新千夜一夜物語第5話:天職と魂の善悪
「まず一番目の1/2じゃが、文字通りの“善悪”、善悪という言葉が強すぎるとすれば“執着”を意味しており、先頭に2がついた場合は2-2-2-2-2という組み合わせしか存在しない」
『先頭が2だと全てが2ということは、完全な悪みたいな印象です』
青年は目を見張った。陰陽師は微笑みで応え、続ける。
「二番目の1/2には世の中に対して“厭世的”というか、「どうせ、わたしなんか・・・」と“世の中に対し斜に構えている”性格であることを表している。よって、2が二番目だけであるのであれば、逆に、身の回りで起こったすべての不幸・問題を自分の責任として処理してしまうといったポジティブな側面を持っていると考えることも可能じゃ」
『ここだけ2の人を見ると、悪というよりは変わった人という感じがしますね』
「三番目の1/2は、他人に対しての“攻撃性”を意味している。“攻撃性”といっても文字通りの“暴力”だけでなく、“言葉や態度”による圧力もその中にふくまれている。また、“愚痴や文句が多い”などという特徴もこの数字の意味する範囲じゃ」
『“攻撃性”は持って生まれた性格かと思っていましたが、魂の鑑定でもわかってしまうのですね・・・』
「四番目の1/2は、“人に受けた恨み/つらみを次々と自らの中に貯め込み、忘れることなく執念深く覚えている”という性格を表している」
『ここに2がある人に対しては、禍根を残すようなことはしないように気をつけます…』
陰陽師は深く頷いて応えた。
「五番目の1/2は、“自己顕示欲”じゃ。スポーツ・芸能・芸術を生業にできるのは2-3-5-5・・・2という属性だけであると先述したが、最後の2に該当するのがこの五番目の2じゃ」
『なるほど。ここが2であることも芸能界に入るには必要なのですね!』
首肯する陰陽師。
「たしかに、過酷なトレーニングを繰り返すことによって超人的なパフォーマンスを披露するアスリート、幾人もの人間を迫真の演技で演じ分ける役者、筆やペンを手に自らの内面から湧き出す情念を表現する画家・作家、自らの情念を五線譜上で表現する作曲家、例を挙げればきりはないが、そのいずれをとっても、一般人の想像を絶する“自己顕示欲”こそがその“原動力”になっているはずじゃ」
『昔の作曲家の伝記を読んだことがありますが、そんな気がします』
「同様に、公官庁のおける高級官僚、一部上場企業の社員、一定規模以上の中小企業の社長・役員クラスなども、武将・武士ともに、五番目の1/2はやはり2となる」
『業界を問わず、上の立場になるには必要な素質なのですね。僕はそこまで昇り詰めようという気概が湧かないかもしれません』
青年は両手を挙げて降参のポーズを取る。
「逆に、一番目から二番目にひとつ、あるいは二つ以上の2がありながら、最後に1がある人間は要注意人物ということでもある。いわゆる“外面がいい”タイプで、腹で思っていることとその言動には大きな乖離があるという前提で、相手とつきあう必要があるからじゃ」
『“自己顕示欲”がないことがよいことかと思いきや、そうした問題もあるのですね』
「また、どうしても我々は今世を中心としてものごとを考えてしまうので問題があるのじゃが、400回に及ぶ輪廻転生の1回である今世という視点で考えてみると、欲求があるから善いとか悪いということではなく、今回の宿題を果たすにあたり最適な属性を持って生まれてきているということでもある」
『わかりました。他人を責めずに、これからは自分の人生に集中して生くことにしきます』
青年の答えに満足したのか、陰陽師は微笑みながら傍にあったファイルを開き、青年に見せた。ファイルの中には、様々なジャンルに分けられた職種が羅列されている。
「とはいえ、天職ベスト3として具体的な職業も鑑定して伝えるから、人によって何を扱うのかが向いているかはまた別の話じゃ」
半ば夢中になってファイルをめくっている青年。
『こんなにたくさんの職業の中から選ばれるのですね。ちなみに、僕のベスト3も教えていただけるのでしょうか?』
「もちろん。じゃが、天職というのは今世の魂の修行をこなすのに適した職業であって、現世利益つまり高収入になるとは限らないことは忘れないように」
『わかりました。ベスト3まで教えていただけるということは、ベスト1位の職業で生計が立てられそうにない場合に2位か3位の職業で収入を得やすい方を本業にし、ベスト1位は副業にしたり、あるいはそれだけで生計を立てられるようになったら本業にして専念すればいいのでしょうか?』
「うむ。ただし、天職診断の結果でベスト3に挙げられたからといって、その仕事をしなければならないというわけではないから、最終的にどんな職業を選ぶかはそなたの自由ということになる。ただし、1位は天命と深く関わりがあるから、その仕事の情報に触れておくは大事じゃ」
陰陽師の言葉をかみしめるように何度も頷く青年。
『参考にさせていただきますので、教えてください』
「あいわかった。そなたの天職ベスト1位は“伝道者”、2位は“気功師”、3位は“ギャンブラー”となる。簡単に言ってしまうと、一見あやしい分野が向いているわけじゃな」
『確かに、どれも世間はあやしい職業ですね・・・』
「補足をしておくと、そなたの場合、“伝道者”としての具体的な伝達手段はnoteやYoutubeといったITを駆使して有益な情報を広く拡散していくのが向いているようじゃな。“気功師”は言葉の通りじゃ。“ギャンブラー”は麻雀やポーカーが向いているぞ」
『言われてみれば、麻雀もポーカーも昔からゲームで触れていました。ただ、職業にするという話になると勇気が要ります』
「麻雀とポーカーに関しては“勝ち運”があるということではあるものの、すぐに生計が立てられるというわけではないぞ。また、魂の修業という話をこっちに置いておいたとしても、時給換算の仕事に就いて日々の時間を費やすより、それらに取り組む方が長い目で見ると向いているという意味じゃ」
『なるほど。いくら運がよくても掴み取れなければ意味がないと思います。すぐに稼げるほど甘い世界ではないでしょうし』
「まあ、そういうことじゃな」
微笑みながら陰陽師が小さく頷いた。
『・・・では、せっかく天職のヒントを教えていただけたので、帰ってベスト3の職業について調べようと思います』
「選択肢がいろいろ出揃って一つに決めきれない場合、運気的にもっともそなたに合っている選択肢をあらためて鑑定することも可能じゃから、そのようなときにはあらためてここへ来るとよい」
『たとえば、noteの販売価格はいくらがいいのかといった具体的な質問でもいいということでしょうか?』
「もちろんじゃ。ただし、こうみえてもワシも暇ではない。よって、みる手間を省くためにも、ワシに一から数字を求めるのではなく、そなたなりに金額の候補をいくつか挙げてもらい、その中からワシが最適な数字を選ぶか、yesかnoという二者択一方式で回答できるようにしてもらった方が助かるな」
『かしこまりました。選択で迷ったらお願いします』
青年は思案にふけながら帰路についた。天職ベスト3がなぜあれらだったのかはわからないが、いつの日か点と点が結びつく時がやってくるということは、なぜか信じられたのだった。