青年は思議していた。
都・市議会議員の中で、問題行動を起こしている人物がいる件についてである。
元東京都議会議員である木下富美子さんは、自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)と道路交通法違反(報告義務違反)を。
臼杵市議会議員である若林純一さんは、鼻マスクで議会に参加し、市議会のルール違反を。
志木市議会議員である与儀大介さんは、議会の無断欠席を。
地方の市政を担う立場であるにもかかわらず、こうした問題を起こす3名には、何らかの共通点があるのだろうか。
独りで考えてもらちが明かないと思い、青年は陰陽師の元を尋ねるのだった。
『先生、こんばんは。本日は問題行動を起こしている都・市議会議員について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』
「そのような議員に何人か心当たりがあるが、そなたが気になった人物を、具体的に教えてもらえるかの」
青年が挙げた人物の名前を聞いた陰陽師は、紙に属性表を書き連ねていく。
三人の属性表を見比べた後、青年は言った。
『全員の共通点として、全員の人運が“7”と低いことと、血脈の霊障に“14:人的トラブル”と“17:天啓/憑依”の相がかかっていることが挙げられます。ただし、それらはあくまで複雑に絡み合う要因の一部に過ぎないと思いますが」
陰陽師がだまってうなずくのを見、青年は言葉を続ける。
『まずは木下富美子元都議についてですが、彼女は自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)と道路交通法違反(報告義務違反)を起こしたことが、辞職勧告となる主なきっかけとして取り上げられています』
そう言い、青年はスマートフォンを見ながら内容を説明する。
『ウェブ上の情報を見る限り、無免許運転は今回に限らず、通算7回もしていたようですね。さらに、彼女を取り巻く騒動は、その事故で終わらず、彼女は当選後に一度も公の場に姿を見せなかったにもかかわらず、議員報酬を全額受け取っていたようです』
「彼女に対する、世間の声はどうだったのじゃ」
『都議会局や都選挙管理委員会に“辞職すべきだ”“給与が出るのはけしからん”など430件以上の抗議が寄せられていたようですね。それを受けてかはわかりませんが、議員報酬をNPO法人などの団体に寄付し、政務活動費である合計150万円は都に返還し、今後は政務活動費を請求しない方針を示しました』
「なるほど」
『ただ、給与を寄付したと判断できる資料の提出がないようで、実際のところは不明ではないかと』
「ちなみに、彼女は世論だけでなく他の議員からも辞職を求められていたものの、辞職するまでにそれなりに時間を要していたようじゃが、どういった心情だったのかの」
青年はスマートフォンを操作した後、答える。
『とのことですが、彼女は“自己中”度が80と高く、“トンチンカン度”も85と非常に高いことから、こうした発言も含め、自己中心的で常識外れと言っても過言ではない、一連の問題行動を取ってしまった可能性が考えられます』
「特に、“トンチンカン度”が高い人物は、世間一般の常識を正確に理解することや、他者がどのように考えているかを理解することが難しい傾向を持つため、その可能性は少なからずあるかもしれぬな」
陰陽師の言葉に青年はうなずき、口を開く。
『今度は臼杵市議会議員である若林純一さんについてですが、彼は市議会でのマスクの着用をめぐる騒動を起こした結果、2021年9月30日に市議会にて辞職勧告決議が可決されました。決議文の内容としては』
青年はスマートフォンを操作した後、再び口を開く。
「して、辞職勧告を受けた彼は、どう応えたのじゃ」
『表現の自由を侵害しているとして、彼は臼杵市と市議会に対してマスク着用義務や議会内の発言禁止処分の取り消しおよび、100万円の損害賠償などを求めて提訴したようです』
若林純一氏の属性表を再び見、青年は言葉を続ける。
『マスクの着用を拒否している点だけに着目すれば、以前お聞きした(※第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性)、4−4(転生回数期が第四期の魂4)の男性に近い魂の属性を持っているのではないかと思いました。まさか、“魂2:貴族”の魂を持つ人物だったとは』
驚きを隠せない様子の青年を横目に、陰陽師は湯呑みに注がれた茶を一口飲む。
「ちなみに、彼が鼻マスクを続けている理由についてはわかるかの」
『また、新型コロナウイルスが発生した当初、マスクは飛沫を防ぐための“咳エチケット”だったのですが、やがて、未着用は悪いことだと世間の風潮が変わったと思われます。そうした風潮を踏まえた上で、彼は“マスクを着用するか否か”ではなく、“マスクを強要すること”への問題定義として鼻マスクを続けているようです』
「なるほど。“魂2:貴族”が持つ傾向の一つに、自分の信条を行動によって世に信を問うという気質がある。その顕れとして、鼻マスクを続けていると言えるかもしれんな」
陰陽師の言葉を聞いた青年は、若林純一市議の属性表を再び見た。
『彼の信条と魂2が持つ傾向については理解できます。ただ、彼の魂の性質親近性の数字は、上段が“4”ですから、“7”を持つ人物に比べて“優しさ”や“穏やかさ”を持つ傾向があると考えられるため、市議会という公的な場で違反行動を取って問題を起こすような人物には思えないのですが…』
「そなたの考えに付言するとすれば、下段が“5”であるため、“優しさ”や“穏やかさ”の傾向を根本に持ちながらも、“7”を持つ人物の傾向に寄っていると考えられる。さらもって具体的に言えば、上段に“7”、下段に“1”の数字を持つ人物の傾向と似ていると言えるかもしれぬ」
青年はしばらく黙考し、やがて口を開く。
『なるほど。魂の性質親近性が7(1)の人物は明確に自己主張をする傾向があると認識していましたが、その傾向に似ていると考えれば、彼が辞職勧告を受けるまで度重なる注意をされても鼻マスクをし続けていることに納得できます』
「そのように捉えることもできよう。して、辞職勧告を受けた彼は、今後の議会における振る舞いについて、どのように応えておるのじゃ」
青年はスマートフォンを操作し、答える。
『と述べていますが、鼻マスクについては言及していないようですので、辞職勧告ではなく、強制的に辞職させられるといった、よほどの圧力がかからない限り、彼は鼻マスクを続けるかもしれませんね』
苦笑を浮かべながら言う青年に対し、陰陽師は小さくうなずいて口を開く。
「その可能性もじゅうぶんに考えられるじゃろうな。それにじゃ、ワシが見る限り、彼は家庭教育に関する見識が深いようじゃから、他の道に進むことも選択肢の一つかもしれぬ」
青年はスマートフォンを操作し、口を開く。
『そう言えば、彼は臼杵市役所の教育民生委員会に所属しているようですから、先生の見立ての通りかもしれませんね』
青年は一枚の属性表を手に取り、再び口を開く。
『最後は志木市の与儀大介議員についてですが、2021年2月19日に埼玉県志木市議会が彼に対して“猛省を促す決議”を多数決で可決しました』
「猛省を促すとは、いったい彼は何をしたのじゃ」
『ちなみにですが、後者の会議を欠席した理由は商談だったようです』
そう言い、青年はスマートフォンを見ながら文章を読み上げる。
『とのことですので、前者の会議を無断欠席したことも考慮すれば、彼にとって、公務の優先順位はあまり高くない印象を受けます』
青年は彼の属性を再び眺め、腕を組んでから言葉を続ける。
『ただ、彼の物事の本質を見極める力や大局的見地の数値が高く、トンチンカン度と“自己中”度の数値が低めであることを考慮すると、本来は、議会を欠席するような傾向を持つ人物ではないと考えられますが』
「ふむ。それにしても、なにゆえ彼は志木市議会議員に出馬したのじゃ」
『ウェブ上の情報を見る限り、矢内東紀さん、通称えらいてんちょうさん(頭2、2−3武士)が“しょぼい政党”を立ち上げて政治活動を始めた際に、与儀大介さんがえらいてんちょうさんから立候補して欲しいと声をかけられたことがきっかけだったようです』
「なるほど。彼の本懐ではなかったようじゃな」
陰陽師の言葉に対し、青年はうなずき、口を開く。
『どうやら、そのようです。実際、彼はSNS上で、“僕には政治思想や実現したいことなどなかったのですが、えらてんさんとやっていたらおもろい景色を見せてくれるんだろうなぁ”と述べています』
青年はスマートフォンを手早く操作し、言葉を続ける。
『ところが、彼が当選した後、えらいてんちょうさんが体調を崩し、しかも復帰の目処が立たなかったようですので、えらいてんちょうさんが見せてくれたであろうおもろい景色を見ることが叶わなくなってしまいました。それで、市議会議員としてのモチベーションが大きく下がってしまったと思われます』
「彼が政治に参加した動機や彼の適性を考えれば、その通りかもしれんな。ワシが見る限り、彼には世界的な見識があり、世界を相手に飛び回る方向性の方が適しているようじゃ。また、彼の適性・今後の人生の方向性の一つとして、不特定多数の人に“娯楽の場”を提供することが挙げられる」
『なるほど。ちなみに、彼にとって、具体的にどのような職業が適していると考えられるのでしょうか』
陰陽師は小刻みに指を動かした後、口を開く。
「大きく分けて二つが考えられる。一つ目は、自分の理想を追いかけ、NPOを立ち上げて世界的な環境問題に取り組むなど、世間的にクリーンな“清く正しく美しく”を地で行く方向性じゃ」
陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく黙考した後、口を開く。
『彼の欄外の枝番の数字はほぼ“1”ですので、“この世の法律や社会規範”に準じた傾向があると考えられるため、納得できます。ただ、その内容ですと、若林純一さんではありませんが、“魂2:貴族”の人物に適している方向性のように思われますが』
「そこで、二つ目の話じゃ。先ほど説明した、不特定多数の人に“娯楽の場”を提供することを基にした事業が二つ目となり、飲食店やクラブや風俗店の経営、あるいはIT関連にも彼は適しているようじゃな」
青年は手を打ち、口を開く。
『なるほど。エステサロンやバーなどの経営もしているようですので、納得できます。また、彼が“魂3:武士”であることも踏まえれば、議会に出席するよりも、彼が考える志木市のメリットのために商談を優先したということも、わからなくもないです」
「まあ、その可能性もありえるじゃろうな」
青年は再び3人の属性表を見比べ、口を開く。
『以前、我が国の与党議員となりえる魂の属性についてお聞きしましたが(※第31話:東京都知事選2020と魂の属性②)、都・市議に適した魂の属性にも、何らかの傾向があるのでしょうか』
そう言い、青年は紙にペンを走らせる。
「現時点での仮説としては、基本的にはその傾向に沿っていると思われる。ただし、県議会議員、市議会議員、町・区議会議員と規模が縮小するにつれて、その傾向から離れ、曖昧になっていく可能性も考えられる」
『なるほど。今回の3名ですと、与儀大介さんが2(3)―3に該当していますが、3名それぞれの都・市議会議員としての適性を鑑定することはできるのでしょうか』
「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」
青年が固唾を飲んで見守る中、陰陽師は指を小刻みに動かした後、結果を紙に書き記していく。
青年はやや目を見開きながら口を開く。
『与儀さんのスコアが3名の中で1位であることは予想していましたが、若林さんよりも木下さんの方がだいぶ適性があるようですね。ただ、先ほど先生からお聞きした若林さんの適性を考えれば、納得できますが』
「人間は多面体であり、それぞれの今世の課題が異なるゆえ、魂の種類や属性だけで適性を判断できるわけではないということじゃな」
陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情でうなずいた後、口を開く。
『それにしても、適性に関しては90点(S)以上が望ましいとのことだったと記憶していますが、三人ともその水準を下回っているようですね』
「出逢いは必然であることから、その三人が政界に進出したことは、本人たちにとっては言うまでもなく、その三人と関わった人々にとっても何らかの学びを得られたじゃろうから、適性のスコアだけで判断をしないようにの」
陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずく。
『そうですね。都・市議での経験が、それぞれにとって適した道に進んだ時に活かされる可能性もあるでしょうし。ただ、与儀さんは血脈先祖の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますので、市議の任期を終えた後の仕事においても、無用な重しがあると思われますが』
眉間にシワを寄せながらそう言う青年に対し、陰陽師はいつもの笑みで声をかける。
「一つ補足しておくと、与儀大介氏と若林純一氏の転生回数の一の位の数字は共に“1”じゃ」
『そう言えば、転生回数の一の位の数字にも、それぞれ傾向があるのでしたね。僕の見立てでは、木下富美子さんの転生回数の一の位の数字は、“数奇な運命を歩む”、“拡散、爆発、拡散、アップダウンが激しい”傾向がある“3”ではないかと思いましたが』
青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。
「そなたの言う通りじゃ。話を戻すが、“1”の数字が持つ意味とは、“雑味がなく、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい”傾向があると思われるが、現時点では確認・検証中ではある」
『なるほど。与儀さんと若林さんが今後どのような方向性に進むにせよ、本来持って生まれた能力を100%発揮しやすい傾向を持っているなら、現在のパフォーマンスはお二人とも23%しか発揮されていませんので、なおさら、各種神事を済ませてパフォーマンスを100%にし、今世の課題を果たしていただきたいところです』
「時が満ち、そなたと何らかの縁があればあるいは…」
そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。
『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』
そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。
「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」
陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。
帰路の途中、青年は都・市議会議員の適性について考えていた。
若林純一さんは2010年の市議選において、与儀大介さんは今回の市議選において、無投票で当選していたようだ。
国を変えることは難しくても、都・市議としての適性が90点以上である人物が、無投票で当選できそうな地域で出馬すれば当選しやすくなるだろう。
そして、適性を持つ市議が増えることで、小さい規模からでも少しずつ社会に変化をもたらすことができるのかもしれない。
今回の自分の寿命が尽きる頃には実現しないだろうが、遠い未来に何度か転生を繰り返したら、適材適所ではないが、より多くの人が天職に就き、魂磨きに励む時代を見られるかもしれない。
そのためにも、今世の自分は、一人でも多くの人にこの世とあの世の仕組みについて伝えていこう。
そう、青年は思議したのだった。
《合わせて読みたい》
・第42話:マスク拒否おじさんと魂の属性
・第31話:東京都知事選2020と魂の属性②