青年は思議していた。
“8:男女運”、特に“2−4色眼鏡”“逆2−4色眼鏡”によって相性が良くない異性同士が惹かれあってしまうことは納得できた。
一方、イケメンや美女といった、ハイスペックなのに結婚していない人物や、離婚を複数回している人物や、同性愛者にも何らかの共通点があるのではないか。
そう思い、青年は陰陽師を再び訪ねた。
『先生、こんばんは。今日は前回の続きで、独身や離婚が多い人、同性愛者の共通点について教えていただけませんか?』
「“8:男女運”の相による、異性との“縁遠さ”の話じゃな。話をするにあたり、そなたの理解度を確認するためにも、この霊障についてそなたの口から再度説明してもらうとしようかの」
『はい。この霊障がある場合、二つの症状が考えられ、その一つは本来自分と相性の良い異性が悪く見えてしまうだけでなく、自分に相応しくない異性が良く見えてしまい、そのような異性と結婚までなだれ込んでしまうケース。もう一方のケースは、ハイスペックなのに異性との縁ができない、いわゆる、“縁遠さ”という相のことです』
「うむ、大筋ではしっかりと理解しおるようじゃな。そして、一つだけそなたの説明にさらに言葉をつけ加えさせてもらうと、魂1〜3の人物が、相性が良くない2−4の人物に惹かれてしまう現象を“2−4色眼鏡”といい、逆に2−4の人物が、魂1〜3の人物に惹かれてしまう現象を“逆2−4色眼鏡”という。して、今回は“縁遠さ”に関しての疑問のようじゃが、誰か具体的に気になる人物はおるのかな?」
そう訊ねる陰陽師に、青年はスマートフォンを取り出し、有名人の名前を読み上げる。
陰陽師は青年の言葉に耳を傾けながら、鑑定結果を書き記していく。
① 藤圭子さん(離婚歴7回)
② 林下清志さん(ビッグダディ。離婚歴6回)
③ 林下佳美さん(ビッグダディの最初の妻。6児の母)
④ 美奈子さん(ビッグダディの妻。8児の母)
『まず、藤圭子さん(※①参照)ですが、彼女は、天命運に“8:男女運”の相があるのと、恋愛運が3で、人生のアップダウンが1と波乱万丈な人生なので、7回も離婚していることに納得です』
青年の言葉に対し、陰陽師はうなずいてみせる。
『ビッグダディさん(※②参照)は天命運に“8:男女運”の相があることと、人生のアップダウンが1と、数奇な運命を歩みやすい、転生回数が230回代ということを踏まえると、離婚の回数に納得です』
「ちなみに、ビッグダディさんの場合、天命運“5:事故/事件”があるようじゃが、そのあたりについての情報は何かあるのかな?」
『はい。たしか、以前に自宅を火災で全焼させていたと思います』
陰陽師の言葉を聞き、青年はスマートフォンで事件について検索を始める。
『やはり、そのとおりでした。その時の記事を読むと、壁の中にある電線が破損したために火災が起きたようですね。彼の過失ではないようですので、このあたりにも天命運の影響の怖さをあらためて実感します・・・』
「たしかに、そのような理由で火災が起き、自宅を全焼させたのであれば、天命運の影響があったのは間違いないじゃろうな」
小さく頷く陰陽師を横目で眺めながら、青年は質問を続ける。
『ところで、ビッグダディさんと佳美さん(※③参照)は三度も離婚・再婚をしたそうですが、佳美さんも彼と同様転生回数の十の位が“30回代”ですし、人生のアップダウンが1ですから、推して知るべしといったところでしょうか』
一度言葉を止めて首を傾げ、再び青年は口を開く。
『また、再婚相手の美奈子さん(※④参照)は、天命運に“8:男女運”の相がありますし、恋愛運が4と低いので、結果的に離婚となったことは納得できますが、ビッグダディさんと佳美さんは共に恋愛運が8と高かったにもかかわらず、最終的には離婚しています。やはり、天命運の影響なのでしょうね』
「そうとも考えられるが、この三人にはそれ以上に大きな共通点があるんじゃ。そなたには、それが何かわかるかな?」
そう陰陽師に問われ、青年は鑑定結果を食い入るように眺める。
自力で答えにたどり着けそうにない青年を見かねた陰陽師は、鑑定結果に印をつけ、口を開く。
「答えは、三人とも魂の属性が4というめずらしい数字を持っておることじゃ。この4という数字を持った人物は多くの子供を育てるという使命を今世の宿題として抱えておることは“教議”にも書いてあるのじゃが」
『・・・なるほど。そのあたりのことは、すっかり失念していました』
ちょっとばつの悪そうな顔で頭を掻きながら、青年が言葉を続ける。
『しかし、だからこそビッグダディさんと佳美さんは多くの子供を産み育て、美奈子さんも連れ子が多いのに彼と結婚できたのですね。魂の属性4同士でもなければ、多くの連れ子がいる相手との結婚に躊躇しそうですし、さらにまた子供を作ろうなどとは思わないですよね』
「たしかに、そのあたりはそなたの言う通りじゃな。ビッグダディさんにしても美奈子さんにしても、子供たちを社会に出すまで面倒をみるという使命を果たすためにも、お互いの存在が必要だったのじゃろうな」
納得の意を示すように何度も青年はうなずき、やがて口を開く。
『ただ、佳美さんも美奈子さんも、天命運の“8:異性”の相に加えて“6:家族”の相もあることから、結果的に離婚という結果になってしまったのでしょうか?』
「それは6をどう考えるかにもよるが、加えて、子育てや家事を通して一般女性の数倍の苦労を日々していることだけは間違いないじゃろうな」
青年の反応に陰陽師は小さくうなずき、今度は渡辺和子とナイチンゲールの鑑定結果に印をつける。
⑤ 渡辺和子さん(学校法人ノートルダム清心学園理事長。故人。生涯独身)
⑥ ナイチンゲールさん(故人。生涯独身)
「一方、渡辺和子さん(※⑤参照)とナイチンゲールさん(※⑥参照)じゃが、魂の属性が2であることから、今世の宿題として、子育て以外に果たすべき使命があったと考えるべきなのじゃろう。つまり、家庭を持ち、子供を育てるといった使命は、今世の彼女たちの宿題にはなかったわけじゃな」
陰陽師の言葉を聞き、青年はあらためて二人の鑑定結果を眺める。
『このお二人の経歴を鑑みるに、色恋沙汰にうつつを抜かす暇があるなら仕事に取り組んだ方がいいと思っていたわけですね。また、渡辺和子さんとナイチンゲールさんは、共に先祖霊の霊障と天命運の両方に“8:男女運”の相があり、恋愛運が3とかなり低いところからみても、魂の属性2として生きるのに適した運気だったとも言えそうですね』
「そうじゃな。彼女たちが何を考えて生きていたかはともかく、渡辺和子さんなぞは、坊主・シスターの大半がそうである転生回数が280回代の“3:ビジネスマン階級”であることからも、生涯未婚を貫くシスターとしての人生を自ら選んだことは想像に難くないじゃろうな」
『そう言えば、坊主やシスターは“魂1:先導者”階級が圧倒的に多いのかと思っていましたが、かならずしもそうではないのですね。というよりも、魂1が既存/新興宗教の開祖の役割を担う一方で、二代目以降の教祖や、教団を動かす中心人物は“魂3:ビジネスマン”階級だと以前おっしゃっていた意味が、今になってようやく理解できたような気がします(※第4話参照)』
陰陽師が首肯するのを確認し、青年は続ける。
『また、ナイチンゲールさんは生涯3回のプロポーズを受けたもののその全て断ったらしいのですが、そのあたりの件も、自身の幸せよりも、より多くの人々に貢献する使命を彼女が優先した結果と考えても問題ないのでしょうか?』
「彼女は転生回数の十の位が70回代の“大山”かつ“2:制服組(軍人・福祉系)”ということを考えると、結婚して家庭に入ることよりも、自ら戦場で負傷兵の看護をしたり、その経験をもとに統計学的な見地から負傷兵の死亡率を低下させるための政策提言、ひいては国民の健康増進という壮大なテーマのために一生を捧げることを望んだのじゃろうな」
『なるほど』
「ついでに補足しておくと、魂1が“8:男女運”、“2−4色眼鏡”の霊障を抱えた場合、魂1は2-4ではなく4−4と結ばれる可能性が極めて高くなる。さらに蛇足として付け加えるならば、4-4と結婚しない残りの魂1(先導者階級)と“魂2:制服組”階級全般は、縁遠さの影響を受け、本人の意思とは関係なく、生涯独身を通す可能性が極めて高くなるようじゃ」
『魂の種類によって変化するのですね。とても興味深いです!』
大きく頷きながら、青年は次の鑑定結果に目を通し始める。
⑦ 黒柳徹子さん(独身美女)
⑧ 竹野内豊さん(独身イケメン)
『次は、この黒柳徹子さん(※⑦参照)です。彼女は、40年間遠距離恋愛していた外国人の男性がいたようなのですが、その男性が亡くなってしまったために独身を貫いているという説があります。このあたりの特殊な事情を考えると、彼女なんかも、天命運や何らかの霊障によって結婚を阻害されてしまったと考えるべきなのでしょうか』
青年はスマートフォンを操作し、言葉を続ける。
『その次の竹野内豊さん(※⑧参照)の場合も、熱愛報道のお相手が三人いましたが、すべて破局に終わっています。結婚の可能性も見えた女性もいるにはいたようですが、やはり天命運の“8:男女運”の相と恋愛運が3と極端に低いことが、今も独身でいる要因なのでしょうか?』
「天命運の“8:男女運”の相にも、先祖霊の霊障同様、ハイスペックだが異性と縁遠いというパターンがあることから、黒柳徹子さんのケースも、竹野内豊さんのケースも、そなたの考察通り、そのあたりが影響しているのじゃろう」
青年は納得顔で何度もうなずく。
⑨ マツコデラックスさん(ゲイと公表)
『今度は、ゲイと公表しているマツコデラックスさん(※⑨参照)ですが、LGBTの人物に何らかの共通点はあるのでしょうか? たとえば、転生回数の十の位が“30回代”の数奇な運命で、天命運に“8:男女運”の相があり、恋愛運が低い(3)などといった』
青年の言葉に対し、陰陽師は小さく首を振りながら答える。
「そなたの仮説がまったくの見当間違いとは言わんが、鑑定結果が一部の条件を満たしているからといって、それらの数字を抱えた人物がすべてLGBTとはならないことはよく理解しておくようにの」
陰陽師の言葉に青年はうなずいて納得の意を示し、口を開く。
『ただ、マツコデラックスさんの鑑定結果を鑑みるに、ゲイであることも含め、恋愛・結婚が世間一般の人々よりはハードルが高い気がしています』
「そなたの言う通り、人類の半分を異性とすると、大多数の男女が恋愛や結婚の対象として異性に求める以上、単純な確率論で考えてみても、彼のような性向を持った人間は恋愛や結婚から縁遠くなってしまうのはしょうがないことなのかもしれんのう」
納得顔で何度もうなずく青年を横目に、陰陽師は続ける。
「ところで話は変わるが、2―3―5−5・・・2、つまり転生回数が第2期、“魂3:ビジネスマン階級“、OSとソフトの上段の数字が共に5、そして魂の特徴の最後の上段の数字が”2“という魂は、芸能界入りするための“入場券”であることは以前(※第5話参照)も説明したが、マツコデラックスさんのように、個性的なキャラを活かして芸能界入りする人物は、2(3)−3−5−5・・・2となることがあることも頭の片隅に入れておくようにな」
『なるほど。大半の芸能人が2(4)つまり、転生回数の十の位が“40回代”の“小山”なのに対して、先ほどのビッグダディさんやマツコさんのように、特異な個性を持った人物の場合は例外的に2(3)となるのですね』
「さよう。そなたは覚えておるじゃろうが、鑑定結果で2−3―5−5・・・2であることはあくまで芸能界への“入場券”であって、魂の特性に胡座をかいて努力を怠っているかぎり、芸能界に入れたとしても成功はおぼつかないことは他の職業とまったく同じじゃ」
『天命としては芸能界入りする方向に道が開けてはいたとしても、たとえば先祖霊の霊障で“2:仕事”の相が出ていたり、育った環境によっては芸能界に進むことができない可能性もありますからね』
黙ってうなずく陰陽師を確認し、青年は続ける。
『結婚して子供を産み、幸せな家庭を築くことが世間では幸せとされていますが、不幸にして結婚が離婚という結果に終わったとしても本人たちがそのことを不幸と考えるとは限らないわけですし、結果的に離婚によって魂磨きの修行が進むのであれば、それはそれでいいのではないかと思います』
「そうじゃな。結婚しさえすれば幸せになると思って結婚してみたもののうまくいかず、離婚した相手をずっと恨み続けることになったり、離婚によって子供に辛い思いをさせてしまうなどということもあるじゃろう。しかし、それもまた人生じゃ。我々の所業の可否なぞは、天寿を全うし、あの世に戻るまで誰にもわからんのじゃよ」
陰陽師が発する言葉の重みを感じたのか、青年は一瞬たじろぎ、固唾を飲む。
『これから鑑定を受けていただいた人々に対し、恋愛運や魂の属性を明確にすることで、世間一般の価値観に惑わされず、魂磨きの修行に励んでもらえたらと思います。結婚に拘らず、パートナーと幸せな関係を築いてもらえたらと思います。最悪、パートナーが現れなくとも、それが今世の天命だと理解し、ご自身が納得のいく人生を歩んでいただけるのであれば、それはそれでよろしいと思いますし』
青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずいてみせる。
「うむ。魂の属性2の女性たちのように、結婚にも子供にも縁がなかった人生を辿るとしても、人の数だけ人の幸せがあるはずじゃし、仮に今世、理想の異性と巡り合えなかったしても、それ以上のやりがいを感じられる使命に人生を捧げることできるのであれば、それもまた人生じゃと、ワシも思うぞ」
そう言うと、陰陽師は時計に目をやり、再び口を開く。
「そろそろ時間のようじゃ。また、気になる疑問が浮かんだときには連絡を寄こしなさい。ワシで答えられることなら、何でも回答させてもらうからな。いずれにしても、気をつけて帰るのじゃぞ」
『はい。今日も貴重なお話をありがとうございました』
魂の属性や恋愛運の説明をしたとことで、万人に受け入れてもらえるとは思わないが、結婚をしないという人生を含め、各人の天命に沿った様々な選択肢を一つ一つ丁寧に、粘り強く伝えていこうと思う青年だった。