新千夜一夜物語 第4話:魂の種類と仕事

青年は朝早くから陰陽師を訪ねた。

というのも、とても懐かしくて悲しい夢を見て目が覚めたからである。夢の内容を覚えていないが、今までふぬけていた体に一本芯が通ったかのような不思議な感覚があった。

そして、魂の階級や属性といった、自分の天命に関わる情報を少しでも多く知り、自分の天命を生きようという意思が芽生えたからである。

『おはようございます』

青年は、陰陽師と対面すると、いつにも増して神妙な面持ちで深々と頭を下げた。

「おはよう。昨夜、そなたの先祖供養の奉納救霊祀りを滞りなく執り行わせていただいたよ」

『やはり、そうでしたか。昨夜不思議な夢を見ましたので』

顔を上げて言う青年に対し、陰陽師は笑みを浮かべながら小さく頷く。

「それは、そなたの先祖が無事にあの世に帰還した合図かもしれんな」

あらためて神事のお礼を述べた後で、青年はさっそく本日の議題を切り出した。

『今日は、先日少し説明いただいた、魂の種類などについて教えてください。自分の天命についてもっと理解したいです』

「あいわかった。では、まずは魂の種類について説明しよう」

陰陽師は紙に書きながら説明を始めた。

1:先導者(5%)
2:制服組(軍人・福祉関係)(15%)
3:ビジネスマン(武士・武将)(20%)
4:ブルーカラー(60%)

「魂には4つの種類がある。種類といっても上下関係という意味ではなく役割分担というほどの意味となる。また、地球上における魂の割合もおおむね決まっておる」

『魂に種類があったのですね。しかも、4つも…』

「もう一度だけ繰り返しておくが、この4つの魂の階級はカースト制度のように身分を表しているわけではない、ということはくれぐれも忘れんようにな」

『わかりました』

青年は、一つ小さく頷いた後で、口を開いた。

「ところで肝心な質問なのですが、僕はどの種類になるのでしょうか?』

「そなたは“3:ビジネスマン”であり、さらに細かく分けると“武士”となる」

『武士でしょうか? しかし、どちらかというと僕は争いとか、戦いはあまり得意ではないんですが…』

幾分不安そうに訊ねる青年の言葉に、陰陽師は小さく笑った。

「人の話は最後まで聞くもんじゃ。今そなたが武士だとは言ったが、今は戦国時代ではない。じゃから、武士と言っても昔の武士という意味ではなく、現代的な言い方をすれば” ビジネスマンや商人”に近い。つまり、現代における武士階級とは、経済を回し、その経済力で世の中に影響力を持つ人間たちのことなんじゃ」

そんな陰陽師の言葉に、青年の顔に安堵の色が浮かんだ。

『それを聞いて、少し安心しました』

「さらに言うと、武士は自分個人のスキルを基に社会に貢献するのが得意ということができる』

『確かに、僕は大勢よりも一人の人と接する方が得意です』

「一方、武将タイプじゃが、彼らは武士タイプに比べて緻密さや精度という点ではやや劣るものの、人を見る力/人を束ねる力がある。それ故、大規模なイベントや企画を立てるのは武将の役目じゃ。武士は成功させるために各々のスキルを発揮するのが主な役目となる」

『…しかし、お話を聞くかぎり、どうも武将の方が立場が上な感じがしますが』

「いや、これも魂の『別』と同様に、上下の関係・偉い偉くないの問題ではなく、役割の違いと理解した方がよい。実際、“船頭多くて、舟山に登る”の譬えではないが、武将だけでは何をするにせよ限界があるし、武士だけでもまとまりを欠いてみたりする。要は、両者は一種の補完関係にあるわけじゃ。じゃから、武将タイプの人と縁があったら、彼ら・彼女らの手助けをするといい。しかもそなたは武士の中では最高ランクの武士なのじゃから、彼ら・彼女らのビジョンをしかと聞き出し、武士であるそなたの特性を活かして協力するとよい」

『なるほど。武士と武将は連携することでできることがあると。わかりました!』

「そう、その意気じゃ」

真剣な眼差しの青年に話すのが楽しいのか、陰陽師は微笑みながら続けた。

「今度は魂の種類を順番に説明していくとしよう。まず魂1じゃが、“1:先導者”は、シュメールやエジプト、ペルシャ、古代インドの祈祷師をその起源としておるのじゃが、現代では宗教関係者、上場企業のトップ、いわゆるキャリアと呼ばれる上級公務員、財団の理事、大学教授、小中高の教員などの職業に主に従事している」

『他の職業はなんとなく理解できますが、何故上場企業のトップなのでしょう。先程もビジネスは魂3の仕事とお聞きしたばかりなのですが』

「そうじゃな、そのあたりの話を簡単にしておくとするかの」

青年の顔を見ながら、陰陽師は小さく頷いた。

「先程話した通り、たしかにビジネスは基本的には3の仕事となる。もちろん、上場企業といえども例外ではない。よって、欧米の上場企業の役員はもちろんのこと、CEOはすべて魂3ということになる。ところで、そなたはトップダウンとボトムアップという概念はわかっておるな」

『もちろんです』

「そうか、それでは話が早い」

青年の言葉に、陰陽師が小さく笑った。

「まず欧米じゃが、欧米の企業では決定事項はつねにトップダウンとなる。文字通り、トップが魂3なのじゃから、非常にわかりやすい。それに対して日本の企業はボトムアップが現在でも基本となっている」

『その理由が、魂1がトップにいるからなのですね』

青年が口を挟んだ。

「その通りじゃ。わが国では、元々聖職者が上場企業のトップを務めておるわけじゃから、その周りを固める魂3の武士・武将の役員連中に自分の意見を一方的に押しつけることはほとんどない。じゃから、勢い多数決や満場一致を旨とするため、結果ボトムアップという形になるわけじゃな」

『そして、そのような形態をとっているのは日本だけだと言うのですね』

「その通り」

青年の言葉に、陰陽師が小さく頷いてみせた。

「そのような意味では、日本の経営形態は世界の非常識ということができるのじゃろうな」

『しかし、現在のグローバル経済の中でも、その形態は崩れていないのでしょうか』

「もちろん、将来のことは何とも言えん。しかし、今のところは、つい先日も魂3である日産のゴーン社長が、事の経緯はともかく、あのような形で追い出されたところをみても、その予兆はないようじゃな」

『なるほど。そのような意味でも日本はやっぱり“神の国”なのですね』

青年は、感心したように小さく頷いた。

*魂1の人の適職の例
一部上場企業のトップ、キャリアと呼ばれる上級公務員、財団等のトップ、政治家、宗教関係者(宗教を興す最初の教祖、既存/新興宗教問わず2代目以降の聖職者・僧侶はほとんどが3)

『次に、魂“2:制服組(軍隊・福祉関係)”ですが、彼らは、現代の日本だとあまり素質を発揮できなそうですね』

「いや、かならずしもそうとは言えんぞ。現代における魂2の職業を大別すると、福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ということになる」

『福祉関係と防衛装備庁・自衛隊ですか。でも、このふたつはまったく正反対の職種のようですが』

「たしかに。このふたつの職種は、一見正反対のようにみえるじゃろうが、その実、立派な共通点が存在しているんじゃ」

『共通点でしょうか? それは、どんな共通点なのでしょう』

青年は、膝を乗り出すようにして陰陽師に訊ねた。

「かつてのシュメールや古代エジプトにおいて神権政治時代の王侯貴族であった魂2の人間たちの役割が、国家の統治と安寧(あんねい)であったとすると、彼らが現代において福祉を職種として選ぶことには、格別不思議な話ではない」

『そうですね、魂2の人たちが福祉関係の職に就くことはよく理解ができます。ですが、実質上の軍隊である自衛隊を職業に選ぶというのは』

そう言いかけた青年の言葉を遮り、陰陽師は続けた。

「先ほどは日本に限った話だったので防衛装備庁・自衛隊と言ったが、諸外国に目を向けた場合も、軍隊や国防省の職員のかなりの部分で魂2の人間が占めているんじゃ」

『本当ですか? しかし、何故』

合点がいかない様子の青年を横目で見ながら、陰陽師は話を続けた。

「それには戦争というものの成り立ちをよく考えてみるとわかりやすい。まず、その前提条件として、何らかの理由で二国間に利害の反する問題が起こったと仮定してみよう。そして、話し合いを繰り返してみたものの、ついに話し合いでは解決がつかないところまで事態が悪化し、武力という手段でしか問題を解決できなくなったときに、人間は戦争という手段を選択してしまうわけじゃ」

『…たしかに』

「しかし、そのような状況の中でも、最後まで戦争回避の道を模索するのが制服組である魂2となる。そして、不幸にして開戦を回避できなかった場合にも、どのような範囲で戦争をするのか、どのような武器まで使用するのかを策定をするのも制服組である魂2の仕事となるわけじゃ」

『なるほど』

「さらに実際の戦場で、命のやり取りの末、血に飢えた殺戮マシーンと化した魂3・4の軍人たちに、モチベーションを保たてつつ、婦女子を中心とした民間人に危害を加えさせないよう最大限の努力をする任務を負っているのも、現場の魂2の将校というわけじゃ」

『なるほど。そう考えると、福祉と制服組の軍人という一見対極にある職業が、実はコインの裏表のような関係にあることがよくわかりますね』

感心したように頷いている青年を眺めながら、陰陽師はつけ加えた。

「それ故、一瞬の判断が人の生き死にを分けるようなシビアな環境において、彼らの能力が最大限に発揮されるということもできるわけじゃ」

『確かに魂2の人たちは肝が座っている方々が多そうな印象があります…』

(続く)

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