投稿者: あの世とこの世合同会社

  • 魂の属性①

    新千夜一夜物語第9話:魂の属性とこの世の善悪

    青年は苦悩していた。

    陰陽師から渡された鑑定結果の解読を試みるものの、基本的には数字で記載されているため独力での解読は不可能に近い。
    過去に解説を受けた部分を復習した後、青年は解読を諦めて陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、またわからないことがあってお邪魔しました』

    「ずいぶんと熱心に訪問するようになったの。つい先週は何もかもがどうでもよくなっていたはずなのに」

    体を揺らして笑う陰陽師に対し、青年は苦笑して応えた。

    『魂について僕が聞いていない部分がありましたら、教えていただきたいです』

    「そう言うことであれば、今回は鑑定結果の補足をしつつ説明していくとしよう」
    陰陽師は青年の鑑定結果の紙を取り出す。

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    「まずは、頭の1と2じゃが、1は農耕民族型で2は狩猟民族型の子孫だと理解するとわかりやすいと思う」

    『はあ、1は農耕民族型で2は狩猟民族型の子孫でしょうか?』

    「その通りじゃ。まず、1の農耕民族だが、農耕民族の長所を演繹すると、自分のことより他人のことを優先する、協調性がある、世のため人のためなんて考えている、となる」

    『なるほど』

    「それに引き換え、2は狩猟民族の末裔ということから、物事を損得で考える傾向が強いので、結果、自己中心的な傾向が強いということになる」

    『それで、僕は1なのですね』

    「そうじゃ。時間の概念を理解し、長いスパンで受け継がれる本質を好む。気功や瞑想といった、道具を使わずに自浄作用の効果がある術とも相性がいい」

    『それでは、2の人は?』

    「全般的に、まず体が丈夫じゃ。そして、見た目が派手でわかりやすい事を好む。短期集中や道具との相性がいい。日本人の比率は、(頭の1):(頭の2)=3:7と、頭が2の人の方が多い。地球全体の1と2の比率が2:8じゃから、日本人は優等生と言うことができるじゃろうな」

    『では、次の2(3)は?』

    「ここが輪廻転生の回数となる。これは万人例外なく400回と決まっておる。で、そなたの場合は230回台じゃ」

    『それでも、半分以上終わっているのですね。といっても、まったく実感がわきませんが』

    頭をかき、苦笑する青年。陰陽師は微笑んで応える。

    「ここで大事なことは、人生にも年齢によって波があるように、魂にも波のようなものがある。あの世の仕組みがこの世の仕組みに反映されているわけじゃからな」

    『400回の転生回数を、魂の年齢と捉えればわかりやすい気がします』

    鑑定結果の数字を眺めながら、青年は口を開く。

    『ちなみにですが、転生回数と天職には相関関係みたいなものは存在するのでしょうか?』

    「天職診断は依頼者の魂をベースに鑑定を行うが、転生回数とも一定の程度の因関係がもちろん存在する」

    『やはり、そうなのですね』

    「それを理解するには他の部分の鑑定結果の意味を知っておくと話が早い。次は魂の種類の項目を説明しよう」

    陰陽師は次の数字を指しながら言った。

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    「魂の種類1〜4というのは、以前話したように4つの階級を表しておるのじゃが、そなたの場合は3(1)じゃからビジネスマン階級となる。そして、下の四角の上段の数字が2じゃから、武士というわけじゃな」

    『もし下の四角の上段の数字が3の人の場合は武将となるのですね』

    「その通りじゃ」

    『それでは、下段の数字はどのような意味を持っているのでしょうか?』

    「そこは“程度”の様なものを表しており、そなたはどちらも(1)じゃから、ビジネスマン階級としても武士としても最も位が高いということになる。位は1・3・5・7・9と五段階あるのじゃが、その意味するところは上下関係ではなく、担う役割が大きい、くらいに認識しておくとよい」

    『数字が低い方が、あえてわかりやすい言い方をすると位が高いのですね。誤解しないように気をつけます』

    陰陽師は首肯して応える。

    『次の“+2”ですが、これは何でしょうか?』

    「それは、”目に見えないことをどのくらい信じるか”を表しておる。+1~9という段階があり、こちらも1が最も信じやすいことを意味している」

    『僕は、2番目に目に見えないことを信じやすいグループに属しているわけですね』

    「そう言うことじゃな。逆に、霊障がない人や唯物論者/超現実主義は“+9”に近い」

    青年は何度もうなずいて納得の意を示す。

    「霊障がない人や唯物論者/超現実主義というのも、実は鑑定結果で表れておるんじゃ」

    『そうなのですね。育った環境や人生経験によるものだと思っていました』
    そう言い、青年は鑑定結果を食い入るように見つめる。

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    「ここでいう、魂の属性の一番上の段の数字が該当する。ここは5%ほどの例外があるものの、基本的には3か7しかない。以前にも少し触れたが、先祖霊の霊障がある、すなわち霊媒体質の人物は3となる。一方、先祖霊の霊障がなく、霊媒体質でもないために精神世界や気といった現代科学での証明が難しい存在を感じとることができない人物は7、簡潔にいうと唯物論者というわけじゃな」

    『そういうことがあるのですね! そもそも感じることができないなら、いくら論理的な説明をしても、目の前で通常では考えられない出来事が起きても信じられないのもわかる気がします』

    「もちろん精神世界や宗教に興味があるというのはまた別な問題になってくるのじゃが、少なくとも“感じる”という意味ではその通りじゃ。また、その比率は魂の属性3の人間の方が圧倒的に少なく、だいたい三七くらいの割合と理解して差し支えないじゃろう」

    『意外でした。そんなに差があるのですね。ちなみに、霊障がある人とない人とで、肉体的な違いはあるのでしょうか?』

    「主な違いは経絡とミトコンドリアと言われておる。7の人は3の人の経絡の半分しかなく、ミトコンドリアの機能も違う。その結果として、3の人は東洋医学と相性が良く、7の人は西洋医学と相性が良い。同じ病で同じ治療を受けても生還する人と助からない人がいるのは、3と7の違いである可能性が高い。7の人は先祖霊の霊障がない、すなわち見えない世界に対する感度がほとんどないため、気功といったエネルギーを体感することができず、その結果、効果が薄い。その代わり、18世紀の産業革命以来の物質文明の延長線上にある西洋医学の薬が効きやすいという特徴をもっておる」

    『ということは逆説的な言い方をすると、薬の副作用が大きく出る人は魂の属性が3の人ということでしょうか?』

    「そういう傾向は間違いなくあるじゃろうな。それ故、魂の属性を把握しておくことで、体調を崩した時に望ましい治療を選びやすくなるということになるわけじゃ」

    『僕は東洋医学、漢方や鍼灸や気功と相性がいいのですね。気功をやっていてよかったです』

    深くうなずく青年を見、陰陽師は微笑む。

    「次は、真ん中の段と一番下の段の意味じゃが、ここは次の“魂の性質”と前回触れた“魂の善悪”(執着)を交えて説明しよう。覚えておるかな?」

    突然の質問に、青年は慌てふためいた。

    (続く)

    ご自分に先祖霊による障害があるかどうかか気になる方は、

    までご連絡ください。

  • 生臭坊主と葬式仏教②

    新千夜一夜物語第8話:生臭坊主と葬式仏教

    「江戸時代に大乗仏教の僧侶が檀家から多額のお金を徴収し始めたが、禅僧たちはそれよりもっと前から高い拝観料を堂々と徴収していたのじゃよ」

    『江戸時代より前からですか! ということは、大乗仏教よりも小乗仏教の方がお金にがめつかったのでしょうか?』

    「禅僧たちは人間の本質を突き詰めた結果、虚無主義(ニヒリズム)に行き着き、“結局はお金が大事、自分の生活が大事”との結論に達したようじゃな」

    『確かに、現代でもお金は必要ですからね。自力で生きていくのであればそのような結論に達するのもわかる気がします』

    青年は腕を組み、首をかしげて続ける。

    『それにしても、どうして拝観料を高く設定できたのでしょうか? よほど経済力があって、由緒ある仏像や立派な建物や庭を揃えることができなければ拝観料を高くできないと思うのですが』

    「実は臨済宗の僧侶は副業を持っていて、そこから大きな収入が別にあったのじゃよ」

    『経済的に余裕になれるほどの副業が、当時にはあったのですか?』

    「9世紀から18世紀、世界のGDPの25%を占めていた国があるのじゃが、どこかわかるかな?」

    腕を組み、しばらく思考した後に青年は口を開いた。

    『・・・中国ですか?』

    「その通り。中国との貿易は当時の日本にとって重要であり、中国とやりとりするためには中国語に精通している必要があった」

    何度もうなずき、納得の意を示す青年。

    「また、貿易を行うためには漢文で書かれた貿易文書契約書の類が必要だったわけじゃ。将軍や大名たちがみな漢文に精通していた部下を抱えていたわけではなかったから、“臨済宗”の僧侶たちが彼らに代わって貿易文書の代筆をしていたと言われておる」

    『なるほど。それが彼らの副業だったと』

    「ただし、副業といってもその額は莫大で、彼らはその収入であのような立派な寺院を次々と造っていったわけじゃな」

    『でも、』

    青年は首をかしげた。

    『そもそも、どうして臨済宗の僧侶たちは漢文に精通していたのでしょうか?』

    「先ほども話したように、小乗仏教に最も近いといわれているものの、 “神も仏も信じない。この世に救済はない。だから、己一人、自分自身だけ修行(研鑽)せよ”、が禅宗の教義なのじゃから、彼らは仏典そっちのけで孔子の論語をはじめとした“四書五経”を勉強していた」

    『なるほど、それで彼らは漢文に精通しているわけなのですね』

    「当時世界一の大国じゃった中国の文化を披歴することは、彼らがエリート中のエリートであったことを示しているとともに、臨済宗の寺院の多くが中国の建築様式を取り入れておったり、読経の際に中国式の朱塗りの赤い椅子に座ったりしておるのも、実はそのような背景からきているわけなのじゃよ」

    『なんという皮肉でしょう・・・』

    苦笑する青年を見て、陰陽師は笑みを浮かべる。

    「そうした中国の文献を必死に勉強することで臨済宗の僧侶たちはやがて鎌倉時代に“五山文学”を確立させていったのじゃが、それだけではなく、手にしたお金で建てた立派な寺院や庭を見学させることで新たにお金を稼ぐ手立てを手にしたわけじゃ」

    『そうやって臨済宗の僧侶たちは高級路線になっていき、挙句の果てには“白足袋様”と“様”づけの呼ばれ方をされたと・・・』

    青年は小さく溜息をついた。

    『しかし』

    「なんじゃな」

    「もし彼らがそれほど裕福だったのなら、貧しい民衆に対して何らかのことをしてもよかったのではないかと思いますが、それさえもしなかったわけですね」

    「学も経済力もある臨済宗の高級インテリどもは、基本的には民衆が嫌いだったようで、“浄土宗(本願寺)”や“日蓮宗”のような大乗仏教の寺が民衆を教化、教育することによって彼らからの寄付で寺を運営していたのに対し、自力でお金を集める方をよしとしたのじゃろうな」

    『ある意味それも徹底した自力本願ということなのですね・・・。それにしても、同じ仏教なのに別物のように感じます』

    「大乗仏教のように他者を助ける(福祉事業・福祉のための国家論)ことは偽善であり、 “他者を救済することは不可能なので、するべきではない”と悟った臨済宗の僧侶たちは、救済思想の否定として生まれた現実主義(リアリズム)者であるというわけじゃな」

    『たしかに。僕としても救いを必要としている人に手を差し伸べたものの、結果的にお互いにとってよからぬ事態になったことがあるので、なんとなくわかる気がします』

    「当時の僧侶たちがどのような体験を経てそうした結論に至ったかはわからないが、それなりの理由づけがあったのは間違いなかろう」

    過去の出来事に思いを馳せてか、青年はしばらくうつむいて黙っていた。やがて、顔を挙げて口を開く。

    『そう言えば、大乗仏教では葬式の際にお経を読むのは、救済されるためと聞いたことがありますが、禅宗のお寺でも葬式の時にはちゃんとお経を上げますよね? あれはどういうことなのでしょうか?』

    「そこは他の大乗仏教と同じで、禅宗も檀家制度によって“葬式仏教”に移行していくわけじゃから、葬式をあげるのに当然お経が必要なわけで、お経の功徳など信じてはいないものの他宗から“般若心経”と“観音経”を借りてきたのじゃよ」

    『禅宗は救済の祈りを拒絶していたわけですから、葬式のため、お金を稼ぐ手段として割り切っていたわけですね・・・』

    「宗教がビジネスになるのは、昔から同じで、開祖以降の宗教の中心を担っているのは“3:ビジネスマン”階級という話に再び結びつくわけじゃよ」

    青年は大きく何度もうなずく。

    『とてもよくわかりました。それと、エリートと民衆という表現からふと思ったのですが、小乗仏教のように自力でなんとかできる人たちは、魂1〜3で、大乗仏教に救いを求めてくる人たちは、魂4なのでしょうか?』

    「全員がそうとは言い切れんが、その傾向は間違いなくあるじゃろうな。小乗仏教や大乗仏教のなかでも禅宗などは“ほんとうの大人の思想”として、鎌倉時代以降、武士階級の支持を受け、新しい思想流派として日本にも根付いた一方、自力でなんとかすることが困難な魂4の大半が、浄土宗などの大乗仏教の説法や、現代でいうところのマンガのような話を聞いて扇動され、様々な一揆を興したのも、ある意味しょうがない話ということができるのじゃろう」

    『マンガですか・・・』

    青年は苦笑しながらつぶやく。

    「その辺の話やブッダについては、長くなるからまた別の機会に話すとして」

    陰陽師はグラスに注がれていた水を飲み、一息つく。

    「小乗仏教にも大乗仏教にも共通して言えることは、どちらもブッダの本質から外れておるということじゃ。そもそもブッダは、個々人が苦から解放されて解脱することのヒントを、生きている人々に“正しい生き方”を説いていたのに、現代のほとんどの仏教宗派が死者への対応ばかりとなっておる。葬式仏教という言葉などは正に言い得て妙じゃな」

    『時代の変化があるとはいえ、本来の教義から遠ざかってしまうことは、なんだか残念な気がします・・・』

    「そうはいっても、お布施や葬式を全面的に否定するのではなく、その宗教儀式が本当に効力があるのか否かを見極めて依頼するよう心がけてもらいたいものじゃな」

    『僕は先生とご縁をいただけて本当によかったです。心から感謝しています。たまに永代供養に関する広告を見ますが、個人的に先生の神事を受ける方がよかったと思っています』

    陰陽師は苦笑して応えた。

    「いつも話すように、魂1~4に分かれた人間は、そもそも同質ではない。それに魂の属性3(霊媒体質)と7(唯物論者)は、体感するものがまるで違う。じゃから、何を信じるかは人それぞれでまったくかまわない。わしの話す話を信じるのも信じないのもまったく自由じゃ。そして、お寺や葬式を大切にしている人々を否定するようなことは厳に慎まねばならぬ」

    『もちろん、そんなことを他人に口にするようなことは絶対にしませんよ!』

    「口に出さないだけでなく、なるべくそうした差別的なものの考えもせんようにできるとベターじゃな」

    笑顔で話す陰陽師の言葉を聞きながら、一瞬、体をこわばらせる青年。頭の中では一般の人々の考えを否定していたようだ。

    『気をつけます。みなさんの自由意志を尊重し、僕自身は目の前の出来事を魂の修行として真摯に取り組んでいきます』

    満足そうに微笑みながら、陰陽師はうなずいた。

     

     

  • 生臭坊主と葬式仏教①

    新千夜一夜物語第8話:生臭坊主と葬式仏教

    『くそ! やられた!』
    青年は激怒していた。

    祖父母はことあるごとにお経を口にし、信心深かった。当然、母方の曽祖父の葬儀は丁重に行われていたはずである。だが、母方の曽祖父は地縛霊化していた。
    葬儀にお金をかけたところで地縛霊化した先祖は救われなかったならば、自分でそれっぽい儀式をしてお経を読んでも同じことではないか。

    先日のお礼を兼ね、青年は陰陽師に会って質問することにした。

    『先日は血脈の先祖供養をしてくださり、ありがとうございました』

    深く頭を下げる青年。声がかすかに震えている。

    「それはいいが、今日はやけに荒れているようじゃな。何かあったかな?」

    声のトーンや表情から、青年の怒りを察した陰陽師が訊ねた。

    『話は他でもありません。葬式のことです』

    「で、葬式がどうかしたかな」

    『葬式代はどうしてあんなに高いのでしょうか? しかも、高い葬式代を支払ったのに、結局僕の母方の曽祖父は地縛霊化していましたし、あれじゃ何のために葬式をやったのかわけがわかりません』

    陰陽師はしばらく青年の瞳を見つめた後で、おもむろに口を開いた。

    「先日話したと思うが、霊能力がない坊主が仰々しく儀式を行なっても地縛霊は救われん。それでも、昨今の葬儀が主流となっているのにはそれなりの理由があるのじゃ」

    『どのような理由でしょうか?』

    「そなたは“檀家(だんか)制度”という言葉を知っておるか?」

    『言葉は知っていますが、どのような内容かはよくわかりません』

    ばつが悪そうに答える青年。陰陽師はかすかに笑って口を開いた。

    「“檀家制度”が始まったのは江戸時代のことになる。“寺請制度”とも呼ばれ、庶民が縁組、旅行、移転、就職する際には僧侶が発行する証明書(寺請け状)の発行を義務づけたのじゃ。今でいうところの戸籍係の任務を、幕府が寺に引き受けさせたわけじゃな」

    『どうしてまた、そんな面倒そうなことを? 日常生活における大事なことをする時には、その都度お寺の許可が必要ということですよね?』

    「江戸幕府も歴代の幕府同様、封建性を建前としていた。つまり各大名に、土地の所有権を認めていたわけじゃな。しかも江戸幕府の場合、直前に関ヶ原の戦いという、文字通り、天下分け目の戦争をおこない、負けた西軍の大名たちを日本の僻地に追いやったため、税金を徴収するための人口調査を幕府の役人に直接行わせるのを躊躇せざるを得なかったという事情があった。それにキリシタン問題も絡んでおった。豊臣秀吉によって発令されたキリシタン(バテレン)追放令を支持した徳川幕府は引き続きキリシタン弾圧を徹底するために、この“寺請制度”を利用したわけじゃな」

    『キリスト教を厄介払いにするためにお寺に区役所や市役所の役割を代行させたのはわかりますが、それと葬式代が高くなることに、どのような関係があるのでしょうか?』

    「おぬしは、村八分という言葉を知っておるかの」

    「はい」

    「では、その意味はどうじゃ」

    「いいえ、そこまでは」

    「当時、特に地方では、何か悪いことをするとその村に住めなくなり、村の外れの竹やぶなどに住まなければならなかったのじゃが、そんな一家でも二分、つまり子供が生まれた時と人が死んだときだけは、そのことを宗旨人別帳に記載してもらえたわけじゃ」

    「なるほど、それで村八分なわけなのですね」

    納得顔で頷く青年に、陰陽師は続けた。

    「しかもじゃ、 “檀家制度”によって庶民は僧侶の許可がなければ縁組や就職といった日々の重要な活動ができなくなってしまうだけではなく、現代では想像もつかないくらいの上下関係ができてしまった。その結果、庶民は僧侶からの要求を受け入れざるを得なくなってしまったわけじゃ」

    『なるほど、だから、僧侶が決めた葬儀代が高くてもその金額で依頼するほかなかったと。人は必ず死にますし・・・』

    陰陽師は首肯すると、言葉を続けた。

    「大乗仏教といえども今まで托鉢で生計を立てていた僧侶が突然固定客を獲得し、しかも独占事業となったわけじゃ。よほど修行を積んだ僧侶でない限り、欲望が大きくなっていってもそれはそれでしかたないことじゃったのであろう。好き放題できるようになったことで、儀式そのものの種類を増やしていき、檀家から様々な名目でお布施を受け取れるようにしていったわけじゃ。現代でもよく広告・宣伝している先祖供養もふくめ、次々と儀式が拡大していったのはそういった経緯があるのじゃよ」

    『僧侶ということは、先生の鑑定結果でいうところの“1:先導者”階級なのかと思いましたが、僧侶であっても欲望に負けてしまうのでしょうか?』

    「以前にも話したように、宗教の開祖となる人物の魂の階級はほとんどが1なのじゃが、その弟子である2世以降は基本的に“3:ビジネスマン”階級となる(キリスト教等含め、開祖以外の歴代のほぼすべての坊主は2(8)-3)。それに、中国語で書かれたお経を丸暗記するという能力も、“3:ビジネスマン”階級の専売特許のようなものじゃしな」

    『以前に魂の階級と仕事について話してくださったのは、このことだったのですね・・・』

    「そういうことじゃ。信者にはいろんな階級の人が集まってくる。そして、宗教を存続させるためにはお金がどうしても必要じゃ。そうなると、難しい教義を次々と生み出し、お金や人望を集めるのが得意な魂3の人間が実権を握るのは止むを得ない」

    『霊能力がない人が儀式の形だけマネをしているわけですね。魂1で霊能力持ちの人物は稀少でしょうし・・・』

    「既存・新興宗教の信者に限らず、宗教で救われない人が多数存在することには、そういった事情があるとも言えよう」

    『ひょっとして、お彼岸やお盆なども僧侶たちによって作られたのでしょうか?』

    「そういった年忌・命日法要や参拝も、檀家の義務だと僧侶に言われて慣習化されてしまったわけじゃ。ちなみに一つ例を挙げるとすれば、“三十三回忌”なども神道における他界観がベースであって、仏教本来の思想ではない」

    『え! そうなんですか?!』

    「柳田國男という民俗学者の“祖霊の山上昇神説”があってな。神道では死んだ直後の霊を“死霊”=ホトケと呼んでいる。ホトケには個性があり、死穢を持っているとされる。子孫がこのホトケを祀ることによってホトケは段々と個性を失い、死穢が取れて浄化されていく。そして、一定の年月が過ぎ、ホトケが完全に浄化されると“祖霊”となり、この“祖霊”のことを“和御霊”あるいは“カミ”と呼ぶ」

    未知の話に対し、青年はただ頷くばかりである。質問がなさそうなことを確認し、陰陽師は続ける。

    「死者の霊がホトケの段階では山の低いところにおり、そのホトケが昇華・浄化されるにつれて山の高いところに昇っていく。こうして死者の霊が少しずつ穢れや悲しみから離れ、清い和やかな神となっていき、その神がさらに昇華されることによって、“祖先神(祖神)”となると言われておる。そして、祖神になるまでの期間が三十三年と考えられておるのじゃ」

    『今までお盆やお墓参りなどをとても大事にしていたのですが、お話を聞いているうちに、なんだか墓参りをするのが馬鹿らしくなってきました』

    青年は顔を上げ、大きくため息を吐いた。

    『ふと思ったのですが、それは人民救済を説く大乗仏教だからであって、小乗仏教のお寺は違うのではありませんか? 小乗仏教は自らが悟りを開くことを主な目的にしていたと認識していましたので、死者のことを考える暇があるなら目の前の出来事に集中せよと説いていそうですが』

    「そもそも臨終に際して、ブッダは弟子たちに葬式自体を行うことを禁じたわけじゃから」

    『え、そうなんですか』

    「それだけじゃない。ブッダは自らを模した偶像などを作ることも、厳しく禁じたんじゃ」

    『しかし、中国や日本の大乗仏教のお寺に仏像(ブッダの像ではない)があるのはまだしも、タイやカンボジアやインドネシアにも仏像がありますが』

    「うむ、そのあたりが教祖のそもそもの教えが年を経るごとに変質してしまう証拠みたいなものじゃな」

    『なるほど』

    「ところで、大乗仏教の中でもっとも小乗仏教に近いといわれているのは禅宗なんじゃが、そなたは“生臭坊主”という言葉を知っておるかの?」

    『よく聞きますね。僧侶に対する蔑称だと思っています』

    「実は、“生臭坊主”は“ノウマクサンマンダー・バサラダン・・・“という真言の”ノウマクサ“をその語源としているのじゃよ」

    『そうだったのですね! 知らなかったです! 生臭いことを何かのたとえに使っているのかと思っていました』

    「語源を知らない人は、そなたのようになんとなく蔑称だと思っているじゃろうな。それはそれとして、京都では禅宗の二大流派の片割れである臨済宗の坊主が“白足袋様”と今でも呼ばれておるが、その由来を知っておるか?」

    青年は首を左右に振って応える。

    (続く)

     

  • 言霊とお経

    新千夜一夜物語第7話:言霊とお経

    神事を受け、陰陽師の話を聞くにつれて青年は宗教にも興味を持ち始めた。彼なりに調べた後、祖母がよく唱えていたお経について、彼は後日質問することにした。

    『世の中には、お経を読んでいれば人生がよくなると言っている人もいます。僕も言霊の力を信じていて、お経もその延長ではないかと思っているのですが』

    「では、そなたはそのお経を読んでいる人は全員幸せと思っておるのじゃな?

    『もちろん、全員ではないと思います。中にはせかせかして疲れているような人もいましたし、勧誘してきた人の方が僕よりも不幸そうだと感じたこともあります』

    「そうじゃろう?」

    『ですが、“新訳聖書”(“ヨハネによる福音書”)の冒頭に、“はじめに言(ことば)があった。言は神とともにあった。万物は言によってなった。なったもので、言によらずなったものは何一つなかった”という一節を読んだことがありますし、バラモン教ではバラモンが賛歌や祝詞を唱えて神を動かしたという説もあります。そのような点から考えてみても、やはり、言霊の力は存在すると思います』

    「ほほう、今回はそれなりに勉強したようじゃな」

    『そりゃあ、少しでも幸せにはなりたいので、とりあえずできることはやってみようと思ったんです』

    「なるほど、それはなかなか感心な心がけじゃ。しかし、今の質問じゃが、いきなり結論を言ってしまうと、言霊にはたしかに一定の力が宿っていることは否定せんが、最終的に現実世界に影響を及ぼしているのは“身口意”の三つなので、言葉だけに捉われない方がいい」

    『今おっしゃった“身口意”とはどういう意味ですか?』

    「簡潔に説明すると、身とは行動、口とは言葉、意とは心のことじゃ。そなたが言った“はじめに言葉があった”という話も、わかりやすく“神”という概念がエネルギーとして存在していると仮定すれば、言葉を発する前に“世界を創造しよう”という心があったということを説明していることになる」

    『つまり、言葉が初めからあったわけではなく、まずは心が先にあったのですね。そういえば、先生はその人の名前がわからなくても鑑定ができるとおっしゃっていましたが、それは名前つまり、言葉よりも思考している存在というか、心、魂にアクセスしているからなのですね』

    「まあ、簡単に言うとそういうことになる」

    陰陽師は小さくうなずくと、言葉を続けた。

    「そしてそうだということは、夢を叶えたいと思ってご利益がある言葉を繰り返し唱えていても、何もせずに、家で引きこもっているかぎり現実が変わることはないということになる」

    『言われてみればそうですね』

    陰陽師の言葉に小さく頷く青年。そんな青年を笑顔で眺めつつ、陰陽師は言葉を続けた。

    「じゃから、お経に限らず特定のありがたい言葉を繰り返し唱えて幸せになっている人というのは、お経を唱える以外にも何らかの行動をしている人で、幸せそうに見えない人というのは“身”、つまり行動がともなっていない人ということもできるわけじゃ」

    『なるほどです。特定の言葉を繰り返し唱えるだけで幸せになるのであれば、全員が幸せになれるはずですもんね。でも、実際にはそうとは言い切れませんものね』

    「さらにもう一言つけ加えるとすれば、お経などを唱えることより、何か想定外のことが起きても慌てずに目の前の出来事に対処できるよう“不動心”を身につけておくことが大切となる」

    『おっしゃることはわかりました。でも』

    青年は反論を試みた。

    『お経が今も唱えられているからには、それなりの理由があると思うのですが』

    「ふむ。ところでそなたは“般若心経”と“法華経“を知っておるか?」

    『“法華経”は詳しくは知りませんが、“般若心経”を毎日唱えていました時期がありましたので、内容についてもそれなりに理解しているつもりですが』

    「この二つを唱えている宗派は大乗仏教に分類されておるのじゃが、小乗仏教と大乗仏教の違いについてはまた別の機会にゆっくり話すとして、その二つの大ざっぱな違いくらいは理解しておるのかな」

    『その二つについては、ブッダが開いたということ以外、授業で名前を聞いたくらいで詳しくはわかりません』

    「まあ、そうじゃろうな。大乗仏教圏である日本や中国では小乗仏教と大乗仏教の区別ができる人間などほとんどいないわけだから、それはそれで致し方ないとしても、“仏教”をブッダの説いた教えと定義するのであれば、“般若心経”も“法華経”もブッダの直接の教えとは何の関係もないということができる」

    『え?! 仏教なのだから、ブッダの言葉や教えを受け継いでいるのかと思っていましたが』

    「簡潔に説明すると、“般若心経”はブッタの死後880年ほどして龍樹という人間によって創作された経典なのじゃが、“法華経”を始めいわゆる“大乗仏教経典”はすべてこの“般若心経”を下敷きとしておることから、龍樹は“大乗仏教八宗の祖“とも呼ばれているわけじゃ」

    「ということは、“般若心経”も“法華経“もブッタの言葉を記録したものではないのですね」

    「その通りじゃ。そして“法華経“は端的に言ってしまうと、ブッダをそっちのけにして大日如来・観音菩薩・弥勒菩薩という新たに捜索した神を崇めておるということになるわけじゃよ」

    『しかし、肝心のブッダはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか…?』

    「どこへ行ったのかという話は説明すると長くなるので別の機会に回すが、このような話は大乗仏教だけの話ではなく、多くの宗教にみられる現象で、たとえばキリスト教なども厳密に言えばキリストの言葉ではなく、彼の教えを広めた人間であるペテロ、初期のローマ法王の影響が色濃く反映されておる」

    『そうなると、信者の人々は本当の意味での宗教の大元を信じているわけではないのですね…』

    「まあ、そういうことじゃ。簡単に言うと、お経にせよ聖書にせよ、結局は誰かがその人にとって“これは素晴らしい”と感じた言葉を自分なりの解釈でありがたがって唱えているわけであって、例えるならそなたが自分にとっての金言をそもそもの意味など気にかけずに繰り返し唱えているようなものなんじゃよ」

    『でも、実際にその誰かの言葉を繰り返し唱えることで人生がよくなった人がいるのも事実と言えば事実ですよね?』

    「それは“こんなに熱心にお経を読んでいるから自分は大丈夫だ”という安心感であったり、そうやって得た安心感によって現実に立ち向かい、結果として困難を乗り越え自信のようなものが培われたからじゃろう。結果の良し悪しは別として、挑戦し続けている人の方が世間では成功しやすいのではないかの?」

    『確かに、そうかもしれません。でも、挑戦し続けているのに報われないのはどうしてなのでしょうか?』

    「それには大きく分けて二つの理由がある。一つは先祖霊による障害や天命運とチャクラの乱れが原因であるケース。もし仮に、神事を受けたにもかかわらず報われないとするならば、それはそもそも選択する人生の方向性が間違っているということになる」

    『神事が終わっていても、選択する方向性が間違っているということもあるんですね』

    「身近な例をあげると、大事なプレゼンや試験があるのに、徹夜で睡眠不足のまま挑んでも成果は出にくいじゃろう?」

    『それはもちろんそうです!』

    「そして先祖霊以上に大事なことは、少し話が戻るが結局のところ、お経そのものに効果があるかどうかよりも、読み手が“霊能力”持ちかどうかの方が大事なのじゃよ」

    『それは、“霊能力”持ちの人がお経を読んだから効果があったということですか?』

    「それもそうじゃが、たとえば魂の階級が “1:先導者”かつ“霊能力”持ちでない人間が、その昔賛歌や祝詞を唱えたら天候に変化が起きたという事実を知り、自分もこの賛歌や祝詞を同じように唱えれば天候に変化が起きると思い込み、現代のお経のようにご利益目的で使われるようになったのかもしれんな」

    『でも、実際には賛歌や祝詞を唱えても効果はありませんよね? 少なくとも、僕が唱えてもダメな気がします』

    「しかし、偶然、天候が変わるタイミングと重なって唱えたら、効果があると信じる人も出てくる可能性も否定はできまいな」

    『確かにそうですね。何も知らない人にとっては奇跡が起きたと思って当然だと思います』

    「しかし、実際は偶然であって必然ではないし宗教の開祖にかぎってはお経を唱えることで何らかの効果を期待できたのかもしれんが、誰もが同じ効果を期待できると断言するのはどうしても無理がある」

    青年はうつむき、表情を曇らせた。毎日口癖のようにお経を唱えていた祖母を思い出したのだろう。

    「また別の観点から話をすると、特定の言葉を繰り返し唱えることによって一種の自己暗示・催眠状態になることがある。その場合は本人の心身に対する何らかの働きかけがあることは否定できまい。その言葉がその人にとって幸せをもたらすと思っている言葉ならなおさらじゃな」

    『なるほどです。言霊の力もあるのでしょうけど、この言葉を唱えていれば幸せになれると信じて繰り返していれば、ほんとうに幸せになることもあるのでしょうか?』

    「そのあたりはケースバイケースじゃな。もしお経を読んでいても何の意味もないとか無駄だと内心で思っていたら、その人にはあまり効果がないじゃろう。しかし、お経を読むことで幸せになると信じ続ければ、また違った結果も出てこよう。つまり、お経を読んでいれば幸せになれるというのは正解でもあり、不正解でもあるわけじゃ」

    『お経が人々に幸せをもたらすのではなく、お経を読んでいる人の姿勢次第ということなのですね。でも、結局のところ、幸せになりたい人はどうしたらいいのでしょうか? 僕には“霊能力”はありませんし、ほとんどの人もそんなものは持ってないでしょうし』

    「“霊能力”持ちだから偉いとかすごいということではなくて、霊能力の有無もまた今世での役割の違いに過ぎないと考えたほうがよい。やみくもに“霊能力”を手に入れようとしたり現世利益的な意味での幸せを追い求めたりするのではなく、自分は自分なりに今世での魂の修行に取り組むのにベストな肉体、能力を与えられたのだということをしっかりと受け入れ、目の前のことを真剣にたんたんと取り組むことじゃな」

    『大事なのは過去の苦しさや未来への不安に囚われることではなく、今の目の前のことにたんたんと取り組むことなんですね』

    「そうじゃ。それを“即今・当処・自己”ともいう」

    『わかりました。ありがとうございます』

    スッキリして帰宅した青年は、まずは部屋に散らかっているゴミを捨てるのだった。

     

  • 霊脈と血脈

    新千夜一夜物語第6話:霊脈と血脈

    青年は困っていた。神事は全て済んだはずであるのになんだかんだ障害があり、絶好調とは言いがたかったからである。いずれにしても一人で考えていても答えが出ないと思い、陰陽師を訪問することにした。

     

    『すみません。先祖霊とチャクラと天命運の神事を全て終えたのに、まだ何か残っている感じがするんです」

    陰陽師に会うなり、そう青年は切り出した。

    「持病の腎臓かわかりませんが、原因不明の腰痛が続いているのですが・・・』

    「それは辛そうじゃな。どれ、鑑定してみよう」

     目を閉じて指を小刻みに動かし、鑑定を始める陰陽師。そんな陰陽師を青年は固唾を飲んで見守った。やがて陰陽師が口を開いた。

    「どうやらそなたの母方の曽祖父が地縛霊化しておるようじゃな。そしてそれがそなたの腰に影響を与えている」

    『でも先祖霊の神事で、僕に憑いていたご先祖様は全員救霊されたのではなかったんですか?』

    「霊脈の先祖という意味ではたしかにそうじゃ」

    「霊脈の先祖でしょうか」

    「そうじゃ。一口に先祖と言っても、子孫に受け継がれる先祖には、血脈と霊脈の二つがある」   

    『血脈は両親から受け継いだ体だと思いますが、もうひとつの霊脈は別なのですか?』

    「そうじゃ」

    陰陽師が小さく頷く。

    「ところで、そなたは何人兄弟かの?」

    『4人兄弟です。姉が二人と兄が一人います』

    「説明するのにちょうどいい人数じゃな。家族の名前を教えてくれんか?」

     青年は簡単な家系図を書き、両親と兄弟の名前を伝えた。

    「そなたの家族の魂の階級は“3:ビジネスマン”と“4:ブルーカラー”の二つに別れておる」

    『えっ、両親なのに、魂の階級が異なるなどということがあるんですか?』

    「そうじゃ。例えば、父親の魂の階級が“3:ビジネスマン”で、母親の魂の階級が“4:ブルーカラー”である場合、血液型のように3と4の魂の子供が生まれてくる可能性が極めて高い」

    『そうなのですね…。我が家の場合、両親が3と4なのでしょうか?』

    「そなたの家族は少し特殊じゃな。そなたの姉一人を除いて5人が“3:ビジネスマン”階級となる」

    『両親が二人とも階級が3なのに、姉は4なのですね。不思議です』

    「隔世遺伝という言葉があるように、霊脈にも隔世遺伝が存在する。つまり、そなたの祖父母か曽祖父母に階級が4の人がいたわけじゃな」

    『そういうことでしたか。つまり、僕に地縛霊化して憑いている母方の曽祖父は、霊脈ではなく、血脈の方なのですね』

    「そういうことじゃ」

    『母方の曽祖父が血統つまり僕の霊脈でないということは、唯一階級が4である姉の霊脈になり、本来は姉に憑くはずでは?』

    「それはじゃな、“霊媒体質”の強さが関係してくるので一概には断定できん。霊媒体質は先日話した“霊感”とほぼ同義と思っていい。確かにそなたの母方の曽祖父はそなたの姉の霊脈なのじゃが、姉よりもそなたの方が“霊媒体質”が強い場合にはそなたにかかることになる」

    『“霊媒体質”が強いと地縛霊が寄ってくるし、いつの間にか他者の念を拾って心身が不調になったりするのであれば、それは長所というよりも短所なんじゃないかと思えてきてしまいますが』

    「そう捉えることもできるが、ものは考えようということもできる」

    「そうでしょうか。たとえばどのような?」

    「そうじゃな、たとえば虫の知らせのように、よくないことを事前に感じ取って回避しやすいというメリットもある」

    『おっしゃる通り。一長一短とは正にこのことですね』

    青年は納得顔で頷いた。

    「それにじゃ。そなたに“霊媒体質”があるおかげで地縛霊化した先祖はそなたを通じてワシと縁が持て、その結果あの世に帰還できるわけじゃが仮にそなたの母方の曽祖父が地縛霊化したとして、子孫の全員が魂の属性が7すなわち“霊媒体質”でなかったらどうなると思う?」

    「さあ、どうなってしまうのでしょうか?」

    「直近の家族に魂の属性3の人間がいない場合どうなってしまうか以前説明したのじゃが、覚えておるかな?」

    『たしか、かかる子孫がいない場合、縁がある土地に憑いてしまうんでしたよね。ということは、この広い地球上で“カミゴト”ができる霊能力者がその土地を訪れる機会なんてほとんどないわけですから、よほど運がよくなければその先祖はほぼ永久に地縛霊のままなのですね…』

    「また、そういうことになるな。魂の属性が7の人物が魂の属性が3の人物と結婚し、魂の属性が3の子孫が産まれてようやくかかることができるわけじゃが、その場合、一斉に地縛霊化した先祖たちがその子孫に集まってくることになるので、その子孫が受ける霊障は必然的にきついものとなってしまう」

    『魂の属性が3の子孫が現れるのが後の世代になる分、各世代分のご先祖様が押し寄せてくるわけなのですね』

    「そのとおりじゃ。そなたのような“霊媒体質”持ちの人にとっては迷惑かもしれんが、地縛霊の立場から考えれば、こうしてワシの所にきて救霊する機会を与えてくれるそなたは、正に千載一遇の恩人というとこになるわけじゃ」

    『そうなのですね。自覚はありませんが、いずれにしてもご先祖様のためになっているのであれば、それはそれで嬉しいです』

    「同じ両親から産まれた子なのに性格などが兄弟で全然違う、というのは血統が同じでも霊脈がそれぞれ異なるからなのじゃよ」

    『我が家では姉だけが浮いているのがこれで納得できた気がします。では、地縛霊化している母方の曽祖父の救霊をお願いできますか?』

    「あいわかった。神事が終わったらすぐに連絡しよう」

     青年は深々と頭を下げ、退室した。胸が熱くなり、涙が溢れそうになったのは母方の曽祖父への想いからだろうか。

     

     

  • 天職と魂の善悪②

    新千夜一夜物語第5話:天職と魂の善悪

     

    「まず一番目の1/2じゃが、文字通りの“善悪”、善悪という言葉が強すぎるとすれば“執着”を意味しており、先頭に2がついた場合は2-2-2-2-2という組み合わせしか存在しない」

    『先頭が2だと全てが2ということは、完全な悪みたいな印象です』

    青年は目を見張った。陰陽師は微笑みで応え、続ける。

    「二番目の1/2には世の中に対して“厭世的”というか、「どうせ、わたしなんか・・・」と“世の中に対し斜に構えている”性格であることを表している。よって、2が二番目だけであるのであれば、逆に、身の回りで起こったすべての不幸・問題を自分の責任として処理してしまうといったポジティブな側面を持っていると考えることも可能じゃ」

    『ここだけ2の人を見ると、悪というよりは変わった人という感じがしますね』

    「三番目の1/2は、他人に対しての“攻撃性”を意味している。“攻撃性”といっても文字通りの“暴力”だけでなく、“言葉や態度”による圧力もその中にふくまれている。また、“愚痴や文句が多い”などという特徴もこの数字の意味する範囲じゃ」

    『“攻撃性”は持って生まれた性格かと思っていましたが、魂の鑑定でもわかってしまうのですね・・・』

    「四番目の1/2は、“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という性格を表している」

    『ここに2がある人に対しては、禍根を残すようなことはしないように気をつけます…』

    陰陽師は深く頷いて応えた。

    「五番目の1/2は、“自己顕示欲”じゃ。スポーツ・芸能・芸術を生業にできるのは2-3-5-5・・・2という属性だけであると先述したが、最後の2に該当するのがこの五番目の2じゃ」

    『なるほど。ここが2であることも芸能界に入るには必要なのですね!』

    首肯する陰陽師。

    「たしかに、過酷なトレーニングを繰り返すことによって超人的なパフォーマンスを披露するアスリート、幾人もの人間を迫真の演技で演じ分ける役者、筆やペンを手に自らの内面から湧き出す情念を表現する画家・作家、自らの情念を五線譜上で表現する作曲家、例を挙げればきりはないが、そのいずれをとっても、一般人の想像を絶する“自己顕示欲”こそがその“原動力”になっているはずじゃ」

    『昔の作曲家の伝記を読んだことがありますが、そんな気がします』

    「同様に、公官庁のおける高級官僚、一部上場企業の社員、一定規模以上の中小企業の社長・役員クラスなども、武将・武士ともに、五番目の1/2はやはり2となる」

    『業界を問わず、上の立場になるには必要な素質なのですね。僕はそこまで昇り詰めようという気概が湧かないかもしれません』

    青年は両手を挙げて降参のポーズを取る。

    「逆に、一番目から二番目にひとつ、あるいは二つ以上の2がありながら、最後に1がある人間は要注意人物ということでもある。いわゆる“外面がいい”タイプで、腹で思っていることとその言動には大きな乖離があるという前提で、相手とつきあう必要があるからじゃ」

    『“自己顕示欲”がないことがよいことかと思いきや、そうした問題もあるのですね』

    「また、どうしても我々は今世を中心としてものごとを考えてしまうので問題があるのじゃが、400回に及ぶ輪廻転生の1回である今世という視点で考えてみると、欲求があるから善いとか悪いということではなく、今回の宿題を果たすにあたり最適な属性を持って生まれてきているということでもある」

    『わかりました。他人を責めずに、これからは自分の人生に集中して生くことにしきます』

    青年の答えに満足したのか、陰陽師は微笑みながら傍にあったファイルを開き、青年に見せた。ファイルの中には、様々なジャンルに分けられた職種が羅列されている。

    「とはいえ、天職ベスト3として具体的な職業も鑑定して伝えるから、人によって何を扱うのかが向いているかはまた別の話じゃ」

    半ば夢中になってファイルをめくっている青年。

    『こんなにたくさんの職業の中から選ばれるのですね。ちなみに、僕のベスト3も教えていただけるのでしょうか?』

    「もちろん。じゃが、天職というのは今世の魂の修行をこなすのに適した職業であって、現世利益つまり高収入になるとは限らないことは忘れないように」

    『わかりました。ベスト3まで教えていただけるということは、ベスト1位の職業で生計が立てられそうにない場合に2位か3位の職業で収入を得やすい方を本業にし、ベスト1位は副業にしたり、あるいはそれだけで生計を立てられるようになったら本業にして専念すればいいのでしょうか?』

    「うむ。ただし、天職診断の結果でベスト3に挙げられたからといって、その仕事をしなければならないというわけではないから、最終的にどんな職業を選ぶかはそなたの自由ということになる。ただし、1位は天命と深く関わりがあるから、その仕事の情報に触れておくは大事じゃ」

    陰陽師の言葉をかみしめるように何度も頷く青年。

    『参考にさせていただきますので、教えてください』

    「あいわかった。そなたの天職ベスト1位は“伝道者”、2位は“気功師”、3位は“ギャンブラー”となる。簡単に言ってしまうと、一見あやしい分野が向いているわけじゃな」

    『確かに、どれも世間はあやしい職業ですね・・・』

    「補足をしておくと、そなたの場合、“伝道者”としての具体的な伝達手段はnoteやYoutubeといったITを駆使して有益な情報を広く拡散していくのが向いているようじゃな。“気功師”は言葉の通りじゃ。“ギャンブラー”は麻雀やポーカーが向いているぞ」

    『言われてみれば、麻雀もポーカーも昔からゲームで触れていました。ただ、職業にするという話になると勇気が要ります』

    「麻雀とポーカーに関しては“勝ち運”があるということではあるものの、すぐに生計が立てられるというわけではないぞ。また、魂の修業という話をこっちに置いておいたとしても、時給換算の仕事に就いて日々の時間を費やすより、それらに取り組む方が長い目で見ると向いているという意味じゃ」

    『なるほど。いくら運がよくても掴み取れなければ意味がないと思います。すぐに稼げるほど甘い世界ではないでしょうし』

    「まあ、そういうことじゃな」

    微笑みながら陰陽師が小さく頷いた。

    『・・・では、せっかく天職のヒントを教えていただけたので、帰ってベスト3の職業について調べようと思います』

    「選択肢がいろいろ出揃って一つに決めきれない場合、運気的にもっともそなたに合っている選択肢をあらためて鑑定することも可能じゃから、そのようなときにはあらためてここへ来るとよい」

    『たとえば、noteの販売価格はいくらがいいのかといった具体的な質問でもいいということでしょうか?』

    「もちろんじゃ。ただし、こうみえてもワシも暇ではない。よって、みる手間を省くためにも、ワシに一から数字を求めるのではなく、そなたなりに金額の候補をいくつか挙げてもらい、その中からワシが最適な数字を選ぶか、yesかnoという二者択一方式で回答できるようにしてもらった方が助かるな」

    『かしこまりました。選択で迷ったらお願いします』

    青年は思案にふけながら帰路についた。天職ベスト3がなぜあれらだったのかはわからないが、いつの日か点と点が結びつく時がやってくるということは、なぜか信じられたのだった。

     

     

  • 天職と執着①

    新千夜一夜物語 第5話:天職と執着

    青年は不思議な心境だった。

    魂の階級という聞いたことがない情報を知り、しかも自分の天職までも知ることができるという人生の転換期にもかかわらず、心中は穏やかだった。もともと死んでもいいと思えていたため、なにを言われても受け入れる覚悟ができているのかもしれない。

    陰陽師が口を開いた。

    「そなたの天職診断の結果は出ておるぞ」

    固唾を飲み、頷いて応える青年。

    「いくつか項目があるから、先に伝えておこう。まずは大枠として、対人向き・不向きに分かれる」

    *対人不向き
    ・事務
    ・職人
    ・対動植物

    *対人向き
    ・対個人:新規(ネットワーク、口コミなど、新規の人間関係が得意)
    ・対個人:人脈(人間関係だけでいく、新規の人間関係が苦手、既存のフォローが得意)
    ・対組織:新規(法人の新規が苦でない)
    ・対組織:人脈(法人の新規は苦手、既存のフォローが得意)

    『こうして見ると、どんな職種で働けばいいかの傾向がわかりやすいですね』

    「そうじゃろう。そして、何を扱うのに向いているのかも分けられる」

    ・物販(“モノ”を扱う)
    ・飲食(“消えモノ”を扱う)
    ・サービス(“コンテンツ”を扱う)
    ・芸能(“自分自身”を扱う)
    ・芸能(2−3−5−5・・・2以外の領域)

    『なるほど。これでさらに業界も絞りやすくなりますね』

    「そなたの場合、それらの項目が“対個人:新規”で、扱うのは“飲食”と“サービス”となる」

    『確かに、誰かに紹介してもらうよりも自分で新しい人を探すほうが得意な気がします。それと、“飲食”は月に1度、1日店長をやっているのが該当しそうですね。また、“サービス”に関しては気功が該当すると思います』

    「一言で“飲食”といっても具体的な仕事は多岐にわたる。お店を構えて料理を提供するということに限らず、食材を販売するというのもこの項目に当てはまるぞ」

    『ということは、八百屋や魚屋も該当するのでしょうか?』

    「いや、それらはあくまで食材の販売だけであるから“物販”の範疇に入る。そして、“サービス”は見えないモノと言い換えることもできるから、情報商材や文章、動画なども含まれる。保険などの金融商品も問題ない」

    『なるほど。サービスと聞いて接客業だけをイメージしていました』

    眉間にシワを寄せ、小難しそうな顔をする青年。

    『“芸能”というのは芸能人やアイドルに向いているかどうか、ということでしょうか?』

    「大きく捉えるとそういうことになるな。そなた、先日話した、現世属性のことを覚えておるか?」

    『・・・数字だけなら覚えています』

    「実は、ここを見ればアイドルを目指してもいいかどうかがわかる」

    『えっ、そんなことまでわかるんですか! 先生がアイドル候補生たちの顔や名前をみれば、どの人が売れるかがわかってしまうということですよね?』

    よほど驚いたのか、興奮気味に話す青年。陰陽師は片手を上げ、青年を制する。

    「まあ、落ち着きなさい。芸能・スポーツ関係の適合者はこれらの数字が“5(*)―5(*)”つまり、基本的気質と具体的性格の上の数字が共に5となっておる。この人々は顔がとても整っていたり、個性的な顔をしていたり、芸能人でよく言われるオーラを纏っている人が多い」

    『このような見立てのできないスカウトの人たちはそうしたオーラを感じ取っているのですかね?』

    「おそらくそうじゃろうな。要は、芸能関係に進みたいと夢見る若者にとって2-3-5-5・・・2という数字を持っているか否かは、正に運命の分かれ道ということになる。詳細鑑定にある”長所”の項目に”芸能”があるが、そこのスコアも考慮すると、さらにこの業界で成功しやすいかどうかがわかるわけじゃ」

    『せっかくデビューしてもなかなか芽が出ない人というのは、ここの数字が違うということですか?』

    「いや、芸能界にデビューできたということは間違いなく2-3-5(*)–5(*)・・・2という数字を持っているんじゃが、その数字を持っていたからと言ってみんながみんな成功するわけではない」

    『つまり成功するかどうかは別として、2-3-5(*)−5(*)・・・2という数字は芸能界への“入場券”の様なものなのですね』

    「まあ、簡単にいうとそうなるかの。ただしいくら入場券を持っていたところで、そこから先は“3:ビジネスマン階級”の世界、実力のある者が頭角を現していくという訳じゃ」

    『僕は7(5)―7(5)なので、芸能界には入れないということですね。ちなみに、7(5)―7(5)というのはどのような意味なのでしょうか?』

    紙に数字を書きながら、陰陽師が説明を始める。

    「ここの数字には、社会生活/仕事をするにあたっての適性が表れている。7(*)―7(*)のように7と7が一致している人は、例えるならOSもソフトも最適じゃ。一方、7(*)―3(*)と数字が一致していない人はOSとしては社会生活/仕事をするにあたり適した番号を持っているものの、ソフトの部分で霊的/精神的に問題を抱えているというになる」『僕は社会生活/仕事をするにあたっては適しているわけですね。ちなみに、7(*)―3(*)の人たちは社会に適応するのが難しいのでしょうか?』

    「7(*)―3(*)の人たちは一般常識や空気を読むことが苦手なので、結果、自分のペースで生きる方が合っているということになる。また、最初からそうした生き方が合っているとわかっていれば、苦手な人付き合いを頑張らなくて済むし、いっそう自分の価値観を大事にしていけばいいだけのことじゃからの」

    『なるほど。ちなみに、(*)の中の数字はなんですか?』

    「それらは適した立場を表している。(*)は1、3、5、7、9とあり、1は社長、3は常務、5は部長、7は課長、9は平社員と考えるとわかりやすい」

    『僕は7(5)―7(5)なので、社会適合者で部長の立場が適しているということですか?』

    「そうじゃな。上の立場の人間と下の立場の人間とも接することができる。まさに管理職じゃ。そなたは部長だから、1:社長の人間の視野で物事を考えたり立ち振る舞ったりするのは難しい。逆に、1:社長の人間がそなたの立場で動こうとしても、うまく指揮をとれないじゃろう。何度もいうが、この数字は人間の上下関係や偉い・偉くないといった意味ではなく、力を発揮しやすいポジションを表しているに過ぎないということじゃ」

    『なんとなく理解できました。話が戻ってしまいますが、2−3―5(*)―5(*)・・・2というのはどのような意味でしょうか? 5(*)―5(*)は現世属性だと理解していますが』

    「最初の2は転生回数が200回代、次の3は魂の階級つまり“3:ビジネスマン階級”ということじゃ」

    『3だけということは、武士・武将を問わずということですね?』

    「そうじゃ。そして、次の・・・2というのは、そなたの鑑定結果を見ながら説明しよう」

    『魂の善悪と書かれていますが・・・』

    眉間にシワを寄せる青年。ふたたび数字が出てきたことで頭を悩ませているようだ。

    『急に項目が増えましたね』

     

     

  • 魂の種類と仕事②

    新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事

    「次に、基本的には社会を下支えする職業に従事している魂“4:ブルーカラー”じゃが、この階級の人々はそれ以外にも情報通だったり、腰が軽いことから手に入れた情報を拡散させることが得意という側面を持っておる」

    『それに、なによりも人数が最も多いですもんね』

    「たしかにそうじゃな」

    青年の言葉に、陰陽師は小さく頷いた。

    「じゃが、同時に彼らは器用貧乏の面もあっての、趣味の範囲で情報を発信することはできたとしても、それを世の中に影響を与えるところまで昇華させることは難しい」

    『ということは、多くの人ができそうな簡単な仕事を担うことで、他の階級の人々のサポートをしているという理解でいいのでしょうか?』

    「そのあたりについて、もう少し具体的に説明するために病院を例にとることにするとしよう。たとえば、病院における2と4の仕事の分担をわかりやすく説明すると、採血や点滴の交換、放射線技師といった、どちらかと言うと単純作業に入る部類に従事するのが、4の階級。つまり、あくまでもその仕事領域は、下支えということになる。一方、一秒を争う緊急事態に適切な指示を出して現場を厳しく仕切ったり、医者と患者の意思疎通を図ったり、数いる2と4の混在体である看護師を束ねたりという仕事をする看護師長などは2の階級の専売特許ということになるわけじゃな」

    『なるほどです。今の話をうかがって、すぐにナイチンゲールのことが思い浮かびました。』

    青年は小さく頷くと、言葉を続けた。

    『では、3と4の違いはどのように理解したらいいのでしょうか?』

    「農家、昔でいう百姓で説明しようかの。一般論としては、第一次産業は4の仕事となるんじゃが、特にJAの規定に従い、毎年繰り返し同じような農作物を作ることに向いているのが4の階級。一方、農家ではあってもメディアで話題となるような他とは一線を画すクオリティの高い品種改良を行えるのが3の階級ということになる」

    『なるほどです。同じ農作物でも、〇〇マスカットや誰々さんのりんごのように群を抜いているのですね』

    「まあ、そういうことじゃ。もちろんこれは農業に限った話ではなく、たとえば、漁業などにもしっかりとあてはまるんじゃ」

    『とおっしゃいますと』

    「海の魚は基本的にタダじゃから、漁師は船の月々のリース代と日々の燃料代と漁獲量の兼ね合いで生計を立てていることになる。しかし、昨今の異常気象や周辺国の密漁や乱獲により、そのバランスが崩れつつある現状の中で、いち早く養殖に着手したり、現在でも孵化が難しいとされている魚の養殖に挑戦したり、山の上でヒラメを養殖しているなどというのは、当然のこととして魂3ということになる」

    *3の階級の人の適職の例
    上場企業の役員、上場企業以外の会社のトップ・ビジネスマン・金融関係のビジネスマン・商人・医者・科学者・発明家・プロスポーツ選手・オリンピック選手・芸術家・芸能人・伝統芸術などの専門的な職人・板前/調理師・革新的な技術を駆使する第一次産業従事者など

    *4の階級の人の適職の例
    第一次産業従事者(百姓)・社会の下支えをしている職業全般

    『少し話は変わりますが、納得いくことがありました』

    「なんじゃ?」

    『僕は気功を使って国境なき医師団のように生活を顧みずに人を癒すことに専念したいと思っていた時期がありました。でも、実際の僕には、生活を全て捨ててまでそこにいく勇気はなかったですし、緊急度の高い現場ではあたふたしてむしろ足を引っ張っていたかもしれません。そこに行けるのは”2:制服組(軍人・福祉関係)”階級の人たちであって、僕は”3:ビジネスマン”階級で活躍すべきだったんだなって』

    「そなたは自分を基準とするからそう考えるのかもしれんが、それは大きな間違いじゃぞ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえば、国境なき医師団を例にとってみても、彼らのほとんどは “魂3:ビジネスマン”じゃからな」

    『軍人が魂3なのはよくわかりますが、国境なき医師団の人たちもそうなのですか?』

    「うむ。そもそも医者は基本的に魂3の職業じゃし、“3:ビジネスマン”階級を武士と武将という言葉で表していることからもわかるように、彼らは元々が武士・武将なわけじゃから、いざとなったら命のやりとりを辞さないくらいの胆力があり、4つの階級の中で最も根性があるということもできる」

    呆気にとられる青年。陰陽師に言われたことに対し、あまり自覚がないようだ。

    「そなたの場合、先祖霊の霊障によって“2:仕事”の運気が塞がれておったからそうはならなかったが、もしワシともっと早く知り合い、霊障を祓っていたとしたら、国境なき医師団で活躍するような人生がまったくなかったとは言い切れん。実際に現場に出て命のやり取りを辞さない状況になったら、そなたの眠っている“warrior”の素質が目覚めるじゃろうからな」

    『なるほど。warriorだけに、ウオー! と血がたぎるように一つのことに夢中になったことはあります』

    「ふむ、そういった冗談を言えるくらいにはワシの話を信じられるようになったようじゃな」

    調子に乗って冗談を言った青年だったが、完全に滑ったようだ。

    『…言われてみれば、いったん覚悟を決めたらやるときはやるかもしれません』

    恥ずかしそうに言う青年。陰陽師はやわらかい笑みを浮かべたままうなずく。

    「軍隊でも司令官向きの人間と前線で活躍する将校向きの人間がいるように、怪我人や病人の生き死にを前に、大局的なものの見方やとっさの判断は“2:制服組”の話に真摯に耳を傾け、彼らと上手に連携をとれば、戦争に限らず、大きな判断ミスを犯す危険も限りなく低くなるというわけじゃ。何しろ3の階級の人は、天命に沿った実務遂行能力・技能においては正にプロフェッショナルなのじゃからな」

    『なるほど。2の階級の人々も全てをこなせるわけではなさそうですし、“医者”はそもそも基本的には魂3の階級の職業ですもんね』

    「そうじゃ。それにな、間接的にいろんな貢献をすることもできるのじゃぞ。むしろ、そっちの方が本領発揮できると思うが。わかるかの?」

    腕を組み、黙って考え込む青年。やがて勢いよく顔をあげて口を開いた。

    『わかりました! “3:ビジネスマン”階級は経済を回す役割なので、収入を上げて寄付するのも貢献になりますね。必ずしも現地で活躍する必要はないと』

    「その通りじゃ。その方がお互いの役割に集中できるじゃろう。”2:制服組(軍人・福祉関係)”の人々は、収益が目的ではない慈善団体のような団体が多いわけじゃから、”3:ビジネスマン”階級が得意のビジネスで稼いだお金を寄付することで彼らの活動も拡大しやすい。つまり、3の階級の人々は技能においても経済においても、世の中に影響を与えられる階級なのじゃよ」

    納得の意を示すように何度も頷く青年。

    『ちなみに、先生の鑑定では天職というのはわかるのでしょうか?』

    「もちろん。ただ、これが天職だと結果が出たとしても、そなたがその鑑定結果に納得をし、それを天職として選ぶかどうかはわからんぞ」

    『…それでも、どうしても気になるので、鑑定をお願いしてもいいですか?』

    「あいわかった。結果が出たら伝えよう」

    『よろしくお願いします!』

     

     

  • 魂の種類と仕事①

    新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事

    青年は朝早くから陰陽師を訪ねた。

    というのも、とても懐かしくて悲しい夢を見て目が覚めたからである。夢の内容を覚えていないが、今までふぬけていた体に一本芯が通ったかのような不思議な感覚があった。

    そして、魂の階級や属性といった、自分の天命に関わる情報を少しでも多く知り、自分の天命を生きようという意思が芽生えたからである。

    『おはようございます』

    青年は、陰陽師と対面すると、いつにも増して神妙な面持ちで深々と頭を下げた。

    「おはよう。昨夜、そなたの先祖供養の奉納救霊祀りを滞りなく執り行わせていただいたよ」

    『やはり、そうでしたか。昨夜不思議な夢を見ましたので』

    顔を上げて言う青年に対し、陰陽師は笑みを浮かべながら小さく頷く。

    「それは、そなたの先祖が無事にあの世に帰還した合図かもしれんな」

    あらためて神事のお礼を述べた後で、青年はさっそく本日の議題を切り出した。

    『今日は、先日少し説明いただいた、魂の種類などについて教えてください。自分の天命についてもっと理解したいです』

    「あいわかった。では、まずは魂の種類について説明しよう」

    陰陽師は紙に書きながら説明を始めた。

    1:先導者(5%)
    2:制服組(軍人・福祉関係)(15%)
    3:ビジネスマン(武士・武将)(20%)
    4:ブルーカラー(60%)

    「魂には4つの種類がある。種類といっても上下関係という意味ではなく役割分担というほどの意味となる。また、地球上における魂の割合もおおむね決まっておる」

    『魂に種類があったのですね。しかも、4つも…』

    「もう一度だけ繰り返しておくが、この4つの魂の階級はカースト制度のように身分を表しているわけではない、ということはくれぐれも忘れんようにな」

    『わかりました』

    青年は、一つ小さく頷いた後で、口を開いた。

    「ところで肝心な質問なのですが、僕はどの種類になるのでしょうか?』

    「そなたは“3:ビジネスマン”であり、さらに細かく分けると“武士”となる」

    『武士でしょうか? しかし、どちらかというと僕は争いとか、戦いはあまり得意ではないんですが…』

    幾分不安そうに訊ねる青年の言葉に、陰陽師は小さく笑った。

    「人の話は最後まで聞くもんじゃ。今そなたが武士だとは言ったが、今は戦国時代ではない。じゃから、武士と言っても昔の武士という意味ではなく、現代的な言い方をすれば” ビジネスマンや商人”に近い。つまり、現代における武士階級とは、経済を回し、その経済力で世の中に影響力を持つ人間たちのことなんじゃ」

    そんな陰陽師の言葉に、青年の顔に安堵の色が浮かんだ。

    『それを聞いて、少し安心しました』

    「さらに言うと、武士は自分個人のスキルを基に社会に貢献するのが得意ということができる』

    『確かに、僕は大勢よりも一人の人と接する方が得意です』

    「一方、武将タイプじゃが、彼らは武士タイプに比べて緻密さや精度という点ではやや劣るものの、人を見る力/人を束ねる力がある。それ故、大規模なイベントや企画を立てるのは武将の役目じゃ。武士は成功させるために各々のスキルを発揮するのが主な役目となる」

    『…しかし、お話を聞くかぎり、どうも武将の方が立場が上な感じがしますが』

    「いや、これも魂の『別』と同様に、上下の関係・偉い偉くないの問題ではなく、役割の違いと理解した方がよい。実際、“船頭多くて、舟山に登る”の譬えではないが、武将だけでは何をするにせよ限界があるし、武士だけでもまとまりを欠いてみたりする。要は、両者は一種の補完関係にあるわけじゃ。じゃから、武将タイプの人と縁があったら、彼ら・彼女らの手助けをするといい。しかもそなたは武士の中では最高ランクの武士なのじゃから、彼ら・彼女らのビジョンをしかと聞き出し、武士であるそなたの特性を活かして協力するとよい」

    『なるほど。武士と武将は連携することでできることがあると。わかりました!』

    「そう、その意気じゃ」

    真剣な眼差しの青年に話すのが楽しいのか、陰陽師は微笑みながら続けた。

    「今度は魂の種類を順番に説明していくとしよう。まず魂1じゃが、“1:先導者”は、シュメールやエジプト、ペルシャ、古代インドの祈祷師をその起源としておるのじゃが、現代では宗教関係者、上場企業のトップ、いわゆるキャリアと呼ばれる上級公務員、財団の理事、大学教授、小中高の教員などの職業に主に従事している」

    『他の職業はなんとなく理解できますが、何故上場企業のトップなのでしょう。先程もビジネスは魂3の仕事とお聞きしたばかりなのですが』

    「そうじゃな、そのあたりの話を簡単にしておくとするかの」

    青年の顔を見ながら、陰陽師は小さく頷いた。

    「先程話した通り、たしかにビジネスは基本的には3の仕事となる。もちろん、上場企業といえども例外ではない。よって、欧米の上場企業の役員はもちろんのこと、CEOはすべて魂3ということになる。ところで、そなたはトップダウンとボトムアップという概念はわかっておるな」

    『もちろんです』

    「そうか、それでは話が早い」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく笑った。

    「まず欧米じゃが、欧米の企業では決定事項はつねにトップダウンとなる。文字通り、トップが魂3なのじゃから、非常にわかりやすい。それに対して日本の企業はボトムアップが現在でも基本となっている」

    『その理由が、魂1がトップにいるからなのですね』

    青年が口を挟んだ。

    「その通りじゃ。わが国では、元々聖職者が上場企業のトップを務めておるわけじゃから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけることはほとんどない。じゃから、勢い多数決や満場一致を旨とするため、結果ボトムアップという形になるわけじゃな」

    『そして、そのような形態をとっているのは日本だけだと言うのですね』

    「その通り」

    青年の言葉に、陰陽師が小さく頷いてみせた。

    「そのような意味では、日本の経営形態は世界の非常識ということができるのじゃろうな」

    『しかし、現在のグローバル経済の中でも、その形態は崩れていないのでしょうか』

    「もちろん、将来のことは何とも言えん。しかし、今のところは、つい先日も魂3である日産のゴーン社長が、事の経緯はともかく、あのような形で追い出されたところをみても、その予兆はないようじゃな」

    『なるほど。そのような意味でも日本はやっぱり“神の国”なのですね』

    青年は、感心したように小さく頷いた。

    *魂1の人の適職の例
    一部上場企業のトップ、キャリアと呼ばれる上級公務員、財団等のトップ、政治家、宗教関係者(宗教を興す最初の教祖、既存/新興宗教問わず2代目以降の聖職者・僧侶はほとんどが3)

    『次に、魂“2:制服組(軍隊・福祉関係)”ですが、彼らは、現代の日本だとあまり素質を発揮できなそうですね』

    「いや、かならずしもそうとは言えんぞ。現代における魂2の職業を大別すると、福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ということになる」

    『福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ですか。でも、このふたつはまったく正反対の職種のようですが』

    「たしかに。このふたつの職種は、一見正反対のようにみえるじゃろうが、その実、立派な共通点が存在しているんじゃ」

    『共通点でしょうか? それは、どんな共通点なのでしょう』

    青年は、膝を乗り出すようにして陰陽師に訊ねた。

    「かつてのシュメールや古代エジプトにおいて神権政治時代の王侯貴族であった魂2の人間たちの役割が、国家の統治と安寧(あんねい)であったとすると、彼らが現代において福祉を職種として選ぶことには、格別不思議な話ではない」

    『そうですね、魂2の人たちが福祉関係の職に就くことはよく理解ができます。ですが、実質上の軍隊である自衛隊を職業に選ぶというのは』

    そう言いかけた青年の言葉を遮り、陰陽師は続けた。

    「先ほどは日本に限った話だったので防衛装備庁・自衛隊と言ったが、諸外国に目を向けた場合も、軍隊や国防省の職員のかなりの部分で魂2の人間が占めているんじゃ」

    『本当ですか? しかし、何故』

    合点がいかない様子の青年を横目で見ながら、陰陽師は話を続けた。

    「それには戦争というものの成り立ちをよく考えてみるとわかりやすい。まず、その前提条件として、何らかの理由で二国間に利害の反する問題が起こったと仮定してみよう。そして、話し合いを繰り返してみたものの、ついに話し合いでは解決がつかないところまで事態が悪化し、武力という手段でしか問題を解決できなくなったときに、人間は戦争という手段を選択してしまうわけじゃ」

    『…たしかに』

    「しかし、そのような状況の中でも、最後まで戦争回避の道を模索するのが制服組である魂2となる。そして、不幸にして開戦を回避できなかった場合にも、どのような範囲で戦争をするのか、どのような武器まで使用するのかを策定をするのも制服組である魂2の仕事となるわけじゃ」

    『なるほど』

    「さらに実際の戦場で、命のやり取りの末、血に飢えた殺戮マシーンと化した魂3・4の軍人たちに、モチベーションを保たてつつ、婦女子を中心とした民間人に危害を加えさせないよう最大限の努力をする任務を負っているのも、現場の魂2の将校というわけじゃ」

    『なるほど。そう考えると、福祉と制服組の軍人という一見対極にある職業が、実はコインの裏表のような関係にあることがよくわかりますね』

    感心したように頷いている青年を眺めながら、陰陽師はつけ加えた。

    「それ故、一瞬の判断が人の生き死にを分けるようなシビアな環境において、彼らの能力が最大限に発揮されるということもできるわけじゃ」

    『確かに魂2の人たちは肝が座っている方々が多そうな印象があります…』

    (続く)

    ご自分に先祖霊による霊障があるかどうかか気になる方は、

    までご連絡ください。

  • 除霊と救霊

    新千夜一夜物語第3話:除霊と救霊

    その日、青年は陰陽師を前にうつむいたまま黙っていた。

    というのも、青年は過去に霊能力を持っている人物の世話になったことがあり、その時にお祓いは済んでいたはずだからである。それなのに、陰陽師は霊障があると断言するのだ。
     陰陽師は青年の想いを察してか、彼が切り出すのを黙って待っていた。

    『じつはですね。先生にはとても申し上げにくいことなんですが…』

    青年が切り出した。

    「どうしたんじゃ? 何でも言ってくれて構わんぞ」

    『実は僕、過去に霊能力者に弟子入りしていたことがありまして、その時にお祓いを受けているんですよ。だから、昨日先生が僕に霊障があるというのは違うのではないかって』

    「なるほどのお。そなたは世話になった霊能力者とやらの言葉を今でも信じておるわけじゃな」

    『先生を疑っているつもりはないんです。ただ、僕にまだ霊障があるとするなら、過去に受けたお祓いは何だったのだろうと思って。よくわからなくなってしまったんです』

    いつもと変わらず、穏やかな表情のまま紙を差し出す陰陽師。何を言われても動じない不動の心を持っているかのようだ。

    『この紙は何ですか? 数字がいくつも書いてあって難しそうですが』

    「そなたの鑑定結果じゃ。昨日、名前(ふりがな)と職業を書いてくれたじゃろう」

    『ああ、そうでしたね』

    「それでな、“現世属性”の個所を見てみるがいい」

    “現世属性:7(5)―7(5)(−2)”

    『この、7(5)―7(5)(―2)の部分ですか? これはどういう意味ですか?』

    「7(5)―7(5)はまた別の機会に説明するとして、今日は最後の(―2)のところについて説明しよう」

    青年は眉をひそめながら紙をじっと見つめている。どうやら数字を見ると頭が痛くなるようだ。

    「その数字は当人が霊感持ちか霊能力持ちかを表しておると同時に、それらの強さを表しておるんじゃ。簡単に説明すると、(―*)は霊感持ちで、(±*)は霊能力持ちということになる。また、数字は1から9まであり、1が最も強い」

    『ということは、僕は(−2)なので霊感持ちで、上から2番目に強いということでしょうか? そんなに霊感が強いとは思わないのですが…』

    「しかし、数字を見る限りはそういうことになる。また、霊感は視覚的に見えるか見えないかで考えられがちじゃが、通常の視覚では見えない存在を何らかの形で感じる度合いを指していると理解するとわかりやすい」

    『言われてみれば、霊能者のお世話になった時に霊体は見えなかったけれど、あの辺に何かいそうというのは何となくわかった気がします』

    「そう言うことじゃ。それに対して、霊能力者とは霊の存在を感知できると同時に、霊に対して何らかの解決策を取れる存在を指す」

    *この文章では、あの世に帰り損ねた人物・生き物を輪廻転生のメカニズムに戻すこと、あるいは有害な霊障を無効化することを主に指します。

    『でも、両者の違いはどうしたらわかるのでしょうか?』

    「例えば、霊能力者を名乗る人物にお祓いを依頼したとして、根本的な問題を解決できないとすれば、その人物は霊能力持ちではなく、単なる霊感持ちということになる」

    視点が固定したまま黙る青年。イマイチ言われたことがわかっていないようだ。

    「簡単に言うと、霊感持ちは感じることはできても祓うことはできない。わかりやすく言うなら除霊しているだけじゃ。霊を移動しているだけで霊自体はこの世に留まったままなんじゃ」

    『そういえば、霊能力者の元で修行の際、除霊をしまくっていました。当時は浄霊と呼んでいて、先生がいう救霊と同じことをしていると思っていました』

    「なるほど。しかし、それはまずかったのお…」

    『え?! 何かまずかったのですか?』

    「霊能力がないそなたの役目ではないことを修行するとは…。基本的に本物の救霊、ここでは“カミゴト”と呼ぼう。それに携われる人間は鑑定結果にもはっきりとその能力が表れているんじゃ。霊能力を持っている人間は()の数値が(±*)となっている。ただし、“17.天啓/憑依”の霊障があるといった、まず自分のことを自分で祓えていない人間は基本的にアウトじゃ。他人のみならず自分のことを祓える人間は(±1~3)であるため、神事を受けずにカミゴトに携われる人間は非常に少ない。また、例外的に魂3の人間もいるにはいるが、基本的にカミゴトに携わる人間は基本属性の魂の階級が“1:先導者”ということになる」

    『何だか新たな言葉と数字が出てきて頭がこんがらがりそうです』

    「すまん、すまん。魂の属性と階級はまた別の日に解説するとしよう」

    『わかりました。で、続きをお願いします』

    「そして何より、除霊という行為は霊的にみると根本的な解決にはなっていない。そこにいた霊をそなたの都合でどかしただけで、霊たちは救われているわけではないのじゃよ。それどころか、そなたが余計な影響を及ぼしたことで、霊たちはそなたに救ってもらえるかもと期待を持ってしまうわけじゃが、実際に霊能力を持たないそなたは、残念ながら霊たちの要求に応えることはできなかったわけじゃな」

    『それにしても、僕がどかした霊たちはどうなったのでしょう?』

    「おそらく、一時的のどこかへ行っていたとしても、時間が経てば元の場所に戻るじゃろうな。あるいは…」

    『あるいは…?』

    「そなたが何とかしてくれるかもしれないと、すがる思いでそなたに未だに憑いているかもしれん」

    『げ…』

    青年は慌てて周りを見渡し始めた。そんな青年を面白そうに眺めながら、陰陽師が口を開いた。

    「ところで、そういった地縛霊を連れていると、どうなると思う?」

    『昨日の話を聞く限り、少なくともいいことではないと思います…』

    またあたりを見回しながら、青年は答えた。

    「そういうことじゃ。じゃから、霊感持ちの人間はむやみに心霊スポットと呼ばれる場所などには近寄らず、ホラー系の映像や怪談にも接触しない方がいいというわけじゃな」

    『しかし、ご先祖様以外の地縛霊を連れて来てしまうと、具体的にどうなるのですか?』

    「それらに取り憑かれると、そなたの心身の弱っている部分、あるいは体の“弱い部分”の痛みが増幅してみたりする。そして一番やっかいなのが、そなたが気づかないようにそなたの運気そのものが下がってしまうということじゃな」

    『げ! 良かれと思ってやったことが、むしろ僕自身にダメージを与えていたということですか?』

    「そなただけじゃなくてそなたが連れて来た魂にもじゃし、そなたの周りの人々にもじゃ」

    『成仏できない魂たちはわかりますが、どうして周りの人々にも悪影響が及んでしまうのでしょう?』

    「それはじゃな、簡単に言うと雑霊には人を介して移動していく性質もあるからじゃ。そなたが誰かとすれ違ったりするだけで、相手に移ることもあるし、お前が拾うこともある。そして、成仏できない時間が長くなるにつれ、雑霊の影響力は増えていく」

    『じゃあ、どうしたらいいんですか?』

    「結局のところはお祓いをする人間に”霊能力”があるかどうか、が重要となる。お祓いの作法うんぬんよりも、お祓いをする神主や坊主に”霊能力”があれば効果はあるし、なければいうまでもなく効果はまったくない」

    『ということは霊能力持ちの神主や坊主にやってもらえるかどうかはわからないので、一種のギャンブルみたいなものなのですね…』

    「まあ、そういうことじゃな。それにじゃ、”霊能力”があればいいというわけでもない。さきほど言った通り、魂3という少数の例外を除けば、救霊できる人間は基本的に“1.先導者”階級で(±1~3)に限られておる」

    『なるほどです。ちなみに、僕の当時の師匠は違うのでしょうか?』

    陰陽師は目をつぶって黙った。何かに集中しているようである。

    「今鑑定してみたところ、そなたの元師匠は“4.ブルーカラー”階級で(―1)の霊感持ちじゃな」

    『もうわかったんですか?! 名前も伝えていないのに』

    「そうじゃな。厳密に言うと、たとえば友人の友人の奥さん御母親といった具合に、名前がわからなくとも依頼者から連なる一連の人間関係がわかればそれでも問題はないといえばないのじゃがな」

    『霊感持ちだったということは、当時の師匠が僕にしてくれたお祓いは根本的な解決ではなかったと…。そして、先生がおっしゃる通り、僕には地縛霊化しているご先祖様の霊障があるということなのですね…。疑ってすみませんでした…』

    「いいんじゃよ。さて、霊障があることをわかってもらえたところで、そなたにどんな霊障があるか解説するかの」

    『よろしくお願いします』

    「そなたの場合、特に2、12、13、14、17じゃな」

    『その数字だと、仕事の問題、読心・暴力衝動、予知・口撃衝動、偶発的人的トラブル、天啓ですか』

    「どうじゃな、思い当たる節はあるかの?」

    『まさに、いろいろと仕事をしましたがどれもうまくいかず、人間関係もよくありませんでしたし…。都合のいいように思い込んだり勘違いをして、望んでいない方向に人生が進んでいたと思います』

    「そうか。それは大変じゃったな…」

    『先生のお祓いを受ければ、地縛霊化して苦しんでいるご先祖様が無事にあの世に帰還できて、僕の問題も解消されるのですよね?』

    「まあ、そういうことになる。また、霊障がなくなった暁には、そなたの身に起きる出来事はそなたの責任となる。いっそう励んで生きるのじゃぞ」

    『はい! ご先祖様のこと、よろしくお願いいたします!』

    まるで憑き物が取れたかのように、帰路につく青年の足取りは軽かった。