投稿者: あの世とこの世合同会社

  • 新千夜一夜物語 第45話:成功するYouTuberの条件

    新千夜一夜物語 第45話:成功するYouTuberの条件

    青年は思議していた。

    不登校を掲げるYouTuberゆたぼんが、動画上で中学校も不登校宣言したことが波紋を呼んでいる件についてである。
    彼の発信に対しては賛否両論あり、YouTuberシバターに至っては、ゆたぼんと何度か動画を挙げて討論していたほどである。

    いったい、ゆたぼんはどのような魂の属性なのだろうか。また、中学校も不登校を貫く彼の今後は、いったいどうなるのか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はYouTuberゆたぼんについて教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ。最近、たまにネットのニュースで見かける少年のことじゃな。して、どういったことを聞きたいのかの?」

    『まずは彼の魂の属性を、次に、彼が中学校も不登校を貫いた場合、彼の将来はどうなることが予想できるのかを教えていただきたいです』

    「その質問に答える前に一つ確認したいのじゃが、そもそもいったいなぜ、彼は不登校になったのじゃ?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『ネットの情報を見る限り、宿題をやってこなかったゆたぼんに対し、彼の当時の担任が彼を叩いたようですが、担任の言い分としては、机を叩こうとしたら彼に当たってしまったとのことで、叩いていないと主張していたようですが、ゆたぼん側は、先生が嘘をついたと考え、その出来事をきっかけに不登校になったと言っています』

    「ふむ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はあいづちを打ち、紙に鑑定結果を書き記していく。

    ゆたぼんの元担任SS

    属性表を眺めた青年は、一度唸ってから言葉を発する。

    『以前(※第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性参照)、小学校の教員は2−4(転生回数期が第二期の魂4:一般庶民)が多いとお聞きしましたが、この属性表を見る限り、まともな先生のようですね』

    「そうじゃな。教員の仕事には生徒指導も含まれていることから、仮に担任がゆたぼんを叩いたとしても、それは教育的指導に該当すると思われる。ゆえに、彼が不登校になったきっかけの出来事に関しても、自らの職責を全うした末の、ちょっとした行き過ぎの叱責といったあたりが実相なのじゃろう」

    『なるほど。ちなみに、ゆたぼんが中学校も不登校宣言したことを巡り、ゆたぼん vs YouTuberシバター、そして、彼の父親 vs ひろゆきという構造ができていましたが、各々、どのような魂の属性なのでしょうか?』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き連ねていく。

    ゆたぼんSS

    きよみんSS

    中村幸也SS

    シバターSS

    ひろゆきSS

    それぞれの属性表を眺めた後、青年は口を開く。

    『今回の登場人物を見ると、ゆたぼん家は頭2で、不登校反対派の二人は頭1という構造になっているのですね』

    そう言った後、青年は何かに気づいたのか、やや目を見開いてから再び口を開く。

    『そう言えば、ゆたぼん一家の属性表には、頭の1/2の欄外に枝番の“3”という数字がありますが、これは何を意味するのでしょうか?』

    「実は、頭1/2の特徴は、0 or 100のようにシンプルに二分化しているのではなく、欄外の枝番の数字が“1”に近いほど頭1/2の特徴が強く顕在化する傾向がある。例えば、“9”は例外/逆説という意味を持つ」

    『例外/逆説でしょうか』

    首を傾げながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「そう、例外/逆説じゃ。具体的に説明する前に、復習もかねてそなたの口から、頭1/2の特徴(※第18話:神社仏閣との相性参照)について、それぞれ説明してもらおうかの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、一つうなずいてから口を開く。

    頭1の人物は、“農耕/遊牧民族の末裔”であることから、世のため・人のためとなる行動を地で実行する傾向があります。一方、頭2の人物は、“狩猟民族の末裔”であることから、利益/個人的な目標のためには、他人を蹴落としてでも獲得するといった、自己中心的な特徴を持っていると記憶しています』

    「おおむね、そなたの説明通りじゃな。して、そうした頭1/2の特徴に対し、枝番“9”という逆説/例外という特徴が加わるとどうなるかと言うと、頭1―9の人物が口ではYesと言いつつも、腹の中では別のことを考えている可能性があるのに対して、頭2−9の人物の場合は、こちらの意見/指示に対し、是は是、非は非といった態度をとる傾向が強い反面、いったん納得したらその通りに行動する可能性が極めて強い」

    『なるほど。その説明をお聞きする限り、ある意味、頭1−9の人物よりも、頭2−9の人物の方が付き合いやすいと言えるのかもしれませんね。そうは言っても、頭1/2だけではなく、その人物の枝番や他の特徴まで把握し、付き合い方を吟味する必要があるとは思いますが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「そのような観点から、ゆたぼんと彼の両親を見ると、3人とも頭2−3であることから、頭2の特徴が顕著に現れる傾向が強い、と言うことができよう」

    『確かに、親切心で忠告してくれたシバターへの反論の内容や、小学校の卒業証書を破くなどのゆたぼんの言動を見る限り、自己中心的という頭2の特徴が色濃く出ているように思います』

    「そなたの言う通りじゃな」

    青年の言葉に相槌を打つ陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『そして、頭1であるシバターとひろゆきが、他人であるゆたぼんに対し、不登校を選択することによって、彼が後々に被るだろうデメリットを視野に入れて反論していることは、世のため・人のためという頭1らしさが現れていると思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「たしかに、このような両者の発言をみているだけでも、頭の1/2の差は歴然じゃ。それと、もう一つ付言しておくと、実社会においては、個人事業主・非上場企業の経営者・従業員、地方公務員には頭2の人物が多い。一方、国家公務員、上場企業の経営者/出世コースに乗った社員などには、頭1の人物が圧倒的に多いという傾向にある」

    『そのような傾向も頭の1/2にはあるのですね。そう言えば、ゆたぼんの基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字は共に“7”、すなわち社会生活を送るのに最も適した資質を持っていることを考えても、変に片意地を張らずに、ある程度社会の常識に則った生き方をした方がいいように思うのですが』

    「そなたの見解にも一理あると思うが、ワシが見る限り、残念ながら、彼はこのまま不登校を貫く可能性が高いのじゃろうな」

    『やはり、そうなるのですか…』

    そう言い、視線を落とす青年に微笑みかけながら、陰陽師は問いかける。

    「話を戻すが、ゆたぼんの不登校を巡り、いったいどのような応酬があったのじゃ?」

    『まずはゆたぼんとシバターのやり取りについてですが、シバターは動画の中で、“小中高でできた友達は、一生の友達になる可能性を秘めている”と彼に語りかけています』

    「なるほど」

    『これに対し、ゆたぼんは、シバターの意見を“古い考え”と斬り捨て、“今の時代、ネットでも友達はできる”と反論しています。そんなゆたぼんの動画に対し、シバターは“そんなに言うならもういいよ。君は学校に行かなくていい。ただ、後で学校行っておけば良かったって後悔するなよ”と答えています』

    「どちらの主張にも一理あるようじゃが、結局は平行線に終わったわけじゃな」

    そんな陰陽師の言葉に、青年が大きく首肯するのを見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「今度はゆたぼんの父親とひろゆきの応酬について、教えてもらえるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は一つうなずいてから、スマートフォンの画面を見ながら読み上げる。

    『ひろゆきは、“登校が嫌なら通信制の中学校で教育を受けることも可能。子供に教育を受けさせる義務を放棄している親には、罰則が必要だと思います。子供は被害者なので責めるべきではないです。“と、ゆたぼんではなく、彼の父親を批判しています』

    「なるほど」

    『それに対するゆたぼんの父親の主張ですが、“子どもが学校に行かないからと言って親は教育を受けさせる義務を放棄しているわけではない。それに通信制じゃなく家庭内で教育を受けさせることはできるし、そもそも我が家はホームスクーリングだってずっと言ってるしな“と』

    そこまで言った青年は、一度、陰陽師が黙って耳を傾けていることを確認し、言葉を続ける。

    『ひろゆきはさらに、“通学する中学生は一日5時間の授業を各科目で教員試験を通った大卒の教師が教えます。あなたの家庭では学校の代わりにどういった資格を持つ方が何人で1日何時間の教育をされているのですか? 中学校と同等の教育なら問題ないです。”と返信しています。ちなみに、世間ではひろゆきの意見の方が多く支持されているようです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「そもそも義務教育とは、憲法26条、国民の三大義務である、“勤労の義務”、“納税の義務”、“教育の義務”の一つに含まれているわけじゃが、この法律のポイントは、子に教育を受ける義務があるのではなく、親が“子供に教育を受けさせる義務”があることから、ひろゆきが言うように、この法律が子供ではなく親を対象にしている点が肝要じゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は何度も頷いてから、口を開く。

    『そうなのですよね。弁護士の藤吉修崇さんが、学校に通わせないことは、親として学校教育法に違反するとして“ゆたぼんの親も逮捕される可能性がある”と指摘していることから考えても、父親は逮捕されないためにも、せめてゆたぼんに通信制の中学校に通わせることが望ましいと思うのですが』

    「彼の場合、世間の常識から逸脱した生き方になんらかの価値観を見出していると思われることから、通信制であっても登校する可能性は、ほぼないじゃろうの」

    陰陽師の言葉を聞き、しばらく腕を組んで黙考していた青年が、やがて口を開く。

    『ゆたぼんが不登校を貫いたと仮定すると、今後の彼は、どのような人生となるのでしょうか』

    「そなたは、どのような進路があると考える?」

    『一つ目は、このままYouTuberとして活躍して生計を立てていくことだと思っていましたが、先ほどの属性表を見て、難しいと感じました』

    「というと」

    陰陽師は軽くあいづちを打ち、青年に続きを促す。
    それを察した青年は、スマートフォンを操作し、画面を見ながら言葉を続ける。

    『ゆたぼんと討論したシバターのYouTubeのチャンネル登録者数は、121万人ですが、ゆたぼんのチャンネル登録者数は12.8万人、つまり、シバターの約10%しかいません。2−3−5−5…2を持つシバターがあれだけのチャンネル登録者数を持っていることはある意味当然だとしても、ゆたぼんの魂の属性を見る限り、今後、シバターほどの数字を得るのは難しいのではないでしょうか』

    「そなたの言う通りじゃろうな。2−3−5−5…2を持つ人物は、そもそもプロのスポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できる才能を持っていることから、テレビからYouTubeへと媒体が変わったとしても、本人の持ち味を発揮できることは想像に難くない」

    陰陽師の言葉を聞き、大きく頷く青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「ところが、YouTubeは配信する環境さえ整っていれば、どのような魂の属性の人物であっても、容易に参加できるという特徴を持っている」

    『つまり、ゆたぼんのような“2−3−5−5…2”を持たない人物がYouTuberとして人気が出たとしても、芸能界から声がかかるとは限らないのでしょうし、逆にテレビ番組にレギュラー出演でもしようものなら、排除命令によって芸能界から姿を消すだけじゃなく、当人にとんでもない災難が降りかかる可能性が高いと(※第23話:この世のルールと芸能界参照)

    「さらに言えば、2−3−5−5…2を持つ人気YouTuberじゃからと言って、上下関係が厳しい芸能界の掟や暗黙のルールを破り、大御所から目をつけられでもしたら、たちまち業界から干されてしまうじゃろうしな」

    『話が脱線してしまいますが、YouTuberから芸能界入りした、ラッパーのワタナベマホトとお笑いタレントの不破遥香の魂の属性が気になるのですが』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は紙に二人の鑑定結果を書き記していく。

    ワタナベマホトSS

    画像8

    二人の属性表に目を通した青年は、やや目を見開いて口を開く。

    『ワタナベマホトは女子高生に猥褻画像を要求していたことが発覚し、児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されましたが、彼は2−3−5−5…2を持たない人物ですので、排除命令に抵触したようですね』

    「どうやらそのようじゃな」

    『不破遥香ことフワちゃんですが、芸能事務所に悪態をつき、重役の去り際に見えないように後ろ姿に向かって中指を立てていたら、その姿がガラスに映っていたためにバレてしまい、事務所を解雇されたようです。ただ、現在は無所属で活動しているようですので、芸能界から排除されたわけではなさそうです』

    「彼女は2−3−5−5…2を持つ人物であることから、そのあたりの一件は人運“7”と“14;人的トラブル”の相が原因なのじゃろうな」

    『なるほど。属性表を見る限り、フワちゃんは言うまでもなく、ワタナベマホトの転生回数は“大々山”である190回代であることから、二人がYouTuberから芸能界に入れたことに納得できますが、ゆたぼんの魂の属性はもちろん、今の彼を見ている限りでは、彼が芸能界に適応できるとは思えず、YouTuberから芸能界へ栄転する道は厳しいでしょうね』

    「そなたの言う通りじゃろうな。ゆたぼんの発信は、現在不登校気味の学生や過去に不登校を体験した人物には響くかもしれないが、彼がこのまま大人になったとしたら、単なる無学歴の成人ということになるわけじゃが、いざそうなった時に、世間に響くメッセージ性を持っているかはかなり疑わしいじゃろうな」

    『そうなのですよね。一言で不登校と言っても、不登校に至るまでに様々な背景があると思います。不登校の理由としては、その多くがイジメを発端にしていると感じますが、ゆたぼんの場合は“教師の嘘”がきっかけなので、同じ理由で不登校になった人は少ないのではないかと思われます』

    「それ以上に、彼が本当の意味で不登校の人々の心に寄り添えているのかどうかも、疑問じゃしのう」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は腕を組み、しばらく唸ってから再び口を開く。

    『今の路線のままYouTuberとして活躍する可能性が低いゆたぼんにとっての、もう一つの進路についてですが、キメラゴンという、中学三年から不登校になったものの、中学生の間に月収700万円を稼ぎ、現在は通信制の高校に通いながら会社を経営し、月収1,000万円を稼いでいる学生もいます。ゆたぼんは彼のように情報商材を販売するビジネスに転向して成功する可能性はあるのでしょうか』

    「その問いに答える前に、一度キメラゴンについてみてみよう。少し待ちなさい」
    そう言い、陰陽師は鑑定結果を書き記していく。

    キメラゴンSS

    ゆたぼんSS

    キメラゴンとゆたぼんの属性表を交互に眺めた後、青年は口を開く。

    『頭の1/2と魂の属性3:霊媒体質と魂の属性7:唯物論者が違う点を除けば、転生回数が“小山”に該当する、十の位が40回代で、しかも第三期である140回代であることと、魂の種類“3:武士”であることなど、ゆたぼんと魂の特徴は似ているようですが』

    「仮に魂の属性が似ているとしても、人生経験が浅い小学生、中学生が長期的な視点に立って人生の選択肢を選ぶことは難しい。そこで両親が子供を導く役割を担うわけじゃが、キメラゴンの両親はどのような人物かわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、該当する画面を見ながら口を開く。

    『彼の父親は自社革皮ブランド会社の経営を始め、不動産や飲食業も手掛けており、キメラゴンが小学5年生の時にブログを教え、彼が中学2年生の頃にネットビジネスを始めた際、20万円相当のPCを買い与えたそうです。また、母親は、無添加・無農薬の食材を通信販売しているようで、両親共にビジネスに明るく、常識人という印象を受けます』

    「どうやらそのようじゃな。彼が既に社会的な実績を上げていることは、彼の両親の教育の賜物と言うことができよう。ちなみに、ゆたぼんの教育に関し、父母のどちらが主導権を握っているかはわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、しばらくしてから口を開く。

    “今日、長女以外の家族六人で、大阪から沖縄に引っ越して来ました!
    最初は長女も行くと言っていたのですが、四月になって急に行かないと言い出し、自立すると言って先月家を出ました。
    それまでは長女をメインにして計画を練り、兄妹も凄く頑張ってきたのですが、長女が途中で投げ出した為、すべての計画を白紙に戻す事に・・・。
    予定していたクラウドファンディングも中止し、再度、長女以外の家族六人で一から計画を練り直しました。“

    『とあり、ゆたぼんは父親の計画における、長女の代役になったと考えられますし、不登校を巡る議論においても、基本的に父親が発言していることから、父親だと思われます』

    青年の言葉に陰陽師は一つうなずいてみせ、口を開く。

    「なるほど。“魂3:武士”であるゆたぼんが、大局的見地に欠けた2−4である父親の影響を受けていることは、“不可思議”の領域からみても、この世の基準から考えてみても、ちと問題があるかも知れんの」

    『ゆたぼんに対し、父親の言いなりになっているのではないかといった言葉もあるようですが、彼はそのことを否定し、自らの意志で不登校になっていると断言しています。そして、不登校を続けた結果、将来どんなことが起きても彼は自分で責任を取ると言っています』

    「なるほど」

    『彼は動画の中でも、その時に自分がやりたいことをやり、YouTuberも飽きたらやめると公言しています。彼がYouTuberとして大成しないとしても、継続的にチャンネル登録者数を増やすことで、自身の知名度を活かして情報商材を販売してみたり、流行りのビジネスを転々として収入を得たりして、生きていけるのではないかと思いますが』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かしてから、口を開く。

    「そのような方向性を意識して活動を続けたとしても、ワシが見る限り、難しいじゃろうな。もって5年というところじゃろうか」

    『そんなに早く消えてしまうのですか…。そうなりますと、ゆたぼんに残された道は、飛び級などで義務教育のレールとは別のルートから社会に出ることしかないと思いますが、いかがでしょうか?』

    「たしかに海外では飛び級制度があるが、我が国では導入されておらぬし、仮に我が国に飛び級制度があったとしても、その制度を利用できるのは、理系か文系の才能が突出している生徒となる」

    『つまり、ネットで見る限り、宿題が終わらずに放課後に残されて泣きながらやっていたゆたぼんの才能では、飛び級制度を利用するのは難しそうですね』

    「それにじゃ、飛び級制度を利用できる生徒たちは、若くして大学を卒業した後か在学中に、本来なら多くの生徒が中学・高校で体験するであろう体験を、補完できる能力を持っていることが前提となる

    『なるほど。つまるところ、ゆたぼんの人生は前途多難な方向に向かっているのですね。ところで』

    「なんじゃな」

    『コロナ禍でオンライン授業の導入も進んでいくでしょうし、それに伴って我が国でも飛び級制度が導入されるようになれば、義務教育の存在意義が問われていくように感じますが、先生の見解としては、義務教育にどのような意味があるとお考えでしょうか』

    「まず、義務教育を軽視すべきでない理由として、全員が全員ではないものの、義務教育をドロップアウトした多くの人物が、人間性や社会性といった中身が伴っていないことが挙げられる。特に、小学校には人間教育の場という意味でも重要であるため、過度ないじめにあったり心身を病んでまで登校する必要はないが、できるだけ登校する方が望ましいとワシは思う」

    『僕もそう思います』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『こちらは、国際大グローバル・コミュニケーションセンター准教授の山口真一さんの意見なのですが、

    “情報発信の教育や啓発はもちろん大事ですが、私は「受信の教育・啓発」も重要だと思っています。すべて防げるわけではありませんが、「自分の見ている情報は偏っているのかもしれない」という恐れがあることを知っておくだけで意識が変わります。

    ディスカッションの授業を増やした方がいいと考えています。批判するとしても、「相手を尊重したうえで」批判し、人格攻撃をしない。

    これは批判される側の意識も大切です。批判がすべて自分への攻撃だと思ってしまう人は、これまで議論の練習をしてきていないのだと思います。「攻撃と批判は違う」と考える訓練をしていくことに効果があるのではないでしょうか。“

    とあり、バックグラウンドが近い、同年代の友達とディスカッションをする機会は学生時代にしかなさそうですので、そう言った意味でも義務教育は重要なのだと思います』

    「そうじゃな。今度は“不可思議”な領域からみた理由を挙げるとすれば、“あの世”では各々別領域にいる1〜4の魂が、“この世”で共存することによって生まれる様々な“軋轢”こそが“修行”の一助となっているのじゃが、そうした意味からも、学校に登校することで、魂の種類が異なる同級生と交流することは、魂磨きのためにも重要だとワシは思う」

    『なるほど』

    「とは言え、大多数の魂1〜3の人が、在学中も卒業後も、魂4とプライベートな関係を持っていないことから、インターネットを通じて友達を作れるという、ゆたぼんの主張にも一理あり、特に、母数が少ない魂1〜3の人物は、同級生以外にも広く交友関係を持つことも重要だとワシは思う」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んでしばらく黙考してから口を開く。

    『つまり、学校では魂の種類が異なる同級生と交流することで、人間の多様性を学びつつ魂磨きの修行に励み、それと同時に、母数が少ない魂1〜3の人物は、インターネットを用いて学校外にいる今世の宿題を果たすのに適した人物と繋がり、彼ら/彼女らとの交流を増やし、深めるという二本柱の人間関係を構築することが重要なのでしょうか?』

    「まあ、そんな感じじゃ。“出会いは必然”であることから、学校で同じクラスメイトになることは各々にとって必然であるし、インターネットを通じて得る出会いもまた必然じゃ。“袖触れ合うも多少の縁”ではないが、ITが発達した現代においては、インターネットでふと目にした言葉で人生が変わることもあるじゃろうし、実際に顔が見えないとは言え、一言二言メッセージをやりとりすることも、広義の意味では出会いと言えるじゃろうし、そして、それもまた必然と言えよう。ゆえに、現実とインターネット上を問わず、あらゆる出会いを大切にすることが肝要じゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自らの学生時代を振り返っていた。
    同じクラスだけでは友達の数は限りがあったが、他のクラスに顔を出せば、また新たな友達の輪が広がっていた。SNSやインターネットが持つメリットを活かして、場所に囚われずに友人を作ることは大事だと思うし、年齢を問わず様々な考え方や価値観に触れ、意見を交換することも重要だと感じた。

    今後も自分と異なる魂の種類の人物と接する機会は増えていくだろうが、同じ“魂3:武士”の人物を中心に関わるのではなく、他の魂の種類の人々とも積極的に交流し、魂を磨いていこう。

    そう、青年は決意したのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題

    新千夜一夜物語 第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題

    青年は思議していた。

    福岡5歳児餓死事件についてである。
    この事件は、半年以上に渡り、実母がママ友の言いなりになって三男に食事を与えないようにし続けた結果、彼が餓死してしまったものである。そして、彼を餓死させてしまった実母とママ友は、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。

    わずか5歳の男児が命を落とすことはとても胸が痛む事件であるが、それ以前に、彼の実母がまるで洗脳されたかのようにママ友の言いなりになっていたことは、青年には尋常ではないように感じられた。ひょっとしたら、何らかの霊障が関係しているのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は“福岡5歳児餓死事件”について教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ。ちょっと前に、マスコミを騒がせた例の事件じゃな」

    「はい、その件ですが、一応事件の経緯をご説明しておきます」

    青年はスマートフォンで内容を確認しつつ、陰陽師に事件の経緯を話した。

    『実母は三男が低栄養状態で動かなくなっても、ママ友の言いつけを守り、彼に食事を与えなかったようです。また、救急車を呼ぶ事態になっても、自らの意志で呼べず、ママ友の指示を仰ごうとしていたことは、尋常ではないと感じました』

    「たしかに、この事件は、通常の殺人事件とはまた毛色が違う事件のようじゃな。して、その三人の情報はわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、それぞれの名前や年齢を口にする。
    陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、紙に鑑定結果を書き記していく。

    赤堀恵美子SS

    碇翔士郎SS

    碇利恵SS

    それぞれの属性表を一通り眺めた後、青年は口を開く。

    『属性表を見る限り、しつけと称して食事を抜かれ、虐待を受けることは翔士郎くんの今世の宿題の一環であったのかもしれないとしても、今回のこの痛ましい事件は、赤堀容疑者にかかっている血脈の霊障の“5:一般・事件・加害者・死”の相が大きく作用したために、結果、死に至ってしまったと理解すべきなのでしょうか?』

    「うむ。もちろん、ここまでの事態になるためにはほかにも様々な事情が複雑に絡み合っているのであろうが、各人の属性を見る限り、そのように考えるのが実相に一番近いかもしれんな」

    そう言い、一つ頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「その証左として、三人が揃って“魂の属性7:唯物論者”であることが挙げられよう。以前(※第40話参照)にも説明したと思うが、魂の属性7の人物の場合、霊脈の先祖霊の霊障がない分、“魂の属性3:霊媒体質”の人物に比べ、血脈の先祖霊の霊障が色濃く顕在化する傾向が強い。また、霊脈先祖の霊障が今世の宿題に対してアゲインスト/逆接な“重し”、つまり、人生の方向性が今世の宿題と逆方向に働くのに対し、血脈先祖の霊障は、今世の宿題をさらに重篤化させるという機能を持つ

    『なるほど。霊脈先祖と血脈先祖の霊障とで、今世の宿題に対して顕在化する方向性が異なるケースがあり得るわけなのですね。そうしますと、“魂の属性3:霊媒体質”の人物には霊脈先祖と血脈先祖の霊障が両方かかっていることが多いので、彼らの場合は、今世の宿題に対し、霊障の影響が、かなり複雑なものになることも考えられるわけですね』

    「その通りじゃ。して、今回のケースは、登場人物の全員が魂の属性7:唯物論者であることから、後者の典型例ということになる」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に大きく頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『翔士郎くんが重度の低栄養状態になっていた時に、赤堀容疑者が彼の様子を何度か確認しに来ていたようですが、その際、“暖かいからまだ大丈夫”などと考えずに、その時点で彼女が救急車を呼んでいれば、翔士郎くんは餓死せずに済んだわけですね』

    「簡単に言うと、そういうことになるのじゃろうな」

    苦々しい表情を浮かべる青年に対し、陰陽師は励ますように声をかける。

    「もう一つ、三人の共通点として、全員の欄外の枝番が“7”と“9”であるというところに注目する必要がある。つまり、彼らを今世の宿題を果たすために一堂に会した舞台俳優と考えると、彼らは出逢うべくして出逢ったと言うこともできることになる」

    『たしかに』

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び三人の属性表に目を通し、口を開く。

    『今回のような事件が起きるためには、虐待をする役割の人間と虐待を受ける役割の人間が必要なのでしょうし、“性悪説”的な気質を持つ“7”と“9”という枝番を持つ人間が一堂に会したことは、“出逢いは必然”という法則を体現しているのだと思います』

    青年の言葉に対し、黙ってうなずく陰陽師を見やり、青年は発言を続ける。

    『ところで、翔士郎くんには血脈の霊障にも天命運にも“5:事件・被害者・死”の相がないようですが、彼は無事にあの世に帰還しているのでしょうか』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師は鑑定を終え、口を開く。

    「うむ、間違いなく、無事あの世に戻っておるようじゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年が、口を開く。

    『それを踏まえてお聞きしたいのですが、どうして彼は無事あの世に戻ることができたのでしょう。血脈の霊障が、特に魂の属性7の人間には順接方向、つまり、今世の宿題が重篤化して働くのだとすると、赤堀容疑者が血脈先祖の霊障を持っていなければ、翔士郎くんはもっと長く生きられたのではないでしょうか

    「中々いい質問じゃが、そのあたりの話は、思議の世界のみならず不可思議の世界の理屈が含まれておるゆえ論理的な説明は難しい、と同時に、仮説としての回答も複数考えられる。じゃが、今回彼が地縛霊化しなかった理由の最たるものは、一種の“相殺勘定”が起きたためと考えるのが実相に一番適しておるのじゃろうな」

    『“相殺勘定”でしょうか』

    訝し気にそう訊ね返す青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「仮に彼の今までの生活が今世の宿題の一環だったとしても、今回赤堀容疑者が碇家に介入したことで、彼女の持つ血脈の霊障の“重し”が、翔士郎くんの宿題をより過酷なものにしてしまったことは間違いない。よって、今回の一件は、彼がこれから遭遇するであろう先々の宿題との間で、“相殺勘定”が起きるほどのインパクトを持っていたわけじゃな』

    『つまり、彼は、今回の一件で想定外の過酷な宿題をこなしたため、後の宿題を免除されたわけですね。言い換えれば、彼の本来の寿命が仮に80歳だったとすると、本来なら残りの75年をかけてこなすはずだった今世の宿題を、この一件でわずか半年の期間に凝縮してこなしてしまったと』

    「結論から言うと、そう言うことになる」

    そう答える陰陽師の言葉に大きく頷いた後で、青年は言葉を続ける。

    『ところで、今回の事件に関し、もう一つ気になっていることがあるのですが』

    「と言うと?」

    『赤堀容疑者個人のことです。彼女は、今回の事件以外にも、過去に金銭トラブルを度々起こし、身近な人々から相当なバッシングを受けてきたようなのですが、お聞きしたいのは、それらのトラブルも彼女の今世の宿題の一環なのかということです』

    「具体的に、どういった金銭トラブルなのかな?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、読み上げる。

    『赤堀容疑者は、学生時代から虚言癖があり、最近になっても虚言癖のクレーマーとの理由で、周囲から嫌われていたようです。また、結婚に際し、元旦那から結婚式の費用を受け取っておきながらそれを式場に渡さなかったり、彼の名義で数百万円の借金をした上に、彼の銀行のキャッシュカードを持ったまま蒸発し、結果、離婚となったようです』

    陰陽師が黙って耳を傾けているのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『また、碇さんに近づく際は、偽名を使ったり年齢を10歳近く偽っていたようです。そして、SNSの偽アカウントを作って旦那さんが浮気をしているように嘘情報を流し、浮気調査名目で現金や預金通帳を騙し取っていたこともわかっています。しかも、翔士郎くんの葬儀代は創価学会から出されたという理屈を使って、碇利恵さんが受け取った香典を、創価学会に渡したと嘘を言い、着服していたとも言われています』

    「確か、創価学会では香典を持っていかない決まりがあったと記憶しておるが」

    『はい。僕も学会員の知人からそう聞きました』

    ぽつりと言った陰陽師の言葉に対し、青年は一つ頷いた後で、声を少し震わせながら言葉を続ける。

    『赤堀容疑者の所業は、それだけにとどまらず、碇家の月20万円の生活保護費を合計1200万円ほど搾取していたようです』

    「ほう、生活保護費までも、とな」

    「それだけではありません。碇家の4人が赤堀容疑者から与えられたわずかな食料を分け合わざるをえない事態に追い込まれていたにもかかわらず、赤堀容疑者自身は自らの3人の子供たちには水泳やバレエをやらせたり、綺麗な服を着せていたとの情報もあります』

    「赤堀恵美子の人運が9点満点中7点、仁が50点、陰陽五行に火の気質を持つことも考え合わせると、それらの所業も、たとえ彼女に血脈先祖の霊障の“14:人的トラブル”の相があったとしても、彼女の今世の宿題の一環なのじゃろう」

    『今のお話に関連して一つ気になったのですが、赤堀容疑者の現在の夫は宗教家のようなのですが、碇利恵さんが洗脳されたような状態になったことと、何か関係があるのでしょうか?』

    青年の問いを聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かした後、鑑定結果を紙に書き足していく。

    赤堀恵美子・夫SS

    青年が属性表を見終える頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「魂の属性7:唯物論者である人物が宗教家を名乗ることに対しては、今さら特筆せぬが、どうやら、彼が赤堀容疑者に何らかの入れ知恵をした可能性はあるとしても、今回の事件には直接関係ないようじゃ」

    『なるほど。それと、もう一つ思い出したのですが、創価学会員である赤堀容疑者は、碇さんも創価学会に入信させたようです。ひょっとして、碇さんを洗脳するにあたり、学会での上下関係も利用した可能性も考えられますが、二人が創価学会に入信することは、各々の今世の宿題の一環なのでしょうか?』

    青年に問われた陰陽師は、指をかすかに動かしてから口を開く。

    「いや。赤堀容疑者の夫同様、碇さんの洗脳に関しては、創価学会も無関係なようじゃ」

    『わかりました。ところで、碇さんの元夫は、赤堀容疑者のせいで人生が台無しになったと言っていたようです。実際、碇利恵さんの場合、恋愛運が“3”と極端に低く、異性とのトラブルで悩むこと/トラブルを起こすことが今世の宿題の一環であることを考え合わせると、赤堀容疑者の嘘に惑わされたことを捨象したとしても、碇家の離婚は起こるべくして起こったのでしょうか?』

    「二人の結婚の相性をみてみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師は指をかすかに動かした後、結果を紙に書き記した。

    碇利恵さんからみて/利恵さんの元夫からみて   B/B

    『お互いにとってS(90点〜94点)以上の結婚が推奨(※第43話参照)とのことでしたが、お互いにとって“B”(60〜70点)ということは、今世の宿題を果たすパートナーとしては適していなかったと』

    「双方にとって適しているとは言えない相性にも関わらず、二人が結婚にまで至ったのは、彼女の恋愛運の点数と血脈の霊障の合わせ技と思われる」

    『と言うことは、“数奇な人生”を辿りやすい130回代の今世の碇利恵さんにとって、元夫と添い遂げることよりも、今回の事件に関わることの方が、優先されてしまったという事象も納得できます』

    そう言い、何度もうなずく青年に対し、陰陽師が言葉をかける。

    「そなたの見解に一つ付言しておくと、属性表には特に記載してはおらぬが、利恵さんの場合、同じ30回代の中でも、今世が33回目にあたることから、数奇な人生を歩む確率がさらに高かったという見方もできるわけじゃ」

    『なるほど。下一桁の数字によって、宿題の傾向が変化することもあるわけですね』

    新情報を知って興奮気味になった青年を片手で制し、陰陽師は説明を続ける。

    「何度も同じ話をするが、“この世”が魂磨きの修行の場である以上、虐待を受けると知りながら、利恵さんの三男として翔士郎くんが生まれてきたことは、この世の道理なのじゃよ

    陰陽師の言葉を聞き、青年はしばらく黙考していたが、やがて口を開く。

    『つまり、幼いうちに父親と離別し、今度は母親とも引き離されることも承知の上で、この世の宿題を果たすにあたり最適な環境を与えてくれる利恵さんを母親として選び、長男と次男が生まれてきたことも、同じ道理なのでしょうか?』

    青年の問いに対し、黙ってうなずく陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『なるほど、それを聞いて安心しました。世間の常識からすれば、実の子を餓死させることは言語道断な行いなのでしょうが、“不可思議の世界”の基準でみれば、利恵さんは彼らにとって最適な母親だと考えられなくもないのですね』

    “子供は親を選べない”のではなく、“親を選ぶのは子供の方”という“不可思議”の世界の理屈からすれば、今回のような理不尽な出来事にもそれなりの意味があるということになるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自分の家族のことを振り返っていた。

    家庭における母親の役割はとても大きい。霊障がかかっていた過去の自分は、よく母親に対して悪態を吐いたり悲しませるようなこともしていた。
    無用な重しが解消された今となっては、自分は母親を選んで産まれてきたことに納得でき、母親は母親なりに自分を育てるために最善を尽くしていたように感じられるようになった。
    親子は互いの今世の宿題を果たすために必要不可欠な存在であり、無用な重しによって疎遠になっている親子が向き合えるよう、今世の宿題の話や先祖霊の奉納救霊祀りのことを伝えていこう。

    そう青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第43話:秋篠宮眞子内親王とご結婚

    新千夜一夜物語 第43話:秋篠宮眞子内親王とご結婚

    青年は思議していた。

    秋篠宮眞子内親王の結婚が物議を醸している件についてである。皇族の結婚は慶事であるはずが、国民から批判の声が多く上がっているように、青年には感じられた。
    その理由は、婚約者である小室圭さんの母親である、小室佳代さんが元婚約者との金銭トラブルを起こしていることと、そもそもそのような問題を起こす性格の人物の息子であることが原因のようだ。
    天皇家と縁を持つ親族に、金銭トラブルを抱える/そもそも起こす人物がいることに対し、国民は不安に感じることだろう。

    皇族に関して一個人として意見を述べるつもりは一切ないが、なぜここまで問題になっているのだろうか。
    小室佳代さんにかかっている、何らかの霊障が関係しているのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は小室佳代さんのことで教えていただきたいことがあり、お邪魔しました』

    「以前から色々と話題にあがっている件じゃな。して、具体的にどのようなことを知りたいのかな?」

    青年は、小室佳代さんの金銭スキャンダルや、彼女の夫と、その家族たちの身に起きたことを、簡潔に説明した。

    『今回の騒動は、婚約している当事者ではなく、小室圭さんの母親である、小室佳代さんと彼女の元婚約者である竹田さん(仮名)との、過去の金銭のやり取りが問題となっているようです。この400万円以上もの大金について、小室家サイドでは贈与で、彼は貸与だったと主張しており、双方の認識がずれています』

    「我々庶民の結婚においても、婚約者の親族に金銭的なトラブルを抱えている人物がいるとわかったら、トラブルを解決してもらうか、それが難しいとしても、せめて納得のいく説明や対応を求めるのは、当然のことじゃからな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は一つ頷いてから口を開く。

    『しかし、この件に関し、小室家からの明確な回答がないことから、この結婚に不安を感じている人々が多いのではないかと思います』

    「なるほど。ちなみに、今回の結婚のトラブルの発端となったお金は、どういった経緯で生じたのかの?」

    陰陽師にそう問われ、青年は再びスマートフォンを操作し、該当するサイトを読み上げる。

    『元婚約者は、婚約していた当時、小室圭さんが通っていた大学の学費として400万円を渡したようですが、その後も佳代さんからの金銭の要求が激しかったため、婚約を破棄したようです。その後、今回の結婚の話が出たことから、返金してもらおうと思い返金交渉に着手したようですが、誓約書がなかったために返金は不可能だと知り、新聞記者に情報をリークしたようです』

    「なるほど」

    そう言い、陰陽師は鑑定を始め、紙に鑑定結果を書き足していく。

    小室佳代SS

    竹田(仮)SS

    2人の属性表を眺めた青年は、小さく唸り声を挙げてから言葉を発する。

    『小室佳代さんは全体運9点で金運が9点満点中8点、元婚約者は総合運8点で金運が8点ですが、2人の今世の課題に、今回の騒動のようなお金の問題を抱えることは、本来は含まれていないのでしょうか』

    「いや、今世の課題にお金の問題が含まれないのは、総合点が9点かつ金運が9点の場合のみじゃ。8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、総合点が1点下がる毎に、それ以下の項目は、総合点9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる」

    陰陽師の説明に青年は何度も頷いた後、口を開く。

    『なるほど。2人とも、お金の問題を抱えることは今世の課題に含まれているものの、今回の騒動にいたるまでの大きな問題に発展してしまったのは、“1:財運”の相による影響が大きいと』

    「その可能性が高いじゃろうな。また、金運について付言しておくと、ワシが言う金運とは、世間一般で定義されているような、収入や貯金と言った問題もなくはないが、そうではなく、入ってくるお金を自らの“宿題”に沿った使い方ができる運を持っているか否かということを意味している」

    『なるほど。小室佳代さんは、庶民からみれば贅沢な暮らしをしているように感じられますが、彼女のお金の使い方そのものが、1の相の影響によって、今世の課題に沿っていない可能性があると』

    「いつも諭しておるように、そのような一面的な考え方をしていかん。1の相はそんな単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと』

    「たとえば、じゃ。融資を受けようとした際に、通常なら融資を受ける条件が整っているのに融資を受けられず、自分が望む・理想とする“お金の入り方”がその希望通りにならないといったように、具体例を得げればキリはないが、いずれにしても、本来であれば起こりえないことが起こるのが、霊障の特徴なわけじゃ」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に戸惑いながらも、青年は言葉を続ける。

    『いずれにしても、霊障である限り、お金の入り口と出口の両方で、通常では考えられない邪魔が入るということなのですね』

    「さらに注意が必要なのは、たとえば、魂4と魂1〜3とでは、同じ修行をするにしても、そもそも修行のレベルが異なっている。それ故、収入や支出のスケールも当然異なってくるわけで、仮に、贅沢な暮らしをしているからとって、必ずしも今世の課題に沿った使い方をしていないとは限らないという問題もある」

    『なるほど』

    未だ納得のいかない表情を浮かべている青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、そなたの家庭では、お金はどのように使われていたか、覚えておるか?」

    陰陽師の問いに対し、青年は顎に手を当てて黙考した後、口を開く。

    『僕の両親は共に“魂3:武士”でしたが、食費などを倹約して、四人いる子供の学費のために貯金を優先してくれました』

    青年の答えに対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「たとえば、魂4、特に4−4の家庭では、教育や教養に類する支出が少なく、食費にかけるエンゲル係数の比率が一般的に高い傾向がある。つまり、同じ収入であっても、それを何に使うのかによって、金運の“質”が変わってくるわけじゃ」

    『なるほど』

    真剣な表情で頷く青年を見やり、陰陽師は次の質問を投げかけた。

    「さて、今度は、彼女の亡くなった夫の家族に起きた出来事について教えてもらおうかの」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『彼女の夫は焼身自殺し、その一週間後に義父が首吊り自殺をし、それからおよそ一年後、義母も自殺しているようです』

    「なるほど」

    あいづちを打つ陰陽師に対し、青年は言葉を続ける。

    『夫が亡くなった後、佳代さんは、70代の彫金師の男性と5年ほど交際していたようですが、彼も不審死したようです。このように、彼女と深く関わる人物が命を落としていることから、何らかの霊障が関係しているのではないかと思ったわけです』

    「合計4名もの人物が亡くなっているとすれば、何らかの霊障が関係している可能性は高いかもしれんな。どれ、さっそく鑑定してみよう」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    小室敏勝SS

    小室善吉SS

    小室敏勝の母SS

    彫刻家ASS

    他界した人物たちの属性表を眺めた青年は、深いため息を吐いてから、口を開く。

    『亡くなった方々全員に、先祖霊の霊障に“5:事故/事件・被害者・死亡”の相がかかっているので、亡くなってしまったことに納得ですが、地縛霊化している方はいるのでしょうか?』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    固唾を飲んで結果を待つ青年。
    少しした後、陰陽師は口を開く。

    「いや。全員、無事にあの世に戻っているようじゃな」

    安堵の息を漏らす青年を横目に、陰陽師は言葉を続ける。

    「元婚約者も含め、佳代さんと関わった人物全員が、人運と恋愛運が共に“7以下”であることから推察するに、上記の人々は彼女と関わって苦労することも同時に今世の宿題としていたようじゃな」

    『なるほど』

    苦々しい表情でそう言う青年に対し、陰陽師は微笑みながら続ける。

    「亡くなった人物たちを中心に考えると、“女性問題、特に夫婦関係、親族関係”で苦労するという宿題を抱えて転生してきたとすれば、それらの問題で苦労するのは決して悪いことではなく、むしろ自らの宿題を果たすにあたり、相応しい人間関係と環境を選んだと考えられるわけじゃ」

    『ただ、“薬も過ぎれば毒となる”ではありませんが、“5:事故/事件・被害者・死亡”の相があったために、彼女と関わった人物が命を落とし、“1:財運”の相があったために、元婚約者は400万円以上もの大金を失うほどの問題に発展してしまったと』

    「うむ。宿題による重石と霊障による“余分な重石”とは、分けて考える必要はあるものの、大筋としてはそうなる。自殺というと世間の人間はネガティヴに捉えるじゃろうし、実際、胸の痛む出来事ではあるが、“あの世”の視点でみれば、佳代さんと関わって命を落とした人物は、立派に今世の宿題を果たして帰還してきた魂ということになる』

    陰陽師はそう言い、何度も頷いている青年を横目に、湯呑みに注がれた茶をゆっくり飲み始める。
    しばらく無言で腕を組んでいた青年が、次の疑問を口にする。

    『それにしても、佳代さんと深く関わる人物は、なぜあんなに高額なお金を彼女に渡してしまったのでしょうか』

    青年の問いを聞いた陰陽師は、鑑定を行い、口を開く。

    「今も話したように、基本的には今世の宿題が大きな要因ではあるが、“余分な重石”の部分である霊障の影響としては、“14:人的トラブル”と“17:憑依”の相じゃな」

    『彼女は“魂3:武士”であるのに、めずらしく17の相が“天啓”ではなく“憑依”なのですね』

    やや目を見開きながら言う青年に対し、一つ頷いてから、陰陽師は言葉を続ける。

    「“17:憑依”の相には、本人に眷属(※第35話参照)や動物霊が憑依した結果、遠慮や躊躇がなくなったり、妙なパワーを得て人に対する圧力や過激な言動が増し、本来の実力以上の“感化”を他人に与える力がある」

    『なるほど』

    「そして、人運と(特に男性の)恋愛運の低さに加え、佳代さんとのパワーバランスとでもいうような、個別の相性を考慮する限り、彼女の提案を断れない関係だったと言うことができるじゃろうし、今世の宿題を含め、様々な霊障との合わせ技によってお金を渡してしまったと考えるべきなのじゃろうな」

    陰陽師の説明に青年は首肯した後、しばらくしてから口を開く。

    『現状、秋篠宮眞子内親王と小室圭さんの結婚がどのような結末になるかはわかりませんが、仮に成婚した場合、秋篠宮眞子内親王だけでなく、秋篠宮家にも何らかの問題を持ち込むことが懸念されますが、どうなのでしょうか』

    「どれ、鑑定してみよう」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き足していく。

    秋篠宮眞子内親王SS

    小室圭SS

    『秋篠宮眞子内親王は、人運と恋愛運が7以下と低いことから、今世は人間関係や異性問題で苦労することが今世の宿題のようですが、小室家の問題で苦労することも、その中に含まれているのでしょうね』

    青年の問いに対し、陰陽師は無言で鑑定を始め、やがて口を開く。

    「いや。あらためて、そのあたりをみるに、どうもそうではないようじゃな」

    『とおっしゃいますと』

    「つまり、宿題という観点からみる限り、今世の秋篠宮眞子内親王の宿題に、小室家と婚姻関係を結び、それによって苦労するという宿題は存在しない。ゆえに、今回の結婚が成立してしまい、その後トラブルに巻き込まれるとすれば、それは霊障のなせる技ということになる」

    『なるほど。霊障によって、ここまでの騒動になるとは。ほんと、霊障の影響は恐ろしいですね』

    そう言い、青年は腕を組んで黙考した後、やがて陰陽師に問うた。

    『ちなみに、お二人の恋愛と結婚の相性はいかがでしょうか?』

    青年の問いに、陰陽師は無言で鑑定を始め、紙に結果を書き足していく。

    秋篠宮眞子内親王からみて/小室圭からみて
    恋愛  D/F
    結婚  F/F

    アルファベットを見、青年は小さくため息を吐いてから言葉を発する。

    『S+が最高点であるのに対し、Fは0点、Dは1〜10点ですので、恋人関係であろうと婚姻関係であろうと、相性から判断しただけでも、お互いにとって魂磨きの修行にはならないわけですね』

    「もちろん、それはそうじゃが、ワシが言う恋愛や結婚の相性とは、単に社会的地位の向上や収入の安定、夫婦円満といった現世利益だけではなく、お互いにとっての魂磨きの修行が進むかどうかといった、霊的な問題も含んでいることをよく心に留めておくようにの」

    『なるほど。我々は魂磨きをするために、修行の場である“この世”に転生してきているわけですから、趣味や感性や考え方が合うからといった、思議の基準ではなく、今世の課題を達成するのに適しているかどうかという基準でパートナーを選ぶべきなのですね』

    「その通りじゃ。話を戻すが、秋篠宮眞子内親王には今世“結婚で苦労する”という相がないので、できることであれば、霊障によって引き起こされている、この結婚が破談になることを祈念するばかりじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は小室佳代さんにまつわる出来事を読み返していた。
    結婚によって、本人の意図とは無関係に、本人の親族はもちろん、パートナーやその親族にも影響を与えてしまうことがあるし、一度婚姻関係を結んだ場合、離婚したとしても、霊的な繋がりは切れないことが多いことも理解できた。
    恋愛で盛り上がっているカップルや既婚者たちには辛い話だろうが、結婚後のことも踏まえた大局的見地から、相性鑑定の重要さを説明していこう。
    そう青年は決意したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性

    新千夜一夜物語 第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性

    青年は思議していた。

    2020年9月、飛行機内で客室乗務員からマスクを着用するように指示を受けていたにも関わらず、頑なに拒否して航空機を臨時着陸させた男性についてである。

    ネットの情報から判断するに、彼は健康上など、なんらかの理由でマスクを着用できないようではなかった。彼のように、周囲の状況を顧みずに迷惑行動を取る人物は、いったいどのような魂の属性で、先祖霊の霊障にどのような相がかかっているのだろうか。

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はマスクの着用を巡って事件を起こした人物について教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ、いつもと毛色が異なる事件のようじゃが、具体的にどういったことを知りたいのかの?」

    青年は、マスクを拒否した男性が起こした事件の経緯と概要を、順を追って陰陽師に説明した。

    『順序としては、マスクを着用しなかった彼に対し、隣席の客が“気持ち悪い”と苦言を訴えたのが事の発端だったようです。コロナ禍である現状、飛行機内での密な空間の中、少し動けば袖が触れる距離にいる人物がマスクをしていなければ、なんらかの拒否反応を示すのは止むを得ないと思うのですが』

    「たしかに」

    小さく頷く陰陽師を横目で見ながら、青年は言葉を続ける。

    『その後、彼は客室乗務員に他の乗客が不適切な発言をしたとして謝罪させるように言い、その際に大声で詰め寄ったようです。眠っていた他の男性が目を覚ますほどの声量だったようですが、加害者は声量の感じ方は人それぞれであり、自分は紳士的な対応をしていたと主張しています』

    「ふむ、一般常識で考えると、必ずしも紳士的な対応とは言い難いがの」

    微笑みながらそう答える陰陽師に、ひとつ首肯してから青年は説明を続ける。

    『さらに、加害者は客室乗務員からのマスク着用のお願いを再三断り、今度は書面を出せと言っておきながら、機長指示で提出された書類を丸めて投げ捨て、それを客室乗務員が加害者の胸ポケットに入れようとしたところ、客室乗務員の腕をねじり上げて全治2週間の怪我を負わせました

    「なるほど。話を聞く限り、かなり気性が荒そうな人物のようじゃな」

    『彼の蛮行はそれだけにとどまらず、2020年11月にも、彼は某ホテルの食事会場で、ホテル側からのマスクと手袋の着用などの呼びかけを無視して入場し、その後、ホテルの支配人から端の席に移動するようにとの要請なども無視しました。さらに、板前も加わっての押し問答にまで発展し、現場が混乱して収拾がつかなくなったため、最終的にホテル側が110番通報しました』

    「なるほど」

    『さらに、翌朝も同ホテルの食事会場に現れ、ホテルの従業員の制止を無視してマスク未着用のまま強引に入場しようとし、再び警察沙汰になりました』

    「そのような人物であれば、他にも問題を起こしてそうじゃが、どうかな?」

    『2020年夏頃、皇居の東御苑を訪れた際も、マスク着用を拒否して入場したようです。ただ、皇居の警備員が同行するという条件付きで、マスク未着用のまま入館許可を得ていますが、これも問題行動ではないかと』

    「たしかに」

    青年の言葉に一つうなずいた後で、陰陽師が青年に問いかける。

    「しかし、そこまでして、なぜ、その人物はマスクの着用を拒否したのか、何か情報はないのかの?」

    『本人としては、小さい頃から喘息を患っていたと述べていますが、ネットで調べる限り、喘息患者はマスクをしない方がいいというわけでもないようですので、健康上の理由は建前のように感じます』

    「ふむ。健康上の理由ではないとすると、彼なりに何らかの意図や主張があったのかな?」

    『彼自身の主張としては、コロナ禍でマスクの着用の義務化が進む中、マスクをしない少数者が不利益を受けていると考えていたようで、マスクをしない自己決定を認めよう、とのことのようです』

    そう言い、青年は加害者の一つの主張を読み上げる。

    社会の中でも“妥協しない自由”も認めることが、同調圧力の少ない“楽しい”社会を作ります

    『感染すると死の恐れがあるコロナウイルスに対し、科学的にマスクの有効性が証明されていることを考慮すると、マスクをする方が良いと思いますが』

    「たしかにの。して、最終的に彼はどのような罪状で逮捕されたのかな?」

    『この騒動により、関西国際空港に向かう便が新潟空港に臨時着陸し、2時間ほど遅延しました。罪状としては、威力業務妨害、傷害、航空法違反などとなります。ちなみにですが、逮捕されて捜査車両に乗せられる時は、“不当な警察権力の介入が行われたことは遺憾に思っています”と叫んでいたようです。勾留中もマスクをすることはなく、捜査員も着用させることを諦めたそうです』

    「で、マスク着用の拒否に始まり、犯罪に発展するまでの行動を取った、彼の経歴は?」

    陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンの画面を見ながら口を開く。

    『名前は奥野淳也、34歳。彼は大阪のかなり裕福な地主の息子のようで、東京大学法学部出身で比較政治学を専攻。大学院に進むも博士課程では論文審査に合格できずに満期退学したようです。そして卒業後、明治学院大学非常勤職員(特別ティーチングアシスト)として論文の書き方の指導していたようですが、このアルバイトは時給2,000円で月収11万円程度だったようで、その収入を元に茨城県の家賃4万円代の団地に住んでいたようです』

    「我が国の最高峰とも言える東京大学を卒業し、博士過程にまで進むほどの学歴の持ち主のようじゃが、それだけの学歴を持ちながら、もっと経済的に豊かな職に就けなかったのかが気になるところじゃな」

    『おっしゃる通りです。高学歴であれば、就活でそれなりのアドバンテージがあったと思いますが』

    「そうじゃな。して、そなたの見立てでは、彼はどのような魂の属性だと考える?」

    『彼の言動は自己中心的に取れるため、頭が2の人物だと思います。そして、博士課程まで進んでいることから、“魂3:武士”で、仕事や経済面から判断するに、霊障に“2:仕事”の相がかかっているのではないかと』

    「なるほど。では、さっそく鑑定してみるとするかの」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    奥野淳也SS

    鑑定結果を眺めた青年は、小さく驚きの声を挙げる。

    『なんと、2−4ですらなく、4−4(転生回数期が第四期の魂4)でしたか。確認ですが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂4は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強く、それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなるということでしたよね』

    「基本的にそなたが指摘した通りじゃ。歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが典型的な4―4の行動となるが、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケ(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々の大多数が、あるいはまた、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員もそれに該当することは、先日説明した通りじゃ」

    陰陽師の説明を聞き、青年は一つ頷いた後、顎に手を当てながら口を開く。

    『なるほど。仮に4−4であっても、学業が90点(S)であれば東京大学に合格し、大学院にまで進めるのですね。まさに、転生回数が大山である70回代が為せる業なのですね』

    「以前に説明したように(※第39話参照)、魂4の中でも学業が突出するのは、転生回数期が第三期後半からとなるが、彼のように例外的に学業が異常に高い人物も、中にはいるというわけじゃな」

    『なるほど。ところで、彼にかかっている“5:一般・事件・加害者・怪我”の相と、航空機内の騒動で客室乗務員に軽傷を負わせたことになんらかの相関関係があるのでしょうか』

    「そなたの話を聞く限り、彼は航空機だけでなく、他の場所でも警察沙汰を起こしていることから、その可能性は高いと思う。さらに言えば、人運が3という低い値であること、霊脈と血脈と天命運の全てに“14:人的トラブル”の相が出ていること、そしてこの霊障5が合わさることによって、今回のような逮捕に至るまでの事件を引き起こした可能性は、たしかに、高いと思われる」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ頷いた後で、青年が口を開く。

    『つまり、そのあたりをもう一度整理すると、総合運が満点である9点で、霊障がない(神事をし、パフォーマンスが100%の状態)場合、各項目が8点以上であれば、今世、重大な苦労をする心配はない反面、7点以下の項目がある場合、それなりの苦労を覚悟する必要があるわけですね。さらに言えば、7点以下の項目で苦労することが今世の課題だと』

    「端的に言うと、そういうことじゃ」

    『彼の大学の同級生によると、“とにかく理屈っぽくて浮いた存在でした。“変人”って感じで。友達はほとんどいなかったのではないでしょうか“といった印象だったそうですが、この点も踏まえると、彼が人間関係でトラブルを起こしやすいことも納得です』

    そう言いながら小さく頷く青年に、陰陽師が問いかけた。

    「ちなみに、彼の家族はこの事件に関して、何かコメントをしておるのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、父親に関する情報を伝えた。

    『彼の父親は、彼が逮捕されたことに対し、“裏で大きな力が働いているのでは”とコメントしたり、ネット番組で息子と共演していることから、同じ魂4ではないかと思います』

    「なるほど。せっかくだから、彼の両親も鑑定してみるとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に両親の鑑定結果を書き足していく。

    奥野淳也の父SS

    奥野淳也の母SS

    二人の属性表を見た青年は、頷いてから口を開く。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字の多くが“3”で“性善説”論的な気質を持つことから、根は悪い人ではないようですが、一部に5があるあたりが、今回のような騒動を起こした息子を擁護する要因なのでしょうね』

    「それと、各所に14があること、また、総合運の中の人運が7であることも、そのあたりの言動に影響しておるのかもしれんな」

    『たしかに。本来であれば、偏狭ではあるものの正義感が強く、大衆の意見に感化されやすい魂4である人物がこのような言動をするというのは、正に、“人間は多面体”を地で行っていると言えるのでしょうね』

    「さらに言えば、 “魂4(逆)色眼鏡”によって結ばれた、魂の組み違い夫婦であることを考えると、父子の間では話が通じていたのかもしれぬが、頭が1で、しかも“魂3:武士”である母親からすると、二人と価値観が合わず、色々と苦労している可能性も否定できぬの」

    『僕もそう思います。参加意識の高い魂4の父親がメディアの前でコメントしたことはある意味当然として、母親からコメントが一切ないのは、あるいは、そのような事情があるのかもしれませんね』

    そのような青年の言葉に大きく頷いた後で、陰陽師が口を開く。

    「ところで、彼がマスクをしない理由として、小さい頃から喘息を患っていたからとあったようじゃが、そのことに関するコメントはあるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、該当する項目を読み上げる。

    『父親曰く、過去に一緒に生活していた時は、マスクをつけられないような症状はなかったとのことです。それだけではなく、彼は事件の後にマスクをして街中を歩いている姿を目撃されているようです』

    「つまり、彼がマスクをしないのは健康上の理由ではなく、個人的なこだわりである可能性が高いというわけじゃな」

    『どうやらそのようですね。彼は“法律上の規制がない以上、マスクを強制することはできない”という持論を展開していますが、マスクを巡る騒動の結果、今回のような事件を引き起こしたことには、首を傾げざるを得ません』

    「広義の意味で、マスクを着用しないことは法律上の規制にはならないという理屈を盾に持論を主張した結果、航空法や宿泊約款といった、民法に違反して逮捕されてしまったことは、たしかに、4−4らしい反応と言えるかもしれんのお」

    陰陽師の説明に対し、青年は頷いてから話題を変えた。

    『ところで、話が変わりますが、もう一人、マスクを巡る騒動で逮捕された男性がいます。49歳という年齢で今年(2021年)の大学共通テストを受けた人物なのですが、彼は、監督者に何度も注意されたにも関わらず、マスクで鼻を隠すことを最後まで拒否しました。その結果、監督者に試験会場から退場するように言われたものの、それすらも無視したため、他の受験生の方が別室に移動することになりました。試験が終わった後も、彼は試験会場のトイレに立てこもるといった問題行動を取り、最終的には、不退去容疑で現行犯逮捕されました』

    「つまり、マスクから鼻を出していたことが原因で、テストで失格になったわけじゃな?」

    『どうやら、そのようです。監督者は彼に6回も注意をし、しかも次に注意をしたら失格になることを明確に伝えたにもかかわらず、彼は注意を無視し続け、マスクの着用を改めなかったようです』

    「なるほど」

    『いずれにしましても、マスクの着用はきっかけに過ぎず、ルール違反が主な要因であることから、僕としても失格はやむを得ない措置だったと思います』

    「ちなみに、彼には健康上の理由などはなかったのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを再び操作し、しばらくしてから口を開く。

    『その点に関しては明確な情報は出ていないのですが、マスクを鼻まで着用できないまでの理由があるのなら、監督者に注意された際にその旨を伝えることができたはずだと思います』

    「たしかに」

    『それだけではありません。事前に配布されていた“受験上の注意”にも、次のように書かれていました』

    マスク(予備マスク含む。)を持参し、試験場内では常にマスクを正しく着用してください。(中略)。感覚過敏等によりマスクの着用が困難な場合は、”医師の診断書“を提出して受験上の配慮申請を行い、別室での受験を申請する必要があります。

    「と言うことは、この男性も、個人的な事情でマスクを拒否していた可能性が高いわけじゃな」

    『はい。自分の主張が認められず、いらいらしていたと容疑を認めていたことから、おそらく個人的な事情だと思います』

    陰陽師は青年の言葉に頷いてみせ、失格となった男性の鑑定結果を紙に書き記していく。

    共通テスト失格男SS

    属性表を見た青年は、少し驚いた表情を見せ、口を開く。

    『彼は“魂3:武士”だったのですね。ただ、頭が2で、欄外の枝番の数字は“7”であること、そして、先祖霊の霊障に“5:一般・事件・加害者”の相があることを鑑みるに、今回のような自己中心的な騒動を起こしたことも納得です』

    人運が“3”とかなり低いことも騒動を起こした要因の一つじゃろうし、転生回数の十の位が30回代の人物の場合、メディアで取り上げられるような事件を起こす可能性がどうしても高くなるようじゃな」

    陰陽師の言葉に首肯した後、青年はしばらく黙考してから口を開く。

    『また確認になりますが、この世で犯罪を犯したり迷惑行動を取る人物も、結局は、“永遠の世”の要請で生まれた魂であることには変わりがないわけですから、400回に及ぶ魂磨きの修行を終えれば、この世で真っ当な人生を歩んでいる人々の魂と同様に、“永遠の世”で何らかの職責を担うわけですよね』

    「その通りじゃ」

    青年の質問に大きく頷く陰陽師の様子を確認し、青年は言葉を続ける。

    『と言うことは、たとえこのような事件を起こしたとしても、彼らは彼らで今世の課題をこなしていることになるわけですから、それを以て彼らを安易に批判することは、あまり意味がないということになりますね』

    「その通りじゃ。いつも言うように、“罪を憎んで人を憎まず”ではないが、騒動を起こす人物を目の敵にしたり、悪意を向けるのではなく、それらの事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要であると同時に、“この世は修行の場”という言葉の意味を常に噛み締めることが重要じゃとワシは思う」

    『つまり、この世が“地上天国”ではない以上、たとえ自分の身に不幸な出来事が起きたとしても、それは今世の宿題であったと考えるべきなのですね』

    「もちろん、誰もが戦争や凶悪犯罪に巻き込まれたくないと願うわけじゃが、霊障がない状態でそのような厄災に巻き込まれた場合には、それも今世の宿題と思うくらいの覚悟が必要だとワシは思う」

    『そして、それこそが“不動心”だと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    SNSやウェブ上だけでなく、現実でも偏狭な正義感を振りかざして迷惑行動を起こす人物がいる。特にコロナ発生以来“**警察”と呼ばれる、過度な自警団的行為が多数報告されている。しかし、そんな彼らの行動にも、彼らなりの宿題が大きく絡んでいるのだ。
    とは言え、そこに霊障が絡むと、事態が思わぬ方向に進んでしまう可能性が出てくる。そのような意味で、これからも、霊障によって魂磨きの修行が阻害される人物が一人でも少なくなるよう、ご神事の提案だけは続ける必要があるはずだ。
    そう青年は思議したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    青年は思議していた。

    韓国史上最悪の大規模ネット性犯罪事件である、“n番部屋事件”についてである。
    この事件は、2018年後半から2020年3月までTelegram、Discordなどのメッセンジャーアプリ内で行われていた、大規模なデジタル性犯罪・性搾取事件である。

    この事件が発生した経緯として、加害者たちはモデルの仕事と称して高額アルバイトで女性をスカウトしておきながら、その実、女性に加害者が卑猥な画像を送らせては徐々にエスカレートした画像を要請していき、途中で断った女性に対しては、これまでの画像と彼女たりの個人情報を公開すると脅していた。
    それらの撮影物は8つのチャットルームで掲載されており、中には自傷行為、レイプ、グロテスクな物もあったようだ。

    この事件の被害者の数は70名で、その内16名が未成年で女子中学生が多かった模様。
    今回逮捕された20代の男性には懲役45年の刑が言い渡されるのみならず、警察は、26万人にも及ぶn番部屋の利用者に対しても、彼らを特定すべく動いているようだ。

    韓国は性犯罪が多い国として世界第4位に位置しているが、何らかの理由があるのだろうか?
    あるいは、魂の属性からみて、性犯罪者にはなんらかの傾向があるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は韓国の性犯罪事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「韓国の性犯罪事件についてとな。して、何を聞きたいのかな?」

    青年は陰陽師に“n番部屋事件”の概要と疑問に感じたことを、順を追って、陰陽師に話した。

    『いつも先生がおっしゃっているように、杓子定規に事件と魂の属性を結びつけようとは思っていませんが、性犯罪や韓国人と魂の属性について、何らかの因果関係があるのではないかと思いました』

    「そなたが聞きたいことはわかった。その質問に対する回答のベースに、韓国における魂の属性の人口分布について理解しておく必要がある」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『以前、韓国人は頭1と2の比率が1:9で、日本人の3:7に比べて頭2の人口比率が圧倒的に多いとお聞きしましたが、他に、魂の観点で韓国人の特徴はあるのでしょうか?』

    「強いて挙げるとすれば、“魂3:武士・武将”は2−3(転生回数期が第二期の魂3)と4−3(転生回数期が第4期の魂3)が多く、“魂4:一般庶民”は3−4(転生回数期が第三期の魂4)が多い」

    『なるほど。我が国における魂の属性の人口分布とは異なるようですね』

    「そうじゃ。ちょうど転生回数期の話が出たところで、魂の種類と転生回数期の特徴について、そなたが理解していることを、確認も兼ねて説明してもらおうかの」

    『承知しました。まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『次に、転生回数期の説明になりますが、今回は韓国人に多い、第三期と第四期について説明いたします。この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純で、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強いです。そのため、どうしても、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなるとお聞きしました』

    黙って青年の説明を聞いて頷く陰陽師の様子を確認し、青年は説明を続ける。

    『次は第三期ですが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる傾向があります。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つとお聞きしました』

    「魂1〜4の人口分布については、どのように理解しておるかな?」

    『世界的には魂1:5%、魂2:15%、魂3:25%、魂4:60%という人口分布となりますが、この人口分布は国々によって微妙に異なり、我が国の魂の種類の人口分布は、魂1:7%、魂3:33%、魂4:45%となります』

    「韓国の場合は、概ね、魂1:3%、魂2:12%、魂3:23%、魂4:62%という人口分布となる。また、韓国における魂4は、62%中、1-4が約14%、2-4が約5%、3-4が約25%、4-4が約18%という比率となる、もちろん、日本などと同じように、転生回数によって四つの期に分けることができ、それぞれに特徴がある」

    そう言った後、陰陽師は人工分布図の表を紙に書き足していく。

    人工分布図SS

    『なるほど。魂4の中では、3−4が最も多いのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、再び口を開く。

    「韓国における魂の種類の人工分布図がわかったところで、今度は具体的に加害者たちの鑑定結果をみていくとしよう」

    陰陽師の問いに青年は一つ頷き、n番部屋の創始者、運営、引き継いだ人物、そして模倣犯に該当する人物の名前を挙げていく。
    名前を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    1:n番部屋の創始者。24歳。男子大学生。

    ムン・ヒョンウクSS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見て、陰陽師は口を開く。

    「サイトの創始者の魂の属性は3−4(転生回数期が第三期の魂4)じゃが、3−4といえども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4(転生回数期が第四期の魂4)とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えるとわかりやすい」

    参加意識が高く、大局的見地に欠けていることが魂4の特徴だとお聞きしましたが(※第39話参照)、彼による被害者は50人を超え、3件ほど性的暴行を指示したと自供しています。魂の属性から鑑みるに、彼はn番部屋を作って注目を集めることで自尊心を満たしたかったのではないかと推測します』

    「属性表を見る限り、その可能性は高いのかもしれんな」

    『性的暴力の被害に遭っている様子を、被害者の個人情報付きで公開したら、その女性の将来にどのような影響を及ぼすかを配慮できないあたりが、仁が30点(D)というところに表れているのでしょうね』

    「端的に言うと、日本以上にネット環境が整備されている韓国ならではの事情と魂4の持つ諸々の特徴の合わせ技によって、今回の事件が起きてしまったようじゃな」

    『なるほど。この事件は、引継ぎ者や模倣者が現れている点が、3−4が多いことに関係しているのではないかと思いました。仮に我が国で類似する事件が起きていたとすると、ほぼ2−4と4−4だけなわけですから、サイトの創始者や運営する人物は2−4、閲覧するだけの人物は4−4という構造になっていたのではないかと』

    「我が国で類似した事件が起きたわけではないから、そのあたりについては断定的なことは言えぬが、構造上は、そのように捉えることもできるかもしれんの」

    『やや強引な説を展開して失礼しました』

    ばつが悪そうに青年は言った後、次の人物について言及した。

    2:16歳。男子高校生。n番部屋の運営陣だったが、別の共有室を設置した。

    太平洋SS

    3:30代男性。創始者からn番部屋を引き継いだ。警察に拘束された後、捜査に協力して減刑された。

    シンSS

    『この二人はn番部屋の元運営陣と引き継いだ人物ですが、共に3―2(転生回数期が第三期の魂2)ですね。第三期の魂2は、魂3・4などと違い、社会的な上昇志向よりも魂2が持つ優しさ、奥ゆかしさ、慈愛といった側面が最大限に発揮されるという特徴を持つ、とお聞きしましたので、意外です』

    「3−2の特徴は、基本的にそなたの言う通りじゃが、頭の1/2や枝番などの数字の組み合わせの結果、このような犯罪を犯すようになったのじゃろう」

    陰陽師の説明に対し、青年は無言で頷いて見せる。

    「さらに言うと、数奇な運命を歩む傾向にある、十の位が30回代の場合、魂2が本来持つ“観音”ではなく、“不動明王”の側面が出やすい傾向にある

    『つまり、先ほど僕が説明した特徴は、あくまでも、おおまかな傾向であって、個々人の属性によっては該当しないケースもあるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。何事にも例外規定があることを、よく覚えておくことじゃ」

    『承知いたしました』

    そう言い、再び属性表を眺めた後に、青年は言葉を続ける。

    『n番部屋を引き継いだ人物の方は、“児青法違反”で懲役刑の執行猶予を言い渡された前歴があったため、今回の1審では、当初、重い罪質を言い渡されましたが、逮捕された後は、警察の捜査がはかどるように、情報提供を積極的に行なっていたようです。ひょっとして、仁(他者への優しさ・思いやり)が70点(BB)と比較的高いことから、逮捕されたことを機に、慈悲の心を取り戻したと考えることはできるのでしょうか」

    「そなたの考えも一理あると思うが、頭が2、つまり自己中心的な考えを持つ属性であることを考慮すると、自分の立場を“損得”で判断し、減刑のために自供した可能性の方が高いじゃろうな』

    『言われてみれば、彼は再犯ですし、頭が2であることを考えると、保身に走る可能性はじゅうぶんに考えられますね』

    そう言い、青年は腕を組んでから苦々しくつぶやく。

    『我が身可愛さにかつての仲間を裏切るような行動をする点は、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つという、転生回数期が第三期の人物らしい立ち回りと言えそうです』

    「とは言え、大局的見地からみれば、彼のおかげで他の加害者の逮捕が早まり、被害の拡大を抑制できたと考えることができたわけじゃが」

    『そうですね。他の加害者の逮捕が早まることで新たな被害者が減り、既に被害に遭ってしまった女性たちの不安が解消される日が、1日でも早く訪れることを願います」

    青年はそう言った後、次の人物の紹介を進める。

    4:2019年にn番部屋が消えた後、“博士部屋”を作った人物。仮想通貨決済でのみチャットルームに入ることができる専門的なモデルであった。懲役45年。会員費は、日本円で約25000〜15万円相当。

    チョ・ジュビンSS

    『この男性が今回ニュースで取り上げられていた加害者となりますが、“博士部屋”という名称で、仮想通貨決済を行なった人物だけが参加できる、独自のモデルを作ったようです』

    「なるほど。第四期とはいえ、商根たくましい“魂3:武士”らしい性格を持った人物のようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は苦虫を嚙みつぶしたような表情で口を開く。

    『他の人物と異なる点は、欄外の枝番だけでなく、下段の数字も“7”や“9”が多いことだと思います』

    「いずれにしても、そのあたりが、今回の事件を引き起こす基本的な性格となっているのは間違いないじゃろう」

    5:10代。n番部屋を模倣して新たなチャットルームを運営した。女子中学生三人が被害に遭った。

    ぺSS

    『この人物も、4−3で欄外の枝番が“9”が多く、仁も低いことから、先ほどの被告と魂の属性が近いですね』

    「この人物の属性表で特筆すべき点は、多くの人物の精神疾患の項目に“13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”と“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”があるのに対し、“13”の相しかないことと、“10:攻撃性”じゃろうな」

    属性表に再び目を通した青年は、驚きの声を挙げてから、言葉を発する。

    『多くの人物が、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾った際に“13”と“14”の症状に分散して顕在化するのに対し、“13”のみの人物は、“13”の相に集中して顕在化する傾向にあるため、特に暴力的な振る舞いを取りやすいというお話でしたね。それに、僕がこれまでに鑑定を依頼した人物の中では、たしか“10”の相を持っていた人物はほとんどいなかったと記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「他にも、この二人が陰陽五行に“火”を持っていることも、今回のような事件を引き起こした要因じゃろうな」

    『今まで鑑定していただいた日本人の属性表を見る限りでは、土、木、金、水のいずれかの組み合わせを持った人間は多かったものの、火の人物はほとんどいなかったと思います』

    「ワシが今までに鑑定した限りの印象では、陰陽五行に“火”を持っている人物は日本にはそう多くないものの、韓国には相当数存在していると思われる」

    『え、そうなのですか』

    「うむ。そのあたりが日本人と韓国人の基本的気質の相違点ともなっているようじゃが、いずれにしても、火を持った人物はかなり気性が荒いゆえ、関わる際はそのあたりをよく理解しておくことじゃ」

    『承知いたしました。それでこの二人が、運営するだけでなく、自ら女性に被害を加えていたことに納得がいきました』

    再び全員の属性表を見た青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    全員の共通点として、全員が頭2、欄外の枝番の数字が“7”か“9”で“性悪説”的な気質を持っていること、そして恋愛運の数字が“7”以下だということは予想通りでしたが、魂の種類が2〜4と分散していることは驚きです』

    「他にも、数奇な運命を歩む傾向にある、転生回数の十の位が30回代であることと、学業が80点(A)以上であること、そして“霊障”か“天命運”に17の相がかかっていることも全員に共通した特徴のようじゃな」

    陰陽師の補足を聞いた青年は、属性表を再び眺めた後、口を開く。

    『それと、先生がおっしゃった通り、今回挙げた加害者たちの転生回数期は第三期と第四期に固まっていますが、これには何か特別な理由があるのでしょうか』

    「もちろん、先程話した韓国のネット環境と、日本と較べ15%以上多い魂の4が今回の一件の遠因となってはいるのじゃろうが、魂1や3じゃからといってこのような犯罪を起こさないという話では決してない」

    『たしかに。日本のやくざや、欧米のマフィアの大半が魂3であったりするわけですからね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、言葉を続ける。

    「以上、韓国における性犯罪が多い理由について、魂の属性の人口分布の観点から解説したわけじゃが、どうかな?」

    『おかげさまで、よく理解できました。ちなみに、日本人と韓国人とで魂1〜4の人口分布が異なることは理解できましたが、こうした魂の違いは、どのように決まるのでしょうか?』

    「一言で言うと、“国境”じゃな」

    『え、国境ですか?』

    陰陽師の答えを聞いた青年は、驚きの表情を見せながら、再び口を開く。

    『国境は、遥か昔から、各国が戦争や外交の後に決めてきた、“この世”の世界の話だと思っていましたが、魂の人口分布にまで、国境が影響をあたえるのでしょうか?』

    「国境とは、その時々の国々の勢力分布なわけじゃが、結婚届や登記簿謄本が霊障と不思議な相関関係を持っているのと同様、その時々の国境は、転生してくる魂にとっては大きな意味を持っておる

    『とおっしゃいますと?』

    「人間が任意に引いたその時々の国境をめがけて、魂が転生してくるという意味じゃ。事実、日本軍が敗戦した後に朝鮮半島が日本の占領下から解放された日の前後で、産まれた赤ん坊の魂の属性が変わってくるわけじゃ」

    『つまり、産まれた土地がどの国の領土になるかで、新生児の魂の属性が決まるということでしょうか?』

    そう言い、思わず前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は答える。

    「数千年前のことまでまだ具体的に検証していないものの、たとえば日本を例にとっても、黒船来航を受け鎖国化を解いた明治時代、日本の領土が一番広がった第一次世界大戦から、第二次世界大戦終了時まで、そして戦後と変化する各々の領土に生まれた人間は、(現在の国籍はともかくとして)霊的には日本人と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。文化人類学は文化、つまり人類が後天的に学習した行動パターンや言語といったものを中心に据えて、人類を研究しているようですが、先生の場合は、日本人と韓国人の違いを、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった、文化人類学とは別の切り口で説明しているわけですね』

    青年の問いに対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「さよう。文化人類学のような学問を全面的に否定するつもりはないのじゃが、文化人類学では、民族・社会間の文化や社会構造の比較研究によって文明の差異というものを解明しようとしているものの、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった理論を持たずに、人間を“等質”という前提で研究している限り、それらの理論にどうしても矛盾が生じてしまうことは致し方あるまい」

    『なるほど。そのあたりのことは、よく理解できました』

    そう言い、青年は小さく頭を下げた後、言葉を続ける。

    『ということは、怒りの激情を起因とした韓国人特有の精神疾患である“火病”についても、魂の属性の観点から解説できるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。“火病”については、韓国人が辛い物を好んで食べているから、という説があるが、辛い料理を食べている他の国々で“火病”が起きているかと言うと、決してそうではない」

    『つまり、韓国人の“火病”はキムチなどの辛い物を好む食習慣が原因なのではなく、頭に2を持つ人間が多いこと、転生回数期が第三期と第四期の人物が多い、すなわち感情的になりやすい人物が多いこと、そして、陰陽五行に“火”を持つ人間が多いから、と考えることができるわけですね」

    青年の答えに対し、陰陽師は満足そうに微笑み、質問を続ける。

    「いつも話して居るように人間は“多面体”なわけじゃから、それだけの情報で断定はできぬが、当たらずと言えども遠からずという意味では、その通りじゃろうな」

    『なるほど』

    感嘆の声を漏らす青年を見て、陰陽師は小さく笑ってから、口を開く。

    「最後に、そなたの冒頭の疑問、すなわち韓国で性犯罪が多い理由として、韓国人の魂の属性がその一因となっていることは間違いないが、そうは言っても、韓国人だから性犯罪を犯す、などと安直に結びつけてはならぬぞ。統計学的にそのような一面を韓国人が持っているとしても、一人一人は別の人間だということだけは、しっかりと心に留めておくようにの」

    『承知いたしました。“罪を憎んで人を憎まず”ではありませんが、今回の事件に関しても、この世の基準で善悪を判断するのではなく、加害者と被害者の双方が今世の宿題を果たすための出来事だったと考えるべきなのですね』

    「現世的には、痛ましいとしか言いようのない事件であるが、今世の宿題という観点からみると、そのように言えるようじゃな。そして、国によって魂の人口分布図が異なる問題についてもう一度話をしておくと、この世とあの世は、たとえば、婚姻届、登記簿謄本という紙一枚と霊障が不思議な対応関係を見せているのと同様、我々人類がその時々引き直す国境線を目指して転生してくるという理屈は、自分の宿題や魂の修行に最適な母親を選んで転生してくるのとまったく同じメカニズムなんじゃ。だから、その国で産まれたからできる魂磨きの修行があるということで、韓国人として生まれてくる魂は、自らの意志で韓国を選んで転生してきているということも覚えておくようにの」

    『つまり、今の日韓関係の悪化も、どうしてと考えるよりも、各々が自らの宿題に邁進する限り、当然起こりえる事象というわけですね』

    「じゃからと言って、仲が悪くてもよいということにはならないのだが、それでも、日本の植民地時代に起因する様々な問題が、解決したかと思うとまたぶり返される問題や、右派を母体とする大統領であっても左派を母体とする大統領であっても、5年の政権期間末期にレイムダックを始めると、各々の政治的信条の別を問わず、決まって日本バッシングに走ることで支持率を回復させようするあたりなぞは、やはり、今まで説明してきたような韓国人だけが持つ属性のなせる業と言うしかないのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「本日も長時間ご苦労じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師とのやりとりを振り返っていた。
    今回の事件に限らず、日頃目に付く韓国関連のニュースを読む限り、韓国人に対する印象は悪い。だが、自分がメディアを通して得ている情報は、韓国の一部に過ぎず、韓国が持つまったく別の良さ/素晴らしさもあるはずだ。
    ご縁がある人物やあらゆる情報に対し、色眼鏡を介さないように心がけ、今回の事件だけを見て“韓国人は”と一括りに評価を下さないように気をつけよう。
    そう、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    新千夜一夜物語 第40話:コロナ禍で生死を分かつもの

    青年は思議していた。

    とある一般人男性が新型コロナウイルス(以下、コロナ)に感染した後、一度は集中治療室に入るほどに重症化したものの、容態が安定するまでに回復した件についてである。
    コロナによる死亡者数の情報が毎日更新される中、重症化した状態から回復した人物の情報は、人々にとっての希望になるだろう。
    ひょっとして、コロナで亡くなる人物と助かる人物とでは、霊障や魂の属性において、何らかの違いがあるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はコロナの感染者について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「コロナの感染者についてとな。して、どういったことを聞きたいのかな?」

    『コロナに感染して亡くなった人物と、感染して重症化した後に回復した人物とでは、魂の属性や霊障からみれば、何らかの違いがあるのかが、気になりまして』

    「なるほど。ちなみに、そなたは、どのような要因があると考えておるのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく黙考し、やがて答える。

    霊障に“4:病気”の相がかかっているか否かと、健康運の数値が主な要因ではないかと思います』

    青年の答えに、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「ではそのあたりの話をするにあたり、そなたが要因として挙げた、霊障と総合運について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『承知いたしました』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が口を開く。

    『霊障には大きく分けて四つあり、一つ目が霊脈と血脈の先祖霊の霊障、二つ目が対面やSNSを通じて他者から受けたり、心霊スポットなどから拾う地縛霊の霊障、三つ目がグッズの霊障、そして四つ目が魑魅魍魎、雑霊や人の念による霊障となります』

    青年の回答に小さくうなずいた後で、陰陽師が口を開く。

    「では、今の回答に基づいて、いくつか質問させてもらうが、まず、霊脈と血脈の違いについて、どのように理解しておる?」

    『霊脈の先祖霊とは、魂の種類1〜4に関わらず、本人と同じ種類の地縛霊化した先祖のことで、血脈の先祖霊とは、魂の種類が異なる地縛霊化した先祖のこととなります。従って、武士である僕の場合、霊脈の先祖霊は武士霊となり、血脈の先祖霊は武士霊を除く、1:僧侶霊、2:貴族霊、3:武将霊、4:諸々霊となります』

    そう答えると、青年は、かすかに逡巡した後、言葉を続ける。

    『他にも“霊統”、“血統”という言葉もあり、その意味するところは、地縛霊化している先祖のうち、本人にはかかっていないものの、魂の種類が同じ先祖を“霊統”先祖、魂の種類が異なる先祖を“血統”先祖と呼んで区別しています』

    「うむ」

    青年の回答に、いつもの笑みで頷いた後、陰陽師が言葉を続ける。

    「どうやら、基本的な事項についてはじゅうぶん理解しておるようじゃから、もう一度だけ、霊障について整理しておくとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に霊障の種類を書き記していく。

    《霊障の分類》
    ・先祖霊(魂の種類1〜4):霊脈、血脈、霊統、血統
    ・地縛霊(魂の種類1〜4):かかる子孫が途絶えた魂
    ・土地/法人の霊障(地縛霊)
    ・グッズの霊障
    ・念

    ※以下、神の眷属や動物霊など
    ・龍神
    ・龍霊
    ・稲荷
    ・狐霊
    ・熊手/狸霊
    ・雑霊/魑魅魍魎:動物霊/天狗・座敷童・麒麟(似非神様)

    陰陽師が書いた内容を見た青年は、一つ頷いてから、口を開く。

    『今回のテーマである、コロナの死因としては、個々人にかかっている霊障、つまり、霊脈と血脈の先祖霊の霊障が大きいようですね』

    「そのようじゃな」

    青年の指摘に、肯首しながら、陰陽師が質問を続ける。

    「さて、今度は、総合運について、説明してくれるかの?」

    『はい。総合運は基本的に9点が満点となり、その人に霊的な重荷がない(パフォーマンスが100%)かぎりにおいて、8点以上であれば、基本的に、今世で重大な苦労をする心配はありません。言い換えれば、7点以下の場合は、今世、それなりの苦労をする覚悟が必要な項目となります』

    「たとえば、恋愛運を例にとるとすれば、恋愛運が7以下である今世のそなたの場合、女性関係で苦労する覚悟が必要ということになるわけじゃな」

    『なるほど。だとした場合、ひとつお聞きしたいことがあるのですが』

    そう前置きした後で、青年が言葉を続ける。

    『仮に総合運が9点だったとした場合、今世の宿題という意味合いから、7点以下となっていると考えて、問題ないのでしょうか』

    「基本的には、そう考えても差し支えないじゃろう」

    『しかし、基本的には、とは?』

    「いつも話しているように、霊的な問題というものは、三次元世界のように、右か左とか、正誤といった“二元論”では、割り切れない余地が常に存在している。そのような意味で、三次元世界において“法則には、往々にして例外が存在する”という言葉があるのと同様、霊的世界でも、霊障を含め、その魂のそもそもの誕生理由などにより、総合運が低いからといって、かならずしもその項目が今世の宿題と連動しているとはかぎらないという現象が起きることから、おおむね、そのような理解で問題あるまい、と答えたわけじゃ」

    『なるほど。特に、霊的世界には、三次元の常識、つまり、思議では割り切れない余地が常に存在している、ということをよく頭に叩き込んでおきます』

    陰陽師の説明にそう答えた後で、青年は言葉を続ける。

    『いずれにしましても、僕の恋愛運が6点であることを踏まえ、女性とのトラブルを通して学びを得る、それが今世の僕の人生だということは、じゅうぶんに肝に銘じております』

    それなりに己の運命を受け入れたのか、軽く苦笑しながら青年は言った。
    そんな青年の様子を察した陰陽師も、一緒に笑ってから口を開く。

    「では、本題に入るとして、コロナに感染した人物たちを鑑定するにあたり、該当者たちの目星は、既についておるのかの?」

    青年は一つ頷いて見せ、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『まずは亡くなった人物からお願いします。一人目、志村けんは享年70歳で、若い頃からヘビースモーカーだった影響か、肺に基礎疾患があったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かした後、鑑定結果を紙に書き記していく。

    志村けんSS

    属性表を見終えた青年は、視線を落とし、ため息を吐いてから口を開く。

    『彼は、健康運が3とかなり低く、しかも天命運と血脈に“4:病気”の相が、そして、血脈の霊障に“5:事故・被害・死亡”の相がありますから、属性表の各数字から考えてみても、コロナに感染して亡くなったことに納得せざるを得ません』

    「その通りじゃな」

    『そして、二人目の男性ですが、彼は享年50代で、肝臓がんを患っており、感染後に肺炎で亡くなりました』

    陰陽師は黙って指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    伴充雅SS

    青年は暗い表情のまま、何度も頷いてから、口を開く。

    『この男性も、健康運が3とかなり低く、血脈の霊障に“4:病気”の相“5:事故・被害・死亡”の相があるので、亡くなった理由については、納得ですね』

    「かわいそうではあるが、そなたの言う通りじゃな」

    青年はしばらく無言で腕を組み、やがて苦々しく言った。

    『ただ、彼はコロナに感染していると知りながら飲食店に行き、しかも、意図的に、店員が感染するような行動を取るなどし、ウイルスをばら撒きました。その結果、そのお店は営業停止になってしまったようです。彼が頭2の魂2−4であることと、大局的見地の数字が30であることを踏まえると、このような行為も、納得ではあるのですが』

    「彼の場合、下段の枝番も、欄外の枝番もほとんどが“9”であり、“性悪説”的な気質が強いことから、今回のようなウイルスを撒き散らして他人に被害を与えるような行動を、平気でとってしまう可能性が高い人物のようじゃの」

    『なるほど。彼によって感染させられてしまったお店と店員には大いに同情しますが、“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるように、屍に鞭打つのではなく、彼の行動によって、コロナの感染度の高さと脅威が世間に知れ渡ったのだと、前向きに捉えようと思います』

    青年の言葉に陰陽師は一つ頷き、口を開く。

    「して、次の人物は、どのような人物なのかな?」

    『三人目、羽田雄一郎議員は、享年53歳で、基礎疾患に糖尿病や高血圧などがあったようです』

    陰陽師は紙に鑑定結果を書き記し、青年はその様子を黙って見守る。

    羽田雄一郎さんSS

    属性表を見た青年は、眉間に皺を寄せながら口を開く。

    『羽田さんは、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”の相があったものの、“4:病気”の相はありませんでしたし、健康運が7であることから、先ほどの二人の健康運“3”に比べたら数値はましだと思うのですが、やはり、総合運の各項目の数字が“7”以下の場合には、注意が必要ということなのでしょうか?』

    「以前も説明したが、令和に入ってから、魂の属性7の唯物論者の場合、霊脈先祖(魂の種類が同じ先祖)の霊障がない分、魂の属性3の霊媒体質の人物よりも、血脈の霊障がより強く顕在化する傾向が強くなっておるようじゃな」

    『なるほど。そのあたりも体主霊従の世界から、霊主体従の世界への回帰の一端なわけですね』

    陰陽師の話に大きく頷いた後で、青年は先を続ける。

    「次は、四人目の岡江久美子ですが、彼女は享年63歳で、基礎疾患はなかったものの、2019年末に乳がんの手術を受け、その後半月ほど放射線治療を受けていたため、免疫力が低下していたと思われます』

    岡江久美子さんSS

    先ほどの三名の結果と見比べながら、青年はしばらく黙考した後で、口を開いた。

    『岡江さんは、健康運は8と高かったものの、天命運と血脈に“4:病気の相”血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますね。それに、彼女も“唯物論者”的な気質の持ち主だったことから、たとえ、健康運の数値が高くても、血脈の霊障の影響を大きく受けていたという理解で問題ないですね』

    「基本的にはその通りなのじゃが」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、そう前置きしてから、陰陽師が言葉を続ける。

    「彼女の場合、二人目の男性同様、第4チャクラが乱れていることが、死因の大きな要因となったようなのじゃ」

    『第4チャクラが、死亡の一因ですと?』

    「一般的には、ハートチャクラなどと呼ばれておるようじゃが、第4チャクラが乱れている場合、往々にして、病気にかかりやすいという特徴があるとともに、最悪の場合、死に至る病を患う可能性が高くなったりするわけじゃな」

    青年は陰陽師の説明に息を呑み、しばらくしてから口を開いた。

    『と言うことは、岡江さんの場合、“4:病気”の相によって乳がんを患い、免疫力が低下していたところに、第4チャクラ“5:事故・被害者・死亡”の相が重なることによって、コロナに感染してしまい、その挙句に亡くなったという、合わせ技なわけなのですね…』

    「残念ながら、その可能性が高いようじゃな」

    『…そうでしたか、何とも、痛ましいかぎりです』

    小さく首を振りながらそう答えた後、青年は気を取り直して、次の人物を紹介する。

    『次は、コロナに感染した後に回復した人物なのですが、一人目の石田純一は、66歳で脳と肺に基礎疾患があったものの、コロナが流行り出した頃に感染し、一時は危ぶまれたようですが、生還しています』

    青年の言葉を聞いた後、陰陽師は鑑定結果を紙に書き記していく。

    画像5

    それを見た青年は、驚きに目を見開いてから、声を上ずらせて言う。

    健康運が3とかなり低い上に、基礎疾患があり、さらに血脈の霊障に“5:事故・被害”の相があるので、これまでの方々の結果を鑑みるかぎり、亡くなっていてもおかしくないと思いますが、霊障の“5”の相が、“死亡”ではなく“怪我”だったことから生還できたというわけなのでしょうか?』

    「ワシが知るかぎり、彼は還暦を過ぎてからも運動するなど、健康的な生活習慣を続けていたようじゃから、もともとの健康運の低さを、運動でカバーしていたことも、助かった要因の一つかもしれぬが、おぬしの言うように、決定的に明暗を分けたのは、“5”の相が“死亡”ではなく、“怪我”だったことなのじゃろうな」

    『なるほど』

    説明を聞いて大きく頷く青年に、陰陽師が先を促す。

    「して、次はどんな人物かの?」

    『二人目の一般人男性は、53歳で、基礎疾患はなく、感染した後に集中治療室に入るほどに重症化しましたが、現在は、容態が安定しているようです』

    青年が無言で見守る中、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    遠藤雅行さんSS

    属性表を眺めた青年は、何度も頷いてから、口を開いた。

    『この男性は、天命運と血脈に“5:事故・被害・死亡”がありますが、健康運が9で基礎疾患がなかったことが助かった要因なのでしょうか?』

    「この男性の場合、“5:事故・被害・死亡”の相が、今回のコロナには該当しなかったと考えられるのも一つの考え方じゃろうし、健康運が“9”じゃったことも、命を取り留めた要因のひとつなのじゃろうな」

    陰陽師の言葉をしばらく吟味してから、青年は口を開く。

    『つまり、“5:事故・被害・死亡”の相があるからと言って、事故が起きたら必ず死ぬとは限らないわけなのですね』

    「さよう。そのあたりが、不可思議な世界の不可思議たる由縁で、いつも話しているように、この世の神羅万象のすべてを、思議で推し量ることは不可能とワシが話す典型的な例なのかもしれんな」

    『とおっしゃいますと?』

    「ワシのクライアントの中にも、“5:事故/事件”の相があり、何度も事故に遭っているものの、今もぴんぴんしておる人物はおるのじゃが、このような人物も含め、まだ今世の宿題が残っていたために、たとえ霊障に“死亡”の相があったとしても、必ずしも死ぬわけではないということが、往々にして起こり得るわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の説明に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ただし、そうはおっしゃっても、“5:事故/事件”の相を解消しない限りは、今後もまた事故に遭う可能性は高く、“死亡”の相がある場合は、その人はいつの日か、事故/事件で命を落とす可能性が残っているわけですね』

    「まあ、基本的にはその通りなのじゃが、先ほども話した通り、そのように、右左、正誤などと決めつけられないのが、“不可思議”の世界の“不可思議”たる由縁なわけではあるのじゃが」

    そう言い、暗い表情をする青年を励ますように、陰陽師は微笑みかける。

    「いずれにしても、この6名の鑑定結果を見てわかるように、人間は多面体であることから、特定の部分のみを抽出して、結論に結びつけぬよう、気をつけることが肝心となるわけじゃ」

    『はい。今のお言葉、よく肝に命じておきます』

    そう言い、青年はしばらく口をつぐんでから、再び言った。

    『ところで、ふと気になったのですが、コロナに感染した人物の共通点として、“5:事故・被害”の相があったと思います。なぜ“4:病気”の相ではなく、“5”の相なのでしょうか?』

    「というと?」

    『トランプ大統領は、コロナは“武漢のウイルス研究所由来の証拠がある”と訴えていたようですし、このウイルスは自然界のウイルスではなく人工ウイルス、つまり、細菌兵器による人災の被害者だから、“5:事故・被害”の相が出ているという可能性は、ないのでしょうか?』

    「そのあたりの問題については、世界の権威ある科学者がコロナを人工だと公表していない以上、現時点では何とも言えないじゃろうな。特に、今回挙げた人物に全員“5:事故・被害”の相があることを根拠として、コロナが細菌兵器だと考えるのは、早計だとワシは思う」

    『それは、失礼いたしました』

    そう言い、罰が悪そうな表情をする青年に対し、陰陽師は微笑みながら一つ頷き、説明を続ける。

    「いやいや、そう恐縮することはない。ワシがそう思う根拠としていくつかの理由があるのじゃが、そのひとつとして、以前、中世に幾度となく流行した黒死病、つまりペストについて色々とみてみた時の経験がある。何を言いたいのかと言うと、当然ペストは疫病なわけじゃから、ワシがみた犠牲者の多くが“4:病気”の相を持っていてよさそうなものなのじゃが、実際は、犠牲者のほとんどが“4:病気”の相ではなく、“5”の相を持っていた」

    陰陽師の説明を聞き、真剣な表情で何度も頷く青年。
    陰陽師は、青年が話についてきていることを確認し、説明を続ける。

    「よってこの一例だけ見ても、そのあたりの推測は正しいと、ワシなりには思っておる。さらに言えば、令和との関係じゃ。以前から何度も話しているように、令和の世界的な“変革”のひとつに“疫病”があることもそうなのじゃが、カミゴトとしてみても、今回の一件は人為的なものではない」

    『そうだったのですか』

    目を大きく見開き、そう答える青年を見ながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「まあ、このあたりのことはカミゴトゆえ、声を大にして主張するつもりはないのじゃが、去年の冒頭より、今回のウイルスは相当厄介じゃ、と繰り返し述べてきたのも、根拠は、そういうところにあるわけじゃな」

    『なるほど』

    そんな陰陽師の言葉に小さく頷くと、青年はしばらく逡巡した後、言葉を続ける。

    『ちなみに、今回挙げた中で亡くなった方々は、無事にあの世に帰還できているのでしょうか?』

    「どれ、確認しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かした後、続ける。

    「うむ。幸い、全員、無事にあの世に戻っておるようじゃ

    微笑みながらそう言う陰陽師の言葉を聞き、青年は安堵の息をもらす。

    『それならよかったです。志村けんさんは、既に様々な業績を残されているだけではなく、コロナ禍で売り上げが落ちた友人の飲食店にわざわざ通って支援するような優しい方でしたから、あの時期にコロナで命を落としても、悔いがなかったのでしょうね』

    「それにじゃ。彼を始めとする大物有名人が亡くなったことで、コロナの危険性が世間の人々により深く伝わったことは、まぎれもない事実なわけじゃから、非常に痛ましいことではあったが、コロナによる被害者を減らすことに一役を買ったことも、ひょっとすると、彼らの宿題の一部であったのかもしれんな」

    『なるほど。彼らの死を無駄にしないためにも、残された僕らは、いっそう魂磨きの修行に励まねばならないということですね』

    「そうじゃな。どのタイミングで肉体を離れることになろうとも、幸/不幸や、生きた時間の長短といった、この世の基準や現世利益に囚われず、今世の課題を果たせるように日々を過ごすことこそが、今世の宿題を果たす唯一の道であることだけは、絶対に、忘れぬようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はコロナで亡くなった人物たちのことを考えていた。
    彼らの死に霊障も関わっているなら、ご神事を受けてもらうことで、コロナによる死者を減少させられるかもしれない。
    また、令和の“変革”によって、見えない世界とは縁遠い、魂7の唯物論者の人物といえども血脈の霊障の影響を受けているという事実を理屈として理解し、体感してもらえるよう、より真摯に説明していこう。
    青年はそう決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    青年は思議していた。

    コロナ禍の影響により、生活用品の買い占めに走っていた人々についてである。
    買い占めはトイレットペーパーだけに留まらず、マスクの材料になるという理由で西松屋の新生児の沐浴用ガーゼが品切れとなり、その後、大阪府知事の発表(新型コロナウイルスに対して効果があるかどうかは医学的には不明)を機に“イソジン”も買い占められた。

    それにしても、なぜ日本人は裏付けが取れない情報に踊らされてしまうのか?
    日本人は流されやすい国民性とも言われているが、ひょっとして魂の属性と何か関係があるのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を教えていただこうと思い、お邪魔しました』

    「買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を、とな。それは、了解したが、もう少し具体的に話してもらえるかの?」

    青年は買い占めに関するニュースと日本人の行動について、疑問に感じたことを説明した。

    『海外でも買い占めは起きていたものの、対象は主に食料でした。アメリカでは銃器と弾薬の売り上げも上がったようですが、こちらも、最悪の事態を想定し、自己防衛のためという意味では理にかなっていると感じました。一方で、なぜ日本人はトイレットペーパーなどの日用品を買い占めするのでしょうか?』

     

    日本人が買い占めに走ってしまう理由

    「以前も説明したと思うが(※第13話参照)、今回の買い占め騒動の根本的な問題は、フットワークの軽い魂4の特徴とインターネットの性質との合わせ技、さらに言うと、日本における魂4の分布の特異性が、ひとつの回答になると言えよう」

    『魂4の分布の特異性でしょうか』

    「そう、前にも話した通り、全世界的に6割を占める魂4が、日本の場合は、そもそも魂15%少ない。さらに、その魂4がほぼ4-4と2-4に集中しているということが、オイルショック時のトイレットペーパー騒動と、今回の騒動のマスク騒動の根本的な問題だ、とワシは思う」

    今一つ納得できないでいる青年の顔を見やりながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「つまり、ワシがいつも指摘する、デマを扇動する2-4とそれに無条件で追従する4-4という構図が、今回は偽の情報の拡散とマスクやトイレットペーパー、果てには、食料品を筆頭とした日常品の買い占めという騒動に発展したということになるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ大きく頷いた後で、青年は質問を続ける。

    「日本の買い占めに、そういう構造が隠されていたことはよく理解できましたが、ついでに、1−4や3−4の特徴も含め、魂4と輪廻転生の回数の関係について、もう一度、総括的にご教授いただけませんでしょうか?』

    青年の問いに一つ頷いてから、陰陽師は口を開く。

    「その質問に対する回答をする前に、これからする説明とも密接に関係している、魂と輪廻転生のメカニズムについて、そなたの口から説明してもらえるかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから口を開いた。

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    魂4の特徴について

    「では、次に、魂4の特徴について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『はい。現世的にみる限り、魂4は一般庶民、つまり、社会の下支えが主な役割となります。具体的な職業としては、建設、運送業、清掃といった、いわゆるブルーカラーの職業をはじめ、警察/自衛隊、地方公務員、医療/福祉関係と多岐に渡る分野で活動しています。もちろん、一次産業従事者も、魂4が多くいることは言うまでもありません』

    「そなたの説明に付言するとすれば、魂4は魂の容量が極めて小さいことから、魂1〜3の人々が論理ベースでものを考えたり、行動したりするのに対し、感情ベースの言動が多いこと、また、同様の理由から、“定見に乏しく、大局的見地に立っての判断ができない”という特徴がある。そのため、他人に洗脳/扇動されやすく、その偏狭な正義感にいったん火がつくと、徒党を組んで暴徒と化す傾向をあわせ持っていることも、しっかり記憶に留めておくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明に大きく頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「では、ここからは各転生回数期における魂4の特徴についての説明となる。まずは4-4じゃが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

    『以前、デモに参加している人々のほとんどが4−4(転生回数期が第四期の魂4)だということをお聞きしましたが、再度ご説明いただき、あらためて納得いたしました』

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが、そして、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケット(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々のほとんどが、典型的な4−4の行動ということになる。もちろん、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員のほとんども、4-4であることは言うまでもない」

    青年は納得顔で何度もうなずき、口を開く。

    『ストライキを起こすのも、ストライキ破りを防ぐのも4−4という、同じ魂同士で対峙している構図は、なかなか興味深いですね』

    「次に第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『以前、3−4(転生回数期が第三期の魂4)は日本ではほとんどいないとお聞きしましたが、ちなみに、3-4はどのあたりに多く分布しているのでしょう?』

    ヨーロッパ、つまり、ほとんどのEU諸国、そして、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、中国、韓国あたりが、その代表的な地域となる。そして、3-4と言えども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えると理解しやすいかの?」

    『そうですねえ』

    曖昧な表情でひとつ頷いた後で、青年が口を開く。

    『何となくわかったような気がしないでもないのですが、そのあたりを、別な角度から、できれば具体例をあげて、ご説明いただけませんでしょうか?』

    「そうじゃの。では、日本のプロ野球と大リーグの観客の違いを例にあげて説明しよう。そなたは野球の観客席を見て、何か印象に残っていることはないかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は首を傾げてしばらく黙考した後、口を開いた。

    『そうですね、学生の頃に、父と一緒にTV中継を見ていた記憶ですが、外野席の人々が打席に立つ選手に向かって一丸となって声援を送ったり、楽器を鳴らしたりと、とても賑やかだった印象が記憶に残っています』

    「以前、野球は魂4が好むスポーツという話をしたと思うが、球場においてもその傾向は変わらず、特に、一番入場料の安い外野席は、文字通り、魂4の指定席ということになる。その中でも、お手製のプラカードを掲げて大声で声援を送っている人物は、まず、4−4の人々と思って差し支えあるまい」

    『なるほど。以前、プロスポーツ選手は皆2-3-5-5…2という厳然たるルールがあることをお聞きしましたが(※第23話参照)、観客側の相はスポーツによって異なるのですね』

    「その通りじゃ。スポーツの観客側の相と魂の種類については、また別の機会に話すとして」

    そこで区切り、陰陽師は湯呑みの茶を飲んでから続ける。

    「一方、大リーグの観客には、鳴り物や楽器を持ち込む人間は、基本的にいない。球場で流れる電子音楽に合わせて拍手をするようなことはあるものの、基本的に三々五々、各個人のスタイルで観戦したり、応援したりしている人物がほとんどじゃ。もちろん、中には歌ったり、踊ったりしている人物はいるものの、それもあくまで個人レベルの話で、集団で同一行動をとっているわけではないことは、BS放送のMLB中継などを見れば、すぐに納得できるはずじゃ」

    黙って頷いている青年を見やり、陰陽師は続ける。

    「そして、野球場の興味深い現象の一つに、バックネット裏から内野Aあたりに陣取る魂1〜3と、ヒットやホームランのたびに狂喜乱舞する魂4との温度差という問題がある」

    『なるほど。僕は野球にほとんど興味ないので、そこまで注意をして野球を見たことがありませんが、野球好きが魂のメカニズムを知れば、そのように見えるわけですね。だとすれば、なんだか、野球場はこの世の縮図みたいですね』

    「まあ、そういうことじゃな。さて、今度は第二期じゃが、“魂1:僧侶/王侯”を除く各魂が、この世で各々の特徴を最も顕在化させる時期がこの第二期となる。また、この時期は、本来は魂1〜3と交わることがない魂4が、学業で突出した能力を発揮するという時期であることも相まって、魂1〜3の活動領域に侵入してきて、様々な軋轢を生み出すという時期でもある」

    『なるほど』

    「繰り返しになるが、高学歴を背景に、2−4がビジネスの世界で一定以上の地位を確保したとしても、魂がガラ携並みである故、大局的見地によるものの判断ができないことには変わりがない。さらに2−4の特徴である、権謀術数、感情の起伏の激しさ、裏表のある二面性、えこひいきといった性格により、彼らが部長や課長にいる部署は、“部下の手柄は俺のもの、俺の失敗は部下のもの”といった風潮が蔓延しやすい

    『彼らの下についた1~3の人々は、不幸以外の何物でもないと言えそうですね。とは言え、そんな2−4の人物であっても、優秀な人物に対し、それなりに評価せざるを得ないのではありませんか?』

    「残念ながら、大方の場合、そうはならんのじゃ。2−4の人物は、自らの地位を脅かす優秀な部下を本能的に恐れるという潜在的な気質から、優秀な部下を潰しにかかる一方で、仕事の出来/不出来に関わらず、ご機嫌取りに終始する部下をかわいがり、時には無能な部下を高く評価するといった傾向が顕著となる

    青年は大きなため息を吐き、顔を伏せながらつぶやく。

    『そんな上司と同じ2−4は、同じ特徴を持つことから、ご機嫌取りが上手だと』

    「その通りじゃ。当然の帰結として、そのような2―4の部長や課長の人事考課を鵜呑みにした会社のトップおよび組織体は、有能な部下を失う可能性が飛躍的に高まることは言うまでもない」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで小さくうなってから口を開く。

    『会社のトップや人事担当の方に、ぜひ社員の鑑定を依頼していただき、魂の属性に適した人員配置をしてもらいたいものですね』

    「まあ、実際に、急成長を遂げている企業のトップが、その手の話で、ワシの所を訪ねてくるケースは、けっこう多いのじゃがな」

    『それを聞いて、少し安心しました』

    青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら頷き、続ける。

    「さらに言うと、小学校、中学校の教員や社会派弁護士と呼ばれる人物にも、2−4が多いのも、以前に説明した通りじゃ」

    『その時のお話(※第17話参照)では、学業が突出している点で、2−4の人々は他の学部に比べて倍率が高い、大学の教育学部や、弁護士などの上級公務員試験に合格しやすいということでしたね』

    「そう。小学校の教員は、学童に対して上から目線で接することができることもあり、彼らのプライドを満足させると同時に、給与や社会的地位が安定しているという点からも、2−4の人口が多くなりがちというメカニズムも、以前にも説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、黙って首肯する青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一方、弁護士の場合も、先生と呼ばれることで、顧客に対して上から目線で接することができると共に、自身のプライドを満たせるわけじゃし、社会的地位も安定している点は小学校の教員と同様じゃが、社会で幅広く活躍できることから、人脈も広がりやすく、政界進出への足がかりになるケースさえあるわけじゃな」

    『社会派弁護士として、私的な領分で偏狭な正義感をかざすのは百歩譲って我慢するとしても、政治家になってまで、感情論をベースに活動してほしくないですよね』

    「たしかに。2−4の人物が政権を握った国が、結果的にどうなっているかについては、別の機会にゆっくり話すとして」

    青年が黙って頷くのを横目に、陰陽師は説明を続ける。

    「最後は、第一期の魂4の説明になるが、現世でも老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。そして、2−4の時期に突出していた学力が再び下降線を描き始める(“特に最後の50回”)1-4とは、魂2~3同様、老人にも似たプライドの高さ、気難しさ、保守的、許容範囲の狭さと、ガラ携並みのOSという特徴が混然一体化しておる時期と規定することができるのじゃろうな」

    『なるほど。ところで、1-4の人物は、日本にはほとんどいないとお聞きした記憶がありますが、彼らの多くは、どのあたりに分布しているのでしょうか』

    1−4の多くは、中東、エジプト、アフリカ大陸、そして、インド、パキスタンなどを含めた、東南アジア、イランなどが、主な転生先となっている」

    『僕はそれらの地域に住む人々とも特に交流がありませんが、現代でも狩猟民族だったり一夫多妻制を採用している国が多いことから、男性は非常にプライドが高く、女性は妻同士の絆を大事にしているような印象があります』

    「そのあたりは、そなたの言う通りかもしれぬの」

    『狩猟民族ですと、獲物の質や量で序列の区分が明確にできてしまうのでしょうし、一夫多妻制ですと、男性の方が優位なわけですから、そのあたりの分布状況は、なんとなく納得という感じです。逆に、女性の方も、一人しかいない旦那を奪い合うよりも、横のつながりを大事にするという魂4の特性が現れているような印象が強いですね』

    「たしか、それらの国々には、女性が男性の下支えをするのは当然、という文化が、現在も根底にあるのかもしれぬ。じゃが、そうした話はあくまでそれらの国々の文化全般の話であって、かならずしも1−4の特徴にはならぬから、早合点せぬようにの」

    『そのあたりのご指摘、しかと、了解いたしました』

    青年の言葉に小さく頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「以上、ざっと四期にわたる魂4の特徴について説明してきたが、理解できたかの?」

    『はい。後は実際に1−4や3−4の人物とやりとりをすれば、腑に落ちると思います』

     

    買い占めに走った人物の魂の属性について

    そう言い、力強く頷く青年に笑みを向け、陰陽師は問う。

    「では、話を戻して、今回、買い占めに走った人々の属性をみていこうと思うが、事の発端となったのは、どのような情報だったのじゃろうか?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、該当する文章を読み上げる。

    新型コロナで品薄になる品の予想を、根拠付きでお伝えします。次はトイレットペーパーとティッシュが品薄になります。生産元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーを、そもそも生産をしていないのが根拠です。品薄になる前に事前に購入しておいた方がいいですね

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    富田優史SS

    属性表に目を通した青年は、小さく息を漏らしてから口を開く。

    『予想はしていましたが、やはり“魂4:一般庶民“でしたか。大局的見地の数値が30とかなり低いことから、きっと、本人は思いつきで、深く考えずに発信したのでしょうねえ。それと、下段の枝番と欄外の枝番がほぼ“7”ですから、大事になっても、知ったことではないと思っていた節もありそうですね』

    「そうじゃな。しかも、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、天から“何か”が降ってきて、本人だけでなく、他者も誤った方向へ扇動するという霊障が、大山である転生回数70回代によって、いっそう発揮されてしまったとも考えられる」

    『実際のところ、日本家庭工業会によれば、日本のトイレットペーパーの約98%が国内で生産されているとのことでしたので、先程の情報は完全なデマだったようです』

    「なるほど」

    『また、オイルショックの時と違う点は、今回は呼吸器系の疫病ということで、不織布のマスクが品切れになっていたことから、布マスクを自作するにあたり、マスクの材料となりえる西松屋の沐浴用ガーゼが買い占められて、妊婦や新生児のいる家族が困っていたことです。他にも、消毒用アルコールが売り切れ、一部の医療機関で不足しているという記事も見かけました』

    「それらの品物が、本当に必要としている人々に届かないことは、たしかに、由々しき事態よのう」

    『おっしゃる通りです。今度は、買い占めに走った人々の鑑定をお願いいたします』

    青年が投稿を読み上げる内容に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    トイレットペーパー5個とティッシュペーパー5箱入り4つをやっと購入。全て手に持って歩いて帰宅。腕が千切れそうだったけど、買えたことに満足。

    う〜さSS

    ティッシュとトイレットペーパーを慌てて購入。買いすぎたかも。どこにしまおう・・・

    タモターモンSS

    二人の属性表に目を通した青年は、口を開く。

    『この二人は典型的な、情報に踊らされたタイプのようですね。2−4の人物も買い占めしていることから、たとえ学業が突出していても、ガラ携並のOSという特徴は変わらないようですね』

    「たしかに、その傾向はあるのじゃろうが、人間は多面性を持つということから、買い占めに走った事実だけを捉えて、全員が全員、魂4だと決めつけぬようにの。買い占めした中にも、魂1〜3の人物がいることは、間違いのない事実なのじゃろうから」

    『そうでした。僕だって、状況によっては、買い占めに走っていたかもしれませんからね。そのあたりは、じゅうぶんに気をつけます』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    ホームセンターに行ったらみんなトイレットペーパー爆買い。デマだったと思いますが、万が一のために、2個購入しました

    かにかにSS

    青年は次の属性表の紙を眺め、少し驚いた様子で口を開く。

    『この人物は、“魂2:貴族(軍人/福祉)”ですね。多少は情報に流された節はありますが、デマということには薄々感づいていたようですし、他人に配慮して、手当たり次第ではなく、必要最低限の2個を購入したところが、いかにも魂2らしいと思います』

    「たしかに、魂2らしい、自制の利いた行動ということはできるかもしれんな」

    青年の言葉を聞いてうなずく陰陽師を横目に、青年は次の人物に話を進める。

    『この人物は、マスクが品薄で購入できる数が制限されていた頃に、同じ顔ぶれの高齢者たちが早朝からドラッグストアの前で並び、毎日マスクを買い占めしていたことがあり、他の利用者にマスクが行き届かないことを苦慮したお店が、マスクを陳列する時間を非公開にしたところ、空のマスクの陳列棚にマスクが並ぶまで、棚の前で座って待っていた高齢者です』

    マスクを待つ高齢者SS

    陰陽師が書いた属性表を読んだ後、青年は口を開いた。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字が“7”と“9”であることから、この人物は“性悪説”的な気質かつ、転生回数が30回代の“数奇な運命”を持っていることもわかりますね。彼のように、マスクの買い占めが日課になっている高齢者のせいで、他にマスクを必要としている方が購入できなくなることは、迷惑以外の何物でもないと思うのですが』

    「まあ、頭2の4-4であることから、このあたりの行動をすること自体、想定内であるとは言え、彼の年齢を鑑みるに、オイルショックの経験から何も学んでいないようじゃのう」

    『おっしゃる通りですね。次は、今回の騒動を活かしてビジネスの機会にしていた人物となります』

    トイレットペーパー1ロール1,000円購入券プレゼント。応募方法は**

    田村誠二SS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「この人物は、“魂3:武士”らしく、商魂逞しい人物のようじゃのう」

    『たしかに。お金のためならなりふり構わないところは、頭が2で転生回数が第三期(101〜200回)ということと、枝番の数字に“7”が多いことに起因しているのではないかと思います』

    陰陽師が小さく頷くのを横目に、青年は続ける。

    『次は、買い占めには加わらず、家族用の自作マスクをネットで上げ、注目を集めていた元“モーニング娘。”の初期メンバーである辻希美です。彼女のように、品不足に対して不満を口にするのではなく、代替品を探すか、自作するという発想を忘れないようにしたいです』

    辻希美SS

    「彼女の行動は、大局的見地に基づいた、魂3ならではと言えよう。そして、彼女のブログは多くの人々に読まれているようじゃから、彼女の発信を機に、マスクを自作しようと考えた人が増えたのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は一つ頷き、口を開く。

    『次の中学生ですが、自腹でマスクを自作するだけでなく、それらを全て山梨市に寄付したそうです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。

    滝本妃さんSS

    属性表を眺めた青年は、感嘆の息を漏らしてから、口を開く。

    『彼女は、欄外の枝番の数字が“1”で“性善説”的な気質を持っていることと、転生回数が大山である270回代であることを踏まえると、“魂2:貴族(軍人/福祉)”の“観音”としての側面(※第27話参照)が発揮された、ということがよくわかりますね』

    「それだけではなく、陰陽五行に“水”を持っていることも、重要なポイントとなる。陰陽五行に“水”を持っている人物は、優しく穏やかな性格である人物が多いのじゃが、彼女が取った行動なぞは、正に、頭1の2-2という属性と、陰陽五行における“水”がもたらした行動といって差しつかえないじゃろうな」

    『中学生だった頃の僕でしたら、自腹を切ってマスクを作成し、しかもそれらを寄付するなんて考えもつかないと思います。人によって取る行動が、どうしてここまで異なるのか、今までは不可思議でならなかったのですが、魂の属性によってある程度の傾向があることがあらためて理解できてくると、世の中の多くの不可思議な事象も腑に落ちる気がします』

     

    買い占めのような騒動を起こさないために

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながら、口を開く。

    「今まで考察してきた話を総合的に吟味すると、昭和の第1次、第2次オイルショックにおいて“口コミ”で引き起こされた騒動が、今回は、ネットという情報伝達手段の出現により、より短期間に、集中的に拡散したため、あのような事態が起きたということになるようじゃの」

    『なるほど。そして、偏狭な正義感で世論を扇動する2-4に、無条件で追従する4−4の人口比率が他国に比べて圧倒的に多い我が国の現状から、彼らの言動が日本国民の総意などという誤解を外国から受けるようなことがあるとすれば、日本人は物事に流されやすい国民、などという風評が立ちかねませんものね』

    「その通りじゃ。そもそも魂4は、全世界的には6割(日本では例外的に45%)を占めており、参加意識も高いことから、今の時代、インターネット上の多くの意見が、そんな彼らの偏狭な正義感を反映させたものであることは散々説明してきたので、ここではあらためて繰り返さないが、魂1〜3の我々が、大局的見地に基づいた発信を積極的に行い、世論を先導していく必要性が、“令和”の時代ではさらに重要になってくることは確かなはずじゃ」

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら続ける。

    『ちなみに、魂1〜3の人物が発信や行動を起こさないと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「もし、偏狭な正義感で物事が判断される状況が、これ以上助長されるようなことがあったり、その延長線上にある“自粛警察”のような行動が、これ以上まかり通るようになると、中世の魔女裁判にも匹敵する狂気が正当化される危険性は、更に高まるじゃろうのう」

    『なるほど。昭和の時代が理想の時代だったとは言えないとしても、あの時代に存在していたおおらかさや、寛容さみたいなものを取り戻すためには、我々魂1~3の大局的見地に基づく判断や意見が、必要不可欠だとおっしゃるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はマスク姿で初詣に参拝する、大勢の人物の画像を眺めていた。
    自粛を要請されている中でも、自ら密になる状況に出向く人々は、ほとんどが魂4の人物なのだろうか。

    魂の属性によって取りがちな行動パターンがあるなら、それは魂のクセのようなもので、仮にそれが迷惑行動だとしても、当事者にとっては今世の課題として必要な体験なのかもしれない。

    とは言え、ネット上で大局的見地に基づいた情報が主流になり、魂磨きの修行に励む人が増えるよう、本当に必要不可欠な情報は、陰陽師と協議を重ねながら、これからも発信し続けなければと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    青年は思議していた。

    見えない存在とのやりとりを断言的に話す人物は、眷属や魑魅魍魎の影響を受けている可能性が高いことから、そうした人物が発信する情報には注意すべき、ということについてである。
    では、陰陽師/霊能力者の条件とは、どのような内容なのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、今日は陰陽師/霊能力者の条件について教えていただけませんか?』

    「今日もまた、壮大なテーマじゃな。して、その質問をするにあたり、どのような経緯があったのかな?」

    『陰陽師や霊能力者という言葉は巷に溢れかえっていますが、実際のところ、先生のような陰陽師/霊能力者との違いが、いまいち理解できないのです』

    「なるほど。その質問に答える前に、確認ではあるが、そなたは霊能力についてどのような理解をしておるのかな?」

    『まず、霊能力者は、鑑定結果の属性表の現世における具体的な性格/ソフトに続く因子が(±1〜9)となります。そして、霊能力は古来の分類では6つ、天眼通力、天耳通力、自他通力、運命通力、宿命通力、漏尽通力があり、先生たち陰陽師/霊能力者の間では、天眼通力、天耳通力、自他通力、漏尽通力の存在を認める人物が多い反面、運命通力、宿命通力の存在については懐疑的な意見を持つ人物がかなり多い、と以前にお聞きしました」

    青年の説明を聞いた陰陽師は、小さく頷いた後に口を開く。

    「“運命通力”と“宿命通力”に対し、懐疑的な意見を持つ人物が多い理由については、理解しておるかな?」

    『未来は地球上にいる80億人の人間たちの一瞬一瞬の選択の積み重ねと、地震、津波、気温の急激な変動といった天変地異などが複雑に絡み合っているからで、大まかな道筋はついているとしても、確定した未来は存在しないから、と認識しています』

    「その通りじゃ」

    小さく頷きながら、陰陽師は霊能力の詳細を紙に書き記していく。

    ・宿命通力:その人がどういう天命を持って生まれてきたのか、何故こういう運命になったのかという、前世・今世・来世のことがわかる能力。

    ・運命通力:運命を予知する能力で、以前こういうことがあったとか、この先こういう時期にこういうことがあるであろうということがわかる能力、簡単に言えば、人間の過去世や未来が見える能力。

    ・天眼通力:相手が何をしているか、将来はどうなるか、それらを神様が霊眼で見せてくれる能力。

    ・天耳通力:耳で神の意図がキャッチできたり、心霊と話ができたりする能力。

    ・自他通力:読心術のことであり、相手の思っていることがすぐ読めるという能力。“黙って座れば、ピタリとあたる”という易者などが、その典型的な例。

    ・漏尽通力:人の悩み、苦しみ、人生上の様々な問題を(今世の宿題と抵触しない程度に)解決する能力のことで、漏尽とは漏れなく尽くすという意味となり、人間の問題点、苦しみを漏れなく尽くして解決し、幸せに導く能力。

    青年が書いた内容を読み終えた頃合いに、陰陽師は口を開く。

    「一つ加えておくと、この世が修行の場であるという前提からすると、最後の“漏尽通力”も“幸せに導く能力”という点に問題があることを覚えておくようにの」

    『たしかに。人間の問題や苦しみを解決することは、多くの新興宗教が目指している“地上天国”を目指すことに繋がりかねませんからね』

    納得顔で頷く青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

     

    陰陽師について

    「さて、話を戻すが、平安時代あたりにおける陰陽師の定義とは、天文学、暦のエキスパートのこととなり、現代で言うところの、科学者や文部大臣のような存在じゃったと考えてもらうといいじゃろう」

    『なるほど。陰陽師と言うと、どうしても霊能力/超能力者というイメージがつきまとうのですが、天文学や暦といった理科系のエキスパートだったのですね。たしかに、三国志で有名な諸葛亮孔明も軍師とか祈祷師というイメージが強いですが、赤壁の戦いにおいて、地形図と天候を把握して東南の風が吹くことを知っていたという説を聞いたことがあります』

    「諸葛亮孔明の話はさておき、960年40歳で天文得業生(陰陽寮に所属し天文博士から天文道を学ぶ学生の職)であった安倍晴明は、村上天皇に占いを命ぜられておることをみてもわかるように、占いの効能は、当時の貴族社会で広く認められていたようじゃ。また、993年2月に一条天皇が急な病に伏せった折、安倍晴明が禊を奉仕したところ、たちまち病が回復したことや、1004年7月には深刻な干魃が続いたために清明が命を受けて雨乞いの五龍祭を行なったところ、雨が降ったという逸話も残っておるところからも、そのような効能の一端を窺い知ることができる」

    陰陽師の説明を聞いた青年は、スマートフォンで自分なりに調べてから口を開く。

    『雨乞いは天文学の知識でもできそうですが、病気平癒に関しては、まさに“霊能力”のなせる業だと思います。それに、979年当時59歳だった安倍晴明は、那智山の天狗を封じる儀式を行なったようですが、天狗が魑魅魍魎(※第36話参照)に含まれることを考えると、先生が日々行なってくださっている“お祓い”に近いことはできたのではないかと』

    陰陽師は手元にあった属性表の束をめくり、その中の一枚を青年の前に差し出す。

    安倍晴明SS

    安倍晴明の属性表を見た青年は、驚きの声を上げる。

    『安倍晴明はやはり“霊能力者”で、しかも(±1)と最上位なのですね! ただ、先祖霊の霊障に“17:天啓”があることと、精神疾患に“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”のみがあることを踏まえると、これらの合わせ技によって、人生の大事な分岐点で、眷属や邪神に唆されたり、占術の結果を誤解した可能性があるのですね』

    「以前にも説明したとおり、精神疾患の項目に関しては、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点が重篤であるのと同様、13番がなく14番だけということは、それだけ14番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    腕を組んで小さく唸る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「とは言え、彼は晩年、左京権大夫、穀倉院別当、播磨守などの官職を歴任し、位階は従四位下にまで昇ったようじゃが、発揮されていたパフォーマンスが40%の状態でも彼がそこまでの地位にたどり着けたのは、まさに属性表の数値のなせる業というわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表に目を通す。

    『おっしゃる通りだと思います。では、属性表や当時の実績から、安倍晴明は先生のような陰陽師/霊能力者の条件を満たしていたと考えても問題ないのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから口を開く。

    「いや、それはまた別の話になる。仮に彼が霊的なものごとに対するソリューションを持つ人物であっても、ワシの考えに賛同するとは限らぬし、現世利益や私利私欲のために能力を行使せず、本物の“カミ”の意向を把握していたかどうかには大いに疑問が残るからの」

    『なるほど。真の“霊能力者”であるかどうかは、霊能力の強さなどの属性表の結果だけでは決まらないということですね』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ところで、最近、メディアで話題になっている陰陽師がいるのですが、彼なんかはいかがでしょうか?』

    「ふむ。鑑定するまでもなく怪しげな人物のようじゃが、その前に、そなたなりの見解はどうなのじゃ?」

    いつもの笑みでそう問いかける陰陽師に対し、青年は苦笑を浮かべながら口を開く。

    『頭2の魂2−4で霊媒体質(−1)、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、第6・7チャクラが乱れているのではないかと』

    そう答えた後、青年はその陰陽師の名前を陰陽師に告げる。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    橋本京明SS

    属性表を見た青年は目を見開き、口を開く。

    『やはり、チャクラの乱れは6のみでしたか。SNSを通じていろんな人物の属性表を見て思うのは、肩書きや経歴を誇張気味で発信している陰陽師や霊能力者は、基本的に、頭が2で魂2−4の人物が多いように感じます』

    「全員が全員、頭が2の魂2−4とは限らぬものの、そなたの見立て通り、確率的に頭2の2―4が多いと思って差し支えはないじゃろうな」

    『僕としては、一人でも多くの方に、魂磨きの修行の重要性に早めに気づいていただきたいと思っているのですが、彼のような人物の言葉を信じ、今日もモチベーションを保って仕事に励んでいる人たちがいることは、悩ましい限りです』

    「そなたの言うこともわからぬではないが、結局は、本人たちが信じるに値すると判断した力や見えない存在を信じるのはしょうがないことじゃし、信じた結果から学ぶこともまた、修行の一つなのじゃろうて」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で首肯し、口を開いた。

    『ちなみに、この人物ですが、彼の祖父が陰陽師で、霊に対する魔の祓い方を教わったことをきっかけに、学童の頃から占いの学問を始めたようです。魂2−4が学業に突出するという特徴と、転生回数が数奇な運命を歩みやすい230回代であることを鑑みると、まさに学問としての占いは、彼にとって得意分野だったのかもしれません』

    「たしかに、2―4の占い師が多いのも、そのほとんどが2(3)-4であるのも、統計学的な事実じゃからな」

    陰陽師はいつもの笑みを浮かべて小さく頷いた後、口を開く。

    「ちなみに、霊能力に関して、忘れてはならぬ原則がある」

    『とおっしゃいますと?』

    そう言い、青年は背筋を伸ばす。

    「それは、“霊能力”は基本的に一代限りという大原則じゃ。仮に、その子孫たちが初代の“霊能力者”の人物の儀式の型や智恵を代々伝承したところで、それらの形式的な儀式が、様々な霊的な問題にたいして全く用をなさないことは、伝統的な宗教を見れば一目瞭然じゃ」

    『つまり、陰陽師/霊能力者の何代目の子孫と謳っているからと言って、本人に霊能力があるとは限らないということですね。ちなみに、この陰陽師は様々な占術を用いて占いをしているようです』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作して占術を告げていく。

    「まあ、その人物が、何を種本にして占いをしようと、自由じゃが」

    そう前置きをしたうえで、陰陽師が口を開く。

    「一口に暦と言ったところで、その暦自体も、世界規模でこれまでに何度も変わっておるし、大きな視点で見れば、地球もその他の星々も、宇宙の同じ場所に存在しているわけではない。また、先ほども言ったように、未来は我々人間一人一人の行動と地球の活動によって変化することから、未来予知に関する鑑定自体、ワシに言わせるとあまり意味がないということになる」

    『そうでしたね。仮に占いで望ましい未来が出、それが的中してその時は幸せだったとしても、その幸せが、実は、さらなる不幸の始まりとなる可能性もありますし、その逆もまた然りなわけですから、未来のことを考える暇があるなら、瞬間瞬間の選択で悔いが残らないように行動する方が大事なのですよね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に陰陽師はいつもの笑みをたたえて頷いた後、口を開く。

    「他に、誰か気になる人物はおらんのかな?」

    『テレビ番組に出演していた霊能力者として、この人物はいかがでしょうか?』

    「どんな人物かの?」

    青年はスマートフォンを操作し、その霊能力者の経歴を挙げていく。

    『彼は18歳頃から心霊現象に悩まされてから、1年間寺で修行した後、2年間の滝行を経て憑依体質を克服したと書かれています。その後、霊視アドバイスを続ける中で、別荘の心霊現象に悩んでいた小説家の相談に乗ったことで、その小説家の縁でメディアに出演することになったと。その後は、テレビ番組にレギュラー出演するだけでなく、霊視によってゲストの部屋の中を言い当てるなどして番組を盛り上げていたようです』

    黙って耳を傾ける陰陽師の様子を察し、青年は続ける。

    『ただ、彼の番組をきっかけに中学生が飛び降り自殺をしてしまったり、とある女優の死んだ父親を霊視して語ったところ、実はその父親は存命だったり、合成された偽物の心霊写真を本物だと断言してしまうなど、彼の霊能力に対する疑惑や批判の声もそれなりにあったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かし、紙に鑑定結果を書き記していく。

    江原啓之SS

    内容を一通り眺めた青年は、小さく息を漏らしてから、再び口を開く。

    『残念ながら、この人物はいわゆる“霊能力者”ではありませんでしたか。彼は、イギリスに渡ってアカデミックなスピリチュアリズムを学び、短大でスピリチュアリズム授業を行うなど、現実面での活動もしっかりしていたようですが、少し残念です』

    「修験道での修行や滝行によって憑依体質を克服したと言っておったが、霊障と天命運に“17:天啓”の相が残ったままじゃし、言うまでもないことじゃが、修行によって霊能力が身につくことも、霊媒体質が変わることもない」

    陰陽師の言葉に対し、青年は頷いてから、口を開く。

    『血脈の霊障に“3:精神”と“4:病気”の相もありますから、以前にお話を聞かせていただいた、前世の記憶を語る少年(※第24話参照)に近いケースなのかもしれませんね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「ワシが知る限りでは、彼はオペラ歌手もやっているようじゃが、自身の公演の中で歌を披露してみたり、他のプロの歌手と共演という形を取っていることから、 “排除命令”に抵触しないグレーゾーンでも活動しているようじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表を眺めから、口を開く。

    『オペラ歌手以外にも、一般社団法人の理事長や、作家やタレント、スピリチュアルカウンセラーと活動が多岐にわたっているので、魂の属性が、プロのスポーツ・芸能・芸術を生業にできる2−3−5−5…2(※第23話参照)ではありませんが、ギリギリセーフなのでしょうね』

    「かなりきわどいところを歩いているが、今までのところ、ぎりぎりセーフと言えなくもないのじゃろうな」

    『よくわかりました。それにしても』

    二つの属性表を手に取り、青年は眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『先ほどの陰陽師もそうですが、メディアで話題になる人物は、先生のような陰陽師/霊能力者の条件にあてはまる人物は、ほぼいなそうですね』

    そう言い、暗い表情で視線を落とす青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら声をかける。

    「そう落ち込むでない。そもそも、見えない世界の話じゃから、陰陽師/霊能力者が行使している能力が本物か偽物かを判定することは難しい。また、どの人物が仮に本物だとしても、多くの新興宗教のように地上天国を目指すという方向性が正しいのか、現代医学の西洋医のように、病気だから治すのが善(最終的に不老不死を目指す)という考え方が正しいのか、という問題もある」

    『なるほど。安倍晴明は病気平癒や雨乞いをしていましたが、それらが“本物のカミ”の意向に沿っていたとは限らないのですね』

    「その通りじゃ。仮に陰陽師や、既存の新興宗教の開祖が、たとえそれなりの霊能力を持っていたとしても、彼らがどのような“理念/哲学”をもって、教義や宗教を確立させたのかということの方がはるかに重要なのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、記憶を辿るように視線を巡らせ、黙考する。
    そんな青年に対し、陰陽師は励ますような笑みを向けて言葉を発した。

    「何か気になることでもあるのかの? どんなことでもかまわぬから、とりあえず話してみるがよい」

    そんな陰陽師の様子を見て安心したのか、青年は小さく頷いてから、口を開く。

    『以前、“邪神”は既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”とお聞きしましたが、新興宗教の信者たちが教祖を神格化することによって、死後、教祖が邪神となってしまうこともあるのでしょうか?』

    「その場合の“邪神”は信者側の問題であるわけじゃから、本人とは直接関係はないが、教祖本人が死後も崇めてもらおうとこの世に執着し、地縛霊化しているケースは十分に想定できるじゃろうな」

    『なるほど。邪神と霊障の関連で思ったのですが、新興宗教の信者をご先祖に持つ霊媒体質の子孫の場合、霊障の12と13、すなわち、邪神1と2の相がかかりやすいのでしょうか?』

    「その可能性は高いじゃろうな。困った時の神頼みという話も、今よりも霊主体従であった時代には、極めて自然な行為だったはずじゃろうから、そのような新興宗教の信者たちが、教祖の死後、教祖を神格化し、魂磨きの修行という本来の道筋から離れてしまった結果、死際に、この世になんらかの執着を残して地縛霊化してしまうことも大いにありえたはずじゃ」

    『なるほど。何だか恐ろしい話です』

    そう言い、身をすくめる青年にいつもの笑みを浮かべ、陰陽師は続ける。

     

    令和の生き方とは

    「“本物のカミ”よりも“似非神様”ばかりが注目され、求められるのは、“カミ”がすがるものではなく、感謝するものという基本をわきまえないことに起因しておるとワシは思う。ゆえに、この世は魂磨きの修行の場であり、地球人全員が幸せになることも地上天国を目指すことも違うということを、一人でも多くの人に伝える必要があるわけじゃな」

    『たしかに』

    陰陽師の言葉に対し、真剣な表情でうなずいた後で、青年は口を開く。

    『ただ、物事に行き詰まった時に、自分の力で乗り越えるのではなく、他力本願になってしまうのは、人間誰しもが持つ弱さである以上、そのような姿勢はある程度はしかたないものと考えるべきでしょうか』

    「もちろん、特に霊媒体質の人物の多くは、霊障によって余計な重荷を背負っていることから、本来なら乗り越えられる試練をパスできないことも大いにあり得る。そのような人物に対し、根本的な解決策を提示することなく、現世利益を叶えた後の代償を無視したまま目の前の人物の“弱さ”を食い物にする宗教が幅を利かせていること自体は、大いに問題じゃと思う」

    『令和のねじれによって、“体主霊従”から“霊主体従”に方向修正した要因の一つとして“コロナ禍”が生じたと僕は認識していますが、世の中が混沌として不安になりやすい時代だからこそ、なおさら氣をつけなければいけないわけですね』

    「その通りじゃ。ワシのみるところ、2021年は、地球規模でますます“ねじれ解消の動き/霊主体従化”、すなわち、世界レベルの混乱が深まっていく可能性が極めて高い」

    青年は驚きに目を見開き、しばらくうろたえてから、ようやく口を開く。

    『新型コロナウイルスの中には、変異して感染力が高まり、猛毒化しているとも聞きますから、コロナ禍が落ち着くどころか、さらに激化する可能性もあるということでしょうか』

    「そのあたりは、ワクチンの効能と接種のスピードとの兼ね合いが肝となっていくのじゃろうが、このコロナ禍自体は、まだまだ続くとみた方がいいじゃろうな。それと、幸か不幸か、たまたまこの時期に転生している人々の“現世的に見た”勝ち負けがはっきりしてくる可能性も極めて高く、2020年以降の勝ち負けが、今世の宿題の達成度とほぼイコールと言う側面も決して無視することはできないと思う」

    青年は思案顔で腕を組んだ後、口を開く。

    『そうなると、現世利益を叶えてくれる眷属や邪神を崇めてたり、現世利益を叶えることにフォーカスした占い師や霊能力者に助言を仰ぐほど、むしろ現世利益の獲得が遠のくという、矛盾が生じるわけですね』

    「何を信じるかは各人の自由じゃが、ワシが他の新興宗教団体の教祖や霊能力者と異なる点は、大まかに言って二つある。一つ目は、この世は修行の場という前提のもと、現世利益にコミットしないこと。そして、二つ目は、ワシを教祖として神格化しないことじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は首肯して続きを待つ。
    青年の意図を察した陰陽師は、一呼吸置いてから再び口を開く。

    「一つ目に関して言うと、たとえば、神事によって“8:異性”の相を解消したからといって、その意味するところは、自分好みの異性と恋愛をし、その結果、結婚できるようになる、ということを保証しているのではなく、あくまで霊的な重荷を取り除き、素の状態になった人物が魂磨きの修行に励めるようにお膳立てすることに他ならない」

    『そうでしたね。僕のように恋愛運の数字が低い人物は、霊障が解消しても異性絡みのトラブルがなくなるわけではなく、女性と様々な問題を起こすこと自体が魂磨きの一環ということだったと記憶しています』

    苦笑しながらそう言う青年に対し、陰陽師は笑みを向け、続ける。

    「二つ目に関して言うと、ワシは、自ら交信する“カミ/セントラルサン”からの回答を受信したり、そのパワーをクライアントに“転送”する能力はあるものの、自らが完全な存在では決してない。つまり、一人の人間として、必ずしも褒められる人間とは限らないというのも重要なポイントとなる」

    陰陽師の言葉に対し、驚きの表情を見せながら青年は口を開く。

    『先生のお考えやお人柄を見知っている僕としては、尊敬できる人物だと思いますが、属性表の内容が我々と大きく異なる人物からしたら、また違った評価をされることもあるのでしょうね』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖よろしく、自らを“生き神様”などと規定すること自体、“カミ”を恐れぬおこがましい行為じゃし、陰陽師/霊能力者がその能力を行使するにあたり、“何が善であり何が悪なのか”という自分なりの判断基準を持つことが必要不可欠じゃ、とワシは思う」

    『地上天国を目指している新興宗教とは異なり、完全な存在である必要も、目指す必要もなく、各人が魂磨きの修行に生まれてきているわけですからね』

    青年の言葉に、陰陽師は軽く頷いていから、再び口を開く。

    「それに、本物の陰陽師/霊能力者は、その職責として、“カミ”とは“公平無私”なる存在であり、利害の異なる個々人のいずれにも加担することのない存在であることを、あらゆる機会をとらえ、一人でも多くの人々に伝える義務を負っているわけじゃ」

    『なるほど。そして、先生のような陰陽師/霊能力者は、あくまで霊媒、“カミ”の言葉の通訳者に過ぎず、しかも“本物のカミ”の言葉であるから、特定の人物のみに利益をもたらしたり、特別扱いするような内容にはならないと』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖は、自分のみが通信可能な“神”を共有したり、その“神”を偶像化し、信者/クライアントたちにそれを祈るよう強要しているが、それこそが“邪道”なわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は少し唸ってから口を開く。

    『眷属や邪神にすがることは“邪道”、せっかく現世利益が叶えられたとしても、崇めるのを止めた瞬間にしっぺ返しをくらい、得た物を失ってしまうとするなら、眷属や邪神は最初から存在しなければいいのに、と思います』

    「そなたの言いたいこともわかるが、そのあたりが“この世は修行の場”たる由縁で、魂2:貴族(軍人・福祉)に観音と不動明王の役割があるように、眷属や邪神にも、この世の善悪を超えた役割があるのじゃよ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえ全ての神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、眷属や邪神を頼ることをやめられない人はいるわけじゃし、日々の過ごし方によっては、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾ってしまい、魂磨きの修行から遠のいてしまう人も少なからずおるのが、この世の常なのじゃよ」

    青年は腕を組み、しばらく黙考した後、口を開く。

    『つまり、魂磨きの修行も一本道ではなく、常に修行の道から外れないように“不動心”を養わなければいけないという、いつものお話に帰結するわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「そなたも、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解してきたようじゃな」

    そう言い、頭を下げる青年を横目に、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師の言葉を反芻していた。
    人生の目的が魂磨きの修行であるということは、現世利益を求めることとは似て非なるものである。
    だが、平成までの“体主霊従”の時代とは異なり、“霊主体従”の時代へと変化を遂げる令和の中で、今世の宿題を達成することが副次的に“現世的な成功”に結びつくとするならば、現世利益的なことに一喜一憂する必要もなく、今まで以上に真摯に生きていけばいい。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2017年に起きた、座間9遺体事件の犯人に対し、第一審で死刑判決が下されたことについてである。
    この事件は、犯人がTwitterを用いて自殺願望がある女性にメッセージを送り、性的暴行と金品の強奪を目的に自宅に誘い、犯行に及んだものである。だが、実際のところ、加害者も被害者も自殺するつもりはなく、被害者の意思を無視した一方的な殺人だったようである。
    また、わずか二ヶ月という短期間で起きた事件という点からも、日本中を震撼させた事件と言えよう。

    加害者の魂の属性や、彼にかかっている霊障については想像に難くないが、9人の被害者には何らかの共通点があったのだろうか?

    一人で考えても埒があかないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は座間9遺体事件について教えていただけませんか?』

    「ふむ。事件名から推測するに、大量殺人事件のようじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから、事件の概要を説明した。

    「なるほど。それはまた、物議を醸す事件のようじゃの。して、加害者の鑑定をするにあたり、まずそなたなりの見立てを聞かせてもらえるかな?」

    陰陽師の問いに青年はあごに手を当ててしばし黙考し、やがて口を開く。

    『魂の種類が4−2であることと、霊障に“5:事件”の相があること、この二つが原因ではないかと』

    青年の見解に黙って耳を傾けていた陰陽師は、やがて指を小刻みに動かし、鑑定を行う。

    「そなたの言う通りのようじゃな」

    真剣な表情で結果を待つ青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「ところで、ちょうど魂の種類の話が出てきたことじゃし、確認も兼ねて、魂の種類と転生回数期について、もう一度そなたなりに理解していることを説明してもらおうとするかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、説明を始める。

     

    魂が生まれた理由

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    青年の回答に一つ頷いた後で、陰陽師が口を開いた。

    「ところで転生回数と魂の別によって、この世での役割もある程度決まっていることについては、どう理解しておる?」

    『この世での魂の種類ごとの役割についてですが、たとえば、今回の事件の加害者は魂の種類が4−2、すなわち、転生回数期が第四期の魂2になり、大量殺人といった凶悪犯罪者を起こす人物の多くが、この属性に該当するとお聞きしました(※第4話参照)』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    《魂の種類》
    魂1:僧侶/王侯
    魂2:貴族(軍人・福祉系)
    魂3:武士・武将
    魂4:一般庶民

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    青年が紙に書いた内容を読んだ陰陽師は、いつもの笑みをたたえてうなずいた後、口を開く。

    「そなたの説明につけ加えるとすれば、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、どうしても物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなる」

    『魂2は観音と不動明王という、一見相反するように思える真逆の二つの側面を持っているとのお話でしたが、今回のケースも、第四期の不動明王的な側面のなせる業だと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙ってうなずくのを視認し、青年は続ける。

     

    加害者の動機と魂の属性

    『加害者は、死にたいとツイートした女性にDMを送り、お金を長期的に引っ張れ、ヒモのような生活が送れること、彼に好意を持ってくれること、という二点を満たす女性を探していたようです』

    「なるほどのう」

    『一人目の被害者は、犯行に使われていた犯人の自宅の初期費用を負担するという、金銭面の条件を満たしていましたが、彼女には交際相手がいると察したことから、もう一つの条件を満たしていなかったため、性欲を抑えきれずに性的暴行を加えてしまった結果、殺害にまで至ったようです』

    「性的暴行を加えたことは理解できるが、その後に殺害までする理由がいまいちわからぬが、そのあたりは?」

    『実は、加害者は2017年2月に“職業安定法違反の疑い”で逮捕されていまして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決が出ていたようです。それで、性的暴行を加えたことが発覚したら実刑になってしまうことを恐れ、証拠隠滅という意味合いも含めて、殺害に及んだと思われます』

    「つまり、加害者は、殺人よりも実刑の方を恐れていたわけじゃな」

    『そのようです。しかも、ヒモ願望があった彼は、働く意欲にも欠けていたようで、一回目の犯行後も、家賃を支払ってくれる次の女性を探していました。また、最初の一人がうまくいったから、次もうまくいくと自信を持ったようで、二人目以降は殺害を円滑に行うため、様々な道具まで準備していたとのことです』

    「加害者が求める、二つの条件を満たす女性はなかなか見つからないと思うが、見つかるまでTwitterを用いては女性を誘い込み、条件を満たさないとみれば、性的暴行を加えて殺害し、再び次の女性を探す、ということを繰り返しておったのじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は眉間にしわをよせてスマートフォンを眺めながら、口を開く。

    『ところがですね、8人目の被害者は金払いがよかったらしいのですが、結局、性欲を抑えきれずに強姦し、殺害したとのことから、犯行に及んでいる最中は、それらの条件を無視してしまっているように見受けられます』

    「結局のところ、性欲を満たすことが目的になってしまったわけじゃな」

    『どうもそのようです。しかも、二人目までは殺害に対して罪悪感を覚えていたようですが、それ以降は罪の意識が軽くなってしまったようで、昏睡状態の女性との性行為による快感を覚えたこともあり、犯行をやめるつもりはなかったとも陳述しています』

    「して、それ以外に、加害者について気になるところはあるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『遺体の切断方法をインターネットで検索したり、発覚を恐れて遺体や解体道具を捨てられずに室内に残していたようですが、犯行を繰り返せば置き場がなくなったり、犯行を重ねるにつれて増えていく遺体から生じる腐乱臭が原因で近隣住民に通報される恐れがあることなどに思いが及ばなかったのかなど、思慮が足りないと思うことがあります』

    「なるほど。たしかに、当該の人物は短絡的な思考の持ち主だったようじゃな」

    陰陽師のあいづちに応えるように、青年は再び口を開く。

    『情報によれば、逮捕される当日まで交際していた女性がまた別にいたことから考えても、彼は逮捕されるまで延々と同じ手口で犯行を繰り返していたのだと思います』

    そう言い、ため息を吐く青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を聞くかぎり、頭2の4−2らしい振る舞いと言えば言えるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は紙にペンを走らせ、鑑定結果を書き記していく。

    白石隆浩SS

    鑑定結果に目を通した青年は、表情を曇らせ、口を開く。

    『やはり、加害者の魂の種類は4−2でしたか。そして、霊障と天命運に“5:事件・加害者・死”の相がありましたか…』

    「加害者が今回の事件を起こした理由として、頭が“2”であることと、枝番の数字が“9”であることが挙げられるが、そのあたり、そなたはどう考える?」

    『頭が2ということは、狩猟民族の末裔、すなわち“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向を持っていると認識していますが、同じ大量殺人犯であっても、頭が“1”である植松聖死刑囚(※第26、27話参照)のように、それが正しいか否かはともかくとして、障碍者や介護の現状を世の中に訴えるような信念みたいなものはなく、己の都合のためだけに事件を起こしたと判断できます』

    「その通りじゃな」

    『ところで、一つ質問があるのですが、加害者が持つ“9”と枝番の数字には、どのような意味を持っているのでしょうか?』

    自力で答えにたどり着けなかったからか、青年は申し訳なさそうに問う。陰陽師は、青年を励ますような笑みと声音で答える。

    「枝番には二つの種類があり、下段の数字と欄外の数字に分けられる。欄外の数字、加害者の結果では“9”に該当する箇所じゃが、この枝番は魂の性質の1・2・3と4・7・9との組み合わせによって意味合いが変わってくるものの、おおむね1から9に向かうにつれて、各々の特徴に“粗さ/雑味”が出てくる」

    『とおっしゃいますと?』

    「この世の印象でいえば、枝番の数字が1〜3の人物は“性善説”、4〜6は“性善説と性悪説”、7〜9は“性悪説”論的な性格を有している」

    『つまり、加害者は枝番が“9”で完全な“性悪説”論的な性格を持っていることから、この世の善悪の基準では悪事と見なされる行動が、彼にとってはそれほど罪悪感を喚起するものではなかったということでしょうか?』

    「人間は、頭の1/2を初めとする、魂の種類、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、そして枝番といった様々な数字の組み合わせでできた多面体のようなものであることから、一概にこうとは言えぬとしても、今回の事件に関しては、そうと言うことになるじゃろうな」

    『なるほど…』

    陰陽師の説明を聞いた後、再び鑑定結果に目を通した青年は、再び口を開く。

    『加害者の魂の特徴は、3番目と4番目の上段の数字が“2”ですから、彼は“攻撃性”と“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という特徴を持っていることになり、さらに欄外の枝番の数字が“9”ですから、霊障の“5:事件”の相との相乗効果によって、この事件を起こしたことは容易に想像できると思います』

    「その通りじゃな。それと、もう一つ言及すべき点は、彼の魂の特徴の5番目の上段の数字が“1”であることじゃ」

    青年は再び加害者の鑑定結果を覗き込み、口を開く。

    『そこは“自己顕示欲”の項だったと思いますが、そこの上段の数字が“1”であるということは、自己顕示欲があまりない、あまり目立った行動を取らない性格のため、学校や介護施設といった公共の場を襲うといったタイプの大量殺人事件ではなく、他人の目が届かない自室で犯行を繰り返したというわけですね』

    「もちろん、杓子定規に考えれば、そのような理解もできなくはないが、魂の特徴の上段の5つの数字の中で、“2”が二つ以上あり、5番目の上段の数字が“1”である以上、そのような人物は、いわゆる“外面がいい”というタイプ、つまり、腹で思っていることとその言動には、それなり以上の乖離がある人物と考えるべきじゃろうな」

    『なるほど。上段の5つの数字は“1”が多ければいいというわけではなく、今回のような数字の組み合わせを持つ人物は、言動に大きな乖離があると理解すべきなのですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が続ける。

    「して、周囲から見た加害者の人物像は、実際どのような印象だったのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて、画面を見ながら口を開く。

    『同級生や以前の職場といった人物からは、素直、真面目、普通、広く浅く仲良くするタイプ、どちらかというと礼儀正しい、好青年など、鑑定結果の通り、外面はよかったようです』

    「なるほど。であるとするならば、今度は、被害者たちを鑑定していくとするかの」

     

    被害者たちの魂の属性

    『彼が今回の事件を起こした背景に納得できましたが、9人の被害者の方々にはどんな共通点があったのか、とても気になります。ぜひ、よろしくお願いします』

    そう言い、青年はスマートフォンの画面を見ながら、被害者たちの名前を挙げていく。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、手元の紙に鑑定結果を書き出していく。

    1人目

    三浦瑞季SS

    2人目

    石原紅葉SS

    3人目

    西中匠悟SS

    4人目

    更科日菜子SS

    5人目

    藤間仁美SS

    6人目

    久保夏海SS

    7人目

    須田あかりSS

    8人目

    丸山一美SS

    9人目

    田村愛子SS

    被害者9人の鑑定結果を食い入るように見た後、青年は口を開く。

    『やはり、全員に“5:事件・被害者・死”の相がありましたか…』

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「霊障以外にも、人運、欄外の枝番、頭の1/2、精神疾患にも共通点があるが、そなたはどう考える?」

    陰陽師に問われた青年は、再び鑑定結果を眺め、しばらくしてから答える。

    『全員の人運が3以下と極端に低いですね。3人目の被害者の男性は人運が7と高くはないものの、彼は1人目の被害者の交際相手で、加害者が彼に対面した際に、彼を通じて殺人事件が発覚するのを恐れ、口封じ目的で殺害したとのことですが、結局は1人目の交際相手との縁と“5:事故/事件”の相によって巻き込まれてしまったのだと考えられます』

    「たしかに、そのようじゃのう」

    『あと、欄外の枝番ですが、ほぼ全員が“1〜3”すなわち、“性善説”論的な性格を持っていることと、頭が“1”という点から、被害者たちは犯人の外面の良さに惑わされ、自分が殺害されるとは露ほども思わなかったのかもしれませんね』

    「そなたの説明に一言つけ加えるとすれば、2人目の被害者の枝番の数字は“5”、すなわち“性善説と性悪説”論的な性格を有していることから、彼の怪しい点に気づけた可能性もあったのじゃろう。しかし、そこを見て見ぬふりをしたのか、見抜けずに殺害されたかはともかくとして、2人目の被害者も、結局は、霊障に引っ張られてしまったと考えるべきじゃろうな」

    『今の問題に関連してお聞きしたいのですが、今世の使命とその右側の二つの枝番の数字が乱れている人物が多いようですが、こうした数字の乱れを持つ人物は、数字が乱れていない人物に比べて数奇な人生に向かう傾向があると考えて差しつかえないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。加えて、全員の乱れている数字が、他の数字に比べて1から9の方へと増えている、つまり、“性悪説”論的な性格に近づいていることも、“5:事件”の相へ引っ張られてしまった一因なのじゃろう」

    青年は、なるほど、と小さくつぶやいた後、続ける。

    『他者の“念”、雑霊/魑魅魍魎を拾った際に顕在化する精神疾患の共通点としては、多くの人は“13:邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”、“14:邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”、の二つがあるのに対し、被害者たちは全員13のみですが、こちらなども、加害者の“念”を拾ってしまい、自殺という暴力的な方向に引き寄せられてしまったと考えるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を左右に降ってから、口を開く。

    「こちらは、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点のみが重篤であるのと同様、14番がなく13番だけということは、それだけ13番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    『なるほど。そのあたりも、被害者たちが犯人に引き寄せられた要因ともなっているわけですね』

    「そういうことじゃ」

    『さらに、今回の事件は、魂の属性が3:“霊媒体質”の人物が、雑霊/魑魅魍魎の周波数が似ているインターネット上のTwitterを介したことで、被害がより拡大したと』

    「その点も、そなたの言う通りじゃろうな」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてから、続ける。

    「我々のような“霊媒体質”の人間からすれば、今回の一件に“霊障”が一定以上の影響をあたえておることを理解できるじゃろうが、魂の属性7:唯物論者にすれば、インターネットを通じた縁でこんなに多くの人物が殺人事件の被害に遭うこと自体が、理解の埒外なのだと思う」

    『精神鑑定の結果、加害者には刑事責任能力が認められると判断されましたが、加害者は、“警察に、性犯罪は麻薬をしているような状態と言われ、まさしくそうでした”と供述していたようで、なぜあのような凄惨な事件を起こしてしまったのか、本人もよくわかっていないようですね』

    青年が苦々しくそう言うのに対し、陰陽師は口を開く。

    「そのような顔をするでない。“あの世”や“永遠の世”は言うに及ばず、“この世”でさえ、唯我々が考えているほど、単純なものではない。どう単純ではないかと問われ、一言でその答えを提示することは難しいが、少なくとも、このような事件の加害者/被害者の今世の宿題、そして各々にかかる様々な霊障をじっくり吟味することによって、初めてその解を導くことができるのじゃ」

    『なるほど。現行の法律で杓子定規に裁けるほど、物事は単純ではないと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    『それに関連して一つ質問があるのですが、もしも今回の事件の加害者と被害者が全員、ご神事を受けて霊的な重荷を取り除いていたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?』

    「仮定の話であるゆえ断言することはできぬが、被害者の立場で今回の一件を考えるかぎり、この事件の主な原因が“5:事件・死亡”の霊障であることから、事件を回避できた可能性もなくはないじゃろう」

    『それならなおさら、一人でも多くの方にご神事を受けていただき、今回のような事件で命を落とす人物が少なくなってくれたら、と願うばかりです』

    そう言い、視線を落とす青年を横目に陰陽師は続ける。

    「ところが、問題は単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと?』

    「今も話した、今世の宿題の問題じゃ。いつも話しておるようにワシが執り行う神事とは、霊的な重荷を外して、素の状態に戻すためのものでしかない。つまり、神事によって善人にすることが目的ではないわけじゃから、仮にこの事件の関係者全員が神事を受けて霊障が解消され、パフォーマンスが100%になっていたとしても、加害者は同様の犯罪を犯していたじゃろうことは属性表を見るかぎり、明らかじゃ」

    『そうなのですか? ご神事を受けたクライアントの中には、別人のように性格や立ち居振る舞いが変わった人物もいたとお聞きしましたが』

    「もう一度、加害者の数字をよく見てみるとよい。そもそも、加害者の魂の種類が4−2で枝番の数字が“9”であることをはじめとし、属性表を総合的にみると、素の状態の彼がこの世の基準でいう悪事を働くことが当然と考える人物であることがよくわかるはずじゃ」

    そう言われ、青年はあらためて属性表に視線を落としながら、口を開く。

    『たしかに。この属性表をよく見るかぎり、犯人は、“7人目以降はお金よりも性的暴行目的になった”と言っていたことも合わせて考えると、今回のような大量殺人事件でなかったとしても、性欲を抑えられずに婦女暴行を行なっていた可能性は極めて高そうですね』

    「そのとおりじゃ」

    『そう言えば、加害者が逮捕される日まで交際していた女性がいたようですが、その人物の鑑定もお願いできますか?』

    そう言い、青年は10人目の被害者になる可能性があった女性の情報を告げる。

    陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    加害者の交際相手

    10人目SS

    しばらく鑑定結果を眺めていた青年が、ふたたび口を開く。

    『助かった人物と被害者たちとの相違点は、霊障と天命運の“5:事件”の相の一部が“死亡”ではなく“怪我”であることと、そして、枝番の乱れがないことですね。ただ、精神疾患が13のみであることと、人運の数字が“7”、枝番の数字が“3”であることから、やはりこの女性も霊障によって加害者と引き寄せられていたのでしょうか』

    「おそらく」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「そうした微妙な属性の違いのせいで、この女性は、紙一重の所で、事件の被害者にならずに済んだようじゃな」

    『加害者が逮捕されたために、今回は事件では決定的な被害に遭わなかったものの、霊障と天命運に“5:事件”の相があることに変わりはありませんから、今後が心配ではあります…』

    「たしかに。この女性の場合、今回の一件含め、命を落とすまでの被害には遭わないとは思うが、それでも行く末はちと心配じゃの」

    陰陽師の言葉に大きく頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    加害者の家族構成と魂の属性

    「ところで、話は変わるが、加害者の家族構成はわかるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを見ながら口を開く。

    『両親と妹がいる、四人家族です。ただ、現在、両親は離婚し、妹さんは母親について行ったようですが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    白石隆浩SS

    白石隆浩・父SS

    白石隆浩・母SS

    白石隆浩・妹SS

    白石一家の鑑定結果に目を通した青年が、大きな声を出す。

    『なんと。犯人の父親も、魂の種類が4−2なのですね! そして、両親共に恋愛運が“7”で、霊障と天命運に“8:異性”の相があることから、組み違いの家庭を築き、離婚に至ったと』

    「どうやら、そのようじゃな。じゃが、霊障や諸々の数字が犯人と異なるし、枝番も“3”と“性善説”論的な性格であることなども踏まえると、凶悪犯罪者ではないと思われるが、具体的にどのような人物なのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、答える。

    『加害者の父親は、大手自動車メーカーに勤務しており、近所の方による彼の人物像は、“すれ違えば、車の窓まで開けて丁寧に挨拶する人物”とあり、社会に適応して暮らしている印象を受けます』

    「やはりのう。いつもワシが、人間は多面体であり、頭の1/2、基本的気質、具体的性格、今世の使命、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、枝番や育った環境などで人格は異なるという話をするのは、この親子のように、頭が2であり、魂の種類が4−2だからといっても、みんなが皆、凶悪犯罪者になるとは限らぬということも、その理由の一つとなっているわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいてから、口を開く。

    『たしかに、魂の属性が親から子、あるいは祖父母から孫へ受け継がれるケースがあることを鑑みるに、仮に“魂4−2は全員、凶悪犯罪者”という図式が成り立つならば、加害者の父親の一族の多くが凶悪犯罪者になってしまいますからね』

    「そなたの言う通りじゃ。いずれにしても、人間には多面性があること、そして、ひとつの数字だけを取り上げて人物を評価してはならぬという大原則を、よく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずいてから、口を開く。

    『はい。魂の種類だけによる人物評価は、下手をすると魔女裁判になりかねませんので、鑑定結果の一部だけをみて早合点しないよう、肝に銘じておきます』

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、再び口を開く。

     

    事件に対してどう向き合うべきか

    「地球上の人類全員が善人になれば、不幸な事故や事件で命を落とすことはなくなると、凶悪犯罪がなくなることを願ってみたり、既存/新興の宗教が提唱するような地上天国を目指したくなる気持ちはわからんでもない。じゃが、常々説明しているように、この世は魂磨きの修行の場であるから、仮に地球人全員が神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、どこかしらの国や地域で凶悪犯罪や諍いがなくなるわけではないことをよく肝に銘じておくようにな」

    『今のお話、あらためて、了解いたしました。そして、たとえ素の状態であっても、凶悪犯罪を起こすことが今世の課題である加害者もいれば、その事件で命を落とすことを決めて産まれてきた被害者もいることもしっかりと頭に叩き込んでおきます』

    「うむ。その心意気じゃ。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、悪に反応して人を叩くのではなく、この事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要じゃとワシは思う」

    青年は、陰陽師の言葉をかみしめるように何度もうなずいた後、スマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『そうですね。この事件の影響で、Twitterは“自殺、自傷行為をほのめかす投稿を発見した場合は、助長や扇動を禁じます”との文言を追加し、違反者にはツイートの削除やアカウント凍結の措置をとるようになりました。また、日本政府も、“インターネットがきっかけになったとした”上で、ICT(情報通信技術)を活用し自殺予防策を強化する考えを示した、とあります』

    「そうした社会の動きによって、今後、同じ手口による被害者を減少してくれるとよいのじゃが」

    『おっしゃる通りだと思います。被害者の中には10代の若さで亡くなった人物がいることを思うと残念でなりませんが、この事件をきっかけに、同じような事件の被害者が少なくなることを願わずにはいられません』

    「ワシもそう思うが、人生の長短よりも、当人が今回の転生で自らの宿題を果たせたかどうかということ、そして当人の魂が肉体を離れる際に、この世に未練なくあの世に戻れることの方がはるかに重要じゃと、ワシは思う。400回の輪廻転生は、たとえるなら、制限時間つきの長距離走のようなもので、道草を食ったりコースとは関係ない道を迂回していたら、結局は終了時間が近づくにつれて速く走らねばならなくなる」

    陰陽師の説明を反芻しているのか、青年は真剣な表情でしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

    『つまり、パフォーマンスが低いまま長生きして今世を終えたとしても、じゅうぶんな魂磨きの修行ができたとは限らず、今世でこなせなかった課題が持ち越され、来世以降の人生がより過酷になる可能性がある、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。さらに言うと、今世が過酷で生きづらいと感じている人物は、前世でこなせなかった課題が今世に持ち越されているという可能性がゼロではないと、ワシは思う」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に一つ大きく頷いた後で、青年が口を開く。

    『ちなみに、今回の事件の被害者の中で、この世に未練やなんらかの執着があって地縛霊化している魂はいるのでしょうか?』

    恐る恐る問いかける青年に対し、陰陽師は指を小刻みに動かした後に口を開く。

    「いや。ワシがみるかぎり、今回の事件の被害者全員が地縛霊化していないことから、全員に“5:事件・被害者・死”の相があったものの、“殺されるというのも宿題の内”であったようじゃな」

    『そうだったのですね。胸が痛む事件であることには変わりませんが、被害者みなさんの魂が無事にあの世に戻っていると知り、少し安心しました』

    そう言って深い息を吐いた後、青年は続ける。

    『とは言うものの、先生に先祖供養の救霊神事祀りを依頼する人物が増え、今回のような事件で命を落とす人物が減り、同時に魂磨きの修行に励む人が増えたらと、あらためて思います』

    青年の言葉に、陰陽師はいつもの笑みでうなずき、壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はあの世とこの世の仕組みについて再考していた。
    あの世の理屈では、早く死ぬことが必ずしも悪となるとは限らないが、そうは言っても魂磨きの修行のためにこの世に来ていることを考えると、400回のうちの貴重な1回であることに変わりはない。
    この事件の被害者の命を無駄にしないためにも、そして、未来の自分、さらには来世の自分のためにも、この事件から気づき、学んだことを己の天命の糧にしよう。
    そう、青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    新千夜一夜物語 第36話:結界と魑魅魍魎

    青年は思議していた。

    陰陽師が対応している、日々のお祓いと結界についてである。
    霊媒体質を持つ人物が他者の念や雑霊を拾った場合、主に心身の不調による様々な症状が顕在化することはわかった。
    ただ、中には、仕事が忙し過ぎてお祓いの依頼ができない人や、短時間に何度もお祓いを依頼しても追いつかない人もいる。
    そうした人物には結界を張っていればいいのではないかと思うが、陰陽師はよほどのことがない限り、結界を張らないという。
    いったいなぜだろうか?

    一人で考えても埒があかないと青年は思い、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日はお祓いと結界について教えていただけませんか?』

    「それは構わぬが、その質問に答える前に、それらと深い関係がある、人の念と雑霊/魑魅魍魎について、まずは話をしておこうかの?」

    陰陽師はそう言うと、青年と視線を合わせる。
    青年はしばらくきょとんとしていたが、陰陽師の意図を察し、やがて口を開く。

     

    念とは

    『“念”は、人間の感情を起因として生じ、呪いと生き霊と邪神の三つに大別することができます。“呪い”は、誰かを憎んでみたり、逆に、好意を寄せている人物に恋い焦がれて強い想いを抱いても生じ、“生き霊”は、たとえば社会全体といった、不特定多数の対象に向けて発せられた念のことであり、ポジティヴ/ネガティヴを問わず、強い感情が“念”となって他者に届いてしまう現象と認識しています』

    「最後の邪神については、どう記憶しておる?」

    『既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”、と記憶しています』

    「ふむ。人の念については、概ね理解できておるようじゃな」

    青年の説明を微笑みながら聞いていた陰陽師が、紙にペンを走らせる。

    呪い:誰かが相手を呪った場合に生み出される
    生き霊:たとえば社会全体といった、不特定の対象に向けて発せられた念
    邪神:既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”

    「“念”を発する人物が、霊媒体質か霊能力持ち(±*)かで、他者への影響の表れ方が異なるが、それについては、どう考えておる?」

    陰陽師にそう問われ、青年はあごに手を当てて黙考し、しばらくして口を開く。

    『霊能力持ち(±*)の人物から生じた念は、対象の人物に直接届きますが、霊能力持ちでない人物から生じた念は、その人物にとって身近な魂3:霊媒体質の人物が、磁石が砂鉄を自然に集めてしまうように拾ってしまいます』

    「さらにつけ加えるとすれば、念は物理的な距離と関係なく届いてしまうため、近くで赤の他人が口喧嘩していても、それらを拾ってしまうのはもちろんのこととして、SNSで見知らぬ人物の投稿を見たりするだけでも、それらに込められている念を拾ってしまうことも、合わせて忘れぬようにの」

    『はい。“念”と雑霊/魑魅魍魎と電磁波の周波数が似ていることから、霊媒体質のクライアントには、SNSを使用する頻度に気をつけるよう、常日頃、皆様にお伝えしています』

    陰陽師は青年の言葉を聞き、満足そうに頷いてから口を開く。

    「人の“念”に関しては、概ね、その通りなので、次に雑霊/魑魅魍魎について、詳しく説明していくとしよう」

    『よろしくお願いします』

    頭を下げてそう言う青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    雑霊とは

    「雑霊は、あの世に行きそびれた動植物のことなのじゃが、厳密に言うと、動植物に限らず、アメーバのような単細胞生物からウイルス、果ては、岩石のような無機物までもがその対象となる」

    『無機物も地縛霊化するということは、八百万の神という概念もあながち間違いではないと言えそうですね』

    青年はそう言い、顎に手を当ててから、再び口を開く。

    『動植物の地縛霊が子孫にかかることは理解できますが、アメーバやウイルスは細胞分裂によって増殖することから、先祖と子孫の差があるのか不明ですし、岩石のような無機物の場合は、どのようなメカニズムで地縛霊化するのでしょうか?』

    「現代の科学を基準に物を考えるかぎり、たしかに変な話に聞こえるじゃろう。ワシとて、現代の科学知識しか持ち合わせておらぬ故、論理的な説明はできぬとしても、たとえば、炭素という原素一つをとってみても、人間の炭素、動植物の炭素、岩石の炭素という別がないあたりに、解答が隠されているはずじゃ」

    「なるほど。そのように考えれば、岩や石も無機物ではなく、生きているということになりますからね」

    「その通りじゃ。いずれにしても、このあたりの科学的な究明は、あと何百年か待たねばならぬのじゃろうが、今断言できることは、生物学的に子孫が存在する動植物も含め、“雑霊”は同種の子孫にはかからず、我々人間にかかるという事実じゃ」

    『なるほど。現代の科学でその理由は解明できないものの、現実としてはそうだと。まさに、不可思議な理屈なのですね』

    青年の言葉に対して陰陽師は小さく笑ってから、続ける。

     

    魑魅魍魎とは

    「さて、その次は魑魅魍魎じゃが、彼らは“山や川の精霊・化物の類の総称”、具体的には天狗・座敷童・麒麟(似非神様)といった、目に見えない存在が地縛霊化した存在となる。もちろん、海外では全く別の名称でよばれていることはいうまでもない」

    『え、魑魅魍魎は、先生が日頃口にしている、“マンガの世界”の話だと思っていましたが、実在するということでしょうか?』

    青年は冗談めいた口調で語りかけるが、陰陽師は真剣な表情で口を開く。

    「今日のように宅地化が進み、かつての森や林などをほとんど見かけなくなった都会には、魑魅魍魎が存在する余地など残っていないと、世間で認識されておるのじゃろうし、さらに言うと、科学万能の現代では大多数の人間が、“想像上の生き物”と思っているのであろう」

    陰陽師の説明に耳を傾けて黙って頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「ところが、ワシのクライアントの中に相当数おる“見えないはずのものが見える”人物たちに、彼らに魑魅魍魎がどのように映るか質問すると、“龍のようなもの”、“座敷童のようなもの”、“サルの化物のようなもの”と答えが返ってきたりする」

    『なるほど。人によって、魑魅魍魎の姿形が異なって見えるのであれば、信憑性が薄くなりますが、ある程度同じように見えているなら、確かに存在していると言えなくもなさそうですね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    陰陽師の返答に対し、青年はしばらく黙考した後、再び口を開く。

    『魑魅魍魎は見えない存在であるにもかかわらず地縛霊化するということは、肉体がないのに寿命があるということでしょうか。エネルギー体、そこまで言わないとしても、狭義の意味で、三次元の生物ではない彼らは、不死だと思っていました』

    「もちろん、我々人間と比較すればかなり長い寿命を持っておるのじゃろうが、そんな彼らもいつかは死を迎える運命にあり、死際にこの世に念を残すと、人間と同様、地縛霊化することには変わりはない」

    『なるほど。魑魅魍魎には先祖や子孫といった概念がなさそうですので、消去法的に人間にかかることになると』

    「その通りじゃ。そして、雑霊/魑魅魍魎は、人の“念”と同様に霊媒体質の人物にかかりやすく、精神疾患や体調不良の原因ともなっているので、ワシが日々行なっている“お祓い”の対象になるわけじゃな」

    『日々の“お祓い”で対応していただけることに安心しましたが、人の“念”だけでなく雑霊/魑魅魍魎も拾っているとは、霊媒体質の人物はほんと大変ですね』

    眉根を寄せてそう言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいてから続ける。

    「ところで、それら三つを拾うことによって、どのような問題が生じるか、覚えておるかな?」

    『それらを拾ってしまった、特に霊媒体質の人物には、その人によってそれぞれ顕在化しやすい精神疾患や、身体の不調が増幅されることによって、心身に様々な不調が生じることになります』

     

    霊障について

    青年はそう言い、紙に“霊障による精神疾患”の項目を書き足していく。

    1.躁鬱、2.気分のむら、3.情緒不安定、4.摂食障害、5.中性、6.コミュニケーション障害、7.ひきこもり、8.接触障害、9.偏執、10.攻撃性、11.不眠、12.発達障害、13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる) or 暴力、諸事に支障をきたす、14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく) or 口撃、人的な問題で諸事が前に進まず、15.精神性疾患(たとえば、不整脈・喘息・癲癇・アトピーから偏頭痛に至るまで霊障を拾い精神疾患が顕在化した結果起こる病気全般)、16.統合失調症、17 . その他

    「大事なことじゃからあらためて説明するが、霊媒体質の人物が拾ったそれら三つは、その人間がかかった霊障を跳ね飛ばした場合、周りの人間の所持品に転写され、グッズの霊障(※第33話参照)になってしまうことがある、ということも覚えておくようにの」

    『そうでした。グッズの霊障はあらゆる物質にかかりますが、特に気をつけるべきグッズがあったと思いますので、確認も兼ねて書かせてください』

    青年はそう言い、紙にペンを走らせる。

    《霊障が憑きやすい、気をつけるべきグッズ》
    偶像:宗教的意味合いを持つ像物(仏像やイエス・キリスト像など)
    お札:神社などで販売されている木や紙、またはお守り類
    神具:お寺の木魚・鉦(かね)や、宗教行事全般で使用されている様々な神具
    電子機器:パソコン、スマートフォンやそれらに付属するコード類など

    ※以下、転写によって念が憑きやすいグッズ
    数珠や宝石系のブレスレットなど、腕に巻く物
    寝具:枕、布団、パジャマ、など長時間肌に触れる物
    下着

    「それと、グッズそのものが妖気を発しているケース(2+)として、霊障の原因が自然由来である場合と、グッズの制作者や所有者の念が原因である場合があることも、合わせてよく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいて見せてから、続ける。

    『わかりやすい例として、以前に先生から某新興宗教団体の御本尊についてご教授いただいた際に、どこかで大量に印刷され、信者に配布される前に特定の場所で保管されていた御本尊が、その流通過程で、たとえば、“これは非常にありがたい御本尊だ”などと考える霊能力持ちが介入するだけでも、念が入ってしまうことがあり得るとのお話を伺いました。そのような場合、“2+”、すなわち、グッズ自身が“妖気”を発するようになってしまうことさえ起こりうるとのことでしたよね』

    「その通りじゃ。ここまで説明してきたように、念や雑霊/魑魅魍魎は、霊媒体質である人物に対し、様々な悪影響を及ぼすことから、それらを拾ったと感じた時は、速やかに“お祓い”を依頼する必要があるわけじゃ」

    『承知しました。そう言っていただけるのはありがたいのですが、時と場合によっては深夜遅くに依頼することもあり、申し訳なく思っています』

    そう言い、苦笑する青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「そなたのように、霊媒体質のスコアがそれほど高くない人物は霊障の影響を受けにくいから悠長なことを言っていられるが、優秀な霊媒体質である人物にとって、“念”や雑霊/魑魅魍魎が多い環境に身を置くことは、日常生活に支障をきたす危険性と背中合わせであることを、じゅうぶん理解しておく必要がある」

    『そうでした。1日に何度もお祓いを依頼せざるを得ない人物もいらっしゃいますものね。ところで、そのような人の場合、お祓いの依頼をしてばかりで仕事が手につかないことがあるかと思うのですが、何かいい手立てはないのでしょうか?』

    そう言い、青年は表情を曇らせて視線を落とす。
    陰陽師は湯呑みの茶を飲んだ後、口を開く。

     

    結界のメリットとデメリット

    「そのような人物に対しての切り札は、基本的には、結界となる」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は勢いよく顔を上げて口を開く。

    『なるほど! 一日に何度もクライアントがお祓いを依頼するよりも、先生が一度結界を張れば済むわけですね』

    「効果と手間という意味では、たしかに、そなたの言う通りじゃ。しかし、結界とて万能薬ではなく、メリットとデメリットがあることから、結界を張ったから解決、とはいかないのが実情なのじゃよ」

    『なんと。結界にもデメリットがあるとは、意外です!』

    青年は両手を上げ、目を見開いて陰陽師に問うた。
    そんな青年の様子がおかしかったのか、陰陽師は小さく笑ってから口を開く。

    「結界は、例えるなら、両面鏡のようなものでな、外から飛んでくる他者の念、雑霊/魑魅魍魎を跳ね返すことができる反面、同時に、結界の中にいる当人が、誰かに良からぬ感情を抱いて念を飛ばした場合、本人にダイレクトに跳ね返って心身の不調をきたす恐れがあるわけじゃ」

    『なるほど。結界を依頼した本人の精神状態によっては、外から受ける霊障よりも、本人が他人に飛ばす念の方が強く、場合によってはダメージの方が多くなる可能性もあるのですね』

    「その通りじゃ。それゆえ、ワシは日頃からクライアントに対し、魂磨きの修行の一つとして、不動心を養うことを提言しておる」

    『なるほど。むやみやたらに結界を張ってはならない理由について、よく理解できました』

    「また、本人が念を飛ばさないように不動心を保っていたとしても、身につけているグッズに霊障が憑いていたり、家族や縁が深い人物からの霊脈・血脈の先祖霊の霊障が本人にかかってきている場合、それらの霊障も一緒に閉じ込めてしまうわけじゃから、結界を張ったとしても、改善がみられない場合があることも、合わせて頭の片隅に留めておいてほしい」

    『そういう意味で、結界は使い所に注意を要する切り札となっているわけですね』

    真剣な表情で言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「以前(※第32話参照)も説明したが、霊媒体質の人物が生涯に拾える“霊障”の限界値がほぼ決まっておることから、なるべく早く限界値を迎えられるよう、我慢せずに“お祓い”の依頼をするのも一考かもしれんな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて腕を組み、しばらく経ってから口を開く。

    『そうは言ってもですね。非常に忙しい先生に、一日に何度もお祓いを依頼するくらいなら、デメリットを理解したうえで結界を張っていただき、手間を省いていただきたいのですが…』

    納得がいかない青年は、それでも陰陽師に食い下がる。
    陰陽師はやや困ったような笑みを浮かべ、青年を諭すように言った。

    「雑霊や魑魅魍魎も、人間とは異なる生命体というだけで、地縛霊化していることに変わりはない。それ故、お祓いをしないで地縛霊化している間は、彼らの魂磨きの修行も中断されてしまうことになる。よって、彼らを結界で跳ね返すよりも、日々のお祓いによって輪廻転生の輪に戻すことの方が、不可思議の世界からみれば有意義な結果となるわけじゃ」

    『なるほど。自分とは無関係なのに、勝手にすがってくる存在の“お祓い”を、なぜ自分がしないといけないのか、と嘆く霊媒体質の人物も中にはいますが、少しかわいそうに思うことがあります』

    「いやいや、そうではない。400回の輪廻転生の中で、半数は今の自分と違う性であることから、“ソウルメイト”とは、決して男女の魂のみを指しているわけではないのじゃ。そして、そのようなソウルメイトが、今世は敵同士であったり、旅先でたまたま知り合い、世間話を交わし他だけの人間であったりする可能性がある以上、今世の親族の先祖霊はもちろんのこと、何かの縁で知り合ったばかりの人間の一族にかかる地縛霊が、かつて、自分と密接な関係を持っていた人間である可能性すらあるのじゃ」

    青年にとって、陰陽師の説明は眼から鱗だったのか、しばらく唖然としてから青年は口を開く。

    『なるほど。姿形は違えど、魂という観点から考えれば、雑霊も魑魅魍魎も人間同様、この世に魂磨きの修行をしにきていて、地縛霊化して苦しんでいて、我々に輪廻転生の輪に再び戻してもらえるようにすがってきているわけですね。雑霊/魑魅魍魎とのご縁も必然だと言うことであれば、彼らのためにも、どんどんお祓いを依頼して、霊障に悩まされずに魂磨きの修行に励みたいものです』

    真剣な表情で言う青年に満足げな笑みを向け、陰陽師は続ける。

    「その通りじゃ。ハリウッド映画の“ゴーストバスターズ”ではないが、そなたのような霊媒体質の人物は“念”や雑霊/魑魅魍魎の収集係のようなものだと考えればよい。一方、“大日不可思議”の霊能力者集団をその処理係だと考えれば、結果として、一致団結してこの世の“大掃除”をしていることになるわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、何度も大きく頷いた後、口を開く。

    『たしかに、僕のような霊媒体質の人間は、直接地縛霊たちの願いを叶えることはできませんが、地縛霊たちは霊媒体質の人間を介して先生とご縁を持つことができ、結果としてあの世に戻れるわけですから、とても重要なことをしていると思います』

    青年の言葉に陰陽師は満足そうに微笑み、うなずいて見せる。
    そして、しばらく思索に耽っていた青年は再び口を開く。

    『話が変わりますが、座敷童がいる家は莫大な富を得る代わりに、座敷童が去った後、かならず廃れると聞いたことがありますが、まるで眷属みたいな存在ですね』

    陰陽師は湯呑みに注がれていた茶を飲み、口を開く。

    「家主が座敷童に福の神と同等の価値を見出し、座敷童に少しでも長く自分の家に居てくれるようにと、座敷童がよろこびそうな人形などを部屋にお供えする風習もかつてはあったようじゃから、眷属に祈りを捧げ、願いを叶えてもらう代わりにすがり続けるという関係性は、眷属のそれとは似ていなくもないじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は眉根を寄せて口を開く。

     

    邪神とは

    『邪神(似非神様)も魑魅魍魎や眷属と似たような存在であると思いますが、それらはどう違うのでしょうか?』

    「邪神(1‘=龍霊、2’=狐霊、3=熊手/狸)が人間によって生み出された“念”の産物であるのに対し、魑魅魍魎の類は、実在の生き物と考えればよい。また、龍神/龍霊、稲荷/狐霊、熊手/狸が、霊力という点で魑魅魍魎よりも力が強いと同時に、土地にかかるという傾向を持っておる反面、魑魅魍魎の類は、基本的には人間にかかるという傾向を持っていると理解しておくことじゃ」

    『なるほど。邪神が人間の念によって生み出されたものであるのに対して、魑魅魍魎と眷属は、人間とは関係なく、自然を拠り所に存在していたのですね』

    「その通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年はしばし黙考した後、口を開く。

    『おかしな話ですが、以前、飛行機雲に対して“お煙様”という名前を勝手につけてありがたがっている人物がいましたが、そういった“**様”と個人的に祀ることで“邪神”が誕生することもあるのでしょうか?』

    “お煙様”という珍ワードを真剣に言う青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから答える。

    「その“お煙様”がどういった存在なのかはわからぬが、代償を求められるために祀ってはいけないという意味では、邪神の一種と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。僕が過去に世話になった霊媒師は、幼少期に光?観音?を見たり、それに見守られていたと言っていました。ただ、言語化した容姿としては善の存在のように思われますが、その光は結局のところその霊媒師だけに関わっていたことから、本物のカミではなく、雑霊/魑魅魍魎か、眷属だったのでしょうね』

    「その可能性は高いじゃろうな。霊媒体質の強さによって、見えない存在を知覚できる程度は異なるので、見えない物事に対してあれこれ考えることを否定はせぬが、そういった見えない存在に対し、確定的な言い方をしている人物は、そなたの目にはどのように映っておるかな?」

    陰陽師に問われた青年は、しばらく俯いたのち、ゆっくりと顔を上げて重い口を開く。

    『こう言っては元も子もないですが、そのような人物の多くは、日常生活でなんらかのトラブルを起こしているか、精神疾患の診断が出るのではと思ってしまう人が少なくない気がします』

    青年は、過去に世話になった人物たちを思い出し、軽くため息をついた。
    陰陽師は、そんな青年を横目に続ける。

    「本物のカミは“思議”の範疇で捉えることのできない存在であることから、その人物だけに見聞きできた存在からの情報だけに頼り、物事を進めようする人物には、注意が必要なことだけはたしかじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の自分の不調を振り返り、陰陽師の言葉を反芻した。
    霊は地縛霊化している間、ずっと苦しい思いをしている。別に、自分が救霊やお祓いの依頼をせずに、見て見ぬふりをすることもできる。
    しかし、せっかくご神事を行える陰陽師とのご縁を得た自分が依頼しなければ、地縛霊化している魂は、これからもずっと苦しむことになり、次に輪廻転生の輪に戻れるチャンスがいつになるかわからない。
    この世の理屈で物事を考えることも大事だが、見えない世界のことを語る人物が、どこから情報を得ているのか?
    そのあたりのことも踏まえて、あの世とこの世の仕組みをよく理解し、今後も魂磨きの修行に励もうと、青年は決意するのだった。