カテゴリー: 小説

魂には4つの種類があり、永遠の世での職責を果たすため、魂磨きの修行の場であるこの世に400回に渡る輪廻転生を繰り返している、という前提の基、この世の出来事や人物が取った行動を対話形式で解説しています。

  • 天職と執着①

    新千夜一夜物語 第5話:天職と執着

    青年は不思議な心境だった。

    魂の階級という聞いたことがない情報を知り、しかも自分の天職までも知ることができるという人生の転換期にもかかわらず、心中は穏やかだった。もともと死んでもいいと思えていたため、なにを言われても受け入れる覚悟ができているのかもしれない。

    陰陽師が口を開いた。

    「そなたの天職診断の結果は出ておるぞ」

    固唾を飲み、頷いて応える青年。

    「いくつか項目があるから、先に伝えておこう。まずは大枠として、対人向き・不向きに分かれる」

    *対人不向き
    ・事務
    ・職人
    ・対動植物

    *対人向き
    ・対個人:新規(ネットワーク、口コミなど、新規の人間関係が得意)
    ・対個人:人脈(人間関係だけでいく、新規の人間関係が苦手、既存のフォローが得意)
    ・対組織:新規(法人の新規が苦でない)
    ・対組織:人脈(法人の新規は苦手、既存のフォローが得意)

    『こうして見ると、どんな職種で働けばいいかの傾向がわかりやすいですね』

    「そうじゃろう。そして、何を扱うのに向いているのかも分けられる」

    ・物販(“モノ”を扱う)
    ・飲食(“消えモノ”を扱う)
    ・サービス(“コンテンツ”を扱う)
    ・芸能(“自分自身”を扱う)
    ・芸能(2−3−5−5・・・2以外の領域)

    『なるほど。これでさらに業界も絞りやすくなりますね』

    「そなたの場合、それらの項目が“対個人:新規”で、扱うのは“飲食”と“サービス”となる」

    『確かに、誰かに紹介してもらうよりも自分で新しい人を探すほうが得意な気がします。それと、“飲食”は月に1度、1日店長をやっているのが該当しそうですね。また、“サービス”に関しては気功が該当すると思います』

    「一言で“飲食”といっても具体的な仕事は多岐にわたる。お店を構えて料理を提供するということに限らず、食材を販売するというのもこの項目に当てはまるぞ」

    『ということは、八百屋や魚屋も該当するのでしょうか?』

    「いや、それらはあくまで食材の販売だけであるから“物販”の範疇に入る。そして、“サービス”は見えないモノと言い換えることもできるから、情報商材や文章、動画なども含まれる。保険などの金融商品も問題ない」

    『なるほど。サービスと聞いて接客業だけをイメージしていました』

    眉間にシワを寄せ、小難しそうな顔をする青年。

    『“芸能”というのは芸能人やアイドルに向いているかどうか、ということでしょうか?』

    「大きく捉えるとそういうことになるな。そなた、先日話した、現世属性のことを覚えておるか?」

    『・・・数字だけなら覚えています』

    「実は、ここを見ればアイドルを目指してもいいかどうかがわかる」

    『えっ、そんなことまでわかるんですか! 先生がアイドル候補生たちの顔や名前をみれば、どの人が売れるかがわかってしまうということですよね?』

    よほど驚いたのか、興奮気味に話す青年。陰陽師は片手を上げ、青年を制する。

    「まあ、落ち着きなさい。芸能・スポーツ関係の適合者はこれらの数字が“5(*)―5(*)”つまり、基本的気質と具体的性格の上の数字が共に5となっておる。この人々は顔がとても整っていたり、個性的な顔をしていたり、芸能人でよく言われるオーラを纏っている人が多い」

    『このような見立てのできないスカウトの人たちはそうしたオーラを感じ取っているのですかね?』

    「おそらくそうじゃろうな。要は、芸能関係に進みたいと夢見る若者にとって2-3-5-5・・・2という数字を持っているか否かは、正に運命の分かれ道ということになる。詳細鑑定にある”長所”の項目に”芸能”があるが、そこのスコアも考慮すると、さらにこの業界で成功しやすいかどうかがわかるわけじゃ」

    『せっかくデビューしてもなかなか芽が出ない人というのは、ここの数字が違うということですか?』

    「いや、芸能界にデビューできたということは間違いなく2-3-5(*)–5(*)・・・2という数字を持っているんじゃが、その数字を持っていたからと言ってみんながみんな成功するわけではない」

    『つまり成功するかどうかは別として、2-3-5(*)−5(*)・・・2という数字は芸能界への“入場券”の様なものなのですね』

    「まあ、簡単にいうとそうなるかの。ただしいくら入場券を持っていたところで、そこから先は“3:ビジネスマン階級”の世界、実力のある者が頭角を現していくという訳じゃ」

    『僕は7(5)―7(5)なので、芸能界には入れないということですね。ちなみに、7(5)―7(5)というのはどのような意味なのでしょうか?』

    紙に数字を書きながら、陰陽師が説明を始める。

    「ここの数字には、社会生活/仕事をするにあたっての適性が表れている。7(*)―7(*)のように7と7が一致している人は、例えるならOSもソフトも最適じゃ。一方、7(*)―3(*)と数字が一致していない人はOSとしては社会生活/仕事をするにあたり適した番号を持っているものの、ソフトの部分で霊的/精神的に問題を抱えているというになる」『僕は社会生活/仕事をするにあたっては適しているわけですね。ちなみに、7(*)―3(*)の人たちは社会に適応するのが難しいのでしょうか?』

    「7(*)―3(*)の人たちは一般常識や空気を読むことが苦手なので、結果、自分のペースで生きる方が合っているということになる。また、最初からそうした生き方が合っているとわかっていれば、苦手な人付き合いを頑張らなくて済むし、いっそう自分の価値観を大事にしていけばいいだけのことじゃからの」

    『なるほど。ちなみに、(*)の中の数字はなんですか?』

    「それらは適した立場を表している。(*)は1、3、5、7、9とあり、1は社長、3は常務、5は部長、7は課長、9は平社員と考えるとわかりやすい」

    『僕は7(5)―7(5)なので、社会適合者で部長の立場が適しているということですか?』

    「そうじゃな。上の立場の人間と下の立場の人間とも接することができる。まさに管理職じゃ。そなたは部長だから、1:社長の人間の視野で物事を考えたり立ち振る舞ったりするのは難しい。逆に、1:社長の人間がそなたの立場で動こうとしても、うまく指揮をとれないじゃろう。何度もいうが、この数字は人間の上下関係や偉い・偉くないといった意味ではなく、力を発揮しやすいポジションを表しているに過ぎないということじゃ」

    『なんとなく理解できました。話が戻ってしまいますが、2−3―5(*)―5(*)・・・2というのはどのような意味でしょうか? 5(*)―5(*)は現世属性だと理解していますが』

    「最初の2は転生回数が200回代、次の3は魂の階級つまり“3:ビジネスマン階級”ということじゃ」

    『3だけということは、武士・武将を問わずということですね?』

    「そうじゃ。そして、次の・・・2というのは、そなたの鑑定結果を見ながら説明しよう」

    『魂の善悪と書かれていますが・・・』

    眉間にシワを寄せる青年。ふたたび数字が出てきたことで頭を悩ませているようだ。

    『急に項目が増えましたね』

     

     

  • 魂の種類と仕事②

    新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事

    「次に、基本的には社会を下支えする職業に従事している魂“4:ブルーカラー”じゃが、この階級の人々はそれ以外にも情報通だったり、腰が軽いことから手に入れた情報を拡散させることが得意という側面を持っておる」

    『それに、なによりも人数が最も多いですもんね』

    「たしかにそうじゃな」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷いた。

    「じゃが、同時に彼らは器用貧乏の面もあっての、趣味の範囲で情報を発信することはできたとしても、それを世の中に影響を与えるところまで昇華させることは難しい」

    『ということは、多くの人ができそうな簡単な仕事を担うことで、他の階級の人々のサポートをしているという理解でいいのでしょうか?』

    「そのあたりについて、もう少し具体的に説明するために病院を例にとることにするとしよう。たとえば、病院における2と4の仕事の分担をわかりやすく説明すると、採血や点滴の交換、放射線技師といった、どちらかと言うと単純作業に入る部類に従事するのが、4の階級。つまり、あくまでもその仕事領域は、下支えということになる。一方、一秒を争う緊急事態に適切な指示を出して現場を厳しく仕切ったり、医者と患者の意思疎通を図ったり、数いる2と4の混在体である看護師を束ねたりという仕事をする看護師長などは2の階級の専売特許ということになるわけじゃな」

    『なるほどです。今の話をうかがって、すぐにナイチンゲールのことが思い浮かびました。』

    青年は小さく頷くと、言葉を続けた。

    『では、3と4の違いはどのように理解したらいいのでしょうか?』

    「農家、昔でいう百姓で説明しようかの。一般論としては、第一次産業は4の仕事となるんじゃが、特にJAの規定に従い、毎年繰り返し同じような農作物を作ることに向いているのが4の階級。一方、農家ではあってもメディアで話題となるような他とは一線を画すクオリティの高い品種改良を行えるのが3の階級ということになる」

    『なるほどです。同じ農作物でも、〇〇マスカットや誰々さんのりんごのように群を抜いているのですね』

    「まあ、そういうことじゃ。もちろんこれは農業に限った話ではなく、たとえば、漁業などにもしっかりとあてはまるんじゃ」

    『とおっしゃいますと』

    「海の魚は基本的にタダじゃから、漁師は船の月々のリース代と日々の燃料代と漁獲量の兼ね合いで生計を立てていることになる。しかし、昨今の異常気象や周辺国の密漁や乱獲により、そのバランスが崩れつつある現状の中で、いち早く養殖に着手したり、現在でも孵化が難しいとされている魚の養殖に挑戦したり、山の上でヒラメを養殖しているなどというのは、当然のこととして魂3ということになる」

    *3の階級の人の適職の例
    上場企業の役員、上場企業以外の会社のトップ・ビジネスマン・金融関係のビジネスマン・商人・医者・科学者・発明家・プロスポーツ選手・オリンピック選手・芸術家・芸能人・伝統芸術などの専門的な職人・板前/調理師・革新的な技術を駆使する第一次産業従事者など

    *4の階級の人の適職の例
    第一次産業従事者(百姓)・社会の下支えをしている職業全般

    『少し話は変わりますが、納得いくことがありました』

    「なんじゃ?」

    『僕は気功を使って国境なき医師団のように生活を顧みずに人を癒すことに専念したいと思っていた時期がありました。でも、実際の僕には、生活を全て捨ててまでそこにいく勇気はなかったですし、緊急度の高い現場ではあたふたしてむしろ足を引っ張っていたかもしれません。そこに行けるのは”2:制服組(軍人・福祉関係)”階級の人たちであって、僕は”3:ビジネスマン”階級で活躍すべきだったんだなって』

    「そなたは自分を基準とするからそう考えるのかもしれんが、それは大きな間違いじゃぞ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえば、国境なき医師団を例にとってみても、彼らのほとんどは “魂3:ビジネスマン”じゃからな」

    『軍人が魂3なのはよくわかりますが、国境なき医師団の人たちもそうなのですか?』

    「うむ。そもそも医者は基本的に魂3の職業じゃし、“3:ビジネスマン”階級を武士と武将という言葉で表していることからもわかるように、彼らは元々が武士・武将なわけじゃから、いざとなったら命のやりとりを辞さないくらいの胆力があり、4つの階級の中で最も根性があるということもできる」

    呆気にとられる青年。陰陽師に言われたことに対し、あまり自覚がないようだ。

    「そなたの場合、先祖霊の霊障によって“2:仕事”の運気が塞がれておったからそうはならなかったが、もしワシともっと早く知り合い、霊障を祓っていたとしたら、国境なき医師団で活躍するような人生がまったくなかったとは言い切れん。実際に現場に出て命のやり取りを辞さない状況になったら、そなたの眠っている“warrior”の素質が目覚めるじゃろうからな」

    『なるほど。warriorだけに、ウオー! と血がたぎるように一つのことに夢中になったことはあります』

    「ふむ、そういった冗談を言えるくらいにはワシの話を信じられるようになったようじゃな」

    調子に乗って冗談を言った青年だったが、完全に滑ったようだ。

    『…言われてみれば、いったん覚悟を決めたらやるときはやるかもしれません』

    恥ずかしそうに言う青年。陰陽師はやわらかい笑みを浮かべたままうなずく。

    「軍隊でも司令官向きの人間と前線で活躍する将校向きの人間がいるように、怪我人や病人の生き死にを前に、大局的なものの見方やとっさの判断は“2:制服組”の話に真摯に耳を傾け、彼らと上手に連携をとれば、戦争に限らず、大きな判断ミスを犯す危険も限りなく低くなるというわけじゃ。何しろ3の階級の人は、天命に沿った実務遂行能力・技能においては正にプロフェッショナルなのじゃからな」

    『なるほど。2の階級の人々も全てをこなせるわけではなさそうですし、“医者”はそもそも基本的には魂3の階級の職業ですもんね』

    「そうじゃ。それにな、間接的にいろんな貢献をすることもできるのじゃぞ。むしろ、そっちの方が本領発揮できると思うが。わかるかの?」

    腕を組み、黙って考え込む青年。やがて勢いよく顔をあげて口を開いた。

    『わかりました! “3:ビジネスマン”階級は経済を回す役割なので、収入を上げて寄付するのも貢献になりますね。必ずしも現地で活躍する必要はないと』

    「その通りじゃ。その方がお互いの役割に集中できるじゃろう。”2:制服組(軍人・福祉関係)”の人々は、収益が目的ではない慈善団体のような団体が多いわけじゃから、”3:ビジネスマン”階級が得意のビジネスで稼いだお金を寄付することで彼らの活動も拡大しやすい。つまり、3の階級の人々は技能においても経済においても、世の中に影響を与えられる階級なのじゃよ」

    納得の意を示すように何度も頷く青年。

    『ちなみに、先生の鑑定では天職というのはわかるのでしょうか?』

    「もちろん。ただ、これが天職だと結果が出たとしても、そなたがその鑑定結果に納得をし、それを天職として選ぶかどうかはわからんぞ」

    『…それでも、どうしても気になるので、鑑定をお願いしてもいいですか?』

    「あいわかった。結果が出たら伝えよう」

    『よろしくお願いします!』

     

     

  • 魂の種類と仕事①

    新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事

    青年は朝早くから陰陽師を訪ねた。

    というのも、とても懐かしくて悲しい夢を見て目が覚めたからである。夢の内容を覚えていないが、今までふぬけていた体に一本芯が通ったかのような不思議な感覚があった。

    そして、魂の階級や属性といった、自分の天命に関わる情報を少しでも多く知り、自分の天命を生きようという意思が芽生えたからである。

    『おはようございます』

    青年は、陰陽師と対面すると、いつにも増して神妙な面持ちで深々と頭を下げた。

    「おはよう。昨夜、そなたの先祖供養の奉納救霊祀りを滞りなく執り行わせていただいたよ」

    『やはり、そうでしたか。昨夜不思議な夢を見ましたので』

    顔を上げて言う青年に対し、陰陽師は笑みを浮かべながら小さく頷く。

    「それは、そなたの先祖が無事にあの世に帰還した合図かもしれんな」

    あらためて神事のお礼を述べた後で、青年はさっそく本日の議題を切り出した。

    『今日は、先日少し説明いただいた、魂の種類などについて教えてください。自分の天命についてもっと理解したいです』

    「あいわかった。では、まずは魂の種類について説明しよう」

    陰陽師は紙に書きながら説明を始めた。

    1:先導者(5%)
    2:制服組(軍人・福祉関係)(15%)
    3:ビジネスマン(武士・武将)(20%)
    4:ブルーカラー(60%)

    「魂には4つの種類がある。種類といっても上下関係という意味ではなく役割分担というほどの意味となる。また、地球上における魂の割合もおおむね決まっておる」

    『魂に種類があったのですね。しかも、4つも…』

    「もう一度だけ繰り返しておくが、この4つの魂の階級はカースト制度のように身分を表しているわけではない、ということはくれぐれも忘れんようにな」

    『わかりました』

    青年は、一つ小さく頷いた後で、口を開いた。

    「ところで肝心な質問なのですが、僕はどの種類になるのでしょうか?』

    「そなたは“3:ビジネスマン”であり、さらに細かく分けると“武士”となる」

    『武士でしょうか? しかし、どちらかというと僕は争いとか、戦いはあまり得意ではないんですが…』

    幾分不安そうに訊ねる青年の言葉に、陰陽師は小さく笑った。

    「人の話は最後まで聞くもんじゃ。今そなたが武士だとは言ったが、今は戦国時代ではない。じゃから、武士と言っても昔の武士という意味ではなく、現代的な言い方をすれば” ビジネスマンや商人”に近い。つまり、現代における武士階級とは、経済を回し、その経済力で世の中に影響力を持つ人間たちのことなんじゃ」

    そんな陰陽師の言葉に、青年の顔に安堵の色が浮かんだ。

    『それを聞いて、少し安心しました』

    「さらに言うと、武士は自分個人のスキルを基に社会に貢献するのが得意ということができる』

    『確かに、僕は大勢よりも一人の人と接する方が得意です』

    「一方、武将タイプじゃが、彼らは武士タイプに比べて緻密さや精度という点ではやや劣るものの、人を見る力/人を束ねる力がある。それ故、大規模なイベントや企画を立てるのは武将の役目じゃ。武士は成功させるために各々のスキルを発揮するのが主な役目となる」

    『…しかし、お話を聞くかぎり、どうも武将の方が立場が上な感じがしますが』

    「いや、これも魂の『別』と同様に、上下の関係・偉い偉くないの問題ではなく、役割の違いと理解した方がよい。実際、“船頭多くて、舟山に登る”の譬えではないが、武将だけでは何をするにせよ限界があるし、武士だけでもまとまりを欠いてみたりする。要は、両者は一種の補完関係にあるわけじゃ。じゃから、武将タイプの人と縁があったら、彼ら・彼女らの手助けをするといい。しかもそなたは武士の中では最高ランクの武士なのじゃから、彼ら・彼女らのビジョンをしかと聞き出し、武士であるそなたの特性を活かして協力するとよい」

    『なるほど。武士と武将は連携することでできることがあると。わかりました!』

    「そう、その意気じゃ」

    真剣な眼差しの青年に話すのが楽しいのか、陰陽師は微笑みながら続けた。

    「今度は魂の種類を順番に説明していくとしよう。まず魂1じゃが、“1:先導者”は、シュメールやエジプト、ペルシャ、古代インドの祈祷師をその起源としておるのじゃが、現代では宗教関係者、上場企業のトップ、いわゆるキャリアと呼ばれる上級公務員、財団の理事、大学教授、小中高の教員などの職業に主に従事している」

    『他の職業はなんとなく理解できますが、何故上場企業のトップなのでしょう。先程もビジネスは魂3の仕事とお聞きしたばかりなのですが』

    「そうじゃな、そのあたりの話を簡単にしておくとするかの」

    青年の顔を見ながら、陰陽師は小さく頷いた。

    「先程話した通り、たしかにビジネスは基本的には3の仕事となる。もちろん、上場企業といえども例外ではない。よって、欧米の上場企業の役員はもちろんのこと、CEOはすべて魂3ということになる。ところで、そなたはトップダウンとボトムアップという概念はわかっておるな」

    『もちろんです』

    「そうか、それでは話が早い」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく笑った。

    「まず欧米じゃが、欧米の企業では決定事項はつねにトップダウンとなる。文字通り、トップが魂3なのじゃから、非常にわかりやすい。それに対して日本の企業はボトムアップが現在でも基本となっている」

    『その理由が、魂1がトップにいるからなのですね』

    青年が口を挟んだ。

    「その通りじゃ。わが国では、元々聖職者が上場企業のトップを務めておるわけじゃから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけることはほとんどない。じゃから、勢い多数決や満場一致を旨とするため、結果ボトムアップという形になるわけじゃな」

    『そして、そのような形態をとっているのは日本だけだと言うのですね』

    「その通り」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく頷いてみせた。

    「そのような意味では、日本の経営形態は世界の非常識ということができるのじゃろうな」

    『しかし、現在のグローバル経済の中でも、その形態は崩れていないのでしょうか』

    「もちろん、将来のことは何とも言えん。しかし、今のところは、つい先日も魂3である日産のゴーン社長が、事の経緯はともかく、あのような形で追い出されたところをみても、その予兆はないようじゃな」

    『なるほど。そのような意味でも日本はやっぱり“神の国”なのですね』

    青年は、感心したように小さく頷いた。

    *魂1の人の適職の例
    一部上場企業のトップ、キャリアと呼ばれる上級公務員、財団等のトップ、政治家、宗教関係者(宗教を興す最初の教祖、既存/新興宗教問わず2代目以降の聖職者・僧侶はほとんどが3)

    『次に、魂“2:制服組(軍隊・福祉関係)”ですが、彼らは、現代の日本だとあまり素質を発揮できなそうですね』

    「いや、かならずしもそうとは言えんぞ。現代における魂2の職業を大別すると、福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ということになる」

    『福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ですか。でも、このふたつはまったく正反対の職種のようですが』

    「たしかに。このふたつの職種は、一見正反対のようにみえるじゃろうが、その実、立派な共通点が存在しているんじゃ」

    『共通点でしょうか? それは、どんな共通点なのでしょう』

    青年は、膝を乗り出すようにして陰陽師に訊ねた。

    「かつてのシュメールや古代エジプトにおいて神権政治時代の王侯貴族であった魂2の人間たちの役割が、国家の統治と安寧(あんねい)であったとすると、彼らが現代において福祉を職種として選ぶことには、格別不思議な話ではない」

    『そうですね、魂2の人たちが福祉関係の職に就くことはよく理解ができます。ですが、実質上の軍隊である自衛隊を職業に選ぶというのは』

    そう言いかけた青年の言葉を遮り、陰陽師は続けた。

    「先ほどは日本に限った話だったので防衛装備庁・自衛隊と言ったが、諸外国に目を向けた場合も、軍隊や国防省の職員のかなりの部分で魂2の人間が占めているんじゃ」

    『本当ですか? しかし、何故』

    合点がいかない様子の青年を横目で見ながら、陰陽師は話を続けた。

    「それには戦争というものの成り立ちをよく考えてみるとわかりやすい。まず、その前提条件として、何らかの理由で二国間に利害の反する問題が起こったと仮定してみよう。そして、話し合いを繰り返してみたものの、ついに話し合いでは解決がつかないところまで事態が悪化し、武力という手段でしか問題を解決できなくなったときに、人間は戦争という手段を選択してしまうわけじゃ」

    『…たしかに』

    「しかし、そのような状況の中でも、最後まで戦争回避の道を模索するのが制服組である魂2となる。そして、不幸にして開戦を回避できなかった場合にも、どのような範囲で戦争をするのか、どのような武器まで使用するのかを策定をするのも制服組である魂2の仕事となるわけじゃ」

    『なるほど』

    「さらに実際の戦場で、命のやり取りの末、血に飢えた殺戮マシーンと化した魂3・4の軍人たちに、モチベーションを保たてつつ、婦女子を中心とした民間人に危害を加えさせないよう最大限の努力をする任務を負っているのも、現場の魂2の将校というわけじゃ」

    『なるほど。そう考えると、福祉と制服組の軍人という一見対極にある職業が、実はコインの裏表のような関係にあることがよくわかりますね』

    感心したように頷いている青年を眺めながら、陰陽師はつけ加えた。

    「それ故、一瞬の判断が人の生き死にを分けるようなシビアな環境において、彼らの能力が最大限に発揮されるということもできるわけじゃ」

    『確かに魂2の人たちは肝が座っている方々が多そうな印象があります…』

    (続く)

    ご自分に先祖霊による霊障があるかどうかか気になる方は、

    までご連絡ください。

  • 除霊と救霊

    新千夜一夜物語第3話:除霊と救霊

    その日、青年は陰陽師を前にうつむいたまま黙っていた。

    というのも、青年は過去に霊能力を持っている人物の世話になったことがあり、その時にお祓いは済んでいたはずだからである。それなのに、陰陽師は霊障があると断言するのだ。
     陰陽師は青年の想いを察してか、彼が切り出すのを黙って待っていた。

    『じつはですね。先生にはとても申し上げにくいことなんですが…』

    青年が切り出した。

    「どうしたんじゃ? 何でも言ってくれて構わんぞ」

    『実は僕、過去に霊能力者に弟子入りしていたことがありまして、その時にお祓いを受けているんですよ。だから、昨日先生が僕に霊障があるというのは違うのではないかって』

    「なるほどのお。そなたは世話になった霊能力者とやらの言葉を今でも信じておるわけじゃな」

    『先生を疑っているつもりはないんです。ただ、僕にまだ霊障があるとするなら、過去に受けたお祓いは何だったのだろうと思って。よくわからなくなってしまったんです』

    いつもと変わらず、穏やかな表情のまま紙を差し出す陰陽師。何を言われても動じない不動の心を持っているかのようだ。

    『この紙は何ですか? 数字がいくつも書いてあって難しそうですが』

    「そなたの鑑定結果じゃ。昨日、名前(ふりがな)と職業を書いてくれたじゃろう」

    『ああ、そうでしたね』

    「それでな、“現世属性”の個所を見てみるがいい」

    “現世属性:7(5)―7(5)(−2)”

    『この、7(5)―7(5)(―2)の部分ですか? これはどういう意味ですか?』

    「7(5)―7(5)はまた別の機会に説明するとして、今日は最後の(―2)のところについて説明しよう」

    青年は眉をひそめながら紙をじっと見つめている。どうやら数字を見ると頭が痛くなるようだ。

    「その数字は当人が霊感持ちか霊能力持ちかを表しておると同時に、それらの強さを表しておるんじゃ。簡単に説明すると、(―*)は霊感持ちで、(±*)は霊能力持ちということになる。また、数字は1から9まであり、1が最も強い」

    『ということは、僕は(−2)なので霊感持ちで、上から2番目に強いということでしょうか? そんなに霊感が強いとは思わないのですが…』

    「しかし、数字を見る限りはそういうことになる。また、霊感は視覚的に見えるか見えないかで考えられがちじゃが、通常の視覚では見えない存在を何らかの形で感じる度合いを指していると理解するとわかりやすい」

    『言われてみれば、霊能者のお世話になった時に霊体は見えなかったけれど、あの辺に何かいそうというのは何となくわかった気がします』

    「そう言うことじゃ。それに対して、霊能力者とは霊の存在を感知できると同時に、霊に対して何らかの解決策を取れる存在を指す」

    *この文章では、あの世に帰り損ねた人物・生き物を輪廻転生のメカニズムに戻すこと、あるいは有害な霊障を無効化することを主に指します。

    『でも、両者の違いはどうしたらわかるのでしょうか?』

    「例えば、霊能力者を名乗る人物にお祓いを依頼したとして、根本的な問題を解決できないとすれば、その人物は霊能力持ちではなく、単なる霊感持ちということになる」

    視点が固定したまま黙る青年。イマイチ言われたことがわかっていないようだ。

    「簡単に言うと、霊感持ちは感じることはできても祓うことはできない。わかりやすく言うなら除霊しているだけじゃ。霊を移動しているだけで霊自体はこの世に留まったままなんじゃ」

    『そういえば、霊能力者の元で修行の際、除霊をしまくっていました。当時は浄霊と呼んでいて、先生がいう救霊と同じことをしていると思っていました』

    「なるほど。しかし、それはまずかったのお…」

    『え?! 何かまずかったのですか?』

    「霊能力がないそなたの役目ではないことを修行するとは…。基本的に本物の救霊、ここでは“カミゴト”と呼ぼう。それに携われる人間は鑑定結果にもはっきりとその能力が表れているんじゃ。霊能力を持っている人間は()の数値が(±*)となっている。ただし、“17.天啓/憑依”の霊障があるといった、まず自分のことを自分で祓えていない人間は基本的にアウトじゃ。他人のみならず自分のことを祓える人間は(±1~3)であるため、神事を受けずにカミゴトに携われる人間は非常に少ない。また、例外的に魂3の人間もいるにはいるが、基本的にカミゴトに携わる人間は基本属性の魂の階級が“1:先導者”ということになる」

    『何だか新たな言葉と数字が出てきて頭がこんがらがりそうです』

    「すまん、すまん。魂の属性と階級はまた別の日に解説するとしよう」

    『わかりました。で、続きをお願いします』

    「そして何より、除霊という行為は霊的にみると根本的な解決にはなっていない。そこにいた霊をそなたの都合でどかしただけで、霊たちは救われているわけではないのじゃよ。それどころか、そなたが余計な影響を及ぼしたことで、霊たちはそなたに救ってもらえるかもと期待を持ってしまうわけじゃが、実際に霊能力を持たないそなたは、残念ながら霊たちの要求に応えることはできなかったわけじゃな」

    『それにしても、僕がどかした霊たちはどうなったのでしょう?』

    「おそらく、一時的のどこかへ行っていたとしても、時間が経てば元の場所に戻るじゃろうな。あるいは…」

    『あるいは…?』

    「そなたが何とかしてくれるかもしれないと、すがる思いでそなたに未だに憑いているかもしれん」

    『げ…』

    青年は慌てて周りを見渡し始めた。そんな青年を面白そうに眺めながら、陰陽師が口を開いた。

    「ところで、そういった地縛霊を連れていると、どうなると思う?」

    『昨日の話を聞く限り、少なくともいいことではないと思います…』

    またあたりを見回しながら、青年は答えた。

    「そういうことじゃ。じゃから、霊感持ちの人間はむやみに心霊スポットと呼ばれる場所などには近寄らず、ホラー系の映像や怪談にも接触しない方がいいというわけじゃな」

    『しかし、ご先祖様以外の地縛霊を連れて来てしまうと、具体的にどうなるのですか?』

    「それらに取り憑かれると、そなたの心身の弱っている部分、あるいは体の“弱い部分”の痛みが増幅してみたりする。そして一番やっかいなのが、そなたが気づかないようにそなたの運気そのものが下がってしまうということじゃな」

    『げ! 良かれと思ってやったことが、むしろ僕自身にダメージを与えていたということですか?』

    「そなただけじゃなくてそなたが連れて来た魂にもじゃし、そなたの周りの人々にもじゃ」

    『成仏できない魂たちはわかりますが、どうして周りの人々にも悪影響が及んでしまうのでしょう?』

    「それはじゃな、簡単に言うと雑霊には人を介して移動していく性質もあるからじゃ。そなたが誰かとすれ違ったりするだけで、相手に移ることもあるし、お前が拾うこともある。そして、成仏できない時間が長くなるにつれ、雑霊の影響力は増えていく」

    『じゃあ、どうしたらいいんですか?』

    「結局のところはお祓いをする人間に”霊能力”があるかどうか、が重要となる。お祓いの作法うんぬんよりも、お祓いをする神主や坊主に”霊能力”があれば効果はあるし、なければいうまでもなく効果はまったくない」

    『ということは霊能力持ちの神主や坊主にやってもらえるかどうかはわからないので、一種のギャンブルみたいなものなのですね…』

    「まあ、そういうことじゃな。それにじゃ、”霊能力”があればいいというわけでもない。さきほど言った通り、魂3という少数の例外を除けば、救霊できる人間は基本的に“1.先導者”階級で(±1~3)に限られておる」

    『なるほどです。ちなみに、僕の当時の師匠は違うのでしょうか?』

    陰陽師は目をつぶって黙った。何かに集中しているようである。

    「今鑑定してみたところ、そなたの元師匠は“4.ブルーカラー”階級で(―1)の霊感持ちじゃな」

    『もうわかったんですか?! 名前も伝えていないのに』

    「そうじゃな。厳密に言うと、たとえば友人の友人の奥さん御母親といった具合に、名前がわからなくとも依頼者から連なる一連の人間関係がわかればそれでも問題はないといえばないのじゃがな」

    『霊感持ちだったということは、当時の師匠が僕にしてくれたお祓いは根本的な解決ではなかったと…。そして、先生がおっしゃる通り、僕には地縛霊化しているご先祖様の霊障があるということなのですね…。疑ってすみませんでした…』

    「いいんじゃよ。さて、霊障があることをわかってもらえたところで、そなたにどんな霊障があるか解説するかの」

    『よろしくお願いします』

    「そなたの場合、特に2、12、13、14、17じゃな」

    『その数字だと、仕事の問題、読心・暴力衝動、予知・口撃衝動、偶発的人的トラブル、天啓ですか』

    「どうじゃな、思い当たる節はあるかの?」

    『まさに、いろいろと仕事をしましたがどれもうまくいかず、人間関係もよくありませんでしたし…。都合のいいように思い込んだり勘違いをして、望んでいない方向に人生が進んでいたと思います』

    「そうか。それは大変じゃったな…」

    『先生のお祓いを受ければ、地縛霊化して苦しんでいるご先祖様が無事にあの世に帰還できて、僕の問題も解消されるのですよね?』

    「まあ、そういうことになる。また、霊障がなくなった暁には、そなたの身に起きる出来事はそなたの責任となる。いっそう励んで生きるのじゃぞ」

    『はい! ご先祖様のこと、よろしくお願いいたします!』

    まるで憑き物が取れたかのように、帰路につく青年の足取りは軽かった。

     

     

  • 先祖霊と守護霊

    新千夜一夜物語第2話:先祖霊と守護霊

    青年は再び陰陽師の自宅を訪ねていた。

    怪しいと思いながらも、陰陽師の言葉には重みがあり、嘘や狂言だとはどうしても思えなかった。きっと、今の自分に必要な話だと心のどこかで理解していたのかもしれない。

    「よく来たのお。今日は地縛霊が親族の子孫に取り憑いた場合にどうなるか? について話そう」

    『よろしくお願いします』

    小さく頭を下げる青年に、陰陽師は話し始めた。

    「取り憑かれた親族は、先祖霊の霊障として次の17個の障害がもたらされると考えるといい」

    『え、霊障って17個もあるんですか? それって、どんな障害なんですか?』

    「1.金銭の問題
    2.仕事運の問題
    3.精神の問題
    4.病気の問題
    5.事故・事件
    6.家庭の問題
    7.親子の問題
    8.異性の問題
    9.子宝の問題
    10.伴侶との軋轢
    11.親族との軋轢
    12.読心・暴力衝動。諸事に支障(物)
    13.予知・口撃衝動。諸事に支障(人)
    14.偶発的人的トラブル
    15.慢性的な痛みもしくは原因不明の危険な発作
    16. 輪廻転生のメカニズムへの帰還失敗(対象は故人のみ)
    17.天啓/憑依じゃ」

    『一口に霊障と言いますが、こんなにもたくさんの種類があるんですね…。ちなみに、取り憑かれた子孫は全部の霊障を受けているんですか?』

    「平たくいうとそういうことになる。ただし、人によって強い影響を受けている霊障が異なるのじゃ。もちろん、16は故人を対象としているから除外されるがな」

    『16は亡くなった人が地縛霊化しているかどうかを判断する要素ということなのですね』

    「その通りじゃ」

    『ひょっとして、僕の人生がうまくいっていない原因に、ご先祖様の誰かが子孫である僕に取り憑いているというのが理由だったりしますか?』

    「それは鑑定すれば、すぐにわかるぞ」

    『・・・それでは、鑑定をお願いしてもいいですか?』

    青年は紙に名前と生年月日と出生地を書き、陰陽師に渡した。

    『わざわざ生年月日と出生地まで書いてくれてありがとう。じゃがな、ワシは名前、特にふりがながわかればその人物の素性を鑑定できるのじゃよ』

    「え、名前の音だけでいいんですか?」

    「そうじゃ。”音”には音霊という大きなエネルギーが込められておると同時に、名前というのはその人物を最も表していることから、鑑定には名前の音だけで十分なのじゃよ」

    『なるほど、それはすごいです! 名前そのものに意味があるのではなく、ふりがなを頼りにその人物の情報にアクセスするような感じでしょうか?』

    「まあ、そういうことじゃ」

    『ちなみに、同姓同名の人の場合はどうするんですか?』

    「同姓同名の人物から鑑定の依頼があった時は、職業であったり、依頼者との関係を聞いておる。もっともそれは当人をより正確に特定するためのサポートみたいな役割としてじゃがな」

    『名前が読めない外国人の場合はどうするんですか? 音を読み間違えて伝えてしまいそうです』

    「厳密に言うと、たとえば友人の友人の奥さん御母親といった具合に、名前がわからなくとも依頼者から連なる一連の人間関係がわかればそれでも問題はないということになる」

    目を見開き、黙ったまま固まる青年。どうやら彼の理解の範疇を超えた話だったようである。

    「難しい話はさておき、結論としては名前がわからなくても問題ないということじゃな」

    『・・・理由はよくわかりませんが、ともかくすごいですね・・・』

    「今は話を先に進めるために詳しくは後日伝えるが、残念ながらそなたにも先祖霊の霊障が憑いておるな」

    『やっぱり、そうですか。・・・といいますか、どうせ取り憑くなら守護霊のように僕のことを守ってくれたり幸運をもたらしてくれたらいいのですが。迷惑な先祖ですね!』

    先祖のことよりも、自分の不利益に敏感な青年。死人に鞭打つとはこのことであろう。

    「そうはいっても、原因が家系の因縁じゃからのお。言い方を変えれば、そなたの
    人生がうまくいってなかったのは、そなただけのせいではないということじゃ」

    『どうして僕だけの原因ではないのでしょう?』

    「それはね、この霊障というのは、家系の因縁とも言われておるからじゃ」

    『家系ですか…』

    「その通り。人間がこの世に生を受ける際、当然父方母方の先祖の肉体的なバトンタッチが必要なわけじゃが、彼ら・彼女らの中には無事にあの世に帰還した者もいれば、この世への強い執着や未練を残して成仏できず、地縛霊化している者もおる」

    『それって大丈夫なんですか?』

    「もちろん、地縛霊化している先祖霊は苦しい思いをしている。それで子孫に救ってもらいたくてメッセージを送ってくることもあるんじゃ」

    『危ない場面で助けてくれたりとか?』

    「いや、残念ながらその逆で、それによって危ない場面が引き起こされることがあると思ってもいい」

    『ええ?! 先祖霊って我々を守護している存在なんじゃないんですか?』

    「いや、違う。そもそも守護しているのなら、そんな状況には陥らないはずじゃろう。危険な目にあうどころか、万事が順調に進むじゃろうて」

    『言われてみれば確かに…』

    「霊障を受けている人間は、見えない世界に興味を持つ者がほとんどじゃ」

    『でもそれって、世間ではそういうブームだからなのでは?』

    「もちろんそれもあるが、それでもスピリチュアルや見えない世界にまったくといっていいほど興味を持たない人間も世間には大勢おる。人数としてはそちらの人間の方がはるかに多い。逆に、それらの事象に興味を持つということは、ご先祖が子孫に霊障に気づき、解消してもらいたくて影響を与えているということもできるじゃろう」

    『ということは、唯物論者というか、現実主義というか、この手の話に全く興味がない人には霊障がないのですね?』

    「簡単に言うと、そういうことになる。霊障がある人間とない人間の比率は、おおよそ三七で、霊障のある人間の方が絶対的に少数派ということになるわけじゃ」

    『ということは、霊障がない人は人生で成功しやすかったりしますか?』

    「少なくとも、17種類の霊障による被害はないからの。そうと言えばそうとも言える」

    『なるほど、そうなんですか…。だとすれば、霊障がない人が羨ましいです』

    「まあまあ、そう言うでない。見えない世界を理解できないということは、見えない世界を楽しめないということでもあるんじゃよ」

    『なるほど。ちなみに、霊障はどうして起きるんですか?』

    「例えば、稲荷神社を熱心に拝んでいると、死後に”17憑依”(特に狐)の影響を受ける可能性が極めて高い。本物の神は人間一人一人の私利私欲に満ちた願い事などいちいち聞きはせん。そのような願い事を聞くのは、神ではなくその使い走りの眷属たちと決まっておる。奴らのやっかいなところは願いを叶える代わりに必ず代償を要求することじゃ。奴らがその代償として何を要求してくるとしても結果的に良いことと悪いことが同じくらいの程度で起こると考えておいた方がよい」

    『御利益の代わりにそのしっぺ返しで苦しみたくないので、もうお参りもお願い事もしないようにします』

    「それはそなたの自由じゃが、いずれにしてもそれは賢明な判断だと思うぞ」

    『ちなみにですが、どうしたら地縛霊化しているご先祖様を救うことができるんですか? 僕にも霊障があるということは、亡くなってから今もずっと苦しんでいる人? 魂? がいるんですよね?』

    「今もなお苦しんでいる先祖霊は、神事の一つである“先祖霊の奉納救霊祀り“によって救霊することができる」

    『あ、そうですか! やっぱりそういうことになりますよね! ちょっと用事を思い出したので今日はこれで失礼します!』

    慌てて逃げるように退室する青年。本当に用事があるのかはあやしい様子であった。

     

     

  • 輪廻転生と自殺

    【新千夜一夜物語第1話:自殺と輪廻転生】


    『僕は死んでもいいと思っていたのに、どうして声をかけたんですか?』

    「その質問に答える前に一つ訊きたい。そなたは、どうして死にたいと思ったんじゃ?」

    『これ以上辛い思いをして生きるくらいなら、今すぐ死んだ方がいいと思ったんです』

    「未来に対して希望よりも絶望の方が多いと思ったわけじゃな?」

    『その通りです! よくわかりましたね! 僕の心が読めるんですか? さすが陰陽師ですね』

    「ほっほっほ。じゃがのお。残念なことに、自殺してもラクになるとは限らないんじゃよ」

    『どうしてですか? この苦しみから解放されるんですから、少しはラクになるはずです!』

    「そなたは、輪廻転生という言葉を知っておるかの?」

    『言葉と意味はなんとなく知っていますが、そういうあやしいのは基本的に信じないようにしています』

    「まあ、信じなくても構わん。そういう説もあると思って聞いておくれ。そなたの質問の答えにもなるからの」

    質問の答えが聞けると思い、黙る青年。現金である。

    「ワシがみるに、死んだあとに魂は肉体から離れてこの世からあの世に一度戻り、休息してから再びこの世に生まれてくるのじゃ」

    『この世とあの世って、どういうことですか?』

    「この世とは今ワシらが存在している地球のことで、あの世とは魂だけが存在する場所と考えてもらっていい」

    『死んだら終わりだと思っていたのに、また生まれてこないといけないんですか?!』

    「その通りじゃ。残念ながらそなたの命は1回限りではなく一定期間続いていく。しかも、今の肉体での修行を全うせずに中途半端な形で放棄するようなことがあれば、次の人生は今回よりもさらに過酷になる可能性がある」

    『ただでさえ今の人生が辛いのに、次はもっと辛い人生になるということですか?! どうせ何度も生まれ変わるんだったら、修行が過酷にならなくてもいいじゃないですか!』

    「何度も無限に生まれ変わるというわけではなく、生れ変わる回数が決まっておるのじゃよ」

    『……ちなみに、何回あるんでしょうか?』

    「400回じゃ」

    『よ、400回も……。これは僕だけではなくみんななのですか? 僕はもう修行したくないので、せめて何回か免除できないんですか?』

    「この回数は誰しも例外はない」

    『マジですか……。でも、来世は猫になってのんびり可愛がられながら修行をしたいと思っていたんですけど、そのようなことは不可能なのでしょうか?』

    「残念じゃが、その通りじゃ。人間は400回生まれ、人間としてしか生まれ変わらない。つまり、そなたは来世も人間ということになる」

    『そ、そんな……。羨ましいな、猫め。ちくしょう……』

    猫には猫なりの大変な猫生があると思うが、ひどい言い様である。

    『じゃ、じゃあ、休息ってどれくらいですか?! 死んだらすぐに生まれ変わるんですか?!』

    「あの世に戻って再びこの世にやってくるまでにこの世の数え方で計算すると28年かかる」

    『なんだか微妙な数字ですね』

    「微妙かどうかはともかく、そなたの祖父母が亡くなって、そなたに孫ができる頃には地球のどこかにいるということじゃ」

    『なるほどです。そう思うとなんだか不思議な感じですね。僕のおじいちゃんが僕の孫の年代として生まれ変わっているなんて』

    「じゃが、ここに一つ問題がある」

    『とおっしゃいますと』

    「亡くなった人がみんなあの世に帰還できるとは限らないんじゃ。そなたは地縛霊という言葉を聞いたことがあるかの?」

    『はい。特定の場所に居座ることで心霊スポットを作り、近づく人に取り憑いたり害を与える恐ろしい存在ですよね? 僕は見たことがないのでよくわかりませんが』

    「ふむ、その認識は半分以上ハズレじゃのお」

    『え、僕の認識はそんなに違っていますか?!』

    「地縛霊というのは基本的に悪意がなく、必ずしも人に悪さをしているわけではないのじゃ」

    『でも、テレビ番組でカメラが突然使えなくなったり、写真に変な画像として映っているのを見たことがありますが』

    「あれはな、あの世に帰還できなくて苦しんでいるゆえの現象なんじゃ。気づいてほしい、あるいは助けてほしいから、ああ言った現象を引き起こしているのじゃよ」

    『そうだったんですか……。もしそうだとすると、なんだかかわいそうですね……』

     実際には、呪いのように特定の条件を満たした人物の念が生きている人に害を与えることもあります。

    「じゃから、そなたが今ここで命を絶ったとして。この世に未練や執着が残っていたら次の人生が過酷になるどころか、魂のままこの世に留まり続けることになってしまうというわけじゃ」

    『でも仮に魂だけになったのだから、それはそれで行きたいところに自由に行けるんじゃないですか?』

    「そうではないぞ。地縛霊の行き先は二つに別れる。一つは親族や子孫に憑く」

    『僕には直系の子孫がいないので、両親か親族の子孫の誰かに憑くんですかね?』

    「ふむ。では、仮にそなたが親族の子孫の誰かに憑いたとして、その人が亡くなったらどうなると思う?」

    『え? 僕の魂もその人と一緒にあの世に帰還するんじゃ?』

    「いや、それは無理じゃな」

    『どうして無理なのでしょう』

    「それはな、自力であの世に還る権利があるのは死んだ瞬間の一回きりだけだからじゃ」

    『えっ、それじゃ一度あの世に戻り損ねたら自力であの世に戻ることはできないのですか』

    「そのとおり。仮にそなたが憑いていた人間が自力で親が無事にあの世に無事帰還できたとしても、残念ながらそなたの魂はこの世に留まったままじゃ」

    『そしたら、今度はどうなるんですか? また違う親族の子孫に僕は憑かなくちゃいけないんですか?』

    「そう、そのとおりじゃ」

    『でも、もし親族が全員この世からいなくなってしまったら……?』

    「亡くなった人間に子孫がなく、縁者が誰もいない場合は、残念ながら死んだ土地に憑くことになる」

    『だから、特定の場所に地縛霊は居座っているんですね……』

    「まあ、そういうことじゃな」

    『じ、じゃあ、地縛霊にならずに無事にあの世に帰還するにはどうしたらいいんですか?』

    「まずは死ぬ瞬間にこの世に思いを残さぬ生き方をすることじゃ。簡単に言ってしまえば、毎回の人生において悔いが残らぬように、魂の修行に専念することが大事になってくるというわけわけじゃな」

    『ということは、僕が今まで苦しい思いをしてきたのも、修行なのでしょうか?』

    「そういうことじゃ。人生には楽も苦もある。楽ばかりに見える人だって陰で苦しい思いをしているかもしれん。逆に、苦しみしかないと思っているそなたの人生においても、捉え方を変えれば楽や幸せがあるはずじゃ」

    『いえ、それだけは絶対にないです』

    即答かつ完全否定。取り憑く島もない。

    「今のそなたにはわからないじゃろうが、いずれの体験もそなたにとってかけがえのない“魂磨き”になっているということを悟る日が来るかもしれん」

    『“魂磨き”ですか。そんなことなんて別にしたいとは思いませんが、地縛霊化してこの世に留まり続けるのもイヤですね』

    「まあ、そうじゃろうな」

    『ちなみに、僕が地縛霊化して親族の子孫の誰かに取り憑いたら、その人はどうなるんですか?』

    「いい質問じゃ。それは次回に話そう」

  • 運命の邂逅

    新千夜一夜物語第0話:運命の邂逅

    『もうこれで終わっていい。天命を全うできないなら、生きている意味がない。もしも本当に神がいるなら、こんな命はもういらない。お前らの好きにしろ!』


    青年は空へ向かって叫んだ。もっとも、命を捨てたいという思いがあっても、そこは彼が命を落とす要素はまったくないような参拝客がいない古びた神社である。

    「ほっほっほ。では、そうさせてもらおうかの」

    『うわあ、だ、誰ですか?!』

    誰もいないと思っていたはずなのに、恥ずかしい場面を見られてしまった青年。
    彼に声をかけたのは、あやしい格好をした初老の男性である。

    「ワシか? ワシはしがない陰陽師じゃ。あの世とこの世の仕組みを把握し、お主のように努力をしているのに報われず、命をかけてでも天命を生きたい人間をサポートする存在じゃ」

    『確かにそんな生き方をしたいとは思っていますけど、初対面でいきなりそんなことを言われても、あやしすぎて信じられませんよ』

    「そうかいそうかい。信じるか信じないかはそなた次第じゃ。ただ、どうせ死を選ぼうとしておるのなら、命を絶つのはワシの話を聞いてからにしてもいいであろう?」

    陰陽師を名乗るその男性の言葉には心に直に届くような力強さがあり、その瞳には揺るぎない自信がみなぎっていた。発言はあやしくとも、人を信じさせるような不思議な力があった。

    『・・・わかりました。どうせ暇でやることもありませんから、あなたの話を聞いてからどうするかを決めます』

    「そうかそうかでは、ワシの家で話をしよう。すぐそこじゃ」

    陰陽師を名乗る男の家に向う道すがら、青年が訊ねた。

    『とりあえず、あなたのことは先生とお呼びすればよろしいでしょうか?』

    「なんでもいいが、そなたがそう呼びたいと感じたならそうするがいい」

    青年が案内されたのは高層マンションの一室であった。あやしい男性のイメージとは裏腹に、お札やパワーストーンや神棚もない。掃除が行き届いた綺麗な洋風のリビングだ。

    『陰陽師なのに、とても現代的でまっとうなお部屋なんですね…』

    「目に見える物質など、目に見えない存在に対しては何の影響力もない」

    『えっ、そうなのですか。おっしゃっていることが、よくわからないのですが』

    「まあ、そうじゃろう。これからいろんな話をしていくから、少しずつ理解したらよい」

    こうして、生きる希望をなくした青年と怪しい陰陽師の対話が始まった。