青年は思議していた。
2021年10月30日に、服部恭太氏が京王線の車内で70代の男性の右胸を刺して重傷を負わせ、さらに電車内で放火した件についてである。彼の犯行によって17人が重軽傷を負い、彼は殺人未遂として現行犯逮捕された。
また、彼は映画“バットマン” に登場する悪役である“ジョーカー”に憧れて犯行に及んだとも述べていたことから、この事件は“ジョーカー事件”とも呼ばれているようだ。
彼と“ジョーカー”には、霊的に何らかの共通点があるのだろうか。
そして、こうした事件を起こす人物は“無敵の人”とも呼称されているが、“無敵の人”にも何らかの共通点があるのだろうか。
独りで考えてもらちが開かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。
『先生、こんばんは。本日は、ジョーカーと“無敵の人”について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』
「あまり聴き慣れない言葉じゃが、“無敵の人”とはどういった人物のことをさすのじゃ?」
『“ひろゆき”氏による造語ではありますが、簡潔にお伝えしますと、無敵の人とは、“社会的に失うものが何も無いために犯罪を起こすことに何の躊躇もない人”のようです』
「なるほど。して、ジョーカーとの共通点は?」
『アーサーのセリフは劇中のものではありますが、似ていると言えば似ていると思われます。そのため、ジョーカーと“無敵の人”には、霊的にもなんらかの共通点があるのではないかと思った次第です』
「そなたが知りたいことについてはわかった。して、具体的にどんな人物の鑑定をすればいいのじゃ」
『まずは、ジョーカーとジョーカー事件を起こした服部恭太氏の鑑定をお願いします』
「さっそくみてみよう。少し待ちなさい」
そう言い、陰陽師は鑑定結果を紙に書き出していく。
両者の属性表を見比べた後、青年は口を開く。
『両者の属性は共通点が多いですね。ちなみにですが、服部氏はジョーカーに憧れたと述べていたようですが、魂の属性が近いことから、親和性を持っていると考えられるのでしょうか?』
「その可能性は考えられるじゃろうな」
陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。
『ジョーカーは映画“バットマン”シリーズの最大の敵で、犯罪の首謀者として描かれています。属性表を見る限り、転生回数の十の位が“小山”である“4”の魂3:武将であり、しかも一の位が“雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい”傾向がある“1”であることを考慮すると、納得できます』
「そなたの見解に付言するとすれば、 “バットマン”シリーズは回を重ねるごとに脚本家が変わることもある。その結果、魂の種類や転生回数などの大まかな部分は変わらぬものの、脚本家の演出によっては細部の数字は変わることがある。つまり、今回の鑑定結果は最新の映画である“JOKER”のものであることを覚えておくように」
青年は小さくうなずき、口を開く。
『かしこまりました。いずれにせよ、今回の属性表だけから判断しても、ジョーカーが“悪の権化”といった側面があると考えられるのでしょうか』
「そうじゃな。他のシリーズのジョーカーの鑑定をしていないゆえ、一概には言えぬものの、そうした側面は間違いなくあると考えられる」
陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずいてから、再び属性表を見比べる。
『ジョーカーはビジネス運と人運が、服部恭弥氏は人運が“1”ともっとも低い数値ですが、それぞれの運が非常に悪く、仕事と人間関係において数多のトラブルを体験することが今世の課題に含まれている傾向がある、と考えても問題ないのでしょうか?』
そう言い、青年は総合運について紙に書き足していく。
「その傾向はあるじゃろうな。ちなみに、映画“JOKER”ではどんな不運な出来事が描かれておるのじゃ」
『映画での演出ではありますが、次のようです』
読み上げた後、青年は眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。
『それにしても、これがノンフィクションだったら、壮絶な物語だと思います。映画として盛り上げるための脚本だと理解できるのですが…』
「そうかもしれぬな。して、服部恭太氏にはどのような出来事があり、どのような動機で事件を起こしたのじゃ」
陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。
『まずは、事件前に彼の身に起きていた出来事です』
『今度は動機ですが、次のようです』
「小田急刺傷事件をまねたとあるが、その事件はどういったものなのじゃ?」
陰陽師の問いに対し、青年はスマートフォンを手早く操作し、口を開く。
『ジョーカー事件の少し前、2021年8月6日に対馬悠介氏が牛刀を用いて小田急線の車内で乗客10人を斬りつける事件がありました。特に、標的にされた20代の女子大生は重傷を負っています』
「なるほど」
陰陽師のあいづちに対し、青年は言葉を続ける。
『小田急線の事件では、対馬氏が刃物で切りつけた後、車内で放火しようとした点はジョーカー事件と同じです。ただ、着火剤として選ばれたサラダ油の引火点(着火するのに必要な最低温度)は250度らしく、彼はライターを使ったためにそこまで高温にすることはできず、火災には至りませんでした』
「ちなみに、ジョーカー事件の加害者である服部氏は何を着火剤として用いたのじゃ」
『対馬氏がサラダ油で失敗したことがWEB上に記載されており、そうした情報を知った服部氏は、可燃性の高いライターオイルを選び、小田急線の事件よりも被害が拡大したようです』
「なるほど。ちなみに、小田急線刺傷事件の加害者は、どのような動機で犯行に及んだのかの」
青年はスマートフォンを操作した後、口を開く。
青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に属性表を書き足していく。
新たに書き足された属性表を見た後、青年は口を開く。
『彼の場合、ジョーカー事件の加害者と犯行の動機が異なり、女性への逆恨みや、そこから派生する攻撃性、八つ当たりという印象を受けます。また、属性表から判断するに、人運、恋愛運が共に“6”であり、“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”の中でも、特に“攻撃性”も事件を起こした要因の一部となっている可能性があるのではないかと考えました』
「その可能性はあるじゃろうな」
『動機は異なれど、電車内で起きた事件として話を進めますと、対馬悠介氏が小田急刺傷事件を起こしたことで、この事件を模倣して服部恭太氏が京王線刺傷事件を起こし、さらにその事件を模倣し、2021年11月8日に三宅潔氏が九州新幹線にて放火未遂をしました』
「ちなみに、三宅氏の犯行の動機は似たようなものかの?」
『ネットで調べる限り、当時の彼は生活保護であり、経済的に困窮していたことを主な理由とした自殺目的のようです』
「なるほど。動機はそれぞれ一致してはいないものの、一つの事件をきっかけに、それと似たような事件が続いている可能性が考えられるようじゃな」
そう言い、陰陽師は紙に属性表を書き足していく。
全員の属性表が明らかになったことで、青年は四つの属性表を見比べた後、口を開く。
『アーサー・フレックス(ジョーカー)と服部恭太氏の属性表は近いものの、他の2名は細部が異なる印象を受けます。とは言え、四名の共通点はそれなりに挙げられそうです』
そう言い、さらに青年が4名の共通点を読み上げた後、陰陽師は口を開く。
「そなたが挙げた共通点の中で、次の項目の数が多くなるにつれて、世間でいうところの“犯罪者”となる可能性が高くなると考えられる」
そう言い、陰陽師が口頭で伝えた項目を、青年は紙に書き留めていく。
青年は紙に書かれた共通点を見た後、口を開く。
『頭2の人物には、“我”が強く、物事を自分の利害関係で判断する傾向があり、二桁目の枝番は、“1”に近いほど頭1/2の傾向が顕著になるとお聞きしました。4人とも、頭2で二桁目の枝番が“3”以上ですので、頭2の傾向がかなり強いと思われます』
そう言い、青年は、頭1と2の傾向を紙に書き記していく
手を止めた後、青年は言葉を続ける。
『また、2:“自己中”度の高さが頭2の傾向に輪を掛けていると思われますが、加えて、3の条件によって“この世の法律や社会規範”から逸脱した言動を取る傾向があると考えられるため、各々が犯罪に手を染めようという結論に至る傾向があったと考えられます』
「そのように考えることもできるかもしれぬな」
『事件を起こそうと思い至っても、場合によっては考え直す機会もあったかもしれませんが、4から7の特徴によって、思いとどまることなく、実際に犯行に及んでしまった可能性が考えられるのでしょうか』
「人間は多面体で一つの出来事においても様々な要因が複雑に絡んでいることから、一概には言えぬものの、そうした可能性も考えられるじゃろうな」
陰陽師の言葉に対し、青年は小さくうなずき、口を開く。
『8と9に関しては、“恋人がおらず、仕事がなくて経済的に困窮している”という、この世の基準における共通点に通ずるところがあると思います。ただし、8と9の数値が低いがゆえに今世ではそうした境遇に陥ってしまったと考えられます』
「そなたの考えに対して付言しておくと、対馬悠介氏について言及した際に“6”が持つ傾向である“不幸(そのもの)”、“不幸な選択”、“不実”、“攻撃性”、“サド的気質”と説明していたと思うが、そうした数字が持つ傾向については、あくまで現時点での見解であり、今後、より多くの人物の鑑定とその人生を照らし合わせて統計を取っていくことで、変わる可能性があることを覚えておくようにの」
陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいた後、口を開く。
『かしこまりました。ここまでのお話をまとめますと、世間的には、“無敵の人”が誕生する原因は社会にあるという声もあります。確かに、今回取り上げた人物達に、恋人・友人がおらず、仕事もお金もないことの要因に、コロナ禍もあってか、昨今の社会情勢の影響もあったかもしれません』
青年の言葉に対し、陰陽師は黙って続きを促す。
『しかしながら、今世の宿題に対し、逆接方向に顕在化する、霊脈の先祖霊の霊障がかかっていないことと、欄外の枝番が持つ傾向と、ビジネス運、人運、恋愛運が低いことなどを考慮すれば、各々が“無敵の人”の条件を満たしたのは、社会に原因があるのではなく、それぞれの今世の課題を果たすため、という可能性が考えられるのでしょうか』
「その可能性はあるかもしれぬな。そして、各々があえてそうした不運な境遇を体験することを今世の課題として決め、この世に転生すると決めたことは、この世が“修行の場”であり、他の多くの新興宗教がうたう、“地上天国”を目指す場ではないという一つの根拠になりうるのじゃ」
そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。
『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』
そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。
「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」
陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。
帰路の途中、青年は今回取り上げた事件について反芻していた。
彼らの犯行に対して、この世の基準で批判、非難することは容易い。
だが、彼らは各々の今世の課題を果たしているに過ぎず、さらに言えば、例えば、欄外の枝番に“1”を持つ、“この世の法律や社会規範”を準ずる人々からすれば、彼らの言動は批判や非難の対象になることは当然のように思われるが、欄外の枝番に“9”を持つ人々からすれば、その逆もまた然りなのかもしれない。
結局のところ、この世は“修行の場”であり、各々が今世の課題を果たすことが重要であるので、直接関わることがない人物の価値観や言動について批判や非難をするよりも、なぜ自分は赤の他人に対して批判や非難をしようと思ったのかを考え、自分の今世の課題を果たす糧にしていく方が、“魂磨き”の観点で考えれば適しているのではないか。
今回取り上げた加害者たちの言動を知り、世間の大勢の目に触れる形で今世の課題を果たしている彼らと比べて、自分は今世の課題を果たせているのだろうか。
自分の人生という映画の主演を演じきれているのだろうか。
この世の基準に囚われて、今世の課題と関係ないことに命を費やしていないだろうか。
その答えはきっと、自分がこの肉体を離れる時にわかるのかもしれない。
少なくとも、今は霊的な要因によって無用な苦労をしている人々に神事を済ませることの重要性を伝え、一人でも多くの人々が今世の課題を果たせるよう、尽力していこう。
そう、青年は思議したのだった。
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