新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事
「次に、基本的には社会を下支えする職業に従事している魂“4:ブルーカラー”じゃが、この階級の人々はそれ以外にも情報通だったり、腰が軽いことから手に入れた情報を拡散させることが得意という側面を持っておる」
『それに、なによりも人数が最も多いですもんね』
「たしかにそうじゃな」
青年の言葉に、陰陽師は小さく頷いた。
「じゃが、同時に彼らは器用貧乏の面もあっての、趣味の範囲で情報を発信することはできたとしても、それを世の中に影響を与えるところまで昇華させることは難しい」
『ということは、多くの人ができそうな簡単な仕事を担うことで、他の階級の人々のサポートをしているという理解でいいのでしょうか?』
「そのあたりについて、もう少し具体的に説明するために病院を例にとることにするとしよう。たとえば、病院における2と4の仕事の分担をわかりやすく説明すると、採血や点滴の交換、放射線技師といった、どちらかと言うと単純作業に入る部類に従事するのが、4の階級。つまり、あくまでもその仕事領域は、下支えということになる。一方、一秒を争う緊急事態に適切な指示を出して現場を厳しく仕切ったり、医者と患者の意思疎通を図ったり、数いる2と4の混在体である看護師を束ねたりという仕事をする看護師長などは2の階級の専売特許ということになるわけじゃな」
『なるほどです。今の話をうかがって、すぐにナイチンゲールのことが思い浮かびました。』
青年は小さく頷くと、言葉を続けた。
『では、3と4の違いはどのように理解したらいいのでしょうか?』
「農家、昔でいう百姓で説明しようかの。一般論としては、第一次産業は4の仕事となるんじゃが、特にJAの規定に従い、毎年繰り返し同じような農作物を作ることに向いているのが4の階級。一方、農家ではあってもメディアで話題となるような他とは一線を画すクオリティの高い品種改良を行えるのが3の階級ということになる」
『なるほどです。同じ農作物でも、〇〇マスカットや誰々さんのりんごのように群を抜いているのですね』
「まあ、そういうことじゃ。もちろんこれは農業に限った話ではなく、たとえば、漁業などにもしっかりとあてはまるんじゃ」
『とおっしゃいますと』
「海の魚は基本的にタダじゃから、漁師は船の月々のリース代と日々の燃料代と漁獲量の兼ね合いで生計を立てていることになる。しかし、昨今の異常気象や周辺国の密漁や乱獲により、そのバランスが崩れつつある現状の中で、いち早く養殖に着手したり、現在でも孵化が難しいとされている魚の養殖に挑戦したり、山の上でヒラメを養殖しているなどというのは、当然のこととして魂3ということになる」
*3の階級の人の適職の例
上場企業の役員、上場企業以外の会社のトップ・ビジネスマン・金融関係のビジネスマン・商人・医者・科学者・発明家・プロスポーツ選手・オリンピック選手・芸術家・芸能人・伝統芸術などの専門的な職人・板前/調理師・革新的な技術を駆使する第一次産業従事者など
*4の階級の人の適職の例
第一次産業従事者(百姓)・社会の下支えをしている職業全般
『少し話は変わりますが、納得いくことがありました』
「なんじゃ?」
『僕は気功を使って国境なき医師団のように生活を顧みずに人を癒すことに専念したいと思っていた時期がありました。でも、実際の僕には、生活を全て捨ててまでそこにいく勇気はなかったですし、緊急度の高い現場ではあたふたしてむしろ足を引っ張っていたかもしれません。そこに行けるのは”2:制服組(軍人・福祉関係)”階級の人たちであって、僕は”3:ビジネスマン”階級で活躍すべきだったんだなって』
「そなたは自分を基準とするからそう考えるのかもしれんが、それは大きな間違いじゃぞ」
『とおっしゃいますと?』
「たとえば、国境なき医師団を例にとってみても、彼らのほとんどは “魂3:ビジネスマン”じゃからな」
『軍人が魂3なのはよくわかりますが、国境なき医師団の人たちもそうなのですか?』
「うむ。そもそも医者は基本的に魂3の職業じゃし、“3:ビジネスマン”階級を武士と武将という言葉で表していることからもわかるように、彼らは元々が武士・武将なわけじゃから、いざとなったら命のやりとりを辞さないくらいの胆力があり、4つの階級の中で最も根性があるということもできる」
呆気にとられる青年。陰陽師に言われたことに対し、あまり自覚がないようだ。
「そなたの場合、先祖霊の霊障によって“2:仕事”の運気が塞がれておったからそうはならなかったが、もしワシともっと早く知り合い、霊障を祓っていたとしたら、国境なき医師団で活躍するような人生がまったくなかったとは言い切れん。実際に現場に出て命のやり取りを辞さない状況になったら、そなたの眠っている“warrior”の素質が目覚めるじゃろうからな」
『なるほど。warriorだけに、ウオー! と血がたぎるように一つのことに夢中になったことはあります』
「ふむ、そういった冗談を言えるくらいにはワシの話を信じられるようになったようじゃな」
調子に乗って冗談を言った青年だったが、完全に滑ったようだ。
『…言われてみれば、いったん覚悟を決めたらやるときはやるかもしれません』
恥ずかしそうに言う青年。陰陽師はやわらかい笑みを浮かべたままうなずく。
「軍隊でも司令官向きの人間と前線で活躍する将校向きの人間がいるように、怪我人や病人の生き死にを前に、大局的なものの見方やとっさの判断は“2:制服組”の話に真摯に耳を傾け、彼らと上手に連携をとれば、戦争に限らず、大きな判断ミスを犯す危険も限りなく低くなるというわけじゃ。何しろ3の階級の人は、天命に沿った実務遂行能力・技能においては正にプロフェッショナルなのじゃからな」
『なるほど。2の階級の人々も全てをこなせるわけではなさそうですし、“医者”はそもそも基本的には魂3の階級の職業ですもんね』
「そうじゃ。それにな、間接的にいろんな貢献をすることもできるのじゃぞ。むしろ、そっちの方が本領発揮できると思うが。わかるかの?」
腕を組み、黙って考え込む青年。やがて勢いよく顔をあげて口を開いた。
『わかりました! “3:ビジネスマン”階級は経済を回す役割なので、収入を上げて寄付するのも貢献になりますね。必ずしも現地で活躍する必要はないと』
「その通りじゃ。その方がお互いの役割に集中できるじゃろう。”2:制服組(軍人・福祉関係)”の人々は、収益が目的ではない慈善団体のような団体が多いわけじゃから、”3:ビジネスマン”階級が得意のビジネスで稼いだお金を寄付することで彼らの活動も拡大しやすい。つまり、3の階級の人々は技能においても経済においても、世の中に影響を与えられる階級なのじゃよ」
納得の意を示すように何度も頷く青年。
『ちなみに、先生の鑑定では天職というのはわかるのでしょうか?』
「もちろん。ただ、これが天職だと結果が出たとしても、そなたがその鑑定結果に納得をし、それを天職として選ぶかどうかはわからんぞ」
『…それでも、どうしても気になるので、鑑定をお願いしてもいいですか?』
「あいわかった。結果が出たら伝えよう」
『よろしくお願いします!』