月: 2021年1月

  • 新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    新千夜一夜物語 第39話:買い占めと魂の属性

    青年は思議していた。

    コロナ禍の影響により、生活用品の買い占めに走っていた人々についてである。
    買い占めはトイレットペーパーだけに留まらず、マスクの材料になるという理由で西松屋の新生児の沐浴用ガーゼが品切れとなり、その後、大阪府知事の発表(新型コロナウイルスに対して効果があるかどうかは医学的には不明)を機に“イソジン”も買い占められた。

    それにしても、なぜ日本人は裏付けが取れない情報に踊らされてしまうのか?
    日本人は流されやすい国民性とも言われているが、ひょっとして魂の属性と何か関係があるのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師を訪ねるのだった。

    『先生、こんばんは。今日は買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を教えていただこうと思い、お邪魔しました』

    「買い占めに走ってしまう人々と魂の属性についての相関関係を、とな。それは、了解したが、もう少し具体的に話してもらえるかの?」

    青年は買い占めに関するニュースと日本人の行動について、疑問に感じたことを説明した。

    『海外でも買い占めは起きていたものの、対象は主に食料でした。アメリカでは銃器と弾薬の売り上げも上がったようですが、こちらも、最悪の事態を想定し、自己防衛のためという意味では理にかなっていると感じました。一方で、なぜ日本人はトイレットペーパーなどの日用品を買い占めするのでしょうか?』

     

    日本人が買い占めに走ってしまう理由

    「以前も説明したと思うが(※第13話参照)、今回の買い占め騒動の根本的な問題は、フットワークの軽い魂4の特徴とインターネットの性質との合わせ技、さらに言うと、日本における魂4の分布の特異性が、ひとつの回答になると言えよう」

    『魂4の分布の特異性でしょうか』

    「そう、前にも話した通り、全世界的に6割を占める魂4が、日本の場合は、そもそも魂15%少ない。さらに、その魂4がほぼ4-4と2-4に集中しているということが、オイルショック時のトイレットペーパー騒動と、今回の騒動のマスク騒動の根本的な問題だ、とワシは思う」

    今一つ納得できないでいる青年の顔を見やりながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「つまり、ワシがいつも指摘する、デマを扇動する2-4とそれに無条件で追従する4-4という構図が、今回は偽の情報の拡散とマスクやトイレットペーパー、果てには、食料品を筆頭とした日常品の買い占めという騒動に発展したということになるわけじゃな」

    『なるほど』

    陰陽師の説明に一つ大きく頷いた後で、青年は質問を続ける。

    「日本の買い占めに、そういう構造が隠されていたことはよく理解できましたが、ついでに、1−4や3−4の特徴も含め、魂4と輪廻転生の回数の関係について、もう一度、総括的にご教授いただけませんでしょうか?』

    青年の問いに一つ頷いてから、陰陽師は口を開く。

    「その質問に対する回答をする前に、これからする説明とも密接に関係している、魂と輪廻転生のメカニズムについて、そなたの口から説明してもらえるかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は小さくうなずいてから口を開いた。

    『まず、永遠の世からの要請によってあの世で新たな魂が生まれます。この魂たちには各々の職責があり、大きく4つの種類に分けることができますが、生まれたばかりの魂は、永遠の世での即戦力とはならないため、まず、魂磨きの修行のためにこの世にやってきます。そして、この世とあの世の往来、つまり、転生を400回繰り返すことで魂磨きの修行を終えた魂は、永遠の命を得、永遠の世でそれぞれの職責を果たすことになります』

    そう言い、青年は紙にペンを走らせる。

    <魂の種類>
    1:僧侶/王侯(スーパーコンピューター)
    2:貴族(軍人/福祉)(汎用コンピューター)
    3:武士・武将(パーソナルコンピューター)
    4:一般庶民(ガラ携並のOS)

    <各期と輪廻転生回数>
    第一期/老年期……301~400回(61~80歳)
    第二期/円熟期……201~300回(41~60歳)
    第三期/青年期……101~200回(21~40歳)
    第四期/幼年期……1~100回(0~20歳)
    ※人生を80年と仮定した場合。

    魂4の特徴について

    「では、次に、魂4の特徴について、理解していることを説明してもらえるかの?」

    『はい。現世的にみる限り、魂4は一般庶民、つまり、社会の下支えが主な役割となります。具体的な職業としては、建設、運送業、清掃といった、いわゆるブルーカラーの職業をはじめ、警察/自衛隊、地方公務員、医療/福祉関係と多岐に渡る分野で活動しています。もちろん、一次産業従事者も、魂4が多くいることは言うまでもありません』

    「そなたの説明に付言するとすれば、魂4は魂の容量が極めて小さいことから、魂1〜3の人々が論理ベースでものを考えたり、行動したりするのに対し、感情ベースの言動が多いこと、また、同様の理由から、“定見に乏しく、大局的見地に立っての判断ができない”という特徴がある。そのため、他人に洗脳/扇動されやすく、その偏狭な正義感にいったん火がつくと、徒党を組んで暴徒と化す傾向をあわせ持っていることも、しっかり記憶に留めておくようにの」

    『承知いたしました』

    陰陽師の説明に大きく頷く青年に、陰陽師が言葉を続ける。

    「では、ここからは各転生回数期における魂4の特徴についての説明となる。まずは4-4じゃが、この世に転生してきたばかりの第四期の魂は、魂1〜3同様、人生経験が少なく、魂が未熟であることから、喜怒哀楽の論理構成がきわめて単純であり、いわゆる哲学的/形而上学的な思考回路が未熟である傾向が強い。それ故、物事の判断が極めて即物/短絡的という傾向がどうしても強くなる」

    『以前、デモに参加している人々のほとんどが4−4(転生回数期が第四期の魂4)だということをお聞きしましたが、再度ご説明いただき、あらためて納得いたしました』

    青年の言葉に一つ頷いた後で、陰陽師は言葉を続ける。

    「歴史を例にとるとすれば、室町時代中期以降の一向一揆や江戸時代の百姓一揆などが、そして、現代においても、沖縄の米軍基地や裁判所の前でピケット(争議中の労働者などがストライキ破りを防ぐために見張ること。またはその人)を張っている人々のほとんどが、典型的な4−4の行動ということになる。もちろん、それに対峙する機動隊や警察の最前線にいる人員のほとんども、4-4であることは言うまでもない」

    青年は納得顔で何度もうなずき、口を開く。

    『ストライキを起こすのも、ストライキ破りを防ぐのも4−4という、同じ魂同士で対峙している構図は、なかなか興味深いですね』

    「次に第三期じゃが、第三期に入ると人間が成長していくのと同様、社会的上昇志向が強くなる。その反面、精神面ではまだまだ幼いところが垣間見え、特に、前半の50回あたりまでは、形而上学的な思考回路と、情緒的な未熟さが目立つ」

    『以前、3−4(転生回数期が第三期の魂4)は日本ではほとんどいないとお聞きしましたが、ちなみに、3-4はどのあたりに多く分布しているのでしょう?』

    ヨーロッパ、つまり、ほとんどのEU諸国、そして、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、中国、韓国あたりが、その代表的な地域となる。そして、3-4と言えども、魂の容量がガラ携並みという事実は変わらぬわけじゃから、扇動されやすい“大衆”という性質は基本的に変わらない。反面、4−4とは違い、“個”が現れ始めている時期の魂4と考えると理解しやすいかの?」

    『そうですねえ』

    曖昧な表情でひとつ頷いた後で、青年が口を開く。

    『何となくわかったような気がしないでもないのですが、そのあたりを、別な角度から、できれば具体例をあげて、ご説明いただけませんでしょうか?』

    「そうじゃの。では、日本のプロ野球と大リーグの観客の違いを例にあげて説明しよう。そなたは野球の観客席を見て、何か印象に残っていることはないかの?」

    陰陽師の問いに対し、青年は首を傾げてしばらく黙考した後、口を開いた。

    『そうですね、学生の頃に、父と一緒にTV中継を見ていた記憶ですが、外野席の人々が打席に立つ選手に向かって一丸となって声援を送ったり、楽器を鳴らしたりと、とても賑やかだった印象が記憶に残っています』

    「以前、野球は魂4が好むスポーツという話をしたと思うが、球場においてもその傾向は変わらず、特に、一番入場料の安い外野席は、文字通り、魂4の指定席ということになる。その中でも、お手製のプラカードを掲げて大声で声援を送っている人物は、まず、4−4の人々と思って差し支えあるまい」

    『なるほど。以前、プロスポーツ選手は皆2-3-5-5…2という厳然たるルールがあることをお聞きしましたが(※第23話参照)、観客側の相はスポーツによって異なるのですね』

    「その通りじゃ。スポーツの観客側の相と魂の種類については、また別の機会に話すとして」

    そこで区切り、陰陽師は湯呑みの茶を飲んでから続ける。

    「一方、大リーグの観客には、鳴り物や楽器を持ち込む人間は、基本的にいない。球場で流れる電子音楽に合わせて拍手をするようなことはあるものの、基本的に三々五々、各個人のスタイルで観戦したり、応援したりしている人物がほとんどじゃ。もちろん、中には歌ったり、踊ったりしている人物はいるものの、それもあくまで個人レベルの話で、集団で同一行動をとっているわけではないことは、BS放送のMLB中継などを見れば、すぐに納得できるはずじゃ」

    黙って頷いている青年を見やり、陰陽師は続ける。

    「そして、野球場の興味深い現象の一つに、バックネット裏から内野Aあたりに陣取る魂1〜3と、ヒットやホームランのたびに狂喜乱舞する魂4との温度差という問題がある」

    『なるほど。僕は野球にほとんど興味ないので、そこまで注意をして野球を見たことがありませんが、野球好きが魂のメカニズムを知れば、そのように見えるわけですね。だとすれば、なんだか、野球場はこの世の縮図みたいですね』

    「まあ、そういうことじゃな。さて、今度は第二期じゃが、“魂1:僧侶/王侯”を除く各魂が、この世で各々の特徴を最も顕在化させる時期がこの第二期となる。また、この時期は、本来は魂1〜3と交わることがない魂4が、学業で突出した能力を発揮するという時期であることも相まって、魂1〜3の活動領域に侵入してきて、様々な軋轢を生み出すという時期でもある」

    『なるほど』

    「繰り返しになるが、高学歴を背景に、2−4がビジネスの世界で一定以上の地位を確保したとしても、魂がガラ携並みである故、大局的見地によるものの判断ができないことには変わりがない。さらに2−4の特徴である、権謀術数、感情の起伏の激しさ、裏表のある二面性、えこひいきといった性格により、彼らが部長や課長にいる部署は、“部下の手柄は俺のもの、俺の失敗は部下のもの”といった風潮が蔓延しやすい

    『彼らの下についた1~3の人々は、不幸以外の何物でもないと言えそうですね。とは言え、そんな2−4の人物であっても、優秀な人物に対し、それなりに評価せざるを得ないのではありませんか?』

    「残念ながら、大方の場合、そうはならんのじゃ。2−4の人物は、自らの地位を脅かす優秀な部下を本能的に恐れるという潜在的な気質から、優秀な部下を潰しにかかる一方で、仕事の出来/不出来に関わらず、ご機嫌取りに終始する部下をかわいがり、時には無能な部下を高く評価するといった傾向が顕著となる

    青年は大きなため息を吐き、顔を伏せながらつぶやく。

    『そんな上司と同じ2−4は、同じ特徴を持つことから、ご機嫌取りが上手だと』

    「その通りじゃ。当然の帰結として、そのような2―4の部長や課長の人事考課を鵜呑みにした会社のトップおよび組織体は、有能な部下を失う可能性が飛躍的に高まることは言うまでもない」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、腕を組んで小さくうなってから口を開く。

    『会社のトップや人事担当の方に、ぜひ社員の鑑定を依頼していただき、魂の属性に適した人員配置をしてもらいたいものですね』

    「まあ、実際に、急成長を遂げている企業のトップが、その手の話で、ワシの所を訪ねてくるケースは、けっこう多いのじゃがな」

    『それを聞いて、少し安心しました』

    青年の言葉に、陰陽師は微笑みながら頷き、続ける。

    「さらに言うと、小学校、中学校の教員や社会派弁護士と呼ばれる人物にも、2−4が多いのも、以前に説明した通りじゃ」

    『その時のお話(※第17話参照)では、学業が突出している点で、2−4の人々は他の学部に比べて倍率が高い、大学の教育学部や、弁護士などの上級公務員試験に合格しやすいということでしたね』

    「そう。小学校の教員は、学童に対して上から目線で接することができることもあり、彼らのプライドを満足させると同時に、給与や社会的地位が安定しているという点からも、2−4の人口が多くなりがちというメカニズムも、以前にも説明した通りじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、黙って首肯する青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「一方、弁護士の場合も、先生と呼ばれることで、顧客に対して上から目線で接することができると共に、自身のプライドを満たせるわけじゃし、社会的地位も安定している点は小学校の教員と同様じゃが、社会で幅広く活躍できることから、人脈も広がりやすく、政界進出への足がかりになるケースさえあるわけじゃな」

    『社会派弁護士として、私的な領分で偏狭な正義感をかざすのは百歩譲って我慢するとしても、政治家になってまで、感情論をベースに活動してほしくないですよね』

    「たしかに。2−4の人物が政権を握った国が、結果的にどうなっているかについては、別の機会にゆっくり話すとして」

    青年が黙って頷くのを横目に、陰陽師は説明を続ける。

    「最後は、第一期の魂4の説明になるが、現世でも老年期に差しかかった61~80歳の人間の最大公約数的な特徴を三つあげるとすれば、“保守的・幼児帰り・頑固”ということになる。そして、2−4の時期に突出していた学力が再び下降線を描き始める(“特に最後の50回”)1-4とは、魂2~3同様、老人にも似たプライドの高さ、気難しさ、保守的、許容範囲の狭さと、ガラ携並みのOSという特徴が混然一体化しておる時期と規定することができるのじゃろうな」

    『なるほど。ところで、1-4の人物は、日本にはほとんどいないとお聞きした記憶がありますが、彼らの多くは、どのあたりに分布しているのでしょうか』

    1−4の多くは、中東、エジプト、アフリカ大陸、そして、インド、パキスタンなどを含めた、東南アジア、イランなどが、主な転生先となっている」

    『僕はそれらの地域に住む人々とも特に交流がありませんが、現代でも狩猟民族だったり一夫多妻制を採用している国が多いことから、男性は非常にプライドが高く、女性は妻同士の絆を大事にしているような印象があります』

    「そのあたりは、そなたの言う通りかもしれぬの」

    『狩猟民族ですと、獲物の質や量で序列の区分が明確にできてしまうのでしょうし、一夫多妻制ですと、男性の方が優位なわけですから、そのあたりの分布状況は、なんとなく納得という感じです。逆に、女性の方も、一人しかいない旦那を奪い合うよりも、横のつながりを大事にするという魂4の特性が現れているような印象が強いですね』

    「たしか、それらの国々には、女性が男性の下支えをするのは当然、という文化が、現在も根底にあるのかもしれぬ。じゃが、そうした話はあくまでそれらの国々の文化全般の話であって、かならずしも1−4の特徴にはならぬから、早合点せぬようにの」

    『そのあたりのご指摘、しかと、了解いたしました』

    青年の言葉に小さく頷いた後で、陰陽師が言葉を続ける。

    「以上、ざっと四期にわたる魂4の特徴について説明してきたが、理解できたかの?」

    『はい。後は実際に1−4や3−4の人物とやりとりをすれば、腑に落ちると思います』

     

    買い占めに走った人物の魂の属性について

    そう言い、力強く頷く青年に笑みを向け、陰陽師は問う。

    「では、話を戻して、今回、買い占めに走った人々の属性をみていこうと思うが、事の発端となったのは、どのような情報だったのじゃろうか?」

    陰陽師の問いに答えるべく、青年はスマートフォンを操作し、該当する文章を読み上げる。

    新型コロナで品薄になる品の予想を、根拠付きでお伝えします。次はトイレットペーパーとティッシュが品薄になります。生産元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーを、そもそも生産をしていないのが根拠です。品薄になる前に事前に購入しておいた方がいいですね

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、紙に鑑定結果を書き記していく。

    富田優史SS

    属性表に目を通した青年は、小さく息を漏らしてから口を開く。

    『予想はしていましたが、やはり“魂4:一般庶民“でしたか。大局的見地の数値が30とかなり低いことから、きっと、本人は思いつきで、深く考えずに発信したのでしょうねえ。それと、下段の枝番と欄外の枝番がほぼ“7”ですから、大事になっても、知ったことではないと思っていた節もありそうですね』

    「そうじゃな。しかも、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、天から“何か”が降ってきて、本人だけでなく、他者も誤った方向へ扇動するという霊障が、大山である転生回数70回代によって、いっそう発揮されてしまったとも考えられる」

    『実際のところ、日本家庭工業会によれば、日本のトイレットペーパーの約98%が国内で生産されているとのことでしたので、先程の情報は完全なデマだったようです』

    「なるほど」

    『また、オイルショックの時と違う点は、今回は呼吸器系の疫病ということで、不織布のマスクが品切れになっていたことから、布マスクを自作するにあたり、マスクの材料となりえる西松屋の沐浴用ガーゼが買い占められて、妊婦や新生児のいる家族が困っていたことです。他にも、消毒用アルコールが売り切れ、一部の医療機関で不足しているという記事も見かけました』

    「それらの品物が、本当に必要としている人々に届かないことは、たしかに、由々しき事態よのう」

    『おっしゃる通りです。今度は、買い占めに走った人々の鑑定をお願いいたします』

    青年が投稿を読み上げる内容に耳を傾けながら、陰陽師は紙に鑑定結果を書き記していく。

    トイレットペーパー5個とティッシュペーパー5箱入り4つをやっと購入。全て手に持って歩いて帰宅。腕が千切れそうだったけど、買えたことに満足。

    う〜さSS

    ティッシュとトイレットペーパーを慌てて購入。買いすぎたかも。どこにしまおう・・・

    タモターモンSS

    二人の属性表に目を通した青年は、口を開く。

    『この二人は典型的な、情報に踊らされたタイプのようですね。2−4の人物も買い占めしていることから、たとえ学業が突出していても、ガラ携並のOSという特徴は変わらないようですね』

    「たしかに、その傾向はあるのじゃろうが、人間は多面性を持つということから、買い占めに走った事実だけを捉えて、全員が全員、魂4だと決めつけぬようにの。買い占めした中にも、魂1〜3の人物がいることは、間違いのない事実なのじゃろうから」

    『そうでした。僕だって、状況によっては、買い占めに走っていたかもしれませんからね。そのあたりは、じゅうぶんに気をつけます』

    青年の言葉を聞き、陰陽師は微笑みながらうなずく。

    ホームセンターに行ったらみんなトイレットペーパー爆買い。デマだったと思いますが、万が一のために、2個購入しました

    かにかにSS

    青年は次の属性表の紙を眺め、少し驚いた様子で口を開く。

    『この人物は、“魂2:貴族(軍人/福祉)”ですね。多少は情報に流された節はありますが、デマということには薄々感づいていたようですし、他人に配慮して、手当たり次第ではなく、必要最低限の2個を購入したところが、いかにも魂2らしいと思います』

    「たしかに、魂2らしい、自制の利いた行動ということはできるかもしれんな」

    青年の言葉を聞いてうなずく陰陽師を横目に、青年は次の人物に話を進める。

    『この人物は、マスクが品薄で購入できる数が制限されていた頃に、同じ顔ぶれの高齢者たちが早朝からドラッグストアの前で並び、毎日マスクを買い占めしていたことがあり、他の利用者にマスクが行き届かないことを苦慮したお店が、マスクを陳列する時間を非公開にしたところ、空のマスクの陳列棚にマスクが並ぶまで、棚の前で座って待っていた高齢者です』

    マスクを待つ高齢者SS

    陰陽師が書いた属性表を読んだ後、青年は口を開いた。

    『やはり、4−4でしたか。欄外の枝番の数字が“7”と“9”であることから、この人物は“性悪説”的な気質かつ、転生回数が30回代の“数奇な運命”を持っていることもわかりますね。彼のように、マスクの買い占めが日課になっている高齢者のせいで、他にマスクを必要としている方が購入できなくなることは、迷惑以外の何物でもないと思うのですが』

    「まあ、頭2の4-4であることから、このあたりの行動をすること自体、想定内であるとは言え、彼の年齢を鑑みるに、オイルショックの経験から何も学んでいないようじゃのう」

    『おっしゃる通りですね。次は、今回の騒動を活かしてビジネスの機会にしていた人物となります』

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    田村誠二SS

    青年が属性表に目を通した頃合いを見計らい、陰陽師は口を開く。

    「この人物は、“魂3:武士”らしく、商魂逞しい人物のようじゃのう」

    『たしかに。お金のためならなりふり構わないところは、頭が2で転生回数が第三期(101〜200回)ということと、枝番の数字に“7”が多いことに起因しているのではないかと思います』

    陰陽師が小さく頷くのを横目に、青年は続ける。

    『次は、買い占めには加わらず、家族用の自作マスクをネットで上げ、注目を集めていた元“モーニング娘。”の初期メンバーである辻希美です。彼女のように、品不足に対して不満を口にするのではなく、代替品を探すか、自作するという発想を忘れないようにしたいです』

    辻希美SS

    「彼女の行動は、大局的見地に基づいた、魂3ならではと言えよう。そして、彼女のブログは多くの人々に読まれているようじゃから、彼女の発信を機に、マスクを自作しようと考えた人が増えたのじゃろうな」

    陰陽師の言葉に青年は一つ頷き、口を開く。

    『次の中学生ですが、自腹でマスクを自作するだけでなく、それらを全て山梨市に寄付したそうです』

    青年の言葉を聞いた陰陽師は、鑑定結果を紙に書き記していく。

    滝本妃さんSS

    属性表を眺めた青年は、感嘆の息を漏らしてから、口を開く。

    『彼女は、欄外の枝番の数字が“1”で“性善説”的な気質を持っていることと、転生回数が大山である270回代であることを踏まえると、“魂2:貴族(軍人/福祉)”の“観音”としての側面(※第27話参照)が発揮された、ということがよくわかりますね』

    「それだけではなく、陰陽五行に“水”を持っていることも、重要なポイントとなる。陰陽五行に“水”を持っている人物は、優しく穏やかな性格である人物が多いのじゃが、彼女が取った行動なぞは、正に、頭1の2-2という属性と、陰陽五行における“水”がもたらした行動といって差しつかえないじゃろうな」

    『中学生だった頃の僕でしたら、自腹を切ってマスクを作成し、しかもそれらを寄付するなんて考えもつかないと思います。人によって取る行動が、どうしてここまで異なるのか、今までは不可思議でならなかったのですが、魂の属性によってある程度の傾向があることがあらためて理解できてくると、世の中の多くの不可思議な事象も腑に落ちる気がします』

     

    買い占めのような騒動を起こさないために

    青年の言葉に対し、陰陽師は満足そうに微笑みながら、口を開く。

    「今まで考察してきた話を総合的に吟味すると、昭和の第1次、第2次オイルショックにおいて“口コミ”で引き起こされた騒動が、今回は、ネットという情報伝達手段の出現により、より短期間に、集中的に拡散したため、あのような事態が起きたということになるようじゃの」

    『なるほど。そして、偏狭な正義感で世論を扇動する2-4に、無条件で追従する4−4の人口比率が他国に比べて圧倒的に多い我が国の現状から、彼らの言動が日本国民の総意などという誤解を外国から受けるようなことがあるとすれば、日本人は物事に流されやすい国民、などという風評が立ちかねませんものね』

    「その通りじゃ。そもそも魂4は、全世界的には6割(日本では例外的に45%)を占めており、参加意識も高いことから、今の時代、インターネット上の多くの意見が、そんな彼らの偏狭な正義感を反映させたものであることは散々説明してきたので、ここではあらためて繰り返さないが、魂1〜3の我々が、大局的見地に基づいた発信を積極的に行い、世論を先導していく必要性が、“令和”の時代ではさらに重要になってくることは確かなはずじゃ」

    青年は腕を組み、眉間にシワを寄せながら続ける。

    『ちなみに、魂1〜3の人物が発信や行動を起こさないと、どうなってしまうのでしょうか?』

    「もし、偏狭な正義感で物事が判断される状況が、これ以上助長されるようなことがあったり、その延長線上にある“自粛警察”のような行動が、これ以上まかり通るようになると、中世の魔女裁判にも匹敵する狂気が正当化される危険性は、更に高まるじゃろうのう」

    『なるほど。昭和の時代が理想の時代だったとは言えないとしても、あの時代に存在していたおおらかさや、寛容さみたいなものを取り戻すためには、我々魂1~3の大局的見地に基づく判断や意見が、必要不可欠だとおっしゃるわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に小さく頷きながら、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

     

    帰路の途中、青年はマスク姿で初詣に参拝する、大勢の人物の画像を眺めていた。
    自粛を要請されている中でも、自ら密になる状況に出向く人々は、ほとんどが魂4の人物なのだろうか。

    魂の属性によって取りがちな行動パターンがあるなら、それは魂のクセのようなもので、仮にそれが迷惑行動だとしても、当事者にとっては今世の課題として必要な体験なのかもしれない。

    とは言え、ネット上で大局的見地に基づいた情報が主流になり、魂磨きの修行に励む人が増えるよう、本当に必要不可欠な情報は、陰陽師と協議を重ねながら、これからも発信し続けなければと、青年は決意するのだった。

  • 新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    新千夜一夜物語 第38話:陰陽師/霊能力者の条件

    青年は思議していた。

    見えない存在とのやりとりを断言的に話す人物は、眷属や魑魅魍魎の影響を受けている可能性が高いことから、そうした人物が発信する情報には注意すべき、ということについてである。
    では、陰陽師/霊能力者の条件とは、どのような内容なのだろうか?

    一人で考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

    『先生、今日は陰陽師/霊能力者の条件について教えていただけませんか?』

    「今日もまた、壮大なテーマじゃな。して、その質問をするにあたり、どのような経緯があったのかな?」

    『陰陽師や霊能力者という言葉は巷に溢れかえっていますが、実際のところ、先生のような陰陽師/霊能力者との違いが、いまいち理解できないのです』

    「なるほど。その質問に答える前に、確認ではあるが、そなたは霊能力についてどのような理解をしておるのかな?」

    『まず、霊能力者は、鑑定結果の属性表の現世における具体的な性格/ソフトに続く因子が(±1〜9)となります。そして、霊能力は古来の分類では6つ、天眼通力、天耳通力、自他通力、運命通力、宿命通力、漏尽通力があり、先生たち陰陽師/霊能力者の間では、天眼通力、天耳通力、自他通力、漏尽通力の存在を認める人物が多い反面、運命通力、宿命通力の存在については懐疑的な意見を持つ人物がかなり多い、と以前にお聞きしました」

    青年の説明を聞いた陰陽師は、小さく頷いた後に口を開く。

    「“運命通力”と“宿命通力”に対し、懐疑的な意見を持つ人物が多い理由については、理解しておるかな?」

    『未来は地球上にいる80億人の人間たちの一瞬一瞬の選択の積み重ねと、地震、津波、気温の急激な変動といった天変地異などが複雑に絡み合っているからで、大まかな道筋はついているとしても、確定した未来は存在しないから、と認識しています』

    「その通りじゃ」

    小さく頷きながら、陰陽師は霊能力の詳細を紙に書き記していく。

    ・宿命通力:その人がどういう天命を持って生まれてきたのか、何故こういう運命になったのかという、前世・今世・来世のことがわかる能力。

    ・運命通力:運命を予知する能力で、以前こういうことがあったとか、この先こういう時期にこういうことがあるであろうということがわかる能力、簡単に言えば、人間の過去世や未来が見える能力。

    ・天眼通力:相手が何をしているか、将来はどうなるか、それらを神様が霊眼で見せてくれる能力。

    ・天耳通力:耳で神の意図がキャッチできたり、心霊と話ができたりする能力。

    ・自他通力:読心術のことであり、相手の思っていることがすぐ読めるという能力。“黙って座れば、ピタリとあたる”という易者などが、その典型的な例。

    ・漏尽通力:人の悩み、苦しみ、人生上の様々な問題を(今世の宿題と抵触しない程度に)解決する能力のことで、漏尽とは漏れなく尽くすという意味となり、人間の問題点、苦しみを漏れなく尽くして解決し、幸せに導く能力。

    青年が書いた内容を読み終えた頃合いに、陰陽師は口を開く。

    「一つ加えておくと、この世が修行の場であるという前提からすると、最後の“漏尽通力”も“幸せに導く能力”という点に問題があることを覚えておくようにの」

    『たしかに。人間の問題や苦しみを解決することは、多くの新興宗教が目指している“地上天国”を目指すことに繋がりかねませんからね』

    納得顔で頷く青年に微笑みかけ、陰陽師は続ける。

     

    陰陽師について

    「さて、話を戻すが、平安時代あたりにおける陰陽師の定義とは、天文学、暦のエキスパートのこととなり、現代で言うところの、科学者や文部大臣のような存在じゃったと考えてもらうといいじゃろう」

    『なるほど。陰陽師と言うと、どうしても霊能力/超能力者というイメージがつきまとうのですが、天文学や暦といった理科系のエキスパートだったのですね。たしかに、三国志で有名な諸葛亮孔明も軍師とか祈祷師というイメージが強いですが、赤壁の戦いにおいて、地形図と天候を把握して東南の風が吹くことを知っていたという説を聞いたことがあります』

    「諸葛亮孔明の話はさておき、960年40歳で天文得業生(陰陽寮に所属し天文博士から天文道を学ぶ学生の職)であった安倍晴明は、村上天皇に占いを命ぜられておることをみてもわかるように、占いの効能は、当時の貴族社会で広く認められていたようじゃ。また、993年2月に一条天皇が急な病に伏せった折、安倍晴明が禊を奉仕したところ、たちまち病が回復したことや、1004年7月には深刻な干魃が続いたために清明が命を受けて雨乞いの五龍祭を行なったところ、雨が降ったという逸話も残っておるところからも、そのような効能の一端を窺い知ることができる」

    陰陽師の説明を聞いた青年は、スマートフォンで自分なりに調べてから口を開く。

    『雨乞いは天文学の知識でもできそうですが、病気平癒に関しては、まさに“霊能力”のなせる業だと思います。それに、979年当時59歳だった安倍晴明は、那智山の天狗を封じる儀式を行なったようですが、天狗が魑魅魍魎(※第36話参照)に含まれることを考えると、先生が日々行なってくださっている“お祓い”に近いことはできたのではないかと』

    陰陽師は手元にあった属性表の束をめくり、その中の一枚を青年の前に差し出す。

    安倍晴明SS

    安倍晴明の属性表を見た青年は、驚きの声を上げる。

    『安倍晴明はやはり“霊能力者”で、しかも(±1)と最上位なのですね! ただ、先祖霊の霊障に“17:天啓”があることと、精神疾患に“14.邪神2(第七感=近い未来がわかる。しかし邪神をふくめ霊障である以上、どうでもいいことはわかったとしても、人生の大事な分岐点では常に嘘の情報をあたえられ、結果人生を転落していく)or口撃、人的な問題で諸事が前に進まず”のみがあることを踏まえると、これらの合わせ技によって、人生の大事な分岐点で、眷属や邪神に唆されたり、占術の結果を誤解した可能性があるのですね』

    「以前にも説明したとおり、精神疾患の項目に関しては、チャクラの異常が1~7のすべてに出ているために40点中39点分が塞がれているというよりも、たとえば第7チャクラだけで39点分塞がれている方が、その一点が重篤であるのと同様、13番がなく14番だけということは、それだけ14番が重篤なことを示しているわけじゃな」

    腕を組んで小さく唸る青年を横目に、陰陽師は続ける。

    「とは言え、彼は晩年、左京権大夫、穀倉院別当、播磨守などの官職を歴任し、位階は従四位下にまで昇ったようじゃが、発揮されていたパフォーマンスが40%の状態でも彼がそこまでの地位にたどり着けたのは、まさに属性表の数値のなせる業というわけじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表に目を通す。

    『おっしゃる通りだと思います。では、属性表や当時の実績から、安倍晴明は先生のような陰陽師/霊能力者の条件を満たしていたと考えても問題ないのでしょうか?』

    青年の問いに対し、陰陽師は小さく首を左右に振ってから口を開く。

    「いや、それはまた別の話になる。仮に彼が霊的なものごとに対するソリューションを持つ人物であっても、ワシの考えに賛同するとは限らぬし、現世利益や私利私欲のために能力を行使せず、本物の“カミ”の意向を把握していたかどうかには大いに疑問が残るからの」

    『なるほど。真の“霊能力者”であるかどうかは、霊能力の強さなどの属性表の結果だけでは決まらないということですね』

    陰陽師の言葉に一つ頷いた後で、青年が言葉を続ける。

    『ところで、最近、メディアで話題になっている陰陽師がいるのですが、彼なんかはいかがでしょうか?』

    「ふむ。鑑定するまでもなく怪しげな人物のようじゃが、その前に、そなたなりの見解はどうなのじゃ?」

    いつもの笑みでそう問いかける陰陽師に対し、青年は苦笑を浮かべながら口を開く。

    『頭2の魂2−4で霊媒体質(−1)、霊障と天命運に“17:憑依”の相があり、第6・7チャクラが乱れているのではないかと』

    そう答えた後、青年はその陰陽師の名前を陰陽師に告げる。
    陰陽師は指を小刻みに動かした後、紙に鑑定結果を書き記していく。

    橋本京明SS

    属性表を見た青年は目を見開き、口を開く。

    『やはり、チャクラの乱れは6のみでしたか。SNSを通じていろんな人物の属性表を見て思うのは、肩書きや経歴を誇張気味で発信している陰陽師や霊能力者は、基本的に、頭が2で魂2−4の人物が多いように感じます』

    「全員が全員、頭が2の魂2−4とは限らぬものの、そなたの見立て通り、確率的に頭2の2―4が多いと思って差し支えはないじゃろうな」

    『僕としては、一人でも多くの方に、魂磨きの修行の重要性に早めに気づいていただきたいと思っているのですが、彼のような人物の言葉を信じ、今日もモチベーションを保って仕事に励んでいる人たちがいることは、悩ましい限りです』

    「そなたの言うこともわからぬではないが、結局は、本人たちが信じるに値すると判断した力や見えない存在を信じるのはしょうがないことじゃし、信じた結果から学ぶこともまた、修行の一つなのじゃろうて」

    陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で首肯し、口を開いた。

    『ちなみに、この人物ですが、彼の祖父が陰陽師で、霊に対する魔の祓い方を教わったことをきっかけに、学童の頃から占いの学問を始めたようです。魂2−4が学業に突出するという特徴と、転生回数が数奇な運命を歩みやすい230回代であることを鑑みると、まさに学問としての占いは、彼にとって得意分野だったのかもしれません』

    「たしかに、2―4の占い師が多いのも、そのほとんどが2(3)-4であるのも、統計学的な事実じゃからな」

    陰陽師はいつもの笑みを浮かべて小さく頷いた後、口を開く。

    「ちなみに、霊能力に関して、忘れてはならぬ原則がある」

    『とおっしゃいますと?』

    そう言い、青年は背筋を伸ばす。

    「それは、“霊能力”は基本的に一代限りという大原則じゃ。仮に、その子孫たちが初代の“霊能力者”の人物の儀式の型や智恵を代々伝承したところで、それらの形式的な儀式が、様々な霊的な問題にたいして全く用をなさないことは、伝統的な宗教を見れば一目瞭然じゃ」

    『つまり、陰陽師/霊能力者の何代目の子孫と謳っているからと言って、本人に霊能力があるとは限らないということですね。ちなみに、この陰陽師は様々な占術を用いて占いをしているようです』

    そう言い、青年はスマートフォンを操作して占術を告げていく。

    「まあ、その人物が、何を種本にして占いをしようと、自由じゃが」

    そう前置きをしたうえで、陰陽師が口を開く。

    「一口に暦と言ったところで、その暦自体も、世界規模でこれまでに何度も変わっておるし、大きな視点で見れば、地球もその他の星々も、宇宙の同じ場所に存在しているわけではない。また、先ほども言ったように、未来は我々人間一人一人の行動と地球の活動によって変化することから、未来予知に関する鑑定自体、ワシに言わせるとあまり意味がないということになる」

    『そうでしたね。仮に占いで望ましい未来が出、それが的中してその時は幸せだったとしても、その幸せが、実は、さらなる不幸の始まりとなる可能性もありますし、その逆もまた然りなわけですから、未来のことを考える暇があるなら、瞬間瞬間の選択で悔いが残らないように行動する方が大事なのですよね』

    「その通りじゃ」

    青年の言葉に陰陽師はいつもの笑みをたたえて頷いた後、口を開く。

    「他に、誰か気になる人物はおらんのかな?」

    『テレビ番組に出演していた霊能力者として、この人物はいかがでしょうか?』

    「どんな人物かの?」

    青年はスマートフォンを操作し、その霊能力者の経歴を挙げていく。

    『彼は18歳頃から心霊現象に悩まされてから、1年間寺で修行した後、2年間の滝行を経て憑依体質を克服したと書かれています。その後、霊視アドバイスを続ける中で、別荘の心霊現象に悩んでいた小説家の相談に乗ったことで、その小説家の縁でメディアに出演することになったと。その後は、テレビ番組にレギュラー出演するだけでなく、霊視によってゲストの部屋の中を言い当てるなどして番組を盛り上げていたようです』

    黙って耳を傾ける陰陽師の様子を察し、青年は続ける。

    『ただ、彼の番組をきっかけに中学生が飛び降り自殺をしてしまったり、とある女優の死んだ父親を霊視して語ったところ、実はその父親は存命だったり、合成された偽物の心霊写真を本物だと断言してしまうなど、彼の霊能力に対する疑惑や批判の声もそれなりにあったようです』

    陰陽師は指を小刻みに動かし、紙に鑑定結果を書き記していく。

    江原啓之SS

    内容を一通り眺めた青年は、小さく息を漏らしてから、再び口を開く。

    『残念ながら、この人物はいわゆる“霊能力者”ではありませんでしたか。彼は、イギリスに渡ってアカデミックなスピリチュアリズムを学び、短大でスピリチュアリズム授業を行うなど、現実面での活動もしっかりしていたようですが、少し残念です』

    「修験道での修行や滝行によって憑依体質を克服したと言っておったが、霊障と天命運に“17:天啓”の相が残ったままじゃし、言うまでもないことじゃが、修行によって霊能力が身につくことも、霊媒体質が変わることもない」

    陰陽師の言葉に対し、青年は頷いてから、口を開く。

    『血脈の霊障に“3:精神”と“4:病気”の相もありますから、以前にお話を聞かせていただいた、前世の記憶を語る少年(※第24話参照)に近いケースなのかもしれませんね』

    青年の言葉に対し、陰陽師は小さく頷いてから、続ける。

    「ワシが知る限りでは、彼はオペラ歌手もやっているようじゃが、自身の公演の中で歌を披露してみたり、他のプロの歌手と共演という形を取っていることから、 “排除命令”に抵触しないグレーゾーンでも活動しているようじゃな」

    陰陽師の言葉を聞き、青年は再び属性表を眺めから、口を開く。

    『オペラ歌手以外にも、一般社団法人の理事長や、作家やタレント、スピリチュアルカウンセラーと活動が多岐にわたっているので、魂の属性が、プロのスポーツ・芸能・芸術を生業にできる2−3−5−5…2(※第23話参照)ではありませんが、ギリギリセーフなのでしょうね』

    「かなりきわどいところを歩いているが、今までのところ、ぎりぎりセーフと言えなくもないのじゃろうな」

    『よくわかりました。それにしても』

    二つの属性表を手に取り、青年は眉間にシワを寄せながら口を開く。

    『先ほどの陰陽師もそうですが、メディアで話題になる人物は、先生のような陰陽師/霊能力者の条件にあてはまる人物は、ほぼいなそうですね』

    そう言い、暗い表情で視線を落とす青年を励ますように、陰陽師は微笑みながら声をかける。

    「そう落ち込むでない。そもそも、見えない世界の話じゃから、陰陽師/霊能力者が行使している能力が本物か偽物かを判定することは難しい。また、どの人物が仮に本物だとしても、多くの新興宗教のように地上天国を目指すという方向性が正しいのか、現代医学の西洋医のように、病気だから治すのが善(最終的に不老不死を目指す)という考え方が正しいのか、という問題もある」

    『なるほど。安倍晴明は病気平癒や雨乞いをしていましたが、それらが“本物のカミ”の意向に沿っていたとは限らないのですね』

    「その通りじゃ。仮に陰陽師や、既存の新興宗教の開祖が、たとえそれなりの霊能力を持っていたとしても、彼らがどのような“理念/哲学”をもって、教義や宗教を確立させたのかということの方がはるかに重要なのじゃよ」

    陰陽師の言葉を聞いた青年は、記憶を辿るように視線を巡らせ、黙考する。
    そんな青年に対し、陰陽師は励ますような笑みを向けて言葉を発した。

    「何か気になることでもあるのかの? どんなことでもかまわぬから、とりあえず話してみるがよい」

    そんな陰陽師の様子を見て安心したのか、青年は小さく頷いてから、口を開く。

    『以前、“邪神”は既存/新興の宗教が新たに作り出した“神(もどき)”とお聞きしましたが、新興宗教の信者たちが教祖を神格化することによって、死後、教祖が邪神となってしまうこともあるのでしょうか?』

    「その場合の“邪神”は信者側の問題であるわけじゃから、本人とは直接関係はないが、教祖本人が死後も崇めてもらおうとこの世に執着し、地縛霊化しているケースは十分に想定できるじゃろうな」

    『なるほど。邪神と霊障の関連で思ったのですが、新興宗教の信者をご先祖に持つ霊媒体質の子孫の場合、霊障の12と13、すなわち、邪神1と2の相がかかりやすいのでしょうか?』

    「その可能性は高いじゃろうな。困った時の神頼みという話も、今よりも霊主体従であった時代には、極めて自然な行為だったはずじゃろうから、そのような新興宗教の信者たちが、教祖の死後、教祖を神格化し、魂磨きの修行という本来の道筋から離れてしまった結果、死際に、この世になんらかの執着を残して地縛霊化してしまうことも大いにありえたはずじゃ」

    『なるほど。何だか恐ろしい話です』

    そう言い、身をすくめる青年にいつもの笑みを浮かべ、陰陽師は続ける。

     

    令和の生き方とは

    「“本物のカミ”よりも“似非神様”ばかりが注目され、求められるのは、“カミ”がすがるものではなく、感謝するものという基本をわきまえないことに起因しておるとワシは思う。ゆえに、この世は魂磨きの修行の場であり、地球人全員が幸せになることも地上天国を目指すことも違うということを、一人でも多くの人に伝える必要があるわけじゃな」

    『たしかに』

    陰陽師の言葉に対し、真剣な表情でうなずいた後で、青年は口を開く。

    『ただ、物事に行き詰まった時に、自分の力で乗り越えるのではなく、他力本願になってしまうのは、人間誰しもが持つ弱さである以上、そのような姿勢はある程度はしかたないものと考えるべきでしょうか』

    「もちろん、特に霊媒体質の人物の多くは、霊障によって余計な重荷を背負っていることから、本来なら乗り越えられる試練をパスできないことも大いにあり得る。そのような人物に対し、根本的な解決策を提示することなく、現世利益を叶えた後の代償を無視したまま目の前の人物の“弱さ”を食い物にする宗教が幅を利かせていること自体は、大いに問題じゃと思う」

    『令和のねじれによって、“体主霊従”から“霊主体従”に方向修正した要因の一つとして“コロナ禍”が生じたと僕は認識していますが、世の中が混沌として不安になりやすい時代だからこそ、なおさら氣をつけなければいけないわけですね』

    「その通りじゃ。ワシのみるところ、2021年は、地球規模でますます“ねじれ解消の動き/霊主体従化”、すなわち、世界レベルの混乱が深まっていく可能性が極めて高い」

    青年は驚きに目を見開き、しばらくうろたえてから、ようやく口を開く。

    『新型コロナウイルスの中には、変異して感染力が高まり、猛毒化しているとも聞きますから、コロナ禍が落ち着くどころか、さらに激化する可能性もあるということでしょうか』

    「そのあたりは、ワクチンの効能と接種のスピードとの兼ね合いが肝となっていくのじゃろうが、このコロナ禍自体は、まだまだ続くとみた方がいいじゃろうな。それと、幸か不幸か、たまたまこの時期に転生している人々の“現世的に見た”勝ち負けがはっきりしてくる可能性も極めて高く、2020年以降の勝ち負けが、今世の宿題の達成度とほぼイコールと言う側面も決して無視することはできないと思う」

    青年は思案顔で腕を組んだ後、口を開く。

    『そうなると、現世利益を叶えてくれる眷属や邪神を崇めてたり、現世利益を叶えることにフォーカスした占い師や霊能力者に助言を仰ぐほど、むしろ現世利益の獲得が遠のくという、矛盾が生じるわけですね』

    「何を信じるかは各人の自由じゃが、ワシが他の新興宗教団体の教祖や霊能力者と異なる点は、大まかに言って二つある。一つ目は、この世は修行の場という前提のもと、現世利益にコミットしないこと。そして、二つ目は、ワシを教祖として神格化しないことじゃ」

    陰陽師の説明に対し、青年は首肯して続きを待つ。
    青年の意図を察した陰陽師は、一呼吸置いてから再び口を開く。

    「一つ目に関して言うと、たとえば、神事によって“8:異性”の相を解消したからといって、その意味するところは、自分好みの異性と恋愛をし、その結果、結婚できるようになる、ということを保証しているのではなく、あくまで霊的な重荷を取り除き、素の状態になった人物が魂磨きの修行に励めるようにお膳立てすることに他ならない」

    『そうでしたね。僕のように恋愛運の数字が低い人物は、霊障が解消しても異性絡みのトラブルがなくなるわけではなく、女性と様々な問題を起こすこと自体が魂磨きの一環ということだったと記憶しています』

    苦笑しながらそう言う青年に対し、陰陽師は笑みを向け、続ける。

    「二つ目に関して言うと、ワシは、自ら交信する“カミ/セントラルサン”からの回答を受信したり、そのパワーをクライアントに“転送”する能力はあるものの、自らが完全な存在では決してない。つまり、一人の人間として、必ずしも褒められる人間とは限らないというのも重要なポイントとなる」

    陰陽師の言葉に対し、驚きの表情を見せながら青年は口を開く。

    『先生のお考えやお人柄を見知っている僕としては、尊敬できる人物だと思いますが、属性表の内容が我々と大きく異なる人物からしたら、また違った評価をされることもあるのでしょうね』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖よろしく、自らを“生き神様”などと規定すること自体、“カミ”を恐れぬおこがましい行為じゃし、陰陽師/霊能力者がその能力を行使するにあたり、“何が善であり何が悪なのか”という自分なりの判断基準を持つことが必要不可欠じゃ、とワシは思う」

    『地上天国を目指している新興宗教とは異なり、完全な存在である必要も、目指す必要もなく、各人が魂磨きの修行に生まれてきているわけですからね』

    青年の言葉に、陰陽師は軽く頷いていから、再び口を開く。

    「それに、本物の陰陽師/霊能力者は、その職責として、“カミ”とは“公平無私”なる存在であり、利害の異なる個々人のいずれにも加担することのない存在であることを、あらゆる機会をとらえ、一人でも多くの人々に伝える義務を負っているわけじゃ」

    『なるほど。そして、先生のような陰陽師/霊能力者は、あくまで霊媒、“カミ”の言葉の通訳者に過ぎず、しかも“本物のカミ”の言葉であるから、特定の人物のみに利益をもたらしたり、特別扱いするような内容にはならないと』

    「その通りじゃ。新興宗教の教祖は、自分のみが通信可能な“神”を共有したり、その“神”を偶像化し、信者/クライアントたちにそれを祈るよう強要しているが、それこそが“邪道”なわけじゃ」

    陰陽師の言葉に対し、青年は少し唸ってから口を開く。

    『眷属や邪神にすがることは“邪道”、せっかく現世利益が叶えられたとしても、崇めるのを止めた瞬間にしっぺ返しをくらい、得た物を失ってしまうとするなら、眷属や邪神は最初から存在しなければいいのに、と思います』

    「そなたの言いたいこともわかるが、そのあたりが“この世は修行の場”たる由縁で、魂2:貴族(軍人・福祉)に観音と不動明王の役割があるように、眷属や邪神にも、この世の善悪を超えた役割があるのじゃよ」

    『とおっしゃいますと?』

    「たとえ全ての神事を受けてパフォーマンスが100%になったとしても、眷属や邪神を頼ることをやめられない人はいるわけじゃし、日々の過ごし方によっては、他者の念や雑霊/魑魅魍魎を拾ってしまい、魂磨きの修行から遠のいてしまう人も少なからずおるのが、この世の常なのじゃよ」

    青年は腕を組み、しばらく黙考した後、口を開く。

    『つまり、魂磨きの修行も一本道ではなく、常に修行の道から外れないように“不動心”を養わなければいけないという、いつものお話に帰結するわけですね』

    「まあ、そういうことじゃ」

    青年の言葉に頷きながら、陰陽師が言葉を続ける。

    「そなたも、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解してきたようじゃな」

    そう言い、頭を下げる青年を横目に、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
    それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。

    『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』

    そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。

    「気をつけて帰るのじゃぞ」

    陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

    帰路の途中、青年は陰陽師の言葉を反芻していた。
    人生の目的が魂磨きの修行であるということは、現世利益を求めることとは似て非なるものである。
    だが、平成までの“体主霊従”の時代とは異なり、“霊主体従”の時代へと変化を遂げる令和の中で、今世の宿題を達成することが副次的に“現世的な成功”に結びつくとするならば、現世利益的なことに一喜一憂する必要もなく、今まで以上に真摯に生きていけばいい。
    そう、青年は決意するのだった。