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  • ふわっち刺殺と戦国時代2.0

    ふわっち刺殺と戦国時代2.0

    こんにちは! あの世とこの世合同会社の代表社員、中山彰仁です!

    令和は、世の中の流れが戦国時代に逆戻り。

    ただし、文明は発展したままですので、戦国時代2.0としましょう。

    令和に入ってからの日本はどうでしょう。

    なぜか罪に問われなかったり、無罪放免になる人間がいます。

    その一方、泣き寝入りしている人は少なくないことでしょう。

    つまり、国の法としての機能が適切に機能していない。

    そんな感じがしています。

    では、国の法が機能しなくなったら、どうなるのでしょう。

    戦国時代は各地域で武将が統治を行い、全国統一がされていませんでした。

    ですから、その地域の法律は、法律というより地域の権力者が決めていました。

    さて、戦国時代(中世)における裁判の一つに、決闘裁判というものがありました。

    原告と被告の両当事者が決闘を行い、勝者が正義と認められていたそうです。

    さて、先日、YouTuberが刺殺された事件について取り上げてみましょう。

    女性YouTuberはじゅうぶんな収入を得ていたはずなのに、少なくない金額のお金を男性に返さなかった結果、ライブを配信していた最中に、男性に刺殺された。

    このような概要だったと思います。

    この事件のポイントの一つは、お金を貸した男性が地方裁判所で勝訴していたため、女性は法的に返金しなければならない状態であったということです。

    にも関わらず、法的決定を無視していました。

    つまり、法律って効力あるの?

    という話です。

    司法で解決しないなら、法律外の方法で解決するしかない。

    加害者がそのように考えたのも、仕方なかったのかもしれません。

    その結果が刺殺。

    つまり、決闘裁判みたいなものだと感じました。

    今後、世の中がさらに戦国時代2.0化していくにつれ、日本の法律が日本人を救済してくれない時期がやってくるかもしれません。

    そんな時代が明日、急にやってくるとしたらどうしますか?

    無防備に、なす術もなく侵略されて命や尊厳を奪われるかもしれません。

    ですが、戦国時代(中世)の世の中は見えない世界の影響力がずっと強い時代でもありました。

    例えば、今回の事件の加害者と被害者に4:事故/事件の霊障がかかっていて、そのマッチングによって起きてしまった可能性が考えられます。

    あるいは、霊障という話では済まず、今回の事件が、令和は中世/戦国時代に戻っていることを人々に示すための重大な出来事であったかもしれません。

    そして、加害者と被害者は共に、この出来事を演じることが今世の宿題に含まれていた

    そのように考えることもできます。

    善悪を極めるのは法律であり、同時に、人それぞれ善悪の基準が異なると思います。

    ですから、他人の揚げ足どりをするように、他人に対して善悪を判断するのではなく、私たちの身の回りで起こる日々の出来事から何を学び、人生の糧にしていくか。

    これこそが、私たちの魂が望む生き方であり、魂磨きの修行になるのでしょう。

    最後に朗報ですが、中世/戦国時代、令和(戦国時代2.0)は見えない世界の影響が大きいことを先ほど述べました。

    いいかえれば、私たちの魂が望む生き方をしやすい時代に戻っています。

    この大波に乗って、今世の宿題を果たす人生にシフトしたいあなたは、ご相談ください。

    お問合せは《こちら》から

  • 新千夜一夜物語 第61話:ジョーカーと無敵の人

    新千夜一夜物語 第61話:ジョーカーと無敵の人

    青年は思議していた。

    2021年10月30日に、服部恭太氏が京王線の車内で70代の男性の右胸を刺して重傷を負わせ、さらに電車内で放火した件についてである。彼の犯行によって17人が重軽傷を負い、彼は殺人未遂として現行犯逮捕された。

    また、彼は映画“バットマン” に登場する悪役である“ジョーカー”に憧れて犯行に及んだとも述べていたことから、この事件は“ジョーカー事件”とも呼ばれているようだ。

     彼と“ジョーカー”には、霊的に何らかの共通点があるのだろうか。
    そして、こうした事件を起こす人物は“無敵の人”とも呼称されているが、“無敵の人”にも何らかの共通点があるのだろうか。

    独りで考えてもらちが開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は、ジョーカーと“無敵の人”について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「あまり聴き慣れない言葉じゃが、“無敵の人”とはどういった人物のことをさすのじゃ?」

    『“ひろゆき”氏による造語ではありますが、簡潔にお伝えしますと、無敵の人とは、“社会的に失うものが何も無いために犯罪を起こすことに何の躊躇もない人”のようです』

    「なるほど。して、ジョーカーとの共通点は?」

    《映画“JOKER”における、アーサー・フレックスのセリフ》
    “僕に失う物なんてなにもない。僕を傷つけるものなど、もう何もない。僕の人生は喜劇にすぎない。”

    『アーサーのセリフは劇中のものではありますが、似ていると言えば似ていると思われます。そのため、ジョーカーと“無敵の人”には、霊的にもなんらかの共通点があるのではないかと思った次第です』

    「そなたが知りたいことについてはわかった。して、具体的にどんな人物の鑑定をすればいいのじゃ」

    『まずは、ジョーカーとジョーカー事件を起こした服部恭太氏の鑑定をお願いします』

    「さっそくみてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き出していく。

    両者の属性表を見比べた後、青年は口を開く。

    『両者の属性は共通点が多いですね。ちなみにですが、服部氏はジョーカーに憧れたと述べていたようですが、魂の属性が近いことから、親和性を持っていると考えられるのでしょうか?』

    「その可能性は考えられるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。

    『ジョーカーは映画“バットマン”シリーズの最大の敵で、犯罪の首謀者として描かれています。属性表を見る限り、転生回数の十の位が“小山”である“4”の魂3:武将であり、しかも一の位が“雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい”傾向がある“1”であることを考慮すると、納得できます』

    「そなたの見解に付言するとすれば、 “バットマン”シリーズは回を重ねるごとに脚本家が変わることもある。その結果、魂の種類や転生回数などの大まかな部分は変わらぬものの、脚本家の演出によっては細部の数字は変わることがある。つまり、今回の鑑定結果は最新の映画である“JOKER”のものであることを覚えておくように」

    青年は小さくうなずき、口を開く。

    『かしこまりました。いずれにせよ、今回の属性表だけから判断しても、ジョーカーが“悪の権化”といった側面があると考えられるのでしょうか』

    「そうじゃな。他のシリーズのジョーカーの鑑定をしていないゆえ、一概には言えぬものの、そうした側面は間違いなくあると考えられる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、再び属性表を見比べる。

    『ジョーカーはビジネス運と人運が、服部恭弥氏は人運が“1”ともっとも低い数値ですが、それぞれの運が非常に悪く、仕事と人間関係において数多のトラブルを体験することが今世の課題に含まれている傾向がある、と考えても問題ないのでしょうか?』

    そう言い、青年は総合運について紙に書き足していく。

     総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる傾向がある。また、全体運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、全体運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がる傾向がある

    「その傾向はあるじゃろうな。ちなみに、映画“JOKER”ではどんな不運な出来事が描かれておるのじゃ」

    『映画での演出ではありますが、次のようです』

    ・アーサーがピエロの格好で店の看板を持ちながらセールの宣伝をしていると、不良の若者たちに看板を奪われ、しかも暴行を受ける。後日、彼は派遣会社から看板を壊したことと、仕事を放棄したことを責められ、まともに話も聞いてもらえなかった。
    ・アーサーは同僚ランドルから護身用にと半ば強引に拳銃を受けとるが、その拳銃を小児病棟の慰問中に落としてしまい、上司からクビを宣告される。しかも、同僚ランドルは保身のために嘘を吐いた。
    ・アーサーが地下鉄に乗っていると、1人の女性が酔っ払ったスーツの男3人に絡まれていた。彼は見て見ぬふりをしようとするも発作が起きて笑いが止まらなくなり、気に障った3人から暴行を受けると、反射的に拳銃を取り出して全員を射殺してしまう。
    ・不運が続くアーサーの心のよりどころは、同じアパートに住むシングルマザーのソフィー・デュモン。彼はソフィーとは挨拶をする程度の関係で、度々ソフィーの後をつけ、その姿を眺めていた。地下鉄殺人の犯人を支持する市民の様子に彼は気分を上げ、ソフィーと仲を深める。しかし、実際は、彼はソフィーとの仲を深めることなどできておらず、これまで過ごした2人の日々は全て彼の妄想だった。
    ・ランドルはアーサーが地下鉄殺人の犯人であることに感づいており、拳銃の出所について証言の口裏合わせをするため来訪した。その際に、アーサーは隙をついてランドルをナイフで胸と目に突き刺し、頭を何度も壁に打ち付けるなどして惨殺する。
    ・アーサーは、自分が母親の恋人によって酷い虐待をされていたこと、虐待する恋人を母親が止めなかった理由が“虐待されても笑っているから”だったことを知る。全てに絶望した彼は、母親を殺害した。
    ・尊敬する大物芸人マレーと生放送で共演することになったものの、アーサーはまず地下鉄での証券マン3人の殺人の犯人であることを告白すると、続いて社会の不条理を主張し始めた。マレーとの口論の末、怒りに身を任せてマレーを射殺し、その場で逮捕されてしまう。

    読み上げた後、青年は眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。

    『それにしても、これがノンフィクションだったら、壮絶な物語だと思います。映画として盛り上げるための脚本だと理解できるのですが…』

    「そうかもしれぬな。して、服部恭太氏にはどのような出来事があり、どのような動機で事件を起こしたのじゃ」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『まずは、事件前に彼の身に起きていた出来事です』

    ・4年前に恋人と別れたにもかかわらず、事件発生日もSNSのプロフィール画像に当時の恋人との写真を用いていた。
    ・2017年に漫画喫茶のシャワー室を2回盗撮した。
    ・3年以上務めたコールセンターの仕事では濡れ衣を着せられ、客とチャットでトラブルを起こす。その後、勤め先から部署の配置転換を提案されるが拒み、自主的に退職した。
    ・事件発生時は無職で、消費者金融からお金を借りて犯行の軍資金と生活費に充てていた。

    『今度は動機ですが、次のようです』

    ・人をやっつけるジョーカーに憧れていた。
    ・仕事で失敗して友人関係もうまくいかず死にたかった。
    ・自分では死ねないから人を殺して死刑になりたかった。2人以上殺せば死刑になれると思って事件を起こした。
    ・小田急線刺傷事件をまねた。

    「小田急刺傷事件をまねたとあるが、その事件はどういったものなのじゃ?」

    陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『ジョーカー事件の少し前、2021年8月6日に対馬悠介氏が牛刀を用いて小田急線の車内で乗客10人を斬りつける事件がありました。特に、標的にされた20代の女子大生は重傷を負っています』

    「なるほど」

    陰陽師のあいづちに対し、青年は言葉を続ける。

    『小田急線の事件では、対馬氏が刃物で切りつけた後、車内で放火しようとした点はジョーカー事件と同じです。ただ、着火剤として選ばれたサラダ油の引火点(着火するのに必要な最低温度)は250度らしく、彼はライターを使ったためにそこまで高温にすることはできず、火災には至りませんでした』

    「ちなみに、ジョーカー事件の加害者である服部氏は何を着火剤として用いたのじゃ」

    『対馬氏がサラダ油で失敗したことがWEB上に記載されており、そうした情報を知った服部氏は、可燃性の高いライターオイルを選び、小田急線の事件よりも被害が拡大したようです』

    「なるほど。ちなみに、小田急線刺傷事件の加害者は、どのような動機で犯行に及んだのかの」

    青年はスマートフォンを操作した後、口を開く。

    ・食料品店で万引きを行い、女性店員に通報された。店員を恨んだ容疑者は、その日のうちに殺害を決意したものの、食料品店が閉まる時間だったため、電車での無差別殺人に計画を変更した。
    ・以前サークルでばかにされ、出会い系でも断られるなどし、勝ち組の女や幸せそうなカップルを見ると殺したくなるようになった。
    ・“派手な感じをした勝ち組っぽい女性に見えた”という理由で、女子大生を狙った
    ・さらに大量殺人を企て、電車内にサラダ油を撒いてライターで火をつけようとしたが、燃えることはなかった。

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に属性表を書き足していく。

    新たに書き足された属性表を見た後、青年は口を開く。

    『彼の場合、ジョーカー事件の加害者と犯行の動機が異なり、女性への逆恨みや、そこから派生する攻撃性、八つ当たりという印象を受けます。また、属性表から判断するに、人運、恋愛運が共に“6”であり、“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”の中でも、特に“攻撃性”も事件を起こした要因の一部となっている可能性があるのではないかと考えました』

    「その可能性はあるじゃろうな」

    『動機は異なれど、電車内で起きた事件として話を進めますと、対馬悠介氏が小田急刺傷事件を起こしたことで、この事件を模倣して服部恭太氏が京王線刺傷事件を起こし、さらにその事件を模倣し、2021年11月8日に三宅潔氏が九州新幹線にて放火未遂をしました』

    「ちなみに、三宅氏の犯行の動機は似たようなものかの?」

    『ネットで調べる限り、当時の彼は生活保護であり、経済的に困窮していたことを主な理由とした自殺目的のようです』

    「なるほど。動機はそれぞれ一致してはいないものの、一つの事件をきっかけに、それと似たような事件が続いている可能性が考えられるようじゃな」

    そう言い、陰陽師は紙に属性表を書き足していく。

    全員の属性表が明らかになったことで、青年は四つの属性表を見比べた後、口を開く。

    『アーサー・フレックス(ジョーカー)と服部恭太氏の属性表は近いものの、他の2名は細部が異なる印象を受けます。とは言え、四名の共通点はそれなりに挙げられそうです』

    そう言い、さらに青年が4名の共通点を読み上げた後、陰陽師は口を開く。

    「そなたが挙げた共通点の中で、次の項目の数が多くなるにつれて、世間でいうところの“犯罪者”となる可能性が高くなると考えられる」

    そう言い、陰陽師が口頭で伝えた項目を、青年は紙に書き留めていく。

    《この世の基準における共通点》
    ・恋人がおらず、仕事がなくて経済的に困窮している。

    《属性表における共通点》
    1:頭2で、二桁目の枝番が“3”以上(1〜3)
    2:“自己中”度が80以上
    3:三桁目の枝番のほとんどが7か9
    4:仁が50以下
    5:慈愛が35以下
    6:攻撃性の項目の上段の数字が“2”
    7:インターフェイスの一桁目と二桁目の数字が共に“6”(攻撃性が高い)
    8:人運が“6”以下
    9:ビジネス運が“6”以下

    青年は紙に書かれた共通点を見た後、口を開く。

    『頭2の人物には、“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向があり、二桁目の枝番は、“1”に近いほど頭1/2の傾向が顕著になるとお聞きしました。4人とも、頭2で二桁目の枝番が“3”以上ですので、頭2の傾向がかなり強いと思われます』

    そう言い、青年は、頭1と2の傾向を紙に書き記していく

    頭1:農耕/遊牧民族の末裔。世のため・人のためを地で行動する傾向がある
    頭2:狩猟民族の末裔。“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある

    手を止めた後、青年は言葉を続ける。

    『また、2:“自己中”度の高さが頭2の傾向に輪を掛けていると思われますが、加えて、3の条件によって“この世の法律や社会規範”から逸脱した言動を取る傾向があると考えられるため、各々が犯罪に手を染めようという結論に至る傾向があったと考えられます』

    「そのように考えることもできるかもしれぬな」

    『事件を起こそうと思い至っても、場合によっては考え直す機会もあったかもしれませんが、4から7の特徴によって、思いとどまることなく、実際に犯行に及んでしまった可能性が考えられるのでしょうか』

    「人間は多面体で一つの出来事においても様々な要因が複雑に絡んでいることから、一概には言えぬものの、そうした可能性も考えられるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。

    『8と9に関しては、“恋人がおらず、仕事がなくて経済的に困窮している”という、この世の基準における共通点に通ずるところがあると思います。ただし、8と9の数値が低いがゆえに今世ではそうした境遇に陥ってしまったと考えられます』

    「そなたの考えに対して付言しておくと、対馬悠介氏について言及した際に“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”と説明していたと思うが、そうした数字が持つ傾向については、あくまで現時点での見解であり、今後、より多くの人物の鑑定とその人生を照らし合わせて統計を取っていくことで、変わる可能性があることを覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、口を開く。

    『かしこまりました。ここまでのお話をまとめますと、世間的には、“無敵の人”が誕生する原因は社会にあるという声もあります。確かに、今回取り上げた人物達に、恋人・友人がおらず、仕事もお金もないことの要因に、コロナ禍もあってか、昨今の社会情勢の影響もあったかもしれません』

    青年の言葉に対し、陰陽師は黙って続きを促す。

    『しかしながら、今世の宿題に対し、逆接方向に顕在化する、霊脈の先祖霊の霊障がかかっていないことと、欄外の枝番が持つ傾向と、ビジネス運、人運、恋愛運が低いことなどを考慮すれば、各々が“無敵の人”の条件を満たしたのは、社会に原因があるのではなく、それぞれの今世の課題を果たすため、という可能性が考えられるのでしょうか』

    「その可能性はあるかもしれぬな。そして、各々があえてそうした不運な境遇を体験することを今世の課題として決め、この世に転生すると決めたことは、この世が“修行の場”であり、他の多くの新興宗教がうたう、“地上天国”を目指す場ではないという一つの根拠になりうるのじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。

    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は今回取り上げた事件について反芻していた。

    彼らの犯行に対して、この世の基準で批判、非難することは容易い。

    だが、彼らは各々の今世の課題を果たしているに過ぎず、さらに言えば、例えば、欄外の枝番に“1”を持つ、“この世の法律や社会規範”を準ずる人々からすれば、彼らの言動は批判や非難の対象になることは当然のように思われるが、欄外の枝番に“9”を持つ人々からすれば、その逆もまた然りなのかもしれない。

    結局のところ、この世は“修行の場”であり、各々が今世の課題を果たすことが重要であるので、直接関わることがない人物の価値観や言動について批判や非難をするよりも、なぜ自分は赤の他人に対して批判や非難をしようと思ったのかを考え、自分の今世の課題を果たす糧にしていく方が、“魂磨き”の観点で考えれば適しているのではないか。

    今回取り上げた加害者たちの言動を知り、世間の大勢の目に触れる形で今世の課題を果たしている彼らと比べて、自分は今世の課題を果たせているのだろうか。
    自分の人生という映画の主演を演じきれているのだろうか。
    この世の基準に囚われて、今世の課題と関係ないことに命を費やしていないだろうか。
    その答えはきっと、自分がこの肉体を離れる時にわかるのかもしれない。

    少なくとも、今は霊的な要因によって無用な苦労をしている人々に神事を済ませることの重要性を伝え、一人でも多くの人々が今世の課題を果たせるよう、尽力していこう。

    そう、青年は思議したのだった。

    《合わせて読みたい》
    ・第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

  • 新千夜一夜物 第55話:女子高生遺体遺棄事件と魂の属性

    新千夜一夜物 第55話:女子高生遺体遺棄事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2021年8月31日未明、山梨県早川町にある山奥の小さな小屋で、群馬県渋川市に住む小森章平さん(27)と妻の和美さん(28)によって、都内の高校3年生である鷲野花夏さんが殺害された事件についてである。

    加害者の夫と被害者はSNSを通じて知り合い、加害者の妻が彼の携帯電話を勝手に盗み見て二人のやりとりを知って激昂し、三人で会うことになった。都内から被害者を合意のもとで自動車に乗せて犯行現場に連れて行った後、加害者の妻は被害者に対する気持ちの整理がつかずに犯行に及んだという。

    今回の事件はなぜ起きてしまったのだろうか?
    ひょっとして、今回の事件も“5:事故/事件”の相が関係しているのだろうか?

    独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は女子高生遺体遺棄事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「先日に起きた事件のことじゃな。して、具体的にどういったことを知りたいのじゃ?」

    『二人の加害者と被害者の魂の属性と、霊的な観点から、今回の事件がなぜ起きてしまったかを教えていただけますか?』

    「あいわかった。まずは、三人を鑑定しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は小刻みに指を動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    小森和美SS
    小森章平SS
    鷲野花夏SS

    三人の属性表を見比べた青年は、怪訝な表情で口を開く。

    『全員、“5:事故/事件”の相がかかっていませんね。ただし、三人の共通点として、転生回数の十の位が30回代であるため、“数奇な人生”を歩む傾向がある点と、人運が“7”以下と低く、人間関係で生じる様々なトラブルを通じて学びを得る傾向がある点から、大雑把に言ってしまえば、今回の事件の役者としてこの三人が引き寄せ合ってしまったと考えることができそうです』

    「そう考えることもできよう。ところで、人運が出てきたため、総合運について補足するが、総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、全体運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、全体運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、各々の人運の数字を見比べた後、口を開く。

    『先日の硫酸事件(※第54話:硫酸事件と魂の属性参照)の被害者と今回の被害者、共に人運の数字が“4”なのですが、この数字にはどのような傾向が顕在化する可能性があるのでしょうか?』

    「その質問に答えるにあたり、総合運の数字が持つ傾向についても整理しておくかの」

    そう言い、陰陽師は紙に三つの数字について書き足していく。

    3:「女性的側面」、「奉仕」、「マゾ的気質」、「変態趣味」、「狂気」
    4:命に係わる重病、あるいは人生を根底から揺るがす「厄災」
    6:「不幸(そのもの)」「不幸な選択」「不実」「攻撃性」「サド的気質」

    陰陽師が書いた文を青年は食い入るように見つめ、やがて口を開く。

    『それぞれの人運の数字から鑑みるに、加害者の妻の“3”は特に“狂気”、加害者の夫の“6”は特に“不幸な選択”や“攻撃性”、そして、被害者の“4”は今回の事件が人生を根底からゆるがす“厄災”として顕在化した可能性があると考えられます』

    「その可能性が考えられる。また、加害者二人の共通点として、欄外の枝番の数字のほとんどが“9”であること、魂の特徴の“攻撃性”の上段の数字が“2”であること、インターフェイスの一・二桁目の数字が“6”であることと、頭が2で“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある点も、今回の事件が起きた要因の一部となっている可能性がある」

    そう言い、陰陽師は頭1/2の特徴を紙に書き記していく。

    頭1:農耕/遊牧民族の末裔。世のため・人のためを地で行動する傾向がある
    頭2:狩猟民族の末裔。“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある

    陰陽師の説明に対し、青年は大きく頷いてから、口を開く。

    『頭1/2の枝番は、“1”に近いほど頭1/2の傾向が顕著になり、“9”に近いほどもう一方の頭1/2の傾向に近づいていくとお聞きしましたので、加害者の妻の頭2の枝番が1で、夫の頭2の枝番が3と、共に頭2の傾向がかなり強いこととも加害者たちが事件を起こした要因の一部と考えられます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    「さらに付言するとすれば、加害者の妻のインターフェイスの三桁目の数字が“6”で、ここが“6”の場合、“攻撃性”を持つ傾向があることと、血脈の精神疾患の“10:攻撃性”があることも、事件が起きた要因の一つとなっている可能性がある」

    小森和美SS

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷くのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『攻撃性を初めとする、そうした要因を考慮すると、ネットの情報を見る限りでは、三人で会った際、“小屋まで行ったが気持ちの整理がつかず、殺した”と加害者の妻が言っているようですので、彼女が話し合いで解決する間もなく犯行に及んでしまったことは、やむを得なかったと思われます』

    「その可能性も考えられる。して、実際のところ、三者がどのような人物であるか、ネットに載っているのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、小さく頷いてからスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『まずは加害者の妻ですが、彼女は前夫との間に三人の子供がいるようで、しかも、実家の両親に預けたまま現在の夫と結婚したようです。前夫とはDVが原因で離婚したとのことですが、彼女の恋愛運が“3”であることを鑑みるに、納得できます』

    「なるほど。ちなみに、学生時代の彼女の交友関係はどうだったのかの?」

    『高校時代の加害者の妻は“いじられキャラ”で、いつもおちゃらけている女芸人という感じだったそうです。休み時間には仲の良い女子たちと静かに話していたと思ったら、急に“わー!”と叫びだしたりして、教室がざわつくこともあったりと、正直変わり者というイメージが強かったと』

    「そのあたりは、魂の属性から推して知るべし、といったところじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は首肯した後、口を開く。

    『今度は加害者の夫ですが、彼は突拍子のないことばかり言っていたようで、常々、“俺は爆弾を簡単に作ることができるから、その気になれば簡単に人を殺せる”、“殺すときは残虐なやり方じゃないと気がすまない”などの発言をしていたようです」

    「なるほど」

    『そして、中学卒業後の彼は水産高校に進学し、“航海士か自衛隊員になりたい”という夢があったそうですが、実習が過酷で、先輩にイジメられていたなどの事情もあって中退したようです。妻と結婚し、三重県から群馬県に転居する際も、“これから2人で生きていきます。探さないでください。探したら容赦はしません”とパソコンからプリントアウトされた小さな1枚の置き手紙だけを残して、一緒に暮らしていた母親と別れたようですので、人との関わり方に問題があったのだと思われます』

    「なるほど。ちなみに、恋愛運が“6”である彼の異性関係はどうだったのじゃ?」

    陰陽師にそう問われた青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『中学生の時、彼はクラスの女子生徒に向かってカッターナイフを振り回したり、別の女子生徒を階段の一番上から、何の理由もなく突き落としていたようです。本当に危険人物だったと周囲から思われていたようです。他にも、彼は、昔から年下の女の子が大好きだったようで、スカートをめくったり、靴を奪ってどこかに隠したりする他、ストーカーまがいのことをしていたとのことです。しかも、すぐに“目移り”する性格で、ストーカー被害に遭った女子児童の数は相当数いたとのことです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、属性表を書いた紙を一瞥し、口を開く。

    小森章平SS

    「そうした彼の女性に対する行動は、恋愛運の数字が“6”を初めとする、霊障や魂の属性が要因となっていると考えられる。ただ、一つ気になったが、加害者の妻の方が彼より年上であるが、この相違点はどういうことじゃ?」

    『年下好きについての実相はわかりませんが、ネット上では、昔からぽっちゃりした女性が好きだったという情報も書かれていますので、加害者の妻の見た目が好みだったのかもしれません。実際、加害者の妻と被害者の容姿は、似ているように思われます』

    「なるほど。して、被害者については何かわかるかの?」

    『被害者の女子高生ですが、彼女が中学生の時は、友達が多く、男女分け隔てなく仲良くしていたようで、家族仲も良好で、揃ってキャンプへ行っていたとのことです。事件が起きる前は、“心理学を学ぶために大学に行きたい”と受験勉強に励んでいたそうです』

    「実際にその夢が叶うかどうかは別として、そうした志を持った人物が志半ばで命を落としてしまうことは、残念ではあるがの」

    『そうですね。僕も残念に思います』

    そう言った後、青年はしばらくしてから、おそるおそる再び口を開く。

    『ところで、彼女の魂は、無事にあの世に戻っているのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は無言で指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「残念ながら、地縛霊化しておるようじゃな」

    陰陽師の答えを聞いた青年は、小さく嘆息してから、口を開く。

    『福岡5歳児餓死事件(※第44話:福岡5歳児餓死事件参照)では、餓死した男子の魂は一年半に渡る飢餓状態で苦しい体験を経たからか、相殺勘定の働きもあって無事にあの世に戻っていましたのだと思われますので、ひょっとしたら、若くして亡くなった鷲野花夏さんの魂も、彼の魂と同様に、無事にあの世に戻っていると思いました』

    「彼女の人運が“4”であることや二人の加害者の魂の属性を考慮すれば、今回の事件に巻き込まれること(災厄)は彼女の今世の宿題を果たすために必要な体験だった可能性が考えられるが、彼女の魂が地縛霊化していることから、今回の事件でもって今世の宿題を果たせたかどうかとは別に、彼女にはこの世に対する未練があったようじゃな」

    鷲野花夏SS

    『なるほど。そして、何に対して未練があったかは、本人のみぞ知るといったところだと思いますし、仮に未練の内容がわかったとしても、肉体を持たない彼女には、もはやどうすることもできませんし、遺族や我々にできることは、彼女の魂があの世に戻れるように救霊するしかありませんよね』

    「そなたの言う通りじゃ」

    青年を励ますような口調で言った陰陽師の言葉に対し、青年は頭を下げ、口を開く。

    『では、鷲野花夏さんの救霊神事をお願いいたします』

    「あいわかった。今夜中に神事を執り行うことを約束しよう」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は顔を上げ、口を開く。

    『それにしても。鷲野さんが地縛霊化していたことを踏まえ、あえて極端な言い方をすると、人運が低く、欄外の枝番の多くに“9”を持つ人物の場合、傷害事件や殺人事件を起こすことが今世の宿題に関わっている可能性があるのでしょうが、だからと言って、そうした人物が、他人とのトラブルや事件を積極的に起こせばいい、ということにはなりませんよね?』

    「もちろんじゃとも」

    小さく頷きながらそう言う陰陽師に対し、青年は小さく安堵の息をもらし、口を開く。

    『それを聞いて安心しました。クライアントの中には、早く今世の宿題を果たしてこの世を去りたいと言う人もいますので、そうした人々にもしかと理解していただこうと思います』

    「それがよかろう。さらに付言するとすれば、未来は不確定であるから、未来を意識して行動するのではなく、出逢いは必然であることをじゅうぶんに理解し、縁がある人や目の前の現象、一つ一つのことを真摯にこなすことが肝要だと、ワシは思う」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自身の恋愛運の“6”について考えていた。

    幼少期の自分は、好きな女子をイジメるタイプだった。
    恋人に対してもそうだ。彼女に幸せになって欲しい。できることを何でもしてあげたいと思っていた。
    なのに、関係が深まるにつれ、その思いとは裏腹に、傷つける言葉を恋人に投げかけていた。

    前の恋人にした失態を、二度とすまい。
    そう強く誓い、改善していけば、いつの日か恋人を傷つけずに済むかもしれない。
    そう思っていたのに、今度は、今までと異なる形で相手を傷つけていた。
    あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。
    自分にはもったいないくらいに素敵な女性ばかりだった。

    もっと優しくしたかった。もっといろんなことを一緒にして、喜んでもらいたかった。
    ただ、彼女たちに幸せでいて欲しかっただけなのに。
    当時の自分を殴り飛ばし、全員の前で焼き土下座させ、その場で腹を切らせて詫びさせたい。
    けれど、どれだけ悔やんでも、どれだけ謝罪の念を抱いても、彼女たちに届くことはない。

    俺と恋仲になることで不幸を与えてしまうなら、出逢わなければよかった。
    自分に腹が立ち、どれだけ自分の頬に拳を打ち付けても過去は変わらない。
    胸の内に残るのは、ただただ不幸そのもの。

    今世の自分は、恋人を作るたびに恋人を不幸にし、自らも不幸になる体験を死ぬまで繰り返すなら、いっそのこと、女性と関わることを完全に無くしてしまおうか。
    だが、そうした思いを体験することが、今世の宿題を果たすために必要なら、その選択は望ましくない。
    だからと言って、欲望のままに女性と関わることも望ましくない。

    それなら、自分と深く関わってくれる女性たちとの時間を大切にし、可能な限り貢献していこう。
    彼女たちの魂磨きの障害となる全てを解消できるよう、そして、いつかどこかで昔の彼女たちと再びご縁がある時に、可能な限り力になれるよう、己と魂を磨き続けよう。
    ただし、いずれ彼女たちが自分から離れることを胸に刻んでおき、別れの際はどれだけ恨まれることになっても喜んで受け入れよう。

    自分が受けた不幸の分だけ、自分とご縁があった、そしてこれから深く関わる女性全員に幸せがもたらされますように。

    そう、青年は思議したのだった。

  • 新千夜一夜物語 第54話:硫酸事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第54話:硫酸事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2021年8月24日の夜、白金高輪台の出口のエスカレーター付近で、花森弘卓容疑者が22歳の会社員男性に対し、追い抜きざまに持っていた硫酸を振りかけた事件についてである。
    硫酸は皮膚に触れるとすぐに炎症を起こし、放置しておくと火傷にまで悪化する、極めて危険な鉱酸である。
    被害者の男性は顔に火傷を負い、失明こそまぬがれたが両目の角膜が損傷し、全治6カ月の傷を負った。また、たまたま彼の後ろにいた会社員女性(34)も硫酸が足にかかり、軽い火傷を負った。

    加害者と被害者は大学のサークルの先輩・後輩の関係で、学生時代に被害者が先輩である加害者に“タメ口を聞いたこと”が、加害者が犯行に及んだ主な動機であるという。

    人によって捉え方が異なると思うが、そのような些細とも言えそうな出来事に対し、一生残るような傷を負いかねない硫酸を、しかも顔面にかけるとは、青年には度し難く感じられた。

    加害者はどのような魂の属性を持っているのか?
    今回の事件には、やはり“5:事故/事件”の相が関与しているのだろうか?

    独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は硫酸事件について教えていただきたいと思い、お邪魔致しました』

    「先日起きた事件のことじゃな」

    『そうです。僕の見立てでは、加害者と被害者の全員に“5:事故/事件”の相がかかっていると思いますが、それよりも、加害者の魂の属性が特殊なのではないかと思いました』

    そう言い、青年は事件の概要を陰陽師に説明する。
    青年の言葉に耳を傾けながら、陰陽師は3人の鑑定結果を紙に書き記していく。

    花森弘卓SS

    被害者の男性SS

    被害者の女性SS

    3人の属性表を眺めた青年は、小さく唸ってから口を開く。
    『やはり、全員に“5:事故/事件”の相がかかっていますね。また、人運の数字が“7”以下転生回数の十の位の数字が“3”、すなわち“数奇な人生を歩む傾向がある”ことも、全員に共通していますので、大雑把に言ってしまえば、今回の事件の役者としてこの三人が引き寄せ合ってしまったと考えることができそうです』

    「そう考えることもできよう。ところで、人運が出てきたため、総合運について補足するが、総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、総合運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、総合運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく頷いてから、口を開く。

    『今度は加害者の属性に焦点を当てて考えますと、血脈の精神疾患の“10:攻撃性”が要因の一つと考えられます。実際、手間がかかる硫酸を事前に準備したり、被害者の通勤経路を把握するなど、実際に犯行に及ぶまでに考えを改める機会は何度かあったにも関わらず、歯止めが効かなかったことは、血脈の精神疾患は“性向”に該当することもあることを考慮すると、その影響があったのでしょう』

    《霊脈先祖の霊障》
    今世の宿題に対して逆接な“重し”、つまり、人生の方向性が今世の宿題と逆方向に働く
    《血脈先祖の霊障》
    今世の宿題に対して順接、すなわち“無用な重し”となって顕在化する

    「攻撃性という点で付言するとすれば、インターフェイスの三番目の数字が“6”であることも要因として挙げられる。というのも、インターフェイスの三番目に“6”がある場合、“攻撃性”という意味が考えられることもあるのじゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び加害者の属性表を見やり、口を開く。

    『なるほど。そう言えば、属性表の“魂の特徴”の三番目の“攻撃性”の上段の数字が“2”ですので、この点も彼の“攻撃性”を増長しているようですね』

    「さらに言うと、五番目の“自己顕示欲”の数字も要因の一つとして考えられる」

    『自己顕示欲の強さと攻撃性に 、どういった関係があるのでしょうか?』

    訝しげに問い掛ける青年に対し、陰陽師は該当する箇所の2−7の数字に印をつけ、口を開く。

    「自己顕示欲が直接攻撃性に結びついているのではなく、自己顕示欲の枝番、すなわち下段の数字が現世ではそのまま“人格”を表しておるのじゃ。ここの数字が“9”であると“喧嘩っ早く、キレやすい乱暴者”ということになるが、“7”であってもかなり“強引さ/攻撃性”が目立つ

    『なるほど。ただ、それらの傾向は代表的な例であって、属性表の他の数字との組み合わせで“人格”の強弱や性質が変わる、という認識でよろしいでしょうか』

    「概ね、その認識で合っておる。後は、加害者が頭2−3であることも主な要因の一つと考えられる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、頭1/2に関して紙に書き始める。

    頭1:農耕/遊牧民族の末裔。世のため・人のためを地で行動する傾向がある
    頭2:狩猟民族の末裔。“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある

    頭2である人物の場合、1〜9まである枝番が“1”に近いほど頭2の傾向が顕著になり、“9”に近いほど頭1の傾向になっていくとお聞きしましたが、頭2の枝番が“3”である加害者は、かなり自己中心的な考えをする傾向があるようですね』

    「そうではあるが、実際にそのような言動を取っていたのかの?」

    『実際、加害者は、昨年の9月に“家に泊まりに行っていいか?”と被害者にLINEを送っていたようで、被害者は多忙を理由に断りましたが、その後も同様のメッセージが届いたため、加害者をブロックしたようです。すると今度は、態度を改めるように求める内容が書かれた、差出人不明の手紙が被害者に届いたとあり、被害者のことを考えず、かなり自己中心的な言動を取っていたと思います』

    「なるほど。して、被害者の男性はどのような人物なのかな?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、やがて口を開く。

    『被害者の大学時代の友人によると、“彼は皆に慕われていて、恨みを持たれていたとは考えづらい“と証言しています』

    「被害者の属性表を見る限り、加害者に比べて被害者の方が社会性があると思われるが、被害者が対象となってしまった要因として、人運が“4”と極端に低いこと、血脈と天命運の“5:一般・事故・被害者・怪我”の相がかかっていることが考えられる」

    被害者の男性SS

    『なるほど。犯行前、加害者は琉球大学の卒業生名簿を手に入れるため、琉球大学を訪ねていたようで、4月には同じサークルだった別の知人にも接触し、恨み節の言葉とともに犯行をほのめかしていたため、標的は複数いたと思われます。その中で、被害者の男性は不運にも選ばれてしまったようですね』

    「その可能性が高いようじゃな」

    『被害者は血脈先祖の霊障の“5”の相だけでパフォーマンスが40%も塞がれていることを考慮しますと、ひょっとしたら、事件前にLINEが送られてきた時に会って話をしていたら、その時の口論や暴行による怪我で済んでいた可能性が考えられるのでしょうか』

    「仮定の話であるゆえ断言できぬが、加害者と被害者の間で何らかのトラブルがあることは、お互いの今世の宿題を果たすために避けられない出来事だったかもしれぬが、今世の宿題に対して順接、“無用な重し”として顕在化する血脈の霊障の影響によって、被害者が硫酸を顔面にかけられるほどの大怪我に発展してしまったと考えることもできる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、深いため息を吐いた後、口を開く。

    『なるほど。こうして、大学時代の出来事を忘れず、数年越しに犯行を行った要因の一つとして、魂の特徴の四番目の項目である“恨み辛み”の上段の数字が“2”であることが考えられます』

    「そなたの言う通りじゃな。最後に、この事件に巻き込まれてしまったと言えなくもない、被害者の女性について、そなたはどう考える?」

    『被害者の女性は人運が“7”ですから、やはり彼女も何らかの人間関係のトラブルを通じて学ぶことが今世の宿題に含まれていると思われますが、彼女にかかっている天命運の“5:一般・事故・被害者・怪我”の相の影響で、よりによって二人とは無関係であるにも関わらず、今回の事件に引き寄せ合ってしまった可能性があると考えています』

    被害者の女性SS

    「被害者の女性に関しては、残念ながらその可能性が考えられる」

    そう言い、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、言葉を続ける。

    「して、加害者である花森弘卓はどんな人生を歩んできたか、ネット上で確認できるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『小学生の頃の彼はクラスの中で浮いていて、いつも一人だったようで、クラスの展示物をかたっぱしから壊したり、生きたバッタをクラス共用の鉛筆削りに詰めたりと、周囲に迷惑をかけていたようです。また、彼がイジメの標的にした子に対し、石を投げつけたり、暴力を振るう他、毛虫やナメクジや牛の糞を食べさせるなどの、蛮行を取っていたとのことです』

    「なるほど。彼の属性表から推して知るべし、といったところじゃな」

    『他にも、彼が高校三年の時に、体育館のステージの自由参加の出し物に立候補して、たった1人でサイリウムを使ってヲタ芸を披露したとありますが、多くの人物は、こうした出し物を一人で実行しないだろうと思います』

    「まあ、そうじゃろうな」

    陰陽師の相槌に対し、青年は言葉を続ける。

    『こうした行動を取る要因の一つとして、彼の魂の特徴の中で二番目と五番目、すなわち“厭世的”と“自己顕示欲”の項目の上段の数字が“2”であることが考えられます。当該の特徴を持つ彼は、前者の特徴によって浮世離れした行動を取る傾向があると思われ、後者の特徴が加わることによって、わざわざ大勢の前でやってみせたのではないかと思われます』

    陰陽師が黙って青年の言葉に耳を傾けている様子を見やり、青年は言葉を続ける。

    『また、彼は今世の使命における、“基本的使命”と“具体的使命”の下段の数字が7−3と4つも離れていますので、これらの数字がより大きく離れている人物は、常軌を逸した行動を取る傾向があるのではないかと予想しました』

    「概ね、そなたの言う通りじゃな。他に、特徴的なエピソードはあるかの?」

    『彼は高校時代から、自分で育てた昆虫をヤフーオークションで売っていたようです。また、昆虫以外にも手広く転売をしていたようで、当時流行っていたアニメの映画が公開された時も、週替り特典の色紙やメッセージカードなどを、転売することを見据えて毎週映画館に通っていたとのことです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく笑ってから口を開く。

    「それは、商魂たくましい、“魂3:武士”らしい行動じゃな。実際、彼は理系の傾向がある転生回数期が第三期に属しており、今世は特に昆虫を中心とする“生物学”に適性があると考えられる

    『なるほど。ちなみに、彼のビジネス運と金運はともに“7”ですから、昆虫の育成や販売、アニメグッズの転売を業種とした法人の設立まで、規模を大きくすることは難しいと考えましたが、いかがでしょうか?』

    「いや、そうではない。それらの運の数値はあくまで結果を前提とした運であることから、結果的にはそなたが予測した通りになる可能性はじゅうぶんにあるものの、未来は不確定という前提で考えれば、彼が商売の規模を拡大できるかどうかは、今後の彼の行動次第であることはわかるかの?」

    陰陽師に言葉を聞いた青年が首肯しているのを見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「ただし、彼が大規模な事業計画を立て、いざ実行したとしても、成功する確率/運が“7”と低いことから失敗することが多いということじゃ」

    『そして、その二つの運が低い彼にとっては、そうした失敗を通じて学びを得ることが今世の宿題の一つに含まれている可能性があると』

    「概ね、そなたの言う通りじゃ。ところで、彼は恋愛運が“3”とかなり低いが、異性関係はどうだったのじゃ?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『彼はボーカロイドやアニメソングが好きで、“彼女を作るのは無理だと思う。僕の彼女は宇宙人しかいないかな”と語っていたそうですので、異性とはあまり縁がなかったと思われます』

    「そなたが見つけた情報から察するに、現実世界の女性に対する興味を失ったということかの?」

    『そうかと思いきや、予備校時代に、とある女子生徒に対して異常とも言える執着心を発揮し、トラブルを起こしていたようです』

    「というと」

    『その女子生徒が帰宅する途中にサラリーマンにナンパされたことがあったようで、それを聞いた加害者は、見方によってはストーカーと言っても過言ではないほどの行為をしていたようです。他にも、その女子生徒の誕生日に、彼女の家の前で加害者が待っていて、彼女が友人たちと帰宅した際に、急に地面に膝をついて赤い薔薇の花を渡し、歯が浮くような台詞を並べ、ヤドカリの”つがい”をプレゼントしたこともあるそうです』

    「なるほど」

    そう言い、陰陽師は指を小刻みに動かした後、再び口を開く。

    「加害者の“トンチンカン度の高さ”は80じゃな」

    『トンチンカン度でしょうか?』

    怪訝な表情でそう言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「そう、トンチンカン度じゃ。それは、現実的な問題において、一見こんがらがった事象を瞬時に見分ける/簡潔に表現できる能力を意味し、そのスコアが高くなるほど、話が噛み合いにくくなる傾向がある

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、やがて口を開く。

    『つまり、加害者は自分の行動がお目当ての女子生徒にどのように受け取られるかを想像することが苦手であり、奇行とでも言うような行動を取ってしまった要因に、“トンチンカン度の高さ”も関係しているということでしょうか』

    「“トンチンカン度の高さ”だけで決まるものではなく、あくまで主な要因の中の一つ、と理解すればよいと思う。ちなみに、彼の恋愛運の数字である“3”には、“女性”、“女性的側面”、“奉仕”、“マゾ的気質”、“変態趣味”、“狂気”という傾向がある

    『なるほど。ネットの情報を見る限りでは、それらの中でも特に“狂気”が顕在化してしまったという印象を受けます』

    「一概には言えぬが、そう捉えることもできよう。そして、恋愛運の“3”は、広義の意味では“異性運”のなさとなる。つまり、彼はまともな恋愛・結婚をすることが難しく、多くの異性との問題で悩むことを通じて学びを得る傾向がある

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    『今度は彼の家族関係についてお聞きしたいのですが、彼の父は有名な整体師で、中国人の母も医療関係の仕事に就く裕福な家庭で育ったようですが、両親共に既に他界しています。家族はとても仲が良く、夏休みなどに3人で中国へたびたび旅行に行っていましたが、7年ほど前に父親が病気で亡くなり、その数年後には母親も亡くなってしまったとのことです』

    「なるほど」

    『また、彼が高校生くらいの頃、母親に馬乗りになって首元を掴み、今にも殴りそうな雰囲気だった、と近所の人が見かけたことがあったようですが、今回の硫酸事件や彼の学生時代の言動や、彼の諸々の魂の属性や攻撃性があることを踏まえると、元々こうした出来事を起こしやすいのではないかと思われます』
    青年の言葉を聞いた陰陽師は、ふむと相槌を打った後、鑑定結果を紙に書き足していく。

    花森弘卓・父SS

    花森弘卓・母SS

    青年が二人の属性表を見終えた頃に、陰陽師は再び口を開く。

    「その時はたまたま近所の人が見かけて発覚したと思われるが、実際には他にも家庭内でのいざこざがあったかもしれぬ。じゃが、母子ともに人運が“7”以下であることを考慮すると、そうした母子関係の中で学ぶことが、両者の今世の宿題の一つである可能性があるのじゃよ」

    『なるほど。子は自らの今世の宿題を果たすのに最適な母親を選んで産まれてくるということでしたね(※第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題参照)』

    「まあ、そういうことじゃ。話を戻すが、今回の硫酸事件は社会的には許されがたい出来事として認識されていることは、紛れもない事実じゃ。しかしながら、加害者と被害者の双方にとって、今回の事件を通じて学ぶべきことがあったことも考えられることを、覚えておくようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は過去の出来事を振り返っていた。

    自分は金運と恋愛運が共に“7”以下で、それらの項目で起きた問題を通じて、人生における重要な学びを得たことを理解しているものの、今になって振り返れば、霊障や天命運の影響によって必要以上の損害を受けていたことを、どういうわけか判断できている感覚がある。

    ふりかかる難が今世の宿題と関わっていることもあるため、全ての難をなくすことは霊的な観点からは望ましくないが、自分と縁がある人物が大難を体験することで抱える後悔が少なくなるよう、霊障について説明し、大難を小難にするために神事の案内をしていこう。

    そう、青年は思議したのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第52話:学歴社会と毒親

    新千夜一夜物語 第52話:学歴社会と毒親

    青年は思議していた。

    看護師を目指していた娘が実母を殺害し、遺体を損壊、遺棄した事件についてである。
    この事件の背景には、娘が学生時代から教育虐待と言っても過言ではない束縛を母親から受けていたことがあった。しかも、娘は医学部合格を目指して9年間も浪人したようで、教育虐待の期間がそれだけ長かった上に、医学部ではないものの、妥協してようやく入学した大学生活やその後の就職先に関しても、母親からの束縛は続いていたようだ。

    実の娘に殺害されるほどの教育虐待を母親がしてしまったのはなぜだろうか。
    また、9年間も浪人した娘は、その後も受験勉強を続けていたら、いずれは医学部に合格できたのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は学歴社会と毒親について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「学歴社会と毒親とな。なぜその2つの組み合わせなのかはワシにはちとわからぬが、具体的にはどういったことを知りたいのじゃ?」

    そう陰陽師に問われた青年は、事件の概要について説明した。

    ・桐生しのぶさんは、自身が高卒であることにコンプレックスを感じており、娘である桐生のぞみさんには、公立高校から東大や国公立医学部に進学するという、母親が理想とするエリートコースを歩ませたいと思っていた。
    ・のぞみさん自身も、手塚治虫の漫画“ブラックジャック”に憧れ、外科医の夢を抱いた。
    ・父親はのぞみさんが小二の頃から社員寮で別居することになったため、母子二人での生活が続き、母親の教育虐待を止められる人はいなかった。
    ・母親の期待に応えるため、のぞみさんは9年間浪人したが、それでも医学部に合格できなかったため、2014年に合格した滋賀医科大学の看護学科に進学することになった。
    ※ただし、のぞみさんが将来、助産師になるという条件付で。
    ・2016年、大学2年の時に、のぞみさんは手術室看護師になりたいと思うようになる一方、2016年の終わり頃に助産師課程の進級試験に不合格になり、再び束縛は再燃した。
    ・2017年の夏には医大の付属病院から就職の内定を得ていたが、母はそれを辞退して助産師学校に進学するよう迫った。
    ・2017年12月、母親から所有を認められていた携帯電話とは別に、のぞみさんが隠し持っていたスマートフォンが母親に見つかる。母親はのぞみさんに庭で土下座させ、その様子を撮影し、スマホをブロックで叩き壊し、所有を認めていた携帯電話に「ウザい!死んでくれ!」とショートメールを送って罵倒した。
    ・2018年1月19日、1月中旬に受けた助産師学校の試験は不合格。大学病院への就職手続きの期限が一週間後に迫った際に、母親に「看護師になりたい」と本音を打ち明けたが、「あんたが我を通して、私はまた不幸のどん底に叩き落とされた」と一蹴され、その後、母親から夜通し怒鳴られ続けた。
    ・日付が変わった真夜中、のぞみさんがしのぶさんを殺害し、「モンスターを倒した。これで一安心だ」とSNSに投稿した。

    青年の説明を聞き終えた陰陽師は、紙にそれぞれの鑑定結果を書き連ねていく。

    桐生しのぶSS

    桐生のぞみSS

    桐生のぞみ(父)SS

    鑑定結果に目を通した青年が、口を開く。

    『今回の事件が起きた原因の一つに、母親であるしのぶさんによる、のぞみさんの私生活と進路に対する過剰な束縛があったと思われます。また、様々な要因が関係していると思いますが、しのぶさんがそうした束縛や虐待を行なってしまった要因として、頭が“2”、インターフェイスが“8”、魂の特徴にある攻撃性の上段の数字が“2”という魂の属性を持っていることが考えられます』

    「複雑に絡み合っている様々な要因の中の一部、としてはそなたの言う通りじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び属性表を眺めた後、口を開く。

    『他に、家族全員の共通点として、転生回数の十の位が“3”、すなわち数奇な人生を歩む傾向がある人生で、人運が“7”、天命運の14:人的トラブルの相がかかっていることが挙げられます。また、母娘の共通点として、血脈の霊障の7:親子、9:子宝、14:人的トラブル、17:天啓/憑依の相がかかっていることが考えられますが、これらは今回の事件と関係があるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから答える。

    「それらは合わせ技一本という意味では微妙に関係していると言えなくもないが、今回の事件を霊障だけで語ることは難しいじゃろうな」

    『なるほど…。それにしても、僕も浪人生活を経験したことがありますので、9年間も浪人したことは、のぞみさんにとって、相当な苦痛だったと推察します』

    「具体的には、どういった状況だったのかな」

    『ネットで調べた話では、浪人中ののぞみさんは携帯電話を取り上げられ、自由な時間を与えないようにと母親から一緒にお風呂に入らされていたようです。さらに、のぞみさんは浪人しているにもかかわらず、母親が親族に対し、のぞみさんが現役で医学部に合格したと嘘をついたため、のぞみさんは母親からそのように振る舞うよう、求められたようです』

    「のぞみさんは、よく9年間も我慢できたものじゃな」

    『当初は母親の束縛から逃れるために就職しようとしたみたいですが、当時は未成年だった上に、当然母親の同意を得られずに実現しなかったようです。また、のぞみさんは3回家出したようですが、いずれも探偵や警察に見つかって家に連れ戻されたようです』

    「なるほど。そうした過酷とも言える日々を9年間も過ごしたものの、母親が切望した医学部に入学できなかったと」

    『そうなります』

    そう言い、暗い表情で視線を落とす青年に対し、陰陽師はのぞみさんの属性表に視線を向け、再び口を開く。

    のぞみさんの魂の属性を見る限り、殺人を犯すような人物ではないが、そこまで母親から束縛を受けていたとなると、犯行に及んでも仕方なかったと言えるじゃろうな」

    『そうですね。この事件に関して非常に胸が痛みますが、のぞみさんはどれだけ受験勉強に励んでも、医学部に合格できなかったのではないかと僕は考えていまして、彼女のことが不憫でなりません』

    「なぜ、彼女は医学部に合格できないと思ったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、のぞみさんの属性表を手に取り、口を開く。

    大学入試には、学業と頭の良さの二項目が重要だと思われますが、のぞみさんは共に80です。医学部は大学受験において最高峰となりますので、そもそもこのスコアでは医学部に合格することは難しいのではありませんか?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    「そなたの見解に付言するとすれば、ワシが鑑定で出したスコアは“潜在値”、すなわち後天的に伸ばした場合の限界値であり、例えば80点だとすれば、この世に生を受けた時点で80点になっているわけではないのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『“顕在値”が後天的に変わるのでしたら、この世に生を受けた時のスコアはどれくらいだと考えればいいのでしょうか』

    「もちろん例外はあるものの、基本的には、“潜在値”の7割だと覚えておくとわかりやすいじゃろう。ちなみに、のぞみさんの“顕在値”、すなわち9年間の受験勉強を経た結果の学業と頭の良さは、共に70点じゃ」

    『なるほど。のぞみさんがこの世に生を受けた時点での学業と頭の良さのスコアは共におよそ56点(80×0.7)だとすると、彼女はこれまでの人生と受験勉強によって、“顕在値”を14点ほど上げることができたのですね』

    「そうじゃな。彼女の場合、学業も頭の良さも、あと10点分の伸び代があるということになるが、“潜在値”がそれぞれ80点であることを考慮すれば、いずれにせよ、彼女があのまま受験を続けていても、残念ながら、医学部に合格する可能性は低いと、ワシも思う」

    『確かに。学業と頭の良さという観点から、のぞみさんが医学部に合格することは難しかったことについて、理解できました。一方、魂の属性の観点から考えると、ほとんどの臨床医の魂の属性は3(9)−3、すなわち転生回数期が第三期の”魂3:武士・武将”で、しかも転生回数が“190回代”という“大々山”だとお聞きしました』

    「基本的にはその通りじゃが、中には1(7)―1、すなわち転生回数期が第一期の“魂1:僧侶/王侯”と、2(7)―3、すなわち転生回数期が第二期の“魂3:武士・武将”の人物がいることと、それらの少数派は、(医師免許を持った)厚生省の職員や医療財団のトップ、臨床分野や経営に携わっていることも覚えおくように」

    陰陽師の言葉に対し、青年は深く頭を下げた後、口を開く。

    『補足していただき、ありがとうございます。のぞみさんの魂の属性は2(3)―2、すなわち転生回数期が第二期の“魂2:貴族(軍人・福祉)”あることと、医学部に入学しても、1〜4回生の間に脱落していく医学部生が少なくないという、医学部卒の知人から聞いた話を考慮すると、仮にのぞみさんが医学部に合格できたとしても、退学していた可能性も考えられます』

    「ひょっとしたら、そうなっていた可能性があったかもしれんの。じゃが、この親子間の出来事で注目すべき点は、結果的にのぞみさんにとってそれなりに適している職業の道に進んだことじゃな」

    『確かに。魂2の人物は看護師などに多いとお聞きしましたので、のぞみさんにもその傾向があるのでしょうか』

    青年の言葉に小さく頷いた後、陰陽師は紙にペンを走らせながら口を開く。

    のぞみさんの看護師と助産師の適性は、共に90点(魂磨きおよび、向き不向きという観点で言えば80点以上が推奨)じゃ。つまり、彼女は医師への道を断念せざるを得なかったものの、不幸中の幸いと言えるかはわからないが、彼女の希望である看護師として医大の附属病院の内定を得ることができた。あるいは、彼女の母親の要望に応える形にはなるが、仮にのぞみさんが助産師になっていたとしても、それはそれで適職に就けたと言えよう」

    『なるほど。9年間も浪人したことについては複雑な気持ちになりますが、結果的に適性がある道に進んでいたことを考えれば、家族を通じて各々が今世の課題を果たしていたと言えそうです。あとは…』

    青年は一度口をつぐみ、しばらくして再び口を開く。

    母親であるしのぶさんの魂が、この世に何らかの未練を残して地縛霊化していないか、ですね』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「うむ。彼女の魂は、無事にあの世に帰還しているようじゃ」

    陰陽師の答えを聞いた青年は安堵の息を漏らした後、口を開く。

    『それを聞いて安心しました。そう言えば、全員に霊脈の先祖霊の霊障がかかっていませんので、逆接、すなわち本来向かうべき人生の方向性から真逆に進むといった霊障の影響はありませんし、“5:事故/事件”の相が誰にもかかっていないことから、今回の事件は三人の各々の今世の宿題を果たすために、起こるべくして起きた可能性がありそうですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「その可能性が考えられる。世間では、しのぶさんに対して毒親だとか、娘に殺されて当然、といった声が中にはあるかも知れぬが、以前も説明したように(※第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題参照)、子が自らの今世の課題を果たすために最適な親を選んで産まれてくることから、母親にとっては虐待をすることと、その後に娘に殺害されることが、そして、娘にとっては虐待を受けることが各々の今世の課題には必要な体験だった可能性がある」

    『母娘の間でそうした縁があったということは、母親による教育虐待を止めるどころか、気づくことすら難しかったであろう父親にとっても、今回の事件は必要な出来事である可能性が高いと』

    「まあ、そういうことじゃ。いつも言っているように、事件や犯罪に対し、この世の価値観で善悪の判断を下すのではなく、その出来事から何を学び、どう自分の人生に活かしていくかを考えていくことが肝要じゃ」

    『よくわかりました。それにしても、僕も受験で苦労した身ですので、のぞみさんに対して同情すると同時に、しのぶさんがあそこまで娘さんに対して教育虐待を行なった背景には、しのぶさんの学歴コンプレックスが、さらにその背景には学歴社会が関わっているように感じます』

    「そなたの見解に付言するとすれば、我が国では“社会的出生”が重要視されておるからのお」

    『“社会的出生”とはどういった意味でしょうか?』

    「“社会的出生”については、ノルウェーの社会学者ヨハン・ガルツングが発表した“社会構造・教育構造・生涯教育”と題する論文を読むといい。ただし、あくまでこの論文は一つの学説であり、他にも様々な見解があることから、この論文が絶対的に正しいものではない、ということを覚えておくように」

    陰陽師の言葉に対し、青年が首肯するのを確認してから、陰陽師は一枚の紙を差し出す。

    日本では『生物学的出生ののちに社会的出生が起こる』。そこでは人々がどの社会階級に所属するかは、家柄や血統ではなく、どのような学校に入り、教育を受けたかによって、つまりどのような学歴をもつかによって決まる。しかも日本の場合、入学はまず間違いなく卒業(学歴取得)を意味するから、『どの階級に属するかは、各(教育)段階の入学試験のさいに決まる』ことになる。こうして、この『学歴主義』の支配する社会では、はげしい受験競争が日常化し、入学試験による『社会的出生』の結果獲得された学歴は『属性』となり『身分』となって、社会生活のすみずみにまで、支配的な力を及ぼすようになるというのである。(161頁)

    読み終えた青年は、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『確かに。僕の経験談ですが、大学以前の友人と大学生になってから久しぶりに再会し、大学の話になった際に、僕の大学名を聞いてから友人の態度が変わったことがありますから、学歴によって生まれ変わっていると言っても過言ではないと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「なるほど。そういうこともあるじゃろうな。しのぶさんの場合、彼女が高校を卒業してからずっと高卒という属性、身分で固定されたままそれなりの辛酸を舐めて学歴社会を生きてきたじゃろうから、娘には同じ思いをさせたくなかったという思いがあったのかもしれぬの」

    『なるほど。学歴社会はまだまだ続くでしょうし、実際、僕の親族に中には、自分が合格できなかった大学に息子を入学させたいと言っている親がいます。その大学が息子さんに適しているならいいのですが、彼に限らず、受験する本人の希望と身の丈に合った大学に合格し、無用な苦労をせずに済むことを願うばかりです』

    「そなたの言い分もわかるが、そうは言っても各家庭で教育方針があるし、学歴社会の影響を強く受けた世代の親たちが学歴を重視することは至極当然と言えよう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく頷いてから口を開く。

    『ということは、例えば大学受験においては、偏差値の高さや知名度で選ぶのではなく、大学の校風や本人が専攻したい分野、さらには本人との相性で選ぶ方が、魂磨きのためという意味では充実したキャンパスライフを過ごせそうですね』

    「そうじゃな。未来は不確定で、ワシら一人一人の選択が未来を創造していくことを踏まえても、大学に限らず、本人が希望する選択肢の中でも、可能であれば今世の課題を果たすことにも適したものを選んでもらえたらと、ワシは思う」

    『確かに。大学を決めるほど大きいことではありませんが、僕が良さそうだと感じたコミュニティと関わることがNGだと鑑定結果が出ることもありますから、せっかく各種神事を済ませて霊的な余計な重しを取り除いて素の状態になり、パフォーマンスが100%になっても、誤った選択をして自ら運気を下げてしまっては元も子もないと思います』

    「そういうことじゃ。もちろん、NGと出た選択肢を選ぶことは本人の自由ではあるが、その結果、現世利益的にも霊的にも立て直すことが難しい状況に陥らないとも限らぬ」

    『肝に命じておきます。人間関係、特に恋愛と結婚、仕事内容、住んでいる家や引っ越し先など、今後の人生に少なからず影響を与えることを決める際は、ぜひ鑑定をお願いいたします』

    「もちろんじゃとも。繰り返しになるが、鑑定結果はあくまで参考にすべきであって、最後にどんな選択肢を選ぶかは個々人の自由だということと、鑑定で出た最適な選択肢を選ぶことによって得られる恩恵は、各種神事が済んでいることが条件であることを覚えておくようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は父親との過去のやりとりを思い出していた。

    親と子は、魂の属性だけでなく、魂の種類が異なる場合もある。
    だから、子が親の仕事を継げるとは限らないし、親と同じ学歴を獲得できるとは限らない。
    もちろん、夢や目標を持って日々努力することは大事だと思うが、親自身が叶えられなかった夢は、そもそも本人の手が届かない夢で、今世の課題に含まれていない可能性もある。
    そして、子供には子供の、今世の課題を果たすための夢や目標があるだろう。
    親は親の、子は子の魂磨きが恙無く進むよう、より多くの人に、魂の属性と今世の課題と、神事の重要性について理解してもらえるように尽力していこう。

     

    そう、青年は思議したのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第47話:自粛警察と魔女狩り

    新千夜一夜物語 第47話:自粛警察と魔女狩り

    青年は思議していた。

    コロナ禍において、“自粛警察”と呼ばれる人々が現れていることについてである。
    “自粛警察”による攻撃の対象となった事例の一部として、以下があるようだ。

    ・千葉県の菓子商店では、既に休業していたにも関わらず、「コドモアツメルナ。オミセシメロ」という貼り紙をされた。
    ・行政からの要請に従って営業をしていた飲食店が「この様な事態でまだ営業するのですか?」「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」といった貼り紙をされた。
    ・居酒屋が「本日自粛」という貼り紙を掲示したところ、何者かによって「そのまま辞めろ!」「潰れろ」「死ね」などの言葉がその貼り紙に書き込まれていた。
    ・県外ナンバーの車が傷をつけられる、あおり運転をされるなどの被害が相次いだ。
    ・生活圏が同一である徳島県住民の車のナンバープレートが曲げられたり、車に傷をつけられるなどの被害が相次いだ。
    ・日本相撲協会および相撲部屋に、自粛期間中に力士が外出していたという投書が相次いだが、そのほとんどが無記名かつ事実無根なものであり、ちゃんこの買い出しに行っただけの力士が報告された例もあった。

    こうした”自粛警察“と呼ばれる行動を取ってしまう人物には、何らかの共通点があるのだろうか。また、彼ら/彼女らに対し、どのように向き合えばいいのだろうか。
    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は、“自粛警察”について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「“自粛警察”とな。少し言葉が異なるが、ワシも以前に“健康警察”なるネット記事を読んだ記憶がある」

    『**警察という意味では、たしかに、似ていますね。その“健康警察”について調べてみます』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作してネット記事を検索する。
    陰陽師が湯呑みの茶を一口、二口飲んだ頃、青年は再び口を開く。

    『医療ジャーナリストである、市川衛さんという人物が書いた記事のようですね。彼は、自身の中にもある、他人の行動に一言もの申したくなってしまう気持ちを、“健康警察”と表現しています

    「そのような内容じゃったと記憶しておるが、もう一度、詳細を教えてもらえるかの?」

    『とあるテレビ番組のロケで、その番組のディレクターが寿司屋の大将にビニール手袋を着けるように依頼したところ、嫌な顔をされたというのが主旨のようです。こうした感染予防対策に対し、“テレビではおなじみのアクリル板や、お寿司屋さんがつけるビニール手袋は、誰を何から守っているのでしょうか”と、市川さんは問いかけています』

    「なるほど。寿司はもともと素手で握って作る料理であるから、寿司職人は普段から寿司を握る前に手を洗い、消毒をしているため、衛生面では非の打ち所がない。それにも関わらず、ビニール手袋を使うとなると、彼らは調理後にまな板や調理場を定期的に掃除しているわけじゃから、ビニール手袋はすぐに汚れてしまう。よって、寿司職人の場合、ビニール手袋を着ける方が、感染リスクが高まるとワシは思うがの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きく頷いてから口を開く。

    『そのことに関し、市川さんは、視聴者からのクレーム電話に対応して手間が増えたり、ネットのお叱りで番組の評判が落ちたりするのを避けるため、つまり、“番組担当者の生活やこころ”を、私たちの中にある“健康警察”から守るためにビニール手袋は使われていただろうと、分析しています』

    「なるほど。して、アクリル板に関して、彼はどう分析しておる?」

    『アクリル板などの仕切りは大臣の会見などでも使われており、会見に来る記者たちの健康ももちろんですが、大臣の評判も守りたいのではないかと、市川さんは推測しています。結局のところ、寿司職人にビニール手袋の着用を求めた話と同様、カメラの先の人々の中にある、“健康警察”を意識しているのではないかと考えているようです

    「そうじゃろうな。先日話したように(第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性)、ネットでクレームを入れる傾向にある魂4による、ネットでの影響力はかなり大きいことから、番組制作者たちは、番組の内容とは関係のないところで炎上してしまい、本来伝えたいことが伝わらなくなってしまうことを避けるためにも、視聴者の視線を常に意識しなければならないわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、真剣な表情で頷く青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「ちなみに、今回の“自粛警察”と中世の“魔女狩り“には一定の関係性があるのじゃが、そなたは“魔女狩り”という言葉を聞いたことがあるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、しばらく黙考してから、口を開く。

    『“魔女狩り”は中世のヨーロッパで大々的に行われ、魔術を使った疑義がある人物を裁判にかけ、魔女だと判断された人物を死刑にしていたと認識しています。また、“魔女狩り”の対象となる魔女は呪術や黒魔術を扱う人間のことであり、魔“女”と表現されるものの、実際は男性も含まれていたと記憶しています』

    「大まかに言えばそうじゃな。して、当時行われていた“魔女狩り”の大きな問題点を挙げるとすれば、“自粛警察”のような私的な裁判が横行していたことじゃ」

    『え、教会などの権威ある組織が公平性を持って判決を下していたのではないのですか?』

    目を見開きながら問う青年に対し、陰陽師は首を左右に振ってから口を開く。

    「そなたの認識では、異端審問と“魔女狩り”が混在しているようじゃから説明しておくと、“魔女狩り”の前身は、12世紀に行われていた異端審問と呼ばれるもので、当時のカトリック教会にとって異教と疑わしき人物を対象に行なわれていた裁判のこととなる」

    『つまり、異端審問では魔術を使うかどうかは、問題視されていなかったわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「そういうことになる。実際、中世のカトリック教会においては占術や呪術の類は取り除くべき迷信とされたが、13〜14世紀の異端審問官が民衆の呪術的行為に積極的に介入することはなかった。教皇アレクサンデル4世は1258年に、異端審問官が占術や呪術の件を扱うのは、それが異端であることが明らかな場合に限ると定めておったそうじゃ」

    『そうなりますと、いつから異端審問が、魔術を扱う人物が対象となる”魔女狩り”に移行していったのでしょうか』

    「1428年にスイスのヴァレー州の異端審問所が、当時のローマ・カトリック教会側から異端として迫害されていた、ワルドー派を魔女として裁いた件が初めてのようじゃな」

    『なるほど』

    当時の西欧は、現代の先進国のように政教分離を基本的な原則としておらず、キリスト教が一国の政体に大きな影響力を持っていました。
    よって、神に対して謀反した堕天使(サタン)の手先である悪魔を崇拝する魔女は、国家反逆罪に近い扱いを受けていたわけです。
    また、現代の価値観とはだいぶ異なり、スコラ学では善良な天使と堕天使との人間の交流について研究がなされ、13世紀には悪魔の存在が現実の危機として考えられていました。

    「そして、15世紀後半になり、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者が魔女であるという概念が生まれたことから、異端であるワルドー派やカタリ派が行なっていた集会のイメージが、魔女の集会のイメージへと徐々に変容していったと考えるのが妥当だとワシは思う」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンを手早く操作し、やがて口を開く。

    『なるほど。ネットで調べる限り、ワルドー派やカタリ派の集会では、サタンと性交したり人肉を食べているなど、彼ら/彼女らは根も葉もない偏見を押し付けられたり、そうした偏見から悪魔崇拝の嫌疑をかけられてしまったようですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「そうした背景を元に、“魔女狩り”は15〜18世紀の全ヨーロッパで行われ、特に16〜17世紀は魔女熱狂、大迫害時代とも呼ばれる最盛期を迎えた。また、文献によると、当時は教会や世俗権力ではなく、主に民衆によって推定4〜6万人が処刑されたらしい」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、目を見開き、問いを発する。

    『民衆が行なっていたとなると、昨今の“自粛警察”と同様、魔女狩りを行う明確な基準はなかったように感じますが、実際のところはどうだったのでしょうか?』

    「“魔女狩り”で特に有名な人物として、マシュー・ホプキンス(1644〜1646)が挙げられるが、彼はイングランドにおいて、“魔女狩り”で死刑になった1000人のうち、300人を処刑したと言われておる。しかも、彼が用いた水審、針刺し、拷問といった判別方法は不正が多かったようで、多数の無実の人を魔女としてでっち上げていたようじゃ

    『300人も不当に処刑するなんて、現代の倫理観からみれば尋常ではないと思いますが、いったい何が、彼をそこまで“魔女狩り”に駆り立てたのでしょうか?』

    「当時のキリスト教の影響下にあった時代背景を鑑みるに、敬虔なキリスト教信者であったであろう彼は、悪魔の存在を信じて恐れていたと思われる

    『なるほど』

    「また、彼は弁護士だったものの生計を立てることが困難で、彼が魔女狩りを行なう時には地元住民から特別徴税を行い、庶民の年収に相当する20ポンド前後の大金を受け取ったとする記録もある。彼が魔女狩り業務に従事していた3年弱の間に稼いだ金額は数百ポンドとも1000ポンドとも伝えられることから、金がもう一つの目的じゃったことは、まず間違いあるまい」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく無言で計算し、やがて口を開く。

    『彼が得たお金を1000ポンドと仮定すると、庶民の50年分に相当する大金ですが、お金を理由に、大勢の人物を不当な裁判によって処刑したことで、逆に彼がなんらかの罪に問われることはなかったのでしょうか?』

    「もちろん、当時のイングランドの法律では拷問が禁止されていたが、彼は弁護士であったことから、様々な工夫を凝らし、違法すれすれのやり方で魔女裁判を行なっていたようじゃな」

    『なるほど。ちなみにですが、彼はどんな魂の属性なのでしょうか?』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師はそう言い、紙に鑑定結果を書き記していく。

    マシュー・ホプキンスSS

    青年はしばらく属性表を眺めた後、やがて口を開く。

    『彼はビジネス運も金運も7と低いことに加え、血脈の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますので、弁護士という職に就きながらも生活に困窮していたことに納得できます。そして、頭が“2”で自己中心的な特徴を持つことや、欄外の枝番が“5”で気性が荒い特徴を持つことを踏まえると、“魔女狩り”によって人の命を奪うことは、彼にとっては自分が生きるために行うビジネスのような感覚だったのかもしれませんね』

    そう苦々しく言う青年に対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「そうした“魔女狩り”に対し、反対の声がなかったわけではない。彼より前の時代になるが、“魔女狩り”に反対した最初期の人物として、ヨーハン・ヴァイヤーという医師がおり、彼の著作である“悪霊の幻惑について(De Praestigiis Daemonum)”が当時大きな反響を呼び、その結果、多くの地方で魔女裁判が寛大かつ慎重に行われるようになり、魔女だと判断された人物がこの本の論理で弁明をしたほどの内容だったそうじゃ」

    『具体的には、どのような内容だったのでしょうか?』

    「彼は悪魔の存在を完全に否定したわけではなく、悪魔は力を持っているものの、キリスト教会が主張するほどには強くはないという前提の基、悪魔はそれを呼び出した人の前に出現し、幻影を作り出すことができるという考えを支持した」

    『つまり、悪魔を呼び出す人がいなければ、悪魔は積極的に人間に対して影響を及ぼさないということでしょうか』

    「おそらく。さらに付言すると、彼は幻影を作り出すことのできる人々のことを魔術師と定義し、魔術師は悪魔の力を使って幻影を作り出す“異端者”である言及した」

    陰陽師の言葉を理解するためか、しばらく青年は無言で唸ったのち、やがて口を開く。

    『つまり、極端な言い方をすれば、諸悪の根源が悪魔と、悪魔を呼び出した魔術師だと主張したわけですね。それで、肝心の“魔女”として疑われた人物はどのような扱いになったのでしょうか』

    魔女たちに対し、彼は“精神的に病んでいる”という言い回しをしたと言われておる。現代でも“精神疾患”という病名があるものの、その原因を悪魔だと主張する人物は少数派であることはわかるじゃろう」

    『はい。現代でそんなことを言っても、相手にされないと思います。彼の主張のおかげで、加害者は悪魔そのもので、魔女と疑われた人々が濡れ衣であることが明確に整理されたようですね

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、再び口を開く。

    「当時の人々がキリスト教から強い影響を受けていたとは言え、悪魔と魔女、言い換えれば悪魔憑きを明確に分けて考える様になり、理性的な判断ができる人物が徐々に増えていったと思われる」

    そう言った後、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    ヨーハン・ヴァイヤーSS

    属性表を見た青年は、何度も頷いてから、口を開く。

    『彼は頭が1で世のため・人のためとなる行動を地で実行する特徴を持ち欄外の枝番が“1”で能力面において優秀であること、大局的見地(S)と仁(A+)が高いことも考慮すると、大々的に行われていた“魔女狩り”に対して異を唱えたことも納得できますし、彼の行動は英断だったと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「彼の執筆の動機は、“やっかいな悪魔に誘惑された高位高官の人びとに対する真からの同情心”だったそうで、“魔女狩りはあくまで悪魔の誘惑によるものであり、責任は悪魔にある”という持論を展開し、これまで魔女裁判を行なった者への配慮も怠らなかった点も、特筆すべき点じゃな」

    『なるほど。魔女裁判を行なった人物の中には、己の行いを悔いた人物もいたでしょうから、彼らにとっても読む価値はあったのでしょうね。また、ヨーハン・ヴァイヤーは医師として社会的地位が高かったことから、彼のような人物が唱える現実的な主張は、読者に対して大きな説得力を持ったのだと思います』

    「そうじゃな。彼は皇帝フェルディナント1世に“不当な魔女裁判の助長を差し押さえる特権”を求めた結果、皇帝からその特権を認められたようじゃし、当時の世の中にはびこっていた不当な“魔女狩り”を減少させた彼の功績は大きいと思われる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    『なるほど。彼のように、“魔女狩り”に対して反対意見を述べる人々によって、“魔女狩り”は収束していったと思われますが、実際に、“魔女狩り”はどのように収束していったのでしょうか?』

    「17世紀末期になると知識階級の魔女に対する認識が変わり、裁判でも極刑を科さない傾向が強まったことと、カトリック・プロテスタントともに個人の特定の行為の責任は悪魔などの超自然の力でなく、あくまでも当人にあるという概念が生まれてきてから、裁判においても無罪放免というケースが増えたことで、魔女裁判そのものが機能しなくなっていったようじゃな」

    『なるほど。ヨーハン・ヴァイヤーが主張した、魔女と疑われた人物を“精神的に病んでいる”と認識することで、現代の価値観と照らして考えれば、特定の行為の責任は悪魔とは無関係であり、あくまで当人にあると解釈できることに納得できます。それに、魔女に対する認識が変わったことが重要ということであれば、大局的見地に基づいた情報を、より多くの人に届けることが重要であったことは、当時も現代と同じのようですね』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく頷いてから、再び口を開く。

    「ちなみに、“魔女狩り”の規模は地域で差があったようで、強力な統治者が安定した統治を行う大規模な領邦では激化せず、不安定な小領邦ほど激しい魔女狩りが行われていたようじゃ。その理由としては、不安定な小領邦の支配者ほど社会不安に対する心理的耐性が弱く、“魔女狩り”を求める民衆の声に動かされてしまったことが考えられる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで眉間にシワを寄せながら、口を開く。

    『我が国は社会不安に対する心理耐性が低いと、僕は思わないものの、自粛疲れで社会への不満を抑えきれなくなった一般人による“自粛警察”の声が、インターネット上で多数挙げられて炎上でもしようものなら、政治家もそうした声を無視できない現状ですもんね』

    「残念ながら、そなたの言う通りじゃ。“健康警察”や“自粛警察”なども、コロナ禍の影響による仕事の減少にともなう収入の減少や、終わりが見えない不安によって、社会に対する不満が増長していることに加え、“令和革命”の影響によって、産業革命前の中世に世の中全体がシフトしている影響も関係しておるのじゃろう」

    ※令和革命とは、日本の年号が“令和”に変わったことにより、産業革命を機に始まった、唯物論者の考えや意見が主流な現在の物質主義の世の中である“体主霊従”から、“霊”、すなわち魂や見えない存在の影響を大きく受ける、“あの世”の理屈が主流となる、産業革命以前の“霊主体従”の世の中にシフトしたことを意味します。(※第34話:令和とパラダイムシフト参照

    『なるほど。人間は環境の影響を受けやすい存在ですから、“令和革命”の影響で我々を取り巻く環境が大きく変わり、全てが産業革命以前には戻らないものの、当時の人々に近い行動を取る傾向が強まってしまうわけですね』

    「そういうことじゃ。今回の事件は怪我で済んだからよかったものの、仮に今後も我が国の状況に改善の兆しが見られない場合、国民の不安も増大していき、そうして増大した不安を解消するため、事件の内容も過激になっていくことが予想され、場合によっては人命が失われるような事件が起きないとも限らぬ」

    『なるほど。とは言え、“自粛警察”による行動の結果、新型コロナウイルスの感染者数を減らせるとは限らないと思うので、個人の独断によって人の命が奪われてしまうような、“魔女狩り”の再来がないことを願うばかりです』

    「ワシもそう思う。ちなみに、“自粛警察”に該当するような事件を起こした人物の情報を、わかる範囲で教えてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、加害者たちの情報を読み上げる。

    『ネットで調べる限り、2021年4月に他県ナンバーの車に煽り運転をした男性と、2020年4月にスポーツクラブのドアを破壊した男性は特定できました』

    青年の言葉に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    あおり運転をした男性SS

    スポーツジムのドアガラスを破壊した男性SS

    二人の属性表を眺めた青年は、やがて口を開く。

    『両者の共通点の中で、事件を起こす影響を与えた要素として、人運と大局的見地の数字が高くないことと、攻撃性を示す項目の上段の数字が“2”であることと、先祖霊・血脈の霊障と天命運に“14:人的トラブル”の相がかかっていることが考えられます』

    「おおむねそなたの言う通りじゃが、両者がそのような行動を取った経緯についてはわかっておるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『前者に関しては、“残業が続いて疲れていた。コロナ禍なのに、県外ナンバーの車だったのでイライラしてやってしまった”とのことで、後者に関しては、“緊急事態宣言が出ているのに営業しているので、頭に来て文句を言おうと思ったが、店員がいないのでドアを破った”とのことです』

    「なるほど」

    『後者の男性の被害にあったスポーツジムに関しては、事件が起きた1時間後から休館を開始する予定だったようで、タイミングが悪かったと思います』

    「いずれにせよ、この二人が取った行動は、新型コロナウイルスの感染予防の観点からみて適切だったとは考えられず、市川さんの言葉を借りれば、“健康警察”が前面に出てしまったようじゃな」

    陰陽師を聞いた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    『ちなみに、市川さんは“健康警察”が与える影響と、それにどう向き合えばいいかを次のように書いています。”他人の行動を見かけて、何かしらモヤモヤを感じた時、SNSに書き込んだりする前に、私の中の“健康警察”は、実はあまり合理的でないことを要求し、誰かの生活を息苦しくさせることにつながっていないか?“と振り返るクセをつけましょうと、自戒を込めて述べています』

    「その通りじゃろうな。新型コロナウイルスに関する諸説が散見しているようじゃが、一人でも多くの人が感染予防に関する正しい情報を得、“疫病退散”のような神事を受けようと自ら密になる状況に身を置き、そこで感染してしまうようなことがないことを願うばかりじゃ」

    『そうですね。新型コロナウイルスは“風邪”だと主張するのは自由だと思いますが、医師ではない人物の言葉を鵜呑みにしてはいけませんし、昨今の医学の進歩を鑑みるに、新型コロナウイルスの感染経路と感染予防に関する医学的な見解の信憑度は高いと思われます』

    「そなたの言う通りじゃな。“魔女狩り”の時代に生きた人々とコロナ禍に生きる我々の共通点として、悪魔と新型コロナウイルスという、いずれも目に見えないものに由来する恐怖と直面しておるが、ヨーハン・ヴァイヤーが、キリスト教から強い影響を受けていた当時の価値観の中で、目に見えない悪魔に対する認識を変えるのに成功したのと同様、現代に生きる我々一人一人が、特に魂1〜3が大局的見地に基づいた情報を発信し、新型コロナウイルスに関する人々の認識を変えていくことが肝要なのじゃなかろうか

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は“自粛警察”の事例と“健康警察”のネット記事を読み返していた。
    “自粛警察”となってしまう人物はひょっとしたら、自分と価値観が合わず、話し合いで解決することが難しいかもしれない。

    だが、正しい情報を伝えることで、本当にやるべきこととそうでないことについてや、“自粛警察”のような私的な行動がどのような結果をもたらすのかについて理解してもらえたら、実行する直前に考え直してもらえ、同じような事件が起こることを、未然に防げるかもしれない。

    また、いざ“自粛警察”となりかねない人物が目の前に現れたとしても、その人に正しい情報を、適切に伝えられるように精進していこう。

    そう、青年は決意したのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性

    新千夜一夜物語 第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性

    青年は思議していた。

    先日、伊是名夏子さんが公開した、『JRで車椅子は乗車拒否されました』という題名のブログが炎上した件についてである。

    この出来事は、車椅子ユーザーである伊是名さんが来宮駅近くの宿泊施設や飲食店を事前に予約し、当日にJR東日本を利用して現地に向かおうとした際に、無人駅である来宮駅ではなく、バリアフリー化されている熱海駅で降車するように、駅員から勧告されたことを発端とする騒動を書いたブログが炎上したようだ。

    今回の炎上は、著名人である伊是名さんのブログの8割を削除するほどの影響があり、尋常ではないように青年には感じられた。

    伊是名さんはどんな魂の属性を持っているのか。そして、なぜ、彼女のブログはここまで炎上したのか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は伊是名夏子さんと、彼女のブログが炎上した件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「先日、ネット上のニュースで話題となった件じゃな。して、具体的にどういったことを知りたいのかの?」

    『僕がお聞きしたいのは、伊是名さんの魂の属性と、なぜ彼女のブログはあそこまで炎上したのか、そして、今後、インターネット上でどのように情報発信していくべきかについて、です』

    「なるほど。それらの質問に答える前に、今回の騒動が起きた経緯について教えてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、一つうなずいてからスマートフォンを操作し、口を開く。

    『自身が車椅子ユーザーである伊是名さんとしては、現在障碍者たちが享受している権利は、先人たちの座り込み等の運動によって獲得できた権利であると考えているようで、今回の出来事もバリアフリー推進の活動の一環として起こしたようです』

    「つまり、彼女は意図的にその日、その場所を選んでいたというわけじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてから、口を開く。

    『彼女が後日発信していた内容から判断するに、そうなります。実は、ブログに書かれた出来事が起きた当日の2021年4月1日は“改正バリアフリー法”の施行日で、伊是名さんは来宮駅が無人駅だと知っていたようですし、JRとの騒動が生じた際に、新聞社数社に呼びかけて取材を要請したということから、計画的な政治運動だったと言えそうです』

    「たしかに、その騒動がプライベートなものであれば、新聞社を呼ぶ必要はないからのう。して、JRは彼女の要望に対し、どういった対応を取ったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『JR小田原駅の駅員は、無人駅である来宮駅ではなく、バリアフリー化されている熱海駅での下車を推奨しましたが、伊是名さんは、熱海駅から来宮駅までに移動するための、車椅子で乗車可能なタクシーは一ヶ月前からの予約が必須だと主張し、バリアフリー法にのっとって対応するように駅員に求めました』

    「なるほど。法律を盾に、自らの要求を通そうとしたわけじゃな」

    『そうです。そんな彼女の要求に対して駅員は、来宮駅はバリアフリー法の対象とはならないことを説明しましたが、駅員によるその説明に対し、伊是名さんは、今度は“障害者差別解消法”を根拠に合理的配慮を求め、駅員3・4名を集めて電動車椅子を運ぶように要求しました。その結果、特別な計らいによって、駅長を含む4人の駅員が来宮駅まで同行し、対応したとのことです』

    「その経緯を聞く限り、乗車を拒否されたわけではないのじゃから、JRに非を感じさせかねない、あのようなブログのタイトルを付けるには、ちと無理があると思われるが」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    伊是名夏子SS

    属性表を眺めた後、青年は口を開く。

    『この属性表から、伊是名さんは人運が“7”と低く、血脈の霊障と天命運に“14:人的トラブルの相”があることから、今回炎上してしまったことは納得という感じですね』

    「そのあたりについては、たしかに、そなたの言う通りなのじゃろうが、“改正バリアフリー法”は2025年を目標に施行されておる法律で、同法が施行されたその日に、全ての駅をバリアフリー化することは、現実的に考えてみてもほぼ不可能じゃ。よって、経済性や現実味を度外視した彼女の一連の言動には、魂4特有の大局的見地に欠けた、偏狭な正義感が少なからず影響しておるのじゃろうな」

    『なるほど。伊是名さんは政治運動を目的として、意図的にあのような人目を引くようなタイトルをブログにつけたのだと思いますが、読者の批判の矛先をJRに向けようと権謀術数を弄したにもかかわらず、本人の意図とは逆に、批判や誹謗中傷が自らに集中してしまったわけですね』

    「まあ、結果としてそういうことになるのじゃろうな」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、今回の騒動が起きた経緯はそうじゃとして、炎上した理由について、世間ではどのように言っておるのかの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『今回炎上した理由についてですが、ネット炎上を研究している国際大グローバル・コミュニケーションセンター准教授の山口真一博士によりますと、議論の前提の違いとブログの書きぶりの2点が主な理由となっているようです』

    「というと」

    『一つ目の“議論の前提の違い”についてですが、伊是名さんは、障碍者も健常者と同様に生活を送るという“真のバリアフリー”の社会が実現していない現状を、障碍者の視点で提起しましたが、読者は健常者の方が多いことから、今回の彼女の言動は多くの人にとって、“利用者の少ない無人駅に、事前連絡なしに車椅子で行ってクレームをつけている”という解釈になってしまったのだろうと思われます』

    「なるほど」

    青年の言葉にあいづちを打つ陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『山口博士は、“前提があまりに違うとそもそも議論にならず、意見が衝突するばかりで妥協点を探すことが難しい”と述べていますが、今回の一件は障碍者と健常者という前提だけでなく、4つの魂の種類の違いによって生じる、議論の前提の違いも何らかの関係があるのではないかと、僕は思いました』

    「して、もう一つの理由である、“書きぶり”とは?」

    陰陽師にそう言われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『ブログのタイトルの付け方もですが、本文では伊是名さんの主張がかなり強く出ていて、可能な範囲で対応した駅員への感謝の言葉がなかったことから、特に、“駅員だって大変なのに”“書き方がおかしい”といった、本筋とは関係ない理由で炎上したようです』

    「なるほど。無人駅だとわかっていた上での彼女の行動や、新聞記者まで呼んで大ごとにしようとしていた点も、いっそう反感を買う要因となったわけじゃな」

    『そうですね。炎上することで多くの人々から注目されましたが、本筋とは関係がない“書き方”の方で炎上してしまっては、真のバリアフリーを訴えるという本筋が伝わらなくなってしまい、本末転倒だと思います』

    「たしかに。一般論として、ネットが炎上する背景には、ガラ携並みのOSを持った魂4の偏狭な正義感に裏打ちされた批判/議論があるのじゃろうが、今回の件も、論旨の全体を見るのではなく、“感謝の言葉がない”“書き方がおかしい”という側面に対してのみ、集中砲火が浴びせられた結果、このような炎上が起こってしまったのじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、口を開く。

    『そのお話と関連しますが、山口真一博士が実施した、20〜60代の男女3000名を対象としたアンケート調査の結果によりますと、7%しかいない少数の極端な人がネット上の意見の46%を占めているようですが、この極端な人の多くが魂4と考えるのであれば、先生の説明に納得できます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「さらにもう一つ付言するとすれば、人口の45%と最も多くを占める魂4の中でも、我が国の場合、特に2−4(転生回数が第二期の魂4)と4−4(転生回数が第四期の魂4)が多いことから、炎上の種火となる投稿を2−4が書き込み、4−4がそれに追従して拡散するという、我が国特有のメカニズムも今回の一件に大きな影響をあたえておるのじゃろうな」

    『なるほど』

    「して、誹謗中傷を書き込む人々の動機について、山口博士はなんと?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再びスマートフォンを操作し、口を開く。

    『2017年に行われた研究ではありますが、山口博士は、炎上の種火となる投稿をしている人物の動機に関し、“どのような炎上事例でも、6〜7割の人が自分の価値観での正義感から投稿を書き込んでいたそうで、動機を掘り下げていくと、何かしらの生活や社会への不満といったものが少なくない”と述べています』

    「なるほど。動機は、生活や社会への不満とな」

    『はい。“誹謗中傷を書き込んでいる人は、あくまで相手が悪いから攻撃しているようで、実は、他者に制裁を加えることで、不安を解消してくれるような、いくばくかの満足感を得ようとしている”とも、山口博士は分析しています』

    「なるほど。終わりが見えないコロナ禍の影響による、仕事の減少に伴う収入の減少に加えて様々な自粛を強いられることで、本来は問題とならぬような些細な事象にまで、火の手が上がりやすくなっておるというわけじゃな」

    『それともう一つ。メディアで凄惨な事件や芸能人の不倫や政治家の不祥事などのネガティヴな情報が報道されると、やり場のないストレスの捌け口をそれらの事件に求めてしまうということも、その原因と思われます」

    そう言い、視線を落とす青年に対し、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「今回の件を通じて、インターネットにおける魂4の支配力が強いことを改めて理解できたと思うが、インターネットの普及と政治家の小型化という問題にも奇妙な相関関係があることを含め、ネット上での発言権を魂4だけに握られぬよう、魂1〜3が、より多くの情報発信をしていくことが大切だという話は、以前した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく首肯してから、口を開く。

    『肝に命じておきます。魂4の人々の意見が主流になった政治は“衆愚政治”になりかねないと以前お聞きしましたので(※第13話参照)、そうした状況にならないようにしたいものです。ところで』

    「うむ」

    『学校でのディスカッションを始めとする教育や、何らかの訓練によって、魂1〜3と魂4との間にある、前提の違いによる価値観の差を縮めることはできるのでしょうか?』

    「もちろん、価値観の種類にもよるのじゃろうが、残念ながら、両者の距離を縮めることは容易ではないと思う。その主な理由として、そもそも魂1〜4で魂の容量が異なることが挙げられるが、それぞれの容量の違いについて、そなたは覚えておるかの」

    『はい、覚えています』

    そう言い、青年は紙に魂の種類とそれぞれの容量を書き記していく。

    <魂の種類と容量>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    青年が書いた内容を一読し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    魂1〜3と魂4のOSには、コンピューターとガラ携程の差があることから、どれだけ優れたソフトがあっても、容量が足りなければそれを載せることはできぬ。同様に、魂の種類によって、日常でインプットできる情報量も異なることから、当然、アウトプット、どういった言動を取るかも、魂の種類によって変わってきてしまうことになる」

    『なるほど』

    「この話は魂1〜3と魂4との関係に限らず、魂1であるワシと魂3であるそなたとの間でも当てはまることで、ワシの話のすべてがそなたに伝わらない原因も、そのあたりが影響しておるわけじゃ」

    『確かに、先生のお話をお聞きしている時はいつも、魂の容量の差が大きすぎることを実感しています』

    そう言い、ばつが悪そうに頭を下げる青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから言葉を続ける。

    「話を戻すが、魂1〜3と魂4の距離を縮めることは難しいものの、我が国でディスカッションの授業が増えることで、相手を尊重した表現を用い、批判されたこと=喧嘩を売られているわけではないということ、両者の意見が相違している部分に関し、感情的にならずに対話できる生徒を増やすことは期待できると思う

    『なるほど』

    「また、魂の容量の差によって生じるお互いの相違点を理解し合うことによって、魂1〜3側にとっても、自分たちとは違う論理的思考を持っている人物が存在していることを知る、良い機会になると思われる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きくうなずき、口を開く。

    『確かに。僕が話したことがある人物に限りますが、魂1〜4でそれぞれ特有の論理的思考の方向性があるように感じます』

    「ともかく、人間は多面体なわけじゃから、魂の違いのみで相手のことを判断してはいかん。魂4の人物であっても論理的な人物はいるわけじゃし、魂3で高学歴の人物であっても、感情的な人物も相当数おるわけじゃからな」

    『なるほど。感情的になることについては、僕にも身に覚えがあります』

    そう言い、苦笑する青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「それでも、あえて魂1〜3と魂4、特に2−4、あるいは転生回数が第二期に近い3−4や1−4との違いを指摘するとすれば、魂4の人物に哲学的な思考を求めるなどして魂4の容量を超えた際に、質問の趣旨から大きく外れた回答が返ってきたり、物事を感情的に捉えてしまい、時には論理的思考が飛んでフリーズしてしまうといった、諸特徴が顕在化する可能性が高いことだけはそうなのじゃろう」

    『つまり、感情に左右されずに論理的思考に基づいて行動できる度合いが、魂4から魂1に向かうにつれて高まっていく傾向にあるということでしょうか』

    「人間は多面体であることから、ある一面だけを捉えてどうこう言うのは危険な行為じゃが、大筋では、そういった捉え方もできると思う。ただし、相手の顔を見ながら、相手の感情の機微を観察しつつ、言い方や言葉選びに気をつけることができる対面の会話と違い、対面で得られる情報がないネットの世界では、画面の向こうに自分と同じ血が通った人間がいると認識できずに、魂の容量と諸特徴が、よりダイレクトに出てしまうことが往々にして起こりえるので、そのあたりにはじゅうぶんな注意が必要なわけじゃな」

    『確かに。僕が調べた限りではありますが、AIを用いた認知科学の研究でも、人に話すよりも人でないモノに話す方が、人のネガティブな感情は引き出されやすいという結果が出ているようですし、相手の顔が見えないネット上では、特に魂4は過激な書き込みをしやすくなってしまっているのでしょうね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「そうした諸々の理由も踏まえると、基本的にネット上で問題提起をする際は、魂4の人々にも響きやすいように、言葉遣いや言葉選びに細心の注意を払い、共感を呼ぶような内容を盛り込んで投稿することが望ましいということになる」

    『なるほど。それなら僕にもできそうです』

    陰陽師の言葉を聞いて大きく頷く青年を見やり、陰陽師は口を開く。

    「ただし、魂4の目に触れ、彼ら/彼女らによって大事な情報が拡散されることは重要ではあるものの、魂4に迎合する内容ばかり投稿していては、結局は魂4の声が庶民の総意と一括りに捉えられやすいことには変わりはない。ゆえに、我々魂1〜3も、ネット上で積極的に、大局的見地に基づいた意見を書き込んでいくことも肝要だということは、先ほども言った通りじゃ』

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はこれまで縁があった人物とのやり取りを振り返っていた。
    なぜ、根気強く説明しても話が噛み合わず、徒労に終わってしまったのかが、今回の話で理解できた。ただ、話が噛み合わなくとも、お互いの目的や大事にしていることをある程度共有できたことも思い出した。

    出会いは必然であり、せっかくご縁を得られた相手と共有できることを増やしていけるよう、相手の魂の種類を把握し、それぞれに合った接し方をしていこう。

    そう、青年は決意したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題

    新千夜一夜物語 第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題

    青年は思議していた。

    福岡5歳児餓死事件についてである。
    この事件は、半年以上に渡り、実母がママ友の言いなりになって三男に食事を与えないようにし続けた結果、彼が餓死してしまったものである。そして、彼を餓死させてしまった実母とママ友は、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。

    わずか5歳の男児が命を落とすことはとても胸が痛む事件であるが、それ以前に、彼の実母がまるで洗脳されたかのようにママ友の言いなりになっていたことは、青年には尋常ではないように感じられた。ひょっとしたら、何らかの霊障が関係しているのかもしれない。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は“福岡5歳児餓死事件”について教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ。ちょっと前に、マスコミを騒がせた例の事件じゃな」

    「はい、その件ですが、一応事件の経緯をご説明しておきます」

    青年はスマートフォンで内容を確認しつつ、陰陽師に事件の経緯を話した。

    『実母は三男が低栄養状態で動かなくなっても、ママ友の言いつけを守り、彼に食事を与えなかったようです。また、救急車を呼ぶ事態になっても、自らの意志で呼べず、ママ友の指示を仰ごうとしていたことは、尋常ではないと感じました』

    「たしかに、この事件は、通常の殺人事件とはまた毛色が違う事件のようじゃな。して、その三人の情報はわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、それぞれの名前や年齢を口にする。
    陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、紙に鑑定結果を書き記していく。

    赤堀恵美子SS

    碇翔士郎SS

    碇利恵SS

    それぞれの属性表を一通り眺めた後、青年は口を開く。

    『属性表を見る限り、しつけと称して食事を抜かれ、虐待を受けることは翔士郎くんの今世の宿題の一環であったのかもしれないとしても、今回のこの痛ましい事件は、赤堀容疑者にかかっている血脈の霊障の“5:一般・事件・加害者・死”の相が大きく作用したために、結果、死に至ってしまったと理解すべきなのでしょうか?』

    「うむ。もちろん、ここまでの事態になるためにはほかにも様々な事情が複雑に絡み合っているのであろうが、各人の属性を見る限り、そのように考えるのが実相に一番近いかもしれんな」

    そう言い、一つ頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「その証左として、三人が揃って“魂の属性7:唯物論者”であることが挙げられよう。以前(※第40話参照)にも説明したと思うが、魂の属性7の人物の場合、霊脈の先祖霊の霊障がない分、“魂の属性3:霊媒体質”の人物に比べ、血脈の先祖霊の霊障が色濃く顕在化する傾向が強い。また、霊脈先祖の霊障が今世の宿題に対してアゲインスト/逆接な“重し”、つまり、人生の方向性が今世の宿題と逆方向に働くのに対し、血脈先祖の霊障は、今世の宿題をさらに重篤化させるという機能を持つ

    『なるほど。霊脈先祖と血脈先祖の霊障とで、今世の宿題に対して顕在化する方向性が異なるケースがあり得るわけなのですね。そうしますと、“魂の属性3:霊媒体質”の人物には霊脈先祖と血脈先祖の霊障が両方かかっていることが多いので、彼らの場合は、今世の宿題に対し、霊障の影響が、かなり複雑なものになることも考えられるわけですね』

    「その通りじゃ。して、今回のケースは、登場人物の全員が魂の属性7:唯物論者であることから、後者の典型例ということになる」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に大きく頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『翔士郎くんが重度の低栄養状態になっていた時に、赤堀容疑者が彼の様子を何度か確認しに来ていたようですが、その際、“暖かいからまだ大丈夫”などと考えずに、その時点で彼女が救急車を呼んでいれば、翔士郎くんは餓死せずに済んだわけですね』

    「簡単に言うと、そういうことになるのじゃろうな」

    苦々しい表情を浮かべる青年に対し、陰陽師は励ますように声をかける。

    「もう一つ、三人の共通点として、全員の欄外の枝番が“7”と“9”であるというところに注目する必要がある。つまり、彼らを今世の宿題を果たすために一堂に会した舞台俳優と考えると、彼らは出逢うべくして出逢ったと言うこともできることになる」

    『たしかに』

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び三人の属性表に目を通し、口を開く。

    『今回のような事件が起きるためには、虐待をする役割の人間と虐待を受ける役割の人間が必要なのでしょうし、“性悪説”的な気質を持つ“7”と“9”という枝番を持つ人間が一堂に会したことは、“出逢いは必然”という法則を体現しているのだと思います』

    青年の言葉に対し、黙ってうなずく陰陽師を見やり、青年は発言を続ける。

    『ところで、翔士郎くんには血脈の霊障にも天命運にも“5:事件・被害者・死”の相がないようですが、彼は無事にあの世に帰還しているのでしょうか』

    「確認しよう。少し待ちなさい」

    青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師は鑑定を終え、口を開く。

    「うむ、間違いなく、無事あの世に戻っておるようじゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年が、口を開く。

    『それを踏まえてお聞きしたいのですが、どうして彼は無事あの世に戻ることができたのでしょう。血脈の霊障が、特に魂の属性7の人間には順接方向、つまり、今世の宿題が重篤化して働くのだとすると、赤堀容疑者が血脈先祖の霊障を持っていなければ、翔士郎くんはもっと長く生きられたのではないでしょうか

    「中々いい質問じゃが、そのあたりの話は、思議の世界のみならず不可思議の世界の理屈が含まれておるゆえ論理的な説明は難しい、と同時に、仮説としての回答も複数考えられる。じゃが、今回彼が地縛霊化しなかった理由の最たるものは、一種の“相殺勘定”が起きたためと考えるのが実相に一番適しておるのじゃろうな」

    『“相殺勘定”でしょうか』

    訝し気にそう訊ね返す青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「仮に彼の今までの生活が今世の宿題の一環だったとしても、今回赤堀容疑者が碇家に介入したことで、彼女の持つ血脈の霊障の“重し”が、翔士郎くんの宿題をより過酷なものにしてしまったことは間違いない。よって、今回の一件は、彼がこれから遭遇するであろう先々の宿題との間で、“相殺勘定”が起きるほどのインパクトを持っていたわけじゃな』

    『つまり、彼は、今回の一件で想定外の過酷な宿題をこなしたため、後の宿題を免除されたわけですね。言い換えれば、彼の本来の寿命が仮に80歳だったとすると、本来なら残りの75年をかけてこなすはずだった今世の宿題を、この一件でわずか半年の期間に凝縮してこなしてしまったと』

    「結論から言うと、そう言うことになる」

    そう答える陰陽師の言葉に大きく頷いた後で、青年は言葉を続ける。

    『ところで、今回の事件に関し、もう一つ気になっていることがあるのですが』

    「と言うと?」

    『赤堀容疑者個人のことです。彼女は、今回の事件以外にも、過去に金銭トラブルを度々起こし、身近な人々から相当なバッシングを受けてきたようなのですが、お聞きしたいのは、それらのトラブルも彼女の今世の宿題の一環なのかということです』

    「具体的に、どういった金銭トラブルなのかな?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、読み上げる。

    『赤堀容疑者は、学生時代から虚言癖があり、最近になっても虚言癖のクレーマーとの理由で、周囲から嫌われていたようです。また、結婚に際し、元旦那から結婚式の費用を受け取っておきながらそれを式場に渡さなかったり、彼の名義で数百万円の借金をした上に、彼の銀行のキャッシュカードを持ったまま蒸発し、結果、離婚となったようです』

    陰陽師が黙って耳を傾けているのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『また、碇さんに近づく際は、偽名を使ったり年齢を10歳近く偽っていたようです。そして、SNSの偽アカウントを作って旦那さんが浮気をしているように嘘情報を流し、浮気調査名目で現金や預金通帳を騙し取っていたこともわかっています。しかも、翔士郎くんの葬儀代は創価学会から出されたという理屈を使って、碇利恵さんが受け取った香典を、創価学会に渡したと嘘を言い、着服していたとも言われています』

    「確か、創価学会では香典を持っていかない決まりがあったと記憶しておるが」

    『はい。僕も学会員の知人からそう聞きました』

    ぽつりと言った陰陽師の言葉に対し、青年は一つ頷いた後で、声を少し震わせながら言葉を続ける。

    『赤堀容疑者の所業は、それだけにとどまらず、碇家の月20万円の生活保護費を合計1200万円ほど搾取していたようです』

    「ほう、生活保護費までも、とな」

    「それだけではありません。碇家の4人が赤堀容疑者から与えられたわずかな食料を分け合わざるをえない事態に追い込まれていたにもかかわらず、赤堀容疑者自身は自らの3人の子供たちには水泳やバレエをやらせたり、綺麗な服を着せていたとの情報もあります』

    「赤堀恵美子の人運が9点満点中7点、仁が50点、陰陽五行に火の気質を持つことも考え合わせると、それらの所業も、たとえ彼女に血脈先祖の霊障の“14:人的トラブル”の相があったとしても、彼女の今世の宿題の一環なのじゃろう」

    『今のお話に関連して一つ気になったのですが、赤堀容疑者の現在の夫は宗教家のようなのですが、碇利恵さんが洗脳されたような状態になったことと、何か関係があるのでしょうか?』

    青年の問いを聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かした後、鑑定結果を紙に書き足していく。

    赤堀恵美子・夫SS

    青年が属性表を見終える頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「魂の属性7:唯物論者である人物が宗教家を名乗ることに対しては、今さら特筆せぬが、どうやら、彼が赤堀容疑者に何らかの入れ知恵をした可能性はあるとしても、今回の事件には直接関係ないようじゃ」

    『なるほど。それと、もう一つ思い出したのですが、創価学会員である赤堀容疑者は、碇さんも創価学会に入信させたようです。ひょっとして、碇さんを洗脳するにあたり、学会での上下関係も利用した可能性も考えられますが、二人が創価学会に入信することは、各々の今世の宿題の一環なのでしょうか?』

    青年に問われた陰陽師は、指をかすかに動かしてから口を開く。

    「いや。赤堀容疑者の夫同様、碇さんの洗脳に関しては、創価学会も無関係なようじゃ」

    『わかりました。ところで、碇さんの元夫は、赤堀容疑者のせいで人生が台無しになったと言っていたようです。実際、碇利恵さんの場合、恋愛運が“3”と極端に低く、異性とのトラブルで悩むこと/トラブルを起こすことが今世の宿題の一環であることを考え合わせると、赤堀容疑者の嘘に惑わされたことを捨象したとしても、碇家の離婚は起こるべくして起こったのでしょうか?』

    「二人の結婚の相性をみてみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師は指をかすかに動かした後、結果を紙に書き記した。

    碇利恵さんからみて/利恵さんの元夫からみて   B/B

    『お互いにとってS(90点〜94点)以上の結婚が推奨(※第43話参照)とのことでしたが、お互いにとって“B”(60〜70点)ということは、今世の宿題を果たすパートナーとしては適していなかったと』

    「双方にとって適しているとは言えない相性にも関わらず、二人が結婚にまで至ったのは、彼女の恋愛運の点数と血脈の霊障の合わせ技と思われる」

    『と言うことは、“数奇な人生”を辿りやすい130回代の今世の碇利恵さんにとって、元夫と添い遂げることよりも、今回の事件に関わることの方が、優先されてしまったという事象も納得できます』

    そう言い、何度もうなずく青年に対し、陰陽師が言葉をかける。

    「そなたの見解に一つ付言しておくと、属性表には特に記載してはおらぬが、利恵さんの場合、同じ30回代の中でも、今世が33回目にあたることから、数奇な人生を歩む確率がさらに高かったという見方もできるわけじゃ」

    『なるほど。下一桁の数字によって、宿題の傾向が変化することもあるわけですね』

    新情報を知って興奮気味になった青年を片手で制し、陰陽師は説明を続ける。

    「何度も同じ話をするが、“この世”が魂磨きの修行の場である以上、虐待を受けると知りながら、利恵さんの三男として翔士郎くんが生まれてきたことは、この世の道理なのじゃよ

    陰陽師の言葉を聞き、青年はしばらく黙考していたが、やがて口を開く。

    『つまり、幼いうちに父親と離別し、今度は母親とも引き離されることも承知の上で、この世の宿題を果たすにあたり最適な環境を与えてくれる利恵さんを母親として選び、長男と次男が生まれてきたことも、同じ道理なのでしょうか?』

    青年の問いに対し、黙ってうなずく陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『なるほど、それを聞いて安心しました。世間の常識からすれば、実の子を餓死させることは言語道断な行いなのでしょうが、“不可思議の世界”の基準でみれば、利恵さんは彼らにとって最適な母親だと考えられなくもないのですね』

    “子供は親を選べない”のではなく、“親を選ぶのは子供の方”という“不可思議”の世界の理屈からすれば、今回のような理不尽な出来事にもそれなりの意味があるということになるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自分の家族のことを振り返っていた。

    家庭における母親の役割はとても大きい。霊障がかかっていた過去の自分は、よく母親に対して悪態を吐いたり悲しませるようなこともしていた。
    無用な重しが解消された今となっては、自分は母親を選んで産まれてきたことに納得でき、母親は母親なりに自分を育てるために最善を尽くしていたように感じられるようになった。
    親子は互いの今世の宿題を果たすために必要不可欠な存在であり、無用な重しによって疎遠になっている親子が向き合えるよう、今世の宿題の話や先祖霊の奉納救霊祀りのことを伝えていこう。

    そう青年は決意するのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    新千夜一夜物語 第41話:n番部屋事件と韓国人の魂

    青年は思議していた。

    韓国史上最悪の大規模ネット性犯罪事件である、“n番部屋事件”についてである。
    この事件は、2018年後半から2020年3月までTelegram、Discordなどのメッセンジャーアプリ内で行われていた、大規模なデジタル性犯罪・性搾取事件である。

    この事件が発生した経緯として、加害者たちはモデルの仕事と称して高額アルバイトで女性をスカウトしておきながら、その実、女性に加害者が卑猥な画像を送らせては徐々にエスカレートした画像を要請していき、途中で断った女性に対しては、これまでの画像と彼女たりの個人情報を公開すると脅していた。
    それらの撮影物は8つのチャットルームで掲載されており、中には自傷行為、レイプ、グロテスクな物もあったようだ。

    この事件の被害者の数は70名で、その内16名が未成年で女子中学生が多かった模様。
    今回逮捕された20代の男性には懲役45年の刑が言い渡されるのみならず、警察は、26万人にも及ぶn番部屋の利用者に対しても、彼らを特定すべく動いているようだ。

    韓国は性犯罪が多い国として世界第4位に位置しているが、何らかの理由があるのだろうか?
    あるいは、魂の属性からみて、性犯罪者にはなんらかの傾向があるのだろうか?

    一人で考えても埒が開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は韓国の性犯罪事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「韓国の性犯罪事件についてとな。して、何を聞きたいのかな?」

    青年は陰陽師に“n番部屋事件”の概要と疑問に感じたことを、順を追って、陰陽師に話した。

    『いつも先生がおっしゃっているように、杓子定規に事件と魂の属性を結びつけようとは思っていませんが、性犯罪や韓国人と魂の属性について、何らかの因果関係があるのではないかと思いました』

    「そなたが聞きたいことはわかった。その質問に対する回答のベースに、韓国における魂の属性の人口分布について理解しておく必要がある」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『以前、韓国人は頭1と2の比率が1:9で、日本人の3:7に比べて頭2の人口比率が圧倒的に多いとお聞きしましたが、他に、魂の観点で韓国人の特徴はあるのでしょうか?』

    「強いて挙げるとすれば、“魂3:武士・武将”は2−3(転生回数期が第二期の魂3)と4−3(転生回数期が第4期の魂3)が多く、“魂4:一般庶民”は3−4(転生回数期が第三期の魂4)が多い」

    『なるほど。我が国における魂の属性の人口分布とは異なるようですね』

    「そうじゃ。ちょうど転生回数期の話が出たところで、魂の種類と転生回数期の特徴について、そなたが理解していることを、確認も兼ねて説明してもらおうかの」

    『承知しました。まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『次に、転生回数期の説明になりますが、今回は韓国人に多い、第三期と第四期について説明いたします。この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純で、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強いです。そのため、どうしても、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなるとお聞きしました』

    黙って青年の説明を聞いて頷く陰陽師の様子を確認し、青年は説明を続ける。

    『次は第三期ですが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的な上昇志向が強くなる傾向があります。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つとお聞きしました』

    「魂1〜4の人口分布については、どのように理解しておるかな?」

    『世界的には魂1:5%、魂2:15%、魂3:25%、魂4:60%という人口分布となりますが、この人口分布は国々によって微妙に異なり、我が国の魂の種類の人口分布は、魂1:7%、魂3:33%、魂4:45%となります』

    「韓国の場合は、概ね、魂1:3%、魂2:12%、魂3:23%、魂4:62%という人口分布となる。また、韓国における魂4は、62%中、1-4が約14%、2-4が約5%、3-4が約25%、4-4が約18%という比率となる、もちろん、日本などと同じように、転生回数によって四つの期に分けることができ、それぞれに特徴がある」

    そう言った後、陰陽師は人工分布図の表を紙に書き足していく。

    人工分布図SS

    『なるほど。魂4の中では、3−4が最も多いのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、再び口を開く。

    「韓国における魂の種類の人工分布図がわかったところで、今度は具体的に加害者たちの鑑定結果をみていくとしよう」

    陰陽師の問いに青年は一つ頷き、n番部屋の創始者、運営、引き継いだ人物、そして模倣犯に該当する人物の名前を挙げていく。
    名前を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    1:n番部屋の創始者。24歳。男子大学生。

    ムン・ヒョンウクSS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見て、陰陽師は口を開く。

    「サイトの創始者の魂の属性は3−4(転生回数期が第三期の魂4)じゃが、3−4といえども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4(転生回数期が第四期の魂4)とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えるとわかりやすい」

    参加意識が高く、大局的見地に欠けていることが魂4の特徴だとお聞きしましたが(※第39話参照)、彼による被害者は50人を超え、3件ほど性的暴行を指示したと自供しています。魂の属性から鑑みるに、彼はn番部屋を作って注目を集めることで自尊心を満たしたかったのではないかと推測します』

    「属性表を見る限り、その可能性は高いのかもしれんな」

    『性的暴力の被害に遭っている様子を、被害者の個人情報付きで公開したら、その女性の将来にどのような影響を及ぼすかを配慮できないあたりが、仁が30点(D)というところに表れているのでしょうね』

    「端的に言うと、日本以上にネット環境が整備されている韓国ならではの事情と魂4の持つ諸々の特徴の合わせ技によって、今回の事件が起きてしまったようじゃな」

    『なるほど。この事件は、引継ぎ者や模倣者が現れている点が、3−4が多いことに関係しているのではないかと思いました。仮に我が国で類似する事件が起きていたとすると、ほぼ2−4と4−4だけなわけですから、サイトの創始者や運営する人物は2−4、閲覧するだけの人物は4−4という構造になっていたのではないかと』

    「我が国で類似した事件が起きたわけではないから、そのあたりについては断定的なことは言えぬが、構造上は、そのように捉えることもできるかもしれんの」

    『やや強引な説を展開して失礼しました』

    ばつが悪そうに青年は言った後、次の人物について言及した。

    2:16歳。男子高校生。n番部屋の運営陣だったが、別の共有室を設置した。

    太平洋SS

    3:30代男性。創始者からn番部屋を引き継いだ。警察に拘束された後、捜査に協力して減刑された。

    シンSS

    『この二人はn番部屋の元運営陣と引き継いだ人物ですが、共に3―2(転生回数期が第三期の魂2)ですね。第三期の魂2は、魂3・4などと違い、社会的な上昇志向よりも魂2が持つ優しさ、奥ゆかしさ、慈愛といった側面が最大限に発揮されるという特徴を持つ、とお聞きしましたので、意外です』

    「3−2の特徴は、基本的にそなたの言う通りじゃが、頭の1/2や枝番などの数字の組み合わせの結果、このような犯罪を犯すようになったのじゃろう」

    陰陽師の説明に対し、青年は無言で頷いて見せる。

    「さらに言うと、数奇な運命を歩む傾向にある、十の位が30回代の場合、魂2が本来持つ“観音”ではなく、“不動明王”の側面が出やすい傾向にある

    『つまり、先ほど僕が説明した特徴は、あくまでも、おおまかな傾向であって、個々人の属性によっては該当しないケースもあるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ。何事にも例外規定があることを、よく覚えておくことじゃ」

    『承知いたしました』

    そう言い、再び属性表を眺めた後に、青年は言葉を続ける。

    『n番部屋を引き継いだ人物の方は、“児青法違反”で懲役刑の執行猶予を言い渡された前歴があったため、今回の1審では、当初、重い罪質を言い渡されましたが、逮捕された後は、警察の捜査がはかどるように、情報提供を積極的に行なっていたようです。ひょっとして、仁(他者への優しさ・思いやり)が70点(BB)と比較的高いことから、逮捕されたことを機に、慈悲の心を取り戻したと考えることはできるのでしょうか」

    「そなたの考えも一理あると思うが、頭が2、つまり自己中心的な考えを持つ属性であることを考慮すると、自分の立場を“損得”で判断し、減刑のために自供した可能性の方が高いじゃろうな』

    『言われてみれば、彼は再犯ですし、頭が2であることを考えると、保身に走る可能性はじゅうぶんに考えられますね』

    そう言い、青年は腕を組んでから苦々しくつぶやく。

    『我が身可愛さにかつての仲間を裏切るような行動をする点は、形而上学的な思考回路と情緒的な未熟さが目立つという、転生回数期が第三期の人物らしい立ち回りと言えそうです』

    「とは言え、大局的見地からみれば、彼のおかげで他の加害者の逮捕が早まり、被害の拡大を抑制できたと考えることができたわけじゃが」

    『そうですね。他の加害者の逮捕が早まることで新たな被害者が減り、既に被害に遭ってしまった女性たちの不安が解消される日が、1日でも早く訪れることを願います」

    青年はそう言った後、次の人物の紹介を進める。

    4:2019年にn番部屋が消えた後、“博士部屋”を作った人物。仮想通貨決済でのみチャットルームに入ることができる専門的なモデルであった。懲役45年。会員費は、日本円で約25000〜15万円相当。

    チョ・ジュビンSS

    『この男性が今回ニュースで取り上げられていた加害者となりますが、“博士部屋”という名称で、仮想通貨決済を行なった人物だけが参加できる、独自のモデルを作ったようです』

    「なるほど。第四期とはいえ、商根たくましい“魂3:武士”らしい性格を持った人物のようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は苦虫を嚙みつぶしたような表情で口を開く。

    『他の人物と異なる点は、欄外の枝番だけでなく、下段の数字も“7”や“9”が多いことだと思います』

    「いずれにしても、そのあたりが、今回の事件を引き起こす基本的な性格となっているのは間違いないじゃろう」

    5:10代。n番部屋を模倣して新たなチャットルームを運営した。女子中学生三人が被害に遭った。

    ぺSS

    『この人物も、4−3で欄外の枝番が“9”が多く、仁も低いことから、先ほどの被告と魂の属性が近いですね』

    「この人物の属性表で特筆すべき点は、多くの人物の精神疾患の項目に“13.邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”と“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”があるのに対し、“13”の相しかないことと、“10:攻撃性”じゃろうな」

    属性表に再び目を通した青年は、驚きの声を挙げてから、言葉を発する。

    『多くの人物が、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾った際に“13”と“14”の症状に分散して顕在化するのに対し、“13”のみの人物は、“13”の相に集中して顕在化する傾向にあるため、特に暴力的な振る舞いを取りやすいというお話でしたね。それに、僕がこれまでに鑑定を依頼した人物の中では、たしか“10”の相を持っていた人物はほとんどいなかったと記憶しています』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「他にも、この二人が陰陽五行に“火”を持っていることも、今回のような事件を引き起こした要因じゃろうな」

    『今まで鑑定していただいた日本人の属性表を見る限りでは、土、木、金、水のいずれかの組み合わせを持った人間は多かったものの、火の人物はほとんどいなかったと思います』

    「ワシが今までに鑑定した限りの印象では、陰陽五行に“火”を持っている人物は日本にはそう多くないものの、韓国には相当数存在していると思われる」

    『え、そうなのですか』

    「うむ。そのあたりが日本人と韓国人の基本的気質の相違点ともなっているようじゃが、いずれにしても、火を持った人物はかなり気性が荒いゆえ、関わる際はそのあたりをよく理解しておくことじゃ」

    『承知いたしました。それでこの二人が、運営するだけでなく、自ら女性に被害を加えていたことに納得がいきました』

    再び全員の属性表を見た青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    全員の共通点として、全員が頭2、欄外の枝番の数字が“7”か“9”で“性悪説”的な気質を持っていること、そして恋愛運の数字が“7”以下だということは予想通りでしたが、魂の種類が2〜4と分散していることは驚きです』

    「他にも、数奇な運命を歩む傾向にある、転生回数の十の位が30回代であることと、学業が80点(A)以上であること、そして“霊障”か“天命運”に17の相がかかっていることも全員に共通した特徴のようじゃな」

    陰陽師の補足を聞いた青年は、属性表を再び眺めた後、口を開く。

    『それと、先生がおっしゃった通り、今回挙げた加害者たちの転生回数期は第三期と第四期に固まっていますが、これには何か特別な理由があるのでしょうか』

    「もちろん、先程話した韓国のネット環境と、日本と較べ15%以上多い魂の4が今回の一件の遠因となってはいるのじゃろうが、魂1や3じゃからといってこのような犯罪を起こさないという話では決してない」

    『たしかに。日本のやくざや、欧米のマフィアの大半が魂3であったりするわけですからね』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから、言葉を続ける。

    「以上、韓国における性犯罪が多い理由について、魂の属性の人口分布の観点から解説したわけじゃが、どうかな?」

    『おかげさまで、よく理解できました。ちなみに、日本人と韓国人とで魂1〜4の人口分布が異なることは理解できましたが、こうした魂の違いは、どのように決まるのでしょうか?』

    「一言で言うと、“国境”じゃな」

    『え、国境ですか?』

    陰陽師の答えを聞いた青年は、驚きの表情を見せながら、再び口を開く。

    『国境は、遥か昔から、各国が戦争や外交の後に決めてきた、“この世”の世界の話だと思っていましたが、魂の人口分布にまで、国境が影響をあたえるのでしょうか?』

    「国境とは、その時々の国々の勢力分布なわけじゃが、結婚届や登記簿謄本が霊障と不思議な相関関係を持っているのと同様、その時々の国境は、転生してくる魂にとっては大きな意味を持っておる

    『とおっしゃいますと?』

    「人間が任意に引いたその時々の国境をめがけて、魂が転生してくるという意味じゃ。事実、日本軍が敗戦した後に朝鮮半島が日本の占領下から解放された日の前後で、産まれた赤ん坊の魂の属性が変わってくるわけじゃ」

    『つまり、産まれた土地がどの国の領土になるかで、新生児の魂の属性が決まるということでしょうか?』

    そう言い、思わず前のめりになる青年を片手で制しながら、陰陽師は答える。

    「数千年前のことまでまだ具体的に検証していないものの、たとえば日本を例にとっても、黒船来航を受け鎖国化を解いた明治時代、日本の領土が一番広がった第一次世界大戦から、第二次世界大戦終了時まで、そして戦後と変化する各々の領土に生まれた人間は、(現在の国籍はともかくとして)霊的には日本人と考えて差しつかえあるまい」

    『なるほど。文化人類学は文化、つまり人類が後天的に学習した行動パターンや言語といったものを中心に据えて、人類を研究しているようですが、先生の場合は、日本人と韓国人の違いを、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった、文化人類学とは別の切り口で説明しているわけですね』

    青年の問いに対し、陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「さよう。文化人類学のような学問を全面的に否定するつもりはないのじゃが、文化人類学では、民族・社会間の文化や社会構造の比較研究によって文明の差異というものを解明しようとしているものの、魂1〜4や転生回数期や魂の属性の人口分布といった理論を持たずに、人間を“等質”という前提で研究している限り、それらの理論にどうしても矛盾が生じてしまうことは致し方あるまい」

    『なるほど。そのあたりのことは、よく理解できました』

    そう言い、青年は小さく頭を下げた後、言葉を続ける。

    『ということは、怒りの激情を起因とした韓国人特有の精神疾患である“火病”についても、魂の属性の観点から解説できるのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。“火病”については、韓国人が辛い物を好んで食べているから、という説があるが、辛い料理を食べている他の国々で“火病”が起きているかと言うと、決してそうではない」

    『つまり、韓国人の“火病”はキムチなどの辛い物を好む食習慣が原因なのではなく、頭に2を持つ人間が多いこと、転生回数期が第三期と第四期の人物が多い、すなわち感情的になりやすい人物が多いこと、そして、陰陽五行に“火”を持つ人間が多いから、と考えることができるわけですね」

    青年の答えに対し、陰陽師は満足そうに微笑み、質問を続ける。

    「いつも話して居るように人間は“多面体”なわけじゃから、それだけの情報で断定はできぬが、当たらずと言えども遠からずという意味では、その通りじゃろうな」

    『なるほど』

    感嘆の声を漏らす青年を見て、陰陽師は小さく笑ってから、口を開く。

    「最後に、そなたの冒頭の疑問、すなわち韓国で性犯罪が多い理由として、韓国人の魂の属性がその一因となっていることは間違いないが、そうは言っても、韓国人だから性犯罪を犯す、などと安直に結びつけてはならぬぞ。統計学的にそのような一面を韓国人が持っているとしても、一人一人は別の人間だということだけは、しっかりと心に留めておくようにの」

    『承知いたしました。“罪を憎んで人を憎まず”ではありませんが、今回の事件に関しても、この世の基準で善悪を判断するのではなく、加害者と被害者の双方が今世の宿題を果たすための出来事だったと考えるべきなのですね』

    「現世的には、痛ましいとしか言いようのない事件であるが、今世の宿題という観点からみると、そのように言えるようじゃな。そして、国によって魂の人口分布図が異なる問題についてもう一度話をしておくと、この世とあの世は、たとえば、婚姻届、登記簿謄本という紙一枚と霊障が不思議な対応関係を見せているのと同様、我々人類がその時々引き直す国境線を目指して転生してくるという理屈は、自分の宿題や魂の修行に最適な母親を選んで転生してくるのとまったく同じメカニズムなんじゃ。だから、その国で産まれたからできる魂磨きの修行があるということで、韓国人として生まれてくる魂は、自らの意志で韓国を選んで転生してきているということも覚えておくようにの」

    『つまり、今の日韓関係の悪化も、どうしてと考えるよりも、各々が自らの宿題に邁進する限り、当然起こりえる事象というわけですね』

    「じゃからと言って、仲が悪くてもよいということにはならないのだが、それでも、日本の植民地時代に起因する様々な問題が、解決したかと思うとまたぶり返される問題や、右派を母体とする大統領であっても左派を母体とする大統領であっても、5年の政権期間末期にレイムダックを始めると、各々の政治的信条の別を問わず、決まって日本バッシングに走ることで支持率を回復させようするあたりなぞは、やはり、今まで説明してきたような韓国人だけが持つ属性のなせる業と言うしかないのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「本日も長時間ご苦労じゃった。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師とのやりとりを振り返っていた。
    今回の事件に限らず、日頃目に付く韓国関連のニュースを読む限り、韓国人に対する印象は悪い。だが、自分がメディアを通して得ている情報は、韓国の一部に過ぎず、韓国が持つまったく別の良さ/素晴らしさもあるはずだ。
    ご縁がある人物やあらゆる情報に対し、色眼鏡を介さないように心がけ、今回の事件だけを見て“韓国人は”と一括りに評価を下さないように気をつけよう。
    そう、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    新千夜一夜物語 第37話:座間9遺体事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2017年に起きた、座間9遺体事件の犯人に対し、第一審で死刑判決が下されたことについてである。
    この事件は、犯人がTwitterを用いて自殺願望がある女性にメッセージを送り、性的暴行と金品の強奪を目的に自宅に誘い、犯行に及んだものである。だが、実際のところ、加害者も被害者も自殺するつもりはなく、被害者の意思を無視した一方的な殺人だったようである。
    また、わずか二ヶ月という短期間で起きた事件という点からも、日本中を震撼させた事件と言えよう。

    加害者の魂の属性や、彼にかかっている霊障については想像に難くないが、9人の被害者には何らかの共通点があったのだろうか?

    一人で考えても埒があかないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は座間9遺体事件について教えていただけませんか?』

    「ふむ。事件名から推測するに、大量殺人事件のようじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから、事件の概要を説明した。

    「なるほど。それはまた、物議を醸す事件のようじゃの。して、加害者の鑑定をするにあたり、まずそなたなりの見立てを聞かせてもらえるかな?」

    陰陽師の問いに青年はあごに手を当ててしばし黙考し、やがて口を開く。

    『魂の種類が4−2であることと、霊障に“5:事件”の相があること、この二つが原因ではないかと』

    青年の見解に黙って耳を傾けていた陰陽師は、やがて指を小刻みに動かし、鑑定を行う。

    「そなたの言う通りのようじゃな」

    真剣な表情で結果を待つ青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「ところで、ちょうど魂の種類の話が出てきたことじゃし、確認も兼ねて、魂の種類と転生回数期について、もう一度そなたなりに理解していることを説明してもらおうとするかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、説明を始める。

     

    魂が生まれた理由

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    青年の回答に一つ頷いた後で、陰陽師が口を開いた。

    「ところで転生回数と魂の別によって、この世での役割もある程度決まっていることについては、どう理解しておる?」

    『この世での魂の種類ごとの役割についてですが、たとえば、今回の事件の加害者は魂の種類が4−2、すなわち、転生回数期が第四期の魂2になり、大量殺人といった凶悪犯罪者を起こす人物の多くが、この属性に該当するとお聞きしました(※第4話参照)』

    そう言った後、青年は紙に魂の種類と転生回数について書き始めた。

    《魂の種類》
    魂1:僧侶/王侯
    魂2:貴族(軍人・福祉系)
    魂3:武士・武将
    魂4:一般庶民

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    青年が紙に書いた内容を読んだ陰陽師は、いつもの笑みをたたえてうなずいた後、口を開く。

    「そなたの説明につけ加えるとすれば、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、各魂1〜4に共通する傾向として、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、どうしても物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向が強くなる」

    『魂2は観音と不動明王という、一見相反するように思える真逆の二つの側面を持っているとのお話でしたが、今回のケースも、第四期の不動明王的な側面のなせる業だと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙ってうなずくのを視認し、青年は続ける。

     

    加害者の動機と魂の属性

    『加害者は、死にたいとツイートした女性にDMを送り、お金を長期的に引っ張れ、ヒモのような生活が送れること、彼に好意を持ってくれること、という二点を満たす女性を探していたようです』

    「なるほどのう」

    『一人目の被害者は、犯行に使われていた犯人の自宅の初期費用を負担するという、金銭面の条件を満たしていましたが、彼女には交際相手がいると察したことから、もう一つの条件を満たしていなかったため、性欲を抑えきれずに性的暴行を加えてしまった結果、殺害にまで至ったようです』

    「性的暴行を加えたことは理解できるが、その後に殺害までする理由がいまいちわからぬが、そのあたりは?」

    『実は、加害者は2017年2月に“職業安定法違反の疑い”で逮捕されていまして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決が出ていたようです。それで、性的暴行を加えたことが発覚したら実刑になってしまうことを恐れ、証拠隠滅という意味合いも含めて、殺害に及んだと思われます』

    「つまり、加害者は、殺人よりも実刑の方を恐れていたわけじゃな」

    『そのようです。しかも、ヒモ願望があった彼は、働く意欲にも欠けていたようで、一回目の犯行後も、家賃を支払ってくれる次の女性を探していました。また、最初の一人がうまくいったから、次もうまくいくと自信を持ったようで、二人目以降は殺害を円滑に行うため、様々な道具まで準備していたとのことです』

    「加害者が求める、二つの条件を満たす女性はなかなか見つからないと思うが、見つかるまでTwitterを用いては女性を誘い込み、条件を満たさないとみれば、性的暴行を加えて殺害し、再び次の女性を探す、ということを繰り返しておったのじゃな?」

    陰陽師の問いに対し、青年は眉間にしわをよせてスマートフォンを眺めながら、口を開く。

    『ところがですね、8人目の被害者は金払いがよかったらしいのですが、結局、性欲を抑えきれずに強姦し、殺害したとのことから、犯行に及んでいる最中は、それらの条件を無視してしまっているように見受けられます』

    「結局のところ、性欲を満たすことが目的になってしまったわけじゃな」

    『どうもそのようです。しかも、二人目までは殺害に対して罪悪感を覚えていたようですが、それ以降は罪の意識が軽くなってしまったようで、昏睡状態の女性との性行為による快感を覚えたこともあり、犯行をやめるつもりはなかったとも陳述しています』

    「して、それ以外に、加害者について気になるところはあるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『遺体の切断方法をインターネットで検索したり、発覚を恐れて遺体や解体道具を捨てられずに室内に残していたようですが、犯行を繰り返せば置き場がなくなったり、犯行を重ねるにつれて増えていく遺体から生じる腐乱臭が原因で近隣住民に通報される恐れがあることなどに思いが及ばなかったのかなど、思慮が足りないと思うことがあります』

    「なるほど。たしかに、当該の人物は短絡的な思考の持ち主だったようじゃな」

    陰陽師のあいづちに応えるように、青年は再び口を開く。

    『情報によれば、逮捕される当日まで交際していた女性がまた別にいたことから考えても、彼は逮捕されるまで延々と同じ手口で犯行を繰り返していたのだと思います』

    そう言い、ため息を吐く青年を横目に、陰陽師は口を開く。

    「話を聞くかぎり、頭2の4−2らしい振る舞いと言えば言えるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は紙にペンを走らせ、鑑定結果を書き記していく。

    白石隆浩SS

    鑑定結果に目を通した青年は、表情を曇らせ、口を開く。

    『やはり、加害者の魂の種類は4−2でしたか。そして、霊障と天命運に“5:事件・加害者・死”の相がありましたか…』

    「加害者が今回の事件を起こした理由として、頭が“2”であることと、枝番の数字が“9”であることが挙げられるが、そのあたり、そなたはどう考える?」

    『頭が2ということは、狩猟民族の末裔、すなわち“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向を持っていると認識していますが、同じ大量殺人犯であっても、頭が“1”である植松聖死刑囚(※第26、27話参照)のように、それが正しいか否かはともかくとして、障碍者や介護の現状を世の中に訴えるような信念みたいなものはなく、己の都合のためだけに事件を起こしたと判断できます』

    「その通りじゃな」

    『ところで、一つ質問があるのですが、加害者が持つ“9”と枝番の数字には、どのような意味を持っているのでしょうか?』

    自力で答えにたどり着けなかったからか、青年は申し訳なさそうに問う。陰陽師は、青年を励ますような笑みと声音で答える。

    「枝番には二つの種類があり、下段の数字と欄外の数字に分けられる。欄外の数字、加害者の結果では“9”に該当する箇所じゃが、この枝番は魂の性質の1・2・3と4・7・9との組み合わせによって意味合いが変わってくるものの、おおむね1から9に向かうにつれて、各々の特徴に“粗さ/雑味”が出てくる」

    『とおっしゃいますと?』

    「この世の印象でいえば、枝番の数字が1〜3の人物は“性善説”、4〜6は“性善説と性悪説”、7〜9は“性悪説”論的な性格を有している」

    『つまり、加害者は枝番が“9”で完全な“性悪説”論的な性格を持っていることから、この世の善悪の基準では悪事と見なされる行動が、彼にとってはそれほど罪悪感を喚起するものではなかったということでしょうか?』

    「人間は、頭の1/2を初めとする、魂の種類、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、そして枝番といった様々な数字の組み合わせでできた多面体のようなものであることから、一概にこうとは言えぬとしても、今回の事件に関しては、そうと言うことになるじゃろうな」

    『なるほど…』

    陰陽師の説明を聞いた後、再び鑑定結果に目を通した青年は、再び口を開く。

    『加害者の魂の特徴は、3番目と4番目の上段の数字が“2”ですから、彼は“攻撃性”と“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という特徴を持っていることになり、さらに欄外の枝番の数字が“9”ですから、霊障の“5:事件”の相との相乗効果によって、この事件を起こしたことは容易に想像できると思います』

    「その通りじゃな。それと、もう一つ言及すべき点は、彼の魂の特徴の5番目の上段の数字が“1”であることじゃ」

    青年は再び加害者の鑑定結果を覗き込み、口を開く。

    『そこは“自己顕示欲”の項だったと思いますが、そこの上段の数字が“1”であるということは、自己顕示欲があまりない、あまり目立った行動を取らない性格のため、学校や介護施設といった公共の場を襲うといったタイプの大量殺人事件ではなく、他人の目が届かない自室で犯行を繰り返したというわけですね』

    「もちろん、杓子定規に考えれば、そのような理解もできなくはないが、魂の特徴の上段の5つの数字の中で、“2”が二つ以上あり、5番目の上段の数字が“1”である以上、そのような人物は、いわゆる“外面がいい”というタイプ、つまり、腹で思っていることとその言動には、それなり以上の乖離がある人物と考えるべきじゃろうな」

    『なるほど。上段の5つの数字は“1”が多ければいいというわけではなく、今回のような数字の組み合わせを持つ人物は、言動に大きな乖離があると理解すべきなのですね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が続ける。

    「して、周囲から見た加害者の人物像は、実際どのような印象だったのかな?」

    陰陽師に問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、やがて、画面を見ながら口を開く。

    『同級生や以前の職場といった人物からは、素直、真面目、普通、広く浅く仲良くするタイプ、どちらかというと礼儀正しい、好青年など、鑑定結果の通り、外面はよかったようです』

    「なるほど。であるとするならば、今度は、被害者たちを鑑定していくとするかの」

     

    被害者たちの魂の属性

    『彼が今回の事件を起こした背景に納得できましたが、9人の被害者の方々にはどんな共通点があったのか、とても気になります。ぜひ、よろしくお願いします』

    そう言い、青年はスマートフォンの画面を見ながら、被害者たちの名前を挙げていく。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、手元の紙に鑑定結果を書き出していく。

    1人目

    三浦瑞季SS

    2人目

    石原紅葉SS

    3人目

    西中匠悟SS

    4人目

    更科日菜子SS

    5人目

    藤間仁美SS

    6人目

    久保夏海SS

    7人目

    須田あかりSS

    8人目

    丸山一美SS

    9人目

    田村愛子SS

    被害者9人の鑑定結果を食い入るように見た後、青年は口を開く。

    『やはり、全員に“5:事件・被害者・死”の相がありましたか…』

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「霊障以外にも、人運、欄外の枝番、頭の1/2、精神疾患にも共通点があるが、そなたはどう考える?」

    陰陽師に問われた青年は、再び鑑定結果を眺め、しばらくしてから答える。

    『全員の人運が3以下と極端に低いですね。3人目の被害者の男性は人運が7と高くはないものの、彼は1人目の被害者の交際相手で、加害者が彼に対面した際に、彼を通じて殺人事件が発覚するのを恐れ、口封じ目的で殺害したとのことですが、結局は1人目の交際相手との縁と“5:事故/事件”の相によって巻き込まれてしまったのだと考えられます』

    「たしかに、そのようじゃのう」

    『あと、欄外の枝番ですが、ほぼ全員が“1〜3”すなわち、“性善説”論的な性格を持っていることと、頭が“1”という点から、被害者たちは犯人の外面の良さに惑わされ、自分が殺害されるとは露ほども思わなかったのかもしれませんね』

    「そなたの説明に一言つけ加えるとすれば、2人目の被害者の枝番の数字は“5”、すなわち“性善説と性悪説”論的な性格を有していることから、彼の怪しい点に気づけた可能性もあったのじゃろう。しかし、そこを見て見ぬふりをしたのか、見抜けずに殺害されたかはともかくとして、2人目の被害者も、結局は、霊障に引っ張られてしまったと考えるべきじゃろうな」

    『今の問題に関連してお聞きしたいのですが、今世の使命とその右側の二つの枝番の数字が乱れている人物が多いようですが、こうした数字の乱れを持つ人物は、数字が乱れていない人物に比べて数奇な人生に向かう傾向があると考えて差しつかえないのでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。加えて、全員の乱れている数字が、他の数字に比べて1から9の方へと増えている、つまり、“性悪説”論的な性格に近づいていることも、“5:事件”の相へ引っ張られてしまった一因なのじゃろう」

    青年は、なるほど、と小さくつぶやいた後、続ける。

    『他者の“念”、雑霊/魑魅魍魎を拾った際に顕在化する精神疾患の共通点としては、多くの人は“13:邪神1(なんとなく相手の心がわかる)or暴力、諸事に支障をきたす”、“14:邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”、の二つがあるのに対し、被害者たちは全員13のみですが、こちらなども、加害者の“念”を拾ってしまい、自殺という暴力的な方向に引き寄せられてしまったと考えるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を左右に降ってから、口を開く。

    「こちらは、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点のみが重篤であるのと同様、14番がなく13番だけということは、それだけ13番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    『なるほど。そのあたりも、被害者たちが犯人に引き寄せられた要因ともなっているわけですね』

    「そういうことじゃ」

    『さらに、今回の事件は、魂の属性が3:“霊媒体質”の人物が、雑霊/魑魅魍魎の周波数が似ているインターネット上のTwitterを介したことで、被害がより拡大したと』

    「その点も、そなたの言う通りじゃろうな」

    青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてから、続ける。

    「我々のような“霊媒体質”の人間からすれば、今回の一件に“霊障”が一定以上の影響をあたえておることを理解できるじゃろうが、魂の属性7:唯物論者にすれば、インターネットを通じた縁でこんなに多くの人物が殺人事件の被害に遭うこと自体が、理解の埒外なのだと思う」

    『精神鑑定の結果、加害者には刑事責任能力が認められると判断されましたが、加害者は、“警察に、性犯罪は麻薬をしているような状態と言われ、まさしくそうでした”と供述していたようで、なぜあのような凄惨な事件を起こしてしまったのか、本人もよくわかっていないようですね』

    青年が苦々しくそう言うのに対し、陰陽師は口を開く。

    「そのような顔をするでない。“あの世”や“永遠の世”は言うに及ばず、“この世”でさえ、唯我々が考えているほど、単純なものではない。どう単純ではないかと問われ、一言でその答えを提示することは難しいが、少なくとも、このような事件の加害者/被害者の今世の宿題、そして各々にかかる様々な霊障をじっくり吟味することによって、初めてその解を導くことができるのじゃ」

    『なるほど。現行の法律で杓子定規に裁けるほど、物事は単純ではないと』

    「まあ、そう言うことじゃ」

    『それに関連して一つ質問があるのですが、もしも今回の事件の加害者と被害者が全員、ご神事を受けて霊的な重荷を取り除いていたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?』

    「仮定の話であるゆえ断言することはできぬが、被害者の立場で今回の一件を考えるかぎり、この事件の主な原因が“5:事件・死亡”の霊障であることから、事件を回避できた可能性もなくはないじゃろう」

    『それならなおさら、一人でも多くの方にご神事を受けていただき、今回のような事件で命を落とす人物が少なくなってくれたら、と願うばかりです』

    そう言い、視線を落とす青年を横目に陰陽師は続ける。

    「ところが、問題は単純な話ではない」

    『とおっしゃいますと?』

    「今も話した、今世の宿題の問題じゃ。いつも話しておるようにワシが執り行う神事とは、霊的な重荷を外して、素の状態に戻すためのものでしかない。つまり、神事によって善人にすることが目的ではないわけじゃから、仮にこの事件の関係者全員が神事を受けて霊障が解消され、パフォーマンスが100%になっていたとしても、加害者は同様の犯罪を犯していたじゃろうことは属性表を見るかぎり、明らかじゃ」

    『そうなのですか? ご神事を受けたクライアントの中には、別人のように性格や立ち居振る舞いが変わった人物もいたとお聞きしましたが』

    「もう一度、加害者の数字をよく見てみるとよい。そもそも、加害者の魂の種類が4−2で枝番の数字が“9”であることをはじめとし、属性表を総合的にみると、素の状態の彼がこの世の基準でいう悪事を働くことが当然と考える人物であることがよくわかるはずじゃ」

    そう言われ、青年はあらためて属性表に視線を落としながら、口を開く。

    『たしかに。この属性表をよく見るかぎり、犯人は、“7人目以降はお金よりも性的暴行目的になった”と言っていたことも合わせて考えると、今回のような大量殺人事件でなかったとしても、性欲を抑えられずに婦女暴行を行なっていた可能性は極めて高そうですね』

    「そのとおりじゃ」

    『そう言えば、加害者が逮捕される日まで交際していた女性がいたようですが、その人物の鑑定もお願いできますか?』

    そう言い、青年は10人目の被害者になる可能性があった女性の情報を告げる。

    陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    加害者の交際相手

    10人目SS

    しばらく鑑定結果を眺めていた青年が、ふたたび口を開く。

    『助かった人物と被害者たちとの相違点は、霊障と天命運の“5:事件”の相の一部が“死亡”ではなく“怪我”であることと、そして、枝番の乱れがないことですね。ただ、精神疾患が13のみであることと、人運の数字が“7”、枝番の数字が“3”であることから、やはりこの女性も霊障によって加害者と引き寄せられていたのでしょうか』

    「おそらく」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、言葉を続ける。

    「そうした微妙な属性の違いのせいで、この女性は、紙一重の所で、事件の被害者にならずに済んだようじゃな」

    『加害者が逮捕されたために、今回は事件では決定的な被害に遭わなかったものの、霊障と天命運に“5:事件”の相があることに変わりはありませんから、今後が心配ではあります…』

    「たしかに。この女性の場合、今回の一件含め、命を落とすまでの被害には遭わないとは思うが、それでも行く末はちと心配じゃの」

    陰陽師の言葉に大きく頷く青年を横目に、陰陽師は続ける。

     

    加害者の家族構成と魂の属性

    「ところで、話は変わるが、加害者の家族構成はわかるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを見ながら口を開く。

    『両親と妹がいる、四人家族です。ただ、現在、両親は離婚し、妹さんは母親について行ったようですが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、紙に鑑定結果を書き足していく。

    白石隆浩SS

    白石隆浩・父SS

    白石隆浩・母SS

    白石隆浩・妹SS

    白石一家の鑑定結果に目を通した青年が、大きな声を出す。

    『なんと。犯人の父親も、魂の種類が4−2なのですね! そして、両親共に恋愛運が“7”で、霊障と天命運に“8:異性”の相があることから、組み違いの家庭を築き、離婚に至ったと』

    「どうやら、そのようじゃな。じゃが、霊障や諸々の数字が犯人と異なるし、枝番も“3”と“性善説”論的な性格であることなども踏まえると、凶悪犯罪者ではないと思われるが、具体的にどのような人物なのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、再びスマートフォンを操作し、答える。

    『加害者の父親は、大手自動車メーカーに勤務しており、近所の方による彼の人物像は、“すれ違えば、車の窓まで開けて丁寧に挨拶する人物”とあり、社会に適応して暮らしている印象を受けます』

    「やはりのう。いつもワシが、人間は多面体であり、頭の1/2、基本的気質、具体的性格、今世の使命、魂の属性、魂の性質、魂の特徴、枝番や育った環境などで人格は異なるという話をするのは、この親子のように、頭が2であり、魂の種類が4−2だからといっても、みんなが皆、凶悪犯罪者になるとは限らぬということも、その理由の一つとなっているわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいてから、口を開く。

    『たしかに、魂の属性が親から子、あるいは祖父母から孫へ受け継がれるケースがあることを鑑みるに、仮に“魂4−2は全員、凶悪犯罪者”という図式が成り立つならば、加害者の父親の一族の多くが凶悪犯罪者になってしまいますからね』

    「そなたの言う通りじゃ。いずれにしても、人間には多面性があること、そして、ひとつの数字だけを取り上げて人物を評価してはならぬという大原則を、よく覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずいてから、口を開く。

    『はい。魂の種類だけによる人物評価は、下手をすると魔女裁判になりかねませんので、鑑定結果の一部だけをみて早合点しないよう、肝に銘じておきます』

    陰陽師は湯呑みの茶を一口飲んだ後、再び口を開く。

     

    事件に対してどう向き合うべきか

    「地球上の人類全員が善人になれば、不幸な事故や事件で命を落とすことはなくなると、凶悪犯罪がなくなることを願ってみたり、既存/新興の宗教が提唱するような地上天国を目指したくなる気持ちはわからんでもない。じゃが、常々説明しているように、この世は魂磨きの修行の場であるから、仮に地球人全員が神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、どこかしらの国や地域で凶悪犯罪や諍いがなくなるわけではないことをよく肝に銘じておくようにな」

    『今のお話、あらためて、了解いたしました。そして、たとえ素の状態であっても、凶悪犯罪を起こすことが今世の課題である加害者もいれば、その事件で命を落とすことを決めて産まれてきた被害者もいることもしっかりと頭に叩き込んでおきます』

    「うむ。その心意気じゃ。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉があるが、悪に反応して人を叩くのではなく、この事件から気づき、学んだことを自分の糧として活かすことが肝要じゃとワシは思う」

    青年は、陰陽師の言葉をかみしめるように何度もうなずいた後、スマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『そうですね。この事件の影響で、Twitterは“自殺、自傷行為をほのめかす投稿を発見した場合は、助長や扇動を禁じます”との文言を追加し、違反者にはツイートの削除やアカウント凍結の措置をとるようになりました。また、日本政府も、“インターネットがきっかけになったとした”上で、ICT(情報通信技術)を活用し自殺予防策を強化する考えを示した、とあります』

    「そうした社会の動きによって、今後、同じ手口による被害者を減少してくれるとよいのじゃが」

    『おっしゃる通りだと思います。被害者の中には10代の若さで亡くなった人物がいることを思うと残念でなりませんが、この事件をきっかけに、同じような事件の被害者が少なくなることを願わずにはいられません』

    「ワシもそう思うが、人生の長短よりも、当人が今回の転生で自らの宿題を果たせたかどうかということ、そして当人の魂が肉体を離れる際に、この世に未練なくあの世に戻れることの方がはるかに重要じゃと、ワシは思う。400回の輪廻転生は、たとえるなら、制限時間つきの長距離走のようなもので、道草を食ったりコースとは関係ない道を迂回していたら、結局は終了時間が近づくにつれて速く走らねばならなくなる」

    陰陽師の説明を反芻しているのか、青年は真剣な表情でしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

    『つまり、パフォーマンスが低いまま長生きして今世を終えたとしても、じゅうぶんな魂磨きの修行ができたとは限らず、今世でこなせなかった課題が持ち越され、来世以降の人生がより過酷になる可能性がある、ということでしょうか?』

    「その通りじゃ。さらに言うと、今世が過酷で生きづらいと感じている人物は、前世でこなせなかった課題が今世に持ち越されているという可能性がゼロではないと、ワシは思う」

    『なるほど』

    陰陽師の言葉に一つ大きく頷いた後で、青年が口を開く。

    『ちなみに、今回の事件の被害者の中で、この世に未練やなんらかの執着があって地縛霊化している魂はいるのでしょうか?』

    恐る恐る問いかける青年に対し、陰陽師は指を小刻みに動かした後に口を開く。

    「いや。ワシがみるかぎり、今回の事件の被害者全員が地縛霊化していないことから、全員に“5:事件・被害者・死”の相があったものの、“殺されるというのも宿題の内”であったようじゃな」

    『そうだったのですね。胸が痛む事件であることには変わりませんが、被害者みなさんの魂が無事にあの世に戻っていると知り、少し安心しました』

    そう言って深い息を吐いた後、青年は続ける。

    『とは言うものの、先生に先祖供養の救霊神事祀りを依頼する人物が増え、今回のような事件で命を落とす人物が減り、同時に魂磨きの修行に励む人が増えたらと、あらためて思います』

    青年の言葉に、陰陽師はいつもの笑みでうなずき、壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はあの世とこの世の仕組みについて再考していた。
    あの世の理屈では、早く死ぬことが必ずしも悪となるとは限らないが、そうは言っても魂磨きの修行のためにこの世に来ていることを考えると、400回のうちの貴重な1回であることに変わりはない。
    この事件の被害者の命を無駄にしないためにも、そして、未来の自分、さらには来世の自分のためにも、この事件から気づき、学んだことを己の天命の糧にしよう。
    そう、青年は決意するのだった。