く仲良くするタイプ、どちらかというと礼儀正しい、好青年など、鑑定結果の通り、外面はよかったようです』

    「なるほど。であるとするならば、今度は、被害者たちを鑑定していくとするかの」

     

    被害者たちの魂の属性

    『彼が今回の事件を起こした背景に納得できましたが、9人の被害者の方々にはどんな共通点があったのか、とても気になります。ぜひ、よろしくお願いします』

    そう言い、青年はスマートフォンの画面を見ながら、被害者たちの名前を挙げていく。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、手元の紙に鑑定結果を書き出していく。

    1人目

    三浦瑞季SS

    2人目

    石原紅葉SS

    3人目

    西中匠悟SS

    4人目

    更科日菜子SS

    5人目

    藤間仁美SS

    6人目

    久保夏海SS

    7人目

    須田あかりSS

    8人目

    丸山一美SS

    9人目

    田村愛子SS

    被害者9人の鑑定結果を食い入るように見た後、青年は口を開く。

    『やはり、全員に“5:事件・被害者・死”の相がありましたか…』

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「霊障以外にも、人運、欄外の枝番、頭の1/2、精神疾患にも共通点があるが、そなたはどう考える?」

    陰陽師に問われた青年は、再び鑑定結果を眺め、しばらくしてから答える。

    『全員の人運が3以下と極端に低いですね。3人目の被害者の男性は人運が7と高くはないものの、彼は1人目の被害者の交際相手で、加害者が彼に対面した際に、彼を通じて殺人事件が発覚するのを恐れ、口封じ目的で殺害したとのことですが、結局は1人目の交際相手との縁と“5:事故/事件”の相によって巻き込まれてしまったのだと考えられます』

    「たしかに、そのようじゃのう」

    『あと、欄外の枝番ですが、ほぼ全員が“1〜3”すなわち、“性善説”論的な性格を持っていることと、頭が“1”という点から、被害者たちは犯人の外面の良さに惑わされ、自分が殺害されるとは露ほども思わなかったのかもしれませんね』

    「そなたの説明に一言つけ加えるとすれば、2人目の被害者の枝番の数字は“5”、すなわち“性善説と性悪説”論的な性格を有していることから、彼の怪しい点に気づけた可能性もあったのじゃろう。しかし、そこを見て見ぬふりをしたのか、見抜けずに殺害されたかはともかくとして、2人目の被害者も、結局は、霊障に引っ張られてしまったと考えるべきじゃろうな」

    『今の問題に関連してお聞きしたいのですが、今世の使命とその右側の二つの枝番の数字が乱れている人物が多いようですが、こうした数字の乱れを持つ人物は、数字が乱れていない人物に比べて数奇な人生に向かう傾向があると考えて差しつかえないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。加えて、全員の乱れている数字が、他の数字に比べて1から9の方へと増えている、つまり、“性悪説”論的な性格に近づいていることも、“5:事件”の相へ引っ張られてしまった一因なのじゃろう」

    青年は、なるほど、と小さくつぶやいた後、続ける。

    『他者の“念”、雑霊/魑魅魍魎を拾った際に顕在化する精神疾患の共通点としては、多くの人は“13:邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”、“14:邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”、の二つがあるのに対し、被害者たちは全員13のみですが、こちらなども、加害者の“念”を拾ってしまい、自殺という暴力的な方向に引き寄せられてしまったと考えるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を左右に降ってから、口を開く。

    「こちらは、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点のみが重篤であるのと同様、14番がなく13番だけということは、それだけ13番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    『なるほど。そのあたりも、被害者たちが犯人に引き寄せられた要因ともなっているわけですね』

    「そういうことじゃ」

    『さらに、今回の事件は、魂の属性が3:“霊媒体質”の人物が、雑霊/魑魅魍魎の周波数が似ているインターネット上のTwitterを介したことで、被害がより拡大したと』

    「その点も、そなたの言う通りじゃろうな」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてから、続ける。

    「我々のような“霊媒体質”の人間からすれば、今回の一件に“霊障”が一定以上の影響をあたえておることを理解できるじゃろうが、魂の属性7:唯物論者にすれば、インターネットを通じた縁でこんなに多くの人物が殺人事件の被害に遭うこと自体が、理解の埒外なのだと思う」

    『精神鑑定の結果、加害者には刑事責任能力が認められると判断されましたが、加害者は、“警察に、性犯罪は麻薬をしているような状態と言われ、まさしくそうでした”と供述していたようで、なぜあのような凄惨な事件を起こしてしまったのか、本人もよくわかっていないようですね』

    青年が苦々しくそう言うのに対し、陰陽師は口を開く。

    「そのような顔をするでない。“あの世”や“永遠の世”は言うに及ばず、“この世”でさえ、唯我々が考えているほど、単純なものではない。どう単純ではないかと問われ、一言でその答えを提示することは難しいが、少なくとも、このような事件の加害者/被害者の今世の宿題、そして各々にかかる様々な霊障をじっくり吟味することによって、初めてその解を導くことができるのじゃ」

    『なるほど。現行の法律で杓子定規に裁けるほど、物事は単純ではないと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    『それに関連して一つ質問があるのですが、もしも今回の事件の加害者と被害者が全員、ご神事を受けて霊的な重荷を取り除いていたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?』

    「仮定の話であるゆえ断言することはできぬが、被害者の立場で今回の一件を考えるかぎり、この事件の主な原因が“5:事件・死亡”の霊障であることから、事件を回避できた可能性もなくはないじゃろう」

    『それならなおさら、一人でも多くの方にご神事を受けていただき、今回のような事件で命を落とす人物が少なくなってくれたら、と願うばかりです』

    そう言い、視線を落とす青年を横目に陰陽師は続ける。

    「ところが、問題は単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと?』

    「今も話した、今世の宿題の問題じゃ。いつも話しておるようにワシが執り行う神事とは、霊的な重荷を外して、素の状態に戻すためのものでしかない。つまり、神事によって善人にすることが目的ではないわけじゃから、仮にこの事件の関係者全員が神事を受けて霊障が解消され、パフォーマンスが100%になっていたとしても、加害者は同様の犯罪を犯していたじゃろうことは属性表を見るかぎり、明らかじゃ」

    『そうなのですか? ご神事を受けたクライアントの中には、別人のように性格や立ち居振る舞いが変わった人物もいたとお聞きしましたが』

    「もう一度、加害者の数字をよく見てみるとよい。そもそも、加害者の魂の種類が4−2で枝番の数字が“9”であることをはじめとし、属性表を総合的にみると、素の状態の彼がこの世の基準でいう悪事を働くことが当然と考える人物であることがよくわかるはずじゃ」

    そう言われ、青年はあらためて属性表に視線を落としながら、口を開く。

    『たしかに。この属性表をよく見るかぎり、犯人は、“7人目以降はお金よりも性的暴行目的になった”と言っていたことも合わせて考えると、今回のような大量殺人事件でなかったとしても、性欲を抑えられずに婦女暴行を行なっていた可能性は極めて高そうですね』

    「そのとおりじゃ」

    『そう言えば、加害者が逮捕される日まで交際していた女性がいたようですが、その人物の鑑定もお願いできますか?』

    そう言い、青年は10人目の被害者になる可能性があった女性の情報を告げる。

    陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    加害者の交際相手

    10人目SS

    しばらく鑑定結果を眺めていた青年が、ふたたび口を開く。

    『助かった人物と被害者たちとの相違点は、霊障と天命運の“5:事件”の相の一部が“死亡”ではなく“怪我”であることと、そして、枝番の乱れがないことですね。ただ、精神疾患が13のみであることと、人運の数字が“7”、枝番の数字が“3”であることから、やはりこの女性も霊障によって加害者と引き寄せられていたのでしょうか』

    「おそらく」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「そうした微妙な属性の違いのせいで、この女性は、紙一重の所で、事件の被害者にならずに済んだようじゃな」

    『加害者が逮捕されたために、今回は事件では決定的な被害に遭わなかったものの、霊障と天命運に“5:事件”の相があることに変わりはありませんから、今後が心配ではあります…』

    「たしかに。この女性の場合、今回の一件含め、命を落とすまでの被害には遭わないとは思うが、それでも行く末はちと心配じゃの」

    陰陽師の言葉に大きく頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    加害者の家族構成と魂の属性

    「ところで、話は変わるが、加害者の家族構成はわかるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを見ながら口を開く。

    『両親と妹がいる、四人家族です。ただ、現在、両親は離婚し、妹さんは母親について行ったようですが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    白石隆浩SS

    白石隆浩・父SS

    白石隆浩・母SS

    白石隆浩・妹SS

    白石一家の鑑定結果に目を通した青年が、大きな声を出す。

    『なんと。犯人の父親も、魂の種類が4−2なのですね! そして、両親共に恋愛運が“7”で、霊障と天命運に“8:異性”の相があることから、組み違いの家庭を築き、離婚に至ったと』

    「どうやら、そのようじゃな。じゃが、霊障や諸々の数字が犯人と異なるし、枝番も“3”と“性善説”論的な性格であることなども踏まえると、凶悪犯罪者ではないと思われるが、具体的にどのような人物なのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、答える。

    『加害者の父親は、大手自動車メーカーに勤務しており、近所の方による彼の人物像は、“すれ違えば、車の窓まで開けて丁寧に挨拶する人物”とあり、社会に適応して暮らしている印象を受けます』

    「やはりのう。いつもワシが、人間は多面体であり、頭の1/2、基本的気質、具体的性格、今世の使命、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、枝番や育った環境などで人格は異なるという話をするのは、この親子のように、頭が2であり、魂の種類が4−2だからといっても、みんなが皆、凶悪犯罪者になるとは限らぬということも、その理由の一つとなっているわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいてから、口を開く。

    『たしかに、魂の属性が親から子、あるいは祖父母から孫へ受け継がれるケースがあることを鑑みるに、仮に“魂4−2は全員、凶悪犯罪者”という図式が成り立つならば、加害者の父親の一族の多くが凶悪犯罪者になってしまいますからね』

    「そなたの言う通りじゃ。いずれにしても、人間には多面性があること、そして、ひとつの数字だけを取り上げて人物を評価してはならぬという大原則を、よく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずいてから、口を開く。

    『はい。魂の種類だけによる人物評価は、下手をすると魔女裁判になりかねませんので、鑑定結果の一部だけをみて早合点しないよう、肝に銘じておきます』

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、再び口を開く。

     

    事件に対してどう向き合うべきか

    「地球上の人類全員が善人になれば、不幸な事故や事件で命を落とすことはなくなると、凶悪犯罪がなくなることを願ってみたり、既存/新興の宗教が提唱するような地上天国を目指したくなる気持ちはわからんでもない。じゃが、常々説明しているように、この世は魂磨きの修行の場であるから、仮に地球人全員が神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、どこかしらの国や地域で凶悪犯罪や諍いがなくなるわけではないことをよく肝に銘じておくようにな」

    『今のお話、あらためて、了解いたしました。そして、たとえ素の状態であっても、凶悪犯罪を起こすことが今世の課題である加害者もいれば、その事件で命を落とすことを決めて産まれてきた被害者もいることもしっかりと頭に叩き込んでおきます』

    「うむ。その心意気じゃ。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、悪に反応して人を叩くのではなく、この事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要じゃとワシは思う」

    青年は、陰陽師の言葉をかみしめるように何度もうなずいた後、スマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『そうですね。この事件の影響で、Twitterは“自殺、自傷行為をほのめかす投稿を発見した場合は、助長や扇動を禁じます”との文言を追加し、違反者にはツイートの削除やアカウント凍結の措置をとるようになりました。また、日本政府も、“インターネットがきっかけになったとした”上で、ICT(情報通信技術)を活用し自殺予防策を強化する考えを示した、とあります』

    「そうした社会の動きによって、今後、同じ手口による被害者を減少してくれるとよいのじゃが」

    『おっしゃる通りだと思います。被害者の中には10代の若さで亡くなった人物がいることを思うと残念でなりませんが、この事件をきっかけに、同じような事件の被害者が少なくなることを願わずにはいられません』

    「ワシもそう思うが、人生の長短よりも、当人が今回の転生で自らの宿題を果たせたかどうかということ、そして当人の魂が肉体を離れる際に、この世に未練なくあの世に戻れることの方がはるかに重要じゃと、ワシは思う。400回の輪廻転生は、たとえるなら、制限時間つきの長距離走のようなもので、道草を食ったりコースとは関係ない道を迂回していたら、結局は終了時間が近づくにつれて速く走らねばならなくなる」

    陰陽師の説明を反芻しているのか、青年は真剣な表情でしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

    『つまり、パフォーマンスが低いまま長生きして今世を終えたとしても、じゅうぶんな魂磨きの修行ができたとは限らず、今世でこなせなかった課題が持ち越され、来世以降の人生がより過酷になる可能性がある、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。さらに言うと、今世が過酷で生きづらいと感じている人物は、前世でこなせなかった課題が今世に持ち越されているという可能性がゼロではないと、ワシは思う」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に一つ大きく頷いた後で、青年が口を開く。

    『ちなみに、今回の事件の被害者の中で、この世に未練やなんらかの執着があって地縛霊化している魂はいるのでしょうか?』

    恐る恐る問いかける青年に対し、陰陽師は指を小刻みに動かした後に口を開く。

    「いや。ワシがみるかぎり、今回の事件の被害者全員が地縛霊化していないことから、全員に“5:事件・被害者・死”の相があったものの、“殺されるというのも宿題の内”であったようじゃな」

    『そうだったのですね。胸が痛む事件であることには変わりませんが、被害者みなさんの魂が無事にあの世に戻っていると知り、少し安心しました』

    そう言って深い息を吐いた後、青年は続ける。

    『とは言うものの、先生に先祖供養の救霊神事祀りを依頼する人物が増え、今回のような事件で命を落とす人物が減り、同時に魂磨きの修行に励む人が増えたらと、あらためて思います』

    青年の言葉に、陰陽師はいつもの笑みでうなずき、壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はあの世とこの世の仕組みについて再考していた。
    あの世の理屈では、早く死ぬことが必ずしも悪となるとは限らないが、そうは言っても魂磨きの修行のためにこの世に来ていることを考えると、400回のうちの貴重な1回であることに変わりはない。
    この事件の被害者の命を無駄にしないためにも、そして、未来の自分、さらには来世の自分のためにも、この事件から気づき、学んだことを己の天命の糧にしよう。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    青年は思議していた。

    陰陽師が対応している、日々のお祓いと結界についてである。
    霊媒体質を持つ人物が他者の念や雑霊を拾った場合、主に心身の不調による様々な症状が顕在化することはわかった。
    ただ、中には、仕事が忙し過ぎてお祓いの依頼ができない人や、短時間に何度もお祓いを依頼しても追いつかない人もいる。
    そうした人物には結界を張っていればいいのではないかと思うが、陰陽師はよほどのことがない限り、結界を張らないという。
    いったいなぜだろうか?

    一人で考えても埒があかないと青年は思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はお祓いと結界について教えていただけませんか?』

    「それは構わぬが、その質問に答える前に、それらと深い関係がある、人の念と雑霊/魑魅魍魎について、まずは話をしておこうかの?」

    陰陽師はそう言うと、青年と視線を合わせる。
    青年はしばらくきょとんとしていたが、陰陽師の意図を察し、やがて口を開く。

     

    念とは

    『“念”は、人間の感情を起因として生じ、呪いと生き霊と邪神の三つに大別することができます。“呪い”は、誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じ、“生き霊”は、たとえば社会全体といった、不特定多数の対象に向けて発せられた念のことであり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“念”となって他者に届いてしまう現象と認識しています』

    「最後の邪神については、どう記憶しておる?」

    『既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”、と記憶しています』

    「ふむ。人の念については、概ね理解できておるようじゃな」

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、紙にペンを走らせる。

    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念
    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”

    「“念”を発する人物が、霊媒体質か霊能力持ち(±*)かで、他者への影響の表れ方が異なるが、それについては、どう考えておる?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考し、しばらくして口を開く。

    『霊能力持ち(±*)の人物から生じた念は、対象の人物に直接届きますが、霊能力持ちでない人物から生じた念は、その人物にとって身近な魂3:霊媒体質の人物が、磁石が砂鉄を自然に集めてしまうように拾ってしまいます』

    「さらにつけ加えるとすれば、念は物理的な距離と関係なく届いてしまうため、近くで赤の他人が口喧嘩していても、それらを拾ってしまうのはもちろんのこととして、SNSで見知らぬ人物の投稿を見たりするだけでも、それらに込められている念を拾ってしまうことも、合わせて忘れぬようにの」

    『はい。“念”と雑霊/魑魅魍魎と電磁波の周波数が似ていることから、霊媒体質のクライアントには、SNSを使用する頻度に気をつけるよう、常日頃、皆様にお伝えしています』

    陰陽師は青年の言葉を聞き、満足そうに頷いてから口を開く。

    「人の“念”に関しては、概ね、その通りなので、次に雑霊/魑魅魍魎について、詳しく説明していくとしよう」

    『よろしくお願いします』

    頭を下げてそう言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    雑霊とは

    「雑霊は、あの世に行きそびれた動植物のことなのじゃが、厳密に言うと、動植物に限らず、アメーバのような単細胞生物からウイルス、果ては、岩石のような無機物までもがその対象となる」

    『無機物も地縛霊化するということは、八百万の神という概念もあながち間違いではないと言えそうですね』

    青年はそう言い、顎に手を当ててから、再び口を開く。

    『動植物の地縛霊が子孫にかかることは理解できますが、アメーバやウイルスは細胞分裂によって増殖することから、先祖と子孫の差があるのか不明ですし、岩石のような無機物の場合は、どのようなメカニズムで地縛霊化するのでしょうか?』

    「現代の科学を基準に物を考えるかぎり、たしかに変な話に聞こえるじゃろう。ワシとて、現代の科学知識しか持ち合わせておらぬ故、論理的な説明はできぬとしても、たとえば、炭素という原素一つをとってみても、人間の炭素、動植物の炭素、岩石の炭素という別がないあたりに、解答が隠されているはずじゃ」

    「なるほど。そのように考えれば、岩や石も無機物ではなく、生きているということになりますからね」

    「その通りじゃ。いずれにしても、このあたりの科学的な究明は、あと何百年か待たねばならぬのじゃろうが、今断言できることは、生物学的に子孫が存在する動植物も含め、“雑霊”は同種の子孫にはかからず、我々人間にかかるという事実じゃ」

    『なるほど。現代の科学でその理由は解明できないものの、現実としてはそうだと。まさに、不可思議な理屈なのですね』

    青年の言葉に対して陰陽師は小さく笑ってから、続ける。

     

    魑魅魍魎とは

    「さて、その次は魑魅魍魎じゃが、彼らは“山や川の精霊・化物の類の総称”、具体的には天狗・座敷童・麒麟(似非神様)といった、目に見えない存在が地縛霊化した存在となる。もちろん、海外では全く別の名称でよばれていることはいうまでもない」

    『え、魑魅魍魎は、先生が日頃口にしている、“マンガの世界”の話だと思っていましたが、実在するということでしょうか?』

    青年は冗談めいた口調で語りかけるが、陰陽師は真剣な表情で口を開く。

    「今日のように宅地化が進み、かつての森や林などをほとんど見かけなくなった都会には、魑魅魍魎が存在する余地など残っていないと、世間で認識されておるのじゃろうし、さらに言うと、科学万能の現代では大多数の人間が、“想像上の生き物”と思っているのであろう」

    陰陽師の説明に耳を傾けて黙って頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところが、ワシのクライアントの中に相当数おる“見えないはずのものが見える”人物たちに、彼らに魑魅魍魎がどのように映るか質問すると、“龍のようなもの”、“座敷童のようなもの”、“サルの化物のようなもの”と答えが返ってきたりする」

    『なるほど。人によって、魑魅魍魎の姿形が異なって見えるのであれば、信憑性が薄くなりますが、ある程度同じように見えているなら、確かに存在していると言えなくもなさそうですね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    陰陽師の返答に対し、青年はしばらく黙考した後、再び口を開く。

    『魑魅魍魎は見えない存在であるにもかかわらず地縛霊化するということは、肉体がないのに寿命があるということでしょうか。エネルギー体、そこまで言わないとしても、狭義の意味で、三次元の生物ではない彼らは、不死だと思っていました』

    「もちろん、我々人間と比較すればかなり長い寿命を持っておるのじゃろうが、そんな彼らもいつかは死を迎える運命にあり、死際にこの世に念を残すと、人間と同様、地縛霊化することには変わりはない」

    『なるほど。魑魅魍魎には先祖や子孫といった概念がなさそうですので、消去法的に人間にかかることになると』

    「その通りじゃ。そして、雑霊/魑魅魍魎は、人の“念”と同様に霊媒体質の人物にかかりやすく、精神疾患や体調不良の原因ともなっているので、ワシが日々行なっている“お祓い”の対象になるわけじゃな」

    『日々の“お祓い”で対応していただけることに安心しましたが、人の“念”だけでなく雑霊/魑魅魍魎も拾っているとは、霊媒体質の人物はほんと大変ですね』

    眉根を寄せてそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「ところで、それら三つを拾うことによって、どのような問題が生じるか、覚えておるかな?」

    『それらを拾ってしまった、特に霊媒体質の人物には、その人によってそれぞれ顕在化しやすい精神疾患や、身体の不調が増幅されることによって、心身に様々な不調が生じることになります』

     

    霊障について

    青年はそう言い、紙に“霊障による精神疾患”の項目を書き足していく。

    1.躁鬱、2.気分のむら、3.情緒不安定、4.摂食障害、5.中性、6.コミュニケーション障害、7.ひきこもり、8.接触障害、9.偏執、10.攻撃性、11.不眠、12.発達障害、13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる) or 暴力、諸事に支障をきたす、14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく) or 口撃、人的な問題で諸事が前に進まず、15.精神性疾患(たとえば、不整脈・喘息・癲癇・アトピーから偏頭痛に至るまで霊障を拾い精神疾患が顕在化した結果起こる病気全般)、16.統合失調症、17 . その他

    「大事なことじゃからあらためて説明するが、霊媒体質の人物が拾ったそれら三つは、その人間がかかった霊障を跳ね飛ばした場合、周りの人間の所持品に転写され、グッズの霊障(※第33話参照)になってしまうことがある、ということも覚えておくようにの」

    『そうでした。グッズの霊障はあらゆる物質にかかりますが、特に気をつけるべきグッズがあったと思いますので、確認も兼ねて書かせてください』

    青年はそう言い、紙にペンを走らせる。

    《霊障が憑きやすい、気をつけるべきグッズ》
    偶像:宗教的意味合いを持つ像物(仏像やイエス・キリスト像など)
    お札:神社などで販売されている木や紙、またはお守り類
    神具:お寺の木魚・鉦(かね)や、宗教行事全般で使用されている様々な神具
    電子機器:パソコン、スマートフォンやそれらに付属するコード類など

    ※以下、転写によって念が憑きやすいグッズ
    数珠や宝石系のブレスレットなど、腕に巻く物
    寝具:枕、布団、パジャマ、など長時間肌に触れる物
    下着

    「それと、グッズそのものが妖気を発しているケース(2+)として、霊障の原因が自然由来である場合と、グッズの制作者や所有者の念が原因である場合があることも、合わせてよく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいて見せてから、続ける。

    『わかりやすい例として、以前に先生から某新興宗教団体の御本尊についてご教授いただいた際に、どこかで大量に印刷され、信者に配布される前に特定の場所で保管されていた御本尊が、その流通過程で、たとえば、“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考える霊能力持ちが介入するだけでも、念が入ってしまうことがあり得るとのお話を伺いました。そのような場合、“2+”、すなわち、グッズ自身が“妖気”を発するようになってしまうことさえ起こりうるとのことでしたよね』

    「その通りじゃ。ここまで説明してきたように、念や雑霊/魑魅魍魎は、霊媒体質である人物に対し、様々な悪影響を及ぼすことから、それらを拾ったと感じた時は、速やかに“お祓い”を依頼する必要があるわけじゃ」

    『承知しました。そう言っていただけるのはありがたいのですが、時と場合によっては深夜遅くに依頼することもあり、申し訳なく思っています』

    そう言い、苦笑する青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「そなたのように、霊媒体質のスコアがそれほど高くない人物は霊障の影響を受けにくいから悠長なことを言っていられるが、優秀な霊媒体質である人物にとって、“念”や雑霊/魑魅魍魎が多い環境に身を置くことは、日常生活に支障をきたす危険性と背中合わせであることを、じゅうぶん理解しておく必要がある」

    『そうでした。1日に何度もお祓いを依頼せざるを得ない人物もいらっしゃいますものね。ところで、そのような人の場合、お祓いの依頼をしてばかりで仕事が手につかないことがあるかと思うのですが、何かいい手立てはないのでしょうか?』

    そう言い、青年は表情を曇らせて視線を落とす。
    陰陽師は湯呑みの茶を飲んだ後、口を開く。

     

    結界のメリットとデメリット

    「そのような人物に対しての切り札は、基本的には、結界となる」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は勢いよく顔を上げて口を開く。

    『なるほど! 一日に何度もクライアントがお祓いを依頼するよりも、先生が一度結界を張れば済むわけですね』

    「効果と手間という意味では、たしかに、そなたの言う通りじゃ。しかし、結界とて万能薬ではなく、メリットとデメリットがあることから、結界を張ったから解決、とはいかないのが実情なのじゃよ」

    『なんと。結界にもデメリットがあるとは、意外です!』

    青年は両手を上げ、目を見開いて陰陽師に問うた。
    そんな青年の様子がおかしかったのか、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「結界は、例えるなら、両面鏡のようなものでな、外から飛んでくる他者の念、雑霊/魑魅魍魎を跳ね返すことができる反面、同時に、結界の中にいる当人が、誰かに良からぬ感情を抱いて念を飛ばした場合、本人にダイレクトに跳ね返って心身の不調をきたす恐れがあるわけじゃ」

    『なるほど。結界を依頼した本人の精神状態によっては、外から受ける霊障よりも、本人が他人に飛ばす念の方が強く、場合によってはダメージの方が多くなる可能性もあるのですね』

    「その通りじゃ。それゆえ、ワシは日頃からクライアントに対し、魂磨きの修行の一つとして、不動心を養うことを提言しておる」

    『なるほど。むやみやたらに結界を張ってはならない理由について、よく理解できました』

    「また、本人が念を飛ばさないように不動心を保っていたとしても、身につけているグッズに霊障が憑いていたり、家族や縁が深い人物からの霊脈・血脈の先祖霊の霊障が本人にかかってきている場合、それらの霊障も一緒に閉じ込めてしまうわけじゃから、結界を張ったとしても、改善がみられない場合があることも、合わせて頭の片隅に留めておいてほしい」

    『そういう意味で、結界は使い所に注意を要する切り札となっているわけですね』

    真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「以前(※第32話参照)も説明したが、霊媒体質の人物が生涯に拾える“霊障”の限界値がほぼ決まっておることから、なるべく早く限界値を迎えられるよう、我慢せずに“お祓い”の依頼をするのも一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて腕を組み、しばらく経ってから口を開く。

    『そうは言ってもですね。非常に忙しい先生に、一日に何度もお祓いを依頼するくらいなら、デメリットを理解したうえで結界を張っていただき、手間を省いていただきたいのですが…』

    納得がいかない青年は、それでも陰陽師に食い下がる。
    陰陽師はやや困ったような笑みを浮かべ、青年を諭すように言った。

    「雑霊や魑魅魍魎も、人間とは異なる生命体というだけで、地縛霊化していることに変わりはない。それ故、お祓いをしないで地縛霊化している間は、彼らの魂磨きの修行も中断されてしまうことになる。よって、彼らを結界で跳ね返すよりも、日々のお祓いによって輪廻転生の輪に戻すことの方が、不可思議の世界からみれば有意義な結果となるわけじゃ」

    『なるほど。自分とは無関係なのに、勝手にすがってくる存在の“お祓い”を、なぜ自分がしないといけないのか、と嘆く霊媒体質の人物も中にはいますが、少しかわいそうに思うことがあります』

    「いやいや、そうではない。400回の輪廻転生の中で、半数は今の自分と違う性であることから、“ソウルメイト”とは、決して男女の魂のみを指しているわけではないのじゃ。そして、そのようなソウルメイトが、今世は敵同士であったり、旅先でたまたま知り合い、世間話を交わし他だけの人間であったりする可能性がある以上、今世の親族の先祖霊はもちろんのこと、何かの縁で知り合ったばかりの人間の一族にかかる地縛霊が、かつて、自分と密接な関係を持っていた人間である可能性すらあるのじゃ」

    青年にとって、陰陽師の説明は眼から鱗だったのか、しばらく唖然としてから青年は口を開く。

    『なるほど。姿形は違えど、魂という観点から考えれば、雑霊も魑魅魍魎も人間同様、この世に魂磨きの修行をしにきていて、地縛霊化して苦しんでいて、我々に輪廻転生の輪に再び戻してもらえるようにすがってきているわけですね。雑霊/魑魅魍魎とのご縁も必然だと言うことであれば、彼らのためにも、どんどんお祓いを依頼して、霊障に悩まされずに魂磨きの修行に励みたいものです』

    真剣な表情で言う青年に満足げな笑みを向け、陰陽師は続ける。

    「その通りじゃ。ハリウッド映画の“ゴーストバスターズ”ではないが、そなたのような霊媒体質の人物は“念”や雑霊/魑魅魍魎の収集係のようなものだと考えればよい。一方、“大日不可思議”の霊能力者集団をその処理係だと考えれば、結果として、一致団結してこの世の“大掃除”をしていることになるわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、何度も大きく頷いた後、口を開く。

    『たしかに、僕のような霊媒体質の人間は、直接地縛霊たちの願いを叶えることはできませんが、地縛霊たちは霊媒体質の人間を介して先生とご縁を持つことができ、結果としてあの世に戻れるわけですから、とても重要なことをしていると思います』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑み、うなずいて見せる。
    そして、しばらく思索に耽っていた青年は再び口を開く。

    『話が変わりますが、座敷童がいる家は莫大な富を得る代わりに、座敷童が去った後、かならず廃れると聞いたことがありますが、まるで眷属みたいな存在ですね』

    陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲み、口を開く。

    「家主が座敷童に福の神と同等の価値を見出し、座敷童に少しでも長く自分の家に居てくれるようにと、座敷童がよろこびそうな人形などを部屋にお供えする風習もかつてはあったようじゃから、眷属に祈りを捧げ、願いを叶えてもらう代わりにすがり続けるという関係性は、眷属のそれとは似ていなくもないじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて口を開く。

     

    邪神とは

    『邪神(似非神様)も魑魅魍魎や眷属と似たような存在であると思いますが、それらはどう違うのでしょうか?』

    「邪神(1‘=龍霊、2’=狐霊、3=熊手/狸)が人間によって生み出された“念”の産物であるのに対し、魑魅魍魎の類は、実在の生き物と考えればよい。また、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸が、霊力という点で魑魅魍魎よりも力が強いと同時に、土地にかかるという傾向を持っておる反面、魑魅魍魎の類は、基本的には人間にかかるという傾向を持っていると理解しておくことじゃ」

    『なるほど。邪神が人間の念によって生み出されたものであるのに対して、魑魅魍魎と眷属は、人間とは関係なく、自然を拠り所に存在していたのですね』

    「その通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばし黙考した後、口を開く。

    『おかしな話ですが、以前、飛行機雲に対して“お煙様”という名前を勝手につけてありがたがっている人物がいましたが、そういった“**様”と個人的に祀ることで“邪神”が誕生することもあるのでしょうか?』

    “お煙様”という珍ワードを真剣に言う青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから答える。

    「その“お煙様”がどういった存在なのかはわからぬが、代償を求められるために祀ってはいけないという意味では、邪神の一種と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。僕が過去に世話になった霊媒師は、幼少期に光?観音?を見たり、それに見守られていたと言っていました。ただ、言語化した容姿としては善の存在のように思われますが、その光は結局のところその霊媒師だけに関わっていたことから、本物のカミではなく、雑霊/魑魅魍魎か、眷属だったのでしょうね』

    「その可能性は高いじゃろうな。霊媒体質の強さによって、見えない存在を知覚できる程度は異なるので、見えない物事に対してあれこれ考えることを否定はせぬが、そういった見えない存在に対し、確定的な言い方をしている人物は、そなたの目にはどのように映っておるかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく俯いたのち、ゆっくりと顔を上げて重い口を開く。

    『こう言っては元も子もないですが、そのような人物の多くは、日常生活でなんらかのトラブルを起こしているか、精神疾患の診断が出るのではと思ってしまう人が少なくない気がします』

    青年は、過去に世話になった人物たちを思い出し、軽くため息をついた。
    陰陽師は、そんな青年を横目に続ける。

    「本物のカミは“思議”の範疇で捉えることのできない存在であることから、その人物だけに見聞きできた存在からの情報だけに頼り、物事を進めようする人物には、注意が必要なことだけはたしかじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    霊は地縛霊化している間、ずっと苦しい思いをしている。別に、自分が救霊やお祓いの依頼をせずに、見て見ぬふりをすることもできる。
    しかし、せっかくご神事を行える陰陽師とのご縁を得た自分が依頼しなければ、地縛霊化している魂は、これからもずっと苦しむことになり、次に輪廻転生の輪に戻れるチャンスがいつになるかわからない。
    この世の理屈で物事を考えることも大事だが、見えない世界のことを語る人物が、どこから情報を得ているのか?
    そのあたりのことも踏まえて、あの世とこの世の仕組みをよく理解し、今後も魂磨きの修行に励もうと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    新千夜一夜物語 第35話:神への接し方

    青年は思議していた。

    以前から話題に挙がっている、神の眷属についてである。
    現実でもSNSでも、龍神やお狐様といった、眷属を前面に押し出して情報発信をしている人物が少なくない。
    いろんな神社で神の眷属の名前を目にするが、そもそも、どのような存在なのか?
    また、陰陽師が日頃言及している、“本物の神=カミ”とはどう違うのか?
    青年は、独りで考えても埒があかないと思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は本当の神と神の眷属の違いについて、教えていただけませんか?』

    「今回もまた壮大なテーマじゃな。もちろん、眷属について説明することはやぶさかではないが、その前に、眷属は“霊障”と密接な関係があるため、まずはそこから話を始めるとするとして、その前に“霊障”に関する復習も兼ねて、まずはそなたなりに理解していることを話してもらおうかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『“霊障”には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が日々の“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    青年は陰陽師の様子を見、ここまでの説明で問題がないことを確認し、続ける。

    『また、“霊統”と“血統”は、先祖が子孫にかかっていてもいなくても地縛霊化している先祖霊のことを意味し、“霊統”は本人と同じ種類の魂、“血統”は本人と異なる魂の種類であることを意味しています』

    「では、地縛霊化した先祖霊にとって、かかるべき子孫が途絶えてしまった場合、どうなるか覚えておるかな?」

    青年はしばし黙考して記憶を探った後、口を開く。

    『その場合、その魂にとって縁がある土地や建物、その土地に関わりがある法人にかかります。つまり、先祖霊ではなく“地縛霊”となります』

    青年の説明に対し、陰陽師は満足そうにうなずいた後、口を開く。

    「基本はしっかり押さえておるようじゃが、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    陰陽師はそう言い、紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/建物/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念(呪い、生き霊、邪神など)

    ※以下、眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、今回のテーマである眷属は、土地と法人にかかるパターンと、眷属にすがった人物に対してかかるパターンとが想定できる」

    『眷属も、土地/建物/法人にかかるのですね。それにしても』

    そう言った後、青年はメモ書きを一瞥してから、続ける。

    『龍神と龍霊は龍、稲荷と狐霊は狐と、種類が同じでも呼び名が異なっているようですが、各々、どのように違うのでしょうか?』

    「その質問に答える前によく理解してもらいたいのは、便宜上、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸と呼んでいるだけであり、巷で取り挙げられている存在とは必ずしも同一ではない、ということじゃ」

    『つまり、先生が今から説明してくださる、龍神や稲荷は、世間一般と共通する部分もあるものの、基本的には、別物として話を聞くべき、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。それと、三つの眷属の呼び名は日本特有のものであり、海外では馴染みがないことから、外国のクライアントに対しては、ワシは数字と記号で説明しているわけじゃが、そのことも踏まえ、今から龍神を1、龍霊を1‘、稲荷を2、狐霊を2’、熊手/狸を3として説明していく」

    そう言い、陰陽師は紙で眷属の数字を丸で囲って強調する。

    1:龍神、1‘:龍霊
    2:稲荷、2‘:狐霊
    3:熊手/狸

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずいてから、説明を始める。

    「龍神(以下、1)は、川べりとか、かつて沼・池・湿地帯であったところに家を建てることによって、その住民が霊障を受けるケースで、肺や喉の健康被害をもたらすケースが多い。龍霊(以下1’)は、諏訪大社のような龍神を眷属としている神社に“私利私欲に満ちた”願い事をし、願いを聞き受けてもらったにもかかわらず、その子孫が1’をないがしろにした結果、かかる霊障じゃ」

    『“私は生まれながらに龍神に守られている”などといった発言をしている人がいますが、ああいった人たちの中には、霊障の“17:憑依”の相があるために、新生児の頃から1’がかかっていると考えることもできるのでしょうか?』

    「その可能性は極めて高い。たとえ生まれつき1’がかかっていたとしても、それをないがしろにした後にしっぺ返しがくる点では、後天的に1に願い事をした人物と同じ末路になる。そうした意味では、その人物と1’の関係は、まさに一蓮托生といった表現が当たっているかもしれんな」

    『生まれつきにせよ、意図的にせよ、ひとたび眷属に願い事をしてしまった場合、しっぺ返しを受けないように死ぬまですがり続けるか、あるいはどこかで覚悟を決めて、僕のように代償を払うか、になってしまうのでしょうか?』

    青年はそう言うと、唸りながら首を傾げる。

    「いや、そうともかぎらんぞ。ワシの話を信じるのであれば、先祖供養を始めとする、神事やお祓いを受ければ、しっぺ返しをうけずに済むと言う解決策も残っておる」

    『たしかに。“17:天啓/憑依”の相は、神事で解消するのでしたね』

    そう言い、青年は再び陰陽師のメモを眺めてから続ける。

    『今度は稲荷(以下、2)と狐霊(以下、2’)の違いについて教えていただきたいのですが、これらも龍神と龍霊の関係と同じようなものでしょうか?』

    「共通する点もあるにはあるが、厳密に言うと、ちと違う。2は、その土地に神社もしくは“祠”のようなものが建っていたが、放置/消滅したケースで、2’は、かつてそこに住んでいた家族/一族が、祀っていた“稲荷/お狐様”への崇拝をやめ、そのまま放置したケースとなる」

    青年は陰陽師の説明を反芻した後、口を開く。

    『お稲荷さんを自宅の庭に建てて祀っている家をたまに見かけますが、あれなんかもその家族/一族が崇拝をやめて放置したら、2‘の霊障が発生するということもあるのでしょうか?』

    「その可能性は、極めて高いじゃろうな。2‘の厄介なところは、崇拝をやめた家族/一族だけではなく、その地に移り住んだ人間にも霊障を及ぼす可能性があるという特徴を持つことから、赤の他人が事情を知らずにその土地を購入/賃貸しただけで、とばっちりを受けてしまうことがある点じゃ」

    『人間の私利私欲でお稲荷さんが建てられ、眷属が生み出されてしまうとは、困ったものです。以前の僕は、稲荷神社を見かけたら必ずお参りをするほどに“お狐様”にはまっていまして、農家と思われるお宅の庭にあるお稲荷さんにも祈りを捧げていましたが、そのような行動も2’の影響を受けるきっかけとなっていたのでしょうか?』

    「以前も説明したが、霊障は距離と関係がないことから、お稲荷さんに対して何らかの思いを向けただけでも、2’の影響を受ける可能性が極めて高いからの」

    『ゲゲエ! ということは、過去に交流していた霊媒師たちが、口を揃えるように、僕が九本の尾を持つ狐に守られていると言っていたのですが、同じ2’でも、いっそう強い霊障を受けていたということになるのでしょうか?』

    身をすくませ、おそるおそる言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いて見せてから、続ける。

    「九本の尾を持つ狐が実在するかどうかはともかくとして、ありがたがっている間に限っては、2’はそなたの現世利益を叶えていたと思うが、お稲荷さんを参拝するのをやめ、ないがしろにしてからは、そなたにしっぺ返しがきた実感はあったのではないかな?」

    思い当たる節があるのか、青年は苦笑して口を開く。

    『たしかに願いは叶っていましたが、お稲荷さんだけでなく、そもそも神社仏閣への参拝をやめてから、それまでのツケが回って大変な状況になりました』

    「おそらく、そうじゃろう」

    そう言い、陰陽師はうなずきながら青年に微笑みかける。
    青年は用意されていた湯呑みの茶を飲んでから、再び口を開く。

    『今度は3:熊手/狸ですが、これだけは先の二つと異なり、3と3’の区別がないようですが、どのような眷属なのでしょうか?』

    「熊手は、戦国時代までは、馬上の武将を引きずり落とすための武器として活躍した鉄製の熊手だったが、戦乱が始まった江戸時代になると、武具から落葉を集める竹製の道具へと変化を遂げる。さらに江戸時代中期になり、金属の貨幣の代わりに藩札などの紙幣が普及し始めると、“落ち葉=お金”という連想から、熊手は“縁起物”として商人を中心とした庶民の人気を集め始める」

    『なるほど。熊手には、そんな由来があったのですね』

    「百科事典にも“熊手”は縁起物として記載されておるはずじゃが、神棚の一隅に飾られ、“商売繁盛”を祈願する以上、その行き先は他の眷属と同じ結果となる」

    『神社ではお守りやお札と色んな品物が販売されていますが、結局は現世利益を叶えたい人々に向けの品物ですし、そうした神具は霊障を集める性質もありますから(※第33話参照)、総じて、それらの品は買わない方がいいのですね』

    真剣な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は満足げに微笑みながら口を開く。

    「ここで先程少し説明した土地の霊障の話に戻るが、1と2と3は、土地/建物/法人にかかっている人霊(魂の種類1〜4)の地縛霊と一緒にかかっていることが多く、土地に対する神事で対応しておる。それ故、クライアントに対し、個人の場合は住んでいる土地の住所と建物を、法人の場合はそれらに加えて法人名も教えてくれるように依頼しておる」

    『大企業の土地/建物/法人に霊障があると、抱えている社員が多いわけですから、多くの人が霊障の影響を受けしまうのでしょうか?』

    「いや。霊媒体質は磁石のような性質であることから、土地/建物/法人の霊障は全員に均等にかかるのではなく、優秀な霊媒体質である社員たちに霊障が集まりやすい。したがって、会社が合併するなどして新たに土地を取得した場合、土地の所有権移転登記をした時点から、当該にかかっている地縛霊の霊障が、特に優秀な霊媒体質の社員に対して突然影響を及ぼすケースもある」

    『つまり、書面上のやりとりだけでも、霊障との関係が変化するということでしょうか?』

    「登記簿謄本、婚姻届け等の公的な紙類と霊的世界の影響をあなどってはならぬ。たとえば、優秀な霊媒体質である人物が、相性が悪い企業に勤めていた結果、心身を病んでしまい、休職したとしよう。休職後に入院し、治療に専念していても、会社に籍を置いてある以上、会社から受ける霊障に限らず、良からぬ影響も休職しても受けてしまうことから、病状が長引いてしまうことさえある」

    『勤めている会社が所有している土地が増えたところで、別部署で勤務している当人には直接関係ないわけですし、ましてや休職後も影響を受けるとなると、気の毒以外の何物でもないですからね』

    「土地から少し話が脱線してしまうが、ワシが日頃、恋愛・結婚の相性を鑑定していることはそなたも知っているじゃろうが、書面を介さない、口頭での交際関係であってもお互いの運気に影響しあうことはわかるかの?」

    『はい。魂1〜3の人物と、魂4の人物による組み違いのカップルの話を聞くかぎり、結婚せずに交際している時点から、既に大変な苦労をしているようです』

    「霊障の“8:異性”による、2−4色眼鏡と2−4逆色眼鏡の組み合わせ(※第20話参照)はわかりやすい例じゃが、たとえば2-3-5-5…2の芸能人同士をみてもわかる通り、魂が同じだとしても相性がいいとはかぎらない。さらに結婚した場合には、お互いの影響力はさらに増すようになる。つまり、ワシの鑑定結果を信じて実際に結婚する場合、入籍届に記載して提出することにより、お互いから見て相性が良ければ(AA以上)、よりいっそう魂磨きの修行が進むというわけじゃな」

    『結婚を結“魂”と、ダジャレのように言い換えている人がいましたが、そのような意味では、あながち間違っているわけでもないのですね』

    「その人物が、この世とあの世の理屈をどこまで理解して結“魂”と言っているのかはわからぬが、夫婦円満な結婚生活という意味ではなく、あくまでお互いの魂磨きの修行が進む相性、と規定するのであれば、その通りじゃろうな」

    陰陽師はそう言い、真剣な表情で黙ってうなずく青年を横目に、続ける。

    「話を土地に戻すが、霊能力を持たぬ一般人が、これから購入/賃貸する土地に霊障があるか否かを判断することは難しいことから、立地の良さや家賃などを重視して物件を選ぶのはしょうがないとしても、引っ越してから不幸な出来事が立て続けに起こった場合、まず霊障を疑う必要はあるのじゃろうな」

    『引っ越しで運気が変わるとよく聞きますが、霊障の有無も密接な関係があるわけですね』

    「その通りじゃ。コンクリートに囲まれた物件であっても、1000年前、2000年前、その土地がどのような場所であったかといった判別がほとんど不可能な現在、当該地が古戦場だったケースや、故郷へと急ぐ旅人が山賊に殺された場所である可能性を常に念頭に置いておく必要があるわけじゃ」

    『1や2の眷属による霊障がかかっているのは、川や沼などが埋め立てられてみたり、祠が区画整理によって潰された可能性もあるからでしたね』

    「その通りじゃ。故に、クライアントには、引っ越す前や新たに土地を購入する前に、事前に候補物件の住所をリストアップしてもらうよう提言しておるわけじゃ」

    『僕も運気がいい物件を鑑定していただきましたので、その節は大変お世話になりました』

    そう言い、頭を下げる青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「以上で、眷属に関する説明と、それらに対して祈ることで被るリスクについて説明したつもりじゃが、どうじゃ、理解してもらえたかな」

    『はい。眷属とは、願いを叶えてくれる反面、代償が必ず生じてしまうことと、祀った後にないがしろにした一族だけでなく、その土地に引っ越してくる赤の他人にも霊障がおよんでしまう、ということでしたね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「眷属に祈ってはならないと常々忠告してはいるものの、そうは言っても、己の力だけで生きていけるほど自信に満ちた人物は多くないじゃろうし、時と場合によっては、現世利益を叶えてくれる眷属のような存在に、すがりたくもなることもあるのじゃろう。しかし」

    一度陰陽師は言葉を区切り、念を押す様に青年と視線を合わせた後、続ける。

    「幸せな未来を願って現世利益を叶えた結果、その次に起こる出来事が本人にとって望ましい結果になるわけではないというのが、この世の常であることはくれぐれも忘れぬことじゃ」

    黙って続きを待っている青年の様子を横目に、陰陽師は続ける。

    「たとえば、怠け者でろくに勉強をしない学生が、学業に霊験あらたかと評判の神社に“絵馬”を奉納し、“神”に志望校合格を祈り続けたとする。その結果、ろくに勉強もせずに志望校に合格したことを、“神の恩恵”と呼ぶべきかの?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『合格した本人にとって、合格は“神の恩恵”かもしれませんが、合格者数が決まっているとすれば、その学生が合格したことで不合格になる学生が現れることにもなるのでしょうし、弾き出された受験生が真面目に勉強していたのだとすれば、そのような構図は、“魔術/呪術”でしかないと思います。それに』

    そこで区切り、青年は学生時代のクラスメイトを思い出してか、納得顔で再び口を開く。

    『勉強もせずに志望校に合格したところで、勉学についていけずに留年したり、最悪の場合は退学することもありますから、当人にとってもそのようなことは、望ましい結果にならないのではと思います』

    「そなたの言う通りじゃろうな。万人の“欲に起因した身勝手な願い”に“本物の神=カミ”が対応するとしたら、それこそ世界は制御不能に陥ってしまい、逆に、“神も仏もない”世界になることじゃろう」

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を飲む。
    陰陽師が茶を飲み終えるのを待ってから、青年は口を開く。

    『そもそも我々は、魂を磨くためにこの世に転生を繰り返しているわけですから、現世利益を獲得するために生きているわけではなく、神は願いを叶えてくれる存在ではないことはわかります。そうは言っても、もう少し具体的に、僕にもわかるような役割を、“本物の神=カミ”はお持ちなのでしょうか?』

    困惑顔で問う青年を横目に、陰陽師は湯呑みの茶を再び飲んだ後に口を開く。

    「“本物の神=カミ”は、あくまで我々が魂磨きに専念できるよう、この世のみならず、あの世、永遠の世をコントロールしている存在体であり、感謝すべき対象だとワシは思う。さらにそのような存在体の恩恵をあえて挙げるとすれば、我々がこの世で艱難辛苦に遭遇した際に、大難を小難にしてくれる、ということに尽きるのではないかの」

    『大難を小難に、ですか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「たとえば、事故で脚を一本骨折したとする。その事実をもって“なんて不幸なのだろう。神も仏もあるものか”と嘆くのが、一般人の反応じゃと思う」

    『そうですね。ほとんどの人間がそう反応すると思います』

    「しかしそこには、“本来であれば死んでいてもおかしくない事故だったのに、脚一本の怪我で済むとは、なんと幸運なのだろう”という真逆な考え方も存在する」

    陰陽師の説明に対し、青年は手を打ってから口を開く。

    『“脚を一本折った”という事実に対して、本人がどう捉えるか、それが問題ということですね』

    「その通りじゃ。たとえ、事実が一つであったとしても、その事実をどのように捉えるかによってワシらの目の前に広がる景色はまったく変わって見えてくる。そのような意味で、この“大難を小難に”という考え方こそが、“本物の神=カミ”と対峙する基本的な姿勢だとワシは思う。さらに言えば、“本物の神=カミ”が作ったこの世が“修行の場”であるということは、スポーツジム同様、鍛錬をする人間が体を壊してしまっては元も子もないわけで、この世のどのような艱難辛苦も、基本的には、九割九分のところで救われる、という原則が働いていることもよく理解しておくといい」

    何かを思い出したのか、青年はハッと顔を上げて口を挟む。

    『神社には昨年の出来事に対する感謝をするという話を聞いて実践していたことがありますが、その行為は、ある意味正しかったわけですね』

    青年の発言に対し、陰陽師は困った表情で微笑みながら口を開く。

    「以前(※第18話参照)、我々人間の魂に頭の1/2があるのと同様に、神社仏閣にも1/2があり、自分の頭の数字と異なる神社仏閣には参拝しない方がいいと伝えたことも、合わせて、頭の片隅に留めておくようにの」

    『そうでした。僕のような頭1:農耕民族の末裔が、頭2:狩猟民族の祖先となる神を祀った神社仏閣を参拝することは、敵地に自ら乗り込みにいくようなことでしたね』

    そう言い、苦笑する青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を戻すが、これだけの事故で済んでありがたい、と“大難を小難”で済ませていただいた恩恵/加護に対し、“お陰様で”と手を合わせて感謝の意を表すことが、本物の神と向かい合う正しい姿だとワシは思う」

    『そういえば、富士山の山頂でご来光を見た時、思わず手を合わせたことがあります。特に何かを願ったわけではありませんが、今思うと不可思議な体験でしたが』

    「太古より我々人類は、巨岩や樹齢数百年を超える大木や、ご来光に手を合わせ続けてきた。とはいえ、その行為はそれらに対してではなく、それらを含め、地球と宇宙を創造した“人知を超えた存在体”に対する“畏敬の念”から行う、無意識の所作だったはずじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は力強くうなずく。
    陰陽師はそんな青年を横目に続ける。

    「公平無私である“本物の神=カミ”は、“切磋琢磨”などという競争原理を人間社会に持ち込み、我々を権力/経済闘争へと駆り立てることもせぬし、人類間の争いにおいて、どちらか一方だけに加担するなどというようなこともせぬ」

    『そうですよね。“本物の神=カミ”は全宇宙の創造物/生命体に対し、平等な愛を注ぎ、見守る存在なのでしょうから』

    「その通りじゃな。多くの宗教の“えこひいきし、妬む神”が、四次元を含めた宇宙の秩序をコントロールしていると言われても、その言葉を信じるには、いささか以上の躊躇を感じるからの」

    『神の意思という名目で、かつて、殺人を犯したり、戦争を始める人々に対して違和感を覚えていた理由がよく理解できたような気がします。それに、そうした神々は、どちらかというと、神というよりも人間に近い存在のように思われます』

    「まあ、人知で捉えることができること自体、そもそも“本物の神=カミ”ではないのじゃろうからのう」

    『なるほど』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「多くの人々が、望ましい未来を夢見たり、過去を悔やんでやり直したいと渇望することに一定の理解を示したとしても、我々人間には、過去の出来事を変えたり、未来を思い通りにすることもできない」

    黙して耳を傾けている青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「それ故、覚えておくべきことは、未来と過去は“本物の神=カミ/不可思議”の領域であり、我々に与えられているのは、“今/この時”だけという真理じゃ。今世の宿題を果たすために日々精一杯に生きること、それこそが我々に課せられた使命であり、その果報である“社会的/金銭的な成功”は、あくまで副次的な問題なのじゃ」

    『ふと思いましたが、ご神事を受ける前の僕は、自分の天命を生きたいと考えているつもりで、実は自分の天職を求めていたのだと思います』

    「職業にフォーカスする、すなわち収入や社会的地位を意識することは、心のどこかで現世利益を求めている証拠じゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はばつが悪そうな表情で続ける。

    『耳が痛いです。当時の僕は、自分の天命を生きたいと願いながら、天命の意味を理解しておらず、魂磨きの修行ではなく、天職さえやっていればうまくいくと思い込んでいました。さらに言うと、魂の修行よりも“楽”を求めていたと思います』

    「そう思っている人物は少なくないじゃろう。ワシにしても、現世利益を求めることがいけないと言っているのではなく、人生における優先順位を間違えてはならぬ、と言っておるわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、続ける。

    『ご神事を全て受けてパフォーマンスが100%になってから、うれしいことも辛いこともありましたが、僕は目の前の出来事を受け入れる覚悟ができましたし、点と点が線で繋がっていることに気づき、一挙手一投足全てが天命であると、今では感じています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足げに頷いてから口を開く。

    「400回ある輪廻転生のうち、今世はお金で苦しむことを修行で選んできた人物もいるじゃろうし、恋愛や結婚で悩むことを今世の宿題として抱えて来た人物もおる。“自分にとっての今世の宿題とは何だったのだろうか”と意識下の記憶に問いかけたところで、明確な答えが返ってくることはないのじゃから、必然を信じ、日々目の前に現出する出来事/試練と真摯に向き合い、自らのベストを尽くす。それこそが“この世”でのあるべき生き方だとワシは思う」

    『よく、声が聞こえたと公言し、これが私の使命・天命だとしている人がいますが、あれは“17:天啓/憑依”の相によって天から何かが降りてくるのか、そうでなければ13・14の眷属の力を借りているようなものでしょうから、ゆくゆくは眷属によって強烈なしっぺ返しを受けると思いますので、そうした人物には気をつけないといけませんね』

    「その通りじゃな。公平無私である“本物の神=カミ”が特定の人物に言葉を送ることはないことから、そうした人物の大半は眷属に唆されている可能性が高いのじゃろう」

    過去に関わった一部の人物たちを思い出してか、青年は深いため息をついて視線を落とす。
    陰陽師はそんな青年を横目に、続ける。

    「繰り返しになるが、眷属は現世利益を叶えて代償を求めることから、そうした甘言を信じて努力の結果としての“果実”を希求するのではなく、今/現在に全力を傾倒すること、それこそが努力の本来の意味なのだと、ワシは思う」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    私利私欲を願うのではなく、日々ベストを尽くした後に訪れた出来事に対する感謝の意を、“本物の神=カミ”に表する。そして、見えない存在を頼るのではなく、目の前の出来事を真摯に受け止め、悔いのないように取り組んでいくことを、青年は再び決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第34話:令和とパラダイムシフト

    新千夜一夜物語 第34話:令和とパラダイムシフト

    青年は思議していた。

    第99代目の内閣総理大臣に任命された、菅義偉についてである。
    某新聞社のアンケートにて、彼の他に岸田文雄と石破茂の2名が有力候補となっていたが、魂の属性の観点から判断して、今回の人選は望ましい結果なのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は菅義偉について教えていただけませんか?』

    「今回の自民党総裁選のことじゃな」

    そう言いながら、青年の質問に、陰陽師が応じる。

    「はい、4選の目もあると言われていた安倍首相の辞任に基づく、自民党の総裁選のことです」

    「そういえば、令和の“ねじれ”によって、残念ながら安倍晋三が辞任する流れになってしまったのう」

    『え、令和ですか。安倍元首相の辞任と令和が何か関係あるのでしょうか』

    そう言い、大きく眼を見開く青年を片手で制し、陰陽師は続ける。

    「話がそれてしまったの。今回のそなたの質問は総裁選の話なわけじゃから、令和の“ねじれ”については後で話すとして、総裁選の話をするとしよう。じゃが、そなたの質問に答える前に、以前政治家に適した魂の属性について説明したと思うが、そなたは覚えておるかな?」

    陰陽師に問われ、青年はしばし黙考した後に、口を開く。

    『転生回数期が2期で十の位が4、すなわち240回代の魂3:武士・武将、あるいは転生回数期が1期で十の位が4か7、すなわち340回代か370回代の魂1:王侯・僧侶の人物と記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「そうじゃな。与党、さらに言うと首相になれる資質を持つ人物の魂の属性はあらかじめほぼ決まっているのと同じ様に、野党に所属している国会議員の魂の属性もほぼ決まっておると話したのじゃが、それについて覚えておるかな?」

    『転生回数期が2期で十の位が3、すなわち230回代の魂3:武士・武将と、転生回数期が2期で十の位が“大山”の7、すなわち270回代の魂4:一般庶民です。もちろん、自民党を離党し、前民主党政権で首相となった鳩山由紀夫などは2(4)-3、すなわち240回代の魂3:武将ではありますが』

    青年の説明に陰陽師は満足そうにうなずいてから、紙に書きまとめていく。

    ・与党側の多く、首相の魂の属性:1(4)−1、1(7)−1、2(4)−3
    ・野党側の多くの議員の魂の属性:2(3)―3、2(7)−4

    『ところで、菅義偉と岸田文雄と石破茂は、それぞれどのような魂の属性でしょうか?』

    青年に問われた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。
    陰陽師が手を止めると、結果を眺めた青年が口を開く。

    菅義偉SS

    『菅義偉はアンケートで最有力候補でしたが、転生回数が240回代の魂3:武将と首相になれる条件を満たしてしますね。それに、大局的見地が95(SS)で仁が90(S)とかなり高く、総合運もほぼ全ての数値が9で、加えて頭が1と、文句なしの結果と思われます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「血脈の先祖霊の霊障の“17:天啓”の相とチャクラの6と7の乱れの影響によって、時折自分勝手な判断をし、周囲を振り回してしまう可能性が考えられることと、チャクラ4が乱れていることで、安倍晋三のように体調を崩さぬか、ちと気になるところではあるが」

    『そういえば、菅義偉は70歳を超えていて高齢ですので、健康面では気をつけていただきたいですね』

    「そなたの言う通りじゃが、それを言ってしまうと二階俊博は80歳を超えているわけじゃから、まだまだ老骨に鞭を打って頑張ってもらわねば、という考え方もあるにはあるがの」

    『なるほど、政治の世界には、定年などという概念はないのですね…』

    真剣な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は小さく笑って見せてから続ける。

    「本来であれば安倍総理の任期は2021年9月末までなわけじゃから、暫定的に彼の後を継ぐ期間は約一年となる。ゆえに、菅首相がさらに3年続投できるかどうかは、彼がこの一年でどこまでの実績を残せるかにかかっておるわけじゃな」

    陰陽師の言葉に青年は小さくうなずいて見せ、再びスマートフォンを操作した後、口を開く。

    『菅義偉は、“令和おじさん”の愛称や、おやつに3,000円のパンケーキを食べるなど、政治以外の面でもメディアに注目されていましたが、高校を卒業した後に上京し、都内の段ボール工場に住み込みで働くものの、一念発起してアルバイトをしながら受験勉強をし、同級生に比べて二年遅れで大学に入学するなど、苦労人という印象です』

    「そして、27歳に衆議院議員の小此木彦三郎の秘書となり、39歳から横浜市会議員を2期務めた後、45歳で衆議院議員に当選と、政治の世界ではその才覚を遺憾なく発揮してきたようじゃな」

    陰陽師の言葉に青年は感心した様子でうなずいた後、再びスマートフォンを操作して口を開く。

    『“菅総理には菅官房長官がいないという問題がありますが”と言われるくらい、安倍前首相からは評価されていたようですね』

    「魂の属性だけでなく、実務的な面から判断しても、今の自民党の中では、首相に相応しい人物と言うことができるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に納得の意を示すように大きくうなずいた後、青年は問う。

    『ところで、他の2人の魂の属性はいかがでしょうか?』

    岸田文雄SS

    そう言い、青年は再び鑑定結果が記された紙を眺めた後に続ける。

    『岸田文雄は、転生回数が340回の魂1:王侯・僧侶ですから、魂の種類だけで見れば首相に適しているとは思います。しかしながら、大局的見地と仁が80(A)と菅首相に比べて低いですし、人運が7ですから、この数値はトップに立って政党をまとめる人物にとっては致命的でないかと思われます』

    そう言い、青年は再びスマートフォンを操作してから、重々しい口調で続ける。

    『それに、暴力団元幹部の人物との握手写真が流出するというスキャンダルがあり、世間の目からすると良くない印象をあたえているのもちょっと気になります』

    「たしかに、頭が2であることも含め、首相の器というにはちと厳しいようじゃな」

    画像3

    『次は石破茂ですが、彼は転生回数が240回代の魂3:武将で、首相に適している魂の属性ではありますが、岸田文雄と同様に頭が2で人運が7であり、大局的見地と仁の数値を鑑みるに、菅首相には素質では及ばないと思われます』

    「また、親中・親韓派であることから、米中を主軸として昨今の国際情勢を鑑みるに、彼が首相になった場合、安倍元首相が築いてきたアメリカとの友好関係にヒビが入りかねないという危惧もある」

    陰陽師の言葉に青年は真剣な表情でうなずいた後、口を開く。

    『彼の人気の理由は、人柄や志や思想が評価されているというよりも、“党内野党”と言われる政権批判というか反骨精神みたいなものが、反安倍政権の意見を持つ人々から支持されていただけではないかと思うのですが』

    「昨今のメディアが親中・親韓に傾きつつあることを考えると、幾ら3位だったとはいえ、一定数の党員票はメディアの影響という見方もできるじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組み、苦い表情で口を開く。

    『つまり、メディアが魂4を煽るような報道を意識的に行い、党員票が石破茂に集中するように仕向けたというわけですね』

    「仮に党員票が完全な形で総裁選に反映されていたとしたら、トップにはなれなかったとしても、岸田氏には勝っていた可能性が高かったことから考えると、そういう結論になるじゃろうな」

    『たしかに』

    一つ頷いた後で、青年は続ける。

    『ところで、この3名以外で、魂の属性から注目している人物はいらっしゃいますか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んでから、重い口を開く。

    「強いて挙げるなら、我が国初の女性首相という意味合いも含め、稲田朋美じゃな」

    初耳だったのか、青年は手早くスマートフォンを操作し、リサーチを始める。
    その間、陰陽師は彼女の鑑定結果を紙に書き足していく。

    稲田朋美SS

    『稲田朋美は弁護士出身ですし、顔つきから魂2−4という印象を持っていましたが、転生回数が大山の370回代の魂1:王侯・僧侶なのですね。総合運は菅首相と同じですし、大局的見地が90(S)と高いことからみても、たしかにバランスはよさそうですね』

    「とは言え、令和のような激動の時代には、やはり魂1が望ましく、彼女は頭が2であることから、今の時代に即したトップではないのかもしれないがの」

    陰陽師がそう言った後、青年はスマートフォンの画面を見ながら口を開く。

    『ネットで見るかぎり、彼女はさまざまな問題発言や問題ある行動を起こしていたようで、自衛隊の南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の日報問題をきっかけに防衛大臣を辞任しています』

    「彼女にはそうした面があることから、現時点では力量不足であると言っておるわけじゃが、将来的には、首相となるポテンシャルを秘めているも間違いない。仮に菅首相がもう一期総理大臣を続けるようなことがあれば、その間に実力をつけて、4年後、101代総理大臣に就任する可能性も皆無ではないじゃろう」

    『なるほど。僕なんかには想像もつかない話で、正に目から鱗です』

    そう言い、頭を下げる青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「仮に彼女が首相に就任したら、米中戦争が勃発した際に自衛隊を派兵してしまう可能性は飛躍的に高まるはずじゃ。さらに言えば、戦争でアメリカが勝利した暁には、その功績をもとに自衛隊が正式に軍隊とする可能性もじゅうぶんあり得るじゃろう」

    陰陽師の言葉に青年は目を見開き、おそるおそる尋ねる。

    『そうなると、いよいよ憲法9条の改憲となるわけですね。自衛隊が軍隊になると、また日本が戦争に巻き込まれる可能性が高まり、物騒な世の中になりそうです…』

    「ということは、そなたは憲法9条の改憲に対して反対なのかな?」

    陰陽師にそう問われ、青年はしばらく黙考してから口を開く。

    『不勉強で恐縮ですが、憲法9条を改生してしまうと、日本は戦争に巻き込まれやすくなってしまうのではないかと危惧しています。この世が地上天国ではないことから、戦争そのものがなくなることはないと理解していますが、昔のような大規模戦争が少なくなっているとは言え、日本が戦争に加わることに対して賛成することは難しいです』

    「なるほど」

    そう言い、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後に続ける。

    「実は、安保法制には、たしかに“専守防衛”、“不戦の誓いを基調とした平和憲法”という側面も存在するのじゃが、別な角度で見ると、現行の憲法には、第二次世界大戦で軍部の暴走を許した日本国に対し、その軍事力に恐れをなした戦勝国側が、二度と同じ事態を引き起こさせないようにと、軍隊の保持を禁じたという側面が存在する。それが、憲法9条の基本的な“趣旨“でもあるわけじゃが」

    真剣な表情で黙ってうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「戦後70年という時間が経過した結果、憲法9条をめぐる状況は、大きな曲がり角に差しかかろうとしている。アメリカ・イギリスを中心とした戦勝国側が、軍隊の保持を認めただけでなく、国連決議による国連軍派遣といった事態に際し、日本に対して金銭のみならず汗を、汗のみならず血を流すことを求め始めたという世界情勢に基づく構造変化が起きているのじゃ」

    『つまり、今まで日本は経済支援で主に対応していましたが、今後は軍事面でも加勢するよう、まさかの国連から求められているということでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずいて見せてから口を開く。

    「“イデオロギー”から“経済”へと世界が大きなパラダイムシフトを始めたとはいえ、問題解決の手段として戦争がこの世から簡単に一掃されない以上、我が国も自衛隊といった目的のはっきりとしない機関(それさえも憲法による規定がないのだが)ではなく、たとえ“防衛軍”といった名称であっても、正式に軍隊を呼称すべき時期に差しかかっていることだけは間違いあるまい」

    陰陽師の説明に対し、青年はうなずいてから意見を述べる。

    『正当防衛のための軍事力の延長という意味でしたら、自衛隊が防衛軍となることに納得できます』

    「この世に“職業の選択の自由”が存在する以上、警察官/消防士といった職業が、他の職業に比べ、生命の危険にさらされる可能性が高くなることは言うまでもない以上、自衛隊に明確な称号と権利を付与することこそが、“命を賭して”職務を遂行している自衛隊員に対する最大のオマージュと考えることもできるわけじゃしな」

    『たしかに。大規模な災害時に人命救助にあたるのは自衛隊ですし、警察官や消防士と同等かそれ以上の社会的評価と待遇を得てもおかしくは、ないと思います』

    青年の意見に対し、陰陽師は小さくうなずいてから口を開く。

    「繰り返しになるが、安保法制とは新たな侵略戦争に道を開く法案ではなく、国連安保理事会の決議が戦争という手段以外の解決策を見出せなかった場合において、世界第三位の経済大国としての義務を果たすための法案なのだ、という認識を国民一人一人がもう一度考え直す時期に来ているのではないかと、ワシは思う」

    『おっしゃる通りですね。軍隊を持つイコール、戦争をしかけて軍事的に侵略する、ということになるとは限りませんからね』

    「それにじゃ、昔のような武力による争いだけが戦争ではなく、スパイやハッキングによる情報戦争や、経済政策によって相手国に損失を与える経済戦争のように、戦争の手段が変わってきておる」

    『そう言えば、先日、米国が“違反商品保留命令”を発令し、中国製の衣服やコンピューター部品などの品目の輸入を禁止しましたが、大きな貿易相手国である米国にそうした対応を取られると、中国は経済的に大打撃を受けますね』

    「もちろん、最終的に雌雄を決するのは武力による戦争となるのじゃろうが、既に米中戦争の前哨戦は始まっていると言えなくもないわけじゃし、今回のコロナ禍においても、金を使ってWTOを丸め込もうとせず、問題が明らかになった時点で、あらゆるデータを開示していればまた違った展開になっているかもしれぬわけじゃからの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は暗い表情で顔を伏せながら口を開く。

    『なるほど。以前説明していただきましたが、そもそも戦争とは、二国間の利害の不一致・衝突が話し合いのレベルを超えた段階で想定される最終行動/意思表示(※第4話参照)ですから、一般庶民が知らない水面化で戦争の準備が着々と進んでいるわけですね』

    「もちろん、米中双方の持つ核兵器で、地球全体が何度も吹っ飛ぶ時代じゃ。そう簡単に戦火を交えることもないじゃろうが、現在の経済/IT分野における小競り合いは、新しい形の戦争と呼ぶこともあながち間違いではないのじゃろうな」

    『令和の問題をひとまずこちらに置いておくとして、そしてこの世が地上天国ではなく“修行の場”という問題もこちらに置いておくとして、この世から“争い”がなくなることはないのでしょうか?』

    「仮にこの世から軍事的な意味での戦争がなくなったとしても、夫婦間の対立やイジメもといった、人間同士の争いがなくなることはないじゃろうし、そのような争いを通じて魂が磨かれるという側面がある限り、この世から人間同士の争い、戦争がなくなることはあるまい」

    『戦争が必要な理由など僕には皆目検討がつきませんし、それを世直しと言っていいのかどうかさえ、僕にはよくわかりませんが、いずれにしても、令和の“ねじれ”によって米中戦争が起き、結果として自衛隊が軍隊になる流れに向かってしまっているとおっしゃるわけですね』

    「目先の事象だけで見るとそなたの言う通りなのじゃが、ワシがみるかぎり、令和の“ねじれ“には、もっと大きな意味があるようじゃ」

    『とおっしゃいますと?』

    「冒頭に安倍元首相の辞任について触れたが、年号が令和になったことで“ねじれ”が起こり、世の中で様々な方向修正が起きておる」

    『新元号が令和でなければ、安倍元首相は体調不良にならずに総理大臣を続けていたということですね』

    「そなたはたかが年号と思うかも知れんが、令和という年号がついたことで、日本のみならず、その影響が世界中に伝播し始めてしまった。新型コロナウイルスによる経済崩壊、生活スタイルの変更などといったパラダイムの変換によって、世の中が大きく動き出したことは間違いないじゃろう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は腕を組み、眉間にシワを寄せて口を開く。

    『元号が令和になったことでコロナ禍が起きたのが事実だとするなら、別の元号にする方がいいのではないかと思うのですが…』

    「そう言いたくなる気持ちもわからんではないが、表面的に見れば、今のところ悪い現象ばかりのように見えるかもしれん。しかし、実際には、本来のあるべき世界に戻るために、令和という年号が選ばれ、その結果、今のような“ねじれ”が生じたと考えた方が実態に即しておるじゃろうな」

    『それは、どういう意味でしょう。令和の“ねじれ“は、改悪というより、むしろ改善に向かっているとおっしゃっているのでしょうか』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷き、続ける。

    「令和単体でみると、地震、火山の大爆発といった地球の内部からの問題よりも、今回のコロナのような疫病、天変地異、それに伴う凶作、戦争、果ては宇宙からの隕石落下といった災厄が目白押しということになるのじゃが、そもそもの原因とそれらの厄災の役割という、もう少し巨視的な物差しで令和の問題をみてみると、その原因を産業革命にまで遡らせるべきであるようなのじゃ」

    『産業革命。そんなに昔にねじれが起こったと…』

    「その通りじゃ」

    小さく唸ったまま固まる青年を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「端的に言うと、現代のあらゆる文明は、18世期半ばから19世期前半に始まった産業革命に端を発しているということができる」

    『はい』

    「もちろんそのすべてを否定するわけではないが、たとえば、クローンの問題や、IP細胞などの出現によって、がんにかかったとしても、他人の臓器などを移植せずに、自らの細胞を使って病気を根治させることが、もはや夢物語でないところまできておる」

    『そうですね。このままいけば、不死とまではいわないとしても、寿命が今までの倍になることぐらいはじゅうぶん予想できますよね』

    「仮にこの世の目指すべき方向性が、“地上天国の実現”であるのであればそれでもいいかもしれんが」

    『この世が“修行の場”である以上、そして400回の輪廻転生という宿題がある以上、そのような方向性は、断固として、阻止すべきだと・・・』

    「端的に言うとそういうことになるわけじゃ」

    陰陽師は、一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「つまり、令和の“ねじれ”とは、産業革命によってもたらされた物質文明、“体主霊従”の世界を、令和の“ねじれ”により、“霊主体従”というあるべき姿に戻すことを意味しており、実際、人知を超えた力がそのような方向性ですでに動き出しておるようなのじゃ」

    『にわかには信じられない話ですが、いずれにしても、捉え方によっては、令和で起きている世間一般では不幸と思われる出来事は、地球にとっての好転反応だとおっしゃるわけですね』

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら、そう言葉を絞り出す。

    「端的に言うと、そなたの言う通りじゃ。そしてさらに言ってしまえば、コロナ禍によって引き起こされるであろう出来事を鑑みるに、“体主霊従”から“霊主体従”の世の中に戻るには、それくらいの方向修正が必要なのじゃろう」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に、小さく頷くと、青年は言葉を続ける。

    『ところで、“体主霊従”と“霊主体従”、よく耳にする言葉ではありますが、具体的にはどのように違うのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は紙に文字を書きながら口を開く。

    「“体主霊従”は科学を中心とする、唯物論者の考えや意見が主流な現在の物質主義の世の中のこととなる。一方、“霊主体従”とは“霊”、すなわち魂や見えない存在の影響を大きく受ける、あの世の理屈が主流となる世の中のこととなる。もちろん、魂磨きの修行の場として、後者の方がふさわしいのはわかるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてから口を開く。

    『つまり、魂7(唯物論者)の人間が主導権を握っている世界から魂3(霊媒体質)の人に主導権が移っていくイメージですね。以前、血脈の先祖霊の霊障が顕在化し始めたのも、日本の元号が令和になったからだとお聞きしましたが、“霊主体従”の世の中に向かうにつれ、先祖霊の影響力が強くなったということでしょうか?』

    「塞がれているパフォーマンスの数字と霊障によって引き起こされる、特に心身の不調の顕在化を鑑みるに、そなたの言う通りであろう」

    『と言うことは、令和のねじれによって、コロナ禍は言うに及ばず、これからも様々な厄災が想定されるだけではなく、最悪、戦争も起こりえるというのですね…』

    「そうなってほしくはないが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「そして、そのような激変の時代じゃからこそ、冒頭に述べたように、頭1の人間が世をまとめるべきで、そのような意味では、菅首相には後任となる人物が育つまで頑張ってもらいたいと個人的には思っておるわけなのじゃ」

    『産業革命以前の“ねじれの解消”、それによる“霊主体従”の世の中へ回帰した後、頭1が世をまとめることで、どのような世界になるのでしょうか?』

    「それについて話し始めると長くなるから今夜はパスするが、いずれあらためて、そなたの意見も拝聴しながら、ゆっくりと議論をすることとしよう」

    『起承転結、お話を伺うかぎり、産業革命以降のおよそ250年分のねじれをまずは戻し、さらに本来の流れで進むはずだった250年、合計500年分の遅れを取り戻すために、かなり手荒い“軌道修正”が必要だというお話はじゅうぶん納得できます』

    そんな青年の言葉に頷きながら、陰陽師は口を開く。

    「それ故、出口なおの“お筆先”や日月神示で言うところの、“大掃除”が今度こそ、本当に起こるかも知れんわけじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    世の中が大きく動いている中、自分はどう動くべきだろうか。
    このままの方向性で科学が進み、この世から病気が一掃され、永遠の命を手に入れるのも悪い未来ではなさそうだが、この世を“地上天国”ではなく、“魂磨きの場”、“修行の場”とする限り、たしかに今の方向性は間違っているのかもしれない、そんな考えが青年の頭をちらっとよぎった。しかし…。
    今の自分の使命は、そんな荒唐無稽な未来に想いを馳せて一喜一憂するのではなく、目の前の出来事を一つ一つ丁寧にこなし、魂磨きの修行に励もうと青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第33話:断捨離とグッズの霊障

    新千夜一夜物語 第33話:断捨離とグッズの霊障

    青年は思議していた。

    先日の話の中で、“霊媒体質”の人物が拾った“念”が、身近な物に“転写”されたことについてである。(※第32話参照)
    日々“念”を拾っている“霊媒体質”の人物の多くが“お祓い”を受けていないとすると、“念”が転写されたグッズの存在に気づかず、そのまま断捨離する人がほとんどだと思われるが、問題ないのだろうか?
    三次元的な儀式や行為は霊的に意味がない以上、どんな捨て方をしても変わりはないと思うが、何も考えずに断捨離をすることによって、ひょっとしたら取り返しのつかないことをしているのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は断捨離とグッズの“霊障”について教えていただけませんでしょうか?』

    「ふむ。前回の続きじゃな。して、具体的にどういったことを聞きたいのかの?」

    『以前(※第15話参照)、グッズの“霊障”を無害化する必要があると仰っていたと思いますが、グッズの“霊障”を無害化せずにその物を捨てた場合、どうなるのでしょうか?』

    「基本的な話として、物を捨てたり、燃やしたところで、それによって対象物に憑いていた“霊障”が霧消することはない。それどころか、行き場の失った“霊障”が本人に戻ってくることがほとんどなので、よけい問題が大きくなってしまうと考えるべきかの」

    『なんと! 断捨離して、不要な物と一緒に“霊障”も手放せると思ったら、逆に状況が悪化してしまうのですね!』

    そう言い、前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は口を開く。

    「前回も説明したが、SNSの投稿や“呪い”のように、“念”にとって距離は関係ない。そのあたりを詳しく説明するために、“霊障”についてそなたなりにどこまで理解しているか、前回の復習をかねて聞かせてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉に対して青年はうなずいてみせ、口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈という先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSなどを通じて他者から受ける“念”や、心霊スポットなどで拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎と念、つまり、雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が“お祓い”の対象となります』

    「そなたなりに、ちゃんと整理がついておるようじゃの」

    青年の回答に満足げに頷きながら、陰陽師が口を開く。

    「ところで、先祖霊の霊障にはいくつか種類があるが、そのあたりのことをもう少し詳しく説明してもらおうかな?」

    『承知いたしました』

    青年は、一瞬、自分の考えをまとめるために口を噤んだが、すぐに口を開いた。

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります。また、地縛霊化している先祖が本人にかかっていようといまいと、魂の種類が同じ先祖を“霊統”、魂の種類が異なる先祖のことを“血統”と呼びます』

    「うむ、基本はしっかり押さえておるようじゃな」

    青年の回答に満足げな表情を浮かべながら、陰陽師が先を続ける。

    「そなたの回答を踏まえて、もう一度だけ、霊障について整理しておくとこのようになる」

    そう言いながら、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言っても、このように様々な種類に分類できるわけじゃが、今回はグッズの“霊障”なので、その対象は魑魅魍魎や雑霊と人の“念”ということになる」

    陰陽師の説明を聞き、青年はしばらく黙考した後、口を開いた。

    『今まで(※第15話、32話参照)教えていただいた内容から判断すると、人の“念”の場合、所有者がグッズに対して直接“念”を送るパターンと、所有者が拾ってきた“念”が、所有者の意思に関係なくグッズに転写されてしまうパターンの二つ、という認識で合ってますでしょうか?』

    陰陽師の説明に対し、青年は納得顔で頷きながら口を開く。

    「概ね、そなたの言う通りじゃ。特に、一つ目のパターンとしては、某新興宗教団体の御本尊がわかりやすい。おそらくどこかで大量に印刷された御本尊は、信者に配る前に特定の場所で保管されているのじゃろうが、仮に御本尊の流通に携わる人の中に霊能力持ちがいて、ご本尊を運ぶ際に“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考えただけでも、念が入ってしまうことがある。そのような場合、“2+”、すなわち、グッズ自身が“妖気”を発するようになってしまうことさえ起こりうるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に、青年は真剣な表情でうなずくと、あらためて口を開く。

    『と言うことは、たとえ霊能力持ちではなかったとしても、一般の人間が特定の物に対して過度な執着心や愛着心を持った場合であっても、グッズに“2”、すなわち、“念”が宿ってしまうことがあるわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「同様の構図は、件のご本尊に限らず、巷で売られているあらゆる日用品にも適用されるわけじゃが、中でも特に偶像、お札/お守り、神具の類には特に注意が必要じゃ」

    そう言うと、陰陽師は紙にペンを走らせる。

    偶像:仏像、イエス・キリストなどの像
    お札:神社などで販売されている木や紙
    神具:お寺の木魚・鉦(かね)や、キリスト教で使用する様々な神具

    『いかにも多くの人々が私利私欲の祈りをしそうな品々ですが、最初はただの“工芸品”やただの“板切れ/紙切れ”に過ぎない物が、人々のそうした祈りによって“念”を集めてしまうわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。それに、これらの品々には、人の“念”のみならず、眷属や魑魅魍魎がかかることもあるから、細心の注意が必要となる」

    『なるほど。人の“念”のみならず、眷属や魑魅魍魎までもがかかるのですね』

    感心したようにうなずく青年を見ながら、陰陽師はさらに言葉を続ける。

    「次は、持ち主が拾った“念”が転写されるグッズのケースじゃが、その中でも特に、直接肌に身に着ける物には、格別の注意が必要じゃ」

    そう言い、陰陽師は再び紙にペンを走らせる。

    《“転写”によって“念”が憑きやすいグッズ》
    数珠や宝石系のブレスレットなど、腕に巻く物
    寝具
    下着

    陰陽師が書いた文字を読み、青年はあごに手を当てながら口を開く。

    『数珠や宝石系といった腕に巻くグッズの中には、所有者を災いから守ってくれ、身につけているとなんらかの恩恵があると聞きますが、やはりよくないのでしょうか?』

    「そなたが言う通り、水晶をはじめとした宝石には眷属や魑魅魍魎の霊障、さらには、人の“念”といった邪気を吸い取る性質があり、身に着けることで一定のメリットはあるわけじゃが、それはたとえるなら紙パック式の掃除機のようなもので、紙パックの容量限界までゴミを吸い取ったら交換しなければいけないのと同様、定期的に無害化する必要がある」

    『なるほど』

    青年は一つ頷くと、言葉を続ける。

    『ちなみに、邪気がいっぱいになったままにしておくと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「今話した紙パック式の掃除機同様、それ以上邪気を吸い取ることはできなくなるだけではなく、新たに吸い寄せる邪気が所有者に跳ね返ることになる」

    『ということは、宝石の効果を知らずに、ファッション感覚で身につける人物や、数珠やパワーストーンのブレスレットを何本か腕に巻いて愛用している人は、巻いている数だけ、そうとは知らずに邪気を集め続けていることになるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃな。よけいな物を身につけた挙句、無用な邪気を拾い集め、それを自身にかからせているわけじゃな」

    『つまり、せっかく神事を受けてパフォーマンスを100%にしても、妖気を発する“2+”のグッズが家にあれば、また仕事や異性などの障害が生じてしまうこともあるのですね?』

    「そのとおりじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「ちなみに、数珠や宝石に限らず、日用品であっても扱い方次第で“2+”になることも、よく頭に叩き込んでおくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明を聞いた青年は、しばらく腕を組んで黙考した後、口を開いた。

    『ところで、飲食店の入り口などでたまに盛り塩を見かけますが、あれも効果がないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。魔除として盛り塩や塩風呂などに塩を使う人がいるが、幽霊は壁を通り抜けるし、触れることができないことから考えてもわかると思うが、三次元の物質である塩の効果はまったくない」

    陰陽師の説明を聞き、青年は苦笑しながら口を開く。

    『なるほど。ということは、盛り塩など、初めから置かない方がよさそうですね』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『ちなみに、寝具や下着の“霊障”からは、どのような影響が想定できるのでしょうか?』

    「まずは寝具の霊障についてじゃが、枕および枕カバー、ブランケット、シーツ等、直接肌に触れるものは、どうしても、霊障がかかる可能性が高くなりやすい。また、寝具には所有者が寝ている間に所有者が拾った“念”を吸い取る効果がある反面、やがて寝具が“念”を吸い取れる容量の限度に達した後は、所有者に不眠や悪夢や寝つきの悪さといった睡眠障害を起こすようになるのは、水晶のブレスレットと同じメカニズムと考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。睡眠の質は健康度や日中のパフォーマンスに大きく影響を与えるので、寝具はとても重要な役割を果たしているわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「特に、何らかの病気を患っているクライアントには、最低週に一度、重篤な患者には週に二度は寝具の無害化の神事をすることを推奨しておる」

    『学生時代の僕は寝つきが悪かったのですが、霊障による精神疾患の項目に“7:不眠”は該当していませんでしたので、間違いなく、寝具の“霊障”の影響で不眠になっていたのでしょうね』

    「寝つきの良し悪しは就寝前の行動で左右されることもあるが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    陰陽師の言葉に感嘆の息を漏らしている青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「今度は下着の話に移るが、たとえば女性の場合、通常よりも生理痛がきつかったり、特に思い当たることがないのに下痢や腹痛が頻発する場合、下着類の“霊障”の可能性を考えた方がいい。また、肺や心臓の疾患や乳癌を患っている人物は上着も気をつけた方がいい」

    『病気を患っている人は、病気の部位に近い衣類に気をつけないといけませんね』

    「そなたの言う通り、数珠にせよ、寝具にせよ、下着にせよ、特定のグッズを身につけた日に心身の不調が現れないか、よく心身の様子を観察することが大事じゃ」

    陰陽師の言葉を聞き、真剣な表情でうなずいた後、青年は口を開く。

    『そういえば、電子機器との相性が悪い人物を相当数見かけますが、そういった人物も、本人が拾っていた“念”が電子機器に転写しているのでしょうか?』

    「電子機器の場合は少々特殊で、霊障と電磁波の波動が近いことから、そもそも“霊障”が憑きやすいわけじゃが、電子機器自体の“霊障”が所有者に行く一方で、所有者が日々拾った“念”が電子機器に転写されることもある」

    『それに加えて、PC、タブレット、スマホなどは単体で存在しているわけではなく、インターネットを通して全世界とつながっており、さらにSNSなどを経由して“霊障”が伝播されやすいことから、特に、魂の属性3の人間が電子機器を使用するのはかなりのリスクが伴っているのですね』

    青年の説明に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「電子機器が“念”を拾うと、それ自体のパフォーマンスが著しく低下したり、機器がネットワークに繋がらない・繋がりにくくなるといった症状が出たり、最悪、機器自体が故障することすらあり得る。かく言うワシも、何台PCやタブレットをダメにしたか、わからぬくらいじゃ」

    そう言って笑う陰陽師を見ながら、青年が言葉を続ける。

    『なるほど。僕も電子機器を毎日使っていますが、動作や反応が遅いと困りますので、仕事でパソコンやスマートフォンをよく使う人物にとっては、悩ましい問題ですね』

    「ワシのクライアントの話になるが、最近のデジタル時計は現在時刻を確認する以外にも電子機器に準ずる機能を備えていることから、時計だけの機能を持つデジタル時計よりも霊障”が宿りやすい。ゆえに、時計が1、2分ずれだしたら無害化をするようにと申し伝えてある」

    青年が陰陽師の説明を黙って聞き、続きを待っていることを確認し、陰陽師は続ける。

    「ちなみに、定期的に無害化を行なった結果、今までは数ヶ月で使い物にならなくなっていたデジタル時計が、一年以上もつようになったという声もある」

    『なるほど。ちなみに、いわゆる、ポルターガイスト現象も“念”と関係があるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。ポルターガイスト現象の場合、土地にかかっている“地縛霊”や眷属の“霊障”によって異変が生じる場合もあるが、大方のケースは、所有者が跳ね返した“念”が部屋にあるグッズに転写されて生じる」

    『ほう。ポルターガイスト現象と言うと、一般的には目に見える形で現れる印象が強いですが、グッズの“霊障”の場合、所有者が知らない間に運気が下がったり、心身が不調になっていたりと、気づきにくいのが問題ですね』

    青年の言葉に陰陽師はうなずいて見せ、口を開く。

    「ここまで話した総括として、ワシはクライアントに対し、生活必需品ではない神具と風水グッズをできるだけ片づけるように伝えておる」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は首を傾げて少しうなってから口を開く。

    『捨てるのがダメならプレゼントを、と思いましたが、プレゼントした物が“霊障”を発していたとしたら、むしろ贈った相手の迷惑になりますよね』

    「おぬしの言う通りじゃな。よく聞く話なのじゃが、大事な人を想ってお守りをプレゼントする場合、贈り主の“念”がお守りに憑く可能性がある。その前段階として、件の御本尊と同じように、お守りを作る人物が何らかの“念”を発しながら作っていた場合、“念”が憑いてしまっていることもじゅうぶんあり得る話じゃ」

    『なるほど。よかれと思ってプレゼントした物が、むしろ逆効果になることがあるのですね』

    そう言い、青年は湯呑みの茶を一口飲んでから続ける。

    『とは言え、パワーストーンや“お守り”には“念”を吸い取る効果があるわけですから、容量がいっぱいになるまでは持っていてもいいのではありませんか? 初詣で古い物を納めて新しい物に買い換える習慣もあるわけですし』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頭を振ってから口を開く。

    「優秀な“霊媒体質”の人物の場合、本人が日々拾う大量の雑霊や“念”がグッズに“転写”され、一年と経たずにそれらが“霊障”を発するようになるじゃろうな」

    『なるほど。それに、よく考えたら、お焚き上げをするお坊さんに“霊能力”がなければ神社仏閣に収めても意味がありませんから、結局、“霊障”は強くなって戻ってきてしまうわけですね』

    青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「そう言えば、以前、ワシのクライアントに強度の顔面神経痛にかかって言葉が喋れなくなった仏教の僧侶がおってな。病院の検査では原因不明。精神安定剤の類を処方されたものの一向に改善せず、幾人かの霊媒師や新興宗教の教祖のところを回った末に、ワシの元を訪れたわけじゃ」

    『話せないということは、筆談でやりとりしたのですか?』

    「いや、同席した奥様から話を聞いておったのじゃが、当の僧侶は高級スーツに高級腕時計を身につけており、乗ってきた車を霊的に見たら、ベンツのAMGじゃった」

    『坊主に似つかわしくない姿形ですね。まさに、生臭坊主(※第8話参照)といった印象です』

    青年のやや辛辣な言葉を意に介さず、陰陽師は続ける。

    「ブッダは生産と生殖を禁じ、私有財産の所有を認めなかったわけじゃから、そなたの印象はあながち間違いではない。とは言え、ブッダと仏教の話は長くなるから別の機会にするとして」

    陰陽師の言葉に同意するようにうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「彼の病気の原因は“霊障”だったのじゃが、病気に至った経緯を丁寧に説明したうえで、出家もせず家族を持ったことはともかく、外車を乗り回したり、クラブで酒を飲むといった行為を厳に慎み、それによって捻出されたお金を“地域社会貢献の一助に使っていただくこと”を約束していただいたうえで、霊障を取り、体を元に戻してさしあげたわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、神妙な表情でうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「帰り際、今のような生活をしていると将来かならず病気が再発することと、その際には“カミ”は助けるなと言っているので、くれぐれも約束は守ってほしいと“釘を刺させていただいた”」

    『なるほど。やはり、行動を改めないと、次は助けてもらえないのですね』

    「そこは件の坊主に心根を入れ替えてもらうための方便じゃから、厳密な話をすると、かならずしもそうとは限らぬのじゃが」

    暗い表情で言った青年に対し、陰陽師は小さく笑いながらそう言った。
    陰陽師の様子を見て安心したのか、青年もかすかな笑みを浮かべて口を開く。

    『それならよかったです。とはいえ、そのお坊さんのように“霊能力”がなく、自分が“霊障”で苦しんでいる人物がお焚き上げをしたところで“霊障”は解消されませんし、以前(※第7話参照)も説明していただいたように、修行や読経自身には霊的に効果がないということが、あらためてよくわかりました』

    「物が増えればそれだけ執着の原因も増える。それ故、できることであれば、神具やパワーストーンといった類の物は、買わない、もらわない、譲らないのが一番じゃ」

    『ちなみに、すでに家にあるグッズに対しては、どうしたらいいのでしょうか?』

    「既に所有している神具等については、“念”を無害化して捨てればいい。ただ、仏壇や会社に設置されている神棚などは簡単には捨てられぬじゃろうから、少なくとも半年に一度は定期的に“霊障”が憑いていないか鑑定し、“念”が憑いていたら無害化の依頼をしてもらうことは大事じゃろう」

    陰陽師の説明を聞き、青年は小さくうなずいた後、控えめに口を開く。

    『とは言うものの、この世は魂磨きの修行の場であり、地上天国や現世利益を軸にした社会的な観点からの幸福を得るために我々は生きているわけではないことは理解していますが、人間は己の欲には抗い難い生き物ですし、精神を安定させるために何かにすがりたくなるのはしかたない気がします』

    青年がそう言った後、陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んでから口を開く。

    「そなたは、“小欲知足”という言葉を知っておるかな?」

    『欲望を小さくし、今持っているものでじゅうぶんに足りていると気づくといったような意味だったと記憶しています』

    「この言葉を言葉通りに受け取るとその通りなのじゃが、この言葉には過去と未来という概念が含まれているのがわかるかな」

    『とおっしゃいますと?』

    「まず、そなたは過去のすべての事象に対して満足しておるかな?」

    『そうですね…』

    陰陽師の問いに対し、青年は腕を組んでしばらく黙考してから、口を開く。

    『神事を受ける前は理不尽な体験がいくつもあったので、さすがに、過去のすべての事象に満足しているということは難しい気がします』

    「神事を終えてパフォーマンスが100%となった今でも、そう考えておるのかな?」

    『もちろん、辛い体験をいろいろとしたからこそ先生と出会えたわけですし、人事を尽くしていたからこそ、塞がれていた相から解放され、起きる出来事が大きく変わり、神事の効果を実感できたのだとは思っています』

    「そうじゃろう。すべての過去の事象は決して無駄な体験ではなく、現在の自分を自分たらしめるにあたり必要不可欠な学びだったと捉え、すべての過去の事象に満足し、感謝する心の在り様が“知足”と、ワシは思う」

    真剣な表情でうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「そして“小欲”じゃが、そなたはどんな未来をも受け入れる腹積もりができておるかの?」

    そう問われ、再び青年は腕を組んで首を傾げた後、口を開く。

    『なるべくそうしようと日々考えては思いますが、実際には、その場になってみませんと…』

    ばつが悪そうに言う青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「たしかに、今すぐそこまでの境地に達するのは難しいだろうが、今まで通り精進を続けていけば、いつの日にかはそなたもそのような境地に到達するはずじゃ。ともかく、今現在を精一杯生き、努力した事象への結果は、感謝を持ってすべて受け入れることじゃ」

    『今のお話は、未来に過度の期待してみたり、希望を抱いてはいけないという意味でしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから、口を開く。

    「そうではない。人間のすべての希望/欲望は、すべて現在を起点としておるのは確かじゃが、たとえどのような結果になろうと気にならないくらい、今この瞬間に全力を尽くし、出てきた結果を“天の思し召し”として受け入れること、そんな姿勢こそが、“小欲”の意味だということを理解してほしい、と言っておるだけじゃ」

    『なるほど。この世は、人間の“思議”でははかることのできない“不可思議”な力が働いている以上、日々の努力は努力として“その結果は天に委ねる”という心づもりが必要というわけですね』

    「さよう。この世の事象は我々の思い通りには動かないし、一見成功に見える事象が失敗/破滅の萌芽を含んでいたり、逆に、一見失敗に見える結果の中に、成功の萌芽が隠れていることもあるわけじゃから、あらゆる結果に対し、我々の“思議”に基づき一喜一憂することにはあまり意味がないというわけじゃな」

    『今思い出しても辛いと感じる出来事に対しても、感謝できることはないか探し、目先の出来事に一喜一憂することなく、これから起こるすべての出来事を受け入れることが天命だと肝に銘じ、歩み続けていくつもりです』

    「うむ、その意気じゃ」

    満足げに小さく頷く陰陽師に、青年は言葉を続ける。

    『また、神具やパワーストーン系が持つ効果にあやかるのも、見えない存在にすがるという行為も、元を正せば、自分に自信を持てないからであって、パフォーマンスが100%の状態であればそれらに頼る必要もないのだと、何となく納得できました』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうに微笑みながら壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は無闇に人から物をもらうことと、自分の物を他人に譲ることの危険性を痛感していた。
    不要な物は“霊障”の無害化を依頼してから手放すことにし、必要な物、特に寝具と電子機器は定期的に無害化を依頼することを決意するのだった。
    そして、今やるべきことに全力で取り組み、過去や未来に対する執着も手放していくのだった。

  • 新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    新千夜一夜物語 第32話:セラピストと念の問題

    青年は思議していた。

    彼が知る限りにおける、セラピストたちが心身の不調を訴えている件についてである。
    ※この話では、セラピストとは主にマッサージ師、気功師、話を聞くことで心を癒すヒーラーを意味します。

    他者の心・体をケアできる術に精通しているのであれば、自身のケアもできるはずなのに、なぜ、当の本人たちまでもが心身を病ませてしまうのだろう。
    ひょっとしたら、彼らの不調の原因に、霊障が関係しているのかもしれない。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はセラピストの不調について教えていただけませんか?』

    「ほう、セラピストの不調とな。それはまた、意味深なテーマじゃの。して、具体的にはどのようなことを聞きたいのかな?」

    そこで、青年はセラピストたちに多くみられる心身の不調について、陰陽師にざっと説明した。
    陰陽師はいつもの笑みで青年の話を聞いた後で口を開いた。

    「結論から言うと、セラピストが不調を感じる主な要因は、“霊障”ということになるのじゃろうが、そのあたりを詳しく説明するためにも、“霊障”についてのそなたなりの説明を、まず聞かせてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎。雑霊や人の念による霊障となり、二つ目と四つ目が“お祓い”の対象となっています』

    「ふむ。基本的なことは、しっかり押さえておるようじゃの」

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、そなたの考えは?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合は、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    「今の説明で基本的に問題ないが、 “霊統”、 “血統”という言葉もあり、それらは地縛霊化している先祖が本人にかかろうがかかるまいが、そう呼ぶことも忘れんようにの」

    『そうでした。そのことをすっかり忘れていました』

    ばつが悪そうに言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みを向けながら続ける。

    「いずれにしても、基本はしっかり押さえておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言いながら、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    納得顔でうなずきながら紙を眺める青年に、陰陽師は声をかける。

    「一口に霊障と言ってもこのように様々な種類に分類できるわけじゃが、基本となる四つの神事を済ませたという前提で、一番問題となってくるのは、人が発する“念”じゃ。実際、日々ワシのところに“お祓い”を依頼してくるクライアントの心身の不調の原因の大半はこの “念”じゃ」

    『なるほど、そうなのですね。僕の同僚たちへのヒアリングでは、腰痛など体の痛みが患者の症状の大部分を占めているわけですが、見えない“念”が、物理的な身体に影響を及ぼしていたわけですね?』

    「そなたの同僚ということであれば、勢い、魂の属性3の人間がほとんどのはずじゃから、 体の不調が“先祖霊の霊障(霊脈と血脈)”、“天命運の乱れ”、“チャクラの乱れ”に起因していることが基本とはいえ、“念”を中心とした霊障による体の不調は、決して見過ごすことのできない大きな問題といえるじゃろうの」

    『特に魂の属性3の場合、先天性疾患や重篤な病を患っているとしたら、そのあたりの影響をまず疑うべきなのですね』

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、そう言った。
    そんな青年の様子に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

    「ところで、そなたは“念”について、どのように理解しておるのかな?」

    そう陰陽師に問われ、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『“念”は、人間の感情を起因として生じます。たとえば、“呪い”のように誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じます。つまり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“生き霊”となって相手に届いてしまう現象と認識しています』

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、言葉を添える。

    「基本的にはその通りじゃが、もう一言だけ付言すると、“呪い”と“生き霊”の区別だけはしっかりとつけておくようにな」

    『とおっしゃいますと?』

    「人が発する“念”をさらに大別すると、“邪神”、“呪い”、“生き霊”の三つとなるわけじゃが」

    そう言いながら、いぶかしげな顔をしている青年のために、陰陽師はそれらの言葉を紙に書き足していく。

    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した「神(もどき)」
    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念

    書き終えた後、陰陽師は再び口を開く。

    「“邪神”は今回の件とは関係が薄いことから別の機会に話すとして、“呪い”と“生き霊”は誰に対して“念”を発しているかで異なるとは言え、これらの“霊障”の問題点は、“霊媒体質”の強弱によって被害者が変わってしまうところにある」

    『とおっしゃいますと?』

    「つまりじゃ、“霊能力”持ちの人物が“呪い”を生み出した場合、対象の人物に直接影響を及ぼすのに対し、“霊能力”を持たない人物が“念”を飛ばした場合、往々にして、“霊媒体質”を持つ赤の他人に、無差別に影響を及ぼすことが起こりえる」

    『え、まったく無関係な赤の他人がとばっちりを受けると。それはたしかに迷惑な話ですね』

    「たとえば、誰かがSNSで特定の人物に対する恨み言を投稿した、つまり、“念”を飛ばしたとして、その投稿を偶然見かけた赤の他人がその“念”を拾い、心身に変調をきたすことは、以前(※第29話参照)にも説明したと思うが、記憶に残っておるかな?」

    陰陽師の言葉に対して青年は真剣な表情でうなずいて見せ、口を開く。

    『そのあたりの話は、よく覚えています。かく言う僕も、木村花さんに向けて発信された投稿内容を読んでいて、赤の他人であるにもかかわらず、気分が悪くなりました』

    「そなたが体験した通り、実際に目の前にいない人間が何らかの“念”を飛ばしたとしても、“霊媒体質”というだけで、その“念”を無関係な人間が拾ってしまい、その結果、心身に何らかの良からぬ影響を被るという構図が成立するわけじゃ」

    『なるほど。近くで赤の他人が口喧嘩していると、関係ない僕まで気分が悪くなってしまうのは、その当事者たちの“念”を拾ってしまったからなのですね』

    「さよう、そなたの言う通りじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は言葉を続ける。

    「さらに厄介なのは、“念”というものは元来霧のように人間にまとわりついており、その人物の心身の中でもっとも弱っている部位に集まるという性質があることなんじゃ」

    『ほう、心身の中でもっとも弱っている部位に集まると。そのあたりのことを、もう少し具体的に教えていただけますでしょうか?』

    そう問いかける青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて見せ、紙に人型を描き、さらにその周囲を覆うような輪郭線を描く。

    「つまり、“念”を拾った人物にとって弱い部位が肌であると仮定した場合、肌の症状が悪化し、腰が弱い人物には腰痛が増幅する形で現れることになる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は納得顔でうなずきながら口を開く。

    『今は完治していますが、僕は昔アトピー性皮膚炎に悩まされていて、むしゃくしゃした時に、いけないと思いつつも八つ当たりのように肌を掻き毟ってしまった原因に、“念”の可能性があるわけですね?』

    「基本的にはその通りじゃが、もっと詳しく説明するにあたり、そなたの鑑定結果を確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を保存しているファイルをめくり、青年のページを開く。

    note用霊障による精神疾患

    青年は鑑定結果に目を通してから口を開く。

    『アトピーに関しては、15の項目で納得しました。そして、SNSでネガティヴな内容の投稿を見かけた際に、自分には関係ない内容であるのに怒りが湧いたのは、13あるいは14の相が関係しているわけですね?』

    「うむ、その理解で問題ないじゃろう。つまり、霊的に、見るべきではない記事に目を通したことによって、拾わなくてもよい“念”を拾ってしまったわけじゃな」

    『なるほど。そういうことだったのですね』

    「それと、この件でよく覚えておくべきは、たとえば温厚な性格の人物が、突然、別人のように言動が悪変した場合なども、それはその人物の内側から湧いてきた激情というより、他者の“念”を拾ったために生じた悪変である可能性が極めて高いという事実じゃ」

    『そのお話は、とてもよく理解できます。若かりし頃、物に八つ当たりしたり、暴言を吐いたりした後に激しく後悔したものでしたが、当時もなんらかの“念”の影響を受けていたのでしょうね』

    「そなたの属性を見るかぎり、その可能性は高いじゃろう。そして、そなたに限らず、そのような言動は本人の責任というよりも、霊障が原因と考えるべきなのじゃろう」

    『そう言っていただけると、少しは気持ちが安らかになります』

    そう言って微笑む青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「ここで冒頭のそなたの質問に戻るわけじゃが、マッサージ業界の場合、セラピストの“霊媒体質”度が80点、患者の“霊媒体質”度が90点だった場合、セラピストにかかっていた“念”が、施術を通じて患者の方に移ってしまう」

    陰陽師は紙に二つの人型を描き、一方の頭上に90を、もう一方の頭上に80と書き足した。そして、後者から前者に矢印を描き、説明を再開する。

    「すると、本来であれば施術を受けた患者の体の不調が解消されるはずが、セラピストにかかっていた“念”が患者に移動することで、セラピストの方が元気になり、むしろ患者の不調が増幅するという逆転現象が起こることになる」

    『逆に言えば、“霊媒体質”の患者にとっては、より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合えることができれば、単に施術の効果だけではなく、セラピストに“念”を引き受けてもらうことも不調の改善に一役買っているというわけですね?』

    「その通りじゃ。より“霊媒体質”度が高いセラピストに巡り合うことができれば、そのセラピストが持つスキル以上の恩恵を患者は享受することができるわけじゃな」

    『ちなみに、セラピストと患者が互角の“霊媒体質”同士だった場合はどうなるのでしょう』

    「もちろん、その場合は、魂の属性7同士がセラピストと患者である場と同様、セラピストの腕がそのまま治療結果となるじゃろうな」

    『なるほど。リラクゼーションの仕事をしていた時に、少しでも施術が向上するようにと試行錯誤を繰り返していましたが、その努力は無駄ではなかったのですね』

    安堵の息を漏らす青年に対し、陰陽師は青年を安心させるように微笑みかけ、再び口を開く。

    「いずれにしても、今まで長々と説明してきた理由によって、“霊媒体質”であるセラピストが日頃、仕事後に感じる心身の不調の原因の大半が、患者が拾ってきた“念”であるという結論に至るわけじゃ」

    陰陽師の話に身に覚えがある青年は、表情を引きつらせながら小さくうなずいて見せる。
    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲み、説明を再開する。

    「さらにもう一言だけ補足しておくと、“霊媒体質”には二つのタイプが存在する。つまり、“念”を引き受けた後に体に入れてしまうタイプと弾くという二種類のタイプのことじゃな」

    『今の説明をお聞きするかぎり、僕の場合は霊障を体内に入れてしまうタイプだと思いますが、弾くタイプの人間の場合、具体的には、どのような現象が起こりえるのでしょうか?』

    「“念”が人体に影響をあたえるのと同様、その場合、弾いた念を近くの物に転写させることになるわけじゃが、電子機器や蛍光灯の調子が悪くなるのが最も一般的なのじゃが、めずらしい例としては、車の調子がおかしくなってみたり、警報機やスプリンクラーが誤作動して、大騒ぎになってみたりする」

    『え、そんな事例まで存在するのですか?』

    「真夜中に、自室の電子ピアノが鳴り出したなどという、オカルト映画にも出てきそうな事件まであるにはあるが、それとて原因が理解できていれば、恐れることは何もないわけじゃ」

    そう言って笑う陰陽師を横目で見ながら、青年が口を開く。

    『そうはおっしゃっても、私物であるならばともかく、施設にまで影響がでてしまうのは困りますね。このような問題は万人のコンセンサスを得ることは難しいわけですから、その結果、変な噂が立って、客足が遠のく可能性だって考えられるわけですし』

    「霊障を体内に取り込んでしまう人物に比べて、弾くタイプの人物の比率はそう多くないとしても、たしかにお主の言う通りでそのような事態が頻発するようでは、たしかに商売にも悪影響を及ぼすじゃろうな」

    『おっしゃる通りです』

    青年は一つ頷いた後で、陰陽師に問いかける。

    「この件について、緊急時における“特効薬”のようなものは存在しないのでしょうか?」

    「少なくとも、マッサージなどの治療院に話をかぎるとすれば、問題となる特定の患者が来た時に、霊能力者に結界を張るように依頼することも検討してみるのは一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずき、疑問を口にする。

    『ちなみに、“唯物論者”である魂の属性が7の人物の場合はどうなのでしょう?』

    「もちろん、魂の属性7の人物の場合は、先程も説明したように、純粋に施術の効果で症状が改善する可能性がはるかに高い。また、引き寄せの法則によって、魂の属性3のセラピストには魂の属性3の患者が、魂の属性7のセラピストには魂の属性7の患者が集まりやすいことから鑑みても、“霊媒体質”の人間の方がこの手の治療において“効きがいい”といわれる由縁も、実は、魂の属性3のセラピストと患者の場合、通常の施術に加え、霊障のやり取りがあることがその要因ともなっておるわけじゃな」

    陰陽師の説明を聞き、青年は手を打ってから口を開く。

    『なるほど。患者とセラピストの相性には、“霊媒体質”か“唯物論者”かも関係があるのですね』

    「もちろんじゃとも」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずくと、言葉を続ける。

    「その結果、“霊媒体質”の点数が高いセラピストは患者にかかっていた“念”を次々と拾ってしまうため、心身の不調が出やすいということになるわけじゃ」

    陰陽師の説明に納得顔で青年はうなずき、しばらく黙考した後に口を開いた。

    『ちなみに、体による接触がない、電話での霊視カウンセリングなどにも“念”の影響はあるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。そなたがSNSで体験したように、“念”に物理的な距離は関係ない。客が電話越しに誰かに対する恨み辛みを話していたとしても、電話をしている時に最も関わっている人物、ここで言う聞き手に“念”が影響を及ぼすことは間違いない」

    『ということは、霊視カウンセリングといったスピリチュアルな手法を売りにするセラピストは、当然優秀な“霊媒体質”なのでしょうから、客の“念”をダイレクトに拾ってしまう可能性が極めて高いわけですね』

    「もちろんじゃとも。優秀な“霊媒体質”の人間が、そうした職業で生計を立てている場合、心身を蝕まれる可能性は魂の属性7の人間とは比べ物にならず、一定期間“念”を大量に引き受けていたりすると、人によっては、白髪になりやすかったりする」

    『え、髪の毛が白くなってしまうのですか』

    「昔から、(古来の教えを正しく受け継ぐ)神道でも、霊力は髪の毛を媒介してやり取りされる、と言われておるくらいじゃから、霊的な疲弊は髪の毛に一番出やすいということは当然の帰結なんじゃ」

    『なるほど、それで納得しました。実は、僕の知人も、年齢の割に白髪が明らかに多かったので、かなり“念”を拾いながら仕事をしていたわけなのですね』

    「もしそのような人物がおるのであれば、おそらく、間違いあるまい」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「さらに言うと、リラクゼーションの場合と同様に、“念”が“霊媒体質”の度合いが高い方に移動することから、電話カウンセリングだけでなく、遠隔ヒーリングといった施術にもじゅうぶんな注意が必要であることは言うまでもない」

    『最近では、水泳の池江璃花子選手が“手かざし療法”を受けているようですが、あれも“念”の移動という理解でよろしいでしょうか?』

    「“手かざし療法”は、現代では、世界救世教の開祖、岡田茂吉のエネルギーワーク、そして岡田茂吉の後継者を名乗っている三派の“真光”教団が有名じゃが、あれは岡田茂吉が“霊能力”持ちだったから一定以上の効果があったわけであって、多くの人間にとっては“手かざし療法”は、“念”の移動に過ぎないといっても間違いではないじゃろうな」

    『なるほど。参考までに、岡田茂吉氏の鑑定結果を教えていただけますでしょうか?』

    「あいわかった」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    岡田茂吉SS

    『やはり“霊能力”持ちなのですね。しかも、(±5)とかなり強力ですから、多くの命を救ったことでしょう。ただ、(±1〜3)ではないため、先祖供養や天命運とチャクラの正常化はできなかったようですね』

    「以前(※第24話参照)も説明したが、“霊能力”と一口に言ってもいろんな種類があり、彼の“霊能力”は病気治しに特化していたと言うことができよう。1961年(昭和33年)に国民健康保険法が改正され,国民皆保険体制が確立されるまでは、短期間で死に至る病ならまだしも、糖尿病や心臓病を患ったにもかかわらず、一命をとりとめ、その結果、ずるずると生き永らえてしまった場合、高額な医療費のために一族郎党が経済的に壊滅状態に追い込まれてしまうことも決してめずらしくはなかったのじゃ」

    『今では大多数の人々が健康保険制度を当たり前と思っていますが、当時の医療は現代の常識からは想像ができないくらい高額だったのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずき、続ける。

    「実際に彼が救った命は相当な数に上るのじゃろうし、当時の彼がいくらくらいの謝礼を受け取っていたか定かではないものの、病院から請求される高額な治療費を支払えない貧しい信者からしてみれば、まさに命の恩人、崇めるべき教祖だったわけなのじゃよ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばらく黙考した後、口を開く。

    『なるほど。彼自身は“17:天啓”の相を解消できずに大変な思いをしたかもしれませんが、それだけの偉業を成し遂げたのであれば、この世に未練はなさそうです。ちなみに、彼の魂は無事にあの世に戻っているのでしょうか?』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    青年の問いに陰陽師は短く答え、鑑定を始める。

    「うむ。たしかに、無事にあの世に戻っておるようじゃな」

    『それはよかったです』

    安堵の息をもらす青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところで、彼の鑑定結果を見て、他に気づいたことはないかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は食い入るように鑑定結果を眺める。
    しばらくして、青年は首を傾げながら自信なさげに口を開く。

    『精神疾患の項目に“13:読心・暴力衝動/諸事に支障(物)”しかないことが気になります。多くの人は“14:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)”とセットだったような気がしますので』

    「いいところに気がついたの。この項目の数が極端に少ない場合、特に13しかない人物は、その項目の現れ方が激しくなる。たとえば、とある人物が“霊障”を100拾ったとして、13と14の項目が共にある人物の場合、わかりやすく説明すると、各々50ずつに相当する症状が顕在化する」

    そう言い、陰陽師は青年が話についてきているのを横目で確認し、続ける。

    「一方、霊障13しかない人物が“霊障”を100拾ったとすると、その全てが13に集中し、100に相当する症状が顕在化するため、非常に激しい荒れ方をするわけじゃ」

    『つまり、日頃とのギャップに周囲がドン引きするような変貌ぶりをする人などは、13だけを持っている可能性が高いわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、再び口を開く。

    「加えて、岡田茂吉氏の場合、先祖霊の霊障と天命運の両方に“17:天啓”の相があり、チャクラの6番目と7番目が乱れておることからも、精神的にかなり不安定だったことが想定されよう。また、晩年の彼は信者から得た莫大な資金で、世界中の様々な美術品を買い集めることに執心しておったのも、そのあたりが作用しておったのじゃろうな」

    『ちなみに、それらの美術品は、実際に素晴らしいものだったのでしょうか?』

    おそるおそる問う青年に対し、陰陽師は小さく笑いながら首を左右に振る。

    「ワシは美術の専門家ではないから断定的なことは言えんが、熱海のモア美術館にある品々を見る限り、玉石混交の観は免れんと思うがな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は腕を組み、眉根をひそめて言う。

    『“17:天啓”の相とチャクラの乱れ(6・7)によって誤った方向に導かれ、その結果が精神疾患の13の“諸事に支障(物)”として顕在化したのでしょうね』

    「その可能性は決して低くはないようじゃな。それにじゃ。そもそも、何らかの“霊能力”を持っていたとしても、結局はそれを使う人間の心次第ということになる。霊能力者が自らの力を行使するにあたり、自分なりのしっかりとした世界観とか価値観を持っておらんと、“正義の剣”で悪を切ったつもりが、実はその正反対であったなどということも、じゅうぶん起こりうるわけじゃ」

    『なるほど。霊能力を持っていても、結局は、それを扱う人物次第ということなのですね』

    青年の言葉に小さくうなずいてみせ、陰陽師は続ける。

    「さよう。新興宗教のほとんどが、怪我や病気や犯罪がない、“地上天国”を理想として掲げておるが、この世が“地上天国”を希求するものではなく、“魂磨きの修行の場”であるとするならば、400回の人生において、今世の宿題としてあえて病気で苦しむことを選ぶ可能性だって、当然あるわけじゃから、そもそも、その能力があるからと言って、目の前の人物の病気や怪我を安易に治していいものかどうかという形而上的な問題も存在しているわけじゃ」

    『以前(※第25話参照)もご説明いただきましたが、池江選手が白血病になった原因がプロのスポーツ界における“排除命令”の一環だったとすると、彼女の病気を治し、水泳の選手として復帰させることは、この世の厳然たる“2−3−5−5…2”のルールの中に再び彼女を返してしまうという結果となるわけで、考え方によっては病気を治すことそのものが好ましくないことという考え方もできるわけですね』

    「そなたの言う通りじゃ。病にかかることや死を不幸だと思う人は多いと思うが、病気になることで体験できることもあるし、身近な人物の死から気づかされることもある。つまるところ、当人の魂磨きの修行にとって必要だから起きている場合だってあるわけじゃからの」

    『つまり、霊能力者たるもの、そこまで考えて己の能力を使うべきだとおっしゃるわけですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「仮にワシがあの時彼女と知り合っていたとすれば、治療を始める前に彼女にこの世のルールについてよく説明し、たとえ白血病が治ったとしても、選手として復帰しないこと、とは言え、あれだけの才能の持ち主であるわけじゃから、指導者として後進を育てることが今世の宿題であることを事前に了解してもらった上で、治療に関わらせてもらっておったじゃろうな」

    『たしかに。いかに才能に恵まれていたとしても、2(4)-3-5-5・・・2でない以上、選手に復帰したらまた病が再発する可能性がありますし、仮に病が完治していたとしても、今度は麻薬に関する事件を起こし、別の形で排除命令が発動するかもしれませんからね』

    自分に言い聞かせるようにそう言い、青年は居住まいを正してから続ける。

    『また、現世利益的に何不自由なかった人物でも地縛霊化することがありえるということは、池江選手にとって、選手として復帰することばかりを目標にするのではなく、いかに最期に悔いなくあの世に還ることが重要だというわけですね』

    「簡単に言うと、そういうことになるの」

    青年の言葉に同意を示すように陰陽師はうなずき、口を開く。

    「池江選手を治療しておるという件(くだん)の霊能力者も、本来であれば、そこまでの大局的な視点を持って自らの能力を使ってもらいたいところじゃが、“霊能力”(±7)の件の“手かざし療法”にそこまでの要求をするのは酷と言うもんなのじゃろうし、そもそも、彼に“血脈先祖”の霊障を祓えと言うのも、無理な相談なのじゃろうしな」

    想定外のことを聞いた青年は、目を見張りながら陰陽師に問う。

    『池江選手自身は“唯物論者”である魂の属性が7の人物だったと記憶していますが、そのような人物にも“血脈”の先祖霊の霊障がかかるのでしょうか?』

    思いがけない言葉にちょっと目を大きくしている青年の問いに対して、陰陽師は小さく首肯し、続ける。

    「魂の属性7の人物の場合、魂が同一である“霊脈”の先祖霊はかからないものの、“血脈”の先祖霊がかかる可能性は当然のこととして想定できたのじゃが、困ったことに、令和になって以来、それ以前と比較して、“血脈”の先祖霊の霊障が顕在化し始めたようなのじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    「それだけにとどまらず、最近の事例を見ている限り、魂の属性3の人間よりも魂7の人物の方が、霊脈の霊障がない分、より強く霊障を顕在化させるようになっているようなんじゃ」

    『なんと…。令和の時代に入って何らかの“パラダイムシフト”が起きたとお聞きしましたが、今まではさほど問題視されていなかった血脈の先祖霊(※第6話参照)が、魂の属性7の人間にまで影響を及ぼし始めたとは、想定外としか言いようがありません…』

    「“令和”についての問題は、話し出すと長くなってしまうので、また別の機会に話をするとしよう」

    陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、再び口を開く。

    『ちなみに、気功師である僕も含め、霊能力が満たない人物が重病や精神疾患を持っている患者に施術を続けると、どうなってしまうのでしょうか?』

    恐る恐るそう問う青年に対し、陰陽師は笑みを消して口を開く。

    「“霊媒体質”のタイプによるが、体に入れてしまうタイプの人物の場合は、当然のこととして心身不調がひどくなり、長年そのような患者と関わり続けていると、最悪の場合、セラピスト自身が癌などの重篤な病気や精神障害にかかる可能性が考えられる」

    『そうなると、あるところからは信頼できる霊能力者に引き継ぐ必要があるのでしょうか』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振って口を開く。

    「もちろん特に重篤な患者の場合は相談してもらうことも必要じゃろうが、必ずしも患者と距離を置く必要はない。そもそも、“霊障”は当人の弱っている部位の症状を増幅させるわけじゃから、そなたのような人間たちが、患者の弱っている部位を改善するという現代医学の最も不得意な分野を補完することは、とても有益なことじゃとワシは思う」

    『それを聞いて安心しました。誰が担当しようが、結果的に患者が元気になって天命を邁進してくれるのが僕の一番の願いなので、僕の気功が一人でも多くの方々のお役に立てるのであれば本望です。実際、先生のお力添えもあり、神事を受けてくださった僕の患者の回復は早いと感じています』

    青年の言葉に対し、微笑みながら相槌を打つ陰陽師を見、青年は続ける。

    『そして生きている人間以外にも、何年もあの世に戻れなくて苦しんでいる、地縛霊化している魂を一名でも多くお救いしたいと思いますし、それらの活動の結果、一人でも多くの方が霊障から解放されて本来歩むべき人生を歩んでもらえたらと思っています』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑みながらうなずき、口を開く。

    「ちなみに、魂の属性3の人物に比べたら、魂の属性7の人物が受ける“霊障”の影響は少ないが、今日話した内容は、令和になって以来、魂の属性7の人物にもより頻繁に起こりうる問題だということをぜひ頭の片隅に留めておいてもらいたい」

    『ということは、魂の属性7の人物には“精神疾患”の項目が存在しないとしても、魂の属性3の人間と同じような症状が現れる可能性はあるというわけですね?』

    「いつも、人間とは“多面体”のようなものじゃと話していることからも明らかなように、たしかに、魂の属性7の人物の場合、魂の属性3の人間に比べて“霊障”による心身の不調が生じにくいとしても、その影響がまったくないということはない。ワシのクライアントを見ていても、特に令和に入ってから、その傾向が顕著なようじゃ」

    『なるほど。ということは、たとえ魂の属性7の人物であっても、霊障とは無縁ではないと』

    「もちろんじゃとも。先程の、“精神疾患”の項目が存在しないという話も、霊障を“主因”とした“精神疾患”がないというだけの話であって、魂の属性7の精神疾患患者が世にあふれていることはあらためて説明する必要もあるまい。そして、そのような意味で、霊障が仕事運などの本人を取り巻く環境に悪影響を及ぼしていることは、程度の差こそあれ、魂の属性3のケースと何ら変わりはない」

    『とは言え、彼らが見えない世界のことを迷信だと言って信じない分、その原因に気づきにくいわけですね』

    顔を引きつらせながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずき、口を開く。

    「そなたの言う通りじゃろうな。“霊障”を非科学的だと断言するのは一向にかまわんが、であるのであれば、心霊スポットなぞに近寄らねばいいようなものじゃが、魂の属性7の人間の場合、魂の属性3の人間と違って“実感”という意味で霊障を感じることがまずないことから、興味本位で心霊スポットなぞに出かけ、知らぬ間にとんでもない霊障を拾うなどということも現実に起きておる」

    『魂3であっても魂7であっても、“霊障”を拾う時には拾ってしまうのだとすれば、日頃“免疫”がない分、そのあたりのことにはじゅうぶん気をつけないといけないのでしょうね』

    青年はそう言い、真剣な表情で何度もうなずいてから続ける。

    『とは言うものの、四つの“神事”はまだしも、日常的に拾ってしまう“念”に関しては、いつまでも先生の“お祓い”のお世話になるのは気が引けますが、どうしたらいいのでしょう。“霊障”の列ができてしまい、何度も繰り返し依頼している人もいるわけですし』

    「ワシもクライアントがいつまでも“霊障”で辛い思いをしていることに苦慮していたが、色々と検討を加えてみると、実はそうでもないようなんじゃ」

    『え、そうなのですか?』

    身を乗り出して問う青年を片手で制し、陰陽師は続ける。

    「もちろん個人差はあるものの、人間が生涯で拾える“霊障”の限界値は、大方、決まっているようなんじゃ。今は四六時中“お祓い”を依頼しているクライアントがいるとしても、“お祓い”を受け続けてその限界値を迎えれば、その人物が“霊障”によって被る被害が激減するのは間違いないことのようじゃ。もちろん、まったくなくなるということはないとしてもな」

    『なるほど。霊的な世界には、そんな決まりがあるのですね。たしかに、“霊媒体質”である我々は生きている限り“霊障”を拾うわけですが、長い目で見れば、今のうちにどんどん“霊障”を拾っては祓うを繰り返すほうがよいというわけですね』

    「端的に言うと、そういうことになるのじゃろうな。それ故、積極的にお祓いを受けることによって、“霊障”によって生じる辛い時間が減ってくれることを、ワシも切に願っておるわけじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    同時に、無闇にセラピーやセッションを行なったり、受けたりすることの危険性を痛感していた。
    今までの青年は、どうにもならない時に“お祓い”の依頼をしていたが、今後は自らが生涯で拾える“霊障”の量を早くクリアするため、何らかの不調を感じたら、我慢せずにその時に“お祓い”を依頼することを決意するのだった。