カテゴリー: 小説

魂には4つの種類があり、永遠の世での職責を果たすため、魂磨きの修行の場であるこの世に400回に渡る輪廻転生を繰り返している、という前提の基、この世の出来事や人物が取った行動を対話形式で解説しています。

  • 新千夜一夜物語 第62話:将棋とチェスの名人に共通する魂の属性

    新千夜一夜物語 第62話:将棋とチェスの名人に共通する魂の属性

    青年は思議していた。

    オリンピック以上のプロのスポーツ・芸能・芸術を生業にできる人物は、魂の属性が“2−3−5−5…2”に限られるというルールがあるなら、将棋やチェスといった、盤上での競技におけるプロの棋士にも、何らかの霊的な共通点があるだろうか。

    独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を尋ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は将棋の棋士たちの魂の属性について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「あいわかった。そなたが気になった棋士の名前を教えてもらえるかの」

    『まずは、最年少記録や歴代一位の記録を持つ、藤井聡太と羽生善治についてお願いいたします』

    そう言い、青年は二人の略歴を口頭で伝える。

    《藤井聡太》
    2016年に史上最年少(14歳2か月)で四段昇段(プロ入り)を果たし、そのまま無敗で公式戦最多連勝記録(29連勝)を樹立した。その後、最年少一般棋士優勝・タイトル獲得、史上初の10代九段・二冠・三冠・四冠など多くの最年少記録を持っている。

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は、紙に鑑定結果を書き連ねていく。

    《羽生善治》
    ・1985年に中学生でプロ棋士となり、1989年、初タイトルとして竜王位を獲得。1996年2月14日、将棋界で初の全7タイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)(当時のタイトル数は7)の独占を達成。
    ・2017年12月5日、第30期竜王戦で15期ぶりに竜王位を獲得し、通算7期の条件を満たして永世竜王の資格保持者となり、初の永世七冠(永世竜王・十九世名人・永世王位・名誉王座・永世棋王・永世王将・永世棋聖)を達成。さらに名誉NHK杯選手権者の称号を保持しており、合計8つの永世称号の保持も史上初。
    ・2018年度(2019年)の第68回大会で優勝し、同大会優勝回数を11回に更新の上、一般棋戦(タイトル戦以外のプロ公式戦)の通算優勝回数が大山康晴を超え史上最多の45回となった。
    ・通算優勝回数152回、公式戦優勝回数144回、タイトル獲得99期、タイトル戦登場136回、同一タイトル戦26回連続登場(王座)、同一タイトル獲得通算24期(王座)、一般棋戦優勝回数45回は歴代単独1位の記録である。また、非タイトル戦優勝回数53回、非公式戦優勝回数8回、最優秀棋士賞22回、獲得賞金・対局料ランキング首位23回も歴代1位である。

    陰陽師が書いた二枚の属性表を見比べ、青年は口を開く。

    『やはりと言いますか、二人の属性表の数字は共通点が多いですね。特に、この二人の転生回数が290回代ということで、以前、“9”という数字には例外/矛盾という意味を持ち、“世の変革者”、収束、まとめるなどの役割を持つ傾向があるとお聞きしました』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    《転生回数の“十”の位と“一”の位の数字が持つ意味》
    9:大々山、例外/矛盾、世の変革者、収束、まとめる
    7:大山
    4:小山
    3:数奇な運命、爆発、拡散、アップダウンが激しいなど
    1:雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい

    陰陽師が無言でうなずくのを見、青年は言葉を続ける。

    『将棋では古くから脈々と定石が受け継がれており、日進月歩、多くの棋士たちが最善の一手を研究しています。そうした棋譜を収束してまとめた結果として、真剣勝負の最中に相手の考えを看破し、好手や妙手を閃くという意味では、転生回数の290回代は文系の中での“大々山”と考えれば納得できます』

    「そのように考えることもできるじゃろうが、何事も例外があることと、あくまで現時点での検証の結果であるため、今後の検証によっては解釈が変わる可能性があることを覚えておくように」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずく。

    「その前提を踏まえた上で補足しておくと、転生回数の200回を境に文系と理系に分かれ、転生回数が200回以下と若い第三期と第四期の魂は理系の傾向が、200回を超える第一期と第二期の魂は文系の傾向があることは、以前にも説明した通りじゃ」

    そう言い、陰陽師は紙に解説を書いていく。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    手を止めた陰陽師が言葉を続ける。

    「して、棋士にもピンからキリまでいると思うが、今度はさきほどの二人のような名人級以外で、他に気になる棋士はいるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『棋士であると同時に投資家としても知られている桐谷広人と、将棋ソフト不正使用疑惑騒動を起こした、三浦弘行はいかがでしょうか』

    そう言い、青年は二人の略歴を口頭で伝える。

    《桐谷広人》
    ・1975年に四段昇段を果たしプロ棋士となった。当時まだ珍しかった、研究派の棋士で「コンピューター桐谷」の異名をとった。
    ・観戦記なども手掛け、囲碁・将棋チャンネルの「桐谷広人の将棋講座」及び「名勝負の解説」では師匠・升田幸三の将棋の解説も務めた。
    ・2000年には現役勤続25年表彰を受けた。第55期順位戦でフリークラスに陥落、復帰できないまま10年が経過したため、2007年3月末に引退した。通算成績は327勝483敗。
    ・“財テク棋士”として著名になり、現在では、財テクに関する雑誌“ダイヤモンドZAi”や“日経マネー”にも、個人資産家として登場する。2006年時点で桐谷は、株式を約400銘柄、時価3億円分を保有し、そのうち1億円が優待銘柄という。
    ・株主優待を活用することで生活費はほとんど現金を使わない。また、将棋棋士としての戦術思考を投資の世界でも十分に発揮し、人並み以上の優れた記憶力で、手元に届いた数多くの商品券の使用期限を全て頭の中で把握している。
    ・なお、将棋棋士としても投資家としてもテレビ番組に出演しており、テレビCMにも出演している。
    ・タカラトミー「大車輪てつぼうくん」(2014年)
    ・「ヤマハミュージックジャパン“クラビノーバ”CVP-700シリーズ」『音楽を、もう一度。』(2015年)

    《三浦弘行》
    ・将棋ソフト不正使用疑惑騒動の発端は、三浦の対局中の離席(特に久保利明との対局で30分以上離席したと久保利明が勘違いした事)や指し手の傾向(特に渡辺明との対局で三浦が局後の感想戦で示したコンピュータ将棋風の指し手)などを怪しんだ一部の棋士の告発によって、三浦がスマートフォンを利用してコンピュータ将棋ソフトを対局中に不正使用したのではないかとの嫌疑がかけられたことである。
    ・一部の棋士による疑惑の告発、日本将棋連盟による三浦の出場停止処分とそれに伴う竜王戦挑戦者変更、第三者委員会の調査による疑惑の解消と三浦の名誉回復、連盟理事5名の引責辞任・解任、これを契機とするルール改定が騒動の主たる内容である。
    ・日本将棋連盟の聞き取り調査に対して三浦は疑惑を否定したものの、調査のために休場することとなり、最終的には休場届の未提出を理由として連盟から出場停止処分が下された。三浦は第29期竜王戦挑戦者に決定していたが、出場停止に伴い挑戦者が丸山忠久に交代するという異例の事態となった。

    陰陽師は小さくうなずき、無言で紙にペンを走らせる。

    合計4人分の属性表を見比べた青年は、何度もうなずいてから口を開く。

    『このお二人は、転生回数が第二期で十の位が“4”の“小山”の時期に相当する魂3:武士ですので、先ほどの二人との大きな違いは、転生回数にありそうですね』

    「どうやらそのようじゃな」

    青年は三浦弘行の属性表の一部に視線を向け、再び口を開く。

    『それにしても、実際の真偽はさておき、不正疑惑騒動が起きてしまった要因の一つに、三浦弘行の人運の“6”という低さが関係している可能性は考えられるのでしょうか』

    そう言い、青年は“6”が持つ傾向について、紙に書き出していく。

    6:「不幸(そのもの)」「不幸な選択」「不実」「攻撃性」「サド的気質」

    「一つの出来事には様々は要因が複雑に絡み合って生じていることから、その一点のみで判断することはできぬが、その可能性も否定できないじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいた後、口を開く。

    『最後に、“二歩の人”として有名な橋本崇載を鑑定していただけますでしょうか』

    「よかろう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    新たな属性表を眺めた青年は、首をかしげながら口を開く。

    『彼も転生回数が290回代ですので、藤井聡太や羽生善治のような名人になれる素質はあったように思われますが、彼の転生回数の一の位の数字が“1”である一方、名人と呼ばれる二人の転生回数の一の位は“4”ですので、この違いも関係していると考えられるのでしょうか』

    「人間は多面体であるため、転生回数に限らず、属性表の一部のみを見て判断してはならぬが、少なくとも、転生回数に限って言えば、そのように考えることもできるじゃろうな。して、橋本崇載の戦績や略歴はいかほどなのじゃ?」

    青年は再びスマートフォンを操作し、口を開く。

    《橋本崇載》
    ・1994年9月奨励会試験では、2位で入会。試験対局の成績は7勝2敗だったが、その2敗はいずれも反則負けだった。
    ・第24回(1998年後期)より三段リーグ入り。参加2期目の第25回では、暫定2位の成績(12勝4敗)で最終日を迎えたが、2連敗を喫し6位に終わった。
    ・2004年度のNHK杯テレビ将棋トーナメントに出場した際、金髪のパンチパーマという髪型に、紫色のワイシャツを着用しており、その奇抜な出で立ちが話題となった。そのトーナメントを勝ち進み迎えた羽生善治戦(2005年1月放送)におけるテレビ視聴率は、通常のそれと比べて3倍になったといわれている。
    ・2008年度の第49期王位戦でも予選から挑戦者決定リーグ入りし、タイトルホルダーの渡辺明竜王、A級在籍棋士の丸山忠久他を破り最上位者となり、挑戦者決定戦に出場したが羽生善治に敗れ初のタイトル挑戦には至らなかった。
    ・第34期棋王戦では予選を勝ち抜き本戦に出場。そこでも当時王位のタイトルを保持していた深浦康市に勝利するなど快進撃を続け、準決勝に進出したが、タイトル挑戦には至らなかった。
    ・2009年度、第50期王位戦挑戦者決定リーグでは、タイトルホルダーの久保利明棋王、A級在籍棋士の佐藤康光、三浦弘行、井上慶太を破り最上位者となり、2年連続挑戦者決定戦に進出したが木村一基に敗れ、またも初のタイトル挑戦には至らなかった。
    ・シード権を獲得して臨んだ第35期棋王戦では、2年連続で準決勝に進出。しかし準決勝でも敗者復活戦1回戦でも敗れ、またしてもタイトル挑戦には至らなかった。
    ・2014年度、第64回NHK杯戦でベスト4進出するも、準決勝で二歩の反則手を指して敗退した。“二歩の人“として話題になる。
    ・タイトル挑戦・棋戦優勝・将棋大勝受賞歴がないのに、順位戦A級に昇給したのは、彼が史上2人目である。

    「なるほど」

    青年は再び属性表を眺めた後、口を開く。

    『彼には、血脈先祖の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますが、彼の戦績が転生回数に見合わない要因の一部になっていると考えられるのでしょうか?』

    そう言い、青年は“霊障”について、紙に書き足していく。

    ・霊脈先祖の霊障:今世の宿題に対して逆接な“重し”、すなわち、人生の方向性が今世の宿題と逆方向に働く
    ・血脈先祖の霊障:今世の宿題に対して順接、すなわち“無用な重し”となって顕在化する

    陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「少なからず、“2:仕事”の相は関係している可能性が考えられよう」

    青年は視線を落として小さくため息をつき、口を開く。

    『“唯物論者”である彼には霊脈先祖の霊障がかかっていないことから、棋士の道に進むことは、今世の彼の課題から大きく外れているとは限らないものの、棋士という狭き門をクリアできたのに実力を発揮できないのは、個人的に残念に感じます』

    「ちなみに、今の彼はどうしておるのじゃ?」

    『ウェブ上の情報を見る限り、今は棋士を引退し、YouTuberになっているようです』

    「なるほど」

    『彼には霊障がかかったままですので、YouTuberに転身しても、本来の実力が発揮されないかもしれません。そう考えますと、彼と何かしらのご縁があって、神事を申し込んでいただき、霊障を解消して活躍していただきたいと願わずにはいられません』

    「その機会があればいいがのお」

    陰陽師の言葉に対し、青年は首肯した後、口を開く。

    『以上で僕が気になる棋士は終わりですが、属性表における棋士の共通点は、いくつかあるようですね』

    五人の属性表を見比べた後、青年は口を開いた。

    ・2−3武士
    ・基本的気質O Sと具体的性格ソフトの数字が共に“7(1)”
    ・欄外の枝番が“1”
    ・全体運が9
    ・ビジネス運が9
    ・同一指向性が85以上
    ・トンチンカン度が40以下
    ・頭の回転の早さが80以上
    ・物事の本質を見極める力が80以上
    ・自己顕示欲の数字が“2(5)”
    ・人運が7以下
    ・「自己中」度が70以上

    『記録保持者の二人と他の三人における、転生回数以外の違いとしては、頭1/2とインターフェイスがあります。前者たちは頭1―3でインターフェイスの一桁目の数字が“3”である一方、後者たちは、頭1−7や頭2、インターフェイスの一桁目の数字が“6〜7”です』

    陰陽師が無言でうなずいて続きを促しているのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『つまり、あえて極端な言い方をしてしまうと、名人と呼ばれる強さを持つ人物には、性格や気質が温和だったり、落ち着いている傾向があるのでしょうか?』

    「対局中に頭に血が上ったり、気分にムラがあっては重要な局面で冷静な判断ができないという可能性を考慮すれば、その傾向があると考えられるじゃろうな」

    『なるほど。ちなみにですが、駒を用いるという意味では将棋と似ている、チェスの世界ランキング一位の人物、マグヌス・カールセンの鑑定もお願いできますでしょうか?』

    「もちろんじゃとも。どんな人物かの?」

    青年は口頭で、マグヌスのチェス歴を伝える。

    《マグヌス・カールセン》
    1999年にノルウェーの国内選手権に8歳7ヶ月で出場。
    2004年に当時史上3番目の若さである13歳4カ月でグランドマスターになった。
    2010年1月に初めて世界ランキング1位になった。(史上最年少、19歳32日)
    2013年11月22日、世界チェス選手権で世界王者となる。なお22歳11か月での王者はガルリ・カスパロフ(22歳6か月)に次ぐ史上第2位の若さであった。
    2014年5月のレーティングでは歴代最高記録となる2882をマークした。2019年8月にも2882をマークしている。

    陰陽師は紙に鑑定結果を書き足していく。

    全員の属性表を見比べた後、青年はやや目を見開きながら、口を開く。

    『彼もチェスにおいて、世界ランキング1位という最年少記録を持つものの、転生回数は290回代ではないのですね』

    そう言い、青年は棋士たちと彼の属性表の相違点を書き連ねていく。

    ・物事の本質を見極める力が40と低い
    ・トンチンカン度が85と高い
    ・同一指向性が60と低め
    ・大局的見地が60と低め

    『将棋もチェスも頭脳戦の極地のように思われますので、これだけ違いがあることが意外に感じますが、チェスでは“取った相手の駒を再利用できない”という、将棋とのルールの違いが関係している可能性が考えられるのでしょうか?』

    「その可能性はじゅうぶんに考えられるじゃろうな」

    『やはり、そうでしたか。ちなみに、将棋とチェスでは局面の数が異なると言われています』

    そう言い、青年はそれぞれのゲーム中に現れる局面の数を紙に書き出していく。

    オセロ:10の60乗
    チェス:10の120乗
    将棋:10の226乗
    囲碁:10の360乗

    『将棋よりもチェスの方が局面の数が少ないという点に限って考えれば、チェスにおいては、マグヌス・カールセンの属性が適している可能性は考えられるのでしょうか』

    「そのように考えることもできよう」

    『ちなみに、将棋界にはチェスファンが多く、羽生善治は国内トッププレイヤーとして活躍しているようで、2022年には藤井聡太もチェスの大会に参加する予定です。実際、彼らはチェスでも世界ランキングの上位に入れる素質はあるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はそれぞれの適性(言い換えれば強さ)を紙に書き足していく。

    《チェスの適性(言い換えれば強さ)》
    マグヌス:100
    藤井聡太:90
    羽生善治:90

    《将棋の適性(言い換えれば強さ)》
    藤井聡太:100
    羽生善治:95
    マグヌス:60

    鑑定結果を見た青年は、納得顔でうなずきながら、口を開く。

    『“大は小を兼ねる”ではありませんが、やはり将棋の名人であるお二人もチェスの適性が高いようですね。その一方、マグヌス・カールセンはさすがの100点ではありますが、将棋の強さがだいぶ下がっていますので、彼の魂の属性と各スコアはチェス向けだということがわかります』

    「どうやらそのようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいた後、口を開く。

    『ところで、棋士たちとマグヌス・カールセンに共通している項目の中で、次の二つが気になりましたが、どのような理由が考えられるのでしょうか?』

    そう言い、青年は紙に書かれた共通点の二つを丸で囲む。

    ・人運が7以下
    ・「自己中」度が70以上

    「その二つに関して説明すると、スポーツを含め、対戦型の勝負事をすることが今世の課題に含まれている人物は人運が低く、“自己中”度のスコアが高い傾向がある」

    『なるほど。“長所と短所は表裏一体”ではありませんが、一般的には望ましくないと思われるそれらのスコアが、勝負事においては活かされることもあると考えられるということでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師はうなずき、口を開く。

    「その通りじゃ。ただし、あくまで鑑定結果は、各々が転生前に自らに課してきた“今世の課題”を果たすためにベストな数字である。ゆえに、それぞれの数字を単独で注目して人物評価をすることは禁物じゃ。そのことをじゅうぶんに理解した上で己の傾向をじゅうぶんに理解し、目の前の出来事に真摯に取り組み、日々、魂磨きに励むことが肝要なのじゃよ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は藤井聡太と羽生善治とマグヌス・カールセンの属性表を見比べていた。

    日本では、どんな面においても満点に近い方が望ましい、という認識があるように思われる。

    言いかえれば、優秀な人物というのは、一部の例外をのぞき、全てのスコアが満点に近い人物なのだろう。

    そう考えると、マグヌス・カールセンよりも藤井聡太と羽生善治の方がこの世の基準でトータル的に考えれば優秀なのだろうが、チェスの適性(言い換えれば強さ)はマグヌス・カールセンの方が高い。

    つまり、優秀な人物を目指したり、優秀な人物ばかりを求めるのではなく、結局は各々が自分の傾向や適性を把握し、今世の課題を果たせる環境に身をおくこと、すなわち”適材適所”が重要なのかもしれない。

    過去の自分のように、己の傾向や適性よりも世間が求める優秀さを目指すあまり、疲弊してしまっている人は少なくないと思われる。

    そうした人々が神事を済ませてパフォーマンスが100%になり、自身の魂の属性をよく理解した上で、今世の課題を果たす方向に人生を舵取りし、悔いのない日々を過ごしてもらいたい。

    そのためにも、”天職”ランキングと”運気を下げずにもっとも稼げる職業”ランキングが自分にとって共に一位である、“啓蒙活動”に尽力しよう。

    そう、青年は思議したのだった。

    《合わせて読みたい》
    第23話:この世のルールと芸能界
    神事について

  • 新千夜一夜物語 第61話:ジョーカーと無敵の人

    新千夜一夜物語 第61話:ジョーカーと無敵の人

    青年は思議していた。

    2021年10月30日に、服部恭太氏が京王線の車内で70代の男性の右胸を刺して重傷を負わせ、さらに電車内で放火した件についてである。彼の犯行によって17人が重軽傷を負い、彼は殺人未遂として現行犯逮捕された。

    また、彼は映画“バットマン” に登場する悪役である“ジョーカー”に憧れて犯行に及んだとも述べていたことから、この事件は“ジョーカー事件”とも呼ばれているようだ。

     彼と“ジョーカー”には、霊的に何らかの共通点があるのだろうか。
    そして、こうした事件を起こす人物は“無敵の人”とも呼称されているが、“無敵の人”にも何らかの共通点があるのだろうか。

    独りで考えてもらちが開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は、ジョーカーと“無敵の人”について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「あまり聴き慣れない言葉じゃが、“無敵の人”とはどういった人物のことをさすのじゃ?」

    『“ひろゆき”氏による造語ではありますが、簡潔にお伝えしますと、無敵の人とは、“社会的に失うものが何も無いために犯罪を起こすことに何の躊躇もない人”のようです』

    「なるほど。して、ジョーカーとの共通点は?」

    《映画“JOKER”における、アーサー・フレックスのセリフ》
    “僕に失う物なんてなにもない。僕を傷つけるものなど、もう何もない。僕の人生は喜劇にすぎない。”

    『アーサーのセリフは劇中のものではありますが、似ていると言えば似ていると思われます。そのため、ジョーカーと“無敵の人”には、霊的にもなんらかの共通点があるのではないかと思った次第です』

    「そなたが知りたいことについてはわかった。して、具体的にどんな人物の鑑定をすればいいのじゃ」

    『まずは、ジョーカーとジョーカー事件を起こした服部恭太氏の鑑定をお願いします』

    「さっそくみてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き出していく。

    両者の属性表を見比べた後、青年は口を開く。

    『両者の属性は共通点が多いですね。ちなみにですが、服部氏はジョーカーに憧れたと述べていたようですが、魂の属性が近いことから、親和性を持っていると考えられるのでしょうか?』

    「その可能性は考えられるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。

    『ジョーカーは映画“バットマン”シリーズの最大の敵で、犯罪の首謀者として描かれています。属性表を見る限り、転生回数の十の位が“小山”である“4”の魂3:武将であり、しかも一の位が“雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい”傾向がある“1”であることを考慮すると、納得できます』

    「そなたの見解に付言するとすれば、 “バットマン”シリーズは回を重ねるごとに脚本家が変わることもある。その結果、魂の種類や転生回数などの大まかな部分は変わらぬものの、脚本家の演出によっては細部の数字は変わることがある。つまり、今回の鑑定結果は最新の映画である“JOKER”のものであることを覚えておくように」

    青年は小さくうなずき、口を開く。

    『かしこまりました。いずれにせよ、今回の属性表だけから判断しても、ジョーカーが“悪の権化”といった側面があると考えられるのでしょうか』

    「そうじゃな。他のシリーズのジョーカーの鑑定をしていないゆえ、一概には言えぬものの、そうした側面は間違いなくあると考えられる」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、再び属性表を見比べる。

    『ジョーカーはビジネス運と人運が、服部恭弥氏は人運が“1”ともっとも低い数値ですが、それぞれの運が非常に悪く、仕事と人間関係において数多のトラブルを体験することが今世の課題に含まれている傾向がある、と考えても問題ないのでしょうか?』

    そう言い、青年は総合運について紙に書き足していく。

     総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる傾向がある。また、全体運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、全体運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がる傾向がある

    「その傾向はあるじゃろうな。ちなみに、映画“JOKER”ではどんな不運な出来事が描かれておるのじゃ」

    『映画での演出ではありますが、次のようです』

    ・アーサーがピエロの格好で店の看板を持ちながらセールの宣伝をしていると、不良の若者たちに看板を奪われ、しかも暴行を受ける。後日、彼は派遣会社から看板を壊したことと、仕事を放棄したことを責められ、まともに話も聞いてもらえなかった。
    ・アーサーは同僚ランドルから護身用にと半ば強引に拳銃を受けとるが、その拳銃を小児病棟の慰問中に落としてしまい、上司からクビを宣告される。しかも、同僚ランドルは保身のために嘘を吐いた。
    ・アーサーが地下鉄に乗っていると、1人の女性が酔っ払ったスーツの男3人に絡まれていた。彼は見て見ぬふりをしようとするも発作が起きて笑いが止まらなくなり、気に障った3人から暴行を受けると、反射的に拳銃を取り出して全員を射殺してしまう。
    ・不運が続くアーサーの心のよりどころは、同じアパートに住むシングルマザーのソフィー・デュモン。彼はソフィーとは挨拶をする程度の関係で、度々ソフィーの後をつけ、その姿を眺めていた。地下鉄殺人の犯人を支持する市民の様子に彼は気分を上げ、ソフィーと仲を深める。しかし、実際は、彼はソフィーとの仲を深めることなどできておらず、これまで過ごした2人の日々は全て彼の妄想だった。
    ・ランドルはアーサーが地下鉄殺人の犯人であることに感づいており、拳銃の出所について証言の口裏合わせをするため来訪した。その際に、アーサーは隙をついてランドルをナイフで胸と目に突き刺し、頭を何度も壁に打ち付けるなどして惨殺する。
    ・アーサーは、自分が母親の恋人によって酷い虐待をされていたこと、虐待する恋人を母親が止めなかった理由が“虐待されても笑っているから”だったことを知る。全てに絶望した彼は、母親を殺害した。
    ・尊敬する大物芸人マレーと生放送で共演することになったものの、アーサーはまず地下鉄での証券マン3人の殺人の犯人であることを告白すると、続いて社会の不条理を主張し始めた。マレーとの口論の末、怒りに身を任せてマレーを射殺し、その場で逮捕されてしまう。

    読み上げた後、青年は眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。

    『それにしても、これがノンフィクションだったら、壮絶な物語だと思います。映画として盛り上げるための脚本だと理解できるのですが…』

    「そうかもしれぬな。して、服部恭太氏にはどのような出来事があり、どのような動機で事件を起こしたのじゃ」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『まずは、事件前に彼の身に起きていた出来事です』

    ・4年前に恋人と別れたにもかかわらず、事件発生日もSNSのプロフィール画像に当時の恋人との写真を用いていた。
    ・2017年に漫画喫茶のシャワー室を2回盗撮した。
    ・3年以上務めたコールセンターの仕事では濡れ衣を着せられ、客とチャットでトラブルを起こす。その後、勤め先から部署の配置転換を提案されるが拒み、自主的に退職した。
    ・事件発生時は無職で、消費者金融からお金を借りて犯行の軍資金と生活費に充てていた。

    『今度は動機ですが、次のようです』

    ・人をやっつけるジョーカーに憧れていた。
    ・仕事で失敗して友人関係もうまくいかず死にたかった。
    ・自分では死ねないから人を殺して死刑になりたかった。2人以上殺せば死刑になれると思って事件を起こした。
    ・小田急線刺傷事件をまねた。

    「小田急刺傷事件をまねたとあるが、その事件はどういったものなのじゃ?」

    陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『ジョーカー事件の少し前、2021年8月6日に対馬悠介氏が牛刀を用いて小田急線の車内で乗客10人を斬りつける事件がありました。特に、標的にされた20代の女子大生は重傷を負っています』

    「なるほど」

    陰陽師のあいづちに対し、青年は言葉を続ける。

    『小田急線の事件では、対馬氏が刃物で切りつけた後、車内で放火しようとした点はジョーカー事件と同じです。ただ、着火剤として選ばれたサラダ油の引火点(着火するのに必要な最低温度)は250度らしく、彼はライターを使ったためにそこまで高温にすることはできず、火災には至りませんでした』

    「ちなみに、ジョーカー事件の加害者である服部氏は何を着火剤として用いたのじゃ」

    『対馬氏がサラダ油で失敗したことがWEB上に記載されており、そうした情報を知った服部氏は、可燃性の高いライターオイルを選び、小田急線の事件よりも被害が拡大したようです』

    「なるほど。ちなみに、小田急線刺傷事件の加害者は、どのような動機で犯行に及んだのかの」

    青年はスマートフォンを操作した後、口を開く。

    ・食料品店で万引きを行い、女性店員に通報された。店員を恨んだ容疑者は、その日のうちに殺害を決意したものの、食料品店が閉まる時間だったため、電車での無差別殺人に計画を変更した。
    ・以前サークルでばかにされ、出会い系でも断られるなどし、勝ち組の女や幸せそうなカップルを見ると殺したくなるようになった。
    ・“派手な感じをした勝ち組っぽい女性に見えた”という理由で、女子大生を狙った
    ・さらに大量殺人を企て、電車内にサラダ油を撒いてライターで火をつけようとしたが、燃えることはなかった。

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に属性表を書き足していく。

    新たに書き足された属性表を見た後、青年は口を開く。

    『彼の場合、ジョーカー事件の加害者と犯行の動機が異なり、女性への逆恨みや、そこから派生する攻撃性、八つ当たりという印象を受けます。また、属性表から判断するに、人運、恋愛運が共に“6”であり、“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”の中でも、特に“攻撃性”も事件を起こした要因の一部となっている可能性があるのではないかと考えました』

    「その可能性はあるじゃろうな」

    『動機は異なれど、電車内で起きた事件として話を進めますと、対馬悠介氏が小田急刺傷事件を起こしたことで、この事件を模倣して服部恭太氏が京王線刺傷事件を起こし、さらにその事件を模倣し、2021年11月8日に三宅潔氏が九州新幹線にて放火未遂をしました』

    「ちなみに、三宅氏の犯行の動機は似たようなものかの?」

    『ネットで調べる限り、当時の彼は生活保護であり、経済的に困窮していたことを主な理由とした自殺目的のようです』

    「なるほど。動機はそれぞれ一致してはいないものの、一つの事件をきっかけに、それと似たような事件が続いている可能性が考えられるようじゃな」

    そう言い、陰陽師は紙に属性表を書き足していく。

    全員の属性表が明らかになったことで、青年は四つの属性表を見比べた後、口を開く。

    『アーサー・フレックス(ジョーカー)と服部恭太氏の属性表は近いものの、他の2名は細部が異なる印象を受けます。とは言え、四名の共通点はそれなりに挙げられそうです』

    そう言い、さらに青年が4名の共通点を読み上げた後、陰陽師は口を開く。

    「そなたが挙げた共通点の中で、次の項目の数が多くなるにつれて、世間でいうところの“犯罪者”となる可能性が高くなると考えられる」

    そう言い、陰陽師が口頭で伝えた項目を、青年は紙に書き留めていく。

    《この世の基準における共通点》
    ・恋人がおらず、仕事がなくて経済的に困窮している。

    《属性表における共通点》
    1:頭2で、二桁目の枝番が“3”以上(1〜3)
    2:“自己中”度が80以上
    3:三桁目の枝番のほとんどが7か9
    4:仁が50以下
    5:慈愛が35以下
    6:攻撃性の項目の上段の数字が“2”
    7:インターフェイスの一桁目と二桁目の数字が共に“6”(攻撃性が高い)
    8:人運が“6”以下
    9:ビジネス運が“6”以下

    青年は紙に書かれた共通点を見た後、口を開く。

    『頭2の人物には、“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向があり、二桁目の枝番は、“1”に近いほど頭1/2の傾向が顕著になるとお聞きしました。4人とも、頭2で二桁目の枝番が“3”以上ですので、頭2の傾向がかなり強いと思われます』

    そう言い、青年は、頭1と2の傾向を紙に書き記していく

    頭1:農耕/遊牧民族の末裔。世のため・人のためを地で行動する傾向がある
    頭2:狩猟民族の末裔。“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある

    手を止めた後、青年は言葉を続ける。

    『また、2:“自己中”度の高さが頭2の傾向に輪を掛けていると思われますが、加えて、3の条件によって“この世の法律や社会規範”から逸脱した言動を取る傾向があると考えられるため、各々が犯罪に手を染めようという結論に至る傾向があったと考えられます』

    「そのように考えることもできるかもしれぬな」

    『事件を起こそうと思い至っても、場合によっては考え直す機会もあったかもしれませんが、4から7の特徴によって、思いとどまることなく、実際に犯行に及んでしまった可能性が考えられるのでしょうか』

    「人間は多面体で一つの出来事においても様々な要因が複雑に絡んでいることから、一概には言えぬものの、そうした可能性も考えられるじゃろうな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。

    『8と9に関しては、“恋人がおらず、仕事がなくて経済的に困窮している”という、この世の基準における共通点に通ずるところがあると思います。ただし、8と9の数値が低いがゆえに今世ではそうした境遇に陥ってしまったと考えられます』

    「そなたの考えに対して付言しておくと、対馬悠介氏について言及した際に“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”と説明していたと思うが、そうした数字が持つ傾向については、あくまで現時点での見解であり、今後、より多くの人物の鑑定とその人生を照らし合わせて統計を取っていくことで、変わる可能性があることを覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、口を開く。

    『かしこまりました。ここまでのお話をまとめますと、世間的には、“無敵の人”が誕生する原因は社会にあるという声もあります。確かに、今回取り上げた人物達に、恋人・友人がおらず、仕事もお金もないことの要因に、コロナ禍もあってか、昨今の社会情勢の影響もあったかもしれません』

    青年の言葉に対し、陰陽師は黙って続きを促す。

    『しかしながら、今世の宿題に対し、逆接方向に顕在化する、霊脈の先祖霊の霊障がかかっていないことと、欄外の枝番が持つ傾向と、ビジネス運、人運、恋愛運が低いことなどを考慮すれば、各々が“無敵の人”の条件を満たしたのは、社会に原因があるのではなく、それぞれの今世の課題を果たすため、という可能性が考えられるのでしょうか』

    「その可能性はあるかもしれぬな。そして、各々があえてそうした不運な境遇を体験することを今世の課題として決め、この世に転生すると決めたことは、この世が“修行の場”であり、他の多くの新興宗教がうたう、“地上天国”を目指す場ではないという一つの根拠になりうるのじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。

    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は今回取り上げた事件について反芻していた。

    彼らの犯行に対して、この世の基準で批判、非難することは容易い。

    だが、彼らは各々の今世の課題を果たしているに過ぎず、さらに言えば、例えば、欄外の枝番に“1”を持つ、“この世の法律や社会規範”を準ずる人々からすれば、彼らの言動は批判や非難の対象になることは当然のように思われるが、欄外の枝番に“9”を持つ人々からすれば、その逆もまた然りなのかもしれない。

    結局のところ、この世は“修行の場”であり、各々が今世の課題を果たすことが重要であるので、直接関わることがない人物の価値観や言動について批判や非難をするよりも、なぜ自分は赤の他人に対して批判や非難をしようと思ったのかを考え、自分の今世の課題を果たす糧にしていく方が、“魂磨き”の観点で考えれば適しているのではないか。

    今回取り上げた加害者たちの言動を知り、世間の大勢の目に触れる形で今世の課題を果たしている彼らと比べて、自分は今世の課題を果たせているのだろうか。
    自分の人生という映画の主演を演じきれているのだろうか。
    この世の基準に囚われて、今世の課題と関係ないことに命を費やしていないだろうか。
    その答えはきっと、自分がこの肉体を離れる時にわかるのかもしれない。

    少なくとも、今は霊的な要因によって無用な苦労をしている人々に神事を済ませることの重要性を伝え、一人でも多くの人々が今世の課題を果たせるよう、尽力していこう。

    そう、青年は思議したのだった。

    《合わせて読みたい》
    ・第19話:2018年東海道新幹線殺傷事件と魂の属性

  • 新千夜一夜物語 第60話:問題を起こす都・市議会議員の魂の属性と適性

    新千夜一夜物語 第60話:問題を起こす都・市議会議員の魂の属性と適性

    青年は思議していた。

    都・市議会議員の中で、問題行動を起こしている人物がいる件についてである。

    元東京都議会議員である木下富美子さんは、自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)と道路交通法違反(報告義務違反)を。
    臼杵市議会議員である若林純一さんは、鼻マスクで議会に参加し、市議会のルール違反を。
    志木市議会議員である与儀大介さんは、議会の無断欠席を。

    地方の市政を担う立場であるにもかかわらず、こうした問題を起こす3名には、何らかの共通点があるのだろうか。

    独りで考えてもらちが明かないと思い、青年は陰陽師の元を尋ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は問題行動を起こしている都・市議会議員について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』
    「そのような議員に何人か心当たりがあるが、そなたが気になった人物を、具体的に教えてもらえるかの」
    青年が挙げた人物の名前を聞いた陰陽師は、紙に属性表を書き連ねていく。

    三人の属性表を見比べた後、青年は言った。

    『全員の共通点として、全員の人運が“7”と低いことと、血脈の霊障に“14:人的トラブル”と“17:天啓/憑依”の相がかかっていることが挙げられます。ただし、それらはあくまで複雑に絡み合う要因の一部に過ぎないと思いますが」

    陰陽師がだまってうなずくのを見、青年は言葉を続ける。

    『まずは木下富美子元都議についてですが、彼女は自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)と道路交通法違反(報告義務違反)を起こしたことが、辞職勧告となる主なきっかけとして取り上げられています』

    そう言い、青年はスマートフォンを見ながら内容を説明する。

    2021年7月2日、東京都議選期間中に板橋区高島平3丁目の“高島平二丁目交差点”で車をバックさせて衝突事故を起こしていた。しかも、免許停止期間中の無免許状態であった。
    7月4日、都議会板橋区選挙区より再選。
    7月6日、都民ファーストの会から正式に除名された。その後、木下富美子さんは一人会派である“SDGs東京”を立ち上げる。
    7月23日の臨時会にて、全会一致で辞職勧告決議案が決議された。
    9月28日、都議会定例会にて全会一致で二度目の辞職勧告決議案が決議された。これに対し、木下富美子さんは、ホームページ上で議員継続を表明。
    10月13日、体調不良を理由に“召喚状”には応じず議会を欠席。
    11月22日、都議会議員を辞職。

    『ウェブ上の情報を見る限り、無免許運転は今回に限らず、通算7回もしていたようですね。さらに、彼女を取り巻く騒動は、その事故で終わらず、彼女は当選後に一度も公の場に姿を見せなかったにもかかわらず、議員報酬を全額受け取っていたようです』

    「彼女に対する、世間の声はどうだったのじゃ」

    『都議会局や都選挙管理委員会に“辞職すべきだ”“給与が出るのはけしからん”など430件以上の抗議が寄せられていたようですね。それを受けてかはわかりませんが、議員報酬をNPO法人などの団体に寄付し、政務活動費である合計150万円は都に返還し、今後は政務活動費を請求しない方針を示しました』

    「なるほど」

    『ただ、給与を寄付したと判断できる資料の提出がないようで、実際のところは不明ではないかと』

    「ちなみに、彼女は世論だけでなく他の議員からも辞職を求められていたものの、辞職するまでにそれなりに時間を要していたようじゃが、どういった心情だったのかの」

    青年はスマートフォンを操作した後、答える。

    辞職を求める声があるのは承知している。批判を受ける一方で続けてほしいという声があるのも事実

    『とのことですが、彼女は“自己中”度が80と高く、“トンチンカン度”も85と非常に高いことから、こうした発言も含め、自己中心的で常識外れと言っても過言ではない、一連の問題行動を取ってしまった可能性が考えられます』

    「特に、“トンチンカン度”が高い人物は、世間一般の常識を正確に理解することや、他者がどのように考えているかを理解することが難しい傾向を持つため、その可能性は少なからずあるかもしれぬな」

    陰陽師の言葉に青年はうなずき、口を開く。

    『今度は臼杵市議会議員である若林純一さんについてですが、彼は市議会でのマスクの着用をめぐる騒動を起こした結果、2021年9月30日に市議会にて辞職勧告決議が可決されました。決議文の内容としては』

    青年はスマートフォンを操作した後、再び口を開く。

    2021年8月末、中学校周辺や駅でマスクを着用せずに新型コロナウイルスのワクチンの子供への接種停止を求めるチラシを配布。その結果、臼杵市の議会に市民から抗議が寄せられる。
    9月7日、議長発言によりマスク着用が強制であるルールを知る。鼻マスクであることを二度注意された際、挙手して発言を求めたが、黙殺される。その後に最後通告を受け、午後は欠席。
    9月16日、ノーマスクで出席。退席命令を受けるが理由が不明瞭だと主張し、居座る。
    9月21日、鼻マスクで出席。挙手で発言を求めるが、鼻までマスクをしていないので発言は許されないと注意され、退席。
    9月30日、最初は鼻が隠れるようにマスクを着用していたが、自席に着席すると鼻を出した。議長から鼻を隠すように求められたが無視したため、退席を命じられる。
    彼が退席した後に、マスクの適正着用を求める議長や委員長に従わないとして、議員としての規範意識が欠如していると指摘し、辞職勧告決議案が可決された

    「して、辞職勧告を受けた彼は、どう応えたのじゃ」

    『表現の自由を侵害しているとして、彼は臼杵市と市議会に対してマスク着用義務や議会内の発言禁止処分の取り消しおよび、100万円の損害賠償などを求めて提訴したようです』

    若林純一氏の属性表を再び見、青年は言葉を続ける。

    『マスクの着用を拒否している点だけに着目すれば、以前お聞きした(※第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性)、4−4(転生回数期が第四期の魂4)の男性に近い魂の属性を持っているのではないかと思いました。まさか、“魂2:貴族”の魂を持つ人物だったとは』

    驚きを隠せない様子の青年を横目に、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口飲む。

    「ちなみに、彼が鼻マスクを続けている理由についてはわかるかの」

    『また、新型コロナウイルスが発生した当初、マスクは飛沫を防ぐための“咳エチケット”だったのですが、やがて、未着用は悪いことだと世間の風潮が変わったと思われます。そうした風潮を踏まえた上で、彼は“マスクを着用するか否か”ではなく、“マスクを強要すること”への問題定義として鼻マスクを続けているようです』

    「なるほど。“魂2:貴族”が持つ傾向の一つに、自分の信条を行動によって世に信を問うという気質がある。その顕れとして、鼻マスクを続けていると言えるかもしれんな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、若林純一市議の属性表を再び見た。

    『彼の信条と魂2が持つ傾向については理解できます。ただ、彼の魂の性質親近性の数字は、上段が“4”ですから、“7”を持つ人物に比べて“優しさ”や“穏やかさ”を持つ傾向があると考えられるため、市議会という公的な場で違反行動を取って問題を起こすような人物には思えないのですが…』

    「そなたの考えに付言するとすれば、下段が“5”であるため、“優しさ”や“穏やかさ”の傾向を根本に持ちながらも、“7”を持つ人物の傾向に寄っていると考えられる。さらもって具体的に言えば、上段に“7”、下段に“1”の数字を持つ人物の傾向と似ていると言えるかもしれぬ」

    青年はしばらく黙考し、やがて口を開く。

    『なるほど。魂の性質親近性が7(1)の人物は明確に自己主張をする傾向があると認識していましたが、その傾向に似ていると考えれば、彼が辞職勧告を受けるまで度重なる注意をされても鼻マスクをし続けていることに納得できます』

    「そのように捉えることもできよう。して、辞職勧告を受けた彼は、今後の議会における振る舞いについて、どのように応えておるのじゃ」

    青年はスマートフォンを操作し、答える。

    そういう風に思われているのは理解しました。これからも市民のために粉骨砕身で頑張る所存です。

    『と述べていますが、鼻マスクについては言及していないようですので、辞職勧告ではなく、強制的に辞職させられるといった、よほどの圧力がかからない限り、彼は鼻マスクを続けるかもしれませんね』

    苦笑を浮かべながら言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。

    「その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうな。それにじゃ、ワシが見る限り、彼は家庭教育に関する見識が深いようじゃから、他の道に進むことも選択肢の一つかもしれぬ」

    青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『そう言えば、彼は臼杵市役所の教育民生委員会に所属しているようですから、先生の見立ての通りかもしれませんね』

    民生委員は、厚生労働大臣から委嘱され、それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める方々であり、「児童委員」を兼ねています。
    児童委員は、地域の子どもたちが元気に安心して暮らせるように、子どもたちを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとなどの相談・支援等を行います。また、一部の児童委員は児童に関することを専門的に担当する「主任児童委員」の指名を受けています。”

    厚生労働省ウェブサイト

    青年は一枚の属性表を手に取り、再び口を開く。

    『最後は志木市の与儀大介議員についてですが、2021年2月19日に埼玉県志木市議会が彼に対して“猛省を促す決議”を多数決で可決しました』

    「猛省を促すとは、いったい彼は何をしたのじゃ」

    2020年9月30日の朝霞地区一部事務組合議会を無断欠席
    2021年2月15日の市議会代表者会議と議運を欠席

    『ちなみにですが、後者の会議を欠席した理由は商談だったようです』

    そう言い、青年はスマートフォンを見ながら文章を読み上げる。

    (商談は)企業誘致につながる話だった。(議運などが)志木市のためになる動きを飛ばしてでも参加しなければならない重要な会議かと言われると、そうではないと判断した。

    『とのことですので、前者の会議を無断欠席したことも考慮すれば、彼にとって、公務の優先順位はあまり高くない印象を受けます』

    青年は彼の属性を再び眺め、腕を組んでから言葉を続ける。

    『ただ、彼の物事の本質を見極める力や大局的見地の数値が高く、トンチンカン度と“自己中”度の数値が低めであることを考慮すると、本来は、議会を欠席するような傾向を持つ人物ではないと考えられますが』

    「ふむ。それにしても、なにゆえ彼は志木市議会議員に出馬したのじゃ」

    『ウェブ上の情報を見る限り、矢内東紀さん、通称えらいてんちょうさん(頭2、2−3武士)が“しょぼい政党”を立ち上げて政治活動を始めた際に、与儀大介さんがえらいてんちょうさんから立候補して欲しいと声をかけられたことがきっかけだったようです』

    「なるほど。彼の本懐ではなかったようじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずき、口を開く。

    『どうやら、そのようです。実際、彼はSNS上で、“僕には政治思想や実現したいことなどなかったのですが、えらてんさんとやっていたらおもろい景色を見せてくれるんだろうなぁ”と述べています』

    青年はスマートフォンを手早く操作し、言葉を続ける。

    『ところが、彼が当選した後、えらいてんちょうさんが体調を崩し、しかも復帰の目処が立たなかったようですので、えらいてんちょうさんが見せてくれたであろうおもろい景色を見ることが叶わなくなってしまいました。それで、市議会議員としてのモチベーションが大きく下がってしまったと思われます』

    「彼が政治に参加した動機や彼の適性を考えれば、その通りかもしれんな。ワシが見る限り、彼には世界的な見識があり、世界を相手に飛び回る方向性の方が適しているようじゃ。また、彼の適性・今後の人生の方向性の一つとして、不特定多数の人に“娯楽の場”を提供することが挙げられる」

    『なるほど。ちなみに、彼にとって、具体的にどのような職業が適していると考えられるのでしょうか』

    陰陽師は小刻みに指を動かした後、口を開く。

    「大きく分けて二つが考えられる。一つ目は、自分の理想を追いかけ、NPOを立ち上げて世界的な環境問題に取り組むなど、世間的にクリーンな“清く正しく美しく”を地で行く方向性じゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『彼の欄外の枝番の数字はほぼ“1”ですので、“この世の法律や社会規範”に準じた傾向があると考えられるため、納得できます。ただ、その内容ですと、若林純一さんではありませんが、“魂2:貴族”の人物に適している方向性のように思われますが』

    「そこで、二つ目の話じゃ。先ほど説明した、不特定多数の人に“娯楽の場”を提供することを基にした事業が二つ目となり、飲食店やクラブや風俗店の経営、あるいはIT関連にも彼は適しているようじゃな」

    青年は手を打ち、口を開く。

    『なるほど。エステサロンやバーなどの経営もしているようですので、納得できます。また、彼が“魂3:武士”であることも踏まえれば、議会に出席するよりも、彼が考える志木市のメリットのために商談を優先したということも、わからなくもないです」

    「まあ、その可能性もありえるじゃろうな」

    青年は再び3人の属性表を見比べ、口を開く。

    『以前、我が国の与党議員となりえる魂の属性についてお聞きしましたが(※第31話:東京都知事選2020と魂の属性②)、都・市議に適した魂の属性にも、何らかの傾向があるのでしょうか』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    与党側の多く、首相の魂の属性:1(4)−1、2(4)−3
    野党側の多くの議員の魂の属性:2(3)―3、2(7)−4

    「現時点での仮説としては、基本的にはその傾向に沿っていると思われる。ただし、県議会議員、市議会議員、町・区議会議員と規模が縮小するにつれて、その傾向から離れ、曖昧になっていく可能性も考えられる」

    『なるほど。今回の3名ですと、与儀大介さんが2(3)―3に該当していますが、3名それぞれの都・市議会議員としての適性を鑑定することはできるのでしょうか』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師は指を小刻みに動かした後、結果を紙に書き記していく。

    与儀大介 :75
    木下富美子:60
    若林純一 :35

    青年はやや目を見開きながら口を開く。

    『与儀さんのスコアが3名の中で1位であることは予想していましたが、若林さんよりも木下さんの方がだいぶ適性があるようですね。ただ、先ほど先生からお聞きした若林さんの適性を考えれば、納得できますが』

    「人間は多面体であり、それぞれの今世の課題が異なるゆえ、魂の種類や属性だけで適性を判断できるわけではないということじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいた後、口を開く。

    『それにしても、適性に関しては90点(S)以上が望ましいとのことだったと記憶していますが、三人ともその水準を下回っているようですね』

    「出逢いは必然であることから、その三人が政界に進出したことは、本人たちにとっては言うまでもなく、その三人と関わった人々にとっても何らかの学びを得られたじゃろうから、適性のスコアだけで判断をしないようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずく。

    『そうですね。都・市議での経験が、それぞれにとって適した道に進んだ時に活かされる可能性もあるでしょうし。ただ、与儀さんは血脈先祖の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますので、市議の任期を終えた後の仕事においても、無用な重しがあると思われますが』

    眉間にシワを寄せながらそう言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みで声をかける。

    「一つ補足しておくと、与儀大介氏と若林純一氏の転生回数の一の位の数字は共に“1”じゃ」

    『そう言えば、転生回数の一の位の数字にも、それぞれ傾向があるのでしたね。僕の見立てでは、木下富美子さんの転生回数の一の位の数字は、“数奇な運命を歩む”、“拡散、爆発、拡散、アップダウンが激しい”傾向がある“3”ではないかと思いましたが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。

    「そなたの言う通りじゃ。話を戻すが、“1”の数字が持つ意味とは、“雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい”傾向があると思われるが、現時点では確認・検証中ではある」

    『なるほど。与儀さんと若林さんが今後どのような方向性に進むにせよ、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい傾向を持っているなら、現在のパフォーマンスはお二人とも23%しか発揮されていませんので、なおさら、各種神事を済ませてパフォーマンスを100%にし、今世の課題を果たしていただきたいところです』

    「時が満ち、そなたと何らかの縁があればあるいは…」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は都・市議会議員の適性について考えていた。
    若林純一さんは2010年の市議選において、与儀大介さんは今回の市議選において、無投票で当選していたようだ。

    国を変えることは難しくても、都・市議としての適性が90点以上である人物が、無投票で当選できそうな地域で出馬すれば当選しやすくなるだろう。
    そして、適性を持つ市議が増えることで、小さい規模からでも少しずつ社会に変化をもたらすことができるのかもしれない。

    今回の自分の寿命が尽きる頃には実現しないだろうが、遠い未来に何度か転生を繰り返したら、適材適所ではないが、より多くの人が天職に就き、魂磨きに励む時代を見られるかもしれない。
    そのためにも、今世の自分は、一人でも多くの人にこの世とあの世の仕組みについて伝えていこう。

    そう、青年は思議したのだった。

    《合わせて読みたい》
    第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性
    第31話:東京都知事選2020と魂の属性②

  • 新千夜一夜物語 第59話:殺人犯が服役中に数学に目覚めた話

    新千夜一夜物語 第59話:殺人犯が服役中に数学に目覚めた話

    青年は思議していた。

    ワシントン州シアトル近郊の刑務所で服役中のクリストファー・ヘイブンズ氏が、大昔の数学の問題を解いたことについてである。

    その問題は、“幾何学の父”と称される古代エジプトのギリシャ系数学者、エウクレイデス(ユークリッド)が頭を悩ませた“連分数”であり、現在では暗号技術などに使われる、非常に重要な理論だという。

    殺人罪で服役中にもかかわらず、世界初の理論を発見した彼は、どのような魂の属性なのだろうか。

    一人で考えてもらちが開かないと思い、青年は陰陽師の元を尋ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は殺人罪で服役中の数学者について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「殺人犯でありながら数学者でもある人物とな。具体的に、どういった人物かを教えてもらえるかの?」

    青年はスマートフォンを操作し、ネットの記事をかいつまんで陰陽師に伝える。

    『クリストファー・ヘイブンズ氏は、高校を中退した後に麻薬に手を出したあげく、殺人を犯してしまい、2011年に25年の実刑判決を受けており、現在もワシントン州の刑務所に服役しています。現在40歳である彼には、刑期がまだ15年も残っています』

    「話を聞く限り、服役してから10年も経っているようじゃが、その間、彼はどのようにして数学を学んだのじゃ?」

    青年は再びスマートフォンを操作し、口を開く。

    『彼と数学との出逢いに関する記述はありませんが、刑務所の中で数学を学び始めてから、彼は独学で高等数学の基礎を終えたようです。その後、基礎では物足りなかった彼は、とある出版社に手紙を出し、“Annals of Mathematics”という数学誌を求めました。その数学誌を求めると同時に、彼は刑務所内で数学について話し合える仲間がいないと嘆いていたことも伝えていたようです』

    「して、その手紙を発送したことで、どんな縁が繋がったのじゃ」

    『すると、この手紙を受け取ったMathematica Science Publisherの編集者のパートナーの父親が、なんとトリノ大学の数学者ウンベルト・チェルッティ教授だったようです。手紙を読んだ教授は、手紙を持ってきた娘のためもあってか、クリストファー氏に数学の問題を与えてみたようです』

    「それで、クリストファー氏はその問題を見事解いてみせたと」

    陰陽師の言葉に対し、青年はうなずき、口を開く。

    『チェルッティ教授の課題をクリアしたクリストファー氏は、今度は教授が取り組もうとしていた大昔の数学の問題に挑戦しないかと誘われ、その後に世界初の理論を発見したとのことです』

    「なるほど。ちなみに、彼が解いた問題とはどのようなものなのじゃ」

    青年はスマートフォンを操作し、苦笑を浮かべながら口を開く。

    『数学に明るくないので真っ当な説明ができませんが、“連分数”に関する理論のようです。しかも、この問題は、古代ギリシャの数学者エウクレイデス(ユークリウッド)が頭を悩ませていたほどだそうです』

    そう言い、青年は連分数の説明を読み上げる。

    ”連分数とは分母に更に分数が含まれているような分数のことを指す。分子が全て 1 である場合には特に単純連分数または正則連分数ということがある。単に連分数といった場合、正則連分数を指す場合が多い。具体的には次のような形である。

    連分数SS

    ここで a0 は整数、それ以外の an は正の整数である。正則連分数は、最大公約数を求めるユークリウッドの互除法から自然に生じるものであり、古くからペル方程式の解法にも利用された。”

    「して、この理論は世間でどのような形で活用されておるのじゃ」

    『例えば、現代の暗号技術などにも応用され、金融や軍事通信といった分野で重要な役割を果たしているそうです』

    陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口のみ、口を開く。

    「なるほど。殺人を犯しながらも、そのように世界初の理論を発見したクリストファー氏の魂の属性について知りたいということじゃったな」
    無言でうなずく青年を見やり、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    クリストファー・ヘイブンズSS
    ウンベルト・チェルッティSS

    両者の属性表を見比べ、青年は口を開く。

    『二人とも数学の研究に携われるという素質から、転生回数が第三期で十の位が“9”、すなわち190回代で理系の“大々山”に該当する“魂3:武士”ではないかと予想していましたが、やはり』

    「何事も例外があるゆえ、あくまで傾向に過ぎないという前提で補足すると、転生回数の200回を境に文系と理系に分かれ、転生回数が200回以下と若い第三期と第四期の魂は理系の傾向が、200回を超える第一期と第二期の魂は文系の傾向があることを覚えておるかの」

    青年が黙って首肯するのを見やり、陰陽師は紙に解説を書き足していく。

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    『両者の魂は3(9)―3と同じであり、クリストファー氏よりもチェルッティ教授の方が数学を研究している時間が長いと考えられることから、今回の“連分数”の理論を解く可能性があったのは教授の方だと思いましたが、なぜ、クリストファー氏は世界初の理論を発見できたのでしょうか?』

    「今後も検証が必要であることから、あくまで現時点で確認できている範囲での回答になるが、一の位の数字によって、同じ190回代でも傾向が変わる可能性が考えられる」

    『なるほど。ちなみに、両者はそれぞれ何回なのでしょうか?』

    やや前のめりになる青年を片手で制し、陰陽師は指を小刻みに動かす。

    「クリストファー氏が“193”回でチェルッティ教授は“197”回じゃな」

    そう言い、陰陽師は属性表に数字を書き足す。

    『以前、“3”という数字は“数奇な運命”を歩む傾向があるとお聞きしましたが、彼の経歴はまさに数奇な運命と言っても過言ではないと思われます』

    「そなたの言葉に付言するとすれば、“3”には爆発、拡散、アップダウンが激しいなどの傾向があり、さらに言うと、数学者としての役割に限って言えば、193回の転生回数を持つ人物には、研究する役割を持つ傾向があると仮説を立てておる。よって、彼は研究の末に世界初の理論を発見できた可能性が考えられる」

    『なるほど。ちなみに、彼が“連分数”の理論を解いた背景には、チェルッティ教授の協力が不可欠だったと思いますが、197回であるチェルッティ教授にはどのような役割があると仮説を立てていらっしゃるのでしょうか?』

    「197回の転生回数を持つ教授には、主に理論などを教える教授としての役割を、研究においては“座長”としての役割を持つ傾向があり、何人かの研究を自分に取りまとめて一つの方向性に収束していく傾向があると仮説を立てておる」

    『その仮説を基に考えますと、クリストファー氏は服役中であり、まだ博士号などの肩書きがないことから、彼が解決した“連分数”の理論をチェルッティ教授が預かり、世間に公表するという一連の流れは、魂の属性からみても妥当な役割分担なのかもしれませんね』

    「そのように考えることもできよう。ただし、その考えはあくまで現時点での仮説に基づいた話であって、今後、様々な人物を鑑定していくなかで変わることがあることを覚えておくようにの」

    『あくまで仮説に過ぎないということ、理解しました。ところで、エウクレイデスの魂の属性も3(9)―3武士ではないかと予想しましたが、いかがでしょうか?』

    陰陽師は青年にうなずいて見せ、鑑定結果を紙に書き足していく。

    エウクレイディスSS

    エウクレイデスの属性表を見た青年は、首をかしげながら問うた。

    『やはり、3(9)―3武士でしたか。ただ、一つ気になったのが、今回話題に上がった数学者は、三人ともトンチンカン度が高いようですが、この項目は学問の研究の適性の有無にはあまり関係がないのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さくうなずいて答える。

    「簡潔に言えば、トンチンカン度は精神的なバランスが取れている人物かどうかを表す指標と考えるとわかりやすいかの」

    『精神的なバランスでしょうか』

    「うむ。例えば、この数値が低い人物は精神的なバランスが取れている傾向があることから、社会や組織の中でもより多くの人間と協力することができる。一方、この数値が高くなるにつれ、精神的なバランスが乱れやすく、他人が考えていることや、世の中の常識を正確に理解することが難しくなっていく傾向がある」

    『つまり、三人の数学者たちは、他人とチームを組んだり協力することが得意ではなく、独りか、なるべく少人数で研究する方が向いているということでしょうか』

    「そのように考えることもできる。今回のクリストファー氏のように、突出した発見をするような研究者や学者などは、“トンチンカン度”の数値がそれなりに高いからこそ、偉業を成し遂げられると捉えることもできる」

    『なるほど』

    青年はうなずき、再び三人の属性表を見比べた後に、口を開く。

    『ちなみに、三人の数学者の中でクリストファー氏だけが、“物事の本質を正しく見極める力”が40と低めですが、字面だけで判断すれば、この数値が低めの彼が世界初の理論を発見できたことは珍しいのではないかと思いました』

    「いや、そうではない。属性表における“物事の本質を正しく見極める力”も“トンチンカン度”と同様、学問とは直接関係はなく、例を挙げるとすれば、人が交流する際に生じる心の“機微”や、相手が発した言葉の“本質”を的確に捉える力を表していると言えよう」

    青年は小さく唸ってから口を開く。

    『“物事の本質を正しく見極める力”には、相手の発言の言葉だけに反応するのではなく、その“意図”を汲み取ったり、心情を察する力も含まれているのでしょうか。例えば、“トンチンカン度”が理論や他者の思考に対する理解度とすれば、“物事の本質を見極める力”は他者の心や感情に対する理解度といったように』

    「“物事の本質を見極める力”について付言するとすれば、人間と猿の大きな違いの一つに言語の有無があり、泣き声によって表現されていた感情だけでなく、言語によって組織や共同体での共通認識となる、“人工的な価値観”も人間は構築できるようになった。言い換えれば、そうした“暗黙の了解”を理解する力も含まれているとも言えよう」

    『なるほど。他に気になったことは、もしも彼が高校を中退せずに大学に進学し、その過程か大学在学中に数学と出逢っていたら、数学の才能がもっと早く開花していたのではないかと思います。その一方で、彼にかかっている霊障に“5:事故/事件”の相がないことと、人運が“3”とかなり低いことと、欄外の枝番に“1”と“9”が混在していますので、殺人を犯して刑務所に入り、そこで数学に目覚めることも、彼の今世の課題としては必要だったのかもしれませんね』

    「彼に殺害された人物とその家族の心中を思えば残念ではあるが、この世の出来事には様々な要因が複雑に絡み合っていることから、断言することはできぬが、そう考えることもできるかもしれぬな」

    『なるほど』

    「また、彼が欄外の枝番に“1”と“9”を持っていることに関して付言するとすれば、霊的にも、潜在的な今世の性格としても“ジギルとハイド”ではないが、世間一般にいうところの善人と悪人という二面性を併せ持つ傾向があると仮説を立てることもできよう」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、納得顔でうなずいて言った。

    『クリストファー氏の経歴を見て思ったのは、ゲーテが言うように、“光が多いところでは、影も強くなる”ではありませんが、麻薬に手を出し、殺人を犯してしまったことが世間での影だとすれば、数学は世間における光の領域といったところでしょうか』

    「彼に限って言えば、そのように捉えることもできるかもしれぬな。“9”という数字には“3”と同様に例外/矛盾という意味を持つものの、“9”が収束、まとめるなどの役割を持つことから、“3”とは別の傾向があるという仮説を立てておる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『確か、“9”には“世の変革者”という傾向があるとお聞きしたことがありますが、彼は今回の“連分数”の理論の発見で終わらず、今後も数学界の先駆者として活躍していける可能性はあるのでしょうか』

    「ひょっとしたら、その可能性もあるじゃろうな」

    『実際、彼は現在、郵送で学位を取得できるアダムズ州立大学で準学士号の取得を目指しているそうです。他にも、刑務所内で数学クラブなるものを結成しており、メンバーの中には、円周率の小数点461桁まで暗唱してみせた人物もいたようです。そう言う意味では、彼は隠れた才能を発掘していると言うべきか、後進の育成や囚人の更生の一助も含めて行なっているようです』

    「ふむ。数学クラブを結成したことで、刑務所内で数学について話し合える仲間がいないと嘆いていた彼にとっての、念願が叶ったようじゃな」

    『どうやらそのようですね。ただ、彼の人運が“3”とかなり低いことと、欄外の枝番の“9”の数字の特徴を持つことは余生もずっと変わらないことから、数学クラブにおいてか、あるいは数学の研究をしていく中で何らかの人間関係にまつわるトラブルが生じ、さすがに今度は殺人とまではいかないと思いますが、問題を起こすのではないかと、個人的には危惧しています』

    「今後の彼の人生において、そなたが言うようなことが起こる可能性が無きにしも非ずであるが、そうした人間関係におけるトラブルもまた、彼にとっての今世の課題に必要な出来事であるのじゃろうな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自らの属性表とビジネス鑑定の結果を眺めていた。

    転生回数:233回
    トンチンカン度:80
    物事の本質を見極める力:40

    《ビジネス鑑定》
    経営者:AA
    経営陣:A
    従業員:BB
    自営業:SS

    これ以外の他の数字も見る限り、どうやら自分には他者とアライアンスを組むよりも、自分が苦手な分野を外部発注し、自分は自営業の立場で得意分野に専念する方が良さそうだ。
    あるいは、今後、自分の事業が大きくなって経営者の立場にならざるを得ないことがあったとしても、ごく少人数で回す方が適しているのかもしれない。

    いずれにせよ、万が一自分とアライアンスを組んでくれる人物や社員となってくれる人物が現れたとしたら、そうした貴重な人々と丁重に関わっていけたらと思う。

    鑑定結果の様々な項目の数字によって、この世の生きやすさが変わるかも知れず、時には落胆することもあるかも知れない。だが、鑑定結果の傾向を基にある程度の人生の方向性を把握できるのであれば、自分の傾向に合った生き方を選び、同時に今世の課題を果たせたらと思う。

    とは言え、転生回数が233回と、十の位も一の位も“3”であることから、数奇な運命、爆発、拡散、アップダウンが激しいなど、客観的に見ればかなり破天荒な人生だと自覚しているのもまた事実である。

    青年は苦笑を浮かべ、ため息をつくのであった。

  • 新千夜一夜物語 第58話:VTuberとフェミニスト

    新千夜一夜物語 第58話:VTuberとフェミニスト

    青年は思議していた。

    2021年7月16日から、千葉県警が公開していた交通安全の啓発動画に出演していたVTuber 、“戸定梨香”に対し、同年8月26日に全国フェミニスト議員連盟の代表である増田薫さんが“性的対象物”として描写されていると主張し、動画の削除を要請した件についてである。

    この要請に対し、千葉県警は、子ども向けの動画として製作したものの、本来の目的と異なる意図が伝わることを懸念し、同年9月10日に当該動画を削除した。

    動画が削除されたことに対し、“戸定梨香”をプロデュースする板倉節子さんは、“戸定梨香”の製作陣は全て女性であり、“性的対象物”として描写していないと主張したものの、結果的に、秋以降の千葉県警との共同企画も白紙になってしまった。

    “戸定梨香”が“性的対象物”として描写されているか否かについて、女性同士で意見が割れているが、異なる見解を持つ二人は、それぞれどのような魂の属性なのだろうか?
    また、今回の騒動を経て、社会にどのような変化が起きていると考えられるのだろうか?

    独りで考えてもらちが明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は千葉県警の交通安全の啓発動画に出演していたVTuberが、“性的対象物”として描写されているという理由で削除されてしまった件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「質問に答える前に聞いておきたいのじゃが、VTuberとはどういったものなのかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    Virtual YouTuber(バーチャル ユーチューバー)の略称。
    アニメやCGで作ったキャラクターを動かしてYoutuberのように動画を配信する人。ビジネスの世界などで活用が広がっている。

    「VTuberがいかようなものかについては理解した。ところで、動画を用いて何らかの情報を発信するのであれば、本人が出演すればいいものを、なにゆえキャラクターを用いるのじゃ?」

    『“戸定梨香”の場合、松戸市出身の女性が、自分のなりたい姿としてセーラー服に似た衣装などをデザインし、Youtubeでの声も自分で担当しているとのことですので、自分の理想の姿やなりたい自分を模したキャラクターになりきって発信できることが、理由の一つかもしれません』

    「なるほど。ワシにはなじみがない分野ではあるが、千葉県警が“戸定梨香”を採用した理由についてはわかるかの?」

    『千葉県警は、若い世代に興味をもってもらうために、松戸市の魅力を発信するなど地域に根ざした活動を行なっている芸能プロダクションから“ご当地VTuber戸定梨香”による広報啓発活動の提案を受け、採用したようです』

    「して、その“戸定梨香”は、動画の削除を要請されるような、性的対象物として描写された容姿なのかの?」

    陰陽師の言葉に対し、青年は首を傾げながら口を開く。

    『“戸定梨香”に関し、僕は性的だとは全く思いませんが、全国フェミニスト議員連盟は次のように主張しています』

    セーラー服のような上衣で、丈はきわめて短く、腹やへそを露出しています。体を動かす度に大きな胸が揺れます。下衣は極端なミニスカートで、女子中高生であることを印象づけたうえで、性的対象物として描写し、かつ強調しています。公共機関である警察署が、女児を性的対象とするようなアニメキャラクターを採用することは絶対にあってはならない。

    『これに対し、“戸定梨香”をプロデュースしている、株式会社Art Stone Entertainmentの代表取締役の板倉節子さんは女性で、製作陣も全員女性とのことですし、性的な対象物として描写つもりも、強調したつもりもないと述べています』

    「女性が制作している以上、性的対象物として描かれたとは言い難いと思われるが、他の動画においても、性的対象物としてクレームが入っているのかの?」

    『いえ、板倉さんが言うには、“戸定梨香”は2020年4月から松戸市を応援する動画に出演していたようですが、これまでに一度もクレームはなかったとのことです。実際、千葉県警が“戸定梨香”を採用する際も、松戸警察署の男性職員及び女性職員が参画して、“戸定梨香”の過去の出演映像等を確認していましたので、千葉県警としても問題ないと判断したようです』

    「なるほど。他に、板倉さんがどういった主張をしているか、わかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    ・服装や体型を理由に“性的対象物だ”とレッテルを貼り、公共の場から追い出そうとする全国フェミニスト議員連盟の活動は、本来、フェミニズムが擁護すべき、女性の多数な在り方と自由を称揚する立場と全く矛盾する。
    ・いろんな意見があるのは当然だと思うが、議論がなければ同じことが続いてしまうので削除されて終わりにはしたくない。私やタレントの気持ちはどうなるのでしょうか。今後地域を盛り上げるPRに関わることができるのか不安です。作品を作る皆さんの気持ち、努力を見た目で判断しないでください。それこそが女性蔑視なのではないでしょうか。動画の制作に関わった私も女性です。表現をする上での女性の権利は一体何なのか。

    「なるほど。そうした経緯を踏まえて、そなたは二人の魂の属性について知りたいということかな?」

    『おっしゃる通りです』

    「ちなみに、そなたの見立てではどのように考える?」

    陰陽師にそう問われた青年は、しばらく黙考し、やがて口を開く。

    『“戸定梨香”に対して性的対象物だと主張し、動画の削除まで要請した増田さんは、頭2の2−4(転生回数期が第二期の魂4:一般庶民)であるのに対し、板倉さんは、頭1の2−3(転生回数期が第二期の魂3:武士・武将)ではないかと思います』

    「それではみてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は紙に二人の鑑定結果を書き記していく。

    増田薫SS
    板倉節子SS

    二人の属性表を見比べた後、青年は口を開く。

    『どうやら、増田薫さんは頭2の2−4で、板倉さんは頭1の2(4)−3武士のようですね。この二人に限って今回の件について話を進めていくと、偏狭な正義感を持ち、大局的見地に欠けた主張を行う前者と、大局的見地に基づいた主張を行う後者とで二分していると思われます』

    そう言った後、青年は増田薫の経歴を紙に書き記していく。

    1965年11月東京都江戸川区生まれ
    武蔵野美術短期大学デザイン科卒業
    都立亀戸職業訓練校 建築製図科卒業
    都内の建築設計事務所勤務
    1998年 松戸市に転入
    蔵のギャラリー・喫茶「結花」スタッフ
    2002〜2003年 松戸市矢切小学校PTA
    2011年〜 放射能から子どもを守りたいと願う母おやたちと活動
    2012〜2014年 生命保険会社勤務
    現松戸市市議会議員

    「その二人に限って言えば、そうと言えるかも知れぬが、今回の件に対し、ネット上での反応はどうなっておるのじゃ?」

    『この件に対し、インターネット上では、動画の削除の要請に対する反対署名が6万5,000件以上も集まっていますし、千葉県警のホームページからは動画を削除されたものの、株式会社Art Stone Entertainmentは独自に当該動画を公開しているようで、動画に対する反応は賛意がほとんどで、否定的な意見は1割あるかないか、とのことです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく頷いてから、口を開く。

    「なるほど。ちなみに、反対署名を始めた人物についてはわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『どうやら、大田区議員である荻野稔氏のようです。彼自身もVTuberとして活動していますし、増田薫さんと同じ地方議会議員としての立場ではありますが、彼女とは対に当たる言動を取っています』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「ふむ。彼は頭1(4−1)、2(3)―3武士のようじゃな。そなたが調べた情報のみで判断するとすれば、ネット上の声も加わり、頭1の魂3側の意見の方が主流のように見えるが、増田薫さんが要請した通りに動画が削除された結果を鑑みるに、彼女の思惑通りに事が進んだようじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、眉間にシワを寄せながら、口を開く。

    『今回、動画の削除を要請されたことがきっかけで、千葉県警と“戸定梨香”との秋以降の共同企画は白紙になってしまったようで、“戸定梨香”の製作陣の仕事が減ってしまいました。同時に、“戸定梨香”を採用することで千葉県警が得られたであろう、宣伝効果もそれなりに失われてしまったと思われます』

    「ワシにはよくわからぬが、VTuberというのは、そこまで宣伝効果があるのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『ネットの情報を見る限り、VTuberは地方自治体における町おこしへの活用も始まっており、2018年には茨城県が茨ひより氏を自治体公認VTuberとするなど、地方の魅力を全国に発信するための新しい媒体として期待されているようです』

    「なるほど」

    『せっかく千葉県警が交通安全を啓蒙するためにVTuberを採用したのですから、美大卒でそれなりにクリエイティヴに理解があると思われる増田薫さんも、感情的に動画の削除を要請して終わりにするのではなく、動画の視聴者が不快感を覚えぬよう、“戸定梨香”の容姿のどこをどう具体的に改善すればいいのかといった提案をし、秋以降の動画の内容に活かすこともできたのではないかと思います』

    「そなたは“魂3:武士”ゆえ、そのような考えを持つのじゃろうが、大局的見地に欠け、偏狭な正義感を持つ2−4の増田さんには、そのような発想を持つことは難しいかもしれぬな」

    『そうなのですね。ただ、よくよく考えてみたら、公共機関である千葉県警が採用するキャラクターとしては、あのキャラクターでなくてもいいとは思わなくもないですし、動画の削除の要請に賛同した少数派の人々の主義・主張には賛成しかねるものの、彼女なりの感じ方をなるべく尊重できたらとは思いますが』

    「そのように歩み寄ることは時には必要ではあるものの、魂4の声ばかり取り入れた結果、現代の生きづらい世の中になっていることを、理解しておるかな?」

    陰陽師にそう問われた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『インターネットの出現によって、参加意識が高い“魂4:一般庶民”が発言権を得たことで、大局的見地が欠けた偏狭な正義感に基づいた価値観が浸透し始めたことだと記憶していますが、今回の件に限って言えば、どのような変化があったのでしょうか?』

    「例えば、昨今では問題視されている、セクハラやパワハラなどは、昭和(1)の時代では“風潮”のようなもので、平成と令和(共に2)のように騒がれるものではなかった」

    『当時はセクハラやパワハラが“風潮”として受け入れられていたということは、昨今の価値観とは大きく異なると思われますが、それらに対する認識において、昨今とはどのように異なっていたのでしょうか?』

    「例えば、会社の男性上司が部下である女性社員に対し、“(体型が)少し丸くなったのでは”といった主旨の発言をしたとしよう。その意図するところは、当時の女性社員は早めに素敵な男性を見つけて寿退社することがほとんどだったという背景を踏まえており、女性社員が意中の男性とよりよく交際できるように、といった上司なりの気遣いもあったと思われる」

    『そのような背景があったのでしたら、そうした上司の発言に悪意があるとは言い難いですし、上司の発言の意図をくめたであろう、魂1〜3の人物にとっては、自戒のきっかけになりそうです。しかしながら、魂4の人物にとってはそうではなかったと?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    「魂4の人物の中にはそうした上司の発言に対し、良い思いを抱かなかった人物は少なくなかったと思われる。もっとも、そなたが言うように、魂1〜3全員がそうした上司の発言に対して寛容ではなかったと思われるがの」

    『なるほど』

    「セクハラに関して付言しておくと、例えば、望ましい容姿の男性に言い寄られることは快く、生理的に受け付けられない男性から同様の行為をされることは不快に感じ、許せないという、同じ行為であっても、受け手の好み、すなわち当事者間の主観的な問題であることはわかるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は納得顔でうなずいた後、答える。

    『ところが、ネットの出現によって魂4の声が多数を占めた結果、魂1〜3の人々がそうした魂4の声が世間の価値観のスタンダードだと勘違いしてしまった。その結果、0or100ではありませんが、女性が不快に感じる男性からの言動をセクハラとみなし、さらにセクハラを禁止して撲滅しようとする価値観が、世の中の主流になってきたわけですね』

    「その可能性が考えられる。しかしながら、**ハラスメントの問題は当事者同士の主観の相違、つまりはお互いの価値観に対する相互の“不寛容さ”の問題に過ぎないと思われるため、当事者同士の主観に基づいた基準がそのまま世間の基準となることが、本当に適しているかどうかは断言できぬがの」

    陰陽師の答えを聞いた青年は、しばらく黙考した後、やがて口を開く。

    『何事にも例外があると先生がおっしゃるように、一つの基準がどんな場合においても当てはまるとは限りませんからね。僕にとって気掛かりなことは、魂4の声が主流となった世論の変化によって、セクハラやパワハラにとどまらず、カスタマーハラスメントやワクチンハラスメントといった言葉が現れているように、平成以降の世の中の言動に対する制限が増え、ますます生きづらい世の中になっていく傾向があるのではないかということです』

    「現状のままでは、今後もその傾向に進みつつあると思われる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組み、思案顔で口を開く。

    『ちなみにですが、魂1~3の人物がSNS上で大局的見地に基づいた発言を積極的に行うことによって、いずれ、魂1〜3の価値観が魂4の人々にも伝わり、ネット上の声の内容やが変わり、世論に変化が生じる可能性はあるのでしょうか?』

    「その可能性は無きにしもあらず、じゃな。以前も伝えたように、魂の種類はそれぞれの役割と容量で異なっている。そして、魂1〜3と魂4の間には魂の容量に大きな差があるため、残念ながら、魂1〜3の意見は魂4の人物には伝わらない可能性が非常に高い」

    そう言い、陰陽師は魂の種類とそれぞれの容量について、紙に書き記していく。

    《魂の種類とそれぞれの容量》
    魂1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    魂2:貴族(汎用コンピューター)
    魂3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    魂4:一般庶民(ガラ携並)

    眉間にシワを寄せ、小さくため息をついてから、青年は口を開く。

    『ということは、今回の件のように、個人の主観であり、彼女たちの“不寛容さ”に基づいていると言えなくもない少数意見であっても、“言ったもの勝ち”といった風潮が続いていく可能性が考えられるのでしょうか?』

    「少なくとも、現状はそのような風潮であり、魂4の価値観が主流になっていることは紛れもない事実のように思われる。しかしながら、魂1〜3の発言が増えることによって、やがて魂4の価値観とのすり合わせが生じる可能性も無きにしも非ず、じゃ」

    『なるほど。ネット上では魂1〜3にとっては多勢に無勢ですので、魂1〜3の価値観を主流にすることは難しいものの、魂4側の価値観も含めてお互いの価値観を認めつつ、お互いにとって望ましい妥協点に落ち着くことができるなら、それはそれで理想的な状態と言えるのでしょうか?』

    『実現するかどうかは別として、その状態も一つの可能性ではあると思う。いずれにせよ、令和革命の影響によって、これまでの“等質性”から“多様性”に回帰していく世の中で、お互いの個性を尊重しあえる人物が増えることが望ましいのかもしれぬな」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は“戸定梨香”の動画を再び視聴していた。

    等質性から多様性の世の中にシフトしているということは、それだけ“個性”も重要になってくるのかもしれない。
    もしそうであるならば、今までのような、受け身で右に倣えといった価値観に捉われず、また、魂磨きに適しているか否かを主軸に、自らが活躍できる環境に身を置くことも必要になってくるだろう。

    昨今でも、集団の中には、自分たちと異質な存在を排除しようとする人々がいるだろうし、そうした中で他人と異なる言動を取ることは勇気が要るかもしれない。
    だが、魂の種類によってそれぞれの理屈や思いがあるように、社会的な肩書きやこれまでの人生の背景だけで目の前の人物の価値観や言動が決まることはないだろう。

    よって、一方的に目の前の人物をこうだと決めつけることは避け、目の前の人物がどんなことに何を考え、何を感じているかをお互いに把握することは、重要なことのように思われる。
    そして、そうした他人とのやり取りを経ることで、他人と違うことを恐れず、他人と異なる自らの個性を受け入れられたら、自らの個性を尊重することができ、同様に、他者にも他者が尊重している個性があることを理解すれば、他者の個性も受け入れやすくなるのかもしれない。

    可能性の一つとして、今世の課題を果たすことと個性を発揮することに、多少なりとも関係があるのであれば、各種神事を済ませて霊的な無用な重しを解消することによって、より多くの人々が、本来の人生を歩んでもらえたら嬉しく思う。

    そう、青年は思議したのであった。

    《合わせて読みたい》
    新千夜一夜物語 第13話:衆愚政治とインターネット
    新千夜一夜物語 第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性

  • 新千夜一夜物語 第57話:ヒカルと宮迫と牛宮城

    新千夜一夜物語 第57話:ヒカルと宮迫と牛宮城

    青年は思議していた。

    2021年10月1日にオープンする予定だった、ヒカルと宮迫が共同経営する焼肉店“牛宮城”が無期限延期状態になっていることについてである。

    今後、“牛宮城”はどうなっていくのか?
    今回の件に、何らかの霊障が関係しているのだろうか?
    また、ヒカルと宮迫の魂の属性と、二人の相性はどうなのか?

    独りで考えてもらちが明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は、ヒカルさんと宮迫博之さんが共同経営する焼肉店が、無期限延期状態になっていることについて教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「先日、話題になっていた件じゃな。まずは、二人が焼肉店を共同経営することになった経緯を教えてもらえるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、口を開く。

    ・2021年2月11日に、宮迫が“焼肉屋の開業資金として1億円を貸して欲しい”とドッキリ企画でヒカルにお願いしたところ、ヒカルがあっさりと承諾し、ドッキリだったはずが本当に焼肉店を共同経営する運びことになった。
    ・その後、肉のスペシャリスト・森田隼人氏による手引きのもと、店舗で提供するブランド牛“ヒカサコ牛”の選定を行う動画を公開するなど、焼肉屋の核となる牛肉の品質に関して万全の準備を整える。
    ・2021年9月28日に、ヒカルと宮迫がオープンを間近に控えた牛宮城の最終確認をすべく来店したところ、試食したヒカルが大激怒。
    ・牛宮城のオープンは無期限延期状態となり、いいクオリティのものができないと判断したら、ヒカルは撤退も考えているという。

    経緯を説明した後、青年はスマートフォンを卓上に置き、再び口を開く。

    『ネットの情報を見る限り、“牛宮城”の店内の冷蔵庫が稼働していなかったために、牛肉を冷凍保存せざるをえなかったようで、冷凍保存したことによって質が落ちてしまった牛肉を試食で提供したことが、主な要因と思われますが、他にも問題があったようです』

    「なるほど。なにゆえ、オープンまで、そうした問題に気づかなかったのかの?」

    『広報を担当していたヒカルさんはほとんどお店には関与しておらず、試食の前から自分も店内を確認していればよかったと言っています。一方、宮迫さんは、店内とメニューを担当していたにも関わらず、彼が全幅の信頼を置く調理人に任せていたようで、調理人に非はなく、自らに責任があると公言しています』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記してから、口を開く。

    宮迫博之SS

    青年が属性表を見終える頃に、陰陽師が口を開く。

    「話を聞く限り、冷蔵庫が稼働していなかったことに加えて、宮迫氏が仕事に対して真摯に向き合わなかったことも主な要因の一つと考えられる。というのも、ワシが見る限り、“牛宮城”を任されていた調理担当料理人の腕はあまりよくないようじゃし、冷蔵庫などの管理も、その人物に一任せずに宮迫氏も確認しておれば、最悪の事態を免れていたかもしれぬからじゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、目を見張りながら口を開く。

    『なるほど。そうした人選をしてしまったことも含め、宮迫さんの人運が“3”とかなり低いことが、少なからず関係あるのでしょうか?』

    「人間は多面体であり、一概に回答することはできぬが、あえて人運の“3”を基に言及するとすれば、9点を満点とする数字の序列として、“人運が悪い”、そして“マゾ的気質”が今世で起きる傾向の基本にあることから、宮迫氏が自発的/能動的/積極的に行動したというよりも、周囲の人/雰囲気/情勢に流された結果、問題に巻き込まれた/問題を引き起こした、という可能性がある」

    『なるほど。宮迫さんにはそうした人間関係におけるトラブルから学びを得ることが今世の課題に含まれていると思われますが、彼にかかっている血脈先祖の霊障と天命運に“2:仕事”と“14:人的トラブル”の相の影響がなければ、今回のようにオープン直前ではなく、もう少し早めに、仮に撤退するにしても損失がまだ少なく済ませられた可能性も考えられるのでしょうか?』

    「仮定の話に対しては断言できぬが、今世の宿題に対して“順接”、すなわち無用な重しとして顕在化する傾向がある、血脈先祖の霊障の影響を考えれば、その可能性も無きにしも非ず、といったところじゃな。ワシが見たところ、血脈先祖の霊障に“2:仕事”と“14:人的トラブル”の相は、ヒカル氏にもかかっているようじゃからの」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き足していく。

    前田圭太SS

    新たな属性表に目を通した青年は、目を見張りながら口を開く。

    『ヒカルさんは、魂の属性3:霊媒体質ですので、血脈先祖の霊障だけでなく、今世の宿題に対して“逆接方向”、すなわち今世の宿題とは直接関係のない要素/方向性が含まれて顕在化する傾向がある、霊脈先祖の霊障もかかっていますが、そんな状態であっても、YouTuberだけでなく、歌手やアパレルなどの実業家としても活躍しているのはさすがだと思います』

    「そのような経歴を持つヒカル氏ではあるが、1億円を出資したものの、今回の件が起きてしまったが、両者の関係に何らかの変化はあったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、小さく首を振ってから口を開く。

    『ヒカルさんいわく、二人の仲は悪くなっておらず、ヒカルさんは宮迫さんに対してマイナスな感情を抱いていないと述べていますので、これからも何らかの形でコラボするのではないかと予想しています』

    「ふむ」

    そう言い、浮かぬ顔で湯呑みの茶を飲む陰陽師に対し、青年は怪訝な表情で尋ねる。

    『ひょっとして、二人の相性はあまりよくないのでしょうか?』

    青年の問いに答える代わりに、陰陽師は紙に鑑定結果を書き足す。

    《ヒカルからみて/宮迫博之からみて》
    プライベート S /BB
    ビジネス BB/BB

    『先生の見立てでは、お互いからみてS(90点)以上なら推奨とお聞きしましたので、望ましい結果ではなさそうですね』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく頷いてから、口を開く。

    「二人が今後、どのような選択をするかは自由ではあるが、ヒカル氏からみれば早晩袂を分かった方がいいとワシは思う」

    『ヒカルさんからみれば、という意味では、宮迫さんが“雨上がり決死隊”を解散する際に、あたかもヒカルさんが“雨上がり”の解散を決定づけたような印象を与える発言をしたようですので、今回の焼肉騒動の前にも、ヒカルさんは宮迫さんにトラブルに巻き込まれたと言えそうです』

    「宮迫氏に巻き込まれた、という意味では、彼が2019年に吉本興業から契約を解消されたことで、“雨上がり”のコンビとして活躍できなくなった蛍原徹氏も似たようなものかもしれぬ」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き足していく。

    《蛍原徹からみて/宮迫博之からみて》
    プライベート B/BB
    ビジネス AA/A

    陰陽師が新たに書き足した鑑定結果を見た後に、口を開く。

    『二人の相性を見る限り、コンビを解消してよかったと言えなくもないですが、“雨上がり”を結成した1989年から2021年と、30年かけて積み上げてきたものが、相方の不祥事によって解散されたことは、蛍原さんにとっては、断腸の思いだったのではないかと思います』

    「そうかもしれぬな」

    『ただ、蛍原さんの人運の数字が“3”であることを考慮すると、宮迫さんに原因があるとは言え、“雨上がり”の解散を体験することは、今世の蛍原さんの課題を果たすために必要だった可能性があるのでしょうか?』

    「その可能性は少なからずあるじゃろうな。ちなみに、蛍原氏は“2−3−5−5…2”の魂の属性を持つ一方、宮迫氏の魂の属性は彼とは異なるが、芸能界において、それぞれの活動状況はわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『蛍原さんは、テレビではバラエティだけでなくドラマや映画でも俳優として多数出演していますし、特にスキャンダルや傷病はなく、“雨上がり”が解散した後は、ピン芸人や司会者として活動していますので、彼の魂の属性に適した活動を継続しているようです』

    青年の言葉に対し、陰陽師が黙って頷き、続きを促しているのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『一方、宮迫さんは、2012年12月6日に早期胃癌を理由に休養した過去や、先ほど先生が触れた2019年6月24日の闇営業騒動により芸能活動を自粛し、同年7月19日に吉本から契約を解消されたことは、“排除命令”に抵触した可能性があるのではないかと思われます』

    「宮迫氏の魂の属性は3(9)―3武士であることから、その可能性は考えられるが、蛍原氏とは別で、彼単体での活動はどうなっておるのじゃ?」

    陰陽師にそう問われた青年は、再びスマートフォンを操作した後、口を開く。

    『芸能活動以外ですと、2021年6月19日に宮迫さんが立ち上げた服飾ブランド“ZILVER”にて、株式会社ロコンドと共同で作成したメンズ(各種セットアップ)・レディース(ワンピース)・スポーツサンダルをロコンドの通販で販売開始しています。YouTuberとしては、チャンネル登録者数が141万人ですが、最近は公開している動画に対し、良い評価よりも悪い評価の方が多いようです』

    「なるほど。服飾の事業に関しては何とも言えぬが、YouTubeに関しては、改善の余地があるかもしれぬの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、小さく頷いた後、口を開く。

    『そうですね。ただ、ネットの情報を見る限り、宮迫さんにとって、ヒカルさんは唯一の協力者とも噂されていますので、ヒカルさんとの関係が切れてしまったら、宮迫さんは後がない状況になりそうです』

    表情を曇らせながらそう言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みで口を開く。

    「いつも言っているように、 “出逢いは必然”であることから、宮迫氏とヒカル氏の双方にとって、二人が関わることがお互いの今世の課題を果たすために必要である可能性が考えられるし、お互いが学ぶべきことが終わったら、縁がなくなる可能性もある」

    『ただ、ヒカルさんとの縁がなくなった結果、宮迫さんに新たな出逢いが生まれ、新たな活動やビジネスで成功する可能性も考えられますよね?』

    「もちろんじゃとも。そうは言っても、その後も宮迫氏が人との縁に恵まれず、人間関係での失敗を繰り返す可能性もあるものの、それはそれで、彼の今世の課題に含まれている可能性があることから、彼にとっては必要な体験でもあるのじゃよ』

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、小さくため息を吐いてから、再び口を開く。

    『宮迫さんの今後は前途多難だと僕には思われますが、転生回数が190回代で“大々山”にである彼には、各神事を申し込んでいただき、大難を小難にして本来のパフォーマンスを発揮していただけたらと願うばかりです』

    「宮迫氏がそなたを通じて、あるいは何らかの縁によってワシと出逢うかどうかも“出逢いは必然”と言えるじゃろうな」

    『なるほど。今後、幸運にもどこかで宮迫さんとご縁がありましたら、話してみようと思います』

    「“未来は不確定”であるゆえ、そなたと彼に縁があるかどうかについてはあえて言及せぬが、そなたの活動範囲がさらに広がり、時が満ちればひょっとするかもしれぬの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は長らく関わっていない、過去の知人と連絡を取っていた。

    今、こうして陰陽師の先生とご縁があるのは、いくつもの転機と、その背後でご縁を繋いてくれた人々のおかげである。

    会社を辞める背中を押してくれた人物。占いを教えてくれた人物。
    初めて氣を体感させてくれた人物。営業について教えてくれた人物。
    ボランティアとMLMについて教えてくれた人物。除霊について教えてくれた人物。
    周囲から馬鹿馬鹿しいと思われることでも、全力で取り組むことを教えてくれた人物。
    夢や宇宙やスピリチュアルについて教えてくれた人物。
    口先ばかりで実践が伴わないと、人の信頼を失うことを教えてくれた人物。

    今となっては連絡先がわからない人物がいるが、返信してくれた人々は、今も前向きに自分の道を歩んでいるようだ。

    もちろん、マイナスばかりで関わらない方がよかった人物も中にはいるが、そうした人々は、先生の鑑定結果ではNGと出た人物と縁を続けるとどんな損失を被るかを、身をもって体験させてくれた人々でもあり、そう言った意味では、“出逢いは必然”なのだろう。

    自分は、これからも多くの人々とご縁があるだろうが、恩が縁を運んでくれていたようにも感じられる。
    だから、今後も、過去に縁があった人々も含め、恩を仇で返すことなく、自分から縁を切ることなく関わっていこう。

    そう、青年は思議するのだった。

    《合わせて読みたい》
    ・2−3−5−5…2について:新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

  • 新千夜一夜物語 第56話:梅澤愛優香とはんつ遠藤の騒動

    新千夜一夜物語 第56話:梅澤愛優香とはんつ遠藤の騒動

    青年は思議していた。

    2021年9月24日に、元バイトAKBの梅澤愛優香さんが、彼女が経営するラーメン店から、ラーメン評論家を出禁にすることを表明した件についてである。
    その理由として、彼女の店を訪れたラーメン評論家の8割が、彼女のお店にとってマイナスでしかなかったと主張しており、彼らからは、セクハラやマウンティングに相当する言動が多かったことも言及している。

    さらに、彼女は27日にフードジャーナリストであるはんつ遠藤さんとの会食時のやり取りをツイッターで公開し、この件は同日に放送された、“グッド!モーニング”(テレビ朝日系)でも取り上げられた。

    多くのラーメン評論家の中でも、なぜ彼とのやりとりが取り上げられたのか?
    また、ラーメン評論家との縁を断った梅澤さんのお店は、今後どうなるのだろうか?

    独りで考えてもらちが明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は元アイドルの女性が経営するラーメン店から、ラーメン評論家が出禁になった件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「少し前に話題になった件じゃな。して、その件に関し、どういったことを知りたいのじゃ?」

    『梅澤愛優香さんとはんつ遠藤さんの魂の属性と、今回の騒動が起きた要因と、そして今後の梅澤さんのラーメン店はどうなっていくのかを教えていただきたいです』

    「そなたの質問前に答える前に、どういった経緯があったのか教えてもらえるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『以前、梅澤さんは、フードジャーナリストであるはんつ遠藤さんと会食した際に、“顔は写さないから身体だけ撮らせて”と要望され、しかも許可なく撮影されたことがあったようで、この件に関し、彼女はセクハラ被害に遭ったとしてツイッターで告白しました』

    「なるほど。その発言に対し、はんつ遠藤氏はなんと?」

    『彼は、会食のきっかけは梅澤さんがはんつ遠藤さんに会いたいということで、彼女の写真を撮っていいと思っていた上に、当時はお酒を飲んで泥酔していたために覚えていなかったようです。ちなみに、当日に撮った写真は使用していないとのことですが、その一件があって以来、梅澤さんは、彼に連絡をしないようにしていたところ、友人限定とは言え、読者が3200人いるはんつ遠藤さんのFacebook上で、梅澤さんが中傷されたと感じるような投稿をされたと、二次的な被害を訴えています』

    「その内容についてはわかるのかな?」

    陰陽師にそう問われた青年は、小さく頷いてから、口を開く。

    『その内容としては、梅澤さんのラーメン店が内装業者に工事代金を支払わなかったというものですが、この投稿は2020年4月のものでして、実際には2019年の6月には支払いが完了していたとのことですので、事実無根の投稿と思われます』

    「なるほど」

    『こうした梅澤さんの一連の発信に対し、28日未明にはんつ遠藤さんは自らのブログにて、自身が当事者であると名乗り出たが、しっかりと謝罪しなかったことが、梅澤さんのさらなる反感を買い、火に油を注ぐ事態となっています』

    「なるほど。梅澤さんのお店からラーメン評論家が出禁になった経緯についてはわかった。では、その二人の鑑定をするとしよう」

    そう言い、陰陽師は紙に属性表を書き連ねていく。

    梅澤愛優香SS
    はんつ遠藤SS

    二人の属性表を見た後、青年は口を開く。

    『今回の騒動と関係があると思われる、属性表におけるお二人の共通点として、人運が“7”で低いことと、血脈の霊障と天命運に“14:人的トラブル”の相がかかっていることと、血脈の精神疾患の14:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)があります』

    「そなたが挙げた共通点の中の、人運について補足しておくと、あくまで顕在化しやすい傾向であると念頭においた上で説明するが、総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、総合運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、総合運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる」

    陰陽師の説明に対し、青年は小さく頷いてから口を開く。

    『いつも先生がおっしゃるように、人間は“多面体”ですので、必ずしも全員に当てはまるとは限らないということでしたね』

    「そういうことじゃ」

    『人運の数字が“7”であること今回の騒動は、二人にとって、今世の課題を果たすために必要な出来事として生じた可能性があると思われますが、血脈の霊障によって今世の宿題に対して順接、すなわち無用な“重し”として顕在化したことが要因の一部となって、今回の件のように世間に知れ渡った可能性も考えられるのでしょうか?』

    「要因の一部、という意味では、その可能性も考えられる。さて、血脈の霊障の話が出てきたことから、もう一つの霊障、霊脈の先祖霊の霊障について説明すると、“霊脈先祖の霊障は、“逆説方向”、すなわち今世の宿題とは直接関係のない要素/方向性が含まれて顕在化する傾向があることも、覚えておくようにの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は頷いてから、再び口を開く。

    『他に、霊的な観点からこの件が起きた要因は考えられるのでしょうか?』

    「もちろん。ただし、この件が起きた要因は無限に挙げられるため、一概に語ることはできぬ。よって、あくまで要因の一部という意味では、そなたが言ったように、人運の低さと血脈先祖の霊障の可能性が考えられる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、納得顔で頷いた後、口を開く。

    『以前お聞きした限りでは、霊脈先祖の霊障の影響で“霊媒体質”の人物に顕在化している精神疾患は、現代医学では原因も症状も明確に診断されていないものがある一方で、血脈の精神疾患は、現代医学で診断される精神疾患とほぼ同義である場合が多いとのことでしたが、当人同士のクローズドな場での話し合いではなく、ウェブ上の文章による二人の応酬は、血脈の精神疾患14:予知・口撃衝動/諸事に支障(人)の影響もあるのでしょうか?』

    「もちろん、それが全ての要因とは言えぬが、そのうちの何分の一かはと言う意味では、その可能性も考えられる」

    『他には、インターフェイスの全ての数字が“4”であることも共通していますが、三桁目の数字の“4”にはどのような傾向が顕在化する可能性が考えられるのでしょうか?』

    「インターフェイスは“人当たり”を表す項目であり、両者は一桁目と二桁目の数字が“4”であることから、どちらかと言えば“人当たりが良い”傾向にあるが、三桁目の数字に“4”があることによって、その人当たりの良さの程度に応じた言動によって、対人関係において人生を根底から揺るがす“厄災”といった傾向の人生を歩む可能性がある」

    『なるほど。今回の騒動の影響で、現在、“はんつ遠藤の全国ご当地ラーメンリレー”の名称が2021年9月30日に彼の名前が削除され、“全国ご当地ラーメンリレー”に変更された他、日本航空(JAL)が運営する観光ウェブマガジン・OnTrip JALも9月28日、はんつ遠藤さんの連載を非公開にしているようです。フードジャーナリストである彼にとって、こうした対応をされることは、ある意味人生を根底から揺るがす“厄災”の序章とも言えそうです』

    「なるほど。いつも言っているように、人間は多面体であることから、インターフェイスの三桁目の数字のみで判断することはできぬが、数多くある要因の一つ、という意味では、そなたの言うことに一理あるかも知れぬ。ちなみに、梅澤さんには今回の件とは別に、何らかのトラブルはあったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『2021年秋に梅澤さんは新店の出店計画を立てていたようですが、50代の男性から麺の材料の業者に対して、“あの店には反社会的勢力がついている”などのメッセージを送られた結果、その業者からの材料の納入が取りやめとなり、新店の出店計画を見直さざるを得なくなったようです』

    「その件に対し、梅澤さんはどう対応したのかな?」

    『梅澤さんはメッセージを送った男性に対し、慰謝料および業務妨害による損害賠償を求め、同年9月8日、横浜地裁に裁判を起こしています。また、営業損害についても請求する予定で、警察へ被害届も出しているようです』

    「なるほど」

    『それにしても気になることがあるのですが』

    「なんじゃな?」

    『梅澤さんのラーメン店には、はんつ遠藤さん以外にも、複数のラーメン評論家が訪れており、中には初対面にも関わらず、断りもなく肩に腕を回してきて彼女と写真を撮ろうとした人物もいたようで、セクハラという意味ではこちらの人物の方が該当しそうなものですが、その中でも、はんつ遠藤さんが主に取り上げられた、何らかの霊的な要因が考えられるのでしょうか?』

    「出逢いは必然であることから、梅澤さんとはんつ遠藤氏は何らかの縁があって今回の騒動の役者となったことは、そなたも理解していると思うが、実は、二人は霊的な“近親憎悪”の関係であることが、複数いるラーメン評論家の中でも、はんつ遠藤氏が選ばれてしまった要因の一つになった可能性が考えられる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、二人の属性表を見比べた後、口を開く。

    『霊的な“近親憎悪”の関係ですか。“近親”という言葉から考えるに、二人の魂の属性には、共通点がそれなりに多くあるということでしょうか?』

    「いや、そうではない。あくまで今回の騒動がこの二人を主軸に起きた要因の一つとして、両者の間に何らかの特別な関係があるか否かをみた結果、わかったことに過ぎぬ」

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    『ということは、属性表の数字から判断できる内容ではないということですね』

    「そういうことじゃ。二人の共通点について付言するとすれば、二人の魂の属性は料理研究家やフードジャーナリストに多く見られる2(4)―3、すなわち転生回数が240回代の魂3:武士・武将であり、セオリー通りであれば、ラーメンという共通の料理において、何らかのコラボレーションができると考えることもできるが、霊的な“近親憎悪”であるこの二人に限って言えば、二人が同じ道を歩むことはないじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び両者の属性表を見比べた後、口を開く。

    『なるほど。以前、料理人の魂の属性のほとんどが2(7)―3、すなわち転生回数が270回代で魂3:武士・武将の人物とお聞きしましたが、梅澤さんの魂の属性が2(4)―3という点のみに注目すれば、彼女は料理研究家としての適性もあると思われますので、今までのように彼女が厨房に立つよりは、2(7)−3の人物に厨房を任せ、彼女はレシピ開発や経営といった裏方に回り、店舗数を増やす方向性も、可能性としてはありえるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口飲んでから、口を開く。

    「転生回数と魂の種類のみに着目すれば、その可能性はありえるが、彼女に限って言えば、頭2−7−7の、三桁目の“7”には、“物事を途中で放り投げる。挫折する”といった特徴が顕在化する可能性がある、という点を考慮すると、今の職業がいつまで保つかという問題も出てくるのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで眉間にシワを寄せながら、口を開く。

    『なるほど。確かに、彼女の魂の属性は、“2−3−5−5…2”(※第23話:この世のルールと芸能界参照)ですから、バイトAKBに所属できたことに納得できますし、あのままアイドルや芸能界の道を歩むこともできたと思いますが、頭の三桁目の“7”の特徴を考慮すると、ひょっとすると、また別の道を歩む可能性もゼロではないと』

    「まあ、そういうことじゃ。我々は死後、肉体を離れた後に地縛霊化しなかった場合、あの世で28年間、前世の振り返りをすると同時に、次の人生で果たすべき宿題を設定して再びこの世に転生してくることは、覚えておるな?」

    『はい。総合運の数字を例に挙げれば、今世の人生で体験することは、大まかに把握できると思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「さらに付言するとすれば、我々の人生は、左右に決して越えられない壁が立っている、100メートルくらいの幅の道を歩いているようなもので、その道の中でどう歩くかは本人の自由じゃが、本人にとって適していない選択肢を取ることによって、道の真ん中から徐々にずれてしまうことがある」

    『なるほど。以前、先生から関わってはいけないと鑑定された人物と、その後も縁を持ち続けた結果、僕のお金も時間もなくなっていき、今思えば、僕がやるべきでないことをやらされていたと思います。そうした現象は、例えるなら、壁にぶつかってしまい、前に進みにくくなってしまっていたのだと思われます』

    青年はそう言うと、当時のことを思い出してか、苦笑を浮かべる。
    そんな青年に対し、陰陽師はいつもの笑みのまま、口を開く。

    「その時々にどのような選択をするかは、我々一人一人の意思に委ねられており、地球上にいるおよそ77億人の選択によって未来が変わっていく。よって、未来は不確定であることは、いつも言っている通りじゃ」

    『なるほど。例えば、梅澤さんは“2−3―5−5…2”の魂の属性を持っているからと言って、プロのスポーツ・芸能・芸術の世界で生きることが運命づけられているわけではなく、アイドル活動に尽力する時期があれば、ラーメン店の店主として心血を注ぐ時期もあり、ひょっとしたら、また別の道を歩むことになれば、今度はその道で精進する可能性もありえると』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「その可能性も考えられる。大事なことは、自分の人生はこうだと決めつけることなく、また、望んだ結果を得ようと未来を意識して行動するのでもなく、その瞬間瞬間の出来事に対し、真摯に取り組むことじゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自らの金運の“7”について考えていた。

    自分は幼少期から、お金で困ったことはほとんどなく、経済的にはとても恵まれていたと思う。
    元々物欲が乏しかったからか、新卒で就職した会社に勤めていた頃は、お金に困ることはなく、むしろ意図的に無駄遣いしても1年間で七桁の貯金をしていた。

    だが、自営業になってからは、高額な情報商材を購入したり、投資詐欺ややりがい搾取によって、時間はなくなる反面、借金が膨れ上がっていた。
    特に、ご神事を受ける前の半年は最悪な時期で、無一文になったことが何度かあったと思う。

    仮に自分の金運の数字の“7”に“挫折する”傾向が含まれているとすれば、当時の状況に納得がいくし、その結果、お金の重要さが身に染みてわかり、必要なこと・物だけにお金を使えるようになった。
    自分は出家を目指していないため、物欲をなくす必要はないが、少なくとも、目先のお金や物欲に左右されにくくなり、今世の課題を果たすために必要なことに対してお金を使うようになれたことは、非常に大きな学びだったと思う。

    それに、”2:仕事”の相がかかっていた影響もあってか、生きる目的が特になかった当時の自分にとっては、借金を返すことが生きる目的の一つになり、当時は命を断とうとした理由であった借金に生かされているという、皮肉な結果となっているように感じられる。

    よって、信じていた人に裏切られ、大金を失った事実は変わらず、高い授業料ではあったが、今の自分が在るのは彼らのお陰だと考えられるため、感謝している。
    今後も彼らと関わる可能性はほぼないだろうが、もしまたご縁があった時は、彼らが彼らの今世の課題を果たせるよう、お互いの運気が下がらない範囲で力になろう。

    そう、青年は思議したのだった。

    《参考》
    ◯魂の種類について:新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事
    ◯2−3−5−5…2について:新千夜一夜物語 第23話:この世のルールと芸能界

  • 新千夜一夜物 第55話:女子高生遺体遺棄事件と魂の属性

    新千夜一夜物 第55話:女子高生遺体遺棄事件と魂の属性

    青年は思議していた。

    2021年8月31日未明、山梨県早川町にある山奥の小さな小屋で、群馬県渋川市に住む小森章平さん(27)と妻の和美さん(28)によって、都内の高校3年生である鷲野花夏さんが殺害された事件についてである。

    加害者の夫と被害者はSNSを通じて知り合い、加害者の妻が彼の携帯電話を勝手に盗み見て二人のやりとりを知って激昂し、三人で会うことになった。都内から被害者を合意のもとで自動車に乗せて犯行現場に連れて行った後、加害者の妻は被害者に対する気持ちの整理がつかずに犯行に及んだという。

    今回の事件はなぜ起きてしまったのだろうか?
    ひょっとして、今回の事件も“5:事故/事件”の相が関係しているのだろうか?

    独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は女子高生遺体遺棄事件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「先日に起きた事件のことじゃな。して、具体的にどういったことを知りたいのじゃ?」

    『二人の加害者と被害者の魂の属性と、霊的な観点から、今回の事件がなぜ起きてしまったかを教えていただけますか?』

    「あいわかった。まずは、三人を鑑定しよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は小刻みに指を動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    小森和美SS
    小森章平SS
    鷲野花夏SS

    三人の属性表を見比べた青年は、怪訝な表情で口を開く。

    『全員、“5:事故/事件”の相がかかっていませんね。ただし、三人の共通点として、転生回数の十の位が30回代であるため、“数奇な人生”を歩む傾向がある点と、人運が“7”以下と低く、人間関係で生じる様々なトラブルを通じて学びを得る傾向がある点から、大雑把に言ってしまえば、今回の事件の役者としてこの三人が引き寄せ合ってしまったと考えることができそうです』

    「そう考えることもできよう。ところで、人運が出てきたため、総合運について補足するが、総合運が9点満点として、なおかつ9点の項目の運がある場合、その項目で苦労することは今世の宿題に含まれていない傾向がある。そして、8点の場合は、霊障とは関係なく“何らかの問題を抱える”ことになり、7点以下になってしまうと、“かなり大きな問題を抱える”結果となる。また、全体運が1点下がる毎に、それ以外の項目は、全体運9点の場合と比べて、さらに1点ずつ下がることになる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、各々の人運の数字を見比べた後、口を開く。

    『先日の硫酸事件(※第54話:硫酸事件と魂の属性参照)の被害者と今回の被害者、共に人運の数字が“4”なのですが、この数字にはどのような傾向が顕在化する可能性があるのでしょうか?』

    「その質問に答えるにあたり、総合運の数字が持つ傾向についても整理しておくかの」

    そう言い、陰陽師は紙に三つの数字について書き足していく。

    3:「女性的側面」、「奉仕」、「マゾ的気質」、「変態趣味」、「狂気」
    4:命に係わる重病、あるいは人生を根底から揺るがす「厄災」
    6:「不幸(そのもの)」「不幸な選択」「不実」「攻撃性」「サド的気質」

    陰陽師が書いた文を青年は食い入るように見つめ、やがて口を開く。

    『それぞれの人運の数字から鑑みるに、加害者の妻の“3”は特に“狂気”、加害者の夫の“6”は特に“不幸な選択”や“攻撃性”、そして、被害者の“4”は今回の事件が人生を根底からゆるがす“厄災”として顕在化した可能性があると考えられます』

    「その可能性が考えられる。また、加害者二人の共通点として、欄外の枝番の数字のほとんどが“9”であること、魂の特徴の“攻撃性”の上段の数字が“2”であること、インターフェイスの一・二桁目の数字が“6”であることと、頭が2で“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある点も、今回の事件が起きた要因の一部となっている可能性がある」

    そう言い、陰陽師は頭1/2の特徴を紙に書き記していく。

    頭1:農耕/遊牧民族の末裔。世のため・人のためを地で行動する傾向がある
    頭2:狩猟民族の末裔。“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向がある

    陰陽師の説明に対し、青年は大きく頷いてから、口を開く。

    『頭1/2の枝番は、“1”に近いほど頭1/2の傾向が顕著になり、“9”に近いほどもう一方の頭1/2の傾向に近づいていくとお聞きしましたので、加害者の妻の頭2の枝番が1で、夫の頭2の枝番が3と、共に頭2の傾向がかなり強いこととも加害者たちが事件を起こした要因の一部と考えられます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    「さらに付言するとすれば、加害者の妻のインターフェイスの三桁目の数字が“6”で、ここが“6”の場合、“攻撃性”を持つ傾向があることと、血脈の精神疾患の“10:攻撃性”があることも、事件が起きた要因の一つとなっている可能性がある」

    小森和美SS

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷くのを確認し、青年は言葉を続ける。

    『攻撃性を初めとする、そうした要因を考慮すると、ネットの情報を見る限りでは、三人で会った際、“小屋まで行ったが気持ちの整理がつかず、殺した”と加害者の妻が言っているようですので、彼女が話し合いで解決する間もなく犯行に及んでしまったことは、やむを得なかったと思われます』

    「その可能性も考えられる。して、実際のところ、三者がどのような人物であるか、ネットに載っているのかの?」

    陰陽師に問われた青年は、小さく頷いてからスマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『まずは加害者の妻ですが、彼女は前夫との間に三人の子供がいるようで、しかも、実家の両親に預けたまま現在の夫と結婚したようです。前夫とはDVが原因で離婚したとのことですが、彼女の恋愛運が“3”であることを鑑みるに、納得できます』

    「なるほど。ちなみに、学生時代の彼女の交友関係はどうだったのかの?」

    『高校時代の加害者の妻は“いじられキャラ”で、いつもおちゃらけている女芸人という感じだったそうです。休み時間には仲の良い女子たちと静かに話していたと思ったら、急に“わー!”と叫びだしたりして、教室がざわつくこともあったりと、正直変わり者というイメージが強かったと』

    「そのあたりは、魂の属性から推して知るべし、といったところじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は首肯した後、口を開く。

    『今度は加害者の夫ですが、彼は突拍子のないことばかり言っていたようで、常々、“俺は爆弾を簡単に作ることができるから、その気になれば簡単に人を殺せる”、“殺すときは残虐なやり方じゃないと気がすまない”などの発言をしていたようです」

    「なるほど」

    『そして、中学卒業後の彼は水産高校に進学し、“航海士か自衛隊員になりたい”という夢があったそうですが、実習が過酷で、先輩にイジメられていたなどの事情もあって中退したようです。妻と結婚し、三重県から群馬県に転居する際も、“これから2人で生きていきます。探さないでください。探したら容赦はしません”とパソコンからプリントアウトされた小さな1枚の置き手紙だけを残して、一緒に暮らしていた母親と別れたようですので、人との関わり方に問題があったのだと思われます』

    「なるほど。ちなみに、恋愛運が“6”である彼の異性関係はどうだったのじゃ?」

    陰陽師にそう問われた青年はスマートフォンを操作し、口を開く。

    『中学生の時、彼はクラスの女子生徒に向かってカッターナイフを振り回したり、別の女子生徒を階段の一番上から、何の理由もなく突き落としていたようです。本当に危険人物だったと周囲から思われていたようです。他にも、彼は、昔から年下の女の子が大好きだったようで、スカートをめくったり、靴を奪ってどこかに隠したりする他、ストーカーまがいのことをしていたとのことです。しかも、すぐに“目移り”する性格で、ストーカー被害に遭った女子児童の数は相当数いたとのことです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、属性表を書いた紙を一瞥し、口を開く。

    小森章平SS

    「そうした彼の女性に対する行動は、恋愛運の数字が“6”を初めとする、霊障や魂の属性が要因となっていると考えられる。ただ、一つ気になったが、加害者の妻の方が彼より年上であるが、この相違点はどういうことじゃ?」

    『年下好きについての実相はわかりませんが、ネット上では、昔からぽっちゃりした女性が好きだったという情報も書かれていますので、加害者の妻の見た目が好みだったのかもしれません。実際、加害者の妻と被害者の容姿は、似ているように思われます』

    「なるほど。して、被害者については何かわかるかの?」

    『被害者の女子高生ですが、彼女が中学生の時は、友達が多く、男女分け隔てなく仲良くしていたようで、家族仲も良好で、揃ってキャンプへ行っていたとのことです。事件が起きる前は、“心理学を学ぶために大学に行きたい”と受験勉強に励んでいたそうです』

    「実際にその夢が叶うかどうかは別として、そうした志を持った人物が志半ばで命を落としてしまうことは、残念ではあるがの」

    『そうですね。僕も残念に思います』

    そう言った後、青年はしばらくしてから、おそるおそる再び口を開く。

    『ところで、彼女の魂は、無事にあの世に戻っているのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は無言で指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「残念ながら、地縛霊化しておるようじゃな」

    陰陽師の答えを聞いた青年は、小さく嘆息してから、口を開く。

    『福岡5歳児餓死事件(※第44話:福岡5歳児餓死事件参照)では、餓死した男子の魂は一年半に渡る飢餓状態で苦しい体験を経たからか、相殺勘定の働きもあって無事にあの世に戻っていましたのだと思われますので、ひょっとしたら、若くして亡くなった鷲野花夏さんの魂も、彼の魂と同様に、無事にあの世に戻っていると思いました』

    「彼女の人運が“4”であることや二人の加害者の魂の属性を考慮すれば、今回の事件に巻き込まれること(災厄)は彼女の今世の宿題を果たすために必要な体験だった可能性が考えられるが、彼女の魂が地縛霊化していることから、今回の事件でもって今世の宿題を果たせたかどうかとは別に、彼女にはこの世に対する未練があったようじゃな」

    鷲野花夏SS

    『なるほど。そして、何に対して未練があったかは、本人のみぞ知るといったところだと思いますし、仮に未練の内容がわかったとしても、肉体を持たない彼女には、もはやどうすることもできませんし、遺族や我々にできることは、彼女の魂があの世に戻れるように救霊するしかありませんよね』

    「そなたの言う通りじゃ」

    青年を励ますような口調で言った陰陽師の言葉に対し、青年は頭を下げ、口を開く。

    『では、鷲野花夏さんの救霊神事をお願いいたします』

    「あいわかった。今夜中に神事を執り行うことを約束しよう」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は顔を上げ、口を開く。

    『それにしても。鷲野さんが地縛霊化していたことを踏まえ、あえて極端な言い方をすると、人運が低く、欄外の枝番の多くに“9”を持つ人物の場合、傷害事件や殺人事件を起こすことが今世の宿題に関わっている可能性があるのでしょうが、だからと言って、そうした人物が、他人とのトラブルや事件を積極的に起こせばいい、ということにはなりませんよね?』

    「もちろんじゃとも」

    小さく頷きながらそう言う陰陽師に対し、青年は小さく安堵の息をもらし、口を開く。

    『それを聞いて安心しました。クライアントの中には、早く今世の宿題を果たしてこの世を去りたいと言う人もいますので、そうした人々にもしかと理解していただこうと思います』

    「それがよかろう。さらに付言するとすれば、未来は不確定であるから、未来を意識して行動するのではなく、出逢いは必然であることをじゅうぶんに理解し、縁がある人や目の前の現象、一つ一つのことを真摯にこなすことが肝要だと、ワシは思う」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自身の恋愛運の“6”について考えていた。

    幼少期の自分は、好きな女子をイジメるタイプだった。
    恋人に対してもそうだ。彼女に幸せになって欲しい。できることを何でもしてあげたいと思っていた。
    なのに、関係が深まるにつれ、その思いとは裏腹に、傷つける言葉を恋人に投げかけていた。

    前の恋人にした失態を、二度とすまい。
    そう強く誓い、改善していけば、いつの日か恋人を傷つけずに済むかもしれない。
    そう思っていたのに、今度は、今までと異なる形で相手を傷つけていた。
    あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。あの人も。
    自分にはもったいないくらいに素敵な女性ばかりだった。

    もっと優しくしたかった。もっといろんなことを一緒にして、喜んでもらいたかった。
    ただ、彼女たちに幸せでいて欲しかっただけなのに。
    当時の自分を殴り飛ばし、全員の前で焼き土下座させ、その場で腹を切らせて詫びさせたい。
    けれど、どれだけ悔やんでも、どれだけ謝罪の念を抱いても、彼女たちに届くことはない。

    俺と恋仲になることで不幸を与えてしまうなら、出逢わなければよかった。
    自分に腹が立ち、どれだけ自分の頬に拳を打ち付けても過去は変わらない。
    胸の内に残るのは、ただただ不幸そのもの。

    今世の自分は、恋人を作るたびに恋人を不幸にし、自らも不幸になる体験を死ぬまで繰り返すなら、いっそのこと、女性と関わることを完全に無くしてしまおうか。
    だが、そうした思いを体験することが、今世の宿題を果たすために必要なら、その選択は望ましくない。
    だからと言って、欲望のままに女性と関わることも望ましくない。

    それなら、自分と深く関わってくれる女性たちとの時間を大切にし、可能な限り貢献していこう。
    彼女たちの魂磨きの障害となる全てを解消できるよう、そして、いつかどこかで昔の彼女たちと再びご縁がある時に、可能な限り力になれるよう、己と魂を磨き続けよう。
    ただし、いずれ彼女たちが自分から離れることを胸に刻んでおき、別れの際はどれだけ恨まれることになっても喜んで受け入れよう。

    自分が受けた不幸の分だけ、自分とご縁があった、そしてこれから深く関わる女性全員に幸せがもたらされますように。

    そう、青年は思議したのだった。

  • 新千夜一夜物語 第53話:100万分の1の奇跡と霊障

    新千夜一夜物語 第53話:100万分の1の奇跡と霊障

    青年は思議していた。

    1950年3月1日の19:25頃、米国のネブラスカ州にあるウエスト・サイド・バプティスト教会が爆発し、全壊した事件についてである。
    この教会では、毎日聖歌隊のメンバー全員が必ず15分前に到着して準備をして19:30に練習を開始しており、しかも、聖歌隊を結成したおよそ2年前から一度も遅刻者がいなかった。
    しかしながら、その日に限って15名のメンバー全員が各々何らかの理由によって遅刻したために、誰一人命を失わずに済んだという。

    時間を守る人物が15名もいるのであれば、聖歌隊のメンバーの内の何名かは命を落としていてもおかしくなかったはずだが、なぜこのような出来事が起きたのだろうか?
    神の奇跡か、あるいは何らかの霊障が関係しているのだろうか?

    独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は“奇跡”について教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「一言で“奇跡”と言っても様々な出来事があると思うが、よもや、漫画の世界の話ではあるまいな?」

    そう問いかける陰陽師に対し、青年は苦笑しながら答える。

    『いえいえ、確かに出来事としては漫画の世界の話のような内容ですが、現実に起きた話です』

    そう言った後、青年は出来事の概要を陰陽師に説明する。
    無言で耳を傾けていた陰陽師が、やがて疑問を口にする。

    「出来事の経緯については把握した。して、その15人はどういった理由でそれぞれ遅刻したのかの」

    青年は、スマートフォンを眺めながら口を開く。

    ・ラドナ・バンデクリフトさんは数学の宿題を終わらせようとして遅刻
    ・ルーシー・ジョーンズさんはラジオ番組を最後まで聞いたために遅刻
    ・ドロシー・ウッドさんはラジオに夢中のルーシーさんを待っていて遅刻
    ・聖歌隊のリーダーであるマーサ・ポールさんとその娘のマリリンさんは夕食後にうたた寝をしてしまい遅刻
    ・ハーバード・キプフさんは提出するレポートができあがらずに遅刻
    ・ハービー・アールさんは教会に連れて行こうとした子供たちがぐずり、それに手間取って遅刻
    ・ジョイス・ブラックさんは体がだるく腰を上げられずに遅刻
    ・ウォルター・クレンプル一家は、汚れてしまった娘の洋服を着替えさせていて遅刻
    ・ロイーナ・エステスさんと妹サディエさんは車のエンジンがかからず遅刻
    ・レナード夫人と娘のスーザンは、母親の手伝いをしていたために遅刻

    『このような感じで、各々がささいな理由で遅刻したようです』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、紙に鑑定結果を書き連ねていく。
    *諸事情により、鑑定結果は12名分の掲載となります。

    ラドナ・バンデクリフトSS

    ルーシー・ジョーンスSS

    ドロシー・ウッドSS

    マーサ・ポールSS

    マリリン・ポールSS

    ハーバード・キプフSS

    ハービー・アールSS

    ジョイス・ブラックSS

     ウォルター・グレンブルSS

    ロイーナ・エステスSS

    サディエ・エステスSS

    スーザンSS

    全員の鑑定結果に目を通した青年は、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『おや、霊障にも天命運にも“5:事故/事件”の相がかかっている人物はいないようですね。それに、他の項目を考慮しても、この事故が起きたことと、彼らが当日に偶然遅刻した要因はないように思われます』

    「そなたの言う通りじゃ」

    『と仰いますと?』

    「当時教会でガス爆発が起きたことも、聖歌隊の面々が全員遅刻した結果、誰一人として命を落とさずに済んだのも、たんなる偶然じゃ」

    土地や教会内のグッズにかかっていた霊障も関係なく?』

    「うむ」

    戸惑いの表情を見せながら、青年は問いを続ける。

    『聖歌隊が敬虔な信者で、日々善行に励んでいた彼ら・彼女らに対し、例えば、眷属が何らかの働きをしたという可能性も考えられないのでしょうか?』

    「ワシの見立てでは、この事件が起きたことに、霊的な要因はないようじゃな」

    青年は首を傾げながら小さく唸った後、口を開く。

    『なるほど。それにしても“事実は小説よりも奇なり”とはよく言ったものだと思います』

    そう言い、小さなため息を吐く青年に微笑みかけ、陰陽師は口を開く。

    「今回の出来事に注目すれば特に解説することはないが、今日は魂の属性を中心に話を進めていくとするかの」

    そう言い、陰陽師は卓上に並べられた属性表の中から、一枚を青年の前に差し出す。

    ハービー・アールSS

    その属性表を再び見た後、青年は口を開く。

    『ハービーさんの属性表の中で特に気になったのが、ハービーさんの欄外の枝番の数字が“9”で、インターフェイスが“7”で、陰陽五行に“火”を持っていることですね』

    「そなたが言及した項目に関して説明すれば、彼は、属性をみる限り世界を変革するような力があるとは思えぬので、この世の基準で言うところの、悪行に手を染めやすい傾向があり、当時の事件があった1950年から2021年の間に、ひょっとしたら何らかの犯罪を犯している可能性が考えられる」

    『なるほど。彼の魂の特徴にある“攻撃性”と“恨みつらみ”の上段の数字が“2”ですし、人運の数字が“7”以下ですので、他人との揉め事が多く、先生がおっしゃるように、場合によっては傷害罪や殺人罪に発展した可能性があるのではないかと、考えられます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、再び口を開く。

    「断言はできぬが、その可能性は考えられる。また、彼の基本的気質(OS)の上段の数字が“8”であることも珍しい」

    『確かに。基本的気質と具体的性格の項目でよく見かける数字は、3、5、7の三つですが、“8”はどういう意味でしょうか?』

    “8”はいわゆる“輩”と呼ぶにふさわしい資質で、現代の日本で言うところの、反社会的勢力や右翼の大幹部の一部が持つ番号となる

    『ということは、ハービーさんはこの世の基準で言うと、かなりの危険人物と言えそうですね』

    「いつも言っているように、人間には多面体があり、彼の他の属性を考慮すれば、確かにそなたの言う通りかもしれぬが、この数字はいわゆる時代の“風雲児”たちが持つ数字でもある。例えば、歴史的に見ると、世界史では秦の始皇帝やナポレオン一世、日本史では、源義経・為朝兄弟、徳川家康、清水次郎長、西郷隆盛、さらには小泉純一郎元首相といった人物が該当する」

    『なるほど。ちなみに、ハービーさんは8−7と、基本的気質と具体的性格の上段の数字が異なりますが、このことはどのように解釈すべきでしょうか?』

    魂1〜3の人物に限って言えば、8−7の数字を持つ人物が懐の深い大物然とした性格を持っているのに対し、7−8の数字を持つ人物の場合、感情の起伏が激しかったり、声が大きくて粗暴な言動が目立ったりする。この辺りが、基本的気質(OS)と、表面に顕在化する性格という意味での具体的性格(ソフト)という表現で説明できるわけじゃ

    『魂1〜3に限ってとのことですが、魂4であるハービーさんの場合、どのような人物像が考えられるのでしょうか?』

    「実際に会ったことがないから断言はできぬが、強いて言うなら、“態度がでかい”、“一見スケールが大きいように見える発言をする”、“一見魂3:武士・武将のような言動をすることがある”、といったところかの」

    『同じ数字の組み合わせであっても、OSとソフトのどちらになるかと、魂1〜3か魂4によって、だいぶ性格が変わるのですね』

    「まあ、そういうことじゃ。もう一度ハービーさんの属性表を見てもらいたいのじゃが、彼には霊脈と血脈の先祖霊の霊障がどちらもかかっていないことはわかるかの」

    ハービー・アールSS

    『確かに。僕が知る限りでは、ほとんどのクライアントに血脈の先祖霊がかかっていましたが、魂の属性7:唯物論者である彼には、霊脈の先祖霊がかかっていないのはもちろん、血脈先祖の霊障もかかっていないのは珍しく感じます』

    「うむ。以前に説明したと思うが、先祖霊は何とかしてあの世に戻りたいと願っていることから、願いを叶えてくれそうな子孫を選んでかかっている。つまり、先祖霊が一人もかかっていない彼は、先祖たちから見て、霊的に頼りにならないと認識されていると言えよう」

    『なるほど。彼の総合運の“大日不可思議”の項目のスコアが“3”とかなり低いので、彼は先生のお話を理解できないでしょうし、先祖霊を救霊しようという発想に至る可能性が低いと考えれば納得できます』

    「さらに補足しておくと、例えば、我が国では4−4(転生回数期が第四期の魂4)の多くが、外国では3−4(転生回数期が第三期の魂4)、その中でも特に魂の属性7:唯物論者には、血脈の霊障がない人物が多いようじゃな」

    ハービー・アールさんの属性表を再び眺めていた青年が、再び口を開く。

    『なるほど。ところで、精神疾患の項目は、今までは霊脈のみで血脈にはありませんでしたが、血脈先祖の霊障と同様に、血脈の精神疾患は、魂の属性3:霊媒体質の人物はもちろん、魂の属性7:唯物論者の人物にもかかるという認識でよろしいのでしょうか?』

    「うむ。霊脈先祖の霊障の影響で“霊媒体質”の人物に顕在化している精神疾患は、現代医学では原因も症状も明確に診断されていないものがある一方で、血脈の精神疾患は、現代医学で診断される精神疾患とほぼ同義だと考えて差し支えない

    『なるほど。聖歌隊のメンバーのほぼ全員が、血脈の精神疾患の“16:統合失調症”に該当していますので、ひょっとしたら、精神科で統合失調症と診断されている現代人の多くが、血脈先祖の霊障と他者の念、雑霊/魑魅魍魎の影響を少なからず受けているのかもしれませんね』

    「その可能性は大いにあると、ワシは思う。ただし、魂4の人物の場合、精神疾患の項目である16は、“統合失調症”と言うよりも“子供っぽさ/幼稚”として顕在化する傾向がある

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『霊脈先祖の精神疾患は同様に、血脈の精神疾患は血脈の神事が済めば症状が改善するのでしょうか?』

    「いや、そうではない。血脈先祖の霊障がかかっていない人物に対しても血脈の精神疾患の項目があることから、霊脈・血脈の霊障とは関係なく顕在化する項目だと言える。言い換えれば、その人物の先天的な“性向”であり、極端な言い方をすれば、今世の課題を果たすために必要な“性向”の一部でもある

    『そうなりますと、陰陽五行の長所・短所や総合運に反映されてもいい項目のように考えられますが、個別に鑑定される理由はあるのでしょうか?』

    「血脈先祖の霊障は、例えば、“魂3:武士”であるそなたを例に挙げれば、魂の種類1〜4の中で、“魂3:武士”以外の魂の種類を持つご先祖がそなたにかかることは覚えておるな?」

    陰陽師の問いに首肯して答える青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「さらに血脈先祖の霊障の特徴として、一度本人にかかった血脈先祖を救霊しても、他の親族が亡くなった場合に、再びかかる可能性があることじゃ。他にも、例えば、そなたの兄弟が生きている間であっても、いわゆる“横滑り”という形でそなたにかかる可能性があり、さらに言うと、友人・知人からの“横滑り”もなきにしもあらず、じゃ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、目を見開いてから口を開く。

    『ということは、一度血脈先祖の神事を済ませても、いつ再び血脈先祖の霊障がかかってもおかしくないわけですね』

    「そういうことじゃ。よって、そなたの血脈先祖の精神疾患が強く顕在化した場合、そなたの親族から血脈先祖の霊障が再びそなたにかかったことを知らせる“お印”であると考えられるわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく頷いてから、口を開く。

    『他に気づいたこととして、全員が頭2:狩猟民族の末裔、すなわち、“我”が強く、自分の利益に関して損得勘定で動く傾向があることが挙げられますが、何らかの理由は考えられるのでしょうか?』

    「しいて言うなら、キリスト教は頭2であり、この事件が起きたネブラスカ州の人口の61%が信仰している宗派であるプロテスタントも、頭2じゃ」

    『なるほど。神社に祀られている神と同様に(※第18話参照)、宗教にも頭1/2があるのですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「全ての宗教に触れるには時間が足りないから、他の宗教・宗派については別の機会に話すが、“プロテスタント”は“ローマ・カトリック教会”から派生した宗派である」

    そう言い、陰陽師は紙に両者の特徴を書き記していく。

    カトリックとプロテスタントの違いSS

    『これらの違いを見る限り、カトリックの方が厳格そうですが、実際のところはどうなのでしょうか?』

    「何事も例外があるゆえ一概には言えぬが、実はキリスト教の中でもプロテスタント宗派は特に論調が強く、“新約聖書”および“使徒の手紙”の内容が倫理的な役割を持っていることから、信者たちが世間で言う善行に励み、悪行に手を染めないようにするという意味では、それなりに有効な宗派と言えるかもしれぬ」

    『なるほど。実際のところ、プロテスタントの牧師とその家族は、それらの内容を遵守し、善人のような生活を送っている人物が多いのでしょうか』

    青年の問いに対し、陰陽師は首を小さく左右に振ってから答える。

    「残念ながら、敬虔なプロテスタントの牧師が、子供を含めた家族と共に聖書などの内容を遵守した生活を送っているにも関わらず、子供は非行に走ってしまったり、悪行に手を出してしまうことがあるようで、プロテスタントの信者だからと言って、善人であるとは限らないようじゃな」

    『ただ、そうした現象が起きている要因として考えられるのは、そうした非行に走ったり悪行に手を出してしまった子供は、彼・彼女の今世の課題を果たすための行動を取っているからではありませんか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「その可能性が高い。以前も説明した通り、子は自らの今世の宿題を果たすために最も適した母親を選んで産まれてきていることから、両親のいずれかがプロテスタントの牧師である家庭に産まれた子が、両親の教育や意向に反して非行に走ることも、その子と両親、特に母親の宿題を果たすための行動と考えることができる

    『なるほど。その一方で、両親の教育や意向を肯定的に受け取り、両親と同様に敬虔なプロテスタントの信者となって、善人として生活したり、親の跡を継いで牧師になるケースもあると』

    「極端な言い方をすれば、その二つに大別されるじゃろうな。ただし、実際は家庭ごとに親子で魂の属性が異なり、当然それぞれの今世の宿題も異なることから、様々な事例が考えられ、そうした諸々の順列組み合わせによって各々が“魂磨き”に取り組んでいると考えられる」

    陰陽師の言葉に対し、青年はカトリックとプロテスタントの違いを再び読み、口を開く。

    『プロテスタントの牧師は婚姻を認められているため、そのように親子間での“魂磨き”が行われていることはわかりました。その一方で、結婚を禁じられているカトリックの神父の場合は生涯独身となりますので、プロテスタントの牧師とはまた違った形で“魂磨き”に取り組む傾向があるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「カトリックの神父は結婚だけでなく、異性/同性との性交や性的快楽も禁止されているため、教会の規則と自分の欲望の間で苦しむことも、今世の宿題の一つになっていると思われる」

    『なるほど。そして、欲望に負けて禁止されている行為を行なってしまった神父の中には、禁止行為を行うことが今世の宿題に含まれている可能性もあるのでしょうか』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく頷いてから口を開く。

    「その可能性もある。ローマ・カトリック教会の影響力が強い国・地域においては、性交・性的快楽に手を出した神父は“悪”として断罪されることじゃろう。しかし、一人一人の人物が各々の今世の課題を果たすための行動を取っているわけであり、罪を憎んで人を憎まずではないが、個々人の言動に対し、この世の善悪を基準に評価・判断しないように心がけることは、常々話している通りじゃ」

    『そうした例のように、この世の基準で悪とみなされる行為が、人によっては今世の課題を果たすために必要となることを考えると、万人が善人となって“地上天国”を目指すという、一部の小乗仏教を除いた新興宗教の多くの教義は、やはりセントラルサン/カミの意向に沿っていないと考えざるを得ないのが、僕の正直な感想です』

    「そなたの意見は一理ある。科学が発達して物質的に豊かになった国が多くなり、医学の進歩によって世界の人口が増えていることは、見方によってはこの世が“地上天国”に向かっていると思われるものの、“令和革命”によってコロナ禍が始まり、世界が過酷な状況になっていることを踏まえると、セントラルサン/カミの意向としては、やはりこの世は“地上天国”ではなく、魂磨きの修行の場としての役割を担っていると帰結せざるを得ないのじゃよ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年はこの出来事に関するネット記事に再び目を通していた。

    数学者ウォーレン・ウィーバーは、この奇妙な出来事が起こる確率は、およそ100万分の1になると算出したが、その他の計算によっては、100億分の1とも100兆分の1とも言われているようだ。

    それだけ稀少な確率で起きたこの出来事が霊的な要因とは関係なく、たんなる偶然であるなら、やはり見えない存在を頼りにして“奇跡”が起こることを期待して日々を過ごすよりも、自分の決断と行動を信じ、“人事を尽くして天命を待つ”ではないが、目の前のことに真摯に取り組むことが大事だと、改めて青年は実感したのだった。

  • 新千夜一夜物語 第52話:学歴社会と毒親

    新千夜一夜物語 第52話:学歴社会と毒親

    青年は思議していた。

    看護師を目指していた娘が実母を殺害し、遺体を損壊、遺棄した事件についてである。
    この事件の背景には、娘が学生時代から教育虐待と言っても過言ではない束縛を母親から受けていたことがあった。しかも、娘は医学部合格を目指して9年間も浪人したようで、教育虐待の期間がそれだけ長かった上に、医学部ではないものの、妥協してようやく入学した大学生活やその後の就職先に関しても、母親からの束縛は続いていたようだ。

    実の娘に殺害されるほどの教育虐待を母親がしてしまったのはなぜだろうか。
    また、9年間も浪人した娘は、その後も受験勉強を続けていたら、いずれは医学部に合格できたのだろうか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は学歴社会と毒親について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「学歴社会と毒親とな。なぜその2つの組み合わせなのかはワシにはちとわからぬが、具体的にはどういったことを知りたいのじゃ?」

    そう陰陽師に問われた青年は、事件の概要について説明した。

    ・桐生しのぶさんは、自身が高卒であることにコンプレックスを感じており、娘である桐生のぞみさんには、公立高校から東大や国公立医学部に進学するという、母親が理想とするエリートコースを歩ませたいと思っていた。
    ・のぞみさん自身も、手塚治虫の漫画“ブラックジャック”に憧れ、外科医の夢を抱いた。
    ・父親はのぞみさんが小二の頃から社員寮で別居することになったため、母子二人での生活が続き、母親の教育虐待を止められる人はいなかった。
    ・母親の期待に応えるため、のぞみさんは9年間浪人したが、それでも医学部に合格できなかったため、2014年に合格した滋賀医科大学の看護学科に進学することになった。
    ※ただし、のぞみさんが将来、助産師になるという条件付で。
    ・2016年、大学2年の時に、のぞみさんは手術室看護師になりたいと思うようになる一方、2016年の終わり頃に助産師課程の進級試験に不合格になり、再び束縛は再燃した。
    ・2017年の夏には医大の付属病院から就職の内定を得ていたが、母はそれを辞退して助産師学校に進学するよう迫った。
    ・2017年12月、母親から所有を認められていた携帯電話とは別に、のぞみさんが隠し持っていたスマートフォンが母親に見つかる。母親はのぞみさんに庭で土下座させ、その様子を撮影し、スマホをブロックで叩き壊し、所有を認めていた携帯電話に「ウザい!死んでくれ!」とショートメールを送って罵倒した。
    ・2018年1月19日、1月中旬に受けた助産師学校の試験は不合格。大学病院への就職手続きの期限が一週間後に迫った際に、母親に「看護師になりたい」と本音を打ち明けたが、「あんたが我を通して、私はまた不幸のどん底に叩き落とされた」と一蹴され、その後、母親から夜通し怒鳴られ続けた。
    ・日付が変わった真夜中、のぞみさんがしのぶさんを殺害し、「モンスターを倒した。これで一安心だ」とSNSに投稿した。

    青年の説明を聞き終えた陰陽師は、紙にそれぞれの鑑定結果を書き連ねていく。

    桐生しのぶSS

    桐生のぞみSS

    桐生のぞみ(父)SS

    鑑定結果に目を通した青年が、口を開く。

    『今回の事件が起きた原因の一つに、母親であるしのぶさんによる、のぞみさんの私生活と進路に対する過剰な束縛があったと思われます。また、様々な要因が関係していると思いますが、しのぶさんがそうした束縛や虐待を行なってしまった要因として、頭が“2”、インターフェイスが“8”、魂の特徴にある攻撃性の上段の数字が“2”という魂の属性を持っていることが考えられます』

    「複雑に絡み合っている様々な要因の中の一部、としてはそなたの言う通りじゃな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再び属性表を眺めた後、口を開く。

    『他に、家族全員の共通点として、転生回数の十の位が“3”、すなわち数奇な人生を歩む傾向がある人生で、人運が“7”、天命運の14:人的トラブルの相がかかっていることが挙げられます。また、母娘の共通点として、血脈の霊障の7:親子、9:子宝、14:人的トラブル、17:天啓/憑依の相がかかっていることが考えられますが、これらは今回の事件と関係があるのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから答える。

    「それらは合わせ技一本という意味では微妙に関係していると言えなくもないが、今回の事件を霊障だけで語ることは難しいじゃろうな」

    『なるほど…。それにしても、僕も浪人生活を経験したことがありますので、9年間も浪人したことは、のぞみさんにとって、相当な苦痛だったと推察します』

    「具体的には、どういった状況だったのかな」

    『ネットで調べた話では、浪人中ののぞみさんは携帯電話を取り上げられ、自由な時間を与えないようにと母親から一緒にお風呂に入らされていたようです。さらに、のぞみさんは浪人しているにもかかわらず、母親が親族に対し、のぞみさんが現役で医学部に合格したと嘘をついたため、のぞみさんは母親からそのように振る舞うよう、求められたようです』

    「のぞみさんは、よく9年間も我慢できたものじゃな」

    『当初は母親の束縛から逃れるために就職しようとしたみたいですが、当時は未成年だった上に、当然母親の同意を得られずに実現しなかったようです。また、のぞみさんは3回家出したようですが、いずれも探偵や警察に見つかって家に連れ戻されたようです』

    「なるほど。そうした過酷とも言える日々を9年間も過ごしたものの、母親が切望した医学部に入学できなかったと」

    『そうなります』

    そう言い、暗い表情で視線を落とす青年に対し、陰陽師はのぞみさんの属性表に視線を向け、再び口を開く。

    のぞみさんの魂の属性を見る限り、殺人を犯すような人物ではないが、そこまで母親から束縛を受けていたとなると、犯行に及んでも仕方なかったと言えるじゃろうな」

    『そうですね。この事件に関して非常に胸が痛みますが、のぞみさんはどれだけ受験勉強に励んでも、医学部に合格できなかったのではないかと僕は考えていまして、彼女のことが不憫でなりません』

    「なぜ、彼女は医学部に合格できないと思ったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、のぞみさんの属性表を手に取り、口を開く。

    大学入試には、学業と頭の良さの二項目が重要だと思われますが、のぞみさんは共に80です。医学部は大学受験において最高峰となりますので、そもそもこのスコアでは医学部に合格することは難しいのではありませんか?』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いた後、口を開く。

    「そなたの見解に付言するとすれば、ワシが鑑定で出したスコアは“潜在値”、すなわち後天的に伸ばした場合の限界値であり、例えば80点だとすれば、この世に生を受けた時点で80点になっているわけではないのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。

    『“顕在値”が後天的に変わるのでしたら、この世に生を受けた時のスコアはどれくらいだと考えればいいのでしょうか』

    「もちろん例外はあるものの、基本的には、“潜在値”の7割だと覚えておくとわかりやすいじゃろう。ちなみに、のぞみさんの“顕在値”、すなわち9年間の受験勉強を経た結果の学業と頭の良さは、共に70点じゃ」

    『なるほど。のぞみさんがこの世に生を受けた時点での学業と頭の良さのスコアは共におよそ56点(80×0.7)だとすると、彼女はこれまでの人生と受験勉強によって、“顕在値”を14点ほど上げることができたのですね』

    「そうじゃな。彼女の場合、学業も頭の良さも、あと10点分の伸び代があるということになるが、“潜在値”がそれぞれ80点であることを考慮すれば、いずれにせよ、彼女があのまま受験を続けていても、残念ながら、医学部に合格する可能性は低いと、ワシも思う」

    『確かに。学業と頭の良さという観点から、のぞみさんが医学部に合格することは難しかったことについて、理解できました。一方、魂の属性の観点から考えると、ほとんどの臨床医の魂の属性は3(9)−3、すなわち転生回数期が第三期の”魂3:武士・武将”で、しかも転生回数が“190回代”という“大々山”だとお聞きしました』

    「基本的にはその通りじゃが、中には1(7)―1、すなわち転生回数期が第一期の“魂1:僧侶/王侯”と、2(7)―3、すなわち転生回数期が第二期の“魂3:武士・武将”の人物がいることと、それらの少数派は、(医師免許を持った)厚生省の職員や医療財団のトップ、臨床分野や経営に携わっていることも覚えおくように」

    陰陽師の言葉に対し、青年は深く頭を下げた後、口を開く。

    『補足していただき、ありがとうございます。のぞみさんの魂の属性は2(3)―2、すなわち転生回数期が第二期の“魂2:貴族(軍人・福祉)”あることと、医学部に入学しても、1〜4回生の間に脱落していく医学部生が少なくないという、医学部卒の知人から聞いた話を考慮すると、仮にのぞみさんが医学部に合格できたとしても、退学していた可能性も考えられます』

    「ひょっとしたら、そうなっていた可能性があったかもしれんの。じゃが、この親子間の出来事で注目すべき点は、結果的にのぞみさんにとってそれなりに適している職業の道に進んだことじゃな」

    『確かに。魂2の人物は看護師などに多いとお聞きしましたので、のぞみさんにもその傾向があるのでしょうか』

    青年の言葉に小さく頷いた後、陰陽師は紙にペンを走らせながら口を開く。

    のぞみさんの看護師と助産師の適性は、共に90点(魂磨きおよび、向き不向きという観点で言えば80点以上が推奨)じゃ。つまり、彼女は医師への道を断念せざるを得なかったものの、不幸中の幸いと言えるかはわからないが、彼女の希望である看護師として医大の附属病院の内定を得ることができた。あるいは、彼女の母親の要望に応える形にはなるが、仮にのぞみさんが助産師になっていたとしても、それはそれで適職に就けたと言えよう」

    『なるほど。9年間も浪人したことについては複雑な気持ちになりますが、結果的に適性がある道に進んでいたことを考えれば、家族を通じて各々が今世の課題を果たしていたと言えそうです。あとは…』

    青年は一度口をつぐみ、しばらくして再び口を開く。

    母親であるしのぶさんの魂が、この世に何らかの未練を残して地縛霊化していないか、ですね』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かした後、口を開く。

    「うむ。彼女の魂は、無事にあの世に帰還しているようじゃ」

    陰陽師の答えを聞いた青年は安堵の息を漏らした後、口を開く。

    『それを聞いて安心しました。そう言えば、全員に霊脈の先祖霊の霊障がかかっていませんので、逆接、すなわち本来向かうべき人生の方向性から真逆に進むといった霊障の影響はありませんし、“5:事故/事件”の相が誰にもかかっていないことから、今回の事件は三人の各々の今世の宿題を果たすために、起こるべくして起きた可能性がありそうですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「その可能性が考えられる。世間では、しのぶさんに対して毒親だとか、娘に殺されて当然、といった声が中にはあるかも知れぬが、以前も説明したように(※第44話:福岡5歳児餓死事件と今世の宿題参照)、子が自らの今世の課題を果たすために最適な親を選んで産まれてくることから、母親にとっては虐待をすることと、その後に娘に殺害されることが、そして、娘にとっては虐待を受けることが各々の今世の課題には必要な体験だった可能性がある」

    『母娘の間でそうした縁があったということは、母親による教育虐待を止めるどころか、気づくことすら難しかったであろう父親にとっても、今回の事件は必要な出来事である可能性が高いと』

    「まあ、そういうことじゃ。いつも言っているように、事件や犯罪に対し、この世の価値観で善悪の判断を下すのではなく、その出来事から何を学び、どう自分の人生に活かしていくかを考えていくことが肝要じゃ」

    『よくわかりました。それにしても、僕も受験で苦労した身ですので、のぞみさんに対して同情すると同時に、しのぶさんがあそこまで娘さんに対して教育虐待を行なった背景には、しのぶさんの学歴コンプレックスが、さらにその背景には学歴社会が関わっているように感じます』

    「そなたの見解に付言するとすれば、我が国では“社会的出生”が重要視されておるからのお」

    『“社会的出生”とはどういった意味でしょうか?』

    「“社会的出生”については、ノルウェーの社会学者ヨハン・ガルツングが発表した“社会構造・教育構造・生涯教育”と題する論文を読むといい。ただし、あくまでこの論文は一つの学説であり、他にも様々な見解があることから、この論文が絶対的に正しいものではない、ということを覚えておくように」

    陰陽師の言葉に対し、青年が首肯するのを確認してから、陰陽師は一枚の紙を差し出す。

    日本では『生物学的出生ののちに社会的出生が起こる』。そこでは人々がどの社会階級に所属するかは、家柄や血統ではなく、どのような学校に入り、教育を受けたかによって、つまりどのような学歴をもつかによって決まる。しかも日本の場合、入学はまず間違いなく卒業(学歴取得)を意味するから、『どの階級に属するかは、各(教育)段階の入学試験のさいに決まる』ことになる。こうして、この『学歴主義』の支配する社会では、はげしい受験競争が日常化し、入学試験による『社会的出生』の結果獲得された学歴は『属性』となり『身分』となって、社会生活のすみずみにまで、支配的な力を及ぼすようになるというのである。(161頁)

    読み終えた青年は、眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『確かに。僕の経験談ですが、大学以前の友人と大学生になってから久しぶりに再会し、大学の話になった際に、僕の大学名を聞いてから友人の態度が変わったことがありますから、学歴によって生まれ変わっていると言っても過言ではないと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「なるほど。そういうこともあるじゃろうな。しのぶさんの場合、彼女が高校を卒業してからずっと高卒という属性、身分で固定されたままそれなりの辛酸を舐めて学歴社会を生きてきたじゃろうから、娘には同じ思いをさせたくなかったという思いがあったのかもしれぬの」

    『なるほど。学歴社会はまだまだ続くでしょうし、実際、僕の親族に中には、自分が合格できなかった大学に息子を入学させたいと言っている親がいます。その大学が息子さんに適しているならいいのですが、彼に限らず、受験する本人の希望と身の丈に合った大学に合格し、無用な苦労をせずに済むことを願うばかりです』

    「そなたの言い分もわかるが、そうは言っても各家庭で教育方針があるし、学歴社会の影響を強く受けた世代の親たちが学歴を重視することは至極当然と言えよう」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく頷いてから口を開く。

    『ということは、例えば大学受験においては、偏差値の高さや知名度で選ぶのではなく、大学の校風や本人が専攻したい分野、さらには本人との相性で選ぶ方が、魂磨きのためという意味では充実したキャンパスライフを過ごせそうですね』

    「そうじゃな。未来は不確定で、ワシら一人一人の選択が未来を創造していくことを踏まえても、大学に限らず、本人が希望する選択肢の中でも、可能であれば今世の課題を果たすことにも適したものを選んでもらえたらと、ワシは思う」

    『確かに。大学を決めるほど大きいことではありませんが、僕が良さそうだと感じたコミュニティと関わることがNGだと鑑定結果が出ることもありますから、せっかく各種神事を済ませて霊的な余計な重しを取り除いて素の状態になり、パフォーマンスが100%になっても、誤った選択をして自ら運気を下げてしまっては元も子もないと思います』

    「そういうことじゃ。もちろん、NGと出た選択肢を選ぶことは本人の自由ではあるが、その結果、現世利益的にも霊的にも立て直すことが難しい状況に陥らないとも限らぬ」

    『肝に命じておきます。人間関係、特に恋愛と結婚、仕事内容、住んでいる家や引っ越し先など、今後の人生に少なからず影響を与えることを決める際は、ぜひ鑑定をお願いいたします』

    「もちろんじゃとも。繰り返しになるが、鑑定結果はあくまで参考にすべきであって、最後にどんな選択肢を選ぶかは個々人の自由だということと、鑑定で出た最適な選択肢を選ぶことによって得られる恩恵は、各種神事が済んでいることが条件であることを覚えておくようにの」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は父親との過去のやりとりを思い出していた。

    親と子は、魂の属性だけでなく、魂の種類が異なる場合もある。
    だから、子が親の仕事を継げるとは限らないし、親と同じ学歴を獲得できるとは限らない。
    もちろん、夢や目標を持って日々努力することは大事だと思うが、親自身が叶えられなかった夢は、そもそも本人の手が届かない夢で、今世の課題に含まれていない可能性もある。
    そして、子供には子供の、今世の課題を果たすための夢や目標があるだろう。
    親は親の、子は子の魂磨きが恙無く進むよう、より多くの人に、魂の属性と今世の課題と、神事の重要性について理解してもらえるように尽力していこう。

     

    そう、青年は思議したのだった。