新千夜一夜物語 第45話:成功するYouTuberの条件

青年は思議していた。

不登校を掲げるYouTuberゆたぼんが、動画上で中学校も不登校宣言したことが波紋を呼んでいる件についてである。
彼の発信に対しては賛否両論あり、YouTuberシバターに至っては、ゆたぼんと何度か動画を挙げて討論していたほどである。

いったい、ゆたぼんはどのような魂の属性なのだろうか。また、中学校も不登校を貫く彼の今後は、いったいどうなるのか。

一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

『先生、こんばんは。本日はYouTuberゆたぼんについて教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

「ふむ。最近、たまにネットのニュースで見かける少年のことじゃな。して、どういったことを聞きたいのかの?」

『まずは彼の魂の属性を、次に、彼が中学校も不登校を貫いた場合、彼の将来はどうなることが予想できるのかを教えていただきたいです』

「その質問に答える前に一つ確認したいのじゃが、そもそもいったいなぜ、彼は不登校になったのじゃ?」

陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。

『ネットの情報を見る限り、宿題をやってこなかったゆたぼんに対し、彼の当時の担任が彼を叩いたようですが、担任の言い分としては、机を叩こうとしたら彼に当たってしまったとのことで、叩いていないと主張していたようですが、ゆたぼん側は、先生が嘘をついたと考え、その出来事をきっかけに不登校になったと言っています』

「ふむ」

青年の言葉に対し、陰陽師はあいづちを打ち、紙に鑑定結果を書き記していく。

ゆたぼんの元担任SS

属性表を眺めた青年は、一度唸ってから言葉を発する。

『以前(※第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性参照)、小学校の教員は2−4(転生回数期が第二期の魂4:一般庶民)が多いとお聞きしましたが、この属性表を見る限り、まともな先生のようですね』

「そうじゃな。教員の仕事には生徒指導も含まれていることから、仮に担任がゆたぼんを叩いたとしても、それは教育的指導に該当すると思われる。ゆえに、彼が不登校になったきっかけの出来事に関しても、自らの職責を全うした末の、ちょっとした行き過ぎの叱責といったあたりが実相なのじゃろう」

『なるほど。ちなみに、ゆたぼんが中学校も不登校宣言したことを巡り、ゆたぼん vs YouTuberシバター、そして、彼の父親 vs ひろゆきという構造ができていましたが、各々、どのような魂の属性なのでしょうか?』

「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き連ねていく。

ゆたぼんSS

きよみんSS

中村幸也SS

シバターSS

ひろゆきSS

それぞれの属性表を眺めた後、青年は口を開く。

『今回の登場人物を見ると、ゆたぼん家は頭2で、不登校反対派の二人は頭1という構造になっているのですね』

そう言った後、青年は何かに気づいたのか、やや目を見開いてから再び口を開く。

『そう言えば、ゆたぼん一家の属性表には、頭の1/2の欄外に枝番の“3”という数字がありますが、これは何を意味するのでしょうか?』

「実は、頭1/2の特徴は、0 or 100のようにシンプルに二分化しているのではなく、欄外の枝番の数字が“1”に近いほど頭1/2の特徴が強く顕在化する傾向がある。例えば、“9”は例外/逆説という意味を持つ」

『例外/逆説でしょうか』

首を傾げながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

「そう、例外/逆説じゃ。具体的に説明する前に、復習もかねてそなたの口から、頭1/2の特徴(※第18話:神社仏閣との相性参照)について、それぞれ説明してもらおうかの」

陰陽師の言葉を聞いた青年は、一つうなずいてから口を開く。

頭1の人物は、“農耕/遊牧民族の末裔”であることから、世のため・人のためとなる行動を地で実行する傾向があります。一方、頭2の人物は、“狩猟民族の末裔”であることから、利益/個人的な目標のためには、他人を蹴落としてでも獲得するといった、自己中心的な特徴を持っていると記憶しています』

「おおむね、そなたの説明通りじゃな。して、そうした頭1/2の特徴に対し、枝番“9”という逆説/例外という特徴が加わるとどうなるかと言うと、頭1―9の人物が口ではYesと言いつつも、腹の中では別のことを考えている可能性があるのに対して、頭2−9の人物の場合は、こちらの意見/指示に対し、是は是、非は非といった態度をとる傾向が強い反面、いったん納得したらその通りに行動する可能性が極めて強い」

『なるほど。その説明をお聞きする限り、ある意味、頭1−9の人物よりも、頭2−9の人物の方が付き合いやすいと言えるのかもしれませんね。そうは言っても、頭1/2だけではなく、その人物の枝番や他の特徴まで把握し、付き合い方を吟味する必要があるとは思いますが』

青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

「そのような観点から、ゆたぼんと彼の両親を見ると、3人とも頭2−3であることから、頭2の特徴が顕著に現れる傾向が強い、と言うことができよう」

『確かに、親切心で忠告してくれたシバターへの反論の内容や、小学校の卒業証書を破くなどのゆたぼんの言動を見る限り、自己中心的という頭2の特徴が色濃く出ているように思います』

「そなたの言う通りじゃな」

青年の言葉に相槌を打つ陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

『そして、頭1であるシバターとひろゆきが、他人であるゆたぼんに対し、不登校を選択することによって、彼が後々に被るだろうデメリットを視野に入れて反論していることは、世のため・人のためという頭1らしさが現れていると思います』

青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

「たしかに、このような両者の発言をみているだけでも、頭の1/2の差は歴然じゃ。それと、もう一つ付言しておくと、実社会においては、個人事業主・非上場企業の経営者・従業員、地方公務員には頭2の人物が多い。一方、国家公務員、上場企業の経営者/出世コースに乗った社員などには、頭1の人物が圧倒的に多いという傾向にある」

『そのような傾向も頭の1/2にはあるのですね。そう言えば、ゆたぼんの基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字は共に“7”、すなわち社会生活を送るのに最も適した資質を持っていることを考えても、変に片意地を張らずに、ある程度社会の常識に則った生き方をした方がいいように思うのですが』

「そなたの見解にも一理あると思うが、ワシが見る限り、残念ながら、彼はこのまま不登校を貫く可能性が高いのじゃろうな」

『やはり、そうなるのですか…』

そう言い、視線を落とす青年に微笑みかけながら、陰陽師は問いかける。

「話を戻すが、ゆたぼんの不登校を巡り、いったいどのような応酬があったのじゃ?」

『まずはゆたぼんとシバターのやり取りについてですが、シバターは動画の中で、“小中高でできた友達は、一生の友達になる可能性を秘めている”と彼に語りかけています』

「なるほど」

『これに対し、ゆたぼんは、シバターの意見を“古い考え”と斬り捨て、“今の時代、ネットでも友達はできる”と反論しています。そんなゆたぼんの動画に対し、シバターは“そんなに言うならもういいよ。君は学校に行かなくていい。ただ、後で学校行っておけば良かったって後悔するなよ”と答えています』

「どちらの主張にも一理あるようじゃが、結局は平行線に終わったわけじゃな」

そんな陰陽師の言葉に、青年が大きく首肯するのを見やり、陰陽師は言葉を続ける。

「今度はゆたぼんの父親とひろゆきの応酬について、教えてもらえるかの」

陰陽師の言葉に対し、青年は一つうなずいてから、スマートフォンの画面を見ながら読み上げる。

『ひろゆきは、“登校が嫌なら通信制の中学校で教育を受けることも可能。子供に教育を受けさせる義務を放棄している親には、罰則が必要だと思います。子供は被害者なので責めるべきではないです。“と、ゆたぼんではなく、彼の父親を批判しています』

「なるほど」

『それに対するゆたぼんの父親の主張ですが、“子どもが学校に行かないからと言って親は教育を受けさせる義務を放棄しているわけではない。それに通信制じゃなく家庭内で教育を受けさせることはできるし、そもそも我が家はホームスクーリングだってずっと言ってるしな“と』

そこまで言った青年は、一度、陰陽師が黙って耳を傾けていることを確認し、言葉を続ける。

『ひろゆきはさらに、“通学する中学生は一日5時間の授業を各科目で教員試験を通った大卒の教師が教えます。あなたの家庭では学校の代わりにどういった資格を持つ方が何人で1日何時間の教育をされているのですか? 中学校と同等の教育なら問題ないです。”と返信しています。ちなみに、世間ではひろゆきの意見の方が多く支持されているようです』

青年の言葉を聞いた陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

「そもそも義務教育とは、憲法26条、国民の三大義務である、“勤労の義務”、“納税の義務”、“教育の義務”の一つに含まれているわけじゃが、この法律のポイントは、子に教育を受ける義務があるのではなく、親が“子供に教育を受けさせる義務”があることから、ひろゆきが言うように、この法律が子供ではなく親を対象にしている点が肝要じゃ」

陰陽師の説明に対し、青年は何度も頷いてから、口を開く。

『そうなのですよね。弁護士の藤吉修崇さんが、学校に通わせないことは、親として学校教育法に違反するとして“ゆたぼんの親も逮捕される可能性がある”と指摘していることから考えても、父親は逮捕されないためにも、せめてゆたぼんに通信制の中学校に通わせることが望ましいと思うのですが』

「彼の場合、世間の常識から逸脱した生き方になんらかの価値観を見出していると思われることから、通信制であっても登校する可能性は、ほぼないじゃろうの」

陰陽師の言葉を聞き、しばらく腕を組んで黙考していた青年が、やがて口を開く。

『ゆたぼんが不登校を貫いたと仮定すると、今後の彼は、どのような人生となるのでしょうか』

「そなたは、どのような進路があると考える?」

『一つ目は、このままYouTuberとして活躍して生計を立てていくことだと思っていましたが、先ほどの属性表を見て、難しいと感じました』

「というと」

陰陽師は軽くあいづちを打ち、青年に続きを促す。
それを察した青年は、スマートフォンを操作し、画面を見ながら言葉を続ける。

『ゆたぼんと討論したシバターのYouTubeのチャンネル登録者数は、121万人ですが、ゆたぼんのチャンネル登録者数は12.8万人、つまり、シバターの約10%しかいません。2−3−5−5…2を持つシバターがあれだけのチャンネル登録者数を持っていることはある意味当然だとしても、ゆたぼんの魂の属性を見る限り、今後、シバターほどの数字を得るのは難しいのではないでしょうか』

「そなたの言う通りじゃろうな。2−3−5−5…2を持つ人物は、そもそもプロのスポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できる才能を持っていることから、テレビからYouTubeへと媒体が変わったとしても、本人の持ち味を発揮できることは想像に難くない」

陰陽師の言葉を聞き、大きく頷く青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

「ところが、YouTubeは配信する環境さえ整っていれば、どのような魂の属性の人物であっても、容易に参加できるという特徴を持っている」

『つまり、ゆたぼんのような“2−3−5−5…2”を持たない人物がYouTuberとして人気が出たとしても、芸能界から声がかかるとは限らないのでしょうし、逆にテレビ番組にレギュラー出演でもしようものなら、排除命令によって芸能界から姿を消すだけじゃなく、当人にとんでもない災難が降りかかる可能性が高いと(※第23話:この世のルールと芸能界参照)

「さらに言えば、2−3−5−5…2を持つ人気YouTuberじゃからと言って、上下関係が厳しい芸能界の掟や暗黙のルールを破り、大御所から目をつけられでもしたら、たちまち業界から干されてしまうじゃろうしな」

『話が脱線してしまいますが、YouTuberから芸能界入りした、ラッパーのワタナベマホトとお笑いタレントの不破遥香の魂の属性が気になるのですが』

「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

そう言い、陰陽師は紙に二人の鑑定結果を書き記していく。

ワタナベマホトSS

画像8

二人の属性表に目を通した青年は、やや目を見開いて口を開く。

『ワタナベマホトは女子高生に猥褻画像を要求していたことが発覚し、児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されましたが、彼は2−3−5−5…2を持たない人物ですので、排除命令に抵触したようですね』

「どうやらそのようじゃな」

『不破遥香ことフワちゃんですが、芸能事務所に悪態をつき、重役の去り際に見えないように後ろ姿に向かって中指を立てていたら、その姿がガラスに映っていたためにバレてしまい、事務所を解雇されたようです。ただ、現在は無所属で活動しているようですので、芸能界から排除されたわけではなさそうです』

「彼女は2−3−5−5…2を持つ人物であることから、そのあたりの一件は人運“7”と“14;人的トラブル”の相が原因なのじゃろうな」

『なるほど。属性表を見る限り、フワちゃんは言うまでもなく、ワタナベマホトの転生回数は“大々山”である190回代であることから、二人がYouTuberから芸能界に入れたことに納得できますが、ゆたぼんの魂の属性はもちろん、今の彼を見ている限りでは、彼が芸能界に適応できるとは思えず、YouTuberから芸能界へ栄転する道は厳しいでしょうね』

「そなたの言う通りじゃろうな。ゆたぼんの発信は、現在不登校気味の学生や過去に不登校を体験した人物には響くかもしれないが、彼がこのまま大人になったとしたら、単なる無学歴の成人ということになるわけじゃが、いざそうなった時に、世間に響くメッセージ性を持っているかはかなり疑わしいじゃろうな」

『そうなのですよね。一言で不登校と言っても、不登校に至るまでに様々な背景があると思います。不登校の理由としては、その多くがイジメを発端にしていると感じますが、ゆたぼんの場合は“教師の嘘”がきっかけなので、同じ理由で不登校になった人は少ないのではないかと思われます』

「それ以上に、彼が本当の意味で不登校の人々の心に寄り添えているのかどうかも、疑問じゃしのう」

陰陽師の言葉を聞いた青年は腕を組み、しばらく唸ってから再び口を開く。

『今の路線のままYouTuberとして活躍する可能性が低いゆたぼんにとっての、もう一つの進路についてですが、キメラゴンという、中学三年から不登校になったものの、中学生の間に月収700万円を稼ぎ、現在は通信制の高校に通いながら会社を経営し、月収1,000万円を稼いでいる学生もいます。ゆたぼんは彼のように情報商材を販売するビジネスに転向して成功する可能性はあるのでしょうか』

「その問いに答える前に、一度キメラゴンについてみてみよう。少し待ちなさい」
そう言い、陰陽師は鑑定結果を書き記していく。

キメラゴンSS

ゆたぼんSS

キメラゴンとゆたぼんの属性表を交互に眺めた後、青年は口を開く。

『頭の1/2と魂の属性3:霊媒体質と魂の属性7:唯物論者が違う点を除けば、転生回数が“小山”に該当する、十の位が40回代で、しかも第三期である140回代であることと、魂の種類“3:武士”であることなど、ゆたぼんと魂の特徴は似ているようですが』

「仮に魂の属性が似ているとしても、人生経験が浅い小学生、中学生が長期的な視点に立って人生の選択肢を選ぶことは難しい。そこで両親が子供を導く役割を担うわけじゃが、キメラゴンの両親はどのような人物かわかるかの?」

陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、該当する画面を見ながら口を開く。

『彼の父親は自社革皮ブランド会社の経営を始め、不動産や飲食業も手掛けており、キメラゴンが小学5年生の時にブログを教え、彼が中学2年生の頃にネットビジネスを始めた際、20万円相当のPCを買い与えたそうです。また、母親は、無添加・無農薬の食材を通信販売しているようで、両親共にビジネスに明るく、常識人という印象を受けます』

「どうやらそのようじゃな。彼が既に社会的な実績を上げていることは、彼の両親の教育の賜物と言うことができよう。ちなみに、ゆたぼんの教育に関し、父母のどちらが主導権を握っているかはわかるかの?」

陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、しばらくしてから口を開く。

“今日、長女以外の家族六人で、大阪から沖縄に引っ越して来ました!
最初は長女も行くと言っていたのですが、四月になって急に行かないと言い出し、自立すると言って先月家を出ました。
それまでは長女をメインにして計画を練り、兄妹も凄く頑張ってきたのですが、長女が途中で投げ出した為、すべての計画を白紙に戻す事に・・・。
予定していたクラウドファンディングも中止し、再度、長女以外の家族六人で一から計画を練り直しました。“

『とあり、ゆたぼんは父親の計画における、長女の代役になったと考えられますし、不登校を巡る議論においても、基本的に父親が発言していることから、父親だと思われます』

青年の言葉に陰陽師は一つうなずいてみせ、口を開く。

「なるほど。“魂3:武士”であるゆたぼんが、大局的見地に欠けた2−4である父親の影響を受けていることは、“不可思議”の領域からみても、この世の基準から考えてみても、ちと問題があるかも知れんの」

『ゆたぼんに対し、父親の言いなりになっているのではないかといった言葉もあるようですが、彼はそのことを否定し、自らの意志で不登校になっていると断言しています。そして、不登校を続けた結果、将来どんなことが起きても彼は自分で責任を取ると言っています』

「なるほど」

『彼は動画の中でも、その時に自分がやりたいことをやり、YouTuberも飽きたらやめると公言しています。彼がYouTuberとして大成しないとしても、継続的にチャンネル登録者数を増やすことで、自身の知名度を活かして情報商材を販売してみたり、流行りのビジネスを転々として収入を得たりして、生きていけるのではないかと思いますが』

青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かしてから、口を開く。

「そのような方向性を意識して活動を続けたとしても、ワシが見る限り、難しいじゃろうな。もって5年というところじゃろうか」

『そんなに早く消えてしまうのですか…。そうなりますと、ゆたぼんに残された道は、飛び級などで義務教育のレールとは別のルートから社会に出ることしかないと思いますが、いかがでしょうか?』

「たしかに海外では飛び級制度があるが、我が国では導入されておらぬし、仮に我が国に飛び級制度があったとしても、その制度を利用できるのは、理系か文系の才能が突出している生徒となる」

『つまり、ネットで見る限り、宿題が終わらずに放課後に残されて泣きながらやっていたゆたぼんの才能では、飛び級制度を利用するのは難しそうですね』

「それにじゃ、飛び級制度を利用できる生徒たちは、若くして大学を卒業した後か在学中に、本来なら多くの生徒が中学・高校で体験するであろう体験を、補完できる能力を持っていることが前提となる

『なるほど。つまるところ、ゆたぼんの人生は前途多難な方向に向かっているのですね。ところで』

「なんじゃな」

『コロナ禍でオンライン授業の導入も進んでいくでしょうし、それに伴って我が国でも飛び級制度が導入されるようになれば、義務教育の存在意義が問われていくように感じますが、先生の見解としては、義務教育にどのような意味があるとお考えでしょうか』

「まず、義務教育を軽視すべきでない理由として、全員が全員ではないものの、義務教育をドロップアウトした多くの人物が、人間性や社会性といった中身が伴っていないことが挙げられる。特に、小学校には人間教育の場という意味でも重要であるため、過度ないじめにあったり心身を病んでまで登校する必要はないが、できるだけ登校する方が望ましいとワシは思う」

『僕もそう思います』

そう言い、青年はスマートフォンを操作し、再び口を開く。

『こちらは、国際大グローバル・コミュニケーションセンター准教授の山口真一さんの意見なのですが、

“情報発信の教育や啓発はもちろん大事ですが、私は「受信の教育・啓発」も重要だと思っています。すべて防げるわけではありませんが、「自分の見ている情報は偏っているのかもしれない」という恐れがあることを知っておくだけで意識が変わります。

ディスカッションの授業を増やした方がいいと考えています。批判するとしても、「相手を尊重したうえで」批判し、人格攻撃をしない。

これは批判される側の意識も大切です。批判がすべて自分への攻撃だと思ってしまう人は、これまで議論の練習をしてきていないのだと思います。「攻撃と批判は違う」と考える訓練をしていくことに効果があるのではないでしょうか。“

とあり、バックグラウンドが近い、同年代の友達とディスカッションをする機会は学生時代にしかなさそうですので、そう言った意味でも義務教育は重要なのだと思います』

「そうじゃな。今度は“不可思議”な領域からみた理由を挙げるとすれば、“あの世”では各々別領域にいる1〜4の魂が、“この世”で共存することによって生まれる様々な“軋轢”こそが“修行”の一助となっているのじゃが、そうした意味からも、学校に登校することで、魂の種類が異なる同級生と交流することは、魂磨きのためにも重要だとワシは思う」

『なるほど』

「とは言え、大多数の魂1〜3の人が、在学中も卒業後も、魂4とプライベートな関係を持っていないことから、インターネットを通じて友達を作れるという、ゆたぼんの主張にも一理あり、特に、母数が少ない魂1〜3の人物は、同級生以外にも広く交友関係を持つことも重要だとワシは思う」

陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んでしばらく黙考してから口を開く。

『つまり、学校では魂の種類が異なる同級生と交流することで、人間の多様性を学びつつ魂磨きの修行に励み、それと同時に、母数が少ない魂1〜3の人物は、インターネットを用いて学校外にいる今世の宿題を果たすのに適した人物と繋がり、彼ら/彼女らとの交流を増やし、深めるという二本柱の人間関係を構築することが重要なのでしょうか?』

「まあ、そんな感じじゃ。“出会いは必然”であることから、学校で同じクラスメイトになることは各々にとって必然であるし、インターネットを通じて得る出会いもまた必然じゃ。“袖触れ合うも多少の縁”ではないが、ITが発達した現代においては、インターネットでふと目にした言葉で人生が変わることもあるじゃろうし、実際に顔が見えないとは言え、一言二言メッセージをやりとりすることも、広義の意味では出会いと言えるじゃろうし、そして、それもまた必然と言えよう。ゆえに、現実とインターネット上を問わず、あらゆる出会いを大切にすることが肝要じゃ」

そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

帰路の途中、青年は自らの学生時代を振り返っていた。
同じクラスだけでは友達の数は限りがあったが、他のクラスに顔を出せば、また新たな友達の輪が広がっていた。SNSやインターネットが持つメリットを活かして、場所に囚われずに友人を作ることは大事だと思うし、年齢を問わず様々な考え方や価値観に触れ、意見を交換することも重要だと感じた。

今後も自分と異なる魂の種類の人物と接する機会は増えていくだろうが、同じ“魂3:武士”の人物を中心に関わるのではなく、他の魂の種類の人々とも積極的に交流し、魂を磨いていこう。

そう、青年は決意したのだった。