月: 2021年6月

  • 新千夜一夜物語 第47話:自粛警察と魔女狩り

    新千夜一夜物語 第47話:自粛警察と魔女狩り

    青年は思議していた。

    コロナ禍において、“自粛警察”と呼ばれる人々が現れていることについてである。
    “自粛警察”による攻撃の対象となった事例の一部として、以下があるようだ。

    ・千葉県の菓子商店では、既に休業していたにも関わらず、「コドモアツメルナ。オミセシメロ」という貼り紙をされた。
    ・行政からの要請に従って営業をしていた飲食店が「この様な事態でまだ営業するのですか?」「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」といった貼り紙をされた。
    ・居酒屋が「本日自粛」という貼り紙を掲示したところ、何者かによって「そのまま辞めろ!」「潰れろ」「死ね」などの言葉がその貼り紙に書き込まれていた。
    ・県外ナンバーの車が傷をつけられる、あおり運転をされるなどの被害が相次いだ。
    ・生活圏が同一である徳島県住民の車のナンバープレートが曲げられたり、車に傷をつけられるなどの被害が相次いだ。
    ・日本相撲協会および相撲部屋に、自粛期間中に力士が外出していたという投書が相次いだが、そのほとんどが無記名かつ事実無根なものであり、ちゃんこの買い出しに行っただけの力士が報告された例もあった。

    こうした”自粛警察“と呼ばれる行動を取ってしまう人物には、何らかの共通点があるのだろうか。また、彼ら/彼女らに対し、どのように向き合えばいいのだろうか。
    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は、“自粛警察”について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「“自粛警察”とな。少し言葉が異なるが、ワシも以前に“健康警察”なるネット記事を読んだ記憶がある」

    『**警察という意味では、たしかに、似ていますね。その“健康警察”について調べてみます』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作してネット記事を検索する。
    陰陽師が湯呑みの茶を一口、二口飲んだ頃、青年は再び口を開く。

    『医療ジャーナリストである、市川衛さんという人物が書いた記事のようですね。彼は、自身の中にもある、他人の行動に一言もの申したくなってしまう気持ちを、“健康警察”と表現しています

    「そのような内容じゃったと記憶しておるが、もう一度、詳細を教えてもらえるかの?」

    『とあるテレビ番組のロケで、その番組のディレクターが寿司屋の大将にビニール手袋を着けるように依頼したところ、嫌な顔をされたというのが主旨のようです。こうした感染予防対策に対し、“テレビではおなじみのアクリル板や、お寿司屋さんがつけるビニール手袋は、誰を何から守っているのでしょうか”と、市川さんは問いかけています』

    「なるほど。寿司はもともと素手で握って作る料理であるから、寿司職人は普段から寿司を握る前に手を洗い、消毒をしているため、衛生面では非の打ち所がない。それにも関わらず、ビニール手袋を使うとなると、彼らは調理後にまな板や調理場を定期的に掃除しているわけじゃから、ビニール手袋はすぐに汚れてしまう。よって、寿司職人の場合、ビニール手袋を着ける方が、感染リスクが高まるとワシは思うがの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きく頷いてから口を開く。

    『そのことに関し、市川さんは、視聴者からのクレーム電話に対応して手間が増えたり、ネットのお叱りで番組の評判が落ちたりするのを避けるため、つまり、“番組担当者の生活やこころ”を、私たちの中にある“健康警察”から守るためにビニール手袋は使われていただろうと、分析しています』

    「なるほど。して、アクリル板に関して、彼はどう分析しておる?」

    『アクリル板などの仕切りは大臣の会見などでも使われており、会見に来る記者たちの健康ももちろんですが、大臣の評判も守りたいのではないかと、市川さんは推測しています。結局のところ、寿司職人にビニール手袋の着用を求めた話と同様、カメラの先の人々の中にある、“健康警察”を意識しているのではないかと考えているようです

    「そうじゃろうな。先日話したように(第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性)、ネットでクレームを入れる傾向にある魂4による、ネットでの影響力はかなり大きいことから、番組制作者たちは、番組の内容とは関係のないところで炎上してしまい、本来伝えたいことが伝わらなくなってしまうことを避けるためにも、視聴者の視線を常に意識しなければならないわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、真剣な表情で頷く青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「ちなみに、今回の“自粛警察”と中世の“魔女狩り“には一定の関係性があるのじゃが、そなたは“魔女狩り”という言葉を聞いたことがあるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、しばらく黙考してから、口を開く。

    『“魔女狩り”は中世のヨーロッパで大々的に行われ、魔術を使った疑義がある人物を裁判にかけ、魔女だと判断された人物を死刑にしていたと認識しています。また、“魔女狩り”の対象となる魔女は呪術や黒魔術を扱う人間のことであり、魔“女”と表現されるものの、実際は男性も含まれていたと記憶しています』

    「大まかに言えばそうじゃな。して、当時行われていた“魔女狩り”の大きな問題点を挙げるとすれば、“自粛警察”のような私的な裁判が横行していたことじゃ」

    『え、教会などの権威ある組織が公平性を持って判決を下していたのではないのですか?』

    目を見開きながら問う青年に対し、陰陽師は首を左右に振ってから口を開く。

    「そなたの認識では、異端審問と“魔女狩り”が混在しているようじゃから説明しておくと、“魔女狩り”の前身は、12世紀に行われていた異端審問と呼ばれるもので、当時のカトリック教会にとって異教と疑わしき人物を対象に行なわれていた裁判のこととなる」

    『つまり、異端審問では魔術を使うかどうかは、問題視されていなかったわけですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さくうなずいてから、口を開く。

    「そういうことになる。実際、中世のカトリック教会においては占術や呪術の類は取り除くべき迷信とされたが、13〜14世紀の異端審問官が民衆の呪術的行為に積極的に介入することはなかった。教皇アレクサンデル4世は1258年に、異端審問官が占術や呪術の件を扱うのは、それが異端であることが明らかな場合に限ると定めておったそうじゃ」

    『そうなりますと、いつから異端審問が、魔術を扱う人物が対象となる”魔女狩り”に移行していったのでしょうか』

    「1428年にスイスのヴァレー州の異端審問所が、当時のローマ・カトリック教会側から異端として迫害されていた、ワルドー派を魔女として裁いた件が初めてのようじゃな」

    『なるほど』

    当時の西欧は、現代の先進国のように政教分離を基本的な原則としておらず、キリスト教が一国の政体に大きな影響力を持っていました。
    よって、神に対して謀反した堕天使(サタン)の手先である悪魔を崇拝する魔女は、国家反逆罪に近い扱いを受けていたわけです。
    また、現代の価値観とはだいぶ異なり、スコラ学では善良な天使と堕天使との人間の交流について研究がなされ、13世紀には悪魔の存在が現実の危機として考えられていました。

    「そして、15世紀後半になり、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者が魔女であるという概念が生まれたことから、異端であるワルドー派やカタリ派が行なっていた集会のイメージが、魔女の集会のイメージへと徐々に変容していったと考えるのが妥当だとワシは思う」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンを手早く操作し、やがて口を開く。

    『なるほど。ネットで調べる限り、ワルドー派やカタリ派の集会では、サタンと性交したり人肉を食べているなど、彼ら/彼女らは根も葉もない偏見を押し付けられたり、そうした偏見から悪魔崇拝の嫌疑をかけられてしまったようですね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「そうした背景を元に、“魔女狩り”は15〜18世紀の全ヨーロッパで行われ、特に16〜17世紀は魔女熱狂、大迫害時代とも呼ばれる最盛期を迎えた。また、文献によると、当時は教会や世俗権力ではなく、主に民衆によって推定4〜6万人が処刑されたらしい」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、目を見開き、問いを発する。

    『民衆が行なっていたとなると、昨今の“自粛警察”と同様、魔女狩りを行う明確な基準はなかったように感じますが、実際のところはどうだったのでしょうか?』

    「“魔女狩り”で特に有名な人物として、マシュー・ホプキンス(1644〜1646)が挙げられるが、彼はイングランドにおいて、“魔女狩り”で死刑になった1000人のうち、300人を処刑したと言われておる。しかも、彼が用いた水審、針刺し、拷問といった判別方法は不正が多かったようで、多数の無実の人を魔女としてでっち上げていたようじゃ

    『300人も不当に処刑するなんて、現代の倫理観からみれば尋常ではないと思いますが、いったい何が、彼をそこまで“魔女狩り”に駆り立てたのでしょうか?』

    「当時のキリスト教の影響下にあった時代背景を鑑みるに、敬虔なキリスト教信者であったであろう彼は、悪魔の存在を信じて恐れていたと思われる

    『なるほど』

    「また、彼は弁護士だったものの生計を立てることが困難で、彼が魔女狩りを行なう時には地元住民から特別徴税を行い、庶民の年収に相当する20ポンド前後の大金を受け取ったとする記録もある。彼が魔女狩り業務に従事していた3年弱の間に稼いだ金額は数百ポンドとも1000ポンドとも伝えられることから、金がもう一つの目的じゃったことは、まず間違いあるまい」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、しばらく無言で計算し、やがて口を開く。

    『彼が得たお金を1000ポンドと仮定すると、庶民の50年分に相当する大金ですが、お金を理由に、大勢の人物を不当な裁判によって処刑したことで、逆に彼がなんらかの罪に問われることはなかったのでしょうか?』

    「もちろん、当時のイングランドの法律では拷問が禁止されていたが、彼は弁護士であったことから、様々な工夫を凝らし、違法すれすれのやり方で魔女裁判を行なっていたようじゃな」

    『なるほど。ちなみにですが、彼はどんな魂の属性なのでしょうか?』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    陰陽師はそう言い、紙に鑑定結果を書き記していく。

    マシュー・ホプキンスSS

    青年はしばらく属性表を眺めた後、やがて口を開く。

    『彼はビジネス運も金運も7と低いことに加え、血脈の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますので、弁護士という職に就きながらも生活に困窮していたことに納得できます。そして、頭が“2”で自己中心的な特徴を持つことや、欄外の枝番が“5”で気性が荒い特徴を持つことを踏まえると、“魔女狩り”によって人の命を奪うことは、彼にとっては自分が生きるために行うビジネスのような感覚だったのかもしれませんね』

    そう苦々しく言う青年に対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「そうした“魔女狩り”に対し、反対の声がなかったわけではない。彼より前の時代になるが、“魔女狩り”に反対した最初期の人物として、ヨーハン・ヴァイヤーという医師がおり、彼の著作である“悪霊の幻惑について(De Praestigiis Daemonum)”が当時大きな反響を呼び、その結果、多くの地方で魔女裁判が寛大かつ慎重に行われるようになり、魔女だと判断された人物がこの本の論理で弁明をしたほどの内容だったそうじゃ」

    『具体的には、どのような内容だったのでしょうか?』

    「彼は悪魔の存在を完全に否定したわけではなく、悪魔は力を持っているものの、キリスト教会が主張するほどには強くはないという前提の基、悪魔はそれを呼び出した人の前に出現し、幻影を作り出すことができるという考えを支持した」

    『つまり、悪魔を呼び出す人がいなければ、悪魔は積極的に人間に対して影響を及ぼさないということでしょうか』

    「おそらく。さらに付言すると、彼は幻影を作り出すことのできる人々のことを魔術師と定義し、魔術師は悪魔の力を使って幻影を作り出す“異端者”である言及した」

    陰陽師の言葉を理解するためか、しばらく青年は無言で唸ったのち、やがて口を開く。

    『つまり、極端な言い方をすれば、諸悪の根源が悪魔と、悪魔を呼び出した魔術師だと主張したわけですね。それで、肝心の“魔女”として疑われた人物はどのような扱いになったのでしょうか』

    魔女たちに対し、彼は“精神的に病んでいる”という言い回しをしたと言われておる。現代でも“精神疾患”という病名があるものの、その原因を悪魔だと主張する人物は少数派であることはわかるじゃろう」

    『はい。現代でそんなことを言っても、相手にされないと思います。彼の主張のおかげで、加害者は悪魔そのもので、魔女と疑われた人々が濡れ衣であることが明確に整理されたようですね

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、再び口を開く。

    「当時の人々がキリスト教から強い影響を受けていたとは言え、悪魔と魔女、言い換えれば悪魔憑きを明確に分けて考える様になり、理性的な判断ができる人物が徐々に増えていったと思われる」

    そう言った後、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。

    ヨーハン・ヴァイヤーSS

    属性表を見た青年は、何度も頷いてから、口を開く。

    『彼は頭が1で世のため・人のためとなる行動を地で実行する特徴を持ち欄外の枝番が“1”で能力面において優秀であること、大局的見地(S)と仁(A+)が高いことも考慮すると、大々的に行われていた“魔女狩り”に対して異を唱えたことも納得できますし、彼の行動は英断だったと思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「彼の執筆の動機は、“やっかいな悪魔に誘惑された高位高官の人びとに対する真からの同情心”だったそうで、“魔女狩りはあくまで悪魔の誘惑によるものであり、責任は悪魔にある”という持論を展開し、これまで魔女裁判を行なった者への配慮も怠らなかった点も、特筆すべき点じゃな」

    『なるほど。魔女裁判を行なった人物の中には、己の行いを悔いた人物もいたでしょうから、彼らにとっても読む価値はあったのでしょうね。また、ヨーハン・ヴァイヤーは医師として社会的地位が高かったことから、彼のような人物が唱える現実的な主張は、読者に対して大きな説得力を持ったのだと思います』

    「そうじゃな。彼は皇帝フェルディナント1世に“不当な魔女裁判の助長を差し押さえる特権”を求めた結果、皇帝からその特権を認められたようじゃし、当時の世の中にはびこっていた不当な“魔女狩り”を減少させた彼の功績は大きいと思われる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    『なるほど。彼のように、“魔女狩り”に対して反対意見を述べる人々によって、“魔女狩り”は収束していったと思われますが、実際に、“魔女狩り”はどのように収束していったのでしょうか?』

    「17世紀末期になると知識階級の魔女に対する認識が変わり、裁判でも極刑を科さない傾向が強まったことと、カトリック・プロテスタントともに個人の特定の行為の責任は悪魔などの超自然の力でなく、あくまでも当人にあるという概念が生まれてきてから、裁判においても無罪放免というケースが増えたことで、魔女裁判そのものが機能しなくなっていったようじゃな」

    『なるほど。ヨーハン・ヴァイヤーが主張した、魔女と疑われた人物を“精神的に病んでいる”と認識することで、現代の価値観と照らして考えれば、特定の行為の責任は悪魔とは無関係であり、あくまで当人にあると解釈できることに納得できます。それに、魔女に対する認識が変わったことが重要ということであれば、大局的見地に基づいた情報を、より多くの人に届けることが重要であったことは、当時も現代と同じのようですね』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、小さく頷いてから、再び口を開く。

    「ちなみに、“魔女狩り”の規模は地域で差があったようで、強力な統治者が安定した統治を行う大規模な領邦では激化せず、不安定な小領邦ほど激しい魔女狩りが行われていたようじゃ。その理由としては、不安定な小領邦の支配者ほど社会不安に対する心理的耐性が弱く、“魔女狩り”を求める民衆の声に動かされてしまったことが考えられる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで眉間にシワを寄せながら、口を開く。

    『我が国は社会不安に対する心理耐性が低いと、僕は思わないものの、自粛疲れで社会への不満を抑えきれなくなった一般人による“自粛警察”の声が、インターネット上で多数挙げられて炎上でもしようものなら、政治家もそうした声を無視できない現状ですもんね』

    「残念ながら、そなたの言う通りじゃ。“健康警察”や“自粛警察”なども、コロナ禍の影響による仕事の減少にともなう収入の減少や、終わりが見えない不安によって、社会に対する不満が増長していることに加え、“令和革命”の影響によって、産業革命前の中世に世の中全体がシフトしている影響も関係しておるのじゃろう」

    ※令和革命とは、日本の年号が“令和”に変わったことにより、産業革命を機に始まった、唯物論者の考えや意見が主流な現在の物質主義の世の中である“体主霊従”から、“霊”、すなわち魂や見えない存在の影響を大きく受ける、“あの世”の理屈が主流となる、産業革命以前の“霊主体従”の世の中にシフトしたことを意味します。(※第34話:令和とパラダイムシフト参照

    『なるほど。人間は環境の影響を受けやすい存在ですから、“令和革命”の影響で我々を取り巻く環境が大きく変わり、全てが産業革命以前には戻らないものの、当時の人々に近い行動を取る傾向が強まってしまうわけですね』

    「そういうことじゃ。今回の事件は怪我で済んだからよかったものの、仮に今後も我が国の状況に改善の兆しが見られない場合、国民の不安も増大していき、そうして増大した不安を解消するため、事件の内容も過激になっていくことが予想され、場合によっては人命が失われるような事件が起きないとも限らぬ」

    『なるほど。とは言え、“自粛警察”による行動の結果、新型コロナウイルスの感染者数を減らせるとは限らないと思うので、個人の独断によって人の命が奪われてしまうような、“魔女狩り”の再来がないことを願うばかりです』

    「ワシもそう思う。ちなみに、“自粛警察”に該当するような事件を起こした人物の情報を、わかる範囲で教えてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、加害者たちの情報を読み上げる。

    『ネットで調べる限り、2021年4月に他県ナンバーの車に煽り運転をした男性と、2020年4月にスポーツクラブのドアを破壊した男性は特定できました』

    青年の言葉に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    あおり運転をした男性SS

    スポーツジムのドアガラスを破壊した男性SS

    二人の属性表を眺めた青年は、やがて口を開く。

    『両者の共通点の中で、事件を起こす影響を与えた要素として、人運と大局的見地の数字が高くないことと、攻撃性を示す項目の上段の数字が“2”であることと、先祖霊・血脈の霊障と天命運に“14:人的トラブル”の相がかかっていることが考えられます』

    「おおむねそなたの言う通りじゃが、両者がそのような行動を取った経緯についてはわかっておるかの?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを操作し、やがて口を開く。

    『前者に関しては、“残業が続いて疲れていた。コロナ禍なのに、県外ナンバーの車だったのでイライラしてやってしまった”とのことで、後者に関しては、“緊急事態宣言が出ているのに営業しているので、頭に来て文句を言おうと思ったが、店員がいないのでドアを破った”とのことです』

    「なるほど」

    『後者の男性の被害にあったスポーツジムに関しては、事件が起きた1時間後から休館を開始する予定だったようで、タイミングが悪かったと思います』

    「いずれにせよ、この二人が取った行動は、新型コロナウイルスの感染予防の観点からみて適切だったとは考えられず、市川さんの言葉を借りれば、“健康警察”が前面に出てしまったようじゃな」

    陰陽師を聞いた青年は、大きく頷いてから、口を開く。

    『ちなみに、市川さんは“健康警察”が与える影響と、それにどう向き合えばいいかを次のように書いています。”他人の行動を見かけて、何かしらモヤモヤを感じた時、SNSに書き込んだりする前に、私の中の“健康警察”は、実はあまり合理的でないことを要求し、誰かの生活を息苦しくさせることにつながっていないか?“と振り返るクセをつけましょうと、自戒を込めて述べています』

    「その通りじゃろうな。新型コロナウイルスに関する諸説が散見しているようじゃが、一人でも多くの人が感染予防に関する正しい情報を得、“疫病退散”のような神事を受けようと自ら密になる状況に身を置き、そこで感染してしまうようなことがないことを願うばかりじゃ」

    『そうですね。新型コロナウイルスは“風邪”だと主張するのは自由だと思いますが、医師ではない人物の言葉を鵜呑みにしてはいけませんし、昨今の医学の進歩を鑑みるに、新型コロナウイルスの感染経路と感染予防に関する医学的な見解の信憑度は高いと思われます』

    「そなたの言う通りじゃな。“魔女狩り”の時代に生きた人々とコロナ禍に生きる我々の共通点として、悪魔と新型コロナウイルスという、いずれも目に見えないものに由来する恐怖と直面しておるが、ヨーハン・ヴァイヤーが、キリスト教から強い影響を受けていた当時の価値観の中で、目に見えない悪魔に対する認識を変えるのに成功したのと同様、現代に生きる我々一人一人が、特に魂1〜3が大局的見地に基づいた情報を発信し、新型コロナウイルスに関する人々の認識を変えていくことが肝要なのじゃなかろうか

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は“自粛警察”の事例と“健康警察”のネット記事を読み返していた。
    “自粛警察”となってしまう人物はひょっとしたら、自分と価値観が合わず、話し合いで解決することが難しいかもしれない。

    だが、正しい情報を伝えることで、本当にやるべきこととそうでないことについてや、“自粛警察”のような私的な行動がどのような結果をもたらすのかについて理解してもらえたら、実行する直前に考え直してもらえ、同じような事件が起こることを、未然に防げるかもしれない。

    また、いざ“自粛警察”となりかねない人物が目の前に現れたとしても、その人に正しい情報を、適切に伝えられるように精進していこう。

    そう、青年は決意したのだった。

     

  • 新千夜一夜物語 第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性

    新千夜一夜物語 第46話:誹謗中傷を書き込む人の魂の属性

    青年は思議していた。

    先日、伊是名夏子さんが公開した、『JRで車椅子は乗車拒否されました』という題名のブログが炎上した件についてである。

    この出来事は、車椅子ユーザーである伊是名さんが来宮駅近くの宿泊施設や飲食店を事前に予約し、当日にJR東日本を利用して現地に向かおうとした際に、無人駅である来宮駅ではなく、バリアフリー化されている熱海駅で降車するように、駅員から勧告されたことを発端とする騒動を書いたブログが炎上したようだ。

    今回の炎上は、著名人である伊是名さんのブログの8割を削除するほどの影響があり、尋常ではないように青年には感じられた。

    伊是名さんはどんな魂の属性を持っているのか。そして、なぜ、彼女のブログはここまで炎上したのか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日は伊是名夏子さんと、彼女のブログが炎上した件について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』

    「先日、ネット上のニュースで話題となった件じゃな。して、具体的にどういったことを知りたいのかの?」

    『僕がお聞きしたいのは、伊是名さんの魂の属性と、なぜ彼女のブログはあそこまで炎上したのか、そして、今後、インターネット上でどのように情報発信していくべきかについて、です』

    「なるほど。それらの質問に答える前に、今回の騒動が起きた経緯について教えてもらえるかの?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、一つうなずいてからスマートフォンを操作し、口を開く。

    『自身が車椅子ユーザーである伊是名さんとしては、現在障碍者たちが享受している権利は、先人たちの座り込み等の運動によって獲得できた権利であると考えているようで、今回の出来事もバリアフリー推進の活動の一環として起こしたようです』

    「つまり、彼女は意図的にその日、その場所を選んでいたというわけじゃな」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きくうなずいてから、口を開く。

    『彼女が後日発信していた内容から判断するに、そうなります。実は、ブログに書かれた出来事が起きた当日の2021年4月1日は“改正バリアフリー法”の施行日で、伊是名さんは来宮駅が無人駅だと知っていたようですし、JRとの騒動が生じた際に、新聞社数社に呼びかけて取材を要請したということから、計画的な政治運動だったと言えそうです』

    「たしかに、その騒動がプライベートなものであれば、新聞社を呼ぶ必要はないからのう。して、JRは彼女の要望に対し、どういった対応を取ったのかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『JR小田原駅の駅員は、無人駅である来宮駅ではなく、バリアフリー化されている熱海駅での下車を推奨しましたが、伊是名さんは、熱海駅から来宮駅までに移動するための、車椅子で乗車可能なタクシーは一ヶ月前からの予約が必須だと主張し、バリアフリー法にのっとって対応するように駅員に求めました』

    「なるほど。法律を盾に、自らの要求を通そうとしたわけじゃな」

    『そうです。そんな彼女の要求に対して駅員は、来宮駅はバリアフリー法の対象とはならないことを説明しましたが、駅員によるその説明に対し、伊是名さんは、今度は“障害者差別解消法”を根拠に合理的配慮を求め、駅員3・4名を集めて電動車椅子を運ぶように要求しました。その結果、特別な計らいによって、駅長を含む4人の駅員が来宮駅まで同行し、対応したとのことです』

    「その経緯を聞く限り、乗車を拒否されたわけではないのじゃから、JRに非を感じさせかねない、あのようなブログのタイトルを付けるには、ちと無理があると思われるが」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    伊是名夏子SS

    属性表を眺めた後、青年は口を開く。

    『この属性表から、伊是名さんは人運が“7”と低く、血脈の霊障と天命運に“14:人的トラブルの相”があることから、今回炎上してしまったことは納得という感じですね』

    「そのあたりについては、たしかに、そなたの言う通りなのじゃろうが、“改正バリアフリー法”は2025年を目標に施行されておる法律で、同法が施行されたその日に、全ての駅をバリアフリー化することは、現実的に考えてみてもほぼ不可能じゃ。よって、経済性や現実味を度外視した彼女の一連の言動には、魂4特有の大局的見地に欠けた、偏狭な正義感が少なからず影響しておるのじゃろうな」

    『なるほど。伊是名さんは政治運動を目的として、意図的にあのような人目を引くようなタイトルをブログにつけたのだと思いますが、読者の批判の矛先をJRに向けようと権謀術数を弄したにもかかわらず、本人の意図とは逆に、批判や誹謗中傷が自らに集中してしまったわけですね』

    「まあ、結果としてそういうことになるのじゃろうな」

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「ところで、今回の騒動が起きた経緯はそうじゃとして、炎上した理由について、世間ではどのように言っておるのかの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンを操作した後、口を開く。

    『今回炎上した理由についてですが、ネット炎上を研究している国際大グローバル・コミュニケーションセンター准教授の山口真一博士によりますと、議論の前提の違いとブログの書きぶりの2点が主な理由となっているようです』

    「というと」

    『一つ目の“議論の前提の違い”についてですが、伊是名さんは、障碍者も健常者と同様に生活を送るという“真のバリアフリー”の社会が実現していない現状を、障碍者の視点で提起しましたが、読者は健常者の方が多いことから、今回の彼女の言動は多くの人にとって、“利用者の少ない無人駅に、事前連絡なしに車椅子で行ってクレームをつけている”という解釈になってしまったのだろうと思われます』

    「なるほど」

    青年の言葉にあいづちを打つ陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『山口博士は、“前提があまりに違うとそもそも議論にならず、意見が衝突するばかりで妥協点を探すことが難しい”と述べていますが、今回の一件は障碍者と健常者という前提だけでなく、4つの魂の種類の違いによって生じる、議論の前提の違いも何らかの関係があるのではないかと、僕は思いました』

    「して、もう一つの理由である、“書きぶり”とは?」

    陰陽師にそう言われた青年は、スマートフォンを操作し、口を開く。

    『ブログのタイトルの付け方もですが、本文では伊是名さんの主張がかなり強く出ていて、可能な範囲で対応した駅員への感謝の言葉がなかったことから、特に、“駅員だって大変なのに”“書き方がおかしい”といった、本筋とは関係ない理由で炎上したようです』

    「なるほど。無人駅だとわかっていた上での彼女の行動や、新聞記者まで呼んで大ごとにしようとしていた点も、いっそう反感を買う要因となったわけじゃな」

    『そうですね。炎上することで多くの人々から注目されましたが、本筋とは関係がない“書き方”の方で炎上してしまっては、真のバリアフリーを訴えるという本筋が伝わらなくなってしまい、本末転倒だと思います』

    「たしかに。一般論として、ネットが炎上する背景には、ガラ携並みのOSを持った魂4の偏狭な正義感に裏打ちされた批判/議論があるのじゃろうが、今回の件も、論旨の全体を見るのではなく、“感謝の言葉がない”“書き方がおかしい”という側面に対してのみ、集中砲火が浴びせられた結果、このような炎上が起こってしまったのじゃろうな」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、スマートフォンの画面を見ながら、口を開く。

    『そのお話と関連しますが、山口真一博士が実施した、20〜60代の男女3000名を対象としたアンケート調査の結果によりますと、7%しかいない少数の極端な人がネット上の意見の46%を占めているようですが、この極端な人の多くが魂4と考えるのであれば、先生の説明に納得できます』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「さらにもう一つ付言するとすれば、人口の45%と最も多くを占める魂4の中でも、我が国の場合、特に2−4(転生回数が第二期の魂4)と4−4(転生回数が第四期の魂4)が多いことから、炎上の種火となる投稿を2−4が書き込み、4−4がそれに追従して拡散するという、我が国特有のメカニズムも今回の一件に大きな影響をあたえておるのじゃろうな」

    『なるほど』

    「して、誹謗中傷を書き込む人々の動機について、山口博士はなんと?」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、再びスマートフォンを操作し、口を開く。

    『2017年に行われた研究ではありますが、山口博士は、炎上の種火となる投稿をしている人物の動機に関し、“どのような炎上事例でも、6〜7割の人が自分の価値観での正義感から投稿を書き込んでいたそうで、動機を掘り下げていくと、何かしらの生活や社会への不満といったものが少なくない”と述べています』

    「なるほど。動機は、生活や社会への不満とな」

    『はい。“誹謗中傷を書き込んでいる人は、あくまで相手が悪いから攻撃しているようで、実は、他者に制裁を加えることで、不安を解消してくれるような、いくばくかの満足感を得ようとしている”とも、山口博士は分析しています』

    「なるほど。終わりが見えないコロナ禍の影響による、仕事の減少に伴う収入の減少に加えて様々な自粛を強いられることで、本来は問題とならぬような些細な事象にまで、火の手が上がりやすくなっておるというわけじゃな」

    『それともう一つ。メディアで凄惨な事件や芸能人の不倫や政治家の不祥事などのネガティヴな情報が報道されると、やり場のないストレスの捌け口をそれらの事件に求めてしまうということも、その原因と思われます」

    そう言い、視線を落とす青年に対し、陰陽師は微笑みながら口を開く。

    「今回の件を通じて、インターネットにおける魂4の支配力が強いことを改めて理解できたと思うが、インターネットの普及と政治家の小型化という問題にも奇妙な相関関係があることを含め、ネット上での発言権を魂4だけに握られぬよう、魂1〜3が、より多くの情報発信をしていくことが大切だという話は、以前した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は大きく首肯してから、口を開く。

    『肝に命じておきます。魂4の人々の意見が主流になった政治は“衆愚政治”になりかねないと以前お聞きしましたので(※第13話参照)、そうした状況にならないようにしたいものです。ところで』

    「うむ」

    『学校でのディスカッションを始めとする教育や、何らかの訓練によって、魂1〜3と魂4との間にある、前提の違いによる価値観の差を縮めることはできるのでしょうか?』

    「もちろん、価値観の種類にもよるのじゃろうが、残念ながら、両者の距離を縮めることは容易ではないと思う。その主な理由として、そもそも魂1〜4で魂の容量が異なることが挙げられるが、それぞれの容量の違いについて、そなたは覚えておるかの」

    『はい、覚えています』

    そう言い、青年は紙に魂の種類とそれぞれの容量を書き記していく。

    <魂の種類と容量>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    青年が書いた内容を一読し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    魂1〜3と魂4のOSには、コンピューターとガラ携程の差があることから、どれだけ優れたソフトがあっても、容量が足りなければそれを載せることはできぬ。同様に、魂の種類によって、日常でインプットできる情報量も異なることから、当然、アウトプット、どういった言動を取るかも、魂の種類によって変わってきてしまうことになる」

    『なるほど』

    「この話は魂1〜3と魂4との関係に限らず、魂1であるワシと魂3であるそなたとの間でも当てはまることで、ワシの話のすべてがそなたに伝わらない原因も、そのあたりが影響しておるわけじゃ」

    『確かに、先生のお話をお聞きしている時はいつも、魂の容量の差が大きすぎることを実感しています』

    そう言い、ばつが悪そうに頭を下げる青年に対し、陰陽師は小さく笑ってから言葉を続ける。

    「話を戻すが、魂1〜3と魂4の距離を縮めることは難しいものの、我が国でディスカッションの授業が増えることで、相手を尊重した表現を用い、批判されたこと=喧嘩を売られているわけではないということ、両者の意見が相違している部分に関し、感情的にならずに対話できる生徒を増やすことは期待できると思う

    『なるほど』

    「また、魂の容量の差によって生じるお互いの相違点を理解し合うことによって、魂1〜3側にとっても、自分たちとは違う論理的思考を持っている人物が存在していることを知る、良い機会になると思われる」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、大きくうなずき、口を開く。

    『確かに。僕が話したことがある人物に限りますが、魂1〜4でそれぞれ特有の論理的思考の方向性があるように感じます』

    「ともかく、人間は多面体なわけじゃから、魂の違いのみで相手のことを判断してはいかん。魂4の人物であっても論理的な人物はいるわけじゃし、魂3で高学歴の人物であっても、感情的な人物も相当数おるわけじゃからな」

    『なるほど。感情的になることについては、僕にも身に覚えがあります』

    そう言い、苦笑する青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「それでも、あえて魂1〜3と魂4、特に2−4、あるいは転生回数が第二期に近い3−4や1−4との違いを指摘するとすれば、魂4の人物に哲学的な思考を求めるなどして魂4の容量を超えた際に、質問の趣旨から大きく外れた回答が返ってきたり、物事を感情的に捉えてしまい、時には論理的思考が飛んでフリーズしてしまうといった、諸特徴が顕在化する可能性が高いことだけはそうなのじゃろう」

    『つまり、感情に左右されずに論理的思考に基づいて行動できる度合いが、魂4から魂1に向かうにつれて高まっていく傾向にあるということでしょうか』

    「人間は多面体であることから、ある一面だけを捉えてどうこう言うのは危険な行為じゃが、大筋では、そういった捉え方もできると思う。ただし、相手の顔を見ながら、相手の感情の機微を観察しつつ、言い方や言葉選びに気をつけることができる対面の会話と違い、対面で得られる情報がないネットの世界では、画面の向こうに自分と同じ血が通った人間がいると認識できずに、魂の容量と諸特徴が、よりダイレクトに出てしまうことが往々にして起こりえるので、そのあたりにはじゅうぶんな注意が必要なわけじゃな」

    『確かに。僕が調べた限りではありますが、AIを用いた認知科学の研究でも、人に話すよりも人でないモノに話す方が、人のネガティブな感情は引き出されやすいという結果が出ているようですし、相手の顔が見えないネット上では、特に魂4は過激な書き込みをしやすくなってしまっているのでしょうね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、口を開く。

    「そうした諸々の理由も踏まえると、基本的にネット上で問題提起をする際は、魂4の人々にも響きやすいように、言葉遣いや言葉選びに細心の注意を払い、共感を呼ぶような内容を盛り込んで投稿することが望ましいということになる」

    『なるほど。それなら僕にもできそうです』

    陰陽師の言葉を聞いて大きく頷く青年を見やり、陰陽師は口を開く。

    「ただし、魂4の目に触れ、彼ら/彼女らによって大事な情報が拡散されることは重要ではあるものの、魂4に迎合する内容ばかり投稿していては、結局は魂4の声が庶民の総意と一括りに捉えられやすいことには変わりはない。ゆえに、我々魂1〜3も、ネット上で積極的に、大局的見地に基づいた意見を書き込んでいくことも肝要だということは、先ほども言った通りじゃ』

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はこれまで縁があった人物とのやり取りを振り返っていた。
    なぜ、根気強く説明しても話が噛み合わず、徒労に終わってしまったのかが、今回の話で理解できた。ただ、話が噛み合わなくとも、お互いの目的や大事にしていることをある程度共有できたことも思い出した。

    出会いは必然であり、せっかくご縁を得られた相手と共有できることを増やしていけるよう、相手の魂の種類を把握し、それぞれに合った接し方をしていこう。

    そう、青年は決意したのだった。

     

     

  • 新千夜一夜物語 第45話:成功するYouTuberの条件

    新千夜一夜物語 第45話:成功するYouTuberの条件

    青年は思議していた。

    不登校を掲げるYouTuberゆたぼんが、動画上で中学校も不登校宣言したことが波紋を呼んでいる件についてである。
    彼の発信に対しては賛否両論あり、YouTuberシバターに至っては、ゆたぼんと何度か動画を挙げて討論していたほどである。

    いったい、ゆたぼんはどのような魂の属性なのだろうか。また、中学校も不登校を貫く彼の今後は、いったいどうなるのか。

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。本日はYouTuberゆたぼんについて教えていただきたいと思い、お邪魔しました』

    「ふむ。最近、たまにネットのニュースで見かける少年のことじゃな。して、どういったことを聞きたいのかの?」

    『まずは彼の魂の属性を、次に、彼が中学校も不登校を貫いた場合、彼の将来はどうなることが予想できるのかを教えていただきたいです』

    「その質問に答える前に一つ確認したいのじゃが、そもそもいったいなぜ、彼は不登校になったのじゃ?」

    陰陽師に問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。

    『ネットの情報を見る限り、宿題をやってこなかったゆたぼんに対し、彼の当時の担任が彼を叩いたようですが、担任の言い分としては、机を叩こうとしたら彼に当たってしまったとのことで、叩いていないと主張していたようですが、ゆたぼん側は、先生が嘘をついたと考え、その出来事をきっかけに不登校になったと言っています』

    「ふむ」

    青年の言葉に対し、陰陽師はあいづちを打ち、紙に鑑定結果を書き記していく。

    ゆたぼんの元担任SS

    属性表を眺めた青年は、一度唸ってから言葉を発する。

    『以前(※第17話:激辛カレー教諭いじめ事件と魂の属性参照)、小学校の教員は2−4(転生回数期が第二期の魂4:一般庶民)が多いとお聞きしましたが、この属性表を見る限り、まともな先生のようですね』

    「そうじゃな。教員の仕事には生徒指導も含まれていることから、仮に担任がゆたぼんを叩いたとしても、それは教育的指導に該当すると思われる。ゆえに、彼が不登校になったきっかけの出来事に関しても、自らの職責を全うした末の、ちょっとした行き過ぎの叱責といったあたりが実相なのじゃろう」

    『なるほど。ちなみに、ゆたぼんが中学校も不登校宣言したことを巡り、ゆたぼん vs YouTuberシバター、そして、彼の父親 vs ひろゆきという構造ができていましたが、各々、どのような魂の属性なのでしょうか?』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は紙に鑑定結果を書き連ねていく。

    ゆたぼんSS

    きよみんSS

    中村幸也SS

    シバターSS

    ひろゆきSS

    それぞれの属性表を眺めた後、青年は口を開く。

    『今回の登場人物を見ると、ゆたぼん家は頭2で、不登校反対派の二人は頭1という構造になっているのですね』

    そう言った後、青年は何かに気づいたのか、やや目を見開いてから再び口を開く。

    『そう言えば、ゆたぼん一家の属性表には、頭の1/2の欄外に枝番の“3”という数字がありますが、これは何を意味するのでしょうか?』

    「実は、頭1/2の特徴は、0 or 100のようにシンプルに二分化しているのではなく、欄外の枝番の数字が“1”に近いほど頭1/2の特徴が強く顕在化する傾向がある。例えば、“9”は例外/逆説という意味を持つ」

    『例外/逆説でしょうか』

    首を傾げながらそう言う青年に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「そう、例外/逆説じゃ。具体的に説明する前に、復習もかねてそなたの口から、頭1/2の特徴(※第18話:神社仏閣との相性参照)について、それぞれ説明してもらおうかの」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、一つうなずいてから口を開く。

    頭1の人物は、“農耕/遊牧民族の末裔”であることから、世のため・人のためとなる行動を地で実行する傾向があります。一方、頭2の人物は、“狩猟民族の末裔”であることから、利益/個人的な目標のためには、他人を蹴落としてでも獲得するといった、自己中心的な特徴を持っていると記憶しています』

    「おおむね、そなたの説明通りじゃな。して、そうした頭1/2の特徴に対し、枝番“9”という逆説/例外という特徴が加わるとどうなるかと言うと、頭1―9の人物が口ではYesと言いつつも、腹の中では別のことを考えている可能性があるのに対して、頭2−9の人物の場合は、こちらの意見/指示に対し、是は是、非は非といった態度をとる傾向が強い反面、いったん納得したらその通りに行動する可能性が極めて強い」

    『なるほど。その説明をお聞きする限り、ある意味、頭1−9の人物よりも、頭2−9の人物の方が付き合いやすいと言えるのかもしれませんね。そうは言っても、頭1/2だけではなく、その人物の枝番や他の特徴まで把握し、付き合い方を吟味する必要があるとは思いますが』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから口を開く。

    「そのような観点から、ゆたぼんと彼の両親を見ると、3人とも頭2−3であることから、頭2の特徴が顕著に現れる傾向が強い、と言うことができよう」

    『確かに、親切心で忠告してくれたシバターへの反論の内容や、小学校の卒業証書を破くなどのゆたぼんの言動を見る限り、自己中心的という頭2の特徴が色濃く出ているように思います』

    「そなたの言う通りじゃな」

    青年の言葉に相槌を打つ陰陽師を見やり、青年は言葉を続ける。

    『そして、頭1であるシバターとひろゆきが、他人であるゆたぼんに対し、不登校を選択することによって、彼が後々に被るだろうデメリットを視野に入れて反論していることは、世のため・人のためという頭1らしさが現れていると思います』

    青年の言葉に対し、陰陽師は一つ頷いてから口を開く。

    「たしかに、このような両者の発言をみているだけでも、頭の1/2の差は歴然じゃ。それと、もう一つ付言しておくと、実社会においては、個人事業主・非上場企業の経営者・従業員、地方公務員には頭2の人物が多い。一方、国家公務員、上場企業の経営者/出世コースに乗った社員などには、頭1の人物が圧倒的に多いという傾向にある」

    『そのような傾向も頭の1/2にはあるのですね。そう言えば、ゆたぼんの基本的気質(OS)と具体的性格(ソフト)の上段の数字は共に“7”、すなわち社会生活を送るのに最も適した資質を持っていることを考えても、変に片意地を張らずに、ある程度社会の常識に則った生き方をした方がいいように思うのですが』

    「そなたの見解にも一理あると思うが、ワシが見る限り、残念ながら、彼はこのまま不登校を貫く可能性が高いのじゃろうな」

    『やはり、そうなるのですか…』

    そう言い、視線を落とす青年に微笑みかけながら、陰陽師は問いかける。

    「話を戻すが、ゆたぼんの不登校を巡り、いったいどのような応酬があったのじゃ?」

    『まずはゆたぼんとシバターのやり取りについてですが、シバターは動画の中で、“小中高でできた友達は、一生の友達になる可能性を秘めている”と彼に語りかけています』

    「なるほど」

    『これに対し、ゆたぼんは、シバターの意見を“古い考え”と斬り捨て、“今の時代、ネットでも友達はできる”と反論しています。そんなゆたぼんの動画に対し、シバターは“そんなに言うならもういいよ。君は学校に行かなくていい。ただ、後で学校行っておけば良かったって後悔するなよ”と答えています』

    「どちらの主張にも一理あるようじゃが、結局は平行線に終わったわけじゃな」

    そんな陰陽師の言葉に、青年が大きく首肯するのを見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「今度はゆたぼんの父親とひろゆきの応酬について、教えてもらえるかの」

    陰陽師の言葉に対し、青年は一つうなずいてから、スマートフォンの画面を見ながら読み上げる。

    『ひろゆきは、“登校が嫌なら通信制の中学校で教育を受けることも可能。子供に教育を受けさせる義務を放棄している親には、罰則が必要だと思います。子供は被害者なので責めるべきではないです。“と、ゆたぼんではなく、彼の父親を批判しています』

    「なるほど」

    『それに対するゆたぼんの父親の主張ですが、“子どもが学校に行かないからと言って親は教育を受けさせる義務を放棄しているわけではない。それに通信制じゃなく家庭内で教育を受けさせることはできるし、そもそも我が家はホームスクーリングだってずっと言ってるしな“と』

    そこまで言った青年は、一度、陰陽師が黙って耳を傾けていることを確認し、言葉を続ける。

    『ひろゆきはさらに、“通学する中学生は一日5時間の授業を各科目で教員試験を通った大卒の教師が教えます。あなたの家庭では学校の代わりにどういった資格を持つ方が何人で1日何時間の教育をされているのですか? 中学校と同等の教育なら問題ないです。”と返信しています。ちなみに、世間ではひろゆきの意見の方が多く支持されているようです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は一つ頷いてから、口を開く。

    「そもそも義務教育とは、憲法26条、国民の三大義務である、“勤労の義務”、“納税の義務”、“教育の義務”の一つに含まれているわけじゃが、この法律のポイントは、子に教育を受ける義務があるのではなく、親が“子供に教育を受けさせる義務”があることから、ひろゆきが言うように、この法律が子供ではなく親を対象にしている点が肝要じゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は何度も頷いてから、口を開く。

    『そうなのですよね。弁護士の藤吉修崇さんが、学校に通わせないことは、親として学校教育法に違反するとして“ゆたぼんの親も逮捕される可能性がある”と指摘していることから考えても、父親は逮捕されないためにも、せめてゆたぼんに通信制の中学校に通わせることが望ましいと思うのですが』

    「彼の場合、世間の常識から逸脱した生き方になんらかの価値観を見出していると思われることから、通信制であっても登校する可能性は、ほぼないじゃろうの」

    陰陽師の言葉を聞き、しばらく腕を組んで黙考していた青年が、やがて口を開く。

    『ゆたぼんが不登校を貫いたと仮定すると、今後の彼は、どのような人生となるのでしょうか』

    「そなたは、どのような進路があると考える?」

    『一つ目は、このままYouTuberとして活躍して生計を立てていくことだと思っていましたが、先ほどの属性表を見て、難しいと感じました』

    「というと」

    陰陽師は軽くあいづちを打ち、青年に続きを促す。
    それを察した青年は、スマートフォンを操作し、画面を見ながら言葉を続ける。

    『ゆたぼんと討論したシバターのYouTubeのチャンネル登録者数は、121万人ですが、ゆたぼんのチャンネル登録者数は12.8万人、つまり、シバターの約10%しかいません。2−3−5−5…2を持つシバターがあれだけのチャンネル登録者数を持っていることはある意味当然だとしても、ゆたぼんの魂の属性を見る限り、今後、シバターほどの数字を得るのは難しいのではないでしょうか』

    「そなたの言う通りじゃろうな。2−3−5−5…2を持つ人物は、そもそもプロのスポーツ・芸能・芸術の世界で活躍できる才能を持っていることから、テレビからYouTubeへと媒体が変わったとしても、本人の持ち味を発揮できることは想像に難くない」

    陰陽師の言葉を聞き、大きく頷く青年を見やり、陰陽師は言葉を続ける。

    「ところが、YouTubeは配信する環境さえ整っていれば、どのような魂の属性の人物であっても、容易に参加できるという特徴を持っている」

    『つまり、ゆたぼんのような“2−3−5−5…2”を持たない人物がYouTuberとして人気が出たとしても、芸能界から声がかかるとは限らないのでしょうし、逆にテレビ番組にレギュラー出演でもしようものなら、排除命令によって芸能界から姿を消すだけじゃなく、当人にとんでもない災難が降りかかる可能性が高いと(※第23話:この世のルールと芸能界参照)

    「さらに言えば、2−3−5−5…2を持つ人気YouTuberじゃからと言って、上下関係が厳しい芸能界の掟や暗黙のルールを破り、大御所から目をつけられでもしたら、たちまち業界から干されてしまうじゃろうしな」

    『話が脱線してしまいますが、YouTuberから芸能界入りした、ラッパーのワタナベマホトとお笑いタレントの不破遥香の魂の属性が気になるのですが』

    「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」

    そう言い、陰陽師は紙に二人の鑑定結果を書き記していく。

    ワタナベマホトSS

    画像8

    二人の属性表に目を通した青年は、やや目を見開いて口を開く。

    『ワタナベマホトは女子高生に猥褻画像を要求していたことが発覚し、児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されましたが、彼は2−3−5−5…2を持たない人物ですので、排除命令に抵触したようですね』

    「どうやらそのようじゃな」

    『不破遥香ことフワちゃんですが、芸能事務所に悪態をつき、重役の去り際に見えないように後ろ姿に向かって中指を立てていたら、その姿がガラスに映っていたためにバレてしまい、事務所を解雇されたようです。ただ、現在は無所属で活動しているようですので、芸能界から排除されたわけではなさそうです』

    「彼女は2−3−5−5…2を持つ人物であることから、そのあたりの一件は人運“7”と“14;人的トラブル”の相が原因なのじゃろうな」

    『なるほど。属性表を見る限り、フワちゃんは言うまでもなく、ワタナベマホトの転生回数は“大々山”である190回代であることから、二人がYouTuberから芸能界に入れたことに納得できますが、ゆたぼんの魂の属性はもちろん、今の彼を見ている限りでは、彼が芸能界に適応できるとは思えず、YouTuberから芸能界へ栄転する道は厳しいでしょうね』

    「そなたの言う通りじゃろうな。ゆたぼんの発信は、現在不登校気味の学生や過去に不登校を体験した人物には響くかもしれないが、彼がこのまま大人になったとしたら、単なる無学歴の成人ということになるわけじゃが、いざそうなった時に、世間に響くメッセージ性を持っているかはかなり疑わしいじゃろうな」

    『そうなのですよね。一言で不登校と言っても、不登校に至るまでに様々な背景があると思います。不登校の理由としては、その多くがイジメを発端にしていると感じますが、ゆたぼんの場合は“教師の嘘”がきっかけなので、同じ理由で不登校になった人は少ないのではないかと思われます』

    「それ以上に、彼が本当の意味で不登校の人々の心に寄り添えているのかどうかも、疑問じゃしのう」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は腕を組み、しばらく唸ってから再び口を開く。

    『今の路線のままYouTuberとして活躍する可能性が低いゆたぼんにとっての、もう一つの進路についてですが、キメラゴンという、中学三年から不登校になったものの、中学生の間に月収700万円を稼ぎ、現在は通信制の高校に通いながら会社を経営し、月収1,000万円を稼いでいる学生もいます。ゆたぼんは彼のように情報商材を販売するビジネスに転向して成功する可能性はあるのでしょうか』

    「その問いに答える前に、一度キメラゴンについてみてみよう。少し待ちなさい」
    そう言い、陰陽師は鑑定結果を書き記していく。

    キメラゴンSS

    ゆたぼんSS

    キメラゴンとゆたぼんの属性表を交互に眺めた後、青年は口を開く。

    『頭の1/2と魂の属性3:霊媒体質と魂の属性7:唯物論者が違う点を除けば、転生回数が“小山”に該当する、十の位が40回代で、しかも第三期である140回代であることと、魂の種類“3:武士”であることなど、ゆたぼんと魂の特徴は似ているようですが』

    「仮に魂の属性が似ているとしても、人生経験が浅い小学生、中学生が長期的な視点に立って人生の選択肢を選ぶことは難しい。そこで両親が子供を導く役割を担うわけじゃが、キメラゴンの両親はどのような人物かわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、該当する画面を見ながら口を開く。

    『彼の父親は自社革皮ブランド会社の経営を始め、不動産や飲食業も手掛けており、キメラゴンが小学5年生の時にブログを教え、彼が中学2年生の頃にネットビジネスを始めた際、20万円相当のPCを買い与えたそうです。また、母親は、無添加・無農薬の食材を通信販売しているようで、両親共にビジネスに明るく、常識人という印象を受けます』

    「どうやらそのようじゃな。彼が既に社会的な実績を上げていることは、彼の両親の教育の賜物と言うことができよう。ちなみに、ゆたぼんの教育に関し、父母のどちらが主導権を握っているかはわかるかの?」

    陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、しばらくしてから口を開く。

    “今日、長女以外の家族六人で、大阪から沖縄に引っ越して来ました!
    最初は長女も行くと言っていたのですが、四月になって急に行かないと言い出し、自立すると言って先月家を出ました。
    それまでは長女をメインにして計画を練り、兄妹も凄く頑張ってきたのですが、長女が途中で投げ出した為、すべての計画を白紙に戻す事に・・・。
    予定していたクラウドファンディングも中止し、再度、長女以外の家族六人で一から計画を練り直しました。“

    『とあり、ゆたぼんは父親の計画における、長女の代役になったと考えられますし、不登校を巡る議論においても、基本的に父親が発言していることから、父親だと思われます』

    青年の言葉に陰陽師は一つうなずいてみせ、口を開く。

    「なるほど。“魂3:武士”であるゆたぼんが、大局的見地に欠けた2−4である父親の影響を受けていることは、“不可思議”の領域からみても、この世の基準から考えてみても、ちと問題があるかも知れんの」

    『ゆたぼんに対し、父親の言いなりになっているのではないかといった言葉もあるようですが、彼はそのことを否定し、自らの意志で不登校になっていると断言しています。そして、不登校を続けた結果、将来どんなことが起きても彼は自分で責任を取ると言っています』

    「なるほど」

    『彼は動画の中でも、その時に自分がやりたいことをやり、YouTuberも飽きたらやめると公言しています。彼がYouTuberとして大成しないとしても、継続的にチャンネル登録者数を増やすことで、自身の知名度を活かして情報商材を販売してみたり、流行りのビジネスを転々として収入を得たりして、生きていけるのではないかと思いますが』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、指を小刻みに動かしてから、口を開く。

    「そのような方向性を意識して活動を続けたとしても、ワシが見る限り、難しいじゃろうな。もって5年というところじゃろうか」

    『そんなに早く消えてしまうのですか…。そうなりますと、ゆたぼんに残された道は、飛び級などで義務教育のレールとは別のルートから社会に出ることしかないと思いますが、いかがでしょうか?』

    「たしかに海外では飛び級制度があるが、我が国では導入されておらぬし、仮に我が国に飛び級制度があったとしても、その制度を利用できるのは、理系か文系の才能が突出している生徒となる」

    『つまり、ネットで見る限り、宿題が終わらずに放課後に残されて泣きながらやっていたゆたぼんの才能では、飛び級制度を利用するのは難しそうですね』

    「それにじゃ、飛び級制度を利用できる生徒たちは、若くして大学を卒業した後か在学中に、本来なら多くの生徒が中学・高校で体験するであろう体験を、補完できる能力を持っていることが前提となる

    『なるほど。つまるところ、ゆたぼんの人生は前途多難な方向に向かっているのですね。ところで』

    「なんじゃな」

    『コロナ禍でオンライン授業の導入も進んでいくでしょうし、それに伴って我が国でも飛び級制度が導入されるようになれば、義務教育の存在意義が問われていくように感じますが、先生の見解としては、義務教育にどのような意味があるとお考えでしょうか』

    「まず、義務教育を軽視すべきでない理由として、全員が全員ではないものの、義務教育をドロップアウトした多くの人物が、人間性や社会性といった中身が伴っていないことが挙げられる。特に、小学校には人間教育の場という意味でも重要であるため、過度ないじめにあったり心身を病んでまで登校する必要はないが、できるだけ登校する方が望ましいとワシは思う」

    『僕もそう思います』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作し、再び口を開く。

    『こちらは、国際大グローバル・コミュニケーションセンター准教授の山口真一さんの意見なのですが、

    “情報発信の教育や啓発はもちろん大事ですが、私は「受信の教育・啓発」も重要だと思っています。すべて防げるわけではありませんが、「自分の見ている情報は偏っているのかもしれない」という恐れがあることを知っておくだけで意識が変わります。

    ディスカッションの授業を増やした方がいいと考えています。批判するとしても、「相手を尊重したうえで」批判し、人格攻撃をしない。

    これは批判される側の意識も大切です。批判がすべて自分への攻撃だと思ってしまう人は、これまで議論の練習をしてきていないのだと思います。「攻撃と批判は違う」と考える訓練をしていくことに効果があるのではないでしょうか。“

    とあり、バックグラウンドが近い、同年代の友達とディスカッションをする機会は学生時代にしかなさそうですので、そう言った意味でも義務教育は重要なのだと思います』

    「そうじゃな。今度は“不可思議”な領域からみた理由を挙げるとすれば、“あの世”では各々別領域にいる1〜4の魂が、“この世”で共存することによって生まれる様々な“軋轢”こそが“修行”の一助となっているのじゃが、そうした意味からも、学校に登校することで、魂の種類が異なる同級生と交流することは、魂磨きのためにも重要だとワシは思う」

    『なるほど』

    「とは言え、大多数の魂1〜3の人が、在学中も卒業後も、魂4とプライベートな関係を持っていないことから、インターネットを通じて友達を作れるという、ゆたぼんの主張にも一理あり、特に、母数が少ない魂1〜3の人物は、同級生以外にも広く交友関係を持つことも重要だとワシは思う」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んでしばらく黙考してから口を開く。

    『つまり、学校では魂の種類が異なる同級生と交流することで、人間の多様性を学びつつ魂磨きの修行に励み、それと同時に、母数が少ない魂1〜3の人物は、インターネットを用いて学校外にいる今世の宿題を果たすのに適した人物と繋がり、彼ら/彼女らとの交流を増やし、深めるという二本柱の人間関係を構築することが重要なのでしょうか?』

    「まあ、そんな感じじゃ。“出会いは必然”であることから、学校で同じクラスメイトになることは各々にとって必然であるし、インターネットを通じて得る出会いもまた必然じゃ。“袖触れ合うも多少の縁”ではないが、ITが発達した現代においては、インターネットでふと目にした言葉で人生が変わることもあるじゃろうし、実際に顔が見えないとは言え、一言二言メッセージをやりとりすることも、広義の意味では出会いと言えるじゃろうし、そして、それもまた必然と言えよう。ゆえに、現実とインターネット上を問わず、あらゆる出会いを大切にすることが肝要じゃ」

    そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は自らの学生時代を振り返っていた。
    同じクラスだけでは友達の数は限りがあったが、他のクラスに顔を出せば、また新たな友達の輪が広がっていた。SNSやインターネットが持つメリットを活かして、場所に囚われずに友人を作ることは大事だと思うし、年齢を問わず様々な考え方や価値観に触れ、意見を交換することも重要だと感じた。

    今後も自分と異なる魂の種類の人物と接する機会は増えていくだろうが、同じ“魂3:武士”の人物を中心に関わるのではなく、他の魂の種類の人々とも積極的に交流し、魂を磨いていこう。

    そう、青年は決意したのだった。