新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

青年は思議していた。

コロナ禍の影響により、生活用品の買い占めに走っていた人々についてである。
買い占めはトイレットペーパーだけに留まらず、マスクの材料になるという理由で西松屋の新生児の沐浴用ガーゼが品切れとなり、その後、大阪府知事の発表(新型コロナウイルスに対して効果があるかどうかは医学的には不明)を機に“イソジン”も買い占められた。

それにしても、なぜ日本人は裏付けが取れない情報に踊らされてしまうのか?
日本人は流されやすい国民性とも言われているが、ひょっとして魂の属性と何か関係があるのだろうか?

一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師を訪ねるのだった。

『先生、こんばんは。今日は買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を教えていただこうと思い、お邪魔しました』

「買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を、とな。それは、了解したが、もう少し具体的に話してもらえるかの?」

青年は買い占めに関するニュースと日本人の行動について、疑問に感じたことを説明した。

『海外でも買い占めは起きていたものの、対象は主に食料でした。アメリカでは銃器と弾薬の売り上げも上がったようですが、こちらも、最悪の事態を想定し、自己防衛のためという意味では理にかなっていると感じました。一方で、なぜ日本人はトイレットペーパーなどの日用品を買い占めするのでしょうか?』

 

日本人が買い占めに走ってしまう理由

「以前も説明したと思うが(※第13話参照)、今回の買い占め騒動の根本的な問題は、フットワークの軽い魂4の特徴とインターネットの性質との合わせ技、さらに言うと、日本における魂4の分布の特異性が、ひとつの回答になると言えよう」

『魂4の分布の特異性でしょうか』

「そう、前にも話した通り、全世界的に6割を占める魂4が、日本の場合は、そもそも魂15%少ない。さらに、その魂4がほぼ4-4と2-4に集中しているということが、オイルショック時のトイレットペーパー騒動と、今回の騒動のマスク騒動の根本的な問題だ、とワシは思う」

今一つ納得できないでいる青年の顔を見やりながら、陰陽師が言葉を続ける。

「つまり、ワシがいつも指摘する、デマを扇動する2-4とそれに無条件で追従する4-4という構図が、今回は偽の情報の拡散とマスクやトイレットペーパー、果てには、食料品を筆頭とした日常品の買い占めという騒動に発展したということになるわけじゃな」

『なるほど』

陰陽師の説明に一つ大きく頷いた後で、青年は質問を続ける。

「日本の買い占めに、そういう構造が隠されていたことはよく理解できましたが、ついでに、1−4や3−4の特徴も含め、魂4と輪廻転生の回数の関係について、もう一度、総括的にご教授いただけませんでしょうか?』

青年の問いに一つ頷いてから、陰陽師は口を開く。

「その質問に対する回答をする前に、これからする説明とも密接に関係している、魂と輪廻転生のメカニズムについて、そなたの口から説明してもらえるかの?」

陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから口を開いた。

『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

<魂の種類>
1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
4:一般庶民(ガラ携並のOS)

<各期と輪廻転生回数>
第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
※人生を80年と仮定した場合。

魂4の特徴について

「では、次に、魂4の特徴について、理解していることを説明してもらえるかの?」

『はい。現世的にみる限り、魂4は一般庶民、つまり、社会の下支えが主な役割となります。具体的な職業としては、建設、運送業、清掃といった、いわゆるブルーカラーの職業をはじめ、警察/自衛隊、地方公務員、医療/福祉関係と多岐に渡る分野で活動しています。もちろん、一次産業従事者も、魂4が多くいることは言うまでもありません』

「そなたの説明に付言するとすれば、魂4は魂の容量が極めて小さいことから、魂1〜3の人々が論理ベースでものを考えたり、行動したりするのに対し、感情ベースの言動が多いこと、また、同様の理由から、“定見に乏しく、大局的見地に立っての判断ができない”という特徴がある。そのため、他人に洗脳/扇動されやすく、その偏狭な正義感にいったん火がつくと、徒党を組んで暴徒と化す傾向をあわせ持っていることも、しっかり記憶に留めておくようにの」

『承知いたしました』

陰陽師の説明に大きく頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

「では、ここからは各転生回数期における魂4の特徴についての説明となる。まずは4-4じゃが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

『以前、デモに参加している人々のほとんどが4−4(転生回数期が第四期の魂4)だということをお聞きしましたが、再度ご説明いただき、あらためて納得いたしました』

青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

「歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが、そして、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケット(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々のほとんどが、典型的な4−4の行動ということになる。もちろん、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員のほとんども、4-4であることは言うまでもない」

青年は納得顔で何度もうなずき、口を開く。

『ストライキを起こすのも、ストライキ破りを防ぐのも4−4という、同じ魂同士で対峙している構図は、なかなか興味深いですね』

「次に第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

『以前、3−4(転生回数期が第三期の魂4)は日本ではほとんどいないとお聞きしましたが、ちなみに、3-4はどのあたりに多く分布しているのでしょう?』

ヨーロッパ、つまり、ほとんどのEU諸国、そして、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、中国、韓国あたりが、その代表的な地域となる。そして、3-4と言えども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えると理解しやすいかの?」

『そうですねえ』

曖昧な表情でひとつ頷いた後で、青年が口を開く。

『何となくわかったような気がしないでもないのですが、そのあたりを、別な角度から、できれば具体例をあげて、ご説明いただけませんでしょうか?』

「そうじゃの。では、日本のプロ野球と大リーグの観客の違いを例にあげて説明しよう。そなたは野球の観客席を見て、何か印象に残っていることはないかの?」

陰陽師の問いに対し、青年は首を傾げてしばらく黙考した後、口を開いた。

『そうですね、学生の頃に、父と一緒にTV中継を見ていた記憶ですが、外野席の人々が打席に立つ選手に向かって一丸となって声援を送ったり、楽器を鳴らしたりと、とても賑やかだった印象が記憶に残っています』

「以前、野球は魂4が好むスポーツという話をしたと思うが、球場においてもその傾向は変わらず、特に、一番入場料の安い外野席は、文字通り、魂4の指定席ということになる。その中でも、お手製のプラカードを掲げて大声で声援を送っている人物は、まず、4−4の人々と思って差し支えあるまい」

『なるほど。以前、プロスポーツ選手は皆2-3-5-5…2という厳然たるルールがあることをお聞きしましたが(※第23話参照)、観客側の相はスポーツによって異なるのですね』

「その通りじゃ。スポーツの観客側の相と魂の種類については、また別の機会に話すとして」

そこで区切り、陰陽師は湯呑みの茶を飲んでから続ける。

「一方、大リーグの観客には、鳴り物や楽器を持ち込む人間は、基本的にいない。球場で流れる電子音楽に合わせて拍手をするようなことはあるものの、基本的に三々五々、各個人のスタイルで観戦したり、応援したりしている人物がほとんどじゃ。もちろん、中には歌ったり、踊ったりしている人物はいるものの、それもあくまで個人レベルの話で、集団で同一行動をとっているわけではないことは、BS放送のMLB中継などを見れば、すぐに納得できるはずじゃ」

黙って頷いている青年を見やり、陰陽師は続ける。

「そして、野球場の興味深い現象の一つに、バックネット裏から内野Aあたりに陣取る魂1〜3と、ヒットやホームランのたびに狂喜乱舞する魂4との温度差という問題がある」

『なるほど。僕は野球にほとんど興味ないので、そこまで注意をして野球を見たことがありませんが、野球好きが魂のメカニズムを知れば、そのように見えるわけですね。だとすれば、なんだか、野球場はこの世の縮図みたいですね』

「まあ、そういうことじゃな。さて、今度は第二期じゃが、“魂1:僧侶/王侯”を除く各魂が、この世で各々の特徴を最も顕在化させる時期がこの第二期となる。また、この時期は、本来は魂1〜3と交わることがない魂4が、学業で突出した能力を発揮するという時期であることも相まって、魂1〜3の活動領域に侵入してきて、様々な軋轢を生み出すという時期でもある」

『なるほど』

「繰り返しになるが、高学歴を背景に、2−4がビジネスの世界で一定以上の地位を確保したとしても、魂がガラ携並みである故、大局的見地によるものの判断ができないことには変わりがない。さらに2−4の特徴である、権謀術数、感情の起伏の激しさ、裏表のある二面性、えこひいきといった性格により、彼らが部長や課長にいる部署は、“部下の手柄は俺のもの、俺の失敗は部下のもの”といった風潮が蔓延しやすい

『彼らの下についた1~3の人々は、不幸以外の何物でもないと言えそうですね。とは言え、そんな2−4の人物であっても、優秀な人物に対し、それなりに評価せざるを得ないのではありませんか?』

「残念ながら、大方の場合、そうはならんのじゃ。2−4の人物は、自らの地位を脅かす優秀な部下を本能的に恐れるという潜在的な気質から、優秀な部下を潰しにかかる一方で、仕事の出来/不出来に関わらず、ご機嫌取りに終始する部下をかわいがり、時には無能な部下を高く評価するといった傾向が顕著となる

青年は大きなため息を吐き、顔を伏せながらつぶやく。

『そんな上司と同じ2−4は、同じ特徴を持つことから、ご機嫌取りが上手だと』

「その通りじゃ。当然の帰結として、そのような2―4の部長や課長の人事考課を鵜呑みにした会社のトップおよび組織体は、有能な部下を失う可能性が飛躍的に高まることは言うまでもない」

陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで小さくうなってから口を開く。

『会社のトップや人事担当の方に、ぜひ社員の鑑定を依頼していただき、魂の属性に適した人員配置をしてもらいたいものですね』

「まあ、実際に、急成長を遂げている企業のトップが、その手の話で、ワシの所を訪ねてくるケースは、けっこう多いのじゃがな」

『それを聞いて、少し安心しました』

青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら頷き、続ける。

「さらに言うと、小学校、中学校の教員や社会派弁護士と呼ばれる人物にも、2−4が多いのも、以前に説明した通りじゃ」

『その時のお話(※第17話参照)では、学業が突出している点で、2−4の人々は他の学部に比べて倍率が高い、大学の教育学部や、弁護士などの上級公務員試験に合格しやすいということでしたね』

「そう。小学校の教員は、学童に対して上から目線で接することができることもあり、彼らのプライドを満足させると同時に、給与や社会的地位が安定しているという点からも、2−4の人口が多くなりがちというメカニズムも、以前にも説明した通りじゃ」

陰陽師の言葉に対し、黙って首肯する青年を横目に、陰陽師は続ける。

「一方、弁護士の場合も、先生と呼ばれることで、顧客に対して上から目線で接することができると共に、自身のプライドを満たせるわけじゃし、社会的地位も安定している点は小学校の教員と同様じゃが、社会で幅広く活躍できることから、人脈も広がりやすく、政界進出への足がかりになるケースさえあるわけじゃな」

『社会派弁護士として、私的な領分で偏狭な正義感をかざすのは百歩譲って我慢するとしても、政治家になってまで、感情論をベースに活動してほしくないですよね』

「たしかに。2−4の人物が政権を握った国が、結果的にどうなっているかについては、別の機会にゆっくり話すとして」

青年が黙って頷くのを横目に、陰陽師は説明を続ける。

「最後は、第一期の魂4の説明になるが、現世でも老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。そして、2−4の時期に突出していた学力が再び下降線を描き始める(“特に最後の50回”)1-4とは、魂2~3同様、老人にも似たプライドの高さ、気難しさ、保守的、許容範囲の狭さと、ガラ携並みのOSという特徴が混然一体化しておる時期と規定することができるのじゃろうな」

『なるほど。ところで、1-4の人物は、日本にはほとんどいないとお聞きした記憶がありますが、彼らの多くは、どのあたりに分布しているのでしょうか』

1−4の多くは、中東、エジプト、アフリカ大陸、そして、インド、パキスタンなどを含めた、東南アジア、イランなどが、主な転生先となっている」

『僕はそれらの地域に住む人々とも特に交流がありませんが、現代でも狩猟民族だったり一夫多妻制を採用している国が多いことから、男性は非常にプライドが高く、女性は妻同士の絆を大事にしているような印象があります』

「そのあたりは、そなたの言う通りかもしれぬの」

『狩猟民族ですと、獲物の質や量で序列の区分が明確にできてしまうのでしょうし、一夫多妻制ですと、男性の方が優位なわけですから、そのあたりの分布状況は、なんとなく納得という感じです。逆に、女性の方も、一人しかいない旦那を奪い合うよりも、横のつながりを大事にするという魂4の特性が現れているような印象が強いですね』

「たしか、それらの国々には、女性が男性の下支えをするのは当然、という文化が、現在も根底にあるのかもしれぬ。じゃが、そうした話はあくまでそれらの国々の文化全般の話であって、かならずしも1−4の特徴にはならぬから、早合点せぬようにの」

『そのあたりのご指摘、しかと、了解いたしました』

青年の言葉に小さく頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

「以上、ざっと四期にわたる魂4の特徴について説明してきたが、理解できたかの?」

『はい。後は実際に1−4や3−4の人物とやりとりをすれば、腑に落ちると思います』

 

買い占めに走った人物の魂の属性について

そう言い、力強く頷く青年に笑みを向け、陰陽師は問う。

「では、話を戻して、今回、買い占めに走った人々の属性をみていこうと思うが、事の発端となったのは、どのような情報だったのじゃろうか?」

陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、該当する文章を読み上げる。

新型コロナで品薄になる品の予想を、根拠付きでお伝えします。次はトイレットペーパーとティッシュが品薄になります。生産元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーを、そもそも生産をしていないのが根拠です。品薄になる前に事前に購入しておいた方がいいですね

青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

富田優史SS

属性表に目を通した青年は、小さく息を漏らしてから口を開く。

『予想はしていましたが、やはり“魂4:一般庶民“でしたか。大局的見地の数値が30とかなり低いことから、きっと、本人は思いつきで、深く考えずに発信したのでしょうねえ。それと、下段の枝番と欄外の枝番がほぼ“7”ですから、大事になっても、知ったことではないと思っていた節もありそうですね』

「そうじゃな。しかも、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、天から“何か”が降ってきて、本人だけでなく、他者も誤った方向へ扇動するという霊障が、大山である転生回数70回代によって、いっそう発揮されてしまったとも考えられる」

『実際のところ、日本家庭工業会によれば、日本のトイレットペーパーの約98%が国内で生産されているとのことでしたので、先程の情報は完全なデマだったようです』

「なるほど」

『また、オイルショックの時と違う点は、今回は呼吸器系の疫病ということで、不織布のマスクが品切れになっていたことから、布マスクを自作するにあたり、マスクの材料となりえる西松屋の沐浴用ガーゼが買い占められて、妊婦や新生児のいる家族が困っていたことです。他にも、消毒用アルコールが売り切れ、一部の医療機関で不足しているという記事も見かけました』

「それらの品物が、本当に必要としている人々に届かないことは、たしかに、由々しき事態よのう」

『おっしゃる通りです。今度は、買い占めに走った人々の鑑定をお願いいたします』

青年が投稿を読み上げる内容に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

トイレットペーパー5個とティッシュペーパー5箱入り4つをやっと購入。全て手に持って歩いて帰宅。腕が千切れそうだったけど、買えたことに満足。

う〜さSS

ティッシュとトイレットペーパーを慌てて購入。買いすぎたかも。どこにしまおう・・・

タモターモンSS

二人の属性表に目を通した青年は、口を開く。

『この二人は典型的な、情報に踊らされたタイプのようですね。2−4の人物も買い占めしていることから、たとえ学業が突出していても、ガラ携並のOSという特徴は変わらないようですね』

「たしかに、その傾向はあるのじゃろうが、人間は多面性を持つということから、買い占めに走った事実だけを捉えて、全員が全員、魂4だと決めつけぬようにの。買い占めした中にも、魂1〜3の人物がいることは、間違いのない事実なのじゃろうから」

『そうでした。僕だって、状況によっては、買い占めに走っていたかもしれませんからね。そのあたりは、じゅうぶんに気をつけます』

青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

ホームセンターに行ったらみんなトイレットペーパー爆買い。デマだったと思いますが、万が一のために、2個購入しました

かにかにSS

青年は次の属性表の紙を眺め、少し驚いた様子で口を開く。

『この人物は、“魂2:貴族(軍人/福祉)”ですね。多少は情報に流された節はありますが、デマということには薄々感づいていたようですし、他人に配慮して、手当たり次第ではなく、必要最低限の2個を購入したところが、いかにも魂2らしいと思います』

「たしかに、魂2らしい、自制の利いた行動ということはできるかもしれんな」

青年の言葉を聞いてうなずく陰陽師を横目に、青年は次の人物に話を進める。

『この人物は、マスクが品薄で購入できる数が制限されていた頃に、同じ顔ぶれの高齢者たちが早朝からドラッグストアの前で並び、毎日マスクを買い占めしていたことがあり、他の利用者にマスクが行き届かないことを苦慮したお店が、マスクを陳列する時間を非公開にしたところ、空のマスクの陳列棚にマスクが並ぶまで、棚の前で座って待っていた高齢者です』

マスクを待つ高齢者SS

陰陽師が書いた属性表を読んだ後、青年は口を開いた。

『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字が“7”と“9”であることから、この人物は“性悪説”的な気質かつ、転生回数が30回代の“数奇な運命”を持っていることもわかりますね。彼のように、マスクの買い占めが日課になっている高齢者のせいで、他にマスクを必要としている方が購入できなくなることは、迷惑以外の何物でもないと思うのですが』

「まあ、頭2の4-4であることから、このあたりの行動をすること自体、想定内であるとは言え、彼の年齢を鑑みるに、オイルショックの経験から何も学んでいないようじゃのう」

『おっしゃる通りですね。次は、今回の騒動を活かしてビジネスの機会にしていた人物となります』

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田村誠二SS

青年が属性表に目を通した頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

「この人物は、“魂3:武士”らしく、商魂逞しい人物のようじゃのう」

『たしかに。お金のためならなりふり構わないところは、頭が2で転生回数が第三期(101〜200回)ということと、枝番の数字に“7”が多いことに起因しているのではないかと思います』

陰陽師が小さく頷くのを横目に、青年は続ける。

『次は、買い占めには加わらず、家族用の自作マスクをネットで上げ、注目を集めていた元“モーニング娘。”の初期メンバーである辻希美です。彼女のように、品不足に対して不満を口にするのではなく、代替品を探すか、自作するという発想を忘れないようにしたいです』

辻希美SS

「彼女の行動は、大局的見地に基づいた、魂3ならではと言えよう。そして、彼女のブログは多くの人々に読まれているようじゃから、彼女の発信を機に、マスクを自作しようと考えた人が増えたのじゃろうな」

陰陽師の言葉に青年は一つ頷き、口を開く。

『次の中学生ですが、自腹でマスクを自作するだけでなく、それらを全て山梨市に寄付したそうです』

青年の言葉を聞いた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。

滝本妃さんSS

属性表を眺めた青年は、感嘆の息を漏らしてから、口を開く。

『彼女は、欄外の枝番の数字が“1”で“性善説”的な気質を持っていることと、転生回数が大山である270回代であることを踏まえると、“魂2:貴族(軍人/福祉)”の“観音”としての側面(※第27話参照)が発揮された、ということがよくわかりますね』

「それだけではなく、陰陽五行に“水”を持っていることも、重要なポイントとなる。陰陽五行に“水”を持っている人物は、優しく穏やかな性格である人物が多いのじゃが、彼女が取った行動なぞは、正に、頭1の2-2という属性と、陰陽五行における“水”がもたらした行動といって差しつかえないじゃろうな」

『中学生だった頃の僕でしたら、自腹を切ってマスクを作成し、しかもそれらを寄付するなんて考えもつかないと思います。人によって取る行動が、どうしてここまで異なるのか、今までは不可思議でならなかったのですが、魂の属性によってある程度の傾向があることがあらためて理解できてくると、世の中の多くの不可思議な事象も腑に落ちる気がします』

 

買い占めのような騒動を起こさないために

青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながら、口を開く。

「今まで考察してきた話を総合的に吟味すると、昭和の第1次、第2次オイルショックにおいて“口コミ”で引き起こされた騒動が、今回は、ネットという情報伝達手段の出現により、より短期間に、集中的に拡散したため、あのような事態が起きたということになるようじゃの」

『なるほど。そして、偏狭な正義感で世論を扇動する2-4に、無条件で追従する4−4の人口比率が他国に比べて圧倒的に多い我が国の現状から、彼らの言動が日本国民の総意などという誤解を外国から受けるようなことがあるとすれば、日本人は物事に流されやすい国民、などという風評が立ちかねませんものね』

「その通りじゃ。そもそも魂4は、全世界的には6割(日本では例外的に45%)を占めており、参加意識も高いことから、今の時代、インターネット上の多くの意見が、そんな彼らの偏狭な正義感を反映させたものであることは散々説明してきたので、ここではあらためて繰り返さないが、魂1〜3の我々が、大局的見地に基づいた発信を積極的に行い、世論を先導していく必要性が、“令和”の時代ではさらに重要になってくることは確かなはずじゃ」

青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら続ける。

『ちなみに、魂1〜3の人物が発信や行動を起こさないと、どうなってしまうのでしょうか?』

「もし、偏狭な正義感で物事が判断される状況が、これ以上助長されるようなことがあったり、その延長線上にある“自粛警察”のような行動が、これ以上まかり通るようになると、中世の魔女裁判にも匹敵する狂気が正当化される危険性は、更に高まるじゃろうのう」

『なるほど。昭和の時代が理想の時代だったとは言えないとしても、あの時代に存在していたおおらかさや、寛容さみたいなものを取り戻すためには、我々魂1~3の大局的見地に基づく判断や意見が、必要不可欠だとおっしゃるわけですね』

「まあ、そういうことじゃ」

青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

「気をつけて帰るのじゃぞ」

陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

 

帰路の途中、青年はマスク姿で初詣に参拝する、大勢の人物の画像を眺めていた。
自粛を要請されている中でも、自ら密になる状況に出向く人々は、ほとんどが魂4の人物なのだろうか。

魂の属性によって取りがちな行動パターンがあるなら、それは魂のクセのようなもので、仮にそれが迷惑行動だとしても、当事者にとっては今世の課題として必要な体験なのかもしれない。

とは言え、ネット上で大局的見地に基づいた情報が主流になり、魂磨きの修行に励む人が増えるよう、本当に必要不可欠な情報は、陰陽師と協議を重ねながら、これからも発信し続けなければと、青年は決意するのだった。