新千夜一夜物語第10話:天命と転生回数

青年は鑑定結果と天職診断の紙を並べ、思索にふけていた。
自分の天職がわかったものの、なぜあの三つだったのか。天職はどのように決まるのか? 魂の属性や輪廻転生の回数によって今世の役割や性質は変わるのだろうか? 

次々と疑問が浮かんでくるものの、一向に納得できそうにない。
居ても立っても居られなくなり、青年は再び陰陽師の元を訪ねるのだった。

『先生、先日の続きをお願いいたします』

「今日は輪廻転生の回数と今世の役割について、じゃったな」

陰陽師は紙とペンをテーブルに広げ、続けた。

「まず、転生回数と今世の役割というものは、そなたが思っているよりも厳格なものだということはよく覚えておいて欲しい」

背筋を伸ばし、真剣な表情で青年は頷く。

「転生回数の四つの数字の持つ意味じゃが、それらをそれぞれ大学生活に置き換えるとわかりやすいかもしれん」

『大学生活ですか?』

「うむ。転生回数が4期すなわち1回〜100回は大学一年生、3期すなわち101回〜200回は二年生、2期すなわち201〜300回は三年生、1期すなわち301〜400回は四年生といった具合にな」

鑑定結果を取り出し、青年は口を開く。

『と言うことは、僕は200回台なので、大学三年生に当たるというわけですね』

「その通りじゃ。三年生といえば、ゼミに所属したり就職活動にむけていろいろ考える学年じゃから、物質的な話よりも精神世界や魂の年齢を見据えたことを考える時期とも言えよう」

『そうですね。物質的なことよりは自然や宇宙といった精神世界の方に興味があります』

「魂の年齢的にも半分を過ぎ、それなりにあの世とこの世の仕組みを理解しやすい時期に差し掛かっていたからこそ、今世は魂の修行の場という話も腑に落ちやすかったじゃろうな」

首肯する青年。

『とてもわかりやすかったです。ちなみに、僕は230回台ですが、10回台の数字にも違いはあるのでしょうか?』

「もちろん。輪廻転生回数の100の位や魂の階級の1〜4に限らず、30回台は総じて魂の属性が3の人間にとっては心身ともに不安定となりやすいという特徴がある。そうした不安定な心身と向き合うことで、結果的に選ぶ職業がスピリチュアル系となる可能性が極めて高くなるわけじゃな」

『確かに。僕も天職ベスト2位に気功師があったのもその一貫なのですね』

「さらに言うと、鑑定結果の中には陰陽五行に基づいた長所と短所という項目があるのじゃが、その中の長所19.という項目である“不思議な経験”のスコアが高得点である可能性が極めて高い」

『そうなのですね。ちなみに、僕の“19.不思議な経験”のスコアはどれくらいなのでしょうか?』

「ちょっと待ちなさい。今、鑑定してみよう」

陰陽師は半眼になって集中し、指を小刻みに動かし始める。青年は固唾を飲んで見守っている。

「そなたのスコアは73点。どちらかというと高い方じゃな」

『何点以上ですと高いということになるのでしょうか?』

「明確な基準で言う“高い“は80点以上となる。ただ、100点満点であるため、100点に近くなるにつれて霊障による心身へのダメージは二次関数の曲線のように大きくなっていくことになる」

『僕のこれまでの人生はそこまでぐちゃぐちゃではありませんでしたし、霊的な経験があると言ってもそこまでひどい霊障はありませんので、そのあたりの話はじゅうぶんに納得できます』

頷きながら青年は言う。

「この傾向は、意味するところはちょっと異なるが、実は魂の属性7(唯物論者)の人にもあてはまる」

『とおっしゃいますと?』

「端的に言うと、魂の属性3の人間のように霊的な問題はまず生じないものの、人生が一般の人間とはかなりずれているという意味では、“19.不思議な経験”の範疇に入るというわけじゃな」

『なるほど』

「具体的な例を挙げると、テレビの番組で、“客の来ない店”といった趣旨の番組があるじゃろう。職種は様々だとしても、彼らのほとんどは転生回数が230回台となる。本来調理人は武士・武将問わず2(7)(=270回台)の職業なのじゃが、一日に一人ぐらいしか来ない食堂を十年以上も経営している店主などは、例外的に2(3)(=230回台)なことが多い」

『精神世界に興味を持たない属性の人たちでも、同様に30回台という輪廻転生の影響を受けているのですね。意外です』

「魂の属性7の人たちの多くにとっては、このようなメカニズムを受け入れることは難しいかもしれんが、魂の修行という意味ではおしなべてそういうことになる」

『ちなみに、他にも特徴はあるのでしょうか?』

「芸能関係の仕事に就けるのは2−3−5−5・・・2で、さらに転生回数が240回台、数字で言うと2(4)−3の人間に限られるという話を前回したと思うが、それ以外にも魂には“山場”というものが存在している。“3:ビジネスマン階級”だけは、第3期の190回台、数字で言うと3(9)−3の時期に例外的な“大々山”があるのじゃが、それ以外の魂は、100回ずつに区切った各40回台が小山、そして70回台、数字で言うと、1~4(7)−3が大山という仕組みになっておるわけじゃ」

『転生回数でそこまで決まっているのですね』

興奮気味に青年は言う。

「芸術家・芸能人やプロのスポーツ選手とお笑いタレントたちが畑違いの歌・楽器演奏や絵画・小説、伝統芸能といった芸能分野でも才能を発揮することができるのは、彼らが共通して2-3-5-5・・・2という数字をもっているからなのじゃな」

『確かにそうですね。僕でも、お笑い芸人が本を出版したり、画家として有名になるケースをいくつか知っています』

「転生回数についてもう少し補足をしておくと、世に言う文系と理系のうち、転生回数が少ない3期と4期は理系、後半になる1期と2期は文系という傾向が顕著となる」

『大まかに文系と理系までわかるのですか! では、3(9)−3はどんな業界になるのでしょうか?』

「3(9)−3はどちらかというと理系になるわけじゃから、ソフトバンクの創業者の孫正義や楽天の三木谷浩史のようなIT業界で革新的なことを行う人物はもちろんこれに該当するし、1(4)-1であるパナソニックの松下幸之助を唯一の例外として、現在の一部上場企業上位400社の創業者たちも、皆3(9)-3となる」

「え、そうなのですか」

「それだけではない。たとえば、医者もほぼすべてがそうじゃし、理系分野のノーベル賞を受賞する人物も皆この時期となる」

『科学は人類の発展に大きく貢献しているので、転生回数が多い人たちなのかと思っていました』

「200回以上が文系ということをふまえると、極端な言い方をしてしまえば、アインシュタインよりもお笑い芸人の方が魂としては上位ということもいえるわけじゃな」

体を揺すりながら陰陽師が笑うと、青年もあまりに突拍子のない話につられて笑う。

『輪廻転生100回台において3(9)−3が大々山ということは、彼らが芸能界で活躍することもあるのでしょうか?』

「実は、先ほど厳格だと言った理由がそこにあるわけじゃが、一見無秩序に見えるこの世は、その実、各人が様々な宿題を抱えて転生してくる“魂磨きの場“としての機能として、見えない厳しいルールが多数存在しておるんじゃ。たとえば、3(9)−3、しかもその後5-5…2という番号を持った人物が何かの間違いで芸能界に迷い込んだとしても、この世からその時期はともかくとしても“排除命令”が出る仕組みとなっておる。しかもその“排除命令”はかなり強烈なもので、たとえば若くして不治の病にかかってみたり、精神に異常をきたしてみたり、事故に遭ってみたり、犯罪に手を染めてみたりと、かなり徹底している」

『ということは、テレビやネットでよく見かけていた芸能人が、突然姿を消してしまうのはそうした理由なのでしょうか?』

「業界が業界だけに複雑な事情があって一概には言えんが、その可能性は極めて高いじゃろうな」

神妙な表情で青年は何度もうなずき、やがて口を開く。

(続く)