カテゴリー: 小説

魂には4つの種類があり、永遠の世での職責を果たすため、魂磨きの修行の場であるこの世に400回に渡る輪廻転生を繰り返している、という前提の基、この世の出来事や人物が取った行動を対話形式で解説しています。

  • 新千夜一夜物語 第11話:桜を見る会とGSOMIA

    青年は激怒していた。

    先日ニュースで知った“桜を見る会”に対してである。首相が税金を私利私欲のために使ったように感じられたからである。これでは、消費税を増税しても意味がないではないか。何のための増税だったのか、と納得がいかなかった。

    青年は居ても立っても居られなくなり、陰陽師の元を訪れるのだった。

    『こんばんは。今日は政治について教えていただけませんか?』

    「そなたが政治について質問してくるとは。それは、珍しいの」

    『そうですね。真偽の確認が難しく、なおかつ僕が影響を与えにくい領域だと思っていたので、あまり関心はありませんでした』

    「それは個人の自由だとは思うが。で、政治の何について知りたいのかな?」

    『“桜を見る会”についてです。政治のトップである人間が、税金を私利私欲のために浪費しているのに腹が立ったのです』

    「なるほど。で、そなたは、“桜を見る会”に対してどのような点が問題だったと考えているのかな?」

    『いろいろありますが、“公的行事の私物化”と“税金の無駄遣い”が主な問題だと思っています』

    陰陽師はあごに手を添えて一瞬だけ黙考し、口を開く。

    「ちなみに、“桜を見る会”は1881年に国際親善を目的として皇室主催で行われた“観桜会”が始まりということは知っているかの?」

    『そこまでは知りませんでした。しかし、“桜を見る会”はそんなに前から続いている行事なのですね』

    「1995年は阪神・淡路大震災を理由に、2011年は東日本大地震を理由に、2012年は北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応を理由に中止したが、1952年からは吉田茂が総理大臣主催の会として“桜を見る会”に名前を変えて復活し、基本的には毎年開催されておる伝統的な行事なのじゃよ」

    青年は黙ってうなずき、続きを待つ。陰陽師は青年の意思を汲み、先を続ける。

    「この“桜を見る会”の会費は税金で賄われているものの、きちんと予算に計上されている、いわば公式行事だということは、理解できたかの?」

    『予算に計上されていることであれば、税金が“桜を見る会”の会費として使われることには納得できます。しかし、招待客は安倍首相を支持する組織や後援会といった団体が多く、招待者を選ぶ基準も不透明だという主張もあります。会の本来の趣旨である功績者をねぎらうためというよりも、もはや安倍首相個人の“桜を見る後援会”みたいなものではないでしょうか?』

    「とはいえ、安倍首相が主催している以上、彼の関係者が増えていくことは別におかしいことでもなかろう。例えば、そなたは以前に勤めていた会社の人事評価が完全で納得できるものだと思うかな?」

    『いえ、まったく思いません。不透明でいい加減だと思っていました』

    大きく首を左右に振りながら、青年は答える。陰陽師は小さく笑ってみせた。

    「そうじゃろう。百歩譲って、仮に誰もが納得するような招待基準を作ったところで、最終的に人間の主観が入る以上は、何らかの忖度が入ってしまうのは仕方ないと思うがの」

    『それは確かにそうですが・・・』

    「それにじゃ、彼の後援会のメンバーだけを招待して他の人々を除外していた、ということならまだしも、秘密裏に行われたクローズドな会ではない以上、私物化という表現をするにはいささか過剰な気がするがの?」

    『確かに、私物化というのは言い過ぎかもしれません。とはいえ、今回の会費は本来の予算の三倍近くになっているそうじゃないですか。しかも、自分の資金を使って開催していれば公職選挙法に違反することを、税金を使うことでうまく回避しているという批判も聞きます。見方によっては公的行事を私物化しているようなものではないかと』

    「今度は税金の使われ方について、じゃな」

    『はい。参加者の人数を絞ればもっと会費を少なくすることができたでしょうし。しかも、“テロ対策”という名目で会費がかさばったという話もありますが、実際は手荷物検査すら行われず、何に使われたかも不明。結局はほぼ飲食代だったという話も聞きます』

    「では、そなたはどのようにすればよかったと考える? 一つの情報に対して問題提起をするのも大事なことじゃが、それに対する解決案を提示できないのでなければ、政府のやることに何でも反対しておきながら、一向に対案を出そうとしない野党の連中とあまり変わらぬ話になってしまうと思うが」

    青年はうなりながら首を傾げる。

    『そこなのですよ。僕は政治家になったことがありませんし、政治にはお金がかかるとよく言われているものの、実際お金がどう動くかはわかりません。ただ、前夜祭の会場がホテルニューオータニで、しかも5,000円もする高級お寿司が振る舞われたそうじゃないですか。高級なお寿司がほんとうに5,000円で食べられたのかどうかも問題ですが、それよりも年々人数が増えているのですから、もう少し安い会場で前夜祭ができたのではないかと思うんです』

    「つまり、何をするにしても、もっと庶民が納得するような金額が望ましい、ということじゃな?」

    『その通りです。明細が出せない理由があるのは百歩譲るとして、企業努力ではありませんがそうしたことができたのではないかと』

    「そなたの言い分をじゅうぶんに理解したうえで、あえて回答するとすれば、政治に関わるお金の問題については、“政治家にとっての1万円と、世間一般の国民にとっての1万円の感覚は違う”と基本的な概念を念頭に置くといいと思うがの」

    『どういうことでしょうか?』

    初めて聞く考えに、青年は姿勢を正して真剣な表情になる。

    「首相や大臣ともなれば、他国のトップ層と接したりすることもあるし、県知事や県議といった地方の代表とも会合するものだが、その際に、国家の明暗を左右する話し合いを、隣の部屋から大きな騒ぎ声が聞こえてきたり、仕事の愚痴を言っているような店でできると思うかの?」

    『もちろん、それはおかしいと思います。“壁に耳あり障子に目あり”ではありませんが、逆にこちらの話が相手に聞こえるという問題も想定できるわけですから、そんな場所ではなく、話が外に漏れない、静かで落ち着いた場所でやっていただけたらと思います』

    苦笑しながら答える青年に、陰陽師は小さく頷いて見せる。

    「確かに、日々日常生活を送るにあたり、大変な思いをしながら生活している人たちからすれば、政治家のお金の使い方に対して納得がいかないと感じることがあるのかもしれん。じゃが、政治家の一回の会食が一万円かかるとした場合、世間一般の国民が通う一回3,000円程の居酒屋であれば三回ほど行けてしまうような計算になるとしても、そこでもう一度考えてみるべきは、話されている重みの違いではないのかの?」

    『なるほど。たしかに、そのあたりはお金で換算できない問題なのかもしれませんね。仮にその内容が僕には見当もつかないものだったとしても、たしかに、おっしゃる通りかもしれませんね・・・』

    青年は苦笑し、宙を眺める。陰陽師はテーブルに飛び乗ってきた猫を優しく撫で、口を開く。

    「ともかく大事なことは、議会制民主主義政治の原則として、選挙によって衆参の国会議員を選ぶ権利は国民の側にあるとしても、一旦選んだ国会議員が犯罪などに手を染めぬ限りは、具体的な国家運営を彼らに委託するしかない、という原則をよく理解しておくことじゃ。よって、今回の日韓の問題なども、自分の選んだ政党、議員がこの問題をどう考え、どのように行動したかをきちっと理解し、それを次回の選挙に反映させるという姿勢が大切となってくるわけじゃな」

    『そういえば、魂の階級の解説(第4話参照)の際に、何らかの理由で二国間に利害の反する問題が起こった場合、基本的に話し合いを繰り返して解決しようとしているのでしたね。武力、すなわち戦争は最後の交渉手段だと』

    「そう。世間一般の国民の手の及ばぬ領域で厳密な話し合いが行われ、そこで大事な話が決まる。そのおかげで平和が保たれていると考えることもできる」

    グラスに注がれた水を一口飲み、陰陽師は続ける。

    「少し話が変わるが、官房長官が3,000円のパンケーキを食べたことに対する批判もあったようじゃが、国を動かしている人間はそれだけ多くの仕事を成し遂げており、同時に多くのお金を動かしているとも言える。分刻みのスケジュールと言っても過言ではない状況の中、息抜きは必要ではないかの?」

    『そう言われるとそうですね。確か、プロボクサーの具志堅さんも、世界大会で負けた理由が、“大好物のアイスクリームを食べられなかったから”と言っていたことを思い出しました。当時はたかがアイスクリームと思いましたが、今になって考えてみると、パフォーマンスを発揮するためには息抜きやスウィーツも必要なのでしょうね』

    「何を食べるかは個人の自由じゃから、気になるならそのパンケーキを食べてみるといい」

    『機会があればそうしてみます』

    お互い、あまりスウィーツに興味がないことを知ってか、二人で笑い声をあげる。

    「ついでに言っておくが、前夜祭の食事代についてはホテルの宿泊客の中でのパーティーに参加した人に対しての5,000円であって、“桜を見る会”当日の参加者全員にかかったわけではないぞ。料亭のように一人一人が席について食べるわけではないのじゃから、人数分ぴったりの食事を用意しないというのは立食パーティーの常識でもあるので、そこらあたりのこともよく理解しておくことじゃ」

    青年は神妙な表情のまま黙ってうなずく。陰陽師は青年が続きを待っているのを察して続けた。

    「さらに言うと、TV局の幹部連中などは、毎年前夜祭にも当日の“桜を見る会”にも招待され、実際に出席しているわけじゃから、参加人数や予算がどれくらいかかっているのかはわかるはずなのに、そのあたりのことについて口をつぐんでいるのも解せないといえば解せない話なのじゃがな」

    『マスコミ関係者や野党には大陸系の人も少なくないと聞いたことがありますが、詳細を知っていたとしても、そこまでして政権を打倒したいのでしょうか?』

    「それ以前の問題として、今の自民党独り勝ちの状態に、まともな政治的議論で立ち向かえる野党が存在しないということの方が問題だと思うがな」

    『いずれにしても、政治は奥深いので、よくわからないです・・・』

    ばつが悪そうにする青年。陰陽師は青年を励ますような柔らかい笑みで口を開く。

    「今回の話でもそうじゃが、世の中の出来事を俯瞰するにあたり、大事なことは、常に物事を大局的な視点で捉えるという姿勢じゃ」

    『大局ですか。確かに、視野が狭かったと反省しています』

    「それともう一つ。この世の物事には、おしなべてタイミングというものがある。今回の問題が公職選挙法に抵触する可能性のある問題だとしても、話し合うべき問題が山積している国会を空転させてまで、このタイミングで取り上げる首相批判をするべき問題なのかという疑問はついて回ると、ワシは思うがのお」

    青年は眉間にしわを寄せて黙っている。政治に関しては本当に明るくないようだ。

    「たとえば、昨今の国際情勢一つ見てみてもアメリカ、韓国、北朝鮮、中国、そして中国が同一の国家だと主張している香港、台湾の問題等、文字通り、世界の行く末を左右しかねない大事な時期であることは言うまでもない」

    『直接間接の問題はあるとしても、そんなに複数の国と、日本は今問題を抱えているのですか』

    陰陽師はアジアの地図を広げながら口を開く。

    「まずは韓国について説明するが、今回の日韓関係悪化の引き金となったと韓国が主張しているのは、日本政府が韓国に対して“フッ化水素”、“フッ化ポリイミド”、”レジスト“といった半導体などの材料となる3品目の輸出制限を強化したことと、韓国を”ホワイト国“から外したことにある」

    『韓国が“ホワイト国”から外されることがそんなに気に食わなかったのでしょうか? あと、それらの3品目はどういった意味で重要なのでしょうか?』

    「先に3品目について説明すると、それらは半導体といった電子部品の製造に必要不可欠なものである以上、ミサイルなどの先端兵器の開発に使われる可能性もあるのじゃが、それが韓国から第3国に流出している可能性があると日本側は睨んでおるわけじゃ」

    『なるほど。日本の技術が第3国に軍事利用される可能性があるということなのですね』

    「使用使途に疑念のないことが信頼できる国、すなわち“ホワイト国”にはそれらの輸出の制限をしていなかったのじゃが、処々の事情から、韓国に対してそれらを無条件に輸出することは危険だという判断を日本が下した、韓国への3品目の輸出制限をせざるを得なくなったというわけじゃな」

    『ところが韓国としては、信頼関係を疑われたということで、その報復として日韓GSOMIAの破棄を通告して来たという流れになるわけですね』

    「そのとおりじゃ」

    『ところで基本的な質問なのですが、そもそも日韓GSOMIAとは具体的にどのようなものなのでしょうか?』

    「たとえば、北朝鮮がミサイルを発射した場合、日本と韓国がお互い取得した秘密軍事情報を共有することを目的として結んだ軍事協定のことじゃ」

    『その協定があったおかげで、両国が自国だけでは知りえない情報を補完し合っているわけですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    「もちろん、有事の際の韓国軍の統帥権を今もアメリカが保持していることも含め、GSOMIAはアメリカにとっても東アジア安全保障上、なくてはならないものなのじゃ」

    『なるほど』

    「そこまで話を広げなかったとしても、万が一北朝鮮から日本に向けてミサイルが発射された場合、韓国と軍事情報を共有していることで、米軍共々圧倒的に早く軍事的な対応が可能になるというメリットが存在する」

    『なるほど。ミサイルの下降ポイントや着弾地点が事前にわかれば打ち落としやすくなるでしょうから、韓国からの情報を得られないと危険度が増すといった側面も間違いなくありますね』

    「ただし地図を見ればわかるように、日本以上に北の脅威にさらされているのは、韓国の方じゃ。周辺を合わせれば2000万人近くの人が暮らすソウルから38度線、つまり北朝鮮の国境までわずか数十キロしか、離れておらぬ。それだけではないぞ。このソウルの真ん中を流れる漢江の河口は、北朝鮮と直接つながっておる」

    『そう言われれば、そうですね』

    「よって、ミサイル攻撃も、陸軍の進攻も、韓国は日本と比べ物にならぬほど、北朝鮮の脅威と直面しておるわけじゃ」

    『つまり、GSOMIAは、かならずしも日本のためだけではなく、それ以上に韓国自身のためにあると』

    「まあ、簡単に言うと、そういうことじゃ」

    青年は神妙な表情で何度も頷く。青年の様子を見て微笑みながら、陰陽師は口を開く。

    「だいぶ回り道をしたが、話を“桜を見る会”批判に戻すと、このような時期だからこそ、一国の意思決定権者である首相が、冷静な状況判断をしたり、適切な指示を出せるかどうかが非常に重要となってくる。にも関わらず、そのような問題をそっちのけにして、挙げ足取りや重箱の隅をつつくような泥仕合をしかけて内閣を倒そうとしている野党の状況について、そなたはどう思うかの?」

    『今までの話を聞く限りでは、与党野党で泥仕合をしている場合ではないと思います』

    そう言い、青年は大きく息を吐く。

    「国民はどうしても日常の家計といった日本経済に目がいってしまうものじゃが、政治には内政と外交という二つの側面があり、安倍首相はこうした複雑な国際情勢を視野に入れつつ、韓国に対して彼が最良と思う対策を練ったり、山積された様々な国内問題にも日々取り組んでいるのじゃよ」

    『そうなのですね。僕の日常生活に直接的に関係しないとの理由から、今まで外交のことなど、ほとんど関心を持ったことがありませんでしたが、これからはもう少しそのあたりの問題にも目を向けるようにしてみたいと思います』

    話を整理しているのか、青年はしばらく黙ったままである。やがて顔を上げて口を開いた。

    『ちなみにですが、安倍首相の魂の階級はどこなのでしょうか?』

    「安倍首相は“1:先導者”階級じゃよ」

    さらっと告げる陰陽師の言葉を聞き、青年は目を見張る。

    『失礼ですが、別の階級だと思っていました』

    「彼の祖父である岸信介、そして大叔父である佐藤栄作以外、歴代の首相がすべて2-3であることを考えると、たしかに、国のトップとしてはめずらしい属性ではあるということもできるがな」

    『やはり、そうなのですね。首相である以上、2-3だとばかり思っていました』

    陰陽師の意外な言葉に、驚く青年を見ながら、陰陽師が口を開いた。

    「世界の非常識ではあるとしても、日本の一部上場企業の社長はそのほとんどが“1:先導者”階級だという話を覚えておるかの?」

    『はい』

    「そう考えれば、安倍首相が1:先導者”階級であったとしても、それほど不思議な話ではない。それどころか、岸信介や佐藤栄作が長期政権だったことから考えてみても、“1:先導者”階級が国のトップを務めることは、少なくとも我が国では、悪いことではないと思うのじゃがな」

    『なるほど、そのように考えてみると、何か“腑に落ちる”ような気がしてきます』

    陰陽師に言葉に、大きく頷く青年。

    「ちなみに、さきほど話題に出た“桜を見る会”の費用が帳簿に記載されていなかったということで、立憲民主や共産などの野党が立ち上げた追及本部のほぼ全員が2−4、転生回数が200回台の“4:ブルーカラー”階級ということも覚えておいた方がいいじゃろうな」

    『えっ、4の人も国会議員になっているのですか』

    ふたたび、眼を大きくする青年。

    「前にも話したように、魂4の人間は、この世では、職責として社会の下支えをしているわけじゃが、転生が200回に近づくにつれ、“学業”が突出するという特徴を帯びるようになる。よって、2-4の中でも優秀な者は、一流大学を卒業し、弁護士資格を取得することのみならず、その職歴を足がかりとして、国会議員にまで上り詰めることも可能となるわけじゃ」

    『なるほど』

    「さらに、大局的な見地には欠けるものの、正義感、倫理観が強い、という魂4の特徴についての話を覚えていると思うが、その結果、彼らは弁護士になると、いわゆる“社会派弁護士”になる可能性が極めて高く、国会議員としては、左派政党の主要メンバーとなる可能性が極めて高くなるというわけじゃ」

    『つまり、旧社会党系政党の左派や共産党の議員になるわけですね』

    あらためて目を大きくする青年を横目に見ながら、陰陽師は話を続けた。

    「例外的に、自民党の議員の中にもごく少数の2-4がいる問題はさておき、大筋の話としてはそういうことになる」

    『しかし、政治信条からも魂の階級がわかるなんて、とても興味深いですね』

    「それだけではない。このような構図は、“選ばれる者”だけではなく、選ぶ側の一般国民の側にも成り立つわけじゃから、選挙を軽視することには大きな危険が隠されているということもつながるわけじゃ」

    『とおっしゃいますと』

    「選挙で風が吹く、という言葉を知っておるかな」

    『はい、一応は』

    「あれなども、ワシに言わせれば、ちょっと気の利いたスローガンに、参加意識が高い反面、大局的見地に欠ける魂4が踊らされた結果起こる現象ということになる」

    『なるほど』

    「それ故、代議員、国会議員に選出された議員が何をしようと、彼らを選んだ側にも責任が生じるという自覚を持つことはもちろん、各人がほんとうに政治を変えたいと思うのであれば、民主主義政治において政治に影響を与えられる唯一の手段である選挙に行くことは常識中の常識となる」

    『政治家に文句を言いたいのであれば、政治について真剣に考えて身近な人と話し合い、投票率を100%に近づけることが大事なのですね』

    「その通りじゃ」

    『ただ、日本では会社内などで政治の話をするのはタブーということが暗黙の了解になっているような気もするのですが・・・』

    「そのあたりは、我が国の特殊な建国事情が影響しておるのじゃろうが、グローバル化が進む現在、いつまでもそのようなことを言っている場合ではないとは思うが」

    『そうはいっても、とりあえず、どうすればいいのでしょうか』

    「そうじゃな。とりあえず、気心の知れた友人などと様々な政治的問題について意見交換をし合うところから始めてはどうじゃな?」

    『そうですね。これからは、努めてそのような話題を友人たちと語り合ってみようと思います』

    「ただし、その結果、誰を選ぶかという問題の方がもっと重要だということをくれぐれも忘れんようにな。特に選挙は、様々な耳あたりのいいスローガンに踊らされた魂4によってどんな“風が吹く”かわからぬのじゃから、我々魂1~3の一人でも多くが、大局的な見地から物事を考え、清き一票を投じることはものすごく意義のあることなのじゃ」

    『わかりました。肝に銘じておきます』

    青年は黙って頷く。こと政治に関しては何も言えないようである。

    「有権者である国民にとってわかりやすく、国民生活の問題点にフォーカスしてマニフェストを作成することはおおいに結構。ただ、その政党なり、人物なりが当選後、本当にマニフェストを実行できるかをしっかりと見極め、もし言動に不一致があるような場合には、次回の選挙でそのような政党なり人物を当選させないことが民主主義の原則だということをよく肝に銘じておくことじゃ」

    『そう言えば、先日の衆議院選で消費税0%を掲げ、障害者を議員にした立候補者がいましたね』

    「ああ、あの人物じゃな。彼は“3:ビジネスマン”階級であると同時に、芸能関係(2−3−5−5・・・2)に適した人物じゃから、民衆に訴えかけるのは向いているかもしれんな。もっとも、頭は2ではあるが」

    『なん・・・ですと。いずれにしても、演説でいろんな人を惹きつけていることには納得です』

    「ただし、魂の属性や親近性からいうと彼はかなり急進的なタイプで、歴史上の人物に比定すると坂本龍馬の小型版ということができる。先ほども、タイミングが大事という話をしたが、坂本龍馬の場合、黒船来航から開国、明治維新という混沌とした時代に活動したからこそあのような影響力を発揮できたわけじゃが、今の時代にあのような人物の出番があるどうかは、はなはだ疑問と言わざるを得ない」

    『なるほど。現代の政治ではそこまで急進的な思想は必要ないというわけですね』

    「そういうことじゃな」

    何度も頷く青年を見、陰陽師も微笑みながら頷く。

    すっかり夜も更けてきた。まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、今日はここで切り上げよう、そう心に決めると、青年は陰陽師に丁重に謝意を伝えたうえで、帰り支度を始めた。

    「さてさて、今日もすっかり遅くなってしまったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    立ち上がり、深く頭を下げて退室する青年。
    これからは政治に関する情報も取り入れていこうと反省するのだった。

  • 天命と転生回数②

    新千夜一夜物語第10話:天命と転生回数

    『今の時代、科学やITといった理系の分野の方が重要視されている気がしますが、200回以上の文系の人が世の中の影響に与えている分野というものは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?』

    「もちろん、200回以上の人物にも一割くらいは数学者や医者といった理学系もおるわけじゃが、スポーツ選手・芸能人・芸術家などは当然のこととして、面白いのは板前やコックといった、いわゆる料理人じゃ。彼らは先程話した2(3)-3という例外を除き、皆2(7)-3という大山に位置しておる。三ツ星レストランのシェフは言うに及ばず、そこら辺にある大衆食堂のコックも皆この属性を持っているわけじゃな」

    『なるほど』

    「料理などは女の仕事ぐらいに思っておるかもしれんが、こと職業となると、動植物の尊い生命をいただくことになる食を司るということは、実は、非常に大事な、そしてとてもレベルが高い職業というわけじゃな」

    『確かに、料理人は文系の領域という感じがしますし、食物連鎖の頂点に立つ我々人間は、他の生き物の命をいただくことで命を長らえていますものね』

    意気込んでそう話す青年の言葉に小さく頷くと、陰陽師は言葉を続けた。

    「ところで、おぬしは日本の食文化の水準が高いということを聞いたことがあるかの?」

    『あります』

    「実は、食の有名人というのは今説明したように大山の270回台となるわけじゃが、日本人の“3:ビジネスマン階級”の割合が世界に比べて13%ほど高い」

    『ということは、20%に13%をたして、魂3の人が日本には33%もいるわけですか』

    「しかも、それだけではない。同じ魂3の中でも我が国の魂3は2期と3期が圧倒的なことから、日本の食文化のレベルが高いのもある意味当然といえば当然ということになる」

    『なるほど』

    「それだけではないぞ。この特徴は昭和40~50年代の、いわゆる、QC活動などにもいかんなく発揮された。全世界的にみて工場労働者は圧倒的に魂4が多いのじゃが、日本ではそうではなかった。流れ作業で働く彼らの中から様々な提案が生まれ、それが世界に名だたる生産技術の礎になっていったわけじゃ。産業革命を成し遂げたにもかかわらず、工場で働く労働者を監視するためにスーパーバイザーをつけ、そのスーパーバイザー達を見張るためにスーパー・スーパーバイザーをつけなければならなかったイギリスやアメリカと違い、日本の場合は、脳を持った働きアリが多数工場労働者の中に混在していたというわけじゃな」

    青年を横目で見ながら、陰陽師が話を続けた。

    「以前我が国の魂1にはほぼ1-1しかいないと言ったが、これなども上場企業のトップが2-3の武将という世界の常識からすれば非常識ということになり、これが欧米のトップダウンに対し、ボトムアップという日本独特の企業風土を生み出す源泉ともなっておるんじゃ」

    『つまり、魂の属性や転生回数の割合というものは国によって異なるものなのですね! 興味深いです!』

    「割合の違いは国にとどまらず、たとえば各県によっても異なったりする。一例を挙げるとすれば、京都などは人口の9割近くが2期(200回台)の“4:ブルーカラー階級”によって占められておる」

    『9割って、ほとんどじゃないですか!』

    「京都と魂の階級4の話は長くなるので、また別の機会に話すとして、もう少し転生回数と職業の関係について説明をしておくとしよう」

    陰陽師はグラスに注がれた水を飲み、口を開く。

    「たとえば、各省庁のキャリアの国家公務員の99.9%は2(7)−3じゃし、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教のいわゆるキリスト教三兄弟を等含め、伝統・新興の別なく宗教の開祖以外の坊主はそのほぼすべてが2(8)-3となる」

    『宗教の開祖のほとんどは1(7)−1すなわち、転生回数が300回台の“1:先導者”階級なのでしたね。僕は2(3)なのでスピリチュアルには縁があるものの、坊主になる天命ではないのですね』

    「端的に言うと、そういうことになるな。じゃから、くれぐれも何かに感化されて出家したり、仏道の修行を始めようなどと考えたりせんようにな」

    思い当たる節があったのか、青年は一瞬体を硬直させる。そんな青年の様子を見、微笑みながら陰陽師は口を開く。

    「もう一つ例を挙げると、1-1以外の第1期(301〜400回)の魂を持つ人間には、変人が多いという特色もある」

    『変人ですか・・・。大学4年生になると、進路も決まって卒業に向けて人それぞれ自由な行動を取っていくと思うので、なんとなくわかるような気がします』

    過去の自分の体験を思い出してか、青年は苦笑して頭をかきながら言った。

    「しかし、これらも魂の修行の追い込みの時期に指しかかっている第一期の人間の特徴を現世的に見るとそう見えるという意味に過ぎないことは先ほど説明した通りじゃ」

    『はい、きちっと了解しています』

    青年は、一つ頷いてみせた。

    『ところで、3期の人たちは大学生でいうと2年生ですよね。サークルにも単位の取り方にも慣れて、ある意味もっとも大学生活を満喫している時期とったところでしょうか?』

    「3期の人物は世の中に革新を起こす人が多いことも含め、現世的にみてもとても勢いがある。その結果、現世利益に走る傾向の人間が多い。その反面、少し失礼な言い方をすれば少し品がなかったり、世間から白い目で見られがちだったりもする」

    『猪突猛進みたいな印象ですね。欠点があるかもしれませんが、それを補って余りある世の中への影響力があるような』

    「もちろん、その前提として人間は多面体のようなものじゃから、転生回数という側面から見るとそのような理屈が当てはまるものの、たとえば頭の1/2から見ると一概に当てはまらなかったりする。それにじゃ、何度も言うが、これらの特徴を良し悪しで考えることは禁物じゃ。現世的にどのような特色を有していようと、それらはみな各々の転生回数で最適な魂の修行をするために必要な体験なのじゃからな」

    『そうですね。全く記憶にございませんが、僕にも3期だった人生があったんですもんね』

    突然、青年は難しい顔をして黙り込む。陰陽師は微笑みながら青年が口を開くのを待つ。

    『ところで、400回の輪廻転生を終え、魂の修行が完了した後、我々の魂はどうなるのでしょうか?』

    恐る恐る口を開く青年。

    「最後にその話をして今日は終わるとしようかの」

    陰陽師の視線を追って青年が時計を見ると、23時を過ぎていた。

    「魂の誕生から400回の輪廻転生を経ると、その魂は永遠の生命を取得して“セントラルサン”の元でそれぞれの職責を担う。この職責というのは鑑定結果のように四つの階級に分かれておる」

    『“セントラルサン”と永遠の命についてはよくわかりませんが、あの世でもこの世と同じく魂1~4という階級がついて回るのですね。ただし、それらは上下関係ではなく、あくまで役割の違いと』

    「というよりも、我々の魂は、それぞれ魂1~4に見合った職責を果たすために、“カミ“によって作り出されたと考えた方がわかりやすい。そもそも3次元でないわけじゃから、永遠の生命においてどのような職務があるのかはともかく、明確な目的をもって各々の魂が生み出され、400回という輪廻転生を経て独り立ちした魂が、“セントラルサン”の元でそれぞれの職責を担うという仕組みなわけじゃな」

    小さく頷く青年を横目に、陰陽師は話を続けた。

    「さらにじゃ、正しく理解しないとならないのは、あの世と“セントラルサン”がまったく別の世界/領域だという点じゃ」

    『永遠の世とあの世が違うということはなんとなくわかりましたが、それじゃあの世で我々は何をしているのでしょう?』

    首を傾げながら青年は言った。

    「まず基本的な問題として、あくまでもあの世で魂は誕生する。さらに大事なことは、400回の修業が終了するまで、魂の本体は常にあの世にいて、その“分け御霊”みたいなものがこの世とあの世を行き来するという点じゃ。また、あの世とこの世を機能面で分類すると、この世が魂の修行の場という、スポーツジムのような世界だとすると、あの世は修行を終えた魂の休息場所であるとともに次の転生に向けた計画を練る場所といった側面を持っていることになる」

    『なるほど。だから、あの世で28年間休んでから、ふたたびこの世に転生するのですね。トレーニングも休まずに続けていたら逆効果でしょうし』

    「もちろんあの世は3次元のこの世のように過去から未来に向けて時間が一直線に流れているわけではないから、一概に時間的な表現は難しいとしても、この世を基準とした計算ではそのようになる」

    さらに陰陽師は、言葉を続けた。

    「それともう一つ。伝統・信仰宗教が想定する“天国”とか“極楽浄土”という言葉には、“善“以外のものは存在しないイメージがあるが、実際の”セントラルサン“の存在する世界/領域はそうではない。同一の魂同士が集まっているあの世と違い、”セントラルサン“の存在する世界/領域では、たとえば、1-1-1-1-1という数字を持った魂1~4が同一チームを構成して、共通の職責をこなしている。同様に、1-1-1-1-2という数字をもった魂1~4は別チームとして他の職責を果たし、1-1-1-2-2という数字を持った魂1~4は魂1~4で、また別の職責を果たしているといったイメージとなる。このような検証に基づけば、血脈ではなく”霊統のご先祖“や”ソウルメイト“といった問題も、この分類に従うということになる」

    『ということは、魂の特徴を表す五つの数字は魂の誕生以来ずっと不変ということなのでしょうか?』

    「そのとおりじゃ。“イワナ”と“ウナギやナマズ”が一緒に生活するのが無理なように、五つの数字や鑑定結果が異なる人物同士が一緒にいると何らかの不調を感じるのは、魂のチームが異なることで生じているともいえよう」

    『ビジネスや恋愛・結婚の相性が魂の階級や属性で異なることも納得しました。鑑定結果の魂の諸々が近い人物の方が、相性が良いと認識しています』

    「他にも相性の良し悪しの条件はあるが、その傾向が強いことは間違いのない事実じゃ」

    陰陽師は時計を再び見、書類を片付け始めた。

    「それと、先述してきた五つの数字における1/2の“別”は、ともすれば“光が光たるためには影が必要”と捉えがちであるが、そのような“善と悪”の分類そのものが、“思議”(人間の考えが及ぶ世界)の世界の概念なのじゃ。そもそも、そのような“分類”そのものが、400回の輪廻転生を終えたあとの世界では、何の意味もないわけじゃからな」

    『未知なる世界の話ですね・・・“セントラルサン”や永遠の生命についてはまた今度聞かせてください』

    青年は深々と頭を下げる。陰陽師はいつもの微笑みで彼を見送るのだった。

     

  • 天命と転生回数①

    新千夜一夜物語第10話:天命と転生回数

    青年は鑑定結果と天職診断の紙を並べ、思索にふけていた。
    自分の天職がわかったものの、なぜあの三つだったのか。天職はどのように決まるのか? 魂の属性や輪廻転生の回数によって今世の役割や性質は変わるのだろうか? 

    次々と疑問が浮かんでくるものの、一向に納得できそうにない。
    居ても立っても居られなくなり、青年は再び陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、先日の続きをお願いいたします』

    「今日は輪廻転生の回数と今世の役割について、じゃったな」

    陰陽師は紙とペンをテーブルに広げ、続けた。

    「まず、転生回数と今世の役割というものは、そなたが思っているよりも厳格なものだということはよく覚えておいて欲しい」

    背筋を伸ばし、真剣な表情で青年は頷く。

    「転生回数の四つの数字の持つ意味じゃが、それらをそれぞれ大学生活に置き換えるとわかりやすいかもしれん」

    『大学生活ですか?』

    「うむ。転生回数が4期すなわち1回〜100回は大学一年生、3期すなわち101回〜200回は二年生、2期すなわち201〜300回は三年生、1期すなわち301〜400回は四年生といった具合にな」

    鑑定結果を取り出し、青年は口を開く。

    『と言うことは、僕は200回台なので、大学三年生に当たるというわけですね』

    「その通りじゃ。三年生といえば、ゼミに所属したり就職活動にむけていろいろ考える学年じゃから、物質的な話よりも精神世界や魂の年齢を見据えたことを考える時期とも言えよう」

    『そうですね。物質的なことよりは自然や宇宙といった精神世界の方に興味があります』

    「魂の年齢的にも半分を過ぎ、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解しやすい時期に差し掛かっていたからこそ、今世は魂の修行の場という話も腑に落ちやすかったじゃろうな」

    首肯する青年。

    『とてもわかりやすかったです。ちなみに、僕は230回台ですが、10回台の数字にも違いはあるのでしょうか?』

    「もちろん。輪廻転生回数の100の位や魂の階級の1〜4に限らず、30回台は総じて魂の属性が3の人間にとっては心身ともに不安定となりやすいという特徴がある。そうした不安定な心身と向き合うことで、結果的に選ぶ職業がスピリチュアル系となる可能性が極めて高くなるわけじゃな」

    『確かに。僕も天職ベスト2位に気功師があったのもその一貫なのですね』

    「さらに言うと、鑑定結果の中には陰陽五行に基づいた長所と短所という項目があるのじゃが、その中の長所19.という項目である“不思議な経験”のスコアが高得点である可能性が極めて高い」

    『そうなのですね。ちなみに、僕の“19.不思議な経験”のスコアはどれくらいなのでしょうか?』

    「ちょっと待ちなさい。今、鑑定してみよう」

    陰陽師は半眼になって集中し、指を小刻みに動かし始める。青年は固唾を飲んで見守っている。

    「そなたのスコアは73点。どちらかというと高い方じゃな」

    『何点以上ですと高いということになるのでしょうか?』

    「明確な基準で言う“高い“は80点以上となる。ただ、100点満点であるため、100点に近くなるにつれて霊障による心身へのダメージは二次関数の曲線のように大きくなっていくことになる」

    『僕のこれまでの人生はそこまでぐちゃぐちゃではありませんでしたし、霊的な経験があると言ってもそこまでひどい霊障はありませんので、そのあたりの話はじゅうぶんに納得できます』

    頷きながら青年は言う。

    「この傾向は、意味するところはちょっと異なるが、実は魂の属性7(唯物論者)の人にもあてはまる」

    『とおっしゃいますと?』

    「端的に言うと、魂の属性3の人間のように霊的な問題はまず生じないものの、人生が一般の人間とはかなりずれているという意味では、“19.不思議な経験”の範疇に入るというわけじゃな」

    『なるほど』

    「具体的な例を挙げると、テレビの番組で、“客の来ない店”といった趣旨の番組があるじゃろう。職種は様々だとしても、彼らのほとんどは転生回数が230回台となる。本来調理人は武士・武将問わず2(7)(=270回台)の職業なのじゃが、一日に一人ぐらいしか来ない食堂を十年以上も経営している店主などは、例外的に2(3)(=230回台)なことが多い」

    『精神世界に興味を持たない属性の人たちでも、同様に30回台という輪廻転生の影響を受けているのですね。意外です』

    「魂の属性7の人たちの多くにとっては、このようなメカニズムを受け入れることは難しいかもしれんが、魂の修行という意味ではおしなべてそういうことになる」

    『ちなみに、他にも特徴はあるのでしょうか?』

    「芸能関係の仕事に就けるのは2−3−5−5・・・2で、さらに転生回数が240回台、数字で言うと2(4)−3の人間に限られるという話を前回したと思うが、それ以外にも魂には“山場”というものが存在している。“3:ビジネスマン階級”だけは、第3期の190回台、数字で言うと3(9)−3の時期に例外的な“大々山”があるのじゃが、それ以外の魂は、100回ずつに区切った各40回台が小山、そして70回台、数字で言うと、1~4(7)−3が大山という仕組みになっておるわけじゃ」

    『転生回数でそこまで決まっているのですね』

    興奮気味に青年は言う。

    「芸術家・芸能人やプロのスポーツ選手とお笑いタレントたちが畑違いの歌・楽器演奏や絵画・小説、伝統芸能といった芸能分野でも才能を発揮することができるのは、彼らが共通して2-3-5-5・・・2という数字をもっているからなのじゃな」

    『確かにそうですね。僕でも、お笑い芸人が本を出版したり、画家として有名になるケースをいくつか知っています』

    「転生回数についてもう少し補足をしておくと、世に言う文系と理系のうち、転生回数が少ない3期と4期は理系、後半になる1期と2期は文系という傾向が顕著となる」

    『大まかに文系と理系までわかるのですか! では、3(9)−3はどんな業界になるのでしょうか?』

    「3(9)−3はどちらかというと理系になるわけじゃから、ソフトバンクの創業者の孫正義や楽天の三木谷浩史のようなIT業界で革新的なことを行う人物はもちろんこれに該当するし、1(4)-1であるパナソニックの松下幸之助を唯一の例外として、現在の一部上場企業上位400社の創業者たちも、皆3(9)-3となる」

    「え、そうなのですか」

    「それだけではない。たとえば、医者もほぼすべてがそうじゃし、理系分野のノーベル賞を受賞する人物も皆この時期となる」

    『科学は人類の発展に大きく貢献しているので、転生回数が多い人たちなのかと思っていました』

    「200回以上が文系ということをふまえると、極端な言い方をしてしまえば、アインシュタインよりもお笑い芸人の方が魂としては上位ということもいえるわけじゃな」

    体を揺すりながら陰陽師が笑うと、青年もあまりに突拍子のない話につられて笑う。

    『輪廻転生100回台において3(9)−3が大々山ということは、彼らが芸能界で活躍することもあるのでしょうか?』

    「実は、先ほど厳格だと言った理由がそこにあるわけじゃが、一見無秩序に見えるこの世は、その実、各人が様々な宿題を抱えて転生してくる“魂磨きの場“としての機能として、見えない厳しいルールが多数存在しておるんじゃ。たとえば、3(9)−3、しかもその後5-5…2という番号を持った人物が何かの間違いで芸能界に迷い込んだとしても、この世からその時期はともかくとしても“排除命令”が出る仕組みとなっておる。しかもその“排除命令”はかなり強烈なもので、たとえば若くして不治の病にかかってみたり、精神に異常をきたしてみたり、事故に遭ってみたり、犯罪に手を染めてみたりと、かなり徹底している」

    『ということは、テレビやネットでよく見かけていた芸能人が、突然姿を消してしまうのはそうした理由なのでしょうか?』

    「業界が業界だけに複雑な事情があって一概には言えんが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

    神妙な表情で青年は何度もうなずき、やがて口を開く。

    (続く)

     

     

  • 魂の属性②

    新千夜一夜物語第9話:魂の属性とこの世の善悪

    『ええっと、まず一番目の1/2は文字通りの“善悪”、別の言い方をすれば“執着”で、二番目の1/2は世の中に対して“厭世的”というか、“世の中に対し斜に構えている”性格かどうか。三番目の1/2は、他人に対しての“攻撃性”があって愚痴や文句が多いかどうか。四番目の1/2は、“人に受けた恨み/つらみを忘れず、執念深く覚えている”という性格かどうか。五番目の1/2は、“自己顕示欲”で、スポーツ・芸能・芸術を始め一般的な生活を営むにあたり必須な性格かどうか。おおまかに言うとこんな感じだったかと・・・』

    「細かい部分はさておき、大意は把握しているようじゃな」

    陰陽師が短く頷くのを見、青年は安堵のため息を吐く。

    「先日も言ったことじゃが、この1/2は世間でいうところの善悪ではないからの。あくまでその人が持っている性質というわけじゃから、全て1だから優れているとか、全て2だから迫害されるべきだとか、そういった意味ではないことをくれぐれもはき違えぬようにな」

    『前回ご教授いただいたように、これらの違いは、上下関係はなく、個性や性格の違いという感じで捉えています』

    真剣な表情で青年はうなずく。

    「そうであれば話を次に進めるとするが、そなたの場合、魂の属性3じゃから霊媒体質。中段と下段の1は“1・3・5・7・9”と五つの数字に分かれ、中段の1は霊媒体質の強さ、下段の1はそなたが魂1のグループに属性しているということを示しておる」

    『僕の場合、霊媒体質がもっとも強いグループなのですね。下段が1ということは、もっとも優れているグループという意味ではなく、あくまで1に所属していると』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は満足そうに頷く。

    「次の魂の性質じゃが、上段の数字は4と7がある。ここもわかりやすく言うと性格のようなものを表しており、4の人物は温和で争いを好まず、周囲の意見に協調しやすい性格を有しているのに対して、7の人物は自分の主義主張をハッキリ表現する傾向が顕著じゃ」

    『僕の場合は4なので温和で同調しやすい性格なのですね。それなりに自覚があります』

    「下段の数字は“親近性”を示しておるのじゃが、1に近いほど裏表がない性格となり、9に近づけば近づくほど、腹に一物があったり、二枚舌であったり、性格が荒くなる傾向がある」

    『ということは、上段の数字が7で下段の数字が9ですと、世間一般でいう犯罪者タイプということになるわけなのでしょうか?』

    「いささか極端な表現ではあるが、そう理解してもらっても問題ないじゃろうな」

    『なるほど、了解です』

    「7(9)を世間一般でいう犯罪者タイプとすると、その対になる4(1)に近づくほどよさそうな印象を受けるじゃろうが、実はそう単純な話でもない。上段の数字が4であっても下段の数字が9の人物の場合、表面では同意している素振りを見せておきながら裏では言葉と裏腹の行動を取る可能性が高いのみならず、時には、世間を騒がすような重大事件を引き起こしたりもする」

    『つまり、誘拐事件や殺人事件ということですね』

    「そのとおりじゃ」

    『しかし、それでは4(9)であれ、7(9)であれ、どちらも悪者ということになるじゃないですか』

    「そう言ってしまうのとその通りなのじゃが、4と7の違いをもう少し具体的に説明すると、同じ事件を起こしても、4(9)の場合は、周りの人間がどうしてあの人がこんな事件を、と驚くに対し、7(9)の人間が同じ事件を起こした場合、周りの評価は、あの人ならそんなことをしでかす可能性は大いにある、といった具合になるわけじゃな」

    『なるほど』

    「一方これが9(9)あたりになると、周囲の評価は、あの人間ならいつかはこんな事件を起こすと確信していた、となるわけじゃな」

    納得顔で頷く青年を横目で見ながら、陰陽師は先を続けた。

    「話を4と7に戻すと、たとえば、4(5)と7(1)の人間の場合、その後ろに続く数字が1-1-1-1-2と共通しているため、基本的な性格の強さがほぼ等価ということもできるのじゃが、4(5)が何かの提案に対して同意を示したとしても、その実腹の中では真逆のことを考えている可能性があるのに対し、7(1)の場合は、納得できないことにははっきりとNOと言う反面、一度YESと言ったことには最後まで責任を持つといった傾向が強い」

    『つまり簡単に言うと、7(1)の人間の方が自分の主義・主張をハッキリしてくれる分、行動が荒いのかもしれませんがまだわかりやすそうですね』

    「じゃからこそ、一部上場企業の大方の社員や世を動かす多くの人間は、ここの番号が7(1)か7(3)になっているわけじゃがな」

    『なるほど』

    「繰り返しになるが、今までの説明はあくまでも各々の数字を持った魂がこの世でどう見えるかという話であって、それをもって魂や人間の優劣を決めるものではないということをよく理解してほしい」

    『了解しました』

    大きく頷く青年を横目で見ながら、陰陽師が話を続けた。

    「今まで説明してきた善と悪という概念についてより正確な認識を持ってもらうために、今度は別の例を使って説明しよう」

    『お願いします』

    陰陽師は紙に二つの図を描き、説明を始める。

    「例えば、そなたのように善側の人間を“清流に住むイワナ”、悪側の人間を“下流の沼地に生息するウナギやナマズ”と分類したとすると、両者が一緒に生活をすることには、生物学的に考えて無理があると思わんか?」

    『たしかに、おっしゃる通りだと思います』

    「実際、繊細な魂にとってはその影響は深刻で、たとえば、同じ2(転生回数)-3(魂の階級)-7(具体的気質/OS)-3(具体的性格/ソフト)、魂の属性が3(霊媒体質)の人間同士であったとしても、7(7)(魂の性質と親近性)-1-2-2-2-2(魂の現世における特徴)といった数字を持つ人間と一定の関係を持つだけで、潜在的に抱える精神性疾患が一気に顕在化/深刻化することさえある」

    『一定の関係を持つだけで、ですか。そういえば、相手が特に何かをしたわけではないのに、一緒にいるだけでイライラしたことがあるのはそうした理由だったのかもしれないわけですね』

    陰陽師は首肯して答える。

    「とはいえ、その事実をもって、イワナが“善”でウナギ/ナマズが“悪”だという意味では決してない。現世でこの五つの数字を分析するとそのような結果になるという話であって、それをもって各人/魂の優劣の基準となるわけではないことは先ほども説明した通りじゃ」

    『はい!』

    青年は大きく首を縦に振る。

    「転生回数と魂の善悪の説明をしたことじゃし、いよいよ転生回数と今世の役割について説明したいところじゃが」

    陰陽師は時計を見、青年もつられて時間を確認する。

    「今日はもう遅い。また次回に話すことにしよう」

    『今日も遅くまでありがとうございました。またよろしくお願いいたします』

    青年は席を立って頭を下げ、部屋を後にする。
    善悪というのは表現や見方であり、立場や性質の違いに過ぎないのだということを再び自分に言い聞かせ、青年は玄関の扉を開けるのだった。

    ご自分に先祖霊による障害があるかどうかか気になる方は、

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  • 魂の属性①

    新千夜一夜物語第9話:魂の属性とこの世の善悪

    青年は苦悩していた。

    陰陽師から渡された鑑定結果の解読を試みるものの、基本的には数字で記載されているため独力での解読は不可能に近い。
    過去に解説を受けた部分を復習した後、青年は解読を諦めて陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、またわからないことがあってお邪魔しました』

    「ずいぶんと熱心に訪問するようになったの。つい先週は何もかもがどうでもよくなっていたはずなのに」

    体を揺らして笑う陰陽師に対し、青年は苦笑して応えた。

    『魂について僕が聞いていない部分がありましたら、教えていただきたいです』

    「そう言うことであれば、今回は鑑定結果の補足をしつつ説明していくとしよう」
    陰陽師は青年の鑑定結果の紙を取り出す。

    スクリーンショット 2019-11-30 12.06.39

    「まずは、頭の1と2じゃが、1は農耕民族型で2は狩猟民族型の子孫だと理解するとわかりやすいと思う」

    『はあ、1は農耕民族型で2は狩猟民族型の子孫でしょうか?』

    「その通りじゃ。まず、1の農耕民族だが、農耕民族の長所を演繹すると、自分のことより他人のことを優先する、協調性がある、世のため人のためなんて考えている、となる」

    『なるほど』

    「それに引き換え、2は狩猟民族の末裔ということから、物事を損得で考える傾向が強いので、結果、自己中心的な傾向が強いということになる」

    『それで、僕は1なのですね』

    「そうじゃ。時間の概念を理解し、長いスパンで受け継がれる本質を好む。気功や瞑想といった、道具を使わずに自浄作用の効果がある術とも相性がいい」

    『それでは、2の人は?』

    「全般的に、まず体が丈夫じゃ。そして、見た目が派手でわかりやすい事を好む。短期集中や道具との相性がいい。日本人の比率は、(頭の1):(頭の2)=3:7と、頭が2の人の方が多い。地球全体の1と2の比率が2:8じゃから、日本人は優等生と言うことができるじゃろうな」

    『では、次の2(3)は?』

    「ここが輪廻転生の回数となる。これは万人例外なく400回と決まっておる。で、そなたの場合は230回台じゃ」

    『それでも、半分以上終わっているのですね。といっても、まったく実感がわきませんが』

    頭をかき、苦笑する青年。陰陽師は微笑んで応える。

    「ここで大事なことは、人生にも年齢によって波があるように、魂にも波のようなものがある。あの世の仕組みがこの世の仕組みに反映されているわけじゃからな」

    『400回の転生回数を、魂の年齢と捉えればわかりやすい気がします』

    鑑定結果の数字を眺めながら、青年は口を開く。

    『ちなみにですが、転生回数と天職には相関関係みたいなものは存在するのでしょうか?』

    「天職診断は依頼者の魂をベースに鑑定を行うが、転生回数とも一定の程度の因関係がもちろん存在する」

    『やはり、そうなのですね』

    「それを理解するには他の部分の鑑定結果の意味を知っておくと話が早い。次は魂の種類の項目を説明しよう」

    陰陽師は次の数字を指しながら言った。

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    「魂の種類1〜4というのは、以前話したように4つの階級を表しておるのじゃが、そなたの場合は3(1)じゃからビジネスマン階級となる。そして、下の四角の上段の数字が2じゃから、武士というわけじゃな」

    『もし下の四角の上段の数字が3の人の場合は武将となるのですね』

    「その通りじゃ」

    『それでは、下段の数字はどのような意味を持っているのでしょうか?』

    「そこは“程度”の様なものを表しており、そなたはどちらも(1)じゃから、ビジネスマン階級としても武士としても最も位が高いということになる。位は1・3・5・7・9と五段階あるのじゃが、その意味するところは上下関係ではなく、担う役割が大きい、くらいに認識しておくとよい」

    『数字が低い方が、あえてわかりやすい言い方をすると位が高いのですね。誤解しないように気をつけます』

    陰陽師は首肯して応える。

    『次の“+2”ですが、これは何でしょうか?』

    「それは、”目に見えないことをどのくらい信じるか”を表しておる。+1~9という段階があり、こちらも1が最も信じやすいことを意味している」

    『僕は、2番目に目に見えないことを信じやすいグループに属しているわけですね』

    「そう言うことじゃな。逆に、霊障がない人や唯物論者/超現実主義は“+9”に近い」

    青年は何度もうなずいて納得の意を示す。

    「霊障がない人や唯物論者/超現実主義というのも、実は鑑定結果で表れておるんじゃ」

    『そうなのですね。育った環境や人生経験によるものだと思っていました』
    そう言い、青年は鑑定結果を食い入るように見つめる。

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    「ここでいう、魂の属性の一番上の段の数字が該当する。ここは5%ほどの例外があるものの、基本的には3か7しかない。以前にも少し触れたが、先祖霊の霊障がある、すなわち霊媒体質の人物は3となる。一方、先祖霊の霊障がなく、霊媒体質でもないために精神世界や気といった現代科学での証明が難しい存在を感じとることができない人物は7、簡潔にいうと唯物論者というわけじゃな」

    『そういうことがあるのですね! そもそも感じることができないなら、いくら論理的な説明をしても、目の前で通常では考えられない出来事が起きても信じられないのもわかる気がします』

    「もちろん精神世界や宗教に興味があるというのはまた別な問題になってくるのじゃが、少なくとも“感じる”という意味ではその通りじゃ。また、その比率は魂の属性3の人間の方が圧倒的に少なく、だいたい三七くらいの割合と理解して差し支えないじゃろう」

    『意外でした。そんなに差があるのですね。ちなみに、霊障がある人とない人とで、肉体的な違いはあるのでしょうか?』

    「主な違いは経絡とミトコンドリアと言われておる。7の人は3の人の経絡の半分しかなく、ミトコンドリアの機能も違う。その結果として、3の人は東洋医学と相性が良く、7の人は西洋医学と相性が良い。同じ病で同じ治療を受けても生還する人と助からない人がいるのは、3と7の違いである可能性が高い。7の人は先祖霊の霊障がない、すなわち見えない世界に対する感度がほとんどないため、気功といったエネルギーを体感することができず、その結果、効果が薄い。その代わり、18世紀の産業革命以来の物質文明の延長線上にある西洋医学の薬が効きやすいという特徴をもっておる」

    『ということは逆説的な言い方をすると、薬の副作用が大きく出る人は魂の属性が3の人ということでしょうか?』

    「そういう傾向は間違いなくあるじゃろうな。それ故、魂の属性を把握しておくことで、体調を崩した時に望ましい治療を選びやすくなるということになるわけじゃ」

    『僕は東洋医学、漢方や鍼灸や気功と相性がいいのですね。気功をやっていてよかったです』

    深くうなずく青年を見、陰陽師は微笑む。

    「次は、真ん中の段と一番下の段の意味じゃが、ここは次の“魂の性質”と前回触れた“魂の善悪”(執着)を交えて説明しよう。覚えておるかな?」

    突然の質問に、青年は慌てふためいた。

    (続く)

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  • 生臭坊主と葬式仏教②

    新千夜一夜物語第8話:生臭坊主と葬式仏教

    「江戸時代に大乗仏教の僧侶が檀家から多額のお金を徴収し始めたが、禅僧たちはそれよりもっと前から高い拝観料を堂々と徴収していたのじゃよ」

    『江戸時代より前からですか! ということは、大乗仏教よりも小乗仏教の方がお金にがめつかったのでしょうか?』

    「禅僧たちは人間の本質を突き詰めた結果、虚無主義(ニヒリズム)に行き着き、“結局はお金が大事、自分の生活が大事”との結論に達したようじゃな」

    『確かに、現代でもお金は必要ですからね。自力で生きていくのであればそのような結論に達するのもわかる気がします』

    青年は腕を組み、首をかしげて続ける。

    『それにしても、どうして拝観料を高く設定できたのでしょうか? よほど経済力があって、由緒ある仏像や立派な建物や庭を揃えることができなければ拝観料を高くできないと思うのですが』

    「実は臨済宗の僧侶は副業を持っていて、そこから大きな収入が別にあったのじゃよ」

    『経済的に余裕になれるほどの副業が、当時にはあったのですか?』

    「9世紀から18世紀、世界のGDPの25%を占めていた国があるのじゃが、どこかわかるかな?」

    腕を組み、しばらく思考した後に青年は口を開いた。

    『・・・中国ですか?』

    「その通り。中国との貿易は当時の日本にとって重要であり、中国とやりとりするためには中国語に精通している必要があった」

    何度もうなずき、納得の意を示す青年。

    「また、貿易を行うためには漢文で書かれた貿易文書契約書の類が必要だったわけじゃ。将軍や大名たちがみな漢文に精通していた部下を抱えていたわけではなかったから、“臨済宗”の僧侶たちが彼らに代わって貿易文書の代筆をしていたと言われておる」

    『なるほど。それが彼らの副業だったと』

    「ただし、副業といってもその額は莫大で、彼らはその収入であのような立派な寺院を次々と造っていったわけじゃな」

    『でも、』

    青年は首をかしげた。

    『そもそも、どうして臨済宗の僧侶たちは漢文に精通していたのでしょうか?』

    「先ほども話したように、小乗仏教に最も近いといわれているものの、 “神も仏も信じない。この世に救済はない。だから、己一人、自分自身だけ修行(研鑽)せよ”、が禅宗の教義なのじゃから、彼らは仏典そっちのけで孔子の論語をはじめとした“四書五経”を勉強していた」

    『なるほど、それで彼らは漢文に精通しているわけなのですね』

    「当時世界一の大国じゃった中国の文化を披歴することは、彼らがエリート中のエリートであったことを示しているとともに、臨済宗の寺院の多くが中国の建築様式を取り入れておったり、読経の際に中国式の朱塗りの赤い椅子に座ったりしておるのも、実はそのような背景からきているわけなのじゃよ」

    『なんという皮肉でしょう・・・』

    苦笑する青年を見て、陰陽師は笑みを浮かべる。

    「そうした中国の文献を必死に勉強することで臨済宗の僧侶たちはやがて鎌倉時代に“五山文学”を確立させていったのじゃが、それだけではなく、手にしたお金で建てた立派な寺院や庭を見学させることで新たにお金を稼ぐ手立てを手にしたわけじゃ」

    『そうやって臨済宗の僧侶たちは高級路線になっていき、挙句の果てには“白足袋様”と“様”づけの呼ばれ方をされたと・・・』

    青年は小さく溜息をついた。

    『しかし』

    「なんじゃな」

    「もし彼らがそれほど裕福だったのなら、貧しい民衆に対して何らかのことをしてもよかったのではないかと思いますが、それさえもしなかったわけですね」

    「学も経済力もある臨済宗の高級インテリどもは、基本的には民衆が嫌いだったようで、“浄土宗(本願寺)”や“日蓮宗”のような大乗仏教の寺が民衆を教化、教育することによって彼らからの寄付で寺を運営していたのに対し、自力でお金を集める方をよしとしたのじゃろうな」

    『ある意味それも徹底した自力本願ということなのですね・・・。それにしても、同じ仏教なのに別物のように感じます』

    「大乗仏教のように他者を助ける(福祉事業・福祉のための国家論)ことは偽善であり、 “他者を救済することは不可能なので、するべきではない”と悟った臨済宗の僧侶たちは、救済思想の否定として生まれた現実主義(リアリズム)者であるというわけじゃな」

    『たしかに。僕としても救いを必要としている人に手を差し伸べたものの、結果的にお互いにとってよからぬ事態になったことがあるので、なんとなくわかる気がします』

    「当時の僧侶たちがどのような体験を経てそうした結論に至ったかはわからないが、それなりの理由づけがあったのは間違いなかろう」

    過去の出来事に思いを馳せてか、青年はしばらくうつむいて黙っていた。やがて、顔を挙げて口を開く。

    『そう言えば、大乗仏教では葬式の際にお経を読むのは、救済されるためと聞いたことがありますが、禅宗のお寺でも葬式の時にはちゃんとお経を上げますよね? あれはどういうことなのでしょうか?』

    「そこは他の大乗仏教と同じで、禅宗も檀家制度によって“葬式仏教”に移行していくわけじゃから、葬式をあげるのに当然お経が必要なわけで、お経の功徳など信じてはいないものの他宗から“般若心経”と“観音経”を借りてきたのじゃよ」

    『禅宗は救済の祈りを拒絶していたわけですから、葬式のため、お金を稼ぐ手段として割り切っていたわけですね・・・』

    「宗教がビジネスになるのは、昔から同じで、開祖以降の宗教の中心を担っているのは“3:ビジネスマン”階級という話に再び結びつくわけじゃよ」

    青年は大きく何度もうなずく。

    『とてもよくわかりました。それと、エリートと民衆という表現からふと思ったのですが、小乗仏教のように自力でなんとかできる人たちは、魂1〜3で、大乗仏教に救いを求めてくる人たちは、魂4なのでしょうか?』

    「全員がそうとは言い切れんが、その傾向は間違いなくあるじゃろうな。小乗仏教や大乗仏教のなかでも禅宗などは“ほんとうの大人の思想”として、鎌倉時代以降、武士階級の支持を受け、新しい思想流派として日本にも根付いた一方、自力でなんとかすることが困難な魂4の大半が、浄土宗などの大乗仏教の説法や、現代でいうところのマンガのような話を聞いて扇動され、様々な一揆を興したのも、ある意味しょうがない話ということができるのじゃろう」

    『マンガですか・・・』

    青年は苦笑しながらつぶやく。

    「その辺の話やブッダについては、長くなるからまた別の機会に話すとして」

    陰陽師はグラスに注がれていた水を飲み、一息つく。

    「小乗仏教にも大乗仏教にも共通して言えることは、どちらもブッダの本質から外れておるということじゃ。そもそもブッダは、個々人が苦から解放されて解脱することのヒントを、生きている人々に“正しい生き方”を説いていたのに、現代のほとんどの仏教宗派が死者への対応ばかりとなっておる。葬式仏教という言葉などは正に言い得て妙じゃな」

    『時代の変化があるとはいえ、本来の教義から遠ざかってしまうことは、なんだか残念な気がします・・・』

    「そうはいっても、お布施や葬式を全面的に否定するのではなく、その宗教儀式が本当に効力があるのか否かを見極めて依頼するよう心がけてもらいたいものじゃな」

    『僕は先生とご縁をいただけて本当によかったです。心から感謝しています。たまに永代供養に関する広告を見ますが、個人的に先生の神事を受ける方がよかったと思っています』

    陰陽師は苦笑して応えた。

    「いつも話すように、魂1~4に分かれた人間は、そもそも同質ではない。それに魂の属性3(霊媒体質)と7(唯物論者)は、体感するものがまるで違う。じゃから、何を信じるかは人それぞれでまったくかまわない。わしの話す話を信じるのも信じないのもまったく自由じゃ。そして、お寺や葬式を大切にしている人々を否定するようなことは厳に慎まねばならぬ」

    『もちろん、そんなことを他人に口にするようなことは絶対にしませんよ!』

    「口に出さないだけでなく、なるべくそうした差別的なものの考えもせんようにできるとベターじゃな」

    笑顔で話す陰陽師の言葉を聞きながら、一瞬、体をこわばらせる青年。頭の中では一般の人々の考えを否定していたようだ。

    『気をつけます。みなさんの自由意志を尊重し、僕自身は目の前の出来事を魂の修行として真摯に取り組んでいきます』

    満足そうに微笑みながら、陰陽師はうなずいた。

     

     

  • 生臭坊主と葬式仏教①

    新千夜一夜物語第8話:生臭坊主と葬式仏教

    『くそ! やられた!』
    青年は激怒していた。

    祖父母はことあるごとにお経を口にし、信心深かった。当然、母方の曽祖父の葬儀は丁重に行われていたはずである。だが、母方の曽祖父は地縛霊化していた。
    葬儀にお金をかけたところで地縛霊化した先祖は救われなかったならば、自分でそれっぽい儀式をしてお経を読んでも同じことではないか。

    先日のお礼を兼ね、青年は陰陽師に会って質問することにした。

    『先日は血脈の先祖供養をしてくださり、ありがとうございました』

    深く頭を下げる青年。声がかすかに震えている。

    「それはいいが、今日はやけに荒れているようじゃな。何かあったかな?」

    声のトーンや表情から、青年の怒りを察した陰陽師が訊ねた。

    『話は他でもありません。葬式のことです』

    「で、葬式がどうかしたかな」

    『葬式代はどうしてあんなに高いのでしょうか? しかも、高い葬式代を支払ったのに、結局僕の母方の曽祖父は地縛霊化していましたし、あれじゃ何のために葬式をやったのかわけがわかりません』

    陰陽師はしばらく青年の瞳を見つめた後で、おもむろに口を開いた。

    「先日話したと思うが、霊能力がない坊主が仰々しく儀式を行なっても地縛霊は救われん。それでも、昨今の葬儀が主流となっているのにはそれなりの理由があるのじゃ」

    『どのような理由でしょうか?』

    「そなたは“檀家(だんか)制度”という言葉を知っておるか?」

    『言葉は知っていますが、どのような内容かはよくわかりません』

    ばつが悪そうに答える青年。陰陽師はかすかに笑って口を開いた。

    「“檀家制度”が始まったのは江戸時代のことになる。“寺請制度”とも呼ばれ、庶民が縁組、旅行、移転、就職する際には僧侶が発行する証明書(寺請け状)の発行を義務づけたのじゃ。今でいうところの戸籍係の任務を、幕府が寺に引き受けさせたわけじゃな」

    『どうしてまた、そんな面倒そうなことを? 日常生活における大事なことをする時には、その都度お寺の許可が必要ということですよね?』

    「江戸幕府も歴代の幕府同様、封建性を建前としていた。つまり各大名に、土地の所有権を認めていたわけじゃな。しかも江戸幕府の場合、直前に関ヶ原の戦いという、文字通り、天下分け目の戦争をおこない、負けた西軍の大名たちを日本の僻地に追いやったため、税金を徴収するための人口調査を幕府の役人に直接行わせるのを躊躇せざるを得なかったという事情があった。それにキリシタン問題も絡んでおった。豊臣秀吉によって発令されたキリシタン(バテレン)追放令を支持した徳川幕府は引き続きキリシタン弾圧を徹底するために、この“寺請制度”を利用したわけじゃな」

    『キリスト教を厄介払いにするためにお寺に区役所や市役所の役割を代行させたのはわかりますが、それと葬式代が高くなることに、どのような関係があるのでしょうか?』

    「おぬしは、村八分という言葉を知っておるかの」

    「はい」

    「では、その意味はどうじゃ」

    「いいえ、そこまでは」

    「当時、特に地方では、何か悪いことをするとその村に住めなくなり、村の外れの竹やぶなどに住まなければならなかったのじゃが、そんな一家でも二分、つまり子供が生まれた時と人が死んだときだけは、そのことを宗旨人別帳に記載してもらえたわけじゃ」

    「なるほど、それで村八分なわけなのですね」

    納得顔で頷く青年に、陰陽師は続けた。

    「しかもじゃ、 “檀家制度”によって庶民は僧侶の許可がなければ縁組や就職といった日々の重要な活動ができなくなってしまうだけではなく、現代では想像もつかないくらいの上下関係ができてしまった。その結果、庶民は僧侶からの要求を受け入れざるを得なくなってしまったわけじゃ」

    『なるほど、だから、僧侶が決めた葬儀代が高くてもその金額で依頼するほかなかったと。人は必ず死にますし・・・』

    陰陽師は首肯すると、言葉を続けた。

    「大乗仏教といえども今まで托鉢で生計を立てていた僧侶が突然固定客を獲得し、しかも独占事業となったわけじゃ。よほど修行を積んだ僧侶でない限り、欲望が大きくなっていってもそれはそれでしかたないことじゃったのであろう。好き放題できるようになったことで、儀式そのものの種類を増やしていき、檀家から様々な名目でお布施を受け取れるようにしていったわけじゃ。現代でもよく広告・宣伝している先祖供養もふくめ、次々と儀式が拡大していったのはそういった経緯があるのじゃよ」

    『僧侶ということは、先生の鑑定結果でいうところの“1:先導者”階級なのかと思いましたが、僧侶であっても欲望に負けてしまうのでしょうか?』

    「以前にも話したように、宗教の開祖となる人物の魂の階級はほとんどが1なのじゃが、その弟子である2世以降は基本的に“3:ビジネスマン”階級となる(キリスト教等含め、開祖以外の歴代のほぼすべての坊主は2(8)-3)。それに、中国語で書かれたお経を丸暗記するという能力も、“3:ビジネスマン”階級の専売特許のようなものじゃしな」

    『以前に魂の階級と仕事について話してくださったのは、このことだったのですね・・・』

    「そういうことじゃ。信者にはいろんな階級の人が集まってくる。そして、宗教を存続させるためにはお金がどうしても必要じゃ。そうなると、難しい教義を次々と生み出し、お金や人望を集めるのが得意な魂3の人間が実権を握るのは止むを得ない」

    『霊能力がない人が儀式の形だけマネをしているわけですね。魂1で霊能力持ちの人物は稀少でしょうし・・・』

    「既存・新興宗教の信者に限らず、宗教で救われない人が多数存在することには、そういった事情があるとも言えよう」

    『ひょっとして、お彼岸やお盆なども僧侶たちによって作られたのでしょうか?』

    「そういった年忌・命日法要や参拝も、檀家の義務だと僧侶に言われて慣習化されてしまったわけじゃ。ちなみに一つ例を挙げるとすれば、“三十三回忌”なども神道における他界観がベースであって、仏教本来の思想ではない」

    『え! そうなんですか?!』

    「柳田國男という民俗学者の“祖霊の山上昇神説”があってな。神道では死んだ直後の霊を“死霊”=ホトケと呼んでいる。ホトケには個性があり、死穢を持っているとされる。子孫がこのホトケを祀ることによってホトケは段々と個性を失い、死穢が取れて浄化されていく。そして、一定の年月が過ぎ、ホトケが完全に浄化されると“祖霊”となり、この“祖霊”のことを“和御霊”あるいは“カミ”と呼ぶ」

    未知の話に対し、青年はただ頷くばかりである。質問がなさそうなことを確認し、陰陽師は続ける。

    「死者の霊がホトケの段階では山の低いところにおり、そのホトケが昇華・浄化されるにつれて山の高いところに昇っていく。こうして死者の霊が少しずつ穢れや悲しみから離れ、清い和やかな神となっていき、その神がさらに昇華されることによって、“祖先神(祖神)”となると言われておる。そして、祖神になるまでの期間が三十三年と考えられておるのじゃ」

    『今までお盆やお墓参りなどをとても大事にしていたのですが、お話を聞いているうちに、なんだか墓参りをするのが馬鹿らしくなってきました』

    青年は顔を上げ、大きくため息を吐いた。

    『ふと思ったのですが、それは人民救済を説く大乗仏教だからであって、小乗仏教のお寺は違うのではありませんか? 小乗仏教は自らが悟りを開くことを主な目的にしていたと認識していましたので、死者のことを考える暇があるなら目の前の出来事に集中せよと説いていそうですが』

    「そもそも臨終に際して、ブッダは弟子たちに葬式自体を行うことを禁じたわけじゃから」

    『え、そうなんですか』

    「それだけじゃない。ブッダは自らを模した偶像などを作ることも、厳しく禁じたんじゃ」

    『しかし、中国や日本の大乗仏教のお寺に仏像(ブッダの像ではない)があるのはまだしも、タイやカンボジアやインドネシアにも仏像がありますが』

    「うむ、そのあたりが教祖のそもそもの教えが年を経るごとに変質してしまう証拠みたいなものじゃな」

    『なるほど』

    「ところで、大乗仏教の中でもっとも小乗仏教に近いといわれているのは禅宗なんじゃが、そなたは“生臭坊主”という言葉を知っておるかの?」

    『よく聞きますね。僧侶に対する蔑称だと思っています』

    「実は、“生臭坊主”は“ノウマクサンマンダー・バサラダン・・・“という真言の”ノウマクサ“をその語源としているのじゃよ」

    『そうだったのですね! 知らなかったです! 生臭いことを何かのたとえに使っているのかと思っていました』

    「語源を知らない人は、そなたのようになんとなく蔑称だと思っているじゃろうな。それはそれとして、京都では禅宗の二大流派の片割れである臨済宗の坊主が“白足袋様”と今でも呼ばれておるが、その由来を知っておるか?」

    青年は首を左右に振って応える。

    (続く)

     

  • 言霊とお経

    新千夜一夜物語第7話:言霊とお経

    神事を受け、陰陽師の話を聞くにつれて青年は宗教にも興味を持ち始めた。彼なりに調べた後、祖母がよく唱えていたお経について、彼は後日質問することにした。

    『世の中には、お経を読んでいれば人生がよくなると言っている人もいます。僕も言霊の力を信じていて、お経もその延長ではないかと思っているのですが』

    「では、そなたはそのお経を読んでいる人は全員幸せと思っておるのじゃな?

    『もちろん、全員ではないと思います。中にはせかせかして疲れているような人もいましたし、勧誘してきた人の方が僕よりも不幸そうだと感じたこともあります』

    「そうじゃろう?」

    『ですが、“新訳聖書”(“ヨハネによる福音書”)の冒頭に、“はじめに言(ことば)があった。言は神とともにあった。万物は言によってなった。なったもので、言によらずなったものは何一つなかった”という一節を読んだことがありますし、バラモン教ではバラモンが賛歌や祝詞を唱えて神を動かしたという説もあります。そのような点から考えてみても、やはり、言霊の力は存在すると思います』

    「ほほう、今回はそれなりに勉強したようじゃな」

    『そりゃあ、少しでも幸せにはなりたいので、とりあえずできることはやってみようと思ったんです』

    「なるほど、それはなかなか感心な心がけじゃ。しかし、今の質問じゃが、いきなり結論を言ってしまうと、言霊にはたしかに一定の力が宿っていることは否定せんが、最終的に現実世界に影響を及ぼしているのは“身口意”の三つなので、言葉だけに捉われない方がいい」

    『今おっしゃった“身口意”とはどういう意味ですか?』

    「簡潔に説明すると、身とは行動、口とは言葉、意とは心のことじゃ。そなたが言った“はじめに言葉があった”という話も、わかりやすく“神”という概念がエネルギーとして存在していると仮定すれば、言葉を発する前に“世界を創造しよう”という心があったということを説明していることになる」

    『つまり、言葉が初めからあったわけではなく、まずは心が先にあったのですね。そういえば、先生はその人の名前がわからなくても鑑定ができるとおっしゃっていましたが、それは名前つまり、言葉よりも思考している存在というか、心、魂にアクセスしているからなのですね』

    「まあ、簡単に言うとそういうことになる」

    陰陽師は小さくうなずくと、言葉を続けた。

    「そしてそうだということは、夢を叶えたいと思ってご利益がある言葉を繰り返し唱えていても、何もせずに、家で引きこもっているかぎり現実が変わることはないということになる」

    『言われてみればそうですね』

    陰陽師の言葉に小さく頷く青年。そんな青年を笑顔で眺めつつ、陰陽師は言葉を続けた。

    「じゃから、お経に限らず特定のありがたい言葉を繰り返し唱えて幸せになっている人というのは、お経を唱える以外にも何らかの行動をしている人で、幸せそうに見えない人というのは“身”、つまり行動がともなっていない人ということもできるわけじゃ」

    『なるほどです。特定の言葉を繰り返し唱えるだけで幸せになるのであれば、全員が幸せになれるはずですもんね。でも、実際にはそうとは言い切れませんものね』

    「さらにもう一言つけ加えるとすれば、お経などを唱えることより、何か想定外のことが起きても慌てずに目の前の出来事に対処できるよう“不動心”を身につけておくことが大切となる」

    『おっしゃることはわかりました。でも』

    青年は反論を試みた。

    『お経が今も唱えられているからには、それなりの理由があると思うのですが』

    「ふむ。ところでそなたは“般若心経”と“法華経“を知っておるか?」

    『“法華経”は詳しくは知りませんが、“般若心経”を毎日唱えていました時期がありましたので、内容についてもそれなりに理解しているつもりですが』

    「この二つを唱えている宗派は大乗仏教に分類されておるのじゃが、小乗仏教と大乗仏教の違いについてはまた別の機会にゆっくり話すとして、その二つの大ざっぱな違いくらいは理解しておるのかな」

    『その二つについては、ブッダが開いたということ以外、授業で名前を聞いたくらいで詳しくはわかりません』

    「まあ、そうじゃろうな。大乗仏教圏である日本や中国では小乗仏教と大乗仏教の区別ができる人間などほとんどいないわけだから、それはそれで致し方ないとしても、“仏教”をブッダの説いた教えと定義するのであれば、“般若心経”も“法華経”もブッダの直接の教えとは何の関係もないということができる」

    『え?! 仏教なのだから、ブッダの言葉や教えを受け継いでいるのかと思っていましたが』

    「簡潔に説明すると、“般若心経”はブッタの死後880年ほどして龍樹という人間によって創作された経典なのじゃが、“法華経”を始めいわゆる“大乗仏教経典”はすべてこの“般若心経”を下敷きとしておることから、龍樹は“大乗仏教八宗の祖“とも呼ばれているわけじゃ」

    「ということは、“般若心経”も“法華経“もブッタの言葉を記録したものではないのですね」

    「その通りじゃ。そして“法華経“は端的に言ってしまうと、ブッダをそっちのけにして大日如来・観音菩薩・弥勒菩薩という新たに捜索した神を崇めておるということになるわけじゃよ」

    『しかし、肝心のブッダはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか…?』

    「どこへ行ったのかという話は説明すると長くなるので別の機会に回すが、このような話は大乗仏教だけの話ではなく、多くの宗教にみられる現象で、たとえばキリスト教なども厳密に言えばキリストの言葉ではなく、彼の教えを広めた人間であるペテロ、初期のローマ法王の影響が色濃く反映されておる」

    『そうなると、信者の人々は本当の意味での宗教の大元を信じているわけではないのですね…』

    「まあ、そういうことじゃ。簡単に言うと、お経にせよ聖書にせよ、結局は誰かがその人にとって“これは素晴らしい”と感じた言葉を自分なりの解釈でありがたがって唱えているわけであって、例えるならそなたが自分にとっての金言をそもそもの意味など気にかけずに繰り返し唱えているようなものなんじゃよ」

    『でも、実際にその誰かの言葉を繰り返し唱えることで人生がよくなった人がいるのも事実と言えば事実ですよね?』

    「それは“こんなに熱心にお経を読んでいるから自分は大丈夫だ”という安心感であったり、そうやって得た安心感によって現実に立ち向かい、結果として困難を乗り越え自信のようなものが培われたからじゃろう。結果の良し悪しは別として、挑戦し続けている人の方が世間では成功しやすいのではないかの?」

    『確かに、そうかもしれません。でも、挑戦し続けているのに報われないのはどうしてなのでしょうか?』

    「それには大きく分けて二つの理由がある。一つは先祖霊による障害や天命運とチャクラの乱れが原因であるケース。もし仮に、神事を受けたにもかかわらず報われないとするならば、それはそもそも選択する人生の方向性が間違っているということになる」

    『神事が終わっていても、選択する方向性が間違っているということもあるんですね』

    「身近な例をあげると、大事なプレゼンや試験があるのに、徹夜で睡眠不足のまま挑んでも成果は出にくいじゃろう?」

    『それはもちろんそうです!』

    「そして先祖霊以上に大事なことは、少し話が戻るが結局のところ、お経そのものに効果があるかどうかよりも、読み手が“霊能力”持ちかどうかの方が大事なのじゃよ」

    『それは、“霊能力”持ちの人がお経を読んだから効果があったということですか?』

    「それもそうじゃが、たとえば魂の階級が “1:先導者”かつ“霊能力”持ちでない人間が、その昔賛歌や祝詞を唱えたら天候に変化が起きたという事実を知り、自分もこの賛歌や祝詞を同じように唱えれば天候に変化が起きると思い込み、現代のお経のようにご利益目的で使われるようになったのかもしれんな」

    『でも、実際には賛歌や祝詞を唱えても効果はありませんよね? 少なくとも、僕が唱えてもダメな気がします』

    「しかし、偶然、天候が変わるタイミングと重なって唱えたら、効果があると信じる人も出てくる可能性も否定はできまいな」

    『確かにそうですね。何も知らない人にとっては奇跡が起きたと思って当然だと思います』

    「しかし、実際は偶然であって必然ではないし宗教の開祖にかぎってはお経を唱えることで何らかの効果を期待できたのかもしれんが、誰もが同じ効果を期待できると断言するのはどうしても無理がある」

    青年はうつむき、表情を曇らせた。毎日口癖のようにお経を唱えていた祖母を思い出したのだろう。

    「また別の観点から話をすると、特定の言葉を繰り返し唱えることによって一種の自己暗示・催眠状態になることがある。その場合は本人の心身に対する何らかの働きかけがあることは否定できまい。その言葉がその人にとって幸せをもたらすと思っている言葉ならなおさらじゃな」

    『なるほどです。言霊の力もあるのでしょうけど、この言葉を唱えていれば幸せになれると信じて繰り返していれば、ほんとうに幸せになることもあるのでしょうか?』

    「そのあたりはケースバイケースじゃな。もしお経を読んでいても何の意味もないとか無駄だと内心で思っていたら、その人にはあまり効果がないじゃろう。しかし、お経を読むことで幸せになると信じ続ければ、また違った結果も出てこよう。つまり、お経を読んでいれば幸せになれるというのは正解でもあり、不正解でもあるわけじゃ」

    『お経が人々に幸せをもたらすのではなく、お経を読んでいる人の姿勢次第ということなのですね。でも、結局のところ、幸せになりたい人はどうしたらいいのでしょうか? 僕には“霊能力”はありませんし、ほとんどの人もそんなものは持ってないでしょうし』

    「“霊能力”持ちだから偉いとかすごいということではなくて、霊能力の有無もまた今世での役割の違いに過ぎないと考えたほうがよい。やみくもに“霊能力”を手に入れようとしたり現世利益的な意味での幸せを追い求めたりするのではなく、自分は自分なりに今世での魂の修行に取り組むのにベストな肉体、能力を与えられたのだということをしっかりと受け入れ、目の前のことを真剣にたんたんと取り組むことじゃな」

    『大事なのは過去の苦しさや未来への不安に囚われることではなく、今の目の前のことにたんたんと取り組むことなんですね』

    「そうじゃ。それを“即今・当処・自己”ともいう」

    『わかりました。ありがとうございます』

    スッキリして帰宅した青年は、まずは部屋に散らかっているゴミを捨てるのだった。

     

  • 霊脈と血脈

    新千夜一夜物語第6話:霊脈と血脈

    青年は困っていた。神事は全て済んだはずであるのになんだかんだ障害があり、絶好調とは言いがたかったからである。いずれにしても一人で考えていても答えが出ないと思い、陰陽師を訪問することにした。

     

    『すみません。先祖霊とチャクラと天命運の神事を全て終えたのに、まだ何か残っている感じがするんです」

    陰陽師に会うなり、そう青年は切り出した。

    「持病の腎臓かわかりませんが、原因不明の腰痛が続いているのですが・・・』

    「それは辛そうじゃな。どれ、鑑定してみよう」

     目を閉じて指を小刻みに動かし、鑑定を始める陰陽師。そんな陰陽師を青年は固唾を飲んで見守った。やがて陰陽師が口を開いた。

    「どうやらそなたの母方の曽祖父が地縛霊化しておるようじゃな。そしてそれがそなたの腰に影響を与えている」

    『でも先祖霊の神事で、僕に憑いていたご先祖様は全員救霊されたのではなかったんですか?』

    「霊脈の先祖という意味ではたしかにそうじゃ」

    「霊脈の先祖でしょうか」

    「そうじゃ。一口に先祖と言っても、子孫に受け継がれる先祖には、血脈と霊脈の二つがある」   

    『血脈は両親から受け継いだ体だと思いますが、もうひとつの霊脈は別なのですか?』

    「そうじゃ」

    陰陽師が小さく頷く。

    「ところで、そなたは何人兄弟かの?」

    『4人兄弟です。姉が二人と兄が一人います』

    「説明するのにちょうどいい人数じゃな。家族の名前を教えてくれんか?」

     青年は簡単な家系図を書き、両親と兄弟の名前を伝えた。

    「そなたの家族の魂の階級は“3:ビジネスマン”と“4:ブルーカラー”の二つに別れておる」

    『えっ、両親なのに、魂の階級が異なるなどということがあるんですか?』

    「そうじゃ。例えば、父親の魂の階級が“3:ビジネスマン”で、母親の魂の階級が“4:ブルーカラー”である場合、血液型のように3と4の魂の子供が生まれてくる可能性が極めて高い」

    『そうなのですね…。我が家の場合、両親が3と4なのでしょうか?』

    「そなたの家族は少し特殊じゃな。そなたの姉一人を除いて5人が“3:ビジネスマン”階級となる」

    『両親が二人とも階級が3なのに、姉は4なのですね。不思議です』

    「隔世遺伝という言葉があるように、霊脈にも隔世遺伝が存在する。つまり、そなたの祖父母か曽祖父母に階級が4の人がいたわけじゃな」

    『そういうことでしたか。つまり、僕に地縛霊化して憑いている母方の曽祖父は、霊脈ではなく、血脈の方なのですね』

    「そういうことじゃ」

    『母方の曽祖父が血統つまり僕の霊脈でないということは、唯一階級が4である姉の霊脈になり、本来は姉に憑くはずでは?』

    「それはじゃな、“霊媒体質”の強さが関係してくるので一概には断定できん。霊媒体質は先日話した“霊感”とほぼ同義と思っていい。確かにそなたの母方の曽祖父はそなたの姉の霊脈なのじゃが、姉よりもそなたの方が“霊媒体質”が強い場合にはそなたにかかることになる」

    『“霊媒体質”が強いと地縛霊が寄ってくるし、いつの間にか他者の念を拾って心身が不調になったりするのであれば、それは長所というよりも短所なんじゃないかと思えてきてしまいますが』

    「そう捉えることもできるが、ものは考えようということもできる」

    「そうでしょうか。たとえばどのような?」

    「そうじゃな、たとえば虫の知らせのように、よくないことを事前に感じ取って回避しやすいというメリットもある」

    『おっしゃる通り。一長一短とは正にこのことですね』

    青年は納得顔で頷いた。

    「それにじゃ。そなたに“霊媒体質”があるおかげで地縛霊化した先祖はそなたを通じてワシと縁が持て、その結果あの世に帰還できるわけじゃが仮にそなたの母方の曽祖父が地縛霊化したとして、子孫の全員が魂の属性が7すなわち“霊媒体質”でなかったらどうなると思う?」

    「さあ、どうなってしまうのでしょうか?」

    「直近の家族に魂の属性3の人間がいない場合どうなってしまうか以前説明したのじゃが、覚えておるかな?」

    『たしか、かかる子孫がいない場合、縁がある土地に憑いてしまうんでしたよね。ということは、この広い地球上で“カミゴト”ができる霊能力者がその土地を訪れる機会なんてほとんどないわけですから、よほど運がよくなければその先祖はほぼ永久に地縛霊のままなのですね…』

    「また、そういうことになるな。魂の属性が7の人物が魂の属性が3の人物と結婚し、魂の属性が3の子孫が産まれてようやくかかることができるわけじゃが、その場合、一斉に地縛霊化した先祖たちがその子孫に集まってくることになるので、その子孫が受ける霊障は必然的にきついものとなってしまう」

    『魂の属性が3の子孫が現れるのが後の世代になる分、各世代分のご先祖様が押し寄せてくるわけなのですね』

    「そのとおりじゃ。そなたのような“霊媒体質”持ちの人にとっては迷惑かもしれんが、地縛霊の立場から考えれば、こうしてワシの所にきて救霊する機会を与えてくれるそなたは、正に千載一遇の恩人というとこになるわけじゃ」

    『そうなのですね。自覚はありませんが、いずれにしてもご先祖様のためになっているのであれば、それはそれで嬉しいです』

    「同じ両親から産まれた子なのに性格などが兄弟で全然違う、というのは血統が同じでも霊脈がそれぞれ異なるからなのじゃよ」

    『我が家では姉だけが浮いているのがこれで納得できた気がします。では、地縛霊化している母方の曽祖父の救霊をお願いできますか?』

    「あいわかった。神事が終わったらすぐに連絡しよう」

     青年は深々と頭を下げ、退室した。胸が熱くなり、涙が溢れそうになったのは母方の曽祖父への想いからだろうか。

     

     

  • 天職と魂の善悪②

    新千夜一夜物語第5話:天職と魂の善悪

     

    「まず一番目の1/2じゃが、文字通りの“善悪”、善悪という言葉が強すぎるとすれば“執着”を意味しており、先頭に2がついた場合は2-2-2-2-2という組み合わせしか存在しない」

    『先頭が2だと全てが2ということは、完全な悪みたいな印象です』

    青年は目を見張った。陰陽師は微笑みで応え、続ける。

    「二番目の1/2には世の中に対して“厭世的”というか、「どうせ、わたしなんか・・・」と“世の中に対し斜に構えている”性格であることを表している。よって、2が二番目だけであるのであれば、逆に、身の回りで起こったすべての不幸・問題を自分の責任として処理してしまうといったポジティブな側面を持っていると考えることも可能じゃ」

    『ここだけ2の人を見ると、悪というよりは変わった人という感じがしますね』

    「三番目の1/2は、他人に対しての“攻撃性”を意味している。“攻撃性”といっても文字通りの“暴力”だけでなく、“言葉や態度”による圧力もその中にふくまれている。また、“愚痴や文句が多い”などという特徴もこの数字の意味する範囲じゃ」

    『“攻撃性”は持って生まれた性格かと思っていましたが、魂の鑑定でもわかってしまうのですね・・・』

    「四番目の1/2は、“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という性格を表している」

    『ここに2がある人に対しては、禍根を残すようなことはしないように気をつけます…』

    陰陽師は深く頷いて応えた。

    「五番目の1/2は、“自己顕示欲”じゃ。スポーツ・芸能・芸術を生業にできるのは2-3-5-5・・・2という属性だけであると先述したが、最後の2に該当するのがこの五番目の2じゃ」

    『なるほど。ここが2であることも芸能界に入るには必要なのですね!』

    首肯する陰陽師。

    「たしかに、過酷なトレーニングを繰り返すことによって超人的なパフォーマンスを披露するアスリート、幾人もの人間を迫真の演技で演じ分ける役者、筆やペンを手に自らの内面から湧き出す情念を表現する画家・作家、自らの情念を五線譜上で表現する作曲家、例を挙げればきりはないが、そのいずれをとっても、一般人の想像を絶する“自己顕示欲”こそがその“原動力”になっているはずじゃ」

    『昔の作曲家の伝記を読んだことがありますが、そんな気がします』

    「同様に、公官庁のおける高級官僚、一部上場企業の社員、一定規模以上の中小企業の社長・役員クラスなども、武将・武士ともに、五番目の1/2はやはり2となる」

    『業界を問わず、上の立場になるには必要な素質なのですね。僕はそこまで昇り詰めようという気概が湧かないかもしれません』

    青年は両手を挙げて降参のポーズを取る。

    「逆に、一番目から二番目にひとつ、あるいは二つ以上の2がありながら、最後に1がある人間は要注意人物ということでもある。いわゆる“外面がいい”タイプで、腹で思っていることとその言動には大きな乖離があるという前提で、相手とつきあう必要があるからじゃ」

    『“自己顕示欲”がないことがよいことかと思いきや、そうした問題もあるのですね』

    「また、どうしても我々は今世を中心としてものごとを考えてしまうので問題があるのじゃが、400回に及ぶ輪廻転生の1回である今世という視点で考えてみると、欲求があるから善いとか悪いということではなく、今回の宿題を果たすにあたり最適な属性を持って生まれてきているということでもある」

    『わかりました。他人を責めずに、これからは自分の人生に集中して生くことにしきます』

    青年の答えに満足したのか、陰陽師は微笑みながら傍にあったファイルを開き、青年に見せた。ファイルの中には、様々なジャンルに分けられた職種が羅列されている。

    「とはいえ、天職ベスト3として具体的な職業も鑑定して伝えるから、人によって何を扱うのかが向いているかはまた別の話じゃ」

    半ば夢中になってファイルをめくっている青年。

    『こんなにたくさんの職業の中から選ばれるのですね。ちなみに、僕のベスト3も教えていただけるのでしょうか?』

    「もちろん。じゃが、天職というのは今世の魂の修行をこなすのに適した職業であって、現世利益つまり高収入になるとは限らないことは忘れないように」

    『わかりました。ベスト3まで教えていただけるということは、ベスト1位の職業で生計が立てられそうにない場合に2位か3位の職業で収入を得やすい方を本業にし、ベスト1位は副業にしたり、あるいはそれだけで生計を立てられるようになったら本業にして専念すればいいのでしょうか?』

    「うむ。ただし、天職診断の結果でベスト3に挙げられたからといって、その仕事をしなければならないというわけではないから、最終的にどんな職業を選ぶかはそなたの自由ということになる。ただし、1位は天命と深く関わりがあるから、その仕事の情報に触れておくは大事じゃ」

    陰陽師の言葉をかみしめるように何度も頷く青年。

    『参考にさせていただきますので、教えてください』

    「あいわかった。そなたの天職ベスト1位は“伝道者”、2位は“気功師”、3位は“ギャンブラー”となる。簡単に言ってしまうと、一見あやしい分野が向いているわけじゃな」

    『確かに、どれも世間はあやしい職業ですね・・・』

    「補足をしておくと、そなたの場合、“伝道者”としての具体的な伝達手段はnoteやYoutubeといったITを駆使して有益な情報を広く拡散していくのが向いているようじゃな。“気功師”は言葉の通りじゃ。“ギャンブラー”は麻雀やポーカーが向いているぞ」

    『言われてみれば、麻雀もポーカーも昔からゲームで触れていました。ただ、職業にするという話になると勇気が要ります』

    「麻雀とポーカーに関しては“勝ち運”があるということではあるものの、すぐに生計が立てられるというわけではないぞ。また、魂の修業という話をこっちに置いておいたとしても、時給換算の仕事に就いて日々の時間を費やすより、それらに取り組む方が長い目で見ると向いているという意味じゃ」

    『なるほど。いくら運がよくても掴み取れなければ意味がないと思います。すぐに稼げるほど甘い世界ではないでしょうし』

    「まあ、そういうことじゃな」

    微笑みながら陰陽師が小さく頷いた。

    『・・・では、せっかく天職のヒントを教えていただけたので、帰ってベスト3の職業について調べようと思います』

    「選択肢がいろいろ出揃って一つに決めきれない場合、運気的にもっともそなたに合っている選択肢をあらためて鑑定することも可能じゃから、そのようなときにはあらためてここへ来るとよい」

    『たとえば、noteの販売価格はいくらがいいのかといった具体的な質問でもいいということでしょうか?』

    「もちろんじゃ。ただし、こうみえてもワシも暇ではない。よって、みる手間を省くためにも、ワシに一から数字を求めるのではなく、そなたなりに金額の候補をいくつか挙げてもらい、その中からワシが最適な数字を選ぶか、yesかnoという二者択一方式で回答できるようにしてもらった方が助かるな」

    『かしこまりました。選択で迷ったらお願いします』

    青年は思案にふけながら帰路についた。天職ベスト3がなぜあれらだったのかはわからないが、いつの日か点と点が結びつく時がやってくるということは、なぜか信じられたのだった。